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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】光硬化性インク組成物及び画像記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20220722BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220722BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021511095
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2019044080
(87)【国際公開番号】W WO2020202628
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019066146
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 未奈子
(72)【発明者】
【氏名】佐々田 美里
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】幕田 俊之
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188920(JP,A)
【文献】特開2019-1987(JP,A)
【文献】特開2019-99733(JP,A)
【文献】特開2000-345059(JP,A)
【文献】特開2008-74922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00~11/54
B41M 5/00~5/52
B41J 2/00~2/525
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるスクアリリウム色素の粒子と、ラジカル重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤と、色素増感剤と、を含み、
前記スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径が10nm~400nmである、光硬化性インク組成物。
【化1】

式(1)中、環A及び環Bは、それぞれ独立に芳香環又は複素芳香環を表し、X及びXは、それぞれ独立に1価の置換基を表し、G及びGは、それぞれ独立に1価の置換基を表し、kAは0~nAの整数を表し、kBは0~nBの整数を表す。nAは、Gが環Aに置換可能な最大の整数を表し、nBは、Gが環Bに置換可能な最大の整数を表す。XとG、又はXとGは、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、G及びGがそれぞれ複数存在する場合は、環Aに結合する複数のG、及び環Bに結合する複数のGは、それぞれ互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【請求項2】
前記色素増感剤が、チオキサントン系化合物及びチオクロマノン系化合物の少なくとも1種を含む請求項1に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項3】
前記色素増感剤の少なくとも一種は、分子量が1000以上である、請求項1又は請求項2に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項4】
前記スクアリリウム色素の含有量が、インク組成物全質量に対して0.1質量%~20質量%である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項5】
前記ラジカル重合性モノマーが、2官能以上のラジカル重合性モノマーを含み、
前記2官能以上のラジカル重合性モノマーの含有量が、前記ラジカル重合性モノマーの総含有量に対して、50質量%以上である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項6】
前記スクアリリウム色素の含有量に対する前記色素増感剤の含有量の比率が、質量基準で1~20である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項7】
前記スクアリリウム色素の粒子は、分散状態で存在している請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項8】
前記ラジカル重合性モノマーが、単官能のラジカル重合性モノマーと、2官能のラジカル重合性モノマー及び3官能のラジカル重合性モノマーからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーと、を含む請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項9】
インクジェット記録に用いられる請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の光硬化性インク組成物。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の光硬化性インク組成物を基材に付与する工程と、
前記基材に付与された光硬化性インク組成物を発光ダイオードにより光照射することで赤外線吸収画像を記録する工程と、
を含む画像記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光硬化性インク組成物及び画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線等の放射線の照射により硬化可能なインクを所望の材料に画像様に付与し、画像様に付与されたインクを硬化することで画像を記録する無溶剤型のインクジェット記録方式が注目されている。
【0003】
硬化性のあるインクを用いたインクジェット記録方式によれば、ガラス、金属、プラスチック等が用いられた非吸収性の被記録媒体への描画が可能である。そして、硬化機構としては、ラジカル重合型とカチオン重合型に大別され、ラジカル重合型では、主として紫外線等の放射線を照射することで生じるラジカルが作用して硬化反応が進行するものが主流となっている。
【0004】
一方、プラズマディスプレイパネル用又は固体撮像素子(例えばCCD;Charge-Coupled Device)用の赤外線カットフィルム、熱線遮蔽フィルム等の光学フィルム、フラッシュ溶融定着材料等の光熱変換用途、セキュリティー用途、又はマーク、コード等の情報表示用途などの多様な用途において、赤外波長領域の光を吸収するか又は遮断する特性を有する色素、具体的には近赤外~赤外領域に吸収波長を有する近赤外線吸収色素を用いることが種々検討されている。
【0005】
近赤外線吸収色素としては、シアニン色素、フタロシアニン色素、アントラキノン色素、ジインモニウム色素等が挙げられる。ところが、シアニン色素及びジインモニウム色素は、可視透明性、即ち不可視性に優れる一方、耐光性が低く、例えばインクに適用した場合に記録画像は経時で劣化しやすい傾向がある。また、フタロシアニン色素及びアントラキノン色素は、耐光性を有するが、可視領域に吸収があり、不可視性に劣る。
【0006】
近赤外線吸収色素としては、更にスクアリリウム色素も知られている。
例えば特開2019-11455号公報では、特定構造のスクアリリウム化合物が、可視光領域に吸収が少なく、近赤外線吸収能に優れ、高耐光性であることが開示されている。特開2019-11455号公報では、特定構造のスクアリリウム化合物を電子写真用トナー又はインクジェットプリンター用インクに用いることが記載されている。
【0007】
また、特開2018-154672号公報には、近赤外線吸収色素として、スクアリリウム系の化合物とピロロピロール系の化合物とを併用することで、高い不可視性が得られ、耐光性にも優れることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
不可視性が付与されたインクは、可視画像の記録に用いられるインクと同様、一定の耐光性を有していることが求められる。そして、近赤外線吸収色素の中では、一般に、スクアリリウム色素は、光に対する耐性が高いとされている。
【0009】
しかしながら、画像が例えば蛍光灯等の光の照射下に長時間曝された場合に、特開2019-11455号公報及び特開2018-154672号公報に記載される従来の技術によっても、画像はエネルギーの高い短波長光によって劣化しやすく、スクアリリウム色素を用いても、必ずしも画像を長期に亘って安定的に保持し得ないのが実情である。
【0010】
インクの光に対する耐性が低い状況では、例えば、画像の記録プロセスにおいて色素の劣化が始まり、記録後における画像としての劣化も経時で進行しやすい。特に紫外線等の照射によって硬化させる硬化型のインクの場合、画像の記録プロセス中に紫外線等の照射によってインクを硬化させる過程が設けられている。かかる過程においても、色素の劣化が始まることが推定される。即ち、インクとして、本来有すべき記録機能を堅持し得ないことになる。
【0011】
上記のように、蛍光灯等の光が照射されると、照射により光重合開始剤に起因するラジカルの発生があることから、画像の記録時及び記録後のいずれにおいても、発生したラジカルにより僅かながら色素の劣化が始まり、結果としてインクとしての劣化も進行し、記録された画像の耐久性が損なわれやすくなると推定される。
【0012】
本開示は、上記に鑑みなされたものである。
本開示の一実施形態によれば、従来に比べ、光硬化後の赤外線(IR)吸収能が高く、かつ、赤外線吸収画像の耐光性により優れた光硬化性インク組成物が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、従来に比べ、光硬化後の赤外線(IR)吸収能が高く、かつ、赤外線吸収画像の耐光性により優れた画像の記録が行える画像記録方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 下記式(1)で表されるスクアリリウム色素の粒子と、ラジカル重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤と、色素増感剤と、を含み、スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径が10nm~400nmである、光硬化性インク組成物である。
