(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】化粧料用窒化ホウ素粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20220720BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20220720BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
A61K8/19
C01B21/064 G
A61Q1/12
(21)【出願番号】P 2019154057
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】油谷 真人
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101241(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123571(WO,A1)
【文献】特開2012-176910(JP,A)
【文献】特開2015-212217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C01B 21/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ回折散乱法で測定したメディアン径(D1)が21~30μmの範囲にあり、平均長径が3~7μm、平均厚みが0.5μmより大きく
、平均アスペクト比が6~15の範囲にある窒化ホウ素粉末であって、エタノール中、出力25Wで1200秒間超音波分散させたときのメディアン径(D2)が4~10μmの範囲にあることを特徴とする化粧料用窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
含酸素ホウ素化合物として酸化ホウ素及び含酸素アルカリ土類金属化合物として炭酸カルシウム、酸化カルシウムのいずれか1つまたは両方と共に、炭素源となる化合物としてカーボンブラックを含む原料混合物を用意する工程;
前記原料混合物を窒素雰囲気下で加熱して還元窒化を行う反応工程;
前記反応工程で得られた窒化ホウ素を含む反応生成物を酸洗浄する洗浄工程;
を含む窒化ホウ素粉末の製造方法において、
前記原料混合物は、B/C原子比が0.80~2.00、酸化物換算での含酸素アルカリ土類金属化合物(MO;Mはアルカリ土類金属)と含酸素ホウ素化合物(B
2O
3)とのモル比(MO/B
2O
3)が0.12以下に設定されており、
前記反応工程において、反応生成物中のM/B
2O
3モル比が0.1~0.7となるように反応条件が調整されて還元窒化反応が行われる、請求項1に記載の化粧料用窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料用に用いられる窒化ホウ素粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素粉末は、六方晶系の層状結晶構造を有する白色の体質顔料であり、被覆力、透明感、展延性、付着性および潤滑性等に優れることから、光沢付与、感触改良、粉末の増量・充填等を目的として、メイクアップ化粧品等の化粧料の粉体基材として用いられている。
【0003】
化粧料の粉体基材としての使用感(感触)は、球状、板状などの粉体形状や粒子径、硬度、表面状態等によって異なってくるものであり、前記粉体形状等を制御することによって、化粧料の粉体基材として好ましい、潤滑性、白色度、耐加水分解性、展延性、付着性等の物性に優れた窒化ホウ素粉末を得られることが知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0004】
ここで、数μm~数十μm程度の粒子径を有する粒子からなる粉体は、一般的に凝集性を有しており、凝集性が高い場合は粉体が固まりやすいことから、潤滑性、展延性、付着性等を向上するためには凝集性は低い方が好ましい。また、凝集体が存在すると肌触りが悪くなる問題もある。
従来技術においては、凝集性を低くするために、解砕、粉砕、分散等の処理を必須としているため、製造コストが高くなるという問題がある。
また、被覆力、透明感、展延性、付着性の点において、最も好まれる化粧料用の窒化ホウ素粉末は、平均長径3~7μm、平均アスペクト比6~15のものであるが、これまでの還元窒化法では凝集体を含むものや、凝集体が少なくても平均長径8~12μmの窒化ホウ素が得られるものであり、凝集体が少なく、且つ、平均長径3~7μmの窒化ホウ素粉末を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-043792号公報
【文献】特開2004-035273号公報
【文献】特開昭63-274603号公報
