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特許7110021拡散剤組成物、及び半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】拡散剤組成物、及び半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/225 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
H01L21/225 D
H01L21/225 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018140455
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2019033252
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2017151973
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優
(72)【発明者】
【氏名】久保 慧輔
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-046302(JP,A)
【文献】特開2016-219734(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029858(WO,A1)
【文献】特開昭59-080466(JP,A)
【文献】特表2012-514330(JP,A)
【文献】特開2017-011252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板への不純物拡散に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、シランカップリング剤(B)とを含み、
前記不純物拡散成分(A)が、下記式(a1):
【化1】
(式(a1)中、R a1 は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、R a2 は、水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、ただしR a1 及びR a2 の少なくとも一方は炭化水素基であり、R a3 は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基である。)
で表されるホウ素化合物;又はリン酸トリス(トリメチルシリル)、及び/もしくは亜リン酸トリス(トリメチルシリル)を含み、
前記シランカップリング剤(B)は、加水分解によりシラノール基を生成させる基とアルキル基とを有し、
前記アルキル基の少なくとも1つは、鎖中及び/又は末端に第一級アミノ基、第二級アミノ基並びに第三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ基を有する、拡散剤組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤が、下記式(1):
N-R-Si(R(OR(3-m)・・・(1)
(式(1)中、Rはアルキレン基であり、Rとしてのアルキレン基は、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基から選択される1以上のアミノ基により中断されてもよく、Rはケイ素原子にC-Si結合により結合する1価の有機基であり、Rはアルキル基であり、mは0以上2以下の整数である。)
で表されるシランカップリング剤を含む、請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項3】
半導体基板上に請求項1又は2に記載の拡散剤組成物を塗布することによる塗布膜の形成と、
前記拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の、前記半導体基板への拡散とを含む、半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記拡散剤組成物の塗布中又は塗布後に、有機溶剤によるリンスを行う、請求項3に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記不純物拡散成分(A)の拡散に供される、前記塗布膜の膜厚が、5nm以上100nm以下である、請求項3又は4に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板に不純物拡散成分を拡散させるために用いられる拡散剤組成物と、当該拡散剤組成物を用いる、半導体基板の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ、ダイオード、太陽電池等の半導体素子に用いられる半導体基板は、半導体基板にリンやホウ素等の不純物拡散成分を拡散させて製造されている。かかる半導体基板について、Fin-FET、ナノワイヤーFET等のマルチゲート素子用の半導体基板を製造する際には、例えばナノメートルスケールの微小な空隙を有する3次元構造をその表面に有する半導体基板に対して不純物の拡散が行われることがある。
【0003】
ここで、半導体基板に不純物拡散成分を拡散させる方法としては、例えば、イオン注入法(例えば特許文献1を参照)やCVD法(例えば特許文献2を参照)が知られている。イオン注入法では、イオン化された不純物拡散成分が半導体基板の表面に打ち込まれる。CVD法では、リンやホウ素等の不純物拡散成分がドープされたケイ素酸化物等の酸化物膜をCVDにより半導体基板上に形成した後、酸化物膜を備える半導体基板を電気炉等により加熱して、不純物拡散成分を酸化物膜から半導体基板に拡散される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平06-318559号公報
【文献】国際公開第2014/064873号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるようなイオン注入法では、半導体基板にB(ホウ素)のような軽イオンを注入する場合には基板の表面付近の領域に点欠陥や点欠陥クラスターが形成されやすい。例えば、半導体基板にイオン注入法により不純物拡散成分を拡散させて、CMOSイメージセンサーのような素子を形成する場合、このような欠陥の発生が素子の性能の低下に直結してしまう。
