(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】滑り止め加工剤、滑り止め加工された繊維加工品、及び滑り止め加工された繊維加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20220726BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20220726BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20220726BHJP
C08F 283/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C09K3/14 540F
D06M15/564
D06M15/263
C08F283/00
(21)【出願番号】P 2020527686
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025854
(87)【国際公開番号】W WO2020004628
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2018124172
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】前 学志
(72)【発明者】
【氏名】田中 基巳
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-144107(JP,A)
【文献】特開2006-150274(JP,A)
【文献】特表2010-515839(JP,A)
【文献】特開2018-111893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
D06M 10/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
下記方法で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ下記方法で求めた静摩擦係数が0.6以上であ
り、
ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
(せん断接着強度の求め方)
シェニール基布(ポリエステル製マイクロファイバーのシェニール織物、70mm×50mm)の裏面に、滑り止め加工剤を、前記シェニール基布の単位面積当たりの前記滑り止め加工剤に含まれる重合体成分の付着量が35g/m
2となるようにハンドスプレーを用いて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して得られた滑り止め加工されたシェニール基布を、滑り止め加工面を下にしてABS樹脂基材(90mm×50mm×厚さ3mm)の上に接着面が50mm×50mmとなるように重ね、前記滑り止め加工されたシェニール基布の上側から6.86N(700g)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度40℃で24時間静置し、さらに雰囲気温度23℃で3時間静置して接着された前記滑り止め加工されたシェニール基布と前記ABS樹脂基材とを、引張測定装置を用い、雰囲気温度23℃、試験速度100mm/分にて、前記滑り止め加工されたシェニール基布の下端と前記ABS樹脂基材の上端とを接着面に平行に引張り、このときの最大荷重をせん断接着強度とする。
(静摩擦係数の求め方)
シェニール基布(ポリエステル製マイクロファイバーのシェニール織物、70mm×50mm)の裏面に、滑り止め加工剤を、前記シェニール基布の単位面積当たりの前記滑り止め加工剤に含まれる重合体成分の付着量が35g/m
2となるようにハンドスプレーを用いて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して得られた滑り止め加工されたシェニール基布を、滑り止め加工面を下にして、表面に水を32mg/cm
2となるように霧吹きで吹き付けた水平なステンレス鋼板(JIS規格のSUS304 No.2B)の上に配置し、前記滑り止め加工されたシェニール基布の上側から26.46N(2.7kg)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度23℃にて前記滑り止め加工されたシェニール基布を、ばね式手秤を用いて前記ステンレス鋼板に対して平行に引いて静摩擦力を測定し、前記静摩擦力を法線力で除して静摩擦係数を求める。
【請求項2】
繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
下記方法で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ下記方法で求めた水接触角が80°以上であ
り、
ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
(せん断接着強度の求め方)
シェニール基布(ポリエステル製マイクロファイバーのシェニール織物、70mm×50mm)の裏面に、滑り止め加工剤を、前記シェニール基布の単位面積当たりの前記滑り止め加工剤に含まれる重合体成分の付着量が35g/m
2となるようにハンドスプレーを用いて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して得られた滑り止め加工されたシェニール基布を、滑り止め加工面を下にしてABS樹脂基材(90mm×50mm×厚さ3mm)の上に接着面が50mm×50mmとなるように重ね、前記滑り止め加工されたシェニール基布の上側から6.86N(700g)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度40℃で24時間静置し、さらに雰囲気温度23℃で3時間静置して接着された前記滑り止め加工されたシェニール基布と前記ABS樹脂基材とを、引張測定装置を用い、雰囲気温度23℃、試験速度100mm/分にて、前記滑り止め加工されたシェニール基布の下端と前記ABS樹脂基材の上端とを接着面に平行に引張り、このときの最大荷重をせん断接着強度とする。
(水接触角の求め方)
ガラス板(120mm×120×厚さ2mm)の表面に、滑り止め加工剤を、4milのアプリケーターにて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して形成された塗膜の表面に、雰囲気温度23℃にて、1μLの水滴を付着させ、5秒後の水接触角を測定する。
【請求項3】
前記滑り止め加工剤が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した重合体粒子とを含む水性分散液であり、
前記重合体粒子が、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなる、請求項1又は2記載の滑り止め加工剤。
【請求項4】
繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
前記滑り止め加工剤が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した重合体粒子とを含む水性分散液であり、
前記重合体粒子が、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなり、
下記方法で求めた静摩擦係数が0.6以上であ
り、
ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
(静摩擦係数の求め方)
シェニール基布(ポリエステル製マイクロファイバーのシェニール織物、70mm×50mm)の裏面に、滑り止め加工剤を、前記シェニール基布の単位面積当たりの前記滑り止め加工剤に含まれる重合体成分の付着量が35g/m
2となるようにハンドスプレーを用いて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して得られた滑り止め加工されたシェニール基布を、滑り止め加工面を下にして、表面に水を32mg/cm
2となるように霧吹きで吹き付けた水平なステンレス鋼板(JIS規格のSUS304 No.2B)の上に配置し、前記滑り止め加工されたシェニール基布の上側から26.46N(2.7kg)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度23℃にて前記滑り止め加工されたシェニール基布を、ばね式手秤を用いて前記ステンレス鋼板に対して平行に引いて静摩擦力を測定し、前記静摩擦力を法線力で除して静摩擦係数を求める。
