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特許7109420難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220722BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20220722BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/42
C08L27/18
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019503125
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2018007886
(87)【国際公開番号】W WO2018159780
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017038837
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017240861
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 康弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智子
(72)【発明者】
【氏名】郡 洋平
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-279669(JP,A)
【文献】特開平07-216080(JP,A)
【文献】特開平08-302178(JP,A)
【文献】特表2007-509208(JP,A)
【文献】特表2009-526898(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155490(WO,A1)
【文献】特表2013-501103(JP,A)
【文献】特開平08-176427(JP,A)
【文献】特開2005-154662(JP,A)
【文献】特表2005-528509(JP,A)
【文献】特開2011-122048(JP,A)
【文献】特開2012-246390(JP,A)
【文献】国際公開第2016/88861(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/26325(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/34039(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/34040(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/4200(WO,A1)
【文献】Matthew Pixton,Structure to property relationship in polycarbonate/polydimethylsiloxane copolymers,ANTEC,2006年,p.2655-2659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)及び(2)を満たすポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、難燃剤(C)を0.001質量部以上20質量部以下配合してなり、スチレン含有共重合体及び/又はゴム状グラフト基剤をもつスチレン含有グラフト重合体を含まないことを特徴とする、難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物:
(1)下記一般式(I)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロック(A-1)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)、並びに前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)以外の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を含み、前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)中の前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率が21質量%以上70質量%以下であり、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長が30以上120以下であり、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の主鎖が下記一般式(III)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含み、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)が、下記一般式(II-I)~(II-III)で表される単位を有する。
(2)前記難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物から試験片を作成し、走査型プローブ顕微鏡(SPM)装置を用いて、前記試験片の断面中央部の機械方向と厚み方向で形成される観察面を位相差モードで観察したとき、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を主成分とするマトリックス中に、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)が存在し、前記ドメイン(d-1)の内部に、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(d-2)が存在する構造を有する。
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示す。a及びbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
【化2】

[式中、R 30 及びR 31 は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。X’は単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO 2 -、-O-又は-CO-を示す。d及びeは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
【化3】

[式中、R 3 ~R 6 は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示し、複数のR 3 ~R 6 は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Yは-R 7 O-、-R 7 COO-、-R 7 NH-、-R 7 NR 8 -、-COO-、-S-、-R 7 COO-R 9 -O-、または-R 7 O-R 10 -O-を示し、複数のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記R 7 は、単結合、直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキレン基、アリール置換アルキレン基、置換または無置換のアリーレン基、またはジアリーレン基を示す。R 8 は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を示す。R 9 は、ジアリーレン基を示す。R 10 は、直鎖、分岐鎖もしくは環状アルキレン基、又はジアリーレン基を示す。βは、ジイソシアネート化合物由来の2価の基、又はジカルボン酸若しくはジカルボン酸のハロゲン化物由来の2価の基を示す。nはポリオルガノシロキサンの鎖長を示す。n-1、及びpとqはそれぞれポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数を示し、1以上の整数であり、pとqの和はn-2である。]
【請求項2】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロック(A-1)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)、並びに前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)以外の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を含むポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種である難燃剤(C)を0.001質量部以上20質量部以下含む難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物であって、
前記難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物から試験片を作成し、走査型プローブ顕微鏡(SPM)装置を用いて、前記試験片の断面中央部の機械方向と厚み方向で形成される観察面を位相差モードで観察したとき、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を主成分とするマトリックス中に、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(dC-1)が存在し、前記ドメイン(dC-1)の内部に、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(dC-2)が存在する構造を有し、かつ
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が存在するドメイン(dC)と、前記ドメイン(dC-1)のみからなるドメイン(d’C)との合計数に占める前記ドメイン(dC)の数割合が10%以上100%以下であり、
前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)中の前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率が21質量%以上70質量%以下であり、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長が30以上120以下であり、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の主鎖が下記一般式(III)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含み、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)が、下記一般式(II-I)~(II-III)で表される単位を有し、スチレン含有共重合体及び/又はゴム状グラフト基剤をもつスチレン含有グラフト重合体を含まないことを特徴とする、難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【化4】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示す。a及びbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
【化5】

[式中、R 30 及びR 31 は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。X’は単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO 2 -、-O-又は-CO-を示す。d及びeは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
【化6】

[式中、R 3 ~R 6 は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示し、複数のR 3 ~R 6 は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Yは-R 7 O-、-R 7 COO-、-R 7 NH-、-R 7 NR 8 -、-COO-、-S-、-R 7 COO-R 9 -O-、または-R 7 O-R 10 -O-を示し、複数のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記R 7 は、単結合、直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキレン基、アリール置換アルキレン基、置換または無置換のアリーレン基、またはジアリーレン基を示す。R 8 は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を示す。R 9 は、ジアリーレン基を示す。R 10 は、直鎖、分岐鎖もしくは環状アルキレン基、又はジアリーレン基を示す。βは、ジイソシアネート化合物由来の2価の基、又はジカルボン酸若しくはジカルボン酸のハロゲン化物由来の2価の基を示す。nはポリオルガノシロキサンの鎖長を示す。n-1、及びpとqはそれぞれポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数を示し、1以上の整数であり、pとqの和はn-2である。]
【請求項3】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)における前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)と、前記芳香族ポリカーボネート(B)との質量比率(A)/(B)が、0.1/99.9~99.9/0.1である、請求項1または2に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ドメイン(d-1)または(dC-1)が前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)から主に形成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ドメイン(d-2)または(dC-2)が前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つから主に形成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項6】
前記ドメイン(d-1)内部に前記ドメイン(d-2)が1つのみ存在する、または前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が1つのみ存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項7】
前記ドメイン(d-1)内部に前記ドメイン(d-2)が2以上存在する、または前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が2以上存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項8】
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(d-1)内部に前記ドメイン(d-2)が存在するドメイン(d)と、前記ドメイン(d-1)のみからなるドメイン(d’)との合計数に占める前記ドメイン(d)の数割合が2%以上100%以下である、請求項1または3~のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項9】
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積が200nm2以上である、請求項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項10】
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積が20,000nm2以下である、請求項またはに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項11】
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの隣接粒子間距離の平均が500nm以下である、請求項10のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項12】
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの隣接粒子間距離の平均が50nm以上である、請求項11のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項13】
前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長が55以上120以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長が50以上120以下であり、
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積が1000nm2以上20,000nm2以下であり、
前記観察面を画像解析ソフトで処理することにより算出される、前記ドメイン(d-1)内部に前記ドメイン(d-2)が存在するドメイン(d)と、前記ドメイン(d-1)のみからなるドメイン(d’)との合計数に占める前記ドメイン(d)の数割合、または前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が存在するドメイン(dC)と、前記ドメイン(dC-1)のみからなるドメイン(d’C)との合計数に占める前記ドメイン(dC)の数割合が、15%以上100%以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項15】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)中の前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率が0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項16】
前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)の粘度平均分子量(Mv)が9,000以上50,000以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項17】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)の粘度平均分子量(Mv)が9,000以上50,000以下である、請求項1~16のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項18】
前記難燃剤(C)が、有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~17のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項19】
前記難燃剤(C)が、有機スルホン酸アルカリ金属塩及び有機スルホン酸アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~18のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項20】
前記難燃剤(C)が、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムである、請求項19に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項21】
前記難燃剤(C)の含有量が、ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、0.001質量部以上1質量部以下である、請求項1820のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項22】
前記難燃剤(C)がリン系難燃剤である、請求項1~17のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項23】
前記難燃剤(C)の含有量が、ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である、請求項22に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項24】
難燃助剤(D)を前記ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、0.01以上1質量部以下さらに含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項25】
前記難燃助剤(D)がポリテトラフルオロエチレンである、請求項24に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項27】
電気及び電子機器用筐体である、請求項26に記載の成形品。
【請求項28】
自動車及び建材の部品である、請求項26に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含む難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(以下、「PC-POS共重合体」と略記することがある)は、その高い耐衝撃性、耐薬品性、及び難燃性等の優れた性質から注目されている。そのため、電気・電子機器分野、自動車分野等の様々な分野において幅広い利用が期待されている。特に、携帯電話、モバイルパソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、電動工具、通信基地局、バッテリーなどの筐体、及びその他の日用品への利用が広がっている。
通常、代表的なポリカーボネートとしては、原料の二価フェノールとして、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔通称:ビスフェノールA〕を用いたホモポリカーボネートが一般的に使用されている。このホモポリカーボネートの難燃性や耐衝撃性等の物性を改良するために、ポリオルガノシロキサンを共重合モノマーとして用いたポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体が知られている(特許文献1)。
ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含むポリカーボネート樹脂の耐衝撃性をさらに改善するために、例えば、特許文献2及び3に記載されるように長鎖長のポリオルガノシロキサンを用いる手法や、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体中のポリオルガノシロキサン量を増やす手法を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2662310号公報
【文献】特開2011-21127号公報
【文献】特開2012-246390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、難燃性に優れ、かつ、従来のポリカーボネート系樹脂と比べて、より優れた耐衝撃性を有する、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含む難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含み、かつ、特定のドメイン構造を有するポリカーボネート系樹脂組成物に対して難燃剤を添加することで、ポリオルガノシロキサンブロックの鎖長を伸ばす、あるいは含有量を増加させずとも、難燃性に優れ、より優れた耐衝撃性を有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物が得られることを見出した。
すなわち、本発明は下記[1]~[30]に関する。
[1]下記要件(1)及び(2)を満たすポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、難燃剤(C)を0.001質量部以上20質量部以下配合してなることを特徴とする、難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物:
(1)下記一般式(I)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロック(A-1)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)、並びに前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)以外の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を含む。
(2)前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を主成分とするマトリックス中に、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)が存在し、前記ドメイン(d-1)の内部に、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(d-2)が存在する構造を有する。
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示す。a及びbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
[2]下記一般式(I)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロック(A-1)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)、並びに前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)以外の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を含むポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種である難燃剤(C)を0.001質量部以上20質量部以下含み、
前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を主成分とするマトリックス中に、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(dC-1)が存在し、前記ドメイン(dC-1)の内部に、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(dC-2)が存在する構造を有し、かつ
前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が存在するドメイン(dC)と、前記ドメイン(dC-1)のみからなるドメイン(d’C)との合計数に占める前記ドメイン(dC)の数割合が10%以上100%以下であることを特徴とする、難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【化2】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示す。a及びbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
[3]前記ポリカーボネート系樹脂(S)における前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)と、前記芳香族ポリカーボネート(B)との質量比率(A)/(B)が、0.1/99.9~99.9/0.1である、上記[1]または[2]に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[4]前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)は、主鎖が下記一般式(III)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【化3】

