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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】澱粉組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 31/00 20060101AFI20220725BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220725BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20220725BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220725BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20220725BHJP
【FI】
C08B31/00
A23L5/00 F
A23L7/157
A23L27/00 D
A23L29/219
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022525038
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046460
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2020216129
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】水品 亜由菜
(72)【発明者】
【氏名】笠原 僚
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第20/90997(WO,A1)
【文献】国際公開第09/110610(WO,A1)
【文献】国際公開第18/216748(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0201654(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0138076(US,A1)
【文献】特表2003-501494(JP,A)
【文献】特開平06-80701(JP,A)
【文献】IRVING MARTIN,Crosslinking of Starch by Alkaline Roasting,Journal of Applied Polymer Science,1967年,Vol.11,pp.1283-1288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 31/00
A23L 5/00
A23L 7/157
A23L 27/00
A23L 29/219
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉組成物の製造方法であって、
(a)澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液とを含む原料混合物であって、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する工程と、
(b)工程(a)で得られた20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、前記原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理する工程と
を含む、前記澱粉組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料混合物100質量部に対する前記澱粉原料の質量比率が、56質量部以上79質量部以下である、請求項1に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項3】
前記原料混合物100質量部に対する前記酸処理澱粉の質量比率が、0.5質量部以上20質量部以下である、請求項1または2に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項4】
前記原料混合物100質量部に対する前記デキストリンの質量比率が、0.1質量部以上20質量部以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項5】
前記酸処理澱粉の数平均分子量が25万以上50万以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項6】
前記デキストリンのDE(分解度)が5以上50未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項7】
前記デキストリンが、デキストリン水溶液である、請求項1から6のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ水溶液に用いられるアルカリが、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、およびリン酸水素二カリウムからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項9】
工程(a)および(b)の間に、前記原料混合物の水分量が、前記原料混合物100質量部に対し、1質量部未満になるまで脱水処理する工程を必要としない、請求項1から8のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項10】
前記原料混合物が食用油脂をさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項11】
前記原料混合物100質量部に対する前記食用油脂の質量比率が、0.05質量部以上1.5質量部以下である、請求項10に記載の澱粉組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法であって、
(c)工程(b)で得られた加熱処理物に、水およびpH調整剤を添加して洗浄処理する工程と、
(d)工程(c)で得られた洗浄処理物を脱水または乾燥処理する工程と、
をさらに含む、澱粉組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者による食の安心と安全を求める傾向はますます高まっており、クリーンラベルと呼ばれる食品表示に自然素材感がある製品の需要が急激に拡大しつつある。しかしながら、加工食品の食感や操作性等に求められる機能は増すばかりである。このため、食品表示には自然素材感があり、かつ機能的な食品を提供することが求められている。
澱粉類に関しても、食品表示に記載が必要な物質や化学的処理を伴わずに従来の加工澱粉と同様の機能を付与した新規素材の提供が求められている。加工澱粉の中でも、架橋澱粉は水に溶けやすく加熱時の膨潤が少ないことから様々な加工食品に用いられている。
例えば、特許文献1では、澱粉を実質的に無水の状態になるまで脱水した後、100℃以上の温度で加熱処理することで、架橋澱粉と同様の機能を有する熱的に抑制された澱粉が得られることが記載されている。
また、特許文献2では、澱粉およびオリゴ糖を水溶液中でスラリー状にしてブレンドした後、脱水して無水または実質的に無水の状態にし、その後、加熱処理することで熱的に抑制された澱粉が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平9-503549号公報
【文献】特開2003-501494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法では、脱水工程を経ることで脱水液中に澱粉原料や副原料成分が溶出してしまうといった問題や、脱水工程および加熱工程により澱粉原料が熱による損傷を受けやすく、また、非常に多くの工程および設備が必要となり生産性が低下するといった問題があった。
また、架橋澱粉は加熱時の膨潤を抑制する観点から、高い架橋を施すことが試みられているが、架橋度が高くなると加熱時の最高粘度が低下してしまい、食品に所望のテクスチャーを付与することが困難になるという課題を有していた。
このような状況下、より簡便な方法で、加熱時に膨潤しない又は膨潤が少なく加熱耐性を有する架橋澱粉と同様の機能を付与した澱粉組成物を提供できることが望ましい。また、澱粉原料に近い最高粘度を有しつつ、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有する澱粉組成物を提供できることがさらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す澱粉組成物の製造方法を提供するものである。
[1]澱粉組成物の製造方法であって、
(a)澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液とを含む原料混合物であって、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する工程と、
(b)工程(a)で得られた20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、前記原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理する工程と
を含む、前記澱粉組成物の製造方法。
[2]前記原料混合物100質量部に対する前記澱粉原料の質量比率が、56質量部以上79質量部以下である、前記[1]に記載の澱粉組成物の製造方法。
[3]前記原料混合物100質量部に対する前記酸処理澱粉の質量比率が、0.5質量部以上20質量部以下である、前記[1]または[2]に記載の澱粉組成物の製造方法。
