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特許7109021ポリロタキサン複合成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】ポリロタキサン複合成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/08 20060101AFI20220722BHJP
   B32B 37/02 20060101ALI20220722BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20220722BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220722BHJP
   C08K 5/15 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B32B27/08
B32B37/02
C08J7/00 306
C08L101/00
C08K5/15
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018197997
(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2020066123
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/スライドリングマテリアルを用いた柔軟センサーおよびアクチュエータの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】株式会社ASM
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】高野 慎司
(72)【発明者】
【氏名】松野 幸也
(72)【発明者】
【氏名】長森 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 基史
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝成
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/042377(WO,A1)
【文献】特開2018-111788(JP,A)
【文献】特開2014-220949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 7/00-7/02;7/12-7/18
B29C 65/00-65/82
C08J 5/12
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリロタキサン成形体の表面とエラストマー成形体の表面とをプラズマ処理し、両被処理表面を合わせて圧着することで両成形体を接合する、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のポリロタキサン複合成形体の製造方法であって、プラズマ処理のプラズマガスは実質的に酸素を含まない、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリロタキサン複合成形体の製造方法であって、プラズマ処理された架橋ポリロタキサン成形体の表面は、水接触角が90°以下である、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のポリロタキサン複合成形体の製造方法であって、水接触角が75°以下である、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリロタキサン複合成形体の製造方法であって、両成形体を圧着と同時に加熱する、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のポリロタキサン複合成形体の製造方法であって、加熱温度は50℃以上である、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリロタキサン複合成形体の製造方法であって、エラストマー成形体は導電性を有する、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリロタキサン複合成形体の製造方法であって、ポリロタキサン複合成形体はアクチュエータ又はセンサである、ポリロタキサン複合成形体の製造方法。
【請求項9】
架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とが互いに入り込むことなく且つ接着剤層を介在することなく直接接合され、両成形体の両接合面には富酸素層があり、両成形体の剥離強度が1N/m以上である、ポリロタキサン複合成形体。
【請求項10】
架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とが互いに入り込むことなく且つ接着剤層を介在することなく直接接合され、両成形体の両接合面では架橋ポリロタキサン成形体に修飾された高親和性官能基とエラストマー成形体に修飾された高親和性官能基とが共有結合又は分子間相互作用により結びついている、ポリロタキサン複合成形体。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のポリロタキサン複合成形体であって、エラストマー成形体は導電性を有する、ポリロタキサン複合成形体。