[式中、R30及びR31は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。X’は単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。d及びeは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
[5]前記ドメイン(d-1)または(dC-1)が前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)から主に形成されている、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[6]前記ドメイン(d-2)または(dC-2)が前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つから主に形成されている、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[7]前記ドメイン(d-1)内部に前記ドメイン(d-2)が1つのみ存在する、または前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が1つのみ存在する、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[8]前記ドメイン(d-1)内部に前記ドメイン(d-2)が2以上存在する、または前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が2以上存在する、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[9]前記ドメイン(d-1)内部に前記ドメイン(d-2)が存在するドメイン(d)と、前記ドメイン(d-1)のみからなるドメイン(d’)との合計数に占める前記ドメイン(d)の数割合が2%以上100%以下である、上記[1]または[3]~[8]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[10]前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積が200nm2以上である、上記[9]に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[11]前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積が20,000nm2以下である、上記[9]または[10]に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[12]前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの隣接粒子間距離の平均が500nm以下である、上記[9]~[11]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[13]前記ドメイン(d)および前記ドメイン(d’)、または前記ドメイン(dC)及び前記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの隣接粒子間距離の平均が50nm以上である、上記[9]~[12]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[14]前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長が30以上500以下である、上記[1]~[13]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[15]前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長が55以上500以下である、上記[1]~[14]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[16]前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)中の前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率が10質量%以上70質量%以下である、上記[1]~[15]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[17]前記ポリカーボネート系樹脂(S)中の前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率が0.1質量%以上10質量%以下である、上記[1]~[16]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[18]前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)の粘度平均分子量(Mv)が9,000以上50,000以下である、上記[1]~[17]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[19]前記ポリカーボネート系樹脂(S)の粘度平均分子量(Mv)が9,000以上50,000以下である、上記[1]~[18]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[20]前記難燃剤(C)が、有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[19]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[21]前記難燃剤(C)が、有機スルホン酸アルカリ金属塩及び有機スルホン酸アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[20]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[22]前記難燃剤(C)が、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムである、上記[21]に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[23]前記難燃剤(C)の含有量が、ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、0.001質量部以上1質量部以下である、上記[20]~[22]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[24]前記難燃剤(C)がリン系難燃剤である、上記[1]~[19]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[25]前記難燃剤(C)の含有量が、ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である、上記[24]に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[26]難燃助剤(D)を前記ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、0.01以上1質量部以下さらに含む、上記[1]~[25]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[27]前記難燃助剤(D)がポリテトラフルオロエチレンである、上記[26]に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
[28]上記[1]~[27]のいずれか1つに記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる成形品。
[29]電気及び電子機器用筐体である、上記[28]に記載の成形品。
[30]自動車及び建材の部品である、上記[28]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、難燃性に優れ、より優れた耐衝撃性を有する、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含む難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】開口部を1つ有するドメインの、ドメインの長軸距離と、開口部の端部2点を接点として有するドメインの接線を引いた際の上記接点2点間の距離を示す図。
図2】開口部を2つ有するドメインの、ドメインの長軸距離と、開口部の端部2点を接点として有するドメインの接線を引いた際の上記接点2点間の距離をそれぞれ示す図。
図3】開口部を1つ有するドメインの、ドメインの長軸距離と、開口部の端部2点を接点として有するドメインの接線を引いた際の上記接点2点間の距離を示す走査型プローブ顕微鏡画像。
図4】Izod試験片からの、SPMによるドメイン構造の観察に供する試験片の切り出し位置を示す図。
図5】SPM観察用の、切り出したIzod試料片の面出し調整手順を示す図。
図6】ミクロトームによる切削を行う際に用いたガラスナイフの形状を示す図。
図7】実施例5おけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図8】実施例13におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図9】実施例6におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図10】実施例4におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図11】実施例12におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図12】実施例2におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図13】実施例1におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図14】比較例4におけるSPMによるドメイン構造の観察画像。
図15】比較例6におけるSPMによるドメイン構造の観察画像。
図16】比較例1におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図17】実施例23におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図18】実施例28におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図19】実施例21におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図20】実施例22におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図21】実施例27におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図22】実施例25におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図23】比較例17におけるSPMによるドメイン構造の観察画像、及び解析するにあたり、ドメインと認識した箇所を黒く塗り潰した解析画像。
図24】比較例15におけるSPMによるドメイン構造の観察画像。
図25】参考例1におけるSPMによるドメイン構造の観察画像。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体を含み、かつ、特定のドメイン構造を有するポリカーボネート系樹脂に対して難燃剤を添加することで、ポリオルガノシロキサンブロックの鎖長を伸ばす、あるいは含有量を増加させずとも、難燃性に優れ、より優れた耐衝撃性を有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物が得られることを見出した。以下、詳細に説明する。
本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。また、本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましい。
【0009】
<ポリカーボネート系樹脂組成物>
本発明の第一の実施形態における難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、下記要件(1)及び(2)を満たすポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、難燃剤(C)を0.001質量部以上20質量部以下配合してなる:
(1)下記一般式(I)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロック(A-1)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)、並びに前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)以外の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を含む。
(2)前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を主成分とするマトリックス中に、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)が存在し、前記ドメイン(d-1)の内部に、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(d-2)が存在する構造を有する。
【化4】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示す。a及びbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
式中の各R1~R4、X、a及びbの具体例は後述する。
【0010】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)におけるポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)の含有量は、得られる樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは18質量%以下である。
前記ポリカーボネート系樹脂(S)における芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の含有量は、得られる樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、特に好ましくは90質量%以下である。
なお、本実施形態の1つの側面においては、上記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)と上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の合計量は、100質量%である。
本発明においては、得られる樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との質量比率(A)/(B)が、通常0.1/99.9~99.9/0.1,好ましくは1/99~99/1,より好ましくは2/98~50/50,さらに好ましくは5/95~20/80である。
【0011】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)は、少なくとも上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)成分を主成分とするマトリックス中に、上記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)が存在し、該ドメイン(d-1)の内部にはさらに上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及び上記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(d-2)が存在する。上記1つのドメイン(d-1)内部にはドメイン(d-2)が1つのみ存在していてもよく、あるいは上記1つのドメイン(d-1)内部にドメイン(d-2)が2以上存在していてもよい。このように、前記ポリカーボネート系樹脂(S)は、ドメイン(d-1)の内部に少なくとも1つのドメイン(d-2)が存在するドメイン(d)を必ず有する。
【0012】
なお、前記ポリカーボネート系樹脂(S)におけるマトリックスは、前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)と前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との合計に占める前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の割合が50質量%を超えない限り、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及びポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つから主に形成されている。
上記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)は、好ましくは上記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)から主に形成されている。
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及び上記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(d-2)は、好ましくは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及びポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つから主に形成されていて、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック又はポリカーボネートブロック(A-1)のいずれかから主に形成されていてもよいし、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及びポリカーボネートブロック(A-1)の両方から主に形成されていてもよい。
【0013】
検出したドメインが、どのブロックから主に形成されているかは、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)観察により取得した画像のコントラストから判断する。検出したドメインのうち、マトリックスと同等程度のコントラストを示すドメインは、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及び上記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つから主に形成されているものとする。同様に、検出したドメインのうち、マトリックスとは明確に区別される程度の暗いコントラストを示すドメインは、上記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)によって主に形成されているものとする。
【0014】
本実施形態において、上記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)は、上記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)から実質的に形成されている。上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及び上記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(d-2)は、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及びポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つから実質的に形成されていて、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック又はポリカーボネートブロック(A-1)のいずれかから実質的に形成されていてもよいし、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及びポリカーボネートブロック(A-1)の両方から実質的に形成されていてもよい。
【0015】
より詳細に構造の一例を記載すると、本願発明のポリカーボネート系樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(S)は、マトリックス中にシェルを構成する上記ドメイン(d-1)と、コアを構成する1つの上記ドメイン(d-2)とを有する、コアシェル構造を有する。また、1つの上記ドメイン(d-1)内部に2つ以上の球状もしくはシリンダ状のドメイン(d-2)を含有する構造、または、ジャイロイド構造、ラメラ構造もしくはサラミ構造などのミクロ相分離構造を有していてもよい。
【0016】
上記ドメイン(d)とは別に、上記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)のみからなる(すなわち、(d-1)内部に(d-2)を含まない)ドメインを(d’)とした時、ドメイン(d)と、ドメイン(d’)との合計数に占める上記ドメイン(d)の数割合が2%以上100%以下であることが好ましい。ドメイン(d)の数割合が上記範囲内であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。上記ドメイン(d)の数割合は、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、よりさらに好ましくは15%以上、よりさらに好ましくは30%以上、特に好ましくは50%以上であり、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは45%以下、特に好ましくは30%以下である。なお、各ドメイン(d)及び(d’)の数は、SPMにより目視で測定した。
【0017】
上記ドメイン(d)および上記ドメイン(d’)を合わせた、全ドメインの平均断面積は、200nm2以上であることが好ましい。上記全ドメインの平均断面積が200nm2以上であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。また、上記ドメイン(d)および上記ドメイン(d’)を合わせた、全ドメインの平均断面積は20,000nm2以下であることが好ましい。上記全ドメインの平均断面積が20,000nm2以下であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。上記ドメイン(d)および上記ドメイン(d’)を合わせた、全ドメインの平均断面積は、より好ましくは300nm2以上、さらに好ましくは500nm2以上、特に好ましくは1000nm2以上であり、より好ましくは11,000nm2以下、さらに好ましくは6,000nm2以下、よりさらに好ましくは5,000nm2以下、よりさらに好ましくは4,000nm2以下、特に好ましくは3,000nm2以下である。
【0018】
上記各ドメイン(d)及び(d’)の平均断面積は、SPMにより観察し、得られた画像を画像解析ソフト(SPIP)で処理することにより算出した。ここで、SPMにより観察した際に上記ドメイン(d)及び(d’)が開口部を有する場合の平均断面積は以下のように計算した。図1に示すように、1つのドメインが1つの開口部を有する場合には、ドメインの長軸距離に対して、開口部の端部2点を接点として有するドメインの接線を引いた際の上記接点2点間の距離が1/2以下であるときは、開口部を有さないドメインの断面積とみなして、ドメイン(d)および上記ドメイン(d’)のそれぞれの平均断面積として算出した。また、図2に示すように、1つのドメインが2つ以上の開口部(図2では2つの開口部)を有する場合には、各開口部が、ドメインの長軸距離に対して開口部の端部2点を接点として有するドメインの接線を引いた際の接点2点間の距離がそれぞれ1/2以下であるときは、それぞれの開口部を有さないドメインの断面積とみなした。図3に開口部を1つ有する場合のドメインの走査型プローブ顕微鏡画像を示す。
【0019】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)に含まれる上記ドメイン(d)および上記ドメイン(d’)を合わせた、全ドメインの隣接粒子間距離の平均が500nm以下であることが好ましい。全ドメインの隣接粒子間距離の平均が500nm以下であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。また、全ドメインの隣接粒子間距離の平均は50nm以上であることが好ましい。全ドメインの隣接粒子間距離の平均が50nm以上であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。
上記全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは110nm以上、よりさらに好ましくは130nm以上、特に好ましくは180nm以上であり、より好ましくは350nm以下、さらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは200nm以下である。なお、この全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、マトリックス中に含まれる全ドメインの存在頻度を示す。全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、マトリックス中に含まれる全ドメインの存在頻度を示す。全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、SPMにより観察し、画像解析ソフト(SPIP)で処理することにより算出した。
上記ドメイン(d)およびドメイン(d’)の総数に占める上記ドメイン(d)の数割合、全ドメインの平均断面積及び全ドメインの隣接粒子間距離の平均測定に用いた走査型プローブ顕微鏡の詳細な観察条件は実施例に記載する。
【0020】
ポリオルガノシロキサンブロックの鎖長を伸ばす、あるいは含有量を増加させることなく、上記ポリカーボネート系樹脂(S)を含む本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物の耐衝撃性がより優れる結果となる原因は定かではないが、以下のことが推測される。
すなわち、本発明に係るポリカーボネート系樹脂組成物が有するドメイン(d)は、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(d-1)の内部に、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(d-2)が存在している。
そうすると、ポリカーボネート系樹脂組成物中の前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の量が同じであれば、ドメイン(d-1)のみからなるドメイン(d’)と比較して、ドメイン(d-2)を内包するドメイン(d)のサイズは嵩増しされて、ドメイン(d’)のサイズよりも大きくなる。マトリックス中に存在するドメイン(d)のサイズが全体的に大きくなることにより、ポリカーボネート系樹脂組成物に衝撃荷重が加わった際に、応力波の伝播をさらに抑止していると考えられる。
【0021】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)中のポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、よりさらに好ましくは1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは4質量%以下である。ポリカーボネート系樹脂組(S)中のポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率が上記範囲にあれば、優れた耐衝撃特性を得ることができる。
【0022】
前記ポリカーボネート系樹脂(S)の粘度平均分子量(Mv)は、使用される用途や製品により、目的の分子量となるように分子量調節剤(末端停止剤)等を用いることにより適宜調整ことができる。前記ポリカーボネート系樹脂(S)の粘度平均分子量は、好ましくは9,000以上、より好ましくは12,000以上、さらに好ましくは14,000以上、特に好ましくは16,000以上であり、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下、さらに好ましくは23,000以下、特に好ましくは21,000以下である。粘度平均分子量が9,000以上であれば、十分な成形品の強度を得ることができる。50,000以下であれば、熱劣化を起こさない温度で射出成形や押出成形を行うことができる。
なお、粘度平均分子量(Mv)は、20℃における塩化メチレン溶液の極限粘度〔η〕を測定し、下記Schnellの式から算出した値である。
【0023】
【数1】
【0024】
本発明の第二の実施形態における難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロック(A-1)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)、並びに前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)以外の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を含むポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種である難燃剤(C)を0.001質量部以上20質量部以下含み、
前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を主成分とするマトリックス中に、前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含むドメイン(dC-1)が存在し、前記ドメイン(dC-1)の内部に、前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロックおよび前記ポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つを含むドメイン(dC-2)が存在する構造を有し、かつ
前記ドメイン(dC-1)内部に前記ドメイン(dC-2)が存在するドメイン(dC)と、前記ドメイン(dC-1)のみからなるドメイン(d’C)との合計数に占める前記ドメイン(dC)の数割合が10%以上100%以下であることを特徴とする。
【化5】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示す。a及びbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
【0025】
本発明の第二の実施形態における難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物は、上述した第一の実施形態に記載のポリカーボネート系樹脂(S)と同様のドメイン構造を有する。検出したドメインが、どのブロックから主に形成されているかは、ポリカーボネート樹脂(S)と同様に、走査型プローブ顕微鏡観察により取得した画像のコントラストから判断する。
すなわち、第一の実施形態と同様に、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)成分を主成分とするマトリックス中に、ドメイン(d-1)に対応する(dC-1)が存在し、該ドメイン(dC-1)の内部には、ドメイン(d-2)に対応する(dC-2)が存在する。上記1つのドメイン(dC-1)内部にはドメイン(dC-2)が1つのみ存在していてもよく、あるいは上記1つのドメイン(dC-1)内部にドメイン(dC-2)が2以上存在していてもよい。このように、前記ポリカーボネート系樹脂組成物は、ドメイン(dC-1)の内部に少なくとも1つのドメイン(dC-2)が存在するドメイン(dC)を必ず有する。
ポリカーボネート系樹脂組成物におけるマトリックスは、樹脂成分であるポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)と前記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との合計に占める前記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の割合が50質量%を超えない限り、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)に由来するブロック及びポリカーボネートブロック(A-1)から選ばれる少なくとも1つから主に形成されていることも同様である。
【0026】
ドメイン(dC-1)及びドメイン(dC-2)を形成する樹脂成分は、ドメイン(d-1)及びドメイン(d-2)と同様である。また、ポリカーボネート樹脂(S)の場合と同様に、マトリックス中にシェルを構成する上記ドメイン(dC-1)と、コアを構成する1つの上記ドメイン(dC-2)とを有する、コアシェル構造を有する。また、1つの上記ドメイン(dC-1)内部に2つ以上の球状もしくはシリンダ状のドメイン(dC-2)を含有する構造、または、ジャイロイド構造、ラメラ構造もしくはサラミ構造などのミクロ相分離構造を有していてもよい。
本第二の実施形態においては、ドメイン(dC-1)内部にドメイン(dC-2)を含まないドメインを(d’C)としたとき、(すなわち、第一の実施形態における(d’)に対応する)、ドメイン(dC)と、ドメイン(d’C)との合計数に占める上記ドメイン(dC)の数割合が10%以上100%以下であることを要する。ドメイン(dC)の数割合が上記範囲内であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。上記ドメイン(dC)の数割合は、好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは15%以上、よりさらに好ましくは18%以上であり、よりさらに好ましくは30%以上、特に好ましくは50%以上であり、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以下、さらにより好ましくは70%以下、さらにより好ましくは50%以下、さらにより好ましくは45%以下、特に好ましくは30%以下である。なお、各ドメイン(dC)及び(d’C)の数は、SPMにより目視で測定した。
【0027】
上記ドメイン(dC)および上記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積は、200nm2以上であることが好ましい。上記全ドメインの平均断面積が200nm2以上であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。また、上記ドメイン(dC)および上記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積は20,000nm2以下であることが好ましい。上記全ドメインの平均断面積が20,000nm2以下であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。上記ドメイン(dC)および上記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの平均断面積は、より好ましくは300nm2以上、さらに好ましくは500nm2以上、特に好ましくは1000nm2以上であり、より好ましくは11,000nm2以下、さらに好ましくは6,000nm2以下、よりさらに好ましくは5,000nm2以下、よりさらに好ましくは4,000nm2以下、特に好ましくは3,000nm2以下である。
【0028】
第一の実施形態と同様に、上記各ドメイン(dC)及び(d’C)の平均断面積は、SPMにより観察し、得られた画像を画像解析ソフト(SPIP)で処理することにより算出した。平均断面積の算出の仕方、開口部の有無の判断の仕方も第一の実施形態に記載した通りである。
【0029】
前記ポリカーボネート系樹脂組成物に含まれる上記ドメイン(dC)および上記ドメイン(d’C)を合わせた、全ドメインの隣接粒子間距離の平均が500nm以下であることが好ましい。全ドメインの隣接粒子間距離の平均が500nm以下であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。また、全ドメインの隣接粒子間距離の平均は50nm以上であることが好ましい。全ドメインの隣接粒子間距離の平均が50nm以上であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。
【0030】
上記全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは110nm以上、よりさらに好ましくは130nm以上、特に好ましくは180nm以上であり、より好ましくは350nm以下、さらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは200nm以下である。なお、この全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、第一の実施形態と同様に、マトリックス中に含まれる全ドメインの存在頻度を示す。全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、マトリックス中に含まれる全ドメインの存在頻度を示す。全ドメインの隣接粒子間距離の平均は、SPMにより観察し、画像解析ソフト(SPIP)で処理することにより算出した。
上記ドメイン(dC)およびドメイン(d’C)の総数に占める上記ドメイン(dC)の数割合、全ドメインの平均断面積及び全ドメインの隣接粒子間距離の平均測定に用いた走査型プローブ顕微鏡の詳細な観察条件は実施例に記載する。
【0031】
<ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)>
以下、上記第一の実施形態及び第二の実施形態における各成分について、さらに詳述する。
上述した通り、上記ドメイン(d-1)は、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)の下記ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含み、好ましくは該ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)から主に形成されている。ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)は、上述した通り、下記一般式(I)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロック(A-1)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)を含む:
【化6】

