(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】抗TNFα抗体の液状製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220725BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220725BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220725BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220725BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220725BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220725BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220725BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/26
A61K9/08
A61P1/04
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2019551275
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(86)【国際出願番号】 KR2018003097
(87)【国際公開番号】W WO2018169348
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2019-11-18
(31)【優先権主張番号】10-2017-0033188
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソラ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・キョン・コ
(72)【発明者】
【氏名】ジン・オン・ソ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/151115(WO,A1)
【文献】特表2016-505633(JP,A)
【文献】特表2015-527402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0106090(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0114036(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0274819(US,A1)
【文献】特表2016-515515(JP,A)
【文献】薬剤学 (2014) vol.74, no.1, p.12-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 47/18
A61K 47/10
A61K 47/26
A61K 9/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~250mg/mLの濃度の抗TNFα抗体、安定化剤、非イオン性界面活性剤、メチオニンである抗酸化剤及びアルギニンを含む、抗TNFα抗体の液状製剤であって、
安定化剤は、
(i)スクロース又はトレハロースであるポリオール、
(ii)数平均分子量が200~600のPEG又は数平均分子量が1000~8000のPEGであるポリオール、
(iii)グリシン又はロイシンである、アルギニン以外のアミノ酸、及び
(iv)前記(i)~(iii)の少なくとも2つの組み合わせ
からなる群から選択され、
非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート80、ポリソルベート20又はポロキサマー188であり、
緩衝液を含まない、液状製剤。
【請求項2】
前記製剤において、ポリオールは、0.1~100mg/mLの濃度で存在する、請求
項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項3】
前記製剤において、アルギニン以外のアミノ酸は、1~300mMの濃度で存在する、請求
項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項4】
前記製剤において、非イオン性界面活性剤は、0.1~5mg/mLの濃度で存在する、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項5】
前記アルギニンは、塩の形態である、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項6】
前記アルギニンは、アルギニン塩酸塩(arginine hydrochloride)の形態である、請求
項5に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項7】
前記製剤において、アルギニンは、0.1~200mMの濃度で存在する、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項8】
前記抗TNFα抗体は、アダリムマブ(adalimumab)である、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項9】
前記製剤において、抗TNFα抗体は、50~200mg/mLの濃度で存在する、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項10】
前記製剤において、メチオニンは、1~50mMの濃度で存在する、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項11】
前記液状製剤のpHは、4~6である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項12】
前記液状製剤は、
1~250mg/mLの濃度の抗TNFα抗体と、
0.1~100mg/mLの濃度のポリオールと、
0.1~5mg/mLの濃度の非イオン性界面活性剤と、
0.1~200mMの濃度のアルギニンとを含む、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項13】
前記液状製剤は、
1~250mg/mLの濃度の抗TNFα抗体と、
1~300mMの濃度のアルギニン以外
のアミノ酸と、
0.1~5mg/mLの濃度の非イオン性界面活性剤と、
0.1~200mMの濃度のアルギニンとを含む、請求項1に記載の抗TNFα抗体の液状製剤。
【請求項14】
1~250mg/mLの濃度の抗TNFα抗体、安定化剤、非イオン性界面活性剤、メチオニンである抗酸化剤及びアルギニンを混合するステップを含む、請求項1に記載の液状製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗TNFα抗体、具体的にはアダリムマブの液状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子α(TNF alpha, TNFα)は、エンドトキシンなどの刺激を受けて単核白血球やマクロファージなどの各種細胞により産生されるサイトカインである。TNFαは、TNF受容体を活性化することによりT細胞活性化、胸腺細胞増殖などの反応を誘導する役割を果たす主要炎症性、免疫性、病理生理学的反応の主要媒体である(非特許文献1)。
