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特許7110758種結晶の製造方法、種結晶の選別方法および金属酸化物単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】種結晶の製造方法、種結晶の選別方法および金属酸化物単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/30 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
C30B29/30 A
C30B29/30 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018119860
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020001937
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】梶ヶ谷 富男
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-060194(JP,A)
【文献】特開平06-211595(JP,A)
【文献】特開平08-310899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法による金属酸化物単結晶の製造に用いる種結晶の製造方法であって、
チョクラルスキー法によって、前記金属酸化物単結晶の製造における当該金属酸化物単結晶の育成方向と垂直な方向に育成した種結晶用金属酸化物単結晶を得る工程と、
前記育成方向と平行な方向に、前記種結晶用金属酸化物単結晶の直胴部を切断して複数の円柱状の単結晶を得る第1切断工程と、
前記円柱状の単結晶を切断して、前記育成方向を長手方向とする直方体状の種結晶を得る第2切断工程と、
を含
前記第2切断工程は、それぞれの前記円柱状の単結晶ごとに異なる育成方向を長手方向とする直方体状の種結晶を切り出す工程である、種結晶の製造方法。
【請求項2】
チョクラルスキー法による金属酸化物単結晶の製造に用いる種結晶の選別方法であって、
請求項1に記載の種結晶用金属酸化物単結晶の直胴部における前記円柱状の単結晶と隣接していた切断面を含む試験片を、当該直胴部から切り出す工程と、
X線トポグラフィにより前記試験片のリネージの分布状態を観察する観察工程と、
前記リネージの分布状態より、前記円柱状の単結晶におけるリネージの分布状態を予測する予測工程と、
前記予測工程により予測した分布状態を基に、金属酸化物単結晶の原料融液に接触する接触部から所定範囲内にリネージが存在しない種結晶を選別する選別工程と、
を含む、種結晶の選別方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法により製造した種結晶であって、金属酸化物単結晶の原料融液に接触する接触部から所定範囲内にリネージが存在しない種結晶、または請求項2に記載の方法により選別した種結晶を、前記原料融液に接触させるシーディング工程を含む、チョクラルスキー法による金属酸化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物単結晶は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムである、請求項3に記載の金属酸化物単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法による金属酸化物単結晶の製造方法に関するものであり、特に、種結晶の製造方法、種結晶の選別方法および種結晶を用いた金属酸化物単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三方晶系で強誘電体であるタンタル酸リチウム(LiTaO3:以下、「LT」と略称する場合がある)単結晶や、ニオブ酸リチウム(LiNbO3:以下、「LN」と略称する場合がある)単結晶等から加工される金属酸化物単結晶の基板は、主に携帯電話等の移動体の通信機器において、電気信号ノイズを除去する表面弾性波素子(SAWフィルター)の材料として用いられている。
【0003】
SAWフィルターの材料となるLT単結晶やLN単結晶は、産業的には主にチョクラルスキー法(以下、「Cz法」と略称する場合がある)によって育成されている。Cz法とは、坩堝内の原料融液の表面に種結晶となる単結晶片を接触させ、その後該種結晶を回転させながら上方に引き上げることにより、種結晶と同一方位の円筒状単結晶を育成する方法である。