上記一般式(I)及び(II)中のR1~R4,X,a及びbは上述した通りである。
【0032】
上記一般式(I)中、R1及びR2がそれぞれ独立して示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
1及びR2がそれぞれ独立して示すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基(「各種」とは、直鎖状及びあらゆる分岐鎖状のものを含むことを示し、以下、明細書中同様である。)、各種ペンチル基、及び各種ヘキシル基が挙げられる。R1及びR2がそれぞれ独立して示すアルコキシ基としては、アルキル基部位として前記アルキル基を有するものが挙げられる。
【0033】
Xが表すアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられ、炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。Xが表すアルキリデン基としては、エチリデン基、イソプロピリデン基等が挙げられる。Xが表すシクロアルキレン基としては、シクロペンタンジイル基やシクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基等が挙げられ、炭素数5~10のシクロアルキレン基が好ましい。Xが表すシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロヘキシリデン基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシリデン基、2-アダマンチリデン基等が挙げられ、炭素数5~10のシクロアルキリデン基が好ましく、炭素数5~8のシクロアルキリデン基がより好ましい。Xが表すアリールアルキレン基のアリール部位としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基などの環形成炭素数6~14のアリール基が挙げられ、アルキレン基としては上述したアルキレンが挙げられる。Xが表すアリールアルキリデン基のアリール部位としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基などの環形成炭素数6~14のアリール基が挙げられ、アルキリデン基としては上述したアルキリデン基を挙げることができる。
【0034】
a及びbは、それぞれ独立に0~4の整数を示し、好ましくは0~2、より好ましくは0又は1である。
中でも、aおよびbが0であり、Xが単結合または炭素数1~8のアルキレン基であるもの、またはaおよびbが0であり、Xが炭素数3のアルキレン基、特にイソプロピリデン基であるものが好適である。
【0035】
上記一般式(II)中、R3又はR4で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。R3又はR4で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、及び各種ヘキシル基が挙げられる。R3又はR4で示されるアルコキシ基としては、アルキル基部位が前記アルキル基である場合が挙げられる。R3又はR4で示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
なお、R3及びR4としては、いずれも、好ましくは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基であり、いずれもメチル基であることがより好ましい。
【0036】
上記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロック(A-2)は、より具体的には、下記一般式(II-I)~(II-III)で表される単位を有することが好ましい。
【化7】

