(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220721BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220721BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220721BHJP
H01L 51/46 20060101ALI20220721BHJP
H01L 51/48 20060101ALI20220721BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20220721BHJP
H01L 51/30 20060101ALI20220721BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220721BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H05B33/14 A
H01L27/32
H05B33/10
H01L31/04 154C
H01L31/04 154D
H01L31/04 154E
H01L31/04 162
H01L31/04 166
H01L31/04 184
H01L29/28 100A
H01L29/28 250H
G09F9/30 365
G09F9/00 338
(21)【出願番号】P 2018147719
(22)【出願日】2018-08-06
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 健二
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178819(JP,A)
【文献】特開2017-033929(JP,A)
【文献】特開2009-295822(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142036(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157451(WO,A1)
【文献】特開2013-147481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H01L 27/32
H05B 33/10
H01L 51/46
H01L 51/48
H01L 51/05
H01L 51/30
G09F 9/30
G09F 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1-1)~
(1-4)で示されるいずれか一種の化合物と、電子を輸送する材料とを含むことを特徴とする有機薄膜。
【化1】
【請求項2】
前記一般式(1-1)~
(1-4)で示されるいずれか一種の化合物を0.1~400質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜。
【請求項3】
前記電子を輸送する材料が、下記一般式(a)~(k)で示されるいずれか一種の化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機薄膜。
【化2】
【請求項4】
陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層との間に請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の有機薄膜を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
基板上に形成された陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記基板上に前記陰極を形成する工程と、
前記陰極上に前記発光層を含む積層構造を形成する工程と、
前記積層構造上に前記陽極を形成する工程とを含み、
前記積層構造を形成する工程が、前記陰極に接して金属酸化物膜を設ける工程と、前記金属酸化物膜の前記発光層側にヒドリド還元剤を含む
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の有機薄膜を真空蒸着法により形成する工程とを含み、
前記
有機薄膜を形成する工程から前記陽極を形成する工程までを、真空一貫で行うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項7】
請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項8】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の有機薄膜を含むことを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【請求項9】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の有機薄膜を含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項10】
下記一般式(1-1)~
(1-4)で示されるいずれか一種の化合物と電子を輸送する材料とを、真空蒸着法により共蒸着する工程を含むことを特徴とする有機薄膜の製造方法。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子および有機EL素子の製造方法、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、低電圧で駆動できる、薄型化、軽量化、フレキシブル化が可能であるなどの特徴を有している。このため、有機EL素子は、画像表示装置および照明装置に好適に用いられている。
有機EL素子は、陰極と陽極との間に、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の複数の層が積層された構造を有している。有機EL素子としては、基板と発光層との間に陽極が配置された順構造のものと、基板と発光層との間に陰極が配置された逆構造のものとがある。逆構造の有機EL素子では、これを画像表示装置などに用いる場合に、陰極とトランジスタなどとを容易に接続できる。
【0003】
有機EL素子は、陰極と発光層と陽極とが積層されたものである。有機EL素子では、陽極の仕事関数と発光層の最高占有軌道(HOMO)エネルギー差は、陰極の仕事関数と発光層の最低非占有軌道(LUMO)エネルギー差と比較して小さい。したがって、発光層に、陽極から正孔を注入することと比較して、陰極から電子を注入することは困難である。このため、従来の有機EL素子では、陰極と発光層との間に、電子注入層を配置して、陰極から発光層への電子の注入を促進している。
【0004】
また、陰極と発光層との間に配置される層にドーパントをドーピングすることで、電子注入・輸送性を改善する取り組みもなされている。ドーパントとしては、電子供与性の化合物であってヒドリド還元を行うヒドリド還元剤が用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。
また、リチウムなどのアルカリ金属を用いない大気中で安定なn型ドーパント材料が報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-184430号公報
【文献】特開2012-151148号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】K.Walzerら、Chemical Review,vol.107,p.1233(2007)
【文献】P.Weiら、Journal of American Chemical Society,vol.132,p.8852(2010)
【文献】H.Choら、Science,vol.350,p.1222(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子注入層を含む有機EL素子では、電子注入性をより一層向上させることが要求されている。従来、電子注入・輸送性を改善するヒドリド還元剤であるドーパント材料と、電子を輸送する材料とを含む塗布液を用いて、有機EL素子の電子注入層を形成することにより、電子注入性の良好な有機EL素子を製造できる。
【0008】
