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特許7109850カルコゲン化合物、その製造方法、およびそれを含む熱電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】カルコゲン化合物、その製造方法、およびそれを含む熱電素子
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/00 20060101AFI20220725BHJP
   H01L 35/16 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C01B19/00 Z
H01L35/16
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020518791
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 KR2019010787
(87)【国際公開番号】W WO2020040607
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0099493
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ミンキョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】チョル・ヒ・パク
(72)【発明者】
【氏名】チ・スン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ミョンジン・ジュン
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528849(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2017-0041540(KR,A)
【文献】韓国公開特許第2011-0079490(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0366924(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0051080(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 19/00
H01L 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるカルコゲン化合物:
[化学式1]
Sna-xInSbTea+3
前記化学式1において、
Vは空孔であり、
14≦a≦16であり、0<x≦0.5である。
【請求項2】
前記化学式1で表されるカルコゲン化合物において、0.01≦x≦0.2である、請求項1に記載のカルコゲン化合物。
【請求項3】
前記化学式1で表されるカルコゲン化合物は、面心立方格子構造を有する、請求項1または2に記載のカルコゲン化合物。
【請求項4】
前記化学式1で表されるカルコゲン化合物において、
eは、面心立方格子構造の陰イオンサイトを占めており、
nおよびSbは、面心立方格子構造の陽イオンサイトを占めており、
nは、Snの一部を代替して置換され、
Vは、Sn、Sb、およびInが占めるサイトを除いた残りの陽イオンサイトの空のサイトである、請求項3に記載のカルコゲン化合物。
【請求項5】
前記化学式1で表されるカルコゲン化合物において、
V、Sn、Sb、およびInは、(x,y,z)=(0,0,0)サイトにランダムに位置しており、Teは(x,y,z)=(0.5,0.5,0.5)サイトに位置している、請求項3に記載のカルコゲン化合物。
【請求項6】
前記化学式1で表されるカルコゲン化合物において、a=14であり、面心立方格子構造を有し、格子定数が6.2850~6.2861Åであり、Rwp(weighted pattern R)が5.900~5.990である、請求項1からのいずれか一項に記載のカルコゲン化合物。
【請求項7】
前記化学式1で表されるカルコゲン化合物において、a=16であり、面心立方格子構造を有し、格子定数が6.2880~6.2900Åであり、Rwp(weighted pattern R)が4.900~5.100である、請求項1からのいずれか一項に記載のカルコゲン化合物。
【請求項8】
Sn13.9In0.1SbTe17、VSn13.8In0.2SbTe17、VSn15.9In0.1SbTe19およびVSn15.8In0.2SbTe19からなる群より選ばれる、請求項1からのいずれか一項に記載のカルコゲン化合物。
【請求項9】
Sn、Sb、TeおよびInをそれぞれ含む原料物質をSn:Sb:Te:Inのモル比が(a-x):2:(a+3):xになるように混合した後に溶融反応させる段階;
前記溶融反応の結果として収得された結果物を熱処理する段階;
前記熱処理の結果として収得された結果物を粉砕する段階;および
前記粉砕された結果物を焼結する段階を含み、
前記熱処理は、550~640℃の温度で行われる、請求項1からのいずれか一項に記載のカルコゲン化合物の製造方法。
【請求項10】
前記溶融反応は、700~900℃の温度で行われる、請求項に記載のカルコゲン化合物の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理する段階と前記粉砕する段階との間に、前記熱処理する段階の結果物を冷却してインゴットを形成する段階をさらに含む、請求項または10に記載のカルコゲン化合物の製造方法。
【請求項12】
