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特許7109480半秩序化ケイ酸カルシウム水和物を含有する組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】半秩序化ケイ酸カルシウム水和物を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20220722BHJP
   C04B 14/06 20060101ALI20220722BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20220722BHJP
   C04B 14/14 20060101ALI20220722BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20220722BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20220722BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220722BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220722BHJP
   C04B 28/06 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C04B22/08 A
C04B14/06 Z
C04B14/10 A
C04B14/14
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B24/26 E
C04B24/26 F
C04B28/02
C04B28/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019565985
(86)(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2018054430
(87)【国際公開番号】W WO2018154012
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】17157418.9
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ヘッセ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ディーチュ
(72)【発明者】
【氏名】アッティラ ダル
(72)【発明者】
【氏名】マリア ベッカー
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501293(JP,A)
【文献】国際公開第2016/192745(WO,A1)
【文献】特表2013-520390(JP,A)
【文献】特表平09-500605(JP,A)
【文献】特開2006-143534(JP,A)
【文献】特開2015-86107(JP,A)
【文献】特表2018-525316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
B09B 3/00
C09K 17/10
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物性成分およびポリマー型水溶性分散剤を含む硬化促進剤用の組成物であって、前記ポリマー型水溶性分散剤は、水中で20℃および常圧で少なくとも1グラム毎リットルの溶解度を有する有機ポリマーであり、前記鉱物性成分が、X線回折分析に引き続いてのリートベルト解析によって測定される15nm以下の見かけの結晶子サイズを有する半秩序化ケイ酸カルシウム水和物と、鉱物性成分の乾燥質量に対して35質量%未満の、ケイ酸カルシウム水和物相(C-S-H)ではない結晶性相とを含み、
前記結晶性相は、ポートランダイト(Ca(OH) )、カルサイト(CaCO )、アラゴナイト(CaCO )、バテライト(CaCO )、およびα-石英(SiO )からなる群より選択される少なくとも1つを含み、
前記半秩序化ケイ酸カルシウム水和物は、(1)巨視的な結晶性ケイ酸カルシウム水和物よりも低い秩序化度を有し、(2)非晶質ケイ酸カルシウム水和物よりも高い秩序化度を有し、かつX線回折におけるケイ酸カルシウム水和物の主要回折ピークが、50nm以上の結晶子サイズを有する結晶形の対応する主要回折ピークの半値幅の少なくとも1.25倍であるケイ酸カルシウム水和物である、組成物。
【請求項2】
前記鉱物性成分中のカルシウム対ケイ素のモル比(Ca/Si)は、0.5~2.5の範囲内である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記鉱物性成分に対して2質量%以下のアルカリ金属を含有する、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記鉱物性成分のBET比表面積は、DIN ISO 9277:2003-05により測定される、30m/g~150mgの範囲内である、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
鉱物性成分を水性媒体中で少なくとも1種の水溶性ポリマー型分散剤と運動エネルギーの導入により接触させるケイ酸カルシウム水和物を含有する硬化促進剤用の組成物の製造方法であって、前記水溶性ポリマー型分散剤は、水中で20℃および常圧で少なくとも1グラム毎リットルの溶解度を有する有機ポリマーであり、前記鉱物性成分が、X線回折分析に引き続いてのリートベルト解析によって測定される15nm以下の見かけの結晶子サイズを有する半秩序化ケイ酸カルシウム水和物と、鉱物性成分の乾燥質量に対して35質量%未満の、ケイ酸カルシウム水和物相(C-S-H)ではない結晶性相とを含み、
前記結晶性相は、ポートランダイト(Ca(OH) )、カルサイト(CaCO )、アラゴナイト(CaCO )、バテライト(CaCO )、およびα-石英(SiO )からなる群より選択される少なくとも1つを含み、
前記半秩序化ケイ酸カルシウム水和物は、(1)巨視的な結晶性ケイ酸カルシウム水和物よりも低い秩序化度を有し、(2)非晶質ケイ酸カルシウム水和物よりも高い秩序化度を有し、かつX線回折におけるケイ酸カルシウム水和物の主要回折ピークが、50nm以上の結晶子サイズを有する結晶形の対応する主要回折ピークの半値幅の少なくとも1.25倍であるケイ酸カルシウム水和物である
、方法。
【請求項6】
前記鉱物性成分は、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムと二酸化ケイ素とを、水の存在下で水熱的条件下で100℃~400℃の範囲内の温度で5時間~30時間の期間にわたり反応させることにより製造されている、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記鉱物性成分は、起泡剤の存在下で製造されている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記鉱物性成分と前記水溶性ポリマー型分散剤との接触は、混合エネルギーまたは剪断エネルギーの導入により行われる、請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記鉱物性成分と前記水溶性ポリマー型分散剤との接触は、粉砕により行われる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記粉砕は、静的光散乱により測定される、≦400nmの鉱物性成分の粒度d(50)まで行われる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ポリマー型分散剤として、ポリアルキレンオキシド側鎖を有する櫛形ポリマーが使用される、請求項5から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物を含む建材混合物。
【請求項13】
水硬性結合材または潜在水硬性結合材を含有する建築化学的混合物の硬化促進のための、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に水硬性結合材のための硬化促進剤として適しているケイ酸カルシウム水和物を含む組成物、該組成物の製造方法、およびその使用に関する。
【0002】
セメントの水和に際して、種々のセメントクリンカー相が水と反応して、本質的に水和物相であるケイ酸カルシウム水和物、エトリンガイト、カルシウム-アルミネート-フェライト相、モノ硫酸塩(クゼライト)、およびポートランダイトとなる。
【0003】
国際公開第2010/026155号(WO2010/026155)から、ケイ酸カルシウム水和物結晶核をセメントに添加することによりセメントの水和を促進することが知られている。したがって、セメントの強度発生は、そのようなケイ酸カルシウム水和物結晶核を添加することにより促進させることができる。ケイ酸カルシウム水和物結晶核は、それぞれ水硬性結合材のための流動剤として適した水溶性櫛形ポリマーの存在下で、水溶性カルシウム成分と水溶性ケイ素成分とを水溶液中で反応させることによって、またはカルシウム化合物と二酸化ケイ素とを反応させることによって得られる。その際に得られる組成物は、優れた促進作用を有するものの、例えば該組成物をポンプ圧送するか、または吹き付けねばならない場合にその使用を困難にし得る比較的高い粘度も有する。さらに、水溶性カルシウム成分と水溶性ケイ素成分との反応によって得られる組成物は、腐食性等の応用技術的欠点が避けられない塩化物イオンおよび硝酸イオン等の外来イオンを含有する。
【0004】
国際公開第95/04007号(WO95/04007)から、特にポルトランドセメント、微細化ポルトランドクリンカー、または調合されたポルトランドセメント、または上述の出発材料の混合物の水和から90℃未満での水和に引き続き粉砕することにより得られるケイ酸塩系の水硬性結合材のための凝結促進剤および硬化促進剤が知られている。
【0005】
国際公開第2013/017391号(WO2013/017391)は、セメントクリンカーを15質量%超のケイ酸カルシウム水和物を含有する材料0.1質量%~5質量%と一緒に粉砕することによる速硬性水硬性結合材の製造方法を記載している。この場合に、ポリオキシアルキレンポリカルボキシレートである減水剤も一緒に粉砕され得る。ケイ酸カルシウム水和物を含有する材料としては、この場合に市販の結晶性のCircolit(登録商標)が使用される。
【0006】
G.Land and D.Stephan,Cement & Concrete Composites 57(2015)64-67は、粒子の水性分散液をCEM Iホワイトセメントに添加することによりセメントの水和を促進するためにトバモライト粒子(630nm)およびゾノトライト粒子(420nm)を使用することを記載している。ゾノトライト粒子の促進効果は、トバモライト粒子の効果よりも大きいことが明らかになった。
【0007】
欧州特許出願公開第2243754号明細書(EP2243754A1)は、ベライト含有結合材の製造方法であって、カルシウム原子、ケイ素原子、および酸素原子を含む出発材料に水を加え、120℃~250℃の温度で水熱処理し、得られた中間生成物を、100℃~200℃の温度で5分~30分の期間にわたり反応粉砕にかける、製造方法を記載している。この場合に、反応および脱水しつつ、ポルトランドセメントと同様に使用することができるベライト含有結合材が形成される。
【0008】