【請求項12】
請求項9又は10に記載のポリロタキサン複合成形体であって、ポリロタキサン複合成形体はアクチュエータ又はセンサである、ポリロタキサン複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体が接合されてなるポリロタキサン複合成形体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリロタキサンは、環状分子に直鎖状分子が相対スライド可能に貫通し、直鎖状分子の両末端に配された封鎖基により環状分子が脱離しない構造の分子集合体であり(特許文献1)、スライドリングマテリアルとも称されている。環状分子と直鎖状分子はそれぞれ種々のものが知られている。ポリロタキサンを有する組成物は、それが有する粘弾性特性により、各種の応用が考えられる。
【0003】
特許文献2~5のように、架橋ポリロタキサンは、誘電率が高いことと、粘弾性等のユニークな力学的特性から、アクチュエータやセンサの材料として期待されている。しかし、架橋ポリロタキサン成形体と、電極層に使用されるエラストマー成形体との接合が難しく、強い接合力が得られないという問題があった。
【0004】
例えば、特許文献4の図5のような、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とを交互に積層した積層タイプのアクチュエータの各層間には、作動時に架橋ポリロタキサン成形体の収縮により引張応力が働くため、各層にはこれに耐えられるような接合力が要求される。しかし、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体との接合性についてはこれまで不明であり、架橋ポリロタキサン成形体の大きな変形により働く大きな引張応力に耐えられるような有効な接合方法・接合部材は未だ確立されておらず、より強い接合力が望まれていた。
【0005】
エラストマーの接合方法として一般的なのは接着剤による接着であり、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体に適した接着剤を見つけることが真っ先に考えられる。しかし、仮にその接着剤が見つかったとしても、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体との間に接着剤が介在することにより、(ア)積層体の厚さが大きくなる、(イ)接着剤層がポリロタキサン成形体の動きを拘束してアクチュエータやセンサにおける変位量にロスが生じる、(ウ)アクチュエータやセンサにおける静電容量が小さくなる、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2005/080469号
【文献】国際公開第2008/108411号
【文献】特開2015-029406号公報
【文献】特開2012-65426号公報
【文献】特開2017-66318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体を接着剤を介在させずに強く接合した、ポリロタキサン複合成形体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]ポリロタキサン複合成形体の製造方法
本発明のポリロタキサン複合成形体の製造方法は、架橋ポリロタキサン成形体の表面とエラストマー成形体の表面とをプラズマ処理し、両被処理表面を圧着することで両成形体を接合することを特徴とする。
【0009】
<作用>
架橋ポリロタキサン成形体の表面とエラストマー成形体の表面とをプラズマ処理することで、両被処理表面にラジカルを含む高親和性官能基が修飾される。X線光電子分光法(XPS)分析にて、高親和性官能基としてのヒドロキシ基の修飾を確認している。これにより、両被処理表面は高い表面エネルギー(化学的、物理的活性)を有するようになる。高い表面エネルギーをもつ両被処理表面を合わせて圧着することで、合わさった被着面同士が安定化し、この熱力学的利得のために、両者間に強い接着力が生まれる。
これを微視的にみると、架橋ポリロタキサン成形体の被処理表面に生じたラジカルを含む高親和性官能基が、エラストマー成形体の高親和性官能基と、共有結合や水素結合などの分子間相互作用を介して結びついている。両成形体間は分子レベルで合一しており、そのために、非常に強力な接着力を発揮する。
ここで、高親和性官能基として特にヒドロキシ基が修飾されるのは、次の(1)(2)の推定メカニズムの両方又はいずれか一方によるものと考えられる。XPS分析にて、処理後にヒドロキシ基性の酸素の比率が増加していることを確認している。
(1)活性化した窒素が、大気中の酸素を活性化して、活性化した酸素が材料表面に反応して、ヒドロキシ基が付与される。
(2)活性化した窒素が、材料表面を活性化し、これが酸素と反応して、ヒドロキシ基が付与される。
【0010】
こうして、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体を強く接合することができるので、例えば、ポリロタキサン複合成形体が架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とを交互に積層した積層タイプのアクチュエータである場合に、作動時に架橋ポリロタキサン成形体の収縮により各層間に働く引張応力に耐えることができ、剥離が生じにくい。