[4]前記原料混合物100質量部に対する前記デキストリンの質量比率が、0.1質量部以上20質量部以下である、前記[1]から[3]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
[5]前記酸処理澱粉の数平均分子量が25万以上50万以下である、前記[1]から[4]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
[6]前記デキストリンのDE(分解度)が5以上50未満である、前記[1]から[5]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
[7]前記デキストリンが、デキストリン水溶液である、前記[1]から[6]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
[8]前記アルカリ水溶液に用いられるアルカリが、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、およびリン酸水素二カリウムからなる群より選ばれる1種以上である、前記[1]から[7]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
[9]工程(a)および(b)の間に、前記原料混合物の水分量が、前記原料混合物100質量部に対し1質量部未満になるまで脱水処理する工程を必要としない、前記[1]から[8]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
[10]前記原料混合物が食用油脂をさらに含む、前記[1]から[9]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法。
[11]前記原料混合物100質量部に対する前記食用油脂の質量比率が、0.05質量部以上1.5質量部以下である、前記[10]に記載の澱粉組成物の製造方法。
[12]前記[1]から[9]のいずれか一項に記載の澱粉組成物の製造方法であって、
(c)工程(b)で得られた加熱処理物に、水およびpH調整剤を添加して洗浄処理する工程と、
(d)工程(c)で得られた洗浄処理物を脱水または乾燥処理する工程と、
をさらに含む、澱粉組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、より簡便な方法で、化学的に架橋された架橋澱粉と同様の膨潤抑制機能を有する澱粉組成物を提供することができる。本発明の好ましい態様によれば、澱粉原料に近い最高粘度を有しつつ、加熱時の膨潤抑制効果が高く、レトルト耐性を有する澱粉組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明においては、原料混合物に澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液に加えて、さらに食用油脂を配合することで、澱粉原料に加熱時の膨潤抑制機能を付与するだけでなく、油脂加工処理を施すこともできる。以下、原料混合物に食用油脂を配合しない第1の態様と、原料混合物に食用油脂を配合する第2の態様について、それぞれ説明する。
【0008】
1.澱粉組成物の製造方法(第1の態様)
本発明の第1の態様にかかる澱粉組成物の製造方法は、
(a)澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液とを含む原料混合物であって、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する工程(以下「工程(a)」ともいう)と、
(b)工程(a)で得られた20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、前記原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理する工程(以下「工程(b)」ともいう)と
を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明においては、所定の水分量を有する原料混合物を、前記原料混合物の水分量が、前記原料混合物100質量部に対し、1質量部未満(すなわち、前記原料混合物の1質量%未満)になるまで脱水処理する工程を必要とすることなく、そのまま加熱処理することで、脱水処理に伴う澱粉原料や副原料成分の損失および熱的損傷を防止しながら、澱粉原料に膨潤抑制機能を付与することができる。
【0010】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
<工程(a)>
工程(a)では、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液とを含む原料混合物であって、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する。
【0012】
澱粉原料は、食品に用いられる澱粉原料であれば特に限定されないが、化学的処理を伴わないものが好ましく、未加工澱粉がより好ましい。
未加工澱粉としては、例えば、植物由来の澱粉が好ましく挙げられる。未加工澱粉の由来となる植物の具体例としては、レギュラートウモロコシ(レギュラーコーンまたはデントコーン)、もちトウモロコシ(ワキシーコーン)、高アミローストウモロコシ、うるち米、もち米、小麦、甘藷、馬鈴薯、エンドウ、緑豆、キャッサバおよびサゴヤシ等が挙げられ、好ましくは、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、高アミローストウモロコシ、うるち米、もち米、小麦、馬鈴薯、エンドウ、緑豆およびキャッサバが挙げられ、より好ましくは、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、高アミローストウモロコシ、もち米、馬鈴薯、エンドウおよびキャッサバが挙げられ、さらに好ましくは、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、馬鈴薯、エンドウおよびキャッサバが挙げられる。澱粉原料は、目的および用途に応じて適宜選択すればよい。
【0013】
原料混合物100質量部に対する澱粉原料の質量比率は特に限定されないが、56質量部以上79質量部以下が好ましく、より好ましくは56質量部以上75質量部以下、さらに好ましくは56質量部以上70質量部以下、特に好ましくは58質量部以上68質量部以下である。
【0014】
なお、本明細書において、数値範囲を示したときは、各数値範囲の上限値および下限値を適宜組み合わせることができることとする。
【0015】
酸処理澱粉およびデキストリンはいずれか1種のみを用いてもよく、酸処理澱粉およびデキストリンの両方を用いてもよい。本発明においては、酸処理澱粉およびデキストリンの1種以上を原料混合物に含有させることで、原料混合物が一定量の水を含んでいても、工程(b)における加熱処理に伴う澱粉原料の酸加水分解を抑制することができ、所望の膨潤抑制機能を有する澱粉組成物を得ることができる。
【0016】
酸処理澱粉としては、澱粉原料に酸処理が施されたものであれば特に限定されない。酸処理澱粉の澱粉原料としては未加工澱粉が好ましく、例えば、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、高アミローストウモロコシ、うるち米、もち米、小麦、馬鈴薯、エンドウ、緑豆、キャッサバおよびサゴヤシが好ましく挙げられ、より好ましくは、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、高アミローストウモロコシ、もち米、馬鈴薯、エンドウおよびキャッサバが挙げられ、さらに好ましくは、レギュラートウモロコシ、もちトウモロコシ、高アミローストウモロコシ、エンドウ、キャッサバおよび馬鈴薯が挙げられる。
【0017】
酸処理澱粉は、澱粉原料を酸水溶液中で酸処理することで得られる。酸処理に用いられる酸として、具体的には塩酸、硫酸および硝酸などの無機酸が挙げられる。
【0018】
酸処理澱粉の数平均分子量は25万以上50万以下であることが好ましく、好ましくは25万以上45万以下、より好ましくは27万以上40万以下、さらに好ましくは30万以上37万以下、特に好ましくは30万以上35万以下である。なお、酸処理澱粉の数平均分子量は、標準物質としてプルラン換算を用いたゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0019】
原料混合物100質量部に対する酸処理澱粉の質量比率は、特に限定されないが、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上18質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以上18質量部以下、特に好ましくは0.8質量部以上15質量部以下、よりさらに好ましくは0.8質量部以上13質量部以下、なお好ましくは0.8質量部以上10質量部以下である。
ただし、原料混合物が、デキストリンを含まない場合、原料混合物100質量部に対する酸処理澱粉の質量比率は、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以上18質量部以下、特に好ましくは0.8質量部以上15質量部以下である。
【0020】
原料混合物に酸処理澱粉を配合することで、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有するなどの架橋澱粉に機能が類似した澱粉組成物を得ることができる。また、本発明の好ましい態様によれば、澱粉原料に近い最高粘度を有しつつ、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有する澱粉組成物を得ることができる。また、本発明の好ましい態様によれば、着色を抑えることができ、用途の限定されない澱粉組成物を得ることができる。