欧州特許第2801557号明細書(EP2801557B9)は、高反応性結合材の製造方法であって、CaO、MgO、SiO、Al、およびFe、またはこれらの元素の別の化合物を含有する1種以上の原材料からの出発材料を混合する、製造方法を記載している。MgおよびAlを必須に含有する混合物を、100℃~300℃および0.1時間~24時間の滞留時間で水熱処理し、得られた中間生成物を、350℃~600℃で熱処理する。得られた生成物は、少なくとも1種のケイ酸カルシウム、および少なくとも1種のアルミン酸カルシウムを含有する。
【0009】
欧州特許出願公開第2801558号明細書(EP2801558A1)は類似の方法を記載しているが、そこでは該方法の生成物は、ポルトランドセメントの初期硬化/凝結および/または硬化の促進剤として使用される。
【0010】
欧州特許出願公開第2801559号明細書(EP2801559A1)は、廃棄物および副生成物等の材料の潜在水硬反応性および/またはポゾラン反応性の増強のための方法であって、CaO源とSiOおよび/またはAlのための源とを含有する出発材料を水と混合し、100℃~300℃および0.1時間~50時間の滞留時間で水熱処理する、方法を記載している。得られた生成物は、水硬反応性、ポゾラン反応性、または潜在水硬反応性を有する。
【0011】
国際公開第2017/032719号(WO2017/032719)は、セメントの硬化のための促進剤として適している組成物の製造方法を記載している。該方法は、水硬性結合材または潜在水硬性結合材を、水中での無機粒子の分散のために適している分散剤と接触させることを含む。
【0012】
TASHIRO et al.,23rd general Meeting of Cement Association Japan,1.Januar 1969,第136頁~第141頁は、セメント石灰の強度に対する合成ケイ酸カルシウム水和物の影響を調査している。その合成ケイ酸カルシウム水和物は、5気圧~10気圧で130℃において5日間で製造された。X線回折図からは、該合成ケイ酸カルシウム水和物が多量の石英を含有することが明らかである。
【0013】
従来技術から知られるケイ酸カルシウム水和物を基礎とする促進剤は、満足のいかない促進作用を有するか、または応用技術的欠点(高すぎる粘度、腐食性)が避けられないため、経済的に意義のある使用可能性が限定されている。
【0014】
したがって、本発明の基礎となる課題は、特に水硬性結合材または潜在水硬性結合材の硬化に対する満足のいく促進作用を有し、改善された応用技術的特性を有するケイ酸カルシウム水和物を含有する組成物を提供することである。特に、該組成物は、取り扱いが容易であるべきであり、特に組成物の容易なポンプ圧送および吹きつけを可能にする粘度を有するべきであり、水硬性結合材または潜在水硬性結合材のための硬化促進剤として適しているべきであり、したがって水硬性結合材または潜在水硬性結合材、特にポルトランドセメントの早期強度を改善するべきである。さらに、該組成物は、廉価で入手し易い原料を用いて経済的に有利に製造可能であるべきである。
【0015】
本明細書では、早期強度とは、水硬性結合材の場合には水硬性結合材と水とを混ぜ合わせてから6時間後の圧縮強さと解釈されるべきである。潜在水硬性結合材の場合には、早期強度とは、水硬性結合材と水とを混ぜ合わせてから7日後の圧縮強さと解釈されるべきである。
【0016】
驚くべきことに、前記課題は、鉱物性成分およびポリマー型水溶性分散剤を含み、前記鉱物性成分が、15nm以下の見かけの結晶子サイズを有する半秩序化ケイ酸カルシウム水和物と該半秩序化ケイ酸カルシウム水和物とは異なる35質量%未満の結晶性相とを含む組成物によって解決される。
【0017】
本発明による組成物は、鉱物性成分がより高い結晶化度を有するケイ酸カルシウム水和物を含む比較組成物よりも優れた水硬性結合材または潜在水硬性結合材の硬化に対する促進作用を有することが判明した。他方で、本発明による組成物は、ケイ酸カルシウム水和物ゲルまたは完全に非晶質のケイ酸カルシウム水和物を基礎とする組成物とは異なり、高い固体含量でもポンプ圧送可能なままである。
【0018】
本明細書で使用される表現「含んでいる(umfassend)」または「含む(umfasst)」は、「本質的に~からなる(im wesentlichen bestehend aus)」および「~からなる(bestehend aus)」も含むが、これらの表現とは同義ではない。
【0019】
鉱物性成分
本発明による組成物の鉱物性成分は、鉱物性成分の乾燥質量に対して、好ましくは少なくとも95質量%、有利には少なくとも98質量%の酸化カルシウム(CaO)および酸化ケイ素(SiO)を含む。鉱物性成分中のモル比Ca/Siは、好ましくは0.5~2.5、有利には0.8~2.2、特に有利には1.0~2.0または1.6~2.0の範囲内である。
【0020】
製造上の不純物に基づいて、鉱物性成分は、少量のアルミニウムイオンを含有することがあり、その際、鉱物性成分中のケイ素/アルミニウムのモル比は、10000:1~2:1、有利には1000:1~5:1、特に有利には100:1~10:1である。
【0021】
鉱物性成分は、セメント、セメントクリンカー、および/またはエトリンガイトを本質的に含まない。「本質的に含まない」とは、本明細書では、それぞれ鉱物性成分の全質量に対して10質量%未満または5質量%未満、有利には1質量%未満、特に0質量%を意味する。
【0022】
本発明による組成物の鉱物性成分は、半秩序化ケイ酸カルシウム水和物を含む。「半秩序化」とは、ケイ酸カルシウム水和物が、(1)巨視的な結晶性ケイ酸カルシウム水和物よりも低い秩序化度を有し、かつ(2)非晶質ケイ酸カルシウム水和物よりも高い秩序化度を有することと解釈される。半秩序化ケイ酸カルシウム水和物は、純粋な結晶形とも純粋な非晶質形とも異なる物理的特性を有する。
【0023】
ケイ酸カルシウム水和物が半秩序化状態で存在するかどうかを決定するために適した方法は、X線回折を使用する。ケイ酸カルシウム水和物の回折図は、市販の粉末回折計により記録することができる。半秩序化ケイ酸カルシウム水和物のX線回折図は、結晶性ケイ酸カルシウム水和物のX線回折図とは異なる。半秩序化ケイ酸カルシウム水和物は、反射もしくは回折線または「ピーク」が、結晶形の回折図と比較してより広くもしくはより低く規定され、かつ/または部分的に存在しない回折図を示す。「ピーク」とは、以下では回折角に対するX線回折強度のプロットにおける極大と解釈される。半秩序化ケイ酸カルシウム水和物の主要回折ピークは、例えば50nm以上の結晶子サイズを有する結晶形の対応する主要回折ピークの半値幅の少なくとも1.25倍、大抵は少なくとも2倍、または少なくとも3倍である半値幅を有する。
【0024】
他方で、半秩序化ケイ酸カルシウム水和物のX線回折図は、純粋にX線非晶質な形態とも異なる。半秩序化ケイ酸カルシウム水和物のX線回折図は、ケイ酸カルシウム水和物の或る特定の秩序を指す僅かな広い相特異的なX線回折極大を示すが、X線非晶質形は、判別可能なX線回折極大を示さない。ケイ酸カルシウム水和物相は、明らかにX線非晶質形に分類され得ない。
【0025】
半秩序化ケイ酸カルシウム水和物は、少なくとも1つの空間方向における単純格子の100個未満の繰返単位、大抵は20個未満の繰返単位の長距離秩序を有する。単純格子の繰返単位に相当する対応するコヒーレント散乱領域(結晶子)が、試料中で非常に小さい場合に、本来は反射位置にある幾つかの結晶子は、互いに僅かに傾いている。さらに、粒界での構造の妨害によって回折挙動に変化がもたらされる。それによって、なおも反射が起こり、それにより回折シグナルが生ずる角度領域が広がる。「見かけの」結晶子サイズは、ScherrerによればX線回折シグナルの半値幅から計算することができる:
β=λ/ε cosθ
β=半値幅
λ=波長
ε=見かけの結晶子サイズ
θ=ブラッグ角。
【0026】
実際には、回折図の評価のためには、ヒューゴ・リートベルトの「全パターンフィッティング構造精密化(PFSR)」が有効であることが実証された(「リートベルト解析」)。このソフトウェア法は、格子パラメーター、シグナル幅、およびシグナル形状を含む多数の測定パラメーターの精密化のために用いられる。こうして、理論的な回折パターンを算出することができる。計算された回折パターンが未知の試料のデータとほぼ同一であれば、結晶子サイズおよび非晶質割合に関する正確な定量的情報を決定することができる。
【0027】
本発明によれば、半秩序化ケイ酸カルシウム水和物は、X線回折分析に引き続いてのリートベルト解析によって測定される15nm以下、特に10nm以下、好ましくは5nm以下の見かけの結晶子サイズを有する。見かけの結晶子サイズは、一般的に少なくとも1nm、例えば1nm~15nm、または1nm~10nm、特に有利には1nm~5nmである。
【0028】
本出願においてサイズがその見かけの結晶子サイズに基づいて説明される半秩序化ケイ酸カルシウム水和物の秩序化領域の単純格子は、結晶性ケイ酸カルシウム水和物相(C-S-H)から誘導される。結晶性ケイ酸カルシウム水和物相は、特にフォシャジャイト、ヒレブランダイト、ゾノトライト(Belov)、ゾノトライト(Kudoh)、ネコアイト、クリノトバモライト、9Å-トバモライト(リベルシデライト(Riversiderit))、10Å-トバモライト、11Å-トバモライト(C/S 0.75および0.66)、14Å-トバモライト(プロムビエライト(Plombierit))、ジェナイト、メタジェナイト、カルシウムコンドロダイト、アフウィライト、α-CSH、デライト、ジャフェアイト、ローゼンハーナイト、キラライト、ブルトフォンテナイト、レインハードブラウンサイト、キルコアナイト、C、オケナイト、レイエライト、ジャイロライト、トラスコタイト、K相、Z相、スコータイト、フカライト、チライト(Tylleit)、スパーライト、および/またはソウルナイトであり、有利にはゾノトライト、9Å-トバモライト(リベルシデライト)、11Å-トバモライト、14Å-トバモライト(プロムビエライト)、ジェナイト、メタジェナイト、アフウィライト、および/またはジャフェアイトである。
【0029】
有利には、秩序化領域の単純格子は、9Å-トバモライト(リベルシデライト)、10Å-トバモライト、11Å-トバモライト(C/S 0.75および0.66)、14Å-トバモライト(プロムビエライト)、スコータイト、および/もしくはゾノトライト、または混合物から誘導される。
【0030】
本発明の目的のためには、見かけの結晶子サイズの測定のために14Å-トバモライト(プロムビエライト)の単純格子のみを考慮することが十分な近似であることが分かった。
【0031】
鉱物性成分は、鉱物性成分の乾燥質量に対して35質量%未満の、半秩序化ケイ酸カルシウム水和物とは異なる結晶性相、すなわちケイ酸カルシウム水和物相(C-S-H)ではない結晶性相(以下で「結晶性異種相」とも)を含有する。結晶性異種相は、ポートランダイト(Ca(OH))、カルサイト(CaCO)、アラゴナイト(CaCO)、バテライト(CaCO)、およびα-石英(SiO)である。結晶性異種相の含量は、鉱物性成分の乾燥質量に対して0.1質量%から35質量%未満の範囲内、有利には1質量%~25質量%の範囲内であり得る。乾燥質量は、鉱物性成分を105℃で重さが一定になるまで乾燥させることによって測定される。
【0032】
アルミニウムが不純物である場合に、鉱物性成分は、例えばギブサイト(Al(OH))等のアルミニウム含有相も含み得る。
【0033】
一般的に、鉱物性成分は、半秩序化ケイ酸カルシウム水和物(および任意に結晶性異種相)の他に、X線非晶質相をさらに含む。1つの実施形態によれば、鉱物性成分は、X線回折分析に引き続いてのリートベルト解析によって測定される、鉱物性成分の乾燥質量に対して、少なくとも≧10質量%、有利には≧40質量%、特に有利には≧60質量%、特に10質量%~99.9質量%または10質量%~80質量%、好ましくは40質量%~80質量%のX線非晶質相を有する。