一方、電子注入層を含む有機EL素子では、生産性を向上させるために、真空蒸着法により電子注入層を形成することが望まれている。また、基板として樹脂フィルムを用いたフレキシブル有機EL素子を製造する場合、製造過程において水分が含有する機会を可能な限り減らすために、真空蒸着法により電子注入層を形成することも一つの方法である。
しかしながら、ヒドリド還元剤であるドーパント材料を含む良好な電子注入性の得られる電子注入層は、塗布法以外の方法では形成できなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、塗布法でも真空蒸着法でも形成でき、有機EL素子の電子注入層に用いた場合に、優れた電子注入性が得られる有機薄膜およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、優れた電子注入性を有する有機EL素子およびその製造方法、有機EL素子を備えた表示装置および照明装置、本発明の有機薄膜を含む有機薄膜太陽電池および有機薄膜トランジスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、ヒドリド還元剤として機能する後述する一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを含む有機薄膜が、塗布法でも真空蒸着法でも形成でき、一般式(1)で示される化合物を含まず電子を輸送する材料のみを含む薄膜と比較して、有機EL素子の電子注入層に用いた場合の電子注入性が良好であることを見出し、本発明を想到した。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
[1]下記一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料とを含むことを特徴とする有機薄膜。
【0012】
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
5はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシル基、ジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリール基、-NR
12R
13のいずれかであり、R
1~R
5のうち1つまたは2つは-NR
12R
13である。R
12、R
13はそれぞれ置換基を有していてもよいアリール基またはアルキル基であり、R
12とR
13のうち少なくとも一方は置換基を有していてもよいアリール基であり、R
12とR
13が一体となって環構造を形成してもよい。R
6、R
7はそれぞれ炭素数1~7の鎖状または環状のアルキル基である。R
8~R
11はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基であり、R
8~R
11のうちの隣接する基同士が一体となって環構造を形成してもよい。)
【0013】
[2]前記一般式(1)で示される化合物が、下記一般式(1-1)~(1-5)で示されるいずれか一種の化合物であることを特徴とする[1]に記載の有機薄膜。
【0014】
【0015】
[3]前記一般式(1)で示される化合物を0.1~400質量%含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の有機薄膜。
【0016】
[4]前記電子を輸送する材料が、下記一般式(a)~(k)で示されるいずれか一種の化合物であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の有機薄膜。
【0017】
【0018】
[5]陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層との間に[1]~[4]のいずれかに記載の有機薄膜を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
[6]基板上に形成された陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記基板と前記発光層との間に前記陰極が配置され、前記陰極と前記発光層との間に電子注入層が設けられ、前記電子注入層が前記陰極に接して形成された金属酸化物膜と、前記金属酸化物膜の前記発光層側に形成された薄膜とを有し、
前記薄膜が、ヒドリド還元剤を含み、真空蒸着法により形成されたものであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
[7]基板上に形成された陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記基板上に前記陰極を形成する工程と、
前記陰極上に前記発光層を含む積層構造を形成する工程と、
前記積層構造上に前記陽極を形成する工程とを含み、
前記積層構造を形成する工程が、前記陰極に接して金属酸化物膜を設ける工程と、前記金属酸化物膜の前記発光層側にヒドリド還元剤を含む薄膜を真空蒸着法により形成する工程とを含み、
前記薄膜を形成する工程から前記陽極を形成する工程までを、真空一貫で行うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0020】
[8][5]または[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
[9][5]または[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【0021】
[10][1]~[4]のいずれかに記載の有機薄膜を含むことを特徴とする有機薄膜太陽電池。
[11][1]~[4]のいずれかに記載の有機薄膜を含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【0022】
[12]下記一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを、真空蒸着法により共蒸着する工程を含むことを特徴とする有機薄膜の製造方法。
【0023】
【化4】
(一般式(1)中、R
1~R
5はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシル基、ジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリール基、-NR
12R
13のいずれかであり、R
1~R
5のうち1つまたは2つは-NR
12R
13である。R
12、R
13はそれぞれ置換基を有していてもよいアリール基またはアルキル基であり、R
12とR
13のうち少なくとも一方は置換基を有していてもよいアリール基であり、R
12とR
13が一体となって環構造を形成してもよい。R
6、R
7はそれぞれ炭素数1~7の鎖状または環状のアルキル基である。R
8~R
11はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基であり、R
8~R
11のうちの隣接する基同士が一体となって環構造を形成してもよい。)
【発明の効果】
【0024】
本発明の有機薄膜は、ヒドリド還元剤として機能する一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料とを含むものであり、塗布法でも真空蒸着法でも形成できる。本発明の有機薄膜では、一般式(1)で示される化合物がn型ドーパントとして機能する。このため、本発明の有機薄膜は、一般式(1)で示される化合物を含まず電子を輸送する材料のみを含む薄膜と比較して、有機EL素子の電子注入層に用いた場合に、優れた電子注入性が得られる。
【0025】
本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間にヒドリド還元剤を含み真空蒸着法により形成できる薄膜を有するため、真空蒸着法を用いて効率よく生産できるとともに、優れた電子注入性が得られる。
本発明の有機EL素子の製造方法では、薄膜を形成する工程から陽極を形成する工程までを真空一貫で行うため、効率よく生産できる。また、本発明の有機EL素子の製造方法では、製造過程において水分が含有する機会が少ないため、水分含有量の少ない有機EL素子が得られる。
【0026】
本発明の表示装置および照明装置は、本発明の有機EL素子を備えているため、真空蒸着法を用いて効率よく生産できるとともに、駆動電圧が低く、優れた特性を有する。