【0006】
また、半導体基板が、例えば、複数のソースのフィンと、複数のドレインのフィンと、それらのフィンに対して直交するゲートとを備える、Fin-FETと呼ばれるマルチゲート素子を形成するための立体構造のようなナノスケールの3次元構造を、その表面に有する場合、イオン注入法では、フィンやゲートの側面及び上面や、フィンとゲートとに囲まれた凹部の内表面全面に対する、均一なイオンの打ち込みが困難である。
ナノスケールの三次元構造を有する半導体基板への不純物の拡散の不均一性は、前述のCMOSイメージセンサーのような素子の性能低下の要因でもある。
【0007】
そして、ナノスケールの3次元構造を有する半導体基板に、イオン注入法により不純物拡散成分を拡散させる場合、仮に、均一なイオンの打ち込みが出来たとしても、以下のような不具合がある。例えば、微細なフィンを有する立体パターンを備える半導体基板を用いてロジックLSIデバイス等を形成する場合、イオン注入によってシリコン等の基板材料の結晶が破壊されやすい。かかる結晶のダメージは、デバイスの特性のバラツキや、待機リーク電流の発生のような不具合を招くと考えられる。
【0008】
また、特許文献2に記載されるようなCVD法を適用する場合、オーバーハング現象によって、フィンとゲートとに囲まれた凹部の内表面全面を、膜厚が均一な不純物拡散成分を含む酸化物膜で被覆することが困難であったり、フィンとゲートとに囲まれた凹部の開口部に堆積した酸化物により開口部が閉塞したりする問題がある。このように、イオン注入法やCVD法では、半導体基板の表面形状によっては、半導体基板に良好且つ均一に不純物拡散成分を拡散させることが困難である。
【0009】
ナノスケールの3次元構造を、その表面に有する半導体基板において、不純物拡散成分の拡散の均一性を高めるためには、塗布型の拡散剤組成物を用いることが考えられる。
ナノスケールの微小な空隙を有する三次元構造をその表面に備える基板において、微小な空隙の内表面全面を含む全表面に塗布型の拡散剤組成物を均一に塗布できれば、かかる立体的な表面を有する半導体基板において、ホウ素等の不純物を均一に拡散させることができる。
【0010】
しかしながら、塗布型の拡散剤組成物を用いる場合であっても、拡散剤組成物の組成によっては、半導体基板に良好に不純物拡散成分を拡散させにくい場合がある。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、半導体基板中に不純物拡散成分を良好に拡散させることができる拡散剤組成物、及び当該拡散剤組成物を用いる半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、不純物拡散成分(A)を含む拡散剤組成物に、少なくとも1つのアミノ基を有するアルキル基を有するシランカップリング剤を含有させることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
本発明の第1の態様は、半導体基板への不純物拡散に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と、シランカップリング剤(B)とを含み、
シランカップリング剤(B)は、加水分解によりシラノール基を生成させる基とアルキル基とを有し、
アルキル基の少なくとも1つは、鎖中及び/又は末端に第一級アミノ基、第二級アミノ基並びに第三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ基を有する、拡散剤組成物である。
【0014】
本発明の第2の態様は、
半導体基板上に第1の態様に係る拡散剤組成物を塗布することによる塗布膜の形成と、
拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の、半導体基板への拡散とを含む、半導体基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体基板中に不純物拡散成分を良好に拡散させることができる拡散剤組成物、及び当該拡散剤組成物を用いる半導体基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
≪拡散剤組成物≫
半導体基板への不純物拡散に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と、シランカップリング剤(B)とを含む。
以下、拡散剤組成物が含む、必須又は任意の成分について説明する。
【0018】
〔不純物拡散成分(A)〕
不純物拡散成分(A)は、従来から半導体基板へのドーピングに用いられている成分であれば特に限定されず、p型ドーパントであっても、n型ドーパントであってもよい。p型ドーパントとしては、ホウ素、ガリウム、インジウム、及びアルミニウム等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。n型ドーパントとしては、リン、ヒ素、及びアンチモン等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。
【0019】
以下、ホウ素化合物、及びリン化合物にて、それぞれ説明する。
【0020】
(ホウ素化合物)
ホウ素化合物としては、本願発明の効果を示す化合物であれば特に限定されない。好ましいホウ素化合物としては、下記式(a1)~(a4):
【化1】
(式(a1)中、Ra1は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra2は、水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、ただしRa1及びRa2の少なくとも一方は炭化水素基であり、Ra3は、炭素原子数1以上10以下の2価の脂肪族炭化水素基であり、
式(a2)中、Ra4は、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra5は、水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra6は炭素原子数1以上10以下の2価の脂肪族炭化水素基であり、
