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特許7111093カルボニル化合物の水素化触媒ならびにアルコールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】カルボニル化合物の水素化触媒ならびにアルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/149 20060101AFI20220726BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20220726BHJP
   C07C 31/125 20060101ALI20220726BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20220726BHJP
   B01J 23/16 20060101ALI20220726BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220726BHJP
   C07C 51/367 20060101ALN20220726BHJP
   C07C 59/01 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
C07C29/149
C07C31/20 Z
C07C31/125
B01J27/053 Z
B01J23/16 Z
C07B61/00 300
C07C51/367
C07C59/01
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019504643
(86)(22)【出願日】2018-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2018008816
(87)【国際公開番号】W WO2018164193
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2017043988
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017102053
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 武士
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由美子
(72)【発明者】
【氏名】青島 敬之
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104549254(CN,A)
【文献】特開昭63-218636(JP,A)
【文献】特開平07-118187(JP,A)
【文献】特開平03-127750(JP,A)
【文献】特表2002-501817(JP,A)
【文献】特開平05-246915(JP,A)
【文献】特表2007-524679(JP,A)
【文献】特開2004-035464(JP,A)
【文献】特表2016-500697(JP,A)
【文献】特開2000-342968(JP,A)
【文献】特開昭61-056139(JP,A)
【文献】特開平02-275830(JP,A)
【文献】特開平04-282329(JP,A)
【文献】特開平06-116182(JP,A)
【文献】特開2001-334151(JP,A)
【文献】特開2001-334152(JP,A)
【文献】特表2010-535703(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037536(WO,A1)
【文献】実験化学講座9 無機化合物の合成と精製,第1版,日本,社団法人日本化学会,1958年,第248頁
【文献】実験化学講座10 希有金属の製造,第1版,日本,社団法人日本化学会,1957年,第207頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、及びアルデヒドから選ばれる少なくとも1種であるカルボニル化合物からアルコールを製造するアルコールの製造方法において、レニウムである第1成分と、ケイ素及びゲルマニウムよりなる群から選ばれる1種又は2種の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、該担体が、周期表第4族の金属酸化物を含む担体である触媒を用いてアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記触媒のレニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下であることを特徴とする、請求項1に記載のアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記触媒の周期表第4族の金属酸化物が酸化チタンおよび/又は酸化ジルコニウムであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記触媒が硫酸イオンを含有する担体へ担持させる工程を経た触媒であることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記担体中の硫酸イオンの含有量が、担体質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、請求項4に記載のアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記触媒中の硫酸イオンの含有量が、触媒質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項7】
レニウムである第1成分と、ケイ素及びゲルマニウムよりなる群から選ばれる1種又は2種の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、該担体が、周期表第4族の金属酸化物を含む担体であることを特徴とするカルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、及びアルデヒドから選ばれる少なくとも1種であるカルボニル化合物の水素化触媒。
【請求項8】
前記レニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下であることを特徴とする、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
前記周期表第4族の金属酸化物が酸化チタンおよび/又は酸化ジルコニウムであることを特徴とする、請求項7又は請求項8に記載の触媒。
【請求項10】
前記触媒中の硫酸イオンの含有量が、触媒質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、請求項7~請求項9のいずれかに記載の触媒。
【請求項11】
カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、及びアルデヒドから選ばれる少なくとも1種であるカルボニル化合物からアルコールを製造するアルコールの製造方法において、レニウムである第1成分と、ケイ素及びゲルマニウムよりなる群から選ばれる1種又は2種の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、レニウム元素に対する該第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下である触媒を用いてアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項12】
前記触媒の第2成分がゲルマニウムを含むことを特徴とする、請求項11に記載のアルコールの製造方法。
【請求項13】
前記触媒が更に鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素を含み、該触媒中のレニウム元素に対する、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素の質量比が0.2未満であることを特徴とする、請求項11又は請求項12に記載のアルコールの製造方法。
【請求項14】
前記触媒の鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素が、ルテニウムを含むことを特徴とする、請求項13に記載のアルコールの製造方法。
【請求項15】
前記担体が、炭素質担体又は周期表第4族の金属酸化物を含む担体であることを特徴とする、請求項11~請求項14のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項16】
前記触媒が硫酸イオンを含有する担体へ担持させる工程を経た触媒であることを特徴とする、請求項11~請求項15のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項17】
前記担体中の硫酸イオンの含有量が、担体質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、請求項16に記載のアルコールの製造方法。
【請求項18】
前記触媒中の硫酸イオンの含有量が、触媒質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、請求項11~請求項17のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項19】
レニウムである第1成分と、ケイ素及びゲルマニウムよりなる群から選ばれる1種又は2種の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、レニウム元素に対する該第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下であることを特徴とするカルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、及びアルデヒドから選ばれる少なくとも1種であるカルボニル化合物の水素化触媒。
【請求項20】
前記第2成分がゲルマニウムを含むことを特徴とする、請求項19に記載の触媒。
【請求項21】
更に鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素を含み、前記レニウム元素に対する、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素の質量比が0.2未満であることを特徴とする、請求項19又は請求項20のいずれかに記載の触媒。
【請求項22】
前記鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素が、ルテニウムを含むことを特徴とする、請求項21に記載の触媒。
【請求項23】
前記担体が、炭素質担体又は周期表第4族の金属酸化物を含む担体であることを特徴とする、請求項19~請求項22のいずれかに記載の触媒。
【請求項24】
前記触媒中の硫酸イオンの含有量が0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、請求項19~請求項23のいずれかに記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、カルボニル化合物の水素化触媒として有用な触媒、ならびに、該触媒を用いたカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルボニル化合物を水素化して対応するアルコールを製造する方法は古くから知られている。例えば、有機カルボン酸からアルコールを製造する方法としては、カルボン酸を予め低級アルコールでエステル化した後、Adkins触媒(銅クロマイト系触媒)で還元する方法が一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、銅系触媒を用いたアルコールの製造は、一般に200気圧以上の水素圧といった過酷な条件下で行われるため、アルコール製造時に多大なエネルギーを消費する上に、設備上の制約が多い不経済なプロセスとなる。また、銅系触媒では、有機カルボン酸を直接還元することができず、カルボン酸を一旦カルボン酸エステルに転換して還元しなければならない。このため、目的のアルコールを製造する上では多段の反応プロセスを経由し、煩雑なプロセスになる。
また、このような製造方法では、例えば、原料として多価カルボン酸を用いた際に、カルボン酸官能基の一部をアルコール官能基に変換したヒドロキシカルボン酸を選択的に製造することは極めて困難となる。
【0004】
一方、カルボン酸を一段で直接水素化(還元)し、対応するアルコールを高選択的に製造する方法は経済的に有利なプロセスとなる。原料として多価カルボン酸を用いた際に反応条件を適切に制御すれば、対応するヒドロキシカルボン酸を選択的に製造することも可能となる。
【0005】
このようなプロセスに使用される触媒としては、周期表第8~10族に属する貴金属を触媒活性成分とする各種の金属担持触媒、例えば、担体にパラジウム及びレニウムを担持させ、これを水素等で還元処理した触媒(例えば、特許文献1及び非特許文献1)や、担体にルテニウム及びスズを担持させ、これを水素等で還元処理した触媒(例えば、特許文献2及び3)が提案されている。
【0006】
これらの触媒はカルボン酸及び/又はカルボン酸エステルの還元において、高い反応活性及び反応選択率を示す、良好な触媒である。その他、この種の触媒として、ランタン及びパラジウムを含むコバルト系触媒(例えば、特許文献4)を用いた特定のカルボン酸の水素化反応も提案されている。
【0007】
これに対して、高価な周期表第8~10族に属する貴金属を使用しない触媒も提案されている。例えば、レニウムを触媒成分とする触媒が古くから報告されている(例えば、非特許文献2)。また、特定のカルボン酸の水素化反応において、スズを含むレニウム系触媒も提案されている(例えば、特許文献5)。
近年、より温和な反応条件下で目的とするアルコールを選択的に製造する方法として、レニウムを触媒活性成分とする金属担持触媒を用いた製造方法が報告されている(例えば、非特許文献3及び4)。
【0008】
しかし、レニウムを触媒活性成分とする触媒は、いずれも貴金属を用いた触媒に比べ触媒活性が劣るため、担持金属としては周期表第8~10族に属する貴金属と組み合わせたり、担体に周期表第9族に属するコバルトを使用する手法が一般的である(例えば、特許文献6、7、8、及び9、非特許文献5)。
【0009】
【文献】特開昭63-218636号公報
【文献】特開2000-007596号公報
【文献】特開2001-157841号公報
【文献】特開昭63-301845号公報
【文献】特開平4-99753号公報
【文献】特開平6-116182号公報
【文献】特表2002-501817号公報
【文献】特表2016-500697号公報
【文献】特開平7-118187号公報
【0010】
【文献】Topics in Catalysis 55 (2012) 466-473
【文献】Journal of Organic Chemistry 24 (1959) 1847-1854
【文献】Journal of Catalysis 328 (2015) 197-207
【文献】Chemistry A European Journal 23 (2017) 1001-1006
【文献】ACS Catalysis 5 (2015) 7034-7047
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、周期表第8~10族に属する貴金属を触媒活性成分とする触媒は、高価な貴金属を使用する為に触媒製造コストの高騰を招くだけではなく、一般に、脱炭酸を伴う減炭素反応や生成物の脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応といった副反応が起こるため、これらの副反応を抑制する必要がある。
【0012】
例えば、レニウムを含有するパラジウム金属担持触媒では、非特許文献1で示されるように、レニウムの添加によりコハク酸からその水素化物であるブタンジオールへの触媒反応速度が向上するが、同時に前記の副反応が併発するために生成物の生産性が損なわれるばかりでなく精製コストが高騰する。また、その触媒活性も依然不充分である。