【0034】
半秩序化ケイ酸カルシウム水和物およびX線非晶質相の合計は、X線回折分析に引き続いてのリートベルト解析により測定される、鉱物性成分の乾燥質量に対して、好ましくは少なくとも65質量%、例えば65質量%~99質量%である。
【0035】
好ましくは、鉱物性成分を介して、アルカリ金属イオン、塩化物イオン、または硝酸イオン等の外来イオンは、本発明による組成物中へと導入されないか、または非常に少量にのみ導入される。1つの実施形態においては、本発明による組成物は、鉱物性成分の乾燥質量に対して、2質量%以下のアルカリ金属を含有する。
【0036】
鉱物性成分は、或る特定の条件に保持しながらの水熱的方法によって、すなわち酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム等の水酸化カルシウム源と、二酸化ケイ素等の二酸化ケイ素源とを、水の存在下で、かつ少なくとも100℃の高められた温度および高められた圧力で、適宜オートクレーブ中で反応させることによって得ることができる。この場合に、鉱物性成分は、物理的に吸着された水を伴う固体として生ずる。約105℃までの温度での任意選択の乾燥を除外して、鉱物性成分は、さらなる熱処理を受けない。こうして製造された鉱物性成分は、半秩序化ケイ酸カルシウム水和物、未反応または反応時に形成された結晶性異種相を含む結晶性異種相、例えば石英、ポートランダイト、カルサイト等、ならびにX線非晶質相を含む。
【0037】
鉱物性成分の製造は、適宜、閉鎖された容器、例えばオートクレーブ中で、有利には100℃~400℃、特に110℃~300℃、または110℃~230℃、または130℃~200℃、または130℃~180℃、または155℃~180℃、または160℃~180℃の範囲内の温度、およびそれにより生ずる圧力で行われる。酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムとしては、例えば生石灰、消石灰等が使用される。二酸化ケイ素としては、例えば珪砂または石英粉、マイクロシリカ等が適している。さらに、出発物質としては、ポゾラン系結合材、例えばフライアッシュ、スラグ、例えば高炉スラグ、および/またはメタカオリンを使用することもできる。反応を容易にして、反応時間を短縮するためには、一般的に1mm未満の平均粒度を有する出発物質が使用される。二酸化ケイ素源は、一般的に1μm~100μm、特に1μm~90μmの範囲内の粒度d(99値)を有する。酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムおよび二酸化ケイ素の量は、一般的に鉱物性成分中のCa/Siのモル比が、0.5~2.5、有利には0.8~2.2、特に有利には1.0~2.0の範囲内であるように選択される。
【0038】
鉱物性成分の水熱的製造に際して、起泡剤、特にアルミニウム粉末、または金属アルミニウム含有ペーストを使用することが適切であることが分かった。
【0039】
鉱物性成分を水熱合成後に微細化することが有利であることが分かった。このためには、破砕機およびボールミル等の通常の装置が適している。微細化は、5mm以下、有利には2mm以下の(d(97)値)の粒度、特に0.05mm~5mm、有利には0.1mm~2mm、特に0.3mm~1mmの範囲内の粒度(d(97)値)まで行われる。微細化は、80℃以下、特に60℃以下、有利には50℃以下の温度で行われる。
【0040】
水熱合成により得られる鉱物性成分は、好ましくは、まず80℃以下、特に60℃以下、有利には50℃以下の温度での機械的微細化を受ける。
【0041】
鉱物性成分は、機械的微細化の後に5mm以下、有利には2.5mm以下、特に1mm以下の粒度(d(97)値)を有する。例えば、鉱物性成分の粒度(d(97)値)は、機械的微細化の後に0.05mm~5mm、有利には0.1mm~2mm、特に0.3mm~1mmの範囲内である。
【0042】
好ましくは、ポリマー型分散剤と接触させた鉱物性成分は、DIN ISO 9277:2003-05により測定される、30m/g~150m/g、有利には80m/g~150m/g、特に90m/g~150m/gの範囲内のBET比表面積を有する。
【0043】
水溶性ポリマー型分散剤
「水溶性ポリマー型分散剤」とは、本明細書では有機の水溶性ポリマー型分散剤と解釈され、すなわち水中で20℃および常圧で少なくとも1グラム毎リットル、特に少なくとも10グラム毎リットル、特に有利には少なくとも100グラム毎リットルの溶解度を有する有機ポリマーである。
【0044】
該分散剤は、特にポリエーテル側鎖、有利にはポリアルキレンオキシド側鎖を有する櫛形ポリマーである。
【0045】
好ましくは、ポリマー型分散剤は、主鎖に酸官能基およびポリエーテル側鎖を有するコポリマーである。
【0046】
1つの実施形態においては、ポリマー型分散剤は、一般式(Ia)
【化1】
[式中、
は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基、CHCOOH、もしくはCHCO-X-Rを表し、好ましくはHまたはCHを表し、
Xは、NH-(C2n)、O(C2n)(ここで、n=1、2、3、または4であり、窒素原子または酸素原子はCO基に結合されている)、または化学結合を表し、好ましくはXは、化学結合またはO(C2n)を表し、
は、OM、PO、O-PO、またはSOMを表すが、ただし、Xは、RがOMを表す場合には化学結合を表す]、
(Ib)
【化2】
[式中、
は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基、好ましくはHまたはCHを表し、
nは、0、1、2、3、または4を表し、好ましくは0または1を表し、
は、PO、O-PO、またはSOMを表す]、
(Ic)
【化3】
[式中、
は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基、好ましくはHを表し、
Zは、OまたはNRを表し、好ましくはOを表し、
は、H、(C2n)-OH、(C2n)-PO、(C2n)-OPO、(C)-PO、(C)-OPO、(C2n)-SOM、または(C)-SOMを表し、かつ
nは、1、2、3、または4を表し、好ましくは1、2、または3を表す]、および/または
(Id)
【化4】
[式中、
は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基、好ましくはHを表し、
Qは、NRまたはOを表し、好ましくはOを表し、
は、H、(C2n)-OH、(C2n)-PO、(C2n)-OPO、(C)-PO、(C)-OPO、(C2n)-SOM、または(C)-SOMを表し、
nは、1、2、3、または4を表し、好ましくは1、2、または3を表す]の少なくとも1つの構造単位を有し、ここで、上記式中のそれぞれのMは、互いに独立して、Hまたはカチオン等価物を表し、その際、構造単位(Ia)、(Ib)、(Ic)、および(Id)は、個々のポリマー分子内でも、異なるポリマー分子の間でも、同一または異なっていてよい。
【0047】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(Ia)で示され、式中のRがHもしくはCHを表す少なくとも1つの構造単位、および/または式(Ib)で示され、式中のRがHもしくはCHを表す少なくとも1つの構造単位、および/または式(Ic)で示され、式中のRがHもしくはCHを表し、かつZがOを表す少なくとも1つの構造単位、および/または式(Id)で示され、式中のRがHを表し、かつQがOを表す少なくとも1つの構造単位を有する。
【0048】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(Ia)の少なくとも1つの構造単位を有し、式中、Rは、HもしくはCHを表し、かつXRは、OMを表すか、またはXは、O(C2n)を表し、ここでn=1、2、3、または4であり、特に2であり、Rは、O-POを表す。
【0049】
好ましくは、櫛形ポリマーは、ポリエーテル側鎖として、一般式(IIa)
【化5】
[式中、
10、R11、およびR12は、互いに独立して、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、
Zは、OまたはSを表し、
Eは、非分岐または分岐状のC~C-アルキレン基、シクロヘキシレン基、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、または1,4-フェニレンを表し、
Gは、O、NH、またはCO-NHを表し、または
EおよびGは、一緒になって化学結合を表し、
Aは、C2x(x=2、3、4、または5であり、好ましくは2または3を表す)またはCHCH(C)を表し、
nは、0、1、2、3、4、または5を表し、好ましくは0、1、または2を表し、
aは、2~350、好ましくは5~150の整数を表し、
13は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基、CO-NH、および/またはCOCHを表す]、
(IIb)
【化6】
[式中、
16、R17、およびR18は、互いに独立して、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、
Eは、非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキレン基、シクロヘキシレン基、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、もしくは1,4-フェニレンを表し、または化学結合を表し、
Aは、C2x(x=2、3、4、または5であり、好ましくは2または3を表し)またはCHCH(C)を表し、
nは、0、1、2、3、4、および/または5を表し、好ましくは0、1、または2を表し、
Lは、C2x(x=2、3、4、または5であり、好ましくは2または3を表す)またはCH-CH(C)を表し、
aは、2~350、好ましくは5~150の整数を表し、
dは、1~350、好ましくは5~150の整数を表し、
19は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、
20は、Hまたは非分岐のC~C-アルキル基を表す]、
(IIc)
【化7】
[式中、
21、R22、およびR23は、互いに独立して、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、
Wは、O、NR25、またはNを表し、
Yは、W=OまたはNR25である場合に1を表し、かつW=Nである場合に2を表し、
Aは、C2x(x=2、3、4、または5であり、好ましくは2または3を表す)またはCHCH(C)を表し、
aは、2~350、好ましくは5~150の整数を表し、かつ
24は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、
25は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表す]、および/または
(IId)
【化8】
[式中、
は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、
Qは、NR10、N、またはOを表し、
Vは、W=OまたはNR10である場合に1を表し、かつW=Nである場合に2を表し、
10は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、かつ
Aは、C2x(x=2、3、4、または5であり、好ましくは2または3を表す)またはCHC(C)Hを表し、
