(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】MoNbターゲット材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20220726BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C23C14/34 A
H01L21/285 S
H01L21/285 301
(21)【出願番号】P 2018115830
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2017131701
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017199185
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】上野 英
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502166(JP,A)
【文献】特開2000-104164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nbを5原子%~30原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
基地となるMo相にNb相が分散している組織を有し、スパッタリング面の200000μm
2当たりで、70μmを超える最大長を有するNb相が1.0個未満であ
り、Nb相の平均円相当径が25μm~65μmであるMoNbターゲット材
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、平面画像表示装置の配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜となるMoNb薄膜の形成に用いるMoNbターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平面画像表示装置の一種である薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という。)型液晶ディスプレイ等の配線薄膜や電極薄膜は、低い電気抵抗値(以下、「低抵抗」という。)を有するAl、Cu、Ag、Au等の純金属からなる薄膜や、それらの合金からなる薄膜が用いられている。これらの配線薄膜や電極薄膜は、製造工程によっては加熱工程を伴う場合があり、配線や電極として要求される耐熱性、耐食性、密着性のいずれかが劣るという問題や、上記の合金を構成する元素間で拡散層を形成してしまい、必要な電気的特性が失われる等の問題が生じる場合がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、上記の配線薄膜や電極薄膜に対する下地膜やカバー膜として、高融点金属である純MoやMo合金が使用されるようになってきている。特に、Al系の配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜には、MoNb等のMo合金薄膜が使用されており、このMo合金薄膜を形成するためのターゲット材に関しては、例えば、特許文献1のような提案がなされている。
この特許文献1は、機械加工時に、割れや欠けが発生する可能性の高い、Mo合金ターゲットにおいて、硬さのばらつきを低減することが提案されており、切削工具のチップの摩耗や破損を抑制しつつ、Mo合金ターゲット材本体の破損を抑制することができるという点で有用な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献1に記載のあるMo合金としてMoNbを採用し、MoNbターゲット材(以下、単に「ターゲット材」ともいう。)を用いてMoNb薄膜を形成すると、そのMoNb薄膜の比抵抗が高くなる(以下、「高抵抗」という。)という新たな問題が生じる場合があることを確認した。そして、この高抵抗という問題は、上記した配線薄膜や電極薄膜が具備する低抵抗という本来の機能を阻害してしまい、TFT特性の不安定化といった平面画像表示装置の信頼性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0006】
また、本発明者は、成膜速度の向上を目的に、上記のターゲット材を用いて高電力でスパッタリングをすると、積算電力の増大に伴い、ターゲット材の表面粗さが大きくなり、ターゲット材のスパッタリング面にノジュールが生成される場合があることも確認した。そして、このノジュールの問題は、得られるMoNb薄膜にパーティクルが付着してしまい、TFT特性の不安定化といった平面画像表示装置の信頼性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0007】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜に生じる高抵抗の問題と、スパッタリングにおけるターゲット材の表面粗さに起因するノジュールの問題を解決し、低抵抗で安定したTFT特性が得られる平面画像表示装置に好適なMoNb薄膜を形成可能なターゲット材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のMoNbターゲット材は、Nbを5原子%~30原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成を有し、スパッタリング面の200000μm2当たりで、70μmを超える最大長を有するNb相が1.0個未満である。
【0009】
また、本発明のMoNbターゲット材は、前記スパッタリング面の200000μm2当たりで、Nb相の平均円相当径が15μm~65μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のターゲット材は、形成されるMoNb薄膜の比抵抗が高くなることを抑制できる。また、本発明のターゲット材は、高電力でのスパッタリング後においても、スパッタリング面が平滑であるため、ノジュールの生成を抑制することができる。
これにより、本発明は、パーティクルの付着が抑制され、低抵抗で平面画像表示装置の配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜に好適なMoNb薄膜が形成可能となり、例えば、TFT型液晶ディスプレイ等の製造に有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】スパッタリング前の本発明例1となるターゲット材のスパッタリング面を走査型電子顕微鏡で観察した写真。
【
図2】スパッタリング前の本発明例2となるターゲット材のスパッタリング面を走査型電子顕微鏡で観察した写真。