【0004】
Cz法による単結晶の育成では、高周波誘導加熱方式、または抵抗加熱方式の育成炉が用いられている。例として、高周波誘導加熱式の単結晶製造装置のホットゾーン構成を示す育成炉内の断面模式図を図1に示す。LT単結晶を育成する場合、LT単結晶の融点は1650℃と高温であることと、育成雰囲気に酸素が必要であること等から、育成に際してはイリジウム(Ir)製の坩堝10が用いられており、この坩堝10自体がワークコイル20で形成される高周波磁場によって誘導され発熱体となる。坩堝10の周囲には、断熱や温度分布の調整のためにアルミナやジルコニア製の耐火物30、31、32を配している。このような炉内構成の下、坩堝10内の原料を融解させた後に、種結晶40の先端部41を原料融液50に浸し、その後、種結晶40を回転させながら引上げることで、種結晶40と同一方位の円筒状の単結晶を育成する。
【0005】
図2に、LT単結晶およびLN単結晶の結晶軸と育成方位との関係を示す。図2(a)には、三方晶系の結晶系におけるc軸およびa軸とX軸、Y軸およびZ軸との対応関係を示しており、c軸をZ軸、a軸をX軸とし、Z軸、X軸に直行する軸がY軸となっている。そして、X軸に垂直なY軸とZ軸を含むY-Z平面を平面Fで示している。図2(b)は、平面Fと垂直な方向Dより平面Fを見た図である。図2(b)に示すように、移動体の通信機器に用いられるSAWフィルター用のLT基板やLN基板へ加工するための単結晶Sは、Cz法において平面Fに対して平行な方位RY(結晶引上方位RYとする)に引上られて育成される。結晶引上方位RYは、すなわち種結晶方位であり、一般的に、方位RYはX軸を回転軸としてY軸からZ軸方向に回転した角度(回転角度d)で表す。例えば、回転角度dが42°の時は、方位RYを「42°RY育成」と称し、用いる種結晶は「42°RY種結晶」と呼ぶ。
【0006】
Cz法による単結晶の育成おいては、種結晶の結晶性が大きく育成結果(単結晶化率)に影響する。種結晶40は、図3の従来法における種結晶の加工方法を示す模式図に示すように、予めCz法で育成された単結晶60から、育成方向に相当する方位RYと平行な方向を長手方向として切り出して作製するのが一般的である。しかしながら、作製した種結晶40a内に、小傾角粒界(リネージ)と呼ばれる転位が列状に配列した面状の結晶欠陥が内在する場合がある。リネージが生じると、これを境に左右の原子の並びに若干の角度(方位差)がついてしまう。リネージが原料融液との接触面に現れていると、そのリネージによる方位差が育成する単結晶に引き継がれてしまい、育成の進行に伴ってリネージを境界とした結晶方位の傾きが大きくなり、育成した単結晶が多結晶化する確率が高くなる。
【0007】
従って、多結晶化を抑制し、安定して単結晶を得るためには、育成前に種結晶の結晶性検査を行い、原料融液との接触面近傍にリネージが内在するものは種結晶としては用いないという措置をとることが提案されている。例えば、特許文献1には、1)種結晶の側面を鏡面研磨して、可視光もしくは偏光観察によって種結晶内の結晶欠陥を検出し、原料融液との接触面近傍にリネージの無い種結晶を選別する方法や、2)種結晶に加工する単結晶において、種結晶として切り出した部分に隣接するウエーハを切り出し、それをX線トポグラフ法で撮影してリネージの有無を確認し、種結晶を選別する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-211595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、LT単結晶やLN単結晶は、二軸性複屈折を有する非線形光学結晶であるために、1)の方法では、種結晶側面がZ軸に垂直な面となっている場合を除いては、光学軸であるZ軸から傾いた方向からの観察となるので明瞭な観察像を得ることができずに、種結晶内のリネージを検出することが困難であった。また、2)の方法においては、実際に種結晶となる部分の上面または下面と隣接するウエーハの両方もしくは片方を観察することとなる。この場合には、一般的に長手方向の長さが50~100mm程度ある種結晶内の、リネージ分布を正確に把握することは出来なかった。