(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】発酵乳及び発酵乳の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/127 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
A23C9/127
(21)【出願番号】P 2017189949
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-09-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】堀内 啓史
(72)【発明者】
【氏名】市村 武文
(72)【発明者】
【氏名】井上 暢子
(72)【発明者】
【氏名】高木 奈緒
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189709(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186151(WO,A1)
【文献】特表2017-522012(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102870877(CN,A)
【文献】国際公開第2014/084340(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/009951(WO,A1)
【文献】特開平10-056961(JP,A)
【文献】特開2000-032911(JP,A)
【文献】国際公開第2017/109532(WO,A1)
【文献】特開昭59-162833(JP,A)
【文献】Dairy Science & Technology,2016年,96,pp.199-211
【文献】O'LEARY, V.S. and WOYCHIK, J.H.,Utilization of Lactose, Glucose, and Galactose by a Mixed Culture of Streptococcus thermophilus and,Appl. Environ. Microbiol.,1976年,Vol.32, No.1,pp.89-94
【文献】MAKINO, S. and IKEGAMI, S.,Application of exopolysaccharides(EPS) produced from Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus, and,Jpn. J. Lactic Acid Bact.,2013年,Vol.24, No.1,pp.10-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C,A23B
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
CAPLUS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳を発酵させることにより製造される発酵乳であって、
前記原料乳の発酵が開始される前において、前記原料乳における乳糖濃度が前記原料乳の全量に対して2.5質量%以下であり、
前記発酵乳におけるブルガリア菌数が、23(×10
7cfu/g)以上100(×10
7cfu/g)以下であ
り、
前記発酵乳に含まれるブルガリア菌が、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1073R-1株、または、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクス2038株である、発酵乳。
【請求項2】
請求項1に記載の発酵乳であって、
前記発酵乳における乳糖濃度が、前記発酵乳の全量に対して1.25質量%以下である発酵乳。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の発酵乳であって、
EPSの量は、前記原料乳に含まれる乳糖を分解することなく前記原料乳を発酵させた発酵乳が含有するEPSの量の1.05倍以上4.2倍以下である、発酵乳。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発酵乳であって
、
前記発酵乳に含まれるブルガリア菌の数は、前記原料乳に含まれる乳糖を分解することなく前記原料乳を発酵させた発酵乳に含まれるブルガリア菌の数の1.08倍以上4.7倍以下である、発酵乳。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の発酵乳であって
、
25(mg/kg)以上100(mg/kg)以下のEP
Sを含有する発酵乳。
【請求項6】
原料乳を調製する調製工程と、
調製された原料乳に含まれる少なくとも一部の乳糖を、乳糖分解酵素を用いて分解する乳糖分解工程と
前記少なくとも一部の乳糖が分解された原料乳に乳酸菌を添加し、前記乳酸菌が添加された原料乳を発酵させる発酵工程と、を備え、
乳糖が分解された原料乳における乳糖濃度が、前記原料乳の全量に対して2.5質量%以下であり、
発酵乳におけるブルガリア菌数が、23(×10
7cfu/g)以上100(×10
7cfu/g)以下であ
り、
前記発酵乳に含まれるブルガリア菌が、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1073R-1株、または、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクス2038株である、発酵乳の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の発酵乳の製造方法であって、
前記発酵乳における乳糖濃度が、前記発酵乳の全量に対して1.25質量%以下である発酵乳の製造方法。
【請求項8】
請求項6または
請求項7に記載の発酵乳の製造方法であって、
EPSの量は、前記原料乳に含まれる乳糖を分解することなく前記原料乳を発酵させた発酵乳が含有するEPSの量の1.05倍以上4.2倍以下である、発酵乳の製造方法。
