IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユミコアの特許一覧 ▶ ユミコア・コリア・リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】再充電可能な電気化学セル及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220720BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220720BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220720BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220720BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/48
H01M4/587
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019515344
(86)(22)【出願日】2017-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017072702
(87)【国際公開番号】W WO2018050585
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2019-03-18
(31)【優先権主張番号】16189482.9
(32)【優先日】2016-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブライデル
(72)【発明者】
【氏名】スタイン・プット
(72)【発明者】
【氏名】ドンジュン・イム
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ネリス
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/093246(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/102208(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/102097(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136226(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/159935(WO,A1)
【文献】特開2010-212228(JP,A)
【文献】特開2012-124122(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0064409(US,A1)
【文献】特開2007-066834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極及び正極を備える再充電可能な電気化学セルであって、前記正極は、一般式、
Li(NiMnCoAl)O2±b
を有する生成物を含み、
式中、Mは、Mg、Ti、Cr、V、及びFeの群からの1つ以上の元素を指し、
Aは、F、C、Cl、S、Zr、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、及びZnの群からの1つ以上の元素を指し、
0.9<(x+y+z+m+n+a)<1.1であり、
b<0.02であり、
0.9<p<1.1であり、
0.8≦x<0.95であり、
y>0.08であり
(y+z)≧0.09であり、
0≦m≦0.05であり、
0≦a≦0.05であり、
0≦n≦0.15であり、
前記負極は複合粒子を含み、
前記複合粒子はマトリックス材料中のシリコン系ドメインを含み、
記シリコン系ドメインのそれぞれは、
前記マトリックス材料中に埋め込まれていない、若しくは完全には埋め込まれていない、遊離シリコン系ドメインであるか、
又は前記マトリックス材料によって完全に包囲された、完全に埋め込まれているシリコン系ドメインのいずれかであり、
遊離シリコン系ドメインの割合は、前記複合粒子中の金属状態又は酸化状態のSiの総量の4重量%以下であり、
前記マトリックス材料は炭素である、電気化学セル。
【請求項2】
