(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20220721BHJP
C25C 1/16 20060101ALI20220721BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20220721BHJP
C22C 11/00 20060101ALI20220721BHJP
C22B 19/32 20060101ALI20220721BHJP
B23K 20/12 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C25C7/02 306
C25C1/16 A
C23C26/00 M
C25C7/02 307
C22C11/00
C22B19/32
B23K20/12 310
(21)【出願番号】P 2018132888
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】青木 祥宏
(72)【発明者】
【氏名】川村 茂
(72)【発明者】
【氏名】村岡 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】宮野 泰征
(72)【発明者】
【氏名】高崎 康志
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敦
(72)【発明者】
【氏名】ホアン ティー スーン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一成
(72)【発明者】
【氏名】久保 尚司
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-142798(JP,A)
【文献】特表2009-512781(JP,A)
【文献】特開2013-234384(JP,A)
【文献】特開2016-060917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00- 7/08
C22B 1/00-61/00
C23C 24/00-30/00
B23K 20/00-20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、
Pbからなる基材上にPbとAgを含む合金からなる線材または粉末を載置して摩擦撹拌することにより、Pbからなる基材の表層にAg
を分散
させた複合材をアノードとして使用することを特徴とする、非鉄金属の電解採取方法。
【請求項2】
前記アノードが0.7~3質量%のAgを含むことを特徴とする、請求項
1に記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項3】
前記非鉄金属が亜鉛であり、前記非鉄金属の硫酸塩が硫酸亜鉛であることを特徴とする、請求項1
または2に記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項4】
Pbからなる基材上にPbとAgを含む合金からなる線材または粉末を載置して摩擦撹拌することによって、Pbからなる基材の表層にAgを分散させることにより、アノードを製造することを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項5】
前記アノードが0.7~3質量%のAgを含むことを特徴とする、請求項
4に記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項6】
前記非鉄金属が亜鉛であることを特徴とする、請求項
4または5に記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法に関し、特に、鉛を含むアノードを使用して硫酸亜鉛や硫酸銅などの非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から亜鉛や銅などの非鉄金属を電解採取する方法およびそのアノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノードとして硫酸に不溶なPb板またはPb-Ag合金板を使用して、硫酸亜鉛や硫酸銅などの非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から亜鉛をカソード上に析出または付着させて、亜鉛や銅などの非鉄金属を電解採取する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような非鉄金属の電解採取方法では、アノードとして、PbまたはPb-Ag合金を鋳造した後に圧延して得られる鋳造圧延板が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-20989号公報(段落番号0002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非鉄金属の電解採取において電力コストを低減させるためには、電解採取に要する電力を低減させる必要がある。この所要電力P(Ws)は、槽電圧VT(V)と電気量i(A)×t(s)との積、すなわち、P(Ws)=VT(V)×i(A)×t(s)であるから、所要電力Pを低減させるためには、槽電圧VTを低減させる必要がある。この槽電圧VTは、理論分解電圧ED(=1.229V)とオーム損EIRとアノード過電圧ηAとカソード過電圧ηCの和(VT=ED+EIR+ηA+ηC)であるから、槽電圧VTを低減させるためには、アノード過電圧ηAを低減させるのが好ましい。このアノード過電圧ηAの大部分が酸素過電圧であるから、アノード過電圧ηAを低減させるためには、酸素過電圧を低減させるのが好ましい。
