(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】コバルト担持材料をリサイクルするためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C22B 23/02 20060101AFI20220720BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20220720BHJP
C22B 5/02 20060101ALI20220720BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220720BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20220720BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20220720BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220720BHJP
【FI】
C22B23/02 ZAB
C22B3/06
C22B5/02
C22B7/00 C
C22B15/00 105
C22B15/00
C22B23/00 102
B09B3/00
(21)【出願番号】P 2019521027
(86)(22)【出願日】2017-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2017076281
(87)【国際公開番号】W WO2018073145
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-10-05
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トマス・スエテンズ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッド・ファン・ホレベーク
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第97/020958(WO,A1)
【文献】特表2013-506048(JP,A)
【文献】特開平07-233423(JP,A)
【文献】特表2017-526820(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104674013(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/02
C22B 3/06
C22B 5/02
C22B 7/00
C22B 15/00
C22B 23/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト担持材料からのコバルトの回収のためのプロセスであって、
-転炉を提供するステップと;
-スラグ形成剤と、銅マット、銅-ニッケルマット及び不純合金の内の1以上とを炉内に装填し、酸化ガスを注入して酸化条件において装填物を製錬し、それによって、コバルト担持スラグ及び粗金属相を含む溶融浴を得るステップと;
-コバルト担持スラグから粗金属相を分離するステップと;を含み、
コバルト担持材料が炉内へ装填され
、
コバルト担持材料において存在するコバルトの90重量%超が、酸化ガスの量を調節することによって、コバルト担持スラグにおいて回収され、
コバルト担持材料が、二次電池、使用済み電池又はそれらのスクラップを含む、プロセス。
【請求項2】
スラグにおけるコバルトが、2重量%と20重量%との間に達する、請求項
1に記載のコバルト担持材料からのコバルトの回収のためのプロセス。
【請求項3】
スラグからのコバルト及び銅の回収のためのステップをさらに含む、請求項1
又は2に記載のコバルト担持材料からのコバルトの回収のためのプロセス。
【請求項4】
スラグからのコバルト及び銅の回収のための前記ステップが、酸性水性浸出操作を含む、請求項
3に記載のコバルト担持材料からのコバルトの回収のためのプロセス。
【請求項5】
スラグからのコバルト及び銅の回収のための前記ステップが、還元製錬操作を含む、請求項