式(a3)中、Ra7は、それぞれ独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra8は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra9は、炭素原子数1以上10以下の2価の炭化水素基であり、pは、0又は1であり、
式(a4)中、Ra10は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra11は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、ただしRa10及びRa11の少なくとも一方は炭化水素基であり、Ra12は、それぞれ独立に炭素原子数1以上10以下の2価の炭化水素基である。)
で表される化合物からなる群より選択される1種以上のホウ素化合物が挙げられる。
【0021】
(式(a1)で表される化合物)
式(a1)において、Ra1は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra2は、水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra3は、炭素原子数1以上10以下の2価の脂肪族炭化水素基である。ただし、Ra1及びRa2の少なくとも一方は炭化水素基である。
a1及びRa2としての、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であっても、芳香族炭化水素基であっても、これらを組み合わせた基であってもよい。
炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、及びn-デシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、及びシクロデシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基(2-プロペニル基)、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、及び5-ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、ナフタレン-1-イル基、ナフタレン-2-イル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基、及びフェネチル基等のアラルキル基;o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、及びp-エチルフェニル基等のアルキル置換された芳香族炭化水素基が挙げられる。
a1としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましい。Ra2としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましい。
【0022】
a3としての脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であるのが好ましい。Rの好適な例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、及びデカン-1,10-ジイル基である。
a3としては、エタン-1,2-ジイル基、及びプロパン-1,3-ジイル基が好ましい。
【0023】
(式(a2)で表される化合物)
式(a2)において、Ra4は、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra5は、水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra6は炭素原子数1以上10以下の2価の脂肪族炭化水素基である。
a4及びRa5としての、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基の好適な例としては、Ra1及びRa2の好適な例と同様である。Ra4としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましい。Ra5としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましい。
a6としての、炭素原子数1以上10以下の2価の脂肪族炭化水素基の好適な例としては、Ra3の好適な例と同様である。Ra6としては、プロパン-1,3-ジイル基、及びブタン-1,4-ジイル基が好ましい。
【0024】
(式(a3)で表される化合物)
式(a3)において、Ra7は、それぞれ独立に炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra8は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra9は、炭素原子数1以上10以下の2価の炭化水素基であり、pは、0又は1である。pは、1が好ましい。
a7及びRa8としての、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基の好適な例としては、Ra1及びRa2の好適な例と同様である。Ra7としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましく、tert-ブチル基、及びベンジル基がより好ましい。Ra8としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基がより好ましい。
a9としての、炭素原子数1以上10以下の2価の脂肪族炭化水素基の好適な例としては、Ra3の好適な例と同様である。Ra9としては、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、及びブタン-1,4-ジイル基が好ましい。
【0025】
(式(a4)で表される化合物)
式(a4)において、Ra10は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、Ra11は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1以上10以下の炭化水素基であり、ただしRa10及びRa11の少なくとも一方は炭化水素基であり、Ra12は、それぞれ独立に炭素原子数1以上10以下の2価の炭化水素基である。