【0013】
一方、特許文献2及び3で提案されているような周期表第8~10族に属する貴金属に加えてスズ等の触媒成分を添加した触媒では、スズ等の添加により反応選択性を向上させる手法がとられるが、これらの触媒成分の添加は、触媒活性を低下させてしまう。このため、例えば、白金のような高価な貴金属を更に多量に使用する必要が生じ、触媒製造コストが高騰する。
【0014】
また、レニウムを触媒活性主成分とする触媒は、高価な貴金属を使用しない点では、経済性に優れたプロセスが構築できる可能性があるが、貴金属を使用する触媒系に比べて一般的に低活性である;レニウムの高いルイス酸性により、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応が進行し易く、特に反応後期において、生成するアルコールの脱水ならびに水素化により脱官能基化反応が顕著になり、目的生成物となるアルコールの選択性が著しく低下してしまう;といった課題がある。
【0015】
本発明は、前記の種々の副反応を十分に抑制し、カルボニル化合物の水素化反応により目的とするアルコールを高収率、高選択的に製造することができる経済性に優れたアルコールの製造方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、カルボニル化合物の水素化反応により、該副反応を抑制しながら目的とするアルコールを高収率、高選択的に製造することができるレニウムを含有する高活性金属担持触媒ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、カルボニル化合物の水素化反応によりアルコールを製造する際に、レニウムと、特定の第2成分とを組み合わせて担体に担持させた触媒を用いると、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
第1の態様に係る本発明(以下「第1発明」という。)は、以下を要旨とする。
[1-1] カルボニル化合物からアルコールを製造するアルコールの製造方法において、レニウムである第1成分と、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、該担体が、周期表第4族の金属酸化物を含む担体である触媒を用いてアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
[1-2] 前記触媒のレニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下であることを特徴とする、[1-1]に記載のアルコールの製造方法。
[1-3] 前記触媒の周期表第4族の金属酸化物が酸化チタンおよび/又は酸化ジルコニウムであることを特徴とする、[1-1]又は[1-2]に記載のアルコールの製造方法。
[1-4] 前記触媒が硫酸イオンを含有する担体へ担持させる工程を経た触媒であることを特徴とする、[1-1]~[1-3]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
[1-5] 前記担体中の硫酸イオンの含有量が、担体質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、[1-4]に記載のアルコールの製造方法。
[1-6] 前記触媒中の硫酸イオンの含有量が、触媒質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、[1-1]~[1-5]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
[1-7] レニウムである第1成分と、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、該担体が、周期表第4族の金属酸化物を含む担体であることを特徴とする触媒。
[1-8] 前記レニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下であることを特徴とする、[1-7]に記載の触媒。
[1-9] 前記周期表第4族の金属酸化物が酸化チタンおよび/又は酸化ジルコニウムであることを特徴とする、[1-7]又は[1-8]に記載の触媒。
[1-10] 前記触媒中の硫酸イオンの含有量が、触媒質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、[1-7]~[1-9]のいずれかに記載の触媒。
[1-11] 前記触媒が、カルボニル化合物の水素化触媒であることを特徴とする、[1-7]~[1-10]のいずれかに記載の触媒。
【0018】
第2の態様に係る本発明(以下「第2発明」という。)は、以下を要旨とする。
[2-1] カルボニル化合物からアルコールを製造するアルコールの製造方法において、レニウムである第1成分と、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、レニウム元素に対する該第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下である触媒を用いてアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
[2-2] 前記触媒の第2成分がゲルマニウムを含むことを特徴とする、[2-1]に記載のアルコールの製造方法。
[2-3] 前記触媒のレニウム元素に対する、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素の質量比が0.2未満であることを特徴とする、[2-1]又は[2-2]に記載のアルコールの製造方法。
[2-4] 前記触媒の鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素が、ルテニウムを含む触媒を用いることを特徴とする、[2-3]に記載のアルコールの製造方法。
[2-5] 前記担体が、炭素質担体又は周期表第4族の金属酸化物を含む担体であることを特徴とする、[2-1]~[2-4]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
[2-6] 前記触媒が硫酸イオンを含有する担体へ担持させる工程を経た触媒であることを特徴とする、[2-1]~[2-5]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
[2-7] 前記担体中の硫酸イオンの含有量が、担体質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、[2-6]に記載のアルコールの製造方法。
[2-8] 前記触媒中の硫酸イオンの含有量が、触媒質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、[2-1]~[2-7]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
[2-9] レニウムである第1成分と、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなり、レニウム元素に対する該第2成分の元素の質量比が0.1以上、10以下であることを特徴とする触媒。
[2-10] 前記第2成分がゲルマニウムを含むことを特徴とする、[2-9]に記載の触媒。
[2-11] 前記レニウム元素に対する、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素の質量比が0.2未満であることを特徴とする、[2-9]又は[2-10]のいずれかに記載の触媒。
[2-12] 前記鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属元素が、ルテニウムを含むことを特徴とする、[2-11]に記載の触媒。
[2-13] 前記担体が、炭素質担体又は周期表第4族の金属酸化物を含む担体であることを特徴とする、[2-9]~[2-12]のいずれかに記載の触媒。
[2-14] 前記触媒中の硫酸イオンの含有量が0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする、[2-9]~[2-13]のいずれかに記載の触媒。
[2-15] 前記触媒が、カルボニル化合物の水素化触媒であることを特徴とする、[2-9]~[2-14]のいずれかに記載の触媒。
[2-16] 少なくとも、レニウムである第1成分と、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分とを含有する金属成分を、担体質量に対して、硫酸イオンを0.01質量%以上、10質量%以下含有する担体に担持させる工程を経ることを特徴とする、触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
第1発明によれば、レニウムを触媒活性成分とする還元触媒において、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム、及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の触媒添加成分を組み合わせ、これを周期表第4族の金属酸化物を含む担体に担持させた触媒を用いることにより、カルボニル化合物を還元して高活性ならびに高選択的にアルコールを製造するアルコールの製造方法ならびに該アルコールの製造に有用な触媒が提供される。なお、本発明において、周期表とは、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)を意味するものとする。
第1発明の触媒により、本質的に周期表第8~10族の貴金属類を使用せずとも、従来のレニウム触媒では課題であった触媒活性の向上が図れるばかりでなく、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、特に反応後期に顕著に併発する生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を高度に抑制したカルボニル化合物からのアルコールの製造が可能となる。また、原料として多価カルボン酸を用いた際に、カルボン酸官能基の一部をアルコール官能基に変換したヒドロキシカルボン酸を高選択的に製造することも可能となる。
【0020】
第2発明によれば、レニウムを触媒活性成分とする還元触媒において、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム、及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の触媒添加成分を所定の元素質量比で組み合わせ、これを担体に担持させた触媒を用いることにより、カルボニル化合物を還元して高活性ならびに高選択的にアルコールを製造するアルコールの製造方法ならびに該アルコールの製造に有用な触媒が提供される。
第2発明の触媒により、本質的に周期表第8~10族の貴金属類を使用せずとも、従来のレニウム触媒では課題であった触媒活性の向上が図れるばかりでなく、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、特に反応後期に顕著に併発する生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を高度に抑制したカルボニル化合物からのアルコールの製造が可能となる。また、原料として多価カルボン酸を用いた際に、カルボン酸官能基の一部をアルコール官能基に変換したヒドロキシカルボン酸を高選択的に製造することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0022】
なお、本発明において、担体に担持させて用いる触媒成分(レニウム;ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素、及び、その他必要に応じ用いる周期表第8~10族のルテニウム等の金属等)を総称して「金属成分」ということがある。
これら金属成分を担体に担持したものを「金属担持物」ということがある。
金属担持物を還元処理したものを「金属担持触媒」ということがある。
【0023】
本発明において、担体に担持された金属成分は、触媒中に含まれる金属成分を意味するものとする。
【0024】
触媒中の担持金属の金属含有量は、例えば、公知のICP質量分析法(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、或いは、蛍光X線分析法(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)等の分析方法を用いて決定される。前三者に関しては、分析を行う際に試料の溶液化の前処理を組み合わせて行う。これらの分析方法は、定量分析を行う元素やその濃度、求められる精度により適切な分析方法が異なるため、特に限定はされないが、本発明においては、ICP発光分析法、原子吸光分析法ならびにそれらの併用により触媒中の担持金属の定量分析を行い、金属含有量を決定する。
【0025】
担体に担持された金属成分の質量比は、上記の触媒中の担持金属の金属含有量の分析方法に説明する通り、触媒中に含まれる金属成分を基に算出すればよい。レニウム元素及び第2成分の元素の質量比は、上記の触媒中の担持金属の金属含有量の分析方法に説明する通り、公知のICP質量分析法(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、或いは、蛍光X線分析法(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)等の分析方法により測定し、該質量比を決定することができる。
【0026】
本発明において、“重量%”と“質量%”とは同義である。また、“元素”と“原子”とは同義である。
【0027】
本発明の触媒は、カルボニル化合物からアルコールを製造する際の水素化触媒として好適に使用することができる。
本発明において、カルボニル化合物とは炭素-酸素二重結合(C=O)を有する化合物と定義される。
アルコールとは該カルボニル化合物がアルコール官能基(OH)に変換された化合物と定義される。
よって、本発明においては、原料となるカルボニル化合物が炭素-酸素二重結合を複数有する場合には、少なくともその一つがアルコール官能基に変換された化合物はアルコールと定義される。
【0028】
[第1発明の触媒]
第1発明の触媒(以下、単に「第1触媒」ということがある。)は、金属成分を担体に担持させた金属担持触媒であって、該金属成分として、レニウムである第1成分と、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分と、を含有する金属成分が、周期表第4族の金属酸化物を含む担体に担持されてなることを特徴とする。
【0029】
第1触媒は、通常、前記金属成分を担持させた金属担持物を、還元性気体により還元処理した後、必要に応じて、酸化安定化処理して得られる。
【0030】
<金属成分>
第1発明の金属担持触媒に担持される金属成分は、第1成分としてのレニウムと、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分とを含有する。この中でも、レニウムと組み合わせる第2成分は、好ましくはケイ素、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはインジウム及び/又はゲルマニウムを含む1種又は2種以上であり、さらに好ましくはゲルマニウムを含む1種又は2種以上であり、特に好ましくはゲルマニウムからなるものである。
【0031】
また、これらの必須成分の担持量比は、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム、及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である第2成分の元素の質量比として、レニウム元素に対して、その下限は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上であり、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、その中でも2以下であるのが好ましく、1以下が特に好ましい。
【0032】
