(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】炭素繊維強化樹脂複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
C08J5/24 CFG
(21)【出願番号】P 2018092699
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】糸川 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】奥中 理
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
【審査官】磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043258(WO,A1)
【文献】実開昭60-133389(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10,5/24
B29B 11/00
D06M 10/00
B29C 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程[1]から[3]をこの順で有する炭素繊維強化樹脂複合材の製造方法。
工程[1]:横方向に並べられた
サイジング剤を含む炭素繊維束を一方向に引きそろえる。
工程[2]:前記炭素繊維束を垂直方
向に移動させながら、加熱面が垂直方向に設置された非接触のヒータで前記炭素繊維束を加熱する。
工程[3]:前記炭素繊維束と樹脂または樹脂組成物を複合化する。
【請求項2】
前記ヒータが筒状である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程[3]における前記炭素繊維束と樹脂または樹脂組成物との複合化を、クロスヘッドダイを用いて行う、請求項1から3のいずれか
一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記炭素繊維強化樹脂複合
材がプリプレグである、請求項1から4のいずれか
一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程[2]における前記ヒータの設定温度が100℃以上350℃以下である、請求項1から5のいずれか
一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程[2]において、前記炭素繊維束を上方より下方に向けて垂直方向に移動させる、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維及び炭素繊維強化複合材は、引張強度・引張弾性率が高く、耐熱性、耐薬品性、疲労特性、耐摩耗性に優れる、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れる、電磁波シールド性、X線透過性に富むなどの優れた特長を有していることから、スポーツ・レジャー、航空・宇宙、一般産業用途に幅広く適用されている。従来は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を複合材料のマトリックスとすることが多かったが、最近、リサイクル性・高速成型性の観点から熱可塑性樹脂が注目されている。
【0003】
従来、炭素繊維束および炭素繊維織物といった炭素繊維体の表面には、その取り扱いを容易にするために、サイジング剤が塗布されている。このサイジング剤はマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂との複合材を作ることを想定したものであり、市販の一般的な炭素繊維束および炭素繊維織物に対して、エポキシ基と良好な接着性を持つエポキシ系化合物や水溶性ポリマーなどの有機物がサイジング剤として塗布されている。
【0004】
このサイジング剤の熱分解温度以上の融点を持つ樹脂をマトリックス樹脂として用いて複合材を製造した場合、サイジング剤が分解され微小なボイドとなり機械的強度の低下や、マトリックス樹脂の含浸が困難になるといった問題がある。更に、サイジング剤がそのマトリックス樹脂と化学反応を起こしアロイ化し、界面接着性を低下ならしめる現象が発生しその複合材の品質を著しく劣化されることもある。 また、炭素繊維はもともと水分や不純物を含んでいる場合があり、炭素繊維と樹脂とを複合化した際に、水分や不純物が複合材料中に閉じ込められ、ボイドの原因となる。
【0005】
そのため、サイジング剤が塗布された炭素繊維と、サイジング剤の熱分解温度以上の融点を持つ樹脂とを複合化させる前に、該炭素繊維を加熱すると、該炭素繊維に付着しているサイジング剤、水分、不純物等を除去することで、樹脂を炭素繊維に良好に含浸させることができる。
【0006】
熱可塑性樹脂をマトリックスに使用する場合には、炭素繊維束と熱可塑性樹脂との複合化の前に、炭素繊維束を事前に加熱することで、炭素繊維束近傍の樹脂の温度低下を抑制できるため、熱可塑性樹脂の粘度を下げることで、樹脂を炭素繊維に良好に含浸させることができる。