24は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、
Mは、Hまたはカチオン等価物を表し、かつ
aは、2~350、好ましくは5~150の整数を表す]の少なくとも1つの構造単位を有する。
【0050】
特に有利には、式Iaによる構造単位は、メタクリル酸単位またはアクリル酸単位であり、式Icによる構造単位は、マレイン酸無水物単位であり、そして式Idによる構造単位は、マレイン酸単位またはマレイン酸モノエステル単位である。
【0051】
モノマー(I)がリン酸エステルまたはホスホン酸エステルであれば、それらはまた、相応のジエステルおよびトリエステル、ならびに二リン酸のモノエステルを含み得る。これらは、一般的に有機アルコールとリン酸、ポリリン酸、リン酸化物、リンハロゲン化物、またはリンオキシハロゲン化物、または相応のホスホン酸化合物とのエステル化に際して、モノエステル以外に種々の割合で生じ、例えば5mol%~30mol%のジエステルおよび1mol%~15mol%のトリエステル、ならびに2mol%~20mol%の二リン酸のモノエステルが生ずる。
【0052】
好ましくは、櫛形ポリマーは、は、ポリエーテル側鎖として、
(a)式(IIa)の少なくとも1つの構造単位(式中、R10およびR12は、Hを表し、R11は、HまたはCHを表し、EおよびGは、一緒になって化学結合を表し、Aは、C2xを表し、ここでx=2および/または3であり、aは、3~150を表し、かつR13は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表す)、および/または
(b)式(IIb)の少なくとも1つの構造単位(式中、R16およびR18は、Hを表し、R17は、HまたはCHを表し,Eは、非分岐または分岐状のC~C-アルキレン基を表し、Aは、C2xを表し、ここでx=2および/または3を表し、Lは、C2xを表し、ここでx=2および/または3を表し、aは、2~150の整数を表し、dは、1~150の整数を表し、R19は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表し、かつR20は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表す)、および/または
(c)式(IIc)の少なくとも1つの構造単位(式中、R21およびR23は、Hを表し、R22は、HまたはCHを表し、Aは、C2xを表し、ここでx=2および/または3を表し、aは、2~150の整数を表し、かつR24は、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表す)、および/または
(d)式(IId)の少なくとも1つの構造単位(式中、Rは、Hを表し、Qは、Oを表し、Rは、(Cn)-O-(AO)-Rを表し、nは、2および/または3を表し、Aは、C2xを表し、ここでx=2および/または3を表し、aは、1~150の整数を表し、かつRは、Hまたは非分岐もしくは分岐状のC~C-アルキル基を表す)
を有する。
【0053】
特に有利には、式IIaによる構造単位は、それぞれ好ましくは2個~350個の算術平均のオキシアルキレン基を有するアルコキシル化イソプレニル単位、アルコキシル化ヒドロキシブチルビニルエーテル単位、アルコキシル化(メタ)アリルアルコール単位、またはビニル化メチルポリアルキレングリコール単位である。
【0054】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(IIa)および/または(IIc)、特に式(IIa)の少なくとも1つの構造単位を有する。
【0055】
式(I)および(II)の構造単位の他に、ポリマー型分散剤は、ラジカル重合可能なモノマー、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、C~C-アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルアセテート、アクロレイン、N-ビニルホルムアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール、1-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アミノプロピルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、(メタ)アクロレイン、クロトンアルデヒド、ジブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジプロピルマレエート等から誘導されるさらなる構造単位も含み得る。
【0056】
構造単位(I)および(II)を含む櫛形ポリマーの製造は、通常のように、例えばラジカル重合によって行われる。それは、例えば欧州特許第0894811号明細書(EP0894811)、欧州特許第1851256号明細書(EP1851256)、欧州特許第2463314号明細書(EP2463314)、欧州特許第0753488号明細書(EP0753488)に記載されている。
【0057】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(I)および(II)の、特に式(Ia)および(IIa)の単位を有する。
【0058】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(Ia)および(IIc)の構造単位を有する。
【0059】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(Ic)および(IIa)の構造単位を有する。
【0060】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(Ia)、(Ic)、および(IIa)の構造単位を有する。
【0061】
好ましくは、櫛形ポリマーは、(i)アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ヒドロキシエチルアクリレートリン酸エステル、および/またはヒドロキシエチルメタクリレートリン酸エステル、ヒドロキシエチルアクリレート-リン酸ジエステル、および/またはヒドロキシエチルメタクリレート-リン酸ジエステルから誘導されるアニオン性またはアニオン原性の構造単位、ならびに(ii)C~C-アルキルポリエチレングリコールアクリル酸エステル、ポリエチレングリコールアクリル酸エステル、C~C-アルキルポリエチレングリコールメタクリル酸エステル、ポリエチレングリコールメタクリル酸エステル、C~C-アルキルポリエチレングリコールアクリル酸エステル、ポリエチレングリコールアクリル酸エステル、ビニルオキシ-C~C-アルキレンポリエチレングリコール、ビニルオキシ-C~C-アルキレンポリエチレングリコール-C~C-アルキルエーテル、アリルオキシポリエチレングリコール、アリルオキシポリエチレングリコール-C~C-アルキルエーテル、メタリルオキシポリエチレングリコール、メタリルオキシポリエチレングリコール-C~C-アルキルエーテル、イソプレニルオキシポリエチレングリコール、および/またはイソプレニルオキシポリエチレングリコール-C~C-アルキルエーテルから誘導されるポリエーテル側鎖を有する構造単位から構成されている。
【0062】
好ましくは、櫛形ポリマーは、
(i)ヒドロキシエチルアクリレートリン酸エステルおよび/またはヒドロキシエチルメタクリレートリン酸エステル、および(ii)C~C-アルキルポリエチレングリコールアクリル酸エステルおよび/またはC~C-アルキルポリエチレングリコールメタクリル酸エステル、または
(i)アクリル酸および/またはメタクリル酸、および(ii)C~C-アルキルポリエチレングリコールアクリル酸エステルおよび/またはC~C-アルキルポリエチレングリコールメタクリル酸エステル、または
(i)アクリル酸、メタクリル酸、および/またはマレイン酸、および(ii)ビニルオキシ-C~C-アルキレンポリエチレングリコール、アリルオキシポリエチレングリコール、メタリルオキシポリエチレングリコールおよび/またはイソプレニルオキシポリエチレングリコール
から誘導される構造単位(i)および(ii)から構成される。
【0063】
好ましくは、櫛形ポリマーは、
(i)ヒドロキシエチルメタクリレートリン酸エステル、および(ii)C~C-アルキルポリエチレングリコールメタクリル酸エステルもしくはポリエチレングリコールメタクリル酸エステル、または
(i)メタクリル酸、および(ii)C~C-アルキルポリエチレングリコールメタクリル酸エステルもしくはポリエチレングリコールメタクリル酸エステル、または
(i)アクリル酸およびマレイン酸、および(ii)ビニルオキシ-C~C-アルキレンポリエチレングリコール、または
(i)アクリル酸およびマレイン酸、および(ii)イソプレニルオキシポリエチレングリコール、または
(i)アクリル酸、および(ii)ビニルオキシ-C~C-アルキレンポリエチレングリコール、または
(i)アクリル酸、および(ii)イソプレニルオキシポリエチレングリコール、または
(i)アクリル酸、および(ii)メタリルオキシポリエチレングリコール、または
(i)マレイン酸、および(ii)イソプレニルオキシポリエチレングリコール、または
(i)マレイン酸、および(ii)アリルオキシポリエチレングリコール、または
(i)マレイン酸、および(ii)メタリルオキシポリエチレングリコール
から誘導される構造単位(i)および(ii)から構成される。
【0064】
好ましくは、構造単位(I):(II)のモル比は、1:4~15:1、特に1:1~10:1である。
【0065】
好ましくは、ポリエーテル側鎖のモル質量は、>500g/mol、有利には>3000g/molであり、かつ<8000g/mol、好ましくは<6000g/molである。
【0066】
好ましくは、ポリエーテル側鎖のモル質量は、2000g/mol~8000g/mol、特に4000g/mol~6000g/molの範囲内である。
【0067】
1つの実施形態においては、櫛形ポリマーは、構造単位(III)および(IV)を有する重縮合生成物であり、(III)は、
【化9】
であり、式中、
Tは、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のナフチル基、または5個~10個の環原子を有し、そのうち1個または2個の原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子である置換もしくは非置換の複素芳香族基を表し、
nは、1または2を表し、
Bは、N、NH、またはOを表すが、ただし、nは、BがNを表す場合に2を表し、かつnは、BがNHまたはOを表す場合には1を表し、
Aは、C2x(x=2、3、4、または5である)またはCHCH(C)を表し、
aは、1~300、好ましくは5~150の整数を表し、
25は、H、分岐状もしくは非分岐のC~C10-アルキル基、C~C-シクロアルキル基、アリール基、または5個~10個の環原子を有し、そのうち1個または2個の原子は、N、O、およびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリール基を表し、
その際、構造単位(IV)は、構造単位(IVa)
【化10】
[式中、
Dは、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のナフチル基、または5個~10個の環原子を有し、そのうち1個または2個の原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子である置換もしくは非置換の複素芳香族基を表し、