【0021】
デキストリンとしては、特に限定されないが、デキストリンのDE(分解度)が、5以上50未満であることが好ましく、5以上35以下であることがより好ましい。デキストリンのDEは、代表的な還元糖であるブドウ糖の還元力を100とした、還元力の相対的な尺度であり、分解度合いの指標となる。デキストリンのDEは、さらに好ましくは5以上33以下、よりさらに好ましくは10以上30以下、特に好ましくは15以上30以下である。デキストリンのDEは、澱粉組成物の着色を抑制する観点から、上記範囲内とすることが好ましい。
デキストリンのDEは、株式会社食品化学新聞社発行の「澱粉糖関連工業分析法」、107-108頁、平成3年に記載される方法で測定することができる。
【0022】
原料混合物100質量部に対するデキストリンの質量比率は、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以上10質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以上8質量部以下である。
ただし、原料混合物が、酸処理澱粉を含まない場合、原料混合物100質量部に対するデキストリンの質量比率は、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上18質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以上15質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以上10質量部以下、なお好ましくは0.5質量部以上8質量部以下である。
【0023】
原料混合物にデキストリンを配合することで、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有するなどの架橋澱粉に機能が類似した澱粉組成物を得ることができる。本発明の好ましい態様によれば、澱粉原料に近い最高粘度を有しつつ、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有する澱粉組成物を得ることができる。また、加水した際に滑らかな粘性を有する澱粉組成物を得ることができる。さらに、レトルト(加圧加熱処理)の前後で食感およびテクスチャーの変化が少なく、レトルト耐性を有する澱粉組成物を得ることができる。
【0024】
なお、デキストリンは、粉末状または粒状、あるいは液状で原料混合物に含有させてもよいが、予め水に溶解し、デキストリン水溶液として原料混合物に含有させてもよい。デキストリン水溶液を用いることで、澱粉原料に対してより均一にデキストリンを作用させることができる。
この場合、原料混合物100質量部に対するデキストリン水溶液に含まれるデキストリンの質量比率は、デキストリンの換算質量が、前記した範囲になればよい。
また、デキストリン水溶液に含まれる水分量は、後述するアルカリ水溶液に含まれる水分量との合計で、原料混合物の水分量が、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の範囲になればよい。なお、本発明において、水は、食品に用いられるものであれば特に制限されず、天然水や水道水が挙げられる。
【0025】
本発明においては、酸処理澱粉およびデキストリンを併用することもできる。本発明の好ましい態様によれば、酸処理澱粉およびデキストリンを併用することで、澱粉原料に膨潤抑制機能を付与できるだけでなく、レトルト耐性を付与することができ、加水した際に滑らかな粘性を有する着色の少ない澱粉組成物を得ることができる。
【0026】
酸処理澱粉およびデキストリンを併用する場合、原料混合物100質量部に対する酸処理澱粉の質量比率は、特に限定されないが、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以上13質量部以下、特に好ましくは0.8質量部以上10質量部以下、よりさらに好ましくは0.8質量部以上8質量部以下、なお好ましくは0.8質量部以上5質量部以下である。
また、原料混合物100質量部に対するデキストリンの質量比率は、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以上10質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以上8質量部以下、よりさらに好ましくは0.3質量部以上5質量部以下である。
さらに、原料混合物100質量部に対する酸処理澱粉およびデキストリンの質量比率の合計は、通常0.6質量部以上24質量部以下であり、0.6質量部以上15質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.6質量部以上10質量部以下、さらに好ましくは1質量部以上10質量部以下、特に好ましくは2.5質量部以上7.5質量部以下である。
【0027】
本発明において、アルカリ水溶液のpHは9.0以上10.5以下であることが好ましく、より好ましくは9.0以上10.0以下、さらに好ましくは9.0以上9.8以下、特に好ましくは9.2以上9.7以下である。
【0028】
アルカリ水溶液に用いられるアルカリは、食品に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二カリウムからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、より好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、さらに好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムである。
【0029】
原料混合物100質量部に対するアルカリの質量比率は、0.05質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量部以上0.4質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下、特に好ましくは0.15質量部以上0.3質量部以下である。
【0030】
工程(a)において、原料混合物は、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有するように調整される。原料混合物の水分量は、前記原料混合物100質量部に対し、好ましくは22質量部以上35質量部以下、より好ましくは25質量部以上35質量部以下、さらに好ましくは25質量部以上33質量部以下、特に好ましくは27質量部以上33質量部以下である。
【0031】
アルカリ水溶液に含まれる水の量は、原料混合物の水分量が上記範囲を満たす範囲であればよい。デキストリンとしてデキストリン水溶液を用いる場合、前述したとおり、アルカリ水溶液に含まれる水の量と、デキストリン水溶液に含まれる水の量との合計が上記範囲を満たせばよい。
【0032】
工程(a)では、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液とを混合して原料混合物を準備する。具体的には、例えば、以下のようにして原料混合物を準備することができる。
【0033】
まず、アルカリを計量し、水に溶解してアルカリ水溶液を調製する。
次に、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上をそれぞれ計量し、ミキサーに投入して攪拌しながら、アルカリ水溶液を添加してさらに攪拌する。
混合がより均一になるよう、途中で攪拌を止めて、容器内部の壁面および攪拌機に付着した原料混合物を落としてさらに攪拌することが好ましい。
【0034】
デキストリン水溶液を用いる場合、アルカリ水溶液と別にデキストリン水溶液を準備してミキサーに添加してもよいし、アルカリおよびデキストリンを一緒に水に溶解してアルカリおよびデキストリンを含む水溶液を準備してミキサーに添加してもよい。
【0035】
具体的には、まず、アルカリおよびデキストリンをそれぞれ計量し、水に溶解して水溶液を調製する。
次に、澱粉原料および任意に酸処理澱粉をそれぞれ計量し、ミキサーに添加する。
続いて、澱粉原料および任意に酸処理澱粉をミキサーで攪拌しながら、上記水溶液を添加し、さらに攪拌する。
この場合も、混合がより均一になるよう、途中で攪拌を止めて、容器内部の壁面および攪拌機に付着した原料混合物を落としてさらに攪拌することが好ましい。
【0036】
上記のように、各成分が均一になるまで混合して、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する。
【0037】
<工程(b)>
次に、工程(b)では、工程(a)で得られた20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理する。
上記のとおり、工程(b)では、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、そのまま加熱処理する。本発明においては、工程(a)および(b)の間に、原料混合物を水分量が前記原料混合物100質量部に対し、1質量部未満になる脱水処理する工程を経ることなく、原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理することで、脱水処理に伴う澱粉原料の損失や熱的損傷を防止することができる。
【0038】
