(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】多結晶シリコン破砕物の製造方法、及び、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を管理する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/035 20060101AFI20220720BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20220720BHJP
C30B 33/10 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C01B33/035
C30B29/06 D
C30B33/10
(21)【出願番号】P 2019514449
(86)(22)【出願日】2018-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2018016217
(87)【国際公開番号】W WO2018198947
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017085404
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 茂樹
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/126365(WO,A1)
【文献】特開平08-067511(JP,A)
【文献】特開2014-233653(JP,A)
【文献】特開2016-222470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/035
C30B 29/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法により多結晶シリコンロッドを製造する工程、
多結晶シリコンロッドを破砕し、多結晶シリコン破砕物を得る工程、および
多結晶シリコン破砕物を洗浄槽内でエッチングして洗浄する工程を含む、多結晶シリコン破砕物の製造方法であって、
該洗浄工程にて、
一辺の長さが5~15mmの立方体であり、表面積が
150~
1350mm
2の多結晶シリコン小片
10~200個からなる多結晶シリコン小片群を洗浄槽内に存在させ、エッチング処理前後の該多結晶シリコン小片群の重量変化を測定し、洗浄工程を管理する、多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【請求項2】
洗浄工程の管理が、エッチング処理前後の該多結晶シリコン小片群の重量変化からエッチング速度を算出し、次にエッチング処理される処理時間を調節することによって、目的のエッチング代となるように制御することで行われる、請求項1に記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【請求項3】
洗浄工程前の該多結晶シリコン小片群の全表面積[cm
2]と多結晶シリコン小片群の重量を測定する秤の分解能[g]の比(多結晶シリコン小片群の全表面積[cm
2]/ 秤の分解能[g])が2.0×10
3~3.5×10
7[cm
2/g]である
請求項1または請求項2に記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【請求項4】
該多結晶シリコン小片群のエッチング処理前後の重量を測定する秤の分解能が0.1~0.0001gである請求項
3に記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【請求項5】
多結晶シリコン小片群を、通液可能な容器に収容して洗浄槽内に配置する請求項1~
4の何れかに記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【請求項6】
多結晶シリコン小片群を洗浄槽内に分散して配置する請求項1~
5の何れかに記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【請求項7】
シーメンス法により製造された多結晶シリコンロッドの破砕物の表面金属濃度を管理する方法であって、
多結晶シリコン破砕物を洗浄槽内でエッチングして洗浄する際、
一辺の長さが5~15mmの立方体であり、表面積が
150~
1350mm
