(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】陽子生成装置、放射性同位体生成装置、陽子の生成方法及び放射性同位体の生成方法
(51)【国際特許分類】
H05H 6/00 20060101AFI20220725BHJP
H05H 5/02 20060101ALI20220725BHJP
G21G 1/10 20060101ALI20220725BHJP
G21K 5/08 20060101ALN20220725BHJP
【FI】
H05H6/00
H05H5/02 B
G21G1/10
G21K5/08 C
(21)【出願番号】P 2018049309
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】依田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】嶋 達志
(72)【発明者】
【氏名】高久 圭二
(72)【発明者】
【氏名】神田 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 光宏
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-214398(JP,A)
【文献】実公昭50-030557(JP,Y1)
【文献】米国特許第05949835(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00-15/00
G21K 1/00-3/00
G21K 5/00-7/00
G21B 1/00-3/00
G21G 1/10
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉された内部を負圧環境に維持する筐体と、
プラズマの発生に伴って生成される
3Heイオンを直流電場によって加速させ、前記筐体内に照射するヘリウムイオン源と、
前記筐体内に配置され、且つ、前記
3Heイオンが照射されることで、
4He及び陽子を生成する陽子生成用ターゲットと、
前記陽子生成用ターゲットに重陽子を照射する重陽子源と、を含む陽子生成装置。
【請求項2】
前記筐体は、
開口を有する枠部と、
前記陽子生成用ターゲットを支持する支持部と、
前記枠部及び前記支持部を分離可能に接続する接続部と、を含み、
前記筐体の内部は、前記開口を介して前記筐体の外側に配置されている真空ポンプに連通する、請求項1
に記載の陽子生成装置。
【請求項3】
前記枠部は、前記ヘリウムイオン源から前記陽子生成用ターゲットへの前記
3Heイオンの照射経路を開閉する
第1のシャッタを含む、請求項
2に記載の陽子生成装置。
【請求項4】
前記枠部は、前記
重陽子源から前記陽子生成用ターゲットへの前記重陽子の照射経路を開閉する第2のシャッタ
を含む、請求項2
又は請求項3に記載の陽子生成装置。
【請求項5】
前記支持部は、前記陽子生成用ターゲットが配置される凹部を含む、請求項
2乃至
4のいずれか一項に記載の陽子生成装置。
【請求項6】
密閉された内部を負圧環境に維持する筐体と、
プラズマの発生に伴って生成される
3Heイオンを直流電場によって加速させ、前記筐体内に照射するヘリウムイオン源と、
前記筐体内に配置され、且つ、前記
3Heイオンが照射されることで、
4He及び陽子を生成する陽子生成用ターゲットと、
前記陽子生成用ターゲットに重陽子を照射する重陽子源と、
前記筐体外であって、前記筐体を介して前記陽子生成用ターゲットと対向する位置に配置され、且つ、放射性同位体の原料物質を含む放射性同位体生成用ターゲットと、を含む、放射性同位体生成装置。
【請求項7】
陽子生成用ターゲットを、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体内に配置し、
重陽子源から照射される重陽子を前記陽子生成用ターゲットに
注入し、
プラズマの発生に伴って生成される
3Heイオンを直流電場によって加速し、
前記陽子生成用ターゲットに対して、加速された前記
3Heイオンを照射して、