また、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体との間に接着剤層が介在されないため、接着剤層が介在される場合と比較して、(ア)ポリロタキサン複合成形体の厚さが小さくなる、(イ)架橋ポリロタキサン成形体の動きを拘束する接着剤層がないのでアクチュエータやセンサにおける変位量にロスが生じない、(ウ)アクチュエータやセンサにおける静電容量が大きくなる、という利点がある。
また、融着ではないため、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とが互いに入り込むこともない。
【0011】
[2]ポリロタキサン複合成形体の発明
[2-1]架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とが互いに入り込むことなく且つ接着剤層を介在することなく直接接合され、両成形体の両接合面には富酸素層があり、両成形体の剥離強度が1N/m以上である、ポリロタキサン複合成形体。
富酸素層は、プラズマ処理時に生成するヒドロキシ基を主とする酸素を含む高活性ないし高極性の官能基に由来するものであり、XPS分析にて確認している。
剥離強度の上限は、特にないが、あえていえば20N/mである。
【0012】
[2-2]架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とが互いに入り込むことなく且つ接着剤層を介在することなく直接接合され、両成形体の両接合面では架橋ポリロタキサン成形体に修飾された高親和性官能基とエラストマー成形体に修飾された高親和性官能基とが共有結合又は分子間相互作用により結びついている、ポリロタキサン複合成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体を接着剤を介在させずに強く接合した、ポリロタキサン複合成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1の(a)は実施例で作製した架橋ポリロタキサン成形体とそのプラズマ処理を説明する側面図、(b)は同じくエラストマー成形体とそのプラズマ処理を説明する側面図、(c)は架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体を当接させた当接体の側面図、(d)架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体の圧着を説明する側面図である。
図2図2は架橋ポリロタキサン成形体の絶縁破壊試験方法の説明図である。
図3図3はポリロタキサン複合成形体の剥離試験方法の説明図である。
図4図4はポリロタキサン複合成形体により作製したアクチュエータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1]架橋ポリロタキサン成形体
架橋ポリロタキサン成形体は、架橋されたポリロタキサンからなり、ポリロタキサン以外の成分を含んでいてもよい。架橋ポリロタキサンは、特定の環状分子、直鎖状分子、封鎖基及び架橋剤を有するものに限定されない。
環状分子としては、シクロデキストリン、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、環状アミド等を例示できる。
直鎖状分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン等のポリエーテル類、ポリ乳酸等のポリエステル類、6-ナイロン等のポリアミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のジエン系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリイソブチレン等のビニル重合体や、ポリジメチルシロキサン等を例示できる。
封鎖基としては、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを例示できる。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを例示できる。)、ステロイド類等を例示できる。
架橋剤としては、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、脂肪族多官能イソシアネート、芳香族多官能イソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジビニルスルホン、1,1‘-カルボニルジイミダゾール、アルコキシシラン類、およびそれらの誘導体、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体(ポリカプロラクトン-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリアジペート-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリシロキサンブロック共重合体等)等を例示できる。
現在、最も一般的なポリロタキサンは、環状分子としてシクロデキストリン、直鎖状分子としてポリエチレングリコールを用いたものである。
ポリロタキサン成形体の形態としては、特に限定されないが、膜、線、短冊、リング、棒、塊等を例示できる。また、膜等は別の基材上に塗工されたものであってもよい。
