(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】グリース組成物及びグリース組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
C10M 117/00 20060101AFI20220721BHJP
C10M 169/06 20060101ALI20220721BHJP
C10M 135/02 20060101ALN20220721BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20220721BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20220721BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220721BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20220721BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220721BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20220721BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220721BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220721BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
C10M117/00
C10M169/06
C10M135/02
C10M137/10 Z
C10N50:10
C10N20:02
C10N10:02
C10N10:04
C10N20:00 Z
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2019561610
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018046989
(87)【国際公開番号】W WO2019131437
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017252441
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 剛
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-014108(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150726(WO,A1)
【文献】特開2000-230188(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092806(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/118814(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度が10~50mm
2/sである低粘度基油(A1)と、40℃における動粘度が200~700mm
2/sである高粘度基油(A2)とを含む混合基油(A)と、リチウム系増ちょう剤(B)と、100℃における動粘度が1,000~100,000mm
2/sであるポリマー(C)と、を含有するグリース組成物であって、
JIS K2220:2013に準拠し、せん断速度10s
-1で測定した、前記グリース組成物の-10℃における見掛け粘度が50~250mPa・sである、グリース組成物。
【請求項2】
低粘度基油(A1)と高粘度基油(A2)の含有量比〔(A1)/(A2)〕が、1/5~10/1である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
ポリマー(C)の含有量が、前記グリース組成物の全量基準で、1~20質量%である、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
有機亜鉛化合物(D)を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
非金属系硫黄化合物(E1)及び非金属系硫黄リン化合物(E2)から選ばれる1種以上の極圧剤(E)を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
極圧剤(E)が硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、モノサルファイド、ポリサルファイド、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、及びジアルキルチオジプロピオネート化合物からなる非金属系硫黄化合物(E1)の群、並びに、モノチオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、トリチオリン酸エステル、モノチオリン酸エステルのアミン塩基、ジチオリン酸エステルのアミン塩、モノチオ亜リン酸エステル、ジチオ亜リン酸エステル、及びトリチオ亜リン酸エステルからなる非金属系硫黄リン化合物(E2)の群から選択される1種以上である、請求項5に記載のグリース組成物。
【請求項7】
増ちょう剤(B)の含有量が、前記グリース組成物の全量基準で、0.5~25質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項8】
グリース組成物の液体成分の40℃における動粘度が、100~500mm
2/sである、請求項1~7のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項9】
25℃での混和ちょう度が、200~400である、請求項1~8のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項10】
