(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド樹脂組成物及び塗料
(51)【国際特許分類】
C08G 59/44 20060101AFI20220720BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C08G59/44
C08G59/32
(21)【出願番号】P 2018528120
(86)(22)【出願日】2016-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2016071151
(87)【国際公開番号】W WO2018015998
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2019-06-03
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 康之
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】土橋 敬介
【審判官】近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031420(JP,A)
【文献】特開2014-205827(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
C10M
CAPlus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対称面を有し極性を有する複素環化合物、ポリアミドイミド樹脂、及び4官能エポキシ樹脂を含み、該複素環化合物の含有量は、組成物中に40質量%以上である、ポリアミドイミド樹脂組成物、又は該ポリアミドイミド樹脂組成物を含有する塗料を用いて得られる、摺動部材用硬化膜であって、
前記複素環化合物は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含み、
前記ポリアミドイミド樹脂は、
前記複素環化合物を重合溶媒として、トリメリット酸無水物、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを反応させて得られる樹脂である、摺動部材用硬化膜。
【請求項2】
前記4官能エポキシ樹脂が、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型4官能エポキシ樹脂、及びテトラキスヒドロキシフェニルエタン型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
1記載の摺動部材用硬化膜。
【請求項3】
請求項
1又は2記載の摺動部材用硬化膜を備える、摺動部材。
【請求項4】
対称面を有し極性を有する複素環化合物、ポリアミドイミド樹脂、及び4官能エポキシ樹脂を含み、該複素環化合物の含有量は、組成物中に40質量%以上である、ポリアミドイミド樹脂組成物、又は該ポリアミドイミド樹脂組成物を含有する塗料の、摺動部材の摺動面への使用であって、
前記複素環化合物は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含み、
前記ポリアミドイミド樹脂は、
前記複素環化合物を重合溶媒として、トリメリット酸無水物、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを反応させて得られる樹脂である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ポリアミドイミド樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた塗料、硬化膜、及び摺動部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れているため、各種の基材のコート剤として広く使用される。例えば、エナメル線用ワニス、耐熱塗料等として使用されている。
【0003】
従来、ポリアミドイミド樹脂の重合には、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド又はジメチルホルムアミド等の極性溶媒が用いられ、なかでも、アミドイミド化反応を高温で短時間に行うために、N-メチル-2-ピロリドン等の高沸点溶媒が好ましく用いられていた。そして、この重合溶媒はそのまま、このポリアミドイミド樹脂を用いた塗料等の溶媒として用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ポリアミドイミド樹脂を摺動部材に用いるとの新規な用途に着目し、検討を行った。摺動部材においては、高弾性率且つ高硬度の塗膜が求められるが、従来技術においては充分な特性を得ることができなかった。
【0006】
そこで、本発明の実施形態は、高弾性率且つ高硬度な硬化膜を形成可能なポリアミドイミド樹脂組成物と、該組成物を用いた塗料、硬化膜等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、分子構造が左右対称であって極性を有する複素環化合物、ポリアミドイミド樹脂、及び4官能エポキシ樹脂を含み、該複素環化合物の含有量は、組成物中に40質量%以上である、ポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
また、別の実施形態は、極性が左右対称である複素環化合物、ポリアミドイミド樹脂、及び4官能エポキシ樹脂を含み、該複素環化合物の含有量は、組成物中に40質量%以上である、ポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
【0008】
本発明の別の実施形態は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物を含有する塗料に関する。