【文献】特開2012-176910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情を鑑み、凝集性が低く、化粧料用に適した平均長径を有する化粧料用窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。また、本発明は、前記化粧料用窒化ホウ素粉末を低コストで製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、レーザ回折散乱法で測定したメディアン径(D1)が4~30μmの範囲にあり、平均長径が3~7μm、平均アスペクト比が6~15の範囲にある窒化ホウ素粉末であって、エタノール中、出力25Wで1200秒間超音波分散させたときのメディアン径(D2)が4~10μmの範囲にあることを特徴とする化粧料用窒化ホウ素粉末を提供する。
【0008】
また、本発明は、含酸素ホウ素化合物及び含酸素アルカリ土類金属化合物と共に、炭素源となる化合物を含む原料混合物を用意する工程;
前記原料混合物を窒素雰囲気下で加熱して還元窒化を行う反応工程;
前記反応工程で得られた窒化ホウ素を含む反応生成物を酸洗浄する洗浄工程;
を含む窒化ホウ素粉末の製造方法において、
前記原料混合物は、B/C原子比が0.80~2.00、酸化物換算での含酸素アルカリ土類金属化合物(MO;Mはアルカリ土類金属)と含酸素ホウ素化合物(B2O3)とのモル比(MO/B2O3)が0.12以下に設定されており、
前記反応工程において、反応生成物中のM/B2O3モル比が0.1~0.7となるように反応条件が調整されて還元窒化反応が行われる、前記化粧料用窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化粧料用窒化ホウ素粉末は、化粧料用に適した平均長径とアスペクト比を有するため、被覆力、透明感、展延性、付着性に優れ、化粧料用の窒化ホウ素粉末として適している。また、凝集体が少なく且つ柔らかいため、化粧料用として使用したときの肌触りが良い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、レーザ回折散乱法で測定したメディアン径(D1)が4~30μmの範囲にあり、平均長径が3~7μm、平均アスペクト比が6~15の範囲にある窒化ホウ素粉末であって、エタノール中、出力25Wで1200秒間超音波分散させたときのメディアン径(D2)が4~10μmの範囲にある化粧料用窒化ホウ素粉末である。
【0011】
ここで、レーザ回折散乱法で測定したメディアン径(D1)は、エタノールを分散媒とし、製造された後に何も処理を行っていない状態の窒化ホウ素粉末を試料として、レーザ回折散乱法で測定した場合の累積粒径分布グラフ(縦軸は粒子体積の累積率で0~100%、横軸は粒径を表す右肩上がりのグラフ)において累積率50%における粒径を示しており、これは一般的にはd50とも表され、凝集体を含んだ状態の窒化ホウ素粉末の平均粒径を意味している。
メディアン径(D1)が前記範囲より大きくなると、肌に塗布する際にざらつきを感じるようになり、また、潤滑性、展延性、付着性等が低下してしまう。また、メディアン径(D1)が前記範囲より小さくなると、平均長径が3μmよりも小さくなってしまい、被覆力、透明感、展延性、付着性が低下してしまう。
【0012】
また、平均長径は、窒化ホウ素粉末を分散させたエポキシ樹脂の断面をミリング加工し、その加工面をSEMにより撮影したときの窒化ホウ素粒子の長辺の長さの平均値を示し、平均アスペクト比は、前記粒子の長辺(長径)を、それぞれの粒子の短辺(厚さ)で除した場合の数値であるアスペクト比の平均値を示しており、窒化ホウ素粉末がミクロンオーダーの大きさの薄片であることを意味している。
【0013】
そして、エタノール中、出力25Wで1200秒間超音波分散させたときのメディアン径(D2)は、超音波ホモジナイザーを用い、前記条件で超音波分散処理を行った後の試料を、そのままD1と同じ条件で測定したメディアン径を示し、超音波分散処理により、凝集体の一部/又はすべてが破壊された窒化ホウ素粉末の平均粒径を意味している。
このメディアン径(D2)が小さいほど、凝集体が柔らかいことを意味し、4~10μmのものは、化粧品の製造工程において、他の粉体等と混合した際に凝集体が破壊されやすいため、化粧品製品中に凝集体が残りにくく、また、製品中に凝集体が僅かに残ったとしても、肌に塗るときに容易に壊れるため、潤滑性、展延性、付着性等に優れる。
なお、ホモジナイザーの出力100Wで1200秒間の超音波分散処理をした上で、粒度分布を測定することが一般的であるが、この出力では極めて硬い凝集体も破壊されてしまうため、凝集体の柔らかさを評価するには不適切である。
【0014】
したがって、本発明は、平均長径が3~7μmの薄片粒子から構成され、凝集体が存在せず完全に分散した状態か、または凝集体が存在したとしてもごくわずかな力でほぼ完全に分散した状態である化粧料用窒化ホウ素粉末である。
