(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物、これを含む硬化性樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 61/02 20060101AFI20220721BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20220721BHJP
C07C 43/215 20060101ALI20220721BHJP
C08F 12/34 20060101ALI20220721BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20220721BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C08G61/02
B32B15/092
C07C43/215 CSP
C08F12/34
C08G59/62
H05K1/03 610L
(21)【出願番号】P 2017035835
(22)【出願日】2017-02-28
【審査請求日】2019-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2016038809
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】多田 若菜
(72)【発明者】
【氏名】岩下 新一
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189165(JP,A)
【文献】特開2015-030776(JP,A)
【文献】特開2015-067797(JP,A)
【文献】特開2015-189926(JP,A)
【文献】特開2004-331774(JP,A)
【文献】特開2005-314556(JP,A)
【文献】特開2003-306591(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103926(WO,A1)
【文献】特表平01-503238(JP,A)
【文献】特開平09-031006(JP,A)
【文献】特開2004-323730(JP,A)
【文献】特開2011-124076(JP,A)
【文献】国際公開第2002/083610(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 2/00- 85/00
C08F 2/00-299/08
C07C 1/00-409/44
B32B 1/00- 43/00
H05K 1/00- 1/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物。
【化1】
ここで、R
1はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アリル基、ま
たは炭素数6~30のアリール基を表し、当該炭素数6~30のアリール基は、無置換、
又は置換基として炭素数1~6のアルキル基を有しても良い。Ar
1は炭素数6~50の
2価の芳香族炭化水素基を表し、当該2価の芳香族炭化水素基は、無置換、又は置換基と
してアルキル基、アルコキシ基又はフェニル基を有しても良い。R
2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12のアルキル基、またはビニルベンジル基を表す。但し、R
2におけるビニルベンジル基の割合は10モル%以上60モル%未満であり、水素原子の割合は40モル%以上である。nは平均値で1~20の範囲であり、mは1~6の数であり、rは1~3の数である。m+rは、繰返し構造単位のナフタレン環においては6を超えず、末端ナフタレン環においては7を超えない。
【請求項2】
ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物が、式(1)におけるR
2が水素原子、または水素原子と炭素数1~12のアルキル基であるナフトールアラルキル樹脂と、ビニル芳香族ハロメチル化合物とを反応させて得られるものである請求項1に記載のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物。
【請求項3】
式(1)において、
R
2
が水素原子であるOR
2
基の数が、平均の1分子当たり1.1以上であり、かつ、R
2
がビニルベンジル基であるOR
2
基の数が、平均の1分子当たり1.1以上であって、このとき、R
2
が水素原子であるOR
2
基を1分子中に1個以上有しているか、又は、R
2
がビニルベンジル基であるOR
2
基を1分子中に1個以上有している請求項1又は2に記載のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物。
【請求項4】
(A)成分:請求項1~3のいずれかに記載のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物、及び
(B)成分:1分子中に2以上のエポキシ基と芳香族構造を有するエポキシ樹脂、1分子中に2以上のエポキシ基とシアヌレート構造を有するエポキシ樹脂、及び1分子中に2以上のエポキシ基と脂環構造を有するエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
更に(C)成分として、エポキシ樹脂硬化剤を含有することを特徴とする請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の硬化性樹脂組成物と基材からなる硬化性複合材料。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の硬化性樹脂組成物から形成された膜を金属箔の片面に有することを特徴とする樹脂付き金属箔。
【請求項9】
請求項6に記載の硬化物の層と金属箔層とを有することを特徴とする積層体。
【請求項10】
請求項6に記載の硬化物を用いてなる回路基板材料。
【請求項11】
請求項4又は5に記載の硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解させてなるワニス。
【請求項12】
回路基板材料用である請求項11に記載のワニス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物、ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物とエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物、回路基板材料用ワニス、硬化物、その複合材料硬化物と金属箔からなる積層体、樹脂付き金属箔及び回路基板材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信量の増加にともない高周波数帯域での情報通信が盛んに行われるようになり、より優れた電気特性、なかでも高周波数帯域での伝送損失を低減させるため、低誘電率と低誘電正接を有し、特に厳しい熱履歴を受けた後の誘電特性変化の小さい電気絶縁材料が求められている。さらにそれら電気絶縁材料が使われているプリント基板あるいは電子部品は実装時に高温のハンダリフローに曝されるために耐熱性、難燃性の高い、すなわち高いガラス転移温度を示す材料が望まれている。特に最近は、環境問題から融点の高い鉛フリーのハンダが使われるために、より耐熱性の高い電気絶縁材料の要求が高まってきている。これらの要求に対し、従来、種々の化学構造を持つビニルベンジルエーテル化合物を含有する硬化性樹脂組成物が提案されている。
【0003】
このような硬化性樹脂組成物としては、例えば、フェノール類とビフェニル化合物とを縮合して得られるフェノールアラルキル樹脂とビニルベンジルハライドとを反応させることにより得られるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物を含有する硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、これに開示されているポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、初期の誘電特性おいて、十分な特性が得られなかったばかりか、厳しい熱履歴に対する誘電特性の変化が大きく、不十分な耐熱性、難燃性のものであった。
【0004】
ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物として、特定構造のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物が幾つか提案され、厳しい熱履歴を受けた時の誘電正接の変化を抑える試みや、耐熱性、難燃性を向上させる試みがなされているが、特性の向上は未だ十分とは言えず、さらなる特性改善が望まれていた。このため、実装材料としては信頼性及び加工性において、十分なものではなかった(特許文献2、3、および4)。
【0005】
また、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノールノボラック樹脂又はビフェニル型ナフトールノボラック樹脂の水酸基をビニルベンジルエーテル化した硬化性樹脂と、分子内にマレイミド基を1個以上有する化合物とを含有する硬化性樹脂組成物が特許文献5に開示されている。しかし、これに開示されている硬化性樹脂組成物は、誘電特性の初期特性が不十分である上に、湿熱熱履歴を受けた後の、密着信頼性が絶縁材料としては満足するものではなく、成形性においても、成形不良を生じやすく、望ましいものではなかった。
【0006】
特許文献6には未硬化状態でのハンドリング性が高く、比誘電率が低い硬化物を得ることができる絶縁シート及び積層構造体が開示されており、当該シート及び構造体をなすところの材料としてポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物とエポキシ樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物が開示されている。ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物の具体例としては、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、フェノールノボラック樹脂、フェノールとベンズアルデヒドの縮合物、又はザイロック(Xylok)型フェノール樹脂をビニルベンジルエーテル基で置換した化合物等が挙げられており、更に、その実施例の中では、Xylok型フェノール樹脂のビニルベンジルエーテル化合物のみが開示されていた。そして、これに開示されているポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物とエポキシ樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物は、厳しい熱履歴を受けた時の誘電正接の変化が大きく、また、湿熱履歴後の密着信頼性も不十分なものであった。