【0005】
しかし、従来の非鉄金属の電解採取方法のように、アノードとしてPbまたはPb-Ag合金の鋳造圧延板を使用する方法では、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧が比較的高く、槽電圧が比較的高いため、所要電力が高く、電力コストが高くなるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができる、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbからなる基材の表層にAgが分散した複合材をアノードとして使用することにより、槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明による非鉄金属の電解採取方法は、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbからなる基材の表層にAgが分散した複合材をアノードとして使用することを特徴とする。この非鉄金属の電解採取方法において、Pbからなる基材上にPbとAgを含む合金からなる線材または粉末(または薄膜)を載置して摩擦撹拌することにより、Pbからなる基材の表層にAgを分散させるのが好ましい。また、アノードが0.7~3質量%のAgを含むのが好ましい。また、非鉄金属が亜鉛であり、非鉄金属の硫酸塩が硫酸亜鉛であるのが好ましい。
【0009】
また、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法は、Pbからなる基材の表層にAgを分散させることにより、アノードを製造することを特徴とする。この非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法において、Pbからなる基材上にPbとAgを含む合金からなる線材または粉末を載置して摩擦撹拌することにより、Pbからなる基材の表層にAgを分散させるのが好ましい。また、アノードが0.7~3質量%のAgを含むのが好ましく、非鉄金属が亜鉛であるのが好ましい。
【0010】
さらに、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードは、Pbからなる基材の表層にAgが分散していることを特徴とする。この非鉄金属の電解採取用アノードにおいて、Agの含有量が0.7~3質量%であるのが好ましく、非鉄金属が亜鉛であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができる、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本発明によるアノードの製造方法の実施の形態における摩擦撹拌を説明する図である。
【
図1B】本発明によるアノードの製造方法の実施の形態において摩擦撹拌に使用するプローブ付きツールを概略的に示す側面図である。
【
図2】実施例1の複合材の金属基材の一方の面側の表層の表面付近の断面(一方の面に略平行な断面)の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
【
図3】実施例1の定電流電解試験における槽電圧の経時変化を示す図である。
【
図4】アノード板としてPb-Ag合金からなる鋳造圧延板を使用した場合のアノード板中のAg含有率とアノード電位との関係を示す図である。
【
図5A】実施例1の複合材の(両面に略垂直な)断面におけるエネルギー分散型X線分析装置(EDS)によるAg分布像を示す図である。
【
図5B】実施例2の複合材の(両面に略垂直な)断面におけるエネルギー分散型X線分析装置(EDS)によるAg分布像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による非鉄金属の電解採取方法の実施の形態では、Pbを含むアノードを使用して、(亜鉛などの)非鉄金属の硫酸塩(硫酸亜鉛など)を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbからなる基材の表層にAgが分散した複合材をアノードとして使用する。このアノードは、0.7~3質量%のAgを含むのが好ましい。
【0014】
アノードとして使用する複合材は、Pbからなる金属基材上にPbとAgを含む合金(Pb-Ag合金)からなる金属線材または金属粉末(または金属薄膜)を載置して摩擦撹拌することにより、Pbからなる基材の表層(表面から好ましくは深さ1.9~2.2mmまで部分)にAgを分散させることによって作製するのが好ましい。
【0015】
図1Aに示すように、金属基材10上に金属線材12を載置して摩擦撹拌する場合、金属基材10の一方の主面(上面)の幅方向中央部に長手方向に沿って(金属基材10の長手方向両端間の全長にわたって)延びるように(正方形柱の金属角材などの)金属線材12を載置した後、金槌などの工具により金属線材12を金属基材10に加圧(鍛接)して、金属線材12の上面が金属基材10の上面と同一面になるように、金属線材12を金属基材10内に埋設した後、フラットツール(ショルダ面が平坦なフラット型ショルダ)14を(矢印A方向に)回転させながら所定の前進角θで金属線材12の表面に当接するように金属線材12上を長手方向(矢印B方向)に移動させて摩擦撹拌を行うことによって、金属基材10の表層に金属線材12の混入領域を形成し、その後、