集中給脂装置を備える建設機械又は集中給脂装置を備える鉱山機械の旋回機構に用いられる、請求項1~9のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のグリース組成物を、集中給脂装置を備える建設機械又は集中給脂装置を備える鉱山機械の旋回機構の旋回機構に用いる、グリース組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物及びグリース組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機械において、軸受、摺動部、及び接合部等の潤滑部にはグリースが使用される場合がある。
【0003】
例えば、油圧ショベル等の建設機械や鉱山機械は、左右の下部走行体を連結するフレーム上に、上部旋回体を旋回させるための旋回機構や、ブームやアーム、パケット等を作動させるための機構を備える。
グリースは、このような油圧ショベル等の旋回機構等においても使用される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鉱山等の採掘現場において用いられる大型油圧ショベル等の掘削機械の旋回機構は、潤滑経路が狭く、作動時には大きな転がり滑りが生じることから、貧潤滑になり易い。また、鉱山等の採掘現場では、粉塵等がグリースに混入し、グリースからの基油の染み出しが起こりにくくなる結果として、より貧潤滑になり易い状況にある。
このように、貧潤滑になり易い状況下において、耐摩耗性に優れたグリースが求められている。
【0006】
また、油圧ショベル等の作業機械には、グリースを供給するための集中給脂装置が搭載されている場合がある。したがって、圧送性に優れたグリースも求められている。
【0007】
本発明は、圧送性に優れ、且つ、貧潤滑条件下での耐摩耗性にも優れるグリース組成物及び該グリース組成物の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の混合基油及び特定のポリマー、並びにリチウム系増ちょう剤を含有し、見掛け粘度を所定の範囲に調整したグリース組成物が、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記[1]及び[2]に関する。
[1]40℃における動粘度が10~50mm2/sである低粘度基油(A1)と、40℃における動粘度が200~700mm2/sである高粘度基油(A2)とを含む混合基油(A)と、リチウム系増ちょう剤(B)と、100℃における動粘度が1,000~100,000mm2/sであるポリマー(C)と、を含有するグリース組成物であって、JIS K2220:2013に準拠し、せん断速度10s-1で測定した、前記グリース組成物の-10℃における見掛け粘度が50~250mPa・sである、グリース組成物。
[2]上記[1]のグリース組成物を、集中給脂装置を備える建設機械又は集中給脂装置を備える鉱山機械の旋回機構に用いる、グリース組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグリース組成物は、圧送性に優れ、且つ、貧潤滑条件下での耐摩耗性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明のグリース組成物の実施態様]
本発明のグリース組成物は、40℃における動粘度が10~50mm2/sである低粘度基油(A1)と、40℃における動粘度が200~700mm2/sである高粘度基油(A2)とを含む混合基油(A)と、リチウム系増ちょう剤(B)と、100℃における動粘度が1,000~100,000mm2/sであるポリマー(C)と、を含有する。
そして、本発明のグリース組成物は、-10℃における見掛け粘度が50~250mPa・sである。
本発明者らは、圧送性に優れ、しかも貧潤滑条件下においても耐摩耗性に優れるグリース組成物について鋭意検討を行った。その結果、上記構成を有し、かつ-10℃における見掛け粘度に着目したグリース組成物とすることによって、グリース組成物の圧送性を確保しながらも、グリース組成物からの基油の染み出しを良好なものとして潤滑面への基油の入り込み易さを向上させるとともに、耐摩耗性を十分に確保することができ、貧潤滑条件下でも十分に優れた耐摩耗性を確保できることを見出した。しかも、粉塵等がグリースに混入した場合にも、グリースからの基油の染み出しを良好なものとして、貧潤滑になり易い状況下でも耐摩耗性を十分に優れたものとできることを見出した。
一方で、ポリマー(C)を含有せず、-10℃における見掛け粘度が上記範囲を逸脱するグリース組成物は、圧送性及び貧潤滑条件下における耐摩耗性の双方に劣ることがわかった。
なお、グリース組成物の-10℃における見掛け粘度を上記範囲とすることで、冬場等の低温環境下で使用する場合にも、グリース組成物の圧送性を確保し得る。
【0012】
ここで、本発明の一態様のグリース組成物において、圧送性をより良好にする観点、及び貧潤滑条件下における耐摩耗性をより良好にする観点から、-10℃における見掛け粘度は、好ましくは60~250mPa・sであり、より好ましくは60~230mPa・sであり、更に好ましくは80~210mPa・sであり、より更に好ましくは100~200mPa・sである。
なお、本明細書において、-10℃における見掛け粘度は、JIS K2220:2013に準拠し、せん断速度10s-1で測定した値である。
また、以降の説明では、「混合基油(A)」、「リチウム系増ちょう剤(B)」、及び「ポリマー(C)」を、それぞれ「成分(A)」、「成分(B)」、及び「成分(C)」ともいう。
【0013】
本発明の一態様のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の成分(A)、(B)、及び(C)以外の他の成分を含有していてもよい。
本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)、(B)、及び(C)以外の他の成分としては、有機亜鉛化合物(D)及び/又は極圧剤(E)を含有することが好ましい。
なお、以降の説明では、「有機亜鉛化合物(D)」及び「極圧剤(E)」を、それぞれ「成分(D)」及び「成分(E)」ともいう。
【0014】