【0007】
このように、従来のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物及びその硬化性樹脂組成物は電気絶縁材料用途、特に高周波数対応の電気絶縁材料用途として必要な、厳しい熱履歴後の低い誘電正接を満足する耐熱性、難燃性を持つ硬化物を与えるものではなく、また、密着信頼性と加工性の点でも不十分なものであった。
【0008】
特許文献7は、上記のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物の問題点を解決するものとして、ナフトールアラルキル樹脂とビニル芳香族ハロメチル化合物とを反応させて得られるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物を提案している。
【0009】
ところで、電子機器の小型化や薄型化、多機能化が加速している最近の流れを考慮すると、これまで必要とされた上記の厳しい熱履歴後の低い誘電正接を満足する耐熱性、難燃性、密着信頼性及び加工性に加えて、新たな機能を有する回路基板用の絶縁樹脂が必要となる。例えば、回路基板上にICチップを実装する際に、ICチップのパッケージに封入せずに実装するベアチップ方式を使用すると、従来の実装方式と比較して、電子機器の小型化が可能となる。この方式では回路基板用の絶縁樹脂に、はんだや銅配線を介して熱が加わる。この熱による応力集中によって、絶縁樹脂、はんだ又は銅配線にクラックが発生する恐れがある。従って、耐クラック性に優れた絶縁樹脂が求められる。
しかし、上記ナフトールアラルキル樹脂とビニル芳香族ハロメチル化合物とを反応させて得られるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、耐クラック性については、さらなる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-314556号公報
【文献】特表平1-503238号公報
【文献】特開平9-31006号公報
【文献】特開2004-323730号公報
【文献】特開2003-306591号公報
【文献】特開2011-124076号公報
【文献】WO2014/103926号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明が解決しようとする課題は、厳しい熱履歴後の低い誘電正接を満足し、しかも耐熱性、難燃性、密着信頼性及び加工性と、耐クラック性を兼ね備える樹脂材料、及びそれを用いた回路基板材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ナフトールアラルキル樹脂の水酸基を、特定の比率でビニルベンジルエーテル基に置換したポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物が、上記課題を解決するために有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、下記式(1)で表されるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物である。
【化1】
ここで、R
1はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アリル基、または炭素数6~30のアリール基を表し、Ar
1は炭素数6~50の2価の芳香族炭化水素基を表し、R
2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12のアルキル基、またはビニルベンジル基を表す。但し、R
2におけるビニルベンジル基の割合は10モル%以上60モル%未満であり、水素原子の割合は40モル%以上である。nは平均値で1~20の範囲であり、mは1~6の数であり、rは1~3の数であるが、m+rは6又は7を超えない。
【0014】
上記ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、式(1)におけるR2が水素原子、または水素原子と炭素数1~12のアルキル基であるナフトールアラルキル樹脂と、ビニル芳香族ハロメチル化合物とを反応させて得られるものであることがよい。
【0015】
また、式(1)において、R2が水素原子、またはビニルベンジル基であるOR2基(Y)を1分子中に1個以上有し、平均の1分子当たりのOR2基(Y)の数は1.1以上であることが好ましい。
【0016】
更に本発明は、下記(A)成分及び(B)成分含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
(A)成分:上記のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物、
(B)成分:1分子中に2以上のエポキシ基と芳香族構造を有するエポキシ樹脂、1分子中に2以上のエポキシ基とシアヌレート構造を有するエポキシ樹脂、及び1分子中に2以上のエポキシ基と脂環構造を有するエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂。
【0017】
上記硬化性樹脂組成物には、更に(C)成分として、エポキシ樹脂硬化剤を含有することができる。
【0018】
また、本発明は上記の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物、上記の硬化性樹脂組成物と基材からなる硬化性複合材料、又は上記の硬化性樹脂組成物から形成された膜を金属箔の片面に有する樹脂付き金属箔である。更に、本発明は上記硬化物の層と金属箔層とを有する積層体、又は上記硬化物を用いてなる回路基板材料である。また、本発明は上記の硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解させてなるワニス、又は回路基板材料用である上記のワニスである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物、又はこれを配合した樹脂組成物は、厳しい熱履歴後も高度の誘電特性(低誘電率・低誘電正接)を有し、高温・高湿下といった厳しい環境下に於いても、高い密着信頼性を有し、かつ耐クラック性に優れる硬化物を与えることができる。従って、電気・電子産業、宇宙・航空機産業等の分野において、誘電材料、絶縁材料、耐熱材料として好適に用いることができる。特に片面、両面又は多層のプリント基板、フレキシブルプリント基板、ビルドアップ基板等の回路基板材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、上記式(1)で表される。
【0021】
式(1)において、R1はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アリル基、または炭素数6~30のアリール基を表す。アリール基は、さらに置換基を有しても良く、例えば、炭素数1~6のアルキル基である。
好ましくは溶解性及び誘電特性と硬化性及び難燃性とのバランスの点から、R1は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、より好ましくは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、特に好ましくは水素原子または炭素数1~3のアルキル基である。
【0022】
R2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~12のアルキル基、またはビニルベンジル基を表す。そして、R2中に占めるビニルベンジル基の割合(モル%)は、10モル%以上60モル%未満であるが、好ましくは15~59モル%であり、より好ましくは20~55モル%である。更に好ましくは、20~53モル%である。ビニルベンジル基の割合が60%以上の場合は、重合活性点が増えすぎ、樹脂の柔軟性が失われ、信頼性試験でクラック等が発生し易くなる。一方、ビニルベンジル基の割合が10モル%未満の場合は、架橋密度が低下し、難燃性又は耐熱性に影響する600℃における炭化物生成量が低下する。
【0023】
R2中に占める水素原子の割合は40モル%以上であることが、エポキシ樹脂を配合する場合、エポキシ樹脂との架橋反応が効率的に進行するため好ましい。より好ましくは45~90モル%、更に好ましくは45~85モル%である。
式(1)において、R2が水素原子、又はビニルベンジル基であるOR2基(Y)を1分子中に1個以上有し、平均の1分子当たりのOR2基(Y)の数は1.1以上であることが好ましい。ここで、R2が水素原子、又はビニルベンジル基であるOR2基を、OR2基(Y)という。OR2基(Y)はR2が炭素数1~12のアルキル基以外の基であるOR2基と解される。より好ましくは、OR2基(Y)を1分子中に1個以上有し、平均の1分子当たりのOR2基(Y)の数は1.1個以上、有利には2.2個以上、より有利には5個以上、更に有利には7個以上である。更に、好ましくはR2がビニルベンジル基および水素原子であるOR2基の数がいずれも1分子中に1.1個以上であることである。また、R2がビニルベンジル基および水素原子であるOR2基の数がいずれも1分子中に1.1個以上である分子が90モル%以上含まれることが好ましい。そして、R2の2つ以上がビニルベンジル基である分子が5モル%、好ましくは10モル%以上含まれることがよい。なお、本発明のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、ビニルベンジルエーテル基を複数有するが、nが異なる分子からなる分子量分布を有する樹脂の場合は、全分子の1モル%以上がビニルベンジルエーテル基を複数有すればよい。
【0024】
R2の一部を、アルキル基とすることは、靱性、成形性及び誘電特性を向上させるため好ましい。R2中に占めるアルキル基割合は、1~10モル%がよく、好ましくは1~6モル%であり、更に好ましくは1.5~4モル%である。また、このアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基であることがよく、好ましくは炭素数1~6のアルキル基である。
【0025】
式(1)において、mは1~6の数を表すが、好ましくは溶解性と難燃性のバランスの点から、R1が水素以外の置換基である場合、その数(m')は0~2である。