[式中、R3~R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を示し、複数のR3~R6は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Yは-R7O-、-R7COO-、-R7NH-、-R7NR8-、-COO-、-S-、-R7COO-R9-O-、または-R7O-R10-O-を示し、複数のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記R7は、単結合、直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキレン基、アリール置換アルキレン基、置換または無置換のアリーレン基、またはジアリーレン基を示す。R8は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を示す。R9は、ジアリーレン基を示す。R10は、直鎖、分岐鎖もしくは環状アルキレン基、又はジアリーレン基を示す。βは、ジイソシアネート化合物由来の2価の基、又はジカルボン酸若しくはジカルボン酸のハロゲン化物由来の2価の基を示す。nはポリオルガノシロキサンの鎖長を示す。n-1、及びpとqはそれぞれポリオルガノシロキサン単位の繰り返し数を示し、1以上の整数であり、pとqの和はn-2である。]
【0037】
3~R6がそれぞれ独立して示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。R3~R6がそれぞれ独立して示すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、及び各種ヘキシル基が挙げられる。R3~R6がそれぞれ独立して示すアルコキシ基としては、アルキル基部位が前記アルキル基である場合が挙げられる。R3~R6がそれぞれ独立して示すアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
3~R6としては、いずれも、好ましくは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基である。
一般式(II-I)、(II-II)及び/または(II-III)中のR3~R6がいずれもメチル基であることが好ましい。
【0038】
Yが示す-R7O-、-R7COO-、-R7NH-、-R7NR8-、-R7COO-R9-O-、または-R7O-R10-O-におけるR7が表す直鎖又は分岐鎖アルキレン基としては、炭素数1~8、好ましくは炭素数1~5のアルキレン基が挙げられ、環状アルキレン基としては、炭素数5~15、好ましくは炭素数5~10のシクロアルキレン基が挙げられる。
【0039】
7が表すアリール置換アルキレン基としては、芳香環にアルコキシ基、アルキル基のような置換基を有していてもよく、その具体的構造としては、例えば、下記の一般式(i)または(ii)の構造を示すことができる。なお、アリール置換アルキレン基を有する場合、アルキレン基がSiに結合している。
【化8】

