(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】III族窒化物単結晶基板
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20220720BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20220720BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20220720BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20220720BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B25/20
H01L21/205
C23C16/02
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2019543746
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035204
(87)【国際公開番号】W WO2019059381
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2017182967
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】福田 真行
(72)【発明者】
【氏名】永島 徹
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023123(JP,A)
【文献】特開2003-327497(JP,A)
【文献】特開2006-332570(JP,A)
【文献】特開2006-321705(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0213576(US,A1)
【文献】国際公開第2013/094058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/20
C23C 16/02
C23C 16/34
H01L 21/203 - 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する窒化アルミニウム単結晶基板であって、
前記主面は、中心から外縁部までの距離に対し、中心からの距離が30%を超える外側
領域と、中心からの距離が30%以下である内側領域とを有し、
前記外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値ν
Bに対する、
前記内側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の最低値ν
Aと、前記平均
値ν
Bとの差ν
A-ν
Bの割合(ν
A-ν
B)/ν
Bが±0.1%以内であることを特徴
とする、窒化アルミニウム単結晶基板。
【請求項2】
前記割合(ν
A-ν
B)/ν
Bが±0.05%以内であることを特徴とする、請求項1
に記載の窒化アルミニウム単結晶基板。
【請求項3】
前記割合(ν
A-ν
B)/ν
Bが±0.03%以内であることを特徴とする、請求項1
に記載の窒化アルミニウム単結晶基板。
【請求項4】
窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法であって、
(a)主面を有する窒化アルミニウム単結晶基板であるベース基板を、1000~230
0℃の一定温度で60秒以上加熱処理する工程と、
(b)
前記(a)の工程を経ることにより、表面粗さが算術平均高さSaとして0.5n
m以下
となった前記主面上に、窒化アルミニウム単結晶層を気相成長法により成長させる
工程と、
を上記順に含むことを特徴とする、窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法であって、
(a)主面を有する窒化アルミニウム単結晶基板であるベース基板を、1000~230
0℃の一定温度で60秒以上加熱処理する工程と、
(b)前記(a)の工程の後に平坦化工程を施し、表面粗さが算術平均高さSaとして0
.5nm以下となった前記主面上に、窒化アルミニウム単結晶層を気相成長法により成長
させる工程と、
を上記順に含むことを特徴とする、窒化アルミニウム単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)において、前記加熱処理を、ハロゲンガス、ハロゲン化水素ガス、及び
/又はアンモニアガスを供給しながら行う、請求項4
又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)における加熱処理が1000~1700℃の一定温度で行われることを
特徴とする、請求項4
~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)における気相成長法がハイドライド気相エピタキシー法である、請求項
4~
7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)における加熱処理が、前記工程(b)における基板温度±100℃以内
の範囲内の一定温度で行われることを特徴とする、請求項4~
8のいずれかに記載の製造
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心部付近の結晶欠陥の発生が抑制された高品質のIII族窒化物単結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウムといったIII族窒化物半導体は任意の組成の混晶半導体をつくることが可能であり、その混晶組成によって、バンドギャップの値を変えることが可能である。したがって、III族窒化物半導体結晶を用いることにより、原理的には赤外光から紫外光までの広範囲な発光素子を作ることが可能となる。特に、近年ではアルミニウム系III族窒化物半導体(主に窒化アルミニウムガリウム混晶)を用いた発光素子の開発が精力的に進められている。
【0003】
現在、III族窒化物半導体発光素子の製造にあたっては、基板としての結晶品質、紫外光透過性、量産性やコストの観点からサファイア基板が一般的に採用されている。しかし、サファイア基板上にIII族窒化物を成長させた場合、サファイア基板と半導体積層膜を形成するIII族窒化物(例えば窒化アルミニウムガリウム等)との間の格子定数や熱膨張係数等の違いに起因して、結晶欠陥(ミスフィット転位)やクラック等が生じ、素子の発光性能を低下させる原因になる。素子の性能を高める観点からは、格子定数が半導体積層膜の格子定数に近く、且つ熱膨張係数が半導体積層膜の熱膨張係数に近い基板を採用することが望ましい。そのため、上記アルミニウム系III族窒化物半導体発光素子を製造するための基板としては、窒化アルミニウムや窒化アルミニウムガリウム等のIII族窒化物単結晶基板を用いることが好ましい。
【0004】
上記III族窒化物単結晶基板の製造方法としては、昇華(PVT:Physical Vapor Transport)法や有機金属気相成長(MOCVD:Metalorganic Chimical Vapor Deposition)、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)等の気相成長法が知られている。PVT法とは、固体のIII族窒化物を高温で昇華させ、低温のベース基板上で析出させることで単結晶を成長させる方法である。PVT法には、高い成長速度で厚膜を成長することが可能であるというメリットがある。一方、MOCVD法やHVPE法は、ベース基板上においてIII族源ガスと窒素源ガス(例えば、アンモニアガス)とを反応させることにより単結晶を製造する方法である。
【0005】
III族窒化物単結晶基板中または該基板表面への不純物元素や異物の混入または付着の問題は、気相成長法における課題である。不純物元素や異物の上記混入は、反応装置がIII族原料ガス等の雰囲気ガスに侵されることにより雰囲気中に放出される反応装置由来の不純物または異物や、反応中に副生するIII族窒化物粒子等がベース基板に付着することに起因すると考えられる。
【0006】
窒化アルミニウム単結晶中の不純物に関連して、特許文献1には、ハイドライド気相エピタキシー法により単結晶基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させることにより、炭素濃度が1×1014atoms/cm3以上3×1017atoms/cm3未満、塩素濃度が1×1014~1×1017atoms/cm3、波長265nmにおける吸収係数が40cm-1以下である窒化アルミニウム単結晶を製造する方法であって、1200℃以上1700℃以下の温度で前記基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させると共に、ハイドライド気相エピタキシー装置内の、結晶成長時において1200℃以上となる領域の露出表面を、1200℃以上1700℃以下の温度において還元分解若しくは熱分解しない材料、又は還元分解若しくは熱分解しても炭素原子を含むガスを発生させない材料からなる部材のみで構成した装置を用いることを特徴とする方法が記載されている。
【0007】
一ハロゲン化アルミニウムガスとHVPE反応装置の石英(SiO2)製壁材との反応による結晶のシリコン汚染および酸素汚染に関連して、特許文献3には、HVPE反応装置内に一つ以上の耐腐食性材料を使用し、前記耐腐食性材料を含む前記HVPE反応装置の領域はハロゲン化アルミニウムと接触する領域であることを特徴とする使用工程と、アルミニウムを含む原料を含む前記HVPE反応装置の原料ゾーンを所定の温度以上にまで加熱する工程と、前記耐腐食性材料を含む前記HVPE反応系内で前記アルミニウムを含むIII族窒化物薄膜を成長する工程とを備えることを特徴とする、ハイドライド気相エピタキシャル成長法(HVPE)を用いたアルミニウムを含むIII族窒化物薄膜の成長方法が記載されている。
【0008】
さらに近年、より高品質な単結晶が望まれている。例えば、ハロゲン化アルミニウム原料ガス中の一ハロゲン化アルミニウムガスの影響に関連して、特許文献4には、ハロゲン化アルミニウムガス及び窒素源ガスをベース基板上に供給することにより、該ベース基板上で前記ハロゲン化アルミニウムガス及び窒素源ガスを反応させる工程を含む、アルミニウム系III族窒化物結晶の製造方法において、前記ハロゲン化アルミニウムガス及び窒素源ガスの反応が、特定の式を満たすようにハロゲン系ガスが共存する条件下で行われ、前記アルミニウム系III族窒化物結晶の成長速度が10μm/h以上であることを特徴とする、アルミニウム系III族窒化物単結晶の製造方法が記載されている。