【請求項5】
繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
前記滑り止め加工剤が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した重合体粒子とを含む水性分散液であり、
前記重合体粒子が、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなり、
下記方法で求めた水接触角が80°以上であ
り、
ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
(水接触角の求め方)
ガラス板(120mm×120×厚さ2mm)の表面に、滑り止め加工剤を、4milのアプリケーターにて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して形成された塗膜の表面に、雰囲気温度23℃にて、1μLの水滴を付着させ、5秒後の水接触角を測定する。
【請求項6】
前記ウレタン重合体が結晶性を有する、請求項3~5のいずれか一項に記載の滑り止め加工剤。
【請求項7】
前記アクリル重合体のガラス転移温度が-10℃以下である、請求項3~6のいずれか一項に記載の滑り止め加工剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の滑り止め加工剤によって滑り止め加工された、滑り止め加工された繊維加工品。
【請求項9】
下記方法で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ下記方法で求めた静摩擦係数が0.6以上であ
り、
ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む滑り止め加工剤で滑り止め加工された繊維加工品。
(せん断接着強度の求め方)
滑り止め加工された繊維加工品(70mm×50mm)を、滑り止め加工面を下にしてABS樹脂基材(90mm×50mm×厚さ3mm)の上に接着面が50mm×50mmとなるように重ね、前記滑り止め加工された繊維加工品の上側から6.86N(700g)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度40℃で24時間静置し、さらに雰囲気温度23℃で3時間静置して接着された前記滑り止め加工された繊維加工品と前記ABS樹脂基材とを、引張測定装置を用い、雰囲気温度23℃、試験速度100mm/分にて、前記滑り止め加工された繊維加工品の下端と前記ABS樹脂基材の上端とを接着面に平行に引張り、このときの最大荷重をせん断接着強度とする。
(静摩擦係数の求め方)
滑り止め加工された繊維加工品(70mm×50mm)を、滑り止め加工面を下にして、表面に水を32mg/cm
2となるように霧吹きで吹き付けた水平なステンレス鋼板(JIS規格のSUS304No.2B)の上に配置し、前記滑り止め加工された繊維加工品の上側から26.46N(2.7kg)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度23℃にて前記滑り止め加工された繊維加工品を、ばね式手秤を用いて前記ステンレス鋼板に対して平行に引いて静摩擦力を測定し、前記静摩擦力を法線力で除して静摩擦係数を求める。
【請求項10】
下記方法で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ下記方法で求めた水接触角が80°以上であ
り、
ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む滑り止め加工剤で滑り止め加工された繊維加工品。
(せん断接着強度の求め方)
滑り止め加工された繊維加工品(70mm×50mm)を、滑り止め加工面を下にしてABS樹脂基材(90mm×50mm×厚さ3mm)の上に接着面が50mm×50mmとなるように重ね、前記滑り止め加工された繊維加工品の上側から6.86N(700g)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度40℃で24時間静置し、さらに雰囲気温度23℃で3時間静置して接着された前記滑り止め加工された繊維加工品と前記ABS樹脂基材とを、引張測定装置を用い、雰囲気温度23℃、試験速度100mm/分にて、前記滑り止め加工された繊維加工品の下端と前記ABS樹脂基材の上端とを接着面に平行に引張り、このときの最大荷重をせん断接着強度とする。
(水接触角の求め方)
滑り止め加工された繊維加工品の滑り止め加工面に、雰囲気温度23℃にて、1μLの水滴を付着させ、5秒後の水接触角を測定する。
【請求項11】
ウレタン重合体及びアクリル重合体が付着している、請求項9又は10に記載の滑り止め加工された繊維加工品。
【請求項12】
前記滑り止め加工された繊維加工品の単位面積当たりの前記ウレタン重合体の付着量と前記アクリル重合体の付着量との合計が3~500g/m
2である、請求項11に記載の滑り止め加工された繊維加工品。
【請求項13】
滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品を得るために、請求項1~7のいずれか一項に記載の滑り止め加工剤を、繊維加工品に塗布し、
前記滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品を乾燥することを含む、滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
【請求項14】
前記繊維加工品の単位面積当たりの前記滑り止め加工剤の塗布量が10~1000g/m
2である、請求項13に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
【請求項15】
前記滑り止め加工剤の前記繊維加工品への塗布がスプレーコートにより行われる、請求項13又は14に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
【請求項16】
繊維製品への滑り止め加工剤の噴霧を含む滑り止め加工された繊維加工品の製造方法であって、
前記繊維製品は、下記条件A及び下記条件Bのいずれか一方又は両方を満たし、
下記方法で求めた前記噴霧における霧化した前記滑り止め加工剤の乾燥粒径が150μm未満であ
り、
ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む滑り止め加工剤で滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
(条件A)
5cm×5cmの大きさに切断した前記繊維製品を脱イオン水に2分間浸漬し、吸水した脱イオン水の量を計量し、前記繊維製品1m
2あたりの吸水量に換算した吸水量Aが、1000g/m
2以上である。
(条件B)
3gの大きさに切断した前記繊維製品を脱イオン水に2分間浸漬し、吸水した脱イオン水の量を計量し、前記繊維製品1gあたりの吸水量に換算した吸水量Bが、5g/g以上である。
(乾燥粒径の求め方)
霧化した前記滑り止め加工剤を清浄なガラス基板上に霧化滴が重ならないように付着させ、120℃で5分間乾燥させて得られた乾燥した霧化滴200個の粒径を光学顕微鏡にて測定し平均値を求める。
【請求項17】
前記滑り止め加工剤が水性分散体である、請求項16に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
【請求項18】
前記滑り止め加工剤がウレタン重合体又はアクリル重合体を含む水性分散体である、請求項17に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
【請求項19】
前記繊維製品がシェニール織物である、請求項16~18のいずれか一項に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
【請求項20】
繊維製品への滑り止め加工剤の前記噴霧が、スプレーコートにより行われる、請求項16~19のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止め加工剤、滑り止め加工された繊維加工品、及び滑り止め加工された繊維加工品の製造方法に関する。