前記マトリックス材料は、ポリビニルアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、及びピッチの群からの生成物のうちの1つ以上の熱分解生成物である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記シリコン系ドメインは、d50が200nm以下、及びd90が1000nm以下の重量ベースのサイズ分布を有する、請求項1又はに記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記複合粒子は、3重量%未満の酸素を含有する、請求項1又はに記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記シリコン系ドメインは、シリコン系粒子である、請求項1又はに記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記シリコン系ドメインは、Si及びO以外の元素を1重量%未満含有する、請求項1又はに記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記複合粒子は、1~20マイクロメートルの平均粒径d50を有する、請求項1又はに記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記複合粒子はまた、グラファイト粒子も含有し、前記グラファイト粒子は前記マトリックス材料中に埋め込まれていない、請求項1又はに記載の電気化学セル。
【請求項9】
z<0.35である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項10】
n<0.05である、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項11】
n<0.01であり、(m+a)<0.02であり、z>0.08である、請求項1又はに記載の電気化学セル。
【請求項12】
請求項1に記載の電気化学セルを少なくとも1つ含む、再充電可能な電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能な電気化学セル、具体的にはリチウムイオン電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学活物質としてグラファイトを負極に有するリチウムイオン電気化学セルが作製されていることは知られている。正極用の活物質には多数の選択肢が存在する。
【0003】
従来は、コバルト酸リチウム(LCO)が使用され、これは非常に高いエネルギー密度を有するが、比較的高価でもあり、かつ高い充放電レートには適していない。
【0004】
代替として、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物(NMC)を用いることができ、これは低コストであり、かつNi-Mn-Coの比率を変えると、その特性を高エネルギー密度又は高許容の放電レートといった必要条件に適合させる可能性をもたらす。
【0005】
しかし、従来の負極材を備えるNMCは、LCOよりも低サイクル寿命である。サイクル寿命とは、材料が曝され得る充放電サイクル数である。加えて、ニッケル含有量を増加させ、それに応じてマンガン及びコバルトの含有量を減少させると、NMC材料のサイクル寿命は更に減少する。市販の製品としての許容度では、250サイクル後の容量保持率が80%であるサイクル寿命性能が必要である。
【0006】
エネルギー密度について言えば、シリコン系負極はグラファイト系負極に比べて格段に優れている。理論的には、純シリコンはグラファイトの容量の約10倍の容量を有する。更なる向上が依然として可能であるが、実際の電池では、このことは、電池の最終エネルギー密度では5%~30%の向上につながっている。シリコン系負極は、サイクル寿命に関する限り、及び/又は、SiOxとして知られる物質の場合も初回サイクル効率に関する限りは、依然として劣っているが、商業的に使用され始めている。
【0007】
シリコン系負極の問題は、負極上でSEI、すなわち固体電解質界面が連続的に形成されることである。SEIは電解質とリチウムとの複合反応生成物であり、負極上に厚い層として堆積する場合がある。それにより、電気化学反応へのリチウム利用可能性が損なわれ、したがって充放電サイクル当たりの容量損失であるサイクル性能が悪化する。厚いSEIは更に、電池の電気抵抗を増大させ、それにより達成可能な充放電レートが制限される場合がある。充放電サイクルごとにSEIが部分的に破壊され、新しい活物質が露出し、その結果、SEIが新たに形成される。
【0008】
