(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】定着装置、および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
G03G15/20 530
(21)【出願番号】P 2018135942
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 直毅
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良春
(72)【発明者】
【氏名】梶山 博史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 仁
(72)【発明者】
【氏名】今田 高広
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 夏樹
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-180220(JP,A)
【文献】特開2009-217159(JP,A)
【文献】特開2008-040011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な無端状の定着部材と、
前記定着部材の外周面に当接する加圧部材と、
前記加圧部材に当接して前記定着部材と前記加圧部材との間に形成されたニップ部を通過した記録媒体を、前記定着部材から分離搬送させる分離部材と、を備え、
前記分離部材は、前記ニップ部を形成するニップ形成部材と前記定着部材内周面の摺動抵抗を低減させる潤滑剤が塗布された前記定着部材に当接させる分離部材当接部を有し、当該分離部材当接部による当接位置は、軸方向で前記加圧部材より外側に設けられている
とともに、前記分離部材は、前記分離部材当接部として、前記定着部材との間で一定の当接幅を有し、前記分離部材当接部は、前記軸方向の外側ほど、前記定着部材の回転方向の下流で当接する、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記分離部材当接部と前記定着部材とにより形成される角度は、前記潤滑剤の量または/および前記定着部材の回転速度に応じて調整可能である、
ことを特徴とする請求項
1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記分離部材当接部は、直線形状、円弧形状、階段形状のいずれかの形状により構成される、
ことを特徴とする請求項
1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記分離部材は、前記分離部材当接部の側面部に、潤滑剤吸収体が設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置、および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に用いる定着装置において、素早く昇温させて省エネ対応可能な定着装置として、加圧ローラと連れ回りで回転する定着部材の内部に加圧ローラと対向してニップを形成するニップ形成部材を有し、ニップ形成部材には潤滑剤が塗布されている構成がある(例えば、特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1では、分離部材当接部をスクレーパとして、定着部材表面の潤滑剤をスクレーパにより掻き取る構成が開示され、分離部材当接部を定着部材に当接させているが、定着部材に当接させる位置によっては加圧ローラにグリスが浸透してしまう。具体的には、ニップ形成部材に塗布された潤滑剤が経時で漏れ出し、定着部材裏面から表面に伝わり、定着部材表面に当接している分離部材にまで到達する。その結果、漏れ出した潤滑剤が、その分離部材を介して加圧ローラに浸透し、用紙裏汚れになる問題があった。
【0004】
本発明は、ニップ形成部材から漏れ出す潤滑剤の加圧ローラへの浸透を抑制することが可能な定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる定着装置は、回転可能な無端状の定着部材と、前記定着部材の外周面に当接する加圧部材と、前記加圧部材に当接して前記定着部材と前記加圧部材との間に形成されたニップ部を通過した記録媒体を、前記定着部材から分離搬送させる分離部材と、を備え、前記分離部材は、前記ニップ部を形成するニップ形成部材と前記定着部材内周面の摺動抵抗を低減させる潤滑剤が塗布された前記定着部材に当接させる分離部材当接部を有し、当該分離部材当接部による当接位置は、軸方向で前記加圧部材より外側に設けられているとともに、前記分離部材は、前記分離部材当接部として、前記定着部材との間で一定の当接幅を有し、前記分離部材当接部は、前記軸方向の外側ほど、前記定着部材の回転方向の下流で当接する、ことを特徴とする定着装置として構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ニップ形成部材から漏れ出す潤滑剤の加圧ローラへの浸透を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係るプリンタを示す概略構成図である。