2の多結晶シリコン小片10~200個からなる多結晶シリコン小片群を洗浄槽内に存在させ、エッチング処理前後の該多結晶シリコン小片群の重量変化を測定し、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を管理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン破砕物の製造方法、及び、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を管理する方法に関する。さらに詳しくは、表面金属濃度が精密に管理された多結晶シリコン破砕物の製造方法、及び、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を精度よく管理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシリコンとも呼ばれる多結晶シリコンを製造する方法としてシーメンス法が知られている。シーメンス法により得られた多結晶シリコンロッドは、適当な大きさに破砕後、選別され、単結晶シリコンの製造原料等として使用される。
【0003】
多結晶シリコンロッドを破砕し、多結晶シリコン破砕物を得る際、破砕物表面には酸化膜が形成されることがある。また、多結晶シリコンロッドの破砕時に使用されるハンマー等の破砕装置や篩等の分級装置などに由来して、破砕物表面に形成された酸化膜には種々の金属異物が付着することがある。
【0004】
酸化膜や金属異物は、単結晶シリコンの製造時にシリコンとともに溶融し、製品である単結晶シリコンに取り込まれることがある。単結晶シリコンは周知のとおり微量の不純物により、その特性が大きく変化する。このため、多結晶シリコン破砕物の洗浄などを行い、酸化膜や金属異物を除去し、多結晶シリコン破砕物の表面洗浄度を高くすることが求められている。
【0005】
多結晶シリコン破砕物の表面を洗浄する方法としては、一般に、フッ硝酸液によるエッチング処理が知られている。フッ硝酸液によるエッチング処理によると、酸化膜だけでなくシリコン表面をも溶解される。
【0006】
エッチング処理量(エッチングにより除去される破砕物の表面領域の量を意味し、以下「エッチング代」と記載することがある。)が過剰であると、長時間不必要にエッチングを行うことになり、運転費、人件費等のコストが増大する。また、シリコン表面が過度に溶解されるため、シリコンの収量が減少する。さらに、エッチング液(フッ硝酸液)の使用量が増大するため、コストが増大し、廃液の処理コストも増大する。
一方、エッチング代が少ないと、酸化膜の除去が不十分となることがある。
さらに、フッ硝酸によるエッチング処理ではNOxガスが発生するため、NOxガスを処理するためのコストも必要となる。
【0007】
したがって、多結晶シリコン破砕物の表面を洗浄する工程において適正なエッチング代をモニターする必要がある。
【0008】
特許文献1では、シリコン収量の低減やNOxガスの処理に関する問題を解決するために、多結晶シリコン破砕物をフッ酸液により洗浄処理した後に、フッ酸と硝酸の混合液(フッ硝酸液)によりエッチング処理する洗浄方法が提案されている。特許文献1に記載の多結晶シリコン洗浄方法では、フッ酸液による洗浄により破砕物表面に形成された酸化膜を除去し、その後、破砕物をフッ硝酸液からなるエッチング液に浸漬し、軽度のエッチング処理をすることで、多結晶シリコン破砕物の表面清浄度を向上させている。
【0009】
また、特許文献1では、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を測定する方法として、多結晶シリコン破砕物とともにサンプル板材をエッチング処理し、エッチング処理前後のサンプル板材の厚みをマイクロメータで測定する方法や、エッチング処理前後のサンプル板材の重量を測定する方法が提案されている。そして、特許文献1には、事前にエッチング処理前後のサンプル板材の厚みや重量を測定し、エッチング時間とエッチング代との関係を調べておけば、エッチング時間を調節することにより、サンプル板材を用いずとも多結晶シリコン破砕物のエッチング代を自在に調節できる旨記載されている。
【0010】
しかし、特許文献1にはサンプル板材の材質、形状及びサイズに関する記載がない。また、多結晶シリコン破砕物と一緒にサンプル板材をエッチング処理する場合には、サンプル板材自体が邪魔板となり、洗浄漕内におけるエッチング液の流動が不均一になるおそれがある。その結果、サンプル板材を均一にエッチングすることができず、サンプル板材の厚みや重量の測定から、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を正確に管理することは難しい。さらに、サンプル板材によりエッチング液の流動が不均一化するため、多結晶シリコン破砕物自体を均一にエッチングすることも困難である。
【0011】