【0015】
さらに、本発明では、前記特定の還元窒化法を用いて、出発原料から1回の加熱処理で前記窒化ホウ素粉末を製造することができ、窒化ホウ素粉末製造後に凝集性を低くするための解砕、粉砕、分散等の処理を行う必要がないことから、低コストで化粧料用窒化ホウ素粉末を製造することができる。
【0016】
還元窒化法による六方晶窒化ホウ素(以下、「h-BN」ともいう。)の製造を、例えば、以下のようにして実施できる。即ち、ホウ素源として酸化ホウ素(B2O3)等の含酸素ホウ素化合物を使用し、この含酸素ホウ素化合物の粉末と、カーボン粉末及び助剤との混合粉末を反応原料として、窒化反応炉内において、窒素を供給し、含酸素ホウ素化合物の還元及び窒化により、h-BNを得る。
【0017】
上記の反応は、下記式により表され、一般に1200℃以上で反応が進行する。
B2O3+3C+N2 → 2BN+3CO
上記の反応は、一般に、1550℃以下の温度で進行させることが好ましい。1550℃以上の温度において、カーボンが5質量%以上残存していると、CaB6等の黒色不純物が生成してしまい好ましくない。例えば、1500℃程度の温度で2~10時間保持することで反応を十分に進行させることが好ましい。
【0018】
上記の反応後、一般に、窒化反応炉内を1700~2000℃、好ましくは1750~1900℃の温度に保持することでBNの結晶成長が進む。この温度が低すぎると、化粧料用として相応しい平均長径まで成長せず、また、窒化反応炉内の温度が必要以上に高いと、平均長径が大きくなり過ぎてしまう。
【0019】
また、反応原料中の助剤としての含酸素アルカリ土類金属化合物は、上記の結晶成長を促進させるために使用されるものであり、含酸素アルカリ土類金属化合物として、例えば酸化カルシウム(CaO)を使用できる。通常、還元窒化を行う上では酸化ホウ素(B2O3)を過剰に添加しており、1700℃~2000℃の結晶成長の段階において二成分系の液相(B2O3-CaO)が存在し、この液相中で結晶成長が進行する。ここで、液相中Ca濃度が高すぎる場合には、h-BNの長径が大きくなり過ぎるばかりでなく、粒子同士の凝集を助長してしまう問題もある。従って、本発明のh-BNを得るには、このCa濃度を低く保つ必要があり、液相中のCa濃度を制御する手段としては、原料中のホウ素源と炭素源と助剤の割合を調整する方法と、前記液相の揮発量を制御する方法が挙げられる。
【0020】
反応原料中、ホウ素源と炭素源との割合は、B/C原子比が0.80~2.00、特に0.80~1.20の範囲となるように設定される。この原子比(B/C)が上記範囲よりも小さいと、液相中Ca濃度が高くなり、h-BNの長径が目的より大きくなり、また、凝集が硬くなるおそれがある。また、上記範囲よりも大きいと、未反応B2O3の割合が余りにも過剰になり、原料充填量に対する窒化ホウ素の収率が著しく低下してしまい、生産性が低下する。
また、助剤と含ホウ素化合物との割合は、例えば酸化物換算での含酸素アルカリ土類金属化合物と含酸素ホウ素化合物のモル比(MO/B2O3)が0.12以下、特に0.10以下とすることが好適である。このモル比が、当該範囲を超えると、h-BNの長径が目的より大きくなりやすい。また、モル比に下限は無いが、完全に0とすると結晶化が促進されず、目的の長径よりも著しく小さい微粉が増える可能性があるため、少量でも存在すればよく、下限は好ましくは0.002である。
【0021】
ここで、前記反応工程の進行中には、徐々に液相が揮発するものであるが、CaOよりもB2O3の方が揮発しやすいため、揮発が進むに連れ液相中Ca濃度が上昇することになる。そのため、h-BNの長径を制御するには、液相の揮発量を制御する必要がある。
前記反応工程において、窒化反応炉内は大気圧の窒素雰囲気であり、窒素ガスを窒化反応炉の容積1Lあたり0.1~10L/hrの流量で給排気させることが一般的であるが、窒素ガスの流量が増すほど、液相が揮発しやすくなるため、h-BNの長径が大きくなりやすい。よって、平均長径3~7μmの窒化ホウ素粉末を得るためには、窒素ガスの流量を低くすることが好ましい。ただし、液相の揮発量は、反応炉内の構造にも大きく依存するものである。従って、好ましい窒素ガス流量は特に限定されるものではないが、一般的には、窒化反応炉の容積1Lあたり0.1~3L/hrが好ましい。
前記反応工程で得られた窒化ホウ素粉末の中に含まれるアルカリ土類金属(M)と未反応B2O3とのモル比(M/B2O3)は、0.1~0.7であることが好ましい。このモル比が、当該範囲より大きいと、前記反応工程の終了までに液相中Ca濃度が上昇したことを意味し、h-BNの長径が目的より大きくなりやすい。また、モル比が上記範囲より小さいと、前記反応工程中の液相中Ca濃度が低過ぎることを意味し、目的の長径よりも著しく小さい微粉が増える可能性がある。