また、本発明の有機薄膜太陽電池および有機薄膜トランジスタは、本発明の有機薄膜を含むものであるため、真空蒸着法を用いて効率よく生産できるとともに、優れた特性を有する。
【0027】
本発明の有機薄膜の製造方法は、一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを、真空蒸着法により共蒸着する工程を含む。したがって、本発明の有機薄膜の製造方法を用いて、本発明の有機薄膜を有する有機EL素子を製造する場合、例えば、真空一貫で効率よく有機EL素子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
【
図2】実施例1と比較例1の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例2-1および2-2と比較例2の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例3と比較例3の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例4と比較例4の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例5と比較例5の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例6と比較例6の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例7と比較例7の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について、詳細に説明する。
「有機薄膜」
本実施形態の有機薄膜は、下記一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料とを含む。有機薄膜中に含まれる一般式(1)で示される化合物は、ジヒドロベンゾイミダゾール骨格を有していることにより、電子を輸送する材料に電子を与えるヒドリド還元剤であり、いわゆるn型ドーパントとして機能する。このため、本実施形態の有機薄膜は、一般式(1)で示される化合物を含まず電子を輸送する材料のみを含む薄膜と比較して、良好な電子注入・輸送性を有する。
【0030】
【化5】
(一般式(1)中、R
1~R
5はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシル基、ジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリール基、-NR
12R
13のいずれかであり、R
1~R
5のうち1つまたは2つは-NR
12R
13である。R
12、R
13はそれぞれ置換基を有していてもよいアリール基またはアルキル基であり、R
12とR
13のうち少なくとも一方は置換基を有していてもよいアリール基であり、R
12とR
13が一体となって環構造を形成してもよい。R
6、R
7はそれぞれ炭素数1~7の鎖状または環状のアルキル基である。R
8~R
11はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基であり、R
8~R
11のうちの隣接する基同士が一体となって環構造を形成してもよい。)
【0031】
一般式(1)中、R1~R5はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシル基、ジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアリール基、-NR12R13のいずれかである。
R1~R5のうち1つまたは2つは-NR12R13であり、1つが-NR12R13であることが好ましい。-NR12R13がR1~R5のうち1つである場合、R3が-NR12R13であることが好ましい。R3が-NR12R13である場合、一般式(1)で示される化合物がドーパントとして機能する際に発生するラジカルカチオン種(非特許文献2参照)が安定化するため、効率よくドーピングを行うことができる。
【0032】
R1~R5のうち-NR12R13でないものは、それぞれ異なっていてもよいし、一部または全部が同じであってもよい。R1~R5のうち-NR12R13でないものは、全て水素原子であることが好ましい。
【0033】
R12、R13はそれぞれ置換基を有していてもよいアリール基またはアルキル基である。R12とR13のうち少なくとも一方は置換基を有していてもよいアリール基である。このことにより、一般式(1)で示される化合物が、真空蒸着法により形成する際に膜厚などを制御できる分子量を有するものとなる。R12とR13は同じであってもよいし、異なっていてもよい。R12とR13が同じである場合、一般式(1)で示される化合物の合成が容易となるため、一般式(1)で示される化合物の入手が容易である。このため、R12およびR13は置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましく、一般式(1)で示される化合物の入手が容易であるため、フェニル基である(すなわち、ジフェニルアミン基を形成している)ことが好ましい。R12とR13は一体となって環構造を形成してもよく、R12とR13が一体となってカルバゾールを形成していることが好ましい。
【0034】
R6、R7はそれぞれ炭素数1~7の鎖状または環状のアルキル基であり、メチル基、ベンジル基、シクロヘキシル基のいずれかであることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。R6とR7は同じであってもよいし、異なっていてもよく、同じであることが好ましい。
【0035】
R8~R11はそれぞれ水素原子、炭素数1~6の鎖状または環状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基であり、R8~R11のうちの隣接する基同士が一体となって環構造を形成してもよい。R8~R11はそれぞれ異なっていてもよいし、一部または全部が同じであってもよい。R8~R11は、全部が水素原子であることが好ましい。R8~R11のうちの隣接する基同士が一体となって環構造を形成している場合、例えば、R8とR9が一体となってベンゼン環を形成しているとともに、R10とR11が一体となってベンゼン環を形成していることが好ましい。
【0036】
一般式(1)で示される化合物としては、具体的には、下記一般式(1-1)~(1-5)で示されるいずれか一種の化合物などが挙げられ、これらの中でも有機薄膜中におけるn型ドーパントとしての機能が良好であるため、一般式(1-5)で示される(4-(1,3-ジメチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)フェニル)ジフェニルアミン(N-DPBI)が好ましい。
【0037】
【0038】
本実施形態の有機薄膜に含まれる一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料との混合比は、特に限定されるものではなく、使用する化合物の種類や有機薄膜に求める性能に応じて適宜決定できる。
本実施形態の有機薄膜には、一般式(1)で示される化合物が0.1~400質量%含まれていることが好ましく、1~100質量%含まれていることがより好ましい。一般式(1)で示される化合物の含有量が0.1質量%以上であると、一般式(1)で示される化合物を含むことによる電子輸送性および電子注入性の向上効果が顕著となる。一般式(1)で示される化合物の含有量が400質量%以下であると、本実施形態の有機薄膜を有する有機EL素子を長時間駆動した場合に、一般式(1)で示される化合物が不純物として作用することによる悪影響が生じにくく、好ましい。
【0039】
一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料との割合は、電子を輸送する材料100質量%に対して、一般式(1)で示される化合物を0.1~400質量%含むことが好ましく、1~100質量%含むことがより好ましい。上記混合比である場合、有機薄膜が一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを含むことによる電子輸送性および電子注入性の向上効果が顕著となる。
【0040】
電子を輸送する材料は、電子を輸送する材料であればよく、有機材料であることが好ましく、例えば、有機EL素子の電子輸送層の材料として従来公知のいずれの材料を用いることができる。