また、事前にエッチング時間とエッチング代との関係を調べても、サンプル板材の有無によりエッチング液の流動状態が変化するため、サンプル板材の有無により、多結晶シリコン破砕物のエッチング代が異なる。つまり、サンプル板材の厚み変化や重量変化をエッチング時間と関連付けたとしても、実際のエッチング状態が異なるため、エッチング時間が、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を正確に反映しないことがある。また、エッチング液は経時的に劣化するため、事前に調べたエッチング時間とエッチング代との関係が、実際のエッチングの進行状態と整合しないこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、その目的は、測定サンプルの存在がエッチング液の流動に影響を及ぼさず、測定サンプルと多結晶シリコン破砕物の両方を均一かつ同程度にエッチングし、エッチング代を正確に管理できる多結晶シリコン破砕物の製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を精度よく管理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕シーメンス法により多結晶シリコンロッドを製造する工程、
多結晶シリコンロッドを破砕し、多結晶シリコン破砕物を得る工程、および
多結晶シリコン破砕物を洗浄槽内でエッチングして洗浄する工程を含む、多結晶シリコン破砕物の製造方法であって、
該洗浄工程にて、制御された形状およびサイズを有する多結晶シリコン小片群を洗浄槽内に存在させ、エッチング処理前後の該多結晶シリコン小片群の重量変化を測定し、洗浄工程を管理する、多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【0015】
〔2〕洗浄工程の管理が、エッチング処理前後の該多結晶シリコン小片群の重量変化からエッチング速度を算出し、次にエッチング処理される処理時間を調節することによって、目的のエッチング代となるように制御することで行われる、〔1〕に記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【0016】
〔3〕該多結晶シリコン小片群が、立方体または直方体の多結晶シリコン小片からなる〔1〕または〔2〕に記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【0017】
〔4〕洗浄工程前の該多結晶シリコン小片群の全表面積[cm2]と多結晶シリコン小片群の重量を測定する秤の分解能[g]の比(多結晶シリコン小片群の全表面積[cm2]/ 秤の分解能[g])が2.0×103~3.5×107[cm2/g]である〔1〕~〔3〕の何れかに記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【0018】
〔5〕該多結晶シリコン小片群のエッチング処理前後の重量を測定する秤の分解能が0.1~0.0001gである〔4〕に記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【0019】
〔6〕多結晶シリコン小片群を、通液可能な容器に収容して洗浄槽内に配置する〔1〕~〔5〕の何れかに記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【0020】
〔7〕多結晶シリコン小片群を洗浄槽内に分散して配置する〔1〕~〔6〕の何れかに記載の多結晶シリコン破砕物の製造方法。
【0021】
〔8〕シーメンス法により製造された多結晶シリコンロッドの破砕物の表面金属濃度を管理する方法であって、
多結晶シリコン破砕物を洗浄槽内でエッチングして洗浄する際、制御された形状およびサイズを有する多結晶シリコン小片群を洗浄槽内に存在させ、エッチング処理前後の該多結晶シリコン小片群の重量変化を測定し、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を管理する方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、洗浄工程において、エッチング代の測定サンプルとして、制御された形状およびサイズを有する多結晶シリコン小片群を用いることで、エッチング液の流動を妨げることなく、多結晶シリコン破砕物及び測定サンプルをそれぞれ均一かつ同程度にエッチングすることができる。このため、エッチング処理前後における測定サンプルの重量変化と多結晶シリコン破砕物のエッチング代との相関性は高い。したがって、測定サンプルの重量変化を管理することで、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を制御できる。また、多結晶シリコン破砕物のエッチング代と、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度も相関性が高い。この結果、測定サンプルの重量変化をモニターすることで、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を精度よく管理できる。