【
図3】定着ベルト、加圧ローラ、分離部材、分離部材の両端に設けられた分離部材当接部の長手方向の位置関係を示した概略図である。
【
図4】分離部材当接部の当接形状の例を示す図である。
【
図5】分離部材当接部の側面部に潤滑剤吸収部材を設けた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、定着装置、および画像形成装置の実施の形態を詳細に説明する。従来の問題点、すなわち、電子写真方式の画像形成装置に用いられる定着装置において、定着部材内部に配置するニップ形成部材は回転駆動時に定着部材と摺動し、定着部材を摩耗させてしまうため、ニップ形成部材に潤滑剤を塗布し、磨耗を低減させている。潤滑剤を塗布した際の課題としては、経時でのニップ形成部材からの潤滑剤漏れがある。漏れた潤滑剤は定着部材表面に端部から中央に向かって徐々に浸透していき、やがて定着部材と対向する加圧部材端部まで到達すると加圧部材側にまで浸透していく。加圧部材側に浸透した潤滑剤は、印刷時に用紙裏面を汚してしまう問題が生じるが、以下に説明するように、本実施例では、上述した課題を解決するため、分離部材の当接部の当接位置を規定することを特徴としている。
【0009】
要するに、分離部材当接部を加圧ローラ端部よりも軸方向の外側の位置で定着部材に突き当てる構成にすることで、定着部材表面に浸透してきた潤滑剤を加圧ローラ端部よりも軸方向の外側の分離部材当接部で堰き止め、加圧ローラへ潤滑剤が回り込まないようになることが特徴になっている。以下、本発明を電子写真方式の画像形成装置であるプリンタに適用した一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係るプリンタ1を示す概略構成図である。装置本体の中央には、4つの作像部4Y,4M,4C,4Kが設けられている。各作像部4Y,4M,4C,4Kは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。
【0011】
具体的に、各作像部4Y,4M,4C,4Kは、潜像担持体としてのドラム状の感光体5と、感光体5の表面を帯電させる帯電装置6と、感光体5の表面にトナーを供給する現像装置7と、感光体5の表面をクリーニングするクリーニング装置8などを備える。なお、
図1では、ブラックの作像部4Kが備える感光体5、帯電装置6、現像装置7、クリーニング装置8のみに符号を付しており、その他の作像部4Y,4M,4Cにおいては符号を省略している。
【0012】
各作像部4Y,4M,4C,4Kの下方には、感光体5の表面を露光する露光装置9が配設されている。露光装置9は、光源、ポリゴンミラー、f-θレンズ、反射ミラー等を有し、画像データに基づいて各感光体5の表面へレーザー光を照射するようになっている。
【0013】
各作像部4Y,4M,4C,4Kの上方には、転写装置3が配設されている。転写装置3は、転写体としての中間転写ベルト30と、一次転写手段としての4つの一次転写ローラ31と、二次転写手段としての二次転写ローラ36と、二次転写バックアップローラ32と、クリーニングバックアップローラ33と、テンションローラ34、ベルトクリーニング装置35を備える。
【0014】
中間転写ベルト30は、無端状のベルトであり、二次転写バックアップローラ32、クリーニングバックアップローラ33及びテンションローラ34によって張架されている。ここでは、二次転写バックアップローラ32が回転駆動することによって、中間転写ベルト30は図の矢印で示す方向に周回走行(回転)するようになっている。
【0015】
4つの一次転写ローラ31は、それぞれ、各感光体5との間で中間転写ベルト30を挟み込んで一次転写ニップを形成している。また、各一次転写ローラ31には、図示しない電源が接続されており、所定の直流電圧(DC)及び/又は交流電圧(AC)が各一次転写ローラ31に印加されるようになっている。
【0016】
二次転写ローラ36は、二次転写バックアップローラ32との間で中間転写ベルト30を挟み込んで二次転写ニップを形成している。また、一次転写ローラ31と同様に、二次転写ローラ36にも図示しない電源が接続されており、所定の直流電圧(DC)及び/又は交流電圧(AC)が二次転写ローラ36に印加されるようになっている。
【0017】
ベルトクリーニング装置35は、中間転写ベルト30に当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードを有する。このベルトクリーニング装置35から伸びた図示しない廃トナー移送ホースは、図示しない廃トナー収容器の入り口部に接続されている。
【0018】