正極及び負極の両方で発生する電気化学的影響ゆえに、所与の正極材及び所与の負極材の間の相互作用を予測することは困難である。電気化学セルの耐用寿命を制限する、化合物の予期せぬ腐食又は析出のどちらも、充放電中の様々な条件のせいで、容易に発生し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、最適な電気化学セル性能を得るために、どの正極材を、どのシリコン系負極材と組み合わせるかを決定することが問題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の及び他の問題を軽減するために、本発明は負極及び正極を備える再充電可能な電気化学セルに関し、ここで電気化学セルが放電状態にある場合を想定して、正極には、電気化学活物質として、一般式、
Li(NiMnCoAl)O2±b
を有する生成物を含み、
式中、Mは、Mg、Ti、Cr、V、及びFeの群からの1つ以上の元素を指し、
Aは、F、C、Cl、S、Zr、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、及びZnの群からの1つ以上の元素を指し、
0.9<(x+y+z+m+n+a)<1.1であり、
b<0.02であり、
0.9<p<1.1であり、
0.30<x<0.95であり、
(y+z)≧0.09であり、
0≦m≦0.05であり、
0≦a≦0.05であり、
0≦n≦0.15であり、
負極は電気化学的に活性な物質として複合粒子を含み、複合粒子は、マトリックス材料中のシリコン系ドメインを含み、個々のシリコン系ドメインは、マトリックス中に埋め込まれていないか若しくは完全には埋め込まれていない、遊離シリコン系ドメインであるか、又はマトリックス材料によって完全に包囲された、完全に埋め込まれたシリコン系ドメインのいずれかであり、遊離シリコン系ドメインの割合は、複合粒子中のSiの総量の4重量%以下である。
【0011】
本明細書全体にわたって、用語「シリコン」は、ゼロ価の金属状態の元素Siを指すために使用され、その酸化状態に関わらず、元素Siを指すために符号Siが用いられる。
【0012】
明確化のために、金属シリコン並びに酸化Siは両方とも、複合粒子内に同時に存在することができることに留意されたい。したがって上述のSiの総量は、その酸化状態に関わらず、元素Siの総量を意味する。
【0013】
完全を期すため、正極用の活物質の分野での慣例に即して、p、x、y、z、m、n、a、及び(2±b)はモル量を示すことに留意すべきである。
【0014】
本発明による電気化学セルは、高いエネルギー密度と良好なサイクル寿命とを兼ね備えており、それはグラファイト系負極と任意の正極とによって実現できるものよりも良好であり、シリコン系負極をコバルト含有量の高いLCO又はNMCと組み合わせて実現できるものよりも良好である。
【0015】
負極に関しては、このような複合粒子では、シリコン系ドメインを有する従来の複合粒子と比較して、望ましくないSEIを形成する傾向が顕著に減少することになり、したがってより良好なサイクル性能を有し、高い電流での使用に、より適することになる。
【0016】
理論によって束縛されるものではないが、本発明者らは、これは、Siは通常、SEI中の重要な構成成分ではないものの、電解液とシリコン系ドメインとの間に存在する可能性のある接触面が、従来の複合粒子に存在した接触面よりも小さいことに関連していると推測している。
【0017】
本発明による電気化学セルの優れた性能につながる、そのような負極材及びそのような正極材との間の相乗作用に関して、正極中に、比較的高いNi濃度の活物質、すなわち活物質中の非リチウム金属の少なくとも30モル%、しかしより望ましくは約50モル%、更により望ましくは約60モル%以上を有する活物質が存在することにより、SEIは異なる化学的組成を有し、かつより薄くなり、電気化学セルの充放電サイクル中の不可避的なシリコンの膨張に更に良く耐えることができる。それにより、負極界面は、より良好に保護され、SEIの形成はそうしない場合よりも遅くなり、リチウムの損失も低減される。
【0018】
本発明者らが考えた最も可能性の高い説明としては、正極中の高いニッケル含有量により、正極の平均的電位が低下したことである。したがって、負極が到達する電位、特に放電終了時の電位は異なるものになり得、そして異なるSEI挙動をもたらした可能性がある。加えて、高ニッケル含有の正極材は水の汚染物からプロトンを吸収する。プロトンは吸収されない場合には、電解質からのFと反応してHFを形成し、HFはシリコンを溶解し、またLiFを形成し、リチウムを使用できなくしてしまうように電池からリチウムを消費してしまうので、高ニッケル正極材によるプロトンの消費は電池にとって有益である。
【0019】
特定の実施形態では、(x+y+z+m+n+a)=1である。
【0020】
更なる特定の実施形態では、0≦a≦0.02及び/又は0≦m≦0.02である。
【0021】
特定の実施形態では、マトリックス材料は熱分解された炭素含有前駆体である。
【0022】