【0023】
したがって、多結晶シリコン破砕物を過剰にエッチング処理することなく、必要最小限のエッチング代で、多結晶シリコン破砕物の表面に形成された酸化膜および酸化膜に付着した金属異物を確実に除去できる。また、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を精度よく管理でき、高品質の多結晶シリコン破砕物の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において、本発明の実施形態に係る多結晶シリコン破砕物の製造方法における各工程を詳述し、その中で、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を管理する方法についても説明する。
なお、「シーメンス法により多結晶シリコンロッドを製造する工程」を「析出工程(1)」と、「多結晶シリコンロッドを破砕し、多結晶シリコン破砕物を得る工程」を「破砕工程(2)」と、「多結晶シリコン破砕物を洗浄槽内でエッチングして洗浄する工程」を「洗浄工程(3)」と記載することがある。
【0025】
析出工程(1)
析出工程(1)では、シーメンス法により多結晶シリコンロッドを製造する。
シーメンス法とは、半導体あるいは太陽光発電用ウエハの原料等として使用される多結晶シリコンを製造する方法の一つである。具体的には、ベルジャー型の反応容器内部に配置されたシリコン芯線を通電によってシリコンの析出温度に加熱する。そして、反応容器内部にトリクロロシラン(SiHCl3)やモノシラン(SiH4)等のシラン化合物のガスと水素とを供給し、化学気相析出法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させ、高純度の多結晶シリコンロッドを得る。
【0026】
このようにして得られる多結晶シリコンロッドは略円柱状であり、その直径は特に限定されないが、通常100~160mmである。また、多結晶シリコンロッドの長さも特に限定されず、通常1~2m程度である。
【0027】
破砕工程(2)
破砕工程(2)では、反応容器から取り出された多結晶シリコンロッドを破砕し、多結晶シリコン破砕物を得る。具体的には、多結晶シリコンロッドを、炭化タングステンなどの硬質金属から構成されるハンマーや、ジョークラッシャーなどにより砕き、原料多結晶シリコン塊群を得る。その後、原料多結晶シリコン塊群をさらに、硬質ポリマーや硬質金属などから構成される破砕装置により所望の粒子サイズに粉砕し、多結晶シリコン破砕物を得る。原料多結晶シリコン塊群を所望の粒子サイズに粉砕後、必要に応じ、篩やステップデッキなどの分級装置により、粒子サイズ毎に分別してもよい。
【0028】
多結晶シリコン破砕物は、その粒子サイズに応じ、ダスト、粉、チップ、ナゲット、チャンクなどと呼ばれるが、厳密な分類の基準はない。本明細書では、多結晶シリコンロッドを粉砕して得られた破砕片を「多結晶シリコン破砕物」と呼ぶ。
【0029】
洗浄工程(3)
洗浄工程(3)では、多結晶シリコン破砕物を洗浄槽内でエッチングして洗浄する。具体的には、多結晶シリコン破砕物を洗浄槽内に載置し、周知のエッチング液を用いて、多結晶シリコン破砕物の表面に形成された酸化膜及び酸化膜に付着した金属異物をエッチングにより除去する。
【0030】
エッチング液は特に限定されないが、例えば、フッ酸と硝酸の混合溶液(フッ硝酸液)が用いられる。
【0031】
金属異物は、多結晶シリコン破砕物の製造過程において使用される破砕装置や分級装置等に由来するものがほとんどである。金属異物としては、鉄、鉛、金、白金、銀、銅、クロム、タングステン、ニッケル、コバルト、亜鉛、モリブデン等の重金属や、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、バリウム等の軽金属が挙げられる。なお、多結晶シリコン破砕物の表面に形成された酸化膜には、上記金属異物の他に有機成分が付着することもある。このような有機成分も当該洗浄工程により除去できる。
【0032】
本発明においては、洗浄工程(3)にて、制御された形状およびサイズを有する多結晶シリコン小片群を洗浄漕内に存在させ、エッチング処理前後の多結晶シリコン小片群の重量変化を測定し、洗浄の進行状況を管理する。