【0009】
特許文献5には、壁面を有するリアクタに供給ノズルからアルミニウム塩化物ガスを供給し、供給ノズルから窒素源ガスを供給して、アルミニウム塩化物ガスおよび窒素源ガスをリアクタ内に配置した基板上で反応させることにより、該基板上に高透明性AlN単結晶層を製造する方法において、アルミニウム塩化物ガス供給ノズルの先端からガスフローの上流側へ200mmおよび下流側へ200mmの範囲のリアクタ内の壁として定義されるフローチャネル壁面において、反応工程中にフローチャネル壁面に生成する堆積物の中のアルミニウムの量を、リアクタ内に供給したアルミニウムの全量に対して30%以下に維持し、かつフローチャネル壁温を1200℃以下に維持して、AlN単結晶層を成長させる高透明性AlN単結晶層の製造方法が記載されている。
【0010】
特許文献6には、反射X線トポグラフにより明点として観察される結晶欠陥に関連して、ベース基板を備えた反応器内において、該ベース基板上にIII族原料ガスと窒素源ガスとを供給して反応させることにより、該ベース基板上にIII族窒化物単結晶を製造する方法であって、該III族原料ガスを供給する前に、ハロゲン化水素ガス及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスを該ベース基板上に供給することを特徴とするIII族窒化物単結晶の製造方法が記載されている。
【0011】
また特許文献7には、反射X線トポグラフにより明点として観察される結晶欠陥に関連して、III族原料ガスと窒素源ガスとを反応させることにより基板上にIII族窒化物結晶を成長させる反応域を有する反応器と、前記反応域に配設され、基板を支持する支持台と、III族原料ガスを前記反応域へ供給する、III族原料ガス供給ノズルと、窒素源ガスを前記反応域へ供給する、窒素源ガス供給ノズルとを有し、前記窒素源ガス供給ノズルが、窒素源ガスと、ハロゲン化水素ガス及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスとを前記反応域へ供給する構造を有することを特徴とするIII族窒化物単結晶製造装置が記載されているとともに、(a)該III族窒化物単結晶製造装置の前記反応域にIII族原料ガス及び窒素源ガスを供給することにより、前記III族原料ガスと前記窒素源ガスとを反応させる工程を有し、前記工程(a)において、前記窒素源ガスと、ハロゲン化水素ガス及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスとを前記窒素源ガス供給ノズルから前記反応域に供給することを特徴とするIII族窒化物単結晶の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開2013/094058号パンフレット
【文献】特許6070297号
【文献】特表2009-536605号公報
【文献】特開2015-017030号公報
【文献】国際公開2014/031119号パンフレット
【文献】特開2016-216342号公報
【文献】国際公開2016/076270号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の対策により、気相成長法における不純物元素および異物の混入の抑制、ならびに副反応の抑制がある程度達成され、製造可能なIII族窒化物単結晶の品質が向上している。しかしながら、本発明者らの検討により、上記対策を講じてもなお、III族窒化物単結晶基板上に結晶欠陥と考えられる箇所が発生することを完全には抑制できないことが判明した。上記結晶欠陥は具体的には、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察において比較的大きな凸部(以下において「ヒロック」ということがある。)として観察され、且つ、反射X線トポグラフ評価において、他の領域の画像よりも明るい点(以下において「明点」ということがある。)として観察される結晶欠陥である。また、このような結晶欠陥は、結晶成長させた基板の中心部付近に存在することも判明した。このような結晶欠陥が生じた個所は、その後の研磨加工時にピット(窪み)を形成する。そのため、このような結晶欠陥を含むIII族窒化物単結晶基板上に半導体素子層を積層することにより製造されたLED等の電子デバイスにおいては、所望する性能が得られない場合や、上記結晶欠陥が電流リークパスの要因となる場合がある。従って、歩留まり良くLED等の電子デバイスを得るためには、上記結晶欠陥は極力少ない事が望ましい。
【0014】
本発明は、中心部付近の結晶欠陥の発生が抑制されたIII族窒化物単結晶基板を提供することを課題とする。また、該III族窒化物単結晶基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らが、III族窒化物単結晶基板の中心部付近に発生している上記結晶欠陥を分析した結果、結晶欠陥が発生している箇所のマイクロラマンスペクトルにおいて、上記結晶欠陥がない部分のピーク波数が理論値に近い値であったのに対し、中心部付近の結晶欠陥部分のピーク波数が、理論値から低波数側または長波数側にシフトしていることが判明した。結晶欠陥部分と他の領域とでマイクロラマンスペクトルのピーク波数がこのように異なることは、該結晶欠陥部分に応力が集中していることに起因すると考えられる。さらなる検討の結果、III族窒化物単結晶層はベース基板上に成長された後に切り出されてIII族窒化物単結晶基板を与えるところ、該ベース基板のマイクロラマンスペクトルにおいてピーク波数が理論値よりも低波数側にシフトしていること、すなわち該ベース基板に応力が残存していることが判明した。そして本発明者らは、ベース基板として応力の残存が少ない基板を用いることで、該ベース基板上に成長される単結晶層の中心部付近における結晶欠陥の発生を抑制できることを見出した。
【0016】
本発明の第1の態様は、主面を有するIII族窒化物単結晶基板であって、該主面は、中心から外縁部までの距離に対し、中心からの距離が30%を超える外側領域と、中心からの距離が30%以下の内側領域とを有し、外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値νBに対する、内側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の最低値νAと、平均値νBとの差νA-νBの割合(νA-νB)/νBが±0.1%以内であることを特徴とする、III族窒化物単結晶基板である。
【0017】
本発明の第1の態様において、割合(νA-νB)/νBが±0.05%以内であることが好ましい。
【0018】
本発明の第1の態様において、III族窒化物単結晶基板が窒化アルミニウム単結晶基板であることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の態様は、III族窒化物単結晶基板の製造方法であって、(a)主面を有するIII族窒化物単結晶基板であるベース基板を、1000~2300℃の一定温度で60秒以上加熱処理する工程と、(b)表面粗さが算術平均高さSaとして0.5nm以下である前記主面上に、III族窒化物単結晶層を気相成長法により成長させる工程と、を上記順に含むことを特徴とする、III族窒化物単結晶基板の製造方法である。
【0020】
本発明の第2の態様において、工程(a)における加熱処理を、ハロゲンガス、ハロゲン化水素ガス、及び/又はアンモニアガスを供給しながら行うことが好ましい。
【0021】
本発明の第2の態様において、ベース基板が窒化アルミニウム単結晶基板であり、工程(a)における加熱処理が1000~1700℃の一定温度で行われることが好ましい。
【0022】
本発明の第2の態様において、工程(b)における気相成長法がハイドライド気相エピタキシー法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1の態様に係るIII族窒化物単結晶基板は、内側領域と外側領域との間でマイクロラマンスペクトルのピーク波数の差が小さい点に特徴を有する。前述の通り、マイクロラマンスペクトルのピーク波数が単結晶基板中の位置によって異なることは、単結晶基板中に応力が残存していることを示す。本発明のIII族窒化物単結晶基板は、中心部付近における応力の集中によるものと考えられる結晶欠陥が少なく、該単結晶基板の全面にわたって高い均一性を有する。すなわち本発明の第1の態様によれば、中心部付近の結晶欠陥の発生が抑制されたIII族窒化物単結晶基板を提供できる。
【0024】
本発明の第2の態様に係るIII族窒化物単結晶基板の製造方法によれば、本発明の第1の態様に係るIII族窒化物単結晶基板を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板10の平面図を用いて、基板の主面が円である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。
【
図2】一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板20の平面図を用いて、基板の主面が正多角形である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。
【
図3】一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板30の平面図を用いて、基板の主面が部分的に歪んだ円である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。
【
図4】一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板40の平面図を用いて、基板の主面が部分的に歪んだ正多角形である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、図面は必ずしも正確な寸法を反映したものではない。また図では、一部の符号を省略することがある。本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。本明細書において「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。本明細書において、要素E1及びE2について「E1及び/又はE2」という表記は「E1若しくはE2、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとし、要素E1、…、EN(Nは3以上の整数)について「E1、…、EN-1、及び/又はEN」という表記は「E1、…、EN-1、若しくはEN、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとする。
【0027】