a10及びRa11としての、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基の好適な例としては、Ra1及びRa2の好適な例と同様である。Ra10としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましく、tert-ブチル基、及びベンジル基がより好ましい。Ra11としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、及びベンジル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基がより好ましい。
a12としての、炭素原子数1以上10以下の2価の脂肪族炭化水素基の好適な例としては、Ra3の好適な例と同様である。Ra12としては、メチレン基、及びエタン-1,2-ジイル基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0026】
以上説明した、式(a1)~式(a4)で表される化合物の中では、合成や入手が容易である点や、不純物拡散成分を良好に拡散させやすいことから式(a1)で表される化合物が好ましい。
【0027】
式(a1)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【化2】
【0028】
(リン化合物)
リン化合物としては、リン酸トリス(トリアルキルシリル)、亜リン酸トリス(トリアルキルシリル)、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類等が挙げられる。これらの中では、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、及び亜リン酸トリエチルがより好ましい。
【0029】
不純物拡散成分(A)がリン化合物を含む場合、不純物拡散成分は、リン酸トリス(トリメチルシリル)、及び/又は亜リン酸トリス(トリメチルシリル)を含むのが好ましい。
【0030】
拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の含有量は特に限定されない。不純物拡散成分(A)の含有量は、拡散剤組成物の全質量に対して、0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、0.5質量%以上20質量%以下がより好ましく、1質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
【0031】
〔シランカップリング剤(B)〕
拡散剤組成物はシランカップリング剤(B)を含む。
シランカップリング剤(B)は、加水分解によりシラノール基を生成させる基とアルキル基とを有し、当該アルキル基の少なくとも1つは、鎖中及び/又は末端に第一級アミノ基、第二級アミノ基並びに第三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ基を有する。
かかるシランカップリング剤(B)を含む拡散剤組成物を用いることにより、拡散剤組成物を用いて形成される塗布膜から、半導体基板中に不純物拡散成分を良好に拡散させやすい。これは、分子中のアミノ基の影響によりシランカップリング剤(B)同士の加水分解縮合が良好に進行しやすく、塗布膜の膜厚を厚くできて、不純物拡散成分(A)が高濃度に導入されやすいためだと思われる。
【0032】
本明細書において、上記「鎖中及び/又は末端に」これらのアミノ基を有するとは、具体的には、アルキル基(以下、本段落において、-C2n+1(nは整数)で表される、通常の意味におけるアルキル基をいう。)の鎖中に第二級アミノ基及び第三級アミノ基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ基が介在すること、アルキル基の鎖中の第二級炭素原子又は第三級炭素原子にアミノ基が結合していること、並びに/又は、アルキル基の末端の炭素原子にアミノ基(-NH;第一級アミノ基)が結合していることを意味する。アルキル基の鎖中に第三級アミノ基が介在する場合、アルキル基の鎖中に介在する第二級アミノ基における水素原子がアルキル基に置換された構造に相当する。
【0033】
アミノ基としては、第一級アミノ基及び第二級アミノ基が好ましい。
シランカップリング剤1分子当りのアミノ基は、本発明の効果を達成する観点から、好ましくは1個以上5個以下であるが、より好ましくは1個以上3個以下であり、1個のみであっても本発明の効果を達成することができる。
【0034】
シランカップリング剤(B)が有する加水分解によりシラノール基を生成させる基としては、シランカップリング剤(B)のケイ素原子に結合する、アルコキシ基、イソシアネート基、ジメチルアミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素原子数1以上5以下の、直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、及びn-ブトキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0035】
加水分解によりシラノール基を生成させる基としては、速やかに加水分解されやすいことと、シランカップリング剤(B)の取り扱い性や入手の容易性の点から、及び炭素原子数1以上5以下の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコキシ基又はイソシアネート基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基又はイソシアネート基がより好ましい。
【0036】
シランカップリング剤(B)は、下記式(1):
N-R-Si(R(OR(3-m)・・・(1)
(式(1)中、Rはアルキレン基であり、Rとしてのアルキレン基は、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基から選択される1以上のアミノ基により中断されてもよく、Rはケイ素原子にC-Si結合により結合する1価の有機基であり、Rはアルキル基であり、mは0以上2以下の整数である。)