Eは、N、NH、またはOを表すが、ただし、mは、EがNを表す場合に2を表し、かつmは、EがNHまたはOを表す場合には1を表し、
Aは、C2x(x=2、3、4、または5である)またはCHCH(C)を表し、
bは、1~300、好ましくは1~50の整数を表し、
Mは、互いに独立して、H、カチオン等価物を表す]および
(IVb)
【化11】
[式中、
Vは、置換もしくは非置換のフェニル基、または置換もしくは非置換のナフチル基を表し、ここでVは、任意に、互いに独立してR、OH、OR、(CO)R、COOM、COOR、SO、およびNO、好ましくはOH、OC~C-アルキル、およびC~C-アルキルから選択される1個または2個の基によって置換されており、
は、COOM、OCHCOOM、SOM、またはOPOを表し、
Mは、Hまたはカチオン等価物を表し、
ここで、挙げられたフェニル基、ナフチル基、または複素芳香族基は、任意に、R、OH、OR、(CO)R、COOM、COOR、SO、およびNOから選択される1個または2個の基によって置換されており、かつ
は、C~C-アルキル、フェニル、ナフチル、フェニル-C~C-アルキル、またはC~C-アルキルフェニルを表す]から選択される。
【0068】
一般式(III)において、aは、好ましくは1~300、特に5~150の整数を表し、一般式(IV)において、bは、好ましくは1~300、特に1~50、特に有利には1~10の整数を表す。さらに、一般式(III)または(IV)の基は、互いに独立して、それぞれ同じ鎖長を有してよく、その際、aおよびbは、それぞれ1つの数によって表される。この場合に、一般的に、それぞれ異なる鎖長を有する混合物が存在することが適切であるため、重縮合生成物中の構造単位の基はaについて、そして独立してbについて異なる数値を有する。
【0069】
好ましくは、式IIIにおいて、Tは、置換または非置換のフェニル基またはナフチル基を表し、Aは、C2xを表し、ここでx=2および/または3を表し、aは、1~150の整数を表し、かつR25は、H、または分岐状もしくは非分岐のC~C10-アルキル基を表す。
【0070】
好ましくは、式IVaにおいて、Dは、置換または非置換のフェニル基またはナフチル基を表し、Eは、NHまたはOを表し、Aは、C2xを表し、ここでx=2および/または3を表し、かつbは、1~150の整数を表す。
【0071】
好ましくは、Tおよび/またはDは、1個または2個のC~C-アルキル基、ヒドロキシ基、または2個のC~C-アルコキシ基によって置換されているフェニルまたはナフチルを表す。
【0072】
好ましくは、Vは、1個または2個のC~C-アルキル、OH、OCHまたはCOOMによって置換されているフェニルまたはナフチルを表し、かつRは、COOMまたはOCHCOOMを表す。
【0073】
重縮合生成物の一般式(III)および(IV)における構造単位TおよびDは、好ましくは、フェニル、2-ヒドロキシフェニル、3-ヒドロキシフェニル、4-ヒドロキシフェニル、2-メトキシフェニル、3-メトキシフェニル、4-メトキシフェニル、ナフチル、2-ヒドロキシナフチル、4-ヒドロキシナフチル、2-メトキシナフチル、4-メトキシナフチル、フェノキシ酢酸、サリチル酸、好ましくはフェニルから誘導されており、その際、TおよびDは、互いに独立して選択され得、そしてまたそれぞれ上述の基の混合物から誘導されていてもよい。基BおよびEは、互いに独立して、好ましくはOを表す。すべての構造単位Aは、個々のポリエーテル側鎖内でも、異なるポリエーテル側鎖の間でも、同一または異なっていてよい。Aは、特に有利な実施形態においては、Cを表す。
【0074】
重縮合生成物において比較的高い割合の構造単位(IV)を有することが有利である。それというのも、ポリマーの比較的高い負電荷は、水性コロイド分散性調製物の安定性に良好な影響を与えるからである。構造単位(IVa):(IVb)のモル比は、両者が含まれている場合に、一般的に1:10~10:1、好ましくは1:3~3:1である。
【0075】
或る特定の実施形態においては、重縮合生成物は、式
【化12】
[式中、
およびRは、同一または異なっていてよく、かつH、CH、COOH、または置換もしくは非置換のフェニル基もしくはナフチル基を表し、または5個~10個の環原子を有し、そのうち1個または2個の原子がN、O、およびSから選択されるヘテロ原子である置換もしくは非置換の複素芳香族基を表す]のさらなる構造単位(V)を有する。
【0076】
およびRは、同一または異なっていてよく、H、CH、もしくはCOOHを表し、特にHを表し、または基RおよびRの一方はHを表し、もう一方はCHを表し得る。一般的に、構造単位(V)におけるRおよびRは、同一または異なっており、かつH、COOH、および/またはメチルを表す。さらに特に有利には、Hである。
【0077】
重縮合物は、一般的に、構造単位(III)、(IV)、および(V)の基礎となる化合物を互いに反応させる方法により製造される。重縮合物の製造は、例えば国際公開第2006/042709号(WO2006/042709)、および国際公開第2010/026155号(WO2010/026155)に記載されている。
【0078】
好ましくは、ケト基を有するモノマーは、アルデヒドまたはケトンである。式(V)のモノマーのための例は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、グリオキシル酸、および/またはベンズアルデヒドである。ホルムアルデヒドが有利である。
【0079】
一般的に、重縮合生成物は、5000g/mol~200000g/mol、好ましくは10000g/mol~100000g/mol、特に有利には15000g/mol~55000g/molの質量平均分子量を有する。
【0080】
好ましくは、構造単位(III):(IV)のモル比は、4:1~1:15、特に2:1~1:10である。
【0081】
好ましくは、構造単位(III+IV):(V)のモル比は、2:1~1:3、特に1:0.8~1:2である。
【0082】
有利な実施形態においては、櫛形ポリマーは、式(III)および(IV)の構造単位から構成されており、式中、TおよびDは、任意に1個または2個のC~C-アルキル基、ヒドロキシ基、または2個のC~C-アルコキシ基によって置換されているフェニルまたはナフチルを表し、BおよびEは、Oを表し、Aは、C2xを表し、ここでx=2であり、aは、3~150、特に10~150を表し、かつbは、1、2、または3を表す。
【0083】
或る特定の実施形態においては、ポリマー型分散剤として、スルホ基および/もしくはスルホネート基含有単位、またはカルボン酸基および/もしくはカルボキシレート基含有単位を有するホモポリマー、またはスルホ基および/もしくはスルホネート基含有単位とカルボン酸基および/もしくはカルボキシレート基含有単位とを有するコポリマーが使用される。
【0084】
例えば、スルホ基および/またはスルホネート基含有単位は、ビニルスルホン酸単位、アリルスルホン酸単位、メタリルスルホン酸単位、4-ビニルフェニルスルホン酸単位、または式(VI)
【化13】
[式中、
は、HまたはCHを表し、
、R、およびRは、互いに独立して、Hまたは直鎖状もしくは分岐状のC~C-アルキルもしくはC~C14-アリールを表し、
Mは、Hまたはカチオン、特に金属カチオン、好ましくは一価もしくは二価の金属カチオン、またはアンモニウムカチオンを表し、
aは、1または1/カチオンの価数、特に1/2または1を表す]の構造単位である。
【0085】
好ましくは、スルホ基および/またはスルホネート基含有単位は、ビニルスルホン酸単位、メタリルスルホン酸単位、および/または2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸単位、特に2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸単位である。
【0086】
好ましくは、カルボン酸基および/またはカルボキシレート基含有単位は、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、2-エチルアクリル酸単位、ビニル酢酸単位、クロトン酸単位、マレイン酸単位、フマル酸単位、イタコン酸単位、および/またはシトラコン酸単位、特にアクリル酸単位、および/またはメタクリル酸単位である。
【0087】
コポリマーの分子量Mwは、水性ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される、好ましくは1000~50000の範囲内である。
【0088】
特に適切な実施形態においては、分散剤は、
式(Ia)および(IIa)の構造単位を有するコポリマー、特にアクリル酸および/またはメタクリル酸、ならびにエトキシル化ヒドロキシアルキルビニルエーテル、例えばエトキシル化ヒドロキシブチルビニルエーテルから誘導される構造単位を有するコポリマー、
式(Ia)、(Id)、および(IIa)の構造単位を有するコポリマー、特にアクリル酸および/またはメタクリル酸、マレイン酸、ならびにエトキシル化ヒドロキシアルキルビニルエーテル、例えばエトキシル化ヒドロキシブチルビニルエーテルから誘導される構造単位を有するコポリマー、
式(Ia)および(IIc)の構造単位を有するコポリマー、特にアクリル酸および/またはメタクリル酸、ならびにアクリル酸またはメタクリル酸とポリエチレングリコールまたはC~C12-アルキルで末端封鎖されているポリエチレングリコールとのエステルから誘導される構造単位を有するコポリマー、
構造単位(III)、(IVa)、および(V)を有する重縮合生成物、特にエトキシル化フェノール、フェノキシ-C~C-アルカノールホスフェート、およびホルムアルデヒドからの縮合生成物、
スルホ基および/もしくはスルホネート基含有単位、またはカルボン酸基および/もしくはカルボキシレート基含有単位を有するホモポリマー、
スルホ基および/もしくはスルホネート基含有単位と、カルボン酸基および/もしくはカルボキシレート基含有単位とを有するコポリマー、および/または
ポリアクリル酸、
ならびにそれらの塩、およびこれらの分散剤の2種以上の組み合わせ物、
から選択される。
【0089】
1つの実施形態においては、リグノスルホネート、メラミン-ホルムアルデヒドスルホネート縮合物、β-ナフタリンスルホン酸縮合物、フェノールスルホン酸縮合物、およびスルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物から選択される少なくとも1種のさらなる分散剤がさらに使用される。
【0090】
構造単位(III):(IV)のモル比は、一般的に4:1~1:15、好ましくは2:1~1:10である。
【0091】
有利な実施形態においては、重縮合生成物は、以下の式
【化14】
[式中、
は、H、CH、COOH、または置換もしくは非置換のフェニル、または置換もしくは非置換のナフチルを表し、
は、H、CH、COOH、または置換もしくは非置換のフェニル、または置換もしくは非置換のナフチルを表す]によって表されるさらなる構造単位(V)を有する。
【0092】
櫛形ポリマーはまた、例えばナトリウム塩、カリウム塩、有機アンモニウム塩、アンモニウム塩、および/またはカルシウム塩等の塩の形で、好ましくはナトリウム塩および/またはカルシウム塩として存在することもできる。
【0093】
標準としてポリスチレンを用いるゲルクロマトグラフィーにより測定されるポリマー型分散剤のモル質量は、一般的に5000~100000の範囲内である。この場合に、側鎖のモル質量は、一般的に1000~10000の範囲内である。
【0094】
ポリマーの電荷密度は、一般的に500μeq/g~1500μeq/gの範囲内である。
【0095】
有利なポリマー型分散剤は、