プリンタ本体の上部には、ボトル収容部2が設けられており、ボトル収容部2には補給用のトナーを収容した4つのトナーボトル2Y,2M,2C,2Kが着脱可能に装着されている。各トナーボトル2Y,2M,2C,2Kと上記各現像装置7との間には、図示しない補給路が設けてあり、この補給路を介して各トナーボトル2Y,2M,2C,2Kから各現像装置7へトナーが補給されるようになっている。
【0019】
一方、プリンタ本体の下部には、記録媒体としての用紙Pを収容した給紙トレイ10や、給紙トレイ10から用紙Pを搬出する給紙ローラ11等が設けてある。ここで、記録媒体には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート等が含まれる。また、図示しないが、手差し給紙機構が設けてあってもよい。
【0020】
プリンタ本体内には、用紙Pを給紙トレイ10から二次転写ニップを通過させて装置外へ排出するための搬送路Rが配設されている。搬送路Rにおいて、二次転写ローラ36の位置よりも用紙搬送方向上流側には、二次転写ニップへ用紙Pを搬送する搬送手段としての一対のレジストローラ12が配設されている。
【0021】
また、二次転写ローラ36の位置よりも用紙搬送方向下流側には、用紙Pに転写された未定着画像を定着するための定着装置20が配設されている。さらに、定着装置20よりも搬送路Rの用紙搬送方向下流側には、用紙を装置外へ排出するための一対の排紙ローラ13が設けられている。また、プリンタ本体の上面部には、装置外に排出された用紙をストックするための排紙トレイ14が設けてある。
【0022】
続いて、
図1を参照して、本実施形態に係るプリンタの基本的動作について説明する。作像動作が開始されると、各作像部4Y,4M,4C,4Kにおける各感光体5が図示しない駆動装置によって図の時計回りに回転駆動され、各感光体5の表面が帯電装置6によって所定の極性に一様に帯電される。帯電された各感光体5の表面には、露光装置9からレーザー光がそれぞれ照射されて、各感光体5の表面に静電潜像が形成される。このとき、各感光体5に露光する画像情報は所望のフルカラー画像をイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの色情報に分解した単色の画像情報である。このように各感光体5上に形成された静電潜像に、各現像装置7によってトナーが供給されることにより、静電潜像はトナー画像として顕像化(可視像化)される。
【0023】
また、作像動作が開始されると、二次転写バックアップローラ32が図の反時計回りに回転駆動し、中間転写ベルト30を図の矢印で示す方向に周回走行させる。そして、各一次転写ローラ31に、トナーの帯電極性と逆極性の定電圧又は定電流制御された電圧が印加される。これにより、各一次転写ローラ31と各感光体5との間の一次転写ニップにおいて転写電界が形成される。
【0024】
その後、各感光体5の回転に伴い、感光体5上の各色のトナー画像が一次転写ニップに達したときに、上記一次転写ニップにおいて形成された転写電界によって、各感光体5上のトナー画像が中間転写ベルト30上に順次重ね合わせて転写される。かくして中間転写ベルト30の表面にフルカラーのトナー画像が担持される。また、中間転写ベルト30に転写し切れなかった各感光体5上のトナーは、クリーニング装置8によって除去される。その後、図示しない除電装置によって各感光体5の表面が除電され、表面電位が初期化される。
【0025】
画像形成装置の下部では、給紙ローラ11が回転駆動を開始し、給紙トレイ10から用紙Pが搬送路Rに送り出される。搬送路Rに送り出された用紙Pは、レジストローラ12によってタイミングを計られて、二次転写ローラ36と二次転写バックアップローラ32との間の二次転写ニップに送られる。このとき二次転写ローラ36には、中間転写ベルト30上のトナー画像のトナー帯電極性と逆極性の転写電圧が印加されており、これにより、二次転写ニップに転写電界が形成されている。
【0026】
その後、中間転写ベルト30の周回走行に伴って、中間転写ベルト30上のトナー画像が二次転写ニップに達したときに、上記二次転写ニップにおいて形成された転写電界によって、中間転写ベルト30上のトナー画像が用紙P上に一括して転写される。また、このとき用紙Pに転写しきれなかった中間転写ベルト30上の残留トナーは、ベルトクリーニング装置35によって除去され、除去されたトナーは図示しない廃トナー収容器へと搬送され回収される。
【0027】
その後、用紙Pは定着装置20へと搬送され、定着装置20によって用紙P上のトナー画像が当該用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、排紙ローラ13によって装置外へ排出され、排紙トレイ14上にストックされる。
【0028】
以上の説明は、用紙上にフルカラー画像を形成するときの画像形成動作であるが、4つの作像部4Y,4M,4C,4Kのいずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つの作像部を使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0029】