レニウムと組み合わせる第2成分の種類及び/又はその担持量比を適正に選択することにより、カルボニル化合物の水素化反応の触媒活性を向上させるばかりでなく、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、特に反応後期に顕著に併発する生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を高度に抑制したアルコールの製造が可能となる。第1触媒は、前記金属成分の組み合わせにより空気下での取り扱いが可能となり、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる。
【0033】
これらの組み合わせにより、一般的には相反すると考えられている触媒活性の向上と反応選択性の向上が実現する理由は、第2成分の添加により、水素化触媒活性成分となるレニウムの電子状態を、カルボニル官能基の還元反応に適した状態に制御できるとともに、反応基質の第2成分への親和性により触媒表面上への吸着力が向上し、また触媒表面上での反応基質の吸着配向性が高度に制御されるためと推定される。
【0034】
第1触媒において、レニウムの担持量は、特に限定されるものではないが、金属担持触媒の総質量に対するレニウム元素の質量割合で、通常0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。レニウムの担持量を上記下限値以上とすることで、十分な触媒活性を発現させることができるために、反応器の容積を大きくすること等を防ぐことができる。レニウムの担持量を上記上限以下とすることにより、触媒コストの高騰を抑えることが出来るとともに、担持したレニウムが凝集し、その高いルイス酸性により脱炭酸に伴う減炭素反応や生成物の脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応といった副反応を抑制することができ、反応選択性をより向上させることができる。
【0035】
第1触媒は、これらの金属成分(即ち、レニウムと第2成分)以外に、第1触媒を用いた還元反応等の反応に悪影響を及ぼさない限り、必要に応じて、更にその他の金属成分を第3成分として含んでいてもよい。他の金属成分としては、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属成分が挙げられ、例えば水素化触媒能を示すルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金の金属種から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。
【0036】
触媒調製および/又は反応中に、SSや、SUS等の材質からなる金属製反応容器の腐食により鉄やニッケル等の金属が溶出して触媒中に混入する場合があるが、第1発明においては、これらの溶出金属が触媒上に析出して触媒中に含有される場合、該金属は第1触媒中の金属成分として定義されない。この場合、触媒中に鉄以外に、SUS製の反応容器の溶出であれば、以下の金属が材質に応じて特定量比で触媒中に微量検出される。
【0037】
例えば、SUS201からの混入であれば、ニッケル、クロム、マンガンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS202からの混入であれば、ニッケル、クロム、マンガンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS301からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS302からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS303からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS304からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS305からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS316からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS317からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS329J1からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS403からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS405からの混入であれば、クロム、アルミニウムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS420からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS430からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS430LXからの混入であれば、クロム、チタン又はニオブが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS630からの混入であれば、ニッケル、クロム、銅、ニオブが、鉄と共に特定量比で検出される。
【0038】
周期表第8~10族以外のその他の族の金属成分としては、銀、金、モリブデン、タングステン、アルミニウム、及びホウ素等の金属種から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。
【0039】
これらの第3成分の中では、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、金、モリブデン、及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、中でもルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、モリブデン、及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、更には、ルテニウム、イリジウム、パラジウム及び白金から選ばれる少なくとも1種の金属が特に好ましく、その中でも、ルテニウムが特に好ましい。
【0040】
第1触媒中に含まれるこれら第3成分の含有量は、鉄ならびにニッケルを除く希少で高価な周期表第8~10族の金属に関しては、レニウム元素に対する元素質量比で、通常0.2未満、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.1以下であり、さらに好ましくは、0.1未満、最も好ましくは、反応選択性の向上ならびに触媒製造コストの経済性の理由から0である。即ち、第1触媒は、鉄ならびにニッケルを除く希少で高価な周期表第8~10族の金属は実質含まないことが好ましい。
周期表第8~10族の貴金属以外の上記第3成分の金属の場合は、レニウム元素に対する元素質量比で、通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.5以下である。これら追加的な金属成分の適切な組み合わせならびに適切な含有量の選択により、高い選択性を保持したまま高い触媒活性を得ることができる。
【0041】
SSやSUS等の反応容器の腐食により触媒中に鉄やニッケル等の金属が溶出して混入した場合、第1発明において、触媒中の金属成分の含有量とは、鉄の含有量ならびに反応容器の材質に応じて決定される特定量比の前記の金属含有量を除した量とすることができる。
【0042】
触媒の活性ならびに反応選択性等を一層向上させるために、第1触媒は、アルカリ金属元素であるリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上や、アルカリ土類金属元素であるマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上、ハロゲン元素であるフッ素、塩素、臭素及びヨウ素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素の化合物を、前述の金属成分と共に触媒に添加して用いることもできる。その場合において、これらの添加成分とレニウム成分との比率についても特に制限はない。
【0043】
<担体>
第1発明において用いられる担体としては、周期表第4族の金属酸化物を含む、担体を使用することができ、担体としては特にイナート担体を使用することができる。本発明において、イナート担体とはそれ単味ではカルボニル化合物の水素化触媒活性を示さない担体であり、具体的には、触媒活性金属となる鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、及び亜鉛の群から選ばれる周期表第8~12族の金属やクロム、ならびにレニウムを実質的に含有しない担体と定義される。
【0044】
上記金属を実質的に含有しない担体とは、上記金属が主体として含有しない担体、すなわち、担体の総質量に対するこれらの金属の含有量が、5質量%以下、好ましくは、1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であることを意味する。担体中の該金属の含有量は、触媒中の担持金属の金属含有量の分析と同様に公知のICP質量分析法(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、或いは、蛍光X線分析法(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)等の分析方法により測定し、決定することができる。
【0045】
第1発明においては、特に原料としてカルボン酸を使用した際に触媒活性ならびに反応選択性が高く、また、触媒の再生処理を簡便に行うことができ、金属の溶出が少ない理由から、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ハフニウムといった周期表第4族の金属酸化物を含む担体を用いる。周期表第4族の金属酸化物の中でも、触媒活性が高く、高選択的に目的とするアルコールが製造できる理由から、酸化チタン又は酸化ジルコニウムが好ましい。その中でも、比表面積が大きな担体が容易に入手できる理由からは、酸化チタンが特に好ましい場合がある。周期表第4族の金属酸化物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率については特に制限はなく、個々の化合物の混合物、複合酸化物のような形態で用いることができる。
第1発明において用いられる担体は硫酸イオンを含有することが好ましい場合がある。特に、担体として酸化チタンを用いた場合、該担体が硫酸イオンを含有することが好ましい場合がある。
【0046】
第1発明において、硫酸イオンが含有された担体を使用すると、カルボニル化合物の水素化触媒反応において併発する脱炭酸に伴う減炭素反応や生成物となるアルコールの脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応を顕著に抑制することができ、上記のレニウムと第2成分を含む金属成分を該担体に担持させることにより水素化触媒活性能を著しく向上させることができる場合がある。また、前記担体との組み合わせにより空気下での取り扱いが可能となり、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる。
これらの触媒性能が向上する理由は、使用する担体中に硫酸イオンが含有されると、担体表面上の硫酸イオンにより触媒表面上に酸点が発現したり、硫酸イオンとの相互作用或いは金属成分担持時の硫酸イオンとの置換反応により担持金属成分の分散性が良好になり、また、水素化触媒活性成分となるレニウムの電子状態を、カルボニル官能基の還元反応に適した状態に制御できるため、これらの因子が組み合わさって触媒の反応選択性が向上するばかりでなく、活性も向上すると考えられる。
【0047】
担体中の硫酸イオンの含有量は、使用する担体の総質量に対する硫酸イオンの質量割合で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、特に好ましくは0.2質量%以上である。使用する担体の総質量に対する硫酸イオンの質量割合は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。
【0048】
使用する担体中に含まれる硫酸イオン含有量を上記下限以上とすることで、これらの添加効果が充分に機能して、高い触媒活性が得られることに加え、前記脱官能基化反応の副生をより抑制することができる。これにより生成物の精製プロセスの煩雑化を抑制できるとともに精製コストの高騰を防ぎ、経済的に有利なアルコールの製造プロセスを提供できることとなる。使用する担体中に含まれる硫酸イオン含有量を上記上限以下とすることにより、用いる溶媒によっては、担体中に含まれた硫酸イオンが反応中に溶出し、反応器の腐食や遊離した酸触媒による目的生成物の副反応等の併発を抑制することができるため、耐食性の高い材質の使用が不要となり、反応設備の建設コストや生成物の精製コストの高騰を抑えることができ、経済的に有利なアルコールの製造プロセスを提供できることができる。
【0049】
第1発明において硫酸イオンを含有する担体を使用する際には、その担体は、硫酸イオンを含有する限りにおいて、特に限定されず、該当する市販品をそのまま用いても良く、また、担体が金属酸化物である場合には、対応する金属硫酸塩を水に溶解後、中和或いは加熱加水分解したり、対応する金属水酸化物や焼成した金属酸化物を硫酸化剤で処理した後に、空気などの酸化雰囲気下で焼成する方法などにより調製される。ここで、硫酸化剤での処理とは、担体中に硫酸イオンを導入することを意味し、前記のように担体製造工程において行ってもよく、担体製造後に行ってもよい。硫酸化剤としては硫酸、過硫酸およびそれらの塩などが挙げられ、好ましくは、硫酸、硫酸塩もしくは過硫酸塩である。硫酸塩としては、溶解して硫酸イオンを供給できる塩類であれば特に制限されず、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。過硫酸塩としては、同様に、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。これらの塩類は、無水物・水和物のいずれであっても良い。このような塩類は、酸よりも危険性が少ないため容易に取り扱うことができる為に好ましい場合がある。
【0050】
以下、第1発明の硫酸イオンを含有する担体の調製例を、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムを例にして説明する。
【0051】
硫酸イオンを含有する酸化チタンは、硫酸チタン又は硫酸チタニルを水で溶解後、低温で中和するか又は加熱加水分解した後に焼成することにより調製することができる。チタン鉱石を硫酸で溶解し、加熱してメタチタン酸、或いは、水酸化チタンにした後に焼成することにより調製することもできる。
【0052】
別法として、硫酸イオンを含有する酸化チタンは、チタンテトライソプロポキシドなどから調製される水酸化チタンを出発物質として希硫酸を通液した後に空気中で焼成することにより調製される。水酸化チタンの代わりに出発物質として焼成した酸化チタンを用いてもよく、硫酸を通液する代わりに硫酸アンモニウム等の硫酸塩を担体に担持してもよい。
【0053】
硫酸化処理された酸化チタンは続いて焼成される。焼成温度は350℃~700℃の範囲が好ましく、450℃~600℃の範囲がより好ましい。焼成温度が高すぎると触媒中の硫酸イオンが揮散するほか酸化チタンの表面積が減少してしまうので好ましくない。焼成時間は特に限定されないが、3時間程度が適当である。
【0054】
硫酸イオンを含有する酸化チタンは、市販品としては、第1発明の実施例でも示した石原産業(株)製のMC-50、MC-90、MC-150などが例示される。
【0055】