<1.III族窒化物単結晶基板>
本発明の第1の態様に係るIII族窒化物単結晶基板は、主面が、中心から外縁部までの距離に対し、中心からの距離が30%を超える外側領域と、中心からの距離が30%以下である内側領域とを有し、外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値νBに対する、内側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の最低値νAと、上記平均値νBとの差νA-νBの割合(νA-νB)/νB(以下、「波数ずれ割合」とも言う)が±0.1%以内である点に特徴を有する。上記マイクロラマンスペクトルのピーク波数のずれが生じている部位は、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察において比較的大きなヒロックとして観察され、且つ、反射X線トポグラフ評価において明点として観察される結晶欠陥である。このような結晶欠陥が生じた個所には、単結晶基板を研磨加工した際にピット(窪み)が形成しやすい。一方、本発明のIII族窒化物単結晶基板は、このような結晶欠陥の存在が抑制されているため、研磨加工時のピット形成を抑制できる。よって、該基板上にIII族窒化物半導体素子層を均一に成長させることが可能であり、該基板上に高い歩留まりでLED等の電子デバイスを作製することが可能である。
【0028】
また、マイクロラマンスペクトルのピーク波数のずれは、応力の集中を示唆するものであることから、このようなピーク波数のずれが生じている箇所においては、他の部位と比較して、機械強度が低下していると考えられる。本発明のIII族窒化物単結晶基板においては、基板の中心部近傍における応力の集中が抑制されていることから、機械強度の均一性が高められていると考えられる。
【0029】
III族窒化物単結晶基板の主面の形状が回転対称性を有する場合、主面の回転対称軸の位置が主面の中心であるものとする。回転対称性を有する形状の例としては、円および正多角形(例えば正六角形等。)を挙げることができる。一の実施形態において、III族窒化物単結晶基板の形状は、円もしくは正多角形、又は、部分的に歪んだ円もしくは部分的に歪んだ正多角形である。部分的に歪んだ円および正多角形の例としては、部分的に切り欠かれた円および正多角形を挙げることができる。主面が有する切り欠き(すなわち基板に設けられる切り欠き)の例としては、オリエンテーションフラット等を挙げることができる。
主面が部分的に歪んだ円であって回転対称性を有しない場合、元の円の中心が主面の中心であるものとする。元の円は、その外周部のうち主面の外縁部と重なる部分の総長さが最長である円として見出すことができる。なお、元の円の中心は、主面の外縁部から対抗する外縁部にかけて引いた直線のうち最も長い2本の交点として見出すことも可能である。
主面が部分的に歪んだ正多角形であって回転対称性を有しない場合、元の正多角形の中心が主面の中心であるものとする。元の正多角形は、その外周部のうち主面の外縁部と重なる部分の総長さが最長である正多角形として見出すことができる。そのような元の正多角形は、主面の形状から面積の変化が最小となる変形により得ることができる。
主面において、内側領域と外側領域との境界は、中心からの距離が中心から外縁部までの距離の30%である点が描く軌跡、すなわち、中心と外縁部とを結ぶ線分を中心の周りに一回転させたときに該線分を(中心からの距離):(外縁部からの距離)=3:7に内分する点が描く軌跡である。例えば主面が円形である場合には、主面において内側領域と外側領域は、主面の半径の30%を半径とする主面の同心円によって区分される。また例えば主面が正多角形(例えば正六角形等。)である場合には、主面において内側領域と外側領域との境界は、主面と中心を共有する、主面と相似の正多角形であり、内側領域(該境界をなす正多角形)と主面(外縁部)との相似比は(内側領域):(主面)=3:10である。
【0030】
外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値(νB)に対する、内側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の最低値(νA)と、外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値(νB)との差の割合は、次の式によって求められる。
100×(νA-νB)/νB (%)
上記式の計算に用いられるマイクロラマンスペクトルのピーク波数はいずれも、同一のモードに対応するピークの波数であるものとする。上記式において、内側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の最低値(νA)は、内側領域中の複数箇所において測定されたマイクロラマンスペクトルのピーク波数の最小値である。内側領域におけるマイクロラマンスペクトルの測定箇所は、次のように選ばれる。III族窒化物単結晶基板の主面を反射X線トポグラフにより観察し、主面の反射X線トポグラフ像中に1つ以上の結晶欠陥が観察される場合には、該結晶欠陥の位置を全て含む内側領域中の3つ以上の箇所についてマイクロラマンスペクトルの測定を行う。主面の反射X線トポグラフ像中に結晶欠陥が観察されない場合には、主面の中心および無作為に選ばれる内側領域中の2つ以上の箇所(すなわち計3つ以上の箇所)についてマイクロラマンスペクトルの測定を行う。なお主面の反射X線トポグラフ像の取得は、例えば基板の(114)面によって回折されたCuKα1線を検出することにより好ましく行うことができる。Cuターゲットを備えるX線管球であって現在商業的に入手可能なものは、主面の反射X線トポグラフ観察において十分高いX線強度を有するX線源として用いることができる。(114)面を回折面として測定された反射X線トポグラフ像においては、結晶欠陥は明点として観察される。基板の主面がc面または-c面である場合には、反射X線トポグラフ観察における回折面として(114)面を好ましく用いることができる。基板の主面がa面またはm面である場合には、反射X線トポグラフ観察における回折面として(114)面を用いてもよく、(105)面または(204)面を用いてもよい。(105)面または(214)面を回折面として測定された反射X線トポグラフ像においては結晶欠陥は暗点または明点として観察されるが、(105)面または(214)面を回折面として測定された反射X線トポグラフ像において観察される暗点または明点の位置は、(114)面を回折面として測定された反射X線トポグラフ像において観察される明点の位置と一致する。また、外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値(νB)は、外側領域中の複数箇所において測定されたマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値である。外側領域におけるマイクロラマンスペクトルの測定箇所は、主面の中心と外縁部とを結ぶ線分のうち外側領域に含まれる部分の全体にわたって等間隔で配置される3つ以上の点である。外側領域における測定点の間隔は好ましくは2mm以下であり、例えば2mmとすることができる。主面の中心と外縁部とを結ぶ当該線分(すなわち外側領域における測定点が配置される線分)は、外側領域中で該線分上にクラック、異物、及び結晶方位ずれのない範囲で無作為に選ばれる。
【0031】
図1は、一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板10(以下において「基板10」ということがある。)の平面図を用いて、基板の主面が円である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。基板10は主面11を有し、主面11は外縁部12を有する。基板10は円形の基板であり、主面11の形状は円である。主面11の形状は回転対称性を有するので、主面11の中心13の位置は、主面11の回転対称軸の位置である。主面11において、内側領域14と外側領域15との境界16は、中心13からの距離が中心13から外縁部12までの距離の30%である点18が描く軌跡、すなわち、中心13と外縁部12とを結ぶ線分17を中心13の周りに一回転させたときに線分17を(中心13からの距離):(外縁部12からの距離)=3:7に内分する点18が描く軌跡である。主面11は円形であるので、内側領域14と外側領域15との境界16は、主面11の半径の30%を半径とする主面11の同心円である。外側領域15におけるマイクロラマンスペクトルの測定箇所は、主面11の中心13と外縁部12とを結ぶ線分17のうち外側領域15に含まれる部分17aの全体にわたって等間隔に配置される。
【0032】
図2は、一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板20(以下において「基板20」ということがある。)の平面図を用いて、基板の主面が正多角形である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。基板20は主面21を有し、主面21は外縁部22を有する。基板20は正六角形の基板であり、主面21の形状は正六角形である。主面21の形状は回転対称性を有するので、主面21の中心23の位置は、主面21の回転対称軸の位置である。主面21において、内側領域24と外側領域25との境界26は、中心23からの距離が中心23から外縁部22までの距離の30%である点28が描く軌跡、すなわち、中心23と外縁部22とを結ぶ線分27を中心23の周りに一回転させたときに線分27を(中心23からの距離):(外縁部22からの距離)=3:7に内分する点28が描く軌跡である。主面21は正六角形であるので、内側領域24と外側領域25との境界26は、主面21と中心23を共有する、主面21と相似の正六角形であり、その相似比は(内側領域24):(主面21)=(境界26):(外縁部22)=3:10である。外側領域25におけるマイクロラマンスペクトルの測定箇所は、主面21の中心23と外縁部22とを結ぶ線分27のうち外側領域25に含まれる部分27aの全体にわたって等間隔に配置される。
【0033】