【0007】
特許文献1ないし2では、水平に設置されたチャンバー内において炭素繊維を移動させ、同時に加熱することでサイジング剤を除去する方法が開示されている。特許文献3では、マイクロ波を用いて、含浸工程前に炭素繊維を加熱する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-21196
【文献】特開平10-237756
【文献】特開2013-194175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加熱時に発生したガス成分は、加熱装置に付着、蓄積し、炭素繊維束に付着するトラブルが発生するため定期的な清掃を実施する必要があり、長期連続運転できない問題があった。さらに、熱分解しやすいサイジング剤を用いた場合には、熱分解物が発火するなどの防災上の問題もあった。
優れた炭素繊維強化樹脂複合材を安価に生産するに当たり、ガス成分を除去する方法が求められていた。そこで、 きわめて簡単な構成によって炭素繊維束を加熱した際に発生したガス成分を加熱装置に付着、蓄積することなく、外部に排出する方法が必要である。
【0010】
しかしながら、特許文献1および2に開示された方法では、チャンバー内において炭素繊維束および炭素繊維織物から発生したガス成分を前記チャンバーに付着しないように、前記チャンバー外に排気するためのブロワーを備えていることから、ランニングコストが掛かる問題がある。
【0011】
特許文献3に開示された方法では、炉の加熱面が水平に設置されているため、発生したガス成分が炉に付着し、加熱装置の汚れの原因となる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、加熱装置が空気通路を形成した構造であって、炭素繊維の投入部の開口上部に向かう上昇気流となる排気用空気の流れを形成することで、効率的にガス成分を排出し、前記加熱装置にガス成分が付着することを抑制する構造として、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の(1)~(6)に存する。
【0013】
(1) 下記工程[1]から[3]をこの順で有する炭素繊維強化樹脂複合材の製造方法。
工程[1]:横方向に並べられた炭素繊維束を一方向に引きそろえる。
工程[2]:前記炭素繊維束を垂直方向に移動させながら、加熱面が垂直方向に設置された非接触のヒータで前記炭素繊維束を加熱する。
工程[3]:前記炭素繊維束と樹脂または樹脂組成物を複合化する。
(2) 前記ヒータが筒状である、上記(1)に記載の製造方法。
(3) 前記樹脂が熱可塑性樹脂である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4) 前記工程[3]における前記炭素繊維束と樹脂または樹脂組成物との複合化を、クロスヘッドダイを用いて行う、上記(1)から(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5) 前記炭素繊維強化樹脂複合材がプリプレグである、上記(1)から(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6) 前記工程[2]における前記ヒータの設定温度が100℃以上350℃以下である、上記(1)から(5)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、加熱により炭素繊維束から発生するガス成分を効率的に加熱装置から排出することで、加熱装置にガス成分が付着する事を防止し、加熱装置の汚れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】筒状の加熱装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】クロスヘッドダイの一例を示す概略構成図である。
【
図5】筒状の加熱装置の他の一例を示す概略構成図(A:斜視図、B:断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の炭素繊維強化樹脂複合材の製造方法は、下記工程[1]から[3]をこの順で有する。
工程[1]:横方向に並べられた炭素繊維束を一方向に引きそろえる。
工程[2]:前記炭素繊維束を垂直方向に移動させながら、加熱面が垂直方向に設置された非接触のヒータで前記炭素繊維束を加熱する。
工程[3]:前記炭素繊維束と樹脂または樹脂組成物を複合化する。
【0017】
<炭素繊維強化樹脂複合材>
本発明における炭素繊維強化樹脂複合材とは、炭素繊維と樹脂とからなる複合材であり、例えば、炭素繊維強化樹脂テープ、炭素繊維強化樹脂シート、長繊維ペレット、プリプレグ等が挙げられる。本発明の製造方法は、特に炭素繊維強化樹脂テープ、炭素繊維強化樹脂シート、プリプレグに適用できる。
【0018】
<樹脂、樹脂組成物>