本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)、(B)、及び(C)の合計含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上である。
また、本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)、(B)、(C)、及び(D)の合計含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。
さらに、本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)、(B)、(C)、及び(E)の合計含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。
また、本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)の合計含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60~100質量%以上、より好ましくは70~100質量%以上、更に好ましくは80~100質量%以上、より更に好ましくは90~100質量%以上である。
【0015】
以下、本発明のグリース組成物に配合される各成分について説明する。
【0016】
[混合基油(A)]
本発明のグリース組成物は、混合基油(A)を含有する。
混合基油(A)は、40℃における動粘度が10~50mm2/sである低粘度基油(A1)と、40℃における動粘度が200~700mm2/sである高粘度基油(A2)とを含む。
本発明のグリース組成物が混合基油(A)を含有することで、グリース組成物の見掛け粘度を所定の範囲に調整し得る。また、本発明のグリース組成物が混合基油(A)を含有することで、グリース組成物の圧送性を良好なものとでき、しかも貧潤滑条件下での耐摩耗性も良好なものとできる。
なお、基油の40℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定した値を意味する。
【0017】
本発明の一態様のグリース組成物において、混合基油(A)の含有量 は、グリース組成物の全量基準(100質量%)で、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%、更に好ましくは65~85質量%、より更に好ましくは70~80質量%である。
【0018】
低粘度基油(A1)は、グリース組成物の見掛け粘度をより調整しやすくする観点、グリース組成物の圧送性をより良好にする観点、及び貧潤滑条件下での耐摩耗性をより良好にする観点から、40℃における動粘度が10~40mm2/sであることが好ましく、15~40mm2/sであることがより好ましく、20~35mm2/sであることが更に好ましい。
同様の観点から、高粘度基油(A2)は、40℃における動粘度が200~600mm2/sであることが好ましく、250~550mm2/sであることがより好ましく、300~500mm2/sであることが更に好ましい。
【0019】
低粘度基油(A1)及び高粘度基油(A2)としては、それぞれの40℃における動粘度の条件を満たす鉱油及び合成油から選ばれる一種以上が用いられる。
鉱油としては、例えば、溶剤精製、水添精製等の通常の精製法により得られるパラフィン基系鉱油、中間基系鉱油及びナフテン基系鉱油等;フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるワックス(ガストゥリキッドワックス)、鉱油系ワックス等のワックスを異性化することによって製造されるワックス異性化系油;原油の減圧蒸留残さ油を溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、及び水素精製して製造される高粘度基油であるブライトストック等が挙げられる。
合成油としては、例えば、炭化水素系合成油及びエーテル系合成油等が挙げられる。炭化水素系合成油としては、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、及びエチレン-プロピレン共重合体等のα-オレフィンオリゴマー又はその水素化物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。エーテル系合成油としては、ポリオキシアルキレングリコール及びポリフェニルエーテル等が挙げられる。
これらの鉱油及び合成油は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、当該二種以上の組み合わせには、鉱油一種以上と合成油一種以上との組み合わせも包含される。
【0020】
ここで、グリース組成物の圧送性及び貧潤滑条件下での耐摩耗性を、より広い温度範囲で良好なものとする可燃から、低粘度基油(A1)は、粘度指数が110以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましく、130以上であることが更に好ましい。
同様の観点から、高粘度基油(A2)は、粘度指数が80以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましく、100以上であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して得られた値を意味する。
【0021】
低粘度基油(A1)と高粘度基油(A2)との質量比[(A1)/(A2)]は、グリース組成物の見掛け粘度をさらに調整しやすくする観点、グリース組成物の圧送性をさらに良好にする観点、及び貧潤滑条件下での耐摩耗性をさらに良好にする観点から、1/5~10/1であることが好ましく、1/2~10/1であることがより好ましく、1/2~5/1であることが更に好ましく、1/2~2/1であることがより更に好ましい。
【0022】
低粘度基油(A1)と高粘度基油(A2)とを含む混合基油は、低粘度基油(A1)及び高粘度基油(A2)以外の基油を含有していてもよい。