【請求項9】
請求項6ないし
請求項8のいずれかに記載の発酵乳の製造方法であって
、
前記発酵乳に含まれるブルガリア菌の数は、前記原料乳に含まれる乳糖を分解することなく前記原料乳を発酵させた発酵乳に含まれるブルガリア菌の数の1.08倍以上4.7倍以下である、発酵乳の製造方法。
【請求項10】
請求項6ないし
請求項9のいずれかに記載の発酵乳の製造方法であって、
前記発酵乳が
、25(mg/kg)以上100(mg/kg)以下のEP
Sを含有する発酵乳の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳及び発酵乳の製造方法に関し、さらに詳しくは、乳酸菌により生産される多糖体の量を制御する発酵乳及び発酵乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は、乳酸菌スターターが添加された原料乳を発酵させることにより製造される。ブルガリア菌や、サーモフィルス菌などの乳酸菌が、乳酸菌スターターとして使用される。乳酸菌の中には、菌体外多糖体(exopolysaccharide:EPS)を産生する菌株も多く存在する。
【0003】
EPSは、発酵乳の安定性に寄与するだけでなく、人体内に摂取することによりプロバイオティクスの効果が得られることが知られている。例えば、ブルガリア菌の一種であるOLL1073R-1株(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1株)により産生されるEPSには、自己免疫疾患を予防する効果があることが知られている。OLL1073R-1株を用いて製造された発酵乳には、NK細胞の活性化、感冒罹患の減少等の効果があることが知られている。
【0004】
このように、EPSを産生する乳酸菌や、乳酸菌により産生されるEPSを利用することにより、健康に寄与する機能性食品を提供することができる。このような機能性食品を効率的に製造するためには、機能性食品に含まれるEPSの量を高める必要がある。
【0005】
特許文献1には、リン酸塩が添加された原料乳を発酵させることにより、EPSの産生量を高めることができる発酵乳の製造方法が開示されている。リン酸塩は、発酵乳においてpH緩衝材として機能する。リン酸塩は、原料乳の発酵中において、乳酸菌が増殖することができるpH領域の期間を延長することができるため、乳酸菌由来のEPSの産生量を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、EPSを多く含む発酵乳と、EPSの産生量を高めることができる発酵乳の製造方法とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る発酵乳は、原料乳を発酵させることにより製造される。原料乳の発酵が開始される前において、原料乳における乳糖濃度が原料乳の全量に対して2.5質量%以下である。
【0009】
本開示に係る発酵乳において、発酵乳の乳糖濃度が、発酵乳の全量に対して1.25質量%以下であってもよい。
【0010】
本開示に係る発酵乳において、EPSの量は、原料乳に含まれる乳糖を分解することなく原料乳を発酵させた発酵乳が含有するEPSの量の1.05倍以上4.2倍以下であってもよい。
【0011】
本開示に係る発酵乳は、ブルガリア菌を含有してもよい。発酵乳に含まれるブルガリア菌の数は、原料乳に含まれる乳糖を分解することなく原料乳を発酵させた発酵乳に含まれるブルガリア菌の数の1.08倍以上4.7倍以下であってもよい。
【0012】
本開示に係る発酵乳において、ブルガリア菌であるOLL1073R-1株と、25(mg/kg)以上100(mg/kg)以下のEPSとを含有してもよい。
【0013】
本開示に係る発酵乳の製造方法は、調製工程と、乳糖分解工程と、発酵工程とを備える。調製工程は、原料乳を調製する。乳糖分解工程は、調製された原料乳に含まれる少なくとも一部の乳糖を、乳糖分解酵素を用いて分解する。発酵工程は、少なくとも一部の乳糖が分解された原料乳に乳酸菌を添加し、乳酸菌が添加された原料乳を発酵させる。乳糖が分解された原料乳における乳糖濃度が、原料乳の全量に対して2.5質量%以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る発酵乳は、従来の発酵乳よりも多くのEPSを含有することができる。また、本発明に係る発酵乳の製造方法は、原料乳に添加された乳酸菌スターターによるEPSの産生量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1~6に係る発酵乳におけるEPS含有量、ブルガリア菌数、サーモフィルス菌数を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0017】
[1.原料乳における乳糖濃度]
本実施の形態に係る発酵乳は、原料乳を発酵させることにより製造される。本実施の形態に係る発酵乳は、発酵を終了した原料乳のことである。本実施の形態に係る発酵乳の製造には、発酵開始前に乳糖が分解された原料乳が用いられる。発酵開始前における原料乳の乳糖濃度は、好ましくは、原料乳の全量に対して2.5質量%以下である。
【0018】
発酵開始前において、乳糖濃度が2.5質量%以下となるように原料乳に含まれる乳糖を分解することにより、本実施の形態に係る発酵乳に含まれるEPSの量及びブルガリア菌の数を、乳糖が分解されていない原料乳を発酵させた従来の発酵乳よりも増加させることができる。EPSとは、乳酸菌により産生される菌体外多糖体(exopolysaccharide:EPS)のことである。
【0019】
発酵開始前における原料乳の乳糖濃度は、より好ましくは、1質量%以下である。発酵開始前における乳糖濃度が1質量%以下である原料乳を発酵させた発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、より多くのEPS及びブルガリア菌を有する。
【0020】