【0014】
【化1】
【0015】
式(1)において、環A及び環Bは、それぞれ独立に芳香環又は複素芳香環を表し、X及びXは、それぞれ独立に1価の置換基を表し、G及びGは、それぞれ独立に1価の置換基を表し、kAは0~nAの整数を表し、kBは0~nBの整数を表す。nAは、Gが環Aに置換可能な最大の整数を表し、nBは、Gが環Bに置換可能な最大の整数を表す。XとG、又はXとGは、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、G及びGがそれぞれ複数存在する場合は、環Aに結合する複数のG、及び環Bに結合する複数のGは、それぞれ互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0016】
<2> 色素増感剤が、チオキサントン系化合物及びチオクロマノン系化合物の少なくとも1種を含む<1>に記載の光硬化性インク組成物である。
<3> 色素増感剤の少なくとも一種は、分子量が1000以上である、<1>又は<2>に記載の光硬化性インク組成物である。
<4> スクアリリウム色素の含有量が、インク組成物全質量に対して0.1質量%~20質量%である<1>~<3>のいずれか1つに記載の光硬化性インク組成物である。
<5> ラジカル重合性モノマーが、2官能以上のラジカル重合性モノマーを含み、
2官能以上のラジカル重合性モノマーの含有量が、ラジカル重合性モノマーの総含有量に対して、50質量%以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の光硬化性インク組成物である。
【0017】
<6> スクアリリウム色素の含有量に対する色素増感剤の含有量の比率が、質量基準で1~20である<1>~<5>のいずれか1つに記載の光硬化性インク組成物である。
<7> スクアリリウム色素の粒子は、分散状態で存在している<1>~<6>のいずれか1つに記載の光硬化性インク組成物である。
<8> ラジカル重合性モノマーが、単官能のラジカル重合性モノマーと、2官能のラジカル重合性モノマー及び3官能のラジカル重合性モノマーからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーと、を含む<1>~<7>のいずれか1つに記載の光硬化性インク組成物である。
<9> インクジェット記録に用いられる<1>~<8>のいずれか1つに記載の光硬化性インク組成物である。
<10> <1>~<9>のいずれか1つに記載の光硬化性インク組成物を基材に付与する工程と、基材に付与された光硬化性インク組成物を発光ダイオードにより光照射することで赤外線吸収画像を記録する工程と、を含む画像記録方法である。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一実施形態によれば、従来に比べ、光硬化後の赤外線(IR)吸収能が高く、かつ、赤外線吸収画像の耐光性により優れた光硬化性インク組成物が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、従来に比べ、光硬化後の赤外線(IR)吸収能が高く、かつ、赤外線吸収画像の耐光性により優れた画像の記録が行える画像記録方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の光硬化性インク組成物、及びこれを用いた画像記録方法について詳細に説明する。
【0020】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0021】
本明細書において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
【0022】
本明細書における「固形分」の語は、溶剤を除く成分を意味し、溶剤以外の低分子量成分などの液状の成分も本明細書における「固形分」に含まれる。
本明細書において「溶媒」とは、水、有機溶剤、及び水と有機溶剤との混合溶媒を包含する意味で用いられる。
また、本明細書では、アクリル及びメタクリルの双方又はいずれかを「(メタ)アクリル」と表記する場合がある。
【0023】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0024】
<光硬化性インク組成物>
本開示の光硬化性インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、式(1)で表されるスクアリリウム色素の粒子と、ラジカル重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤と、色素増感剤(以下、単に「増感剤」と略記することがある。)と、を含み、スクアリリウム色素の粒子の平均粒子径を10nm~400nmの範囲としている。
【0025】
本開示の光硬化性インク組成物は、光の照射を受けて硬化するインク組成物であり、不可視性が求められる用途に好適に用いられる。
本開示の光硬化性インク組成物の使用態様としては、特に制限はなく、用途に応じて例えば公知の塗布法又はインクジェット法を用いる各種態様から適宜選択すればよいが、インクジェット法を利用したインクジェット記録に好適に用いられる。
【0026】
従来から、不可視性が求められる分野では、可視領域に吸収がない又は可視領域に吸収が少ない色素を用いた画像の記録方法が種々検討されている。例えば近赤外線吸収色素を用いた技術が提案されている、近赤外線吸収色素としては、シアニン色素、フタロシアニン色素、アントラキノン色素、ジインモニウム色素、及びスクアリリウム色素が知られている。中でもスクアリリウム色素は、不可視性が高く、耐光性も有するとして注目されている。しかし、スクアリリウム色素を用いた画像であっても、画像記録時に照射される短波長の光の影響を受けたり、蛍光灯下等の光の照射下に長時間曝されると、劣化を抑えきれず、例えば不可視画像の検出性を長期間安定的に保持することは困難である。
本開示の光硬化性インク組成物は、スクアリリウム色素の粒子と色素増感剤とをラジカル重合性モノマーと共に用いることで、従来に比べ、光硬化後の赤外線(IR)吸収能が高く、かつ、赤外線吸収画像の耐光性により優れたものとなる。つまり、高耐光性を有するスクアリリウム色素を選択し、かつ、スクアリリウム色素を溶解せず粒子として(好ましくは分散状態で)含むことで、記録時及び記録後に曝される光に対する耐性(特に、耐光性)が飛躍的に改善される。加えて色素増感剤が併用されることで、エネルギーの高い不要な短波長光の少ないLEDを用いた場合にも必要とされる硬化性が得られ、赤外線吸収画像の耐光性の向上効果をより高めることができる。
以上の通り、本開示の光硬化性インク組成物は、光照射して硬化させる過程を経て記録を行う記録プロセスに適用されるラジカル硬化型のインクとして好適であり、IR吸収能と赤外線吸収画像の耐光性とが両立されている点で広範な用途への適用が期待される。
【0027】
(スクアリリウム色素の粒子)
本開示の光硬化性インク組成物は、式(1)で表されるスクアリリウム色素の粒子の少なくとも一種を含有する。
本開示の光硬化性インク組成物が色素としてスクアリリウム色素を含むことで、不可視性を付与し、かつ、硬化過程での色素の光分解を抑え、IR吸収能に優れたものとなる。そして、スクアリリウム色素はインク組成物中に粒子の形態で含まれるので、記録前後において曝される光に対する耐性に優れる。
【0028】
スクアリリウム色素の粒子は、体積平均粒子径が10nm~400nmの範囲である。
スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径が10nm以上であることで、記録時及び記録後において曝される光に対する耐性(特に、耐光性)を良好に維持できる。また、粒子の平均粒子径が400nm以下であることで、インクジェット記録に用いた場合のインク組成物の吐出性を安定的に保持するのに適している。
スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径は、15nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。また、スクアリリウム色素の粒子の平均粒子径は、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0029】
スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径は、粒子自体の粒子径を指し、粒子に分散剤等の添加物が付着している場合は添加物が付着した粒子径を指す。
粒子の体積平均粒子径は、測定装置としてナノトラックUPA粒度分析計(商品名「UPA-EX150」、日機装社製)を用いて動的光散乱法により測定することができる。測定は、粒子分散体3mlを測定セルに入れ、あらかじめ定められた測定方法に従って行うことができる。なお、測定時に入力するパラメーターとしては、粘度にはインク組成物の粘度を、粒子の密度にはスクアリリウム色素の密度を用いる。
【0030】
スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径は、スクアリリウム色素の分散条件、具体的には、分散剤の種類、スクアリリウム色素の濃度、ラジカル重合性モノマーと分散剤との組み合わせ等の条件により調節することができる。
【0031】
スクアリリウム色素の粒子は、分散状態で存在していることが好ましい。
スクアリリウム色素の粒子が分散されている場合、粒子が集合した状態で存在しやすく、照射された光が一部の粒子で遮られるため、色素が溶解状態にある場合に比べ、光に曝される粒子が少なく、色素が分散状態で存在することで耐光性が向上すると考えられる。
【0032】
本開示におけるスクアリリウム色素は、下記式(1)で表される化合物である。
【0033】
【化2】
【0034】