前記焼結は、550~640℃の温度および10~100MPaの圧力下で放電プラズマ焼結法によって行われる、請求項から11のいずれか一項に記載のカルコゲン化合物の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないしのいずれか一項によるカルコゲン化合物を含む、熱電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互引用]
本出願は、2018年8月24日付韓国特許出願第10-2018-0099493号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれている。
【0002】
本発明は、低温、特に熱電素子の駆動温度の範囲でも優れた相(phase)安定性を示し、低い熱伝導度とともに優れた熱電特性を示す新規カルコゲン化合物、その製造方法およびそれを含む熱電素子に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、資源の枯渇および燃焼による環境問題のため、代替エネルギの一つとして廃熱を用いた熱電変換材料に対する研究が加速化している。
【0004】
このような熱電変換材料のエネルギ変換効率は、熱電変換材料の熱電性能指数値であるZTに依存する。ここで、ZTは、下記数式1のようにゼーベック(Seebeck)係数、電気伝導度および熱伝導度などによって決定されるが、より具体的にはゼーベック係数の自乗および電気伝導度に比例し、熱伝導度に反比例する。
【0005】
[数1]
ZT=SσT/k
(前記数式1において、σは電気伝導度、Sはゼーベック係数、kは熱伝導度であり、Tは絶対温度である)
【0006】
したがって、熱電変換素子のエネルギ変換効率を高めるためには、ゼーベック係数(S)または電気伝導度(σ)が高いため高い出力因子(PF=σS)を示すか、熱伝導度(k)が低い熱電変換材料の開発が必要である。
【0007】
以前から知られている多様な熱電変換材料の中でも、例えば、PbTe、BiTe、またはSnSeなどのように、塩化ナトリウム(NaCl)と関連するか類似の結晶格子構造を有し、格子サイトのうち一部が空いている熱電変換材料が優れた熱電変換特性を示すと知られている。このような結晶格子構造を有する材料は、優れた電気伝導度を示し、また格子サイトのうち一部が空のサイト(空孔;vacancy)であるため低い熱伝導度を示す。そのために、優れた熱電変換特性を示すことができる。
【0008】
しかし、図1のように塩化ナトリウムと同じ面心立方格子構造(face-centered cubic lattice)を有し、格子サイトのうち一部が空のサイトである空孔の熱電変換素材はほとんど知られていない。
【0009】
一般に複雑な結晶構造を有するほど(high symmetric)、また構成原子が重いほどフォノン(phonon)の移動を邪魔して熱伝導度が低くなり、格子内に空孔(vacancy)がある場合、熱伝導度がさらに低くなる。
【0010】
従来に開発された面心立方格子構造(face-centered cubic latticeまたはrock-salt構造)のSnBiSeの場合、格子内部に空孔を一部含むため熱伝導度が低いが、出力因子も低い問題がある。
【0011】
したがって、面心立方格子構造に起因する高い出力因子および空孔の導入による低い熱伝導度を同時に実現できる熱電素材の開発が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、低い熱伝導度とともに100~300℃の中低温領域で高い出力因子を有して優れた熱電特性を示す新規のカルコゲン化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、前記カルコゲン化合物を含み、優れた熱電特性を示す熱電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記化学式1で表されるカルコゲン化合物を提供する:
[化学式1]
Sna-xInSbTea+3
前記化学式1において、
Vは、空孔(Vacancy)であり、
14≦a≦16であり、0<x≦0.5である。
【0015】
本発明はまた、Sn、Sb、TeおよびInの原料物質をSn:Sb:Te:Inのモル比が(a-x):2:(a+3):xになるように混合した後溶融反応させる段階(この時、14≦a≦16であり、0<x≦0.5);前記溶融反応の結果として収得された結果物を熱処理する段階;前記熱処理結果として収得された結果物を粉砕する段階;および前記粉砕された結果物を焼結する段階を含む、前記カルコゲン化合物の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記カルコゲン化合物を熱電変換材料として含む熱電素子を提供する。
【0016】
発明の一実施形態による前記化学式1のカルコゲン化合物は、Sn、Sb、TeおよびInからなる面心立方格子構造(face-centered cubic lattice)を有するが、格子サイトのうち一部が空のサイトである空孔(Vacancy;V)を含むことによって、面心立方格子構造の原子連結性(atomic connectivity)に起因する高い出力因子、および空孔の導入による低い熱伝導度を同時に実現することができる。また、前記Snの一部を占めるInによって、優れた熱電性能指数(ZT)を維持しながらも100~400℃区間の出力因子を向上させ、熱伝導度を減少させることができる。
【0017】