電子を輸送する材料としては、具体的には、フェニル-ディピレニルホスフィンオキサイド(POPy2)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy),等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、ホウ素含有化合物、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)のようなジアザビシクロノネン誘導体、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)のようなジアザビシクロウンデセン誘導体、ジメチルアミノピリジン(DMAP)やトリエチルアミンのような三級アミン誘導体、フォスファゼン誘導体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
電子を輸送する材料は、下記一般式(a)~(k)で示されるいずれか一種の化合物であることが好ましい。これらの中でも、一般式(a)(k)で示されるトリアジン誘導体、一般式(j)で示されるホウ素含有化合物が好ましく、一般式(j)で示されるホウ素含有化合物が特に好ましい。
【0042】
【0043】
本実施形態の有機薄膜は、一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料のみからなるものであってもよいし、本発明の効果が得られる範囲で、一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料の他の材料を含むものであってもよい。
【0044】
「有機薄膜の製造方法」
次に、本実施形態の有機薄膜の製造方法について、例を挙げて説明する。
本実施形態の有機薄膜の製造方法は、上記の一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを、真空蒸着法により共蒸着する工程を含む。
一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを共蒸着する際の条件は、使用する化合物の種類などに応じて適宜決定でき、特に限定されない。例えば、一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを同時に加熱し、有機薄膜中の一般式(1)で示される化合物の濃度(ドーパント濃度)に応じた蒸着速度で、一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを同時に成膜する方法を用いることができる。
【0045】
本実施形態の有機薄膜は、例えば、以下に示す塗布法を用いて製造してもよい。
まず、上記の一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを少なくとも含む塗料組成物を、有機薄膜の被形成面上に塗布する。
【0046】
塗料組成物は、例えば、容器に入れた溶媒中に、一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とをそれぞれ所定量供給して撹拌し、溶解させる方法により得られる。
一般式(1)で示される化合物および電子を輸送する材料を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、無機溶媒や有機溶媒、またはこれらを含む混合溶媒等を用いることができる。
無機溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等が挙げられる。
【0047】
有機溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン等を用いることができる。
【0048】
一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料を含む塗料組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。
【0049】
このようにして塗料組成物を塗布して塗膜を形成した後、アニール処理を施すことが好ましい。アニール処理の条件は、70~200℃で0.1~5時間、窒素雰囲気または大気下で行うことが好ましい。このようなアニール処理を施すことにより、溶媒を気化させて有機薄膜を成膜できる。
【0050】
本実施形態の有機薄膜は、一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料とを含む。本実施形態の有機薄膜は、真空蒸着法により形成できる。また、本実施形態の有機薄膜では、一般式(1)で示される化合物がn型ドーパントとして機能する。このため、本実施形態の有機薄膜は、一般式(1)で示される化合物を含まない薄膜と比較して、有機EL素子の電子注入層に用いた場合に、優れた電子注入性が得られる。
また、本実施形態の有機薄膜は、真空蒸着法だけでなく、塗布法を用いて製造することもできる。したがって、多様な用途に適用できる。
【0051】
本実施形態の有機薄膜の製造方法は、一般式(1)で示される化合物と電子を輸送する材料とを、真空蒸着法により共蒸着する工程を含む。したがって、本実施形態の有機薄膜の製造方法を用いて、本実施形態の有機薄膜を有する有機EL素子を製造する場合、例えば、真空一貫で効率よく有機EL素子を製造できる。
【0052】
「有機EL素子」
図1(a)および
図1(b)は、本実施形態の有機EL素子の一例を説明するための断面模式図である。
本実施形態の有機EL素子10、11は、陽極9(電極)と陰極3(電極)との間に、発光層6を含む積層構造が形成されているものである。本実施形態の有機EL素子10、11は、陰極3と発光層6との間に上述した実施形態の有機薄膜を有する。
本実施形態の有機EL素子10、11は、
図1(a)に示すように、基板2と発光層6との間に陰極3が配置された逆構造のものであってもよいし、
図1(b)に示すように、基板2と発光層6との間に陽極9が配置された順構造のものであってもよい。
【0053】
具体的には、
図1(a)に示す有機EL素子10は、基板2上に陰極3と、電子注入層1と、電子輸送層5と、発光層6と、正孔輸送層7と、正孔注入層8と、陽極9とがこの順に形成されたものである。
図1(b)に示す有機EL素子11は、基板2上に陽極9と、正孔注入層8と、正孔輸送層7と、発光層6と、電子輸送層5と、電子注入層1と、陰極3とがこの順に形成されたものである。
【0054】
本実施形態の有機EL素子10、11では、有機EL素子10、11を形成している各層のうち、正孔注入層8と電子輸送層5のいずれか一方または両方が設けられていなくてもよい。各層は、それぞれ一層のみで形成されていてもよいし、二層以上の積層構造であってもよい。
図1に示す有機EL素子は、基板と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0055】
(基板)
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。基板2の材料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子10が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0056】
有機EL素子がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0057】
基板2の平均厚さは、0.1~30mmであることが好ましく、より好ましくは0.1~10mmである。
基板2の平均厚さはデジタルマルチメーター、ノギスなどにより測定できる。
【0058】
(陰極)
陰極3の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、InSnZnO(インジウム酸化亜鉛錫、ITZO)、In3O3、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物の導電材料を用いることが好ましい。これらの中でも特に、陰極3の材料としてITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
【0059】
陰極3の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、より好ましくは100~200nmである。