また、rは1~3の数を表すが、好ましくは溶解性と靱性の点から、1~2の数である。m+rは6又は7である。具体的には、上記式(1)において、式の左端に表されるナフタレン環においては、m+rは7であり、繰り返し構造単位中に表されるナフタレン環においては、m+rは6である。ナフタレン環1個当たりのm'とrの和は、好ましくは1~4である。
【0026】
Ar1は炭素数6~50の二価の芳香族炭化水素基を表す。例えば、-Ph-、-Ph-Ph-、-Np-、-Np-CH2-Np-、-Ph-CH2-Ph-、-Ph-C(CH3)2-Ph-、-Ph-CH(CH3)-Ph-、-Ph-CH(C6H5)-Ph-、-Ph-Flu-Ph-、及び-Flu(CH3)2-からなる群れから選ばれる炭素数6~50の芳香族炭化水素基等が挙げられる。好ましくは、炭素数6~30である芳香族炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数が6~20である芳香族炭化水素基である。ここで、Phはフェニレン基(-C6H4-)を表し、Npはナフチレン基(-C10H6-)を表し、Fluはフルオレニル基(-C13H8-)を表す。ここで、Ph、Np及びFluは、置換基を有しても良く、例えば、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基である。好ましい置換基は炭素数が1~6のアルキル基が挙げられる。また、Ar1として、溶解性及び難燃性の観点から、より好ましくは、無置換、アルキル基置換、アルコキシ基置換もしくはフェニル基置換の、-Ph-、-Ph-Ph-又は-Np-である。
【0027】
nは平均値で1~20の数を表すが、好ましくは1~10である。nが20を超えると粘度が上昇し、微細パターンへの充填性が低下するという点で好ましくない。なお、分子量分布を有するときは、数平均値である。
【0028】
更に、上記ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、ガスクロマトグラフィー(GC)測定においてビニル芳香族ハロメチル化合物に基づくピーク面積(a)が、ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物のピーク面積(b)と合計したピーク面積(a+b)に対して、1.0%以下であることが好ましい。好ましくは、0.5%以下であり、より好ましくは0.2%以下である。このピーク面積が1.0%を越えると、250℃以上の熱履歴を長時間受けた後での誘電特性が低下する傾向にある。ここで、上記ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物のピーク面積(b)とは、上記式(1)を満足する純粋なポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物に基づくピーク面積を意味する。本発明のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は反応生成物又はこれを精製したものであり、純粋なポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物の他に、上記式(1)を満足しない不純物としての他の成分を少量含んでもよい。
【0029】
本発明のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、全ハロゲン含有量が600ppm(wt)以下であることが好ましい。より好ましくは、450ppm以下であり、更に好ましくは200ppm以下である。全ハロゲン含有量が600ppmを超えると、250℃以上の熱履歴を長時間受けた後での誘電特性が低下する傾向にある。このハロゲンは、主に原料である芳香族ハロメチル化合物に基くので、上記ピーク面積(a)と関連する。
また、ハロゲン含有量が600ppm以下になると、反りや転写不良といった、成形不良現象を回避できるという望外の効果も得られることからも好ましい。しかしながら、必要以上に全ハロゲン含有量やビニル芳香族ハロメチル化合物の含有量を低下させることは、精製歩留まりを大幅に低下させることになる。実験によれば、全ハロゲン含有量は2ppm以上であれば、上記のような工業的な実施に関わる問題が生じないことが判明したので、それを超える精製は精製歩留まりの面からは有利とは言えない。
【0030】
本発明のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、上記のとおり、一例として、ナフトールアラルキル樹脂とビニル芳香族ハロメチル化合物とを反応させて得られる。このナフトールアラルキル樹脂は下記式(2)で表される。
【化2】
【0031】
上記式(1)及び(2)において、同一の記号は同じ意味を有する。従って、上記式(2)中のR1、Ar1、n、m及びrは、上記式(1)のそれらと同意である。
【0032】
上記式(2)で表されるナフトールアラルキル樹脂とビニル芳香族ハロメチル化合物との反応は、特に制限されるものではないが、例えば、極性溶媒等の液相でアルカリ金属水酸化物を脱ハロゲン化水素剤として用いて反応させることにより行われる。この反応ではナフトールアラルキル樹脂のフェノール性水酸基と、ビニル芳香族ハロメチル化合物のCH2X基が縮合反応して、脱HXしてビニルベンジルエーテル化合物が生成する。
【0033】
また、靱性、成形性及び誘電特性を向上させる目的で、上記式(2)で表されるナフトールアラルキル樹脂のフェノール性水酸基の一部を、例えば、特許4465257公報に記載の方法に従って、酸性触媒の存在下に炭素数1~12のアルコール類と反応させることにより、上記式(1)におけるR2の一部として、炭素数1~12のアルキル基を導入することもできる。
【0034】
アルキル基を導入する反応は、ビニル芳香族ハロメチル化合物との反応の前でもあっても、後であってもよいが、ビニル基の重合を回避するためには、前が好ましい。前の場合は、フェノール性水酸基の水素原子の一部がアルキル基に置換されたナフトールアラルキル樹脂(以下、一部変性されたナフトールアラルキル樹脂という。)を先に合成し、その後ビニル芳香族ハロメチル化合物と反応させて、一部がアルキル化されたポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物を得る方法である。後の場合は、ナフトールアラルキル樹脂とビニル芳香族ハロメチル化合物とを反応させて、ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物を得て、その後、残存するフェノール性水酸基の水素原子の一部をアルキル化して、ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物を得る方法である。ここで、一部変性されたナフトールアラルキル樹脂は、本明細書でいうナフトールアラルキル樹脂に包含される。
【0035】
また、ナフトールアラルキル樹脂の原料の一部又は全部として、フェノール性水酸基の水素原子の一部又は全部をアルキル基としたヒドロキシナフタレン類を使用することもできる。
【0036】
また、ナフトールアラルキル樹脂は、フェノール性水酸基の水素原子の全部がアルキル化されたものと、フェノール性水酸基の水素原子の全部が残っているものとの混合物であってもよく、これも一部変性されたナフトールアラルキル樹脂に包含される。
【0037】
上記式(2)で表されるナフトールアラルキル樹脂としては、上記の反応で得られる他、市販のものを利用することもでき、例えば、新日鉄住金化学株式会社製SN170、SN180、SN190、SN475、SN485、SN495等が好適に使用できる。より好ましくは、溶解性、靱性及び難燃性という点で、SN475、SN485、SN495、SN485V、SN495Vである。誘電特性、靱性と成形性の観点から、特に好ましいのは、SN485V、SN495Vである。
また、上記式(2)で表されるナフトールアラルキル樹脂は、公知の方法によって製造することも可能である。かかる製造方法は、例えば特開2001-213946号公報、特開平11-255868号公報、特開平11-228673号公報、特開平08―073570号公報、特開平08-048755号公報、特開平10-310634や特開平11-116647号公報等に記載されている。上記式(2)で表されるナフトールアラルキル樹脂は、単独で使用してもよいし二種類以上を併用してもよい。
【0038】
上記ビニル芳香族ハロメチル化合物は、CH2=CH―Ar2-CH2Xで表わされる。ここで、Ar2はフェニレン基又は置換フェニレン基である。置換フェニレン基の場合の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基が挙げられる。好ましくは炭素数が1~6のアルキル基が挙げられる。また、Ar2として、溶解性及び難燃性の観点から、より好ましくは、無置換、アルキル基置換、アルコキシ基置換もしくはフェニル基置換のフェニレン基である。更に好ましくは、工業的に製造が容易である、無置換及びアルキル基置換のフェニレン基である。このビニル芳香族ハロメチル化合物は、R2のビニルベンジル基を与えるから、ビニルベンジル基はそのベンゼン環に置換基を有する置換ビニルベンジル基であってもよいと理解される。また、Xはハロゲンであり、好ましくは塩素又は臭素である。
【0039】
好ましいビニル芳香族ハロメチル化合物としては、p-ビニルベンジルクロライド、m-ビニルベンジルクロライド、p-ビニルベンジルクロライドとm-ビニルベンジルクロライドとの混合体、p-ビニルベンジルブロマイド、m-ビニルベンジルブロマイド、p-ビニルベンジルブロマイドとm-ビニルベンジルブロマイドとの混合体を挙げることができる。中でも、p-ビニルベンジルクロライドとm-ビニルベンジルクロライドとの混合体を使用すると、溶解性に優れたポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物が得られ、他の材料との相溶性及び作業性が良好となるため好ましい。p-ビニルベンジルハライドとm-ビニルベンジルハライドの混合体を使用する場合、組成比に特に制限はないが、p-体/m-体=90/10~10/90(モル/モル)であることが好ましく、70/30
~30/70(モル/モル)であることがより好ましく、60/40~40/60(モル/モル)であることが更に好ましい。
【0040】
上記のようにナフトールアラルキル樹脂とビニル芳香族ハロメチル化合物とを反応させて、ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物を得る場合は、ビニルベンジル基はばらつきをもって、ナフトールアラルキル樹脂のOH基と反応するので、1分子あたりのビニルベンジル基の数にばらつきを生じる。そして、1分子あたりのビニルベンジル基が2個以上のものと、2個未満のものが混在し、2個以上のものは架橋重合して硬化樹脂を与える。2個未満のものは、架橋度を制御し、樹脂に柔軟性等の性質を与える。ビニルベンジル基を有しないものは、ビニル基の重合には関与しないので、その量は少ないことが望ましいが、OH基をシアネート基に変換するなどするか、エポキシ樹脂と反応させるなどすることにより、硬化樹脂生成反応に寄与することができる。