更に特定の実施形態では、マトリックス材料は炭素であり、ピッチの熱分解生成物である。
【0023】
遊離シリコン系ドメインは、マトリックス材料によって遮蔽されていないか又は完全には遮蔽されていないシリコン系ドメインとして定義されおり、したがって複合粒子の外側から自由に接近可能である。
【0024】
シリコン系ドメインとは、マトリックス材料とは別の境界を有する、主成分がシリコンのクラスタを意味する。このようなシリコン系ドメイン中のシリコン含有量は通常、80重量%以上、好ましくは90重量%以上である。
【0025】
一実施形態では、シリコンドメインはSi及びO以外の元素を含まない。
【0026】
実際には、このようなシリコン系ドメインは、異なる材料からなるマトリックス中の、シリコン原子を主成分とするクラスタか、又は別々のシリコン粒子のいずれかとすることができる。複数のこのようなシリコン粒子がシリコン粉末である。
【0027】
したがって後者の場合、複合粒子は、換言すると、別々に作製したシリコンナノ粉末を、別々に作製したマトリックス材料と凝集化した複合粒子である。この場合、シリコン系ドメインは、シリコンナノ粉末からの実際の別々のシリコン粒子によって作られる。
【0028】
シリコン系ドメインは、酸化シリコンの薄い表面層を有していてもよい。
【0029】
好ましくはシリコン系ドメインは、d50が200nm以下、及びd90が1000nm以下の重量ベースのサイズ分布を有し、好ましくはd50が100nm以下、及びd90が1000nm以下の重量ベースのサイズ分布を有する。
【0030】
特定の実施形態では、比d90/d50は10よりも小さく、より好ましくは7よりも小さい。
【0031】
50値とは、ドメインサイズの累積アンダーサイズ分布の50重量%に相当するシリコン系ドメインのサイズと定義される。換言すれば、例えば、シリコン系ドメインのサイズのd50が93nmである場合、検査された試料中のドメインの総重量の50%が93nmよりも小さい。類似的に、d90は、ドメインの総重量の90%が、この値と比較して小さいようなドメインサイズである。
【0032】
シリコン系ドメインが単独の遊離粒子であるか又は単独の遊離粒子であった場合、このようなサイズ分布は、これら粒子のレーザー回折により単純に測定することができる。当業者には良く知られているように、粒径を確実に決定するために、凝集体を解凝集するように特に注意が必要である。
【0033】
シリコン系ドメインの凝結体は、その合成中に形成され得る。本発明の文脈では、凝結体は、構造体が個々のドメインに分割されたとしても、部分的にのみ分割され得るような相互成長の程度を有する構造体の中で、一緒に合体したドメインのグループとして理解すべきである。
【0034】
凝結体の相互成長の程度は、そのドメインを形成する合成過程のパラメータによって影響を受け、ドメインは例えばその形成中に合体し、続いて成長して凝結体を形成し得る。したがって、凝結体を構成要素である個々のドメインに分割しようとする際に、ドメインの一部又は全てが破壊されるということが、凝結体の特徴であり得る。
【0035】
単純化のために、本発明によるドメインの定義はまた、ドメインを破壊する危険性なしに分離され得ないように融合されたドメインの凝結体を含む。
【0036】
ドメインはまた、ドメイン間に作用して凝集体を形成する、ファンデルワールス力又は他の電磁力によって凝集し得る。凝結体とは対照的に、凝集体は、本発明の文脈においては、構成要素のドメインに速やかに崩壊することができるドメイン同士の緩い関連のみを意味すると理解され、本来の意味のドメインとは考えない。
【0037】
代替として、そのようなサイズ分布は、少なくとも200個のシリコン系ドメインを測定することによって、SEM及び/又はTEM画像から光学的に測定してもよい。この方法は、シリコン系ドメインがマトリックス中に存在し、そこから分離できない場合に適切であるが、シリコン系粉末に対して使用してもよい。ドメインとは、SEM又はTEM画像から光学的に測定できる、最小の個々のドメインを意味することに留意すべきである。その時、シリコン系ドメインのサイズは、ドメインの外周上の2点間の測定可能な最大直線距離として測定される。
【0038】
このような光学的方法は、数値に基づくドメインサイズ分布を提供し、これを、良く知られた数式を介して重量に基づくサイズ分布に容易に変換することができる。
【0039】
一実施形態では、シリコン系ドメインはシリコン系粒子であり、このことは、シリコン系粒子が、複合粒子を形成する前は、マトリックスとは一緒に形成されてはいなかったためにマトリックス材料とは別々に存在していて、好ましくはSi及びO以外の元素を含まない、個別に識別可能な粒子であったことを意味し、マトリックス材料は炭素、好ましくは熱分解されたピッチである。