発酵開始前における原料乳の乳糖濃度は、さらに好ましくは、0質量%である。発酵開始前における乳糖濃度が0質量%である原料乳を発酵させた発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、さらに多くのEPS及びブルガリア菌を有する。なお、乳糖濃度が0質量%であるとは、原料乳又は発酵乳から乳糖が検出されないことを示す。原料乳又は発酵乳に含まれる乳糖の検出方法は、特に限定されず、従来から知られている方法を使用することができる。
【0021】
[2.発酵乳の定義]
本実施の形態に係る発酵乳は、乳等省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)で定義された発酵乳及び乳酸菌飲料である。乳等省令における発酵乳は、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したものである。乳等省令における乳酸菌飲料は、乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料である。
【0022】
本実施の形態に係る発酵乳は、乳酸菌として、少なくともブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む。国連食糧農業機構(FAO)及び世界保健機構(WHO)により、ヨーグルトは、乳及び乳酸菌を原料とし、ブルガリア菌及びサーモフィルス菌の両者の菌による乳酸発酵作用により乳及び脱脂粉乳などの乳製品から作られると定義されているためである。
【0023】
本実施の形態において、「ブルガリア菌」とは、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)種の乳酸菌のことである。「サーモフィルス菌」とは、ストレプトコッカス・サーモフィルス
(Streptococcus thermophilus)種の乳酸菌のことである。
【0024】
なお、本実施の形態に係る発酵乳は、ブルガリア菌及びサーモフィルス菌以外の乳酸菌を含んでいてもよい。本実施の形態に係る例えば、発酵乳は、ガセリ菌、ビフィズス菌等を含んでいてもよい。ガセリ菌とは、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)種の乳酸菌のことである。ビフィズス菌とは、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(Bifidobacterium bifidum)種の乳酸菌のことである。
【0025】
以下の説明において、特に説明のない限り、本実施の形態に係る発酵乳(発酵開始前における乳糖濃度が2.5質量%以下である原料乳から製造された発酵乳を)を、単に「発酵乳」と簡略化して記載する。
【0026】
[3.発酵乳における乳糖濃度]
発酵乳は、発酵開始前における乳糖濃度が2.5質量%以下である原料乳を発酵させることにより得られる。原料乳が発酵している期間において、原料乳に含まれる乳糖は、ブルガリア菌及びサーモフィルス菌により消費される。従って、発酵乳の乳糖濃度は、原料乳の乳糖濃度よりも低く、好ましくは、発酵乳の全量に対して1.25質量%以下である。より好ましくは、発酵乳の乳糖濃度は、発酵乳の全量に対して0質量%である。
【0027】
[4.発酵乳におけるEPS含有量及びブルガリア菌数]
以下、本実施の形態に係る発酵乳に含まれるEPS含有量及びブルガリア菌数について具体的に説明する。
【0028】
本実施の形態に係る発酵乳は、発酵開始前の乳糖濃度が2.5質量%よりも高い原料乳から製造された従来の発酵乳よりも多くの量のEPSを含有する。以下、発酵開始前の乳糖濃度が2.5質量%よりも高い原料乳から製造された従来の発酵乳を、「従来の発酵乳」と記載する。
【0029】
具体的には、好ましくは、本実施の形態に係る発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、1.06倍以上4.2倍以下の量のEPSを含有する。より好ましくは、本実施の形態に係る発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、1.27倍以上4.2倍以下の量のEPSを含有する。さらに好ましくは、本実施の形態に係る発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、1.48倍以上4.2倍以下の量のEPSを含有する。ここで、発酵乳におけるEPS含有量の単位は、「mg/kg」である。
【0030】
本実施の形態に係る発酵乳は、従来の発酵乳よりも多くのブルガリア菌を含有する。具体的には、好ましくは、本実施の形態に係る発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、1.08倍以上4.7倍以下の数のブルガリア菌を含有する。より好ましくは、本実施の形態に係る発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、1.18倍以上4.7倍以下のブルガリア菌を含有する。さらに好ましくは、本実施の形態に係る発酵乳は、従来の発酵乳に比べて、1.65倍以上4.7倍以下のブルガリア菌を含有する。ここで、ブルガリア菌数の単位は、(×107cfu/g)である。
【0031】
(製造条件に応じたEPS含有量及びブルガリア菌数)
本実施の形態に係る発酵乳におけるEPS含有量及びブルガリア菌数は、製造条件に応じて変化する。以下、製造条件として、第1条件~第6条件を挙げ、各条件で製造した発酵乳におけるEPS含有量及びブルガリア菌数について、さらに詳しく説明する。
【0032】
第1条件~第3条件は、乳酸菌スターターとして明治プロビオヨーグルトR-1(株式会社明治製)から分離したブルガリア菌を使用する。第4条件~第6条件は、乳酸菌スターターとして明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治製)から分離したブルガリア菌を使用する。
【0033】
ここで、明治プロビオヨーグルトR-1から分離したブルガリア菌は、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1株であり、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにおいて受託番号FERM BP-10741で寄託されている。以下の説明において、明治プロビオヨーグルトR-1から分離したブルガリア菌を、「OLL1037R-1株」と記載する。明治ブルガリアヨーグルトLB81から分離したブルガリア菌を、「ブルガリア菌MB株」と記載する。