具体的に前記一実施形態のカルコゲン化合物は、面心立方格子構造において、前記Sn、SbおよびTeが占めるサイトを除いた空のサイトである空孔(V)を有し、前記Inは前記Snサイトの一部を占めている。より具体的には、前記Teは面心立方格子の陰イオンサイトを占めており、前記SnおよびSbは面心立方格子の陽イオンサイトを占めており、前記SnおよびSbが占めるサイトを除いた残りの陽イオンサイトの空のサイトに空孔(V)を含み、また、前記Snの一部をInが占めている。この時、前記Snに対するInの置換は、In金属の置換量が増加するほど格子定数が減少することから確認することができる。
【0018】
図2は本発明の一実施形態によるカルコゲン化合物の結晶構造を示す模式図である。図2は本発明を説明するための一例だけであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
図2を参照して説明すると、前記一実施形態のカルコゲン化合物は、基本的にSnTeと同じ面心立方格子構造を有するか、陽イオンサイト(cationic site)に空孔(V)が導入されている。詳細には空孔(V)、Sn、Sb、およびInが(x,y,z)=(0,0,0)サイトにランダムに位置しており(random distribution)、Teの場合(0.5,0.5,0.5)サイトに位置している。これは後述する実験例に記載されたように、TOPASプログラムにより計算されたカルコゲン化合物粉末のリートベルト法(Rietveld refinement)結果から確認することができる。
【0020】
具体的にTOPASプログラムにより計算されたカルコゲン化合物粉末は、格子定数が6.2850~6.2900Åであり、Rwp(weighted pattern R)が4.900~5.100である。また、カルコゲン化合物内Snに対するInの置換量が増加するほどSn2+(118pm)の半径がIn3+(80pm)より大きいので格子定数は減少し、減少[Sn]/[Sb]の比率が増加するほどSn2+(118pm)の半径がSb3+(76pm)半径より大きいので格子定数が増加する。したがって、前記カルコゲン化合物は、化学式1においてa=14であるとき、格子定数が6.2850~6.2860Åであり、Rwpが5.900~5.990であり、a=16であるとき、格子定数が6.2880~6.2900Åであり、Rwpが4.900~5.100である。
【0021】
熱電性能指数は、ZT=SσT/k(S:ゼーベック係数、σ:電気伝導度、T:絶対温度およびk:熱伝導度)で定義され、カルコゲン化合物の熱伝導度は、フォノン(phonon)の移動によるものであり、重元素(heavy element)あるいは格子内空孔の導入によりフォノンの移動を邪魔することによって低くすることができる。したがって、後述する実験例によっても立証されるように、前記化学式1のカルコゲン化合物は、Inの添加によって電荷キャリアであるホール(hole)電荷濃度が減少し、その結果電荷キャリアが寄与する熱伝導度が減少し得る。同時に前記空孔の存在によって熱伝導度はさらに減少し得る。また、各陽イオンサイトを占めているSnおよびSbとともに前記Inがさらに電子を提供することによって、電気伝導度は低くなり、ゼーベック係数は増加するに伴い出力因子、特に100~300℃中低温領域の出力因子(PF)が向上し、その結果として熱電性能指数が増加する。
【0022】
前記一実施形態のカルコゲン化合物において、前記Inは出力因子維持および熱伝導度の減少による熱電性能指数の改善効果を示す。
【0023】
一方、空孔(V)は、特定の結晶格子構造において格子点の原子が抜けた状態のものであり、前記一実施形態のカルコゲン化合物において空孔(V)は塩化ナトリウムと同じ面心立方格子構造の形成に非常に重要な役割を果たす。仮に前記空孔(V)をIn、Sn、SbおよびTeですべて占めてなくすと、面心立方格子構造以外の他の結晶構造を有する二次相がともに形成され、その結果電気伝導度などの物性が低下し、熱電変換素材への適用には非常に制限的な問題を有する。また、前記空孔(V)は原子の拡散を容易にするので、前記空孔の有無によって熱処理、変形、析出、または相変態などが変わる。前記一実施形態のカルコゲン化合物の場合、前記空孔のフォノン散乱(phonon scattering)により低い格子熱伝導度が示され得、これに起因した優れた熱電変換特性を示し得る。
【0024】
また、前記カルコゲン化合物において、Sn、Sb、TeおよびInは、(a-x):2:(a+3):xのモル比で含まれ、(Sn+In):Sb:Teのモル比はa:2:a+3の関係を満たさなければならない。SnはSn2+、SbはSb3+、TeはTe2-の状態で結合するので、上記したモル比関係で含まれるとき、2a+(3x2)-2(a+3)=0で電荷中性(charge neutrality)を合わせ得る。
【0025】
また、前記aおよびxはそれぞれ14≦a≦16であり、0<x≦0.5である。このような条件を満たすとき単一相の面心立方格子構造を有するカルコゲン化合物が形成され、優れた熱電特性を示し得る。
【0026】
仮にInのxの含有量が0である場合、カルコゲン化合物内In金属が存在しないので、In金属のSn置換による改善効果が得られない。また、xが0.5を超えると面心立方格子構造以外の構造を有する二次相が形成され得、これは熱電特性の低下を招く。x含有量の制御およびこれに伴う優れた熱電特性の改善効果を考慮するとき、0<x≦0.2あるいは0.01≦x≦0.2、あるいは0.1≦x≦0.2であり得る。
【0027】
前記のような化学式1のカルコゲン化合物は、空孔を含み、またSnの一部をInに置換して含むことによって、従来のSnBiSe等の熱電素材が有する低い出力因子の問題を解決し、面心立方構造に起因する優れた出力因子の特性を維持しながらも空孔の導入およびInによる熱伝導度の減少によって熱電性能指数を大きく向上させることができる。その結果、前記一実施形態のカルコゲン化合物は、各種熱電冷却システムまたは熱電発電システムなどをはじめとする様々な分野および用途における熱電変換素材として非常に好ましく使われ得る。