【0009】
本発明の別の実施形態は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物又は上記実施形態の塗料を用いて得られる硬化膜、又は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物又は上記実施形態の塗料を用いて得られる、摺動部材用硬化膜に関する。
【0010】
本発明の別の実施形態は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物又は上記実施形態の塗料を用いて得られる硬化膜を備える、摺動部材に関する。
【0011】
本発明の別の実施形態は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物又は上記実施形態の塗料の、摺動部材の摺動面への使用に関する。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物は、高弾性であり且つ高硬度の硬化膜を形成することができる。したがって、このポリアミドイミド樹脂組成物を用いて、摺動部材の摺動面を構成する硬化膜を好ましく提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
1.ポリアミドイミド樹脂組成物
本実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物は、ポリアミドイミド樹脂、該ポリアミドイミド樹脂を溶解又は分散させ得る極性溶媒、及び4官能エポキシ樹脂を、少なくとも含む組成物である。
【0014】
<ポリアミドイミド樹脂>
ポリアミドイミド樹脂は、ジイソシアネート化合物及び/又はジアミン化合物と、酸成分としての三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドとを反応させて得られる樹脂である。ここで、各原料化合物は、各々、任意に複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
例えば、以下の一般式で示される構造単位を含むポリアミドイミド樹脂を用いることができる。
【化1】
一般式(I)中、Xは、酸塩基酸無水物の酸無水物基(又は酸ハライド基)及びカルボキシル基を除いた残基、Rは、ジイソシアネートのイソシアネート基又はジアミンのアミノ基を除いた残基を示す。
【0016】
ジイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
また、ジアミン化合物としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0017】
好ましい実施形態においては、ジイソシアネート化合物が用いられる。
さらには、得られる硬化膜の弾性率を高める観点から、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニルを用いることが好ましく、また、材料コスト及び反応性の観点からは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0018】
三塩基酸無水物としては、特に限定されないが、好ましくはトリメリット酸無水物が挙げられ、三塩基酸ハライドも特に限定はされないが、三塩基酸クロライドが好ましく、トリメリット酸無水物クロライド(無水トリメリット酸クロリド)等が挙げられる。環境への負荷を軽減させる観点から、トリメリット酸無水物等を用いることが好ましい。
【0019】
酸成分としては、上記の三塩基酸無水物(又は三塩基酸ハライド)の他に、ジカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物等の飽和又は不飽和多塩基酸を、ポリアミドイミド樹脂の特性を損なわない範囲で用いることができる。
ジカルボン酸としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、及びセバシン酸等が挙げられる。テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは、単独で用いられるほか、複数種を任意の組み合わせで使用してもよい。
三塩基酸以外のカルボン酸(ジカルボン酸とテトラカルボン酸)の総量は、ポリアミドイミド樹脂の特性を保つ観点から、全カルボン酸中に0~30モル%の範囲で使用されるのが好ましい。
【0020】
好ましい一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、次の一般式(II)に示される構造単位を有する。
【化2】
一般式(II)中、R
3は、ジイソシアネートのイソシアネート基又はジアミンのアミノ基を除いた残基を示す。
【0021】
ジイソシアネート及び/又はジアミンと酸成分(三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物ハライドと必要に応じて使用するジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物の合計量)の使用比率は、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量及び架橋度の観点から、酸成分の総量1.0モルに対してジイソシアネート化合物及び/又はジアミン化合物を0.8~1.1モルとすることが好ましく、0.95~1.08モルとすることがより好ましく、特に、1.0~1.08モルとすることが一層好ましい。
【0022】
ポリアミドイミド樹脂の合成条件は多様であり、一概に特定できないが、ジイソシアネートと三塩基酸無水物を反応させる最も代表的な方法については、例えば、特開平4-39323号公報などに例示されている。より詳細な製造方法は、後述する。
【0023】