【0034】
(第1条件~第3条件)
第1条件は、OLL1073R-1株を、発酵開始前の乳糖濃度が2.5質量%以下である原料乳に添加して発酵乳を製造することである。
【0035】
第1条件で製造された発酵乳のEPS含有量は、25(mg/kg)以上100(mg/kg)以下である。第1条件で製造された発酵乳は、OLL1073R-1株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.06倍以上4.2倍以下の量のEPSを含有する。ここで、EPS含有量の上限「100(mg/kg)」は、乳酸菌が発酵乳に含まれる全ての糖分を消費した場合に産生されると想定される値である。
【0036】
第1条件で製造された発酵乳のブルガリア菌数は、23(×107cfu/g)以上100(×107cfu/g)以下である。第1条件で製造された発酵乳は、OLL1073R-1株を、OLL1073R-1株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.08倍以上4.7倍以下のブルガリア菌を含有する。
【0037】
第2条件は、OLL1073R-1株を、発酵開始前の乳糖濃度が1質量%以下である原料乳に添加して発酵乳を製造することである。つまり、第2条件における原料乳の乳糖濃度は、第1条件における原料乳の乳糖濃度よりも低い。
【0038】
第2条件で製造された発酵乳は、30(mg/kg)以上100(mg/kg)以下の量のEPSを含有する。第2条件で製造された発酵乳は、OLL1073R-1株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.27倍以上4.2倍以下の量のEPSを含有する。
【0039】
また、第2条件で製造された発酵乳は、25(×107cfu/g)以上100(×107cfu/g)以下のブルガリア菌を有する。第2条件で製造された発酵乳は、OLL1073R-1株を用いた発酵乳に比べて、1.18倍以上4.7倍以下のブルガリア菌を含有する。
【0040】
第3条件は、OLL1073R-1株を、発酵開始前の乳糖濃度が0質量%である原料乳に添加して発酵乳を製造することである。つまり、第3条件における原料乳の乳糖濃度は、第1条件及び第2条件における原料乳の乳糖濃度よりも低い。
【0041】
第3条件で製造された発酵乳は、35(mg/kg)以上100(mg/kg)以下のEPSを含む。第3条件で製造された発酵乳は、OLL1073R-1株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.48倍以上4.2倍以下の量のEPSを含有する。
【0042】
また、第3条件で製造された発酵乳は、35(×107cfu/g)以上100(×107cfu/g)以下のブルガリア菌を有する。第3条件で製造された発酵乳は、OLL1073R-1株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.65倍以上4.7倍以下のブルガリア菌を含有する。
【0043】
(第4条件~第6条件)
第4条件は、ブルガリア菌MB株を、発酵開始前の乳糖濃度が2.5質量%以下である原料乳に添加して発酵乳を製造することである。
【0044】
第4条件で製造された発酵乳は、50(mg/kg)以上100(mg/kg)以下の量のEPSを含有する。第4条件で製造された発酵乳は、ブルガリア菌MB株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.18倍以上2.36倍以下の量のEPSを含有する。
【0045】
また、第4条件で製造された発酵乳は、15(×107cfu/g)以上100(×107cfu/g)以下のブルガリア菌を有する。第4条件で製造された発酵乳は、ブルガリア菌MB株を用いた発酵乳に比べて、1.2倍以上8.0倍以下のブルガリア菌を含有する。
【0046】
第5条件は、ブルガリア菌MB株を、発酵開始前の乳糖濃度が1質量%以下である原料乳に添加して発酵乳を製造することである。つまり、第5条件における原料乳の乳糖濃度は、第4条件における原料乳の乳糖濃度よりも低い。
【0047】
第5条件で製造された発酵乳は、55(mg/kg)以上100(mg/kg)以下の量のEPSを含有する。第5条件で製造された発酵乳は、ブルガリア菌MB株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.3倍以上2.36倍以下の量のEPSを含有する。
【0048】
た、第5条件で製造された発酵乳は、25(×107cfu/g)以上100(×107cfu/g)以下のブルガリア菌を有する。第5条件で製造された発酵乳は、ブルガリア菌MB株を、発酵開始前の乳糖濃度が2.5質量%よりも高い原料乳に添加して製造した発酵乳に比べて、2.0倍以上8.0倍以下のブルガリア菌を含有する。
【0049】
第6条件は、ブルガリア菌MB株を、発酵開始前の乳糖濃度が0質量%である原料乳に添加して発酵乳を製造することである。つまり、第6条件における原料乳の乳糖濃度は、第4条件及び第5条件における原料乳の乳糖濃度よりも低い。
【0050】
第6条件で製造された発酵乳は、65(mg/kg)以上100(mg/kg)以下の量のEPSを含有する。第6条件で製造された発酵乳は、ブルガリア菌MB株を用いた従来の発酵乳に比べて、1.53倍以上2.36倍以下の量のEPSを含有する。
【0051】
また、第6条件で製造された発酵乳は、40(×107cfu/g)以上100(×107cfu/g)以下のブルガリア菌を有する。第6条件で製造された発酵乳は、ブルガリア菌MB株を用いた従来の発酵乳に比べて、3.2倍以上8倍以下のブルガリア菌を含有する。
【0052】
[5.発酵乳の製造方法]
以下、本実施の形態に係る発酵乳の製造方法について詳しく説明する。
【0053】
[5.1.調製工程]