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的は、Cz法によるLTやLN等の金属酸化物の単結晶の育成技術において、種結晶に内在するリネージを起因とした単結晶の育成不良の発生を抑制し、高単結晶化率で安定的に金属酸化物の単結晶を得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の種結晶の製造方法は、チョクラルスキー法による金属酸化物単結晶の製造に用いる種結晶の製造方法であって、チョクラルスキー法によって、前記金属酸化物単結晶の製造における当該金属酸化物単結晶の育成方向と垂直な方向に育成した種結晶用金属酸化物単結晶を得る工程と、前記育成方向と平行な方向に、前記種結晶用金属酸化物単結晶の直胴部を切断して円柱状の単結晶を得る第1切断工程と、前記円柱状の単結晶を切断して、前記育成方向を長手方向とする直方体状の種結晶を得る第2切断工程と、を含む。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の種結晶の選別方法は、チョクラルスキー法による金属酸化物単結晶の製造に用いる種結晶の選別方法であって、本発明の種結晶の製造方法に記載の種結晶用金属酸化物単結晶の直胴部における前記円柱状の単結晶と隣接していた切断面を含む試験片を、当該直胴部から切り出す工程と、X線トポグラフィにより前記試験片のリネージの分布状態を観察する観察工程と前記リネージの分布状態より、前記円柱状の単結晶におけるリネージの分布状態を予測する予測工程と、前記予測工程により予測した分布状態を基に、金属酸化物単結晶の原料融液に接触する接触部から所定範囲内にリネージが存在しない種結晶を選別する選別工程と、を含む。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の金属酸化物単結晶の製造方法は、本発明の種結晶の製造方法により製造した種結晶であって、金属酸化物単結晶の原料融液に接触する接触部から所定範囲内にリネージが存在しない種結晶、または本発明の種結晶の選別方法により選別した種結晶を、前記原料融液に接触させるシーディング工程を含む、チョクラルスキー法による金属酸化物単結晶の製造方法である。
【0014】
前記金属酸化物単結晶は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、種結晶に内在するリネージが育成する単結晶に伝搬することなく、単結晶の育成が可能となるので、リネージの発達を起因とした多結晶化が抑制され、金属酸化物単結晶の育成において、安定して高単結晶化率を維持できるようになり、生産性の向上および生産コストの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】単結晶製造装置の概略構成を示す断面模式図である。
図2】LT単結晶およびLN単結晶の結晶軸と育成方位との関係を示す図である。
図3】従来法における種結晶の加工方法を示す模式図である。
図4】本発明における種結晶の加工方法を示す模式図である。
図5】42°RY種結晶の加工方法を示す図である。
図6】128°RY種結晶の加工方法を示す図である。
図7】本発明における種結晶の選別方法のうち、試験片を切り出す工程を説明する模式図である。
図8】X線トポグラフィにより観察した試験片におけるリネージの分布状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0018】
[単結晶製造装置]
本発明の種結晶の製造方法は、Cz法による金属酸化物単結晶の製造に用いる種結晶の製造方法であり、例えば図1に断面模式図を示す単結晶製造装置100を用いることができる。
【0019】
図1に示すように、単結晶製造装置100は、高周波誘導加熱方式の装置であり、育成炉チャンバー11内に坩堝10を配置する。坩堝10は、耐火物製の坩堝台33上に載置される。チャンバー11内には、坩堝10を囲むように、耐火材30が配置されている。また、坩堝10を囲むようにワークコイル20が配置され、ワークコイル20が形成する高周波磁場によって、坩堝壁10aに渦電流が流れ、坩堝10自体が発熱体となる。育成炉チャンバー11の上部には、シード棒16が回転可能かつ上下方向に移動可能に設けられている。シード棒16の下端の先端部には、種結晶40を保持するためのシードホルダ17が取り付けられている。
【0020】
Cz法では、坩堝10内の原料融液50の融液表面に、棒状の部材であるシード棒16の先端にあるシードホルダ17に取り付けた単結晶片状の種結晶40を接触させ(シーディング)、その後、種結晶40をシード棒16の軸を中心として水平方向に回転させながら上方に引き上げることにより、単結晶の肩部および直胴部を形成し、種結晶40と同一方位の円筒状単結晶を育成することができる。また、単結晶の育成に伴って、種結晶40とともに単結晶を吊り下げて保持することができる。
【0021】