(式中cは正の整数を示し、通常1~6の整数である)
【0040】
7、R9及びR10が示すジアリーレン基とは、二つのアリーレン基が直接、又は二価の有機基を介して連結された基のことであり、具体的には-Ar1-W-Ar2-で表わされる構造を有する基である。ここで、Ar1及びAr2は、アリーレン基を示し、Wは単結合、又は2価の有機基を示す。Wの示す2価の有機基は、例えばイソプロピリデン基、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基である。
7、Ar1及びAr2が表すアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントリレン基などの環形成炭素数6~14のアリーレン基が挙げられる。これらアリーレン基は、アルコキシ基、アルキル基等の任意の置換基を有していてもよい。
8が示すアルキル基としては炭素数1~8、好ましくは1~5の直鎖または分岐鎖のものである。アルケニル基としては、炭素数2~8、好ましくは2~5の直鎖または分岐鎖のものが挙げられる。アリール基としてはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としては、フェニルメチル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
10が示す直鎖、分岐鎖もしくは環状アルキレン基は、R7と同様である。
【0041】
Yとしては、好ましくは-R7O-であって、R7が、アリール置換アルキレン基であって、特にアルキル基を有するフェノール系化合物の残基であり、アリルフェノール由来の有機残基やオイゲノール由来の有機残基がより好ましい。
なお、式(II-II)中のp及びqについては、p=qであることが好ましい。
また、βは、ジイソシアネート化合物由来の2価の基又はジカルボン酸又はジカルボン酸のハロゲン化物由来の2価の基を示し、例えば、以下の一般式(iii)~(vii)で表される2価の基が挙げられる。
【0042】
【化9】
【0043】
PC-POS共重合体(A)におけるポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長nは、好ましくは30以上、より好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上、よりさらに好ましくは50以上、特に好ましくは55以上、最も好ましくは60以上である。また、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、さらに好ましくは300以下、よりさらに好ましくは200以下、特に好ましくは120以下、最も好ましくは85以下である。平均鎖長nが30以上500以下の範囲であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。また、ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の平均鎖長nが55以上500以下の範囲にあることも、より優れた耐衝撃性を得る観点から好ましい。
【0044】
PC-POS共重合体(A)中のポリオルガノシロキサンブロック(A-2)の含有率は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは14質量%以上、さらにより好ましくは18質量%以上、特に好ましくは21質量%以上である。また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。PC-POS共重合体(A)中のポリオルガノシロキサン量が上記範囲内であれば、より優れた耐衝撃性を得ることができる。
【0045】
PC-POS共重合体(A)の粘度平均分子量(Mv)は、使用される用途や製品により、目的の分子量となるように分子量調節剤(末端停止剤)等を用いることにより適宜調整することができるが、好ましくは9,000以上、より好ましくは12,000以上、さらに好ましくは14,000以上、特に好ましくは16,000以上であり、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下、さらに好ましくは23,000以下、特に好ましくは22,000以下、最も好ましくは20,000以下である。粘度平均分子量が9,000以上であれば、十分な成形品の強度を得ることができる。50,000以下であれば、熱劣化を起こさない温度で射出成形や押出成形を行うことができる。
粘度平均分子量(Mv)は、20℃における塩化メチレン溶液の極限粘度〔η〕を測定し、下記Schnellの式より算出した値である。
【0046】
【数2】
【0047】
上記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)は、界面重合法(ホスゲン法)、ピリジン法、エステル交換法等の公知の製造方法により製造することができる。特に界面重合法の場合に、PC-POS共重合体(A)を含む有機相と未反応物や触媒残渣等を含む水相との分離工程が容易となり、アルカリ洗浄、酸洗浄、純水洗浄による各洗浄工程におけるPC-POS共重合体(A)を含む有機相と水相との分離が容易となり、効率よくPC-POS共重合体(A)が得られる。PC-POS共重合体(A)を製造する方法として、例えば、特開2010-241943号公報等に記載の方法を参照することができる。
【0048】
具体的には、後述する予め製造されたポリカーボネートオリゴマーと、ポリオルガノシロキサンとを、非水溶性有機溶媒(塩化メチレン等)に溶解させ、二価フェノール系化合物(ビスフェノールA等)のアルカリ性化合物水溶液(水酸化ナトリウム水溶液等)を加え、重合触媒として第三級アミン(トリエチルアミン等)や第四級アンモニウム塩(トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等)を用い、末端停止剤(p-tert-ブチルフェノール等の1価フェノール)の存在下、界面重縮合反応させることにより製造できる。また、PC-POS共重合体(A)は、ポリオルガノシロキサンと、二価フェノールと、ホスゲン、炭酸エステル又はクロロホーメートとを共重合させることによっても製造できる。
【0049】
なお、本願のポリカーボネート系樹脂組成物に含まれるポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)を、例えばポリカーボネートオリゴマーとポリオルガノシロキサン原料とを有機溶媒中で反応させた後に二価フェノールと反応させる等して製造する場合には、上記有機溶媒とポリカーボネートオリゴマーとの混合溶液1L中におけるポリカーボネートオリゴマーの固形分重量(g/L)が80g/L以上200g/L以下の範囲にあることが好ましい。より好ましくは90g/L以上、さらに好ましくは100g/L以上であり、より好ましくは180g/L以下、さらに好ましくは170g/L以下である。
【0050】
原料となるポリオルガノシロキサンとしては、以下の一般式(1)、(2)及び/または(3)に示すものを用いることができる。
【化10】

式中、R3~R6、Y、β、n-1、p及びqは上記した通りであり、具体例及び好ましいものも同様である。
Zは、水素原子又はハロゲン原子を示し、複数のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
例えば、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンとしては、以下の一般式(1-1)~(1-11)の化合物が挙げられる。
【化11】
【0052】
上記一般式(1-1)~(1-11)中、R3~R6、n及びR8は上記の定義の通りであり、好ましいものも同じである。cは正の整数を示し、通常1~6の整数である。
これらの中でも、重合の容易さの観点においては、上記一般式(1-1)で表されるフェノール変性ポリオルガノシロキサンが好ましい。また、入手の容易さの観点においては、上記一般式(1-2)で表される化合物中の一種であるα,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、上記一般式(1-3)で表される化合物中の一種であるα,ω-ビス[3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンが好ましい。
その他、ポリオルガノシロキサン原料として以下の一般式(4)を有するものを用いてもよい。
【化12】

式中、R3及びR4は上述したものと同様である。一般式(4)で示されるポリオルガノシロキサンブロックの平均鎖長は(r×m)となり、(r×m)の範囲は上記nと同一である。
上記(4)をポリオルガノシロキサン原料として用いた場合には、ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)は下記一般式(II-IV)で表わされる単位を有することが好ましい。
【化13】

[式中のR3、R4、r及びmは上述した通りである]
【0053】
ポリオルガノシロキサンブロック(A-2)として、下記一般式(II-V)で表される構造を有していてもよい。
【化14】

[式中、R18~R21はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~13のアルキル基である。R22は炭素数1~6のアルキル基、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~14のアリール基である。Q2は炭素数1~10の2価の脂肪族基である。nは平均鎖長を示し、30~70である。]
【0054】
一般式(II-V)中、R18~R21がそれぞれ独立して示す炭素数1~13のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2-エチルヘキシル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基が挙げられる。これらの中でも、R18~R21としては、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、いずれもメチル基であることがより好ましい。
22が示す炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基が挙げられる。R22が示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R22が示す炭素数1~6のアルコキシ基としては、アルキル基部位が前記アルキル基である場合が挙げられる。また、R22が示す炭素数6~14のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
上記の中でも、R22は水素原子、又は炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルコキシ基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
2が示す炭素数1~10の2価の脂肪族基としては、炭素数1~10の、直鎖又は分岐鎖の2価の飽和脂肪族基が好ましい。当該飽和脂肪族基の炭素数は、好ましくは1~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは3~6、よりさらに好ましくは4~6である。また、平均鎖長nは上記の通りである。
【0055】
構成単位(II-V)の好ましい態様としては、下記式(II-VI)で表される構造を挙げることができる。
【化15】

[式中、nは前記と同じである。]
【0056】
上記一般式(II-V)または(II-VI)で表されるポリオルガノシロキサンブロック(A-2)は、下記一般式(5)または(6)で表されるポリオルガノシロキサン原料を用いることにより得ることができる。
【化16】

