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特許7111096Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20220726BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20220726BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20220726BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20220726BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
B22D11/06 360B
H01F1/153 108
H01F1/153 191
H01F1/153 141
C22C45/02 A
C21D6/00 C
C22C38/00 303S
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019510063
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018013023
(87)【国際公開番号】W WO2018181604
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】62/479,330
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】板垣 肇
(72)【発明者】
【氏名】太田 元基
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-275851(JP,A)
【文献】特開2008-279457(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102379(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
H01F 1/153
C22C 45/02
C21D 6/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ロールの表面に付与された溶湯の冷却体である、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンであって、
リボン幅の長さが、70mm以上300mm以下であり、
冷却面であるリボン表面の、リボン幅方向の中央を含む、リボン幅の10%の幅の領域であるリボン幅方向中央部の0.647mm×0.647mmの領域に深さ1μm以上の凹部を有し、前記深さ1μm以上の凹部の最大面積が3000μm以下である、Fe基アモルファス合金リボン。
【請求項2】
前記領域における、深さ1μm以上であり、かつ、面積が100μm以上である凹部の合計の面積率が、1%以上10%未満である請求項1に記載のFe基アモルファス合金リボン。
【請求項3】
前記面積率が、1%以上5%未満である請求項2に記載のFe基アモルファス合金リボン。
【請求項4】
前記凹部の最大面積が、2500μm以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金リボン。
【請求項5】
全個数に対して60%以上の前記凹部が、下記の式1を満たす請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金リボン。
0.6≦L/W≦1.8 ・・・式1
式1中、Lは、凹部の鋳造方向における長さを表し、Wは、凹部の鋳造方向と直交するリボン幅方向における幅長を表す。
【請求項6】
全個数に対して30%以上の前記凹部が、下記の式2を満たす請求項5に記載のFe基アモルファス合金リボン。
0.6≦L/W≦1.2 ・・・式2
【請求項7】
リボン幅の長さが、70mm以上250mm以下である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金リボン。
【請求項8】
冷却ロールの表面に、前記冷却ロールを下記の条件(1)~(6)を満たす研磨ブラシロールで連続的に研磨しながら、溶湯を付与する工程を有する、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンの製造方法。
(1)前記研磨ブラシロールのブラシ毛の組成:ポリアミド樹脂及び無機研磨砥粒を含有
(2)前記無機研磨砥粒の粒径:60μm~90μm
(3)前記ブラシ毛の長手方向と直交する断面の形状:直径0.7mm以上1.0mm以下の円形状
(4)前記冷却ロールに対する前記研磨ブラシロールの相対回転速度:10m/秒以上23m/秒以下
(5)前記ブラシ毛の先端部の回転方向と前記冷却ロールの回転方向とのなす角度θ:5°以上30°以下
(6)溶湯を付与する際の圧力:20kPa以上30kPa以下
【請求項9】
前記研磨ブラシロールは、更に、下記の条件(7)~(8)を満たす請求項8に記載のFe基アモルファス合金リボンの製造方法。
(7)前記研磨ブラシロールのロール径:直径120mm以上300mm以下
(8)ブラシ毛の先端部におけるブラシ毛密度:0.2本/mm以上0.45本/mm以下
【請求項10】
前記ポリアミド樹脂がナイロンである請求項8又は請求項9に記載のFe基アモルファス合金リボンの製造方法。
【請求項11】
前記ポリアミド樹脂の含有量に対する前記無機研磨砥粒の含有量の比が、質量基準で10/90~40/60である請求項8~請求項10のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金リボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄(Fe)基アモルファス合金リボン(Fe基アモルファス合金薄帯)は、変圧器の鉄心材料として普及が進みつつあり、ナノ結晶軟磁性材料も提案されるに至っている。
【0003】
ナノ結晶軟磁性材料としては、Fe基ナノ結晶合金が知られている。
Fe基ナノ結晶合金は、アモルファス合金を結晶化することにより製造される。そして、アモルファス合金のリボン(薄帯)を鋳造する場合、外周面が例えば銅(Cu)合金である冷却ロールの表面に合金溶湯を吐出し、急冷凝固させる。これにより、合金リボンが作製される。この場合、合金リボンの表面の平坦性を安定的に保つため、冷却ロールの外周面は、例えば表面粗さが0.5μm以下である平滑面に維持されるように管理されている。
【0004】
一方、上記のように冷却ロールの外周面を平滑に維持する観点から、従来から、通常冷却ロールの外周面を研磨ブラシロール等で研磨することが行われている。
すなわち、冷却ロールの表面にFe基アモルファス合金の溶湯が吐出され、冷却ロールにて急冷凝固されて合金リボンが作製され、作製された合金リボンは、冷却ロールから剥離される。ところが、剥離後にも、冷却ロールの外周面に凝固合金の一部が残留する傾向がある。冷却ロールの外周面に残留した合金は、その後に吐出されたFe基ナノ結晶合金の溶湯に対する冷却能力を損ないやすい。つまり、一般にアモルファス合金はCu合金より熱伝導率が低いため、残留したアモルファス合金が外周面に凸状に存在すると、冷却ロールの外周面に新たに吐出された溶湯に対する冷却効率が低下し、結果、作製される合金リボンが脆くなり、場合によっては冷却凝固後にアモルファス状態が保てず、一部結晶化してしまう場合がある。また、冷却面の平坦性に劣る合金リボンしか得られない場合もある。