【0003】
アダリムマブは、体内で腫瘍壊死因子αに選択的に結合することにより腫瘍壊死因子αによる免疫反応を阻害する組換えヒト免疫グロブリンG1モノクローナル抗体である。アダリムマブは、1993年頃にBASP Bioresearch Corporationにより開発され、アボットラボラトリーズ社(Abbott Laboratories)製の関節リウマチ治療剤が販売承認された。アダリムマブは、ヒュミラという商品名で販売されており、ヒュミラは、関節リウマチ治療剤として販売許可され、クローン病、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎などの治療に用いられている。
【0004】
アダリムマブは、医薬品として開発された最初の完全ヒト抗体であり、ファージディスプレイ法を適用して開発され、CDRに突然変異を起こすことにより親和力が増強されている。アダリムマブは、D2E7とも呼ばれ、1330個のアミノ酸からなる約148kDの分子量を有する(特許文献1)。アダリムマブは、TNFと結合してp55、p75細胞表面のTNF受容体とTNFが互いに反応しないようにすることにより、TNFが誘導する反応を阻害するTNFα阻害剤である。
【0005】
一方、抗体医薬品は、タンパク質医薬品の一種であり、様々な要因により物理的、化学的変性が起こり得る。タンパク質の変性としては、酸化、脱アミド化、異性化などの化学的変性や、断片が生じたり、凝集するなどの構造的変性が挙げられ、タンパク質が変性すると、タンパク質自体の薬理活性を失い、体内で副作用として不要な免疫反応を誘導することがある。抗体が断片化(Fragmentation)されると、binding affinityや体内滞留時間が変化し、薬理活性に影響を及ぼすことがある。また、断片化された抗体が抗体の凝集を誘導するという研究結果がある。さらに、凝集により薬理活性が低下することもある。市販のインターフェロンβ製品を比較すると、凝集物(aggregate)及び粒子(particle)の含有量が多い製品は、体内で中和抗体が産生される比率も高いという研究結果がある(非特許文献2)。体内で中和抗体が産生されると、タンパク質医薬品を注射しても、そのタンパク質医薬品に中和抗体が結合し、タンパク質医薬品の安全性、薬理効果、薬物動態に影響を及ぼす。また、Epoetin Alfaの変性及び凝集が医薬品Epoetin Alfaの免疫原性増強の原因として開示されている。よって、タンパク質医薬品においては、保存期間中にその生理活性を失わないように、またタンパク質が断片化されたり、凝集、粒子化しないように、適切な剤形に製造することが非常に重要である。よって、様々なタンパク質医薬品の剤形に関する研究が盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Grell, M., et al. (1995) Cell, 83: 793-802
【文献】Barnard et al., 2013, J. Pharm. Sci. 102:915
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タンパク質剤形の研究は、各製品の特性を考慮して様々な添加剤を適切に混合することにより最適な組み合わせを模索し、患者に投与されるまで安定して保管できるようにすることを目的とする。添加剤を投入する主な目的は、タンパク質の安定化と混合物質の物理的な特性を調整することにある。添加剤は、その目的と特性に応じて、界面活性剤、安定化剤、保存剤、緩衝剤、等張化剤などに分けられる。抗体医薬品においては、有効な治療効果を得るために、他のタンパク質医薬品より多量のタンパク質を投与する必要がある。また、投与ルートが皮下注射の場合、一回に多くの量を投与しようとすると患者の痛みや生産面での不都合があるので、高濃度剤形の開発が重要である。タンパク質の濃度が高くなると、intermolecular interactionが増加するので、凝集体増加、粘度増加、溶液のgel化及び沈殿などの問題が生じる。そのうち、粘度が過度に増加すると、生産が容易でないだけでなく、注射圧の増加により患者への投与が困難になる。よって、高濃度の抗体溶液の粘度を予測して低くする様々な方法が研究されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、抗TNFα抗体の液状製剤を提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明は、前記液状製剤の製造方法を提供することを課題とする。
【0011】
さらに、本発明は、安定化剤、界面活性剤及びアルギニンを含む組成物を用いて、抗TNFα抗体の安定化を増加させる方法を提供することを課題とする。
【0012】
さらに、本発明は、緩衝剤を含まず、安定化剤、界面活性剤及びアルギニンを含む組成物を用いて、抗TNFα抗体の安定化を増加させる方法を提供することを課題とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による抗TNFa抗体、具体的にはアダリムマブの液状製剤は、保存期間中にアダリムマブの副産物生成を減少させるので、長期保管を可能にする。また、生産工程と運送時の物理的なストレスにより変性及び凝集が生じることを防止するので、アダリムマブの薬理効能を長期間安定して保存することができる。よって、本発明による液状製剤は、今後アダリムマブの薬理効能に関する治療分野に効果的に応用できるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の各試料の添加剤組成における粘度を示す図である。
【
図2】実施例7の試料及びplaceboのポンプ通過前後の粒子数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれの他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0017】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、このような等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0018】
前記課題を解決するための本発明の一態様は、抗TNFα抗体の液状製剤である。
【0019】
本発明における「抗TNFα抗体」とは、TNFαに結合してその生物学的活性を調節する抗体を意味する。より具体的には、前記抗体は、TNFαに結合してTNFαとその受容体の結合を抑制することにより、TNFαによるシグナル伝達を抑制する機能を有する。また、このような抗TNFα抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。
【0020】
前記抗TNFα抗体は、全長抗体又はその抗原結合部位を含む抗体フラグメントの形態であってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0021】
より具体的には、前記抗TNFα抗体は、組換えヒト免疫グロブリンG1モノクローナル抗体であってもよく、さらに具体的には、アダリムマブであってもよい。前記アダリムマブに関する情報は、公知のデータベースから当業者が容易に入手することができる。
【0022】
前記抗体は、哺乳細胞発現系を用いた組換えDNA技術により作製することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0023】