ポリアミドイミド樹脂は必要に応じて、末端がブロックされていてもよく、それにより樹脂組成物の粘度安定性を向上させることができる。ブロック剤としては、特に限定はされないが、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、一級アミン、アルデヒド基含有化合物、ε-カプロラクタム等のラクタム、などが挙げられる。
【0024】
ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、塗膜の強度を確保する観点から10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましい。一方、塗料等として用いる際の塗料化を容易にし且つ塗布に適した粘度とするために、その数平均分子量は50,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、25,000以下であることが一層好ましい。
【0025】
ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプルリングして、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)等の分析機器を用いて測定し(GPCの場合は標準ポリスチレンの検量線を用いて測定する)、目的とする数平均分子量になるまで合成を継続することにより、上記範囲に管理することができる。
【0026】
ポリアミドイミド樹脂は、樹脂中のカルボキシル基と酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が5~40mgKOH/gであることが好ましい。この酸価が5mgKOH/g以上であると、溶媒への樹脂の溶解又は分散が容易になる傾向にあり、10mgKOH/g以上、15mgKOH/g以上、及び20mgKOH/g以上であることが、この順でより好ましい。また、酸価が40mgKOH/g以下であると、最終的に得られるポリアミドイミド樹脂組成物が、経日によりゲル化しにくくなる傾向にある。
【0027】
上記酸価は、以下の方法で得ることができる。まず、ポリアミドイミド樹脂組成物を約0.5g採取し、これに1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを約0.15g加え、さらにN-メチル-2-ピロリドン約60gとイオン交換水約1mlを加え、ポリアミドイミド樹脂が完全に溶解するまで攪拌する。これを、0.05モル/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液を使用して電位差滴定装置で滴定し、ポリアミドイミド樹脂中の、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価を得る。
【0028】
<溶媒>
ポリアミドイミド樹脂組成物は、ポリアミドイミド樹脂を溶解又は分散させる極性溶媒として、分子構造が左右対称の複素環化合物、すなわち分子構造が左右対称であって極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物(以下、単に「複素環化合物」とも記す。)を含む。樹脂組成物は、この複素環化合物を複数種含んでいてもよい。本明細書において、分子構造が左右対称であるとは、対称面(鏡面)を有することを意味しており、極性を有するとは分子内の結合に電気的な偏りがあること(極性分子であること)を意味する。極性は、双極子モーメントで示される。なお、この組成物中の溶媒を、ポリアミドイミド樹脂合成時に用いる重合溶媒(後述)と区別するために、貯蔵溶媒と記す場合がある。
【0029】
この複素環化合物は、複素環を構成する異種原子として窒素及び/又は酸素を含むことが好ましく、特に窒素を含む含窒素複素環化合物であることが好ましく、さらに2個の窒素を含む含窒素複素環化合物であることが好ましい。環は不飽和結合を有していても、いなくても良く、環の員数は、5員環又は6員環であることが好ましい。複素環は単環構造であることが好ましいが、縮合複素環構造であってもよい。なかでも、イミダゾリジン環、ピリミジン環、ヘキサヒドロピリミジン環等が好ましいが、これらに限定されることはない。
【0030】
複素環は、分子の対称性を損なわない限りにおいて置換基を含んでいてもよく、複素環構造を安定させる置換基を含むことが好ましい。置換基としては例えば、炭素数が1~4個のアルキル基が挙げられ、置換基は、複素環の異種原子に結合していても炭素原子に結合していても、どちらでも良い。
【0031】
なかでも、尿素の誘導体である複素環化合物が最も好ましく、具体的には、エチレン尿素(2-イミダゾリジノン)、及びプロピレン尿素が挙げられ、これらの窒素原子はアルキル基、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくは炭素数が1又は2のアルキル基により置換されていてもよい。窒素原子にアルキル基を有する尿素誘導体としては、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、及びN,N’-ジエチルプロピレン尿素が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0032】
ポリアミドイミド樹脂組成物から硬化塗膜を形成するためには、高温で溶媒を揮発させて塗膜形成(硬化)させる必要があるため、その高温に耐えうる基材を選択することが必要となる。基材の選択の幅を拡げ、かつ、生産性向上の観点からも、低温での使用が望まれている。ここで、低温とは270℃以下程度であることを意味する。したがって、溶媒である複素環化合物は、低温での塗膜形成を可能とするために、270℃よりも低い沸点、好ましくは250℃よりも低い沸点を有するものであることが好ましい。また、溶媒の種類はポリアミドイミド樹脂の硬化反応性にも影響を及ぼすため、適切な反応性を与える複素環化合物を選択することが好ましい。