【0033】
エッチング代の測定サンプルとして、制御された形状およびサイズを有する多結晶シリコン小片群を用いることで、エッチング液の流動を妨げずに多結晶シリコン破砕物を洗浄できる。したがって、洗浄工程において、多結晶シリコン破砕物と測定サンプルとをそれぞれ均一かつ同程度にエッチングすることができる。なお、「制御された形状およびサイズを有する多結晶シリコン小片群」を単に「多結晶シリコン小片群」または「測定サンプル」と記載することがある。
【0034】
本発明によれば、多結晶シリコン破砕物と測定サンプルとを均一かつ同程度にエッチングできる。そのため、エッチング処理前後における測定サンプルの重量変化と多結晶シリコン破砕物のエッチング代との相関性は高い。したがって、測定サンプルの重量変化を管理することで、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を制御できる。また、多結晶シリコン破砕物のエッチング代と、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度も相関性が高い。この結果、測定サンプルの重量変化をモニターすることで、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を精度よく管理できる。
【0035】
言い換えると、測定サンプルを均一にエッチングできるため、エッチング処理前後における測定サンプルの重量変化から測定サンプルのエッチング代を見積もることができる。そして、洗浄工程では多結晶シリコン破砕物と測定サンプルとを均一かつ同程度にエッチングできるため、測定サンプルのエッチング代と多結晶シリコン破砕物のエッチング代とは実質的に同量となる。したがって、エッチング処理前後における測定サンプルの重量変化を測定することで、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を管理できる。
【0036】
エッチング処理前後の多結晶シリコン小片群の重量変化は、電子天秤等により測定できる。エッチング処理前の多結晶シリコン小片群の重量とは、エッチング液に浸漬する前に測定される多結晶シリコン小片群の重量をいう。また、エッチング処理後の多結晶シリコン小片群の重量とは、エッチング処理に続く水洗後に洗浄漕内から取り出した多結晶シリコン小片群の乾燥重量をいう。乾燥は、多結晶シリコン小片群に付着した水を拭き取り、ドライヤー等の乾燥装置を用いて乾燥すればよく、減圧乾燥であってもよい。
【0037】
また、洗浄工程の管理は、エッチング処理前後の多結晶シリコン小片群の重量変化からエッチング速度を算出し、次にエッチング処理される処理時間を調節することによって、目的のエッチング代となるように制御することで行われることが好ましい。エッチング代は、目的とする多結晶シリコンの純度に応じて適宜に設定されるが、表面酸化物および付着金属不純物の除去を確実に行う観点から、除去される表面層の厚み(エッチング代)は、好ましくは3~20μm、さらに好ましくは6~15μm程度を目安とすればよい。
【0038】
エッチング速度は、エッチング処理前後における測定サンプルの重量差とそのエッチング処理に要した時間とから算出できる。エッチング速度を洗浄工程にフィードバックし、測定サンプルと多結晶シリコン破砕物とをエッチング処理する処理時間(エッチング処理時間)を調節することで、多結晶シリコン破砕物のエッチング代の管理がより正確になる。したがって、優れた表面洗浄度を有する多結晶シリコン破砕物の生産性が向上する。
【0039】
エッチング速度は特に限定されないが、エッチングにより除去される表面層の厚み基準で、好ましくは0.35~10μm/分、より好ましくは0.5~2.5μm/分である。エッチング処理時間は、所望のエッチング代を実現できる程度であればよく、特に限定されないが、好ましくは0.8~25分、より好ましくは3.5~20分である。
【0040】
多結晶シリコン小片群を構成する、個々の多結晶シリコン小片の形状は特に限定されない。本発明においては、多結晶シリコン小片群を構成する、全ての多結晶シリコン小片が略同一の形状を有することが好ましい。つまり、本発明の好ましい態様における「制御された形状を有する多結晶シリコン小片群」は、多結晶シリコン小片群を構成する、全ての多結晶シリコン小片が略同一の形状を有している。
【0041】
多結晶シリコン小片の形状としては、例えば、球体、円柱体、円錐体、角柱体、角錐体などが挙げられる。多結晶シリコン小片の製造法は特に限定はされないが、多結晶シリコンロッドの切断により得ることができる。多結晶シリコンロッドからの切り出しが容易であり、エッチング液の流動を妨げず、測定サンプルとして均一なエッチング処理がしやすいという観点から、角柱体が好ましく、角柱体の中でも立方体または直方体がより好ましく、立方体が特に好ましい。