で表されるシランカップリング剤を含むのが好ましい。
【0037】
についての、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基から選択される1以上のアミノ基により中断されてもよいアルキレン基としては、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基から選択される1以上(例えば、1又は2)のアミノ基により中断されてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキレン基が挙げられる。当該アルキレン基の炭素原子数は1以上8以下が好ましく、1以上7以下がより好ましい。Rとしては、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基から選択される1以上(例えば、1又は2)のアミノ基により中断されていない炭素原子数1以上6以下のアルキレン基であることが特に好ましい。
の好適な具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、及びブタン-1,4-ジイル基や、それら2価の基と、1又は2個のアミノ基とを組み合わせてなる2価の基等が挙げられる。
【0038】
についての、ケイ素原子にC-Si結合により結合する1価の有機基としては、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。当該有機基の好適な例としては、炭化水素基等が挙げられる。炭化水素基の炭素原子数は1以上20以下が好ましい。
中でも、鎖状又は環状のアルキル基、芳香族炭化水素基又はアラルキル基であることがより好ましい。
【0039】
鎖状又は環状のアルキル基としては、炭素原子数1以上12以下の鎖状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。
【0040】
芳香族炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。
【0041】
アラルキル基としては、炭素原子数1以上12以下のアラルキル基が挙げられ、具体的には、ベンジル基、フェネチル基、α-ナフチルメチル基、β-ナフチルメチル基、2-α-ナフチルエチル基、及び2-β-ナフチルエチル基が挙げられる。
についての、ケイ素原子にC-Si結合により結合する1価の有機基としては、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
についてのアルキル基としては、炭素原子数1以上12以下の鎖状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。
mは0又は1であることが好ましく、mは0であることがより好ましい。
【0042】
シランカップリング剤(B)の好ましい具体例としては、下記式(a)~(f)で各々表される、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-[2-(2-アミノエチルアミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン等が挙げられる。
これらのシランカップリング剤(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これら化合物の部分加水分解縮合物もシランカップリング剤(B)として使用できる。
【0043】
シランカップリング剤(B)の質量における上記式(1)で表されるシランカップリング剤の質量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0044】
拡散剤組成物中のシランカップリング剤(B)の含有量は特に限定されないが、拡散剤組成物の全質量に対して、0.01質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.03質量%以上3.0質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上2.0質量%以下が特に好ましい。拡散剤組成物がこのような濃度でシランカップリング剤(B)を含有することにより、拡散剤組成物を用いて形成された塗布膜から不純物拡散成分(A)を良好に半導体基板に拡散させやすい。
【0045】
〔有機溶剤(S)〕
拡散剤組成物は、塗布により所望する膜厚の塗布膜を形成しやすい点で、溶媒として有機溶剤(S)を含むことが好ましい。有機溶剤(S)の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
【0046】
また、拡散剤組成物は、シランカップリング剤(B)を含むため、実質的に水を含まないことが好ましい。拡散剤組成物中が実質的に水を含まないとは、シランカップリング剤(B)が、その添加による所望する効果が得られない程度まで加水分解されてしまう量の水を、拡散剤組成物が含有しないことを意味する。
【0047】
有機溶剤(S)の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコール類のモノエーテル;ジイソペンチルエーテル(ジイソアミルエーテル)、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、パーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフラン、及びパーフルオロテトラヒドロフラン等のモノエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールジブチルエーテル等のグリコール類の鎖状ジエーテル類;1,4-ジオキサン等の環状ジエーテル類;1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、アセトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、3-ペンタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、イオノン、ジアセトニルアルコール、アセチルカービノール、