【0022】
アルカリ土類金属(M)と未反応B2O3とのモル比(M/B2O3)は、硫酸水溶液に前記反応工程で得られた窒化ホウ素粉末を入れ、硫酸水溶液に溶出させたMとBの濃度(ppm)をICP発光分光分析により定量し、モル比(M/B2O3)に換算した値である。
次いで、モル比(M/B2O3)の分析に用いた以外の窒化ホウ素粉末を酸洗浄することにより、窒化ホウ素粉末に含まれる副生成物を除去する。例えば、ポリエチレン製容器へ投入し、窒化ホウ素の10倍量の塩酸水溶液(10重量%HCl)を加え、回転数300rpmで15時間撹拌する。
該酸洗浄の後、酸をろ過する。その後、使用した酸と同僚の純水に酸洗浄した窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過する。さらに、ろ液が中性になるまで純水による洗浄とろ過を繰り返す。
該純水洗浄の後、得られた粉末を50~250℃の大気、もしくは減圧下で乾燥することで、高純度の窒化ホウ素粉末が得られる。
【0023】
本発明において、前記含酸素ホウ素化合物は、特に制限されるものではないが、例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム等が使用できる。一般的には入手が容易なホウ酸が好適に用いられる。
【0024】
本発明において、前記炭素源は、特に制限されるものではないが、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が使用できる。一般的には安価なカーボンブラックが用いられる。
【0025】
本発明において、前記含酸素アルカリ土類金属化合物は、特に制限されるものではないが、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸カルシウム等が使用でき、これら2種類以上を混合して使用することも可能である。
【0026】
尚、前記反応原料である混合粉末を調製するための混合は、各成分が均一に混合される限り、特に制限されず、振動ミル、ボールミル、ドラムミキサー振動攪拌機等の混合装置を用いて行われる。
【0027】
本発明において、窒素雰囲気は、公知の手段によって形成することができる。使用するガスとしては、上記窒化反応でホウ素に窒素を与えることが可能なガスであれば特に制限されず、窒素ガス、アンモニアガスを使用することも可能であり、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0028】
本発明において、還元窒化反応工程は、反応雰囲気制御の可能な公知の装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、縦型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0029】
本発明において、酸洗浄に用いる酸としては、塩酸以外にも、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1
<原料混合物の調製及び還元窒化反応工程>
酸化ホウ素70g、カーボンブラック30g、炭酸カルシウム10gをボールミルにて混合した。該混合物を黒鉛性タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、15℃/分で1500℃まで昇温し、1500℃で6時間保持した。1500℃保持後、15℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃で2時間保持し、還元窒化処理した。
ここで、酸化ホウ素、カーボンブラック、炭酸カルシウムの分子量はそれぞれ69.6、12.0、100.1であることから、原料混合物中のモル数はそれぞれ1.01(70/69.6=1.01)モル、2.50(30/12.0=2.50)モル、0.10(10/100.1=0.10)モルであり、B/C原子比は0.81(1.01×2/2.5=0.81)、モル比(CaO/B2O3)は0.10(0.10/1.01=0.10)と算出される。
【0032】
<還元窒化反応工程後のCa/B2O3測定>
超純水48gに濃硫酸2gを溶かした硫酸水溶液50gを50ccスクリュー管瓶に入れ、さらに酸洗浄前の窒化ホウ素粉末1gを加えてミックスローター(アズワン社製FLMX-T6-5、回転数70rpm)で24h撹拌した後の窒化ホウ素懸濁液を、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液に含まれるカルシウム(Ca)とホウ素(B)についてICP発光分光分析により定量した。さらに、得られた各成分の濃度(ppm)を換算し、モル比(Ca/B2O3)とした。
【0033】
<酸洗浄を含む洗浄工程及び乾燥>