本願は、2018年6月29日に日本に出願された特願2018-124172号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
敷物(玄関マット、キッチンマット、ラグ、カーペット、テーブルクロス、ランチョンマット等)等の繊維加工品においては、繊維加工品に触れた際に、繊維加工品が滑って転びそうになったり、繊維加工品の位置がずれたりすることを防止するために、繊維加工品の裏面が滑り止め加工剤によって滑り止め加工されることがある。
【0003】
滑り止め加工剤の中でも、水性媒体に重合体成分が分散した水性の滑り止め加工剤は、多様な加工寸法、多様な形態に容易に対応でき、有機溶剤をほとんど含まないことから、幅広い用途への展開が期待される。
【0004】
水性樹脂を含む滑り止め加工剤としては、下記のものが提案されている。
(1)架橋構造を有するウレタン樹脂を含む、敷物裏打ち用水性樹脂組成物(特許文献1)。
(2)カルボニル基含有アクリル系共重合体、有機ヒドラジン誘導体、及び熱膨張性カプセル粒子を含む水性分散液(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-106896号公報
【文献】特開2009-66782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脱衣所、台所等の、水で床が濡れることがある場所で用いられるマット等については、濡れた床に対しても滑らないことが求められる。
(1)の敷物裏打ち用水性樹脂組成物によって滑り止め加工された繊維加工品は、裏面が非粘着性で床等を汚しにくい。しかし、濡れた床等に対する滑り止め性が十分でなく、用途が限られる。
(2)の水性分散液によって滑り止め加工された繊維加工品は、乾燥した床等に対する滑り止め性に優れる。しかし、濡れた床等に対する滑り止め性が十分でなく、また、床等に対する非粘着性に劣り、用途が限られる。
【0007】
本発明は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品とその製造方法、ならびに濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた、滑り止め加工された繊維加工品を得ることができる滑り止め加工剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
後記「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ後記「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上であり、ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
[2]繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
後記「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ後記「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上であり、ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
[3]前記滑り止め加工剤が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した重合体粒子とを含む水性分散液であり、
前記重合体粒子が、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなる、[1]又は[2]記載の滑り止め加工剤。
[4]繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
前記滑り止め加工剤が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した重合体粒子とを含む水性分散液であり、
前記重合体粒子が、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなり、
後記「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上であり、ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
[5]繊維加工品に滑り止め性を付与するための滑り止め加工剤であり、
前記滑り止め加工剤が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した重合体粒子とを含む水性分散液であり、
前記重合体粒子が、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなり、
後記「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上であり、ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む、滑り止め加工剤。
(水接触角の求め方)
ガラス板(120mm×120×厚さ2mm)の表面に、滑り止め加工剤を、4milのアプリケーターにて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して形成された塗膜の表面に、雰囲気温度23℃にて、1μLの水滴を付着させ、5秒後の水接触角を測定する。
[6]前記ウレタン重合体が結晶性を有する、[3]~[5]のいずれかに記載の滑り止め加工剤。
[7]前記アクリル重合体のガラス転移温度が-10℃以下である、[3]~[6]のいずれかに記載の滑り止め加工剤。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の滑り止め加工剤によって滑り止め加工された、滑り止め加工された繊維加工品。
[9]後記「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ後記「静摩擦係数の求め方II」で求めた静摩擦係数が0.6以上であり、ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む滑り止め加工剤で滑り止め加工された繊維加工品。
[10]後記「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ後記「水接触角の求め方II」で求めた水接触角が80°以上であり、ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む滑り止め加工剤で滑り止め加工された繊維加工品。
[11]ウレタン重合体及びアクリル重合体が付着している、[9]又は[10]に記載の滑り止め加工された繊維加工品。
[12]前記滑り止め加工された繊維加工品の単位面積当たりの前記ウレタン重合体の付着量と前記アクリル重合体の付着量との合計が3~500g/m2である、[11]に記載の滑り止め加工された繊維加工品。
[13]滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品を得るために、[1]~[7]のいずれかに記載の滑り止め加工剤を、繊維加工品に塗布し、
前記滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品を乾燥することを含む、滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
[14]前記繊維加工品の単位面積当たりの前記滑り止め加工剤の塗布量が10~1000g/m2である、[13]に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
[15]前記滑り止め加工剤の前記繊維加工品への塗布がスプレーコートにより行われる、[13]又は[14]に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
[16]繊維製品への滑り止め加工剤の噴霧を含む滑り止め加工された繊維加工品の製造方法であって、
前記繊維製品は、下記条件A及び下記条件Bのいずれか一方又は両方を満たし、