3に記載のコバルト担持材料からのコバルトの回収のためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト担持材料からの、特にコバルト担持リチウムイオン二次電池からの、使用済み電池からの又はそれらのスクラップからの、コバルトの回収に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の大規模装置を使用して、コバルト担持材料を通常の供給へ追加すること及び組み込むことは、完全に専用の処理プラントに対する興味深い代替手段を提供し得る。これは、処理されることになる体積が限られるとき、コバルト担持電池に関して特に真実であり得る。
【0003】
このような大規模プロセスに関する可能な候補は、銅若しくは銅-ニッケル担持鉱石、濃縮物又はリサイクル物を処理するために用いられるような製錬所及び転炉によって形成されるタンデムである。これはより具体的には:弱酸化条件において動作し、銅マット、銅-ニッケルマット、又は不純合金、及びスラグを製造する製錬所と;酸化条件において動作し、粗金属及びスラグを製造する、マット又は不純合金の処理に関する転炉と、を含む。代表的な工業的操作では、製錬スラグは、鉱石で動作するときにかなりの量の鉄を含むであろう。転炉スラグは、かなりの量の銅及び/又はニッケルを含むであろう。スラグは通常、高い包括的な銅及びニッケル収量を確実にするために製錬所へリサイクルされるであろう。製錬スラグは、捨てられ得る、又は、例えばコンクリートにおける骨材として、再利用され得る。
【0004】
国際公開第2015/096945号は、リチウムイオン電池又はそれらのスクラップによって硫化製錬装填物の一部を置換することによってリチウムイオン電池からの銅及びニッケルの回収のためのプロセスを提案する。炭素及び金属アルミニウムにおけるそれらの高い含有量のおかげで、それらは製錬所において燃料及び還元剤の代わりになる。電池におけるニッケルは、銅と一緒に、主にマットへ現れる。両方の金属は、既知のプロセスに従って、さらなるステップにおいて回収され且つ分離され得る。スラグは、鉄を含み、ニッケルをほとんど含まない。従って、それは環境保護の再利用と互換性がある。
【0005】
上記プロセスの第1の不利な点は、それが低いコバルト含有量のみを有する材料に関して適切であることである。ニッケルとは異なり、コバルトは、金属酸化物の形において、スラグへ本質的に現れる。相の間の正確な分布は、プロセスの間の酸化還元電位に依存する。コバルトは、高い収率で好ましくは回収される高い価値のある金属である。さらに、それは特に酸化物として、有毒である。これら2つの理由のため、製錬スラグにおいて許容され得るコバルトの量は非常に低く、地方の法規制及び想定される再利用に応じて、好ましくは3000ppm又は0.3%未満にとどまるべきである。
【0006】
この不利な点は、リチウムイオン二次電池に関して特に顕著である。リチウム鉄リン酸塩(LFP)及びリチウムマンガン酸化物(LMO)系電池等のいくつかの電池がコバルトをほとんど含まない又は全く含まないのに対して、リチウムコバルト酸化物(LCO)及びリチウムニッケルマンガンコバルト(NMC)系電池等の最も人気のある電池は、それらのカソードにおいて約5から20%のコバルトを含む。
【0007】
このプロセスの第2の不利な点は、製錬スラグにおけるアルミナの量に関する。実用的な観点から、最大6%が上限として考えられる。より高い濃度が用いられ得るが、増加したスラグの融点及び粘度は、より高い作業温度を必要とする。これは、エネルギー効率及び製錬所の耐用年数を低下させる傾向にある。
【0008】
この不利な点は、リチウムイオン二次電池に関して再び特に顕著である。アルミナは実際、電極に関する支持シートとして、又は被覆材料としてのいずれかで、電池において存在するアルミニウム金属から形成される。従って、製錬装填物へ加えられ得る電池の相対量は制限される。これは、製錬スラグにおけるコバルトの希釈をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本公表の目的は、最も人気のあるリチウム二次電池等のコバルト担持材料をリサイクルするのに適切な代替プロセスを示すことである。
【0010】
コバルトは、ニッケルと異なり、転炉に直接導入されるとき、スラグへほぼ完全に現れるであろうことが現在見出されている。
【0011】
さらに、製錬所へ供給され得る電池の量を制限する製錬スラグにおける6%アルミナの制限は、転炉の作動温度が通常は製錬所のそれよりも非常に高いので、転炉スラグにおいて無視され得る。これは、供給物における、より高い相対量の電池を可能にし、且つ転炉スラグにおけるコバルトの集中を可能にする。
【0012】