調製工程では、原料乳が調製される。原料乳の調製に用いられる原料として、例えば、水、生乳、脱脂粉乳、全粉乳、バターミルク、バター、クリーム、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンなどが挙げられる。
【0054】
原料乳は、乳酸菌による乳酸発酵を行うための乳成分を含んでいればよい。このため、原料乳は、上記に列挙した全ての原料を含んでいなくてもよく、上記に列挙した原料以外の原料を使用してもよい。原料乳は、従来から知られている方法で調製される。例えば、上記に列挙した原料を混合することにより混合物を生成し、生成された混合物を均質化することにより、原料乳を調製することができる。このようにして調製された原料乳は、乳糖を含む。乳糖は、生乳、脱脂粉乳、全粉乳等の乳由来の原料に含まれている。
【0055】
[5.2.乳糖分解工程]
乳糖分解工程では、調製された原料乳にラクターゼを添加して、調製された原料乳に含まれる少なくとも一部の乳糖をラクターゼにより分解する。ラクターゼは、乳糖を分解して、グルコースとガラクトースとを生成する。添加されるラクターゼの至適pHが中性領域又は酸性領域であれば、添加されるラクターゼの種類は特に限定されない。例えば、市販されているラクターゼを原料乳に添加することができる。
【0056】
ラクターゼが添加された原料乳を、例えば0℃以上50℃以下の温度範囲で保持することにより、ラクターゼによる乳糖の分解を促進させることができる。好ましくは、原料乳における乳糖濃度が2.5質量%以下となるまで、原料乳に含まれる乳糖をラクターゼにより分解させる。調製工程により調製された原料乳における乳糖濃度が、例えば5質量%である場合、乳糖は、乳糖分解率が50%以上となるまでラクターゼにより分解される。
【0057】
より好ましくは、原料乳における乳糖濃度が1質量%以下となるまで、原料乳に含まれる乳糖をラクターゼにより分解させる。調製工程により調製された原料乳の乳糖濃度が、例えば5質量%である場合、乳糖は、乳糖分解率が80%以上となるまでラクターゼにより分解される。
【0058】
さらに好ましくは、原料乳における乳糖濃度が0質量%となるまで、原料に含まれる乳糖をラクターゼにより分解させる。この場合、調製工程により調製された原料乳の乳糖濃度に関係なく、乳糖は、乳糖分解率が100%となるまで、ラクターゼにより分解される。
【0059】
ラクターゼによる乳糖の分解は、ブルガリア菌及びサーモフィルス菌による原料乳の発酵が開始されるまでに行われる。発酵の開始タイミングは、例えば、乳酸菌スターター(ブルガリア菌及びサーモフィルス菌)を原料乳に添加するタイミングである。
【0060】
[5.3.殺菌工程]
殺菌工程では、乳糖がラクターゼにより分解された原料乳を加熱して殺菌する。原料乳の加熱殺菌には、従来から知られている方法を用いることができる。原料乳の加熱殺菌により、原料乳に添加されたラクターゼを失活させることができる。
【0061】
なお、殺菌工程を乳糖分解工程の前に行ってもよい。この場合、後述する発酵工程において、ラクターゼが乳糖の分解を継続することができるため、発酵乳の乳糖濃度をさらに低くすることができる。
【0062】
[5.4.発酵工程]
殺菌された原料乳に乳酸菌スターターを添加し、所定の発酵条件で原料乳を発酵させる。発酵の終了した原料乳が、本実施の形態に係る発酵乳として冷蔵される。
【0063】
発酵温度、発酵時間などの発酵条件は、原料乳に添加された乳酸菌スターターの種類や、求める発酵乳の風味などを考慮して適宜調整すればよい。例えば、原料乳を30℃以上50℃以下の環境下に置くことにより、乳酸菌による発酵を促進させることができる。発酵時間は、発酵温度、原料乳に添加された乳酸菌スターターの種類、発酵乳における希望乳酸酸度などに応じて適宜調整される。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態に係る発酵乳の製造方法は、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%以下となるように原料乳に含まれる乳糖を分解し、乳糖が分解された原料乳を発酵させる。このようにして製造された原料乳は、従来の発酵乳よりも多くのEPSを含有することができる。
【0065】
なお、上記実施の形態において、原料乳における発酵開始のタイミングが、乳酸菌スターターが原料乳に添加されるタイミングとして定義した。しかし、原料乳に添加された乳酸菌スターターの数は、誘導期(対数増殖期が開始されるまでの期間)において増加しないため、乳糖は、誘導期においてほとんど消費されない。このため、発酵開始のタイミングを、乳酸菌の対数増殖期が開始されるタイミングと定義することも可能である。この場合、殺菌工程が乳糖分解工程の前に行われる。つまり、ラクターゼは、加熱殺菌された原料乳に添加される。対数増殖期の開始タイミングを発酵開始のタイミングとした場合、ラクターゼによる乳糖の分解は、乳酸菌スターターを原料乳に添加した後においても継続する。対数増殖期の開始タイミングにおいて、原料乳における乳糖濃度が1.5質量%以下であればよい。
【実施例】
【0066】
以下、各実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の各実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
実施例1に係る発酵乳は、上述の第1条件で製造された発酵乳に対応する。
【0068】
生乳500.0g、脱脂粉乳53.2g、生クリーム23.0g、水道水403.6gを混合して原料乳を調製した。調製された原料乳の乳糖濃度は、5質量%であった。この調製した原料乳を5℃まで冷却した後に、ラクターゼ(GODO-YNL、合同酒精株式会社製)0.2gを原料乳に添加することにより、原料乳に含まれる乳糖を分解した。具体的には、原料乳における乳糖分解率が50%となるまで、乳糖の分解を継続した。乳糖分解率の計測方法については、後述する。乳糖の分解が終了した原料乳における乳糖濃度は、2.5質量%であった。その後、乳糖が分解された原料乳を95℃の温度で加熱殺菌し、加熱殺菌された原料乳を43℃の温度に冷却した。
【0069】