下記方法で求めた前記噴霧における霧化した前記滑り止め加工剤の乾燥粒径が150μm未満であり、ウレタン重合体及び、質量平均分子量が5万~500万であり、ジアセトンアクリルアミドの単独重合体又は共重合体であるアクリル重合体の複合体を含む滑り止め加工剤で滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
(条件A)
5cm×5cmの大きさに切断した前記繊維製品を脱イオン水に2分間浸漬し、吸水した脱イオン水の量を計量し、前記繊維製品1m2あたりの吸水量に換算した吸水量Aが、1000g/m2以上である。
(条件B)
3gの大きさに切断した前記繊維製品を脱イオン水に2分間浸漬し、吸水した脱イオン水の量を計量し、前記繊維製品1gあたりの吸水量に換算した吸水量Bが、5g/g以上である。
(乾燥粒径の求め方)
霧化した前記滑り止め加工剤を清浄なガラス基板上に霧化滴が重ならないように付着させ、120℃で5分間乾燥させて得られた乾燥した霧化滴200個の粒径を光学顕微鏡にて測定し平均値を求める。
[17]前記滑り止め加工剤が水性分散体である、[16]に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
[18]前記滑り止め加工剤がウレタン重合体又はアクリル重合体を含む水性分散体である、[17]に記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
[19]前記繊維製品がシェニール織物である、[16]~[18]のいずれかに記載の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法。
[20]繊維製品への滑り止め加工剤の前記噴霧が、スプレーコートにより行われる、[16]~[19]のいずれかに記載の製造方法。
【0009】
(せん断接着強度の求め方I)
シェニール基布(ポリエステル製マイクロファイバーのシェニール織物、70mm×50mm)の裏面に、滑り止め加工剤を、シェニール基布の単位面積当たりの滑り止め加工剤に含まれる重合体成分の付着量が35g/m2となるようにハンドスプレーを用いて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して得られた滑り止め加工されたシェニール基布を、滑り止め加工面を下にしてABS樹脂基材(90mm×50mm×厚さ3mm)の上に接着面が50mm×50mmとなるように重ね、滑り止め加工されたシェニール基布の上側から6.86N(700g)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度40℃で24時間静置し、さらに雰囲気温度23℃で3時間静置して接着された滑り止め加工されたシェニール基布とABS樹脂基材とを、引張測定装置を用い、雰囲気温度23℃、試験速度100mm/分にて、滑り止め加工されたシェニール基布の下端とABS樹脂基材の上端とを接着面に平行に引張り、このときの最大荷重をせん断接着強度とする。
【0010】
(静摩擦係数の求め方I)
シェニール基布(ポリエステル製マイクロファイバーのシェニール織物、70mm×50mm)の裏面に、滑り止め加工剤を、シェニール基布の単位面積当たりの滑り止め加工剤に含まれる重合体成分の付着量が35g/m2となるようにハンドスプレーを用いて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して得られた滑り止め加工されたシェニール基布を、滑り止め加工面を下にして、表面に水を32mg/cm2となるように霧吹きで吹き付けた水平なステンレス鋼板(JIS規格のSUS304 No.2B)の上に配置し、滑り止め加工されたシェニール基布の上側から26.46N(2.7kg)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度23℃にて滑り止め加工されたシェニール基布を、ばね式手秤を用いてステンレス鋼板に対して平行に引いて静摩擦力を測定し、静摩擦力を法線力で除して静摩擦係数を求める。
【0011】
(水接触角の求め方I)
ガラス板(120mm×120×厚さ2mm)の表面に、滑り止め加工剤を、4milのアプリケーターにて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥して形成された塗膜の表面に、雰囲気温度23℃にて、1μLの水滴を付着させ、5秒後の水接触角を測定する。
【0012】
(せん断接着強度の求め方II)
滑り止め加工された繊維加工品(70mm×50mm)を、滑り止め加工面を下にしてABS樹脂基材(90mm×50mm×厚さ3mm)の上に接着面が50mm×50mmとなるように重ね、滑り止め加工された繊維加工品の上側から6.86N(700g)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度40℃で24時間静置し、さらに雰囲気温度23℃で3時間静置して接着された滑り止め加工された繊維加工品とABS樹脂基材とを、引張測定装置を用い、雰囲気温度23℃、試験速度100mm/分にて、滑り止め加工された繊維加工品の下端とABS樹脂基材の上端とを接着面に平行に引張り、このときの最大荷重をせん断接着強度とする。
【0013】
(静摩擦係数の求め方II)
滑り止め加工された繊維加工品(70mm×50mm)を、滑り止め加工面を下にして、表面に水を32mg/cm2となるように霧吹きで吹き付けた水平なステンレス鋼板(JIS規格のSUS304 No.2B)の上に配置し、滑り止め加工された繊維加工品の上側から26.46N(2.7kg)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度23℃にて滑り止め加工された繊維加工品を、ばね式手秤を用いてステンレス鋼板に対して平行に引いて静摩擦力を測定し、静摩擦力を法線力で除して静摩擦係数を求める。
【0014】
(水接触角の求め方II)
滑り止め加工された繊維加工品の滑り止め加工面に、雰囲気温度23℃にて、1μLの水滴を付着させ、5秒後の水接触角を測定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の滑り止め加工剤によれば、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品を得ることができる。
本発明の滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れ、幅広い用途に利用できる。
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法によれば、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れ、幅広い用途に利用できる滑り止め加工された繊維加工品を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書における「粘度」は、B型粘度計を用い、25℃に調温したサンプルを回転数60rpmの条件で測定した値である。
本明細書における「固形分」は、サンプル1gを105℃の乾燥機にて2時間乾燥した残分から求めた値である。
本明細書における「質量平均分子量」は、重合体を溶媒に溶解し、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーを用いて分子量を測定し、ポリスチレン換算によって求めた値である。
【0017】
本明細書における「結晶性を有するウレタン重合体」は、示差走査熱量測定(DSC)において吸熱ピークが観測されるウレタン重合体である。吸熱ピークは、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を用い、0.005~0.01gの試料をアルミニウム製パンに精秤し、昇温速度10℃/minで、0℃から200℃まで昇温したときのDSC曲線で確認できる。
【0018】
本明細書における「ガラス転移温度」(以下、「Tg」とも記す。)は、ポリマーハンドブック[Polymer HandBook(J.Brandrup、Interscience、1989)]に記載されているモノマーのホモポリマーのTg値を用いてFOXの式から算出した値である。ポリマーハンドブックに記載がない場合、モノマーのホモポリマーのTg値は、モノマー製造企業のカタログに記載の値を採用し、カタログにも記載がない場合は、JIS K 7121:1987に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)で求めた中間点ガラス転移温度を採用する。