【0028】
一方、本発明の他の実施形態によれば、上述したカルコゲン化合物の製造方法が提供される。
具体的に前記製造方法は、Sn、Sb、TeおよびInの原料物質をSn:Sb:Te:Inのモル比が(a-x):2:(a+3):xになるように混合した後溶融反応させる段階(この時、14≦a≦16であり、0<x≦0.5);前記溶融反応の結果として収得された結果物を熱処理する段階;前記熱処理結果として収得された結果物を粉砕する段階;および前記粉砕された結果物を焼結する段階を含み得る。
【0029】
前記製造方法において、前記Sn、Sb、TeおよびInを含む原料物質としては、例えば、Sn、Sb、TeおよびInの粉末またはショット(shot;角のない粒子)が使用され得る。また、InSeのような粉末が使用されることもできる。また、必要に応じて、上記した原料物質の混合前にグラインディングあるいはミリングによる粉末化工程が選択的にさらに行われることもできる。
【0030】
また、これら各原料物質の混合は、前記化学式1での各元素のモル比、具体的にはSn、Sb、TeおよびInのモル比が(a-x):2:(a+3):xに対応する比率で各原料物質を混合した後、グラインディングまたはミリングし、選択的にペレット化することによって行われ得る。この時、前記aおよびxは前述したとおりである。このように形成された混合物はその形成工程によって粉末状態、ペレット状態またはインゴット状態などであり得る。
【0031】
次に、前記で製造した混合物に対する溶融工程が行われる。
前記溶融工程の間に上記した金属の原料物質間の反応が行われ、反応の結果物が溶融物の形態で収得される。
【0032】
具体的に前記溶融工程は上記した混合物を石英管に装入した後、真空および密封状態で700~900℃、より具体的には750~800℃温度で加熱することによって行われ得る。この時、原料物質と石英管の反応を防止するために前記混合物をカーボンルツボ(carbon crucible)に先に入れた後石英管に装入することもできる。
【0033】
前記溶融工程の完了後、後続の熱処理工程時間の短縮のために、製造された溶融物に対する冷却工程が選択的にさらに行われることもできる。
【0034】
前記冷却工程は媒体を用いた冷却などをすべて含み、熱電材料分野で用いられる冷却方法を制限なしに適用することができる。一例として自然冷却または冷風冷却によって行われ得、溶融物の温度が常温(23±5℃)水準になるまで行われ得る。
【0035】
次に、前記溶融工程の結果として収得された溶融物に対して熱処理工程が行われる。
前記熱処理は、面心立方格子構造の単一相を形成するための工程であり、具体的に550~640℃、より具体的には600~640℃の温度で24~72時間行われ得る。また、前記熱処理は、電気炉などの炉(furnace)で行われ得、真空または不活性気体の雰囲気下で行われ得る。また、前記熱処理段階は単一段階で行われ得、2段階以上の多段階で行われ得る。
【0036】
次に、前記熱処理段階以後、熱処理された結果物に対する粉砕工程が行われる。
前記粉砕工程は、以前から知られている熱電変換材料の製造方法および装置を用いて行われ得、このような粉砕段階を経て粉末状態の結果物を得ることができる。
【0037】
一方、前記熱処理段階と粉砕段階との間には、前記熱処理段階の結果物を冷却してインゴットを形成する段階が選択的にさらに行われることもできる。
【0038】
この時、前記冷却工程は、各種冷却媒体を用いて行われ得、以前から熱電変換材料の製造過程で適用されている冷却装置/方法が特別な制限なしにすべて適用することができる。このような冷却段階によるインゴット形成の場合、このようなインゴットに対して前記粉砕段階を行う。
【0039】
上述した粉砕段階後には、前記粉砕された結果物に対する焼結工程が行われる。このような焼結段階の進行によって、焼結体状態ですでに上述した一実施形態のカルコゲン化合物が製造され得る。このような焼結工程は、当業者に良く知られている放電プラズマ焼結法(Spark Plasma Sintering)等によって行われ得る。
【0040】
前記焼結工程は、具体的に550~640℃の温度および10~100MPaの圧力下で行われ得、より具体的には600~640℃の温度で、30~100MPaの圧力下に5~10分間行われ得る。
【0041】
そして、前記焼結工程後には冷却工程が選択的にさらに行われ得、前記冷却工程は前述したように通常の方法により行われ得る。
【0042】
ただし、上述した各段階は熱電変換材料またはカルコゲン化合物などの金属化合物を形成する通常の製造条件、方法および装置を適用して行われ得、具体的な反応条件および方法は後述する実施例に記載されているので、これに関する追加的な説明は省略する。
【0043】
一方、発明のまた他の実施形態によれば、上述した一実施形態のカルコゲン化合物を熱電変換材料として含む熱電素子を提供する。このような熱電素子は、前記一実施形態のカルコゲン化合物(熱電変換材料)をp型またはn型熱電変換材料として含み得、このために前記一実施形態の熱電変換材料として追加的なp型元素またはn型元素を追加ドーピングした状態で含み得る。ただし、この時、使用可能なp型元素またはn型元素の種類やドーピング方法は特に制限されず、以前から熱電変換材料をp型またはn型に適用するために一般的に用いられている元素およびドーピング方法を適用することができる。
【0044】
前記熱電素子はこのようなp型またはn型熱電変換材料を焼結状態で得た後、加工および成形して形成された熱電エレメントを含み得、これと共に絶縁基板および電極を含み得る。このような熱電エレメント、絶縁基板および電極の結合構造は通常の熱電素子の構造に従う。