図3は、一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板30(以下において「基板30」ということがある。)の平面図を用いて、基板の主面が部分的に歪んだ円である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。基板30は主面31を有し、主面31は外縁部32を有する。基板30はオリエンテーションフラットを有する、すなわち一部が切り欠かれた円形の基板であり、主面31の形状は部分的に歪んだ円である。主面31の形状は円形から部分的に歪んでいるので、回転対称性を有しない。主面31の「元の円」39は、その外周部のうち主面31の外縁部32と重なる部分39aの総長さが最長となる円39として見出すことができる。元の円39の中心33が主面31の中心である。主面31において、内側領域34と外側領域35との境界36は、中心33からの距離が中心33から外縁部32までの距離の30%である点38が描く軌跡、すなわち、中心33と外縁部32とを結ぶ線分37を中心33の周りに一回転させたときに線分37を(中心33からの距離):(外縁部32からの距離)=3:7に内分する点38が描く軌跡である。境界36の形状は主面31の形状と相似であり、その相似比は(内側領域34):(主面31)=(境界36):(外縁部32)=3:10である。外側領域35におけるマイクロラマンスペクトルの測定箇所は、主面31の中心33と外縁部32とを結ぶ線分37のうち外側領域35に含まれる部分37aの全体にわたって等間隔に配置される。
【0034】
図4は、一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶基板40(以下において「基板40」ということがある。)の平面図を用いて、基板の主面が部分的に歪んだ正多角形である場合の内側領域および外側領域について説明する図である。基板40は主面41を有し、主面41は外縁部42を有する。基板40はオリエンテーションフラットを有する、すなわち一部が切り欠かれた正六角形の基板であり、主面41の形状は部分的に歪んだ正六角形である。主面41の形状は正六角形から部分的に歪んでいるので、回転対称性を有しない。主面41の「元の正六角形」49は、その外周部のうち主面41の外縁部42と重なる部分49aの総長さが最長となる正六角形49として見出すことができる。元の正六角形49の中心43が主面41の中心である。主面41において、内側領域44と外側領域45との境界46は、中心43からの距離が中心43から外縁部42までの距離の30%である点48が描く軌跡、すなわち、中心43と外縁部42とを結ぶ線分47を中心43の周りに一回転させたときに線分47を(中心43からの距離):(外縁部42からの距離)=3:7に内分する点48が描く軌跡である。境界46の形状は主面41の形状と相似であり、その相似比は(内側領域44):(主面41)=(境界46):(外縁部42)=3:10である。外側領域45におけるマイクロラマンスペクトルの測定箇所は、主面41の中心43と外縁部42とを結ぶ線分47のうち外側領域45に含まれる部分47aの全体にわたって等間隔に配置される。
【0035】
III族窒化物単結晶基板における上記「波数ずれ割合」が小さいほど、該基板は結晶欠陥が少なくより均一な基板であるといえる。上記「波数ずれ割合」は好ましくは±0.05%以内であることが好ましく、±0.03%以内であることがさらに好ましい。
【0036】
なお、マイクロラマンスペクトルの波数は、マイクロラマンスペクトル測定装置を用いて評価できる。具体的には、マイクロラマンスペクトル測定装置の励起レーザーとして波長531.98nmのレーザーを使用し、0.5cm-1以下の波数分解能を得られるようにスリット幅およびグレーティングを調整し、励起レーザー出力を10mW程度とする。そして、対物レンズ倍率を100倍として測定スポットの直径を約1μmとして励起レーザーをIII族窒化物単結晶基板の主面に照射することにより、局所的なラマンスペクトルを測定する。測定したラマンスペクトルの波数の校正は、例えばシリコン基板の代表的なラマンシフトである波数521.448cm-1を用いるか、又は励起レーザーの波数を用いて行う。波数を評価するIII族窒化物単結晶のラマンスペクトルのピークは、観測可能なピークである限りにおいて特に制限されるものではない。ウルツ鉱型III族窒化物のラマンスペクトルにおいては、A1(TO)、A1(LO)、E1(TO)、E1(LO)、E2
high、及びE2
lowの各モードに対応するピークを観測可能であるが、III族窒化物単結晶基板の主面の面内方向の応力に依存してラマンシフトの波数が変化する格子振動モードに対応するピークを評価に用いることが好ましい。そのようなピークとしては、E2
highピークを好ましく用いることができる。E2
highピークは、III族窒化物単結晶の成長面(主面)の面方位に関わらず、主面に励起レーザーを照射することにより観測可能である。またE2
highピークは、主面の面方位に関わらず、主面の面内方向の応力に依存してピーク波数が変化する。E2
highピークは、窒化ガリウムの場合には567.6cm-1に観測され、窒化アルミニウムの場合には657.4cm-1に観測される。
【0037】
III族窒化物単結晶基板を構成するIII族窒化物は特に制限されない。III族窒化物単結晶基板の例としては、AlN基板、GaN基板、AlGaN基板、InGaN基板、InAlGaN基板等が挙げられる。これらの中でも、AlN基板およびGaN基板が、該基板上にIII族窒化物半導体発光素子層を成長させる際に格子整合性が高いこと、及び、深紫外領域である波長210~365nmの光に対する透過性が高いことから好ましい。
【0038】
III族窒化物単結晶基板の直径及び厚さは、特に制限されるものではなく、所望する用途に応じて適宜決定できる。本発明のIII族窒化物単結晶基板は、基板内に残存する応力が少ないことから、直径の大きな基板とすることも可能である。本発明のIII族窒化物単結晶基板をIII族窒化物半導体発光素子を製造するための基板として用いる場合には、該基板の直径は好ましくは10~210mm、特に好ましくは20~210mm、該基板の厚さは好ましくは50~2000μm、特に好ましくは100~1000μmの範囲でそれぞれ適宜決定できる。
【0039】
III族窒化物単結晶基板の成長面(主面)の面方位は、III族窒化物単結晶が形成し得る面方位である限りにおいて特に制限されない。III族窒化物単結晶基板の成長面(主面)の面方位の例としては、+c面、-c面、m面、a面、r面等が挙げられる。
【0040】
III族窒化物単結晶基板について測定されるX線ロッキングカーブの半値幅の値が小さいほど、該基板は結晶品質が良い基板であるといえる。III族窒化物単結晶基板の成長面(主面)がc面または-c面である場合には、(0002)回折面について測定されるX線ロッキングカーブの半値幅が100秒以下であることが好ましく、特に50秒以下であることが好ましい。III族窒化物単結晶基板の成長面(主面)がa面である場合には、(11-20)回折面について測定されるX線ロッキングカーブの半値幅が100秒以下であることが好ましく、特に50秒以下であることが好ましい。III族窒化物単結晶基板の成長面(主面)がm面である場合には、(10-10)回折面について測定されるX線ロッキングカーブの半値幅が100秒以下であることが好ましく、特に50秒以下であることが好ましい。
【0041】
III族窒化物単結晶基板中の不純物濃度は、紫外光領域の光透過性に影響を及ぼすため、低いことが好ましい。具体的には、III族窒化物単結晶基板中のシリコン濃度が1×1015~1×1019cm-3、酸素濃度が1×1015~2×1019cm-3、炭素濃度が1×1014~5×1017cm-3であることが好ましく、シリコン濃度が2×1015~5×1018cm-3、酸素濃度が2×1015~1×1019cm-3、炭素濃度が2×1014~3×1017cm-3であることがより好ましく、シリコン濃度が3×1015~2×1018cm-3、酸素濃度が3×1015~2×1018cm-3、炭素濃度が3×1014~1×1017cm-3であることが特に好ましい。
【0042】
本発明のIII族窒化物単結晶基板は、研磨加工時にピット(窪み)を形成することがないため、該単結晶基板上にIII族窒化物半導体発光素子層を均一に成長させることが可能である。したがって、発光素子層を形成したウェハを製造した後、該ウェハを切断して発光ダイオードとした際、該発光ダイオードの歩留まりを高めることができる。また、III族窒化物単結晶基板において結晶欠陥に伴う歪が軽減ないし解消されているため、ウェハをチップ化する際の加工性に優れていると考えられる。
【0043】
上記本発明のIII族窒化物単結晶基板は、後述する本発明のIII族窒化物単結晶基板の製造方法により製造することができる。以下、本発明のIII族窒化物単結晶基板の製造方法について詳述する。
【0044】
<2.III族窒化物単結晶基板の製造方法>
本発明のIII族窒化物単結晶基板の製造方法は、(a)主面を有するIII族窒化物単結晶基板であるベース基板を、1000~2300℃の一定温度で60秒以上加熱処理する工程と、(b)表面粗さが算術平均高さSaとして0.5nm以下である主面上に、III族窒化物単結晶層を気相成長法により成長させる工程と、を上記順に含むことを特徴とする。
【0045】
本発明の製造方法により、中心部付近の結晶欠陥の発生が抑制された高品質のIII族窒化物単結晶が製造できる理由について詳細は不明であるが、本発明者らは以下のとおり推測している。すなわち、前記のとおり、III族窒化物単結晶基板の中心部付近に発生する結晶欠陥は、マイクロラマンスペクトルにおいて他の領域と比較して低波数側にシフトしたピーク波数を示しており、これは単結晶基板中に応力が残存していることを示すものと推測される。一方、III族窒化物単結晶基板を製造する際に用いるベース基板には歪が残存しており、該ベース基板上にIII族窒化物単結晶層を成長させる際の、成長条件や熱履歴等によって、ベース基板内に残存する応力の変化が生じ、ベース基板の中心部付近に応力が集中した箇所が発生すると考えられる。そのようなベース基板上に単結晶層を成長すると、当該箇所上に成長した部分においても同様に応力が集中して、結晶欠陥が生じるものと推測される。成長された単結晶層の、応力が集中した部分においては、マイクロラマンスペクトルのピーク波数がシフトする。このように、成長条件や熱履歴等によって、ベース基板内に残存する応力が変化する。単結晶層を成長させる前にベース基板を1000~2300℃の一定温度で60秒以上加熱処理することによって、ベース基板中の内部応力が緩和されるため、中心部付近の結晶欠陥の発生が抑制された高品質のIII族窒化物単結晶基板が製造できるものと推測される。
【0046】