【0041】
また、本発明のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物は、後述のとおり、エポキシ樹脂と混合して重合(架橋ともいう。)することが好ましい。その他にも、エポキシ樹脂以外のエポキシ化合物と混合して重合させても良く、公知の手法を用いて、水酸基をシアネート化し、シアネート樹脂やビスマレイミド‐トリアジン樹脂として用いても良い。そうすることで、例えば、低誘電で耐熱性、難燃性に優れたプリント配線板材料が得られる。
【0042】
次に、本発明の硬化性樹脂組成物について説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記(A)成分と(B)成分を含む。
(A)成分は、上記のポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物であり、及び(B)成分は1分子中に2以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂である。1分子中に2以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂としては、芳香族構造を有するエポキシ樹脂(B1)、シアヌレート構造を有するエポキシ樹脂(B2)、脂環構造を有するエポキシ樹脂(B3)、又はこれらの混合物がある。以下、エポキシ樹脂(B1)を芳香族系エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂(B2)をシアヌレート系エポキシ樹脂と、脂環構造を有するエポキシ樹脂(B3)を脂環式エポキシ樹脂ともいう。脂環式エポキシ樹脂は炭素数3~12、好ましくは炭素数5~10の脂環構造を有することがよい。
【0043】
(B)成分のエポキシ樹脂の好ましい例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、キシリレン変性フェノールノボラック型エポキシ樹脂、キシリレン変性アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、ナフタレン型エポキシ樹脂等の芳香族系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等のシアヌレート系エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂等の脂環式エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は各々単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えば、4,4’‐メチレンビス(2,6‐ジメチルフェノール)のジグリシジルエーテルを主成分とするエポキシ樹脂、4,4’‐メチレンビス(2,3,6‐トリメチルフェノール)のジグリシジルエーテルを主成分とするエポキシ樹脂、4,4’‐メチレンビスフェノールのジグリシジルエーテルを主成分とするエポキシ樹脂が挙げられる。なかでも4,4’‐メチレンビス(2,6‐ジメチルフェノール)のジグリシジルエーテルを主成分とするエポキシ樹脂が好ましい。前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂としてはYSLV‐80XY(新日鉄住金化学社製)として入手可能である。
【0045】
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、4,4’-ジグリシジルビフェニル、及び4,4’-ジグリシジル-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル等のエポキシ樹脂が挙げられる。前記ビフェニル型エポキシ樹脂としてはYX-4000、YL-6121H(三菱化学社製)として入手可能である。
【0046】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエンジオキシド、及びジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシモノマー等が挙げられる。
【0047】
ナフタレン型エポキシ樹脂としては、1,2-ジグリシジルナフタレン、1,5-ジグリシジルナフタレン、1,6-ジグリシジルナフタレン、1,7-ジグリシジルナフタレン、2,7-ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、及び1,2,5,6-テトラグリシジルナフタレン、ナフトール・アラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、メトキシナフタレン変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、メトキシナフタレンジメチレン型エポキシ樹脂等の変性ナフタレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0048】
アダマンタン型エポキシ樹脂としては、1-(2,4-ジグリシジルオキシフェニル)アダマンタン、1-(2,3,4-トリグリシジルオキシフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(2,4-ジグリシジルオキシフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(2,3,4-トリグリシジルオキシフェニル)アダマンタン、2,2-ビス(2,4-ジグリシジルオキシフェニル)アダマンタン、1-(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)アダマンタン、及び2,2-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)アダマンタンなどを挙げることができる。
【0049】
上記のエポキシ樹脂の内、(A)成分との相溶性、誘電特性、及び成形品の反りの小ささの観点から、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、アルキルフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂が好適に使用される。
【0050】
(B)成分のエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は1万未満であることが好ましい。より好ましいMwは、600以下であり、更に好ましくは200以上550以下である。Mwが200未満の場合、(B)成分の揮発性が高くなり、キャストフィルム・シートの取扱い性が悪くなる傾向にある。一方で、Mwが1万を超えると、キャストフィルム・シートが固くかつ脆くなりやすく、キャストフィルム・シートの硬化物の接着性が低下する傾向にある。
【0051】
(B)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、下限が5重量部であり、かつ上限が100重量部であることが好ましい。より好ましくは、(A)成分100重量部に対して、(B)成分の含有量のより好ましい下限は10重量部である。一方、より好ましい上限は80重量部、更に好ましい上限は60重量部である。(B)成分の含有量が上記好ましい下限を満たすと、キャストフィルム・シートの硬化物の接着性をより一層高めることができる。(B)成分の含有量が上記好ましい上限を満たすと、未硬化状態でのキャストフィルム・シートのハンドリング性がより一層高くなる。
【0052】
本発明の硬化性樹脂組成物は、(C)成分としてエポキシ樹脂硬化剤を添加することができる。(C)成分は、(B)成分であるエポキシ樹脂を硬化させるものであれば特に限定されない。この硬化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
(C)成分の硬化剤は、フェノール樹脂、又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、これらの酸無水物の水素添加物もしくは変性物であることが好ましい。これらの硬化剤の使用により、耐熱性、難燃性、耐湿性及び電気物性のバランスに優れた硬化物となる硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0054】
硬化剤として使用されるフェノール樹脂は特に限定されない。上記フェノール樹脂の具体例としては、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、t-ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノールノボラック樹脂、ビフェニル型ナフトールノボラック樹脂、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン、及びポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。なかでも、絶縁シートの柔軟性及び難燃性をより一層高めることができるので、メラミン骨格を有するフェノール樹脂、トリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0055】
上記フェノール樹脂の市販品としては、MEH-8005、MEH-8010及びNEH-8015(明和化成社製)、YLH903(ジャパンエポキシレジン社製)、LA―7052、LA-7054、LA-7751、LA-1356及びLA-3018-50P(DIC社製)、並びにPS6313及びPS6492(群栄化学社製)等が挙げられる。
【0056】
硬化剤として使用される芳香族骨格を有する酸無水物、その水素添加物又は変性物についても、特に構造は限定されない。例えば、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、グリセロールビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0057】