なお、グリース組成物の見掛け粘度をより調整しやすくする観点、グリース組成物の圧送性をより良好にする観点、及び貧潤滑条件下での耐摩耗性をより良好にする観点から、混合基油(A)の全量に対する低粘度基油(A1)及び高粘度基油(A2)の含有割合[(低粘度基油(A1)の含有量+高粘度基油(A2)の含有量)/混合基油(A)の全量]は、75~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましく、95~100質量%であることが更に好ましい。
【0023】
[リチウム系増ちょう剤(B)]
本発明のグリース組成物は、リチウム系増ちょう剤(B)を含有する。
本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物中のリチウム系増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物の全量基準(100質量%)で、好ましくは0.5~25質量%、より好ましくは1~20質量%、更に好ましくは3~15質量%、より更に好ましくは5~10質量%である。
リチウム系増ちょう剤(B)の含有量が0.5質量%以上であると、グリース組成物をグリース状に維持しやすい。また、リチウム系増ちょう剤(B)の含有量が25質量%以下であると、グリース組成物の圧送性を良好なものとしやすい。
【0024】
リチウム系増ちょう剤(B)としては、リチウム石鹸及びリチウムコンプレックス石鹸等が挙げられる。
これらの中でも、グリース組成物の圧送性をより良好にする観点、及び貧潤滑条件下での耐摩耗性をより良好にする観点から、リチウム石鹸が好ましい。
【0025】
リチウム系増ちょう剤(B)は、例えば、カルボン酸又はそのエステル及び水酸化リチウムを原料として、カルボン酸又はそのエステルを、水酸化リチウムでケン化することにより得られる。
具体的には、リチウム系増ちょう剤(B)は、混合基油(A)、又は、低粘度基油(A1)もしくは高粘度基油(A2)に、カルボン酸又はそのエステルと水酸化リチウムを投入して、これらの基油中でケン化させて得られる。
【0026】
カルボン酸としては、油脂を加水分解してグリセリンを除いた粗製脂肪酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等のモノヒドロキシカルボン酸、アゼライン酸等の二塩基酸、テレフタル酸、サリチル酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書において、リチウムコンプレックス石鹸とは、カルボン酸として、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸及び/又は分子中に1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸(カルボン酸A)と、芳香族カルボン酸及び/又は炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸(カルボン酸B)とを併用して得られる石鹸のことをいう。
【0027】
リチウム系増ちょう剤(B)は、原料となるカルボン酸として、炭素数12~24のヒドロキシカルボン酸を含む単一リチウム石鹸又はリチウムコンプレックス石鹸が好ましく、炭素数16~20のヒドロキシカルボン酸を含む単一リチウム石鹸又はリチウムコンプレックス石鹸がより好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸を含む単一リチウム石鹸又はリチウムコンプレックス石鹸がさらに好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸を含む単一リチウム石鹸がよりさらに好ましい。
【0028】
リチウムコンプレックス石鹸の場合、原料となるカルボン酸として、上記炭素数12~24のヒドロキシカルボン酸の他に、芳香族カルボン酸及び/又は炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸が用いられる。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、サリチル酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸としては、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ウンデカン二酸、及びドデカン二酸等が挙げられる。
例示した芳香族カルボン酸及び炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸の中でも、アゼライン酸が好適である。
【0029】
[ポリマー(C)]
本発明のグリース組成物は、100℃における動粘度が1,000~100,000mm2/sであるポリマー(C)を含有する。
ポリマー(C)を含有することで、グリース組成物の見掛け粘度を所定の範囲に調整し得る。また、ポリマー(C)を含有することで、グリース組成物の圧送性を良好なものとでき、貧潤滑条件下での耐摩耗性も良好なものとできる。
グリース組成物(C)がポリマー(C)を含有しない場合、グリース組成物の圧送性を確保することができない。また、貧潤滑条件下での耐摩耗性も確保することができない。
【0030】
本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物中のポリマー(C)の含有量は、グリース組成物の全量基準で、好ましくは1~20質量%、より好ましくは5~15質量%、更に好ましくは7~13質量%である。
【0031】
ポリマー(C)は、例えば、液状のポリマー、混合基油(A)に溶解可能な固形状のポリマーである。
具体的には、例えば、ポリ(メタ)アクリレート及びポリオレフィンが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。これらの中でもポリオレフィンが好ましい。
【0032】
本発明の一態様のグリース組成物において、見掛け粘度をより調整しやすくする観点、圧送性をより良好にする観点、及び貧潤滑条件下での耐摩耗性をより良好にする観点から、ポリマー(C)の100℃における動粘度は、好ましくは1000~50,000mm2/sであり、より好ましくは1000~10,000mm2/sであり、更に好ましくは2000~8000mm2/sである。
【0033】