式(Ia)および(IIa)の構造単位を有するコポリマー、特にアクリル酸および/またはメタクリル酸およびエトキシル化ヒドロキシアルキルビニルエーテル、例えばエトキシル化ヒドロキシブチルビニルエーテルから誘導される構造単位を有するコポリマー、
式(Ia)、(Id)、および(IIa)の構造単位を有するコポリマー、特にアクリル酸および/またはメタクリル酸、マレイン酸およびエトキシル化ヒドロキシアルキルビニルエーテル、例えばエトキシル化ヒドロキシブチルビニルエーテルから誘導される構造単位を有するコポリマー、
式(Ia)および(IIc)の構造単位を有するコポリマー、特にアクリル酸および/またはメタクリル酸、ならびにアクリル酸またはメタクリル酸とポリエチレングリコールまたはC~C12-アルキルで末端封鎖されているポリエチレングリコールとのエステルから誘導される構造単位を有するコポリマー、
構造単位(III)、(IVa)、および(V)を有する重縮合生成物、特にエトキシル化フェノール、フェノキシ-C~C-アルカノールホスフェート、およびホルムアルデヒドからの縮合生成物、
スルホ基および/もしくはスルホネート基含有単位、またはカルボン酸基および/もしくはカルボキシレート基含有単位を有するホモポリマー、
スルホ基および/もしくはスルホネート基含有単位と、カルボン酸基および/もしくはカルボキシレート基含有単位とを有するコポリマー、および/または
ポリアクリル酸、
ならびにそれらの塩、およびこれらの分散剤の2種以上の組み合わせ物、
である。
【0096】
鉱物性成分と水溶性ポリマー型分散剤との接触
ケイ酸カルシウム水和物を含有する組成物の製造のために、鉱物性成分を、水性媒体において少なくとも1種の水溶性ポリマー型分散剤と接触させる。
【0097】
ポリマー型分散剤との接触のためには、鉱物性成分は、懸濁液の形で、または乾燥粉末として使用され得る。その際、ポリマー型分散剤は、1回で、または2回以上に分けて、鉱物性成分を含有する懸濁液へと、固体として、または水溶液の形で加えられる。しかしながら、好ましくは鉱物性成分は、1回で、または2回以上に分けて、固体として、または水性懸濁液として、ポリマー型分散剤の水溶液へと加えられる。
【0098】
1つの実施形態においては、鉱物性成分(乾燥成分として計算)対ポリマー型分散剤の質量比は、15:1~1:2の範囲内、特に10:1~1:1.5の範囲内、特に有利には5:1~1:1の範囲内である。1つの実施形態においては、鉱物性成分(乾燥成分として計算)対水の質量比は、3:1~1:20の範囲内、特に1:1~1:10の範囲内、特に有利には2:3~1:5の範囲内である。
【0099】
鉱物性成分の乾燥成分の測定は、材料を105℃で研究室オーブン中で重さが一定になるまで乾燥させ、それにより求められる重さの乾燥損失によって行われる。
【0100】
鉱物性成分とポリマー型分散剤との接触に際しての懸濁液の含水量(懸濁液を105℃で重さが一定になるまで乾燥させることにより測定される)は、適切には、25質量%~95質量%の範囲内、特に50質量%~90質量%の範囲内、特に有利には60質量%~80質量%の範囲内である。
【0101】
所望であれば、その方法は、ポルトランドセメント、ポルトランドセメントクリンカー、および/または潜在水硬性結合材の添加下に行うことができ、その際、鉱物性成分の量の合計に対するポルトランドセメント、ポルトランドセメントクリンカー、および/または潜在水硬性結合材の質量割合は、0.01質量%~10質量%、有利には0.01質量%~5質量%である。その添加は、ポリマー型分散剤との接触の前に、または鉱物性成分の機械的微細化の後に行うことができる。
【0102】
有利な実施形態においては、その方法は、本質的に別の成分を添加せずに、特に本質的にポルトランドセメント、ポルトランドセメントクリンカー、および/またはエトリンガイトを添加せずに行われる。
【0103】
鉱物性成分とポリマー型分散剤との接触は、運動エネルギーを入力しつつ、例えば混ぜ合わせまたは粉砕によって行われる。このために、実際には当業者に公知のあらゆる装置が適している。
【0104】
混ぜ合わせまたは混合とは、本発明の範囲では、混ぜ合わせられるべき成分の接触を強め、それにより所望の生成物の均一かつ/または迅速な形成を可能にする混和または均質化と解釈されるべきである。
【0105】
混ぜ合わせをもたらす方法は、例えば撹拌、振盪、ガスまたは液体の注入、および超音波の照射である。混ぜ合わせをもたらす適切な方法および装置は、当業者に公知である。適切な混合装置は、例えば撹拌槽、動的混合器および静的混合器、シングルシャフトかき混ぜ機、例えばワイピング装置を備えるかき混ぜ機、特にいわゆるペーストかき混ぜ機、マルチシャフトかき混ぜ機、特にPDSMミキサー、固体ミキサー、ならびに混合/混練反応器である。
【0106】
有利な実施形態においては、前記接触は、剪断エネルギーを導入しながら行われ、その際、1トンの組成物当たりに50kWh超、特に200kWh超、有利には400kWh超、特に100kWh~5000kWh、特に200kWh~3000kWh、特に有利には300kWh~1000kWhの剪断エネルギーが導入される。
【0107】
剪断エネルギーは、粉砕のために消費される剪断電力Pおよび粉砕時間tから以下の等式(1)
等式(1):W=P・t
に相応して求められる作用エネルギーWとして定義される。
【0108】
その際、懸濁液に作用する剪断電力は、作用電力P(懸濁液の粉砕の間の装置の電力入力)とゼロ電力P(懸濁液のない、任意に例えばパールミル、ボールミル、または歯付コロイドミルの場合には粉砕ボールのない空運転での装置の電力入力)との間の差から、以下の等式(2):
等式(2):P=P-P
によって求められる。
【0109】
ゼロ電力(等式(3a))または作用電力(等式(3b))は、作用電圧Uおよび作用電流強度Iから求められ、作用電流強度Iは、電流測定装置によって運転中の装置で測定される:
等式(3a):P=U・I・cosφ;cosφ=1
等式(3b):P=U・I・cosφ;cosφ=1。
【0110】
装置の作用電力P対交流電力Pの比率は、cosφによって等式(4):
等式(4):cosφ=P/P
により記載される。
【0111】
交流電力は非常に装置に特化しており、かつ作用電力は容易に測定することができるので(作用電圧および作用電流強度の測定によって)、簡略化のためにcosφ=1が採用される。
【0112】
したがって、高い剪断エネルギーを導入する方法が有利である。特に有利には、本発明による方法は、したがって少なくとも部分的に、一連のミル、超音波装置、ローター・ステーターミキサー(例えば、IKA社のUltra-Turrax)および溶解機からの装置を使用して実施される。特に、剪断エネルギーの導入は、例えば、歯付コロイドミル、パールミル、ボールミル、または好ましくはアジテーターボールミル中での粉砕によって実施され得る。アジテーターボールミルは、粉砕体を収容する粉砕室、該粉砕室中に配置されているステーターおよびローターを備えている。さらに有利には、アジテーターボールミルは、被粉砕物を粉砕室中に供給するため、または粉砕室から排出するための被粉砕物の入口開口部および被粉砕物の出口開口部と、被粉砕物を出口開口部を通じて粉砕室から排出する前に被粉砕物中に連行された粉砕体を被粉砕物から分離するために用いられる、粉砕室中に出口開口部の上流に配置される粉砕体分離装置とを備えている。
【0113】
粉砕室中で被粉砕物へと導入される機械的粉砕出力を高めるために、有利にはローターおよび/またはステーター上に、粉砕室中に突き出るピンが存在している。したがって一方で、運転時に、直接的な方式で被粉砕物とピンとの間の衝突によって粉砕出力への寄与がもたらされる。他方で、粉砕出力へのさらなる寄与は、間接的な方式でピンと被粉砕物中に連行される粉砕体との間の衝突と、その後に再びさらに行われる被粉砕物と粉砕体との間の衝突とによってなされる。最終的に、被粉砕物になおも作用する剪断力および伸張力も、懸濁された被粉砕物粒子の微細化のために寄与する。
【0114】
1つの実施形態においては、ポリマー型分散剤との接触は2段階で行われる。第1段階では、その接触は、鉱物性成分の粒度d(99)が300μm以下、特に0.5μm~300μmの範囲内となるまで行われる。それは、粉砕装置、超音波装置、ローター・ステーター混合システム、およびディゾルバーディスクから選択される装置を使用して行うことができる。
【0115】
第2段階において、その接触は、鉱物性成分が静的光散乱により測定される、800nm以下、有利には400nm以下、特に有利には300nm以下のd(50)粒度を有するまで行われる。それは、特に粉砕装置を使用して行われる。
【0116】
運動エネルギーの導入前に0.01時間~48時間、有利には4時間~24時間、特に有利には6時間~16時間の懸濁液の休止時間を保ち、その間に該懸濁液を、高い剪断エネルギーの作用なしに、すなわち1トンの懸濁液当たり50kWh未満の剪断エネルギーで撹拌槽内で休止または沈殿を抑えるために撹拌することが適切であることが分かった。ポリマー型分散剤との接触が二段階で行われる場合に、休止時間は第1段階の前、または2つの段階の間で行われ得る。
【0117】
鉱物性成分と分散剤との接触の前、その間、またはその後に、高くても200g/mol、特に40g/mol~100g/molの分子量を有する酸性化合物を添加することができる。好ましくは、鉱物性成分と分散剤との接触後に酸性化合物の添加が行われる。酸性化合物は、例えば硝酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、硫酸、およびそれらの混合物、有利にはスルファミン酸、メタンスルホン酸、酢酸、およびそれらの混合物から選択される。適切には、酸性化合物の量は、酸添加直後(10秒~60秒)または完全な均質化の後に、11.0~13.0、有利には11.4~12.5、特に有利には11.8~12.4の懸濁液のpH値が得られるように選択される。
【0118】
建材混合物
本発明はまた、本発明によるケイ酸カルシウム水和物を含有する組成物と、任意に水硬性結合材または潜在水硬性結合材、特にポルトランドセメント、スラグ、好ましくは造粒された高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ粉、メタカオリン、天然ポゾラン、焼成オイルシェール、カルシウムスルホアルミネートセメント、および/またはカルシウムアルミネートセメントとを含む建材混合物に関する。
【0119】
本発明による建材混合物は、建築化学分野で一般的に使用されるさらなる添加剤、例えば別の硬化促進剤、分散剤、流動化剤、減水剤、凝結遅延剤、消泡剤、気泡形成剤、遅延剤、収縮低減剤、再分散性粉末、不凍剤、および/またはブルーミング防止剤を含有してもよい。
【0120】
適切な別の硬化促進剤は、アルカノールアミン、有利にはトリイソプロパノールアミン、および/またはテトラヒドロキシエチルエチレンジアミン(THEED)である。好ましくは、アルカノールアミンは、水硬性結合材の質量に対して0.01質量%~2.5質量%の供給量で使用される。アミン、特にトリイソプロパノールアミンおよびテトラヒドロキシエチルエチレンジアミンの使用に際して、水硬性結合材系、特にセメント様の系の早期強度発生に関して相乗効果を見出すことができる。
【0121】
さらなる適切な別の硬化促進剤は、例えば塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウム、無機炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)、1,3-ジオキソラン-2-オン、および4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンである。好ましくは、ギ酸カルシウムおよび硝酸カルシウムは、水硬性結合材に対して0.1質量%~4質量%の供給量で使用される。