前記抗体は、本発明による液状製剤に治療学的有効量で含まれてもよい。例えば、1~250mg/mLの濃度、具体的には20~200mg/mLの濃度、より具体的には50mg/mL~200mg/mLの濃度、さらに具体的には50mg/mL、100mg/mL又は130mg/mLの濃度で存在してもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の液状製剤は、抗TNFα抗体以外にも、安定化剤、界面活性剤及びアルギニンを含んでもよい。前記液状製剤は、抗TNFα抗体を安定して保存できる溶液剤形であってもよい。
【0025】
具体的には、抗TNFα抗体の安定性を測定するために、当該分野において公知のタンパク質安定性分析法が用いられてもよい。安定性は、特定の時間に特定の温度で測定してもよい。迅速な試験のために、剤形は、より高い温度又は「加速化した」温度、例えば40℃で2週間~1カ月以上保管することができ、その時点で時間依存安定性を測定する。
【0026】
本発明における「抗TNFα抗体に安定化を付与する」とは、所定時間において、特定貯蔵条件、具体的には特定温度下で活性成分の損失が特定量未満、例えば10%未満であることを意味する。通常、5±3℃で2年間、25±2℃で6カ月間、又は40±2℃で1カ月~2カ月間、抗TNFα抗体が90%以上、具体的には約92%以上の残存率を維持すれば、その製剤は安定したものとみなされる。
【0027】
本発明の液状製剤に含まれる安定化剤は、ポリオール、アミノ酸又はそれらの組み合わせであってもよい。ここで、前記アミノ酸は、アルギニン以外の他のアミノ酸であってもよい。
【0028】
具体的には、前記安定化剤は、1)1種類のポリオール、2)1種類のポリオール及び1種類のアミノ酸の組み合わせ、3)1種類のポリオール、第1アミノ酸及び第2アミノ酸の組み合わせ、4)第1ポリオール及び第2ポリオールの組み合わせ、5)第1ポリオール、第2ポリオール及び1種類のアミノ酸の組み合わせ、6)第1ポリオール、第2ポリオール、第1アミノ酸及び第2アミノ酸の組み合わせ、又は7)1種類のアミノ酸であってもよい。
【0029】
より具体的には、前記ポリオールは、マンニトール、スクロース、トレハロース、PEG又はそれらの組み合わせであってもよく、さらに具体的には、スクロース、トレハロース、PEG又はそれらの組み合わせであってもよい。前記PEGは、具体的にはPEG400又はPEG4000であってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。前記製剤において、ポリオールは、0.1~100mg/mLの濃度で存在してもよい。
【0030】
より具体的には、前記アルギニン以外の他のアミノ酸は、グリシン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン又はプロリンであってもよい。前記製剤において、アミノ酸は、1~300mMの濃度で存在してもよい。
【0031】
また、本発明における「アミノ酸」とは、実質的に同じ効能を示す該当アミノ酸のアナログ、溶媒和物、水和物、立体異性体及びそれらの薬学的に許容される塩の形態が全て含まれるものである。
【0032】
本発明における「薬学的に許容される塩」とは、薬学的に許容される無機酸、有機酸又は塩基から誘導された塩が含まれるものである。好適な酸の例としては、塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。好適な塩基から誘導された塩には、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどが含まれる。
【0033】
また、本発明における「溶媒和物」とは、アミノ酸又はその塩が溶媒分子と複合体を形成したものを意味する。
【0034】
より具体的には、前記安定化剤は、(i)スクロース又はトレハロース、(ii)数平均分子量が200~600のPEG、又は数平均分子量が1000~8000のPEG、(iii)グリシン又はロイシン、及び(iv)前記(i)~(iii)の少なくとも2つの組み合わせからなる群から選択されてもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0035】
さらに具体的には、前記安定化剤は、1)スクロース、トレハロース及びPEG400のいずれか、2)スクロース又はトレハロースと、グリシン又はロイシンの組み合わせ、3)スクロース又はトレハロースと、グリシン及びロイシンの組み合わせ、4)スクロース又はトレハロースと、PEG4000の組み合わせ、5)スクロース又はトレハロース、PEG4000、及びグリシンの組み合わせ、6)スクロース又はトレハロース、PEG4000、及びロイシンの組み合わせ、7)スクロース又はトレハロース、PEG4000、グリシン、及びロイシンの組み合わせ、並びに8)グリシンからなる群から選択される1つであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の液状製剤に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であってもよい。より具体的には、前記界面活性剤は、ポリソルベート又はポロキサマーであってもよい。
【0037】
具体的には、前記界面活性剤は、ポリソルベート80、ポリソルベート20又はポロキサマー188であってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0038】
前記製剤において、界面活性剤は、0.1~5mg/mLの濃度で存在してもよい。
【0039】
本発明の液状製剤に含まれるアルギニンは、塩の形態で存在してもよい。より具体的には、薬学的に許容される塩の形態であってもよい。
【0040】
さらに具体的には、前記アルギニンは、アルギニン塩酸塩(Arginine hydrochloride)の形態であってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0041】
前記製剤において、アルギニンは、0.1~200mMの濃度で存在してもよい。より具体的には、アルギニンは、前記抗体が100mg/mLで製剤に存在する場合は0.1~140mMの濃度で存在してもよく、抗体が50mg/mLで製剤に存在する場合は0.1~100mMの濃度で存在してもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0042】
前記アルギニンは、粘度低下剤として本発明の液状製剤に含まれてもよい。
【0043】
アルギニンを含むことにより、本発明の液状製剤は、約1~6cpsの粘度となるが、特にこれに限定されるものではない。粘度の測定は、当業界で公知の様々な方法で行うことができ、例えば本発明の実施例1の方法により行うことができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0044】
本発明の液状製剤は、抗酸化剤をさらに含んでもよい。
【0045】
本発明における「抗酸化剤」とは、溶液状態でタンパク質の酸化反応などにより起こり得る不純物生成を抑制する役割を果たすものである。
【0046】
このような抗酸化剤としては、硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、クエン酸、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、チオグリセリン、プロピルガレート、メチオニン、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、EDTA及びその他抗酸化剤が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0047】