【0060】
(電子注入層)
電子注入層1は、陰極3から発光層6へ電子を注入するための層である。本実施形態の有機EL素子10、11の電子注入層1は、一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料とを含む上述した有機薄膜を含む。電子注入層1は、上述した有機薄膜のみで形成されていてもよいし、上述した有機薄膜と、一層または複数層のその他の材料を用いた薄膜との積層構造であっても良い。
【0061】
その他の材料を用いた薄膜は、有機材料からなるものであってもよいし、無機材料からなるものであってもよい。
電子注入層1に含まれる有機材料からなる薄膜の材料としては、上述した電子を輸送する材料を用いることができる。
【0062】
電子注入層1に含まれる無機材料からなる薄膜の材料としては、金属酸化物など種々の公知の材料を用いることができる。電子注入層1に用いる金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素が挙げられる。電子注入層1に用いる材料としては、上述した金属酸化物の中でも特に、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ジルコニウムおよびその混合物から選ばれる1種以上の金属酸化物が好ましい。
【0063】
電子注入層1に含まれる無機材料からなる薄膜の材料としては、アルカリ金属や、アルカリ土類金属の他、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、炭酸セシウム等を用いてもよい。
本実施形態の有機EL素子10、11では、電子注入層1として、陰極3に接して形成された金属酸化物膜と、金属酸化物膜の発光層6側に形成された本実施形態の有機薄膜とが積層されたものを用いることが好ましい。このような電子注入層1は、特に優れた電子注入性を有する。
【0064】
電子注入層1を形成している各薄膜の平均厚さは、特に限定されないが、0.5~100nmであることが好ましく、より好ましくは0.8~50nmである。電子注入層1の平均厚さが1nm以上であると、電子注入層1を有することによる効果が顕著となり、有機EL素子10、11の低電圧化につながる。また、電子注入層1の平均厚さが100nm以下であると、電子注入層1を設けることによる有機EL素子10、11の駆動電圧の上昇を十分に抑制できる。
電子注入層1の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。または、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0065】
(電子輸送層)
電子輸送層5の材料としては、電子輸送層5の材料として通常用いることができるいずれの材料も用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
電子輸送層5の材料として用いることができる低分子化合物の例としては、ビス[2-(o-ヒドロキシフェニルベンゾチアゾール]亜鉛(II)(ZnBTZ2)、ホウ素含有化合物、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)等に代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、特願2012-228460、特願2015-503053、特願2015-053872、特願2015-081108および特願2015-081109に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、ZnBTZ2が好ましい。
【0066】
電子輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、より好ましくは、40~100nmである。
電子輸送層5の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定できる。
【0067】
(発光層)
発光層6を形成する材料は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよいし、これらを混合して用いてもよい。
【0068】
発光層6を形成する高分子化合物としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特許文献1および特許文献2に記載のホウ素化合物系高分子化合物等が挙げられる。
【0069】
発光層6を形成する低分子化合物としては、リン光発光材料の他、8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、トリス[1-フェニルイソキノリン-C2,N]イリジウム(III)(Ir(piq)3)、ビス[2-(o-ヒドロキシフェニルベンゾチアゾール]亜鉛(II)(ZnBTZ2)トリス(4-メチル-8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq3)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq2)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物、ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物、ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物、コロネンのようなコロネン系化合物、アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物、ピレンのようなピレン系化合物、4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物、アクリジンのようなアクリジン系化合物、スチルベンのようなスチルベン系化合物、4,4’-ビス[9-ジカルバゾリル]-2,2’-ビフェニル(CBP)、4、4’-ビス(9-エチルー3-カルバゾビニレン)-1,1’-ビフェニル(BCzVBi)のようなカルバゾール系化合物、2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物、ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物、ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物、2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物、ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物、ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物、クマリンのようなクマリン系化合物、ペリノンのようなペリノン系化合物、オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物、キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物、2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物、フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0070】
発光層6としては、可視光を発光する材料以外に、例えば赤外の発光を示す有機材料を用いることもできる。また、発光層6の材料としては、例えば量子ドットやCH3NH3PbBr3に代表されるようなペロブスカイト構造の材料(例えば、非特許文献3参照。)を用いてもよい。発光層6の材料としては、蛍光材料やリン光材料に加え、熱活性化遅延蛍光材料を用いてもよい。
【0071】
発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましくより好ましくは20~100nmである。
発光層6の平均厚さは、発光層6の材料が低分子化合物である場合、水晶振動子膜厚計により測定できる。発光層6の材料が高分子化合物である場合、接触式段差計により測定できる。
【0072】
(正孔輸送層)