硫酸イオンを含有する酸化ジルコニウムは、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、ジルコニウムプロポキシドなどのジルコニウム化合物の水溶液にアンモニア水を加えて調製される水酸化ジルコニウムなどを出発物質として、上記酸化チタンの調製例と同様に、硫酸、硫酸塩、過硫酸塩等を添加し、続いて空気中で焼成することにより調製される。水酸化ジルコニウムの代わりに焼成した酸化ジルコニウムを用いても、希硫酸を通液する代わりに硫酸アンモニウム等の硫酸塩を担体に担持しても調製できる。
【0056】
硫酸化処理された酸化ジルコニウムは続いて焼成される。焼成温度は350℃~700℃の範囲が好ましく、450℃~600℃の範囲がより好ましい。焼成温度が高すぎると触媒中の硫酸イオンが揮散するほか、酸化ジルコニウムの表面積が減少してしまうので好ましくない。焼成時間は特に限定されないが、3時間程度が適当である。
【0057】
市販の担体であって、製造元が担体中に含まれる硫酸イオンの含有量を公開し、その含有量が前記の第1発明の硫酸イオン含有量の範囲内にある場合は、該担体は第1発明の担体に該当するものとする。このような市販の担体としては、例えば、石原産業(株)製のMC-50、MC-90、MC-150等が挙げられる。
担体中の硫黄元素成分が硫酸イオン由来であることが明らかな場合は、別法として、公知の高周波炉燃焼-赤外線検出法(炭素硫黄分析装置)により、触媒を酸素雰囲気下の高周波誘導加熱炉で燃焼し、赤外線検出法により決定される燃焼ガス中の硫黄含有量から硫酸イオン質量に換算した値を担体又は触媒中に含まれる硫酸イオンの含有量とすることもできる。
【0058】
第1発明の触媒中に硫酸イオンが含まれる際の硫酸イオンの含有量は、特に限定はされないが、使用する触媒の総質量に対する硫酸イオンの質量割合で、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、その中でも、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。また、使用する触媒の総質量に対する硫黄元素の質量割合としては、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、通常3質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、その中でも、特に0.6質量%以下が好ましい。
【0059】
硫酸イオンや硫黄が含有された触媒を使用すると、カルボニル化合物の水素化触媒反応において併発する脱炭酸に伴う減炭素反応や生成物となるアルコールの脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応が顕著に抑制できる場合がある。触媒中に含まれる硫酸イオン含有量を上記下限値以上とすることで、触媒活性が充分となり、前記脱官能基化反応の副生が充分に抑制され、生成物の精製プロセスが煩雑になるとともに精製コストが高騰することを回避し、経済的に有利なアルコールの製造プロセスとすることができる場合がある。また、特に、本発明の触媒に含まれる硫酸イオン含有量を上記下限以上とすると、空気下での安定性が向上し、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる。一方、上記上限値以下とすることで、触媒中に含まれた硫酸イオンが反応中に溶出し、反応器の腐食や遊離した酸触媒による目的生成物の副反応等が併発を抑制することができ、反応設備の建設コストや目的生成物の精製コストの高騰を防止し、経済的に有利なアルコールの製造プロセスとすることができる。
【0060】
第1発明において、担体又は触媒中に含まれる硫酸イオンの含有量とは、触媒から前処理工程で硫酸イオンを抽出した後に公知のイオンクロマト分析法により決定される量と定義される。
担体又は触媒中に含まれる硫黄の含有量とは、公知の高周波炉燃焼-赤外線検出法(炭素・硫黄分析装置)により、触媒を酸素雰囲気下の高周波誘導加熱炉で燃焼し、赤外線検出法により決定される燃焼ガス中の硫黄含有量を担体又は触媒中に含まれる硫黄の含有量とする。
【0061】
第1発明で用いる担体は、周期表第4族の金属酸化物を主体とすることが好ましい。ここで、主体とするとは、担体の総質量に対する質量割合が、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90~100質量%であることを意味する。
【0062】
第1発明で用いる担体は、周期表第4族の金属酸化物以外の担体成分を含むものであってもよく、他の担体成分としては、例えば、グラファイ卜、活性炭、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、アルミノシリケ一ト、アルミノシリコホスフエート、アルミノホスフエ一ト、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)、塩化アパタイト、フッ化アパタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0063】
第1発明において用いられる担体の比表面積は、用いる担体種に依存するため、特に限定されないが、通常50m/g以上、好ましくは80m/g以上、より好ましくは100m/g以上、通常3000m/g以下、好ましくは2000m/g以下であるが、特に周期表第4族の金属酸化物を使用する第1発明では、担体の比表面積は、通常、通常50m/g以上、好ましくは80m/g以上、より好ましくは100m/g以上、通常1000m/g以下、好ましくは800m/g以下である。担体の比表面積は大きい程、触媒活性が高いため、より比表面積が大きな担体が好適に使用される。担体の比表面積は、一般に、窒素吸着量を測定し、BET式で算出した値である。
【0064】
第1発明において用いられる担体の形状、担体の大きさは特に限定されるものではないが、その形状を球状に換算した場合、平均粒子径は通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは50μm以上、通常5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。粒子径は、JIS規格 JIS Z8815(1994年)に記載の篩分け試験方法で測定する。担体の形状が球状ではない場合は、その担体の体積を求め、同一の体積の球状粒子の直径として換算するものとする。平均粒子径を上記範囲とすることにより、単位質量当たりの活性が高く、さらに取扱いやすい触媒となる。
【0065】
第1触媒を使用する反応が、完全混合型反応の場合は、担体の平均粒子径は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは、5μm以上、更に好ましくは50μm以上、通常3mm以下、好ましくは2mm以下である。担体の平均粒子径は、小さいほど得られる触媒の単位質量あたりの活性が高くなる点で好ましいが、前記下限値よりも小さくなり過ぎると、反応液と触媒の分離が困難になる場合がある。
【0066】
第1触媒を使用する反応が固定床反応の場合は、担体の平均粒子径は、通常0.5mm以上、5mm以下、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下である。前記下限値より粒子径が小さすぎる場合、差圧により運転が困難になる場合がある。前記上限値より大きすぎると反応活性が低下してしまう場合がある。
【0067】
[第2発明の触媒]
第2発明の触媒(以下、単に「第2触媒」ということがある。)は、金属成分を担体に担持させた金属担持触媒であって、該金属成分として、レニウムである第1成分と、レニウムに対して特定質量比のケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分と、を含有する金属成分が、担体に担持されてなることを特徴とする。
【0068】
第2触媒は、通常、前記金属成分を担持させた金属担持物を、還元性気体により還元処理した後、必要に応じて、酸化安定化処理して得られる。
【0069】
<金属成分>
第2発明の金属担持触媒に担持される金属成分は、第1成分としてのレニウムと、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の第2成分とを含有する。この中でも、レニウムと組み合わせる第2成分は、好ましくはケイ素、ゲルマニウム及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはインジウム及び/又はゲルマニウムを含む1種又は2種以上であり、さらに好ましくはゲルマニウムを含む1種又は2種以上であり、特に好ましくはゲルマニウムからなるものである。
【0070】
また、これらの必須成分の担持量比は、ケイ素、ガリウム、ゲルマニウム、及びインジウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である第2成分の元素の質量比として、レニウム元素に対して、その下限は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上であり、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、その中でも2以下であるのが好ましく、特に1以下であるのが好ましい。
【0071】
レニウムと組み合わせる第2成分の種類及び/又はその担持量比を適正に選択することにより、カルボニル化合物の水素化反応の触媒活性を向上させるばかりでなく、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、特に反応後期において顕著となる生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を高度に抑制したアルコールの製造が可能となる。第2触媒は、前記金属成分の組み合わせにより空気下での取り扱いが可能となり、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる。
【0072】
これらの組み合わせにより、一般的には相反すると考えられている触媒活性の向上と反応選択性の向上が実現する理由は、第2成分の添加により、水素化触媒活性成分となるレニウムの電子状態を、カルボニル官能基の還元反応に適した状態に制御できるとともに、反応基質の第2成分への親和性により触媒表面上への吸着力が向上し、また触媒表面上での反応基質の吸着配向性が高度に制御されるためと推定される。
【0073】
第2触媒において、レニウムの担持量は、特に限定されるものではないが、金属担持触媒の総質量に対するレニウム元素の質量割合で、通常0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。レニウムの担持量を上記下限値以上とすることで、十分な触媒活性を発現させることができ、反応器サイズの増大等を防ぐことができる。レニウムの担持量を上記上限以下とすることにより、触媒コストの高騰を抑えることが出来るとともに、担持したレニウムが凝集し、その高いルイス酸性により脱炭酸に伴う減炭素反応や生成物の脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応といった副反応を抑制することができ、反応選択性をより向上させることができる。
【0074】
第2触媒は、これらの金属成分(即ち、レニウムと第2成分)以外に、第2触媒を用いた還元反応等の反応に悪影響を及ぼさない限り、必要に応じて、更にその他の金属成分を第3成分として含んでいてもよい。他の金属成分としては、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属成分が挙げられ、例えば水素化触媒能を示すルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金の金属種から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。なお、本発明において、周期表とは、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)を意味するものとする。
【0075】
触媒調製および/又は反応中に、SSや、SUS等の材質からなる金属製反応容器の腐食により鉄やニッケル等の金属が溶出して触媒中に混入する場合があるが、第2発明においては、これらの溶出金属が触媒上に析出して触媒中に含有される場合、該金属は第2触媒中の金属成分として定義されない。この場合、触媒中に鉄以外に、SUS製の反応容器の溶出であれば、以下の金属が材質に応じて特定量比で触媒中に微量検出される。
【0076】
例えば、SUS201からの混入であれば、ニッケル、クロム、マンガンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS202からの混入であれば、ニッケル、クロム、マンガンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS301からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS302からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS303からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS304からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS305からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS316からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS317からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS329J1からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS403からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS405からの混入であれば、クロム、アルミニウムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS420からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS430からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS430LXからの混入であれば、クロム、チタン又はニオブが、鉄と共に特定量比で検出される。SUS630からの混入であれば、ニッケル、クロム、銅、ニオブが、鉄と共に特定量比で検出される。
【0077】
周期表第8~10族以外のその他の族の金属成分としては、銀、金、モリブデン、タングステン、アルミニウム、及びホウ素等の金属種から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。
【0078】
これらの第3成分の中では、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、金、モリブデン、及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、中でもルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、モリブデン、及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、更には、ルテニウム、イリジウム、パラジウム及び白金から選ばれる少なくとも1種の金属が特に好ましく、その中でも、ルテニウムが特に好ましい。
【0079】
第2触媒中に含まれるこれら第3成分の含有量は、鉄ならびにニッケルを除く希少で高価な周期表第8~10族の金属に関しては、レニウム元素に対する元素質量比で、通常0.2未満、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.1以下であり、さらに好ましくは、0.1未満、最も好ましくは、反応選択性の向上ならびに触媒製造コストの経済性の理由から0である。即ち、第2触媒は、鉄ならびにニッケルを除く希少で高価な周期表第8~10族の金属は実質含まないことが好ましい。