なお、前述の特許文献6には、III族窒化物単結晶をベース基板上に成長させる前にサーマルクリーニングを行うことが記載されており、具体的には、ベース基板が窒化アルミニウム基板またはサファイア基板である場合、水素を含むキャリアガスを供給しながら、ベース基板を1000℃以上、III族窒化物単結晶の成長温度以下で10分間程度保持することにより、ベース基板に付着した有機物を除去するサーマルクリーニングを行い、引き続いて結晶成長を行うことが記載されている。しかしながら、かかる方法では、単結晶層の中心部付近における結晶欠陥の発生は抑制できない。その理由は次のように考えられる。サーマルクリーニングの温度が高い場合には、ベース基板が分解しやすいガス雰囲気下では、ベース基板の応力が残存している部分で分解が発生し幅数μmのピットが生成されたり、ベース基板の成長面が荒れたりするため、III族窒化物単結晶層を成長する際に表面荒れや異常成長を起こすため、単結晶層の成長過程において結晶欠陥が発生すると考えられる。またサーマルクリーニング条件が緩い(処理温度が低い、又は処理時間が短い)場合は、応力を緩和できないために、中心付近に結晶欠陥を発生する原因自体を除去できないため、単結晶層の成長過程において結晶欠陥が発生すると考えられる。また仮にベース基板中の残存応力がサーマルクリーニング処理中に緩和し得たとしても、ベース基板の成長面(主面)の表面形状は応力の緩和に伴って変化し得るため、サーマルクリーニング前にベース基板の成長面が十分平坦であったとしても応力緩和に伴って成長面の平坦度が損なわれ、該平坦度が損なわれた成長面上に単結晶層が成長されるため、単結晶層の成長過程において結晶欠陥が発生すると考えられる。
【0047】
一方、本発明の製造方法では、(a)ベース基板を1000~2300℃の一定温度で60秒以上加熱処理し、次いで、(b)ベース基板の主面の平坦度が十分高い(表面形状が算術平均高さSaとして0.5nm以下)状態で、主面上にIII族窒化物単結晶層を成長させるので、均一な結晶成長を行うことができ、中心部付近の結晶欠陥の発生が抑制された高品質のIII族窒化物単結晶基板を製造できる。
【0048】
<2.1 ベース基板>
ベース基板の材質は、ベース基板上に成長させるIII族窒化物単結晶層と同種の材質であることが好ましい。そのようなベース基板としては、AlN基板、GaN基板、AlGaN基板等のIII族窒化物単結晶基板が挙げられる。III族窒化物単結晶基板として窒化アルミニウム単結晶基板を製造する場合、均質で膜厚の大きい窒化アルミニウム単結晶層を成長させる観点から、ベース基板として窒化アルミニウム単結晶基板を用いることが好ましい。窒化アルミニウム単結晶ベース基板としては、例えばPVT法やHVPE法など、公知の方法で製造された窒化アルミニウム単結晶基板を使用することができる。ベース基板は、欠陥が少なく(例えば転位密度が106cm-2以下)、厚みが100μm以上1000μm以下であることが好ましく、また結晶成長面(主面)の平坦度が高いこと、すなわち結晶成長面(主面)の表面粗さが算術平均高さ(Sa)(ISO 25178)で0.5nm以下、より好ましくは0.3nm以下、さらに好ましくは0.2nm以下であることが好ましい。必要に応じて、ベース基板の結晶成長面(主面)の表面粗さが上記上限値以下となるように、ベース基板の結晶成長面(主面)を研磨してもよい。なお本明細書において、ベース基板主面の表面粗さ(算術平均高さSa)は、主面の中心に設定された縦2μm×横2μmの正方形の視野を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した結果に基づいて算出される値である。
【0049】
ベース基板の直径は、特に制限されるものではなく、所望する用途に応じて適宜決定すればよい。具体的には、直径は10~210mmの範囲で適宜決定すればよい。またベース基板の主面の面方位は、特に制限されるものではなく、成長させるIII族窒化物単結晶層の面方位に応じて適宜決定すればよい。ベース基板の主面の面方位の例としては、+c面、-c面、m面、a面、r面等を挙げることができる。
【0050】
ベース基板の不純物濃度は基板の種類や製造方法により大きく異なる。ベース基板の不純物濃度は用途に応じて適宜決定できる。ベース基板が窒化アルミニウム単結晶基板である場合、その不純物濃度は、シリコン濃度が1×1015~2×1019cm-3、酸素濃度が1×1015~5×1019cm-3、炭素濃度が1×1014~5×1019cm-3であることが好ましく、特にシリコン濃度が2×1015~1×1019cm-3、酸素濃度が2×1015~2×1019cm-3、炭素濃度が2×1016~1×1019cm-3であることが好ましい。不純物濃度が上記範囲内であれば、ベース基板上に成長させたIII族窒化物単結晶層の不純物濃度のベース基板の不純物濃度との間に差があっても、成長時にベース基板とIII族窒化物単結晶層との間で結晶欠陥の原因となるほどの応力は発生せず、基板中心部に欠陥は発生しない。III族窒化物単結晶層の主要な不純物であるシリコン、酸素、及び炭素の濃度の合計値と、ベース基板の主要な不純物であるシリコン、酸素、及び炭素の濃度の合計値の比(単結晶層/ベース基板)は、好ましくは0.001~100、より好ましくは0.005~20、さらに好ましくは0.01~5である。該不純物濃度の合計値の比が上記範囲内であることにより、III族窒化物単結晶層とベース基板との間での不純物濃度の差に起因する応力によってIII族窒化物単結晶層にクラックが発生する事態を抑制することが可能になる。III族窒化物単結晶層とベース基板との間での主要不純物濃度の合計値の比は、値が1に近いほど、すなわち濃度差が小さいほど、中心付近の結晶欠陥が発生するリスクが減少するが、本発明の方法を用いることにより、上記比の値が1から大きく異なる場合、すなわちIII族窒化物単結晶層とベース基板との間で不純物濃度の差が大きく、不純物濃度の差に起因する応力が発生しやすい場合においても、中心付近の結晶欠陥の発生を低減することができる。
【0051】
本発明の製造方法では、上記ベース基板上にIII族窒化物単結晶層を成長させる前に、ベース基板を、1000~2300℃の一定温度で60秒以上加熱処理する(工程(a))。以下加熱処理の詳細について説明する。
【0052】
<2.2 (a)加熱処理工程>
ベース基板の加熱処理(工程(a))は、ベース基板に残存する応力を緩和するために行うものである。ベース基板の加熱処理は、該ベース基板を、1000℃~2300℃の一定温度で60秒以上保持することによって行われる。加熱処理温度は、応力を緩和するためにはより高温であることが好ましく、上記温度範囲内で成長工程(工程(b))における基板温度を勘案して適宜設定すればよい。一の実施形態において、加熱処理温度は、1000℃以上2300℃以下であって、且つ成長工程(工程(b))における基板温度(成長温度)に近い範囲(好ましくは成長温度±100℃以内、より好ましくは成長温度±50℃以内)から選ぶことができる。
【0053】
加熱処理時の雰囲気ガスとしては、ベース基板と反応しないガスを用いることが好ましい。雰囲気ガスとしては1種のガスを単独で用いてもよく、2種以上のガスの混合ガスを用いてもよい。中でも、ベース基板に悪影響を与えないという観点からは、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス及びヘリウムガス等の希ガス類、アンモニアガス等のIII族窒化物単結晶の原料ガス、塩素ガス及び臭素ガス等のハロゲンガス、並びに、塩化水素ガス及び臭化水素ガス等のハロゲン化水素ガス、から選ばれる1種以上のガスを用いることが好ましい。工程(b)において成長されるIII族窒化物単結晶層の結晶品質を高める観点からは、加熱処理時の雰囲気ガスは、ハロゲンガス、ハロゲン化水素ガス、及び/又はアンモニアガスを含むことが好ましく、ハロゲンガス及び/又はハロゲン化水素ガスを含むことが特に好ましい。雰囲気ガスの供給量は特に制限されるものではなく、反応器の容積に応じて適宜決定することができるが、一般的には例えば50~50000sccmであることが好ましく、100~20000sccmであることがより好ましい。sccmとは1分あたりの流量を標準状態(0℃、1atm)における体積(cc)に換算した値を意味する質量流量の単位である。また、供給するガスからは、予めガス精製器を用いて、酸素、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素等の不純ガス成分を除去しておくことが好ましい。
【0054】
加熱処理前の昇温にかける時間は、ベース基板に応力やクラックが発生しないように選択することが好ましい。具体的には、1分~15時間とすることが好ましく、特に処理効率の観点からは1分~5時間とすることが好ましい。
【0055】
加熱処理装置としては、ベース基板への悪影響(例えば、基板割れ、表面の分解、不純物の付着、異物の混入等)がないIII族窒化物単結晶の製造装置を用いることが好ましい。但し、公知の特許文献のようにベース基板への影響がない部材のみで構成された装置であれば、III族窒化物単結晶の製造装置とは別の装置を加熱処理装置として用いてもよい。ベース基板を保持する構造は、ベース基板の面内で、局所的に異常加熱される箇所が存在しない構造であることが好ましい。そのような保持構造の例としては、ベース基板の裏面全体を支持台と接触させる構造が挙げられる。さらに、ベース基板を固定する場合は、ベース基板との熱膨張差の小さい素材を使用し、熱膨張差による基板割れを防ぐことが好ましい。ベース基板の表面への悪影響が想定される場合は、表面を加工することが好ましい。加熱処理装置は連続式の装置であってもよく、バッチ式の装置であってもよいが、処理効率を考慮すると、バッチ式の装置が、より好ましい。
【0056】
本発明の製造方法では、ベース基板の加熱処理(工程(a))の後、表面粗さ(算術平均高さSa)が0.5nm以下である主面上に、III族窒化物単結晶層を気相成長法により成長させる(工程(b))。工程(a)後のベース基板の主面の表面粗さ(算術平均高さSa)が0.5nm以下であれば、そのまま工程(b)を行うことができる。しかしながら、工程(a)前のベース基板の主面の表面粗さ(算術平均高さSa)が0.5nm以下であっても、工程(a)後のベース基板の主面の表面粗さ(算術平均高さSa)は0.5nmを超え得る。工程(a)を経ることによってベース基板の主面の表面粗さが増大する原因としては、加熱処理中に主面が荒らされ、表面の平滑性が損なわれること、表面に異物が付着すること、及び、ベース基板の残存応力が緩和することに伴って表面形状が変化すること、等が挙げられる。一の実施形態において、工程(a)の完了後、工程(b)を行う前に、ベース基板を常温まで降温して、ベース基板主面の表面粗さを測定することができる。降温の平均速度は例えば好ましくは1~170K/minとすることができる。測定の結果、ベース基板主面の表面粗さ(算術平均高さSa)が0.5nmを超える場合には、主面の表面粗さ(算術平均高さSa)を0.5nm以下に低減する工程(平坦化工程)を行い、該平坦化工程の後に工程(b)を行うことができる。また上記測定の結果、ベース基板主面の表面粗さ(算術平均高さSa)が0.5nm以下であった場合には、平坦化工程を行うことなく工程(b)を行うことができる。平坦化工程において主面の表面粗さ(算術平均高さSa)を0.5nm以下に低減する手段の例としては、研磨、洗浄、サーマルクリーニング等が挙げられる。これらの中でも、微細な表面制御が容易に行えるとの観点から、研磨を好ましく採用でき、化学的機械的研磨(CMP)を特に好ましく採用できる。CMPにおいては、例えばシリカスラリーやアルミナスラリー等の公知のスラリーを用いることができる。なお、同一の条件で工程(a)後の主面の表面粗さ(算術平均高さSa)が0.5nm以下になることが予めわかっている場合には、ベース基板の降温および表面粗さの測定を経ることなくそのまま工程(b)を行っても良い。なお本明細書において、ベース基板の主面の表面粗さ(算術平均高さSa)は、主面の中心に設定された縦2μm×横2μmの正方形の視野を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した結果に基づいて算出される値である。