次に、
図2に基づき、上記定着装置20の構成について説明する。
図2に示すように、定着装置20は、回転可能な定着回転体としての定着ベルト21と、定着ベルト21に対向して回転可能に設けられた対向回転体としての加圧ローラ22と、定着ベルト21を加熱する加熱源としてのハロゲンヒータ23と、定着ベルト21の内側に配設されたニップ形成部材24と、ニップ形成部材24を支持する支持部材としてのステー25と、ハロゲンヒータ23から放射される光を定着ベルト21へ反射する反射部材26と、定着ベルト21の温度を検知する温度検知手段としての温度センサ27と、定着ベルト21から用紙を分離する分離部材28と、加圧ローラ22を定着ベルト21へ加圧する図示しない加圧手段等を備えている。
【0030】
上記定着ベルト21は、薄肉で可撓性を有する無端状のベルト部材(フィルムも含む)で構成されている。詳しくは、定着ベルト21は、ニッケルもしくはSUS等の金属材料又はポリイミド(PI)などの樹脂材料で形成された内周側の基材と、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などで形成された外周側の離型層によって構成されている。また、基材と離型層との間に、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、又はフッ素ゴム等のゴム材料で形成された弾性層を介在させてもよい。
【0031】
上記加圧ローラ22は、芯金22aと、芯金22aの表面に設けられた発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、又はフッ素ゴム等から成る弾性層22bと、弾性層22の表面に設けられたPFA又はPTFE等から成る離型層22cによって構成されている。加圧ローラ22は、図示しない加圧手段によって定着ベルト21側へ加圧され定着ベルト21を介してニップ形成部材24に当接している。この加圧ローラ22と定着ベルト21とが圧接する箇所では、加圧ローラ22の弾性層22bが押しつぶされることで、所定の幅のニップ部Nが形成されている。また、加圧ローラ22は、プリンタ本体に設けられた図示しないモータ等の駆動源によって回転駆動するように構成されている。加圧ローラ22が回転駆動すると、その駆動力がニップ部Nで定着ベルト21に伝達され、定着ベルト21が従動回転するようになっている。
【0032】
本実施形態では、加圧ローラ22を中実のローラとしているが、中空のローラであってもよい。その場合、加圧ローラ22の内部にハロゲンヒータ等の加熱源を配設してもよい。また、弾性層が無い場合は、熱容量が小さくなり定着性が向上するが、未定着トナーを押しつぶして定着させるときにベルト表面の微小な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部に光沢ムラが生じる可能性がある。これを防止するには、厚さ100μm以上の弾性層を設けることが望ましい。厚さ100μm以上の弾性層を設けることで、弾性層の弾性変形により微小な凹凸を吸収することができるので、光沢ムラの発生を回避することができるようになる。弾性層22bはソリッドゴムでもよいが、加圧ローラ22の内部に加熱源が無い場合は、スポンジゴムを用いてもよい。スポンジゴムの方が、断熱性が高まり定着ベルト21の熱が奪われにくくなるのでより望ましい。また、定着回転体と対向回転体は、互いに圧接する場合に限らず、加圧を行わず単に接触させるだけの構成とすることも可能である。
【0033】
上記各ハロゲンヒータ23は、それぞれの両端部が定着装置20の側板(不図示)に固定されている。各ハロゲンヒータ23は、プリンタ本体に設けられた電源部により出力制御されて発熱するように構成されており、その出力制御は、上記温度センサ27による定着ベルト21の表面温度の検知結果に基づいて行われる。このようなヒータ23の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度に設定できるようになっている。また、定着ベルト21を加熱する加熱源として、ハロゲンヒータ以外に、IH、抵抗発熱体、又はカーボンヒータ等を用いてもよい。
【0034】
上記ニップ形成部材24は、定着ベルト21の軸方向又は加圧ローラ22の軸方向に渡って長手状に配設され、ステー25によって固定支持されている。これにより、加圧ローラ22による圧力でニップ形成部材24に撓みが生じるのを防止し、加圧ローラ22の軸方向に渡って均一なニップ幅が得られるようにしている。なお、ステー25は、ニップ形成部材24の撓み防止機能を満足するために、ステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成することが望ましいが、ステー25を樹脂製とすることも可能である。
【0035】