加熱処理の温度は、原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度までであり、好ましくは原料混合物が120℃以上145℃以下とされる温度、より好ましくは原料混合物が125℃以上145℃以下とされる温度、さらに好ましくは原料混合物が125℃以上140℃以下とされる温度までである。加熱を開始すると、原料混合物の温度は徐々に上昇するが、ここでいう加熱処理の温度は、加熱処理終了時の原料混合物(加熱処理物)の温度であり、実質的には加熱処理時の原料混合物の最高温度である。
【0039】
加熱処理の方法は、上記の温度で20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を加熱処理できるものであれば特に限定されなく、各種の加熱・乾燥装置を用いることができる。例えば、棚式熱風循環式乾燥機(以下「棚式乾燥機」ともいう。)、卓上加熱攪拌機、気流乾燥装置、バンド通気乾燥器、流動層乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥器、円筒乾燥器、逆円錐形混合乾燥機などが挙げられる。
【0040】
例えば、棚式熱風循環式乾燥機で加熱処理する場合、原料混合物をトレーに均一に広げ、調温した乾燥機にトレーを入れて加熱処理する。均一に加熱処理するために経時的に攪拌し、サンプリングを行うことが好ましい。加熱時間は、概ね、1時間以上6時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上4時間以下、さらに好ましくは2時間30分以上3時間30分以下である。加熱処理が完了したら冷却する。
また、必要に応じて、加熱処理の温度において保持時間を設けてもよい。保持時間は、0.5時間以上5時間以下とされることが好ましく、0.5時間以上3時間以下とされることがより好ましく、0.5時間以上1時間以下とされることがさらに好ましい。
なお、加熱処理の完了は、粘度パターン(ブレイクダウンなど)により判断することができる。
【0041】
卓上加熱攪拌機で加熱処理する場合、鍋を設定温度にすることで、原料混合物の速やかな温度上昇が可能であり、かつ原料混合物を攪拌翼にて攪拌することにより均一な加熱が可能である。ただし、この場合もより均一に加熱処理するために経時的に攪拌し、サンプリングを行うことが好ましい。加熱時間は、1時間以上6時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上4時間以下、さらに好ましくは2時間30分以上3時間30分以下である。加熱処理が完了したら冷却する。
【0042】
なお、工程(a)および(b)を同じ装置内で連続して行ってもよい。例えば、竪型の逆円錐形容器に、螺旋リボン回転翼を収納した粉粒体混合・乾燥装置(例えば、株式会社大川原製作所社製「リボコーン」)などを用いることで、工程(a)および(b)を連続して行うことができる。
具体的には、まず、アルカリを計量し、水に溶解してアルカリ水溶液を調製する。
次に、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上をそれぞれ計量し、ミキサーに添加する。
その後、ミキサーの攪拌と加熱を開始する。
続いて、ミキサーにアルカリ水溶液を投入する。より均一に反応を行うため、アルカリ水溶液は一定速度で添加することが好ましい。
経時的にサンプリングし、加熱処理が完了したら冷却する。
【0043】
デキストリン水溶液を用いる場合、アルカリ水溶液と別にデキストリン水溶液を準備してミキサーに添加してもよいし、アルカリおよびデキストリンを水に溶解してアルカリおよびデキストリンを含む水溶液を準備してミキサーに添加してもよい。
【0044】
具体的には、まず、アルカリおよびデキストリンをそれぞれ計量し、水に溶解して水溶液を調製する。
次に、澱粉原料および任意に酸処理澱粉をそれぞれ計量し、ミキサーに添加する。
その後、ミキサーの攪拌と加熱を開始する。
続いて、ミキサーに上記水溶液を投入する。この場合も、より均一に反応を行うため、上記水溶液は一定速度で添加することが好ましい。
経時的にサンプリングし、加熱処理が完了したら冷却する。
【0045】
本発明の第1の態様では、上記のようにして、工程(a)および(b)を行うことにより目的の澱粉組成物を得ることができる。
本発明では、工程(a)および(b)の間に、原料混合物の水分量が、前記原料混合物100質量部に対し、1質量部未満になるまで脱水処理する工程を必要とせずに、目的の澱粉組成物を得ることができる。本発明では、工程(a)および(b)の間に上記の脱水処理工程を必要としないため、脱水液中に澱粉原料や酸処理澱粉、デキストリンおよびアルカリ等の副原料成分が溶出することを防ぐことができると共に溶出した成分による排水負荷を抑制することができる。また、乾燥工程を採用した脱水処理を経ないことで澱粉原料の熱による損傷を最小限にすることができる。さらに、製造工程および設備の簡素化を実現し、生産性の向上を図ることができる。
【0046】
得られた澱粉組成物は、必要に応じて、水およびpH調整剤を添加して洗浄処理する工程(工程(c))、さらに、得られた洗浄処理物を脱水または乾燥処理する工程(工程(d))に供する。工程(c)および工程(d)を行うことで、得られる澱粉組成物のレトルト耐性を向上させることができる。
【0047】
以下、工程(c)および工程(d)について説明する。
【0048】
<工程(c)>
工程(c)では、工程(b)で得られた加熱処理物に、水およびpH調整剤を添加して洗浄処理する。
工程(c)により、工程(b)で得られた加熱処理物を洗浄しアルカリを除去することで、加熱処理物の脱色および加熱処理物の中和をすることができる。本発明の好ましい態様によれば、これにより、得られる澱粉組成物のレトルト耐性、加熱膨潤抑制、最終粘度の増加および加水した際の透明性を向上させることができる。
加熱処理物100質量部に対する水の質量比率は300質量部以上1000質量部以下が好ましく、より好ましくは300質量部以上800質量部以下、さらに好ましくは400質量部以上800質量部以下、特に好ましくは400質量部以上500質量部以下である。
pH調整剤は、食品用途に一般に用いられているものであれば特に限定されなく、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸、コハク酸、乳酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等を挙げることができる。
pH調整剤の使用量は、加熱処理物に水およびpH調整剤を添加したときのpH値が、好ましくは4以上7以下、より好ましくは5以上7以下、さらに好ましくは5以上6以下となる範囲で適宜決定する。
【0049】
<工程(d)>
工程(d)では、工程(c)で得られた洗浄処理物を脱水または乾燥処理する。
脱水または乾燥処理は、遠心分離機、フィルタープレス、ドラムドライヤー、スプレードライヤー、送風乾燥機、気流乾燥装置、流動層乾燥装置、流動床乾燥装置、フラッシュドライヤーなどの機械を使用した方法を選択することができる。本発明では、既存の設備などで使用している遠心分離機やフラッシュドライヤーなどにより脱水または乾燥処理することが好ましい。
【0050】
脱水または乾燥処理は、最終的に得られる澱粉組成物の水分量が、前記原料混合物100質量部に対し、好ましくは15質量部以下になるまで行う。
【0051】
本発明の第1の態様では、工程(a)および工程(b)、さらに必要に応じて工程(c)および工程(d)を行うことにより、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有するなどの架橋澱粉に機能が類似した澱粉組成物を得ることができ、膨潤抑制機能を有する澱粉組成物を得ることができる。また、好ましい態様によれば、澱粉原料に近い最高粘度を有しつつ、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有する澱粉組成物を得ることができる。
また、好ましい態様によれば、本製造方法により得られる澱粉組成物は、加水した際に滑らかな粘性を有しており、また、レトルト前後で食感およびテクスチャーが変化しにくく、レトルト耐性を有している。また、好ましい態様によれば、本製造方法により得られる澱粉組成物は、着色が少なく、幅広い用途に使用することができる。本製造方法により得られる澱粉組成物は、例えば、カレー、ハッシュドビーフ、シチュー、スープ、タレ、ドレッシング、畜肉・魚肉加工食品および植物性蛋白加工食品などの様々な食品用の澱粉組成物として好ましく用いることができる。
【0052】
2.澱粉組成物の製造方法(第2の態様)
本発明の第2の態様では、工程(a)において、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液に加えて、食用油脂をさらに含む原料混合物を準備する。原料混合物が食用油脂をさらに含むことで、澱粉原料に膨潤抑制機能を付与するだけでなく、油脂加工処理を施すことができる。
【0053】
すなわち、本発明の第2の態様にかかる澱粉組成物の製造方法は、
(a)澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液と、食用油脂を含む原料混合物であって、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する工程と、
(b)工程(a)で得られた20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理する工程と
を含むことを特徴とする。
【0054】
<工程(a)>
第2の態様にかかる澱粉組成物の製造方法において、工程(a)は、原料混合物が食用油脂をさらに含むこと以外は、第1の態様にかかる澱粉組成物の製造方法の工程(a)と同じである。
【0055】