[式中、R18~R22、Q2、及びnは上記した通りである。]
【化17】

[式中、nは上記した通りである。]
【0057】
前記ポリオルガノシロキサンの製造方法は特に限定されない。例えば、特開平11-217390号公報に記載の方法によれば、シクロトリシロキサンとジシロキサンとを酸性触媒存在下で反応させて、α,ω-ジハイドロジェンオルガノペンタシロキサンを合成し、次いで、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下に、該α,ω-ジハイドロジェンオルガノペンタシロキサンにフェノール性化合物(例えば2-アリルフェノール、4-アリルフェノール、オイゲノール、2-プロペニルフェノール等)等を付加反応させることで、粗ポリオルガノシロキサンを得ることができる。また、特許第2662310号公報に記載の方法によれば、オクタメチルシクロテトラシロキサンとテトラメチルジシロキサンとを硫酸(酸性触媒)の存在下で反応させ、得られたα,ω-ジハイドロジェンオルガノポリシロキサンを上記と同様に、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下でフェノール性化合物等を付加反応させることで、粗ポリオルガノシロキサンを得ることができる。なお、α,ω-ジハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、その重合条件によりその鎖長nを適宜調整して用いることもできるし、市販のα,ω-ジハイドロジェンオルガノポリシロキサンを用いてもよい。
【0058】
上記ヒドロシリル化反応用触媒としては、遷移金属系触媒が挙げられるが、中でも反応速度及び選択性の点から白金系触媒が好ましく用いられる。白金系触媒の具体例としては、塩化白金酸,塩化白金酸のアルコール溶液,白金のオレフィン錯体,白金とビニル基含有シロキサンとの錯体,白金担持シリカ,白金担持活性炭等が挙げられる。
【0059】
粗ポリオルガノシロキサンを吸着剤と接触させることにより、粗ポリオルガノシロキサン中に含まれる、上記ヒドロシリル化反応用触媒として使用された遷移金属系触媒に由来する遷移金属を、吸着剤に吸着させて除去することが好ましい。
吸着剤としては、例えば、1000Å以下の平均細孔直径を有するものを用いることができる。平均細孔直径が1000Å以下であれば、粗ポリオルガノシロキサン中の遷移金属を効率的に除去することができる。このような観点から、吸着剤の平均細孔直径は、好ましくは500Å以下、より好ましくは200Å以下、更に好ましくは150Å以下、より更に好ましくは100Å以下である。また同様の観点から、吸着剤は多孔性吸着剤であることが好ましい。
吸着剤としては、上記の平均細孔直径を有するものであれば特に限定されないが、例えば活性白土、酸性白土、活性炭、合成ゼオライト、天然ゼオライト、活性アルミナ、シリカ、シリカ-マグネシア系吸着剤、珪藻土、セルロース等を用いることができ、活性白土、酸性白土、活性炭、合成ゼオライト、天然ゼオライト、活性アルミナ、シリカ及びシリカ-マグネシア系吸着剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0060】
粗ポリオルガノシロキサン中に含まれる遷移金属を吸着剤に吸着させた後、吸着剤を任意の分離手段によってポリオルガノシロキサンから分離することができる。ポリオルガノシロキサンから吸着剤を分離する手段としては、例えばフィルタや遠心分離等が挙げられる。フィルタを用いる場合は、メンブランフィルタ、焼結金属フィルタ、ガラス繊維フィルタ等のフィルタを用いることができるが、特にメンブランフィルタを用いることが好ましい。
遷移金属の吸着後に吸着剤をポリオルガノシロキサンから分離する観点から、吸着剤の平均粒子径は、通常1μm以上4mm以下、好ましくは1μm以上100μm以下である。
前記吸着剤を使用する場合には、その使用量は特に限定されない。粗ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下の範囲の量の多孔性吸着剤を使用することができる。
【0061】
なお、処理する粗ポリオルガノシロキサンの分子量が高いために液体状態でない場合は、吸着剤による吸着及び吸着剤の分離を行う際に、ポリオルガノシロキサンが液体状態となるような温度に加熱してもよい。または、塩化メチレンやヘキサン等の溶剤に溶かして行ってもよい。
【0062】
所望の分子量分布のポリオルガノシロキサンは、例えば、複数のポリオルガノシロキサンを配合することにより分子量分布を調節して得られる。配合は、複数のα,ω-ジハイドロジェンオルガノポリシロキサンを配合したあと、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下でフェノール性化合物等を付加反応させることで所望の分子量分布となる粗ポリオルガノシロキサンを得ることもできる。また、複数の粗ポリオルガノシロキサンを配合したのち、ヒドロシリル化反応触媒を除去させるなどの精製を行ってもよい。精製後の複数のポリオルガノシロキサンを配合してもよい。また、ポリオルガノシロキサン製造時の重合条件により適宜調整することもできる。また、既存のポリオルガノシロキサンから各種分離等の手段によって一部のみを分取する事で得ることも出来る。
【0063】
ポリカーボネートオリゴマーは、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等の有機溶剤中で、二価フェノールとホスゲンやトリホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応によって製造することができる。なお、エステル交換法を用いてポリカーボネートオリゴマーを製造する際には、二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体との反応によって製造することもできる。
二価フェノールとしては、下記一般式(viii)で表される二価フェノールを用いることが好ましい。
【化18】

式中、R1、R2、a、b及びXは上述した通りである。
【0064】
上記一般式(viii)で表される二価フェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、4,4'-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの二価フェノールは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系二価フェノールが好ましく、ビスフェノールAがより好ましい。二価フェノールとしてビスフェノールAを用いた場合、上記一般式(i)において、Xがイソプロピリデン基であり、且つa=b=0のPC-POS共重合体となる。
【0065】
ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えば、ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、ジヒドロキシアリールエーテル類、ジヒドロキシジアリールスルフィド類、ジヒドロキシジアリールスルホキシド類、ジヒドロキシジアリールスルホン類、ジヒドロキシジフェニル類、ジヒドロキシジアリールフルオレン類、ジヒドロキシジアリールアダマンタン類等が挙げられる。これらの二価フェノールは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類としては、例えばビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-クロロフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0067】
ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類としては、例えば1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノルボルナン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン等が挙げられる。ジヒドロキシアリールエーテル類としては、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0068】
ジヒドロキシジアリールスルフィド類としては、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等が挙げられる。ジヒドロキシジアリールスルホキシド類としては、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等が挙げられる。ジヒドロキシジアリールスルホン類としては、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0069】
ジヒドロキシジフェニル類としては、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。ジヒドロキシジアリールフルオレン類としては、例えば9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。ジヒドロキシジアリールアダマンタン類としては、例えば1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0070】
上記以外の二価フェノールとしては、例えば4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、10,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-9-アントロン、1,5-ビス(4-ヒドロキシフェニルチオ)-2,3-ジオキサペンタン等が挙げられる。
【0071】
得られるPC-POS共重合体の分子量を調整するために、末端停止剤(分子量調節剤)を使用することができる。末端停止剤としては、例えば、フェノール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-tert-オクチルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、m-ペンタデシルフェノール及びp-tert-アミルフェノール等の一価フェノールを挙げることができる。これら一価フェノールは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
上記界面重縮合反応後、適宜静置して水相と有機溶媒相とに分離し[分離工程]、有機溶媒相を洗浄(好ましくは塩基性水溶液、酸性水溶液、水の順に洗浄)し[洗浄工程]、得られた有機相を濃縮[濃縮工程]、及び乾燥する[乾燥工程]ことによって、PC-POS共重合体(A)を得ることができる。
【0073】
<(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂>
上記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)以外の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)は、前記ポリカーボネート系樹脂(S)のマトリックス部分を構成し、ドメイン(d-2)にも含まれ得る。
芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)は、主鎖が下記一般式(III)で表される繰り返し単位を有する。上記ポリカーボネート系樹脂としては、特に制限はなく種々の公知のポリカーボネート系樹脂を使用できる。
【化19】

[式中、R30及びR31は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。X’は単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。d及びeは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。]
【0074】
30及びR31の具体例としては、前記R1及びR2と同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。R30及びR31としては、より好ましくは、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基である。X’の具体例としては、前記Xと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。d及びeは、それぞれ独立に、好ましくは0~2、より好ましくは0又は1である。
【0075】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)としては、具体的には、反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下、二価フェノール系化合物及びホスゲンと反応させた後、第三級アミンもしくは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加して重合させる界面重合法や、二価フェノール系化合物をピリジン又はピリジンと不活性溶媒の混合溶液に溶解し、ホスゲンを導入し直接製造するピリジン法等従来のポリカーボネートの製造法により得られるものを使用できる。
上記の反応に際し、必要に応じて、分子量調節剤(末端停止剤)、分岐化剤等が使用される。
なお、上記二価フェノール系化合物としては、下記一般式(III’)で表されるものが挙げられる。
【化20】