正孔輸送層7の材料としては、正孔輸送層7の材料として通常用いることができるいずれの材料も用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
【0073】
正孔輸送層7の材料としては、N4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニルー4,4’-ジアミン(DBTPB)、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OxZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m-MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4,-オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7,-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フルオレンのようなフルオレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
これらの中でも、DBTPB、α-NPD、TPTEのようなアリールアミン系化合物が好ましい。
【0074】
正孔輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、40~100nmである。
正孔輸送層7の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定できる。
【0075】
(正孔注入層)
正孔注入層8は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。
正孔注入層8が有機材料である場合、正孔注入層8の材料として、例えばテトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等を用いることができる。
【0076】
正孔注入層8が無機材料である場合、正孔注入層8の材料として、酸化バナジウム(V2O5)、三酸化モリブデン(酸化モリブデン:MoO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等のうち、1種または2種以上の酸化物を用いることが好ましい。これらの中でも特に、酸化バナジウムまたは酸化モリブデンを主成分とすることが好ましい。
【0077】
正孔注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。
正孔注入層8の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0078】
(陽極)
陽極9の材料としては、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金等が挙げられる。この中でも陽極9の材料として、Au、Ag、Alのいずれかを用いることが好ましい。
【0079】
陽極9の平均厚さは、特に限定されないが、例えば10~1000nmであることが好ましく、より好ましくは30~150nmである。
有機EL素子がトップエミッション型のものである場合には、陽極9の材料として、ITO(インジウム酸化錫)などの透明な材料を用いることが好ましい。有機EL素子がトップエミッション型のものであって、陽極9の材料として照射光に不透明な材料を用いる場合、平均厚さを10~30nm程度にすることで、透明な陽極9として使用できる。
陽極9の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定できる。
【0080】
「他の例」
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
例えば、
図1に示す有機EL素子10、11において、電子輸送層5、正孔輸送層7、正孔注入層8は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陰極3、電子注入層1、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0081】
また、
図1に示す有機EL素子10、11は、陰極3、電子注入層1、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の各層の間に、他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて、電子阻止層などを有していてもよい。
【0082】
本実施形態では、陰極3と陽極9との間に発光層6を有し、陰極3と発光層6との間に電子注入層1が設けられた
図1(a)に示す逆構造の有機EL素子である場合、電子注入層1は、陰極3に接して形成された金属酸化物膜と、金属酸化物膜の発光層6側に形成されたヒドリド還元剤を含み真空蒸着法により形成された薄膜とを有するものであればよい。
ヒドリド還元剤を含み真空蒸着法により形成された薄膜は、ヒドリド還元剤を含み真空蒸着法により形成されたものであればよく、上述した一般式(1)で示される化合物と、電子を輸送する材料とを含む薄膜の他に、例えば、特許6312556号公報に記載の化合物などからなる薄膜が挙げられる。
【0083】
このような有機EL素子10では、電子注入層1が、陰極3に接して形成された金属酸化物膜と、金属酸化物膜の発光層6側に形成されたヒドリド還元剤を含み真空蒸着法により形成された薄膜とを有するため、真空蒸着法を用いて効率よく生産できるとともに、ヒドリド還元剤を含む薄膜による優れた電子注入性が得られる。
【0084】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本実施形態の有機EL素子の製造方法について説明する。
図1(a)に示す逆構造の有機EL素子10を製造するには、基板2上に陰極3を形成する工程と、陰極3上に発光層6を含む積層構造を形成する工程と、積層構造上に陽極9を形成する工程とを行う。
積層構造を形成する工程では、陰極3上に上述した有機薄膜を含む電子注入層1と、電子輸送層5と、発光層6と、正孔輸送層7と、正孔注入層8とをこの順に形成する。
図1(a)に示す逆構造の有機EL素子10は、電子注入層1を形成する工程以外は、従来の製造方法を用いて製造できる。
【0085】
本実施形態における電子注入層1を形成する工程では、陰極3に接して金属酸化物膜を設ける工程と、金属酸化物膜の発光層6側に上述した有機薄膜の製造方法により有機薄膜を形成する工程とを行うことが好ましい。
このことにより、陰極3に接して形成された金属酸化物膜と、金属酸化物膜の発光層6側に形成された有機薄膜とが積層された電子注入層1を形成できる。
また、金属酸化物膜と有機薄膜とが積層された電子注入層1を製造する場合、有機薄膜を形成する工程から陽極9を形成する工程までを、真空一貫で行うことが好ましい。このことにより、より一層効率よく有機EL素子10を生産できる。
【0086】
図1(b)に示す順構造の有機EL素子11を製造するには、基板2上に陽極9を形成する工程と、陽極9上に発光層6を含む積層構造を形成する工程と、積層構造上に陰極3を形成する工程とを行う。
積層構造を形成する工程では、陽極9上に正孔注入層8と、正孔輸送層7と、発光層6と、電子輸送層5と、上述した有機薄膜を含む電子注入層1とをこの順に形成する。
図1(b)に示す順構造の有機EL素子11は、上述した有機薄膜の製造方法により電子注入層1に含まれる有機薄膜を形成すること以外は、従来の製造方法を用いて製造できる。
【0087】
本実施形態の有機EL素子10、11は、陰極3と発光層6との間に本実施形態の有機薄膜を有するため、真空蒸着法を用いて効率よく生産できるとともに、有機薄膜による優れた電子注入性が得られる。
【0088】
また、本発明の有機EL素子10が、陰極3と陽極9との間に発光層6を有し、陰極3と発光層6との間に電子注入層1が設けられた
図1(a)に示す逆構造のものであって、電子注入層1が、陰極3に接して形成された金属酸化物膜と、金属酸化物膜の発光層6側に形成されたヒドリド還元剤を含み真空蒸着法により形成された薄膜とを有する場合、以下に示す方法により製造できる。
すなわち、上記の積層構造を形成する工程において、金属酸化物膜の発光層6側にヒドリド還元剤を含む薄膜を真空蒸着法により形成し、薄膜を形成する工程から陽極9を形成する工程までを、真空一貫で行う方法により製造できる。
【0089】
「表示装置」