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、及びイソホロン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2-メトキシブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、4-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-エチル-3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2-エトキシブチルアセテート、4-エトキシブチルアセテート、4-プロポキシブチルアセテート、2-メトキシペンチルアセテート、3-メトキシペンチルアセテート、4-メトキシペンチルアセテート、2-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-4-メトキシペンチルアセテート、4-メチル-4-メトキシペンチルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸ブチル、蟻酸プロピル、炭酸エチル、炭酸プロピル、炭酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、ピルビン酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、メチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネート、プロピル-3-メトキシプロピオネート、及びイソプロピル-3-メトキシプロピオネート、プロピレンカーボネート、及びγ-ブチロラクトン等のエステル類;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の活性水素原子を持たないアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、2,2,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルヘキサン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、リモネン、及びピネン等のハロゲンを含んでいてもよい脂肪族炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、1-メチルプロピルベンゼン、2-メチルプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、エチルメチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルジメチルベンゼン、及びジプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、及び2-フェノキシエタノール等の1価アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、及びジプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。なお、上記の好ましい有機溶剤(S)の例示において、エーテル結合とエステル結合とを含む有機溶剤はエステル類に分類される。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
拡散剤組成物がシランカップリング剤(B)を含むため、有機溶剤(S)は、シランカップリング剤(B)と反応する官能基を持たないものが好ましく使用される。特にシランカップリング剤(B)がイソシアネート基を有する場合、シランカップリング剤(B)と反応する官能基を持たない有機溶剤(S)を用いるのが好ましい。
【0049】
シランカップリング剤(B)と反応する官能基には、加水分解により水酸基を生成し得る基と直接反応する官能基と、加水分解により生じる水酸基(シラノール基)と反応する官能基との双方が含まれる。シランカップリング剤(B)と反応する官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0050】
シランカップリング剤(B)と反応する官能基を持たない有機溶剤の好適な例としては、上記の有機溶剤(S)の具体例のうち、モノエーテル類、鎖状ジエーテル類、環状ジエーテル類、ケトン類、エステル類、活性水素原子を持たないアミド系溶剤、スルホキシド類、ハロゲンを含んでいてもよい脂肪族炭化水素系溶剤、及び芳香族炭化水素系溶剤の具体例として列挙された有機溶剤が挙げられる。
【0051】
〔その他の成分〕
拡散剤組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。また、拡散剤組成物は、塗布性や、製膜性を改良する目的でバインダー樹脂を含んでいてもよい。バインダー樹脂としては種々の樹脂を用いることができ、アクリル樹脂が好ましい。
【0052】
それぞれ所定量の以上説明した成分を均一に混合することにより、拡散剤組成物を製造することができる。
【0053】
≪半導体基板の製造方法≫
半導体基板の製造方法は、
前述の拡散剤組成物を塗布することによる塗布膜の形成と、
拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の、半導体基板への拡散とを含む。
以下、塗布膜を形成する工程を「塗布工程」とも記し、不純物拡散成分(A)を、半導体基板へ拡散させる工程を「拡散工程」とも記す。以下、塗布工程、及び拡散工程について順に説明する。
【0054】
〔塗布工程〕
塗布工程では、半導体基板上に拡散剤組成物を塗布して塗布膜を形成する。以下、塗布工程について、拡散剤組成物、半導体基板、塗布方法の順に説明する。
【0055】
(半導体基板)
半導体基板としては、従来から不純物拡散成分を拡散させる対象として用いられている種々の基板を特に制限なく用いることができる。半導体基板としては、典型的にはシリコン基板が用いられる。
【0056】
半導体基板は、立体構造を拡散剤組成物が塗布される面上に有していてもよい。本発明によれば、半導体基板がこのような立体構造、特に、ナノスケールの微小なパターンを備える立体構造をその表面に有する場合であっても、以上説明した拡散剤組成物を、例えば1nm以上100nm以下の膜厚となるように塗布して形成された薄い塗布膜を半導体基板上に形成することによって、不純物拡散成分を半導体基板に対して良好且つ均一に拡散させることができる。