上記芳香族骨格を有する酸無水物、その水素添加物又は変性物の市販品としては、SMAレジンEF30、SMAレジンEF40、SMAレジンEF60及びSMAレジンEF80(サートマー・ジャパン社製)、ODPA-M及びPEPA(マナック社製)、リカジットMTA-10、リカジットMTA-15、リカジットTMTA、リカジットTMEG-100、リカジットTMEG-200、リカジットTMEG-300、リカジットTMEG-500、リカジットTMEG-S、リカジットTH、リカジットHT-1A、リカジットHH、リカジットMH-700、リカジットMT-500、リカジットDSDA及びリカジットTDA-100(新日本理化社製)、並びにEPICLON B4400、EPICLON B650、及びEPICLON B570(DIC社製)等が挙げられる。
【0058】
上記脂環式骨格を有する酸無水物又はこの酸無水物の変性物は、多脂環式骨格を有する酸無水物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物又はその変性物であることが好ましい。この場合には、絶縁シートの柔軟性、耐湿性又は接着性をより一層高めることができる。また、上記脂環式骨格を有する酸無水物又はその変性物としては、メチルナジック酸無水物、ジシクロペンタジエン骨格を有する酸無水物又はその変性物等が挙げられる。上記脂環式骨格には、ジシクロペンタジエン骨格のような不飽和結合を有する骨格と、シクロペンタン骨格のような不飽和結合を有しない骨格とがあるが、いずれであってもよい。また、不飽和結合を有する骨格を水素化して得られる水素化された酸無水物又はこの変性物であってもよく、この水素化された骨格は、不飽和結合を有しない骨格であっても、一部が水素化された部分水素化物であってもよい。
【0059】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、変性物の市販品としては、リカジットHNA及びリカジットHNA-100(新日本理化社製)、並びにエピキュアYH306、エピキュアYH307、エピキュアYH308H及びエピキュアYH309(以上いずれもジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。
【0060】
(C)成分としての硬化剤としては、(A)成分との相溶性と耐湿性、接着性の観点から、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、t-ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、キシリレン変性ノボラック、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、又はジシクロペンタジエン骨格を有する酸無水物もしくはこれらの酸無水物の変性物であることがより好ましい。
【0061】
本発明の硬化性樹脂組成物には、(D)成分として、Mwが1万以上である高分子量樹脂を添加することができる。この高分子量樹脂は、Mwが1万以上であれば、特に限定されず、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
(D)成分の具体例を挙げると、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、フェノキシ樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリシクロペンタジエン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、あるいは、既知の熱可塑性エラストマー、例えば、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、水添スチレン-ブタジエン共重合体、水添スチレン-イソプレン共重合体等やあるいはゴム類、例えばポリブタジェン、ポリイソプレン等の高分子量樹脂を使用できる。
【0063】
これらの高分子量樹脂の内で、好適に使用されるのは、(A)成分との相溶性、密着信頼性の観点から、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、水添スチレン-ブタジエン共重合体、水添スチレン-イソプレン共重合体などの高分子量樹脂である。
【0064】
(D)成分の高分子量樹脂のガラス転移温度Tgの好ましい下限は-40℃、より好ましい下限は50℃、最も好ましい下限は90℃である。好ましい上限は250℃、より好ましい上限は200℃である。Tgが上記好ましい下限を満たすと、樹脂が熱劣化し難くなり、Tgが上記好ましい上限を満たすと、(D)成分と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態でのキャストフィルム・シートのハンドリング性、並びにキャストフィルム・シートの硬化物の耐熱性、難燃性をより一層高めることができる。
【0065】
高分子量樹脂のMwの好ましい下限は2万、より好ましい下限は3万、好ましい上限は100万、より好ましい上限は25万である。Mwが上記好ましい下限を満たすと、絶縁シートが熱劣化し難くなり、上記好ましい上限を満たすと、(D)成分と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態でのキャストフィルム・シートのハンドリング性、並びにキャストフィルム・シートの硬化物の耐熱性、難燃性をより一層高めることができる。
【0066】
本発明の硬化性樹脂組成物において、(A)~(D)成分を含む場合、全樹脂成分(以下、全樹脂成分Xともいう。)の合計100重量%中に占める(D)成分の含有量は10~60重量%の範囲内であることが好ましい。全樹脂成分Xの合計100重量%中の(D)成分の含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は50重量%である。(D)成分の含有量が上記好ましい下限を満たすと、未硬化状態でのキャストフィルム・シートのハンドリング性をより一層高めることができる。(D)成分の含有量が上記好ましい上限を満たすと、後述する(F)成分である無機充填材の分散が容易になる。なお、全樹脂成分Xとは、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び必要に応じて添加される他の樹脂成分の総和をいう。硬化剤等の硬化後に樹脂成分となる成分は、樹脂成分として計算するが、(F)成分の無機充填材や、後述する(G)成分の難燃剤は含まれない。
【0067】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記成分の他に、所望により(E)成分としてラジカル重合開始剤(ラジカル重合触媒ともいう。)を含有させることができる。例えば、本発明の硬化性樹脂組成物は後述するように加熱等の手段により架橋反応を起こして硬化するが、(E)成分を添加することで、その際の反応温度を低くしたり、不飽和基の架橋反応を促進したりすることができる。
【0068】
(E)成分の代表的な例を挙げると、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物があるがこれらに限定されない。また過酸化物ではないが、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンもラジカル重合開始剤(又は重合触媒)として使用できる。しかし、本樹脂組成物の硬化に用いられる触媒、ラジカル重合開始剤はこれらの例に限定されない。
【0069】
(E)成分の配合量は、(A)成分に対し、0.01~10重量部の範囲であれば、硬化反応を阻害することなく良好に反応が進行する。
【0070】
また、本発明の硬化性樹脂組成物に、必要に応じて、(A)成分と共重合可能な他の重合性モノマーを配合して硬化させてもよい。これを配合した場合、全樹脂成分Xに含まれる。
【0071】
上記他の重合性モノマーとしては、スチレン、スチレンダイマー、アルファメチルスチレン、アルファメチルスチレンダイマー、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、アセナフチレン、ジビニルベンジルエーテル、アリルフェニルエーテル等を挙げることができる。
【0072】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、硬化速度又は硬化物の物性などを調整するために、上記(C)成分と併用して、硬化促進剤を添加してもよい。
【0073】
上記硬化促進剤は特に限定されない。硬化促進剤の具体例としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、イミダゾリン類、トリアジン類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類等が挙げられる。また、上記硬化促進剤としては、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。上記有機金属化合物類としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫及びアルミニウムアセチルアセトン錯体等が挙げられる。
【0074】
硬化促進剤として、高融点のイミダゾール硬化促進剤、高融点の分散型潜在性硬化促進剤、マイクロカプセル型潜在性硬化促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、及び高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等も使用できる。硬化促進剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0075】
上記高融点の分散型潜在性促進剤としては、ジシアンジアミド、及びアミンがエポキシモノマー等に付加されたアミン付加型促進剤等が挙げられる。上記マイクロカプセル型潜在性促進剤としては、イミダゾール系、リン系又はホスフィン系の促進剤の表面がポリマーにより被覆されたマイクロカプセル型潜在性促進剤が挙げられる。上記高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤としては、ルイス酸塩又はブレンステッド酸塩等が挙げられる。
【0076】
硬化促進剤は、有機リン系化合物、及び、高融点のイミダゾール系硬化促進剤であることが好ましい。有機リン系化合物、及び、高融点のイミダゾール系硬化促進剤の使用により、反応系を容易に制御でき、かつキャストフィルム・シートの硬化速度、及びキャストフィルム・シートの硬化物の物性などをより一層容易に調整できる。融点100℃以上の高融点の硬化促進剤は、取扱性に優れている。従って、硬化促進剤の融点は100℃以上であることが好ましい。