【0045】
また、前記絶縁基板としてはサファイア基板、シリコン基板、パイレックス(登録商標)基板または石英基板などを使用し得、電極としては任意の金属または導電性金属化合物を含む電極を使用し得る。
【0046】
上述した熱電素子は一実施形態の熱電変換材料を含むことによって、優れた熱電変換特性などを示し得、多様な分野および用途における熱電冷却システムまたは熱電発電システムなどに好ましく適用されることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、熱伝導度の減少しとともに低温領域での出力因子の向上により、優れた熱電性能指数(ZT)を示す新規カルコゲン化合物およびその製造方法を提供することができる。また、このようなカルコゲン化合物を適用して優れた熱電特性を示す熱電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】面心立方格子構造を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態によるカルコゲン化合物の格子構造を示す模式図である。
図3】実施例1~4、および比較例1~2で製造したカルコゲン化合物粉末に対するX線回折分析(XRD)結果を示す図である。
図4】比較例3~7で製造したカルコゲン化合物粉末に対するX線回折分析結果を示す図である。
図5】実施例1~4、および比較例1~5のカルコゲン化合物に対する温度別電気伝導度を測定した結果を示すグラフである。
図6】実施例1~4、および比較例1~5のカルコゲン化合物に対する温度別ゼーベック係数を測定した結果を示すグラフである。
図7】実施例1~4、および比較例1~5のカルコゲン化合物に対する温度別出力因子を測定した結果を示すグラフである。
図8】実施例1~4、および比較例1~5のカルコゲン化合物に対する温度別総熱伝導度を測定した結果を示すグラフである。
図9】実施例1~4、および比較例1~5のカルコゲン化合物に対する温度別熱電性能指数(ZT)を示すグラフである。
図10】実施例1~2、および比較例1のカルコゲン化合物でのインジウム置換量による出力因子の平均値を示すグラフである(温度領域:100~500℃)。
図11】実施例1~2、および比較例1のカルコゲン化合物でのインジウム置換量による熱電性能指数の平均値を示すグラフである(温度領域:100~500℃)。
図12】実施例3~4、および比較例2のカルコゲン化合物でのインジウム置換量による出力因子の平均値を示すグラフである(温度領域:100~500℃)。
図13】実施例3~4、および比較例2のカルコゲン化合物でのインジウム置換量による熱電性能指数の平均値を示すグラフである(温度領域:100~500℃)。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明を下記の実施例でより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するだけであり、本発明の内容は下記の実施例によって限定されない。
【0050】
比較例1:VSn14SbTe17のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、Sb shotおよびTe shotを14:2:17のモル比で重量を測定してカーボンルツボ(carbon crucible)に入れた後、石英管に装入した。石英管の内部は真空して密封した。そして、前記原料物質を750℃、12時間電気炉の内部で恒温維持した後常温に徐々に冷却した。次に640℃の温度で48時間熱処理を実施し、前記反応が行われた石英管を水で冷却した後インゴットを得た。前記インゴットを粒径75μm以下の粉末に細かく粉砕し、50MPaの圧力、600℃の温度で8分間放電プラズマ焼結法(SPS)により焼結してカルコゲン化合物を製造した。
【0051】
比較例2:VSn16SbTe19のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、Sb shotおよびTe shotを16:2:19のモル比で重量を測定してカーボンルツボ(carbon crucible)に入れた後、石英管に装入した。石英管の内部は真空して密封した。そして、前記原料物質を750℃、12時間電気炉の内部で恒温維持した後常温に徐々に冷却した。次に640℃の温度で48時間熱処理を実施し、前記反応が行われた石英管を水で冷却した後インゴットを得た。前記インゴットを粒径75μm以下の粉末に細かく粉砕し、50MPaの圧力、600℃の温度で8分間放電プラズマ焼結法(SPS)により焼結してカルコゲン化合物を製造した。
【0052】
比較例3:VSn13.2In0.8SbTe17のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、In粉末、Sb shotおよびTe shotを13.2:0.8:2:17のモル比で重量を測定してカーボンルツボ(carbon crucible)に入れた後、石英管に装入した。石英管の内部は真空して密封した。そして、前記原料物質を750℃、12時間電気炉の内部で恒温維持した後常温に徐々に冷却した。次に640℃の温度で48時間熱処理を実施し、前記反応が行われた石英管を水で冷却した後インゴットを得た。前記インゴットを粒径75μm以下の粉末に細かく粉砕し、50MPaの圧力、600℃の温度で8分間放電プラズマ焼結法(SPS)により焼結してカルコゲン化合物を製造した。
【0053】