【0057】
パターンの形状は特に限定されないが、典型的には、断面の形状が矩形である直線状又は曲線状のライン又は溝であったり、ホール形状が挙げられる。
【0058】
半導体基板が、立体構造として平行な複数のラインが繰り返し配置されるパターンをその表面に備える場合、ライン間の幅としては1μm以下、100nm以下、60nm以下、又は20nm以下の幅に適用可能である。ラインの高さとしては、30nm以上、100nm以上、1μm以上、又は5μm以上の高さに適用可能である。
【0059】
(塗布方法)
拡散剤組成物を用いて形成される塗布膜の膜厚は特に限定されない。拡散剤組成物は、拡散剤組成物を用いて形成される塗布膜の膜厚は、不純物拡散剤成分(A)の良好な拡散と、拡散後に残存する膜の剥離が容易であることとの両立の観点から、5nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上80nm以下がより好ましく、15nm以上50nm以下が特に好ましい。
なお、塗布膜の膜厚とは、拡散工程に供される塗布膜の膜厚である。例えば、拡散工程の前に有機溶剤によるリンスが行われた場合、リンス後の膜厚を塗布膜の膜厚とする。
【0060】
拡散剤組成物の塗布は、半導体基板の周囲の雰囲気の相対湿度が40%以下、好ましくは30%以下である条件下において行われるのが好ましい。
メカニズムついては明確ではないが、かかる湿度の雰囲気下で塗布膜を形成することにより、拡散剤組成物を用いて形成された塗布膜から半導体基板へより良好に不純物拡散成分(A)を拡散させることができる。
【0061】
拡散剤組成物の塗布が行われる際の、半導体基板の周囲の雰囲気の相対湿度の下限は、良好に不純物拡散成分(A)を拡散できる限り特に限定されないが、シランカップリング剤(B)の加水分解による縮合を良好に進行させる点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。
【0062】
半導体基板の周囲の相対湿度を調整する方法は特に限定されない。例えば、塗布装置を、調湿可能な室内に設置する方法や、半導体基板への拡散剤組成物の塗布が行われる周囲を、壁やシートでできるだけ隙間の無いように囲ったうえで、市販の調湿装置で囲われた空間内の相対湿度を所定の範囲内に調整する方法が挙げられる。
【0063】
塗布膜は、100℃以上300℃以下、好ましくは150℃以上250℃以下程度の温度に加熱されてもよい。加熱時間は特に限定されないが、例えば60秒以上180秒以下程度である。かかる加熱を、行うことにより、膜の安定性が向上する傾向が認められる。
【0064】
拡散剤組成物を塗布する方法は、所望の膜厚の塗布膜を形成できる限り特に限定されない。拡散剤組成物の塗布方法としては、スピンコート法、インクジェット法、及びスプレー法が好ましく、スピンコート法がより好ましい。
【0065】
塗布膜の膜厚は、半導体基板の形状や、任意に設定される不純物拡散成分(A)の拡散の程度に応じて、任意の膜厚に適宜設定される。
【0066】
拡散剤組成物の半導体基板表面への塗布中に、半導体基板の表面を有機溶剤によりリンスするのも好ましい。塗布膜の形成中に、半導体基板の表面をリンスすることにより、塗布膜の膜厚をより均一にすることができる。特に、半導体基板がその表面に立体構造を有するものである場合、立体構造の底部(段差部分)で塗布膜の膜厚が厚くなりやすい。しかし、塗布膜の形成後に半導体基板の表面をリンスすることにより、塗布膜の膜厚を均一化できる。
【0067】
リンスに用いる有機溶剤としては、拡散剤組成物が含有していてもよい前述の有機溶剤を用いることができる。
【0068】
〔拡散工程〕
拡散工程では、拡散剤組成物を用いて半導体基板上に形成された薄い塗布膜中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる。不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる方法は、加熱により拡散剤組成物からなる塗布膜から不純物拡散成分(A)を拡散させる方法であれば特に限定されない。
【0069】
典型的な方法としては、拡散剤組成物からなる塗布膜を備える半導体基板を電気炉等の加熱炉中で加熱する方法が挙げられる。この際、加熱条件は、所望する程度に不純物拡散成分(A)が拡散される限り特に限定されない。
【0070】
通常、酸素を含む雰囲気下で塗布膜中の有機物を焼成除去した後に、不活性ガスの雰囲気下で半導体基板を加熱して、不純物拡散成分(A)を半導体基板中に拡散させる。
有機物を焼成する際の加熱は、好ましくは300℃以上1000℃以下、より好ましくは400℃以上800℃以下程度の温度下において、好ましくは1秒以上10分以下、より好ましくは5秒以上5分間以下行われる。
不純物拡散成分(A)を拡散させる際の加熱は、好ましくは700℃以上1400℃以下、より好ましくは700℃以上1200℃未満の温度下において、好ましくは1分以上120分以下、より好ましくは5分以上60分間以下行われる。
【0071】
また、25℃/秒以上の昇温速度で半導体基板を速やかに所定の拡散温度まで昇温させることができる場合、拡散温度の保持時間は、60秒以下、30秒以下、10秒以下、又は1秒未満のようなごく短時間であってもよい。この場合、半導体基板表面の浅い領域において、高濃度で不純物拡散成分(A)を拡散させやすい。
【0072】
以上説明した方法によれば、前述の拡散剤組成物を用いて半導体基板上に好ましい薄膜を形成でき、これにより半導体基板中に不純物拡散成分を良好に拡散させることができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1~4、及び比較例1~9〕
不純物拡散成分((A)成分)として下記式で表されるN,N’-ジ-tert-ブチル-1,3-ジアザボロシクロペンタンを用いた。
【化3】
【0075】
シランカップリング剤((B)成分)としては、下記B1~B7のシランカップリング剤を用いた。
B1:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