【0057】
<2.3 (b)成長工程>
本発明のIII族窒化物単結晶基板の製造方法では、上記工程(a)を経たベース基板の主面上に気相成長法によりIII族窒化物単結晶層を成長させること(工程(b))により、III族窒化物単結晶基板を製造する。工程(b)におけるIII族窒化物単結晶の成長方法としては、公知の気相成長法を特に制限なく採用することができる。気相成長法の例としては、昇華(PVT)法、有機金属気相成長法(MOCVD)、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE)法等が挙げられる。これらの気相成長法のなかでも、結晶性の良好な単結晶を速い成膜速度で成長させることが可能な点から、PVT法またはHVPE法を用いることが好ましい。
【0058】
以下、工程(b)について、HVPE法とPVT法の例を挙げて詳述する。
【0059】
<2.3.1 HVPE法によるIII族窒化物単結晶層の成長>
HVPE法によるIII族窒化物単結晶層の成長には、横型水平フロー方式や、縦型対向フロー方式等の公知のHVPE装置を採用できる。例えば、基板の上流側から原料ガスやキャリアガスを供給し下流側から反応ガスを排気することができ、ガス供給量をマスフローコントローラーで調整でき、ベース基板を高周波加熱方式や抵抗加熱方式等で加熱することができ、装置の部材が原料ガスや反応ガスと反応せず高温で分解しない素材で覆われている装置を好ましく用いることができ、バッチ式で複数枚のベース基板上にIII族窒化物単結晶層を同時に成長することができる装置を特に好ましく用いることができる。
【0060】
<2.3.1.1 キャリアガス>
工程(b)において気相成長法としてHVPE法を採用する場合、原料ガス(III族原料ガス及び窒素源ガス)を反応器内のベース基板上へ供給するには、反応器内にキャリアガスを供給して該原料ガスの流れを形成することが好ましい。キャリアガスとしては、水素ガス及び/又は各種の不活性ガスを用いることができる。キャリアガスとしては1種のガスを単独で用いてもよく、2種以上のガスの混合ガスを用いてもよい。中でも、III族窒化物単結晶の製造に悪影響を与えないという点で、キャリアガスには、水素ガス、及び窒素ガスから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。キャリアガス供給量は、反応器の容積に応じて適宜決定することができるが、一般的には例えば50~50000sccmであることが好ましく、100~10000sccmであることがより好ましい。また、予めガス精製器を用いてキャリアガスから酸素、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素等の不純ガス成分を除去しておくことが好ましい。
【0061】
<2.3.1.2 III族原料ガス>
III族原料ガスとしては、III族窒化物単結晶を製造する際に使用される公知のIII族原料ガスを特に制限なく用いることができる。その中でも、本発明の効果が顕著となるのは、アルミニウムを含むIII族原料ガスを用いた場合である。例えば、HVPE法の場合、塩化アルミニウムガスやヨウ化アルミニウムガス等のハロゲン化アルミニウムガスが好ましく用いられる。ハロゲン化アルミニウムガスは、反応性が高く、高い成長速度を得ることができるため、本発明で使用するIII族原料ガスとして好適である。
【0062】
ハロゲン化アルミニウムガスは、例えば固体のハロゲン化アルミニウムを気化させることにより得てもよく、また例えば金属アルミニウムを塩化水素ガスや塩素ガス等の原料生成用ハロゲン系ガスと反応させることにより得てもよい。金属アルミニウムからハロゲン化アルミニウムガスを製造する場合には、ハロゲン化アルミニウムガスの原料となるアルミニウムとしては、純度が99.99%以上の固体を使用することが好ましい。固体のアルミニウムの寸法及び形状は特に制限されるものではないが、実際に使用する装置において、アルミニウムと原料生成用ハロゲン系ガスとの接触効率、ハロゲン系ガスの流通のしやすさ等を考慮すると、例えば直径0.1~10mmであって長さ0.1~10mmのペレット形状のものを好適に使用できる。
【0063】
また例えば、アルミニウムを含む有機金属ガスと原料生成用ハロゲン系ガスとの反応を利用してハロゲン化アルミニウムガスを得てもよい。
【0064】
III族原料ガスは、キャリアガスと共にベース基板上に供給することが好ましい。III族原料ガスをキャリアガスで希釈された状態で供給する場合には、III族原料ガスとキャリアガスとの混合ガス中のIII族原料ガスの濃度は例えば0.0001~10体積%とすることができる。III族原料ガスの供給量は、例えば0.005~500sccmとすることができる。
【0065】
<2.3.1.3 窒素源ガス>
HVPE法においては、ベース基板上に窒素源ガスを供給する。当該窒素源ガスとしては、窒素を含有する反応性ガスを採用でき、コストと取り扱いやすさの点でアンモニアガスを使用することが好ましい。
【0066】
窒素源ガスは、通常、キャリアガス中に適宜希釈して、ベース基板上へ供給される。窒素源ガスをキャリアガスと共にベース基板上へ供給する場合は、装置の大きさ等に依り、窒素源ガスの供給量、及びキャリアガスの供給量を決定すればよい。
【0067】
III族窒化物単結晶の製造のし易さ等を考慮すると、キャリアガスの供給量は50~10000sccmの範囲とすることが好ましく、100~5000sccmの範囲とすることがより好ましい。窒素源ガスとキャリアガスとの混合ガス中の窒素源ガスの濃度は、例えば0.001体積%以上10体積%以下とすることができる。また、窒素源ガスの供給量は0.01~1000sccmの範囲とすることが好ましい。
【0068】
<2.3.1.4 ハロゲン系ガス>
III族原料ガスと窒素源ガスとの反応を、ハロゲン化水素ガス及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスの存在下で行うことも可能である。ハロゲンガスの例としては塩素ガス、および臭素ガスが挙げられる。また、ハロゲン化水素ガスの例としては塩化水素ガス、および臭化水素ガス等が挙げられる。中でも、ガス配管に対する腐食性の低さ、取り扱いやすさ及び経済性を考慮すると、ハロゲン系ガスとして塩化水素ガスを使用することが好ましい。また、より高品質なIII族窒化物単結晶を得るために、特許文献4に記載のように、ハロゲン化アルミニウムガスにハロゲン系ガスを追加混合してなる混合ガスをIII族原料ガスとして供給することが好ましい。さらに、III族原料ガスと窒素源ガスとの混合を制御する目的で、特許文献6に記載のように、III族原料ガスを供給するノズルと窒素源ガスを供給するノズルとの間からバリアガスを供給してもよい。
【0069】
<2.3.1.5 ベース基板の温度>
結晶成長時のベース基板の温度(成長温度)としては、公知の成長温度を特に制限なく採用することができる。具体的には、成長温度は1000~1700℃であることが好ましい。中でも、ハロゲン化アルミニウムガスを使用して、アルミニウム系III族窒化物単結晶、特に、窒化アルミニウム単結晶を製造する場合には、ベース基板の温度(成長温度)は1200~1600℃であることが好ましい。この場合、ハロゲン化アルミニウムガスの供給量は、0.001~100sccmの範囲とすることが好ましい。
【0070】
<2.3.1.6 ガスの供給順序>
HVPE法においては、加熱されたベース基板上にIII族原料ガスおよび窒素源ガスの両方を供給することにより、III族窒化物単結晶層の成長が開始する。III族原料ガス、窒素源ガス、及びハロゲン系ガスのベース基板上への供給を開始する順序は特に制限されない。例えば(i)ハロゲン系ガス、窒素源ガス、III族原料ガスの順でガスの供給を開始してもよく、(ii)窒素源ガス、ハロゲン系ガス、III族原料ガスの順でガスの供給を開始してもよく、(iii)ハロゲン系ガス、III族原料ガス、窒素源ガスの順でガスの供給を開始してもよく、(iv)III族原料ガス、ハロゲン系ガス、窒素源ガスの順でガスの供給を開始してもよく、(v)窒素源ガス、III族原料ガス、ハロゲン系ガスの順でガスの供給を開始してもよく、(vi)III族原料ガス、窒素源ガス、ハロゲン系ガスの順でガスの供給を開始してもよい。また例えば、III族原料ガス、窒素源ガス、及びハロゲン系ガスのうち2種または3種のガスを混合して混合ガスとして供給してもよい。また例えば、別個のガス供給管より、III族原料ガス、窒素源ガス、及びハロゲン系ガスのうち2種または3種のガスを同時に供給開始してもよい。ただし、成長されるIII族窒化物単結晶層の結晶品質を高める観点からは、上記(i)の順序でガスの供給を開始することが好ましい。すなわち、(i-1)ハロゲン系ガスの供給を開始し、(i-2)次いで窒素源ガスの供給を開始し、(i-3)最後にIII族原料ガスの供給を開始することにより、III族窒化物単結晶層の成長を開始させることが好ましい。
【0071】
<2.3.1.7 III族窒化物単結晶の成長速度>
ハロゲン化アルミニウムガスは、アルミニウム系III族窒化物単結晶の成長速度が10μm/h以上、より好ましくは15μm/h以上となるよう、十分な量を供給することが好ましい。なお、成長速度の上限は特に制限されるものではないが、結晶性を高める観点からは例えば300μm/h以下であり得る。
【0072】
<2.3.1.8 III族窒化物単結晶層の厚み>
成長されるIII族窒化物単結晶層の厚みは、特に制限されるものではなく、製造すべきIII族窒化物単結晶基板の用途に応じて適宜決定すればよい。通常は50~2000μmである。
【0073】
<2.3.1.9 反応器内の圧力>
反応器内部の圧力は、使用する原料等に応じて適宜決定すればよい。III族窒化物単結晶の成長中、反応器内部の圧力は0.2~1.5atmの範囲とすることが好ましい。
【0074】
<2.3.1.10 III族窒化物単結晶の成長後の冷却>
III族窒化物単結晶の成長後の冷却は、ベース基板に応力やクラックが発生しない速度で行うことが好ましい。具体的には、冷却にかける時間を10分~15時間とすることが好ましく、処理効率を考慮すると、30分~6時間とすることが好ましい。