【
図3】スパッタリング前の比較例となるターゲット材のスパッタリング面を走査型電子顕微鏡で観察した写真。
【
図4】スパッタリング後の本発明例1となるターゲット材のスパッタリング面を光学顕微鏡で観察した写真。
【
図5】スパッタリング後の本発明例2となるターゲット材のスパッタリング面を光学顕微鏡で観察した写真。
【
図6】スパッタリング後の比較例となるターゲット材のスパッタリング面を光学顕微鏡で観察した写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のターゲット材は、スパッタリング面の200000μm2当たりで、70μmを超える最大長を有するNb相を1.0個未満とする。すなわち、本発明のターゲット材は、Moよりもスパッタリング率の低いNbを、最大長が70μm以下という粗大化していない状態でターゲット材の組織中に存在させている。これにより、本発明のターゲット材は、得られるMoNb薄膜の比抵抗が高くなることを抑制できるという効果を奏する。そして、本発明のターゲット材は、成膜速度の向上を目的に、高電力でスパッタリングした際にも、MoとNbが均一にスパッタリングされるため、スパッタリング面の表面粗さの増大が抑制され、ノジュールの生成を抑制できるという効果も奏する。
また、上記と同様の理由から、本発明のターゲット材は、そのスパッタリング面の200000μm2当たりで、50μmを超える最大長を有するNb相が1.0個未満であることが好ましく、40μmを超える最大長を有するNb相が1.0個未満であることがより好ましい。
【0013】
ここで、本発明でいうNb相の最大長および平均円相当径は、ターゲット材のスパッタリング面の任意の200000μm2当たりの視野において、走査型電子顕微鏡によりMo相とNb相を高コントラストで撮影し、その画像を画像解析ソフト(例えば、OLYMPUS SOFT IMAGING SOLUTIONS GMBH製の「Scandium」)を用いて測定することができる。また、本発明では、複数のNb相が連結しているような場合のNb相の最大長は、連結したNb相の最外周で構成される最大長を採用する。
【0014】
そして、本発明のターゲット材は、ターゲット材の組織中に、スパッタリング率がMoよりも低いNbを微細に分散させる観点から、スパッタリング面の200000μm2当たりで、Nb相の平均円相当径を15μm~65μmにすることが好ましい。これにより、本発明のターゲット材は、成膜速度の向上を目的に、高電力でスパッタリングした際にも、MoとNbを均一にスパッタリングすることができ、ターゲット材の成分に近似した成分のMoNb薄膜を得ることができる点で好ましい。また、上記と同様の理由から、Nb相の平均円相当径は、50μm以下であることがより好ましく、45μm以下がさらに好ましい。
また、原料粉末の調整等といった生産性の観点からは、Nb相の平均円相当径は、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。
【0015】
本発明のターゲット材は、Nbを5原子%~30原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成を有する。Nbの含有量は、配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜としてMoNb薄膜を使用した際に、低抵抗性やエッチャントに対する耐エッチング性等の特性を維持することができる、平面画像表示装置の製造が可能な範囲として規定する。そして、上記と同様の理由から、Nbの含有量は、7原子%以上が好ましく、9原子%以上がより好ましい。また、上記と同様の理由から、Nbの含有量は、20原子%以下が好ましく、15原子%以下がより好ましい。
【0016】
本発明のターゲット材の製造方法の一例を説明する。本発明のターゲット材は、例えば、Mo粉末とNb粉末を原料粉末として用意し、この原料粉末を混合して加圧容器に充填し、この加圧容器を加圧焼結して焼結体を作製し、この焼結体に機械加工および研磨を施して得ることができる。ここで、原料粉末に用いるMo粉末は、平均粒径(累積粒度分布のD50、以下「D50」という。)が2μm~10μmのMo粉末や、このMo粉末とD50が25μm~55μmのMo粉末を混合した混合Mo粉末を用いることで、ターゲット材中のMo相の偏析を抑制できる点で好ましい。
【0017】
原料粉末に用いるNb粉末は、D50が25μm~65μmのNb粉末を篩にかけて、得られる70μmアンダーのNb粉末を使用することで、最大長が70μmを超える粗大なNb相がなく、Nb相の平均円相当径が15μm~65μmの範囲にある、均一で微細な組織を有するターゲット材を得ることができる点で好ましい。
また、成膜速度の向上を目的に、より高電力でのスパッタリングを想定し、ノジュールの生成を抑制するためには、D50が25μm~65μmのNb粉末を篩にかけて、得られる45μmアンダーのNb粉末を使用することがより好ましい。
そして、本発明のターゲット材を得るには、上記の原料粉末を加圧焼結する前に、上記の加圧容器を400℃~500℃に加熱して真空脱気してから封止をすることにより、次工程の加圧焼結でNbが粒成長することを抑制できる点で好ましい。
【0018】
加圧焼結は、例えば、熱間静水圧プレスやホットプレスを適用することが可能であり、1000℃~1500℃、80MPa~160MPa、1時間~15時間の条件で行なうことが好ましい。これらの条件の選択は、得ようとするターゲット材の成分、サイズ、加圧焼結装置等に依存する。例えば、熱間静水圧プレスは、低温高圧の条件が適用しやすく、ホットプレスは、高温低圧の条件が適用しやすい。本発明では、長辺が2m以上の大型のターゲット材を得ることが可能な熱間静水圧プレスを用いることが好ましい。
【0019】
ここで、焼結温度は、1000℃以上にすることで、焼結が促進され、緻密なターゲット材を得ることができる点で好ましい。また、焼結温度は、1500℃以下にすることで、Nbの粒成長が抑制され、均一で微細な組織を得ることができる点で好ましい。
加圧力は、80MPa以上にすることで、焼結が促進され、緻密なターゲット材を得ることができる点で好ましい。また、加圧力は、160MPa以下にすることで、汎用の加圧焼結装置を用いることができる点で好ましい。
焼結時間は、1時間以上にすることで、焼結が促進され、緻密なターゲット材を得ることができる点で好ましい。また、焼結時間は、15時間以下にすることで、製造効率を阻害することなく、Nbの粒成長が抑制された、緻密なターゲット材を得ることができる点で好ましい。
【実施例】
【0020】