4He及び陽子を生成する、陽子の生成方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の方法によって生成された陽子を、前記筐体外であって、前記筐体を介して前記陽子生成用ターゲットと対向する位置に配置され、且つ、原料物質を含む放射性同位体生成用ターゲットに放射することによって放射性同位体を生成する、放射性同位体の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、陽子生成装置及び陽子の生成方法に関する。特に、3Heと重陽子(Deuteron:D)を核融合反応させて、4Heと陽子(Proton:p)を生成する装置及び方法に関する。また、本発明の一態様は、放射性同位体生成装置及び放射性同位体の生成方法に関する。特に、当該核融合反応によって生成した陽子を利用して、放射性同位体(Radioisotope:RI)を生成する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性同位体(RI)は、医療分野において利用されている。例えば、陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)検査においては、ブドウ糖の置換基を放射性同位体に置換した物質(例えば、18F-フルオロデオキシグルコース(Fluoro-deoxy-glucose:FDG))を被検者に静脈注射する。被検者に投与された当該物質は、ブドウ糖代謝が活発な癌細胞に取り込まれる。そして、当該放射性同位体から放射される陽電子は、電子と対消滅してγ線に変換される。そのため、被検者から放出されるγ線を撮影することによって、癌細胞の早期発見が可能となる。
【0003】
放射性同位体は、一般にサイクロトロン等を用いて生成される。サイクロトロンとは、端的にいえば、磁場によって荷電粒子を円運動させると共に電場(代表的には、数~数百MHzの交流電場)によって当該荷電粒子を加速させる加速器であり、加速された荷電粒子をターゲットに照射することによって、放射性同位体を生成することが可能である。
【0004】
ただし、医療分野で用いられる放射性同位体は、その半減期が短い物質が多い。そのため、放射性同位体の輸送時間を十分に確保することは困難である。それ故、放射性同位体を有効活用するためには、それが利用される地点と同一又は近接した地点で放射性同位体を生成することが必要になる。例えば、上述の陽電子放出断層撮影検査であれば、病院において放射性同位体を生成し、それを含む物質を被検者へ投与することが理想的である。しかしながら、大型且つ精密な装置であるサイクロトロンは導入コスト及び維持コストが膨大にかかるため、特定の病院にそれを設置することは事実上不可能である。
【0005】
サイクロトロンを用いずに放射性同位体を生成する装置も提案されている。例えば、特許文献1においては、以下の順序で放射性同位体を生成する装置が開示されている。
【0006】
まず、所定強度のレーザ光を重陽子放出ターゲットに照射することによって重陽子(D)を生成する。次いで、3He及び放射性同位体を生成するための原料物質を含む同位体生成ターゲットに当該重陽子を照射する。これにより、重陽子と3Heが核融合反応し、4Heと陽子(p)が生成される。さらに、生成された陽子と当該原料物質が核融合反応することによって所望の放射性同位体が生成される。
【0007】
特許文献1に記載の装置においては、サイクロトロンを利用する場合と比較して安価に放射性同位体を提供することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の装置においては、重陽子を生成するほどの高エネルギーを備えるレーザ光が重陽子放出ターゲットに照射されている。この場合、当該重陽子放出ターゲットから、重陽子のみならず、中性子が多量に放出されるおそれがある。中性子は電荷をもたないため、放出された中性子の挙動を電場によって制御することはできない。そのため、特許文献1に記載の装置においては、中性子の拡散を防止するために、その周りを水又はコンクリートで囲むなどの処置が必要となる。それ故、特許文献1に記載の装置においては、中性子の拡散を防止するための機構を別途設けざるをえず、全体として大型の装置にならざるをえない。
【0010】
上述した課題に鑑み、本発明の一態様は、サイクロトロン等を利用する場合と比較して安価な導入コスト及び維持コストで、且つ、多量の中性子を生成することなく陽子を供給すること、及び、当該陽子を用いて放射性同位体を供給することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、重水素を含む陽子生成用ターゲットに対して、比較的低エネルギーの3Heイオンを照射することで、4He及び放射性同位体の生成に利用される陽子を生成することを要旨とする。
【0012】
例えば、本発明の一態様は、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体と、プラズマの発生に伴って生成される3Heイオンを直流電場によって加速させ、筐体内に照射するヘリウムイオン源と、筐体内に配置され、且つ、3Heイオンが照射されることで、4He及び陽子を生成する陽子生成用ターゲットと、を含む陽子生成装置である。
【0013】