本発明の一態様のグリース組成物において、ポリマー(C)の数平均分子量(Mn)は、2,000~10,000であることが好ましく、2,500~7,000であることがより好ましく、2,500~5,000であることがさらに好ましい。
また、本発明の一態様のグリース組成物において、ポリマー(C)の重量平均分子量(Mw)は、2,000~1,000,000であることが好ましく、2,500~100,000であることがより好ましい。ポリマー(C)の重量平均分子量(Mw)が2,000以上であると、グリース組成物の耐摩耗性を良好なものとしやすい。また、ポリマー(C)の重量平均分子量(Mw)が1,000,000以下であると、グリース組成物の圧送性を良好なものとしやすい。
なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)を用いて計測されるポリスチレン換算の値を示す。
【0034】
ここで、ポリマー(C)として挙げられるポリ(メタ)アクリレートは、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマーを含む重合性モノマーの重合体である。
【0035】
【0036】
一般式(1)中、R6は水素またはメチル基を示し、R7は炭素数1~200の直鎖状または分枝状のアルキル基を示す。R7は、好ましくは炭素数1~40のアルキル基、より好ましくは炭素数1~28のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~25のアルキル基である。
一般式(1)において、R7は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、ヘントリアコンチル基、ドトリアコンチル基、トリトリアコンチル基、テトラコンチル基、ペンタトリアコンチル基、ヘキサトリコンチル基、オクタトリアコンチル基、テトラコンチル基等が例示でき、これらは直鎖状でも分枝状でもよい。
【0037】
ポリマー(C)として挙げられるポリオレフィンとしては、炭素数2~20のオレフィンの単独重合体又は共重合体が挙げられる。
炭素数2~20のオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-フェニル-1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ペンテン、3,4-ジメチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、5-メチル-1-ヘキセン、6-フェニル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、及び1-エイコセン等が挙げられる。
【0038】
ポリオレフィンの具体例としては、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。これらの中でもポリブテンが好ましい。
【0039】
[有機亜鉛化合物(D)]
本発明の一態様のグリース組成物は、有機亜鉛化合物(D)を含有することが好ましい。
有機亜鉛化合物(D)を含有することで、グリース組成物の貧潤滑条件下での耐摩耗性がさらに向上し得る。
【0040】
本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物の貧潤滑条件下における耐摩耗性をより良好にする観点から、有機亜鉛化合物(D)の含有量は、グリース組成物の全量基準(100質量%)で、1.5~10質量%であることが好ましく、1.5~5質量%であることがより好ましく、1.5~3質量%であることが更に好ましく、1.5~2.5質量%であることがより更に好ましい。
【0041】
有機亜鉛化合物(D)としては、例えば、リン酸亜鉛、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いてよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が好ましい。
【0042】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
上記一般式(2)中、R4及びR5は、各々独立に炭素数3~22の第1級もしくは第2級のアルキル基、又は炭素数3~18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基を示す。
ここで、炭素数3~22の1級もしくは2級のアルキル基としては、第1級もしくは第2級のプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等が挙げられる。また、炭素数3~18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基としては、例えばプロピルフェニル基、ペンチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられる。
【0045】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を用いる場合、上記一般式(2)で表される化合物を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
[極圧剤(E)]
本発明の一態様のグリース組成物は、非金属系硫黄化合物(E1)及び非金属系硫黄リン化合物(E2)から選ばれる1種以上の極圧剤(E)を含有することが好ましい。
極圧剤(E)を含有することで、グリース組成物の貧潤滑条件下での耐摩耗性がさらに向上し得る。
【0047】
本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物の貧潤滑条件下における耐摩耗性をより良好にする観点から、極圧剤(E)の含有量は、極圧剤(E)の硫黄原子換算で、グリース組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは0.4~10質量%、より好ましくは0.4~5質量%、更に好ましくは0.4~3質量%、より更に好ましくは0.5~1質量%である。
【0048】