D50が4μmのMo粉末と、D50が55μmのNb粉末に篩を用いて70μmアンダーとしたNb粉末とを、Nbを10原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成となるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、軟鋼製の加圧容器に上記で用意した混合粉末を充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、1250℃、145MPa、10時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、本発明例1のターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0021】
D50が4μmのMo粉末と、D50が35μmのNb粉末に篩を用いて45μmアンダーとしたNb粉末とを、Nbを10原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成となるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、軟鋼製の加圧容器に上記で用意した混合粉末を充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、1250℃、145MPa、10時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、本発明例2のターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0022】
D50が4μmのMo粉末とD50が115μmのNb粉末とを、Nbを10原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成となるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、軟鋼製の加圧容器に上記で用意した混合粉末を充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、1250℃、145MPa、10時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、比較例のターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0023】
上記で得た各焼結体に、機械加工および研磨を施して、それぞれ、直径180mm×厚さ5mmのターゲット材を作製した。
上記で得た各ターゲット材のスパッタリング面を走査型電子顕微鏡の反射電子像で、任意の横:591μm×縦:435μm(面積:257085μm
2)の視野のうち、200000μm
2となる視野を3視野観察して、各視野内に存在する各Nb相の最大長を測定し、最大長が70μmを超えるNb相の個数を計測した。また、各視野に存在するNb相の円相当径を測定し、3視野の平均円相当径を算出した。
ここで、計測は、走査型電子顕微鏡によりMo相とNb相を高コントラストで撮影し、その画像について、OLYMPUS SOFT IMAGING SOLUTIONS GMBH製の画像解析ソフト(Scandium)を用いて行なった。その結果を表1に示す。
また、スパッタリング前の各ターゲット材のスパッタリング面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を
図1~
図3に示す。
【0024】
各ターゲット材について、キヤノンアネルバ株式会社製のDCマグネトロンスパッタ装置(型式:C3010)を用いて、Ar雰囲気、圧力0.5Pa、電力500Wの条件で、厚さが300nmのMoNb薄膜をガラス基板上に形成して、比抵抗測定用の試料を3枚ずつ得た。そして、比抵抗の測定は、株式会社ダイヤインスツルメント製の4端子薄膜抵抗率測定器(MCP-T400)を用いた。その結果を表1に示す。
【0025】
各ターゲット材について、キヤノンアネルバ株式会社製のDCマグネトロンスパッタ装置(型式:C3010)を用いて、Ar雰囲気、圧力0.5Pa、電力1000W、スパッタリング時間30分の条件でスパッタリングを実施した。
そして、各ターゲット材について、スパッタリング前後におけるスパッタリング面の表面粗さを測定した。表面粗さは、株式会社ミツトヨ製の小形表面粗さ測定機(SU-210)を用いて、研磨方向に対して直角方向におけるJIS B 0601:2001で規定される算術平均粗さ(Ra)を測定した。その結果を表1に示す。
また、スパッタリング後の各ターゲット材のスパッタリング面を光学顕微鏡で観察した結果を
図4~
図6に示す。
【0026】
【0027】
本発明のターゲット材は、
図1および
図2に示すように、基地となるMo相1に微細なNb相2が分散していることがわかる。そして、本発明のターゲット材は、いずれの視野においても、Nb相の平均円相当径が30μm~49μmであった。また、最大長が70μmを超えるNb相は1個も確認されず、その3視野の平均個数は1.0個未満であることが確認できた。
また、本発明のターゲット材は、確認した3視野で、Nb相の最大長が、最大値であっても68μmであることが確認できた。
【0028】
また、本発明のターゲット材は、
図4および
図5に示すように、スパッタリング後の算術平均粗さRaが2.00μm未満であり、高電力の継続スパッタリングによるノジュールの生成、すなわち配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜へのパーティクルが付着する問題に対して有用なターゲット材であることが確認できた。
また、本発明のターゲット材を用いて形成したMoNb薄膜は、比抵抗が15.2μΩ・cm以下であり、配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜として低抵抗で有用な薄膜であることが確認できた。
【0029】
一方、比較例のターゲット材は、
図3に示すように、基地となるMo相1に粗大なNb相2が分散していることがわかる。そして、比較例のターゲット材は、いずれの視野においても、Nb相の平均円相当径が65μmを超えていた。また、最大長が70μmを超えるNb相が2個以上確認され、その3視野の平均個数は4.3個であった。また、比較例のターゲット材は、確認した3視野で、Nb相の最大長が、最大値で117μmもあった。
【0030】
また、比較例のターゲット材は、
図6に示すように、スパッタリング後の算術平均粗さRaが2.20μmを超えており、高電力の継続スパッタリングにより、ノジュールの生成の虞があることが確認された。
また、比較例のターゲット材を用いて形成したMoNb薄膜は、比抵抗が15.5μΩ・cmを超えており、配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜として、高抵抗であり、不適であることが確認された。
【符号の説明】
【0031】
1 Mo相
2 Nb相