以上のポリアミドイミド樹脂の硬化温度、及び硬化反応性に鑑み、最も好ましい複素環化合物は、DMIである。
【0033】
上記の分子構造が左右対称で極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物は、液体である樹脂組成物の粘度を安定化させる観点から、ポリアミドイミド樹脂組成物中に40質量%以上含まれていることが好ましい。その上限値については特に制限はないが、ポリアミドイミド樹脂の含有量を適正量とするために、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが一層好ましい。
【0034】
ポリアミドイミド樹脂組成物は、上記の複素環化合物以外の一種以上の貯蔵溶媒を含んでいてもよい。この貯蔵溶媒としては、上記複素環化合物以外の極性溶媒、又は非極性溶媒を用いることができる。具体的には、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-モルホリンカルボアルデヒド;キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等のケトン類;ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン等の液状アミン;水などが挙げられる。
【0035】
後述するように、ポリアミドイミド樹脂は、分子構造が左右対称で極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物を重合溶媒として製造されることが好ましく、この重合溶媒としての複素環化合物をそのまま、樹脂組成物の貯蔵溶媒として用いることができる。つまり、組成物中の貯蔵溶媒である上記複素環化合物の少なくとも一部は、ポリアミドイミド樹脂の重合溶媒であることが好ましく、ポリアミドイミド樹脂の合成により得られたポリアミドイミド樹脂溶液をそのまま使用することができる。この場合において、上記の一種以上の貯蔵溶媒を用いて、適宜、ポリアミドイミド樹脂溶液を希釈して、樹脂組成物を適当な粘度に調整して用いることが好ましい。
【0036】
組成物中の溶媒の量は、特に限定されず、使用目的に応じ、例えば塗料であれば塗装方法に応じて、適切な粘度となるように溶媒で希釈して、樹脂濃度の調整をすればよい。例えば、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、溶媒が80~200質量部であることが好ましく、100質量部~150質量部であることがより好ましい。
【0037】
<4官能エポキシ樹脂>
ポリアミドイミド樹脂組成物は、上記のポリアミドイミド樹脂と溶媒に加え、さらに硬化剤として4官能エポキシ樹脂を含む。4官能エポキシ樹脂を配合することにより、ポリアミドイミド樹脂の熱的、機械的、電気的特性をより向上させることができる。なお、4官能エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ブロックイソシアネートなどを、任意の硬化剤として適宜組み合わせて用いてもよい。
【0038】
4官能エポキシ樹脂としては、特に限定はされないが、例えば、ジナフタレン骨格含有のナフタレン型4官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型4官能エポキシ樹脂(N,N,N´,N´-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、N,N,N´,N´-テトラグリシジルメタキシレンジアミン型エポキシ樹脂等)、及びテトラキスヒドロキシフェニルエタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの4官能エポキシ樹脂の複数種を組み合わせて用いても良い。
【0039】
4官能エポキシ樹脂は、単独で添加してポリアミドイミド樹脂と反応させてもよいが、硬化後にエポキシ樹脂の未反応物が残留しにくいように、エポキシ樹脂の硬化剤又は硬化促進剤等と共に添加してもよい。
【0040】
4官能エポキシ樹脂の配合割合は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、1質量部~100質量部の範囲とすることが好ましく、5質量部~50質量部とすることがより好ましい。
【0041】
<その他の成分>
ポリアミドイミド樹脂組成物は、その使用目的等に応じて、さらにその他の任意の成分を含んでいてもよい。例えば、この樹脂組成物は塗料として好ましく使用できるため、塗料として使用するときには、後述のとおり必要に応じて、顔料、充填材、消泡剤、防腐剤、潤滑剤、及び界面活性剤等の任意成分を添加してもよい。
【0042】
2.塗料
本実施形態の塗料は、上記ポリアミドイミド樹脂組成物を含有する塗料である。
ポリアミドイミド樹脂は、塗料の塗膜形成成分となるものであり、複数種の上記ポリアミドイミド樹脂を組み合わせて使用してもよい。
ポリアミドイミド樹脂は、その機能を十分に発揮させるために、塗料中に10~50質量%含まれることが好ましい。
【0043】
塗料には、必要に応じて、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、フッ素樹脂等を、単独で、又は混合して用いることができる。なかでも、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、及びメラミン化合物は、塗膜の密着性をより向上させることができるために好ましい。
【0044】
エポキシ化合物としては、例えば、上記した樹脂組成物に配合できるエポキシ樹脂のほか、トリグリシジルイソシアヌレート等を用いることができ、これらを単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせてもよい。