【0040】
このような電気化学セルは、上述の利点に加えて、追加として高い初回サイクル効率、換言すれば低い初回サイクル不可逆性を有する。これは、両方の電極の初回サイクル不可逆性が同等の範囲にあり、かつ低いことを意味する。一方の電極の初回サイクル不可逆性が他方よりもはるかに高い場合、この電極における過剰な活物質は使用される必要があり、それはセルのエネルギー密度の低下につながる。
【0041】
本発明の場合、両方の電極の初回サイクル不可逆性は一致しており、かつ低いと考えられる。
【0042】
一実施形態では、複合粒子はグラファイトをも含有しており、グラファイトはマトリックス材料中に埋め込まれていない。これにより、複合粒子の大部分の割合を占め得るグラファイト、すなわち複合粒子のシリコン充填量が大きくなってしまうグラファイトを埋め込むために、マトリックス材料を使用する必要がなくなり、これにより、電気化学セルの体積エネルギー密度が改善されることが確保される。
【0043】
一実施形態では、x>0.48、及び好ましくは、x>0.58であり、長いサイクル寿命のプラスの効果を顕著に示している。この利点は、同様に、z<0.35、好ましくは、z<0.22の場合に存在する。
【0044】
一実施形態では、n<0.02である。
【0045】
更なる一実施形態では、n<0.01、及び(m+a)<0.02、及びz>0.08、及びy>0.08である。
【0046】
更なる一実施形態では、x>0.70、及びy<0.03、及び0.02≦n≦0.11である。このような材料は、ニッケル含有量が大きく、アルミニウム含有量も極めて大きく、また上述のような負極材と組み合わせた場合に優れた電気化学セルをもたらす。
【0047】
好ましくは、優れた効果を高めるために、遊離シリコン系ドメインの割合は、複合粉末中の金属状態又は酸化状態のSiの総量に対して、3重量%未満、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1重量%未満である。
【0048】
遊離シリコン系ドメインの割合は、複合粒子の試料をアルカリ溶液中に所定時間にわたり配置し、所定時間後に発生した水素の体積を決定し、反応したシリコン1モルに対して2モルの水素が生成することに基づいて、この量の水素を発生させるために必要とされたシリコンの量を算出し、これを試料中に存在する金属状態又は酸化状態のSiの総量で割ることによって測定され得る。
【0049】
このような計算は、既知の理想気体の状態方程式に基づいて当業者が簡単に行うことができる。
【0050】
この所定時間は、複合体の一部ではないナノシリコン粉末と、アルカリ溶液の水酸化物イオンとの反応を完全に完了させるのに必要な時間であり、これは長くないことが最適である。これはもちろん、選択された温度、及びアルカリ溶液の濃度に依存することになる。これらの条件を選択することにより、全ての遊離シリコンが測定されるが、完全に埋め込まれたシリコンはマトリックス材料によって遮蔽されるため測定されない。より長時間又はより厳しい条件が選択されると、マトリックスを通るアルカリ溶液の拡散/浸透ゆえに、遊離シリコンとしての埋め込まれたシリコンの測定が不正確になり得る。
【0051】
一実施形態では、複合粉末の平均サイズと、シリコン系ドメインのd50との比は10以上、好ましくは20以上、より好ましくは40以上である。
【0052】
シリコン系ドメインは通常、実質的に球状ではあるものの、ウィスカ、ロッド、プレート、ファイバ、及び針などの任意の形状を有していてもよい。
【0053】
一実施形態では、複合粒子は2重量%~35重量%のSiを含有し、より狭い実施形態では、複合粒子は8重量%~25重量%のSiを含有する。
【0054】
上記で規定した実施形態の特性及び/又は特許請求の範囲を組み合わせて、同じく本発明の範囲内に含まれる更なる実施形態を規定してもよい。
【0055】
本発明による電気化学セルの製造及び特性評価は、次の実施例に記載されている。反例もまた、記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0056】
使用した分析方法
遊離シリコンの測定
負極活物質の遊離シリコン系ドメインの割合を測定するために、既知の総Si含有量を有する0.1g生成物を45℃の1.2g/LのKOH水溶液に入れた。ガスビュレットを用いて、48時間にわたって、発生する気体の体積を収集し測定したが、他の気体測定方法を想定してもよい。
【0057】
KOH溶液のみを含有する参考試験をも、同じ温度で行った。
【0058】
空気から吸収した気体の発生に起因すると思われる、参考試験において発生した気体の体積を、試験した生成物から発生した気体の体積から減じた。
【0059】