本発明で用いる樹脂ないし樹脂組成分は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれを含むものでも良いが、熱可塑性樹脂が好ましい。一般的な熱可塑性樹脂の何れも使用可能である。例えば、熱可塑性の結晶性樹脂として、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、PEEK、PEKK、熱可塑性の非晶性樹脂として、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、PEI、PES等が挙げられ、また、これらを2種類以上併用し樹脂組成物とする事も可能である。成形性の観点から、結晶性樹脂が好ましく、機械特性のバランスの観点から、ポリアミド、ポリプロピレンが好ましい。さらに必要に応じて、公知の安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、加工助剤、離型剤、着色剤、カーボンブラック、帯電防止剤、難燃剤、フルオロオレフィン等の添加剤を配合してもよい。その含有率は添加剤の種類により異なるが、炭素繊維および樹脂ないし樹脂組成分の特性を損なわない範囲内で、必要に応じて配合でき、炭素繊維と樹脂ないし樹脂組成分の合計100質量部に対して20質量部以下であり、好ましくは5質量部以下である。生産性をより向上しやすくするために、離型剤を0.1質量部以上0.5質量部以下含む事が特に好ましい。
【0019】
一般的な熱硬化性樹脂のいずれも使用可能である。例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂が挙げられる。かかる樹脂成物には、通常、硬化剤と、必要に応じて硬化助剤が含まれる。
【0020】
本発明で用いる炭素繊維は、繊維径が5μm以上15μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、5μm以上12μm以下であり、特に好ましくは6μm以上8μm以下である。繊維径が5μm未満の細すぎる径であると、繊維の表面積が大きくなるために、成形性が低下する恐れがある。繊維径が15μm超える太すぎる径であると繊維のアスペクト比が小さくなり、補強効果に劣る恐れがある。炭素繊維の繊維径は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。上記範囲の繊維径を有する炭素繊維を製造する方法としては、例えば、特開2004-11030号公報、特開2001-214334号公報、特開平5-261792号公報、WO12/050171号公報等に記載の方法が挙げられる。
【0021】
炭素繊維としては、上記繊維径を有するものであれば特に制限なく使用することができ、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維のいずれも用いることができる。また、市販品を用いてもよく、具体例としては、例えば、PAN系炭素繊維としては、パイロフィル(三菱ケミカル株式会社登録商標)CFトウ TR50S 6L、TRH50 12L、TRH50 18M、TR50S 12L、TR50S 15L、MR40 12M、MR60H 24P、MS40 12M、HR40 12M、HS40 12P、TRH50 60M、TRW40 50L(以上、三菱ケミカル社製)が挙げられる。好ましくは、TR50S 15L、TRW40 50Lである。
【0022】
ピッチ炭素繊維としては、ダイアリード(三菱ケミカル株式会社登録商標)K1352U、K1392U、K13C2U、13C6U、K13D2U、K13312、K63712、K13916、K63A12等(以上、三菱ケミカル社製)が挙げられ、好ましくはK63712、K13312である。
【0023】
また、炭素繊維は表面処理されたものである。表面処理剤としては、サイジング剤が挙げられ、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、ナイロン系サイジング剤、オレフィン系サイジング剤等が挙げられる。
【0024】
上記の繊維径の炭素繊維は、単繊維で取り扱うのが困難なため、炭素繊維束の状態で用いるのが好ましい。炭素繊維束に含まれる単繊維は、3,000本以上が好ましく、12,000本以上がより好ましく、特に好ましくは15,000本以上である。また、100,000本以下が好ましく、50,000本以下がより好ましい。炭素繊維束に含まれる単繊維の本数が少なすぎると生産効率が低くなる恐れがある。高すぎると炭素繊維束に樹脂ないし樹脂組成分の含浸し難くなり、品質が低くなる恐れがある。
【0025】
<ガス成分>
本発明におけるガス成分とは、サイジング剤が分解した熱分解物やゲル状不純物、炭素繊維の表面に付着していた水分や不純物の事である。
【0026】
<工程[1]>
工程[1]において、炭素繊維束を一方向に引きそろえる方法としては、とくに限定はないが、巻出装置にセットされた複数のボビンからある張力を付与して複数の炭素繊維束を引き出し、櫛やガイド、ガイドローラおよび溝ローラ等を使用して、該炭素繊維束を引き揃える方法が挙げられる。
【0027】
炭素繊維束の横方向への並び方は、とくに限定はないが、任意の目付を得られるように、前記炭素繊維束を開繊させても良い。一定間隔としても良いし、オーバラップさせても良い。また、複数の炭素繊維束が平行である必要もない。