式(1)において、環A及び環Bは、それぞれ独立に芳香環又は複素芳香環を表し、X及びXは、それぞれ独立に1価の置換基を表し、G及びGは、それぞれ独立に1価の置換基を表し、kAは0~nAの整数を表し、kBは0~nBの整数を表す。nAは、Gが環Aに置換可能な最大の整数を表し、nBは、Gが環Bに置換可能な最大の整数を表す。XとG、又はXとGは、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、G及びGがそれぞれ複数存在する場合は、環Aに結合する複数のG、及び環Bに結合する複数のGは、それぞれ互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0035】
及びGは、それぞれ独立に1価の置換基を表す。
1価の置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、-OR10、-COR11、-COOR12、-OCOR13、-NR1415、-NHCOR16、-CONR1718、-NHCONR1920、-NHCOOR21、-SR22、-SO23、-SOOR24、-NHSO25及びSONR2627が挙げられる。
10~R27は、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又はヘテロ環基を表す。
なお、-COOR12のR12が水素原子の場合(すなわちカルボキシ基)は、水素原子が解離してもよく(すなわちカルボネート基)、塩の状態であってもよい。また、-SOOR24のR24が水素原子の場合(すなわちスルホ基)は、水素原子が解離してもよく(すなわちスルホネート基)、塩の状態であってもよい。
【0036】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~8がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、直鎖又は分岐が好ましい。
アルケニル基の炭素数は、2~20が好ましく、2~12がより好ましく、2~8が特に好ましい。アルケニル基は直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、直鎖又は分岐が好ましい。
アルキニル基の炭素数は、2~40が好ましく、2~30がより好ましく、2~25が特に好ましい。アルキニル基は直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、直鎖又は分岐が好ましい。
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~20がより好ましく、6~12がさらに好ましい。
アラルキル基のアルキル部分は、上記アルキル基と同様である。アラルキル基のアリール部分は、上記アリール基と同様である。アラルキル基の炭素数は、7~40が好ましく、7~30がより好ましく、7~25がさらに好ましい。
【0037】
ヘテロアリール基は、単環又は縮合環が好ましく、単環又は縮合数が2~8の縮合環が好ましく、単環又は縮合数が2~4の縮合環がより好ましい。ヘテロアリール基の環を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。ヘテロアリール基の環を構成するヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基は、5員環又は6員環が好ましい。ヘテロアリール基の環を構成する炭素原子の数は3~30が好ましく、3~18がより好ましく、3~12がより好ましい。ヘテロアリール基の例には、ピリジン環、ピペリジン環、フラン環基、フルフラン環、チオフェン環、ピロール環、キノリン環、モルホリン環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、カルバゾール環、フェノチアジン環、フェノキサジン環、インドリン環、チアゾール環、ピラジン環、チアジアジン環、ベンゾキノリン環及びチアジアゾール環が挙げられる。
【0038】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基及びヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。
置換基は、特開2018-154672号公報の段落番号0030に記載の置換基が挙げられる。好ましい置換基としては、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、芳香族ヘテロ環チオ基、スルホニル基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、及びカルボキシ基からなる群より選ばれる置換基であり、その中では、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、芳香族ヘテロ環チオ基、スルホニル基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、及びカルボキシ基からなる群より選ばれる置換基がより好ましい。
なお、置換基における「炭素数」とは、置換基の「総炭素数」を意味する。
また、各置換基の詳細は、特開2018-154672号公報の段落番号0031~0035に記載の置換基を参照することができる。
【0039】
及びXは、それぞれ独立に1価の置換基を表す。
及びXにおける置換基は、活性水素を有する基が好ましく、-OH、-SH、-COOH、-SOH、-NRX1X2、-NHCORX1、-CONRX1X2、-NHCONRX1X2、-NHCOORX1、-NHSOX1、-B(OH)又はPO(OH)がより好ましく、-OH、-SH又はNRX1X2がさらに好ましい。
X1及びRX2は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表す。置換基としてはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及びヘテロアリール基が挙げられ、アルキル基が好ましい。アルキル基は直鎖又は分岐が好ましい。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及び、ヘテロアリール基の詳細については、G及びGで説明した範囲と同義である。
【0040】
環A及び環Bは、それぞれ独立に、芳香環又は複素芳香環を表す。
芳香環及び複素芳香環は、単環であってもよく、縮合環であってもよい。
芳香環及び複素芳香環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ペンタレン環、インデン環、アズレン環、ヘプタレン環、インデセン環、ペリレン環、ペンタセン環、アセタフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、ナフタセン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオレン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、及び、フェナジン環が挙げられ、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましい。
芳香族環は、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、G及びGで説明した置換基が挙げられる。
【0041】
とG、XとGは互いに結合して環を形成してもよく、G及びGがそれぞれ複数存在する場合は、互いに結合して環を形成していてもよい。
環としては、5員環又は6員環が好ましい。環は単環であってもよく、複環であってもよい。
とG、XとG、G同士又はG同士が結合して環を形成する場合、これらが直接結合して環を形成してもよく、アルキレン基、-CO-、-O-、-NH-、-BR-及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる2価の連結基を介して結合して環を形成してもよい。XとG、XとG、G同士又はG同士が、-BR-を介して結合して環を形成することが好ましい。
Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。置換基としては、G及びGで説明した置換基が挙げられ、アルキル基又はアリール基が好ましい。
kAは0~nAの整数を表し、kBは0~nBの整数を表し、nAは、A環に置換可能な最大の整数を表し、nBは、B環に置換可能な最大の整数を表す。
kA及びkBは、それぞれ独立に0~4が好ましく、0~2がより好ましく、0~1が特に好ましい。また、kA及びkBが同時に0(ゼロ)を表す場合を含まないことが好ましい。
【0042】
式(1)で表されるスクアリリウム色素の中でも、光に対する耐性の点で、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0043】
【化3】
【0044】
式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は、アルキル基を表す。
及びXは、それぞれ独立に、酸素原子、又は、-N(R)-を表し、X及びXは、それぞれ独立に、炭素原子、又は、ホウ素原子を表す。
は、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、YとY、及び、YとYは、互いに結合して環を形成していてもよい。
、Y、Y及びYは、それぞれ複数存在する場合には、互いに結合して環を形成していてもよい。
p及びsは、それぞれ独立に0~3の整数を表し、q及びrは、それぞれ独立に0~2の整数を表す。
、R、Y、Y、Y及びYが表す置換基としては、G及びGで説明した置換基が同様に挙げられる。
【0045】
及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。Rのアルキル基の炭素数は例えば1~4、好ましくは1又は2である。アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。Rは、好ましくは水素原子、メチル基、又はエチル基であり、より好ましくは水素原子、又はメチル基であり、特に好ましくは水素原子である。
及びXは、それぞれ独立に、酸素原子(-O-)、又は、-N(R)-を表す。XとXは同一であってもよく、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