【0045】
イソシアネート化合物としては、デュラネート等のヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートから合成されるポリイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネートの質量平均分子量は500~9000であることが好ましく、より好ましくは1000~5000である。
【0046】
メラミン化合物としては、特に制限はないが、例えば、メラミンにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等を反応させたメチロール基含有化合物等が挙げられる。このメチロール基は、炭素原子数1~6個のアルコールによりエーテル化されているものが好ましい。
【0047】
塗料に添加されるエポキシ化合物、イソシアネート化合物、及びメラミン化合物の各配合量は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、それぞれ、それらを配合することによる密着性向上効果を確保しつつポリアミドイミド樹脂の特性も十分に発揮させる観点から、例えば1~40質量部であることが好ましく、5~30質量部とすることがより好ましい。
【0048】
塗料は、必要に応じて界面活性剤を含有していることが好ましい。界面活性剤としては、特に制限されるものではないが、塗膜を形成するための成分が均一に混合して、塗膜が乾燥するまで分離せず(分層を起こさず)、焼付け後に多くの残留物が残らないものが好ましい。
【0049】
界面活性剤の含有量は、特に制限されるものではないが、均一な混合状態を保つために塗料中に0.01質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。一方、塗膜の焼付け時に炭化分が多く残留して成膜性に悪影響を与えることがないよう、界面活性剤の含有量は塗料中に10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
塗料は、塗膜の耐水性等を向上させるために、必要に応じて充填材を含有することが好ましい。
充填材の種類は、その耐水性や耐薬品性等を考慮し、塗膜の用途に応じて選択することができ、水に溶解しないものであることが好ましい。具体的には、充填材としては、金属粉、金属酸化物(酸化アルミウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等)、金属硫化物(硫化モリブデン、硫化タングステン等)、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粒子、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、グラファイト、マイカ、及び硫酸バリウム等を挙げることができる。これらは、各々が単独で用いられるほか、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
さらに塗料は、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の、一般的に塗料に添加される公知の添加剤を、適宜含むことができる。
【0052】
塗料の塗装方法は特に限定されず、公知の塗装方法、例えばディッピング塗装、スプレー塗装、及び刷毛塗り等を採用できる。塗装方法に応じて、溶媒の量を適宜調節して、適切な濃度に希釈することが好ましい。
【0053】
塗料を塗布した後は、乾燥(予備乾燥)及び硬化(焼成)させて塗膜を形成する。乾燥及び硬化の条件は、特に限定されず、使用する基材の耐熱特性に応じ、低温での塗膜形成を行うことができる。例えば、120℃以上270℃未満の範囲で加熱することが好ましく、150℃~250℃の範囲がより好ましい。
【0054】
上記のポリアミドイミド樹脂組成物及び塗料(コーティング剤)は、様々な用途に用いることができる。例えば、耐熱性が求められるフィルム等の部材、又はすべり性が求められるフィルム等の部材への塗膜形成に用いることが好ましく、耐熱性塗料、摺動部コーティング塗料等として好ましく使用できる。また、本実施形態の塗料は、低温硬化が可能であるため、アルミニウム基材への絶縁皮膜としても好ましく使用できる。また、複写機の中間転写ベルト等として利用される環状のベルト等の、ベルト状に成型する成型品用途にも好ましく用いることができる。これらはいずれも、非粘着用途である。
【0055】
本実施形態の塗料は、低温下の塗膜形成性に優れており、様々な基材に対し、密着性に優れた良好な塗膜を形成することができるので、塗布する基材は特に限定されない。なかでも、アルミニウム基材は、250℃よりも高温での焼成中に基材の変形が懸念されるが、本実施形態の塗料は低温塗膜形成が可能であるので、アルミニウム基材に対し、250℃以下、例えば200℃~230℃程度の焼成で塗膜の硬化を充分に進行させて、硬度及び密着性等に優れた塗膜を形成することができる。したがって、この塗料は、アルミニウム基材への絶縁皮膜形成、保護コートなどの非粘着用途に好ましく用いられる。
【0056】
3.ポリアミドイミド樹脂組成物又は塗料の使用
本実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物又は塗料は、高弾性率であり且つ高硬度の硬化膜を形成することができるので、摺動部材の摺動面に好ましく用いることができる。
その場合、塗料は任意成分として、滑りを良くして摩耗耐性を向上させるための潤滑剤を含むことが好ましい。潤滑剤としては、グラファイト(黒鉛)、雲母、フッ素樹脂などに代表される固体潤滑剤を用いることができ、分散剤(界面活性剤、高分子分散剤等)と組み合わせて使用することがより好ましい。グラファイトは、天然黒鉛、人造黒鉛のどちらでも良い。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができるが、これに限定されることはない。