澱粉原料、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上、およびアルカリ水溶液は、第1の態様で述べたものと同じものを使用することができる。
【0056】
原料混合物100質量部に対する澱粉原料、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上、およびアルカリ水溶液の質量比率は、第1の態様で述べた範囲と同じであるが、食用油脂を配合する分、適宜調整してもよい。
例えば、原料混合物100質量部に対する前記澱粉原料の質量比率は、56質量部以上79質量部以下であることが好ましく、より好ましくは56質量部以上75質量部以下、さらに好ましくは56質量部以上70質量部以下、特に好ましくは58質量部以上68質量部以下である。
また、酸処理澱粉を用いる場合、原料混合物100質量部に対する前記酸処理澱粉の質量比率は、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上18質量部、さらに好ましくは0.8質量部以上18質量部以下、特に好ましくは0.8質量部以上15質量部以下、よりさらに好ましくは0.8質量部以上13質量部以下、なお好ましくは0.8質量部以上10質量部以下である。
ただし、原料混合物がデキストリンを含まない場合、原料混合物100質量部に対する酸処理澱粉の質量比率は、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以上18質量部以下、特に好ましくは0.8質量部以上15質量部以下である。
また、デキストリンを用いる場合、原料混合物100質量部に対するデキストリンの質量比率は、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上18質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以上15質量部以下、特に好ましくは0.2質量部以上10質量部以下、よりさらに好ましくは0.3質量部以上8質量部以下である。
ただし、原料混合物が酸処理澱粉を含まない場合、原料混合物100質量部に対するデキストリンの質量比率は、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上18質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以上15質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以上10質量部以下、なお好ましくは0.5質量部以上8質量部以下である。
酸処理澱粉およびデキストリンを併用する場合、原料混合物100質量部に対する酸処理澱粉の質量比率は、特に限定されないが、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以上13質量部以下、特に好ましくは0.8質量部以上10質量部以下、よりさらに好ましくは0.8質量部以上8質量部以下、なお好ましくは0.8質量部以上5質量部以下である。
また、原料混合物100質量部に対するデキストリンの質量比率は、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以上10質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以上8質量部以下、よりさらに好ましくは0.3質量部以上5質量部以下である。
さらに、原料混合物100質量部に対する酸処理澱粉およびデキストリンの質量比率の合計は、通常0.6質量部以上24質量部未満であり、0.6質量部以上15質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.6質量部以上10質量部以下、さらに好ましくは1質量部以上10質量部以下、特に好ましくは2.5質量部以上7.5質量部以下である。
【0057】
食用油脂は、食品に供するものであれば特に限定されない。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、ハイリノールサフラワー油等のサフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、落花生油、カポック油、月見草油、あまに油、えごま油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂;魚油、豚脂、牛脂、乳脂等の動物油脂;中鎖脂肪酸トリグリセリド、およびこれらに、エステル交換、水素添加、分別からなる群から選ばれる1または2以上の加工がなされた加工油脂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
これらの中でも、食用油脂として、ヨウ素価が100以上の油脂を用いることが好ましく、より好ましくはヨウ素価が140以上の油脂である。具体的には、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、ハイリノールサフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、あまに油、えごま油およびヤシ油からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、大豆油、菜種油、コーン油、ヒマワリ油、ハイリノールサフラワー油、オリーブ油、あまに油およびヤシ油からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。ヨウ素価が140以上の油脂としては、ハイリノールサフラワー油およびあまに油などが挙げられ、好ましくは、ハイリノールサフラワー油である。
【0058】
原料混合物100質量部に対する食用油脂の質量比率は、0.05質量部以上1.5質量部以下が好ましく、より好ましくは0.08質量部以上1.5質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上1質量部以下、特に好ましくは0.1質量部以上0.8質量部以下である。
【0059】
第2の態様にかかる工程(a)では、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液と、食用油脂とを混合して原料混合物を準備する。具体的には、例えば、以下のようにして原料混合物を準備することができる。
【0060】
まず、アルカリを計量し、水に溶解してアルカリ水溶液を調製する。
次に、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上とをそれぞれ計量し、ミキサーに添加する。
続いて、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上とをミキサーで攪拌しながら、アルカリ水溶液を添加してさらに攪拌する。また、酸処理澱粉およびデキストリンはアルカリ水溶液に混ぜてから澱粉原料に混合してもよい。
次に、食用油脂を添加してさらに攪拌する。また食用油脂についても、上記アルカリ水溶液および酸処理澱粉、デキストリンなどと同時に添加する事も可能である。
混合がより均一になるよう、途中で攪拌を止めて、ヘラなどで容器内部の壁面および攪拌機に付着した原料混合物を落とす、または付着した原料混合物を落とす様な仕組みを有した混合機で攪拌することが好ましい。
【0061】
デキストリン水溶液を用いる場合、アルカリ水溶液と別にデキストリン水溶液を準備してミキサーに添加してもよいし、アルカリおよびデキストリンを一緒に水に溶解してアルカリおよびデキストリンを含む水溶液を準備してミキサーに添加してもよい。
【0062】
具体的には、まず、アルカリおよびデキストリンをそれぞれ計量し、水に溶解して水溶液を調製する。
次に、澱粉原料および任意に酸処理澱粉をそれぞれ計量し、ミキサーに添加する。
続いて、澱粉原料および任意に酸処理澱粉をミキサーで攪拌しながら、上記水溶液を添加し、さらに攪拌する。
次に、食用油脂を添加してさらに攪拌する。
この場合も、混合がより均一になるよう、途中で攪拌を止めて、ヘラなどで容器内部の壁面および攪拌機に付着した原料混合物を落とす、または付着した原料混合物を落とす様な仕組みを有した混合機で攪拌することが好ましい。
【0063】
上記のとおり、各成分が均一になるまで混合して、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する。
【0064】
<工程(b)>
工程(b)では、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、そのまま加熱処理する。第2の態様においても、工程(a)および(b)の間に、原料混合物を水分量が、前記原料混合物100質量部に対し、1質量部未満になる脱水処理する工程を経ることなく、原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理することで、脱水処理に伴う澱粉原料や副原料成分の損失および熱的損傷を防止することができる。
【0065】
加熱処理の温度は、原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度までであり、好ましくは原料混合物が120℃以上145℃以下とされる温度、より好ましくは原料混合物が125℃以上145℃以下とされる温度、さらに好ましくは原料混合物が125℃以上140℃以下とされる温度までである。
【0066】
加熱処理の方法は、上記の温度で20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を加熱処理できるものであれば特に限定されなく、各種の加熱・乾燥装置を用いることができる。例えば、棚式熱風循環式乾燥機(以下「棚式乾燥機」ともいう。)、卓上加熱攪拌機、気流乾燥装置、バンド通気乾燥器、流動層乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥器、円筒乾燥器、逆円錐形混合乾燥機などが挙げられる。