B2:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
B3:メチルトリエトキシシラン
B4:ジメチルジエトキシシラン
B5:フェニルトリメトキシシラン
B6:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0076】
(A)成分と、表1に記載の種類の(B)成分とを、(A)成分の濃度が5質量%であり、(B)成分の濃度が表1に記載の濃度であるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させて、各実施例、及び比較例の拡散剤組成物を得た。なお、比較例1では、(B)成分を使用しなかった。
【0077】
濃度0.5質量%のフッ化水素酸水溶液による洗浄と、イオン交換蒸留水による洗浄とを施された後に乾燥された、平坦な表面を備えるシリコン基板(6インチ、n型)を拡散対象の基板として準備した。
シリコン基板の表面に、30%の相対湿度条件下において、スピンコーターを用いて各実施例、及び比較例の拡散剤組成物をそれぞれ塗布した後に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)によるリンスを行い、塗布膜を形成した。形成された塗布膜の膜厚を表1に記す。
なお、比較例9の拡散剤組成物については、リンス後にほとんど膜が残存しなかったため、拡散試験を行わなかった。
【0078】
塗布膜の形成後、以下の方法に従って、不純物拡散成分の拡散処理を行った。
ラピッドサーマルアニール装置(ランプアニール装置)を用いて、流量1L/mの窒素雰囲気下において昇温速度25℃/秒の条件で加熱を行い、拡散温度1050℃、及び拡散時間10秒の条件にて拡散処理を行った。拡散時間の始点は、基板の温度が所定の拡散温度に達した時点である。拡散の終了後、シリコン基板を室温まで急速に冷却した。
【0079】
拡散後のシリコン基板を、濃度0.5質量%のフッ化水素酸水溶液で5分間処理し、拡散処理後のシリコン基板上に残存した膜を剥離した。次いで、イオン交換蒸留水による洗浄と乾燥とを行った後、シリコン基板のシート抵抗値を測定した。シート抵抗値の測定結果を表1に記す。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1~4によれば、不純物拡散成分(A)であるホウ素化合物と、アミノ基を含む所定の構造のシランカップリング剤(B)とを組み合わせて含む拡散剤組成物を用いることにより、半導体基板に不純物拡散成分(A)を良好に拡散させることができることが分かる。
他方、比較例1~9によれば、拡散剤組成物が、アミノ基を含む所定の構造のシランカップリング剤(B)の代わりにアミノ基を含まないアルコキシシランを含んでいたり、シランカップリング剤(B)に相当する成分を含んでいなかったりする場合、そもそも塗布膜の良好な形成が困難であったり、半導体基板に不純物拡散成分(A)を良好に拡散させにくかったりすることが分かる。
【0082】
〔実施例5~10、及び比較例10〕
不純物拡散成分((A)成分)としてリン酸トリス(トリメチルシリル)を用いた。
シランカップリング剤((B)成分)としては、前述のB1(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)及びB2(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)を用いた。
【0083】
(A)成分と、表2に記載の種類の(B)成分とを、(A)成分の濃度が表2に記載の濃度であり、(B)成分の濃度が表2に記載の濃度であるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させて、各実施例、及び比較例の拡散剤組成物を得た。なお、比較例10では、(B)成分を使用しなかった。
【0084】
濃度0.5質量%のフッ化水素酸水溶液による洗浄と、イオン交換蒸留水による洗浄とを施された後に乾燥された、平坦な表面を備えるシリコン基板(6インチ、p型)を拡散対象の基板として準備した。
シリコン基板の表面に、30%の相対湿度条件下において、スピンコーターを用いて各実施例、及び比較例の拡散剤組成物をそれぞれ塗布した後に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)によるリンスを行い、塗布膜を形成した。形成された塗布膜の膜厚を表2に記す。
なお、比較例10の拡散剤組成物については、リンス後にほとんど膜が残存しなかったため、拡散試験を行わなかった。
【0085】
塗布膜の形成後、以下の方法に従って、不純物拡散成分の拡散処理を行った。
ラピッドサーマルアニール装置(ランプアニール装置)を用いて、流量1L/mの窒素雰囲気下において昇温速度25℃/秒の条件で加熱を行い、拡散温度1050℃、及び拡散時間10秒の条件にて拡散処理を行った。拡散時間の始点は、基板の温度が所定の拡散温度に達した時点である。拡散の終了後、シリコン基板を室温まで急速に冷却した。
【0086】
拡散後のシリコン基板を、濃度0.5質量%のフッ化水素酸水溶液で5分間処理し、拡散処理後のシリコン基板上に残存した膜を剥離した。次いで、イオン交換蒸留水による洗浄と乾燥とを行った後、シリコン基板のシート抵抗値を測定した。シート抵抗値の測定結果を表2に記す。
【0087】
実施例6の拡散剤組成物を用いて拡散処理を施されたシリコン基板については、四重極型二次イオン質量分析(Q-SIMS)装置を用いて、リン濃度(atoms/cc)と、拡散深さとを測定した。その結果、実施例7の拡散剤組成物を用いてシリコン基板への不純物拡散を行う場合、深さ10nmや20nmの浅い領域におけるリン濃度が1020(atoms/cc)超の高濃度であるように、良好に不純物拡散成分を拡散できるきことが分かった。
【0088】
【表2】
【0089】
実施例5~10によれば、不純物拡散成分(A)であるリン化合物を用いる場合も、不純物拡散成分(A)であるリン化合物と、アミノ基を含む所定の構造のシランカップリング剤(B)とを組み合わせて含む拡散剤組成物を用いることにより、半導体基板に不純物拡散成分(A)を良好に拡散させることができることが分かる。
他方、比較例10によれば、拡散剤組成物が、シランカップリング剤(B)に相当する成分を含んでいない場合、そもそも塗布膜の良好な形成が困難であることが分かる。