本明細書における「平均粒子径」は、光子相関法による粒子径分布測定装置(例えば、大塚電子社製の濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000)を用いて室温下にて測定し、キュムラント解析によって算出した散乱光強度基準による調和平均粒子径である。
【0019】
本明細書における「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの総称である。
本明細書における「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0020】
本明細書における「重合体成分」は、滑り止め加工剤に含まれる、縮合重合体(ウレタン重合体等)、付加重合体(アクリル重合体等)等の樹脂成分である。
【0021】
本明細書及び請求の範囲において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0022】
<<滑り止め加工剤>>
本発明の滑り止め加工剤は、繊維加工品に滑り止め性を付与するためのものである。
本発明の滑り止め加工剤によって繊維加工品の裏面及び表面のいずれか一方又は両方を滑り止め加工することによって、繊維加工品に触れた際に、繊維加工品が滑って転びそうになったり、繊維加工品の位置がずれたりすることを防止できる。
【0023】
本発明の滑り止め加工剤としては、水性媒体に重合体成分が分散している水性分散液、有機溶媒に重合体成分が溶解している重合体溶液等が挙げられ、加工場において空気環境を汚染しない点から、水性分散液が好ましい。
【0024】
滑り止め加工剤の粘度は、10~100000mPa・sが好ましい。
滑り止め加工剤の粘度が前記下限値以上であれば、滑り止め加工剤が繊維加工品に染み込みにくく、滑り止め性が発現されやすい。滑り止め加工剤の粘度が前記上限値以下であれば、繊維加工品の滑り止め加工方法が限定されにくい。
【0025】
滑り止め加工剤の固形分は、10~60質量%が好ましい。
滑り止め加工剤の固形分が前記下限値以上であれば、繊維加工品に塗布した後の滑り止め加工剤の乾燥が速い。滑り止め加工剤の固形分が前記上限値以下であれば、繊維加工品の滑り止め加工方法が限定されにくい。
【0026】
<滑り止め加工剤の第1の態様>
本発明の滑り止め加工剤の第1の態様は、上述した「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となるものであり、かつ上述した「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上となるものである。
【0027】
「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された繊維加工品の床等に対する非粘着性に優れ、長期間の使用においても床等を汚しにくい。せん断接着強度は、12N未満が好ましい。
【0028】
「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性に優れる。また、「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.7以上となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された面積の小さな繊維加工品においても濡れた床等に対する十分な滑り止め性を発揮する。静摩擦係数は0.85以上がより好ましい。
【0029】
「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となるものであり、かつ「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上となるものである滑り止め加工剤としては、例えば、後述する水性分散液Xが挙げられる。
【0030】
以上説明した本発明の滑り止め加工剤の第1の態様にあっては、「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となるものであり、かつ「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上となるものであるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品を得ることができる。また、これらの滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0031】
<滑り止め加工剤の第2の態様>
本発明の滑り止め加工剤の第2の態様は、上述した「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となるものであり、かつ上述した「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上となるものである。
【0032】
「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された繊維加工品の床等に対する非粘着性に優れ、長期間の使用においても床等を汚しにくい。せん断接着強度は、12N未満が好ましい。
【0033】
「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性に優れる。水接触角は、85以上が好ましい。
【0034】
「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となるものであり、かつ「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上となるものである滑り止め加工剤としては、例えば、後述する水性分散液Xが挙げられる。
【0035】
以上説明した本発明の滑り止め加工剤の第2の態様にあっては、「せん断接着強度の求め方I」で求めたせん断接着強度が15N未満となるものであり、かつ「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上となるものであるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品を得ることができる。また、これらの滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0036】
<滑り止め加工剤の第3の態様>
本発明の滑り止め加工剤の第3の態様は、後述する水性分散液Xであり、かつ上述した「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上となるものである。
【0037】
後述する水性分散液Xによれば、滑り止め加工された繊維加工品の滑り止め性と非粘着性のバランスに優れる。
【0038】
「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性に優れる。また、「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.7以上となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された面積の小さな繊維加工品においても濡れた床等に対する十分な滑り止め性を発揮する。静摩擦係数は0.85以上がより好ましい。
【0039】
以上説明した本発明の滑り止め加工剤の第3の態様にあっては、後述する水性分散液Xであり、かつ「静摩擦係数の求め方I」で求めた静摩擦係数が0.6以上となるものであるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品を得ることができる。また、これらの滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0040】
<滑り止め加工剤の第4の態様>
本発明の滑り止め加工剤の第3の態様は、後述する水性分散液Xであり、かつ上述した「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上となるものである。
【0041】
後述する水性分散液Xによれば、滑り止め加工された繊維加工品の滑り止め性と非粘着性のバランスに優れる。
【0042】
「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上となる滑り止め加工剤によれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性に優れる。水接触角は、85°以上が好ましい。