また、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体と、筐体内に、プラズマの発生に伴って生成される3Heイオンを直流電場によって加速させ、筐体内に照射するヘリウムイオン源と、筐体内に配置され、且つ、3Heイオンが照射されることで、4He及び陽子を生成する陽子生成用ターゲットと、筐体外であって、筐体を介して陽子生成用ターゲットと対向する位置に配置され、且つ、放射性同位体の原料物質を含む放射性同位体生成用ターゲットと、を含む、放射性同位体生成装置も本発明の一態様である。
【0014】
また、重水素を含む陽子生成用ターゲットを、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体内に配置し、プラズマの発生に伴って生成される3Heイオンを直流電場によって加速し、陽子生成用ターゲットに対して、加速された3Heイオンを照射して、4He及び陽子を生成する、陽子の生成方法も本発明の一態様である。
【0015】
また、陽子生成用ターゲットを、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体内に配置し、陽子生成用ターゲットに重陽子を注入し、プラズマの発生に伴って生成される3Heイオンを直流電場によって加速し、陽子生成用ターゲットに対して、加速された3Heイオンを照射して、4He及び陽子を生成する、陽子の生成方法も本発明の一態様である。
【0016】
また、上記の方法によって生成された陽子を、筐体外であって、筐体を介して陽子生成用ターゲットと対向する位置に配置され、且つ、原料物質を含む放射性同位体生成用ターゲットに放射することによって放射性同位体を生成する、放射性同位体の生成方法も本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様においては、重水素と核融合反応するのに必要十分なエネルギーを備える3Heイオンを、重水素を含む陽子生成用ターゲットに照射する。この場合、サイクロトロンのような大型且つ精密な装置は不要であり、また、陽子の生成に伴って多量の中性子が生成されることもない。その結果、本発明の一態様においては、放射性同位体の生成に利用される陽子を簡便に供給することが可能であり、また、当該陽子を利用して簡便に放射性同位体を供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一態様の陽子生成装置の概念的構成を示す概念図。
【
図2】本発明の一態様の陽子生成装置の別の概念的構成を示す概念図。
【
図3】本発明の一態様の放射性同位体生成装置の概念的構成を示す概念図。
【
図4】
図1に示される陽子生成装置の具体的構成の一例を示す図。
【
図6】
図2に示される陽子生成装置の具体例構成の一例を示す図。
【
図7】
図1に示される陽子生成装置の別の具体例構成の一例を示す図。
【
図8】
図3に示される放射性同位体生成装置の具体例構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通した構成要件には同一の参照符号が付されている。また、或る図面に表現された構成要素が、説明の便宜上、別の図面においては省略されていることがある点に留意されたい。さらにまた、添付した図面が必ずしも正確な縮尺で記載されている訳ではないということに注意されたい。
【0020】
1 陽子生成装置の概念的構成
図1は、本発明の一態様の陽子生成装置の概念的構成を示す概念図である。
図1に示される陽子生成装置100は、
3Heイオン(
3He
+)を照射するヘリウムイオン源1と、当該
3Heイオンが照射されることで、
4He及び陽子(p)を生成する陽子生成用ターゲット2とを含む。なお、
図1に示される陽子生成用ターゲット2においては、重陽子と
3Heが核融合反応し、
4Heと陽子が生成される。この場合、陽子の生成に伴って、中性子が生成されることはない。
【0021】
なお、陽子生成用ターゲット2に対する3Heイオンの照射は、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体3内で行われる。例えば、3Heイオンが照射される空間の内圧を10-1pa~10-5paとすることが好ましい。これにより、3Heイオンが当該空間に存在する気体元素と相互作用する蓋然性を低減し、効率的に3Heイオンを陽子生成用ターゲット2に照射することが可能となる。
【0022】
また、ヘリウムイオン源1は、プラズマの発生に伴って3Heイオンを生成するとともに、生成された3Heイオンを直流電場によって加速させる。そして、ヘリウムイオン源1は、陽子生成用ターゲット2に3Heイオンが照射されるように、加速された3Heイオンを筐体3内に照射する。なお、陽子生成用ターゲット2に照射される3Heイオンの運動エネルギーは、100keV~300keVであることが好ましい。具体的には、上記の核融合反応の発生効率を向上させるためには、照射される3Heイオンの運動エネルギーが100keV以上であることが好ましい。他方、照射される3Heイオンのエネルギーが高くなりすぎると、大型且つ高価なヘリウムイオン源を用意する必要があるため、照射される3Heイオンの運動エネルギーを300keV以下とすることが好ましい。