図1Bに概略的に示すような(螺旋切り)プローブ付きツール(フラット型ショルダ16aのショルダ面16bの略中央部から(ねじ溝が形成された)のプローブ(ピン)16cが突設するプローブ付きショルダ16)を回転させながらプローブ16cの先端を金属線材12の混入領域に進入させて長手方向に移動させて摩擦撹拌を行うのが好ましい。この摩擦撹拌により、プローブ付きツール16のプローブ16cと金属線材12の混入領域との間に撹拌と摩擦に伴う熱と塑性流動を発生させ、この塑性流動と発生した熱によって、金属基材10の表層に金属線材12の固相撹拌領域(分散、拡散、合金化した領域)を形成して、金属基材10の表層にAgが分散した複合材を作製することができる。
【0016】
また、金属基材上に金属粉末を載置して摩擦撹拌する場合、金属基材の一方の主面(上面)に金属粉末を散布して金属粉末を金属基材の上面全体に敷き詰めた後、フラットツールを回転させながら金属粉末の表面に当接するように金属粉末上を長手方向に移動させて摩擦撹拌を行うのが好ましい。この摩擦撹拌により、フラットツールのショルダ面と金属粉末との間に撹拌と摩擦に伴う熱と塑性流動を発生させ、この塑性流動と発生した熱によって、金属基材の表層に(金属粉末から形成された)金属層の固相撹拌領域(分散、拡散、合金化した領域)を形成して、金属基材の表層にAgが分散した複合材を作製することができる。
【0017】
摩擦撹拌に使用するツールとして、結晶立方晶ホウ素(PCBN)などのセラミックス材料や、高融点金属材料、超硬合金材料、工具鋼材料(SKD)などからなるツールを使用することができる。
【0018】
ツールの回転速度は、金属基材を溶融や異常酸化させることなく摩擦撹拌可能な回転速度であればよく、摩擦撹拌熱により180~260℃の温度域に維持することができる回転速度であるのが好ましく、1400~4000ppm程度であるのが好ましい。ツールに加えられる荷重は、金属基材を溶融や異常酸化させたり溝状欠陥やバリなどを発生させることなく摩擦撹拌可能な荷重であればよく、例えば、長さ1.9mmのプローブが突設するプローブ付きツールを使用する場合、プローブの先端が金属基材の表面から進入する深さが1.9~2.2mmになるように(プローブの先端と金属線材の表面との接触点を原点とする)位置制御または荷重制御するのが好ましい。また、プローブ付きツールを使用する場合、プローブの長さを変えることにより、摩擦撹拌可能な領域(Ag分散領域)の深さを変えることができる。ツールの移動速度(トラバース速度)は、金属基材を溶融や異常酸化させたり溝状欠陥やバリなどを発生させることなく摩擦撹拌可能な移動速度であればよく、摩擦撹拌熱により180~260℃の温度域に維持することができる移動速度であるのが好ましい。なお、摩擦撹拌を繰り返す回数(パス数)を増加することにより、金属基材へのAgの分散性を向上させることができる。なお、摩擦撹拌を行うツールとして、上述したフラットツールやプローブ付きツールの他、(ショルダ面が半球状または球面の一部のように湾曲した)先端湾曲ショルダや、(ショルダ面に螺旋状の突起を設けた)スクロールショルダなど、固相撹拌領域の形成に適した各種形状のツールを選択して使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明による非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0020】
[実施例1]
金属基材として70mm×100mm×10mmの大きさのPbからなる(直方体の)板材(純Pb板)を用意するとともに、金属線材として1.64mm×1.64mm×100mmの大きさの(15質量%のAgを含む)Pb-Ag合金からなる(正方形柱の)角材を用意した。
【0021】
次に、金属基材の一方の主面(上面)の幅方向中央部に長手方向に沿って(金属基材の長手方向両端間の全長にわたって)延びるように金属線材を載置した後、金属線材を金属基材に加圧して、金属線材の上面が金属基材の上面と同一面になるように、金属線材を金属基材内に埋設した。なお、金属基材と金属線材の合計の質量に対するAgの質量は2質量%である。
【0022】
次に、工具鋼(SKD61)からなるフラットツール(ショルダ直径15mmのショルダ面が平坦なフラット型ショルダ)を回転速度4000ppmで回転させながら、前進角(ツールの移動方向に対するツールの角度(進行方向の逆側が正))を3°として、ショルダ面が金属線材の表面に当接(ショルダ面が金属線材の表面から深さ0mmに配置)するように移動速度10mm/分で金属線材上を長手方向に1回(1パス)移動させて(撹拌熱を180~260℃の温度域に維持して)摩擦撹拌を行うことにより、金属線材を金属基材内に混入させた。
【0023】