【0067】
棚式熱風循環式乾燥機で加熱処理する場合、原料混合物をトレーに均一に広げ、調温した乾燥機にトレーを入れて加熱処理する。均一に加熱処理するために経時的に攪拌し、サンプリングを行うことが好ましい。加熱時間は、1時間以上6時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上4時間以下、さらに好ましくは2時間30分以上3時間30分以下である。加熱処理が完了したら冷却する。
また、必要に応じて、加熱処理の温度において保持時間を設けてもよい。保持時間は、0.5時間以上5時間以下とされることが好ましく、0.5時間以上3時間以下とされることがより好ましく、0.5時間以上1時間以下とされることがさらに好ましい。
なお、加熱処理の完了は、粘度測定(ブレイクダウン)により判断することができる。
【0068】
卓上加熱攪拌機で加熱処理する場合、鍋を設定温度にすることで、原料混合物の速やかな温度上昇が可能であり、かつ原料混合物を攪拌翼にて攪拌することにより均一な加熱が可能である。ただし、この場合もより均一に加熱処理するために経時的に攪拌し、サンプリングを行うことが好ましい。加熱時間は、1時間以上6時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上4時間以下、さらに好ましくは2時間30分以上3時間30分以下である。加熱処理が完了したら冷却する。
【0069】
なお、第1の態様と同様、工程(a)および(b)を同じ装置内で連続して行ってもよい。例えば、竪型の逆円錐形容器に、螺旋リボン回転翼を収納した粉粒体混合・乾燥装置などを用いることで、工程(a)および(b)を連続して行うことができる。
具体的には、まず、アルカリを計量し、水に溶解してアルカリ水溶液を調製する。
次に、澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上をそれぞれ計量し、ミキサーに添加する。
その後、ミキサーの攪拌と加熱を開始する。
続いて、ミキサーにアルカリ水溶液を投入する。より均一に反応を行うため、アルカリ水溶液は一定速度で添加することが好ましい。
次に、食用油脂を添加してさらに攪拌する。より均一に反応を行うため、食用油脂は一定速度で添加することが好ましい。
経時的にサンプリングし、加熱処理が完了したら冷却する。
【0070】
デキストリン水溶液を用いる場合、アルカリ水溶液と別にデキストリン水溶液を準備してミキサーに添加してもよいし、アルカリおよびデキストリンを水に溶解してアルカリおよびデキストリンを含む水溶液を準備してミキサーに添加してもよい。
【0071】
具体的には、まず、アルカリおよびデキストリンをそれぞれ計量し、水に溶解して水溶液を調製する。
次に、澱粉原料および任意に酸処理澱粉をそれぞれ計量し、ミキサーに添加する。
その後、ミキサーの攪拌と加熱を開始する。
続いて、ミキサーに上記水溶液を投入する。この場合も、より均一に反応を行うため、上記水溶液は一定速度で添加することが好ましい。
次に、食用油脂を添加してさらに攪拌する。より均一に反応を行うため、食用油脂は一定速度で添加することが好ましい。
経時的にサンプリングし、加熱処理が完了したら冷却する。
【0072】
本発明の第2の態様では、上記のようにして、工程(a)および(b)を行うことにより目的の澱粉組成物を得ることができる。
本発明では、工程(a)および(b)の間に、原料混合物の水分量が、前記原料混合物100質量部に対し、1質量部未満になるまで脱水処理する工程を必要とせずに、目的の澱粉組成物を得ることができる。本発明では、工程(a)および(b)の間に上記の脱水処理工程を必要としないため、脱水液中に澱粉原料や酸処理澱粉、デキストリンおよびアルカリ等の副原料成分が溶出することを防ぐことができると共に、溶出した成分による排水負荷を抑制することができる。また、乾燥工程を採用した脱水処理を経ないことで澱粉原料の熱による損傷を最小限にすることができる。さらに、膨潤抑制機能を設ける処理と油脂加工処理を同時に施すことができるため、製造工程および製造設備の簡素化を実現し、生産性の向上を図ることができる。
【0073】
本発明の第2の態様では、得られた澱粉組成物は、油脂加工処理が施されているため、第1の態様で述べた工程(c)および(d)を行わないことが好ましい。
【0074】
本発明の第2の態様では、工程(a)および工程(b)を行うことにより、加熱時の膨潤が少ない又は加熱に耐性を有するなどの架橋澱粉に機能が類似した澱粉組成物を得ることができ、膨潤抑制機能を有する澱粉組成物を得ることができる。好ましい態様によれば、澱粉原料に近い最高粘度を有しつつ、架橋澱粉に機能が類似した澱粉組成物を得ることができる。また、膨潤抑制機能を有するだけでなく、油脂加工処理が施された澱粉組成物を得ることができる。
【0075】
本発明の好ましい態様によれば、本製造方法により得られる澱粉組成物は、加水した際に滑らかな粘性を有しており、また、レトルト前後で食感およびテクスチャーが変化しにくく、レトルト耐性を有している。また、本発明の好ましい態様によれば、本製造方法により得られる澱粉組成物は、着色が少なく、幅広い用途に使用することができる。本発明の好ましい態様によれば、膨潤抑制機能を付与する処理と共に油脂加工処理を施すことで、食感を硬めに改良することができ、蛋白質を含む製品の食感に弾力を付加することができる。また、油脂加工処理を施すことで、油との親和性が上がるため、澱粉組成物の沈降抑制効果も得られる。本製造方法により得られる澱粉組成物は、例えば、カレー、ハッシュドビーフ、シチュー、スープ、タレ、ドレッシング、畜肉・魚肉加工食品および植物性蛋白加工食品などの様々な食品用の澱粉組成物として好ましく用いることができる。
【実施例
【0076】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されない。
【0077】
[1]澱粉組成物の調製(その1)
表1-1に記載の組成を用いて原料混合物を調製し、表1-2に記載の条件で加熱処理して澱粉組成物を得た。
【0078】
<澱粉組成物の調製方法(棚式乾燥機を使用)>
1.まず、アルカリおよびデキストリンを計量し、蒸留水に溶解した。なお、表中の調製時に用いた水の量は、澱粉原料100質量部に対する量である。
2.次に、澱粉原料を計量し、ミキサー(ツインバード工業株式会社製「フードプロセッサーKC-4626」)に添加した。
3.ミキサーの電源を入れて、投入口から1で調製した水溶液を投入した。
4.30~40秒ほどミキサーで攪拌し、ヘラなどでミキサー内部の壁面や羽根に付着した澱粉を落とした。
5.再度ミキサーで攪拌し、合計で90秒攪拌し、原料混合物を調製した。
6.5で得られた原料混合物をトレーに広げ、150℃に調温した棚式乾燥機(東京理化器械株式会社(EYE-LA)社製「WFO-400」)に入れ、表中に記載の時間加熱処理し、澱粉組成物を得た。なお、表中に加熱処理終了時の原料混合物の温度を「処理終了品温」として示した。
【0079】
<澱粉組成物の調製方法(卓上加熱攪拌機を使用)>
1.まず、アルカリおよびデキストリンを計量し、蒸留水に溶解した。なお、表中の調製時に用いた水の量は、澱粉原料100質量部に対する量である。
2.次に、澱粉原料を計量し、ミキサー(株式会社カワタ製「スーパーミキサー」)に添加した。
3.ミキサーの電源を入れて、投入口から1で調製した水溶液を投入した。
4.30~40秒ほどミキサーで攪拌し、ヘラなどでミキサー内部の壁面や羽根に付着した澱粉を落とした。
5.再度ミキサーで攪拌し、合計で90秒攪拌し、原料混合物を調製した。
6.卓上加熱攪拌機(株式会社カジワラ製「KRミニ」)の鍋を150℃に設定した。この鍋に、5で得られた原料混合物を投入し、表中に記載の時間加熱処理し、澱粉組成物を得た。なお、表中に加熱処理終了時の原料混合物の温度を「処理終了品温」として示した。
【0080】
<比較例の澱粉組成物の調製方法>
また、特許文献2に記載の方法にて澱粉組成物を調製し、比較例1-1を得た。このとき、脱水処理後の原料混合物中の水分量は、原料混合物100質量部に対して50.50質量部であった。
比較例1-1以外の比較例においては、表1-1および1-2に記載の配合および加熱処理条件にて上述の実施例の調製方法と同じ方法にて調製した。
【0081】
<澱粉組成物の粘度>
得られた澱粉組成物について、New Port Scientific社製「RVA」(Rapid Visco Analyzer)を用いて粘度(RVU)を測定した。なお、「RVA」は、プログラムされた温度と攪拌子の回転数における粘度を連続して測定できる装置である。粘度はRVA unit(「RVU」と表記する)という単位で示され、SI単位系の粘度の単位であるパスカル・秒(Pa.s)の値を0.012で除した値とほぼ等しいとされる。
1.専用のアルミニウム容器に生成物と水とを混合し、生成物の乾物換算質量濃度が6質量%のスラリーを調製する。上記アルミニウム容器に専用のパドルを入れ、RVAにセットする。
2.160rpmでの攪拌下で粘度を測定しながら、40℃で1分間維持し、その後、40℃から95℃まで6℃/分の速度で加熱する。
3.95℃を5分間維持した後、50℃まで6℃/分で冷却する。
4.95℃まで加熱した時の最高粘度である粘度A(cP)および90℃の保持粘度の最低粘度の粘度B(cP)を読み取り、各粘度を測定する。ブレイクダウン値は粘度A-粘度Bで算出する。
さらに、一部の実施例および比較例で得られた澱粉組成物について、以下に示した手順で、最終粘度(レトルト前50℃粘度)およびレトルト後粘度を測定した。
5.3の試料を50℃で5分間維持した時の粘度を最終粘度(レトルト前50℃粘度)とする。