は、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
は、水素原子、アルキル基又はアリール基が好ましく、水素原子又はアルキル基がより好ましい。Rが表すアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基は、無置換であってもよく、1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては、上述したG及びGで説明した1価の置換基が挙げられる。
アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。アルキル基は、直鎖、及び分岐のいずれでもよい。
アリール基の炭素数は、6~20が好ましく、6~12がより好ましい。
ヘテロアリール基は、単環であっても多環であってもよい。ヘテロアリール基の環を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。ヘテロアリール基の環を構成するヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基の環を構成する炭素原子の数は3~30が好ましく、3~18がより好ましく、3~12がより好ましい。
【0046】
上記の式(1)又は式(2)で表されるスクアリリウム色素の分子量としては、100~2,000の範囲が好ましく、150~1,000の範囲がより好ましい。
【0047】
式(2)で表されるスクアリリウム色素については、特開2011-2080101号公報に詳細に記載されており、ここに記載の化合物は本開示におけるスクアリリウム色素として好適に用いることができる。
【0048】
上記の式(1)又は式(2)で表されるスクアリリウム色素の具体例(具体例B-1~B-40)を以下に示す。但し、本開示においては、以下の化合物に制限されるものではない。式中、「Me」はメチル基を表し、「Ph」はフェニル基を表す。
【0049】
【化4】
【0050】
【化5】
【0051】
【化6】
【0052】
【化7】
【0053】
【化8】
【0054】
上記の中では、より好ましい化合物として、具体例B-1、B-3、B-4、B-6、B-9、B-11、B-21、B-24、B-30、B-31、B-37、及びB-38を挙げることができる。
【0055】
スクアリリウム色素の含有量としては、光硬化性インク組成物の全質量に対して、0.1質量%~20質量%の範囲が好ましく、0.1質量%~10質量%の範囲がより好ましく、0.3質量%~7質量%の範囲がより好ましい。
スクアリリウム色素の含有量が0.1質量%以上であると、IR吸収性により優れ、耐光性により優れたものとなる。また、スクアリリウム色素の含有量が20質量%以下であると、吐出安定性の点で有利である。
【0056】
(分散剤)
光硬化性インク組成物は、スクアリリウム色素を分散するための分散剤を含有することができる。分散剤が含有されることで、スクアリリウム色素の分散性が向上し、スクアリリウム色素の分散粒子の小径化が行える。
【0057】
分散剤については、特開2011-225848号公報の段落番号0152~0158、特開2009-209352号公報の段落番号0132~0149等の公知文献の記載を適宜参照することができる。
具体的には、分散剤としては、例えば、ルーブリゾール社のSOLSPERSE(登録商標)シリーズ(例:SOLSPERSE 16000、21000、32000、41000、41090、43000、44000、46000、54000等)、ビックケミー社のDISPERBYK(登録商標)シリーズ(例:DISPERBYK 102、110、111、118、170、190、194N、2015、2090、2096等)、エボニック社のTEGO(登録商標)Dispersシリーズ(例:TEGO Dispers 610、610S、630、651、655、750W、755W等)、楠本化成社のディスパロン(登録商標)シリーズ(例:DA-375、DA-1200等)、及び共栄化学工業社のフローレンシリーズ(例:WK-13E、G-700、G-900、GW-1500、GW-1640、WK-13E等)が挙げられる。
【0058】
分散剤の分子量は、光硬化性インク組成物の全量に対して、0.1質量%~20質量%が好ましく、0.3質量%~10質量%がより好ましく、0.3質量%~5質量%が更に好ましい。
【0059】
光硬化性インク組成物が、スクアリリウム色素を分散させる分散剤を含有する場合、スクアリリウム色素の含有量に対する分散剤の含有量の比率は、質量基準で15%~100%であることが好ましく、20%~55%であることがより好ましく、25%~45%であることが更に好ましい。
【0060】
(ラジカル重合性モノマー)
本開示の光硬化性インク組成物は、ラジカル重合性モノマーの少なくとも一種を含有する。光硬化性インク組成物が光硬化成分の1つとしてラジカル重合性モノマーを含有することで、インク組成物に硬化性を持たせることができる。
【0061】
ラジカル重合性モノマーは、後述のラジカル重合開始剤から生じたラジカルの作用によって重合反応して高分子量化する単量体である。
ラジカル重合性モノマーとしては、単官能のラジカル重合性モノマー及び多官能のラジカル重合性モノマーのいずれも用いることができ、いずれか一方を選択的に用いてもよいし、両方を併用してもよい。
【0062】
単官能のラジカル重合性モノマー(以下、「単官能モノマー」ともいう)としては、
N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物;
2-フェノキシエチルアクリレート(PEA)、ベンジルアクリレート、サイクリックトリメチロールプロパンホルマールアクリレート(CTFA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、カプロラクトン変性アクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート等の単官能アクリレート化合物;
2-フェノキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、カプロラクトン変性メタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールメタクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールメタクリレート等の単官能メタクリレート化合物;
ノルマルプロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ノルマルブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル等の単官能ビニルエーテル化合物;
アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、
アクリロイルモルホリン(ACMO)、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-3-オキソブチル)アクリルアミド、N-ドデシルアクリルアミド、N-(ブトキシメチル)アクリルアミド等の単官能アクリルアミド化合物;及び
メタクリルアミド、N-フェニルメタクリルアミド、N-(メトキシメチル)メタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等の単官能メタクリルアミド化合物;
が挙げられる。
【0063】
2官能のラジカル重合性モノマー(以下、「2官能モノマー」ともいう)としては、
ヘキサンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、デカンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール変性ビスフェノールAジアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等の二官能アクリレート化合物;
2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルアクリレート(VEEA);
1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル(DVE3)等の二官能ビニル化合物;及び
ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ノネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール変性ビスフェノールAジメタクリレート等の二官能メタクリレート化合物;
が挙げられる
【0064】
3官能以上のラジカル重合性モノマー(以下、「3官能モノマー」ともいう)としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
【0065】
また、上述のラジカル重合性モノマーの他にも、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品、又は業界で公知の、単官能又は二官能のラジカル重合性モノマーを用いることができる。
【0066】
ラジカル重合性モノマーの分子量は、100以上1000未満が好ましく、より好ましくは100以上800以下であり、更に好ましくは150以上700以下である。
【0067】
ラジカル重合性モノマーとしては、2官能以上のラジカル重合性モノマーを含むことが好ましい。2官能以上のラジカル重合性モノマーを含むことで、単官能のラジカル重合性モノマーのインク組成物中における含有量が相対的に減少し又は無くなることで、記録後の画像からモノマー成分が外部へ転着する現象(いわゆるマイグレーション)を抑えることができる。特に、食品用の包装フィルム又は化粧品用の包装材料のように、基材における安全性が厳格に要求される分野への適用の観点から、2官能以上のラジカル重合性モノマーを含むことが好ましい。
更には、上記と同様の理由から、ラジカル重合性モノマーとして、単官能のラジカル重合性モノマーと、2官能のラジカル重合性モノマー及び3官能のラジカル重合性モノマーからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーと、を含有することがより好ましい。