【0023】
図1に示される陽子生成装置100においては、以下の順序で陽子を生成することが可能である。まず、重水素を含む陽子生成用ターゲット2を、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体3内に配置する。次いで、プラズマの発生に伴って生成される
3Heイオンを直流電場によって加速する。最後に、当該陽子生成用ターゲット2に対して、加速された
3Heイオンを照射して、
4He及び陽子を生成する。なお、生成された陽子は、14.67MeVのエネルギーを備え、また、陽子生成用ターゲット2から放射状に放出される。
【0024】
この場合、上述の通り、陽子の生成に伴って多量の中性子が生成されることはない。また、サイクロトロンのような大型且つ精密な装置は不要である。よって、
図1に示される陽子生成装置においては、放射性同位体の生成に利用される陽子を簡便に供給することが可能である。
【0025】
図1に示されるヘリウムイオン源1としては、プラズマの発生に伴って
3Heイオンを生成すること及び生成された
3Heイオンを加速して照射することが可能な機器であればいかなる機器を用いても良い。例えば、マルチカスプイオン源、デュオプラズマトロンイオン源又は電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR)イオン源等をヘリウムイオン源1として適用することが可能である。
【0026】
図1に示される陽子生成用ターゲット2としては、
3Heイオンが照射されることによって
4He及び陽子を生成することが可能なターゲットであれば、いかなるターゲットを用いても良い。例えば、固体重水素、重水素ポリエチレン又は重水素が注入された金属ターゲット等を陽子生成用ターゲット2として適用してもよい。なお、陽子生成装置100の具体的構成については後述する。
【0027】
2 陽子生成装置の別の概念的構成
図2は、本発明の一態様の陽子生成装置の別の概念的構成を示す概念図である。端的には、
図2に示される陽子生成装置100’は、
図1に示される陽子生成装置100の構成要素に加えて、陽子生成用ターゲット2’に重陽子を照射する重陽子源4を含む。
【0028】
陽子生成用ターゲット2’としては、Ti合金等の水素吸蔵合金を適用することが可能である。また、
図2に示される重陽子源4としては、プラズマの発生に伴って重陽子を生成すること及び生成された重陽子を加速して照射することが可能な機器であればいかなる機器を用いても良い。また、重陽子源4から照射される重陽子(D)の運動エネルギーは、1keV~5keVであることが好ましい。仮に、重陽子の運動エネルギーが5keVを超えると、重陽子同士の核反応(D+D→n+
3He)の反応率が無視できなくなりはじめ、中性子(Neutron:n)が生成される蓋然性が高くなるからである。また、重陽子源4としては、例えば、デュオプラズマトロンイオン源等を適用してもよい。
【0029】
図2に示される陽子生成装置100’においては、
図1に示される陽子生成装置100と同様に、放射性同位体の生成に利用される陽子を簡便に供給することが可能である。具体的には、
図2に示される陽子生成装置100’においては、以下の順序で、14.67MeVのエネルギーを備える陽子を生成することが可能である。
【0030】
まず、陽子生成用ターゲット2’を、密閉された内部を負圧環境に維持する筐体3内に置く。次いで、陽子生成用ターゲット2’に重陽子(D)を注入する。次いで、プラズマの発生に伴って生成される3Heイオンを直流電場によって加速する。最後に、陽子生成用ターゲット2’に対して、加速された3Heイオンを照射して、4He及び陽子を生成する。
【0031】
図2に示される陽子生成装置100’は、
図1に示される陽子生成装置100と比較して、メンテナンスの負担が軽減できる点で好ましい。具体的には、
図2に示される陽子生成装置100’においては、陽子生成用ターゲット2’に重水素を適宜注入することができるため、陽子生成用ターゲット2’を取り換えることなく継続して使用することが可能である。また、
図2に示される陽子生成装置100’においては、固体重水素及び重水素ポリエチレン等の物質に対して
3Heイオンが照射されないため、陽子の生成に伴う陽子生成用ターゲット2’の加熱を抑制することが可能である。他方、
図1に示される陽子生成装置100は、重陽子源4を備えないため、
図2に示される陽子生成装置100’と比較して安価である点で好ましい。
【0032】
3 放射性同位体生成装置の概念的構成