例えば、単結晶製造装置100によってLT単結晶を育成する場合は、LT単結晶の融点が1650℃と高温であり、育成雰囲気に酸素が必要である。そこで、高温酸素雰囲気下において使用可能な、高融点金属であるイリジウム(Ir)製の坩堝10やシードホルダ17が用いられる。育成時の引上速度は、一般的には数mm/時間程度、回転速度は数rpm程度で行われる。また、育成時の炉内は、酸素濃度数%程度の窒素-酸素の混合ガス雰囲気とするのが一般的である。このような条件下で、所望の大きさまでLT単結晶を育成した後は、引上速度の変更や融液温度を徐々に高くする等の操作を行うことで、育成したLT単結晶を原料融液50から切り離す。その後、育成炉チャンバー11内のワークコイル20の出力を所定の速度で低下させることで徐冷し、育成炉12内の温度が室温近傍となった後に、育成炉12内からLT単結晶を取り出す。
【0022】
一方、単結晶製造装置100によってLN単結晶を育成する場合は、LN単結晶の融点が1250℃とLT単結晶よりも400℃低い温度で、育成雰囲気の酸素濃度を20%程度として育成することが一般的であり、白金(Pt)製の坩堝10を用いることができる。坩堝10以外の部材は、基本的にはLT単結晶を育成する場合と同様の素材を用いることができる。
【0023】
また、単結晶製造装置100においては、シード棒16の上下移動および回転を行うため、例えば、不図示のモータを備えた引き上げ軸駆動手段を設けてもよい。なお、シード棒16の回転速度および引き上げ速度は、形成する単結晶の径の大きさや、直胴部の長さ等により、適宜設定することができる。
【0024】
坩堝10は、金属酸化物単結晶の原料を入れ、溶融状態にした原料融液50を保持するものである。例えば、円形の底部10bと、底部10bの外縁部から立設した円筒形の側壁部(坩堝壁)10bを有し、上部10cが開口したカップ形状のものを用いることができる。
【0025】
ワークコイル20は、坩堝10の外周を囲んで配置することができ、高周波磁場を形成し、これによって坩堝10は誘導されて発熱する。ワークコイル20には、例えば不図示の外部電源に接続されている。
【0026】
また、ワークコイル20による高周波誘導加熱方式に替えて、抵抗加熱ヒーターによる抵抗加熱方式により、坩堝10を加熱してもよい。抵抗加熱ヒーターとしては、電気抵抗により発熱するカーボン、ニクロム(ニッケルとクロムの合金)、または二珪化モリブデン等を発熱体とするものを適宜用いることができる。例えば、LN単結晶を製造する場合には、特に酸素雰囲気中で有用なニクロム製や二珪化モリブデン製のヒーターを用いることが可能であり、より耐熱性の高い二珪化モリブデン製の発熱体をヒーターとして用いることが、より好ましい。
【0027】
支持台70は、坩堝10および坩堝10を載置する坩堝台を支持する台であり、ワークコイル20の加熱効率を考慮して、坩堝10を最適な位置に保持することができる。支持台70は、例えば坩堝10の底部10bの温度を測定する不図示の温度センサが坩堝10と接触できるよう、中心部に穴を設けることができる。支持台70は、例えばジルコニアやアルミナ等の耐熱性のセラミックス製であり、支持台70に載置した坩堝10を上下移動させるための駆動機構と組み合わせて使用してもよい。
【0028】
単結晶製造装置100は、上記の他、坩堝10の径方向外方を囲み、育成炉12の壁、天井、底部を構成する耐火物30、31、32を備えることができる。これらの断熱材30、31、32は外部への熱の放出を抑制する部材であり、例えばジルコニアやアルミナ等の耐熱性のセラミックスまたはフェルトを用いることができる。また、これらの断熱材の外周を覆う外壁11aを備え、育成炉チャンバー11を構成することができる。
【0029】
また、単結晶製造装置100は、金属酸化物単結晶の育成プロセスを含めた単結晶製造装置100全体の制御を行うための制御手段を備えることができる。制御手段は、例えば、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)、及び、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備えている。また、制御手段は、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integra Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
【0030】
[種結晶の製造方法]
次に、Cz法による金属酸化物単結晶の製造に用いる種結晶の製造方法について、その一例として単結晶製造装置100を用いた製造方法を説明する。