【0005】
そのため、従来から、製造時には冷却ロールの表面に残留する凝固合金を連続的に除去するため、急冷凝固後の合金リボンを冷却ロールから剥離した後、研磨ブラシロール等により冷却ロールの幅方向を一様に研磨することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1:特開2002-316243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Fe基ナノ結晶合金用の、Fe-Si-B-Cu-Nbを組成に含むFe基アモルファス合金の溶湯は、結晶化しやすく、Cu合金に対する濡れ性が低い。そのため、既述のように冷却ロールの外周面の平滑が維持されても、溶湯が冷却ロールの外周面に吐出され、急冷凝固された際に収縮応力が生じ、急冷凝固で生じた収縮応力によって、凝固直後より合金が冷却ロールの表面から剥離(遊離)しやすい。そのため、冷却が緩慢になることで磁気特性も劣化しやすい性質を有している。
【0008】
凝固時の収縮応力は、冷却ロール上で成形される合金リボンの幅長と相関関係があるため、安定的に鋳造することができる合金リボンの幅長は、例えば50mm~60mm程度に制限され、上記のように冷却ロールの外周面を一様に研磨しても、70mm以上の広幅な合金リボンを作製する場合には、安定的な鋳造が行えない場合があった。
【0009】
本開示は、上記に鑑みたものである。
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、広幅(好ましくは幅長70mm以上;以下同じ)で磁気特性に優れたFe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンを提供することにある。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、広幅で磁気特性に優れたFe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来より行われている冷却ロールの研磨は、冷却ロールの外周面の残留合金を除去することを目的としているが、通常行われる研磨において、溶湯の急冷凝固の際に生じ得る収縮応力に伴う合金リボンの剥離(遊離)が抑えられれば、広幅の合金リボンの鋳造が可能になると考えられる。具体的には、研磨ブラシロールの条件を選択することにより、冷却ロールの外周面に合金リボンの剥離(遊離)抑制に有効な研磨傷の形成が可能になるとの着想に至った。
【0011】
上記の課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 冷却ロールの表面に付与された溶湯の冷却体である、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンであって、
冷却面であるリボン表面のリボン幅方向中央部の0.647mm×0.647mmの領域に深さ1μm以上の凹部を有し、前記深さ1μm以上の凹部の最大面積が3000μm以下である、Fe基アモルファス合金リボンである。
<2> 前記領域における、深さ1μm以上であり、かつ、面積が100μm以上である凹部の面積率が、1%以上10%未満である前記<1>に記載のFe基アモルファス合金リボンである。
<3> 前記面積率が、1%以上5%未満である前記<2>に記載のFe基アモルファス合金リボンである。
<4> 前記凹部の最大面積が、2500μm以下である前記<1>~前記<3>のいずれか1つに記載のFe基アモルファス合金リボンである。
<5> 全個数に対して60%以上の前記凹部が、下記の式1を満たす前記<1>~前記<4>のいずれか1つに記載のFe基アモルファス合金リボンである。
下記式1において、Lは、凹部の鋳造方向における長さを表し、Wは、凹部の鋳造方向と直交するリボン幅方向における幅長を表す。
0.6≦L/W≦1.8 ・・・式1
<6> 全個数に対して30%以上の前記凹部が、下記の式2を満たす前記<5>に記載のFe基アモルファス合金リボンである。
0.6≦L/W≦1.2 ・・・式2
<7> リボン幅の長さが、70mm以上250mm以下である前記<1>~前記<6>のいずれか1つに記載のFe基アモルファス合金リボンである。
【0012】
<8> 冷却ロールの表面に、前記冷却ロールを下記の条件(1)~(6)を満たす研磨ブラシロールで連続的に研磨しながら、溶湯を付与する工程を有する、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンの製造方法である。
(1)前記研磨ブラシロールのブラシ毛の組成:ポリアミド樹脂及び無機研磨砥粒を含有
(2)前記無機研磨砥粒の粒径:60μm~90μm
(3)前記ブラシ毛の長手方向と直交する断面の形状:直径0.7mm以上1.0mm以下の円形状
(4)前記冷却ロールに対する前記研磨ブラシロールの相対回転速度:10m/秒以上23m/秒以下
(5)前記ブラシ毛の先端部の回転方向と前記冷却ロールの回転方向とのなす角度θ:5°以上30°以下
(6)溶湯を付与する際の圧力(溶湯の吐出圧力):20kPa以上30kPa以下
<9> 前記研磨ブラシロールは、更に、下記の条件(7)~(8)を満たす前記<8>に記載のFe基アモルファス合金リボンの製造方法である。
(7)前記研磨ブラシロールのロール径:直径120mm以上300mm以下
(8)ブラシ毛の先端部におけるブラシ毛密度:0.2本/mm以上0.45本/mm以下
<10> 前記ポリアミド樹脂がナイロンである前記<8>又は前記<9>に記載のFe基アモルファス合金リボンの製造方法である。
<11> 前記ポリアミド樹脂の含有量に対する前記無機研磨砥粒の含有量の比が、質量基準で10/90~40/60である前記<8>~前記<10>のいずれか1つに記載のFe基アモルファス合金リボンの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、広幅(好ましくは幅長70mm以上)で磁気特性に優れたFe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンが提供される。
また、本発明の他の実施形態によれば、広幅で磁気特性に優れたFe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態に好適な、単ロール法によるFe基アモルファス合金リボン製造装置の一例を概念的に示す概略断面図である。
図2図2は、冷却ロールに対する研磨ブラシロールの位置関係を示す概略斜視図である。
図3図3は、図2の冷却ロール及び研磨ブラシロールを位置関係を示す概略正面図である。
図4図4は、磁心の一例を示す概略斜視図である。
図5図5は、実施例1のFe基アモルファス合金リボンの表面を示すSEM写真である。
図6図6は、比較例1のFe基アモルファス合金リボンの表面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示に係るFe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボン及びその製造方法について、詳細に説明する。
【0016】
本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0017】
本明細書中において、Fe基アモルファス合金リボンとは、Fe基アモルファス合金からなるリボン(薄帯)を指す。