原料乳における乳糖分解率の計測方法について説明する。最初に、ラクターゼが添加される前の原料乳における固形分あたりの乳糖含量を計測する。次に、乳糖が分解された原料乳におけるグルコース濃度から、原料乳における固形分あたりのグルコース含量を計測する。
【0070】
乳糖分解率は、計測した乳糖含量及びグルコース含量を用いて、下記の式により計算される。
乳糖分解率(%)=[(グルコース含量×2)/乳糖含量]×100
【0071】
なお、乳糖含量は、高速液体クロマトグラフィーによるアルギニン蛍光法(BUNSEKI KAGAKU、第32巻、第E207頁、公益社団法人 日本分析化学会発行、1983年)を用いて計測することができる。グルコース含量は、例えば、メディセーフミニ(テルモ株式会社製)を用いて計測することができる。乳糖濃度は、原料乳における固形分濃度及び乳糖含量から計算することができる。
【0072】
次に、明治プロビオヨーグルトR-1(株式会社明治製)から分離された乳酸菌を、乳酸菌スターターとして加熱殺菌後の原料乳に添加した。明治プロビオヨーグルトR-1から分離された乳酸菌は、サーモフィルス菌と、ブルガリア菌であるOLL1073R-1株とを含む。乳酸菌スターターの添加量は、20gである。乳酸菌スターターが添加された原料乳をカップ容器(容量:100mL。プラスチック製)へ充填した。カップ容器に充填された原料乳を、温度43℃の発酵室おいて、乳酸酸度が0.7%となるまで静置発酵させた。
【0073】
静置発酵の終了したカップ入りの原料乳を、実施例1に係る発酵乳として10℃の冷蔵庫において冷却した。発酵終了直後における実施例1に係る発酵乳の乳糖濃度は、1.25質量%であった。
【0074】
また、冷却された実施例1に係る発酵乳のEPS含有量と、ブルガリア菌数と、サーモフィルス菌数とを計測した。
【0075】
発酵乳におけるブルガリア菌数及びサーモフィルス菌数は、従来から知られている方法で計測することができる。例えば、所定量の発酵乳を適宜希釈し、発酵乳の希釈液をBL培地に塗抹する。BL培地上に塗抹された生菌を、37℃の温度環境下で72時間嫌気的に培養し、培養された後のBL培地上のコロニーを測定することによって求めることができる。
【0076】
発酵乳のEPS含有量の計測方法について説明する。まず、実施例1に係る発酵乳10gを容量50mLのチューブに投入し、100%のトリクロロ酢酸1mLを、実施例1に係る発酵乳が投入されたチューブに添加した。チューブの内容物を撹拌し、撹拌された内容物を12000Gの相対遠心力で遠心分離した。遠心分離により得られた上清を、容量50mLの新たなチューブに移した。新たなチューブ内の上清を撹拌しながら、上清の2倍量のエタノールを新たなチューブ内の上清に添加した。上清とエタノールとの混合物を4℃の温度下で一晩静置した。静置された混合物を12000Gの相対遠心力で遠心分離し、遠心分離された混合物から上清を捨てた。10mLの精製水を、遠心分離された混合物における沈殿物に添加して、沈殿物を精製水に完全に溶解させた。口径0.45μmのフィルタ付きシリンジを用いて、沈殿物が溶解された精製水を高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)に注入した。そして、「注入開始時点から16分を経過する時刻付近において、RI検出器によって検出される単一ピークのピーク面積」の「全ピーク面積」に対する割合を、実施例1に含まれるEPSの含有量とした。
【0077】
HPLCの分析条件は、以下の通りである。
HPLCシステム:ACQUITY UPLC H-Class(Waters)
カラム :OHpak SB-806HQ、SB-G(Shodex)
カラム温度 :40℃
溶媒 :0.2M NaCl水溶液
流速 :0.5mL/min
検出器 :RI detector 2414(Waters)
検出温度 :40℃
サンプルインジェクション:150μL
分析時間 :50min
【0078】
[実施例2]
実施例2に係る発酵乳は、上述の第2条件で製造された発酵乳に対応する。実施例2に係る発酵乳は、乳糖分解率が80%となるまで原料乳に含まれる乳糖をラクターゼにより分解する点を除き、上記実施例1と同じである。実施例2に係る原料乳における乳糖濃度は、発酵開始前において1質量%であった。実施例2に係る発酵乳における乳糖濃度は、発酵終了直後において0質量%であった。つまり、発酵終了直後において、乳糖が実施例2に係る発酵乳から検出されなかった。
【0079】
[実施例3]
実施例3に係る発酵乳は、上述の第3条件で製造された発酵乳に対応する。実施例3に係る発酵乳の製造工程は、乳糖分解率が100%となるまで原料乳に含まれる乳糖をラクターゼにより分解する点を除き、上記実施例1と同じである。実施例3に係る原料乳における乳糖濃度は、発酵開始前において0質量%であった。実施例3に係る発酵乳における乳糖濃度は、発酵終了直後において0質量%であった。つまり、発酵開始前及び発酵終了直後の両者において、乳糖が実施例3に係る発酵乳から検出されなかった。
【0080】
[比較例1]
比較例1に係る発酵乳は、OLL1073R-1株を用いた従来の発酵乳に対応する。
【0081】
比較例1に係る発酵乳の製造工程では、実施例1における製造方法から乳糖分解工程が省略されている。比較例1に係る原料乳における乳糖分解率は、0%であり、比較例1に係る原料乳における乳糖濃度は、発酵開始前において5質量%であった。比較例1に係る発酵乳における乳糖濃度は、発酵終了直後において3.75質量%であった。
【0082】
[実施例4]
実施例4に係る発酵乳は、上述の第4条件で製造された発酵乳に対応する。実施例4に係る発酵乳の製造工程は、乳酸菌スターターがOLL1073R-1株ではなく、ブルガリア菌MB株である点を除き、実施例1に係る発酵乳の製造工程と同じである。実施例4に係る原料乳における乳糖濃度は、発酵開始前において2.5質量%であった。実施例4に係る発酵乳における乳糖濃度は、発酵終了直後において1.25質量%であった。
【0083】
[実施例5]
実施例5に係る発酵乳は、上述の第5条件で製造された発酵乳に対応する。乳酸菌スターターがOLL1073R-1株ではなくブルガリア菌MB株である点を除き、実施例5に係る発酵乳の製造工程は、実施例4に係る発酵乳の製造工程と同じである。実施例5に係る原料乳における乳糖濃度は、発酵開始前において1質量%であった。実施例5に係る発酵乳における乳糖濃度は、発酵終了直後において0質量%であった。つまり、発酵終了直後において、乳糖が実施例5に係る発酵乳から検出されなかった。