周期表第8~10族の貴金属以外の上記第3成分の金属の場合は、レニウム元素に対する元素質量比で、通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.5以下である。これら追加的な金属成分の適切な組み合わせならびに適切な含有量の選択により、高い選択性を保持したまま高い触媒活性を得ることができる。
【0080】
SSやSUS等の反応容器の腐食により触媒中に鉄やニッケル等の金属が溶出して混入した場合、第2発明において、触媒中の金属成分の含有量とは、鉄の含有量ならびに反応容器の材質に応じて決定される特定量比の前記の金属含有量を除した量とすることができる。
【0081】
触媒の活性ならびに反応選択性等を一層向上させるために、第2触媒は、アルカリ金属元素であるリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上や、アルカリ土類金属元素であるマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上、ハロゲン元素であるフッ素、塩素、臭素及びヨウ素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素の化合物を、前述の金属成分と共に触媒に添加して用いることもできる。その場合において、これらの添加成分とレニウム成分との比率についても特に制限はない。
【0082】
<担体>
第2発明において用いられる担体としては、特段の制限はないが、特にイナート担体を使用することができる。本発明において、イナート担体とはそれ単味ではカルボニル化合物の水素化触媒活性を示さない担体を意味し、具体的には、触媒活性金属となる鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、及び亜鉛の群から選ばれる周期表第8~12族の金属やクロム、ならびにレニウムを実質的に含有しない担体と定義される。
【0083】
第2発明において、上記金属を実質的に含有しない担体とは、上記金属が主体として含有しない担体、すなわち、担体の総質量に対するこれらの金属の含有量が、5質量%以下、好ましくは、1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であることを意味する。担体中の該金属の含有量は、触媒中の担持金属の金属含有量の分析と同様に公知のICP質量分析法(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、或いは、蛍光X線分析法(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)等の分析方法により測定し、決定することができる。
【0084】
第2発明において用いられるイナート担体としては、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、及び亜鉛等の周期表第8~12族の金属やクロム、レニウムを除く元素の単体、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩及びこれらの混合物を主体とする担体が挙げられる。ここで、主体とするとは、担体の総質量に対する質量割合が、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることを意味する。
【0085】
第2発明の担体の具体例としては、例えば、グラファイ卜、活性炭、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ハフニウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、アルミノシリケ一ト、アルミノシリコホスフエート、アルミノホスフエ一ト、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)、塩化アパタイト、フッ化アパタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸バリウム等が挙げられる。
【0086】
これらの中では、特に原料としてカルボン酸を使用した際に触媒活性ならびに反応選択性が高く、また、金属の溶出が少ない理由から、炭素質担体、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化セリウムが好ましく、その中でも、触媒の再生時の処理が簡便である理由から、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化セリウムが好ましく、その中でも、周期表第4族金属酸化物である酸化チタン又は酸化ジルコニウムがより好ましく、比表面積が大きな担体が容易に入手できる理由からは、酸化チタンが特に好ましい場合がある。
【0087】
これらの担体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率については特に制限はなく、個々の化合物の混合物、複合化合物、又は複塩のような形態で用いることができる。
【0088】
担体は、そのまま用いても、担持に適した形に前処理して用いてもよい。例えば炭素質担体を用いる場合であれば、特開平10-71332号公報に記載のように、炭素質担体を硝酸で加熱処理してから用いることもできる。前記方法により、担体上での金属成分の分散性を良好にすることができ、得られる触媒の活性が向上するため好ましい。
また、第2発明において用いられる担体は硫酸イオンを含有することが好ましい場合がある。特に、担体として酸化チタンを用いた場合、該担体が硫酸イオンを含有することが好ましい場合がある。
【0089】
第2発明においては、硫酸イオンが含有された担体を使用すると、カルボニル化合物の水素化触媒反応において併発する脱炭酸に伴う減炭素反応や生成物となるアルコールの脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応を顕著に抑制することができ、上記のレニウムと第2成分を含む金属成分を該担体に担持させることにより水素化触媒活性能を著しく向上させることができる場合がある。また、前記担体との組み合わせにより空気下での取り扱いが可能となり、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる。
これらの触媒性能が向上する理由は、使用する担体中に硫酸イオンが含有されると、担体表面上の硫酸イオンにより触媒表面上に酸点が発現したり、硫酸イオンとの相互作用或いは金属成分担持時の硫酸イオンとの置換反応により担持金属成分の分散性が良好になり、また、水素化触媒活性成分となるレニウムの電子状態を、カルボニル官能基の還元反応に適した状態に制御できるため、これらの因子が組み合わさって触媒の反応選択性が向上するばかりでなく、活性も向上すると考えられる。
【0090】
担体中の硫酸イオンの含有量は、使用する担体の総質量に対する硫酸イオンの質量割合で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、特に好ましくは0.2質量%以上である。使用する担体の総質量に対する硫酸イオンの質量割合は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。
【0091】
使用する担体中に含まれる硫酸イオン含有量を上記下限以上とすることで、これらの添加効果が充分に機能して、高い触媒活性が得られることに加え、前記脱官能基化反応の副生をより抑制することができる。これにより生成物の精製プロセスの煩雑化を抑制できるとともに精製コストの高騰を防ぎ、経済的に有利なアルコールの製造プロセスを提供できることとなる。使用する担体中に含まれる硫酸イオン含有量を上記上限以下とすることにより、用いる溶媒によっては、担体中に含まれた硫酸イオンが反応中に溶出し、反応器の腐食や遊離した酸触媒による目的生成物の副反応等の併発を抑制することができるため、耐食性の高い材質の使用が不要となり、反応設備の建設コストや生成物の精製コストの高騰を抑えることができ、経済的に有利なアルコールの製造プロセスを提供できることができる。
【0092】
第2発明において硫酸イオンを含有する担体を使用する際には、その担体は、硫酸イオンを含有する限りにおいて、特に限定されず、該当する市販品をそのまま用いても良く、また、担体が金属酸化物である場合には、対応する金属硫酸塩を水に溶解後、中和或いは加熱加水分解したり、対応する金属水酸化物や焼成した金属酸化物を硫酸化剤で処理した後に、空気などの酸化雰囲気下で焼成する方法などにより調製される。ここで、硫酸化剤での処理とは、担体中に硫酸イオンを導入することを意味し、前記のように担体製造工程において行ってもよく、担体製造後に行ってもよい。硫酸化剤としては硫酸、過硫酸およびそれらの塩などが挙げられ、好ましくは、硫酸、硫酸塩もしくは過硫酸塩である。硫酸塩としては、溶解して硫酸イオンを供給できる塩類であれば特に制限されず、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。過硫酸塩としては、同様に、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。これらの塩類は、無水物・水和物のいずれであっても良い。このような塩類は、酸よりも危険性が少ないため容易に取り扱うことができる為に好ましい場合がある。
【0093】
以下、第2発明の硫酸イオンを含有する担体の調製例を、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムを例にして説明する。
【0094】
硫酸イオンを含有する酸化チタンは、硫酸チタン又は硫酸チタニルを水で溶解後、低温で中和するか又は加熱加水分解した後に焼成することにより調製することができる。チタン鉱石を硫酸で溶解し、加熱してメタチタン酸、或いは、水酸化チタンにした後に焼成することにより調製することもできる。
【0095】
別法として、硫酸イオンを含有する酸化チタンは、チタンテトライソプロポキシドなどから調製される水酸化チタンを出発物質として希硫酸を通液した後に空気中で焼成することにより調製される。水酸化チタンの代わりに出発物質として焼成した酸化チタンを用いてもよく、硫酸を通液する代わりに硫酸アンモニウム等の硫酸塩を担体に担持してもよい。
【0096】
硫酸化処理された酸化チタンは続いて焼成される。焼成温度は350℃~700℃の範囲が好ましく、450℃~600℃の範囲がより好ましい。焼成温度が高すぎると触媒中の硫酸イオンが揮散するほか酸化チタンの表面積が減少してしまうので好ましくない。焼成時間は特に限定されないが、3時間程度が適当である。
【0097】
硫酸イオンを含有する酸化チタンは、市販品としては、第2発明の実施例でも示した石原産業(株)製のMC-50、MC-90、MC-150などが例示される。
【0098】
硫酸イオンを含有する酸化ジルコニウムは、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、ジルコニウムプロポキシドなどのジルコニウム化合物の水溶液にアンモニア水を加えて調製される水酸化ジルコニウムなどを出発物質として、上記酸化チタンの調製例と同様に、硫酸、硫酸塩、過硫酸塩等を添加し、続いて空気中で焼成することにより調製される。水酸化ジルコニウムの代わりに焼成した酸化ジルコニウムを用いても、希硫酸を通液する代わりに硫酸アンモニウム等の硫酸塩を担体に担持しても調製できる。
【0099】
硫酸化処理された酸化ジルコニウムは続いて焼成される。焼成温度は350℃~700℃の範囲が好ましく、450℃~600℃の範囲がより好ましい。焼成温度が高すぎると触媒中の硫酸イオンが揮散するほか、酸化ジルコニウムの表面積が減少してしまうので好ましくない。焼成時間は特に限定されないが、3時間程度が適当である。
【0100】
市販の担体であって、製造元が担体中に含まれる硫酸イオンの含有量を公開し、その含有量が前記の第2の発明の硫酸イオン含有量の範囲内にある場合は、該担体は第2の発明の担体に該当するものとする。このような市販の担体としては、例えば、石原産業(株)製のMC-50、MC-90、MC-150等が挙げられる。
担体中の硫黄元素成分が硫酸イオン由来であることが明らかな場合は、別法として、公知の高周波炉燃焼-赤外線検出法(炭素硫黄分析装置)により、触媒を酸素雰囲気下の高周波誘導加熱炉で燃焼し、赤外線検出法により決定される燃焼ガス中の硫黄含有量から硫酸イオン質量に換算した値を担体又は触媒中に含まれる硫酸イオンの含有量とすることもできる。
【0101】
第2発明の触媒中に硫酸イオンが含まれる際の硫酸イオンの含有量は、特に限定はされないが、使用する触媒の総質量に対する硫酸イオンの質量割合で、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、その中でも、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。また、使用する触媒の総質量に対する硫黄元素の質量割合としては、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、通常3質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、その中でも、特に0.6質量%以下が好ましい。
【0102】
硫酸イオンや硫黄が含有された触媒を使用すると、カルボニル化合物の水素化触媒反応において併発する脱炭酸に伴う減炭素反応や生成物となるアルコールの脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応が顕著に抑制できる場合がある。触媒中に含まれる硫酸イオン含有量を上記下限値以上とすることで、触媒活性が充分となり、前記脱官能基化反応の副生が充分に抑制され、生成物の精製プロセスが煩雑になるとともに精製コストが高騰することを回避し、経済的に有利なアルコールの製造プロセスとすることができる場合がある。また、特に、本発明の触媒に含まれる硫酸イオン含有量を上記下限以上とすると、空気下での安定性が向上し、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる。一方、上記上限値以下とすることで、触媒中に含まれた硫酸イオンが反応中に溶出し、反応器の腐食や遊離した酸触媒による目的生成物の副反応等が併発を抑制することができ、反応設備の建設コストや目的生成物の精製コストの高騰を防止し、経済的に有利なアルコールの製造プロセスとすることができる。
【0103】
第2発明において、担体又は触媒中に含まれる硫酸イオンの含有量とは、触媒から前処理工程で硫酸イオンを抽出した後に公知のイオンクロマト分析法により決定される量と定義される。
担体又は触媒中に含まれる硫黄の含有量とは、公知の高周波炉燃焼-赤外線検出法(炭素・硫黄分析装置)により、触媒を酸素雰囲気下の高周波誘導加熱炉で燃焼し、赤外線検出法により決定される燃焼ガス中の硫黄含有量を担体又は触媒中に含まれる硫黄の含有量とする。
【0104】
第2発明において用いられる担体の比表面積は、用いる担体種に依存するため、特に限定されないが、通常50m/g以上、好ましくは80m/g以上、より好ましくは100m/g以上、通常3000m/g以下、好ましくは2000m/g以下であるが、担体として金属酸化物を使用する場合には、その比表面積は、通常、通常50m/g以上、好ましくは80m/g以上、より好ましくは100m/g以上、通常1000m/g以下、好ましくは800m/g以下である。担体の比表面積は大きい程、触媒活性が高いため、より比表面積が大きな担体が好適に使用される。担体の比表面積は、一般に、窒素吸着量を測定し、BET式で算出した値である。
【0105】
第2発明において用いられる担体の形状、担体の大きさは特に限定されるものではないが、その形状を球状に換算した場合、平均粒子径は通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは50μm以上、通常5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。粒子径は、JIS規格 JIS Z8815(1994年)に記載の篩分け試験方法で測定する。担体の形状が球状ではない場合は、その担体の体積を求め、同一の体積の球状粒子の直径として換算するものとする。平均粒子径を上記範囲とすることにより、単位質量当たりの活性が高く、さらに取扱いやすい触媒となる。
【0106】