【0042】
多結晶シリコン小片のサイズは特に限定されず、多結晶シリコン小片群を構成する、全ての多結晶シリコン小片が略同サイズであることが好ましい。言い換えると、本発明の好ましい態様における「制御されたサイズを有する多結晶シリコン小片群」は、多結晶シリコン小片群を構成する、全ての多結晶シリコン小片が略同サイズである。本発明における多結晶シリコン小片のサイズは、多結晶シリコン小片の表面積で評価できる。つまり、本発明の好ましい態様においては、多結晶シリコン小片群を構成する、個々の多結晶シリコン小片が略同一の表面積を有することが好ましい。
【0043】
洗浄工程前の多結晶シリコン小片の一つ当たりの表面積は、好ましくは5~10000mm2、より好ましくは50~4500mm2、特に好ましくは500~2000mm2である。例えば、多結晶シリコン小片の形状が立方体の場合、多結晶シリコン小片の表面積は、一辺の長さをX[mm]とすると6X2[mm2]で表される。多結晶シリコン小片の表面積の計測方法は、その形状により様々であるが、例えば形状が立方体、直方体の場合には、一辺の長さをマイクロメータ等の測定器具で計測することで算出できる。
【0044】
多結晶シリコン小片の形状が立方体または直方体の場合、洗浄工程前の多結晶シリコン小片の一辺の長さは、好ましくは1~40mm、より好ましくは3~25mm、さらに好ましくは5~20mm、特に好ましくは5~15mmである。多結晶シリコン小片が小さすぎる場合には、均一なサイズで切り出すことが難しくなり、また小片のエッジ部が過剰にエッチングされるため、多結晶シリコン小片群の重量変化と、多結晶シリコン破砕物のエッチング代との関係が整合しないことがある。また、多結晶シリコン小片が大きすぎると、エッチング液の流動を妨げることがあり、エッチングが均一に行われなくなり、やはり上記の関係が整合しないことがある。
【0045】
多結晶シリコン小片は、均一なサイズであることが好ましい。したがって、多結晶シリコン小片の重量のバラツキ(CV値)は、好ましくは1~25%、さらに好ましくは2~10%の範囲にある。
【0046】
多結晶シリコン小片群を構成する多結晶シリコン小片の個数は特に限定されず、10~200個が好ましく、50~150個がより好ましい。小片の数が過少だと、重量変化が少ないため、精度のよい測定が難しくなる。小片の数が多すぎると、シリコンおよびエッチング液が過剰に消費され、コストが増大し、またエッチング液の流動を妨げることがある。
【0047】
以下の表1に、多結晶シリコン小片のサイズ及び個数に対する、エッチング処理前後における多結晶シリコン小片群の重量変化の一例を示す。
一辺の長さが1~38mmの立方体からなる多結晶シリコン小片を想定し、多結晶シリコン小片のサイズ及び個数に対し、エッチング代が0.1μmのエッチング処理により生じる多結晶シリコン小片群の重量変化(重量差[Δmg])を算出している。なお、重量差Δmgは、小数点第2位を四捨五入している。
【0048】
【0049】
表1に示すように、1辺の長さが1mmの多結晶シリコン小片を用いる場合、エッチング代が0.1μmであると、小片の数が50個でも重量変化が小さく、小片の数が100個になると重量変化が約0.1mgとなることがわかる。したがって、表1から、測定サンプルのサイズ及び個数を調整することで、エッチング処理前後における測定サンプルの重量測定により、0.1μmのエッチングによる重量変化を検知できることが分かる。本発明においては、測定サンプルのエッチング代と多結晶シリコン破砕物のエッチング代とは実質的に同量とみなすことができるため、エッチング処理前後における多結晶シリコン小片群の重量変化により、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を管理できる。
【0050】
特に、エッチング液の流動性の観点、エッチング液の使用量の観点及び測定サンプルの重量変化をより正確に測定できるという観点からは、0.1μmのエッチングによる重量の変化を、1mg程度の重量変化によって検知できるように、多結晶シリコン小片のサイズおよび数を選定することが好ましい。重量変化が大きいと、測定精度は向上するが、シリコンおよびエッチング液が過剰に消費され、コストが増大する。したがって、0.1μmのエッチングによる重量変化が、より好ましくは0.9mg以上、さらに好ましくは0.9~45.0mg、特に好ましくは1.5~30.0mgとなる範囲で、多結晶シリコン小片のサイズおよび数を選定することが好ましい。
【0051】