前記製剤において、抗酸化剤、具体的にはメチオニンは、1~50mMの濃度で存在してもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0048】
また、本発明の前記液状製剤のpHは、4~6であってもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0049】
一方、特にこれらに限定されるものではないが、前記液状製剤は、追加の塩及び/又は緩衝液を含まなくてもよい。
【0050】
例えば、50mg/mL以上の抗TNFα抗体を含む製剤は、追加の塩及び/又は緩衝液を含まなくてもよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0051】
本発明の一実施例において示すように、塩、緩衝液又はそれら両方を含む製剤に比べて、それらを含まない本発明による製剤は、熱に対するより高い安定化を抗TNFα抗体にもたらす。しかし、特にこれに限定されるものではない。
【0052】
一方、高濃度の抗体医薬品、例えば50mg/mL以上の抗体が存在する医薬品の剤形に、追加の緩衝剤、又は溶液の浸透圧が体液と同等の浸透圧の範囲から逸脱するようにする量の追加の添加剤が使用されないと、投与時に痛みが減少するので、患者の利便性が向上する。
【0053】
一方、特にこれらに限定されるものではないが、本発明による液状製剤は、次のような効果を奏する。
【0054】
アルギニンを含む本発明による液状製剤は、アルギニンを含まない製剤に比べて、抗TNFα抗体タンパク質の凝集が抑制されるので、相対的に低い高分子不純物(HMW)の含有量を示し、かつ/又はアルギニンを含まない製剤に比べて、酸性異性抗体の産生が抑制されるので、相対的に低い酸性異性抗体を含む。特に、本発明による液状製剤は、変性による抗体の産生が減少し、かつ/又は特定物理的ストレスに対する凝集やパーティクル生成が減少するという効果を奏する。
【0055】
本発明による溶液剤形は、さらに保存剤を含んでもよい。前記保存剤とは、抗菌剤として作用するように製薬製剤に添加される化合物を意味し、このような保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、o-クレゾール、p-クレゾール、クロロクレゾール、硝酸フェニル水銀(phenylmercuric nitrate)、チメロサール、安息香酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの保存剤は、1種を単独で用いてもよく、少なくとも2種を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明による液状製剤は、薬学的組成物の形態であってもよい。
【0057】
また、前記成分以外に、様々な薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0058】
本発明の剤形は、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、体軸性脊椎関節炎(例えば、強直性脊椎炎、放射線学的に強直性脊椎炎が確認されない重症体軸性脊椎関節炎)、血管炎、アルツハイマー病、潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、化膿性汗腺炎、ぶどう膜炎、小児特発性関節炎、小児尋常性乾癬、クローン病(成人クローン病、小児クローン病を含む)などの予防又は治療に用いられてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明による剤形は、経口投与、又は皮下、筋肉内、腹腔内、胸骨内、経皮及び静脈内注射及び注入を含む非経口投与により体内に投与してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本発明の他の態様は、抗TNFα抗体、安定化剤、界面活性剤及びアルギニンを混合するステップを含む、前記抗TNFα抗体の液状製剤の製造方法である。
【0061】
前記用語については、前述した通りである。また、各用語の具体的な例が本態様にも全て適用されることは言うまでもない。
【0062】
また、本発明のさらに他の態様は、安定化剤、界面活性剤及びアルギニンを含む組成物を用いて、抗TNFα抗体の安定化を増加させる方法である。
【0063】
前記用語については、前述した通りである。また、各用語の具体的な例が本態様にも全て適用されることは言うまでもない。
【0064】
さらに、本発明は、緩衝剤を含まず、安定化剤、界面活性剤及びアルギニンを含む組成物を用いて、抗TNFα抗体の安定化を増加させる方法を提供することを課題とする。
【0065】
前記用語については、前述した通りである。また、各用語の具体的な例が本態様にも全て適用されることは言うまでもない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
添加剤によるアダリムマブ溶液の粘度低下効果及び安定性の確認
アダリムマブ液状製剤の製造に用いる添加剤を確認するために、スクロース55mg/mL、メチオニン5mM、ポリソルベート80 1mg/mL、アダリムマブ100mg/mL、pH5.2の組成を有する剤形1を作製した。
【0068】
また、剤形1の組成に、さらにアルギニン塩酸塩、リシン塩酸塩、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、アラニン、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムをそれぞれ添加して剤形2~13を作製し、Rheosense社のmVROC機器を用いて粘度を測定した。前記剤形に添加した添加剤の種類及び濃度並びに各剤形の粘度を表1及び
図1に示す。
【0069】
【0070】
表1の各剤形の粘度値に示すように、スクロース、メチオニン、ポリソルベート80及びアダリムマブからなる剤形1において、粘度は3.23であった。それと比較して、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、グリシン、プロリンなどのアミノ酸を添加した剤形において、粘度は3.20~3.28であり、それほど変わらなかった。それに対して、アルギニン塩酸塩、リシン塩酸塩、グルタミン酸、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを添加した剤形において、粘度は2.94~3.14に低下することが確認された。
【0071】
各剤形の安定性を比較するために、各剤形を0.2μmのporeサイズを有するフィルターで除菌濾過し、容量約1.0mLのガラス注射器に0.4mLずつ充填して密封し、40℃で2カ月間保管した。保管後に各試料をSE-HPLCで分析し、オリゴマー、凝集体などの高分子不純物(High molecular weight impurities, HMW)と、アダリムマブ分子の断片である低分子不純物(Low molecular weight impurities, LMW)の含有量を測定した。まず、粘度が低下した剤形、すなわち剤形2、剤形3、剤形7、剤形11、剤形12、剤形13、及び対照群である剤形1のSE-HPLC結果を表2に示す。また、粘度がそれほど変わらない剤形、すなわち剤形4、剤形5、剤形6、剤形8、剤形9、剤形10、及び対照群である剤形1のSE-HPLC結果を表3に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