【0077】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、(C)成分の含有量は、好ましい下限が1重量%であり、かつ、好ましい上限が40重量%である。より好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は25重量%である。(C)成分の含有量が上記好ましい下限を満たすと、キャストフィルム・シートを充分に硬化させることが容易となり、上記好ましい上限を満たすと、硬化に関与しない余剰な硬化剤が発生し難くなり、硬化物の架橋を充分に進行させることができる。このため、キャストフィルム・シートの硬化物の耐熱性、難燃性及び接着性をより一層高めることができる。
なお、エポキシ樹脂と硬化剤の関係は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と硬化剤中の官能基(活性水素等)の比(当量比)が、1:1程度が好ましいことが知られているので、本発明の硬化性樹脂組成物においても、この比が0.5~2:1、好ましくは0.8~1.2:1となるように配合することがよい。この場合、(A)成分中に含まれるOH基は硬化剤として機能するので、硬化剤の計算には(A)成分を含める。
【0078】
本発明の硬化性樹脂組成物では、当該硬化性樹脂組成物から得られる絶縁層の熱膨張率を更に低下させるために、(F)成分として無機充填材を添加してもよい。(F)成分としては、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられ、これらの中でも無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ等のシリカが特に好適である。シリカとしては球状のものが好ましい。
【0079】
(F)成分は2種以上を組み合わせて使用してもよい。無機充填材の平均粒径は、特に限定されるものではないが、絶縁層への微細配線形成の観点から好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.7μm以下である。なお、(F)成分の平均粒径が小さくなりすぎると、本発明の硬化性樹脂組成物を樹脂ワニスとした場合に、ワニスの粘度が上昇し、取り扱い性が低下する傾向にあるため、平均粒径は0.05μm以上であるのが好ましい。上記(F)成分の平均粒径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置により、(F)成分の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、(F)成分を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、(株)堀場製作所製 LA-500等を使用することができる。
【0080】
(F)成分は、エポキシシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で表面処理してその耐湿性を向上させたものが好ましい。(F)成分の添加量は、当該硬化性樹脂組成物の不揮発分100質量部に対し、20~400質量部の範囲が好ましく、30~350質量部の範囲がより好ましく、40~300質量部の範囲が更に好ましい。(F)成分の含有量が400質量部を超えると、硬化物が脆くなる傾向や、ピール強度が低下する傾向にある。一方、(F)成分の含有量が20質量部未満である場合は、熱膨張率が十分に低下しない。
【0081】
本発明の硬化性樹脂組成物では、本発明の効果を損なわない範囲で(G)成分として難燃剤を含有させても良い。(G)成分としては、例えば、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等が挙げられる。有機リン系難燃剤としては、三光(株)製のHCA、HCA-HQ、HCA-NQ等のフェナントレン型リン化合物、昭和高分子(株)製のHFB-2006M等のリン含有ベンゾオキサジン化合物、味の素ファインテクノ(株)製のレオフォス30、50、65、90、110、TPP、RPD、BAPP、CPD、TCP、TXP、TBP、TOP、KP140、TIBP、北興化学工業(株)製のPPQ、クラリアント(株)製のOP930、大八化学(株)製のPX200等のリン酸エステル化合物、東都化成(株)製のFX289、FX305等のリン含有エポキシ樹脂、東都化成(株)製のERF001等のリン含有フェノキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製のYL7613等のリン含有エポキシ樹脂等が挙げられる。有機系窒素含有リン化合物としては、四国化成工業(株)製のSP670、SP703等のリン酸エステルアミド化合物、大塚化学(株)製のSPB100、SPEl00、(株)伏見製作所製FP-series等のホスファゼン化合物等が挙げられる。金属水酸化物としては、宇部マテリアルズ(株)製のUD65、UD650、UD653等の水酸化マグネシウム、巴工業(株)製のB-30、B-325、B-315、B-308、B-303、UFH-20等の水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0082】
本発明の硬化性樹脂組成物は、公知の溶剤に溶解させることで、回路基板材料用ワニスとして使用することができる。好ましい溶剤としては、硬化性樹脂組成物と反応せず、良好な溶解性を有することから、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキソランが挙げられる。なお、本発明の回路基板材料は、本発明の硬化物、複合材料硬化物または積層体を用いて製造される。具体的には、片面、両面又は多層のプリント基板、フレキシブルプリント基板、ビルドアップ基板等が挙げられる。
【0083】
本発明の硬化物は、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる。硬化物の形態は制限なく、用途に応じて、成型物、積層物、注型物、接着剤、塗膜又はフィルムとして使用できる。例えば、半導体封止材料の硬化物は注型物又は成型物であり、かかる用途の硬化物を得る方法としては、硬化性樹脂組成物を注型、或いはトランスファ-成形機、射出成形機などを用いて成形し、更に80~230℃で0.5~10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。また、回路基板用ワニスの硬化物は積層物であることが有利であり、この回路基板用ワニスの硬化物を得る方法としては、まず、回路基板用ワニスを、ガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙等の公知の基材に含浸させ、加熱乾燥してプリプレグを得る。このプリプレグを、プリプレグ同士で、あるいは銅箔等の金属箔と積層し熱プレス成形して得ることができる。
【0084】
また、本発明の硬化性樹脂組成物に、チタン酸バリウム等の無機の高誘電体粉末、あるいはフェライト等の無機磁性体を配合することにより、電子部品用材料、特に高周波電子部品材料として有用である。
【0085】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、後述する硬化複合材料と同様、金属箔(金属板を含む意味である。以下、同じ。)と貼り合わせて、又は前記金属箔上に塗布して用いることができる。
【0086】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、公知の基材に含侵させることで、硬化性複合材料とすることができる。硬化性複合材料は、硬化性樹脂組成物の一態様である。硬化性複合材料とすることで、例えば、機械強度が高く、寸法安定性に優れる回路基板材料が得られる。
【0087】
硬化性複合材料に使用される公知の基材としては、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマットなどの各種ガラス布、アスベスト布、金属繊維布及びその他合成若しくは天然の無機繊維布、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維等の液晶繊維から得られる織布又は不織布、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維から得られる織布又は不織布、綿布、麻布、フェルトなどの天然繊維布、カーボン繊維布、クラフト紙、コットン紙、紙-ガラス混繊紙などの天然セルロース系布などの布類、紙類等がそれぞれ単独で、あるいは2種以上併せて用いられる。
【0088】
硬化性複合材料中に占める基材の割合は、5~90wt%、好ましくは10~80wt%、更に好ましくは20~70wt%であることがよい。基材が5wt%より少なくなると複合材料の硬化後の寸法安定性や強度が低下する傾向にある。また基材が90wt%より多くなると複合材料の誘電特性が低下する傾向にある。本発明の硬化性複合材料には、必要に応じて樹脂と基材の界面における接着性を改善する目的でカップリング剤を用いることができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネートカップリング剤等一般のものが使用できる。
【0089】
上記硬化性複合材料を製造する方法としては、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物と必要に応じて他の成分を前述の芳香族系、ケトン系等の溶媒若しくはその混合溶媒中に均一に溶解又は分散させ、基材に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。含浸は浸漬(ディッピング)、塗布等によって行われる。含浸は必要に応じて複数回繰り返すことも可能であり、またこの際、組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする樹脂組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0090】
上記硬化性複合材料を、加熱等の方法により硬化することによって複合材料硬化物が得られる。上記複合材料硬化物は、本発明の硬化物の一態様である。その製造方法は特に限定されるものではなく、例えば硬化性複合材料を複数枚重ね合わせ、加熱加圧下に各層間を接着せしめると同時に熱硬化を行い、所望の厚みの複合材料硬化物を得ることができる。また、一度接着硬化させた硬化複合材料と硬化性複合材料を組み合わせて新たな層構成の複合材料硬化物を得ることも可能である。積層成形と硬化は、通常熱プレス等を用い同時に行われるが、両者をそれぞれ単独で行ってもよい。すなわち、あらかじめ積層成形して得た未硬化あるいは半硬化の複合材料を、熱処理又は別の方法で処理することによって硬化させることができる。
【0091】
成形及び硬化は、温度:80~300℃、圧力:0.1~1000kg/cm2、時間:1分~10時間の範囲、より好ましくは、温度:150~250℃、圧力1~500kg/cm2、時間:1分~5時間の範囲で行うことができる。