また、本明細書中において、Fe基アモルファス合金とは、含有される金属元素の中で含有量(原子%)が最も多い元素がFe(鉄)であるアモルファス合金を指す。
【0018】
本開示に係るFe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンは、Fe基アモルファス合金リボンを結晶化させることによりFe基ナノ結晶合金を作製するためのFe基アモルファス合金リボンである。以下、本開示に係る「Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボン」を単に「Fe基アモルファス合金リボン」とも称する。
【0019】
〔Fe基アモルファス合金リボン〕
本開示に係るFe基アモルファス合金リボン(以下、単に「合金リボン」又は「リボン」ともいう。)は、製造時に冷却ロールの表面に付与された溶湯の冷却体であり、冷却ロールで冷却された冷却面であるリボン表面のリボン幅方向中央部の0.647mm×0.647mmの領域に、深さ1μm以上の凹部を有し、深さ1μm以上の凹部の最大面積を3000μm以下としたものである。
【0020】
Fe基ナノ結晶合金用の、Fe-Si-B-Cu-Nbを組成に含むFe基アモルファス合金の溶湯は、結晶化しやすく、冷却ロールに使用される銅(Cu)合金に対する濡れ性が低い性質を有するため、溶湯が冷却ロールの外周面で冷却されるにつれ、外周面から剥離しやすくなる。そうすると、冷却ロールで急冷凝固される必要がある溶湯に対する冷却が緩慢又は不足し、結果、作製される合金リボンの磁気特性の低下及び脆化等の弊害を招くことがある。このことは、作製する合金リボンの幅長(すなわち冷却ロールの軸方向の長さ)が大きくなるに伴って顕著に現れる傾向がある。
上記の事情に鑑みて、本発明の一実施形態のFe基アモルファス合金リボンでは、冷却ロールへの濡れ性が低く、広幅なリボン形態であっても、冷却ロールで急冷凝固される際に容易に剥離しにくい密着性を付与し、冷却時の急冷速度を維持する。そして、冷却面であるリボン表面のリボン幅方向中央部の0.647mm×0.647mmの領域に存在する深さ1μm以上の凹部の最大面積が3000μm以下であるものとする。
【0021】
以下に、さらに具体的に説明する。
深さ1μm以上で、かつ、最大面積3000μm以下である凹部の形成は、研磨ブラシロールの条件を適正に選択することで行うことができる。研磨ブラシロールの条件の選択により、冷却ロールの外周面に、ロール回転方向の直線的な研磨傷ではなく、ロール回転方向に対して傾斜した研磨傷を形成することができる。ロール回転方向の研磨傷の存在する場合では、細長い凹部(エアポケットという。ここで、エアとは、雰囲気ガスを意味し、ガスポケットともいう。)しか得られないのに対し、傾斜した研磨傷が存在する場合では、リボン表面に細かく分散された複数の凹部(エアポケット)が得られる。これにより、深さ1μm以上で、かつ、最大面積3000μm以下である凹部とすることができる。
また、冷却ロールの外周面に、ロール回転方向の直線的な研磨傷ではなく、ロール回転方向に対して傾斜した研磨傷を形成することにより、ロール表面へ溶湯付与時に、溶湯が研磨傷に入り込んで凝固する際、剥離を防ぐために適したアンカー効果が得られる。
また、溶湯とロール表面との間にエアが取り込まれるが、凹部(エアポケット)は細かく分散して存在するので、凹部(エアポケット)の存在で生じやすい溶湯の冷却速度の低下が抑えられている。
本開示に係るFe基アモルファス合金リボンでは、ロール面の回転方向に対して傾斜した研磨傷の存在により、凝固前に研磨傷に入り込んだ溶湯による、リボン幅方向の収縮応力で生じ得る剥離しようとする応力に対するアンカー効果が働き、剥離(遊離)が抑制されるものと推定される。
【0022】
また、研磨ブラシロールの条件を適正に選択することにより、鋳造された合金リボンの冷却面における凹部(エアポケット)の大きさ及び数を、研磨ブラシロールの条件を適正に選択しない場合に比べて、大幅に低減することができる。加えて、本開示に係るFe基アモルファス合金リボンでは、冷却面における凹部(エアポケット)の大きさ及び数が抑制されるため、リボンを巻き回した際のコアにおける占積率の向上も期待できる。
【0023】
本開示では、リボン表面に有する深さ1μm以上の凹部(エアポケット)のうち、リボン幅方向中央部の0.647mm×0.647mmの領域に存在する深さ1μm以上の凹部(エアポケット)に着目し、この領域に存在する深さ1μm以上の凹部(エアポケット)の最大面積を3000μm以下とする。
リボン表面には複数の凹部(エアポケット)が存在していてもよいが、リボンの冷却時における冷却速度はリボン幅方向中央部で最も低下しやすいと考えられるため、リボン幅方向中央部の0.647mm×0.647mmの領域(以下、「特定領域」ともいう。)に存在する凹部(エアポケット)において、最大面積を上記範囲に調整できていればよい。
ここで、リボン幅方向中央部とは、リボン幅方向の中央を含む、リボン幅の10%の幅の領域である。
【0024】
凹部(エアポケット)の深さとは、合金リボンの厚み方向における、冷却ロールと接触した冷却面からの距離(μm)を指す。また、凹部(エアポケット)の面積とは、冷却ロールと接触した冷却面を含む平面における凹部(エアポケット)の面積を指し、複数の凹部(エアポケット)が存在する場合には、冷却面を含む平面での面積が最も大きい凹部(エアポケット)の面積を最大面積とする。
凹部(エアポケット)の有無、並びに、凹部(エアポケット)の長さL、幅長W、深さ、及び凹部(エアポケット)の面積は、高分解能レーザー顕微鏡OLS4100(オリンパス株式会社製)を用いて測定されるものである。
【0025】
深さ1μm以上の凹部(エアポケット)の最大面積としては、合金溶湯の急冷時の冷却速度の低下を抑制するために、2500μm以下が好ましく、2000μm以下がより好ましい。
また、工業的生産性を確保のために、深さ1μm以上の凹部(エアポケット)の最大面積は、100μm以上が好ましい。
【0026】
特定領域に存在する深さ1μm以上である凹部(エアポケット)のうち、面積が100μm以上である凹部(エアポケット)の合計の、特定領域における面積率は、10%未満であることが好ましく、1%以上8%未満の範囲がより好ましく、1%以上5%未満の範囲がさらに好ましく、3%以上5%未満の範囲がさらに好ましい。
面積が100μm以上である凹部(エアポケット)の合計の面積率が8%未満であると、凹部に入り込んだエア(エアポケット)に起因する冷却速度の低下が抑えられ、磁気特性を良好に保ちやすい。また、面積が100μm以上である凹部(エアポケット)の面積率が1%以上であると、工業的生産性を確保できる。
【0027】
凹部の面積率は、画像解析ソフトSCANDIUM(オリンパス株式会社製)を用いて、特定領域に存在する深さ1μm以上の凹部の全ての面積を測定し、特定領域の面積に占める全ての凹部(深さ1μm以上のもの)の合計の面積の比率を計算することにより求められる。
【0028】
上記のうち、合金溶湯の急冷時の冷却速度の低下を抑制しながら、工業的生産性を確保できる点で、特定領域に存在する深さ1μm以上である凹部(エアポケット)の最大面積が2500μm以下であり、かつ、特定領域において、深さ1μm以上であって面積が100μm以上である凹部(エアポケット)の面積率が1%以上5%未満である場合が特に好ましい。
【0029】