図3は、本発明の一態様の放射性同位体生成装置の概念的構成を示す概念図である。端的には、
図3に示される放射性同位体生成装置200は、
図1に示される陽子生成装置100の構成要素に加えて、放射性同位体の原料物質(M)を含む放射性同位体生成用ターゲット5を含む。なお、放射性同位体生成用ターゲット5は、筐体3外であって、筐体3を介して陽子生成用ターゲット2と対向する位置に配置される。すなわち、放射性同位体生成用ターゲット5は、陽子生成用ターゲット2の
3Heイオンが照射される面の裏面側に位置し、また、
3Heイオンが照射される負圧環境とは異なる環境に置かれる。例えば、放射性同位体生成用ターゲット5は、大気圧環境に置かれてもよい。
【0033】
なお、本発明の一態様の放射性同位体生成装置においては、放射性同位体の生成に伴って中性子(n)も生成されるが、陽子を生成する段階における中性子の発生が防止されているため、その生成量を最小限に抑えることが可能である。
【0034】
当該原料物質としては、陽子と核融合反応し、放射性同位体(RI)を生成するターゲットであれば、いかなる物質を用いても良い。例えば、18O又は64Ni等を含む物質を原料物質として適用してもよい。なお、18O又は64Niを含む物質を原料物質として用いる場合には、18F又は64Cuが放射性同位体として得られる。
【0035】
図3に示される放射性同位体生成装置200においては、上述の方法によって放出された陽子が放射性同位体生成用ターゲット5に供給されることによって放射性同位体を生成する。これにより、
図3に示される放射性同位体生成装置200においては、放射性同位体を簡便に供給することが可能である。
【0036】
なお、図示してはいないが、本発明の一態様の放射性同位体生成装置として、
図2に示される陽子生成装置100’の構成要素と、放射性同位体生成用ターゲット5とを含む放射性同位体生成装置を適用することも可能である。この場合も、
図3に示される放射性同位体生成装置と同様に、放射性同位体を簡便に供給することが可能である。
【0037】
4 陽子生成装置の具体的構成
図4は、本発明の一態様の陽子生成装置の具体的構成の一例を示す図であり、また、
図5は、
図4の一部拡大図である。端的には、
図4に示される陽子生成装置300は、
図1に示される陽子生成装置100の具体的構成を示す図である。
図4に示される陽子生成装置300は、ヘリウムイオン源1と、陽子生成用ターゲット2と、筐体3とを含む。さらに、筐体3は、枠部31と、陽子生成用ターゲット2を支持する支持部32と、枠部31及び支持部32を分離可能に接続する接続部33とを含む。なお、接続部33は、ボルト、ナット及びネジなどの機械的接続部材によって枠部31及び/又は支持部32に接続されてもよい。また、接続部33は、枠部31との接続界面331に配置されるOリングを含んでいてもよい。そして、筐体3の内部は、開口312を介して筐体3の外側に配置されている真空ポンプ6に連通されている。
【0038】
なお、ヘリウムイオン源1は、枠部31に設けられる開口311及び312を通過する(すなわち、
図4の紙面上の右方向に向かって)
3Heイオンを照射するイオン源である。また、ヘリウムイオン源1は、開口311の周囲に存在する枠部31の側壁と連結されている。また、ヘリウムイオン源1は、有線通信又は無線通信を介して、図示しないコントローラによって動作が制御されてもよい。また、ヘリウムイオン源1は、タッチパネル等の入力装置を内蔵し、当該入力装置に入力される信号に基づいて動作が制御されてもよい。
【0039】
また、筐体3の枠部31は、内部に空洞を備える概略直方体形状の構造物である。そして、枠部31の内部が陽子生成用ターゲット2に3Heイオンを照射するための空間として利用される。そのため、枠部31は、ヘリウムイオン源1から照射される3Heイオンを内部に導入するための開口311と、ヘリウムイオン源1から照射される3Heイオンを陽子生成用ターゲット2に供給するための開口312と、真空ポンプ6によって筐体3の内部を排気する際に排気経路となる開口313とを含む。なお、枠部31の開口311及び312の大きさ及び形状は、ヘリウムイオン源1から陽子生成用ターゲット2へ3Heイオンを照射することが可能な大きさ及び形状であれば、どのような大きさ及び形状であってもよい。例えば、開口311の幅w1を開口312の幅w2よりも狭くし、且つ、開口312の幅w2を陽子生成用ターゲット2の幅w3よりも狭くしてもよい。
【0040】
また、接続部33側の枠部31は、上端から下に延在する上方側壁331aと、下端から上に延在する下方側壁331bとを含む。これにより、3Heイオンの供給経路を確保するとともに、陽子生成用ターゲット2から放射状に放出される陽子がヘリウムイオン源1及び真空ポンプ6に到達する蓋然性を低減することが可能である。