【0092】
本発明の積層体は、本発明の硬化物の層と金属箔の層より構成される。ここで用いられる金属箔としては、例えば銅箔、アルミニウム箔等が挙げられる。その厚みは特に限定されないが、3~200μm、より好ましくは3~105μmの範囲である。
【0093】
本発明の積層体を製造する方法としては、例えば、上記硬化物又は硬化性複合材料と、金属箔を、目的に応じた層構成で積層し、加熱加圧下に各層間を接着せしめると同時に熱硬化させる方法を挙げることができる。本発明の積層体においては、硬化物又は複合材料硬化物と、金属箔が、任意の層構成で積層される。金属箔は表層としても中間層としても用いることができる。上記の他、積層と硬化を複数回繰り返して多層化することも可能である。
【0094】
金属箔との接着には接着剤を用いることもできる。接着剤としては、エポキシ系、アクリル系、フェノール系、シアノアクリレート系等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。上記の積層成形と硬化は、上記複合材料硬化物の製造と同様の条件で行うことができる。
【0095】
また、本発明の硬化性樹脂組成物をフィルム状に成形することもできる。その厚みは特に限定されないが、3~200μm、より好ましくは5~105μmの範囲である。
フィルムを製造する方法としては特に限定されることはなく、例えば、硬化性樹脂組成物と必要に応じて他の成分を芳香族系、ケトン系等の溶媒若しくはその混合溶媒中に均一に溶解又は分散させ、PETフィルムなどの樹脂フィルムに塗布した後乾燥する方法などが挙げられる。塗布は必要に応じて複数回繰り返すことも可能であり、またこの際組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて塗布を繰り返し、最終的に希望とする樹脂組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0096】
本発明の樹脂付き金属箔は、本発明の硬化性樹脂組成物から形成された膜を、金属箔の片面に有する。ここで用いられる金属箔は、本発明の積層体を構成する金属箔と同様のものを使用することができる。
【0097】
本発明の樹脂付き金属箔を製造する方法としては、特に限定されることはなく、例えば硬化性樹脂組成物と必要に応じて他の成分を芳香族系、ケトン系等の溶媒若しくはその混合溶媒中に均一に溶解又は分散させ、金属箔に塗布した後乾燥する方法が挙げられる。塗布は必要に応じて複数回繰り返すことも可能であり、またこの際、組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて塗布を繰り返し、最終的に希望とする樹脂組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部である。また、実施例中の測定結果は以下に示す方法により試料調製及び測定を行ったものである。
【0099】
1)ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物の構造解析及び成分分析
GPC(東ソー製、HLC-8120GPC、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、流量:1.0ml/min、カラム温度:40℃で実施)、赤外分光分析(パーキンエルマージャパン製Frontier Gold FTIRシステム、KBr法)並びに及び1H-NMR分析(日本電子製JNM-LA600型核磁気共鳴分光装置、溶媒:クロロホルム-d1)を用いて、生成物の確認及び構造解析を行った。
また、元素分析(自動燃焼-イオンクロマトグラフ法、自動燃焼部:三菱化成製AQF-100、イオンクロマトグラフィー部:サーモフィッシャー製ICS-1000)により、総塩素含有量を測定した。また、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC-2010、水素炎イオン化検出器)により、原料であるクロロメチルスチレンの未反応分の存在を確認した。
【0100】
2)引張り強度及び伸び率
硬化物フィルムの引張り強度及び伸び率(引張り破断伸度)はJIS K7161-1994に従い、万能試験機(東洋精機製、ストログラフVES05D)を用いて測定を行った。伸び率は破断点伸度をチャック間距離で割った値とした。
【0101】
3)難燃性の評価
熱天秤(TGA、窒素気流下、昇温速度:10℃/分)を用いて、接線法による熱分解開始温度、及び600℃における炭化物生成割合を測定した。
【0102】
4)耐クラック性評価
硬化性樹脂組成物にガラスクロス(Eガラス、目付71g/m2)を浸漬して含浸を行い、50℃のエアーオーブン中で30分間乾燥させ、プリプレグを作製した。
FR-4基板(厚み0.8mm)の銅箔を完全にエッチングにより溶解除去した基材の両面に、成形硬化後の積層体の厚みが約0.6mm~1.0mmになるように、上記のプリプレグを、片面に4枚ずつ、合計8枚重ね合わせ、その両面に厚さ18μmの銅箔を置いてプレス成形機により、30kg/cm2、室温から3℃/分で昇温し、180℃で60分間保持の条件で、成形硬化させて積層体を得た。得られた積層体に回路パターン(外層回路が2mm角に残る形状)を形成するために、積層体の銅面上にエッチングレジスト(H-K425、日立化成工業株式会社製、商品名)を100℃、0.5m/分、圧力0.5MPaの条件でラミネートした。その後、フォトマスクを介して、露光(露光量80mJ/cm2)した。次いで、炭酸ナトリウム1.0%水溶液の現像液を用いて、30℃、圧力0.1MPa、現像時間60秒で現像し、更に水酸化ナトリウム水溶液でレジストを剥離し、乾燥した。そして、塩化第2鉄水溶液で銅をエッチングして外層回路が2mm角となる耐クラック性評価パターンを得た。
この様にして得られた耐クラック性評価パターン試料について、-55℃~125℃の冷熱サイクル試験を実施し、顕微鏡で外層回路の2mm角コーナー部に発生しやすい絶縁樹脂中のクラックを観察し、クラックが入るまでのサイクル試験回数で耐クラック性を評価した。
【0103】
実施例1
温度調節器、攪拌装置、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコにSN495V(新日鉄住金化学社製ナフトールアラルキル樹脂;フェノール性水酸基のOH当量232g/eq.、フェノール性水酸基のメトキシ変性量:2.7%、p-キシリレングリコールジメチルエーテル由来のメトキシ基含有量:N.D.)195部、CMS-AM(セイミケミカル社製クロロメチルスチレン)44部、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド9.6部、2,4-ジニトロフェノール0.152部、メチルエチルケトン255部を仕込み攪拌溶解し、液温を75℃にし、50%水酸化ナトリウム水溶液42部を20分間で滴下し、更に75℃で4時間攪拌を続けた。次に10%塩酸水溶液でフラスコ内を中和した後、トルエン400部を追加し、有機層を1500mlの水で3回洗浄した。
【0104】
得られた有機相を蒸留することにより、有機相が460部になるまで濃縮し、メタノール/水=75/25(vol/vol)1,000部を加えて生成物を再沈殿した。同じ条件の再沈殿を更に2回繰り返した。得られた樹脂の沈殿を濾過・乾燥し、SN495Vとビニルベンジルクロライドとの反応生成物であるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物としてのビニルベンジル化ナフトールアラルキル樹脂(VBE25-SN495V)を178.1部得た。
【0105】
生成物の確認をGPC、1H核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)で行ったところ、GPCにおいて、回収された反応生成物では、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、1H-NMRにおいて、クロロメチルスチレンに由来するプロトンの共鳴線が消失し、代わりに、5.02ppm付近にベンジルエーテル基に由来するプロトンの共鳴線、5.25ppm、5.77ppm及び6.73ppm付近にビニル基に由来するプロトンの共鳴線、5.15ppm付近にフェノール性水酸基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、ポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物(VBE25-SN495V)が得られていることを確認した。そして、式(1)のR2に相当するメチル基含有量は2.6モル%、ビニルベンジル基含有量は25.4モル%、水素原子は72モル%であった。また、元素分析により総塩素含有量を測定したところ140ppmであった。GC測定を行ったところ、クロロメチルスチレンに由来するピークは、観察されなかった。また、熱天秤(TGA)を使用し、窒素気流下、昇温速度:10℃/分で、熱分解挙動を測定したところ、接線法による熱分解開始温度:346℃であり、600℃における炭化物生成量は、41.8wt%であった。また、平均の1分子当たりのOR2基の数は、10であった。
【0106】
実施例2
温度調節器、攪拌装置、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコにSN495V195部、CMS-AM86.6部、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド9.6部、2,4-ジニトロフェノール0.152部、メチルエチルケトン255部を仕込み攪拌溶解し、液温を75℃にし、50%水酸化ナトリウム水溶液82.5部を20分間で滴下し、更に75℃で4時間攪拌を続けた。次に10%塩酸水溶液でフラスコ内を中和した後、トルエン400部を追加し、有機層を1500mlの水で3回洗浄した。
【0107】
得られた有機相を蒸留することにより、有機相が440部になるまで濃縮し、メタノール/水=75/25(vol/vol)1,000部を加えて生成物を再沈殿した。同じ条件の再沈殿を更に2回繰り返した。得られた樹脂の沈殿を濾過・乾燥し、SN495Vとビニルベンジルクロライドとの反応生成物であるビニルベンジル化ナフトールアラルキル樹脂(VBE50-SN495V)202.5部を得た。
【0108】