深さ1μm以上の凹部(エアポケット)は、鋳造方向における長さL(μm)及びリボン幅方向における長さW(μm)が、下記の式1を満たしていることが好ましい。更には、凹部(エアポケット)のうち、全個数に対して60%以上の凹部(エアポケット)が、式1を満たしている態様がより好ましい。
式1を満たす凹部(エアポケット)の、全ての凹部(エアポケット)の個数に対する比率は、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。
なお、鋳造方向とは、長尺状に作製された合金リボンの長手方向を指し、リボン幅方向とは、鋳造方向と直交する短手方向を指す。
0.6≦L/W≦1.8 ・・・式1
リボンを平面視した際の凹部(エアポケット)の形状において、リボン幅方向に対する鋳造方向の長さの比が0.6以上1.8以下であると、ロール回転方向に対して傾斜した研磨傷の存在によって、鋳造時に形成される凹部(エアポケット)の大面積化が抑制され、冷却速度の低下が抑制され、磁気特性の劣化が抑制される。
【0030】
上記と同様の理由から、L/Wは、下記の式2を満たしている態様がより好ましい。更には、凹部(エアポケット)のうち、全個数に対して30%以上の凹部(エアポケット)が、式2を満たしている態様がより好ましい。
式2を満たす凹部(エアポケット)の、全ての凹部(エアポケット)の個数に対する比率は、45%以上がより好ましく、55%以上が更に好ましい。
0.6≦L/W≦1.2 ・・・式2
【0031】
本開示に係るFe基アモルファス合金リボンでは、リボン幅(リボン幅方向の幅長)が長い程好ましく、より好ましくは、70mm以上300mm以下であり、更に好ましくは100mm以上250mm以下である。このような広幅な合金リボンである場合に、冷却ロールでの剥離抑制効果が高く、磁気特性の向上効果がより奏される。したがって、本開示に係るFe基アモルファス合金リボンは、特に幅長70mm以上の広幅の合金リボンとして好適である。
また、合金リボンの幅長が70mm以上であると、大容量で実用的な変圧器が得られる。一方、合金リボンの幅長が220mm以下であると、合金リボンの生産性(製造適性)に優れる。
合金リボンの幅長としては、磁気特性と合金リボンの生産性(製造適性)の観点から、100mm以上250mm以下がより好ましく、140mm以上220mm以下が更に好ましい。
【0032】
合金リボンの厚さとしては、10μm以上26μm以下の範囲が好ましい。
厚さが10μm以上であることにより、合金リボンの機械的強度が確保され、合金リボンの破断が抑制される。これにより、合金リボンの連続鋳造が可能となる。合金リボンの厚さは、12μm以上であることが好ましい。また、厚さが26μm以下であることにより、合金リボンにおいて、安定したアモルファス状態が得られる。
合金リボンの厚さは、22μm以下であることがより好ましい。
【0033】
本開示におけるFe基アモルファス合金の組成は、含有される金属元素の中で含有量(原子%)が最も多い元素がFe(鉄)であり、Fe-Si-B-Cu-Nb系組成を有する場合が好ましい。
Fe基アモルファス合金は、少なくともFe(鉄)を含有するが、更に、Si(ケイ素)及びB(ホウ素)を含有することが好ましく、より好ましくは、Fe、Si及びBに加え、更に、銅(Cu)及びニオブ(Nb)を含有するものである。Fe基アモルファス合金は、更に、合金溶湯の原料となる純鉄等に含まれる元素である、C(炭素)を含んでいてもよい。なお、ニオブ(Nb)はモリブデン(Mo)又はバナジウム(V)に置換可能であり、鉄(Fe)の一部をニッケル(Ni)又はコバルト(Co)に置換できる。
Fe基アモルファス合金としては、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%としたときに、Feの含有量が72原子%~84原子%であり、Siの含有量が2原子%~20原子%であり、Bの含有量が5原子%~14原子%であり、Cuの含有量が0.2原子%~2原子%であり、Nbの含有量が0.1原子%~5原子%であり、C(炭素)の含有量が0.5原子%以下であり、残部が不純物からなるFe基アモルファス合金が挙げられる。
上記Feの含有量が72原子%以上であると、合金リボンの飽和磁束密度がより高くなるので、合金リボンを用いて製造される磁心のサイズの増加又は重量の増加がより抑制される。合金リボンを用いて製造される磁心の形状は、図4に示す円形状でもよいし、径方向内側空洞部分に成形用の治具(心材)を用いて、略矩形状又はレーストラック形状にすることができる。
上記Feの含有量が84原子%以下であると、合金のキュリー点の低下及び結晶化温度の低下がより抑制されるので、磁心の磁気特性の安定性がより向上する。
また、上記C(炭素)の含有量が0.5原子%以下であると、合金リボンの脆化がより抑制される。
上記C(炭素)の含有量としては、0.1原子%~0.5原子%が好ましい。より好ましいC(炭素)の含有量としては、0.15原子%~0.35原子%である。
上記C(炭素)の含有量が0.1原子%以上であると、合金溶湯及び合金リボンの生産性に優れる。
【0034】
より好ましいFe基アモルファス合金は、
(a)Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%とした場合に、Siの含有量が12原子%~18原子%であり、Bの含有量が5原子%~10原子%であり、Cuの含有量が0.8原子%~1.2原子%であり、Nbの含有量が2.0原子%~4.0原子%であり、Cの含有量が0.1原子%~0.5原子%であり、残部がFe及び不可避不純物からなるFe基アモルファス合金;
(b)Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%とした場合に、Siの含有量が14原子%~16原子%であり、Bの含有量が6原子%~9原子%であり、Cuの含有量が0.9原子%~1.1原子%であり、Nbの含有量が2.5原子%~3.5原子%であり、Cの含有量が0.15原子%~0.35原子%であり、残部がFe及び不可避不純物からなるFe基アモルファス合金
である。
【0035】
上述したFe基アモルファス合金の各々において、C(炭素)の含有量は、Fe、Si、及びBの総含有量を100原子%としたときに、0.1原子%~0.5原子%であることが好ましい。
【0036】
本開示に係る、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンは、既述のように、冷却面における特定領域に所定の凹部(エアポケット)を有し得る方法であれば、特に制限なく、公知の製造方法を選択して製造することができるが、好ましくは、以下に示す、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンの製造方法によって製造される。
【0037】
〔Fe基アモルファス合金リボンの製造方法〕
本開示に係る、Fe基ナノ結晶合金用のFe基アモルファス合金リボンの製造方法(以下、単に「Fe基アモルファス合金リボンの製造方法」ともいう。)は、冷却ロールの表面に、前記冷却ロールを下記の条件(1)~(6)を満たす研磨ブラシロールで連続的に研磨しながら、溶湯を付与する工程を有している。
(1)研磨ブラシロールのブラシ毛の組成:無機研磨砥粒/ポリアミド樹脂=30質量%/70質量%
(2)前記無機研磨砥粒の粒径:60μm~90μm
(3)研磨ブラシロールのブラシ毛の長手方向と直交する断面の形状:直径0.7mm以上1.0mm以下の円形状
(4)前記冷却ロールに対する前記研磨ブラシロールの相対速度:10m/秒以上23m/秒以下