このように計算された気体の体積を、理想気体の状態方程式、及びシリコンとKOHとの反応が以下の反応の一方又は両方(両反応は、シリコン1モル当たり2モルに相当する水素を得る)にしたがって進むとの知識に基づいて、反応したシリコンの質量に変換した。
Si+KOH+5HO→KHSiO+2H
Si+2KOH+2HO→KSiO+2H
【0060】
遊離シリコン系ドメインの百分率を、試料中の反応したシリコンの量とSiの総量との比率として定義した。
【0061】
特定の測定条件において、0.3%の遊離シリコンが検出限界であったことに留意すべきである。この検出限界は、試料サイズを増加させることによって、及び/又は発生した気体の測定限界を低下させることによって、当業者が低下させることができる。
【0062】
酸素含有量の測定
実施例及び反例中の生成物の酸素含有量を、Leco TC600酸素-窒素分析装置を用い、以下の方法によって測定した。
【0063】
分析用生成物の試料を、閉じたスズ製カプセルの中に入れ、これをニッケルバスケットの中に入れた。このバスケットをグラファイト製るつぼに入れ、キャリアガスとしてのヘリウム中で2000℃を超えるまで加熱した。
【0064】
これにより試料は溶融し、るつぼにより酸素がグラファイトと反応して、CO気体又はCO気体になる。これらの気体を赤外測定セルの中に導く。観察されたシグナルを再計算し酸素含有量を得る。
【0065】
シリコン系ドメインサイズ分布の測定
粒径分布を、後に定義する材料P、Qに用いるシリコン粉末について、次の方法で測定した。
【0066】
0.5gのSi粉末と99.50gの純水を混合し、超音波探触子により225Wで2分間、分散させた。
【0067】
このサイズ分布を、測定中に超音波を用いるMalvern Mastersizer 2000にて測定し、Siの屈折率3.5及び吸収係数0.1を用いて、検出閾値が5~15%であることを確認した。
【0068】
負極用複合粉末及び正極用粉末の粒径の測定
直前の項におけるものよりも粗い粉末に対する粒径分布を、同一の装置上で類似の乾式方法により測定した。
【0069】
下記の測定条件を選択した:
圧縮レンジ、活性ビーム長2.4mm、測定レンジ:300RF、0.01~900μm。製造者の説明書にしたがって、試料の調製及び測定を行った。
【0070】
負極の調製
2.4重量%のNa-CMC溶液を調製し、これを一晩溶解させた。次いで、この溶液に導電性炭素であるTIMCAL Carbon Super Pを添加し、高せん断ミキサーを用いて20分間撹拌した。
【0071】
グラファイトと負極活物質との混合物を得た。500mAh/gの乾燥材料の理論的な負極可逆性容量を得るために、比を算出する。
【0072】
いったん、Na-CMC溶液中での導電性炭素の良好な分散を得たら、負極活物質を含有する混合物を添加し、再び高せん断ミキサーを用いてスラリーを30分間撹拌する。
【0073】
負極活物質を含有する混合物を90重量%、Na-CMCを4重量%、及び導電性炭素を6重量%用いて、スラリーを調製する。
【0074】
次いで、得られたスラリーを乾燥材料6.25mg/cmの充填量で銅箔上に塗布した後、70℃で2時間乾燥させることにより負極を作製した。箔の両側をコーティングし、カレンダー加工した。
【0075】
正極の調製
Na-CMC水溶液の代わりにNMP水溶液に溶解させた、PVDF系バインダを用いたこと、及び銅の代わり15μm厚のアルミニウム箔集電体を用いたことを除いて、負極と類似した方法で正極を調製した。箔の両側をコーティングし、カレンダー加工した。
【0076】
容量比1.1を得るために、負極上及び正極上の活物質の充填量を計算する。
【0077】
電気化学試験用セルの製造
幅43mm及び長さ450mmを有する正極を用いて、650mAhのパウチ型セルを作製した。正極集電体タブとして機能するアルミニウム板を正極の端部にアーク溶接した。
-負極。負極集電体タブとして機能するニッケル板を、負極の端部にアーク溶接した。
【0078】
正極シート、負極シート、及び厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgard(登録商標)2320)で作製されたセパレータシートを螺旋状に巻いて、螺旋状に巻かれた電極アセンブリとした。次いで、巻かれた電極アセンブリと電解質を、乾燥室内でアルミニウム積層パウチに入れ、その結果、4.20Vに充電したときに650mAhの設計容量を有するパウチ型リチウム電池が作製された。
【0079】
10%の炭酸フルオロエチルと、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの50/50混合液に混合した2%の炭酸ビニレンとの混合液中のLiPF6 1Mを、電解質として使用した。