表2の結果から、保管前のHMW、LMW及び不純物総量は同等であるが、40℃で2カ月間保管後の不純物総量において、塩化ナトリウムを含む剤形11は7.10%、塩化カルシウムを含む剤形12は7.38%、塩化マグネシウムを含む剤形13は7.42%であり、対照群である剤形1の不純物総量の6.59%に比べて、大幅に増加することが確認された。それに対して、アルギニン塩酸塩、リシン塩酸塩、グルタミン酸を含む剤形2、剤形3、剤形7は、40℃で2カ月間保管後の不純物総量が6.45~6.61%であり、対照群である剤形1の不純物総量の6.59%と同等のレベルを維持している。
【0075】
表3の結果から、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、グリシン、プロリンなどのアミノ酸を添加した剤形は、40℃で2カ月間保管後の不純物総量が5.94~6.17%であり、対照群である剤形1の不純物含有量の6.59%に比べて、大幅に減少することが確認された。よって、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、グリシン、プロリンなどのアミノ酸がアダリムマブの安定性に寄与することが確認された。
【実施例2】
【0076】
アルギニン塩酸塩の含有量による安定性評価1
アルギニン塩酸塩の含有量によるアダリムマブ剤形の安定性を評価するために、次のように剤形を作製した。
【0077】
スクロース55mg/mL、メチオニン5mM、ポリソルベート80 1mg/mL及びアダリムマブ100mg/mLとなるように剤形14を作製し、剤形14の組成に、アルギニン塩酸塩20mM、アルギニン塩酸塩40mMを添加した組成を有する剤形15、剤形16を作製し、1mLガラスシリンジに0.4mLずつ充填した。各シリンジを40℃で2カ月間保管し、保管後にSE-HPLCで分析して安定性を評価した。各剤形の組成と保管前/後のHMW含有量を表4に示す。
【0078】
【0079】
表4のSE-HPLC結果において、アルギニン塩酸塩の含有量を0mM(剤形14)から20mM(剤形15)、40mM(剤形16)に増量したものは、保管前の試料のHMW含有量が0.16~0.17%であり、全て同等であるが、40℃で2カ月間保管後のHMW含有量は、アルギニン塩酸塩を含まない剤形14が1.00%、アルギニン塩酸塩の含有量が20mM、40mMである剤形15、16が0.82%であり、アルギニン塩酸塩を20mM又は40mM含むと、アルギニン塩酸塩を含まないものよりHMW生成の程度が減少する。よって、アルギニン塩酸塩にアダリムマブの凝集防止効果があることが確認された。
【実施例3】
【0080】
アルギニン含有量によるチャージバリアント(charge variant)産生程度の比較
アルギニン含有量によるチャージバリアント産生の程度を比較するために、アルギニンを含む剤形と含まない剤形を作製し、40℃で1カ月間保管し、保管後にCEX-HPLCでチャージバリアントの産生様相を比較した。各剤形と保管前後のチャージバリアント含有量を表5に示す。
【0081】
【0082】
剤形Aは、スクロース55mg/mL、メチオニン5mM、ポリソルベート80(PS80)1mg/mL及びアダリムマブ100mg/mLを含むように作製し、剤形Bは、剤形Aの組成に、アルギニン塩酸塩(Arginine Hydrochloride)20mMをさらに含むように作製した。40℃で1カ月間の保管前における酸性異性抗体の含有量は同等であり、保管後における酸性異性抗体の含有量を比較すると、アルギニン塩酸塩を含む剤形Bは、剤形Aに比べて、酸性異性抗体の含有量が少なく、K0の含有量が多いことが分かる。
【0083】
よって、アルギニン塩酸塩がアダリムマブの酸性異性抗体産生を低下させることが確認された。
【実施例4】
【0084】
界面活性剤の種類による剤形及び剤形安定性の比較
界面活性剤の種類によるアダリムマブ液状製剤の安定性を比較するために、次の組成を有する剤形を作製した。
【0085】
実施例2の剤形14と同様に、スクロース55mg/mL、メチオニン5mM、ポリソルベート80 1mg/mL及びアダリムマブ100mg/mLとなるようにした剤形17を作製した。また、界面活性剤の含有量を同一に固定し、界面活性剤の種類をポリソルベート20、ポロキサマー188に変えて剤形18、剤形19を作製した。
【0086】
各剤形を除菌濾過して1mLガラスシリンジに0.4mLずつ充填し、40℃で1カ月間保管した。保管前後の試料をSE-HPLCで分析し、HMWとLMWの不純物含有量を測定した。剤形17~19の構成及び40℃で1カ月間の保管前後のSE-HPLC含有量を分析した結果を表6に示す。
【0087】
【0088】
表6の結果において、界面活性剤の種類による40℃で1カ月間の保管前後のHMWとLMWの含有量はそれほど変わらなかった。すなわち、ポリソルベート80を含む剤形、ポリソルベート20を含む剤形、及びポロキサマー188を含む剤形の安定性は同等であった。
【0089】
よって、ポリソルベート80、ポリソルベート20及びポロキサマー188がアダリムマブの安定性に及ぼす影響は同等であることが確認された。
【実施例5】
【0090】
ポリオールの種類による剤形及び安定性の比較
ポリオールの種類によるアダリムマブ液状製剤の安定性を比較するために、次の組成を有する剤形を作製した。
【0091】
実施例2の剤形14と同様に、スクロース55mg/mL、メチオニン5mM、ポリソルベート80 1mg/mL及びアダリムマブ100mg/mLとなるようにした剤形20を作製した(実施例4の剤形17と同一)。また、ポリオールの総含有量を同一に固定し、ポリオールの種類をトレハロース、PEG400、PEG4000に変えて剤形21~23を作製した。各剤形を除菌濾過して1mLガラスシリンジに0.4mLずつ充填し、40℃で1カ月間保管した。保管前後の試料をSE-HPLCで分析し、HMWとLMWの不純物含有量を測定した。
【0092】
剤形20~23の構成及び40℃で1カ月間の保管前後のSE-HPLC含有量を分析した結果を表7に示す。
【0093】
【0094】
表7の結果から、ポリオールの種類によって、40℃で1カ月間の保管前後のHMWとLMWの含有量が大きく変わることが確認された。全ての剤形の40℃で1カ月間の保管前のHMWとLMWの不純物含有量は同等であったが、40℃で1カ月間の保管後は、スクロース、トレハロース、PEG400を含む剤形20~22において、PEG4000を含む剤形23に比べて、HMW含有量が比較的少なかった。LMW含有量は全て同等であった。よって、用いるポリオールの種類によって剤形の安定性に差があることが確認され、とりわけスクロースとトレハロースが他のポリオールより安定性改善に効果があることが確認された。
【実施例6】
【0095】
ポリオール、アルギニン、メチオニン、界面活性剤及び追加の安定化剤からなる剤形とヒュミラ剤形の安定性の比較
メチオニン5mMを安定化剤として用いた組成において、界面活性剤やポリオールの種類、追加の安定化剤の有無、アルギニン塩酸塩含有量などを変化させることにより様々な組成を構成して試料を作製し、市販のヒュミラ剤形で組成を作製し、それらを40℃で保管し、その後SE-HPLCで分析して各剤形の安定性を比較した。各剤形の組成を表8に示し、各組成の40℃で2カ月間の保管前後の不純物含有量を表9に示す。
【0096】
【表8】