(5)前記ブラシ毛の先端部の回転方向と前記冷却ロールの回転方向とのなす角度θ:5°以上30°以下
(6)溶湯を付与する際の圧力:20kPa以上30kPa以下
【0038】
本開示のFe基アモルファス合金リボンの製造方法では、上記の条件(1)~(6)を満たす研磨ブラシロールを用いて、ロール回転方向に対して傾斜した研磨傷が形成された冷却ロールの表面に溶湯を付与するものである。
まず、研磨ブラシロールについて説明する。
【0039】
-研磨ブラシロール-
研磨ブラシロールとしては、ロール軸部材と、多数のブラシ毛からなりロール軸部材の周囲に配置された研磨ブラシと、を有する研磨ブラシロール(例えば、図1の研磨ブラシロール60)を用いることが好ましい。
【0040】
(樹脂)
研磨ブラシを構成するブラシ毛は、ポリアミド樹脂を含有する。
ブラシ毛がポリアミド樹脂を含有することにより、冷却ロールの外周面に深い研磨傷が生じにくく、ブラシ毛の接触のさせ方によって冷却ロールの外周面に形成する研磨傷を選択することができる。これにより、合金リボンの冷却ロールからの剥離(遊離)を抑制することができる。
ポリアミド樹脂の例としては、6ナイロン、612ナイロン、66ナイロン等のナイロン樹脂が挙げられる。
【0041】
また、ブラシ毛中のポリアミド樹脂の含有量(ブラシ毛全量に対するポリアミド樹脂の含有量。以下同じ。)は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。ブラシ毛中のポリアミド樹脂の含有量が50質量%以上であると、冷却ロールの外周面に深い研磨傷が生じる現象がより抑制される。ブラシ毛中の樹脂の含有量の上限は、100質量%であってもよいが、60質量%、65質量%、75質量%、又は80質量%であってもよい。
【0042】
(無機研磨砥粒)
ブラシ毛は、上記ポリアミド樹脂に加え、無機研磨砥粒を含有する。
ブラシ毛が無機研磨砥粒を含有することにより、冷却ロールの外周面に対する研磨能力がより向上する。このため、合金リボンのアンカー効果を得るのに適した形状の研磨傷の形成を行いやすい。
【0043】
無機研磨砥粒としては、アルミナ、炭化ケイ素、等が挙げられる。
上記の条件(2)に関して、無機研磨砥粒の粒径は、40μm~120μmが好ましく、60μm~90μmがより好ましい。
ここで、「無機研磨砥粒の粒径」とは、無機研磨砥粒の粒子が通過できる篩(ふるい)のメッシュの目開きの大きさを表す。例えば、「無機研磨砥粒の粒径が60μm~90μmである」とは、無機研磨砥粒が、目開き90μmのメッシュを通過し、かつ、目開き60μmのメッシュを通過しないことを表す。
【0044】
ブラシ毛中における、前記ポリアミド樹脂の含有量に対する無機研磨砥粒の含有量の比(質量比;無機研磨砥粒/ポリアミド樹脂)は、10質量%/90質量%~40質量%/60質量%が好ましく、25質量%/75質量%~35質量%/65質量%がより好ましく、更に好ましくは、30質量%/70質量%の比率である。
無機研磨砥粒の含有量が40質量%以下であると、合金溶湯への研磨砥粒の混入がより抑制され、研磨砥粒に起因する合金リボンの欠陥が抑制される。無機研磨砥粒の含有量が10質量%以上であると、冷却ロールの外周面の研磨傷の調節が行いやすい。
【0045】
上記の条件(1)~(2)に関して、研磨ブラシロールのブラシ毛の組成としては、冷却ロールの外周面の研磨傷の調節が行いやすい点で、無機研磨砥粒が炭化ケイ素であり、ポリアミド樹脂がナイロン(好ましくは612ナイロン)であり、炭化ケイ素/ナイロン=30質量%/70質量%であり、かつ、無機研磨砥粒の粒径が60μm~90μmである場合が特に好ましい。
【0046】
上記の条件(3)に関して、研磨ブラシロールのブラシ毛の長手方向と直交する断面の形状は、円形状とされ、円形状には、真円形及び楕円形が含まれる。また、ブラシ毛の円形断面の直径は、0.7mm以上1.2mm以下であり、0.8mm以上1.0mm以下が好ましい。
【0047】
上記の条件(1)~(6)以外の条件として、ブラシ毛は、先端部におけるブラシ毛密度が0.2本/mm以上0.45本/mm以下であることが好ましく、0.27本/mm以上0.40本/mm以下であることがより好ましい。
ブラシ毛の密度が0.2本/mm以上であると、冷却ロールの外周面に対する研磨能力がより向上し、外周面に微小な研磨傷を形成し易い。また、ブラシ毛密度が0.45本/mm以下であると、研磨時の摩擦熱の放熱性に優れる。
【0048】
上記の条件(1)~(6)以外の条件として、研磨ブラシロールのロール径は、直径で120mm以上300mm以下の範囲が好ましく、130mm以上250mm以下の範囲がより好ましく、140mm以上200mm以下の範囲が更に好ましい。
なお、研磨ブラシロールの軸方向長さについては、製造する合金リボンの幅に合わせて適宜設定することができる。
【0049】
-研磨ブラシロールによる冷却ロールの外周面の研磨条件-
次に、冷却ロールの外周面の研磨条件について説明する。
上記の条件(4)に関して、冷却ロールに対する研磨ブラシロールの相対速度は、10m/秒以上23m/秒以下である。
相対速度が10m/秒以上であると、冷却ロールの外周面に対する研磨能力がより向上し、研磨により外周面に微小な凹凸を形成し易くなる。また、相対速度が23m/秒以下であると、研磨時の摩擦熱低減の点で有利である。
相対速度としては、12m/秒~23m/秒がより好ましく、13m/秒~20m/秒が更に好ましい。
【0050】
ここで、冷却ロールに対する研磨ブラシロールの相対速度は、研磨ブラシロールの回転方向と、冷却ロールの回転方向と、が互いに反対方向である場合(例えば図1の場合)、研磨ブラシロールの回転速度(絶対値)と冷却ロールの回転速度(絶対値)との差の絶対値を意味する。この場合、冷却ロールの外周面とブラシ毛とが接触する接触部分では、冷却ロールの外周面の特定の地点と、研磨ブラシロールの特定のブラシ毛と、が同一方向に移動する。
一方、冷却ロールに対する研磨ブラシロールの相対速度は、研磨ブラシロールの回転方向と、冷却ロールの回転方向と、が同一方向である場合、研磨ブラシロールの回転速度(絶対値)と冷却ロールの回転速度(絶対値)との合計を意味する。
【0051】
上記の条件(5)に関して、研磨ブラシロールのブラシ毛の先端部の回転方向と、冷却ロールの回転方向と、のなす角度θは、5°以上30°以下である。
例えば図2図3に示すように冷却ロールと研磨ブラシロールとが配置されていてもよい。すなわち、冷却ロール30と研磨ブラシロール60とは、互いの回転方向が角度θをなす位置関係で配置されている。この場合、研磨ブラシロール60は、冷却ロール30の回転方向Pに対して、研磨ブラシロールの外周に沿って付設されているブラシ毛の先端部の回転方向Rが、角度θをなし、角度θを5°以上30°以下に調節されている。
ここで、ブラシ毛の先端部の回転方向Rは、例えば図3のように、円盤状の研磨ブラシロールの円形の主面を含む平面の面方向を指す。
【0052】
角度θを設けることで、冷却ロールの外周面に、ロール回転方向Pに沿った直線的な研磨傷ではなく、ロール回転方向Pに対して傾斜した研磨傷を形成することができる。傾斜した研磨傷が形成されることにより、溶湯が付与されて急冷凝固して合金リボンを作製する際、リボン表面に分散された複数の凹部(エアポケット)を形成することができる。つまり、角度θが5°以上であることで、リボン表面に分散された複数の凹部(エアポケット)が偏ることなく、均一に形成される。また、角度θが30°以下であると、冷却ロール外周面の回転軸方向(合金リボン幅)全域に渡って研磨傷の形成が容易となるため有利である。