ラジカル重合性モノマーとしては、特に、食品安全性の観点からは、食品包装規制(EU法令、Swiss Ordinance)のリストに収載されているモノマーを選択することが好ましい。
【0068】
本開示においては、上記と同様の理由から、ラジカル重合性モノマーとして2官能以上のラジカル重合性モノマーを含み、かつ、2官能以上のラジカル重合性モノマーの含有量がラジカル重合性モノマーの総含有量に対して50質量%以上であることが好ましい。
更には、2官能以上のラジカル重合性モノマーの含有量は、ラジカル重合性モノマーの総含有量に対して、50質量%~90質量%がより好ましく、60質量%~80質量%が更に好ましく、60質量%~75質量%が特に好ましい。
【0069】
本開示の光硬化性インク組成物におけるラジカル重合性モノマーの総含有量は、インクの全量に対して、50質量%以上であることが好ましい。
ラジカル重合性モノマーの総含有量が50質量%以上であることは、光硬化性インク組成物が、主たる液体成分としてモノマーを含むインクであることを意味する。
本開示の光硬化性インク組成物におけるラジカル重合性モノマーの総含有量は、光硬化性インク組成物の全量に対して、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
ラジカル重合性モノマーの総含有量の上限には特に制限はないが、上限は、光硬化性インク組成物の全量に対して、例えば95質量%とすることができる。
【0070】
(ラジカル重合開始剤)
本開示の光硬化性インク組成物は、ラジカル重合開始剤の少なくとも一種を含有する。
光硬化性インク組成物が光硬化成分の1つとしてラジカル重合開始剤を含有することで、インク組成物に硬化性を持たせることができる。
【0071】
ラジカル重合開始剤は、光の照射によってラジカルを発生し、既述のラジカル重合性モノマーの重合反応を開始する光重合開始剤であることが好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類等のカルボニル化合物、(b)アシルホスフィンオキシド化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、及び(m)アルキルアミン化合物が挙げられる。
【0072】
ラジカル重合開始剤として、上記(a)~(m)の化合物を1種単独もしくは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0073】
ラジカル重合開始剤としては、上記(a)、(b)又は(e)がより好ましい。
【0074】
(a)カルボニル化合物、(b)アシルホスフィンオキシド化合物、及び、(e)チオ化合物の好ましい例としては、”RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY”,J.P.FOUASSIER,J.F.RABEK(1993)、pp.77~117に記載のベンゾフェノン骨格又はチオキサントン骨格を有する化合物が挙げられる。
より好ましい例としては、特公昭47-6416号公報記載のα-チオベンゾフェノン化合物、特公昭47-3981号公報記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47-22326号公報記載のα-置換ベンゾイン化合物、特公昭47-23664号公報記載のベンゾイン誘導体、特開昭57-30704号公報記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60-26483号公報記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60-26403号公報、特開昭62-81345号公報記載のベンゾインエーテル類、特公平1-34242号公報、米国特許第4,318,791号パンフレット、ヨーロッパ特許0284561A1号公報に記載のα-アミノベンゾフェノン類、特開平2-211452号公報記載のp-ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61-194062号公報記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2-9597号公報記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2-9596号公報記載のアシルホスフィン、特公昭63-61950号公報記載のチオキサントン類、及び特公昭59-42864号公報記載のクマリン類を挙げることができる。
また、特開2008-105379号公報、及び特開2009-114290号公報に記載の重合開始剤も好ましい。
【0075】
光重合開始剤の中でも、(a)カルボニル化合物又は(b)アシルホスフィンオキシド化合物がより好ましく、具体的には、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(例えば、BASF社製のIRGACURE(登録商標)819)、2-(ジメチルアミン)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1-ブタノン(例えば、BASF社製のIRGACURE(登録商標)369)、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(例えば、BASF社製のIRGACURE(登録商標)907)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(例えば、BASF社製のIRGACURE(登録商標)184)、及び2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキシド(例えば、DAROCUR(登録商標)TPO、LUCIRIN(登録商標)TPO(いずれもBASF社製))が挙げられる。
中でも、感度向上の観点及びLED光への適合性の観点から、光重合開始剤としては、(b)アシルホスフィンオキシド化合物が好ましく、モノアシルホスフィンオキシド化合物(特に好ましくは、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキシド)、又は、ビスアシルホスフィンオキシド化合物(特に好ましくは、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド)がより好ましい。
【0076】
光重合開始剤の光硬化性インク組成物中における含有量は、光硬化性インク組成物の全量に対し、1.0質量%~25.0質量%が好ましく、2.0質量%~20.0質量%がより好ましく、3.0質量%~15.0質量%が更に好ましい。
【0077】
(色素増感剤)
本開示の光硬化性インク組成物は、色素増感剤の少なくとも一種を含有する。
光硬化性インク組成物が色素増感剤を含有することで、光硬化性を高めることができ、特にLED光源を用いた場合の光硬化性を良好なものとすることができる。また、色素増感剤は、耐光性の向上にも寄与する。
【0078】
色素増感剤は、特定の活性エネルギー線を吸収して電子励起状態となる物質である。電子励起状態となった色素増感剤は、ラジカル重合開始剤と接触して、電子移動、エネルギー移動、発熱等の作用を生じる。これにより、ラジカル重合開始剤の化学変化、即ち分解、ラジカル、酸又は塩基の生成が促進される。
【0079】
色素増感剤としては、例えば、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(EDB)、アントラキノン、3-アシルクマリン誘導体、ターフェニル、スチリルケトン、3-(アロイルメチレン)チアゾリン、ショウノウキノン、エオシン、ローダミン、エリスロシン、特開2010-24276号公報に記載の一般式(i)で表される化合物、及び特開平6-107718号公報に記載の一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0080】
食品包装分野で光硬化性インク組成物を使用する場合、食品安全性の観点と十分な硬化性を担保する必要がある。そのため、色素増感剤の中でも、食品安全性の観点、並びに、LED光への適合性及び光重合開始剤との反応性を考慮してより良好な硬化性を担保する観点から、チオキサントン系化合物及びチオクロマノン系化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。
チオキサントン化合物及びチオクロマノン化合物については、特開2012-46724号の段落0066~段落0077を参照してもよい。
【0081】
-チオキサントン化合物-
チオキサントン化合物としては、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【0082】
【化9】
【0083】
式(3)中、R11~R18は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基(一置換及び二置換の場合を含む。)、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、カルボキシ基又はスルホ基を表す。
【0084】
上記アルキル基、上記アルキルチオ基、上記アルキルアミノ基、上記アルコキシ基、上記アルコキシカルボニル基、上記アシルオキシ基、及び上記アシル基の各々において、アルキル部分の炭素数は、1~20であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。
上記アシルオキシ基は、アリールオキシカルボニル基であってもよく、上記アシル基はアリールカルボニル基であってもよい。この場合、アリールオキシカルボニル基及びアリールカルボニル基の各々において、アリール部分の炭素数は、6~14であることが好ましく、6~10であることがより好ましい。
【0085】
11~R18における隣接する2つは、互いに連結して環構造を形成していてもよい。
環構造としては、5員又は6員の単環構造;及び、5員又は6員の単環構造が2つ組み合わされた2核環(例えば縮合環)が挙げられる。