6.5の試料をレトルト容器に移し、レトルト処理(121℃で20分間保持する処理)を行う。
7.レトルト処理済みの6の試料を50℃に調温し、再度RVAの専用アルミニウム容器に移し、RVAにセットする。
8.50℃で6分間維持した際の粘度をレトルト後50℃粘度とした。
【0082】
各パラメータについて、以下に説明する。
最高粘度は、食品の食感を良好なものとする観点から澱粉原料の最高粘度と同程度またはそれ以上であることが好ましい。
ブレイクダウン値は、加熱時の食品の食感の安定性の観点から、値が小さい程膨潤が抑制されており、理想的には0である。
レトルト後粘度は、レトルト処理後の食品の食感を良好なものとする観点からレトルト後粘度が大きい程レトルト耐性が高く、澱粉原料では粘度低下が大きく、食品の食感へ影響を与える為、澱粉原料のレトルト前の粘度と同程度またはそれ以上の粘度が求められる。
【0083】
<ブレイクダウン抑制率>
ブレイクダウン抑制率は、澱粉原料のブレイクダウン値を基準とした場合の澱粉組成物のブレイクダウン値の抑制率を算出したものである。値が大きい程、加熱時の膨潤が抑制されていることを示す。このブレイクダウン抑制率の数値は、澱粉原料の種類に関係なく、同様の傾向を示すものである。より具体的には、ブレイクダウン抑制率は、下記の式にて算出することができる。実施例および比較例のブレイクダウン抑制率を表1-2に示した。
ブレイクダウン抑制率〔%〕=((澱粉原料のブレイクダウン値)-(澱粉組成物のブレイクダウン値))÷(澱粉原料のブレイクダウン値)×100
【0084】
表1-2に示したとおり、澱粉原料、およびデキストリンまたは酸処理澱粉を混合してアルカリ水溶液で処理した場合、デキストリンまたは酸処理澱粉の量比や水分量を調整することで、ブレイクダウン抑制率は45%以上であった(実施例1-1~1-14)。他方、特許文献2の調製方法にて脱水処理を経て得た澱粉組成物は、ブレイクダウン抑制率が極めて小さく、膨潤抑制効果が得られなかった(比較例1-1)。また、アルカリ溶液だけでは、十分な膨潤抑制効果は得られなかった(比較例1-2および1-3)
【0085】
ブレイクダウン抑制率は、食品の食感を良好なものとする観点から、値が高いほど好ましく、45%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは80%以上である
【0086】
<最高粘度比>
最高粘度比は、澱粉原料の最高粘度値を1とした場合の澱粉組成物の最高粘度値の比率を算出したものであり、食品の食感を良好なものとする観点から、0.6以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、特に好ましくは1以上である。より具体的には、最高粘度比は、下記の式にて算出することができる。得られた算出結果を表1-2に示した。
最高粘度比=(澱粉組成物の最高粘度値)÷(澱粉原料の最高粘度値)
【0087】
<レトルト粘度比>
レトルト粘度比は、澱粉原料のレトルト前50℃粘度値を基準とした際の澱粉組成物のレトルト後50℃粘度値の割合を算出したものである。加工澱粉においては、レトルト処理後に最低限、澱粉原料のレトルト前50℃粘度値以上を保持していることが求められる。このため、レトルト粘度比は、レトルト処理後の食品の食感を良好なものとする観点から、1以上であり、特に上限はない。より具体的には、下記の式にて算出することができる。得られた算出結果を表2に示した。
レトルト粘度比=(澱粉組成物のレトルト後50℃粘度値)÷(澱粉原料のレトルト前50℃粘度値)
【0088】
各実施例、比較例および対照例について、ブレイクダウン値、ブレイクダウン抑制率、最高粘度値および最高粘度比の測定結果を表1-2に示した。
表1-2に示したとおり、澱粉原料にデキストリンまたは酸処理澱粉を混合してアルカリ水溶液で処理することで、デキストリンおよび酸処理澱粉を用いない場合と比較して、ブレイクダウン値は大幅に低下した(実施例1-1~1-10、実施例1-13、1-14)。また、デキストリンおよび酸処理澱粉を併用することで、これらの添加量を少量にしても高い膨潤抑制効果が得られることが示された(実施例1-11、1-12)。
他方、特許文献2に記載の脱水処理を伴う調製方法により得た澱粉組成物およびアルカリ溶液だけを含有させて得た澱粉組成物では、十分な膨潤抑制効果は得られなかった(比較例1-1~1-3)。
これらの結果から、本発明の方法で製造された澱粉組成物は膨潤抑制機能を有することが示された。
なお、澱粉原料として用いたワキシーコーンは、対照例1-1に示すように、比較的ブレイクダウンの大きい澱粉として知られている。上記のとおり、ワキシーコーンを用いた場合に膨潤が効果的に抑制されたことから、本発明の方法によれば、他の澱粉原料を用いた場合も同様に膨潤が抑制されるものと予測できる。
【0089】
<澱粉組成物の白色度評価>
澱粉原料の白色度を対照として(対照例1-1)、各実施例および比較例の白色度を目視にて評価した。評価は専門パネラー3名にて行い、合議にて評価結果を得た。得られた評価結果を表1-2に示した。
なお、表中における「◎」(A)は対照例の白色度と同等の白色度であったことを表し、「〇」(B)は対照例と比較してわずかに着色が認められたことを表し、「△」(C)は対照例と比較して明らかに着色が認められたことを表す。
表1-2に示したとおり、澱粉原料にデキストリンまたは酸処理澱粉を混合してアルカリ水溶液で処理した場合でも、デキストリンまたは酸処理澱粉の量比や水分量を調整することで、澱粉組成物の着色を抑えることができた(実施例1-1~1-14)。特に、酸処理澱粉のみを使用した場合には、膨潤抑制効果を維持しながら、着色抑制効果が得られることが示された(実施例1-9、1-10)。
【0090】
<原料混合物の水分量>
表1-1における「原料混合物の水分量」は、各原料粉100質量部に対する水分含有量をそれぞれ、澱粉原料は13質量部、酸処理澱粉は13質量部、デキストリンは5質量部として、原料混合物100質量部に対する水分量(質量部)を算出したものである。
【0091】
【表1】
【0092】
なお、表中の成分は以下のとおりである。
・ワキシーコーン:株式会社J-オイルミルズ製「ワキシーコーンスターチ」
・アルカリ:炭酸ナトリウム
・デキストリン1(DE22~26):三和澱粉工業株式会社製「サンデック#250」、5糖類15%、6糖類13%
・デキストリン2(DE33):株式会社林原製「テトラップ」、4糖類54.2%
・デキストリン3(DE5~7):デキストリン、ワキシーコーンを含む、丸善薬品産業株式会社製「FZ-100」
・デキストリン4(DE50程度):株式会社林原製「サンマルトS」、2糖類92%以上
・デキストリン5(DE38程度):ピュアトースL(群栄化学) 3糖類55%以上
・酸処理澱粉(数平均分子量約32万):40質量%のワキシーコーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製)の水分散液320質量部に6質量%塩酸を80質量部添加し、40℃で24時間攪拌することで酸処理を行った。酸処理後、pHが5になるように消石灰を用いて中和した後、洗浄、乾燥をおこない、酸処理澱粉を得た。
【0093】
実施例1-6、1-8および1-13、ならびに比較例1-2および比較例1-3について、レトルト前後の50℃における粘度を測定し、対照例1-1と比較した。結果を表2に示す。表2に示したとおり、澱粉原料にデキストリンまたは酸処理澱粉を混合してアルカリ水溶液で処理することで、デキストリンおよび酸処理澱粉を用いない場合と比較して、レトルト耐性を付与できることが示唆された。また、DE値が50未満のデキストリンを用いることにより、レトルト粘度比が1以上となり、よりレトルト耐性に優れた澱粉組成物が得られることが示唆された(実施例1-6および1-8)。
【0094】
【表2】
【0095】
[2]澱粉組成物の調製(その2)
表3-1に記載の組成を用いて原料混合物を調製し、表3-2に記載の条件で加熱処理して澱粉組成物を得た。
澱粉組成物の調製方法は、前記[1]で述べた方法と同じである。得られた各澱粉組成物について、以下のようにして洗浄処理し、脱水または乾燥処理して澱粉組成物洗浄品を得た。
【0096】
<澱粉組成物の洗浄および脱水乾燥処理>
澱粉組成物を5倍量の水で攪拌機にて溶解し、pH調整剤にてpHが、好ましくは4以上7以下、より好ましくは5以上7以下、さらに好ましくは5以上6以下となる範囲に調整したpH調整スラリーを得た。得られたpH調整スラリーを脱水または乾燥処理して澱粉組成物洗浄品を得た。なお、表中の調製時に用いた水の量は、澱粉原料100質量部に対する量である。
【0097】
得られた澱粉組成物洗浄品について、前記[1]で述べた方法と同様にして澱粉組成物の粘度を測定し、ブレイクダウン値、ブレイクダウン抑制率、最高粘度値および最高粘度比を表3-2に示した。また、表中に、ワキシーコーンのブレイクダウン値、ブレイクダウン抑制率、最高粘度値および最高粘度比を対照例2-1として示した。
表3に示したとおり、洗浄処理を行うことにより、高い膨潤抑制効果が得られた(実施例2-1~2-12)。また、デキストリンおよび酸処理澱粉を併用することで、これらの添加量を少量にしても高い膨潤抑制効果が得られることが示された(実施例2-6~2-12)。
【0098】
【表3】
【0099】
なお、表中の成分は以下のとおりである。
・ワキシーコーン:株式会社J-オイルミルズ「ワキシーコーンスターチ」
・アルカリ:炭酸ナトリウム
・デキストリン1(DE22~26):三和澱粉工業株式会社製「サンデック#250」、5糖類15%、6糖類13%
・酸処理澱粉(数平均分子量約32万):40質量%のワキシーコーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製)の水分散液320質量部に6質量%塩酸を80質量部添加し、40℃で24時間攪拌することで酸処理を行った。酸処理後、pHが5になるように消石灰を用いて中和した後、洗浄、乾燥をおこない、酸処理澱粉を得た。