本発明の一態様のグリース組成物において、非金属系硫黄化合物(E1)としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、モノサルファイド、ポリサルファイド、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、及びジアルキルチオジプロピオネート化合物が挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明の一態様のグリース組成物において、非金属系硫黄リン化合物(E2)としては、例えば、モノチオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、トリチオリン酸エステル、モノチオリン酸エステルのアミン塩基、ジチオリン酸エステルのアミン塩、モノチオ亜リン酸エステル、ジチオ亜リン酸エステル、及びトリチオ亜リン酸エステルが挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、本発明の一態様のグリース組成物において、非金属系硫黄化合物(E1)として挙げた上記化合物群の一種以上と、非金属系硫黄リン化合物(E2)として挙げた上記化合物群の一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、極圧剤(E)は、非金属系硫黄化合物(E1)及び非金属系硫黄リン化合物(E2)から選ばれる1種以上を含むパッケージ添加剤であってもよい。
なお、本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物の貧潤滑条件下における耐摩耗性をより良好にする観点から、極圧剤(E)の含有量は、硫黄原子換算で上記範囲に調整することが好ましい。具体的には、好ましくは1~4質量%、より好ましくは1~3質量%、更に好ましくは1.5~2.5質量%である。
【0052】
[その他の添加剤]
本発明の一態様のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、一般的なグリース組成物に配合され得る、成分(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)以外の添加剤を含有していてもよい。
このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、清浄分散剤、腐食防止剤、金属不活性剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化-α-ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
【0054】
<防錆剤>
防錆剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、アミン化合物等が挙げられる。
【0055】
<清浄分散剤>
清浄分散剤としては、例えば、コハク酸イミド、ボロン系コハク酸イミド等の無灰分散剤が挙げられる。
【0056】
<腐食防止剤>
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、チアゾール系化合物等が挙げられる。
【0057】
<金属不活性化剤>
金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0058】
[有機亜鉛化合物(D)と極圧剤(E)の比]
本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物の圧送性及び貧潤滑条件下での耐摩耗性をより良好なものとする観点から、有機亜鉛化合物(D)の亜鉛原子換算での含有量αと、極圧剤(E)の硫黄原子換算での含有量βの比[α/β]は、1.8~6.6であることが好ましく、2~6であることがより好ましく、2~5であることが更に好ましく、3~4であることがより更に好ましい。
【0059】
[各種原子含有量]
<モリブデン(Mo)>
本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物が黒色等に着色して汚れが付着し易い等といった作業環境の悪化を防ぐ観点から、グリース組成物中のモリブデン化合物の含有量は、少ないことが好ましい。具体的には、モリブデン化合物中のモリブデン原子換算の含有量は、グリース組成物の全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、更になお好ましくは0.1質量%以下であり、一層好ましくは0.1質量%未満である。
【0060】
<リン(P)>
本発明のグリース組成物において、貧潤滑条件下での耐摩耗性をさらに向上させる観点、及び金属腐食を防ぐ観点から、グリース組成物中のリン原子の含有量は、0.05~1.0質量%であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましく、0.1~0.4質量%であることが更に好ましい。
【0061】
<硫黄(S)>
本発明のグリース組成物において、貧潤滑条件下での耐摩耗性をさらに向上させる観点、及び金属腐食を防ぐ観点から、グリース組成物中の硫黄原子の含有量は、0.4~10.5質量%であることが好ましく、0.4~5.5質量%であることがより好ましく、0.4~3.5質量%であることが更に好ましく、0.5~1.5質量%であることがより更に好ましい。
【0062】
<亜鉛(Zn)>
本発明のグリース組成物において、貧潤滑条件下での耐摩耗性をさらに向上させる観点から、グリース組成物中の亜鉛原子の含有量は、0.05~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがより好ましく、0.1~0.5質量%であることが更に好ましい。
【0063】
<各種原子の比>
本発明のグリース組成物において、貧潤滑条件下での耐摩耗性をさらに向上させる観点から、グリース組成物における硫黄原子とリン原子の比(S/P)は、1~10であることが好ましく、2~9であることがより好ましく、3~8であることが更に好ましく、4~7であることがより更に好ましい。
同様の観点から、グリース組成物における硫黄原子と亜鉛原子の比(S/Zn)は、1~10であることが好ましく、2~9であることがより好ましく、3~8であることが更に好ましく、4~7であることがより更に好ましい。