【0075】
<2.3.2 PVT法によるIII族窒化物単結晶層の成長>
工程(b)においてはPVT法によりIII族窒化物単結晶層を成長させることができる。PVT法による結晶成長の条件としては公知の条件を採用できる。PVT法において用いるルツボの材質としては例えば、タングステン、タンタル、ジルコニウム等の金属や、その炭化物である炭化タングステン、炭化タンタル、グラファイト、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等を使用することができる。一般的なルツボは外形状が円柱状に成形されており、該ルツボの内側片側面にベース基板を設置し、該ルツボ内側の相対する面にIII族窒化物原料を設置する。III族窒化物原料としてはIII族窒化物粉末やIII族窒化物焼結体を使用することもできるが、III族窒化物粉末またはIII族窒化物焼結体を1800~2500℃に加熱することにより予め酸素、シリコン、炭素等の不純物成分を低減したIII族窒化物を原料とすることが好ましい。また例えば、高純度のIII族金属を該III族金属の融点以上の温度で窒素ガスやアンモニアガス等の窒素源ガスと反応させることによりIII族窒化物原料を得ることも可能である。
【0076】
PVT法リアクタは、例えば内側管と外側管とを備える水冷石英ガラス二重管構造になっており、石英ガラス二重管の内側管の内側に前記ルツボを設置する。PVT法リアクタの内部は、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを供給できる構造になっており、III族窒化物単結晶層の成長時には窒素ガス単体または窒素ガスを含む混合ガスが供給される。また、PVT法リアクタは、系内の雰囲気の酸素ガスや水分などの酸化性成分を効率よく排気できるように真空ポンプが排気系に連結されており、適宜、系内雰囲気を置換できる構造となっている。また、リアクタ内部の圧力は1~1000Torrの範囲で適宜調整できる。さらに、PVT法リアクタ内部には塩化水素ガスや塩素ガス等のハロゲン系ガスを供給することも可能であり、リアクタ内を加熱しながら該ハロゲン系ガスをリアクタ内ガス全量を基準として0.001~10体積%の範囲で適宜供給することにより、リアクタ内の不純物成分、III族窒化物単結晶の析出物、異物等を除去しやすくすることもできる他、III族窒化物単結晶の析出駆動力を調整することもできる。
【0077】
ルツボの加熱には、高周波誘導加熱や抵抗加熱を使用することができる。高周波誘導加熱を使用する場合には高周波はルツボに直接印加することもできる他、ルツボの外周に高周波を印加可能な被加熱部を設けることにより、被加熱部で発生させた熱をルツボに伝熱させることにより間接的にルツボを加熱することも可能である。これらの加熱手法の一方のみを用いることも、両者を併用することも可能である。ルツボ内部は、III族窒化物単結晶基板の積層に適した温度分布になるように、テーパー構造や突起構造、空洞構造、湾曲構造等が適宜設けられていてもよい。
【0078】
前記III族窒化物原料を1800~2500℃に加熱することにより、III族窒化物原料を分解させてIII族窒化物原料ガスとし、該III族窒化物原料ガスをベース基板まで拡散・輸送し、ベース基板の主面上にIII族窒化物原料ガスからIII族窒化物を析出させることにより、該ベース基板上にIII族窒化物単結晶層を成長させることができる。このとき、ベース基板の温度(成長温度)は1600~2300℃の範囲であって且つ前記III族窒化物原料の加熱温度以下の温度範囲から適宜選択される。成長温度において所望の膜厚が得られるまで保持し、III族窒化物単結晶層を成長させる。その後、室温まで1~1000K/hの冷却速度で冷却して、リアクタからベース基板およびIII族窒化物単結晶層からなる積層体を取り出す。
【0079】
<2.4 製造後の処理>
得られたIII族窒化物単結晶基板は、アルミニウム系III族窒化物半導体(主に窒化アルミニウムガリウム混晶)を用いた、発光素子、ショットキーバリアダイオード、高電子移動トランジスター等の電子デバイスの製造に好適に用いることができる。得られたIII族窒化物単結晶基板は、必要に応じて、所望の厚さに研削し、次いで、研削加工により、表面を平坦化させ、その後化学的機械的研磨(CMP)で、表面の研削によって形成されたダメージ層を除去することにより、表面の平坦なIII族窒化物単結晶基板とすることができる。また、ベース基板を機械切断、レーザー切断、研削等の公知の加工方法により除去し、ベース基板上に成長されたIII族窒化物単結晶層のみからなる新たなIII族窒化物単結晶基板を得ることもできる。研削加工および化学的機械的研磨(CMP)を行うにあたっては公知の方法を採用することができる。研磨剤としては、シリカ、アルミナ、セリア、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド等の材質を含む研磨剤を用いることができる。また、研磨剤の性状は、アルカリ性、中性、または酸性のいずれでもよい。中でも、窒化アルミニウムは、窒素極性面(-c面)の耐アルカリ性が低いため、強アルカリ性の研磨剤よりも、弱アルカリ性、中性または酸性の研磨剤、具体的には、pH9以下の研磨剤を用いることが好ましい。もちろん、窒素極性面に保護膜を形成すれば強アルカリ性の研磨剤も問題なく使用できる。研磨速度を高めるために酸化剤等の添加剤を追加することも可能である。研磨パットとしては商業的に入手可能な研磨パットを使用することができ、その材質や硬度は特に制限されない。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、得られたIII族窒化物単結晶基板の評価としては、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察、反射X線トポグラフによる観察、不純物濃度測定、表面粗さ(平坦性)の測定、マイクロラマンスペクトルの測定、並びに白色干渉顕微鏡による観察を行った。評価方法の詳細は次の通りである。
【0081】
<ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察>
III族窒化物単結晶基板を、ノマルスキー微分干渉顕微鏡(ニコン社製LV150)を用いて倍率100~500倍で明視野観察した。
【0082】
<反射X線トポグラフ評価>
反射X線トポグラフの測定には高分解能薄膜X線回折装置(パナリティカル社製X‘Pert Pro MRD)を用いた。Cuターゲットを用いたX線管球に加速電圧45kV、フィラメント電流40mAの条件で特性X線(ダイレクトビーム強度:40000cps)を発生させ、ラインフォーカスでX線ビームを取り出した。発生させたX線ビームはX線ミラーモジュール(ゲーベルミラー)により高強度の平行X線ビームとした。該X線ミラーモジュールの入口には1/2°発散スリット(横制限スリット)及び50μm幅の縦制限スリットが装着されている。得られたX線ビームのビーム幅は約1.2mmであった。該X線ビームを測定ステージ上に設置した窒化アルミニウム単結晶基板に照射した。III族窒化物単結晶基板の(114)面によって回折されたCuKα1線を2次元半導体X線検出器(パナリティカル製PIXcel3D半導体検出器)により検出して反射X線トポグラフ像を取得し、得られた反射X線トポグラフ像の画像解析を行った。
【0083】
<不純物濃度の評価>
III族窒化物単結晶基板の不純物濃度、及び、ベース基板の不純物濃度については、加速電圧15kVのセシウムイオンを1次イオンに用いた2次イオン質量分析法(CAMECA社製IMS-f6)によりシリコン原子の濃度、酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度の定量分析を行った。試料中のシリコン原子の濃度、酸素原子の濃度、および炭素原子の濃度は、表面側から深さ2μmの位置の2次イオン強度を測定し、別途準備したAlN標準試料を用いた検量線に基づき定量した。
【0084】
<表面粗さの評価>
ベース基板の表面粗さは、原子間力顕微鏡(Pacific Nanotechnology社製Nano-Rシステム)を用いて、主面の中心に設定された縦2μm×横2μmの正方形の視野を観察した結果に基づいて、算術平均高さ(Sa)を算出することにより評価した。なお、主面の中心にAFM観察可能な程度を超えて大きなピット又はスクラッチが存在したために主面の中心に原子間力顕微鏡の2μm×2μm視野を設定できなかった場合には、2μm×2μmの視野は主面の中心から1mmずれた位置に設定した。
【0085】
<マイクロラマンスペクトルの波数の評価>
マイクロラマンスペクトルの波数評価には日本分光製NRD-7100マイクロラマンスペクトル測定装置を使用した。励起レーザーとして波長531.98nmのレーザーを使用し、幅10μm×長さ1000μmのスリットと、600本/mmのグレーティングを使用した。励起レーザーは出力を10.8mWとして、倍率100倍の対物レンズを用いて測定スポットの直径が約1μmとなるように集光した後、該励起レーザーを窒化アルミニウム単結晶に照射して局所的なラマンスペクトルを測定した。このときの露光時間は5秒として3回積算した。また、測定したラマンスペクトルの波数は同様の条件で測定したシリコン基板の波数521.448cm-1のラマンシフトにより校正した。測定したIII族窒化物単結晶のE2
highラマンシフトのピーク(窒化アルミニウム単結晶の場合には657.4cm-1)について、ローレンツ関数フィッティングによりピーク波数を求めた。内側領域における測定箇所は、主面の反射X線トポグラフ像中に1つ以上の明点が観察される場合には該明点を全て含む内側領域中の3つ以上の箇所とし、主面の反射X線トポグラフ像中に明点が観察されない場合には、主面の中心および無作為に選ばれる内側領域中の2つ以上の箇所(すなわち計3箇所以上)とした。外側領域における測定箇所は、主面の中心と外縁部とを結ぶ線分のうち外側領域に含まれる部分の全体にわたって等間隔(2mm)で配置した3箇所以上とした。
【0086】
外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値(νB)に対する、内側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の最低値(νA)と、外側領域におけるマイクロラマンスペクトルのピーク波数の平均値(νB)との差の割合(波数ずれ割合)は、次の式によって求めた。
100×(νA-νB)/νB (%)
【0087】
<白色干渉顕微鏡観察>
研磨加工後のピットは、白色干渉顕微鏡(Zygo社NewView7300)を用いて、倍率10倍の対物レンズで観察した。
【0088】
<実施例1>
(ベース基板の前処理)