【0016】
[2]エラストマー成形体
エラストマー成形体は、エラストマーからなり、エラストマー以外の成分を含んでいてもよい。
エラストマーとしては、特に限定されないが、シリコーンエラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、天然ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、架橋ポリロタキサン等を例示できる。架橋ポリロタキサンとしては、上記と同じものを例示できる。
エラストマー成形体の形態としては、特に限定されないが、膜、線、短冊、リング、棒、塊等を例示できる。また、膜等は別の基材上に塗工されたものであってもよい。
【0017】
エラストマー成形体を導電性を有するものとして、ポリロタキサン複合成形体を例えばアクチュエータ又はセンサとすることができる。エラストマー成形体に導電性を付与する手段としては、エラストマー成形体にカーボンブラック、カーボンナノチューブ、白金等の導電性粒子を分散させることを例示できる。
【0018】
[3]プラズマ処理
プラズマ処理としては、特に限定されないが、大気圧プラズマ、低圧プラズマ等を例示できる。低圧プラズマは密閉された低圧チャンバーを使用する必要があるのに対して、大気圧プラズマは低圧チャンバーを使用する必要がない点で好ましい。
プラズマ処理に用いるプラズマガスとしては、特に限定されないが、空気、窒素、窒素と水素との混合、アルゴン等を例示できる。但し、後出の表1及び表2の実施例1~15から分かるように、プラズマ処理による架橋ポリロタキサン成形体の絶縁破壊電界強度の低下が少ない点で、酸素を実質的に含まないプラズマガスが好ましい。プラズマガス中の酸素が0.1体積%以下であれば、明らかに、酸素を実質的に含まないといえる。
【0019】
水接触角はプラズマ処理程度の指標となり、水接触角が小さいほどプラズマ処理程度が大きいといえる。プラズマ処理程度と接合力とは相関がある。
そこで、後出の表1及び表2の実施例1~15に基づき、プラズマ処理された架橋ポリロタキサン成形体の表面は、水接触角が90°以下であることが好ましく、75°以下であることがより好ましい。さらに、同水接触角が90°以下であり且つ前記剥離強度が1N/m以上であることが好ましく、同水接触角が75°以下であり且つ前記剥離強度が4N/m以上であることが好ましい。
また、プラズマ処理されたエラストマー成形体の表面は、水接触角が92°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましい。
【0020】
[4]圧着時の加熱
圧着と同時に加熱することが好ましい。プラズマ処理により付与された架橋ポリロタキサン成形体の高親和性官能基とエラストマー成形体の高親和性官能基との結びつきが、加熱により促進されるからである。
加熱温度は、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。但し、加熱温度は、架橋ポリロタキサン成形体の融点及び(熱可塑性である場合の)エラストマー成形体の融点の、両方よりも低い必要があり、いずれか一方よりも低いことが好ましい。両方よりも高いと、架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体とが互いに入り込んで融着し、本案の接合とは異なるものとなる。
【0021】
[5]用途
ポリロタキサン複合成形体の用途は特に限定されないが、架橋ポリロタキサン成形体を誘電体として用い、導電性を有するエラストマー成形体を電極として用いた電子部品を例示できる。電子部品としては、アクチュエータ、センサ等を例示できる。
【実施例
【0022】
以下、本発明を具体化したポリロタキサン複合成形体の実施例について、次の順に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
<1>架橋ポリロタキサン成形体の作製
<2>エラストマー成形体の作製
<3>架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体のプラズマ処理と接触角の測定
<4>プラズマ処理前後の架橋ポリロタキサン成形体の絶縁破壊電界強度の測定
<5>架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体の圧着による接合
<6>架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体の剥離強度の測定
<7>架橋ポリロタキサン成形体と別の架橋ポリロタキサン成形体のプラズマ処理と接触角の測定
<8>架橋ポリロタキサン成形体と別の架橋ポリロタキサン成形体の圧着による接合
<9>架橋ポリロタキサン成形体と別の架橋ポリロタキサン成形体の剥離強度の測定
<10>アクチュエータの作製
【0023】
<1>架橋ポリロタキサン成形体の作製
特許文献5の実施例1と同様のポリロタキサン組成物を作製した。
すなわち、まず、特許文献5に開示された、ポリロタキサンAと、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体Bと、ポリシロキサンを含有しない重合体Cとを作製した。
ポリロタキサンAは、具体的には、環状分子としてシクロデキストリンを含有し、直鎖状分子としてポリエチレングリコールを含有し、直鎖状分子の両末端に封鎖基が配置されたものである。本例のポリロタキサンAは、さらに溶化性や相溶性を得るため、カプロラクトン基を有するものである。