また、洗浄工程前の多結晶シリコン小片群の全表面積[cm2]と多結晶シリコン小片群の重量を測定する秤の分解能[g]の比(多結晶シリコン小片群の全表面積[cm2]/ 秤の分解能[g])は、好ましくは2.0×103~3.5×107[cm2/g]、より好ましくは5.0×103~5.0×106[cm2/g]である。多結晶シリコン小片群の全表面積[cm2]とは、多結晶シリコン小片群を構成する多結晶シリコン小片の表面積の総和を意味する。また秤の分解能とは、接近した質量値の差を識別できる能力であり、最小表示/ひょう量で表わす。小さいほど分解能が高く、精度がよいことを意味する。
【0052】
洗浄工程前の多結晶シリコン小片群の全表面積[cm2]と多結晶シリコン小片群の重量を測定する秤の分解能[g]の比を上記範囲とすることで、エッチング処理前後の多結晶シリコン小片群の重量変化を精度良く測定できるため、多結晶シリコン小片群のエッチング代の管理が容易になる。その結果、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を精度よく管理できる。
【0053】
洗浄工程前の多結晶シリコン小片群の全表面積[cm2]と多結晶シリコン小片群の重量を測定する秤の分解能[g]の比を上記範囲とする場合、多結晶シリコン小片群のエッチング処理前後の重量を測定する秤の分解能は、好ましくは0.1~0.0001g、より好ましくは0.01~0.001gである。
【0054】
また、洗浄工程において、多結晶シリコン小片群を、通液可能な容器に収容して洗浄槽内に配置することが好ましい。多結晶シリコン小片群を、通液可能な容器に収容して洗浄漕内に配置することで、重量測定時の取り扱いが容易になる。また、洗浄漕内におけるエッチング液の流動性も良好に保たれる。その結果、多結晶シリコン破砕物及び多結晶シリコン小片群をより均一にエッチングできる。
【0055】
通液可能な容器は特に限定されないが、例えば、樹脂製のネットまたはカゴが挙げられる。エッチング液に対する耐性が高く、入手が容易であるという観点から、フッ素樹脂(フッ化炭素樹脂)製のネットが好ましい。
【0056】
通液可能な容器に対する多結晶シリコン小片群の充填率は特に限定されないが、50%以下であることが好ましい。充填率が50%を超えると、多結晶シリコン小片群によりエッチング液の流動が妨げられることがある。
【0057】
また、洗浄工程において、多結晶シリコン小片群を洗浄槽内に分散して配置することが好ましい。このように配置することで、洗浄漕内において平均化されたエッチング速度を算出できるため、多結晶シリコン破砕物のエッチング代を精度よく管理できる。
【0058】
なお、洗浄工程の前に、多結晶シリコン小片群の表面洗浄度を向上させてもよい。具体的には、多結晶シリコン小片群を洗浄漕内でエッチング処理し、酸化膜や酸化膜に付着した金属異物等を除去しておく。
表面洗浄度を向上させた測定サンプルによれば、洗浄工程においてシリコン表面のみの溶解による重量変化を測定できる。そのため、酸化膜や金属異物等の有無に起因したエッチング処理前後における重量変化のバラつきが抑制され、測定サンプルの重量変化による多結晶シリコン破砕物のエッチング代の管理が容易になる。
【0059】
また、洗浄工程前に、多結晶シリコン小片群のエッチング処理を行わない場合には、酸化膜等が形成された多結晶シリコン小片群を測定サンプルとして用いることになる。この場合、多結晶シリコン破砕物と測定サンプルは、その表面に酸化膜等を有するため、洗浄工程における多結晶シリコン破砕物のエッチング代と測定サンプルのエッチング代とが等しくなり、多結晶シリコン破砕物のエッチング代の管理が容易である。
【0060】
また、上記のような多結晶シリコンロッドの破砕物の表面金属濃度を管理する方法によれば、エッチング処理前後の測定サンプルの重量変化を測定することで、多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を精度よく管理できる。
【0061】
たとえば、エッチング代を大きくすることで、得られる多結晶シリコン破砕物の表面金属濃度を低くできる。したがって、本発明の好ましい態様では、Fe、Cr、Ni、Na、Zn、Al、Cu、Mg、Ti、W、K、Co及びCaなどの表面金属の合計濃度が0.250ppbw以下とすることができる。さらに好ましくは0.230ppbw以下であり、特に好ましくは0.100ppbw以下であり、最も好ましくは0.050ppbw以下の多結晶シリコン破砕物が得られる。
【0062】
また、本発明の好ましい態様では、表面のFeの濃度が0.050ppbw以下の多結晶シリコン破砕物が得られる。
本発明の好ましい態様では、表面のCuの濃度が0.005ppbw以下の多結晶シリコン破砕物が得られる。