【0041】
また、筐体3の支持部32は、陽子生成用ターゲット2が配置される凹部321を含む構造物である。なお、陽子生成用ターゲット2から放出される14.67MeVの陽子は、一般に、陽子生成用ターゲット2を構成する材料(例えば、Ti)及び/又は筐体3を構成する材料(例えば、Al)を0.1mm程度の厚さ透過するとき、その運動エネルギーが1MeV程度失われる。また、陽子の運動エネルギーの減少に伴い、当該陽子が陽子生成用ターゲット2及び/又は筐体3を同じ厚さだけ通過するときに損失する運動エネルギーが増加する。すなわち、仮に筐体3の凹部321の底322の厚さが1.5mm以上であれば、生成された時点で14.67MeVの運動エネルギーを備える陽子を筐体3の外部に取り出すことが困難になる。そのため、
図5に示される陽子生成用ターゲット2の厚さt1及び支持部32の凹部321の底322の厚さt2の合計を0.2mm以下とすることが好ましい。また、凹部321の周囲の支持部32の厚さt3を1.5mm以上とすることが好ましい。これにより、陽子生成用ターゲット2から放出される陽子を凹部321の底322から筐体3の外側に供給するとともに、厚さt3と同程度の厚さを備える支持部32の領域において、陽子が当該負圧環境外に放出されることを防止することが可能である。
【0042】
そして、支持部32は、当該凹部321に陽子生成用ターゲット2が戴置された状態で、接続部33を介して、枠部31に接続される。例えば、支持部32は、図示しない係止突起を凹部321に備え、当該係止突起によって陽子生成用ターゲット2を係止することで陽子生成用ターゲット2を凹部321に戴置してもよい。
【0043】
また、支持部32は、陽子生成用ターゲット2を冷却するための冷却構造を備えてもよい。例えば、冷却水が循環可能なパイプを支持部32の表面又は内部に設ければよい。これにより、3Heイオンが照射されることにより加熱された陽子生成用ターゲット2を冷却することが可能である。
【0044】
また、支持部32は、接続部33を分離状態(例えば、接続部がボルト、ナット及びネジなどの機械的接続部材によって枠部31及び/又は支持部32に接続されている場合には、当該機械的接続部材を取り外した状態)にすることによって本体部31から分離可能である。そのため、
図4に示される陽子生成装置300においては、陽子生成用ターゲット2のみ、又は、陽子生成用ターゲット2及び支持部32を適宜取り替えることが可能である。これにより、必要となる陽子の量に応じて陽子生成用ターゲット2の種類を変更すること、及び、長期にわたる
3Heイオンの照射によって劣化した陽子生成用ターゲット2を交換すること等が可能である
【0045】
また、真空ポンプ6は、枠部31に設けられる開口313の近傍で枠部31と連結し、開口313を介して筐体3の内部空間に存在する気体を排気可能なポンプである。また、真空ポンプ6は、有線通信又は無線通信を介して、図示しないコントローラによって動作が制御されてもよい。また、真空ポンプ6は、タッチパネル等の入力装置を内蔵し、当該入力装置に入力される信号に基づいて動作が制御されてもよい。
【0046】
真空ポンプ6としては、3Heイオンが照射される空間を負圧環境(例えば、10-1pa~10-5pa)にすることが可能な機器であればいかなる機器を用いても良い。例えば、ターボ分子ポンプ等を真空ポンプ6として適用することが可能である。
【0047】
枠部31の材料としては、当該負圧環境を維持できる材料であれば、いかなる材料を用いてもよい。もっとも、
図4に示される陽子生成装置300においては、陽子生成用ターゲット2から陽子が放射状に放出されることになるため、枠部31にも陽子が照射される可能性がある。そのため、放射化されにくい材料を枠部31の材料として適用することが好ましい。例えば、枠部31の材料として、Al又はAl合金を適用することが好ましい。
【0048】
支持部32の材料としては、枠部31の材料と同様に、放射化されにくい材料を適用することが好ましく、例えば、Al又はAl合金を適用することが好ましい。さらに、陽子生成用ターゲット2の放熱を効率的に行うため、支持部32の材料としては、熱伝導率が高い材料を適用することが好ましい。例えば、支持部32の材料としては、本体部31の材料と比較して熱伝導率が高い材料を適用することも好ましい。
【0049】
接続部33は、絶縁体を含んで構成されることが好ましい。これにより、本体部31と支持部32を電気的及び熱的に分離することが可能である。
【0050】
5 陽子生成装置の具体的構成
図6は、本発明の一態様の陽子生成装置の具体的構成の一例を示す図である。端的には、
図6に示される陽子生成装置300’は、
図2に示される陽子生成装置100’の具体的構成の一例を示す図である。すなわち、
図6に示される陽子生成装置300’は、