【0084】
[実施例6]
実施例6に係る発酵乳は、上述の第6条件で製造された発酵乳に対応する。実施例6に係る発酵乳の製造工程は、乳酸菌スターターがOLL1073R-1株ではなく、ブルガリア菌MB株である点を除き、実施例5に係る発酵乳の製造工程と同じである。実施例6に係る原料乳における乳糖濃度は、発酵開始前において0質量%であった。実施例6に係る発酵乳における乳糖濃度は、発酵終了直後において0質量%であった。つまり、発酵開始前及び発酵終了直後の両者において、乳糖が実施例6に係る発酵乳から検出されなかった。
【0085】
[比較例2]
比較例2に係る発酵乳は、ブルガリア菌MB株を用いた従来の発酵乳に対応する。比較例2に係る発酵乳の製造工程は、乳酸菌スターターがOLL1073R-1株ではなく、ブルガリア菌MB株である点を除き、比較例1に係る発酵乳の製造工程と同じである。比較例2に係る原料乳における乳糖分解率は、0%であり、比較例2に係る原料乳における乳糖濃度は、発酵開始前において5質量%であった。比較例2に係る発酵乳における乳糖濃度は、発酵終了直後において3.75質量%であった。
【0086】
[考察]
図1は、実施例1~6及び比較例1~2に係る発酵乳におけるEPS含有量と、ブルガリア菌数と、サーモフィルス菌数とを示す表である。
図1を参照しながら、原料乳の乳糖濃度と発酵乳のEPS含有量との関係と、原料乳の乳糖濃度と発酵乳のブルガリア菌数との関係とを説明する。
【0087】
[原料乳の乳糖濃度とEPS含量との関係]
(OLL1073R-1株が乳酸菌スターターである場合)
図1において、実施例1~3及び比較例1の発酵乳における各々のEPS含有量を参照する。OLL1073R-1株が乳酸菌スターターである場合、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が低くなるにつれて、EPS含有量が増加する。
【0088】
具体的には、比較例1において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が5質量%であり、発酵乳のEPS含有量が23.6(mg/kg)である。実施例1において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%であり、発酵乳のEPS含有量が26.2(mg/kg)である。実施例2において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が1質量%であり、発酵乳のEPS含有量が31.6(mg/kg)である。実施例3において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が0質量%であり、発酵乳のEPS含有量が36.5(mg/kg)である。
【0089】
実施例1~3と比較例1との比較結果から、OLL1073R-1株が乳酸菌スターターである場合、発酵開始前における乳糖濃度が2.5質量%以下である原料乳から発酵乳を製造することにより、発酵乳のEPS含有量を増加させることができること明らかとなった。
【0090】
(ブルガリア菌MB株が乳酸菌スターターである場合)
図1を参照して、実施例4~6及び比較例2の発酵乳における各々のEPS含有量を参照する。ブルガリア菌MB株が乳酸菌スターターである場合、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が低くなるにつれて、EPS含有量が増加する。
【0091】
具体的には、比較例2において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が5質量%であり、発酵乳のEPS含有量が42.4(mg/kg)である。実施例4において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%であり、発酵乳のEPS含有量が52.4(mg/kg)である。実施例5において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が1質量%であり、発酵乳のEPS含有量が59.3(mg/kg)である。実施例6において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が0質量%であり、発酵乳のEPS含有量が69.6(mg/kg)である。
【0092】
実施例4~6と比較例2との比較結果から、ブルガリア菌MB株が乳酸菌スターターである場合、発酵開始前における乳糖濃度が2.5質量%以下である原料乳から発酵乳を製造することにより、発酵乳のEPS含有量を増加させることができることが明らかとなった。
【0093】
つまり、実施例1~6及び比較例1~2の結果から、ブルガリア菌を乳酸菌スターターとして使用し、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%以下となるように乳糖を分解することによって、発酵乳に含まれるEPS含有量を効率的に増加させることができることが明らかとなった。
【0094】
[原料乳の乳糖濃度とブルガリア菌数との関係]
(OLL1073R-1株が乳酸菌スターターである場合)
図1を参照して、実施例1~3及び比較例1の発酵乳における各々のブルガリア菌数を参照する。
【0095】
比較例1において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が5質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が21.2(×107
cfu/g)である。実施例1において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が24.7(×107
cfu/g)である。実施例2において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が1質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が25.3(×107