*市販のヒュミラ剤形:Sodium Phosphate Monobasic Dihydrate(0.86mg/mL),Sodium Phosphate Dibasic Dihydrate(1.53mg/mL),Sodium Citrate(0.3mg/mL),Citric Acid Monohydrate(1.3mg/mL),Mannitol(12mg/mL),Sodium Chloride(6.16mg/mL),Polysorbate 80(PS80)(1mg/mL),pH5.2
【0097】
【0098】
表8に示すように、ポリオールとしては、スクロース、トレハロース、スクロースとPEG4000の組み合わせ、トレハロースとPEG4000の組み合わせが用いられ、界面活性剤としては、ポリソルベート80、ポロキサマー188が用いられた。アルギニンは0、20又は40mMが用いられ、追加の添加剤の役割を確認するために、グリシン(Gly)、ロイシン(Leu)又はグリシンとロイシンの組み合わせで剤形を設計し、アダリムマブ100mg/mLにおける安定性を市販のヒュミラ剤形と比較した。50mg/mLにおける安定性も、市販のヒュミラ剤形と剤形44(アダリムマブ含有量を除いて剤形26と同一)の組成で比較した。
【0099】
表9において各剤形の安定性を比較すると、全ての剤形が市販のヒュミラ剤形より卓越した安定性を示すことが確認された。保管前の不純物総量は0.57~0.74であり、全て同等であった。しかし、40℃で2カ月間の保管後の安定性において、アダリムマブの含有量が100mg/mLである市販のヒュミラ剤形(剤形43)と、アダリムマブ含有量が50mg/mLである市販のヒュミラ剤形(剤形45)に比べて、他の剤形のアダリムマブ不純物含有量のほうが少ないことが確認された。
【0100】
よって、様々なポリオールと界面活性剤、アルギニン塩酸塩、及び追加の安定化剤からなる本剤形は、市販のヒュミラ剤形より、不純物増加の面でより安定した剤形であることが確認された。
【0101】
また、実施例5において、ポリオールとしてPEG4000を用いると、スクロース、トレハロースを用いた剤形より、40℃で1カ月間の保管後の不純物総量が約0.4%多かったのに対して、本実施例においては、保管期間が2カ月であったにもかかわらず、スクロース又はトレハロースとPEG4000を共に用いると、スクロースとトレハロースを単独で用いたものと比べて、アダリムマブの不純物含有量が同等であった。よって、スクロース又はトレハロースの一部を分子量が大きいPEGに代えることは、抗酸化などのさらなる効果を得るために追加の添加剤を用いる場合に、浸透圧及び安定性を維持する方法として有用であることが確認された。
【実施例7】
【0102】
市販のヒュミラ剤形とアルギニン塩酸塩を含む剤形の機械的ストレス(mechanical stress)に対する安定性の比較評価
市販のヒュミラ剤形とアルギニン塩酸塩を含む剤形の機械的ストレスに対する安定性を比較するために、次の組成を有する試料を作製し、ロータリーピストンポンプ(rotary piston pump)を通過させてポンプ通過前後の粒子数を評価した。
【0103】
また、測定された粒子がアダリムマブ由来であるか否かを確認するために、各試料の組成からアダリムマブのみ除いたプラシーボ(placebo)を作製し、同一条件でロータリーピストンポンプを通過させてポンプ通過前後の粒子数を評価した。粒子数を評価する方法は、Protein Simple社のmicro flow imaging機器を用いるものである。各試料の組成を表10に示し、各試料及びプラシーボのポンプ通過前後の粒子数を表11及び
図2に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
表10に示すように、剤形46と剤形47は、添加剤の組成が同一であり、アダリムマブの含有量が異なり、剤形46は100mg/mLであり、剤形47は50mg/mLである。剤形48においては、市販のヒュミラと同一に組成及びアダリムマブ含有量を調節した。各剤形にロータリーピストンポンプを通過させてポンプ通過前後の粒子数を分析した結果、表11及び
図2に示すように、剤形46は85743個/mL、剤形47は53734個/mLであり、アダリムマブの含有量が多い剤形46のほうが、アダリムマブの含有量が少ない剤形47より、粒子が多いことが確認された。それに対して、市販のヒュミラ剤形である剤形48においては、ポンプ通過後の粒子数が150617個/mLであり、剤形46、47に比べて多かった。また、全ての剤形のplaceboの粒子濃度がポンプ通過後に3618個/mL、7938個/mLであり、アダリムマブを含む試料のポンプ通過後の粒子濃度に比べて大幅に低く、ポンプ通過後のアダリムマブを含む試料において測定された粒子がアダリムマブ由来であることが確認された。よって、アルギニン塩酸塩を含む剤形は、市販のヒュミラ剤形に比べて、機械的ストレスからアダリムマブを効果的に保護することが分かる。
【実施例8】
【0107】
アルギニン塩酸塩の濃度による粘度低下効果の実験
アダリムマブ溶液にアルギニンを添加したときに粘度低下が起こるアルギニン濃度の範囲を確認するために、次の実験を行った。アルギニン塩酸塩(ArgHCl)を含まない対照群として、アダリムマブ100mg/mL及びポリソルベート80 1mg/mL、又はアダリムマブ50mg/mL及びポリソルベート80 1mg/mLを含むように試料を作製した。試験群として、各対照群の組成においてアルギニン塩酸塩の濃度を20mMずつ上昇させ、アルギニン塩酸塩を最大180mMの最終濃度で含む試料を作製した。全ての試料のpHは、約5.2であった。作製した試料の粘度をRheosense社のmVROC機器により測定した。粘度の測定結果を表12に示す。
【0108】
【0109】
表12に示すように、アダリムマブ100mg/mL、ポリソルベート80 1mg/mL及び様々な濃度のアルギニン塩酸塩(ArgHCl)添加剤形の粘度において、ArgHClを含まないアダリムマブ100mg/ml、ポリソルベート80 1mg/mL溶液の粘度は2.71 cpであった。それにArgHClを20~120mMの最終濃度で添加すると、ArgHClを添加していない組成に比べて、粘度が低下することが確認された。ArgHClを140mMの最終濃度で添加すると、ArgHClを添加していない組成と粘度が同等であった。ArgHClを160mM以上の最終濃度で添加すると、粘度の低下効果が現れず、ArgHCl未添加剤形より粘度が上昇することが確認された。アダリムマブ50mg/mL及びポリソルベート80 1mg/mLを含む剤形においては、ArgHClを含まないときの粘度が1.47cpであり、ArgHCl濃度が20~80mMのときの粘度が1.42~1.45であり、ArgHCl未添加剤形より粘度が低かった。ArgHClを100mMの最終濃度で添加したときの粘度は、ArgHClを添加していない組成の粘度と同等であり、ArgHClを120mM以上の最終濃度で添加すると、添加していないときより粘度が上昇した。
【0110】
よって、100mg/mLアダリムマブ溶液においては、140mM以下のArgHClを添加することにより粘度が低下し、50mg/mLアダリムマブ溶液においては、100mM以下のアルギニンを添加することにより粘度が低下することが確認された。
【実施例9】
【0111】
アダリムマブ製剤における緩衝液及び塩の影響の確認実験1
アダリムマブの安定性に対する緩衝液及び塩の影響を把握するために、緩衝液や塩を含まない剤形の試料を作製し、その剤形に緩衝液又は塩を添加した剤形の試料を作製し、40℃で2週間及び1カ月間保管してSE-HPLCで安定性を比較し、各試料のpHを測定した。
【0112】
【表13】