5員又は6員の単環構造としては、脂肪族環、芳香族環、及びヘテロ環が挙げられる。へテロ環におけるヘテロ原子としては、N、O、及びSが挙げられる。2核環における単環の組み合わせとしては、脂肪族環と脂肪族環との組み合わせ、脂肪族環と芳香族環との組み合わせ、脂肪族環とヘテロ環との組み合わせ、芳香族環と芳香族環との組み合わせ、芳香族環とヘテロ環との組み合わせ、及び、ヘテロ環とヘテロ環との組み合わせが挙げられる。
環構造は、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、カルボキシ基及びスルホ基が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子がより好ましく、塩素原子又は臭素原子が更に好ましい。
ハロゲン化アルキル基としては、フッ化アルキル基が好ましい。
【0086】
チオキサントン化合物としては、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2-ドデシルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、1-メトキシカルボニルチオキサントン、2-エトキシカルボニルチオキサントン、3-(2-メトキシエトキシカルボニル)チオキサントン、4-ブトキシカルボニルチオキサントン、3-ブトキシカルボニル-7-メチルチオキサントン、1-シアノ-3-クロロチオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-クロロチオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-エトキシチオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-アミノチオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-フェニルスルフリルチオキサントン、3,4-ジ[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシカルボニル]チオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-(1-メチル-1-モルホリノエチル)チオキサントン、2-メチル-6-ジメトキシメチルチオキサントン、2-メチル-6-(1,1-ジメトキシベンジル)チオキサントン、2-モルホリノメチルチオキサントン、2-メチル-6-モルホリノメチルチオキサントン、n-アリルチオキサントン-3,4-ジカルボキシイミド、n-オクチルチオキサントン-3,4-ジカルボキシイミド、N-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)チオキサントン-3,4-ジカルボキシイミド、1-フェノキシチオキサントン、6-エトキシカルボニル-2-メトキシチオキサントン、6-エトキシカルボニル-2-メチルチオキサントン、チオキサントン-2-ポリエチレングリコールエステル、及び2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサントン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリドが挙げられる。
これらの中でも、入手容易性や硬化性の観点から、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、又は4-イソプロピルチオキサントンが好ましい。
【0087】
チオキサントン化合物としては、上市されている市販品を用いてもよい。市販品の例としては、Lambson社製のSPEEDCUREシリーズ(例:SPEEDCURE 7010、SPEEDCURE CPTX、SPEEDCURE ITX等)が挙げられる。
【0088】
-チオクロマノン化合物-
チオクロマノン化合物としては、下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【0089】
【化10】
【0090】
式(4)中、R21~R28は、それぞれ、式(3)中のR11~R18と同義であり、好ましい態様もそれぞれ同様である。
【0091】
式(4)中のR21~R24において、隣接する2つは、互いに連結して環構造を形成していてもよい。
式(4)中のR21~R24における隣接する2つが形成し得る環構造の例は、式(3)中のR11~R18における隣接する2つが形成し得る環構造の例と同様である。
【0092】
チオクロマノン化合物は、チオクロマノンの環構造上に少なくとも1つの置換基(例えば、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、カルボキシ基又はスルホ基)を有していてもよい。
上記置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基又はアシルオキシ基が好ましく、炭素数1~20のアルキル基又はハロゲン原子がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子が更に好ましい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子がより好ましく、塩素原子又は臭素原子が更に好ましい。
ハロゲン化アルキル基としては、フッ化アルキル基が好ましい。
また、チオクロマノン化合物は、芳香環上、及び、シクロヘキサノン環上のそれぞれに、少なくとも1つの置換基を有する化合物であることがより好ましい。
【0093】
チオクロマノン化合物の具体例としては、下記(2-1)~(2-30)が挙げられる。これらの中でも、(2-14)、(2-17)又は(2-19)がより好ましく、(2-14)が更に好ましい。
【0094】
【化11】
【0095】
色素増感剤の少なくとも一種は、分子量が1000以上であることが好ましい。
色素増感剤の少なくとも一種は、分子量が1000以上であることで、記録後の画像からモノマー成分が外部へ転着する現象(いわゆるマイグレーション)を抑えることができる。特に、食品用の包装フィルム又は化粧品用の包装材料等のように、基材における安全性が厳格に要求される食品包装分野及び化粧品包装分野等への適用の観点から好ましい。
中でも、分子量が1000以上であるチオキサントン系化合物又は分子量が1000以上であるチオクロマノン系化合物を含有することが好ましい。
色素増感剤の分子量は、1000~100000の範囲がより好ましく、1000~50000の範囲がより好ましい。
【0096】
スクアリリウム色素の含有量に対する色素増感剤の含有量の比率(色素増感剤/スクアリリウム色素)は、質量基準で、1~20であることが好ましく、1~10であることが更に好ましい。
【0097】
色素増感剤の光硬化性インク組成物中における含有量は、光硬化性インク組成物の全量に対し、1.0質量%~15.0質量%が好ましく、1.5質量%~10.0質量%がより好ましく、2.0質量%~6.0質量%が更に好ましい。
【0098】
(他の成分)
本開示の光硬化性インク組成物は、上記成分に加え、更に、以下の他の成分を含有することができる。
【0099】
-界面活性剤-
本開示の光硬化性インク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、特開昭62-173463号、及び同62-183457号の各公報に記載された界面活性剤が挙げられる。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、変性ポリジメチルシロキサン(例えば、ビックケミー社製のBYK-307等)等のシロキサン類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、及びカルボベタイン、スルホベタイン等のベタイン系界面活性剤が挙げられる。
なお、界面活性剤に代えて有機フルオロ化合物を用いてもよい。有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素含有界面活性剤、オイル状フッ素含有化合物(例えば、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例えば、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57-9053号(第8~17欄)、特開昭62-135826号の各公報に記載された化合物が挙げられる。
【0100】
本開示の光硬化性インク組成物が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有量は、光硬化性インク組成物の全量に対し、0.01質量%~5質量%が好ましく、0.05質量%~3質量%がより好ましく、0.05質量%~1.5質量%が更に好ましい。
【0101】
-重合禁止剤-
本開示の光硬化性インク組成物は、重合禁止剤を含有していてもよい。
重合禁止剤としては、p-メトキシフェノール、キノン類(例えば、ハイドロキノン、ベンゾキノン、及びメトキシベンゾキノン)、フェノチアジン、カテコール類、アルキルフェノール類(例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT))、アルキルビスフェノール類、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅、サリチル酸銅、チオジプロピオン酸エステル類、メルカプトベンズイミダゾール、ホスファイト類、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル(TEMPOL)、及びトリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩(別名:クペロンAl)が挙げられる。
中でも、重合禁止剤は、p-メトキシフェノール、カテコール類、キノン類、アルキルフェノール類、TEMPO、TEMPOL、及びトリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、ベンゾキノン、BHT、TEMPO、TEMPOL、及びトリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0102】