また、同様の観点から、グリース組成物におけるリン原子と亜鉛原子の比(P/Zn)は、0.1~5であることが好ましく、0.5~3であることがより好ましく、0.5~2であることが更に好ましい。
【0064】
[固体潤滑剤]
本発明の一態様のグリース組成物において、グリース組成物中の固体潤滑剤の含有量は、グリース組成物の全量基準で5質量%未満であることが好ましく、1質量%未満がより好ましく、0.1質量%未満がさらに好ましい。グリース組成物中の固体潤滑剤の含有量を5質量%未満とすることにより、グリース組成物の圧送性の低下を抑えることができる。
【0065】
[グリース組成物の物性]
本発明の一態様において、グリース組成物の液体成分の40℃における動粘度は、100~500mm2/sであることが好ましく、150~400mm2/sであることがより好ましく、170~300mm2/sであることが更に好ましく、200~300mm2/sであることがより更に好ましい。グリース組成物の液体成分の40℃における動粘度が100mm2/s以上であると、グリース組成物の耐摩耗性を向上させやすい。また、グリース組成物の液体成分の40℃における動粘度が500mm2/s以下であると、グリース組成物の圧送性を良好なものとしやすい。
なお、本明細書において、「グリース組成物の液体成分」とは、グリース組成物を常温(20℃)で遠心分離した際に得られた液状の成分を意味するものとする。
【0066】
本発明の一態様のグリース組成物は、混和ちょう度が200~400であることが好ましく、250~350であることがより好ましく、260~340であることが更に好ましく、280~320であることがより更に好ましい。混和ちょう度が200以上であると、グリース組成物の圧送性を良好なものとしやすい。また、混和ちょう度が400以下であると、グリース組成物をグリース状に維持しやすい。
なお、本明細書において、グリースの混和ちょう度は、JIS K2220:2013に準拠して測定された値を意味する。
【0067】
なお、本発明の一態様のグリース組成物の耐摩耗性は、例えば摩耗量により規定することができる。具体的には、後述するファレックス試験Aにおける摩耗量が10mg以下となる。また、粉塵等の混入を想定した後述するファレックス試験Bにおいて、摩耗量が30mg以下となる。
【0068】
[グリース組成物の用途]
本発明のグリース組成物は、例えば、建設現場において用いられる建設機械や鉱山等の採掘現場において用いられる鉱山機械等に使用される。
建設機械や鉱山機械は、左右の下部走行体を連結するフレーム上に、上部旋回体を旋回させるための旋回機構を備える。当該旋回機構は、潤滑経路が狭く、作動時には大きな転がり滑りが生じることから、貧潤滑になり易い。また、建設現場、特に鉱山等の採掘現場では、粉塵等がグリースに混入し、グリースからの基油の染み出しが起こりにくくなる結果として、より貧潤滑になり易い状況にある。
本発明のグリース組成物は、このような貧潤滑下においても優れた耐摩耗性を発揮するため、建設機械や鉱山機械の上記旋回機構において特に好適に利用することができる。
具体的には、本発明のグリース組成物は、例えば、機体質量が200トン以上の建設機械や鉱山機械、好ましくは300トン以上の建設機械や鉱山機械、更に好ましくは400トン以上の建設機械や鉱山機械、より更に好ましくは500トン以上の建設機械や鉱山機械に用いられる。機体質量が大きくなるほど、設計上潤滑経路が狭く且つ長くなり易いと共に、作動時にはより大きな転がり滑りが生じることから、より貧潤滑になり易いが、本発明のグリース組成物を用いることによって、このような貧潤滑下においても耐摩耗性が発揮される。
なお、機体質量とは、左右の下部走行体と、当該左右の下部走行体を連結するフレームと、上部旋回体との合計質量を意味している。
【0069】
また、建設機械や鉱山機械等においては、通常、集中給脂装置が備えられる。集中給脂装置とは、ポンプ等により、1以上の旋回機構等に適時適量のグリース組成物を供給する装置であり、大型油圧ショベル等に備えられる。グリース組成物が集中給脂装置の配管内をスムーズに流動すること(圧送性に優れること)は極めて重要である。本発明のグリース組成物は圧送性が良好であるため、集中給脂装置を備える大型油圧ショベル等の建設機械や鉱山機械に好適に用いることができる。
【0070】
[グリース組成物の製造方法]
本実施形態のグリース組成物の製造方法は、下記工程(1)及び(2)を含む製造方法が挙げられる。
工程(1):混合基油(A)と、リチウム系増ちょう剤(B)と、を混合し、グリース化する工程。
工程(2):前記工程(1)で得られた組成物に、ポリマー(C)を混合する工程。
【0071】
リチウム系増ちょう剤(B)は、工程(1)の過程中に合成してもよい。
例えば、リチウム系増ちょう剤(B)は、混合基油(A)中にカルボン酸及び水酸化リチウムを投入し、混合基油(A)中でケン化して、リチウム系増ちょう剤(B)を得ることができる。
【0072】
工程(1)では、攪拌翼等を用いた攪拌により、混合基油(A)とリチウム系増ちょう剤(B)とを十分に混合することが好ましい。
混合時の温度は特に限定されないが、90~110℃とすることが好ましい。
また、混合基油(A)とリチウム系増ちょう剤(B)とを十分に混合した後は、所定の温度で所定の時間保持することが好ましい。例えば、リチウム系増ちょう剤(B)を用いる場合、100~120℃で、30~90分間保持することが好ましい。
【0073】
工程(2)では、攪拌翼等を用いた攪拌により、工程(1)で得られた組成物と、ポリマー(C)とを十分に混合することが好ましい。
工程(2)においては、上述した有機亜鉛化合物(D)、極圧剤(E)、さらには上述した汎用添加剤を混合してもよい。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0075】
[測定及び評価]
実施例1~3及び比較例1のグリース組成物に関して、以下の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
<基油およびグリース組成物の液体成分の40℃における動粘度>
JIS K2283:2000に準拠して、実施例及び比較例で用いた基油1~3の40℃における動粘度を測定した。
また、実施例1~3及び比較例1のグリース組成物の液体成分の、40℃における動粘度を測定した。