【0031】
(種結晶用金属酸化物単結晶を得る工程)
製造対象である金属酸化物単結晶と同様に、種結晶も、まず本工程にてCz法によって種結晶用の金属酸化物単結晶を育成し、その後切断して直方体状の種結晶を得る。Cz法による金属酸化物単結晶の育成方法は上記しているが、本工程では、育成方向が重要であり、製造対象である金属酸化物単結晶の製造における、当該金属酸化物単結晶の育成方向と垂直な方向に、種結晶用金属酸化物単結晶を育成する。
【0032】
例えば、図2により説明すると、製造対象である金属酸化物単結晶を単結晶Sとした場合、育成方向は方位RYとなる。そのため、種結晶用金属酸化物単結晶は、方位RYと垂直な方向であるX軸方向に引き上げて育成する。
【0033】
金属酸化物単結晶は、方位RYの方向に引き上げて育成する場合よりも、X軸方向に引き上げて育成する方が、結晶の対称性がよく、リネージ等の欠陥が生じにくい。そこで、X軸方向に引き上げて育成したものを、種結晶用金属酸化物単結晶とする。
【0034】
(第1切断工程)
第1切断工程について、図4の本発明における種結晶の加工方法を示す模式図を用いて説明する。本工程では、得られた種結晶用金属酸化物単結晶S2の直胴部42bを、当該種結晶用金属酸化物単結晶S2の育成方向と垂直な方向、すなわち製造対象である金属酸化物単結晶の育成方向(方位RY)と平行な方向に切断して、円柱状の単結晶45を得る。直胴部42bの切断には、例えばワイヤーソーを用いることができる。
【0035】
種結晶用金属酸化物単結晶S2の育成方向がX軸方向の場合(図4(a))、切り出した円柱状の単結晶45の切り出し面となる表面45aおよび裏面45bは、X軸に垂直なY-Z平面F(図2)と平行になる。
【0036】
(第2切断工程)
続く第2切断工程では、第1切断工程により得た円柱状の単結晶45を、製造対象である金属酸化物単結晶の育成方向(方位RY)が長手方向となるように切断して、直方体状の種結晶40bを得る(図4)。円柱状の単結晶45の切断には、例えばワイヤーソーを用いることができる。
【0037】
例えば、LT単結晶用の種結晶を得る場合には、回転角度dを42°として、方位RYが長手方向となるようにして42°RY種結晶を得ることができる(図5)。また、LN単結晶用の種結晶を得る場合には、回転角度dを128°として、方位RYが長手方向となるようにして128°RY種結晶を得ることができる(図6)。
【0038】
図3のような従来の加工方法の場合、引き上げ方向となる方位RYの方向を長手方向とした種結晶を多量に得られる一方で、引き上げ方向とは異なる方向を長手方向とする種結晶を得るには、切断によるロスが大きいため多量に得ることは困難であった。
【0039】
ただし、本発明の種結晶の製造方法であれば、直胴部42bより円柱状の単結晶45を切り出してから、第2切断工程によって所定の方位RYの方向を長手方向とした種結晶40bを切り出すことができる。すなわち、第2切断工程における種結晶40bの切り出し方向の自由度が高いため、あらゆる育成方向の金属酸化物単結晶の育成に対しても、それに応じた種結晶40bを一度に多数用意することができる。例えば、直胴部42bより円柱状の種結晶45を複数切り出した場合、それぞれの円柱状の種結晶45ごとに異なる方位RYの方向を長手方向とする種結晶40bを切り出すことができる。
【0040】
(その他の工程)
本発明の種結晶の製造方法は、上記の工程に限定されず、他の工程を含んでもよい。例えば、種結晶用金属酸化物単結晶を得るために、X軸とは異なる方位RYへ育成された金属酸化物単結晶から、X軸方向を長手方向とする直方体状の種結晶を切り出して、種結晶を準備する工程等を含んでもよい。
【0041】
[種結晶の選別方法]
Cz法により育成されたLT単結晶やLN単結晶等の金属酸化物単結晶では、しばしば、多結晶化が発生し、単結晶化率を悪化させていた。多結晶化した直胴部を観察すると、多結晶化の起点にはリネージが存在している。また、多結晶の直胴部から切り出した基板をX線トポグラフ観察すると、リネージは直胴部の上部側から下部側へと発達し、結晶の育成と共にリネージを境界とした結晶方位の傾きが大きくなっていく。従って、多結晶化はリネージを境界とした結晶方位の傾きが臨界値を超えて大きくなった場合に、発生すると考えられる。
【0042】
そこで、金属酸化物単結晶の育成においては、リネージの形成や発達を抑制するような温度環境や育成条件を選定している。ただし、種結晶にリネージがあることで、育成の出発点となる種結晶と原料融液との接触面やその近傍にリネージが存在すると、そのリネージが育成中の単結晶に引き継がれてしまい、結晶成長の進行と伴にリネージが発達して多結晶化してしまう。