【0080】
この電解液を室温で8時間にわたり含浸させた。電池をその理論容量の15%に予備充電し、室温で1日エージングを行った。次に電池を脱気して、アルミニウムパウチを密閉した。
【0081】
使用するための電池を以下のとおりに作製した:加圧下で、電池を、CCモード(定電流)にて0.2C(1C=650mA)の電流を用いて4.2Vまで、次いでCVモード(定電圧)にてC/20のカットオフ電流に到達するまで充電し、その後、CCモードにて0.5Cのレートで2.7Vのカットオフ電圧に下がるまで放電させた。
【0082】
電気化学的性能の測定
フルセルのリチウム電池を、25℃で数回、以下の条件にて充放電させ、その充放電サイクルの性能を測定する。
-CCモードにて1Cのレートで4.2Vまで、次にCVモードにてC/20に到達するまで、充電を実施する。
-次にセルを10分間休ませる。
-CCモードにて1Cのレートで、2.7Vに下がるまで放電を行う。
-次にセルを10分間休ませる。
-電池の保持容量が約80%に達するまで充放電サイクルを続けた。25サイクルごとに、CCモードにて0.2Cのレートで2.7Vに下がるまで放電を行う。
【0083】
n回目のサイクルにおける保持容量を、1回目のサイクルに対するn回目のサイクルで得られた放電容量の比として算出する。
【0084】
電池が保持容量の80%に達するまでのサイクル数をサイクル寿命として報告する。
【0085】
正極活物質の製造
5つの正極活物質を使用した。
【0086】
更に、A、B、及びCと称する材料を以下のように調製した。
【0087】
混合水酸化物前駆体を、共沈プロセスを経て調製した。2Mの総金属濃度を有する混合Ni-Co-Mn硫酸塩を、連続撹拌槽型反応器(CSTR)の中に連続的に供給した。金属硫酸塩溶液に加えて、10MのNaOH溶液及び10Mのアンモニア溶液を同時にCSTRの中に供給した。反応器の温度を加熱ジャケットにより60℃に維持した。滞留時間が6時間となるように、これら溶液の流量を質量流量計によって制御し、過剰なNaOH溶液はほとんどなく、10~15g/Lのアンモニア濃度が得られた。このような析出条件下で、10.5~11.5のpH範囲を確立した。
【0088】
混合水酸化物前駆体をCSTRの過剰分から回収した。得られた前駆体スラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄した。150℃の空気中で24時間の乾燥後、乾燥混合水酸化物前駆体を得た。
【0089】
様々な混合Ni-Co-Mn硫酸塩溶液中で、表1に示すような相対モル金属濃度を用いた。
【0090】
【表1】
【0091】
この後、この混合水酸化物前駆体を、工業グレードのLiCOと混合して、Li/(Ni+Mn+Co)のモル比=1.02とした。次いで混合物を空気雰囲気中にて950℃で20時間加熱した。加熱後、得られた生成物を粉砕してふるい分けし、約10μmのd50粒子サイズを有する生成物A、B、及びCを得た。
【0092】
生成物Dを以下の特徴は除いて、同様に調製した。
-モル比が、Ni:Co:Al=80:15:5である、混合Ni-Co-Mn溶液を用いた。
-CSTR内で、10.0~11.0の範囲のpHを確立した。
-混合水酸化物を不活性雰囲気中にて100℃で乾燥させた。
-リチウム源として、LiCOの代わりにLiOHを使用した。
-熱処理を純酸素中にて750℃で行った。
【0093】
材料A、B、C、及びDとして示されるリチウム混合金属酸化物粉末がこのようにして得られた。
【0094】
Ni、Mn、Co、Alの相対比率を測定し、混合金属硫化物溶液における値と同じであることを確認した。Li/(Ni+Mn+Co+Al)の比を測定し、全ての材料について0.99~1.01であることを確認した。Li/(Ni+Mn+Co+Al)の比率の製造中と最終生成物との間の僅かな差は、熱処理工程中でのLiのいくらかの損失による。
【0095】
更に示される第5の正極活物質の材料Eは、XD20の名称でUmicoreから市販されている、d50=15μm、d90=30μmを有するLiCoO粉末である。
【0096】
負極活物質の製造
材料P、Q、及びRとして示す、3つの負極活物質を使用した。
【0097】
材料Pを次のようにして調製した。
最初にナノシリコン粉末を次のように調製した。
ミクロンサイズのシリコン粉末を前駆体として用意した。アルゴンプラズマを用いて、60kWのラジオ周波数(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を印加した。前駆体を220g/hの割合でプラズマ中に注入し、その結果、全体的な(すなわち反応区域内における)温度が2000Kを超えた。
【0098】