次に、工具鋼(SKD61)からなるプローブ付きツール(ショルダ直径15mmのフラット型ショルダのショルダ面の略中央部から(左ねじ溝が形成された)長さ1.9mm、直径6mmのプローブが突設するプローブ付きショルダ)を回転速度4000ppmで回転させながら、前進角を3°として、プローブの先端が金属線材の表面から深さ2mmに配置するように移動速度10mm/分で金属線材上を長手方向に2回(2パス)移動させて(撹拌熱を180~260℃の温度域に維持して)位置制御方式(ツールのプローブの先端と金属線材の表面との接触点を原点とする方式)による摩擦撹拌を行うことにより、金属基材の一方の面側の表層にAgが分散した複合材を作製した。この複合材の金属基材の一方の面側の表層の表面付近の断面(一方の面に略平行な断面)の走査電子顕微鏡(SEM)写真を
図2に示す。
【0024】
このようにして得られた複合材から切り出した板材をアノード板(電極面10mm×10mm)として使用し、カソード板として純Alからなるカソード板(電極面10mm×10mm)を使用し、アノード板の一方の面(Agが分散した表層)側をカソード板に極間距離30mmで対向させ、参照電極としてAg/AgCl電極を使用し、220g/Lの硫酸を含む電解液500mLを使用して、40℃において電流密度50A/m
2で定電流電解を48時間行った。この定電流電解試験において、エレクトロメータから得られた槽電圧(=理論分解電圧+オーム損+アノード過電圧+カソード過電圧)の経時変化を求めた。この定電流電解試験における槽電圧の経時変化を
図3に示す。その結果、定電流電解を48時間行った後の槽電圧は、2.64Vであり、アノード板として従来の(2質量%のAgを含む)Pb-Ag合金からなる鋳造圧延板を使用した場合の槽電圧(2.88V)と比べて低かった。なお、この定電流電解試験中にアノードからAgが剥がれ落ちることは(目視では)認められなかった。
【0025】
[実施例2]
金属基材として実施例1と同様の金属基材を用意するとともに、金属粉末として純Ag粉末(レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50径)が13μmで累積99%粒子径(D99径)が80μm以下のアトマイズ粉)を用意した。
【0026】
次に、金属基材の一方の主面(上面)に金属粉末を散布して、(摩擦撹拌後に金属基材と金属粉末の合計の質量に対するAgの質量が2質量%になるように)金属粉末を金属基材の上面全体に敷き詰めた後、実施例1と同様のフラット型ショルダを回転速度4000ppmで回転させながら、前進角を3°として、ショルダ面が金属粉末の表面に当接(ショルダ面が金属粉末の表面から深さ0mmに配置)するように移動速度10mm/分で金属粉末上を長手方向に2回(2パス)移動させて摩擦撹拌を行うことにより、金属基材の一方の面側の表層にAgが分散した複合材を作製した。
【0027】
このようにして得られた複合材から切り出した板材をアノード板として使用し、実施例1と同様の方法により、定電流電解試験を行って槽電圧の経時変化を求めた。その結果、定電流電解を48時間行った後の槽電圧は、2.63Vであり、アノード板として従来の(2質量%のAgを含む)Pb-Ag合金からなる鋳造圧延板を使用した場合の槽電圧(2.88V)と比べて低かった。なお、この定電流電解試験中にアノードからAgが僅かに剥がれ落ちていることが目視により認められ、実施例1と比べて耐久性に劣っていた。
【0028】
これらの実施例の結果を表1に示す。なお、表1において、定電流電解試験中にアノードからAgが剥がれ落ちることが目視では認められず、耐久性に優れている場合を○、Agが僅かに剥がれ落ちていることが目視により認められ、僅かに耐久性に劣っている場合を△で示している。
【0029】
【0030】
実施例1~2の結果から、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、実施例1~2のように、Pbからなる基材の表層にAgが分散した複合材をアノードとして使用すれば、従来のPb-Ag合金からなる鋳造圧延板をアノードとして使用する場合と比べて、槽電圧を低減させることができるので、所要電力を低減させることができることがわかる。
【0031】
また、アノードとして従来のPb-Ag合金からなる鋳造圧延板を使用した場合のアノード中のAg含有率とアノード電位の関係を
図4に示す。
図4中の線は、アノード電位を複数回測定した場合の平均値を示している。
図4に示すように、アノードとして従来のPb-Ag合金からなる鋳造圧延板を使用した場合にアノード中のAg含有率が2質量%のときにアノード電位が最も低くなることから、実施例1において金属基材と金属線材の合計の質量に対するAgの質量を2質量%とし、実施例2において摩擦撹拌後に金属基材と金属粉末の合計の質量に対するAgの質量が2質量%になるようにした。
【0032】
なお、アノードとして従来のPb-Ag合金からなる鋳造圧延板を使用した場合にアノード中のAg含有率を2質量%程度まで高くすると、アノードの製造コストが非常に高くなるが、実施例1~2のように、Pbからなる基材の表層にAgが分散した複合材をアノードとして使用すれば、従来のPb-Ag合金からなる鋳造圧延板をアノードとして使用する場合と比べて、アノードの製造コストを大幅に削減することができる。
【0033】
また、実施例1および2の複合材の(両面に略垂直な)断面における(走査電子顕微鏡(SEM)付属の)エネルギー分散型X線分析装置(EDS)によるAg分布像をそれぞれ
図5Aおよび
図5Bに示す。
【符号の説明】
【0034】
10 金属基材
12 金属線材
14 フラットツール
16 プローブ付きツール
16a フラット型ショルダ
16b ショルダ面
16c プローブ