【0043】
以上説明した本発明の滑り止め加工剤の第4の態様にあっては、後述する水性分散液Xであり、かつ「水接触角の求め方I」で求めた水接触角が80°以上となるものであるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品を得ることができる。また、これらの滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0044】
<水性分散液X>
水性分散液Xは、水性媒体と、水性媒体に分散した重合体粒子とを含む。
水性分散液Xは、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて水性媒体及び重合体粒子以外の成分(以下、「他の成分」とも記す。)をさらに含んでいてもよい。
【0045】
(水性媒体)
水性媒体は、重合体粒子の分散媒となるものであり、水を含む。
水性媒体は、水のみからなるものであってもよく、水と水溶性有機溶媒とからなるものであってもよい。
水溶性有機溶媒としては、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、グリコールエーテル(ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)等が挙げられる。
【0046】
VOC低減の観点から、水性媒体としては水のみが好ましいが、水溶性有機溶媒を含んでもよい。水性媒体が水溶性有機溶媒を含む場合、水性媒体に占める水溶性有機溶媒の含有割合は、0質量%を超え20質量%以下が好ましく、0質量%を超え10質量%以下がより好ましい。
水性媒体が水溶性有機溶媒を含む場合、水溶性有機溶媒としては、アルコール系溶媒またはグリコール系溶媒等が好ましい。
【0047】
(重合体粒子)
重合体粒子は、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなる。特に、重合体粒子は、水性媒体に分散しうる、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなる。
【0048】
複合体は、例えば、ウレタン重合体の存在下に(メタ)アクリル系単量体を含むラジカル重合性単量体を重合して得られるものであってよい。ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなる重合体粒子は、滑り止め性と非粘着性のバランスに優れる。
【0049】
重合体粒子を構成する複合体は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じてウレタン重合体及びアクリル重合体以外の成分をさらに含んでいてもよい。
【0050】
ウレタン重合体及びアクリル重合体の合計のうち、アクリル重合体の割合は、10質量%以上90質量%未満が好ましい。
アクリル重合体の割合が前記下限値以上であれば、重合体粒子による滑り止め性がさらに優れる。アクリル重合体の割合が前記上限値未満であれば、重合体粒子による非粘着性がさらに優れる。また、滑り止め加工された繊維加工品の耐洗濯性に優れる。
【0051】
(ウレタン重合体)
ウレタン重合体は、多価アルコールと多価イソシアネートとを反応させて得られる樹脂である。
【0052】
多価アルコールは、1分子中に2つ以上のヒドロキシ基を有する有機化合物である。
多価アルコールとしては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0053】
・低分子量ジオール:エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等。
・3つ以上のヒドロキシ基を有する低分子量ポリオール:グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等。
・ポリエーテルジオール:ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、低分子量ジオールの少なくとも一種とエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等とを付加重合させて得られるポリエーテルジオール等。
・低分子量ジオールの少なくとも一種とジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)とを重縮合して得られるポリエステルジオール。
・他の多価アルコール:ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンジオール、水添ポリブタジエンジオール、ポリアクリル酸エステルジオール等。
【0054】
多価アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
多価アルコールは、滑り止め加工剤から形成される塗膜の柔軟性を高くする点からは、ポリエーテルジオールを含むことが好ましい。多価アルコールは、非粘着性を高くする点からは、ポリカーボネートジオールを含むことが好ましい。
【0055】
多価イソシアネートは、1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する有機化合物である。
多価イソシアネートとしては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0056】
・脂肪族多価イソシアネート:1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等。
・脂環式多価イソシアネート:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート等。
・芳香族多価イソシアネート:2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート等。
【0057】
多価イソシアネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
多価イソシアネートとしては、ウレタン重合体が黄変しにくい点から、脂肪族多価イソシアネート又は脂環式多価イソシアネートが好ましい。
【0058】
ウレタン重合体の質量平均分子量は、後述する重合体粒子の製造の際にラジカル重合性単量体の反応性が向上する点から、500以上が好ましく、1000以上がより好ましい。ウレタン重合体の質量平均分子量は、滑り止め加工された繊維加工品の耐久性の点から、50万以下が好ましく、10万以下がより好ましい。例えば、ウレタン重合体の質量平均分子量は、500~50万が好ましく、1000~10万がより好ましい。
【0059】
ウレタン重合体としては、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性に優れる点から、結晶性を有するウレタン重合体が好ましい。
結晶性を有するウレタン重合体としては、原料多価アルコールとしてポリエステルジオールを用いたものが挙げられる。
【0060】
ウレタン重合体の製造方法としては、例えば、ジオキサン等のエーテル中で、多価アルコールと多価イソシアネートとを、ジブチル錫ジラウレート等の触媒を用いて反応させる方法が挙げられる。
【0061】
(アクリル重合体)
アクリル重合体は、(メタ)アクリル系単量体を含むラジカル重合性単量体を重合してなる重合体である。
アクリル重合体は、(メタ)アクリル系単量体の1種からなる単独重合体であってもよく、(メタ)アクリル系単量体の2種以上からなる共重合体であってもよく、(メタ)アクリル系単量体と他のラジカル重合性単量体との共重合体であってもよい。
【0062】
(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0063】
・炭素原子数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等。
・ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート:2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等。
・ポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレート:ヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド-プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド-ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド-テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド-ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド-テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ(ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシ(ポリエチレンオキシド-プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート等。
・オキシラン基含有(メタ)アクリレート:グリシジル(メタ)アクリレート等。
・ヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレート:p-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、o-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等。
・ラクトン変性ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート:プラクセル(登録商標。以下同様。)FM1(商品名、ダイセル社製)、プラクセルFM2(商品名、ダイセル社製)等。
・アミノアルキル(メタ)アクリレート:2-アミノエチル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等。
・アミド基含有(メタ)アクリル系単量体:(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等。
・カルボキシ基含有(メタ)アクリル系単量体:(メタ)アクリル酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等。
・多官能(メタ)アクリレート:エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等。
・金属含有(メタ)アクリル系単量体:ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛等。
・耐紫外線基含有(メタ)アクリレート:2-(2’-ヒドロキシ-5’-(メタ)アクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、1-(メタ)アクリロイル-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(メタ)アクリロイル-4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(メタ)アクリロイル-4-アミノ-4-シアノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等。
・他の(メタ)アクリル系単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0064】
他のラジカル重合性単量体としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0065】
・芳香族ビニル系単量体:スチレン、メチルスチレン等。
・共役ジエン系単量体:1,3-ブタジエン、イソプレン等。
・他のラジカル重合性単量体:酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸等。
【0066】
アクリル重合体の質量平均分子量は、5万~500万が好ましい。
アクリル重合体の質量平均分子量は、滑り止め加工された繊維加工品の耐久性の点から、10万以上がより好ましい。
アクリル重合体の質量平均分子量は、滑り止め加工剤の成膜性の点から、400万以下がより好ましい。
【0067】
アクリル重合体のTgは、-10℃以下が好ましく、-60~-20℃がより好ましい。
アクリル重合体のTgが前記下限値以上であれば、滑り止め加工された繊維加工品の非粘着性がさらに優れる。アクリル重合体のTgが前記上限値以下であれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性がさらに優れる。
【0068】
(他の成分)
水性分散液Xが含んでもよい他の成分としては、添加剤、他のエマルション樹脂、水溶性樹脂等が挙げられる。
【0069】
添加剤としては、界面活性剤、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、防腐剤、可塑剤、造膜助剤、粘性制御剤、硬化剤等が挙げられる。
他のエマルション樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。
硬化剤としては、メラミン類、イソシアネート類等が挙げられる。
【0070】
(水性分散液Xの製造)
水性分散液Xは、例えば、下記の方法によって製造できる。
・ウレタン重合体水分散液中のウレタン重合体粒子に(メタ)アクリル系単量体を含むラジカル重合性単量体を含浸させてラジカル重合し、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなる重合体粒子を形成する方法。
・(メタ)アクリル系単量体を含むラジカル重合性単量体、多価アルコール及び多価イソシアネートの混合液中で多価アルコールと多価イソシアネートとを反応させてウレタン重合体を形成し、混合液を水に分散し、ラジカル重合性単量体をラジカル重合し、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなる重合体粒子を形成する方法。
【0071】
ウレタン重合体水分散液は、ウレタン重合体を水に分散させたものである。ウレタン重合体の水への分散性を高めるために、ウレタン重合体にカルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方を導入することが好ましい。特に、ウレタン重合体にスルホン酸基を導入すると、ラジカル重合性単量体の重合安定性が向上する。また、ウレタン重合体を界面活性剤によって乳化してもよい。
【0072】
ウレタン重合体水分散液中のウレタン重合体粒子の平均粒子径は、最終的に得られる重合体粒子の粒子径が適切なものになり、また、得られる塗膜の物性が向上する点から、10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上がさらに好ましい。ウレタン重合体水分散液中のウレタン重合体粒子の平均粒子径は、ウレタン重合体水分散液の安定性の点から、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましい。
例えば、ウレタン重合体水分散液中のウレタン重合体粒子の平均粒子径は、10~1000nmが好ましく、30~500nmがより好ましく、40~300nmがさらに好ましい。
【0073】
ウレタン重合体水分散液中のウレタン重合体の含有量は、水性分散液Xからなる滑り止め加工剤の固形分濃度を10~60質量%の範囲に容易に調整できる点から、10質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。ウレタン重合体水分散液中のウレタン重合体の含有量は、水性分散液Xからなる滑り止め加工剤が良好な塗工性を発現する点から、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
例えば、ウレタン重合体水分散液中のウレタン重合体の含有量は、10~70質量%が好ましく、25~60質量%がより好ましい。
【0074】
ウレタン重合体水分散液は、市販のウレタン重合体水分散液(ポリウレタンディスパージョン:PUD)をそのまま用いてもよい。市販のウレタン重合体水分散液としては、例えば、下記のものが挙げられる。