【0057】
4.硬化膜
本実施形態の硬化膜は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物、又は塗料を用いて得られるものである。ポリアミドイミド樹脂は、一般的に芳香族環を有しており、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れた硬化膜を形成することができる。
【0058】
好ましい実施形態において、硬化膜のガラス転移温度は、耐熱性の観点から250℃以上であり、より好ましくは260℃以上である。ガラス転移温度は、TMA装置を用い、JIS K 7197:1991に準じて、線膨張率測定法による測定チャートから得ることができる。
【0059】
別の好ましい実施形態において、硬化膜の引張弾性率は2.7GPa以上であり、3GPa以上であることがより好ましく、さらに好ましくは3.5GPa以上である。引張弾性率は、JIS K 7161:1994に準じて、引張試験機を用いて測定することができる。
【0060】
別の好ましい実施形態において、硬化膜の鉛筆硬度は2H以上であり、3H以上であることがより好ましい。鉛筆硬度は、旧JIS K5400(鉛筆引っかき試験)に準じて測定することができる。
硬化膜は、上記の好ましいガラス転移温度、好ましい引張弾性率、及び好ましい鉛筆硬度の全てを兼ね備えていることがより好ましい。
【0061】
さらに好ましい実施形態において、硬化膜は摺動部材の摺動面に用いられる、摺動部材用硬化膜である。ここで、硬化膜は摺動面の少なくとも一部に用いることができ、摺動面の全面に用いてもよい。この摺動部材用硬化膜は、上記のガラス転移温度、引張弾性率、及び鉛筆硬度のいずれか1以上の特性を有していることが好ましい。摺動部材については後述する。摺動部材用硬化膜は、カーボンブラック、グラファイト、二硫化モリブデン(MoS2)又は二硫化タングステン(WS2)等の金属硫化物、フッ素系樹脂などを添加した塗料を用いて好ましく製造することができる。
【0062】
硬化膜の厚みは、その用途に応じて適宜定めることができ、特に限定はされないが、15~50μm程度であることが好ましい。
【0063】
5.摺動部材
本実施形態の摺動部材は、上記実施形態ポリアミドイミド樹脂組成物、又は塗料を用いて得られる硬化膜を備えるものである。硬化膜は、摺動部材の摺動面の少なくとも一部に形成されていることが好ましい。
摺動部材は、滑らせながら動かす摺動面を有する部材であり、特に限定はされないが代表的には、エンジン等のピストン、メカニカルシールのシールリング、ポンプの軸受摺動部(ベアリング)、OA機器(複写機等)等の搬送部を有する搬送システム製品の搬送ベルト、ハードディスク等が例示できる。それらのこすれあう摺動面には、耐摩耗性と摺動特性が求められるところ、上記実施形態の硬化膜は高硬度及び高弾性率であって、優れた耐摩耗性を有するため、摺動部材用として特に適している。
【0064】
6.ポリアミドイミド樹脂の製造方法
本実施形態のポリアミドイミド樹脂の製造方法は、ジイソシアネート化合物及び/又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物及び/又は三塩基酸ハライドとを、分子構造が左右対称であって極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物を含む溶媒中で反応させる工程を含むことを特徴とする。
使用する原料化合物については、上記ポリアミドイミド樹脂組成物の項において説明したとおりである。重合溶媒としての複素環化合物についても、上記ポリアミドイミド樹脂組成物の項において、貯蔵溶媒として説明したとおりである。
【0065】
従来技術においては、ポリアミドイミド樹脂は一般的に、N-メチルピロリドン等の極性溶媒を用いて合成されることが知られているが、本発明者は、この重合溶媒を変えることにより、ポリアミドイミド樹脂の硬化膜の特性を変化させることができることを見いだした。これはつまり、合成されるポリアミドイミド樹脂ポリマーの分子構造が異なることに起因すると考えられる。
【0066】
すなわち、推論ではあるが、分子構造が左右対称であって極性を有する複素環化合物においては、当然のことながらその極性も左右対称となっており、溶媒の極性が左右対称であるので、モノマーの重合反応に規則性が生じ、アミドイミド構造が規則的に形成されて、枝分かれの少ない直鎖状のポリマーが得られ、その結果、硬度が高く硬化膜が得られると考えられ、さらには該硬化膜の弾性率も高いことが見いだされた。一方、N-メチルピロリドン等の極性が左右対称ではない溶媒を用いた場合は、アミド-イミドの規則的な構造単位のほかに、アミド-アミド、イミド-イミドのような構造単位も生成されやすくなり、その結果、硬化する際に分岐の多いポリマーとなって、得られる硬化膜は嵩高く、充分な硬度を得ることが困難になると考えられる。
【0067】
本発明者の検討によると、上記の重合溶媒と得られるポリアミドイミド樹脂の分子構造の規則性との関係は、酸成分と反応させるのがジイソシアネート化合物であるときに顕著に示される。したがって、より好ましい実施形態のポリアミドイミド樹脂の製造方法は、ジイソシアネート化合物と、三塩基酸無水物及び/又は三塩基酸ハライドとを、分子構造が左右対称であって極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物を含む溶媒中で反応させる工程を含むものである。
【0068】
重合溶媒は、分子構造が左右対称の極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物のみから構成されていても良いし、該複素環化合物以外の溶媒を含む混合溶媒であってもよい。混合溶媒の場合、複素環化合物は、重合溶媒中に80質量%以上含まれることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。