本実施形態の表示装置は、上述した実施形態の有機EL素子を複数配列した素子配列群を用いて画像を表示するものである。
本実施形態の表示装置は、真空蒸着法を用いて効率よく生産でき、有機薄膜による優れた電子注入性が得られる上述した実施形態の有機EL素子を備えている。このため、表示装置として好ましいものである。
【0090】
「照明装置」
本実施形態の照明装置は、上述した実施形態の有機EL素子を複数配列した素子配列群を用いて面発光を行うものである。
本実施形態の照明装置は、真空蒸着法を用いて効率よく生産でき、有機薄膜による優れた電子注入性が得られる上述した実施形態の有機EL素子を備えている。このため、照明装置として好ましいものである。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の有機薄膜は、例えば、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタなどのデバイスに用いることができる。
本発明の有機薄膜太陽電池は、有機薄膜を含む。例えば、有機薄膜を有機薄膜太陽電池の電子注入層に用いた場合、有機薄膜の一般式(1)で示される化合物が電子輸送材料に電子を与える、いわゆるn型ドーパントとして機能することにより、電子輸送の速度が速く、高い発電効率が得られる。したがって、有機薄膜太陽電池として好ましいものである。
【0092】
また、本発明の薄膜トランジスタは、有機薄膜を含む。例えば、薄膜トランジスタのチャネル層を有機薄膜で形成した場合、電子移動度の高いチャネル層が得られる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0094】
<実施例1>
以下に示す方法により、
図1(a)に示す逆構造の有機EL素子を製造した。
[1]ITO膜(膜厚150nm、幅3mmにパターニング済)からなる陰極を有する平均厚さ0.7mmの市販されているガラス製透明基板(以下、単に基板とも称する)を用意した。
【0095】
[2]次に、陰極を有する基板を、アセトン中およびイソプロパノール中でそれぞれ10分間超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、基板をイソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0096】
[3]次に、陰極を有する基板を、金属亜鉛ターゲットを有するマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内の基板ホルダーに固定した。チャンバー内を約1×10-4Paまで減圧した後、アルゴンと酸素を導入した状態でZnOのスパッタリング処理を実行した。これにより、陰極上に膜厚3nmの酸化亜鉛膜(電子注入層)を形成した。その後、酸化亜鉛膜を成膜した基板を、ホットプレートを用いて、大気中で400℃で1時間熱処理した。
【0097】
[4]次に、酸化亜鉛膜を成膜した熱処理後の基板を、1mlの1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)が入れられた容量85.5mlの密閉容器の中に入れ、常温常圧で20時間放置してDBNの気化により、酸化亜鉛膜を成膜した基板上にDBN膜(電子注入層)を成膜した。
【0098】
[5]次に、DBN膜まで形成した基板を、真空蒸着装置のチャンバー内の基板ホルダーに固定した。一般式(1-5)で示されるN-DPBI、一般式(j)で示されるホウ素系化合物、下記一般式(2)で示されるビス[2-(o-ヒドロキシフェニルベンゾチアゾール]亜鉛(II)(ZnBTZ2)、下記一般式(3)で示されるトリス[1-フェニルイソキノリン-C2,N]イリジウム(III)(Ir(piq)3)、下記一般式(4)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、下記一般式(5)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)、Alをそれぞれルツボに入れて蒸着源にセットした。
そして、以下に示す方法により、N-DPBIと上記ホウ素系化合物とを含む有機薄膜から、Alからなる陽極まで、真空一貫で形成した。
【0099】
【0100】
[6]真空蒸着装置内を約1×10-5Paまで減圧し、ホウ素系化合物に対して、N-DPBIをドーパントとして20nm共蒸着し、有機薄膜(電子注入層)を成膜した。この時、N-DPBIのドープ濃度が、電子注入層全体に対して10質量%となるようにした。
【0101】
[7]上記電子注入層形成後、ZnBTZ2を10nm成膜して電子輸送層とした。
さらに、ZnBTZ2をホスト、(Ir(piq)3)をドーパントとして20nm共蒸着し、発光層を成膜した。この時、(Ir(piq)3)のドープ濃度が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。
次に、α-NPDを50nm成膜することにより、正孔輸送層を成膜した。
次に、HAT-CNを膜厚10nm蒸着し、正孔注入層8とした。
【0102】
[8]最後に、Alを膜厚100nmになるように蒸着し、陽極を形成した。なお、陽極を蒸着する時、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるようにした。このことにより、有機EL素子の発光面積を9mm2とした。
以上の工程により、実施例1の有機EL素子を得た。
【0103】
<比較例1>
実施例1の有機EL素子の製造工程における上記[6]の工程において、真空蒸着装置内を約1×10-5Paまで減圧した後、ホウ素系化合物のみを蒸着し、有機薄膜(電子注入層)を成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の有機EL素子を得た。
【0104】
<実施例2-1>
実施例1の有機EL素子の製造工程における上記[4]の工程を行わなかったことと、実施例1の有機EL素子の製造工程における上記[6]の工程において、N-DPBIのドープ濃度が、電子注入層全体に対して3質量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の有機EL素子を得た。
<実施例2-2>
実施例1の有機EL素子の製造工程における上記[4]の工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の有機EL素子を得た。
<比較例2>
比較例1の有機EL素子の製造工程における上記[4]の工程を行わなかったこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2の有機EL素子を得た。
【0105】
<実施例3>
以下に示す方法により、
図1(b)に示す順構造の有機EL素子を製造した。
[1]ITO膜(膜厚100nm、幅3mmにパターニング済)からなる陽極を有する平均厚さ0.7mmの市販されているガラス製透明基板(以下、単に基板とも称する)を用意した。
【0106】
[2]次に、陽極を有する基板を、アセトン中およびイソプロパノール中でそれぞれ10分間超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、基板をイソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
[3]次に、PEDOT(Clevios HIL1.3N)からなる厚み30nmの正孔注入層を形成した。
【0107】
[4]次に、PEDOTまで形成した基板を、真空蒸着装置のチャンバー内の基板ホルダーに固定した。一般式(4)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、下記一般式(6)で示されるトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、一般式(1-5)で示されるN-DPBI、一般式(j)で示されるホウ素系化合物、フッ化リチウム、Alをそれぞれルツボに入れて蒸着源にセットした。
そして、以下に示す方法により、α-NPDからなる正孔輸送層から、Alからなる陰極まで、真空一貫で形成した。
【0108】
【0109】
[5]真空蒸着装置内を約1×10-5Paまで減圧し、α-NPDを50nm成膜することにより、正孔輸送層を成膜した。
次に、Alq3を20nm成膜することにより、発光層を成膜した。