また、ニップ形成部材24は、耐熱温度200℃以上の耐熱性部材で構成されている。これにより、トナー定着温度域で、熱によるニップ形成部材24の変形を防止し、安定したニップ部Nの状態を確保して、出力画質の安定化を図っている。ニップ形成部材24には、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの一般的な耐熱性樹脂を用いることが可能である。
【0036】
また、ニップ形成部材24は、その表面に図示しない低摩擦の摺動シートを有している。定着ベルト21が回転する際、この摺動シートに対し定着ベルト21が摺動することで、定着ベルト21に生じる駆動トルクが低減され、定着ベルト21への摩擦力による負荷が軽減される。
【0037】
上記反射部材26は、ステー25とハロゲンヒータ23との間に配設されている。本実施形態では、反射部材26をステー25に固定している。また、反射部材26は、ハロゲンヒータ23によって直接加熱されるため、高融点の金属材料等で形成されることが望ましい。このように反射部材26を配設していることにより、ハロゲンヒータ23からステー25側に放射された光が定着ベルト21へ反射される。これにより、定着ベルト21に照射される光量を多くすることができ、定着ベルト21を効率良く加熱することが可能となる。また、ハロゲンヒータ23からの輻射熱がステー25等に伝達されるのを抑制することができるので、省エネルギー化も図れる。
【0038】
また、本実施形態のような反射部材26を設けずに、ステー25のハロゲンヒータ23側の面を研磨又は塗装などの鏡面処理をし、反射面を形成してもよい。また、上記反射部材26又はステー25の反射面の反射率は、90%以上であることが望ましい。
【0039】
ただ、ステー25はその強度を確保するために形状や材質が自由に選択できないため、本実施形態のように反射部材26を別途設けた方が、形状や材質の選択の自重度が広がり、反射部材26とステー25はそれぞれの機能に特化することができる。また、反射部材26をハロゲンヒータ23とステー25との間に設けることにより、ハロゲンヒータ23に対する反射部材26の位置が近くなるので、定着ベルト21を効率良く加熱することが可能となる。
【0040】
また、光の反射による定着ベルト21の加熱効率をさらに向上させるには、反射部材26又はステー25の反射面の向きを検討する必要がある。例えば、反射部材26をハロゲンヒータ23を中心とする同心円状に配設した場合は、光がハロゲンヒータ23に向かって反射されるため、その分、加熱効率が低下してしまう。これに対し、反射部材26の一部又は全部を、ハロゲンヒータ23以外の方向で定着ベルト側へ光を反射する向きに配設した場合は、ハロゲンヒータ23の方向へ反射される光量が少なくなるため、反射光による加熱効率を向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態に係る定着装置20は、さらなる省エネ性及びファーストプリントタイムなどの向上のために、種々の構成上の工夫が施されている。具体的には、ハロゲンヒータ23によって定着ベルト21をニップ部N以外の箇所において直接加熱できるようにしている(直接加熱方式)。本実施形態では、ハロゲンヒータ23と定着ベルト21の
図2の左側の部分の間に何も介在させないようにし、その部分においてハロゲンヒータ23からの輻射熱を定着ベルト21に直接与えるようにしている。
【0042】
また、定着ベルト21の低熱容量化を図るために、定着ベルト21を薄くかつ小径化している。具体的には、定着ベルト21を構成する基材、弾性層、離型層のそれぞれの厚さを、20~50μm、100~300μm、10~50μmの範囲に設定し、全体としての厚さを1mm以下に設定している。また、定着ベルト21の直径は、20~40mmに設定している。さらに低熱容量化を図るためには、望ましくは、定着ベルト21全体の厚さを0.2mm以下にするのがよく、さらに望ましくは、0.16mm以下の厚さとするのがよい。また、定着ベルト21の直径は、30mm以下とするのが望ましい。
【0043】
なお、本実施形態では、加圧ローラ22の直径を20~40mmに設定しており、定着ベルト21の直径と加圧ローラ22の直径を同等となるように構成している。ただし、この構成に限定されるものではない。例えば、定着ベルト21の直径が加圧ローラ22の直径よりも小さくなるように形成してもよい。その場合、ニップ部Nにおける定着ベルト21の曲率が加圧ローラ22の曲率よりも小さくなるため、ニップ部Nから排出される記録媒体が定着ベルト21から分離されやすくなる。
【0044】
次に、
図3に基づき、本実施例における定着ベルト21、加圧ローラ22、分離部材28、分離部材当接部281について説明する。
図3は、本実施例における定着ベルト21、加圧ローラ22、分離部材28、当該分離部材28の両端に設けられた分離部材当接部281の長手方向の位置関係を示した概略図である。
【0045】