【0069】
併用できる重合溶媒としては、極性溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-モルホリンカルボアルデヒド等が挙げられ、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等のケトン類を用いることもでき、これらの一種以上を適宜組み合わせることが好ましい。ただし、アルデヒド基を含有する溶媒を使用する場合は、原料化合物と反応する可能性があるため、合成時に温度をかけないようにすることが好ましい。
【0070】
反応温度は、特に限定されず、使用する重合溶媒の沸点に応じて適宜設定すればよい。例えば、複素環化合物としてDMIを重合溶媒の一部又は全部として用いる場合、90~150℃の温度で反応させることが好ましい。重合反応は、空気中の水分の影響を低減するため、窒素等の雰囲気下で行うことが好ましい。
【0071】
ポリアミドイミド樹脂は、例えば次の手順で製造することができる。
(1)酸成分、及びジイソシアネート成分及び/又はジアミン成分を一度に使用し、反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(2)酸成分と、ジイソシアネート成分及び/又はジアミン成分の過剰量とを反応させて、末端にイソシアネート基又はアミノ基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、酸成分を追加して末端のイソシアネート基及び/又はアミノ基と反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(3)酸成分の過剰量と、ジイソシアネート成分及び/又はジアミン成分を反応させて、末端に酸又は酸無水物基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、ジイソシアネート成分及び/又はジアミン成分を追加して末端の酸又は酸無水物基と反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
【0072】
ポリアミドイミド樹脂の末端をブロックする場合は、ブロック剤を樹脂の合成中に反応させてもよいし、樹脂の合成後に反応させてもよい。ブロック剤を樹脂の合成中に反応させるときは、ブロック剤の種類によっては、重合溶媒の一部として用いるようにしてもよい。ブロック剤の使用量は、特に限定はされないが、そのブロック化の効果を充分に得るために、ポリアミドイミド樹脂1モルに対し0.01モル以上のブロック剤を用いることができる。
【0073】
7.ポリアミドイミド樹脂
本実施形態のポリアミドイミド樹脂は、ジイソシアネート化合物及び/又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物及び/又は三塩基酸ハライドとを、分子構造が左右対称であって極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物を含む溶媒中で反応させて得られるものである。反応条件等は、特に限定されず、当業者に周知の条件を適用すればよい。上述のとおり、得られるポリアミドイミド樹脂は、特定の重合溶媒を用いて製造することにより、分子極性が非対象である重合溶媒を用いた場合に比べ、高硬度かつ高弾性率の硬化膜を形成できるものであり、それはアミド-イミド結合が規則的に繰り返された分子構造を有することに基づくのであろうと推測できる。
【0074】
より好ましい実施形態のポリアミドイミド樹脂は、ジイソシアネート化合物と、三塩基酸無水物及び/又は三塩基酸ハライドとを、分子構造が左右対称の極性を有する複素環化合物、又は極性が左右対称である複素環化合物を含む溶媒中で反応させて得られるものである。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0076】
<実施例1>
4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)50.1g(0.2モル)、3,3'-ジメチル-4,4'-ジイソシアナトビフェニル(TODI)211.4g(0.8モル)、無水トリメリット酸(TMAC)192.1g(1.0モル)、及び1,3-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)842.4gを、温度計、攪拌機、及び冷却管を備えた2リットルのフラスコに仕込み、乾燥させた窒素気流中で撹拌しながら約2時間かけて135℃まで昇温し、この温度を保持して9時間反応させて、数平均分子量21500のポリアミドイミド樹脂溶液(固形分濃度:約33質量%)を得た。
【0077】
ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、次の条件で測定した。
GPC機種:日立 L6000
検出器:日立 L4000型UV
波長:270nm
データ処理機:ATT 8
カラム:Gelpack GL-S300MDT-5×2
カラムサイズ:8mmφ×300mm
溶媒:DMF/THF=1/1(リットル)+リン酸0.06M+臭化リチウム0.06M
試料濃度:5mg/1ml
注入量:5μl
圧力:49kgf/cm2(4.8×106Pa)
流量:1.0ml/min
【0078】
アミン型の4官能エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製「YH-434」)を、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し7質量部となる量で添加し、ラボスターラーで3時間攪拌して、さらに希釈溶剤としてキシレンとDMIを追加して、不揮発分(200℃/2時間、測定値)が27.0質量%、ポリアミドイミド樹脂と4官能エポキシ樹脂の合計濃度(計算値)が26質量%の試験塗料を得た。