【0122】
適切な分散剤、流動化剤、減水剤は、例えばa)スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、b)リグノスルホン酸塩、c)スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、d)スルホン化ナフタリン-ホルムアルデヒド縮合物(BNS)、e)ポリカルボキシレートエーテル(PCE)、f)セメントおよび水を含有するセメント混合物の加工性を延長するための非イオン性コポリマー(その際、該コポリマーは、少なくとも以下のモノマー成分:成分A、すなわちセメント混合物中で加水分解可能な単位を有するエチレン性不飽和のカルボン酸エステルモノマー、および成分B、すなわち1個~350個のオキシアルキレン単位を有する少なくとも1つのポリ-C~C-オキシアルキレン側鎖を有するエチレン性不飽和のカルボン酸エステルモノマーまたはアルケニルエーテルモノマーから誘導される単位を含む)、またはg)式R-(OA)-N-[CH-PO(OM(式中、Rは、Hまたは飽和もしくは不飽和の炭化水素基、好ましくはC~C15-アルキル基を表し、Aは、同一または異なってよく、かつ2個~18個の炭素原子を有するアルキレン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレン、特にエチレンを表し、nは、5~500、好ましくは10~200、特に10~100を表し、かつMは、H、アルカリ金属、1/2アルカリ土類金属、および/またはアミンを表す)のホスホネート基含有分散剤であり、ここで、上述の分散剤a)~g)の各々の組み合わせが含まれている。
【0123】
適切な凝結遅延剤は、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、ホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミノテトラ(メチレンホスホン)酸、ジエチレントリアミノペンタ(メチレンホスホン)酸(それぞれ、酸のその都度の塩を含む)、ピロリン酸塩、五ホウ酸塩、メタホウ酸塩、および/または糖(例えば、グルコース、糖蜜)である。凝結遅延剤の添加の利点は、オープンタイムを制御することができ、特に任意に延長することができることにある。好ましくは、凝結遅延剤は、水硬性結合材、好ましくはセメントの質量に対して0.01質量%~0.5質量%の供給量で使用される。
【0124】
ケイ酸カルシウム水和物を含有する組成物は特に、水硬性結合材または潜在水硬性結合材、特にポルトランドセメントの硬化に対して驚くべきほど強力な促進作用を示す。ケイ酸カルシウム水和物を含有する組成物の使用によって、水硬性結合材または潜在水硬性結合材、特にポルトランドセメントの早期強度を改善することができる。さらに、前記組成物は、改善された応用技術的特性、例えば使用に関連する濃度範囲における低い粘度を有する。したがって、該組成物は取り扱いが容易であり、容易なポンプ圧送および吹きつけを可能にする。
【0125】
本発明はさらに、水硬性結合材または潜在水硬性結合材、特にセメント、スラグ、好ましくは造粒された高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ粉、メタカオリン、天然ポゾラン、焼成オイルシェール、カルシウムスルホアルミネートセメント、および/またはカルシウムアルミネートセメントを含有する建築化学的混合物、好ましくは主として水硬性結合材としてセメントを含有する建築化学的混合物の硬化促進のための、本発明による組成物の使用に関する。
【0126】
本発明による組成物の供給量は、水硬性結合材または潜在水硬性結合材に対して、組成物の固体の0.01質量%~15質量%、有利には0.1質量%~10質量%、特に有利には0.1質量%~5質量%である。
【0127】
本発明は、添付の図面および以下の実施例によって詳細に具体的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0128】
図1】(i)結晶性トバモライト14Å(結晶子サイズ50nm)を含む試料、(ii)非晶質ケイ酸カルシウム水和物(トバモライト14Å、結晶子サイズ0.5nm)を含む試料のX線回折スペクトル、ならびに本発明により適切な半秩序化ケイ酸カルシウム水和物(htCSH3)のリートベルト解析によるX線回折スペクトルを示す。
図2】水熱的ケイ酸カルシウム水和物(htCSH1、比較)、および本発明により適切な2つの半秩序化ケイ酸カルシウム水和物(htCSH2およびhtCSH3)のX線回折スペクトルを示す。
【0129】
区別可能なピークまたは極大を、相に割り当てた:
略語は以下の意味を有する:
P - ポートランダイト
Cc - カルサイト
Qz - α-石英
T - トバモライト14Å
sCSH - 半秩序化ケイ酸カルシウム水和物
aCSH - 非晶質ケイ酸カルシウム水和物
Xo - ゾノトライト。
【0130】
図1によれば、結晶性トバモライトは、鋭いピークを有する良好に分解されたスペクトルを示し、非晶質ケイ酸カルシウム水和物のスペクトルにおいては、結晶性ケイ酸カルシウム水和物相に割り当てることが可能な極大は存在しない。非晶質ケイ酸カルシウム水和物のX線回折スペクトルへの寄与は、特に25°から35°の間の2θ領域(Cu Kα)における高められたバックグラウンドにより現れる。本発明により適切な半秩序化ケイ酸カルシウム水和物は、2θ=30°付近のトバモライト極大の幅広化および重複を示し、個々のピークはもはや分解されていない。
【0131】
図2によれば、水熱的ケイ酸カルシウム水和物htCSH1は、鋭いゾノトライトのピークを有する良好に分解されたスペクトルを示す。本発明により適切な半秩序化ケイ酸カルシウム水和物htCSH2およびhtCSH3は、2θ=30°付近に幅広な極大を示す。
【0132】
実施例
測定法
(i)原料(鉱物性成分)の粒度
湿式粉砕のための原料の粒度は、静的光散乱により特徴付けた。そのために、Malvern社の装置Mastersizer 2000を使用した。
【0133】
(ii)BETによる比表面積の測定
湿式粉砕のための原料のBETによる比表面積を、窒素吸着により測定した。このために、Quantachrome社の装置「NOVA 4000e Surface Area and Pore Size Analyzer」を使用した。測定のために、試料を事前に105℃で重さが一定になるまで乾燥させた。
【0134】
(iii)X線非晶質成分およびケイ酸カルシウム水和物の結晶子サイズの測定のためのX線回折分析(XRD)およびリートベルト解析
XRDは、Bruker社のAXS D4 ENDEAVOR(CuKα線、40kV、40mA)を用いて実施し、リートベルト測定は、Bruker社のソフトウェアTopas 4.2を用いて実施した。
【0135】
XRD分析のために、オートクレーブ法からの水熱的C-S-Hを、ジョークラッシャーおよび衝突型ジェットミルによって1mm以下のd(95)値を有する粒度まで微細化した。引き続き、5gの粉末を105℃で1時間にわたり研究室オーブン中で乾燥させた。
【0136】
XRD分析のために、それぞれ2gの乾燥された粉末をめのう乳鉢中で、36μmのメッシュ幅を有する篩いによって試料が完全に漉され得るまで微細化した。
【0137】
X線非晶質相の割合の測定のための試料は、試料と既知の量の内部結晶標準とを含有する均質混合された粉末であった。これらの調査のために、15質量%~30質量%のフルオライト(CaF)を試料(粒度<36μm)と一緒にめのう乳鉢中で均質に磨砕した。引き続き、内部標準としてフルオライトを含む均質化された粉末を、「フロントローディング」によって調製し、測定した。内部標準としてのフルオライトの使用のための前提条件は、フルオライトが当初の試料中に含まれていないことである。X線吸収コントラストを最小限にするために、試料と同様の質量減衰係数(mass attenuation coefficient、MAC)を有する標準が選択されるべきである。試料は、Cu Kα線について75cm/gから80cm/gの間のMAC値を有する。したがって、94.96cm/gのMAC値を有するCaFが選択された。学術文献に相応して内部標準の量に関しては、30%から90%の間の測定されるべき試料の非晶質割合について約20質量%が推奨される(Scrivener,Snellings,and Lothenbach.“Chapter 4.X-Ray Powder Diffraction Applied to Cement.” A Practical Guide to Microstructural Analysis of Cementitious Materials.CRC/Taylor & Francis Group,2016.107-176)。調査される試料は、5nm未満の結晶子サイズを有するX線非晶質相またはナノ結晶性相を10質量%~70質量%含むため、15質量%~30質量%の内部標準を使用した。
【0138】
X線回折分析により描かれるX線回折図(回折図)を、引き続きリートベルト解析によってソフトウェアTopas 4.0で評価した。リートベルト法は、粉末試料のX線回折分析により得られた回折図の評価のための標準的な方法である。該方法は、例えばG.Will(2006):Powder Diffraction - The Rietveld method and the two-stage method,Springer Verlag、およびR.Young(1995):The Rietveld method,lUCr Monographs on Crystallography,vol.5,Oxford University Pressに詳細に記載されている。
【0139】
本発明の試料のリートベルト解析のためには、無機結晶構造データベース(ICSD)に相応する以下の構造データを使用した:
トバモライト(ケイ酸カルシウム水和物の鉱物):ICSD番号152489
カルサイト:ICSD番号79674
石英:ICSD番号174
ポートランダイト:ICSD番号15471
フルオライト:ICSD番号60368。
【0140】
リートベルト解析によって、個々の相の相含量の他に、ケイ酸カルシウム水和物相のトバモライトの結晶子サイズも測定した。結晶子サイズは、相の反射の半値幅に反映され、リートベルト解析の間の精密化に際して決定される。回折図における反射の半値幅と結晶子サイズとの間の関係は、例えばR.Dinnebier,S.Billinge(2008):Powder Diffraction -Theory and Practice,RSC Publishingの142頁以降のチャプター5.4.1、ならびにG.Will(2006):Powder Diffraction - The Rietveld method and the two-stage method,Springer Verlagの第113頁、ならびにR.Young(1995):The Rietveld method,IUCr Monographs on Crystallography,vol.5,Oxford University Pressに記載されている。
【0141】
内部標準によるX線非晶質相の割合の測定は、結晶性相およびX線非晶質相の絶対量の定量化のために用いられ、I.Madsen、N.Scarlett、およびA.Kernの“Description and survey of methodologies for the determination of amorphous content via X-ray powder diffraction.”Zeitschrift fuer Kristallographie Crystalline Materials 226.12(2011):944-955の文献に相応して行われた。この場合に、リートベルト精密化の間に内部標準の既知の割合が予め設定され、他の相はそれを基準とする。結晶性相(トバモライト、カルサイト、石英、ポートランダイト、フルオライト)の合計と100質量%との差は、試料のX線非晶質割合に相当する。