第2触媒を使用する反応が、完全混合型反応の場合は、担体の平均粒子径は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは、5μm以上、更に好ましくは50μm以上、通常3mm以下、好ましくは2mm以下である。担体の平均粒子径は、小さいほど得られる触媒の単位質量あたりの活性が高くなる点で好ましいが、前記下限値よりも小さくなり過ぎると、反応液と触媒の分離が困難になる場合がある。
【0107】
第2本触媒を使用する反応が固定床反応の場合は、担体の平均粒子径は、通常0.5mm以上、5mm以下、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下である。前記下限値より粒子径が小さすぎる場合、差圧により運転が困難になる場合がある。前記上限値より大きすぎると反応活性が低下してしまう場合がある。
【0108】
[本触媒の製造方法]
第1触媒及び第2触媒(以下、これらを「本触媒」という。)の製造方法は、通常、以下の工程を有する。
(i)担体に、前記金属成分を担持させる工程(以下、「金属担持工程」という。))
(ii)得られた金属担持物を還元性気体により還元処理する工程(以下、「還元処理工程」という。))
(iii)必要に応じて、還元処理後に酸化する工程(以下、「酸化安定化工程」という。))
以下、工程毎に順に説明する。
【0109】
<(i)金属担持工程>
金属担持工程は、上記した担体に、上記の金属成分を必要量担持させ、金属担持物を得る工程である。金属成分の担持方法は特に限定されず公知の方法を用いることができる。担持の際には、上記金属成分の原料となる各種金属含有化合物の溶液又は分散液を用いることができる。
【0110】
担体への金属成分の担持方法は、特に限定されるものではないが、通常各種の含侵法が適用できる。例えば、金属イオンの担体への吸着力を利用して飽和吸着量以下の金属イオンを吸着させる吸着法、飽和吸着量以上の溶液を浸し過剰の溶液を取り除く平衡吸着法、担体の細孔容積と同じ溶液を添加して全て担体に吸着させるポアフィリング法、担体の吸水量に見合うまで溶液を加え、担体表面が均一に濡れた状態かつ過剰な溶液が存在しない状態で終了するincipient wetness法、担体に含侵させ撹拌しながら溶媒を蒸発させる蒸発乾固法、担体を乾燥状態にして溶液を吹き付ける噴霧法などがある。この中でも、ポアフィリング法、incipient wetness法、蒸発乾固法、噴霧法が好ましく、ポアフィリング法、incipient wetness法、蒸発乾固法がより好ましい。これらの調製方法を採用することにより、レニウムと、前述の第2成分、更には必要に応じて添加する前記の第3成分やその他金属成分が比較的均一に分散した上で担体に担持させることができる。なお、第1発明及び第2発明において説明したように、担体が硫酸イオンを含有している方が好ましい場合がある。その場合、担体質量に対して硫酸イオンが0.01質量%以上、10質量%以下含有された担体に金属成分を担持させることが好ましい。
【0111】
用いる金属含有化合物としては、特に限定されるものではなく、担持方法により適宜選択することができる。例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属含有アンモニウム塩、酢酸塩、金属アルコキシド等の有機基含有化合物、金属錯体等を用いることができる。この中では、ハロゲン化物、鉱酸塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属含有アンモニウム塩、有機基含有化合物が好ましく、ハロゲン化物、鉱酸塩、金属酸化物、金属含有アンモニウム塩、有機基含有化合物がより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を必要量組み合わせて用いることができる。
【0112】
金属含有化合物を担体に担持する際、各種溶媒を用いて金属含有化合物を溶解、又は分散して、各種担持方法に用いることができる。このときに用いる溶媒の種類は、金属含有化合物を溶解又は分散することができ、後に実施する金属担持物の焼成及び水素還元、さらには本触媒を用いた水素化反応に悪影響を及ぼさなければ特に限定されるものではない。溶媒としては例えばアセトン等のケトン溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒、水等が用いられる。これらは単独で用いても、混合溶媒として用いてもよい。これらの中では、安価であり、上記金属含有化合物原料の溶解度が高いため、水が好ましく用いられる。
【0113】
金属含有化合物を溶解又は分散する際、溶媒以外に、各種の添加剤を加えてもよい。例えば、特開平10-15388号公報に記載のように、カルボン酸及び/又はカルボニル化合物溶液を添加することで、担体に担持させた際、担体上での各金属成分の分散性を改良することができる。
【0114】
金属担持物は、必要に応じて乾燥してもよく、以下の理由から、乾燥してから、必要に応じて焼成後、還元処理工程に供することが好ましい。即ち、金属担持物を未乾燥で後続する還元処理を実施した場合、得られる触媒の反応活性が低くなる場合がある。
【0115】
金属担持物の乾燥方法は、特に限定はされず、担持時に使用した溶媒等が除去されればよく、通常は不活性ガス流通下、或いは減圧下で行なう。
【0116】
乾燥時の圧力は、特に限定はされないが、通常、常圧下、又は減圧条件下で行なう。
乾燥時の温度は、特に限定はされないが、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下で、通常80℃以上で行なう。
【0117】
金属担持物の乾燥後は、必要に応じて焼成を行ってもよい。焼成を行うことで、触媒活性が高く、且つ反応選択性に優れた触媒を製造することができる場合が多い。焼成は空気中で行えばよく、例えば、空気流通下に、所定の温度で所定時間加熱することで実施される。
【0118】
焼成時の温度は、特に限定はされないが、通常100℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは400℃以上で、通常1000℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下である。焼成時間は焼成温度によっても異なるが、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、通常40時間以下、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0119】
<(ii)還元処理工程>
前記金属担持物は、通常、還元性気体により還元処理する。還元処理としては、公知の液相還元、気相還元が用いられる。
【0120】
還元処理工程に用いられる還元性気体は、還元性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、水素、メタノール、ヒドラジン等が用いられ、好ましくは水素である。
【0121】
還元性気体として水素含有ガスを用いる場合、水素含有ガスの水素濃度は、特に限定されるものではなく、100体積%であっても、不活性ガスで希釈されていても良い。ここで言う不活性ガスとは金属担持物、又は水素ガスと反応しないガスであり、窒素、水蒸気等が挙げられるが、通常窒素が用いられる。不活性ガスで希釈された還元性気体(水素含有ガス)の水素濃度は、全気体成分に対し、通常5体積%以上、好ましくは15体積%以上、より好ましくは30体積%以上であり、更に好ましくは50体積%以上が好適に用いられるが、還元初期に低水素濃度の水素含有ガスを使用して、その後徐々に水素濃度を上げて使用しても良い。
【0122】
還元処理に必要とされる時間は、処理する金属担持物等の量や、使用する装置等によって異なるが、通常7分以上、好ましくは15分以上、より好ましく30分以上であり、通常40時間以下、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下である。還元処理時の温度は、通常100℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上で、通常700℃以下、好ましくは600℃以下、より好ましくは500℃以下である。還元処理時の温度が高すぎると担持金属の焼結等が起こり、得られる触媒の活性が低下する場合がある。
【0123】
還元処理時の還元性気体は、反応器中に密閉して用いても、反応器中を流通させて用いてもよいが、反応器中を流通させることが好ましい。これは、流通させることにより局所的な水素欠乏状態を回避することができるためである。還元処理により、用いる原料によっては、反応器中に水や塩化アンモニウム等が副生し、これら副生成物が、還元処理前の金属担持物や、還元処理された金属担持触媒へ悪影響を及ぼす場合があるが、還元性気体を流通させることで、これらの副生成物を反応系外に排出することができる。
【0124】
還元処理に必要とされる還元性気体の量は、第1~第3発明の目的を満たす限りにおいて特に限定されるものではなく、使用する装置や、還元時の反応器の大きさや還元性気体の流通方法、触媒を流動させる方法等に応じて、適宜設定することができる。
【0125】
還元処理後の金属担持触媒の大きさは特に限定されるものではないが、基本的に上記した担体の大きさと同じである。
【0126】
好ましい還元処理の態様として、固定床で、還元性気体を金属担持物に通過させる方法、トレイ又はベルト上に静置させた金属担持物に還元性気体を流通させる方法、流動している金属担持物中に還元性気体を流通させる方法等が挙げられる。
【0127】
<(iii)酸化安定化工程>
本触媒の製造においては、必要に応じて、前記金属担持物を還元して得られた金属担持触媒に対し、酸化状態を制御する酸化安定化処理を行なう。酸化安定化処理を行うことより、活性及び選択性に優れ、且つ空気中で取扱い可能な触媒を製造することができる。
【0128】
酸化安定化の方法は、特に限定はされないが、水を添加する方法又は水に投入する方法、不活性ガスで希釈された低酸素濃度のガスで酸化安定化する方法、二酸化炭素で安定化する方法等が挙げられる。中でも水を添加する方法又は水に投入する方法、低酸素濃度のガスで酸化安定化する方法が好ましく、低酸素濃度のガスで酸化安定化(徐酸化)する方法(以下、「徐酸化法」という。)がより好ましく、特に低酸素濃度ガスの流通下で酸化安定化することが好ましい。
【0129】
低酸素濃度のガスで酸化安定化するときの初期酸素濃度は、特に限定はされないが、徐酸化開始時の酸素濃度は、通常0.2体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、通常10体積%以下、好ましくは8体積%以下、さらに好ましくは7体積%以下とする。上記下限値よりも酸素濃度が低すぎる場合は、完全に酸化安定化するための時間が非常に長時間となるばかりか、安定化が不十分になることがある。上記上限値よりも酸素濃度が高すぎる場合は、触媒が高温となり失活する場合がある。
【0130】
低酸素濃度のガスを調製するためには、空気を不活性ガスで希釈するのが好ましい。希釈に用いる不活性ガスとしては窒素が好ましい。
【0131】
低酸素濃度のガスで酸化安定化する方法としては、固定床で低酸素濃度のガスを触媒に通過させる方法、トレイ又はベルト上に静置させた触媒に低酸素濃度ガスを流通させる方法、流動している触媒中に低酸素濃度のガスを流通させる方法が挙げられる。
【0132】
金属担持触媒上の担持金属の分散性が良好であるほど酸化安定化が急激に進行し、かつ多量の酸素が反応するので、固定床で低酸素濃度のガスを触媒に通過させる方法、流動している触媒中に低酸素濃度のガスを流通させる方法が好ましい。
【0133】
尚、本触媒の製造方法は、本触媒が製造できる限り、上記の製造方法に限定されない。例えば、本触媒が製造できる限り、公知の他の工程を組み合わせてもよい。
【0134】
[本触媒を用いたアルコールの製造]
本触媒は、カルボニル化合物の還元反応(水素化)用の触媒として好適であり、カルボニル化合物を本触媒により処理することによりアルコールを製造することができる。
【0135】
本触媒を用いた還元反応の好ましい態様として、例えば、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、カルボン酸ハロゲン化物、及び、無水カルボン酸よりなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボニル化合物を還元して、前記化合物から誘導されるアルコールを得る工程を有するアルコールの製造方法が挙げられる。本触媒は、特にこれらの化合物の中でカルボン酸を直接還元してアルコールを製造できる特徴がある。
【0136】
還元反応の対象とするカルボニル化合物としては、工業的に容易に入手しうる任意のものを用いることができる。具体的には、カルボン酸及び/又はカルボン酸エステルとしては、酢酸、酪酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪族鎖状モノカルボン酸類、シクロヘキサンカルボン酸、ナフテン酸、シクロペンタンカルボン酸等の脂肪族環状モノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,3,4-シクロヘキサントリカルボン酸、ビシクロヘキシルジカルボン酸、デカヒドロナフタレンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸類、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸類、フランカルボン酸、フランジカルボン酸等のフラン骨格を有するカルボン酸類等、ならびにこれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、カルボン酸から還元されて得られるアルコールとのエステル等のカルボン酸エステルやγ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン等が挙げられる。
カルボン酸アミドとしては、上記カルボン酸のメチルアミド、エチルアミド等が挙げられる。
カルボン酸ハロゲン化物としては、上記カルボン酸の塩化物、臭化物等が挙げられる。
無水カルボン酸としては、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が挙げられる。
アルデヒド、ケトンとしては、ベンズアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒド、3-ヒドロキシプロピオンアルデヒド、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、アセトン、ベンゾフェノン、グルコース、キシロース、ラクトース、フルクトース等が挙げられる。
【0137】
これらのカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、カルボン酸ハロゲン化物、及び/又は無水カルボン酸を形成するカルボン酸としては、特に限定はされないが、好ましくは鎖状又は環状の飽和脂肪族カルボン酸であり、より好ましくはカルボキシル基以外の炭素数が20以下のカルボン酸であり、カルボン酸が有する炭素数が14以下であることがより好ましい。
【0138】
本発明においては、特に限定されないが、還元反応の対象とする前記のカルボニル化合物の中では、原料としての入手のし易さから、カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、アルデヒドが好ましく、その中でも、カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、アルデヒドが好ましく、特にカルボン酸、カルボン酸エステルが好ましい。
【0139】
カルボン酸としては、ジカルボン酸であることが好ましく、さらに好ましくは、カルボキシル基以外の炭素数が20以下であり、下記式(1)で表されるジカルボン酸が挙げられる。
HOOC-R-COOH (2)
(式中、Rは、置換基を有していても良い、置換基以外の炭素数が1~20である脂肪族もしくは脂環式の炭化水素基を表す。)
【0140】
本触媒は、上記のジカルボン酸等の多価カルボン酸から対応するヒドロキシカルボン酸やラクトン、多価アルコールへ高選択的且つ高収率に変換できる特徴を有する。この場合、用いる触媒や反応圧力や反応温度、原料の滞留時間等の製造条件を適切に選択することによりヒドロキシカルボン酸やラクトンと多価アルコールとの生成比率を制御することも可能である。