*Humira組成Buffer:Sodium phosphate monobasic dihydrate 0.86mg/mL,Sodium phosphate dibasic dihydrate 1.53mg/mL,Sodium citrate 0.3mg/mL,Citric acid monohydrate 1.3mg/mL
【0113】
試料の剤形及び各試料のzerotime、40℃で2週間の保管後、40℃で1カ月間の保管後のSE-HPLC分析結果を表13に示す。アダリムマブ100mg/mL及びPS80 1mg/mLとなるようにA-1の試料を作製し、それが緩衝液又は塩を含むようにA-2~A-5を作製した。また、A-1~A-5の組成におけるアダリムマブの濃度を50mg/mLに調節してA-6~A-10を作製した。各試料のSE-HPLC結果から、緩衝液を含まないA-1とバッファを含むA-2を比較すると(又はアダリムマブ濃度を変えたA-6とA-7を比較すると)、緩衝液を含まない剤形のほうがHMWとLMWの増加幅が小さかったので、より安定した剤形であることが分かる。
【0114】
また、A-1及びA-6と、NaCl、硫酸アンモニウム(Ammonium Sulfate)、硫酸ナトリウム(Sodium Sulfate)などの塩を含む剤形を比較すると、塩を含まない剤形のほうが、塩を含む剤形より、HMWとLMWの増加幅が小さい。よって、アダリムマブ剤形においては、塩を含まないものがアダリムマブの安定性の面から好ましいことが分かる。
【0115】
また、全ての試料のpHは、保管前、2週間の保管後、及び1カ月間の保管後に5.2であり、一定に保たれた。よって、50mg/mL以上のアダリムマブは、十分な自己緩衝効果を有することが確認されたので、緩衝剤の使用が不要である。さらに、緩衝剤を用いないことにより、安定性の高い剤形を構成できることが確認された。
【実施例10】
【0116】
アダリムマブ製剤における緩衝液及び塩の影響の確認実験2
アダリムマブの安定性に対する緩衝液及び塩の影響を把握するために、アダリムマブ(100mg/mL又は50mg/mL)、安定化剤(スクロース55mg/mL又はグリシン160mM)、アルギニン塩酸塩(ArgHCl)50mM、メチオニン5mM及びポリソルベート80 1mg/mLからなる剤形の試料を作製し、その剤形に緩衝剤又は塩を添加した剤形の試料を作製した。比較のために、アダリムマブ100mg/mL又はアダリムマブ50mg/mLのヒュミラ組成を有する試料を作製し、各剤形をガラスシリンジに0.4mLずつ充填し、55℃で1週間保管してSE-HPLCで安定性を比較し、pHを測定した。各組成と55℃で1週間の保管前/後の単量体(monomer)含有量を下表に示す。
【0117】
【表14】
*Humira組成:Sodium phosphate monobasic dihydrate 0.86mg/mL,Sodium phosphate dibasic dihydrate 1.53mg/mL,Sodium citrate 0.3mg/mL,Citric acid monohydrate 1.3mg/mL,Mannitol 12mg/mL,Sodium chloride 6.16mg/mL,PS80 1mg/mL
**Humira組成Buffer:Sodium phosphate monobasic dihydrate 0.86mg/mL,Sodium phosphate dibasic dihydrate 1.53mg/mL,Sodium citrate 0.3mg/mL,Citric acid monohydrate 1.3mg/mL
【0118】
まず、全ての試料のpHは、55℃で1週間の保管前/後に5.2であり、一定に保たれた。よって、前記表の組成及び類似組成において、50mg/mL以上のアダリムマブは、十分な自己緩衝効果を有することが確認された。
【0119】
表14に示すように、各試料の保管前の単量体含有量は98.8~99.0%であり、同等であった。55℃で1週間の保管後は、単量体含有量が組成によって異なる値であった。アダリムマブ100mg/mL、スクロース55mg/mL、ArgHCl 50mM、メチオニン5mM及びポリソルベート80 1mg/mLの組成を有する試料(A-11)は、保管後の単量体含有量が94.8%であるが、NaCl、硫酸アンモニウム、MgCl2及びCaCl2の塩、又は酢酸ナトリウム緩衝剤を用いると(A-12~A-16)、保管後の単量体の含有量が94.1~94.7%になり、塩や緩衝剤を用いない組成の試料より単量体含有量が少なくなった。安定化剤としてスクロースの代わりにGly160mMを用いたもの(A-17)は、保管後の単量体の含有量が95.2%であるのに対して、塩や緩衝剤を用いると(A-18~A-23)、保管後の単量体含有量が94.0~94.9%になり、塩や緩衝剤を用いない組成より単量体含有量が少なくなった。アダリムマブの含有量を50mg/mLに低減した組成においても、塩や緩衝剤を用いず、スクロースを安定化剤として用いたもの(A-25)は、保管後の単量体含有量が95.2%であり、Glycine(Gly)を安定化剤として用いたもの(A-32)は、保管後の単量体含有量が95.6%であるが、各剤形に追加の塩/緩衝剤を用いると、保管後の単量体含有量がスクロースを含む剤形(A-26~A-31)は、93.5~95.0%になり、Glyを含む剤形(A-33~A-38)は、93.6~95.4%になり、追加の塩/緩衝剤を用いた剤形の単量体含有量のほうが、塩/緩衝剤を用いない剤形の単量体含有量より少なかった。よって、アダリムマブ、アルギニン、安定化剤及び界面活性剤を含む剤形に追加の塩や緩衝剤を用いないとアダリムマブの安定性を増加させることが確認され、アダリムマブ自体の緩衝効果を利用することにより、追加の緩衝剤を用いずに安定性を増加させた組成を構成できることが確認された。
【0120】
しかし、同じアダリムマブ含有量のヒュミラ組成試料(A-24,A-39)と比較すると、塩や緩衝剤を含む剤形の55℃で1週間の保管後の単量体含有量が、ヒュミラ組成試料の55℃で1週間の保管後の単量体含有量以上であった。
【0121】
よって、アルギニン、界面活性剤、安定化剤を含むアダリムマブ剤形に追加の塩や緩衝剤を用いないものが安定性の面で好ましいが、アルギニン、界面活性剤、安定化剤を含む剤形は、追加の塩や緩衝剤を含むか否かに関係なく、市販のヒュミラ剤形より安定していることが確認された。
【実施例11】
【0122】
アダリムマブ製剤におけるポリオールの安定化効果の確認実験
アダリムマブの溶液内安定性を増進させるために使用されるポリオールの安定化効果を比較するために、アダリムマブ112mg/mL溶液、並びにアダリムマブ112mg/mL及び各ポリオール42mg/mLを含む剤形を次のように作製し、-70℃と5℃で5cycle及び10cycleの冷解凍を繰り返してSE-HPLCで分析し、HMW、LMW及び単量体の含有量を測定した。
【0123】
【0124】
試料の剤形及び安定性試験の各sampling pointにおけるSE-HPLC結果を表15に示す。前記結果から、各試料の冷解凍を繰り返したときに、マンニトール、スクロース又はトレハロースを添加した剤形において、ポリオールを添加していない剤形と比較して、HMW及びLMWの増加が少なくなる傾向を示し、ポリオールによる安定化効果があることが確認された。各ポリオールの種類による安定化効果を比較すると、スクロース又はトレハロースを添加したものは、HMWとLMWの含有量が冷解凍前の試料と同等であり、冷解凍10cycle後も冷解凍前と同等の純度であり、安定化効果が大きいことが確認された。それに対して、マンニトールを含む試料は、冷解凍を繰り返したときにHMW含有量が増加する傾向を示し、冷解凍期間中に純度が低くなることが確認された。よって、マンニトールに比べて、スクロースとトレハロースの安定化効果が優れることが確認された。