ポリシロキサンを含有するブロック共重合体Bは、ポリシロキサン(シリコーン成分)により耐湿性を向上させるものであり、具体的には、末端ブロックイソシアネート基を有するポリカプロラクトン-ポリジメチルシロキサン-ポリカプロラクトンのブロック共重合体である。同共重合体Bの添加は任意である。
ポリシロキサンを含有しない重合体Cは、ポリロタキサンとの相溶性が高く、これを含むことで高誘電率と低弾性を実現するものであり、具体的には、末端ブロックイソシアネート基を有するポリプロピレングリコールである。同重合体Cの添加は任意である。
これらとその他の成分を、次に示す配合(配合数値は質量部)で加えて攪拌し、よく脱泡して、ポリロタキサン組成物溶液を調製した。
ポリロタキサンA 10
ポリシロキサンブロック共重合体B 4.9
重合体C 10.5
ポリプロピレングリコールジオール 4.7
メチルセロソルブ 25.9
ジラウリル酸ジブチルスズ 0.014
DBL-C31(GELEST社製) 0.14
IRGANOX1726(BASF社製) 0.42
【0024】
図1(a)に示すように、上記ポリロタキサン組成物溶液を、伸び防止用のポリエチレンテレフタラート(PET)シート11(厚さ75μm)の上にスリットダイコータ法により塗布し、厚さ50μmのポリロタキサン成形体1(膜)を形成した。
続いて、PETシート11付きのポリロタキサン成形体1を、130℃のオーブン内に減圧条件下で5時間おいて架橋・硬化させ、架橋ポリロタキサン成形体1とした。
【0025】
<2>エラストマー成形体の作製
シリコーンエラストマーとその他の成分を、次に示す配合(配合数値は質量部)で加えて攪拌し、よく脱泡して、エラストマー組成物溶液を作製した。カーボン粒子は、エラストマー成形体に導電性を付与するものである。
シリコーンエラストマー 10
有機溶媒(ヘプタン) 300
カーボン粒子(ケッチェンブラック) 1
【0026】
図1(b)に示すように、上記エラストマー組成物溶液を、伸び防止用のPETシート12(厚さ75μm)の上にスリットダイコータ法により塗布し、厚さ20μmのエラストマー成形体2(膜)を形成した。
続いて、PETシート12付きのエラストマー成形体2を、100℃のオーブン内に減圧条件下で24時間おいて架橋・硬化させた。
【0027】
<3>架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体のプラズマ処理と接触角の測定
上記<1>のPETシート11付きの架橋ポリロタキサン成形体1の表面と、上記<2>のPETシート12付きのエラストマー成形体2の表面を、それぞれプラズマ処理した。低圧チャンバーを使用する必要がない大気圧プラズマを採用した。
図1(a)に示すように、プラズマ噴射ノズル15のノズル口から架橋ポリロタキサン成形体1の表面に向けて所定のプラズマガス16を照射しながら、プラズマ噴射ノズル15を該表面に沿って走査(移動)して、架橋ポリロタキサン成形体1の表面をプラズマ処理した。
図1(b)に示すように、プラズマ噴射ノズル15のノズル口からエラストマー成形体2の表面に向けて所定のプラズマガス16を照射しながら、プラズマ噴射ノズル15を該表面に沿って走査(移動)して、エラストマー成形体2の表面をプラズマ処理した。
ここで、次の表1に示すように、両成形体1,2をプラズマ処理した実施例1~13(プラズマガス種類と、プラズマ処理程度を変えた)と、両方又はいずれか一方の成形体1,2をプラズマ処理しなかった比較例1~10とを実施した(比較例8~10ではプラズマ処理ではなく、UV処理した。)。
プラズマガス種類は、空気、窒素(N2)(99.99%)、窒素(N2)(97%)と水素(H2)(3%)との混合、アルゴン(Ar)とした。
プラズマガスの照射速度と、プラズマ噴射ノズルの走査速度(処理時間)とを変えることにより、プラズマ処理程度を変えた。
【0028】
【表1】
【0029】
上記のとおり、プラズマ処理程度の指標として水接触角がある。そこで、プラズマ処理後の(未処理はそのままの、UV処理はUV処理後の)の両成形体1,2の水接触角を測定した。水接触角の測定は、接触角計を用い、水平に置かれた各成形体の表面にディスペンサーで一定量の水滴を着け、これを真横から撮影し、得られた画像から輪郭形状を解析して行った。その測定結果を表1に記した。
【0030】
<4>プラズマ処理前後の架橋ポリロタキサン成形体の絶縁破壊電界強度の測定
上記<3>のプラズマ処理の前後の(UV処理はUV処理の前後における)、架橋ポリロタキサン成形体1の常温常湿における絶縁破壊電界強度を測定した。図2に示すように、前記PETシートから剥がした架橋ポリロタキサン成形体1を設置側の円板電極21に貼り付け、該架橋ポリロタキサン成形体1に円柱電極22を載せた。この際に架橋ポリロタキサン成形体1と各電極21,22との間に空気泡が極力残らないように留意し、さらに真空装置により脱気処理した。これを常温常湿下で絶縁破壊測定器にセットし、電源装置23により電極21,22間に昇圧速度10V/0.1秒で上昇するよう電圧を印加した。そして、電流が実質的に流れない絶縁状態を経て、電流が1.2μA以上となった時点の電圧から絶縁破壊電界強度(V/μm)を求めた。常温とは20±15℃であり、常湿とは65±20%である(JIS-8703、本明細書において同じ)。プラズマ処理の前後での絶縁破壊電界強度の低下率を算出して、表1に記した。