横に並べられた炭素繊維束としては、該炭素繊維束の2束から数十束を平行に並べたもの:強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維束の1束から数十束を開繊してウェブ状に拡げたもの;強化繊維の織物などが挙げられる。
【0028】
<工程[2]>
工程[2]において、炭素繊維束がボビンから引き出された後に、クリールローラで張力を負荷される。その後、該炭素繊維束はガイドローラ群に送り出される。送り出された前記炭素繊維束は前記ガイドローラ群に案内され、垂直方向の移動となる。次いで、垂直方向に移動する前記炭素繊維束は、開口部を水平、すなわち加熱面を垂直方向とする加熱装置を通過する。
【0029】
炭素繊維束と樹脂または樹脂組成物との複合化を行う前に、加熱処理により炭素繊維表面のサイジング剤を熱分解することで、サイジング剤を除去することが好ましい。複合化時にサイジング剤が分解され微小なボイドとなり、機械的特性の低下や、樹脂または樹脂組成物との含浸が困難になるといった問題がある。また、該樹脂または樹脂組成物と化学反応をおこしアロイ化し、界面接着性を低下ならしめる現象が発生し、複合材料の品質を著しく劣化されることもある。
【0030】
また、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いる場合には、加熱手段による炭素繊維束を事前に加熱することによって、複合化における、樹脂ないし樹脂組成物の温度を調節しやすい。また、炭素繊維束近傍の樹脂ないし樹脂組成物の温度低下を抑制できるため、炭素繊維束近傍の樹脂ないし樹脂組成物の粘度を下げ、炭素繊維との含浸性が向上する。
【0031】
工程[2]において、炭素繊維束は垂直方向に移動することが好ましい。垂直方向とは、炭素繊維束の移動方向が水平面に対して80°以上100°以下であることを意味する。炭素繊維束は連続して加熱面に送りこまれるとともに加熱面から送り出されるので、炭素繊維束は一か所に長時間とどまることなく、その結果、炭素繊維束が受けるダメージはほとんどない。加えて、炭素繊維束の移動方向は上方より下方に移動することが好ましい。炭素繊維束の加熱時に発生したガス成分は、加熱装置内に発生した気流により上方から外部に排出されるため、該ガス成分が炭素繊維束に再度、付着することがなく、品質の低下が抑制することができる。
【0032】
炭素繊維束を加熱するには、加熱面が垂直方向であることが好ましい。垂直方向とは、加熱面が水平面に対して80°以上100°以下であることを意味する。炭素繊維束を加熱時に発生したガス成分を上方開口部から外部に排出することで、加熱装置にガス成分が付着する事を防止し、加熱装置の汚れを抑制することができる。
【0033】
工程[2]においては、ヒータは、加熱面が垂直方向になるように設置されている。垂直方向とは、加熱面が水平面に対して80°以上100°以下であることを意味する。より好ましくは、85°以上95°以下である。この範囲を超える場合、ガス成分が上方に排出されず、加熱装置に付着、蓄積する危険がある。加えて、加熱面と炭素繊維束との接触により糸切れが発生する懸念がある。
【0034】
工程[2]においては、炭素強化繊維束を0.1m/min以上25m/minの速度(以下、ライン速度と記す)で移動させながら加熱することが好ましい。ライン速度は、2m/min以上15m/min以下がより好ましい。ライン速度が低すぎると生産性が低下し、ライン速度が速すぎると炭素繊維束の昇温が不十分な状態で加熱装置を通過し、炭素繊維束に付着するサイジング剤や水分、不純物の除去が達成できない。
【0035】
ヒータの設定温度は、100℃以上350℃以下とすることが好ましい。ヒータの設定温度が低すぎると炭素繊維束に付着するサイジング剤の十分な熱分解、水分や不純物の除去ができず、製品の品質が低下する場合がある。またヒータの設定温度が高すぎると炭素繊維束が焼けてしまう場合がある。
【0036】
工程[2]においては、炭素繊維束とヒータとの距離を50mm以上500mm以下で加熱することが好ましい。前記距離が近すぎると炭素繊維束とヒータとの接触による毛羽立ちや糸切れの問題が発生する恐れがあり、遠すぎると加熱の効果が薄れる。
【0037】
加熱手段の非接触のヒータとしては、特に限定されない。たとえば、遠赤外線ヒータ、遠赤外線パネルヒータ、近赤外線ヒータ、ハロゲンヒータ、熱風ヒータなどが挙げられる。炭素繊維は幅射熱の吸収率が高いため、対流伝熱によって加熱する熱風ヒータに比べ、伝熱効率の高い幅射伝熱によって加熱する遠赤外線ヒータ、遠赤外線パネルヒータ、近赤外線ヒータ、ハロゲンヒータが好ましい。また、強化繊維を急速加熱できる点では、近赤外線ヒータ、ハロゲンヒータが好ましい。
【0038】
ヒータの設置においては、
図1示すように炭素繊維束を左右に挟むように備える方法が挙げられる。より好ましくは、
図2に示すような筒状であり、筒状の内側に加熱手段を設けているヒータである。なお、筒状の長手方向垂直断面の形状は