【0077】
<混和ちょう度>
JIS K2220:2013に準拠して、実施例1~3及び比較例1のグリース組成物の混和ちょう度を測定した。
【0078】
<見掛け粘度>
JIS K2220:2013に準拠し、せん断速度10s-1として、実施例1~3及び比較例1のグリース組成物の-10℃における見掛け粘度を測定した。
【0079】
<各種原子含有量>
ASTM D4951に準拠して、実施例1~3及び比較例1のグリース組成物のリン原子、硫黄原子、及び亜鉛原子含有量を測定した。
【0080】
<圧送性試験>
シリンダー構造を有する注射器(Luer Lock Syringes:容積10mL)に、グリース組成物を充填した。そして、室温下、圧力4barで5秒間、グリース組成物を押し出し、押し出されたグリース組成物の量(g)を測定した。
そして、押し出されたグリース組成物の量が4.5g以上の場合を評価aとし、4.5g未満の場合を評価bとした。
【0081】
<ファレックス試験A>
ASTM D2670-2016に準拠し、ファレックス試験機を用いて、下記の実験条件で摩耗試験を行い、グリース組成物の耐摩耗性を評価した。
・ピンの材質 :SCM440
・ブロックの材質:SCM415
・すべり速度:60mm/s(180rpm)
・接触圧力 :430MPa(300N)
・温度 :室温
・評価時間:3分稼動及び1分停止を1サイクルとして27サイクル実施
耐摩耗性は、試験前後のピンの摩耗量(重量減少量)で評価した。
グリース組成物は、ピンとブロックとの接触面に0.2mL塗布し、評価を行った。
そして、摩耗量が10mg以下の場合を評価aとし、摩耗量が10mgを超えた場合を評価bとした。
【0082】
<ファレックス試験B>
グリース組成物に、鉄粉、泥(関東ロームJIS Z8901-7)、及び水を、それぞれ2質量%、15質量%、及び10質量%となるように添加して、汚染試料を調製し、ファレックス試験機を用いて、ファレックス試験Aと同様の試験により、グリース組成物の耐摩耗性を評価した。グリース組成物は、ピンとブロックとの接触面に0.2mL塗布し、評価を行った。
そして、摩耗量が30mg以下の場合を評価aとし、摩耗量が30mgを超えた場合を評価bとした。
【0083】
[グリース組成物の調製又は準備]
実施例1~3及び比較例1において使用した基油、増ちょう剤、及びポリマーを以下に示す。
【0084】
<基油>
基油1:鉱油(40℃動粘度:31mm2/s、低粘度基油(A1)に相当)
基油2:鉱油(40℃動粘度:91mm2/s、比較用基油)
基油3:鉱油(40℃動粘度:409mm2/s、高粘度基油(A2)に相当)
【0085】
<増ちょう剤>
12-ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムとを原料とする単一リチウム石鹸
【0086】
<ポリマー>
ポリブテン(数平均分子量:2900、100℃における動粘度:4,300mm2/s)
なお、100℃における動粘度は、JIS K2283に準拠して測定された値である。
また、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)を用いて計測されるポリスチレン換算の値を示す。
【0087】
<実施例1>
容積60Lのグリース製造釜に、12-ヒドロキシステアリン酸7.7質量%を、基油1及び基油3の鉱油に加えて、攪拌しながら90℃まで昇温させて、12-ヒドロキシステアリン酸が溶解した基油を調製した。
次に、水酸化リチウム(一水和物)1.0質量%を溶解した水溶液を、12-ヒドロキシステアリン酸が溶解した基油に添加して混合し、100℃まで加熱して水分を蒸発除去した。
水分を除去後、200℃まで加熱して、撹拌し反応を進行させた。反応終了後、冷却速度0.1℃/分にて、200℃から80℃まで冷却した後、ポリブテンと添加剤を加えて混合した。その後、3本ロールにてミリング処理を2回行い、実施例1のグリース組成物を得た。
【0088】
<実施例2>
基油1と基油3の配合比を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のグリース組成物を得た。
【0089】
<実施例3>
基油1と基油3の配合比を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のグリース組成物を得た。
【0090】
<比較例1>
基油1を基油2に変更し、さらに、基油2と基油3の配合比を表1のように変更したこと、及び、ポリマー(ポリブテン)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のグリース組成物を得た。
【0091】
【0092】
なお、実施例1~3及び比較例1のグリース組成物には、有機亜鉛化合物2質量%、極圧剤2質量%、その他の添加剤4質量%を配合した。
有機亜鉛化合物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とした。
極圧剤は、硫化ブテン(硫黄原子含有量:30質量%)とした。
その他の添加剤は、酸化防止剤及び金属不活性化剤とした。
グリース組成物中のリン原子含有量は0.181質量%、硫黄原子含有量は0.934質量%、亜鉛原子含有量は0.198質量%であった。
表1中、基油1~3、ポリブテン、増ちょう剤の含有量の単位は、有機亜鉛化合物、極圧剤、及びその他の添加剤と同様、「質量%」である。
表1中、40℃動粘度は、グリース組成物の液体成分の40℃動粘度である。
低粘度基油(A1)と高粘度基油(A2)の含有量比〔(A1)/(A2)〕は、実施例1では1.4、実施例2では1.8、実施例3では0.54、比較例1では0である。
【0093】
表1の結果から、実施例1~3のグリース組成物は、圧送性及び耐摩耗性に優れ、貧潤滑条件下においても耐摩耗性に優れることがわかる。特に、ファレックス試験Bにおいても耐摩耗性に優れていることから、採掘現場等の粉塵が大量に発生し得る環境下においてもグリース組成物からの基油の染み出しが十分に起こり、優れた耐摩耗性が発揮されることがわかる。
これに対し、比較例1のグリース組成物は、ポリマー(ポリブテン)を含まず、見掛け粘度が250mPa・s超であることから、圧送性及び貧潤滑条件下における耐摩耗性が劣ることがわかる。