本発明の好ましい態様では、表面のWの濃度が0.040ppbw以下の多結晶シリコン破砕物が得られる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、多結晶シリコン破砕物の表面金属汚染量は、以下のようにして求めた値である。
【0064】
1)多結晶シリコン破砕物の表面金属汚染量
下記実施例で得た多結晶シリコン破砕物40gを500mlの清浄なポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに移し、溶解液100ml(50質量%-HF:10ml、70質量%-硝酸:90ml)を加えて25℃で15分間の抽出を行った。上記ビーカー中の液分を抽出液として取り出し、また多結晶シリコン破砕物の表面を超純水100mlを用いて洗った。抽出液と洗浄液とを、清浄なポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに移し多結晶シリコン破砕物の表面抽出液とした。係る多結晶シリコン破砕物の表面抽出液を蒸発乾固させ、3.5質量%-硝酸水溶液を加え20.0ml定容化しICP―MS測定を行い、Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Fe,Ni,Co,Cu,Zn,W,Tiの各表面金属質量を測定した。この各表面金属質量の測定値を、40gで除することにより、多結晶シリコン破砕物の単位重量当たりの含有量(ppbw)として評価した。なお、ICP-MSの測定装置は、Agilent 社製、「7500 CS」を使用した。
【0065】
(実施例1)
還元反応炉内でシーメンス法により多結晶シリコンロッドを製造し、炉内に、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタを通した空気を導入した後、炉を大気開放し、前記多結晶シリコンロッドを炉外に取り出した。取り出した多結晶シリコンロッドは、打撃部の材質が、炭化タングステン/コバルト合金(炭化タングステンの含有量82質量%、コバルトの含有量18質量%)からなるハンマーで、全量の少なくとも90質量%が、長径の長さ10~120mmの範囲である破砕物であるように砕いた。
【0066】
得られた多結晶シリコン破砕物5kgを、樹脂製カゴに収容した。この樹脂製カゴにはエッチング代測定用として一辺が約7mmの立方体である多結晶シリコン50ケから成る多結晶シリコン小片群も、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製ネット内に収めた状態で収容した。なお、この多結晶シリコン小片群は、前記樹脂製カゴに収容するに先立って、その乾燥状態の総質量を事前に測定しておいた。
【0067】
上記多結晶シリコン破砕物を収容した樹脂製カゴを、50wt%弗酸と70wt%硝酸を1:8の体積比で混合したフッ硝酸水溶液(液温20℃)が収容された洗浄槽に浸漬した。一定時間保持して該多結晶シリコン破砕物の表面をエッチング後、樹脂製カゴを洗浄槽より取り出し、超純水により水洗し送風乾燥した。乾燥後、樹脂製カゴより、多結晶シリコン小片群を取り出し、その総質量を測定し、前記洗浄工程前後での重量差を求めたところ38mgであった。この洗浄工程前後での多結晶シリコン小片群の重量差と該結晶シリコン小片群の全表面積をもとに、エッチングにより除去された多結晶シリコン破砕物の表面層の厚み(エッチング代)を算出したところ、1.1μmに計算できた。
【0068】
さらに、前記樹脂製カゴより、洗浄工程を経た多結晶シリコン破砕物を取り出し、その表面金属汚染量を測定した。表面金属汚染量の測定結果を表2に示した。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、多結晶シリコン破砕物を収容した樹脂製カゴのフッ硝酸水溶液への浸漬時間を実施例1より長くし、前記多結晶シリコン小片群の洗浄工程前後での重量差から算出する、多結晶シリコン破砕物のエッチング代が3.2μmになる時間とした以外は、前記実施例1と同様の方法により、多結晶シリコン破砕物の洗浄を行った。得られた多結晶シリコン破砕物について、表面金属汚染量を測定した結果を表2に示した。
【0070】
(実施例3)
実施例2において、多結晶シリコン破砕物を収容した樹脂製カゴのフッ硝酸水溶液への浸漬時間を実施例2よりもさらに長くし、前記多結晶シリコン小片群の洗浄工程前後での重量差から算出する、多結晶シリコン破砕物のエッチング代が6.5μmになる時間とした以外は、前記実施例1と同様の方法により、多結晶シリコン破砕物の洗浄を行った。得られた多結晶シリコン破砕物について、表面金属汚染量を測定した結果を表2に示した。
【0071】