比較例4:VSn10InTe13のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、In粉末およびTe shotを10:2:13のモル比で重量を測定してカーボンルツボ(carbon crucible)に入れた後、石英管に装入した。石英管の内部は真空して密封した。そして、前記原料物質を750℃、12時間電気炉の内部で恒温維持した後常温に徐々に冷却した。次に640℃の温度で48時間熱処理を実施し、前記反応が行われた石英管を水で冷却した後インゴットを得た。前記インゴットを粒径75μm以下の粉末に細かく粉砕し、50MPaの圧力、600℃の温度で8分間放電プラズマ焼結法(SPS)により焼結してカルコゲン化合物を製造した。
【0054】
比較例5:VSn10SbTe13のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、Sb shotおよびTe shotを10:2:13のモル比で重量を測定してカーボンルツボ(carbon crucible)に入れた後、石英管に装入した。石英管の内部は真空して密封した。そして、前記原料物質を750℃、12時間電気炉の内部で恒温維持した後常温に徐々に冷却した。次に640℃の温度で48時間熱処理を実施し、前記反応が行われた石英管を水で冷却した後インゴットを得た。前記インゴットを粒径75μm以下の粉末に細かく粉砕し、50MPaの圧力、600℃の温度で8分間放電プラズマ焼結法(SPS)により焼結してカルコゲン化合物を製造した。
【0055】
比較例6:V0.7Sn13.9In0.4SbTe17のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、In粉末、Sb shotおよびTe shotを13.9:0.4:2:17のモル比で重量を測定してカーボンルツボ(carbon crucible)に入れた後、石英管に装入した。石英管の内部は真空して密封した。そして、前記原料物質を750℃、12時間電気炉の内部で恒温維持した後常温に徐々に冷却した。次に640℃の温度で48時間熱処理を実施し、前記反応が行われた石英管を水で冷却した後インゴットを得た。前記インゴットを粒径75μm以下の粉末に細かく粉砕し、50MPaの圧力、600℃の温度で8分間放電プラズマ焼結法(SPS)により焼結してカルコゲン化合物を製造した。
【0056】
比較例7:VSn13.9Fe0.1SbTe17のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、Fe粉末、Sb shotおよびTe shotを13.9:0.1:2:17のモル比で重量を測定してカーボンルツボ(carbon crucible)に入れた後、石英管に装入した。石英管の内部は真空して密封した。そして、前記原料物質を750℃、12時間電気炉の内部で恒温維持した後常温に徐々に冷却した。次に640℃の温度で48時間熱処理を実施し、前記反応が行われた石英管を水で冷却した後インゴットを得た。前記インゴットを粒径75μm以下の粉末に細かく粉砕し、50MPaの圧力、600℃の温度で8分間放電プラズマ焼結法(SPS)により焼結してカルコゲン化合物を製造した。
【0057】
実施例1:VSn13.9In0.1SbTe17のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、In粉末、Sb shotおよびTe shotを13.9:0.1:2:17のモル比を用いたことを除いては比較例1と同様の方法によりカルコゲン化合物を製造した。
【0058】
実施例2:VSn13.8In0.2SbTe17のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、In粉末、Sb shotおよびTe shotを13.8:0.2:2:17のモル比を用いたことを除いては比較例1と同様の方法によりカルコゲン化合物を製造した。
【0059】
実施例3:VSn15.9In0.1SbTe19のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、In粉末、Sb shotおよびTe shotを15.9:0.1:2:19のモル比を用いたことを除いては比較例1と同様の方法によりカルコゲン化合物を製造した。
【0060】
実施例4:VSn15.8In0.2SbTe19のカルコゲン化合物の製造
高純度原料物質であるSn shot、In粉末、Sb shotおよびTe shotを15.8:0.2:2:19のモル比を用いたことを除いては比較例1と同様の方法によりカルコゲン化合物を製造した。
【0061】
実験例
1.XRDパターンによる相分析
実施例1~4、および比較例1~2で製造したカルコゲン化合物粉末に対して下記条件でX線回折分析を行い、その結果を図3に示した。また、比較例3~7で製造したカルコゲン化合物粉末に対しても同様方法でX線回折分析を行いその結果を図4に示した。
【0062】
X線回折分析は、前記実施例および比較例で製造したそれぞれのカルコゲン化合物試料をよく粉砕してX線回折分析機(Bruker D8-Advance XRD)のサンプルホルダに充填し、X線はCu Kα1(λ=1.5405Å)、印加電圧40kV、印加電流40mAで0.02度間隔でスキャンして測定した。
【0063】
図3に示すように、実施例1~4、および比較例1~2のカルコゲン化合物は、従来の面心立方格子構造を有すると知られているSnTeと同じ格子構造を有することが確認された。
【0064】