cfu/g)である。実施例3において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が0質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が37.9(×107
cfu/g)である。
【0096】
OLL1073R-1株が乳酸菌スターターである場合、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が低くなるにつれて、ブルガリア菌数が増加する。発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が最小(0質量%)であるときに、発酵乳のブルガリア菌数が最大となる。発酵開始前における原料乳の乳糖を2.5質量%以下となるように原料乳に含まれる乳糖を分解した場合、原料乳に含まれるOLL1073R-1株が発酵工程において活性化し、OLL1073R-1株由来のEPSが効率よく産生されたと考えられる。
【0097】
図1における実施例1~3及び比較例1のサーモフィルス菌数を参照する。実施例1~3に係る発酵乳のサーモフィルス菌数は、比較例1に係る発酵乳のサーモフィルス菌数よりも多い。つまり、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%以下となるように原料乳の乳糖を分解した場合、サーモフィルス菌数を増加させることができる。しかし、サーモフィルス菌数は、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が1質量%である実施例2において最大であるため、乳糖濃度とサーモフィルス菌数との関係は、乳糖濃度とブルガリア菌数との関係のように明確ではない。上述のように、ブルガリア菌数は、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が低くなるにつれて増加することから、ブルガリア菌が、サーモフィルス菌よりもEPS含有量の増加に寄与していると考えられる。
【0098】
このように、実施例1~3及び比較例1の結果から、OLL1073R-1株が乳酸菌スターターとして用いた場合において、発酵開始前における原料乳の乳糖を2.5質量%以下とすることにより、発酵乳のEPS含有量を増加させることができることが明らかとなった。
【0099】
(ブルガリア菌MB株が乳酸菌スターターである場合)
図1を参照して、実施例4~6及び比較例2の発酵乳における各々のブルガリア菌数を参照する。
【0100】
比較例2において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が5質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が12.5(×107
cfu/g)である。実施例4において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が18.0(×107
cfu/g)である。実施例5において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が1質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が26.5(×107
cfu/g)である。実施例6において、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が0質量%であり、発酵乳のブルガリア菌数が41.0(×107
cfu/g)である。
【0101】
ブルガリア菌MB株が乳酸菌スターターである場合、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が低くなるにつれて、ブルガリア菌数が増加する。発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が最小(0質量%)であるときに、発酵乳のブルガリア菌数が最大となる。発酵開始前における原料乳の乳糖を2.5質量%以下となるように原料乳に含まれる乳糖を分解した場合、原料乳に含まれるブルガリア菌MB株が発酵工程において活性化し、ブルガリア菌MB株由来のEPSが効率よく産生されたと考えられる。
【0102】
図1における実施例4~6及び比較例2のサーモフィルス菌数を参照する。実施例4~6に係る発酵乳のサーモフィルス菌数は、比較例2に係る発酵乳のサーモフィルス菌数よりも多い。つまり、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%以下となるように原料乳の乳糖を分解した場合、サーモフィルス菌数を増加させることができる。しかし、サーモフィルス菌数は、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%、1質量%である実施例1、2において最大であり、乳糖濃度とサーモフィルス菌数との関係は、乳糖濃度とブルガリア菌数との関係のように明確ではない。上述のように、ブルガリア菌数は、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が低くなるにつれて増加することから、ブルガリア菌が、サーモフィルス菌よりもEPS含有量の増加に寄与していると考えられる。
【0103】
このように、実施例4~6及び比較例1の結果から、ブルガリア菌MB株が乳酸菌スターターとして用いた場合において、発酵開始前における原料乳の乳糖を2.5質量%以下とすることにより、発酵乳のEPS含有量を増加させることができることが明らかとなった。
【0104】
実施例1~6及び比較例1~2の結果から、乳酸菌スターターとしてブルガリア菌を使用し、発酵開始前における原料乳の乳糖濃度が2.5質量%以下となるように原料乳に含まれる乳糖を分解することにより、発酵乳に含まれるEPSを効率的に産生できることが明らかとなった。
【0105】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。