[式中、R30、R31、X’、d及びeは前記定義の通りであり、好ましいものも同じである。]
【0076】
該二価フェノール系化合物の具体例としては、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)の製造方法で上述したものを挙げることができ、好ましいものも同じである。中でも、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系二価フェノールが好ましく、ビスフェノールAがより好ましい。
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)は、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)と異なり、式(II)で表されるようなポリオルガノシロキサンブロックを有さない構造であってもよい。例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)はホモポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0077】
<難燃剤(C)>
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いられる難燃剤(C)としては、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩及びリン系難燃剤が挙げられる。これらは、1種を単独でも又は2種以上を組み合わせて用いることができる。難燃剤(C)としては、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩(以下、有機アルカリ(土類)金属塩と総称することもある)及びリン系難燃剤のいずれか1種であることが好ましい。より好ましくは有機アルカリ金属塩又はリン系難燃剤である。
有機アルカリ(土類)金属塩としては種々のものが挙げられるが、少なくとも一つの炭素原子を有する有機酸、又は有機酸エステルのアルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩を使用することができる。
【0078】
ここで、有機酸又は有機酸エステルは、有機スルホン酸、有機カルボン酸又はそのエステルなどである。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなど、アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を挙げることができる。難燃性と熱安定性の観点から、アルカリ金属の中でも、ナトリウム、カリウムが好ましく、特にカリウムが好ましい。また、その有機酸の塩は、フッ素、塩素、臭素のようなハロゲンが置換されていてもよい。アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
上記各種の有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩の中で、例えば、有機スルホン酸の場合、下記式(11)で表されるパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましく用いられる。
(Ce2e+1SO3fM (11)
式中、eは1~10の整数を示し、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアリカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属を示し、fはMの原子価を示す。
これらの化合物としては、例えば、特公昭47-40445号公報に記載されているものがこれに該当する。
【0080】
上記式(1)で表されるパーフルオロアルカンスルホン酸としては、例えば、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロメチルブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸等を挙げることができる。特に、これらのカリウム塩が好ましく用いられる。その他、パラトルエンスルホン酸、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸;2,4,5-トリクロロベンゼンスルホン酸;ジフェニルスルホン-3-スルホン酸;ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸;ナフタレントリスルホン酸等の有機スルホン酸のアルカリ金属塩等を挙げることができる。
また、有機カルボン酸としては、例えば、パーフルオロ蟻酸、パーフルオロメタンカルボン酸、パーフルオロエタンカルボン酸、パーフルオロプロパンカルボン酸、パーフルオロブタンカルボン酸、パーフルオロメチルブタンカルボン酸、パーフルオロヘキサンカルボン酸、パーフルオロヘプタンカルボン酸、パーフルオロオクタンカルボン酸等を挙げることができ、これら有機カルボン酸のアルカリ金属塩が用いられる。
【0081】
難燃剤(C)が有機アルカリ(土類)金属塩の場合、その配合量は、前記ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以下、さらにより好ましくは0.08質量部以下である。上記範囲内であればより優れた難燃性が得られる。
【0082】
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いられるリン系難燃剤としては、赤リン及びリン酸エステル系の難燃剤が挙げられる。
リン酸エステル系の難燃剤としては、特にハロゲンを含まないものが好ましく、リン酸エステルのモノマー、オリゴマー、ポリマーあるいはこれらの混合物からなるものが挙げられる。具体的には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、ビフェノールビスホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール-ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等、又はこれらの置換体、縮合物等が挙げられる。
リン系難燃剤は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
難燃剤(C)がリン系難燃剤の場合、その配合量は、前記ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。0.1質量部以上であればより優れた難燃性が得られ、20質量部以下であれば耐薬品性、耐熱性、引張伸度及び耐衝撃性等の低下をより抑制することができる。
【0084】
<難燃助剤(D)>
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いられる難燃助剤(D)としては、難燃性を付与するフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。難燃助剤(D)としてのポリテトラフルオロエチレンは、アンチドリッピング効果や難燃性を向上させるために配合するものであり、特に限定されず、公知のものを使用することができるが、水性分散型のポリテトラフルオロエチレン、アクリル被覆されたポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0085】
難燃助剤(D)としてのポリテトラフルオロエチレンの配合量は、前記ポリカーボネート系樹脂(S)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.4質量部以下である。0.01質量部以上であればより高い難燃性を得ることができ、1質量部以下であればポリテトラフルオロエチレンの凝集体が増加することを避けることができる。
【0086】
<その他の成分>
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を含ませることができる。その他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、補強材、充填剤、耐衝撃性改良用のエラストマー、染料、顔料、帯電防止剤、ポリカーボネート以外の他樹脂等を挙げることができる。
【0087】
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物は、前記の各成分を上記割合で、更に必要に応じて用いられる各種任意成分を適当な割合で配合し、混練することにより得られる。
本発明の一態様において、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは80~100質量%、より好ましくは95~100質量%である。
本発明の他の態様において、成分(A)、(B)、(C)、(D)及び上記その他成分の合計含有量は、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは90~100質量%、より好ましくは95~100質量%である。
【0088】
配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機及びコニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常、240℃以上320℃以下の範囲で適宜選択される。この溶融混練としては、押出機、特に、ベント式の押出機の使用が好ましい。
【0089】
[成形品]
上記の溶融混練した本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物、又は得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法及び発泡成形法等により各種成形体を製造することができる。特に、溶融混練により得られたペレットを用いて、射出成形及び射出圧縮成形による射出成形体の製造に好適に用いることができる。
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物からなる成型品は、例えば、テレビ、ラジオ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、オーディオプレーヤー、DVDプレーヤー、エアコンディショナ、携帯電話、ディスプレイ、コンピュータ、レジスター、電卓、複写機、プリンター、ファクシミリ、通信基地局、バッテリー等の電気・電子機器用部品の筐体等、並びに自動車及び建材の部品として好適に用いることができる。
【実施例
【0090】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。なお、各例における特性値、評価結果は、以下の要領に従って求めた。
【0091】
(1)ポリジメチルシロキサン鎖長および含有率
NMR測定によって、ポリジメチルシロキサンのメチル基の積分値比により算出した。なお、本明細書においては、ポリジメチルシロキサンをPDMSと略記することがある。
<ポリジメチルシロキサンの鎖長の定量方法>
1H-NMR測定条件
NMR装置:(株)JEOL RESONANCE製 ECA500
プローブ:TH5 5φNMR試料管対応
観測範囲:-5~15ppm
観測中心:5ppm
パルス繰り返し時間:9秒
パルス幅:45°
NMR試料管:5φ
サンプル量:30~40mg
溶媒:重クロロホルム
測定温度:室温
積算回数:256回
アリルフェノール末端ポリジメチルシロキサンの場合
A:δ-0.02~0.5付近に観測されるジメチルシロキサン部のメチル基の積分値
B:δ2.50~2.75付近に観測されるアリルフェノールのメチレン基の積分値
ポリジメチルシロキサンの鎖長=(A/6)/(B/4)
オイゲノール末端ポリジメチルシロキサンの場合
A:δ-0.02~0.5付近に観測されるジメチルシロキサン部のメチル基の積分値
B:δ2.40~2.70付近に観測されるオイゲノールのメチレン基の積分値
ポリジメチルシロキサンの鎖長=(A/6)/(B/4)
【0092】
<ポリジメチルシロキサン含有率の定量方法>
アリルフェノール末端ポリジメチルシロキサンを共重合したPTBP末端ポリカーボネート中のポリジメチルシロキサン共重合量の定量方法
NMR装置:(株)JEOL RESONANCE製 ECA-500
プローブ:TH5 5φNMR試料管対応
観測範囲:-5~15ppm
観測中心:5ppm
パルス繰り返し時間:9秒
パルス幅:45°
積算回数:256回
NMR試料管:5φ
サンプル量:30~40mg
溶媒:重クロロホルム
測定温度:室温
A:δ1.5~1.9付近に観測されるBPA部のメチル基の積分値
B:δ-0.02~0.3付近に観測されるジメチルシロキサン部のメチル基の積分値
C:δ1.2~1.4付近に観測されるp-tert-ブチルフェニル部のブチル基の積分値
a=A/6
b=B/6
c=C/9
T=a+b+c
f=a/T×100
g=b/T×100
h=c/T×100
TW=f×254+g×74.1+h×149
PDMS(wt%)=g×74.1/TW×100
【0093】
(2)粘度平均分子量
粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式(Schnell式)にて算出した。
【数3】
【0094】
また、前記ポリカーボネート系樹脂(S)の粘度平均分子量(Mv)は前記ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(A)及び前記芳香族ポリカーボネート(B)の粘度平均分子量の相加平均の値から求めた。
【0095】
<SPMによるドメイン構造の観察方法>
SPM装置:Nano-IM(PNI社製)
プローブ:PPP-NCHR(NANOSENSORS 社製)
観察視野サイズ:1μm四方、2μm四方、5μm四方
観察部位:後述のIzod試験片(長さ63.5mm,幅12.7mm,厚さ3.2mm)のゲート反対側端部から約5mmの断面中央部の機械方向(MD)と厚み方向(ND)で形成される面
前処理方法:後述のIzod試験片を切削し、得られた切削試料について面出し調整を行い、続いて凍結ミクロトーム)を使用した切削断面加工によって観察面を作製した。それぞれの手順についての詳細は以下の通りである。
[1.Izod試験片の切削]
Izod試験片を図4に示す位置で切り出し、長さ7mm、幅5mm×厚み3.2mmの試料片を得た。