一方、図4に示すように、Sbの代わりにInを含む組成を有する比較例4のカルコゲン化合物およびInが置換されていない組成を有する比較例5のカルコゲン化合物もSnTeと同じ格子構造を有することが確認された。しかし、Inが過量に置換された比較例3、Sn、In、Sb、Teおよび空孔(V)をすべて含むが、空孔の含有量が1未満の比較例6、およびInの代わりにSnの一部をFeが置換した比較例7のカルコゲン化合物は、SnTeと類似の格子構造を有するが、SnサイトにInが置換された組成(Sn0.905In0.095Te)が混在されていることが確認された。したがって、比較例6および7の場合相異する組成を有する二次相の存在によって実施例に比べて熱電性能が低下することを予想することができる。
【0065】
上記した結果から、Sn:Teのモル比が(a-x):(a+3)(この時、14≦a≦16であり、0<x≦0.5)を満たす条件で空孔を含み、Snの一部をInが置換する場合、二次相の形成なしに安定した面心立方格子構造を有することがわかる。
【0066】
2.TOPASプログラムを用いた結晶構造の分析
TOPASプログラム(R.W.Cheary,A.Coelho,J.Appl.Crystallogr.25(1992)109-121;Bruker AXS,TOPAS 4.2,Karlsruhe,Germany(2009))を用いて、前記実験で得たXRD分析結果から実施例1~4、および比較例1~2の各粉末状態カルコゲン化合物の格子定数(Lattice parameter)を計算し、その結果を下記表1に示す。また、TOPASプログラムにより計算した実施例1~4、および比較例1~2のカルコゲン化合物のリートベルト構造検証(Rietveld refinement)の結果を下記表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
前記表1と2、および図2を参照してカルコゲン化合物の構造(scheme)を調べると、実施例1~4のカルコゲン化合物においてV(vacancy)、Sn、SbおよびInは(x,y,z)=(0,0,0)サイトにランダムに位置しており(random distribution)、Teの場合(0.5,0.5,0.5)サイトに位置している。これは前記表1に示すようにTOPASプログラムにより計算したリートベルト構造検証結果と同一であり、実際の組成を計算した結果初期に入れた標準組成(nominal composition)と非常に類似することがわかる。これにより実施例1~4のカルコゲン化合物は空孔(V)を含んでおり、Snの一部をInに置換することによってSnの濃度が減少することがわかる。
【0070】
また、前記表1を参照すると、面心立方格子構造内のInの含有量(x)が増加するほど格子定数値が徐々に減少した(比較例1>実施例1>実施例2)、(比較例2>実施例3>実施例4)。これはSn2+(118pm)の半径がIn3+(80pm)より大きいのでInの含有量が増加するほど、すなわちSnに対するIn置換量が増加するほど格子定数が減少することを意味する。
【0071】
また、[Sn]/[Sb]の比率が増加する場合、Sn2+(118pm)の半径がSb3+(76pm)半径より大きいので格子定数が増加することを確認することができる(比較例2>比較例1)、(実施例3>実施例1)、(実施例4>実施例2)。
【0072】
2.電気伝導度の温度依存性
実施例1~4、および比較例1~5で製造したカルコゲン化合物試験片に対して電気伝導度を温度変換に応じて測定し、その結果を図5に示す。前記電気伝導度の測定は比抵抗測定装置であるULVAC社のZEM-3を用い、直流4探針法により100~500℃の温度領域で行われた。
【0073】
図5を参照すると、比較例1~2の場合Sn含有量が増加するほど電気伝導度値が増加した。これはSn原子当たりSbに対して1個の電子(electron)を少なく供給するため(Sn2+vs.Sb3+比較)Sn含有量が増加するほど供給される電子の個数が減少し、逆に素材の主な電荷キャリアであるホール(hole)の濃度が増加するからである。
【0074】
また、比較例3の場合、SnサイトにInが置換されてSnの真性空孔(intrinsic vacancy)を占めることによってホール濃度を減少させ、また、空孔を占めて残ったInがIn3+として作用して供給される電子の個数を増加させることによって、主な電荷キャリアであるホール濃度を追加的に減少させる。その結果電気伝導度が急激に減少した。また、比較例3のカルコゲン化合物は比較例1~2、および実施例1~4とは異なり、測定温度が増加するほど電気伝導度が増加する傾向の半導体の特性を示した。
【0075】
また、比較例4は比較例5とは異なりSbを含まずInを含む場合であり、InがSbに比べて低い原子番号であるため供給される電子の個数が減少し、逆に主な電荷キャリアであるホール濃度を増加させ、比較例5に比べて高い電気伝導度を示した。
【0076】
一方、実施例1~2と比較例1を、および実施例3~4と比較例2を比較するとSnサイトをInが置換するほどInがSnの真性空孔を占めることによってホール濃度の減少により電気伝導度が相対的に減少することがわかる。
【0077】
3.ゼーベック係数の温度依存性
実施例1~4、および比較例1~5で製造されたカルコゲン化合物試験片に対してゼーベック係数(S)を温度変化に応じて測定し、その結果を図6に示す。前記ゼーベック係数の測定は測定装置ULVAC社のZEM-3を用い、differential voltage/temperature techniqueを適用して100~500℃の温度領域で行われた。
【0078】
図6に示すように、実施例1~4、および比較例1~5で正(+)のゼーベック係数を示すことから素材の主な電荷キャリアがホール(hole)であることが分かり、これはP型半導体素材としての特性を示す。
【0079】
比較例1~2でSn含有量が増加するほどゼーベック係数は減少する傾向を示す。