【0043】
よって、種結晶の特に原料融液と接触する領域において、リネージがあるか否かを予め観察して、種結晶を選別することが重要となる。そこで、本発明の種結晶の選別方法では、直胴部42bにおいて円柱状の単結晶45に隣接していた部分から、試験片としてX線トポグラフ撮影用の基板を切り出し、それらの基板のX線トポグラフ観察結果から種結晶内に存在すると予想されるリネージの分布を求め、原料融液に接触する種結晶の先端部から所定範囲内にリネージが存在しないものを選別して種結晶として用いることができる。選別した種結晶を用いれば、Cz法を用いた育成における多結晶化を抑制することができる。以下、Cz法による金属酸化物単結晶の製造に用いる種結晶の選別方法について、その一例を説明する。
【0044】
(試験片の切り出し工程)
本工程では、図7に示すように、種結晶用金属酸化物単結晶S2の直胴部42bにおいて、円柱状の単結晶45と隣接していた切断面43a、43bを含む試験片44a、44bを、直胴部42bから切り出す。ここで、試験片44aは円柱状の単結晶45の表面45aと隣接していた切断面43aを有し、試験片44bは円柱状の単結晶45の裏面45bと隣接していた切断面43bを有する。試験片44a、44bは、直動部42bの長手方向と垂直に切り出して厚みの均一なウエーハ状とすることで、X線トポグラフ測定における測定精度を一定に維持することができる。なお、試験片44a、44bの両方を切り出すことは必須ではなく、観察せずともリネージの分布状態が予想できる場合には、試験片44a、44bのいずれか一方のみを切り出して用いることができる。また、試験片の厚みは、例えばLTの場合は0.5mm、LNの場合は1.0~1.5mmとすることが好ましい。
【0045】
(観察工程)
本工程では、X線トポグラフィにより試験片44a、44bのリネージの分布状態を観察する。観察手法は通常のものであり、特に制限は無い。例えば、X線トポグラフィ解析装置(XRT)を使用して測定することができ、それぞれの試験片に適した条件により撮影し、目視にてトポグラフ像を観察することができる。
【0046】
なお、試験片44a、44bの両方についてリネージの有無を観察することは必須ではなく、観察せずともリネージの分布状態が予想できる場合には、試験片44a、44bのいずれか一方のみについて、リネージの有無の観察をすれば足りる。
【0047】
(予測工程)
本工程では、観察工程で得たリネージの分布状態より、円柱状の単結晶45におけるリネージの分布状態を予測する。XRTによる測定により、図8に示すような試験片におけるリネージの分布状態を示す写真を得ることができる。図8の試験片において、枝分かれした白線がリネージである。
【0048】
例えば、試験片44aの切断面43aは、円柱状の単結晶45よりも先に結晶化したものであることから、切断面43aにリネージが発生した場合には、円柱状の単結晶にもリネージが存在することが予測できる。
【0049】
種結晶40bの太さは、精々10mm角以下であるので、円柱状の単結晶45の厚みも厚くて10mm程度であり、切断面43aと43bとの間の距離も長くても10mm程度である。従って、切断面43aと43bのX線トポグラフ像を比較することで、これらの間にあった円柱状の単結晶45のリネージ分布を予測することができる。
【0050】
(選別工程)
本工程では、予測工程により予測したリネージの分布状態を基に、金属酸化物単結晶の原料融液50に接触する接触部46b(図4c)から所定範囲内に、リネージが存在しない種結晶40bを選別する。例えば、種結晶40bにおいて、接触部46bから3mm以内にリネージが存在しなければ、原料融液50へとリネージが伝播することがないため、金属酸化物単結晶の育成に用いることができる。
【0051】
例えば、円柱状の単結晶45のリネージ分布を予測した後に、本発明における種結晶の製造方法の第2切断工程を行って、接触部46bから3mm以内にリネージが存在しないように切断することで、種結晶40bを選別することができる。また、第2切断工程を行って直方体状の種結晶40bを得た後に、観察工程から予測工程までを行い、得られたリネージの分布状態を基に、接触部46bから3mm以内にリネージが存在しない種結晶40bを選別することができる。このように、本発明の種結晶の選別方法は、本発明の種結晶の製造方法における第1切断工程と第2切断工程の間に行うことができ、また、第2切断工程の後に行うこともできる。
【0052】
(その他の工程)