この第1のプロセス工程では、前駆体は完全に気化し、続いて核形成してナノシリコン粉末になった。気体の温度を1600Kを下回るまで低下させるために、反応区域のすぐ下流でアルゴン流をクエンチガスとして使用した。このようにして金属核を形成させた。最後に、0.15モル%の酸素を含有するN/O混合物を100L/h加えることによって、100℃の温度で5分間、不動態化工程を行った。
【0099】
プラズマ用及びクエンチガス用の両方のアルゴンガス流量を調節し、d50が80nm、d90が521nmの粒子を有するナノシリコン粉末を得た。この場合には、2.5Nm/hのArをプラズマ用に使用し、10Nm/hのArをクエンチガスとして使用した。
【0100】
次いで、前述のナノシリコン粉末11.5g及び石油系ピッチ粉末24gからブレンドを作った。これをN下、450℃まで加熱し、その結果、ピッチが溶融し、60分間の待ち時間の後、分散ディスクで30分間混合した。
【0101】
このようにして得られたピッチ中のナノシリコンの懸濁液をN下で室温まで冷却して粉砕した。
【0102】
粉砕混合物8gをグラファイト7.1gとローラーミキサー上で3時間にわたって混合した後、得られた混合物を粉砕機に通して解凝集させた。これらの条件では良好な混合が得られるが、グラファイトはピッチ内には埋め込まれない。
【0103】
粉末に以下のように熱的後処理を施した。すなわち粉末を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度に2時間保ち、その後冷却した。この全てを、アルゴン雰囲気中で行った。
【0104】
焼成物を粉砕して複合粉体を形成し、400メッシュのふるい上でふるいにかけた。得られた材料を材料Pと称する。
【0105】
材料Qを次のようにして調製した。
材料Pに使用したものと同じナノシリコン粉末を用いた。このナノシリコン粉末を2.58g、及び5.42gのピッチ、及び7.1gのグラファイトの混合物を調製し、ローラーミキサー上で3時間にわたって混合した後、得られた混合物を粉砕機に通して解凝集させた。
【0106】
ピッチが溶融しないよう、前工程を室温で実施した。
【0107】
熱的後処理、粉砕、及びふるい分けを、材料Pに行ったように実施した。
【0108】
化学分析により、材料P及びQの総Si含有量は20%±0.5%と測定された。材料Pは、d50が14μm、d90が27μmであった。材料Qは、d50が17μm、d90が35μmであった。
【0109】
材料Rを次のようにして調製した。
室温において、Si源となるTEOS(テトラエチルオルソシリケート)を7.44mL、125mLの水で溶解し、その中にポリビニルピロリドン(PVP)を1g添加した。PVPは、ナノサイズのSiOxの合成において2つの役割を果たす。第1の役割はTEOSの水への溶解を助けることである。TEOSは水で直接溶解することはできず、PVPは有機基と無機基とを有する両親媒性分子なので、PVPはTEOSを水の中に取り込み、TEOSのSi(OH)x粒子への加水分解を促進し得る。第2の役割は、シラノール基(Si-OH)を水素結合させることにより、ナノサイズのSiOxの凝集を防止することである。
【0110】
溶液を200mLのオートクレーブに移し、130℃で1時間にわたり水熱処理した。室温まで冷却した後、オートクレーブ内の生成物をフラスコに移し、次にその中に、15mLの水に3.287gのスクロースを有するスクロース溶液を撹拌下で添加した。この混合溶液を回転蒸発器で還流条件下にて90℃にて乾燥させた。
【0111】
得られた粘性スラリーをオーブン内にて250℃で10時間コークス化し、次いで、5% H/Ar雰囲気中にて800℃で1時間焼成して、SiOx/C複合粉末を生成した。
【0112】
粉末は、サイズが約1μmの略球状粒子と、一定量の凝結した大きな粒子で構成された。
【0113】
得られたSiO/C複合粉末の酸素含有量は17重量%であった。シリコン含有量は37重量%であり、炭素含有量は45重量%であった。これから、SiOはxの値として約0.8を有したことが算出され得る。
【0114】
材料P、Q、及びRの遊離シリコン含有量、酸素含有量、及び電気化学的性能が上述のように測定された。結果を表2に報告する。
【0115】
【表2】
【0116】
上で説明したとおりに、表3による負及び正の活物質の組み合わせを用いてセルを調製し、電気化学的性能を上で説明したとおりに試験した。
【0117】
【表3】
【0118】
低い遊離シリコン含有量を有する負極活物質と、中濃度から高濃度のNi含有量及び/又は中濃度から低濃度のコバルト含有量を有する正極活物質との組み合わせのみにより、良好なサイクル寿命、並びに低い初回サイクル不可逆性の両方を有する電池を得ることが可能となることが理解できる。