製錬スラグにおいて可能であるものよりも潜在的に非常にコバルトが豊富である転炉スラグは、このように得られる。このスラグはまた、残りの銅を含む。それは製錬所へそれ自体で再循環されるべきではないが、コバルト及び銅の回収のためのプロセスを受けるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、コバルト担持材料からのコバルトの回収のためのプロセスであって、転炉を提供するステップと;スラグ形成剤と、銅マット、銅-ニッケルマット及び不純合金の内の1以上とを炉内に装填し、酸化ガスを注入して酸化条件において装填物を製錬し、それによって、コバルト担持スラグ及び粗金属相を含む溶融浴を得るステップと;コバルト担持スラグから粗金属を分離するステップと、を含み、コバルト担持材料が炉内へ装填される、プロセスが公表される。
【0014】
転炉によって、変換操作を実施するのに適した炉が意味される。これは通常、溶融物内へ、空気、濃縮空気又は純酸素等の酸化ガスの注入に関する提供を意味する。硫化硫黄は、もし存在する場合、二酸化硫黄へこれによって酸化される。マットによって、銅硫化物及びニッケル硫化物等の硫化材料が意味される。不純合金によって、銅(「黒銅(black copper)」)及び/又はニッケルを含み、且つ、鉄、アンチモン及びスズ等の他の元素も含む合金が意味される。粗金属(crude metal)によって、任意でニッケル及び他の金属性不純物を含む、粗銅(crude copper)又は粗銅(blister copper)等の金属相が意味される。スラグ形成剤は典型的には、石灰及びシリカを含む。
【0015】
コバルト担持材料を装填することは、変換操作が実際に始まる前に、或いは、この操作の間のいずれかに実施されるべきである。上記材料は、装填物の他の画分又はスラグ形成剤へ加えられ得る、又は空気圧手段によって溶融物内へ同伴し得る。
【0016】
スラグにおけるコバルトの収率は、変換操作の間に酸化ガスの量を調節することによって最適化され得る。これは、コバルト担持材料に存在する90重量%超のコバルトの回収を可能にする。
【0017】
プロセスは、二次電池、使用済み電池又はそれらのスクラップを含むコバルト担持材料からのコバルトの回収に関して特に適している。好ましい条件における作動時のスラグにおいて合理的予想され得るコバルト濃度は、2重量%と20重量%との間に達する。電池スクラップとの用語は、細断された電池、例えば細断後の、選択された電池画分、及び焙焼された電池を含む。
【0018】
さらなる実施形態では、プロセスステップは、スラグからのコバルト及び銅の回収に関して含まれる。この回収は、酸性水性浸出操作、又は還元製錬のステップを含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
銅若しくは銅-ニッケルマット又は不純合金の製造による製錬ステップ、及び、銅若しくは銅-ニッケルマット又は不純合金からの粗金属の製造による変換ステップは、別個の装置において、或いは引き続き同じ装置においてのいずれかで実施され得ることに留意すべきである。同じ装置を用いるとき、製錬ステップからのスラグは、変換ステップを開始する前にタップされることが想定される。発明によると、コバルト担持電池はその後、変換ステップにおいて供給される。さらに、以下の第2のオプションにおいて説明されるような、深還元ステップを含む銅及びコバルトを回収する任意のステップは、同じ装置を用いて再び実施され得る。
【0020】
転炉スラグからのコバルト及び銅の回収に関するいくつかの既知のオプションが存在する。第1のオプションは、湿式精錬処理であり、スラグが浸出される又は溶解される。残りの銅及びコバルトの下での異なる金属がその後、ろ過、沈殿及び溶媒抽出等の既知のプロセスに従って回収される。このような湿式精錬溶解ステップの目的は、銅及びコバルトのような有益な金属を選択的に回収することである;しかし、鉄及びアルミナの任意の共溶解は、試薬の、増加した消費(溶解及び下流の除去の両方に関して)並びにこれらの金属不純物の低い価値のために、プロセスの経済的性能に負の影響を有するであろう。
【0021】
上記スラグからのコバルト及び銅の溶解に関するいくつかの湿式精錬プロセスは、文献で記載される。Deng (Waste Manag. Res. 2007 Oct; 25(5):440-81)は、コバルト及び銅だけでなく、硫酸によって最初に焙焼されたスラグからの鉄の溶解を報告する。提案されたフローシートでは、鉄は、(結晶化後)硫酸第一鉄として評価される。同様の溶解プロセスは、Buluth (Waste Manag. Res. 2006 Apr; 24(2): 1 18-242)によって提案される。彼の研究は、通常の硫酸浸出プロセスが、200℃での硫酸焙焼後に同じスラグの水浸出よりもわずかに高い銅及びコバルトに関する溶解収率を与えることを示す。Sukla (Hydrometallurgy, Volume 16, Issue 2, June 1986, Pages 153-165)はまた、硫酸又は硫酸アンモニウムのいずれかによって焙焼されたスラグの水洗浄を記載し、すべて90%より上である銅、コバルト及び鉄の両方に関する浸出収率を報告する。