生成物の確認を上記と同様にして行ったところ、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、クロロメチルスチレンに由来するプロトンの共鳴線が消失し、代わりに、5.02ppm付近にベンジルエーテル基に由来するプロトンの共鳴線、5.25ppm、5.77ppm及び6.73ppm付近にビニル基に由来するプロトンの共鳴線、5.15ppm付近にフェノール性水酸基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、ビニルベンジル化ナフトールアラルキル樹脂(VBE50-SN495V)が得られていることを確認した。そして、式(1)のR2に相当するメチル基含有量は2.6%、ビニルベンジル基含有量は50.2%、水素原子は47.2モル%であった。また、元素分析により総塩素含有量を測定したところ152ppmであった。GC測定を行ったところ、クロロメチルスチレンに由来するピークは、観察されなかった。また、熱分解開始温度:370℃であり、600℃における炭化物生成量は、39.0wt%であった。また、平均の1分子当たりのOR2基の数は、10であった。
【0109】
比較例1
温度調節器、攪拌装置、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコにSN495V195部、CMS-AM160.1部、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド9.6部、2,4-ジニトロフェノール0.152部、メチルエチルケトン255部を仕込み攪拌溶解し、液温を75℃にし、50%水酸化ナトリウム水溶液160部を20分間で滴下し、更に75℃で4時間攪拌を続けた。次に10%塩酸水溶液でフラスコ内を中和した後、トルエン400部を追加し、有機層を1500mlの水で3回洗浄した。
【0110】
得られた有機相を蒸留することにより、有機相が500部になるまで濃縮し、メタノール/水=75/25(vol/vol)1,000部を加えて生成物を再沈殿した。同じ条件の再沈殿を更に2回繰り返した。得られた樹脂の沈殿を濾過・乾燥し、SN495Vとビニルベンジルクロライドとの反応生成物であるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物としてのビニルベンジル化ナフトールアラルキル樹脂(VBE-SN495V)を246.7部得た。
【0111】
生成物の確認を行ったところ、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、フェノール性水酸基が消失していること、クロロメチルスチレンに由来するプロトンの共鳴線が消失し、代わりに、5.02ppm付近にベンジルエーテル基に由来するプロトンの共鳴線、5.25ppm、5.77ppm及び6.73ppm付近にビニル基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、VBE-SN495Vが得られていることを確認した。そして、式(1)のR2に相当するメチル基含有量は2.6%、ビニルベンジル基含有量は97.4%、水素原子は0モル%であった。つまり、フェノール性水酸基は検出することはできなかった。また、総塩素含有量は167ppmであった。クロロメチルスチレンに由来するピークは、観察されなかった。また、示差走査熱量計(DSC)により、窒素気流下、昇温速度:10℃/分で熱相転移挙動を測定したところ、結晶に由来する融解ピークは観察されず、熱分解開始温度:402℃であり、600℃における炭化物生成量は、36.1wt%であった。
【0112】
実施例3
温度調節器、攪拌装置、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコにSN495V195部、CMS-AM30.5部、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド9.6部、2,4-ジニトロフェノール0.152部、メチルエチルケトン255部を仕込み攪拌溶解し、液温を75℃にし、50%水酸化ナトリウム水溶液42部を20分間で滴下し、更に75℃で4時間攪拌を続けた。次に10%塩酸水溶液でフラスコ内を中和した後、トルエン400部を追加し、有機層を1500mlの水で3回洗浄した。
【0113】
得られた有機相を蒸留することにより、有機相が460部になるまで濃縮し、メタノール/水=75/25(vol/vol)1,000部を加えて生成物を再沈殿した。同じ条件の再沈殿を更に2回繰り返した。得られた樹脂の沈殿を濾過・乾燥し、SN495Vとビニルベンジルクロライドとの反応生成物であるビニルベンジル化ナフトールアラルキル樹脂(VBE15-SN495V)270.0部を得た。
【0114】
生成物の確認を上記と同様にして行ったところ、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、クロロメチルスチレンに由来するプロトンの共鳴線が消失し、代わりに、5.02ppm付近にベンジルエーテル基に由来するプロトンの共鳴線、5.25ppm、5.77ppm及び6.73ppm付近にビニル基に由来するプロトンの共鳴線、5.15ppm付近にフェノール性水酸基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、ビニルベンジル化ナフトールアラルキル樹脂(VBE15-SN495V)が得られていることを確認した。そして、式(1)のR2に相当するメチル含有量は2.6%、ビニルベンジル基含有量は15.0%、水素原子は82.4モル%であった。また、元素分析により総塩素含有量を測定したところ121ppmであった。GC測定を行ったところ、クロロメチルスチレンに由来するピークは、観察されなかった。また、熱分解開始温度:340℃であり、600℃における炭化物生成量は、42.6wt%であった。また、平均の1分子当たりのOR2基の数は、10であった。
【0115】
実施例4
1Lの4口セパラブルフラスコに、1-ナフトール288g、1,5-ジクロロメチルナフタレン(1,5-ジクロロメチル体95.6%、その他のジクロロメチル体3.0%、モノクロロメチル体1.4%)135g及びトルエン840gを量り採り、窒素気流下、攪拌しながら徐々に昇温溶解させ、約116℃でそのまま還流させながら2時間反応させた。その後、トルエンを留去しながら180℃まで昇温し、そのまま1時間反応させた。反応後、200℃で減圧留去により未反応1-ナフトール及び溶媒を除去した後、褐色の樹脂224gを得た(多価ヒドロキシ樹脂A)。得られた多価ヒドロキシ樹脂Aの水酸基当量は230g/eq.であった。
【0116】
温度調節器、攪拌装置、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコに多価ヒドロキシ樹脂A195部、CMS-AM44部、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド9.6部、2,4-ジニトロフェノール0.152部、メチルエチルケトン255部を仕込み攪拌溶解し、液温を75℃にし、50%水酸化ナトリウム水溶液42部を20分間で滴下し、更に75℃で4時間攪拌を続けた。次に10%塩酸水溶液でフラスコ内を中和した後、トルエン400部を追加し、有機層を1500mlの水で3回洗浄した。
【0117】
得られた有機相を蒸留することにより、有機相が460部になるまで濃縮し、メタノール/水=75/25(vol/vol)1,000部を加えて生成物を再沈殿した。同じ条件の再沈殿を更に2回繰り返した。得られた樹脂の沈殿を濾過・乾燥し、多価ヒドロキシ樹脂Aとビニルベンジルクロライドとの反応生成物であるポリ(ビニルベンジル)エーテル化合物としてのビニルベンジル化ナフトール樹脂(VBE25-多価ヒドロキシ樹脂A)を198.1部得た。
【0118】
生成物の確認を行ったところ、原料に由来するピークが消失し、高分子量側に新しいピークが生成していること、クロロメチルスチレンに由来するプロトンの共鳴線が消失し、代わりに、5.02ppm付近にベンジルエーテル基に由来するプロトンの共鳴線、5.25ppm、5.77ppm及び6.73ppm付近にビニル基に由来するプロトンの共鳴線を有することが確認され、VBE-多価ヒドロキシ樹脂Aが得られていることを確認した。そして、式(1)のR2に相当するビニルベンジル基含有量は25.2%、水素原子は74.8モル%であった。また、総塩素含有量は138ppmであった。クロロメチルスチレンに由来するピークは、観察されなかった。また、熱分解開始温度:356℃であり、600℃における炭化物生成量は、44.6wt%であった。また、平均の1分子当たりのOR2基の数は、9であった。
【0119】
略号を次に示す。
YDCN-700-3:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学(株)製、エポトートYDCN-700-3)
MEH-7851-S:ビフェニル型フェノールノボラック樹脂(明和化成社製、MEH-7851-S)
XD-1000:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(日本化薬社製)
A1535:水添スチレンブタジエンブロック共重合体(クレイトンポリマージャパン(株)製、KRATON A1535、Mw=223,000)
パークミルD:ジクミルパーオキサイド(日油社製、パークミルD)
AO-60:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフ
ェニル)プロピオネート](アデカ(株)製、アデカスタブAO-60)
SE2050 SPE;フェニルシランカップリング剤により処理されているアモルファス球状シリカ(アドマテックス社製、SE2050 SPE、平均粒子径0.5μm)
【0120】
実施例5
実施例1で得られたVBE25-SN495V 40gと、エポキシ樹脂としてYDCN-700-3 5g、フェノール樹脂としてMEH-7851-S 5g、熱可塑性エラストマーとしてA1535 50g、重合開始剤としてパークミルD 1.0g、硬化促進剤として、トリフェニルホスフィン(TPP)0.4g、酸化防止剤としてAO-60 0.4gをキシレン82.8gに溶解し硬化性樹脂組成物(ワニスA)を得た。
【0121】
調製したワニスAをPETフィルム上に塗布し80℃で溶媒除去し、乾燥後PETフィルム上から塗膜を剥がし取り、単離したキャストフィルムを、180℃、3MPaの条件で1時間真空加圧プレスを行い、熱硬化させ、硬化物フィルムを得た。得られたワニスA及び硬化物フィルムについて諸特性を測定した。
【0122】
実施例6~9
表1に示す配合でワニスを調製したこと以外は、実施例5と同一の条件で試験を行った。
表1において、配合成分の配合量は、単位の記載がない場合は、wt%である。また、空白は、その成分が含まれないことを示す。試験結果を表2に示す。
【0123】
比較例2、3
表1に示す配合でワニスを調製したこと以外は、実施例5と同一の条件でワニスを調製し、試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0124】
【0125】