図4に示される陽子生成装置300の構成要素に加えて、陽子生成用ターゲット2’に重陽子を照射する重陽子源4を含む。ただし、
図6に示される陽子生成装置300’の筐体3’においては、重陽子源4から陽子生成用ターゲット2’への重陽子の照射経路を確保するため、枠部31’の側壁(
図6に示される枠部31’の右側の側壁)に設けられている開口312’が、
図4に示される陽子生成装置300の枠部31に設けられている開口312よりも大きくなっている。
【0051】
なお、重陽子源4は、枠部31に設けられる開口314及び312’を通過する(すなわち、
図6の紙面上の右下方向に向かって)重陽子を照射するイオン源である。また、
図6に示される陽子生成装置300’の構成要素の詳細については、上述の説明を援用する。
【0052】
図7も本発明の一態様の陽子生成装置の具体的構成の一例を示す図である。端的には、
図7に示される陽子生成装置300’’においては、筐体3’’の枠部31’’が、側壁に設けられている開口312を開閉するシャッタ315a及び315bを含む。換言すると、
図7に示される陽子生成装置の枠部31’’は、ヘリウムイオン源1から陽子生成用ターゲット2への
3Heイオンの照射経路を開閉するシャッタ315a及び315bを含む。
図7に示される陽子生成装置300’’においては、シャッタ315a及び315bを閉める(
図7に示されるシャッタ315aを下に移動させ、且つ、シャッタ315bを上に移動させる)ことで、枠部31’’の内部空間と、枠部31’’の外壁の部分332a’及び322b’並びにシャッタ315a及び315b、支持部32及び接続部33によって囲まれる空間とが分離されることになる。これにより、
図7に示される陽子生成装置300’’においては、ヘリウムイオン源1から陽子生成用ターゲット2への
3Heイオンの照射後にシャッタ315a及び315bを閉めることで、陽子生成用ターゲット2から放射状に放出される陽子がヘリウムイオン源1及び真空ポンプ6に到達する蓋然性をさらに低減することが可能である。
【0053】
また、シャッタ315a及び315bは、有線通信又は無線通信を介して、図示しないコントローラによって動作が制御されてもよい。また、シャッタ315a及び315bは、枠部3’’に内蔵されたタッチパネル等の入力装置に入力される信号に基づいて動作が制御されてもよい。
【0054】
図示してはいないが、
図6に示される陽子生成装置300’の枠部31’に開口312を開閉するシャッタが追加された陽子生成装置も本発明の一態様である。なお、当該シャッタとして、ヘリウムイオン源1から陽子生成用ターゲット2への
3Heイオンの供給経路と、重陽子源4から陽子生成用ターゲット2への重陽子の供給経路との双方を閉じる共通のシャッタを設けてもよいし、また、双方を閉じるシャッタを別個に設けてもよい(すなわち、前者の供給経路を開閉する第1のシャッタと、後者の供給経路を開閉する第2のシャッタとを別個に設けてもよい)。
【0055】
6 放射性同位体生成装置の具体的構成
図8は、
図3に示される放射性同位体生成装置の具体的構成の一例を示す図である。端的には、
図8に示される放射性同位体生成装置は、
図6に示される陽子生成装置に加えて、放射性同位体生成用ターゲット5を含む。なお、放射性同位体生成用ターゲット5は、筐体3外であって、筐体3を介して陽子生成用ターゲット2と対向する位置に配置される。すなわち、放射性同位体生成用ターゲット5は、陽子生成用ターゲット2の
3Heイオンが照射される面の裏面側に位置し、また、
3Heイオンが照射される負圧環境とは異なる環境に置かれる。例えば、放射性同位体生成用ターゲット5は、大気圧環境に置かれてもよい。
【0056】
図示してはいないが、
図6又は7に示される陽子生成装置に加えて、放射性同位体生成用ターゲット5を含む放射性同位体生成装置も本発明の一態様である。
【0057】
以上、前述の通り、様々な実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の技術的範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数等は適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0058】
1:ヘリウムイオン源、2,2’:陽子生成用ターゲット、3,3’,3’’:筐体、4:重陽子源、5:放射性同位体生成用ターゲット、6:真空ポンプ、31,31’,31’’:枠部、32:支持部、33:接続部、100,100’:陽子生成装置、200:放射性同位体生成装置、300,300’,300’’:陽子生成装置、311~314,312’:開口、315a,315b:シャッタ、321:凹部、322:底、331a:上方側壁、331b:下方側壁、400:放射性同位体生成装置