【0022】
高価な焙焼ステップ及び鉄の溶解の両方を排除するために、オートクレーブにおいて酸化性浸出を用いるいくつかのプロセスが報告される。Anand (Hydrometallurgy, Volume 10, Issue 3, June 1983, Pages 305-312)は、希硫酸を用いて圧力下で動作されるプロセスを記載し、且つ、高いコバルト及び銅収率でさえ、鉄の共溶解が避けられ得ることを示す。Perederiy (”Dissolution of Valuable Metals from Nickel Smelter Slags by Means of High Pressure Oxidative Acid Leaching”, PhD thesis by llya Perederiy, University of Toronto, 2011)は、同様の結論が得られ、十分に高い温度及び酸素圧力では、コバルト及び銅が溶解する一方、鉄が結晶性ヘマタイトとして析出され得ることを実証する。
【0023】
第2のオプションは、乾式冶金による。別途のスラグ洗浄プロセスは、例えば炭素の追加の下でアーク炉を用いて、スラグを深還元へ曝して、適用される。このようなプロセスは、”Recovery of cobalt from slag in a DC arc furnace at Chambishi, Zambia”, RT Jones et al., Copper Cobalt Nickel and Zinc Recovery conference, Victoria Falls, Zimbabwe, 16-18 July 2001において記載される。非常に還元的な条件下でのスラグ洗浄のための他の一つのプロセスは、国際公開第2016/023778号において記載される。
【0024】
表1:コバルト担持材料無しでの、製錬所上の参照装填物(比較例1)
【表1-1】
【0025】
【0026】
この比較例1は、典型的な銅-鉄硫化鉱石を処理するためのタンデムにおいて作動する製錬所及び転炉装置に関する操作条件を示す。製錬所において製造されたマットは、転炉へ供給される。この例では、電池は追加されない。製錬所は、約1175℃の平均温度で作動される。
【0027】
転炉スラグは、かなりの量の銅をいまだに含み、典型的には製錬所へリサイクルされるであろう。アルミナは適切には、製錬スラグにおいて低く、転炉スラグにおいてわずかである。製錬スラグはクリーンであり、再利用に適している。転炉は、約1300℃の平均温度で作動される。
【0028】
表2:製錬所でのコバルト担持材料を備える参照装填物(比較例2)
【表2-1】
【0029】
【0030】
比較例2は、比較例1と同様の銅-鉄硫化鉱石を処理する転炉装置及び製錬所に関する典型的な作動条件を示すが、違いは、コバルト担持リチウムイオン二次電池が製錬所へ供給されることである。製錬所において製造されたマットは、転炉へ供給される。作動温度は、実施例1による。
【0031】
製錬スラグにおけるアルミナは5%超に達し、図表は、供給における電池の量がその上限に対していることを示す。
【0032】
コバルトは、回収を特に困難に且つ高価にする濃度において、製錬スラグにおいて及び転炉スラグにおいてこのように希釈される。
【0033】
表3:転炉でのコバルト担持材料を備える参照装填物(発明による実施例)
【表3-1】
【0034】
【0035】
発明によるこの実施例は、比較例1及び2と同様の銅-鉄硫化鉱石を処理する転炉装置及び製錬所に関する典型的な作動条件を示すが、違いは、コバルト担持リチウムイオン二次電池が製錬所への代わりに転炉へ供給されることである。製錬所において製造されたマットはまた、転炉へ供給される。作動温度は、実施例1及び2による。
【0036】
アルミナは適切には、製錬スラグにおいて低いが、転炉スラグにおいて15.7%に達する。上記で説明されたように、このような高いアルミナ濃度は、転炉において主流である条件を考慮して許容可能である。
【0037】
製錬スラグはコバルトを含まず、コバルトはここで、少量の転炉スラグにおいて濃縮される。それは、環境保護の再利用に適している。転炉スラグからのコバルトの合理的な回収が、可能とされる。