研磨ブラシロールのブラシ毛の先端部の回転方向Rと冷却ロールの回転方向とのなす角度(図2図3中の角度θ)としては、10°以上25°以下が好ましく、12°以上20°以下がより好ましい。
従来、研磨ブラシロールの回転方向(図3中の矢印方向A)は、冷却ロールの回転方向Pと平行であるのが通常であったが、本発明の一実施形態のように、冷却ロールの回転方向Pと平行な矢印方向Aから研磨ブラシロールの回転方向を角度θ傾斜させた場合、冷却ロールの表面と接触しない状態では、ブラシ毛の先端の動きはブラシロール軸の回転方向と同一であるが、冷却ロールとブラシ毛の先端部とが接した状態では、ブラシ毛は、ブラシ毛の先端部の回転方向Rと、冷却ロールの回転方向Pと、がなす角度θを中心とした角度で回転方向Pに対して傾斜した研磨傷が冷却ロールの表面に形成する。
そして、本開示のFe基アモルファス合金リボンの製造方法では、合金リボンが鋳造される冷却ロールの外周面の任意の位置での鉛直方向(時間に対して一定方向)に対して、略直線形状のブラシ毛の長手方向が、一致せず、また、平行ともならず、前記鉛直方向とブラシ毛の長手方向とは角度(5°以上30°以下の範囲の角度)をなし、かつ、この角度は周期的に時間変化させることができる。より詳細に説明すると、冷却ロールからみた場合、研磨ブラシロールの回転速度に応じて、研磨ブラシロールの回転方向を±θの角度範囲で周期的に傾斜を変化させることができる。
なお、周期的に時間変化するため、前記鉛直方向とブラシ毛の長手方向とが一時的に一致したり平行になること場合があることは許容される。
【0053】
冷却ロールの表面に形成される研磨傷の深さとしては、1μm~2μmの範囲が好ましい。
【0054】
冷却ロールの外周面に対するブラシ毛(研磨ブラシ)の押し込み量は、適宜調整されるが、例えば1mm~10mmとすることができる。
【0055】
上記の条件(6)に関して、溶湯を付与する際の圧力(溶湯の吐出圧力)は、20kPa~30kPaの範囲であり、23kPa~28kPaが好ましく、25kPa~28kPaがより好ましい。
溶湯の吐出圧力が20kPa以上であると、凹部(エアポケット)の形成が抑制され、より効率良く冷却が行える。これにより、合金組織に粗大な結晶粒が生成しにくく、良好な磁気特性(B800)が得られる。また、溶湯の吐出圧力が30kPa以下であると、パドル(溶湯溜まり)の形状が安定し、安定した鋳造が可能となる点で有利である。
【0056】
溶湯ノズルの先端と冷却ロールの外周面との距離は、0.1mm~0.4mmが好ましく、0.1mm~0.3mmがより好ましい。
【0057】
本開示のFe基アモルファス合金リボンの製造方法を図面を参照して更に説明する。
図1は、単ロール法によるFe基アモルファス合金リボン製造装置の一例を概念的に示す概略断面図であり、合金リボン製造装置を、冷却ロール30の軸方向及び合金リボンの幅方向に対して垂直な面で切断した場合の切断面を示している。ここで、合金リボン22Cは、本発明の一実施形態のFe基アモルファス合金リボンの一例である。また、冷却ロール30の軸方向と合金リボン22Cの幅方向とは同一方向である。
【0058】
図1に示すように、Fe基アモルファス合金リボン製造装置である合金リボン製造装置100は、溶湯ノズル10を備えた坩堝20と、その外周面が溶湯ノズル10の先端に対向する冷却ロール30と、を備えている。
【0059】
坩堝20は、合金リボン22Cの原料となる合金溶湯22Aを収容しうる内部空間を有しており、この内部空間と溶湯ノズル10内の溶湯流路とが連通されている。これにより、坩堝20内に収容された合金溶湯22Aを、溶湯ノズル10によって冷却ロール30に吐出できるようになっている(図1では、合金溶湯22Aの吐出方向及び流通方向を矢印Qで示している)。なお、坩堝20及び溶湯ノズル10は、一体に構成されたものであってもよいし、別体として構成されたものであってもよい。
坩堝20の周囲の少なくとも一部には、加熱手段としての高周波コイル40が配置されている。これにより、合金リボンの母合金が収容された状態の坩堝20を加熱して坩堝20内で合金溶湯22Aを生成したり、外部から坩堝20に供給された合金溶湯22Aの液体状態を維持できるようになっている。
【0060】
また、溶湯ノズル10は、合金溶湯を矢印Qの方向へ吐出するための開口部(吐出口)を有している。
この開口部は、矩形(スリット形状)の開口部とすることが好適である。
【0061】
溶湯ノズル10の先端と冷却ロール30の外周面との距離(最近接距離)は、溶湯ノズル10によって合金溶湯22Aを吐出したときに、パドル22B(溶湯溜まり)が形成される程度に近接している。
【0062】
冷却ロール30は、回転方向Pの方向に軸回転する。
冷却ロール30の内部には水等の冷却媒体が流通されており、冷却ロール30の外周面に形成された合金溶湯の塗膜を冷却できるようになっている。合金溶湯の塗膜を冷却することにより、合金リボン22C(Fe基アモルファス合金リボン)が生成される。
冷却ロール30の材質としては、Cu及びCu合金(Cu-Be合金、Cu-Cr合金、Cu-Zr合金、Cu-Cr-Zr合金、Cu-Ni合金、Cu-Ni-Si合金、Cu-Ni-Si-Cr合金、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金、Cu-Ti合金等)が挙げられ、熱伝導性が高い点で、Cu合金が好ましく、Cu-Be合金、Cu-Cr-Zr合金、Cu-Ni合金、Cu-Ni-Si合金、又はCu-Ni-Si-Cr合金がより好ましい。
冷却ロール30外周面の表面粗さには特に限定はないが、冷却ロール30外周面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1μm~0.5μmが好ましく、0.1μm~0.3μmがより好ましい。冷却ロール30外周面の算術平均粗さRaが0.5μm以下であると、合金リボンを用いて変圧器を製造する際の占積率がより向上する。冷却ロール30外周面の算術平均粗さRaが0.1μm以上であると、Raの調整がより容易である。
算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2001に準拠して測定された表面粗さを指す。
冷却ロール30の直径は、冷却能の観点から、200mm~1000mmが好ましく、300mm~800mmがより好ましい。
また、冷却ロール30の回転速度は、単ロール法において通常設定される範囲とすることができるが、周速10m/s~40m/sが好ましく、周速20m/s~30m/sがより好ましい。
【0063】
合金リボン製造装置100は、更に、溶湯ノズル10よりも冷却ロール30の回転方向の下流側(以下、単に「下流側」ともいう)に、冷却ロールの外周面からFe基アモルファス合金リボンを剥離する剥離手段として、剥離ガスノズル50を備えている。
本一例では、剥離ガスノズル50から、冷却ロール30の回転方向Pとは逆向き(図1中の破線の矢印の方向)に剥離ガスを吹きつけることによって、冷却ロール30から合金リボン22Cを剥離する。剥離ガスとしては、例えば、窒素ガスや圧縮空気等の高圧ガスを用いることができる。
【0064】
合金リボン製造装置100は、更に、剥離ガスノズル50よりも下流側に、冷却ロール30の外周面を研磨するための研磨手段として、研磨ブラシロール60を備えている。