【0142】
(iv)電荷密度は、ポリ-DADMAC(ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)またはナトリウムポリエチレンスルホネートでの滴定によってMettler Toledo社のDL 28滴定装置と組み合わせてBTG Muetek社の粒子電荷検出器を用いて測定される。
【0143】
(v)粘度の測定のために、懸濁液を粉砕が終わった後に室温で24時間にわたり密閉貯蔵した。引き続き、Brookfield粘度計DV-II+においてスピンドル62を用いて12rpmで粘度を測定した。
【0144】
(vi)ポリマー型分散剤の質量平均モル質量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(カラムの組み合わせ:Shodex(日本)のOH-Pak SB-G、OH-Pak SB 804 HQ、およびOH-Pak SB 802.5 HQ;溶出剤:HCONHの80容量%の水溶液(0.05mol/l)および20容量%のアセトニトリル;注入容量100μl;流速0.5ml/分)によって行った。平均モル質量の測定のための較正は、線状ポリ(エチレンオキシド)標準およびポリエチレングリコール標準を用いて行った。
【0145】
ポリマー型分散剤の製造:
ポリマー1、2、および7
温度計、還流冷却器、および2つの供給物用の受け口を備える1リットルの四ツ口フラスコ中で、875gの40%のポリエチレングリコールヒドロキシブチルモノビニルエーテルの40%水溶液およびNaOH(20%)を装入する。それぞれのポリエチレングリコールヒドロキシブチルモノビニルエーテルのモル質量に関して、第2表に詳細を示す。次いで、その溶液を20℃に冷却する。装入フラスコ中のポリエチレングリコールヒドロキシブチルモノビニルエーテル溶液に、ここでアクリル酸(99%)をゆっくりと添加する。この場合にpH値は、約4~5に低下する。次にそこに0.5gの硫酸鉄(II)五水和物ならびに5gのロンガライトおよびメルカプトエタノールを加える。短時間撹拌した後に、さらに3gの50%の過酸化水素を計量供給する。この場合に温度は20℃から約30℃~65℃まで高まる。引き続きその溶液を10分間撹拌してから、それを苛性ソーダ液(20%)で中和した。約40質量%の固体含量を有する淡黄色に呈色した澄明な水性ポリマー溶液が得られる。使用される化学物質(NaOH、メルカプトエタノール、およびアクリル酸)の量表記、およびそれぞれのポリエチレングリコールヒドロキシブチルモノビニルエーテル(PEG-HBVE)のモル質量、ポリマーの質量平均モル質量および電荷密度(カルボキシレート基および/またはカルボキシル基のモル数/PCEの全モル質量)(mol/(g/mol))を、以下の第1表および第2表に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
ポリマーP3
ポリマーP3は、櫛形ポリマーであり、マレイン酸、アクリル酸、およびビニルオキシブチルポリエチレングリコール-5800のモノマーを基礎としている。アクリル酸対マレイン酸のモル比は7である。モル質量Mwは、40000g/molであり、GPCにより測定された。固体含量は45質量%である。合成は、例えば欧州特許第0894811号明細書(EP0894811)に記載されている。電荷密度は、930μeq/gである。
【0149】
ポリマーP4
ポリマーP4は、フェノールPEG5000、フェノキシエタノールホスフェート、およびホルムアルデヒドの構成単位からの縮合物である。分子量Mwは、25730g/molである。該ポリマーは、国際公開第2015/091461号(WO2015/091461)のポリマー7(第1表および第2表)に相応して製造された。
【0150】
ポリマーP5
ポリマーP5は、ヒドロキシエチルメタクリレート-リン酸エステルおよびメタクリル酸と5000g/molの分子量を有するメチルポリエチレングリコールとのエステルから重合された櫛形ポリマーである。合成は、国際公開第2014/026938号(WO2014/026938)のP1の製造に相応して実施した。分子量Mwは、3660g/molである。ポリマー溶液の固体含量は29質量%である。
【0151】
ポリマーP6
ポリマー6は、市販のNaOHで部分中和されたポリアクリレート(中和度80%)である。平均モル質量Mwは、5000g/mol~10000g/molである。ポリマー溶液の固体含量は45質量%である。
【0152】
水熱的ケイ酸カルシウム水和物(htCSH)
htCSHI:Cirkel GmbH & Co.KG社(ハルターン・アム・ゼー)から入手可能なCircolit。
【0153】
htCSH2:
htCSH2の製造のために、153kgの石英粉(d(95)<63μm、SiO含量>95質量%)、150kgの生石灰(d(95)<90μm、CaO含量>90質量%)、222gのアルミニウムペースト(含水量=40%、d(50)=15μm)、および340kgの水を混合した。この懸濁液を、20℃の温度で3時間静置した。引き続き、その材料をオートクレーブ中で150℃(約5bar)で8時間保持した。その後に該材料を室温に冷却し、さらに破砕機およびボールミルによって粒度d(95)<1mmおよびd(50)<500μmに微細化した。水分含量(105℃で重さが一定になるまで乾燥させることにより測定する)は、36.6質量%であった。
【0154】
htCSH3:
htCSH3の製造のために、100kgの石英粉(d(95)<63μm、SiO含量>95質量%)、200kgの生石灰(d(95)<90μm、CaO含量>90質量%)、222gのアルミニウムペースト(含水量=40%、d(50)=15μm)、および410kgの水を混合した。この懸濁液を、20℃の温度で3時間静置した。引き続き、その材料をオートクレーブ中で170℃(約8bar)で12時間保持した。その後に該材料を室温に冷却し、さらに破砕機およびボールミルによって粒度d(95)<1mmおよびd(50)<500μmに微細化した。水分含量(105℃で重さが一定になるまで乾燥させることにより測定する)は、40.0質量%であった。
【0155】
使用される出発材料は、以下の特性を有する(第3表):
【表3】
n.d.:測定不可能(含量が検出限界未満である)
製品データシートから決定
(1)XRDに続いてのリートベルト解析から
(2)X線蛍光分析(XRF)により測定
(3)水熱的CSHの無機成分の全量から
【0156】
水熱的に製造されたケイ酸カルシウム水和物の湿式粉砕は、振盪装置(Fast&Fluid Management社の振盪器SK 300)によって実施された。個々の湿式粉砕のための条件は、第4表に列挙されている。粉砕のために、第4表におけるパラメーターに相当する100gの懸濁液を、1mmの直径を有するZrO製の500gの粉砕パールで満たされた250mlのガラス瓶中に入れた。粉砕は、ステップ3で1281.1Wの作用電力Iで行った。懸濁液の製造(水熱的C-S-H、水、および水溶性ポリマーの混合)と高剪断エネルギー下での実際の湿式粉砕との間に、該懸濁液は、追加の機械的剪断作用なしに30分間休止させた。粉砕後に、該懸濁液を篩いにより粉砕パールから分離し、その後に部分的に蒸留水ですすいだ。懸濁液の固体含量を、引き続き懸濁液を60℃で重さが一定になるまで乾燥させることにより測定した。
【0157】
従来技術との比較のために、3つの懸濁液を国際公開第2010/026155号(WO2010/026155)による沈降により製造した(pptCSH)。これらの懸濁液は、ポリマーによって安定されている非晶質のCSH核を含有する。
【0158】
【表4】
(1)粉砕後の懸濁液の固体含量は、1gの懸濁液を60℃で乾燥棚において重さが一定になるまで乾燥させることにより測定した。
(2)粘度測定前に、試料を15質量%の固体含量まで水で希釈した
比較例
【0159】
国際公開第2010/026155号(WO2010/026155)による従来技術との比較のために、3つの懸濁液(S16、S17、S18)ならびに3つの本発明による懸濁液(S13、S14、S15)を製造した。その際、例S13~S18では、194gの懸濁液を250mlの瓶中で500gの粉砕ボール量で粉砕した。
【0160】
S16~S18の製造のために、15.5gのCa(OH)(Merck社、CAS 1305-62-0、純度>97%)、および12.1gのSiO(フュームドシリカ;CAS 112945-52-5、Sigma Aldrich社、純度>99.9%)を水およびポリマー(上記第2表を参照)と、懸濁液の全質量が194gとなるように混合した。
【0161】
剪断エネルギーの測定のために、振盪器SK 300の運転中にMetrix社のACクランプマルチメーターMX 350によって空運転時の電流強度I(粉砕パールおよび被粉砕物なしでの振盪運動)および粉砕運転時の電流強度I(粉砕パールおよび被粉砕物で充填されたガラス瓶での振盪運動)を測定した。作用電圧は、両方の場合に230Vであった。
【0162】
測定された電流強度から求められた作用電力Iは、1281.1Wであり、一方で400gの懸濁液の粉砕のための粉砕運転での作用電力Iは、1361.6Wであった。そこから、1kgの懸濁液の粉砕に際して必要とされる作用電力Pが201.25Wと求められる。
【0163】
懸濁液中のポリマー含量は、常に使用されるポリマーの固体含量を基準とする。
【0164】
該懸濁液を、促進作用に関しては熱流熱量測定によって、粘度に関してはBrookfield粘度計によって特徴付けた。
【0165】
熱流熱量測定:
促進剤懸濁液の促進性能を測定するために、促進剤懸濁液を含有するセメントペーストを製造し、その水和動態を等温熱流熱量測定によって測定した。そのために、100gのポルトランドセメント(CEM I 52.5 R)と40gの水とを、オーバーヘッドスターラーによって500rpmで90秒間混合した。調査されるべき懸濁液を、添加水と一緒にセメントに加えた。その際、添加水量は、懸濁液中に含まれる水量に対して、それぞれの試験で、水/セメント値が0.4に調整されるように補正した。調査されるべき懸濁液の添加量を第5表にまとめる。
【0166】
それぞれ6gのモルタルまたはセメントペーストを、次いで測定容器中に充填し、これを熱量計に入れた。等温熱流熱量測定を、TA Instruments社の熱量計TAMAirを用いて20℃で実施した。
【0167】
累積水和熱を6時間後に測定した。さらに、試料の比較のために、それぞれ2時間と8時間との間の熱流の最大増加を測定し、これらを比較測定(セメント+水)の増加に当てはめた。相対増加の測定は、L.Nicoleau(2012)の刊行物に相応して実施した(L.Nicoleau:The acceleration of cement hydration by seeding:Influence of the cement mineralogy.Ibausil 18.Internationale Baustofftagung in Weimar(2012),Tagungsband 1-0330頁~1-0337頁)。熱量測定の結果を、以下の第5表にまとめる。
【0168】
結果は第5表に示されている。
【0169】
【表5】
【0170】
100000超の粘度は、固体のゲルが形成されるため、粘度を測定不可能であることを意味する。
図1
図2