【0079】
<実施例2>
4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)100.2g(0.4モル)、3,3'-ジメチル-4,4'-ジイソシアナトビフェニル(TODI)158.6g(0.6モル)、無水トリメリット酸(TMAC)192.1g(1.0モル)、及び1,3-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)676.4gを用いて、上記実施例1と同様に反応させて、数平均分子量20900のポリアミドイミド樹脂溶液(固形分濃度:約38質量%)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を用いて、上記実施例1と同様にして、不揮発分(測定値)が27.2質量%、ポリアミドイミド樹脂と4官能エポキシ樹脂の合計濃度(計算値)が26質量%の試験塗料を得た。
【0080】
<実施例3>
4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)250.2g(1モル)、無水トリメリット酸192.1g(1.0モル)、及び1,3-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)663.5gを用いて、上記実施例1と同様に反応させて、数平均分子量18700のポリアミドイミド樹脂溶液(固形分濃度:約38質量%)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液を用いて、上記実施例1と同様にして、不揮発分(測定値)が27.5質量%、ポリアミドイミド樹脂と4官能エポキシ樹脂の合計濃度(計算値)が26質量%の試験塗料を得た。
【0081】
<比較例1>
上記実施例3と同じ原材料を用い、重合溶媒をN-メチルピロリドン(NMP)663.5gに代えて、数平均分子量19700のポリアミドイミド樹脂溶液(固形分濃度:約38質量%)を得た。
2官能エポキシ樹脂として、三井化学(株)製「エポミックR-140」;2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエピクロルヒドリンによるジグリシジルエーテル化物)を、得られたポリアミドイミド樹脂溶液100質量部に対し、12質量部となる量で加えて、上記実施例1と同様にして、不揮発分(測定値)が31.5質量%、ポリアミドイミド樹脂と2官能エポキシ樹脂の合計濃度(計算値)が26質量%の試験塗料を得た。
【0082】
<比較例2>
上記実施例2と同じ原材料を用い、重合溶媒をN-メチルピロリドン(NMP)676.4gに代えて、数平均分子量18400のポリアミドイミド樹脂溶液(固形分濃度:約40質量%)を得た。
得られたポリアミドイミド樹脂溶液100質量部に対し、12質量部となる量の2官能エポキシ樹脂(上記「エポミックR-140」)を加えて、同様にして、不揮発分(測定値)が30.2質量%、ポリアミドイミド樹脂と2官能エポキシ樹脂の合計濃度(計算値)が26質量%の試験塗料を得た。
【0083】
<密着性(クロスカット試験)>
上記実施例及び比較例の各試験塗料を、基材(アルミニウム板、A1050P、厚み1mm、未研摩)に塗布した後、80℃/30分間(ホットプレート)、及び230℃/30分間(乾燥機中)で硬化させて、膜厚約20μmの塗膜板を作製し、初期の密着性を測定した。
密着性は、旧JIS K 5400に準じて測定した(%、クロスカット残率)。すなわち、試験面にカッターナイフを用いて、1×1mm四方の碁盤目の切り傷を入れ、100個の碁盤目を形成した。碁盤目部分にメンディングテープ#810(スリーエム(株)製)を強く圧着させ、テープをゆっくりと引き剥がした後、碁盤目の状態を観察し、100マス中の残マス数を%で示した。剥離試験は5回行って、各回毎にマス目数を数えて、平均値を得た。
【0084】
<密着性(エリクセン試験)>
クロスカットを行った場所を、エリクセン試験機で8mm押し出し、セロハンテ-プで密着性の試験を行った。すなわち、エリクセン試験機(東洋精機製作所製)を用い、クロスカットした部分を8mm押し出し、押し出した後、押し出し部にセロハンテ-プを圧着させ、引き剥がして残存した個数を数えた。
以上の試験を2回行って、残存した個数の平均値を得た。
【0085】
<鉛筆硬度>
上記各試験塗料をガラス板上に塗布し、230℃で30分間硬化させて得られた硬化塗膜(厚み20±5μm)を用い、旧JIS K5400の鉛筆引っかき試験に準じて鉛筆硬度を測定した。すなわち、 三菱ユニ鉛筆6B~9Hを用い、研いだ芯先を塗膜面に対して45度に当て、芯が折れない程度に出来る限り強く塗膜面に押し付けながら、試験者の前方に均一な速さ(約1cm/s)で約1cm押し出して塗膜面を引っ掻いた。1回引っ掻くごとに鉛筆の芯を研いで5回繰り返し、塗膜の破れ又は切り傷が、5回の試験で2回以上になる鉛筆の硬さの一段下の濃度を記録した。
【0086】
<引張弾性率>
ガラス板上に上記各試験塗料を塗布し、230℃で30分加熱硬化した後、剥離して、膜厚約20μm、幅10mm、長さ60mmの塗膜を作製した。
引張試験機は、(株)島津製作所製「オートグラフAGS-5kNG」を用い、チャック間長さ20mm、引張速度5mm/分の条件で引張試験を行って、引張弾性率を求めた。
以上の結果を、表1に示す。
【0087】
【0088】
比較例に対し、実施例の試験塗料からは、密着性に優れ、高硬度且つ高弾性の硬化膜を得ることができた。
【0089】
既に述べられたもの以外に、本発明の新規かつ有利な特徴から外れることなく、上記の実施形態に様々な修正や変更を加えてもよいことに注意すべきである。したがって、そのような全ての修正や変更は、添付の請求の範囲に含まれることが意図されている。