本開示の光硬化性インク組成物が重合禁止剤を含有する場合、重合禁止剤の含有量は、光硬化性インク組成物の全量に対し、0.01質量%~2.0質量%が好ましい。
【0103】
-有機溶剤-
本開示の光硬化性インク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン;メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール;
クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤;ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸イソプロピル等のエステル系溶剤;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;及び、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート系溶剤が挙げられる。
【0104】
光硬化性インク組成物が有機溶剤を含有する場合、有機溶剤の含有量としては、光硬化性インク組成物の全量に対して、1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。光硬化性インク組成物は、有機溶剤を含まない組成(即ち、有機溶剤の含有量が光硬化性インク組成物の全量に対して0質量%)であってもよい。
【0105】
-樹脂-
本開示の光硬化性インク組成物は、樹脂を少なくとも1種含有していてもよい。
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂(例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸n-ブチルとの共重合体)、塩素化ポリオレフィン、及びポリケトンが挙げられる。
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、3,000~200,000が好ましく、5,000~200,000がより好ましく、10,000~150,000であることが更に好ましい。
【0106】
光硬化性インク組成物が樹脂を含む場合、樹脂の含有量は、光硬化性インク組成物の全量に対して1質量%~10質量%であることが好ましい。
【0107】
-水-
本開示の光硬化性インク組成物は、少量の水を含有していてもよい。
具体的には、本開示の光硬化性インク組成物の全量に対する水の含有量は、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。本開示の光硬化性インク組成物は、実質的に水を含有しない、非水性の光硬化性インク組成物であることが好ましい。
【0108】
-その他の成分-
本開示の光硬化性インク組成物は、上記以外のその他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、紫外線吸収剤、共増感剤、酸化防止剤、褪色防止剤、導電性塩等が挙げられる。その他の成分については、特開2011-225848号公報、特開2009-209352号公報等の公知文献を適宜参照することができる。
【0109】
~光硬化性インク組成物の物性~
本開示の光硬化性インク組成物の粘度には特に制限はない。
本開示の光硬化性インク組成物は、25℃における粘度が10mPa・s~50mPa・sであることが好ましく、10mPa・s~30mPa・sであることがより好ましく、10mPa・s~25mPa・sであることが更に好ましい。インクの粘度は、例えば、含有される各成分の組成比を調整することによって調整できる。
粘度は、粘度計:VISCOMETER RE-85L(東機産業(株)製)を用いて測定された値である。
インクの粘度が上記範囲であると、吐出安定性をより向上させることができる。
【0110】
本開示の光硬化性インク組成物の表面張力には特に制限はない。
本開示の光硬化性インク組成物は、30℃における表面張力が、20mN/m~30mN/mであることが好ましく、さらに好ましくは23mN/m~28mN/mである。表面張力は、濡れ性の点では30mN/m以下が好ましく、滲み抑制及び浸透性の点では20mN/m以上が好ましい。
表面張力は、表面張力計 DY-700(協和界面化学(株)製)を用いて測定された値である。
【0111】
<画像記録方法>
本開示の画像記録方法は、既述の本開示の光硬化性インク組成物が用いられる。
本開示の光硬化性インク組成物を用いるので、不可視性を有し、IR吸収能に優れ、かつ、従来に比べて対抗性により優れた画像の記録が行える。
【0112】
本開示の光硬化性インク組成物は、目的又は場合に応じて適宜方法を選択して画像の記録に供することができる。画像記録方法としては、光硬化性インク組成物を基材に付与する工程(以下、インク付与工程ともいう。)と、基材に付与された光硬化性インク組成物を発光ダイオードにより光照射することで赤外線吸収画像を記録する工程(以下、光照射工程ともいう。)と、を含む方法(本開示の画像記録方法)が好ましい。
【0113】
(インク付与工程)
本開示におけるインク付与工程では、光硬化性インク組成物を基材に付与する。
インク付与工程は、基材に光硬化性インク組成物をインクジェット法により付与することが好ましい。本工程では、基材上にインク膜が形成される。
【0114】
インクジェット法によるインクの付与は、公知のインクジェット記録装置を用いて行うことができる。
インクジェット記録装置としては特に制限はなく、目的とする解像度を達成し得る公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。
【0115】
インクジェット記録装置としては、例えば、インク供給系、温度センサー、及び加熱手段を含む装置が挙げられる。
インク供給系は、例えば、インクを含む元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、ピエゾ型のインクジェットヘッドからなる。ピエゾ型のインクジェットヘッドは、好ましくは1pL~100pL、より好ましくは8pL~30pLのマルチサイズドットを、好ましくは320dpi(dot per inch)×320dpi~4000dpi×4000dpi、より好ましくは400dpi×400dpi~1,600dpi×1,600dpi、さらに好ましくは720dpi×720dpi~1,600dpi×1,600dpiの解像度で吐出できるよう駆動することができる。なお、dpiとは、2.54cm(1inch)当たりのドット数を表す。
【0116】
基材の形状としては、板形状が好ましい。
基材としては、シリコン基板等の半導体基板、ガラス基板、又はプラスチック基板を用いることができる。
基材としては、配線、トランジスタ、ダイオード、受光素子、又はセンサー、アクチュエータが予め設けられた基材を用いてもよい。
プラスチック基板におけるプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリイミド(PI)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、及びシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。
プラスチック基板の表面には、ガスバリヤー層及び/又は耐溶剤性層が設けられていてもよい。
【0117】
(光照射工程)
本開示における光照射工程では、基材に付与された光硬化性インク組成物を発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)により光照射することで赤外線吸収画像を記録する。
【0118】
LEDにより照射される光(LED光)としては、紫外(UV)光、及び可視光が挙げられ、UV光が好ましい。
【0119】
LED光のピーク波長は、ラジカル重合開始剤及び色素増感剤の吸収特性にもよるが、200nm~600nmであることが好ましく、300nm~450nmであることがより好ましく、320nm~420nmであることが更に好ましく、ピーク波長が340nm~400nmの紫外線が特に好ましい。
LEDとしては、紫外LEDを使用することができ、例えば、日亜化学株式会社製の、主放出スペクトルが365nmと420nmとの間の波長を有する紫色LEDが挙げられる。また、米国特許第6,084,250号明細書に記載の、300nmと370nmとの間に中心付けされた活性放射線を放出し得るLEDも挙げられる。本開示において、特に好ましい活性放射線源はUV-LEDであり、特に好ましくは340nm~400nmの波長域にピーク波長を有するUV-LEDである。例えば、ピーク波長が355nm、365nm、385nm、395nm又は405nmにあるLEDがより好ましく、ピーク波長が355nm、365nm、385nm、395nm又は405nmにあるLEDが特に好ましい。
【0120】
LEDの基材上での最高照度は、10mW/cm2~2,000mW/cm2とが好ましく、20mW/cm2~1,000mW/cm2がより好ましく、50mW/cm2~800mW/cm2が更に好ましい。
【実施例
【0121】
以下、本開示の光硬化性インク組成物及びこれを用いた画像記録方法について実施例により更に具体的に説明する。但し、本開示は、本開示の主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
(実施例1)
<インクジェットインク組成物A1の調製>
-分散物A1の調製-
下記組成中の成分を混合し、ビーズミルで3時間分散して分散物A1を得た。
<組成>
・スクアリリウム色素(SQ色素)B-1 ・・・2部
(式(1)で表されるスクアリリウム色素の上記具体例)
・S32000 ・・・0.8部
(Solsperse32000、ルーブリゾール社製;芳香族基を有しない分散剤)
・モノマーA ・・・20部
(4-HBA:ヒドロキシブチルアクリレート、大阪有機化学社製:単官能のラジカル重合性モノマー)
・モノマーB ・・・16.8部
(ビスコート#200(サイクリックトリメチロールプロパンホルマールアクリレート)、大阪有機化学社製:単官能のラジカル重合性モノマー)
・モノマーE ・・・60.4部
(SR341(3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート)、Sartomer社製:多官能のラジカル重合性モノマー)