【0141】
その他の特に好ましいカルボニル化合物としては、バイオマス資源から誘導されるフラン骨格を有するフランジカルボン酸等のカルボン酸ならびにヒドロキシメチルフルフラール等のアルデヒドが挙げられる。
【0142】
本触媒を用いた還元反応は、液相であっても、気相であっても実施できるが、液相で実施することが好ましい。本触媒を用いた液相での還元反応は無溶媒で行なっても、溶媒の存在下でも行なうこともできるが、通常は溶媒の存在下で行われる。
【0143】
溶媒としては、通常、水、メタノールやエタノールなどの低級アルコール類、反応生成物のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサン、デカリン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などの溶媒を使用することができる。これらの溶媒は単独で用いても、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0144】
特にカルボニル化合物を還元する際には、溶解性等の理由から水溶媒を用いるのが好ましい。溶媒の使用量は特に限定されないが、原料となるカルボニル化合物に対して通常0.1~20質量倍程度であり、好ましくは0.5~10質量倍、より好ましくは1~10質量倍程度用いるのが好ましい。
【0145】
本触媒を用いた還元反応は、通常、水素ガス加圧下で行われる。反応は通常100~300℃で行われるが、120~250℃で行うのが好ましい。反応圧力は通常1~30MPaGであるが、1~25MPaGが好ましく、5~25MPaGが更に好ましい。
【0146】
本触媒を用いた還元反応で得られた生成物は、反応終了後、生成物の物性に依存するが、通常、溶媒留去手法、溶媒留去後有機溶媒で抽出する手法、蒸留手法、昇華手法、晶析手法、クロマト手法等により回収することができる。取り扱い温度条件下で生成物が液体の場合は、蒸留手法により生成物を精製しながら回収する方法が好ましい。取り扱い温度条件下で生成物が固体の場合は、晶析手法により生成物の精製を行いながら回収する方法が好ましい。得られた固体生成物を洗浄により精製する手法は好ましい態様である。
【実施例
【0147】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0148】
(硫酸イオン含有量の測定)
試料に0.2M水酸化ナトリウム水溶液を加えて超音波を照射した後に、遠心分離により分離した液をイオンクロマト分析法により分析することにより、試料中に含まれる硫酸イオンの含有量を決定した。
【0149】
(硫黄含有量の測定)
高周波炉燃焼-赤外線検出法(炭素・硫黄分析装置)により、試料を酸素雰囲気下の高周波誘導加熱炉で燃焼し、赤外線検出法により決定される燃焼ガス中の硫黄含有量により試料中に含まれる硫黄の含有量を決定した。
【0150】
[第1発明の実施例と比較例]
<実施例I-1>
過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)を水に溶解し、比表面積308m/gの酸化チタン(触媒学会参照触媒、JRC-TIO-14、石原産業(株)製)を加え、室温で20分撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で4時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行った。得られた固体を縦型焼成管に入れ、水素ガスを流通させながら500℃で30分還元処理を行った。その後、30℃まで冷却して、アルゴンガスで置換した後、6体積%酸素/窒素ガスを流通させ、表面を安定化させた5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒(触媒の総質量に対するレニウムの担持量が5質量%で、ゲルマニウムの担持量が5質量%の触媒(Ge/Re=1))を得た。酸化チタン(触媒学会参照触媒、JRC-TIO-14)ならびに触媒中の硫酸イオン含有量は、それぞれ、0.2質量%、0.14質量%であり、触媒中の硫黄の含有量は0.078質量%であった。
【0151】
70mL高圧反応器に上記方法で調製した触媒 100mg、セバシン酸500mg、水2gとスターラーチップを入れ、窒素置換した後、室温で水素ガスを7MPaG導入し、220℃で7.5時間水素化反応を行った。なお、220℃での反応圧力は13MPaGであった。反応後、室温に冷却した後脱圧し、反応液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが5.9%、10-ヒドロキシデカン酸が48.1%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.016であった。
【0152】
<実施例I-2>
実施例I-1で調製した触媒を用い、実施例I-1において、水素化反応の反応時間を18時間として水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが89.3%、10-ヒドロキシデカン酸が6.5%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.017であった。
【0153】
<実施例I-3>
実施例I-1において、水素ガスを流通させながら還元処理を行った後、6体積%酸素/窒素ガスの流通により表面を安定化させる処理を行わなかったこと以外は同様に製造した触媒を用いて実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが74.7%、10-ヒドロキシデカン酸が2.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.004であった。
【0154】
<実施例I-4>
酸化チタンとして、比表面積302m2/g、硫酸イオン含有量4.8質量%の酸化チタン(MC-150、石原産業(株)製)を使用した以外は、実施例I-1と同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒を調製した。この触媒の硫酸イオンの含有量は、0.63質量%であり、硫黄の含有量は0.57質量%であった。この触媒を用いて実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが81.7%、10-ヒドロキシデカン酸が0.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.006であった。
【0155】
<実施例I-5>
酸化チタンとして、比表面積90m2/g、硫酸イオン含有量3.6質量%の酸化チタン(MC-90、石原産業(株)製)を使用した以外は、実施例I-1と同様の手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒を調製した。この触媒の硫酸イオンの含有量は、0.30質量%であり、硫黄の含有量は0.35質量%であった。この触媒を用いて実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが4.5%、10-ヒドロキシデカン酸が36.8%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.011であった。
【0156】
<実施例I-6>
実施例I-1において、テトラエトキシゲルマニウム(IV)の代わりに、塩化インジウム(III)・四水和物を用い、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%インジウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが9.0%、10-ヒドロキシデカン酸が43.5%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.034であった。
【0157】
<実施例I-7>
実施例I-1において、テトラエトキシゲルマニウム(IV)の代わりに、テトラエトキシシラン(IV)を使用し、溶解に使用する水の代わりにエタノールを使用した以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ケイ素/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが1.7%、10-ヒドロキシデカン酸が23.1%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.039であった。
【0158】
<実施例I-8>
実施例I-1において、金属原料の過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)の量比を変更し、還元処理を行った後の6体積%酸素/窒素ガスの流通により表面を安定化させることなく操作した以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・1%ゲルマニウム/酸化チタン触媒を調製した。この触媒を用いて実施例I-1において、反応時間を3時間に変更した以外は同様の操作で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが38.7%、10-ヒドロキシデカン酸が10.8%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.009であった。
【0159】
<実施例I-9>
実施例I-3で製造した触媒を用い、実施例I-1において、反応時間を3時間に変更した以外は同様の操作で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが35.3%、10-ヒドロキシデカン酸が32.9%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.005であった。
【0160】
<実施例I-10>
実施例I-1において、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)と塩化ルテニウム(III)を用い、還元処理を行った後の6体積%酸素/窒素ガスの流通により表面を安定化させることなく操作した以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム・0.5%ルテニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが72.0%、10-ヒドロキシデカン酸が3.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.006であった。
【0161】
<実施例I-11>
実施例I-10において、金属原料の過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)と塩化ルテニウム(III)の量比を変えた以外は同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム・5%ルテニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが89.0%、10-ヒドロキシデカン酸が0.4%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.020であった。
【0162】
<比較例I-1>
実施例I-1において、テトラエトキシゲルマニウムを加えないこと以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが0.1%、10-ヒドロキシデカン酸が21.0%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)の比は0.060であった。
【0163】
<比較例I-2>
実施例I-1において、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとジクロロテトラアンミンパラジウム(II)を用いた以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%パラジウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが33.1%、10-ヒドロキシデカン酸が0.0%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.825であった。
【0164】
<比較例I-3>
実施例I-1において、金属原料として過レニウム酸アンモニウムと塩化ルテニウム(III)を用いた以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ルテニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが45.0%、10-ヒドロキシデカン酸が11.1%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.063であった。
【0165】
上記実施例I-1~11と比較例I-1~3の結果を表1にまとめて示す。
【0166】
【表1】
【0167】
<実施例I-12>
過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)を水に溶解し、比表面積302m/g、硫酸イオン含有量4.8質量%の酸化チタン(MC-150、石原産業(株)製)を加え、室温で20分撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で4時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行った。得られた固体を縦型焼成管に入れ、水素ガスを流通させながら500℃で30分還元処理を行い、5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒(触媒の総質量に対するレニウムの担持量が5質量%で、ゲルマニウムの担持量が5質量%の触媒(Ge/Re=1))を得た。
70mL高圧反応器に上記方法で調製した触媒 70mg、デカン酸260mg、メタノール1.2mLとスターラーチップを入れ、窒素置換した後、室温で水素ガスを7MPaG導入し、220℃で3時間水素化反応を行った。なお、220℃での反応圧力は13MPaGであった。反応後、室温に冷却した後脱圧し、反応液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、反応のモル収率は、10-デカノールが76.5%であり、副生成物(ノナン、デカン)/目的成分(10-デカノール)のモル比は0.004であった。
【0168】
<実施例I-13>
実施例I-8において、酸化チタンの代わりに、硫酸イオンを含有しない、比表面積97m/gの酸化ジルコニウムを用いて、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製し、メタノールに変えて水溶媒を用いた以外は、同様の操作で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、10-デカノールが23.2%であり、副生成物(ノナン、デカン)/目的成分(10-デカノール)のモル比は0.001であった。
【0169】