【0100】
実施例2-1~2-12について、前記[1]で述べた方法と同様にして澱粉組成物のレトルト前後の50℃での粘度を測定し、対照例2-1と比較した。結果を表4に示す。表4に示したとおり、洗浄処理によってレトルト耐性が向上することが示唆された(実施例2-1~2-12)。さらに、デキストリンおよび酸処理澱粉によって高い膨潤抑制効果を示した澱粉組成物は、レトルト後も粘度を維持しており、レトルト耐性を有していることが示された(実施例2-6~2-9、2-12)。
【0101】
【表4】
【0102】
さらに、実施例2-6および実施例2-10について、前記[1]で述べた方法と同様にして、対照例2-1の白色度を対照として澱粉組成物の白色度を評価した。結果を表5に示す。表5に示したとおり、洗浄処理を施すことによって対照例と比較して着色がわずかであることが明らかとなった。
【0103】
【表5】
【0104】
[3]澱粉組成物の調製(その3)
表6-1に記載の組成を用いて原料混合物を調製し、表6-2に記載の条件で加熱処理して澱粉組成物を得た。
澱粉組成物の調製方法は、油脂を配合したこと以外は、前記[1]で述べた方法と同じである。粉粒体混合・乾燥装置、株式会社大川原製作所社製「リボコーン」を使用した例については、以下のようにして澱粉組成物を調製した。
【0105】
<澱粉組成物の調製方法(粉粒体混合・乾燥装置を使用)>
1.まず、アルカリおよびデキストリンを計量し、蒸留水に溶解し、油脂を計量した。なお、表中の調製時に用いた水の量は、澱粉原料100質量部に対する量である。
2.粉粒体混合・乾燥装置本体に、澱粉原料および酸処理澱粉を計量し、攪拌と加熱を開始した。
3.投入口から1で調製した水溶液と油脂を一定速度で投入した。
4.続いて、投入口から油脂を一定速度で投入した。
5.経時的にサンプリングを行った。
6.加熱が完了した後、冷却した。
【0106】
得られた澱粉組成物について、前記[1]で述べた方法と同様にして澱粉組成物の粘度を測定し、ブレイクダウン値および最高粘度値を表6-2に示した。
表6-2に示したとおり、油脂を添加した場合も同様に、澱粉原料にデキストリンまたは酸処理澱粉を混合してアルカリ水溶液で処理することで、ブレイクダウン値は低下し、膨潤抑制機能を有する澱粉組成物が得られた(実施例3-1~3-8)。
【0107】
【表6】
【0108】
なお、表中の成分は以下のとおりである。
・レギュラーコーン:株式会社J-オイルミルズ製「コーンスターチ」
・ワキシーコーン:株式会社J-オイルミルズ製「ワキシーコーンスターチ」
・アルカリ:炭酸ナトリウム
・デキストリン1(DE22~26):三和澱粉工業株式会社製「サンデック#250」、5糖類15%、6糖類13%
・酸処理澱粉(数平均分子量約32万):40質量%のワキシーコーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製)の水分散液320質量部に6質量%塩酸を80質量部添加し、40℃で24時間攪拌することで酸処理を行った。酸処理後、pHが5になるように消石灰を用いて中和した後、洗浄、乾燥をおこない、酸処理澱粉を得た。
・油脂:ハイリノールサフラワー油、サミット製油株式会社製「サフラワーサラダ油」
【0109】
[4]澱粉組成物の評価(その1)
次に、実施例2-11および2-12で得られた澱粉組成物を用いて、以下の手順でタレを調製し、タレの食味について、既存品と比較評価した。
【0110】
<タレの調製>
1.鍋に表7に記載の材料を計量し、鍋を火にかけ、蒸発水が蒸発するまで加熱した。加熱後冷却して、タレを調製した。
2.1のタレ100gをレトルト袋に移し、残りを試食用に容器に移した。
3.2のレトルト袋を、レトルト殺菌機(株式会社平山製作所社製「HLM-36LBC」)にて121℃で20分間、レトルト処理した。
【0111】
【表7】
【0112】
<タレの評価>
レトルト処理前後の食味について、下記の評価基準で評価した。結果を表8に示した。

1)粘性
◎(A):タレとして十分な粘度
〇(B):粘度がある
△(C):粘度が低い
×(D):粘度がなく、シャバシャバ

2)異味異臭
異味異臭の有無を確認(ある or なし)。

3)ザラツキ
タレを食べた際に、嫌なザラザラ感があるかの確認(ある or ややある or なし)

4)テクスチャー
・ロング:曳糸性があり、粘性を強く感じる
・ショート:曳糸性がなく、粘性を感じにくい
【0113】
【表8】
【0114】
なお、既存品は、以下のものを用いた。
・「Novation2600」:ワキシーコーンスターチ、イングレディオン株式会社製
・「A-15」:アセチル化リン酸架橋ワキシーコーンスターチ、株式会社J-オイルミルズ社製
【0115】
[5]澱粉組成物の評価(その2)
実施例3-3~3~8で得られた澱粉組成物を用いて、以下の手順でフライ食品用のバッター液を調製した。このバッター液を用いて豚ロース肉に衣付けして油調し、既存品をコントロールとして食感を評価した。
【0116】
<バッター液の調製>
表9に記載の組成でバッター液を調製した。
【0117】
【表9】
なお、表中の成分は以下のとおりである。
・ガムミックス:キサンタンガム(DSP五協フード&ケミカル株式会社製、「エコーガムF」)4%、コーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製「コーンスターチY」)96%
【0118】
<パン粉付け>
以下の手順で豚ロース肉にパン粉付けを行った。
1.常温に戻しておいたパン粉をバットに出した。
2.バッター液をボウルに移し、豚ロース肉をバッター液に付けた。
3.2の豚ロース肉を1のバットに移し、パン粉を付けた。
4.3をラップに並べて包み、バットに乗せて冷蔵庫で一晩以上冷凍した。
【0119】
<フライ>
パン粉付けした豚ロース肉を170℃で4~5分油調した。この際、2分経過したら裏返し、4分経過して浮き上がってきたら取り出した。1分程度放冷した後、4等分にカットして衣の結着性を評価した。
【0120】
<結着性評価>
油調後の衣の結着性について、下記の評価基準で評価した。結果を表10に示した。

1)見た目の剥がれ度合い(結着性点数)
〇(A):剥がれていない
△(B):一部剥がれた
×(C):3割以上剥がれている
次式により結着性点数を算出し評価した。点数が高いほど、結着性が良好であることを示す。
点数=((○の個数)×1+(△の個数)×0.5+(×の個数)×0)/評価総数×100

2)触ったときの剥がれ易さ(剥れ具合)
◎(A):とても剥がれにくい
〇(B):剥がれにくい
△(C):やや剥がれ易い
×(D):剥がれ易い

3)食感
硬さ、ねちゃつき、サクミ、風味、その他違和感などを総合的に評価した。
【0121】
【表10】
【0122】
なお、既存品は、以下のものを用いた。
・「HB-310」:食品用加工澱粉、コーンスターチを含む、株式会社J-オイルミルズ社製
・「HB-150」:食品用加工澱粉、大豆粉およびタピオカ澱粉を含む、株式会社J-オイルミルズ社製
【0123】
<B型粘度の測定方法>
上記実施例で使用した澱粉組成物に対し、以下の手順でB型粘度(cP(mPa・s))を測定した。
1.250mLのビーカーに粉体(澱粉組成物90g、キサンタンガム(DSP五協フード&ケミカル株式会社製、「エコーガムF」)9.6g、コーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製「コーンスターチY」)0.4g)を秤量し、スパーテルで混合した。
2.1のビーカーに冷水200gを添加し、スパーテルで攪拌した。
3.2の混合物を、ホモジェナイザーを用いて、3000rpmにて攪拌した。スパーテルを使いながら、ダマがなくなるまで攪拌した。
4.表水中で5分間静置した後、B型粘度を測定した。なお、測定は、B型粘度計(東京計器株式会社製、BM型、No.3ローター)を用いて、回転数30rpmにて測定した。15回転目(30秒後)の値を読み取り、表11に示した。
【0124】
【表11】
【0125】
表10および11に示されるとおり、本発明で得られた澱粉組成物は、バッター液に配合してもバッター粘度に極端な影響はなく、十分に使用可能な結着性を示し、得られたフライ食品の食感も良好であった。特に、実施例3-5の澱粉組成物を使用した場合に、同じ澱粉原料を用いた既存品「HB-310」と同等の結着性を示しながら、サクミが付与され、ねちゃつきを抑制できており、風味も良好であり、既存品よりも食感が優れていた。また、酸処理澱粉の含有量を8質量部未満とすることにより、食品のヒキやねちゃつきを低減できることが示唆された(実施例3-4および3-8)。
【0126】
以上の結果より、酸処理澱粉およびデキストリンなどの澱粉分解物とアルカリ剤を適切な水分量で加熱処理する事で、加熱耐性を有し、舌触りが良好であるなどの食感改良が可能な澱粉組成物(食品素材)を、簡素化した設備にて得ることができた。さらに上記に加え、油脂加工処理も同一工程で施す事ができ、食感を改良できる澱粉組成物(食品素材)が得られる事が示された。

【要約】
本発明は、澱粉組成物の製造方法に関する。本発明にかかる澱粉組成物の製造方法は、(a)澱粉原料と、酸処理澱粉およびデキストリンからなる群より選ばれる1種以上と、アルカリ水溶液とを含む原料混合物であって、前記原料混合物100質量部に対し、20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を準備する工程と、(b)工程(a)で得られた20質量部以上35質量部以下の水分量を有する原料混合物を、前記原料混合物が120℃以上150℃以下とされる温度まで加熱処理する工程とを含む。本発明によれば、簡便な方法で、加熱時に膨潤しない又は膨潤が少なく加熱耐性を有する澱粉組成物を提供することができる。