【0123】
-インクジェットインク組成物A1の調製-
次いで、下記組成中の成分を混合して撹拌し、インクジェットインク組成物A1を調製した。
<組成>
・上記の分散物A1 ・・・50部
・モノマーA ・・・10部
(4-HBA:ヒドロキシブチルアクリレート、大阪有機化学社製:単官能のラジカル重合性モノマー)
・モノマーE ・・・29.8部
(SR341(3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート)、Sartomer社製:多官能のラジカル重合性モノマー)
・開始剤A ・・・6部
(IRGACURE(登録商標)819(BASF社製;アシルホスフィンオキシド化合物:ラジカル重合開始剤)
・増感剤A(色素増感剤)・・・4部
(SPEEDCURE 7010L、Lambson社製、分子量1000~2000;チオキサントン系化合物)
・UV12 ・・・0.1部
(FLORSTAB UV12(トリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩)、Kromachem社製;ニトロソ系重合禁止剤)
・界面活性剤(BYK307、ビックケミージャパン社製)・・・0.1部
【0124】
(実施例2~22)
実施例1において、組成を表1及び表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、分散物を調製し、更にインクジェットインク組成物を調製した。
【0125】
なお、表1~表3中の成分の詳細は以下の通りである。
・モノマーC:SR339A(2-フェノキシエチルアクリレート)、Sartomer社製(単官能のラジカル重合性モノマー)
・モノマーD:SR506A(イソボルニルアクリレート)、Sartomer社製(単官能のラジカル重合性モノマー)
・モノマーF:DVE-3(トリエチレングリコールジビニルエーテル)、BASF社製(多官能のラジカル重合性モノマー)
・モノマーG:SR508(ジプロピレングリコールジアクリレート)、Sartomer社製(多官能のラジカル重合性モノマー)
・開始剤B:IRGACURE(登録商標)184、BASF社製(ラジカル重合開始剤)
・開始剤C:DAROCURE TPO、BASF社製(ラジカル重合開始剤)
・増感剤B(色素増感剤):2-イソプロピルチオキサントン、分子量254(チオキサントン系化合物)
・増感剤C(色素増感剤):6-クロロー2-メチル(チオクロマノン)、分子量213(チオクロマノン系化合物)
【0126】
(比較例1~3)
実施例1において、組成を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、分散物を調製し、更にインクジェットインク組成物を調製した。
【0127】
(比較例4~6)
実施例1において、組成中のスクアリリウム色素を下記の色素(シアニン1、シアニン2、ジインモニウム)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、分散物を調製し、インクジェットインク組成物を調製した。
【0128】
【化12】
【0129】
(画像記録及び評価)
上記の実施例及び比較例で調製した各インクジェットインク組成物をそれぞれインクジェット記録装置(FUJIFILM DMP-2831)に付属のインクカートリッジに充填し、600dpi(dots per inch)及び10pl(ピコリットル)/ドットの条件にてコート紙(OKトップコート、王子製紙社製)上に100%網点画像を記録した。その後、露光装置として実験用385nmUV-LED照射器(CCS株式会社製)を用い、露光エネルギー1000mJ/cmの露光条件にて照射して硬化させ、赤外線吸収画像を得た。
【0130】
実施例及び比較例で調製した各インクジェットインク組成物、及び上記の赤外線吸収画像に対して以下の評価を行った。評価結果を表1~表3に示す。
【0131】
[評価1:吐出性]
インクジェットインク組成物A1をインクジェット記録装置(FUJIFILM DMP-2831)に付属のインクカートリッジに充填し、全ノズルにおいて、インクジェットヘッドのインク吐出部を観察し、下記の評価基準にしたがってインクの吐出性を評価した。
不吐出ノズル数割合(%)は、10分間の連続吐出を行った後の、全ノズル数に対する不吐出ノズル数の割合(%)を意味する。
なお、評価は、A又はBが許容される範囲であり、Aであることが好ましい。
<評価基準>
A:不吐出ノズル数割合が13%未満である。
B:不吐出ノズル数割合が13%以上32%未満である。
C:不吐出ノズル数割合が32%以上50%未満である。
D:不吐出ノズル数割合が50%以上である。
【0132】
[評価2:露光耐性]
吐出性の評価に用いたインクジェット記録装置を用い、600dpi(dots per inch)及び1ドット当たり10pl(ピコリットル)の条件で、コート紙(OKトップコート、王子製紙社製)上に100%網点画像を形成した。その後、メタルハライドランプ(オゾンレスメタルハライドランプMAN250L)を搭載した露光試験機で紫外(UV)光を露光強度2.0W/cmにて照射した。UV光の照射前後での網点画像における反射スペクトルの形状及び強度を分光光度計(150mmφ大形積分球付属装置LISR-3100を備えたUV-3100PC、島津製作所社製)により測定し、以下の評価基準にしたがって露光耐性を評価した。
なお、露光耐性は、反射スペクトルの形状及び強度を指標として光硬化後のIR吸収能を評価するものである。評価は、A又はBが実用上許容される範囲であり、Aであることが好ましい。
<評価基準>
A:UV光の照射前後で反射スペクトルの形状及び強度に変化は認められない。
B:UV光の照射前後で反射スペクトルの形状及び強度が若干変化している。
C:UV光の照射前後で反射スペクトルの形状及び強度が著しく変化している。
【0133】
[評価3:耐光性]
露光耐性の評価と同様の方法で形成した網点画像を用い、耐光性を評価した。
具体的には、網点画像に対して、ウェザーメーター(アトラスC.I65)を用いてキセノン光(85,000lx)を6日間照射した後、キセノン光の照射前後における網点画像の、極大吸収波長における光学濃度を測定し、下記式から色素残存率を算出し、耐光性を評価する指標とした。
色素残存率(%)=(照射後の光学濃度)/(照射前の光学濃度)×100
光学濃度は全て、150mmφ大形積分球付属装置LISR-3100を備えた分光光度計UV-3100PC(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
なお、評価は、A、B又はCが実用上許容される範囲であり、A又はBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
<評価基準>
A:色素残存率が90%以上である。
B:色素残存率が75%以上90%未満である。
C:色素残存率が60%以上75%未満である。
D:色素残存率が60%未満である。
【0134】
[評価4:マイグレーション性]
評価1~3に用いたインクジェット記録装置を用い、600dpi(dots per inch)及び1ドット当たり10pl(ピコリットル)の条件で、ポリエチレンフィルム(厚み:25μm)上に5%網点画像(コードパターン)を記録した後、露光試験機で露光した。得られた記録物を0.01mの大きさに切り取り、記録面に水及びエタノールを混合した水-エタノール混合液(水:エタノール=70:30)10mLを滴下した。滴下後の記録物は、水-エタノール混合液が揮発しないようにガラス密閉容器に入れ、40℃で10日間放置した。10日経過後、水-エタノール混合液中に含有された記録物からの全溶出量(オーバーオールマイグレーション量:OML)を測定し、下記の評価基準にしたがって評価した。
なお、全容出量の測定は、10日間放置後に水-エタノール混合液を揮発させ、残存成分の質量を測定することにより行った。
<評価基準>
A:溶出量が検出限界以下である。
B:溶出量が検出限界を超え、10ppb以下である。
C:溶出量が10ppbを超え、50ppb以下である。
D:溶出量が50ppbを超え、100ppb以下である。
E:溶出量が100ppbを超え、2000ppb以下である。
F:溶出量が2000ppbを超える。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
【表3】
【0138】
表1及び表2に示すように、スクアリリウム色素の粒子及び色素増感剤を用いてラジカル重合系の光硬化性インク組成物を調製した実施例では、画像記録時又は記録後に曝される光に対して堅牢性(露光耐性及び画像の耐光性)に優れており、かつ、良好なIR吸収能を示し、LED光により良好に硬化された赤外線吸収画像を得ることができた。
例えば実施例1~7のように、スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径が10nm~400nmの範囲内であると、画像記録時の露光耐性が高く、記録後の耐光性に優れており、吐出性も良好であった。分散剤量を減らした実施例8は、スクアリリウム色素の粒子の粒子径が大きくなり、やや吐出性の低下傾向がみられた。また、色素増感剤の分子量が1000以上である実施例1等は、色素増感剤の分子量が比較的小さい実施例8~11に比べ、マイグレーション性の点で良好な結果が得られた。
【0139】
一方、比較例1では、色素量に対する分散剤量が少ないため、スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径が大きくなり過ぎ、吐出性に支障を来たした。
色素増感剤を用いなかった比較例2では、マイグレーション性が著しく低下した。
また、スクアリリウム色素の粒子の体積平均粒子径が10nm未満の比較例3では、画像記録時又は記録後に曝される光に対して堅牢性(露光耐性及び画像の耐光性)に劣る結果となった。
更に、スクアリリウム色素以外の色素を用いた比較例4~6では、赤外線吸収画像の耐光性に劣っていた。
【0140】
なお、2019年3月29日に出願された日本国特許出願2019-066146号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。