【実施例12】
【0125】
アルギニン、メチオニン、グリシン及びスクロースの安定化効果の確認及び比較のためのアダリムマブ剤形の冷解凍試験
アルギニン、メチオニン、グリシン及びスクロースが原液の冷解凍時に安定化に及ぼす影響を確認するために、次のように試料を作製し、5mL polycarbonate bottleに1mLずつ充填し、作製直後と-70℃、5℃で冷解凍を5回繰り返した後にSE-HPLCで分析した。各試料の組成と冷解凍前/後のSE-HPLC結果を以下に示す。
【0126】
【0127】
アダリムマブ130mg/mL、ポリソルベート80 1mg/mLとなるように試料を作製し、それが追加の安定化剤を含むように試料を作製した。冷解凍前の各試料の不純物含有量は、HMWとLMWのどちらも同等であった。冷解凍後に、全ての試料のLMWは同等であったが、追加の安定化剤の種類と含有量によってHMWの含有量が異なる値であった。追加の安定化剤を含まないものは、冷解凍5回後にHMWが1.76%まで増加したが、アルギニン塩酸塩50mMを含むものは、冷解凍5回後にHMWが0.67%であり、大幅に減少した。アルギニン塩酸塩50mMにメチオニンをさらに含む剤形において、メチオニンを5mM含むものは、HMWのさらなる減少が確認されなかったが、25mM含むものは、HMWが約0.52%にさらに減少することが確認された。アルギニン塩酸塩、メチオニンと共にグリシン又はスクロースをさらに添加したものは、冷解凍5回後にHMWが0.41~0.43%までさらに減少し、グリシンを含む剤形とスクロースを含む剤形が同等の安定性を示すことが確認された。よって、メチオニン、アルギニン、グリシン、スクロースは、全てアダリムマブの安定性に寄与することが確認された。また、安定化剤としてポリオール又はアミノ酸を用いて適切に組み合わせると、同等の安定化効果が得られることが確認された。
【実施例13】
【0128】
グリシンを含む剤形、スクロースを含む剤形、及び市販のヒュミラ剤形の安定性の比較試験
グリシンを含む剤形、スクロースを含む剤形、及び市販のヒュミラ剤形の安定性を比較するために、アダリムマブの含有量が100mg/mL又は50mg/mLとなり、アルギニン塩酸塩(ArgHCl)50mM、ポリソルベート80(PS80)1mg/mL、メチオニン5mMを含むように試料を作製し、その組成に追加の安定化剤としてグリシン、グリシンとメチオニンの組み合わせ、又はスクロースを添加して試料を作製した。また、アダリムマブの含有量が100mg/mL又は50mg/mLとなるように、市販のヒュミラ組成で試料を作製した。それぞれを1mLガラスシリンジに0.4mLずつ充填し、40℃で4週間の保管前/後のHMWとLMWの含有量をSE-HPLCで分析した。各組成とSE-HPLCの結果を以下に示す。
【0129】
【0130】
アルギニン塩酸塩、ポリソルベート80、メチオニン、アダリムマブを含む組成の試料は、40℃で4週間の保管前に同等の安定性を示す。一方、市販のヒュミラ組成の試料は、作製直後から他の試料よりHMWが約0.1%多かった。保管後のHMWとLMWの総含有量は、アルギニン塩酸塩を含む全ての試料において、アダリムマブ100mg/mLでは2.81~2.99%であり、アダリムマブ50mg/mLでは2.56~2.71%であり、比較的少なかったが、市販のヒュミラ組成試料において、アダリムマブ100mg/mLでは4.03%であり、アダリムマブ50mg/mLでは4.06%であり、アルギニンを含む組成の試料より、HMWとLMWの含有量が多かった。よって、本実施例の添加剤の組み合わせ、すなわちアルギニンを含む剤形、アルギニンと追加の安定化剤としてポリオール又はアミノ酸を含む剤形は、市販のヒュミラ剤形より安定性の面で優れた剤形であることが確認された。
【実施例14】
【0131】
アダリムマブ、スクロース、グリシン、ロイシン、メチオニン、塩化ナトリウム、アルギニンの濃度によるアダリムマブ剤形の安定性の比較試験
アダリムマブ剤形の安定性を比較するために、アダリムマブ、アルギニン塩酸塩(ArgHCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、ポリソルベート80(PS80)、メチオニン(Met)、スクロース(Sucrose)、グリシン(Gly)、ロイシン(Leu)の組み合わせで様々な組成の試料を作製した。また、比較のために、アダリムマブの含有量が100mg/mL又は50mg/mLとなるように、市販のヒュミラ組成で試料を作製した。各剤形を1mLガラスシリンジに0.4mLずつ充填し、40℃で4週間の保管前/後の単量体含有量をSE-HPLCで分析した。各組成とSE-HPLCの結果を以下に示す。
【0132】
【表18】
*市販のヒュミラ剤形:Sodium phosphate monobasic dihydrate 0.86mg/mL,Sodium phosphate dibasic dihydrate 1.53mg/mL,Sodium citrate 0.3mg/mL,Citric acid monohydrate 1.3mg/mL,Mannitol 12mg/mL,Sodium chloride 6.16mg/mL,PS80 1mg/mL
【0133】
全ての試料の単量体含有量は、40℃で保管前に99.27%~99.33%であり、剤形に関係なく同等であった。
【0134】
アダリムマブの含有量が100mg/mLである試料(A-40~A-61)の40℃で4週間の保管後の単量体含有量は、塩化ナトリウムを含まない剤形(A-40~A-55)において97.04%~97.23%であり、塩化ナトリウムを含む剤形(A-56~A-61,市販のヒュミラ組成A-62を除く)において96.85%~97.00%であり、塩化ナトリウムを含まない剤形より若干少なかった。しかし、塩化ナトリウム、スクロース、メチオニン、グリシン、ロイシンの含有量による40℃で4週間の保管後の単量体含有量の差は比較的僅かであり、アルギニンを含む組成(A-40~A-61)の単量体含有量のほうが、同一アダリムマブ濃度の市販のヒュミラ組成(A-62)の単量体含有量である95.64%より1%以上多いことが確認された。
【0135】
アダリムマブ含有量が50mg/mLのものにおいても、100mg/mLのアダリムマブ組成の分析結果と同等の結果を示した。アダリムマブの含有量が50mg/mLである試料(A-63~A-85)の40℃で4週間の保管後の単量体含有量は、塩化ナトリウムを含まない剤形(A-63~A-79)において97.15%~97.38%であり、塩化ナトリウムを含む剤形(A-80~A-85,市販のヒュミラ組成A-86を除く)において96.81%~97.06%であり、塩化ナトリウムを含まない剤形より若干少なかった。しかし、塩化ナトリウム、スクロース、メチオニン、グリシン、ロイシンの含有量による40℃で4週間の保管後の単量体含有量の差は比較的僅かであり、アルギニンを含む組成(A-63~A-85)の単量体含有量のほうが、同一アダリムマブ濃度の市販のヒュミラ組成(A-86)の単量体含有量である95.47%より1%以上多いことが確認された。
【0136】
よって、本実施例の添加剤の組み合わせ及び類似剤形、すなわちアルギニンを含む剤形は、市販のヒュミラ剤形より安定性の面で優れた剤形であることが確認された。
【0137】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。