研磨ブラシロール60は、ロール軸部材61と、ロール軸部材61の周囲に配置された研磨ブラシ62と、を含む。研磨ブラシ62は、多数のブラシ毛から構成される。
研磨ブラシロール60は、回転方向Rの方向に軸回転することにより、その研磨ブラシ62のブラシ毛によって冷却ロール30の外周面を研磨する。
上記研磨手段(例えば研磨ブラシロール60)による研磨の目的は、必ずしも冷却ロールの外周面を削ることには限定されず、冷却ロールの外周面に残留した残留物を除去することも含まれる。研磨の目的は、下記の第1の目的及び第2の目的の少なくとも一方であることが好ましい。
【0065】
第1の目的は、冷却ロール外周面の平滑性の劣化を修復することである。詳細には、合金溶湯と冷却ロール外周面とが最初に接触する際、冷却ロール外周面(例えばCu合金)のごく一部が合金溶湯中に溶解し、冷却ロール外周面に微小な凹部(脱落部分)が形成されることにより、冷却ロール外周面の平滑性が劣化する場合がある。冷却ロール外周面の平滑性の劣化は、製造される合金リボンのロール面(冷却ロール外周面に接触していた面。以下、同じ。)の平滑性の劣化の原因となり得る。冷却ロール外周面の平滑性が劣化した場合においても、上記研磨により、上記微小な凹部(脱落部分)に対して相対的に凸部となっている部分(即ち、溶解が抑制された部分)をほぼ均等に除去することにより、冷却ロール外周面の平滑性の劣化を修復できる。その結果、冷却ロール外周面の平滑性の劣化に起因する、合金リボンのロール面の平滑性の劣化を抑制できる。
第2の目的は、合金リボン剥離後の冷却ロール外周面に残留した残留物(合金)を除去することである。冷却ロール外周面に吐出された合金溶湯は、急速に冷却されて合金リボンを形成し、その後、冷却ロール外周面から剥離される。このとき、合金リボンの材質である合金の一部が、冷却ロール外周面から剥離されずに残留物として残留し、この残留物が冷却ロール外周面に固着して凸部を形成する場合がある。合金リボンの鋳造は連続して行われるため、上記残留物による凸部が形成された冷却ロール外周面に対し、再度合金溶湯が吐出される。その結果、製造される合金リボンのロール面において、上記凸部に対応する位置に凹部が形成され、合金リボンのロール面の平滑性が劣化する場合がある。また、上記凸部を構成する残留物(合金)の熱伝導性が冷却ロール外周面(例えばCu合金)の熱伝導性よりも低い場合には、上記凸部において、冷却ロールによる急冷特性が局所的に劣化し、合金リボンの磁気特性が低下するおそれがある。合金リボン剥離後の冷却ロール外周面に上記残留物が残留した場合においても、上記研磨により、上記残留物を除去することができる。その結果、上記残留物に起因する、合金リボンのロール面の平滑性の劣化を抑制できる。また、上記残留物に起因する、合金リボンの磁気特性の低下を抑制できる。
【0066】
また、この一例では、図1に示すように、研磨ブラシロールの回転方向Rと冷却ロールの回転方向Pとが反対方向となっている(図1において、回転方向Rは左回り、回転方向Pは右回り)。ここで、冷却ロールと研磨ブラシロールとは、図2図3に示す位置関係を有して配置されており、冷却ロール及び研磨ブラシロールの回転方向を装置の正面からみた場合、研磨ブラシロールの回転方向Rと冷却ロールの回転方向Pとは、角度θ(=5°以上30°以下)を有している。
研磨ブラシロールの回転方向と冷却ロールの回転方向とが反対方向である場合、両者の接触部分では、冷却ロールの外周面の特定の地点と、研磨ブラシロールの特定のブラシ毛と、が同一方向に移動する。
本実施形態は、この一例とは異なり、研磨ブラシロールの回転方向と冷却ロールの回転方向とが同一方向であってもよい。研磨ブラシロールの回転方向と冷却ロールの回転方向とが同一方向である場合、両者の接触部分では、冷却ロールの外周面の特定の地点と、研磨ブラシロールの特定のブラシ毛と、が反対方向に移動する。
【0067】
合金リボン製造装置100は、上述した要素以外のその他の要素(例えば、製造された合金リボン22Cを巻き取る巻き取りロール、合金溶湯によるパドル22B又はその近傍にCOガスやNガス等を吹き付けるガスノズル等)を備えていてもよい。
その他、合金リボン製造装置100の基本的な構成は、従来の単ロール法によるアモルファス合金リボン製造装置(例えば、国際公開第2012/102379号、特許第3494371号公報、特許第3594123号公報、特許第4244123号公報、特許第4529106号公報等参照)と同様の構成とすることができる。
【0068】
次に、合金リボン製造装置100を用いた合金リボン22Cの製造方法の一例について説明する。
まず、坩堝20に、合金リボン22Cの原料となる合金溶湯22Aを準備する。合金溶湯22Aの温度は、合金の組成を考慮して適宜設定されるが、例えば1210℃~1410℃、好ましくは1280℃~1400℃である。
次に、回転方向Pに軸回転する冷却ロール30の外周面に、溶湯ノズル10によって合金溶湯を吐出し、パドル22Bを形成しながら合金溶湯による塗膜を形成する。形成された塗膜を冷却ロール30の外周面で冷却し、外周面上に合金リボン22Cを形成する。次に、冷却ロール30の外周面に形成された合金リボン22Cを、剥離ガスノズル50からの剥離ガスの吹きつけによって冷却ロール30の外周面から剥離し、不図示の巻き取りロールによってロール状に巻き取って回収する。
一方、合金リボン22Cが剥離した後の冷却ロール30の外周面は、回転方向Rに軸回転する研磨ブラシロール60の研磨ブラシ62によって研磨される。研磨された冷却ロール30の外周面に対し、再び合金溶湯が吐出される。
以上の動作が繰り返されることにより、長尺状の合金リボン22Cが連続的に製造(鋳造)される。
【0069】
上記一例に係る製造方法により、本実施形態のFe基アモルファス合金リボンの一例である、合金リボン22Cが製造される。合金リボン22Cの厚さは、10μm~26μmである。
【0070】
以下、製造方法の一例の好ましい範囲について説明する。
【実施例
【0071】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0072】
〔実施例1~5〕
<Fe基アモルファス合金リボンの作製>
図1に示す合金リボン製造装置100と同様の合金リボン製造装置を準備した。
冷却ロールとしては、外周面の材質がCu-Ni合金であり、直径が400mmであり、外周面の算術平均粗さRaが0.3μmである冷却ロールを用いた。研磨ブラシロールについては後記する。
【0073】
まず、坩堝内で、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物からなる合金溶湯(以下、「Fe-Si-B-Cu-Nb系合金溶湯」ともいう。)を調製した。具体的には、純鉄、フェロシリコン、及びフェロボロンを混合して溶解させ、Fe、Si、B、Cu、Nb、C及び不可避不純物の総含有量を100原子%としたときに、Siの含有量が15原子%であり、Bの含有量が7原子%であり、Cuの含有量が1原子%であり、Nbの含有量が3原子%であり、Cの含有量が0.2原子%であり、残部がFe及び不可避不純物からなる合金溶湯を調製した。
原子%の数値は、溶湯から合金の一部を採取して、ICP発光分光分析法により測定された量である。
【0074】
次に、このFe-Si-B-Cu-Nb系合金溶湯を、長辺の長さ142mm×短辺の長さ0.5mmの矩形(スリット形状)の開口部を有する溶湯ノズルの該開口部から、回転する冷却ロールの外周面に吐出し、急冷凝固させて、リボン幅142mm、厚さ18μmのアモルファス合金リボンを3000kg作製(鋳造)した。鋳造時間は80分であり、合金リボンが切れることなく連続して鋳造された。なお、全ての実施例において、合金リボンは切れることなく連続して鋳造された。