[2.切り出し試料からの面出し調整]
上記1.で得られた試料片の観察面側を、トリム装置(「Leica EM TRIM」[ライカマイクロシステムズ社製])にて四角錐形状にトリミングした。
続いて、ミクロトーム(「ULTRACUT S」[ライカマイクロシステムズ社製])を用い、常温にて約150μm四方の面が出るよう四角錐の頂点を切り落とした。
なお、ミクロトームに使用したガラスナイフの形状は、図6に示す通りである。材料として、「ガラスナイフ用ガラス棒(長さ400mm,幅25mm、厚さ6mm)」[NISSHIN EM Co., Ltd.TOKYO]を用い、加工装置としてガラスナイフメーカー(「LeicaEM KMR2」[ライカマイクロシステムズ社製])を用いた。作製されたガラスナイフの破断面を顕微鏡で観察し、切削に用いる辺に欠けが視認されないものを用いた。
[3.凍結ミクロトーム切削による観察面の作成]
上記2.で面出しした試料を、ガラスナイフと共に、凍結用のミクロトーム(「ULTRACUTR」[ライカマイクロシステムズ社製])に設置された冷却ボックス内に設置し、液体窒素を用いてボックス内の雰囲気温度を-120℃で1時間冷却した。
続いて、当該試料を冷却ボックスから取り出すことなく、図5に示す通り、約200μm~500μm四方の面となるよう切り出し、観察面とした。
測定モード:位相差モード
評価対象のドメイン:観察視野内にドメインの全体が映っているものを評価対象のドメインとした。
ドメイン評価に用いる観察視野サイズ:1μm四方で観察した場合の評価対象のドメイン数が21以上の場合は1μm四方を、6以上20以下は2μm四方を、5以下は5μm四方をドメイン評価に用いる観察視野サイズとした。
観察するドメインの数:ドメイン(d)の数割合、ドメインの平均断面積およびドメインの平均隣接粒子間距離の算出に用いる評価対象のドメインの観察数は、70以上とした。1観察視野当たりの評価対象のドメインが70未満の場合は、その数が70以上となるまで追加観察した。
画像解析ソフト:SPIP
【0096】
<SPMによるドメイン(d)のあり/なしの判定、(d-1)内部の(d-2)の数および全ドメインの合計数に占めるドメイン(d)の数割合の算出方法>
評価対象の全ドメイン数をSPIPで自動算出し、ドメイン(d)は目視でカウントした。
<SPMによるドメイン平均断面積の算出方法>
それぞれのドメインに対し、SPIPで画像処理してドメイン断面積を自動算出し、その平均値を計算した。
<SPMによる隣接粒子間距離の平均の算出方法>
それぞれのドメインに対し、SPIPで隣接粒子間距離を自動算出し、その平均値を算出した。
【0097】
<ポリカーボネートオリゴマーの製造>
5.6質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、ビスフェノールA(BPA)(後から溶解する)に対して2000ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加えた。これにBPA濃度が13.5質量%となるようにBPAを溶解し、BPAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。このBPAの水酸化ナトリウム水溶液を40L/hr、塩化メチレンを15L/hr、及びホスゲンを4.0kg/hrの流量で内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。管型反応器を出た反応液を、後退翼を備えた内容積40Lのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入し、ここにさらにBPAの水酸化ナトリウム水溶液を2.8L/hr、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を0.07L/hr、水を17L/hr、1質量%のトリエチルアミン水溶液を0.64L/hrの流量で添加して反応を行なった。槽型反応器から溢れ出る反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。
このようにして得られたポリカーボネートオリゴマーは濃度341g/L、クロロホーメート基濃度0.71mol/Lであった。
【0098】
製造例1
<PC-POS共重合体(A-1a)>
以下に記載する(i)~(xiv)の値は、表1に示すとおりである。
邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた50L槽型反応器に上記の通り製造したポリカーボネートオリゴマー溶液(PCO)(i)L、塩化メチレン(MC)(ii)Lおよび、平均鎖長n=(iii)のアリルフェノール末端変性ポリジメチルシロキサン(iv)gを塩化メチレン(MC)(v)Lに溶解したもの、ならびに、トリエチルアミン(TEA)(vi)mLを仕込み、攪拌下でここに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq)(vii)gを加え、20分間ポリカーボネートオリゴマーとアリルフェノール末端変性PDMSの反応を行った。
この重合液に、p-tert-ブチルフェノール(PTBP)の塩化メチレン溶液(PTBP(viii)gを塩化メチレン(MC)(ix)Lに溶解したもの)、BPAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH(x)gと亜二チオン酸ナトリウム(Na224)(xi)gとを水(xii)Lに溶解した水溶液にBPA(xiii)gを溶解させたもの)を添加し40分間重合反応を実施した。
希釈のため塩化メチレン(MC)(xiv)Lを加え10分間攪拌した後、PC-POSを含む有機相と過剰のBPA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
こうして得られたPC-POSの塩化メチレン溶液を、その溶液に対して、15容積%の0.03mol/L NaOH水溶液、0.2mol/L塩酸で順次洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
洗浄により得られたポリカーボネートの塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥し、PC-POS共重合体(A1)~(A17)を得た。得られたフレークのPDMS含有率、未反応PDMS量及び粘度平均分子量の測定を行った。
【0099】
製造例2
<PC-POS共重合体(A-1b)>
前記(i)~(xiv)の値を表1に記載の通りに変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造と測定を行った。
【0100】
【表1】
【0101】
<PC-POS共重合体(A-2)>
PC-POS共重合体A-2:「FG1700」[PC-POS共重合体、ポリオルガノシロキサンブロック鎖長88、ポリオルガノシロキサン含有量6質量%、粘度平均分子量Mv17,700]
<芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)>
芳香族ポリカーボネート系樹脂B-1:「FN2500」[粘度平均分子量Mv23,500]
芳香族ポリカーボネート系樹脂B-2:「FN2200」[粘度平均分子量Mv21,300]
芳香族ポリカーボネート系樹脂B-3:「FN1900」[粘度平均分子量Mv19,300]
芳香族ポリカーボネート系樹脂B-4:「FN1700」[粘度平均分子量Mv17,700]
【0102】
<難燃剤(C)>
有機スルホン酸アルカリ金属塩:「メガファックF114(商品名)」[パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、DIC株式会社製]
リン系難燃剤:「CR-741(商品名)[ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート,大八化学工業(株)製]
リン系難燃剤:「PX-202(商品名)」[ビフェノールビスジキシレニルホスフェート(HPでは芳香族縮合リン酸エステル),大八化学工業(株)製]
リン系難燃剤:「CR733S(商品名)」[レゾルシノールビスジフェニルホスフェート,大八化学工業(株)製]
<難燃助剤(D)>
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE):「A3800(商品名)」[ポリテトラフルオロエチレン50%、炭素数4以上のアルキル基を有するポリアルキル(メタ)アクリレート50%、三菱レイヨン株式会社製]
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE):「CD097E(商品名)」[ポリテトラフルオロエチレン100%、旭硝子株式会社製]
【0103】
<その他の成分>
酸化防止剤:「IRGAFOS168(商品名)」[トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、BASFジャパン株式会社製]
【0104】
参考例1~2、実施例1~28、比較例1~17
製造例1及び2で得られたPC-POS共重合体A1およびA2、並びにその他の各成分を表2~表7に示す配合割合で混合し、ベント式二軸押出機(東芝機械株式会社製、TEM35B)に供給し、スクリュー回転数150rpm、吐出量20kg/hr、樹脂温度278~300℃にて溶融混練し、評価用ペレットサンプルを得た。なお、参考例、実施例及び比較例でそれぞれ得られた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のSPMによる観察結果の代表画像(画像は1μm四方)を図7~25に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
[評価試験]
<流動性評価>(MFR)
上記ペレットを用いて、JIS K 7210-1:2014に準拠し、300℃、1.2kgの荷重下にて、直径2.095±0.005mm、長さ8.000±0.025mmのダイから流出する溶融樹脂量(g/10分)を測定した。
【0112】
<Q値(流れ値)〔単位;10-2mL/秒〕>
上記ペレットを用いて、JIS K 7210-1:2014:付属書JAに準拠し、高架式フローテスターを用いて、280℃、160kgfの圧力下にて、直径1.00mm、長さ10.00mmのノズルより流出する溶融樹脂量(mL/sec)を測定した。Q値は単位時間当たりの流出量を表しており、数値が高いほど、流動性が良いことを示す。
【0113】
<耐衝撃性>
上記得られたペレットを120℃で8時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX110、スクリュー径36mmφ)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度80℃にて、射出成形してIZOD試験片(長さ63.5mm、幅12.7mm,厚さ3.2mm)を作成した。この試験片に後加工でノッチ(r=0.25mm±0.05mm)を付与した試験片を用いて、ASTM規格D-256に準拠して、-40℃、-30℃、-20℃及び23℃におけるノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0114】
<難燃性評価>
上記得られたペレットを120℃で8時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX110、スクリュー径36mmφ)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度80℃にて、射出成形して、厚み1.59~1.64mmの試験片(長さ127mm、幅12.7mm)をえた。この試験片を用いて、アンダーライターズラボラトリー・サブジェクト94(UL94)燃焼試験に準拠して垂直燃焼試験を行い、V-0、V-1及びV-2に分類して評価した。V-0に分類されるものが難燃性に優れることを示す。
【0115】
<引張破断強度(単位;MPa)>
上記得られたペレットを120℃で8時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX110、スクリュー径36mmφ)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度80℃にて、射出成形してダンベル型試験片(平行部:長さ60mm、幅10mm、厚さ3.2mm)を作成した。この試験片を用いて、試験速度50mm/min、チャック間距離115mm、温度23℃にて、ASTM規格D-638に準拠して引張破断強度を測定した。
<引張伸び率(単位;%)>
上記得られたペレットを120℃で8時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX110、スクリュー径36mmφ)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度80℃にて、射出成形してダンベル型試験片(平行部:長さ60mm、幅10mm、厚さ3.2mm)を作成した。この試験片を用いて、試験速度50mm/min、チャック間距離115mm、温度23℃にて、ASTM規格D-638に準拠して引張伸び率を測定した。
【0116】
<荷重たわみ温度(単位;℃)>
上記得られたペレットを120℃で8時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX110、スクリュー径36mmφ)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度80℃にて、射出成形して試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mm)を得た。この試験片を用い、ASTM規格D-648に準拠して、昇温速度120℃/h、支点間距離100mm、1.8MPaの荷重を掛けて、エッジワイズによる試験片のたわみが0.26mmに達した時の温度を記録した。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明で得られる難燃性ポリカーボネート樹脂は、難燃性及び耐衝撃性に優れるため、電気・電子機器用部品の筐体等、自動車及び建材の部品等として好適に用いることができる。
図1
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