一方、比較例1と実施例1~2の場合、SnサイトにInを置換することによってゼーベック係数が増加する傾向が現れた。同様に比較例2と実施例3~4の場合にもSnサイトにInを置換することによってゼーベック係数が増加する傾向が現れた。これはゼーベック係数の場合、電荷キャリア濃度の側面から電気伝導度と反対傾向を有するからである(電荷キャリア濃度が大きいほど電気伝導度は増加するがゼーベック係数は減少する)。
【0080】
また、比較例3の場合、図5で確認したように半導体の電気伝導度特性を示すので、比較例1~2、および実施例1~4のゼーベック係数の変化傾向から外れ、比較例4の場合高い電気伝導度によって低いゼーベック係数を示す。
【0081】
4.出力因子の温度依存性
実施例1~4、および比較例1~5で製造したカルコゲン化合物試験片に対して出力因子を温度変化に応じて計算し、その結果を図7に示す。
【0082】
出力因子はPower factor(PF)=σSで定義され、図5および図6に示すσ(電気伝導度)およびS(ゼーベック係数)の値を用いて計算した。
【0083】
図7に示すように、比較例1~2は低温部では低い出力因子を示し、高温部に移動するほど出力因子が増加する傾向が確認された。
【0084】
また、比較例3の場合、低い電気伝導度と低いゼーベック係数によって低い出力因子を示した。比較例4の場合、低いゼーベック係数にもかかわらず高い電気伝導度の出力因子を示したが、測定温度が増加するほど出力因子が減少する傾向を示す。
【0085】
5.熱伝導度の温度依存性
実施例1~4、および比較例1~5で製造したカルコゲン化合物試験片に対して熱伝導度を温度変化に応じて測定し、その結果を図8に示す。
【0086】
詳細には、前記熱伝導度は熱伝導度測定装置であるNetzsch社のLFA467装置を用いてレーザー閃光法を適用し、熱拡散度(D)および熱容量(C)を測定した後、測定値を下記数式2に適用して熱伝導度(k)を算出した。
【0087】
[数2]
熱伝導度(k)=DρC
前記数式2において、Dは熱拡散度であり、Cは熱容量であり、ρはアルキメデス法で測定したサンプル密度である。
【0088】
また、総熱伝導度(k=k+k)は格子熱伝導度(k)とウィーデマン・フランツの法則(Wiedemann-Franz law)(k=LσT)により計算した熱伝導度(k)に区分され、ローレンツ数(L)は温度に応じたゼーベック係数から計算した値を用いた。
【0089】
図8を参照すると、比較例1~2はSnの含有量増加に伴い電荷濃度の増加によって総熱伝導度が増加するが、実施例1~4は比較例1~2に対して相対的に低い熱伝導度を示すことを確認した。これはIn置換によるホール電荷濃度の減少とこれに伴う電荷キャリアが寄与する熱伝導度が減少したことを意味する。これは図5の電気伝導度と同様の傾向を有する。
【0090】
6.熱電性能指数(ZT)の温度依存性
実施例1~4、および比較例1~5で製造したカルコゲン化合物試験片に対して熱電性能指数を温度変化に応じて計算し、その結果を図9に示す。
【0091】
熱電性能指数はZT=SσT/Kで定義され、上記した実験で得られたS(ゼーベック係数)、σ(電気伝導度)、T(絶対温度)およびk(熱伝導度)の値を用いて計算した。
【0092】
図9を参照すると、比較例1~2はSnの含有量増加に伴い低温部で低いZTを示し、高温部に移動するほどZTが増加するが、実施例1~4はSnサイトにInを置換するほど低温部から相対的に高いZTを示し、高温部では類似あるいは小幅高いZTを示した。特に、実施例3の場合ZTが約0.94(at500℃)で高い値を示した。
【0093】
7.平均熱電の特性
前記での実験結果に基づいて、100~500℃での平均出力因子(PFaverage)、平均熱伝導度(Ktot,average)、平均熱電性能指数(ZTaverage)を計算した。その結果を下記表3、および図10図13に示した。
【0094】
図10は実施例1~2、および比較例1のカルコゲン化合物でのインジウム置換量、すなわち化学式1におけるx値による出力因子の平均値を示すグラフであり、図11はこれら化合物の熱電性能指数の平均値を示すグラフである。また、図12は実施例3~4、および比較例2のカルコゲン化合物でのインジウム置換量による出力因子の平均値を示すグラフであり、図13はこれら化合物の熱電性能指数の平均値を示すグラフである。また、図10図13でインジウム置換量の単位はモル基準である。
【0095】
【表3】
【0096】
前記表3において100~500℃での平均熱伝導度を参照すると、実施例1~4は、比較例1~2に対して平均熱伝導度が18~28%減少したことを確認することができる。
【0097】
一方、図10(実施例1~2、および比較例1)と図12(実施例3~4、および比較例2)の出力因子の平均値結果から、SnサイトにInを置換した場合、およびInの置換量が増加するほど出力因子、特に低温部の平均出力因子が向上する傾向が確認された。これに対して前記表3を参照して、100~500℃区間の平均出力因子の計算時、実施例1~4の100~500℃での平均出力因子値が、比較例1および2に比べて約16~19%増加したことを確認することができる。
【0098】
また、図11(実施例1~2および比較例1)と図13(実施例3~4、および比較例2)の熱電性能指数の平均値(ZTave.)結果から、Snサイトに対するIn置換およびその置換量が増加するに伴い熱電性能指数の平均値も増加した。前記表3を参照して計算するとき、実施例1~4の100~500℃での平均ZT値は、比較例1~2に対して27~36%増加したことを確認することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13