図2に示すような円状(ヒータの図示略)、多角形(三角形以上であるが、望ましくは、四角形)、楕円形が挙げられる。加熱装置のすべての面が加熱面である必要はないが、保温性の観点から、加熱面以外には、断熱材を用いるのが望ましい。
【0039】
ヒータの形状は、筒状であることが好ましい。暖められていない気体(空気)が下方の端部から内部空間に継続して流入し、流入した気体(空気)は内部空間で暖められながら内部空間を上方に移動し、内部空気で暖められた気体(空気)は上方の端部から外部空間に継続して流出する。煙突効果(ドラフト効果、通気力ともいう)による定常的な気流が効率的にガス成分の排出を促すことで、加熱装置への付着を抑制することができる。長期間にわたって動作が継続された場合であっても、加熱装置の性能を維持することができる。
【0040】
また、ヒータの開口部にブロワーなどを用いて、ガス成分を吸引してもよいし、下方部から空気を流入し、ガス成分の排出を促してもよい。
【0041】
動力を用いることなく、かつ容易な構造で、煙突効果による空気の流動が生じ、ガス成分を排出することができる。加熱装置の出口と工程[3]の間は、10mm以上1,000mm以下とするのが好ましい。近すぎると空気の流入が阻害されることで、ガス成分の排出効果が薄れ、加熱装置にガス成分が付着する。遠すぎると炭素繊維束の冷却がすすみ、含浸性の低下の原因となる。
【0042】
<工程[3]>
炭素繊維束と樹脂ないし樹脂組成分との複合化とは、炭素繊維束と樹脂ないし樹脂組成分が付着または含浸している状態である。例えば、長繊維ペレットの製造方法における引抜法や、電線被覆法が挙げられるが、生産性の観点から、電線被覆法がより好ましい。本発明の製造方法では、炭素繊維束をそのダイス前や、ダイス内で開繊する事は、必ずしも必要ではなく、目的とする含浸状態と生産性により適宜選択する事が可能である。空隙が少なく含浸品質に優れた複合材を得る観点からは、ダイス内で開繊する事で空隙率を下げる事ができるが、生産性の観点からは、ダイス前や、ダイス内で開繊しない事が好ましい。本発明においては、前記炭素繊維束と樹脂または樹脂組成物との複合化を、クロスヘッドダイを用いて行うことが好ましい。
【0043】
工程[3]で用いることができるクロスヘッドダイ(単にダイともいう)としては、
図3に示すようなものが挙げられる。熱可塑性樹脂と炭素繊維束を複合化させるためのダイであり、クロスヘッドダイの中に繊維を通しながら押出機等からクロスヘッドダイに樹脂を供給して複合化させる。例えばひとつの入り口から繊維、その入り口と90°異なる方向にある別の入り口から溶融状態の樹脂を供給し、クロスヘッドダイの内部で繊維と樹脂を合流して複合化させる。さらにクロスヘッドダイ出口の開口部からを引き抜く事により、本発明の炭素繊維強化樹脂複合材を得る。
【0044】
本発明の工程は、上述した構造、機能を持たせているため、装置内の汚れを最小限に抑え長期連続運転が可能となり、さらにランニングコストを抑制して炭素繊維束の加熱処理を行うことができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
炭素繊維強化樹脂複合材の製造には、
図4に示すような装置を用いた。強化繊維束として、炭素繊維束(三菱ケミカル社製、TRW40 50L、フィラメント数:50,000本、目付:3,750mg/m、引張強度:4.12GPa、引張弾性率:240GPa)を用意した。
【0046】
工程[1]
24本の前記炭素繊維束5を各ボビン6から引出し、櫛(図示略)を使用して12.5mmピッチで平行になるように引き揃えた。
【0047】
工程[2]
引き揃えられた前記炭素繊維束をガイドローラ7により、垂直方
向の移動とした。加熱手段を赤外線ヒータ3とする加熱装置1を用いて前記炭素繊維束5を加熱した。
図5に示すような筒状で、筒状の長手方向垂直断面が長方形(42mm×313mm)であり、長方形の長辺側にヒータ3、短辺側に断熱材11を設けた加熱装置1を、筒状の加熱装置の開口面8が水平方向となるように(加熱面2の角度は水平方向に対して90°)設置し、前記炭素繊維束5を加熱装置1に通過させた。加熱装置1の加熱面2に炭素繊維束5が接触することがなかった。ヒータの設定温度を300℃とした。
【0048】
工程[3]
加熱された炭素繊維束5はヒータ10の出口の開口部から95mm離れたクロスヘッドダイ4の中に供給され溶融状態のポリアミドと複合化され、熱可塑性プリプレグ9となった。ライン速度を3m/minとした。ガス成分は上方に排出された。累積100時間の運転において、加熱面へのガス成分の付着はなかった。
【0049】
(実施例2)
工程[2]におけるヒータの設定温度を150℃にした以外は、実施例1と同様にして熱可塑性プリプレグを得た。ガス成分は上方に排出された。累積100時間の運転において、加熱面へのガス成分の付着はなかった。
【符号の説明】
【0050】
1 加熱装置
2 加熱面
3 ヒータ
4 クロスヘッドダイ
5 炭素繊維束
6 ボビン
7 ガイドローラ
8 開口部
9 プリプレグ
10 押出機
11 断熱材
41 炭素繊維入口
42 樹脂入口
43 出口開口部