定着ベルト21の内部に配置したニップ形成部材24には潤滑剤が塗布されているが、潤滑剤が経時で漏れ出てくると、定着ベルト21の軸方向の端部から定着ベルト21の表面に浸透していく。定着ベルト21の軸方向の端部から浸透してきた潤滑剤は、徐々に中央に向かって浸透し、やがて対向する加圧ローラ22の表面にまで達すると、用紙裏汚れの問題が発生する。
【0046】
そこで、本実施例では、このような用紙裏汚れを防止するため、
図3に示したように、分離部材当接部281を、加圧ローラ22の軸方向の両端部よりも外側の位置で、定着ベルト21に当接させることにより、定着ベルト21の軸方向の端部から浸透してきた潤滑剤を堰き止め、加圧ローラ22への回り込みを防止する。すなわち、分離部材当接部281による当接位置を、軸方向で加圧ローラ22より外側に設けることにより、ニップ形成部材24から浸透する潤滑剤を、定着ベルト21表面に当接させる分離部材で堰き止め、再び定着ベルト21端部側へ逃がし、加圧ローラ22への潤滑剤浸透を防止することを可能とする。
【0047】
その上で、
図4に示すように、分離部材当接部281は、定着ベルト21に対して角度をもって当接し、定着ベルト21の回転方向に対して当接部の外側が下流になる当接形状とする。より詳細には、分離部材当接部281の定着ベルト21の回転方向Dにおける下流側にある当接部281aが、上記回転方向Dにおける上流側にある当接部281bよりも、上記回転方向Dに対して軸方向の外側に向かって傾斜角度θをつけた形状となっている。このような形状により、分離部材当接部281の上記当接部281aが上記当接部281bよりも定着ベルト21の端部に近い位置となる。
【0048】
このように、分離部材28は、分離部材当接部281として、定着ベルト21との間で一定の当接幅を有し、分離部材当接部281が、上記軸方向の外側ほど、定着ベルト21の回転方向の下流で当接する。したがって、定着ベルト21の端部から内側へ漏れ出てきた潤滑剤は、分離部材当接部281で堰き止められたのち、
図4に示す矢印dの方向に向かって流れ出し、加圧ローラ22への回り込みを防止することができる。
【0049】
また、
図5に示すように、分離部材当接部281の側面部281c(ハッチング部)に、潤滑剤吸収部材282を設けてもよい。潤滑剤吸収部材282は、布製のものでも良いし、スポンジのような吸収体でも良い。分離部材当接部281で堰き止めた潤滑剤は、潤滑剤吸収部材282によって吸収・保持され、潤滑剤が回収される一方で、柔軟性のある柔らかい素材により構成されるため、定着ベルト21に接触した場合であっても定着ベルト21を傷つけることがない。
【0050】
なお、上記実施の形態では、分離部材当接部281の定着ベルト21の回転方向Dに対して、上記傾斜角度θをつけた形状としたが、当該分離部材当接部281と定着ベルト21とにより形成される角度は、潤滑剤の量または/および定着ベルト21の回転速度に応じて調整することとしてもよい。例えば、潤滑剤の量が所定の基準量よりも多い場合には、単位時間当たりの潤滑剤の堰き止め量を多くするため、上記角度θが大きくなるように、分離部材当接部281の傾きを調整する。また、定着ベルト21の回転速度が所定の基準値よりも大きい場合には、単位時間当たりに潤滑剤が流れ出す量を少なくするため、上記角度θが大きくなるように、分離部材当接部281の傾きを調整する。分離部材当接部281の傾きの調整方法については、例えば、分離部材当接部281を固定するためのネジ等の留め具を緩めて移動させる等、様々な手法を用いてよい。このような調整により、定着ベルト21の様々な回転速度や潤滑剤の量に対応することができる。
【0051】
また、上記実施の形態では、分離部材当接部281の形状、すなわち、上記当接部281aと上記当接部281bとの間が直線形状である前提で説明したが、円弧形状、階段形状等、他の形状であってもよい。このような形状により、潤滑剤の堰き止め量にムラがある場合でも、円弧形状の窪みの部位や階段形状の凹み部位で多くの量の潤滑剤を堰き止めることができ、その結果、単位時間あたりに流れ出す潤滑剤の量を一定にすることができる。
【0052】
このように、本実施の形態における定着装置では、分離部材当接部281を、加圧ローラ22の軸方向の端部よりも外側に配置し、当該位置で定着ベルト21に突き当てる構成とすることにより、定着ベルト21表面に浸透してきた潤滑剤を、分離部材当接部281でせき止めて、加圧ローラ22へ回り込まない構成とすることができる。
【0053】
本発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化したり、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 プリンタ
20 定着装置
21 定着ベルト
22 加圧ローラ
23 ハロゲンヒータ
24 ニップ形成部材
25 ステー
26 反射部材
27 温度センサ
28 分離部材
281 分離部材当接部
281a 当接部(上流側)
281b 当接部(下流側)
282 潤滑剤吸収部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】