次いで、残りの窒化ホウ素粉末をポリエチレン製の容器へ投入し、窒化ホウ素の10倍量の塩酸水溶液(10重量%HCl)を加え、回転数300rpmで15時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸を濾過し、投入した窒化ホウ素の300倍量の25℃における比抵抗が1MΩ・cmの純水を用いて再度洗浄の後、吸引による濾過により濾過後の粉末中含水率が50wt%以下になるまで脱水を行った。該純水洗浄の後、得られた粉末を1kPaAの圧力のもと、200℃で15時間、減圧乾燥させ、高純度の窒化ホウ素粉末を得た。
【0034】
<窒化ホウ素粉末の平均長径、平均厚み、アスペクト比の測定>
エポキシ樹脂(ヘンケル社製、EA E-30CL)100質量部中に得られた窒化ホウ素粉末10質量部を分散し、得られた樹脂組成物を減圧脱泡した後、10mm角、厚さ1mmの型枠に流し込み、温度70℃にて硬化させた。
次いで、硬化した樹脂組成物を型枠から抜き出し、両面が並行になるように両面を研磨した後、さらに、樹脂組成物の厚み方向に垂直な面のうち一方の面について、その中央を断面ミリング加工し、その加工面を倍率2500倍の条件でSEMにより画像を撮影した。得られた画像の中から窒化ホウ素粒子100個を無作為に選び、粒子の長辺(=長径)と短辺(=厚み)を拡大倍率を考慮して測定し、各平均値をそれぞれ平均長径(μm)、平均厚み(μm)とし、さらに、平均長径を平均厚みで除した値をアスペクト比(平均長径/平均厚み)とした。
【0035】
<メディアン径(D1)の測定>
得られた窒化ホウ素粉末0.3gを50ccのエタノールに入れ、軽く撹拌した後の窒化ホウ素懸濁液についてレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製LA-950V2)を用いて、粒度分布を測定し、平均粒径(D50)(μm)を求めた。
【0036】
<メディアン径(D2)の測定>
得られた窒化ホウ素粉末0.3gを50ccのエタノールと共に、容積100cc、直径4cmのスクリュー管瓶に投入し、0.2cmの直径を有するプローブを水中に1cm挿入した状態で、室温下、上記プローブより25Wの出力で20分間超音波を作用せしめた後の窒化ホウ素懸濁液についてレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製LA-950V2)を用いて、粒度分布を測定し、平均粒径(D50)(μm)を求めた。
【0037】
<パウダーファンデーションの調製及び評価>
得られた窒化ホウ素粉末を用いて、以下の配合割合でパウダーファンデーションを調製した。得られたパウダーファンデーションについて、20名の専門パネラーにより、被覆力、透明感、展延性、付着性、肌触りについて官能評価を行った。良好と感じたパネラーが30%未満である場合を×、30%以上60%未満である場合を△、60%以上80%未満である場合を○、80%以上である場合を◎とした。
六方晶窒化ホウ素粉末 20.0質量%
マイカ 15.0質量%
合成金雲母 12.0質量%
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 8.0質量%
(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロス
ポリマー 8.0質量%
(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/
シルセスキオキサン)クロスポリマー 8.0質量%
ナイロン12 3.0質量%
シリカ 3.0質量%
タルク 3.0質量%
アクリレーツクロスポリマー 3.0質量%
パーフルオロオクチルトリエトキシシラン 3.0質量%
酸化亜鉛 3.0質量%
ポリメチルメタクリレートポリマー 3.0質量%
シリコーン処理ベンガラ(赤酸化鉄) 1.0質量%
シリコーン処理黄酸化鉄 0.6質量%
シリコーン処理黒酸化鉄 0.4質量%
シリコーン処理酸化チタン 6.0質量%
【0038】
実施例2~4、比較例1~4
実施例1の原料混合物のB/C原子比およびCaO/B2O3モル比、窒素流量、最高温度、を変更して、実施例2~4、比較例1~4の窒化ホウ素粉末を製造した。各窒化ホウ素の製造条件と評価結果を表1に示す。
【0039】
実施例1~4の窒化ホウ素粉末は、反応生成物中のCa/B2O3モル比が0.1~0.7となるように製造されており、メディアン径(D1)が4~30μm、メディアン径(D2)が4~10μmの窒化ホウ素粉末が得られている。即ち、これらの窒化ホウ素粉末は凝集体が小さく柔らかいため肌触りが良い。また、平均長径が3~7μm、平均アスペクト比が6~15の窒化ホウ素粉末であり、被覆力、透明感、展延性、付着性に優れ、化粧料用窒化ホウ素粉末として適したものである。
【0040】
また、前記化粧料用窒化ホウ素粉末を低コストで製造することが可能であるため、工業的に極めて有用である。
【表1】