[6]次に、ホウ素系化合物に対して、N-DPBIをドーパントとして20nm共蒸着し、有機薄膜(電子注入層)を成膜した。この時、N-DPBIのドープ濃度が、電子注入層全体に対して10質量%となるようにした。
【0110】
[7]次に、フッ化リチウム(電子注入層)を膜厚0.8nm蒸着した。
[8]最後に、Alを膜厚100nmになるように蒸着し、陰極を形成した。なお、陰極を蒸着する時、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるようにした。このことにより、有機EL素子の発光面積を9mm2とした。
以上の工程により、実施例3の有機EL素子を得た。
【0111】
<比較例3>
実施例3の有機EL素子の製造工程における上記[6]の工程において、真空蒸着装置内を約1×10-5Paまで減圧した後、ホウ素系化合物のみを蒸着し、有機薄膜(電子注入層)を成膜したこと以外は、実施例3と同様にして、比較例3の有機EL素子を得た。
【0112】
<実施例4>
実施例3の有機EL素子の製造工程における上記[7]の工程を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして、実施例4の有機EL素子を得た。
<比較例4>
比較例4の有機EL素子の製造工程における上記[7]の工程を行わなかったこと以外は、比較例3と同様にして、比較例4の有機EL素子を得た。
【0113】
<実施例5>
実施例2の有機EL素子の製造工程における上記[6]の工程に代えて、以下に示す[6-2]の工程を行ったこと以外は、実施例2と同様にして、実施例5の有機EL素子を得た。
【0114】
[6-2]一般式(1-5)で示されるN-DPBIの1.0質量%のシクロペンタノン溶液と、一般式(j)で示されるホウ素系化合物の1.0質量%のシクロペンタノン溶液をそれぞれ作成した。各溶液を質量比で3:97の割合で混ぜ合わせ、混合溶液を作製した。
その後、酸化亜鉛膜を成膜した熱処理後の基板をスピンコーターにセットし、基板上に上記混合溶液を滴下し、毎分3000回転で30秒間回転させて塗布した。さらに、上記混合溶液を塗布した基板を、ホットプレートを用いて、窒素雰囲気中で150℃で1時間アニールした。これにより、平均膜厚30nmの電子注入層を形成した。
【0115】
<比較例5>
実施例5の有機EL素子の製造工程における上記[6-2]の工程において、混合溶液に代えて、一般式(j)で示されるホウ素系化合物の1.0質量%のシクロペンタノン溶液を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、比較例5の有機EL素子を得た。
【0116】
<実施例6>
実施例1の有機EL素子の製造工程において、一般式(j)で示されるホウ素系化合物に代えて、一般式(a)で示されるトリアジン誘導体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の有機EL素子を得た。
<比較例6>
比較例1の有機EL素子の製造工程において、一般式(j)で示されるホウ素系化合物に代えて、一般式(a)で示されるトリアジン誘導体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例6の有機EL素子を得た。
【0117】
<実施例7>
実施例1の有機EL素子の製造工程において、一般式(j)で示されるホウ素系化合物に代えて、一般式(k)で示されるトリアジン誘導体を用いて10nm共蒸着したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7の有機EL素子を得た。
<比較例7>
比較例1の有機EL素子の製造工程において、一般式(j)で示されるホウ素系化合物に代えて、一般式(k)で示されるトリアジン誘導体を用いて10nm蒸着したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例7の有機EL素子を得た。
【0118】
このようにして得た実施例1~7、比較例1~7の有機EL素子について、以下に示す方法により、発光特性測定を測定し、印加電圧と輝度との関係を調べた。
(有機EL素子の発光特性測定)
ケースレー社製の「2400型ソースメーター」により、有機EL素子への電圧印加を行った。また、コニカミノルタ社製の「LS-110」により、発光輝度を測定した。その結果を
図2~
図8に示す。
【0119】
図2は、実施例1と比較例1の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係、
図3は、実施例2-1および2-2と比較例2の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係、
図4は、実施例3と比較例3の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係、
図5は、実施例4と比較例4の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係、
図6は、実施例5と比較例5の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係、
図7は、実施例6と比較例6の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係、
図8は、実施例7と比較例7の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【0120】
図2に示すように、電子注入層として、一般式(1-5)で示されるN-DPBIと、一般式(j)で示されるホウ素系化合物とを含む有機薄膜を設けた実施例1の有機EL素子では、N-DPBIを含まない薄膜を設けた比較例1と比較して、低い印加電圧で高い輝度が得られている。
図3に示すように、電子注入層として、上記N-DPBIと上記ホウ素系化合物とを含む有機薄膜を設けた実施例2-1、2-2の有機EL素子では、N-DPBIを含まない薄膜を設けた比較例2と比較して、低い印加電圧で高い輝度が得られている。
また、
図2および
図3に示すように、有機薄膜を設けることによる効果は、有機薄膜と陰極との間にDBN膜(電子注入層)が形成されているか否かに関わらず、得られることが確認できた。
【0121】
図4に示すように、電子注入層として、上記N-DPBIと上記ホウ素系化合物とを含む有機薄膜を設けた実施例3の有機EL素子では、N-DPBIを含まない薄膜を設けた比較例3と比較して、低い印加電圧で高い輝度が得られている。
また、
図2~
図4に示す結果から、有機薄膜を設けることによる効果は、順構造のものであるか、逆構造のものであるかに関わらず、得られることが確認できた。
【0122】
図5に示すように、電子注入層として、上記N-DPBIと上記ホウ素系化合物とを含む有機薄膜を設けた実施例4の有機EL素子では、N-DPBIを含まない薄膜を設けた比較例4と比較して、低い印加電圧で高い輝度が得られている。
また、
図4および
図5に示すように、有機薄膜を設けることによる効果は、有機薄膜と陰極との間にフッ化リチウム(電子注入層)が形成されているか否かに関わらず、得られることが確認できた。
【0123】
図6に示すように、電子注入層として、上記N-DPBIと上記ホウ素系化合物とを含む有機薄膜を塗布法により設けた実施例5の有機EL素子では、N-DPBIを含まない薄膜を設けた比較例5と比較して、低い印加電圧で高い輝度が得られている。
また、
図3および
図6に示すように、有機薄膜を設けることによる効果は、真空蒸着法により形成したか、塗布法により形成したかに関わらず、得られることが確認できた。
【0124】
図7に示すように、電子注入層として、上記N-DPBIと一般式(a)で示されるトリアジン誘導体とを含む有機薄膜を設けた実施例6の有機EL素子では、N-DPBIを含まない薄膜を設けた比較例6と比較して、低い印加電圧で高い輝度が得られている。
【0125】
図8に示すように、電子注入層として、上記N-DPBIと一般式(k)で示されるトリアジン誘導体とを含む有機薄膜を設けた実施例7の有機EL素子では、N-DPBIを含まない薄膜を設けた比較例7と比較して、低い印加電圧で高い輝度が得られている。
【符号の説明】
【0126】
1 電子注入層
2 基板
3 陰極
5 電子輸送層
6 発光層
7 正孔輸送層
8 正孔注入層
9 陽極
10、11 有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)