【0031】
<5>架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体の圧着による接合
上記<3>のプラズマ処理後のPETシート付きの両成形体1,2を圧着により接合して、複合成形体を作製した。
図1(c)に示すように、架橋ポリロタキサン成形体1の半分と、エラストマー成形体2の半分とを、接着剤その他の介在物を介在させることなく直接合わせ、架橋ポリロタキサン成形体1の残りの半分と、エラストマー成形体2の残りの半分との間に、剥離紙3を介在させて、PETシート付きの複合成形体を形成した。
続いて、図1(d)に示すように、このPETシート付きの複合成形体を真空加熱プレス機17にかけ、真空度100Pa以下、加熱温度100℃の下で、直接合わせた架橋ポリロタキサン成形体1の半分とエラストマー成形体2の半分とを、圧力0.67MPaで5分圧着して接合した。
【0032】
<6>架橋ポリロタキサン成形体とエラストマー成形体の剥離強度の測定
上記<5>の接合後のPETシート付きの複合成形体について、引張試験機を用いて常温常湿における剥離強度を測定した。図3に示すように、PETシート付きの複合成形体を幅5mm、長さ40mmに切断し、剥離紙を除いたところのPETシート11付きの架橋ポリロタキサン成形体1を一方のチャック31で掴み、剥離紙を除いたところのPETシート12付きのエラストマー成形体2を他方のチャック32で掴み、引張り速度1mm/分で引っ張って、架橋ポリロタキサン成形体1とエラストマー成形体との接合箇所の90度剥離試験を行い、剥離強度を測定した。その測定結果を表1に記した。
【0033】
<7>架橋ポリロタキサン成形体と別の架橋ポリロタキサン成形体のプラズマ処理と接触角の測定
以下は、架橋ポリロタキサン成形体どうしの接合に関するものである。
上記<1>のPETシート11付きの架橋ポリロタキサン成形体1の二つの表面を、上記<3>と同様にプラズマ処理した。
ここで、次の表2に示すように、プラズマガスとして窒素(N2)を用い表1の実施例5~6と同程度にプラズマ処理した実施例14と、プラズマガスとして窒素(N2)を用い表1の実施例5~6よりも強くプラズマ処理した実施例15とを実施した。比較例11は、未処理の架橋ポリロタキサン成形体どうしである。
上記<3>と同様に水接触角を測定し、その測定結果を表2に記した。
【0034】
【表2】
【0035】
<8>架橋ポリロタキサン成形体と別の架橋ポリロタキサン成形体の圧着による接合
上記<7>のプラズマ処理後のPETシート11付きの架橋ポリロタキサン成形体1どうしを圧着により接合して、複合成形体を作製した。
図1(c)のエラストマー成形体2を架橋ポリロタキサン成形体に置き換えて見るように、図1(a)に示す架橋ポリロタキサン成形体1の半分と、これと同一の別の架橋ポリロタキサン成形体1の半分とを、接着剤その他の介在物を介在させることなく直接合わせ、架橋ポリロタキサン成形体1の残りの半分と、別の架橋ポリロタキサン成形体1の残りの半分との間に、剥離紙3を介在させて、PETシート付きの複合成形体を形成した。
続いて、図1(d)に示すように、このPETシート付きの複合成形体を真空加熱プレス機17にかけ、真空度100Pa以下、加熱温度100℃の下で、直接合わせた架橋ポリロタキサン成形体1の半分と別の架橋ポリロタキサン成形体の半分とを、圧力0.67MPaで5分圧着して接合した。
【0036】
<9>架橋ポリロタキサン成形体と別の架橋ポリロタキサン成形体の剥離強度の測定
上記<8>の接合後のPETシート付きの複合成形体について、上記<6>と同様に引張試験機を用いて常温常湿における剥離強度を測定し、その測定結果を表2に記した。
【0037】
<10>アクチュエータの作製
上記実施例のプラズマ処理後の架橋ポリロタキサン成形体1と、プラズマ処理後のエラストマー成形体2とを、図4に示すように、交互にそれぞれ複数積層してから、上記<5>と同様の条件で圧着して接合してなるアクチュエータ10を作製した。電極としてのエラストマー成形体2は、1つおきに左右方向の一方にずらして配したグループと、1つおきに左右方向の他方にずらし配したグループとからなる。一方のグループを正極、他方のグループを負極として、直流電圧を印加すると、架橋ポリロタキサン成形体1は膜厚方向に収縮し、該収縮によるアクチュエータ10の全高の変化を駆動用変位として利用することができる。
【0038】
このアクチュエータ10は、架橋ポリロタキサン成形体1とエラストマー成形体2とが強く接合しているので、前記架橋ポリロタキサン成形体の収縮により各層間に働く引張応力に耐えることができ、剥離が生じにくい。
また、架橋ポリロタキサン成形体1とエラストマー成形体2との間に接着剤層が介在されないため、接着剤層が介在される場合と比較して、(ア)アクチュエータ10の全高が小さくなる、(イ)架橋ポリロタキサン成形体1の動きを拘束する接着剤層がないので変位量にロスが生じない、(ウ)静電容量が大きくなる、という利点がある。
【0039】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 (架橋)ポリロタキサン成形体
2 エラストマー成形体
3 剥離紙
10 アクチュエータ
11 PETシート
12 PETシート
15 プラズマ噴射ノズル
16 プラズマガス
17 真空加熱プレス機
21 円板電極
22 円柱電極
23 電源装置
31 チャック
32 チャック
図1
図2
図3
図4