本発明の種結晶の選別方法は、上記の工程に限定されず、他の工程を含んでもよい。例えば、リネージの分布状態をより精密に確認するべく、円柱状の単結晶45の一部を切り出して試験片とし、X線トポグラフィにより観察する工程を含んでもよい。
【0053】
従来手法では、例えば図3に示すように、予め所望の方位RYの方向で育成した種結晶S1から、数mm角で長さ数十mm程度の種結晶40aを、方位RYの育成方向が長手方向となるように切り出していた。そのため、X線トポグラフィによりリネージの分布を観察するためには、種結晶40aの上部と下部を切り出して試験片44c、44dを得ていた。種結晶40aの上部と下部との距離は、種結晶の長手方向の長さ分(50mm以上)あるため、試験片44a、44bの観察結果から、種結晶40aにおけるリネージの分布状態を予測することは困難であった。例えば、直胴部42aの長手方向と略水平方向にリネージが分布した場合には、試験片44c、44dのいずれにもリネージが確認されなかったとしても、種結晶40aにはリネージが存在する場合が考えられる。そのため、従来手法では、リネージの分布を予測する精度は十分ではなかった。
【0054】
一方で、本発明の種結晶の選別方法であれば、直胴部42bから複数の円柱状の単結晶45を切り出すことができるため、試験片44a、44bの数も従来手法より増やすことができ、リネージの分布を予測する精度が上がる。また、直胴部42bの長手方向と水平な断面全体を観察することができるため、リネージの分布状態をより正確に予測することができる。
【0055】
[金属酸化物単結晶の製造方法]
次に、本発明の金属酸化物単結晶の製造方法について説明する。本製造方法は、Cz法による製造方法であり、本発明の種結晶の製造方法により製造した種結晶40bを、原料融液50に接触させるシーディング工程を含む。種結晶40bとしては、原料融液50に接触する接触部46bから所定範囲内(接触部46bから3mm以内)にリネージが存在しない種結晶40bを使用する。
【0056】
このような種結晶40bとしては、本発明の種結晶の選別方法により選別した種結晶40bを使用する事ができる。また、単結晶40bにおけるリネージの分布状態が予測可能であり、接触部46bから所定範囲内にリネージが存在しないことが明らかなものであれば、本発明の種結晶の選別方法により選別していない種結晶40bも使用することができる。
【0057】
本発明において、製造する金属酸化物単結晶としては、種結晶に内在するリネージを起因とした単結晶の育成不良の発生を問題とし、本発明により解決可能となる単結晶であれば、特に限定されない。このような金属酸化物単結晶として、例えば、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムが挙げられる。
【実施例
【0058】
次に、上記にて説明した本発明について、実施例に基づいてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の内容に何ら限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
実施例1では、回転角度dを42°とし、育成方向を42°RY育成とするLT単結晶を育成するべく、種結晶40bを製造し、それを用いてLT単結晶を製造して、その単結晶化率を評価した。
【0060】
単結晶製造装置100を使用し、Cz法により育成方向をX軸方向として、種結晶用LT単結晶S2を得た(種結晶用金属酸化物単結晶を得る工程)。そして、第1切断工程、第2切断工程(図4、5)、および本発明の種結晶の選別方法を実施して(図7)、接触部46bから3mm以内にリネージが存在しない種結晶40bを50本得た。
【0061】
得られた種結晶40bを使用し、単結晶製造装置100を使用して、直径4インチのLT単結晶の育成を50回実施したところ、45本のLT単結晶を得て、5本は多結晶化した。得られた単結晶の平均長さは100mmであり、単結晶化率は90%であった。
【0062】
[実施例2]
実施例2では、回転角度dを128°とし、育成方向を128°RY育成とするLN単結晶を育成するべく、種結晶40bを製造し、それを用いてLN単結晶を製造して、その単結晶化率を評価した。
【0063】
単結晶製造装置100を使用し、Cz法により育成方向をX軸方向として、種結晶用LN単結晶S2を得た(種結晶用金属酸化物単結晶を得る工程)。そして、第1切断工程、第2切断工程(図4、6)、および本発明の種結晶の選別方法を実施して(図7)、接触部46bから3mm以内にリネージが存在しない種結晶40bを50本得た。
【0064】