上記鋳造は、冷却ロール外周面を研磨ブラシロールの研磨ブラシ(ブラシ毛)によって研磨しながら行った。研磨は、図2図3に示すように、冷却ロールの回転方向Pが研磨ブラシロールの回転方向Rに対して角度θの傾斜をもって配置された研磨ブラシロールのブラシ毛を、冷却ロール外周面に接触させて行った。合金溶湯は、研磨された冷却ロールの外周面に対して吐出し、幅長142mmのFe基アモルファス合金リボンを作製した(図1参照)。
【0075】
以下に、鋳造の詳細な条件を示す。
-鋳造条件-
合金溶湯温度:1300℃
冷却ロールの周速:25m/s
合金溶湯の吐出圧力:20kPa~30kPaの範囲内で調整
溶湯ノズル先端と冷却ロールの外周面との距離(ギャップ):0.15mm~0.35mmの範囲内で調整
【0076】
-研磨ブラシロール及び研磨の条件-
(1)ブラシ毛の組成:樹脂である612ナイロン(70質量%)及び無機研磨砥粒である炭化ケイ素(30質量%)を含む
(2)ブラシ毛(研磨ブラシ)中の炭化ケイ素の粒径:60μm~90μm
(3)ブラシ毛の長手方向と直交する断面の形状:直径0.8mmの円形状
(4)冷却ロールに対する研磨ブラシの相対速度:11m/s~23m/sの範囲で調整
(5)ブラシ毛の先端部の回転方向と前記冷却ロールの回転方向とのなす角度θ:15°
研磨ブラシロールの回転方向と冷却ロールの回転方向との関係:反対方向
(接触部分では、冷却ロールの外周面の特定の地点とブラシ毛とが同一方向に移動)
(6)研磨ブラシロールのロール径(直径):150mm
研磨ブラシロールの軸方向の長さ:300mm
(7)ブラシ毛の先端部におけるブラシ毛密度:0.27本/mm
【0077】
上記において、実施例2~5では、実施例1に対して、溶湯の吐出圧力を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、幅長142mmのFe基アモルファス合金リボンを作製した。
【0078】
(比較例1)
実施例1において、溶湯の吐出圧力を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、幅長142mmのFe基アモルファス合金リボンを作製した。
【0079】
(比較例2)
実施例1において、溶湯の吐出圧力を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、幅長142mmのFe基アモルファス合金リボンを作製した。
【0080】
(比較例3)
実施例1において、ブラシ毛の先端部の回転方向と前記冷却ロールの回転方向とのなす角度θを15°から0°に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、幅長142mmのFe基アモルファス合金リボンを作製した。
【0081】
(比較例4)
実施例4において、ブラシ毛の先端部の回転方向と前記冷却ロールの回転方向とのなす角度θを15°から0°に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、幅長142mmのFe基アモルファス合金リボンを作製した。
【0082】
<凹部(エアポケット)の測定>
冷却ロールで急冷凝固された合金リボンを巻き取り、Fe基アモルファス合金リボンを作製した。作製したFe基アモルファス合金リボンの冷却面(冷却ロール接触面)の幅方向中央部における0.647mm×0.647mmの領域に存在する凹部(エアポケット)を、高分解能レーザー顕微鏡OLS4100(オリンパス株式会社製)を用いて測定した。測定の結果、いずれのFe基アモルファス合金リボンも、深さ1μm以上の凹部(エアポケット)を有していることを確認した。更に、凹部(エアポケット)の長さL、幅長W及び深さ、深さ1μm以上の凹部(エアポケット)の最大面積、並びに面積率を求めた。
また、実施例1の合金リボンの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5に、比較例1の合金リボンのSEM写真を図6に示す。
【0083】
<磁心の作製>
上記で作製した幅142mmのFe基アモルファス合金リボンを、幅方向両端部を5mmを除いて、幅33mmに切断(スリット)し、4枚を重ねた4重のリボンとした。その後、図4に示すように、合金リボンを、外径19mm及び内径15mmのサイズになるように巻き回し、トロイダル形状の巻き回体とした。最外周部分は、最外周リボン端部から約1~2mmの位置に、幅方向で1、2箇所をスポット溶接により固定した。得られた巻き回体をナノ結晶化させるため、以下の熱処理を行い、磁心を作製した。
熱処理は、窒素雰囲気中で室温(例えば20℃)から550℃まで4時間かけて昇温し、550℃で20分保持した後、2時間かけて100℃以下まで冷却した。
【0084】
<磁束密度の測定>
上記のようにして作製した磁心をプラスチック製の収納ケースに収納した後、収納ケースの外側に直径0.5mmの絶縁被覆導線を一次巻線10ターン、二次巻線10ターンを巻き、直流磁化測定装置SK110(メトロン技研株式会社製)を用いて、磁場強度800A/mでの磁束密度B800(T)を求めた。結果を下記表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示すように、実施例1~5では、B800は1.18T以上であり、優れた数値である。広幅な合金リボンでありながら、B800の低下は認められない。これは、冷却ロールの表面での冷却不十分な状態での剥離ないし遊離が抑制され、合金リボン溶湯が、冷却ロール上に吐出、凝固された後、十分冷却された後、リボンが剥離できていると推測される。つまり、冷却速度が十分であるため、冷却ロールで鋳造後の合金リボンは、安定したアモルファス(非晶質)であると推測される。
実施例1~5では、幅長が70mm以上の広幅なリボンでありながら、磁束密度B800が、幅長が50mm~60mmの従来より用いられている狭幅なリボンで作製された磁心に対して遜色のない同等の結果が得られた。
また、比較例1の合金リボンでは、図6に示すように、表面に細長い凹部(エアポケットを称する)が形成されている状態がみられるのに対して、実施例1の合金リボンの表面を示す図5では、表面に散在した複数の凹部(エアポケット)が形成されていることがわかる。
【0087】
凹部(エアポケット)は、合金溶湯が、冷却ロールと接触する際に、界面に巻き込まれる空気や雰囲気ガスであると考えられている。一般に、凹部(エアポケット)が大きく、また数が多いと、空気やガスは熱伝導率が低いため、合金溶湯の冷却ロール上での冷却が不十分になる傾向がある。
実施例では、凹部の面積が小さく、また面積率が小さいため、磁気特性B800が優れている。
他方、比較例でB800の値が低いのは、上記凹部(エアポケット)部分での冷却が不十分となり、合金組織の一部に粗大な結晶粒が生成し、磁気特性B800を劣化させていると推測される。この点において、冷却ロールで鋳造した後の合金リボンが安定したアモルファス(非晶質)である実施例と異なる。
なお、粗大結晶粒による磁気特性の劣化は、ナノ結晶化のための熱処理によっても改善されない。
【0088】
2017年3月31日に出願された米国仮出願62/479,330の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6