ベース基板として、PVT法により作製した、一部がオリエンテーションフラットとして切り欠かれた直径25mmの円形の主面を有する、厚さ536μmの窒化アルミニウム単結晶基板を使用した。このベース基板のシリコン濃度は5×1018cm-3、酸素濃度は7×1018cm-3、炭素濃度は8×1018cm-3であった。このベース基板をアセトンとイソプロピルアルコールで超音波洗浄した。ベース基板の洗浄後、窒化アルミニウム単結晶基板のAl極性側(+c面)が成長面(主面)になるように、該ベース基板をHVPE装置内のBNコートグラファイト製支持台(サセプタ)上に設置した。
【0089】
(工程(a):ベース基板の加熱処理)
HVPE装置内の圧力を0.99atmに変更し、基板上に3512sccmの窒素ガス、6848sccmの水素ガス、及び10sccmのアンモニアガスを供給しながら、ベース基板を20分で室温から1475℃まで加熱した。その状態で4分30秒保持した後、80分かけてベース基板を室温まで冷却し、装置から取り出した。この時のベース基板の主面(Al面)の表面粗さ(算術平均高さSa)は、0.6nmであった。
【0090】
(ベース基板の加工)
加熱処理を行ったベース基板の表面(Al面)を#170~#3000で研削し、次いで、コロイダルシリカ等の研磨剤を用いた化学的機械研磨(CMP)研磨を行った。研磨後のベース基板の厚みは465μm、表面粗さ(算術平均高さSa)は0.08nmであった。
【0091】
(工程(b):窒化アルミニウム単結晶層の成長)
ベース基板を上記前処理と同様に洗浄し、HVPE装置内のBNコートグラファイト製支持台上に設置した。押し出しキャリアガスとしては水素と窒素を8:2の流量比(sccm/sccm)で混合した水素窒素混合キャリアガスを使用し、その総流量は6500sccmとした。また、成長中の反応器内の圧力は0.99atmに保持した。その後、ベース基板を1475℃に加熱した。
【0092】
窒素源ガス供給ノズルからアンモニアガス(窒素源ガス)40sccm、III族追加ハロゲン系ガス供給ノズルから塩化水素ガス54sccmをそれぞれ反応器内に供給した。また、塩化水素ガス(供給量18sccm)を純度99.99%以上の金属アルミニウムと反応させることにより塩化アルミニウムガス(III族原料ガス)を生成して、該塩化アルミニウムガスをIII族原料ガス供給ノズルより反応器内に供給した。このようにしてIII族原料ガス、窒素源ガス、及び塩化水素ガスをベース基板上に供給して、ベース基板の主面上にHVPE法により窒化アルミニウム単結晶層を約300μm成長させた。窒化アルミニウム単結晶層の成長後、アンモニアガス、塩化水素ガス、及び塩化アルミニウムガスの供給を停止して、基板を室温まで冷却した後、窒化アルミニウム単結晶基板を取り出した。
【0093】
得られた窒化アルミニウム単結晶基板の窒化アルミニウム単結晶層について上記マイクロラマンスペクトルのピーク波数の波数ずれ割合を測定した結果、-0.03%であった。窒化アルミニウム単結晶層表面のノマルスキー微分干渉顕微鏡観察において、内側領域にヒロックは観察されなかった。また窒化アルミニウム単結晶層の反射X線トポグラフ像において、内側領域に明点は観察されなかった。
【0094】
(窒化アルミニウム単結晶基板の研磨)
得られた窒化アルミニウム単結晶基板の窒化アルミニウム単結晶層表面(Al面)を、ベース基板の加工と同様の条件で加工した。また裏面(ベース基板N面)も、研削による平坦面出しとCMP研磨を行うことにより、鏡面状態に仕上げた。加工後の窒化アルミニウム単結晶基板について白色干渉顕微鏡観察を行ったところ、ピットは観察されなかった。
【0095】
(窒化アルミニウム単結晶層の不純物濃度の評価)
得られたIII族窒化物単結晶基板の窒化アルミニウム単結晶層のシリコン濃度は1.3×1017cm-3、酸素濃度は5.5×1017cm-3、炭素濃度は8×1015cm-3であった。ベース基板と得られた窒化アルミニウム単結晶層とのシリコン濃度、酸素濃度、炭素濃度の合計値(6.9×1017cm-3)の比(=単結晶層/ベース基板)は0.03であった。
【0096】
<実施例2~13、及び比較例1~5>
表1に示す条件にてベース基板の加熱処理を行った以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム単結晶基板を製造した。ただし、実施例5及び6の工程(b)においては、塩化水素ガス、アンモニアガス、塩化アルミニウムガスの順にガスの供給を開始した。結果を表2に示す。実施例1~7、9~13では、いずれも、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察において基板(窒化アルミニウム単結晶層)の内側領域にヒロックが観測されず、反射X線トポグラフ像の画像解析において基板(窒化アルミニウム単結晶層)の内側領域に明点が観測されず(又は観測されても不明瞭な状態であり)、マイクロラマンスペクトルのピーク波数が最低値を示したのはいずれも基板の中心であり、研磨後にピットは観察されなかった。実施例8では、基板の内側領域において、非常に小さなサイズながら、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察によりヒロックが、及び、反射X線トポグラフ像の画像解析により明点が、それぞれ観測された。実施例8において、マイクロラマンスペクトルのピーク波数が最低値を示したのは基板の中心であり、研磨後にピットは観察されなかった。
【0097】
比較例1~5においてはいずれも、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察におけるヒロック、及び反射X線トポグラフの画像解析における明点が、基板の内側領域の同一箇所(すなわち中心欠陥部)に観測された。マイクロラマンスペクトルのピーク波数は、上記中心欠陥部において最低値を示した。研磨後に、ヒロック及び明点が観測された中心欠陥部でピットが観察された。
【0098】
【0099】
【0100】
<実施例14>
ベース基板として、PVT法により作製した直径50.8mm、厚さ580μmの窒化アルミニウム単結晶基板を使用した。実施例1と同じ条件でベース基板を洗浄した。その後、窒化アルミニウム単結晶基板のAl極性側が上面となるようにベース基板を加熱処理装置内のBNコートグラファイト製サセプタ上に設置した。加熱処理装置の圧力を1.2atmに保持しながら加熱処理装置内に5000sccmの窒素ガスを供給し、ベース基板を20分で1800℃に加熱した。その状態で20分間保持した後、30分かけてベース基板を冷却し、ベース基板を装置から取り出した。ベース基板の主面(Al極性側)の表面粗さ(算術平均高さSa)を測定したところ0.62nmであった。そこで、ベース基板の主面(Al極性側表面)をアルミナスラリーを用いて化学的機械研磨(CMP)することで、主面の表面粗さ(算術平均高さSa)を0.15nmとした。このとき、ベース基板の厚みは565μmであった。
【0101】
次いで、ベース基板をタングステン製のルツボ内に設置し、ルツボ内のベース基板に相対する位置には予め2200℃で加熱処理を行って不純物を低減させた窒化アルミニウム原料を設置した。すなわち、単一のルツボ内の相対する位置に、ベース基板とIII族窒化物原料とを配置した。次いで、タングステンルツボを水冷石英ガラス二重管からなるPVT法リアクタの内部に設置し、リアクタ内の残留酸素成分と残留水分を除去するため、系内を5Torr以下に減圧した後、露点-110℃以下に管理した窒素ガスを充填して系内圧力を760Torrとした。減圧と窒素ガス充填を3回繰り返した後、圧力コントローラを用いて系内圧力を800Torrで一定になるように制御した。次いで、高周波誘導加熱装置を用いてタングステンルツボに高周波を印加することにより加熱を開始した。ベース基板の温度よりも窒化アルミニウム原料の温度が50℃低い状態を保ちながらベース基板の温度を1850℃に昇温した後、ベース基板の温度を1850℃に保持したまま窒化アルミニウム原料側の温度を2100℃に1時間かけて昇温し、窒化アルミニウム原料の分解を促進するとともに、ベース基板上への窒化アルミニウム単結晶層の成長を開始した。ベース基板および窒化アルミニウム原料の温度を一定に保ちながら48時間保持することにより、ベース基板上に最大直径56mm、厚さ8mmの単結晶窒化アルミニウム層を成長させた。
【0102】
ベース基板の不純物濃度を二次イオン質量分析により測定したところ、シリコン濃度は6×1018cm-3、酸素濃度は1×1019cm-3、炭素濃度は1×1019cm-3であり、主要不純物の濃度の合計は2.6×1019cm-3であった。一方、得られた窒化アルミニウム単結晶層の不純物濃度を同様に測定したところ、1×1017cm-3、酸素濃度は2×1017cm-3、炭素濃度は8×1016cm-3であり、主要不純物の濃度の合計は3.8×1017cm-3であった。ベース基板とIII族窒化物単結晶層の主要不純物の合計濃度の比(=III族窒化物単結晶層/ベース基板)は0.02であった。
【0103】
得られた窒化アルミニウム単結晶層をノマルスキー微分干渉顕微鏡で観察したところ、基板の中心から2.8mm(中心から外縁部までの距離の11.0%)離れた位置に極低いヒロックが観察された。また、窒化アルミニウム単結晶の(114)回折面の反射X線トポグラフ像を取得し画像処理を行ったところ、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察によりヒロックが観られた位置に明点が観察されたが、該明点は不明瞭であった。窒化アルミニウム単結晶層のマイクロラマンスペクトルによりE2
highピークの波数ずれ割合を解析したところ-0.03%であった。研磨後にピットは観察されなかった。
【0104】
<比較例6>
ベース基板を加熱処理しなかった以外は実施例12と同様にしてIII族窒化物単結晶基板を製造した。得られた窒化アルミニウム単結晶層をノマルスキー微分干渉顕微鏡で観察したところ、基板の中心から1.5mm(中心から外縁部までの距離の6%)離れた位置にヒロックが観察された。また、窒化アルミニウム単結晶全面の(114)回折面の反射X線トポグラフ像を取得し画像処理を行ったところ、ノマルスキー微分干渉顕微鏡観察によりヒロックが観られた位置に明点が明瞭に観察された。窒化アルミニウム単結晶層のマイクロラマンスペクトルのE2
highピーク波数ずれ割合を評価したところ、-0.29%であった。研磨後に、ヒロック及び明点が観測された中心欠陥部でピットが観察された。
【符号の説明】
【0105】
10、20、30、40 III族窒化物単結晶基板
11、21、31、41 主面
12、22、32、42 外縁部
13、23、33、43 中心
14、24、34、44 内側領域
15、25、35、45 外側領域
16、26、36、46 (内側領域と外側領域との)境界
17、27、37、47 (中心と外縁部とを結ぶ)線分
18、28、38、48 内分点
39 元の円
49 元の正六角形