得られた種結晶40bを使用し、単結晶製造装置100を使用して、直径4インチのLN単結晶の育成を50回実施したところ、48本のLN単結晶を得て、2本は多結晶化した。得られた単結晶の平均長さは100mmであり、単結晶化率は96%であった。
【0065】
[比較例1]
比較例1では、回転角度dを42°とし、育成方向を42°RY育成とするLT単結晶を育成するべく、育成方向を同様に42°RY育成として種結晶40aを製造し、それを用いてLT単結晶を製造して、その単結晶化率を評価した。
【0066】
単結晶製造装置100を使用し、Cz法により育成方向を42°RY育成として、種結晶用LT単結晶S1を得た(図3(a))。そして、育成方向が長手方向となるように種結晶40aを切り出し(図3(b))、種結晶40aの上部および下部を0.5mm切り出して試験片44c、44dを得て、X線トポグラフィによりリネージの有無を観察した。
【0067】
試験片44c、44dからはリネージが認められなかった種結晶40aを使用し、実施例1と同条件で直径4インチのLT単結晶の育成を50回実施した。得られたLT単結晶は37本であり、13本は多結晶化した。得られた単結晶の平均長さは100mmであり、単結晶化率は74%であった。単結晶とならなかった結晶は、全て種結晶40aに存在したリネージを起因とした多結晶化が発生していた。
【0068】
[実施例3]
本発明の種結晶の選別方法を実施することなく、X線トポグラフを用いずにリネージの有無を確認しなかったこと以外は、実施例1と同様に種結晶40bを製造し、それを用いて直径4インチのLT単結晶の育成を50回実施した。得られたLT単結晶は38本であり、12本は多結晶化した。得られた単結晶の平均長さは100mmであり、単結晶化率は76%であった。単結晶とならなかった結晶は、全て種結晶40bに存在したリネージを起因とした多結晶化が発生していた。
【0069】
[実施例4]
本発明の種結晶の選別方法を実施することなく、X線トポグラフを用いずにリネージの有無を確認しなかったこと以外は、実施例2と同様に種結晶40bを製造し、それを用いて直径4インチのLN単結晶の育成を50回実施した。得られたLN単結晶は40本であり、10本は多結晶化した。得られた単結晶の平均長さは100mmであり、単結晶化率は80%であった。単結晶とならなかった結晶は、全て種結晶40bに存在したリネージを起因とした多結晶化が発生していた。
【0070】
[まとめ]
実施例1、2では、接触部46bから3mm以内にリネージが存在しない種結晶40bを用いたことで、単結晶の育成歩留まりを上げることができた。多結晶化した場合があったものの、種結晶40bに起因するものではなく、育成過程における他の要因により、多結晶化したと考えられた。
【0071】
比較例1では、X線トポグラフィによりリネージの有無を観察し、リネージが認められなかった種結晶40aを使用した。しかしながら、リネージの確認精度が十分ではないことから、種結晶40aにあるリネージに起因して単結晶化率は74%に留まった。
【0072】
実施例3、4では、種結晶40bに対しリネージの分布状態を観察しなかったものの、比較例1よりも高い単結晶化率となった。
【0073】
なお、実施例1~4における種結晶の製造方法は、直胴部42bより円柱状の単結晶45を切り出してから、第2切断工程によって所定の方位RYの方向を長手方向とした種結晶40bを切り出す方法である。そのため、種結晶40bの切り出し方向の自由度が高く、あらゆる育成方向のLT、LN単結晶の育成に対しても、それらに応じた種結晶40bを一度に多数用意することができる。
【0074】
以上のように、本発明であれば、Cz法による金属酸化物単結晶の育成技術において、種結晶に内在するリネージを起因とした単結晶の育成不良の発生を抑制し、高単結晶化率で安定的に金属酸化物の単結晶を得られることは、明らかである。
【符号の説明】
【0075】
10 坩堝
10a 坩堝壁
10b 底部
10c 上部
11 育成炉チャンバー
11a 外壁
12 育成炉
16 シード棒
17 シードホルダ
20 ワークコイル
30、31、32 耐火物
33 坩堝台
40、40a、40b 種結晶
41 先端部
42a、42b 直胴部
43a、43b 切断面
44a、44b、44c、44d 試験片
45 円柱状の単結晶
45a 表面
45b 裏面
46b 接触部
50 原料融液
60 単結晶
70 支持台
100 単結晶製造装置
D 方向
d 回転角度
F X軸に垂直なY-Z平面
RY 方位
S、S1、S2 単結晶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8