以上の酸化チタンを担体とする触媒を用いた実施例I-1~11と比較例I-1~3の比較から、レニウム/周期表第4族の金属酸化物触媒に特定の第2成分を共存させた触媒を使用すると、カルボン酸の水素化反応において、単位比表面積当りの1,10-デカンジオールと10-ヒドロキシデカン酸の生成量の総量が増加し、触媒活性が向上するばかりでなく、脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を著しく抑制でき、その効果は、特にゲルマニウムを共存させた触媒を使用すると顕著であることが判った。ここで、1,10-デカンジオールと10-ヒドロキシデカン酸との生成量の総量を触媒活性の指標とする理由は、10-ヒドロキシデカン酸は1,10-デカンジオール生成物の反応中間体と見做され、反応時間を更に伸ばすことにより1,10-デカンジオールに誘導される為である。一方、実施例I-12~13の比較から、酸化チタンを担体とする触媒以外にも酸化ジルコニウムを担体とする触媒においても同様の効果が発現することが明らかになった。特に酸化ジルコニウム担体系触媒は、比表面積に対する触媒活性として比較すると、酸化チタン担体系触媒と同等の触媒活性を示すことが判った。また、実施例I-1とI-2の比較から、レニウム触媒系では課題であった高転化率の反応条件においてもゲルマニウムを共存させた触媒を使用すると反応選択性が維持されることが判った。更に、実施例I-1、I-4ならびにI-5の比較から、触媒中の硫酸イオンの含有量が多いほど、脱官能基化反応が著しく抑制され、反応選択性が向上するとともに、担体の単位比表面積当たりの水素化触媒活性が著しく向上することが判った。この顕著な副反応の抑制は、高純度のアルコールの製造と、製造されたアルコールの精製コストの低減に貢献するものである。
【0170】
[第2発明の実施例と比較例]
<実施例II-1>
過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)を水に溶解し、比表面積308m/gの酸化チタン(触媒学会参照触媒、JRC-TIO-14、石原産業(株)製)を加え、室温で20分撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で4時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行った。得られた固体を縦型焼成管に入れ、水素ガスを流通させながら500℃で30分還元処理を行った。その後、30℃まで冷却して、アルゴンガスで置換した後、6体積%酸素/窒素ガスを流通させ、表面を安定化させた5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒(触媒の総質量に対するレニウムの担持量が5質量%で、ゲルマニウムの担持量が5質量%の触媒(Ge/Re=1))を得た。酸化チタン(触媒学会参照触媒、JRC-TIO-14)ならびに触媒中の硫酸イオン含有量は、それぞれ、0.2質量%、0.14質量%であり、触媒中の硫黄の含有量は0.078質量%であった。
【0171】
70mL高圧反応器に上記方法で調製した触媒 100mg、セバシン酸500mg、水2gとスターラーチップを入れ、窒素置換した後、室温で水素ガスを7MPaG導入し、220℃で7.5時間水素化反応を行った。なお、220℃での反応圧力は13MPaGであった。反応後、室温に冷却した後脱圧し、反応液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが5.9%、10-ヒドロキシデカン酸が48.1%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.016であった。
【0172】
<実施例II-2>
実施例II-1で調製した触媒を用い、実施例II-1において、水素化反応の反応時間を18時間として水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが89.3%、10-ヒドロキシデカン酸が6.5%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.017であった。
【0173】
<実施例II-3>
実施例II-1において、水素ガスを流通させながら還元処理を行った後、6体積%酸素/窒素ガスの流通により表面を安定化させる処理を行わなかったこと以外は同様に製造した触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが74.7%、10-ヒドロキシデカン酸が2.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.004であった。
【0174】
<実施例II-4>
酸化チタンとして、比表面積302m2/g、硫酸イオン含有量4.8質量%の酸化チタン(MC-150、石原産業(株)製)を使用した以外は、実施例II-1と同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒を調製した。この触媒の硫酸イオンの含有量は、0.63質量%であり、硫黄の含有量は0.57質量%であった。この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが81.7%、10-ヒドロキシデカン酸が0.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.006であった。
【0175】
<実施例II-5>
酸化チタンとして、比表面積90m2/g、硫酸イオン含有量3.6質量%の酸化チタン(MC-90、石原産業(株)製)を使用した以外は、実施例II-1と同様の手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒を調製した。この触媒の硫酸イオンの含有量は、0.30質量%であり、硫黄の含有量は0.35質量%であった。この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが4.5%、10-ヒドロキシデカン酸が36.8%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.011であった。
【0176】
<実施例II-6>
実施例II-1において、テトラエトキシゲルマニウム(IV)の代わりに、塩化インジウム(III)・四水和物を用い、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%インジウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが9.0%、10-ヒドロキシデカン酸が43.5%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.034であった。
【0177】
<実施例II-7>
実施例II-1において、テトラエトキシゲルマニウム(IV)の代わりに、テトラエトキシシラン(IV)を使用し、溶解に使用する水の代わりにエタノールを使用した以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ケイ素/酸化チタン触媒を調製し、実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが1.7%、10-ヒドロキシデカン酸が23.1%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.039であった。
【0178】
<実施例II-8>
実施例II-1において、金属原料の過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)の量比を変更し、還元処理を行った後の6体積%酸素/窒素ガスの流通により表面を安定化させることなく操作した以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・1%ゲルマニウム/酸化チタン触媒を調製した。この触媒を用いて実施例II-1において、反応時間を3時間に変更した以外は同様の操作で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが38.7%、10-ヒドロキシデカン酸が10.8%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.009であった。
【0179】
<実施例II-9>
実施例II-3で製造した触媒を用い、実施例II-1において、反応時間を3時間に変更した以外は同様の操作で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが35.3%、10-ヒドロキシデカン酸が32.9%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.005であった。
【0180】
<実施例II-10>
実施例II-1において、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)と塩化ルテニウム(III)を用い、還元処理を行った後の6体積%酸素/窒素ガスの流通により表面を安定化させることなく操作した以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム・0.5%ルテニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが72.0%、10-ヒドロキシデカン酸が3.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.006であった。
【0181】
<実施例II-11>
実施例II-10において、金属原料の過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)と塩化ルテニウム(III)の量比を変えた以外は同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム・5%ルテニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが89.0%、10-ヒドロキシデカン酸が0.4%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.020であった。
【0182】
<比較例II-1>
実施例II-1において、テトラエトキシゲルマニウムを加えないこと以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが0.1%、10-ヒドロキシデカン酸が21.0%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)の比は0.060であった。
【0183】
<比較例II-2>
実施例II-1において、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとジクロロテトラアンミンパラジウム(II)を用いた以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%パラジウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例I-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが33.1%、10-ヒドロキシデカン酸が0.0%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.825であった。
【0184】
<比較例II-3>
実施例II-1において、金属原料として過レニウム酸アンモニウムと塩化ルテニウム(III)を用いた以外は、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ルテニウム/酸化チタン触媒を調製し、実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが45.0%、10-ヒドロキシデカン酸が11.1%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(10-ヒドロキシデカン酸、1,10-デカンジオール)のモル比は0.063であった。
【0185】
上記実施例II-1~11と比較例II-1~3の結果を表2にまとめて示す。
【0186】
【表2】
【0187】
<実施例II-12>
過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)を水に溶解し、比表面積302m/g、硫酸イオン含有量4.8質量%の酸化チタン(MC-150、石原産業(株)製)を加え、室温で20分撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で4時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行った。得られた固体を縦型焼成管に入れ、水素ガスを流通させながら500℃で30分還元処理を行い、5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化チタン触媒(触媒の総質量に対するレニウムの担持量が5質量%で、ゲルマニウムの担持量が5質量%の触媒(Ge/Re=1))を得た。
70mL高圧反応器に上記方法で調製した触媒 70mg、デカン酸260mg、メタノール1.2mLとスターラーチップを入れ、窒素置換した後、室温で水素ガスを7MPaG導入し、220℃で3時間水素化反応を行った。なお、220℃での反応圧力は13MPaGであった。反応後、室温に冷却した後脱圧し、反応液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、反応のモル収率は、10-デカノールが76.5%であり、副生成物(ノナン、デカン)/目的成分(10-デカノール)のモル比は0.004であった。
【0188】
<実施例II-13>
実施例II-8において、酸化チタンの代わりに、硫酸イオンを含有しない、比表面積97m/gの酸化ジルコニウムを用いて、同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製し、メタノールに変えて水溶媒を用いた以外は、同様の操作で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、10-デカノールが23.2%であり、副生成物(ノナン、デカン)/目的成分(10-デカノール)のモル比は0.001であった。
【0189】
以上の酸化チタンを担体とする触媒を用いた実施例II-1~11と比較例II-1~3の比較から、レニウムと特定量の第2成分を共存させた触媒を使用すると、カルボン酸の水素化反応において、単位比表面積当りの1,10-デカンジオールと10-ヒドロキシデカン酸の生成量の総量が増加し、単位比表面積当りの触媒活性が向上するばかりでなく、脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を著しく抑制でき、その効果は、特にゲルマニウムを共存させた触媒を使用すると顕著であることが判った。ここで、1,10-デカンジオールと10-ヒドロキシデカン酸との生成量の総量を触媒活性の指標とする理由は、10-ヒドロキシデカン酸は1,10-デカンジオール生成物の反応中間体と見做され、反応時間を更に伸ばすことにより1,10-デカンジオールに誘導される為である。一方、実施例II-12~13の比較から、酸化チタンを担体とする触媒以外にも酸化ジルコニウムを担体とする触媒においても同様の効果が発現することが明らかになった。特に酸化ジルコニウム担体系触媒は、比表面積に対する触媒活性として比較すると、酸化チタン担体系触媒と同等の触媒活性を示すことが判った。また、実施例II-1とII-2の比較から、レニウム触媒系では課題であった高転化率の反応条件においてもゲルマニウムを共存させた触媒を使用すると反応選択性が維持されることが判った。更に、実施例II-1、II-4ならびにII-5の比較から、触媒中の硫酸イオンの含有量が多いほど、脱官能基化反応が著しく抑制され、反応選択性が向上するとともに、担体の単位比表面積当たりの水素化触媒活性が著しく向上することが判った。この顕著な副反応の抑制は、高純度のアルコールの製造と、製造されたアルコールの精製コストの低減に貢献するものである。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本触媒は、カルボニル化合物から直接アルコールを合成するための触媒として工業的に有用であり、目的とするアルコールを高活性且つ高選択的に製造できるばかりでなく、生成物の精製コストや触媒の製造コストの高騰を低減できるため、その工業的価値は極めて高い。
【0191】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2017年3月8日付で出願された日本特許出願2017-043988、及び2017年5月23日付で出願された日本特許出願2017-102053に基づいており、その全体が引用により援用される。