・第一工業製薬社製:スーパーフレックス(登録商標。以下同様。)110、スーパーフレックス150、スーパーフレックス210、スーパーフレックス300、スーパーフレックス420、スーパーフレックス460、スーパーフレックス470、スーパーフレックス500M、スーパーフレックス620、スーパーフレックス650、スーパーフレックス740、スーパーフレックス820、スーパーフレックス840、F-8082D。
・住化コベストロウレタン社製:バイヒドロール(登録商標。以下同様。)UH2606、バイヒドロールUH650、バイヒドロールUHXP2648、バイヒドロールUHXP2650、インプラニールDLE、インプラニールDLC-F、インプラニールDLN、インプラニールDLP-R、インプラニールDLS、インプラニールDLU、インプラニールXP2611、インプラニールLPRSC1380、インプラニールLPRSC1537、インプラニールLPRSC1554、インプラニールDL3040、ディスパコール(登録商標。以下同様。)U53。
・DIC社製:ハイドラン(登録商標。以下同様。)HW-301、HW-310、HW-311、HW-312B、HW-333、HW-340、HW-350、HW-375、HW-920、HW-930、HW-940、HW-950、HW-970、AP-10、AP-20、ECOS3000。
・三洋化成工業社製:ユーコート(登録商標。以下同様。)UWS-145、パーマリン(登録商標。以下同様。)UA-150、パーマリンUA-200、パーマリンUA-300、パーマリンUA-310、ユーコートUX-320、パーマリンUA-368、パーマリンUA-385、ユーコートUX-2510。
・日華化学社製:ネオステッカー(登録商標。以下同様。)100C、エバファノール(登録商標。以下同様。)HA-107C、エバファノールHA-50C、エバファノールHA-170、エバファノールHA-560。
・ADEKA社製:アデカボンタイター(登録商標。以下同様。)UHX-210、アデカボンタイターUHX-280等。
【0075】
ウレタン重合体水分散液は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
ラジカル重合性単量体の重合に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、下記のものが挙げられる。
・過硫酸塩:過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等。
・油溶性アゾ化合物:アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等。
・水溶性アゾ化合物:2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]及びその塩類、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)及びその塩類、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}及びその塩類、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等。
・有機過酸化物:過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等。
【0077】
ラジカル重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性単量体の総量100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、重合の進行や反応の制御を考慮に入れると、0.02~5質量部が好ましい。
【0078】
アクリル重合体の分子量を調整するために分子量調整剤を用いてもよい。分子量調整剤としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0079】
メルカプタン類:n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン等。
ハロゲン化合物:四塩化炭素、臭化エチレン等。
公知の連鎖移動剤:α-メチルスチレンダイマー等。
【0080】
分子量調整剤の添加量は、ラジカル重合性単量体の総量100質量部に対して、通常1質量部以下である。
【0081】
(作用機序)
以上説明した水性分散液Xにあっては、水性媒体と、水性媒体に分散した重合体粒子とを含み、重合体粒子が、ウレタン重合体及びアクリル重合体を含む複合体からなるため、水性分散液Xからなる滑り止め加工剤によって繊維加工品を滑り止め加工した際に形成される塗膜において、ウレタン重合体及びアクリル重合体が均一に存在する。その結果、アクリル重合体による滑り止め性と、ウレタン重合体による非粘着性の両方が十分に発揮されることになる。
【0082】
<<滑り止め加工された繊維加工品>>
本発明の滑り止め加工された繊維加工品は、裏面及び表面のいずれか一方又は両方が滑り止め加工された繊維加工品である。
【0083】
繊維加工品は、繊維を加工した布帛を有する物品である。繊維加工品は、布帛以外の材料(樹脂フィルム、樹脂成形品、紙、木材、金属、ガラス等)をさらに有していてもよい。
【0084】
繊維としては、天然繊維、合成繊維等が挙げられる。合成繊維の材料としては、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が挙げられる。
布帛としては、織物、編物、不織布、組物、これらを組み合わせたもの等が挙げられる。織物は、経糸と緯糸とを交差させて織り込んだものである。編物は、糸でループを作り、そのループに次の糸を引っ掛けて連続してループを作ることによって面を形成した編地である。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせてシート状にしたものである。組物は、2本の糸を斜めに織り込んだものである。
【0085】
繊維加工品としては、例えば、敷物(家庭用、業務用、車載用のマット類等)、衣類(手袋、靴下等)等が挙げられる。
【0086】
<滑り止め加工された繊維加工品の第1の態様>
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第1の態様は、本発明の滑り止め加工剤の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様のうち、いずれかの滑り止め加工剤によって滑り止め加工された繊維加工品である。滑り止め加工の方法については、後述する。
【0087】
以上説明した本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第1の態様にあっては、本発明の滑り止め加工剤の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様のうち、いずれかの滑り止め加工剤によって滑り止め加工されたものであるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れる。また、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0088】
<滑り止め加工された繊維加工品の第2の態様>
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第2の態様は、上述した「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ上述した「静摩擦係数の求め方II」で求めた静摩擦係数が0.6以上である。
【0089】
「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満である滑り止め加工された繊維加工品は、床等に対する非粘着性に優れ、長期間の使用においても床等を汚しにくい。せん断接着強度は、12N未満が好ましい。
【0090】
「静摩擦係数の求め方II」で求めた静摩擦係数が0.6以上である滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性に優れる。また、「静摩擦係数の求め方II」で求めた静摩擦係数が0.7以上である滑り止めされた繊維加工品は、滑り止め加工された面積の小さな繊維加工品においても濡れた床等に対する十分な滑り止め性を発揮する。静摩擦係数は0.85以上がより好ましい。
【0091】
「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ「静摩擦係数の求め方II」で求めた静摩擦係数が0.6以上である滑り止め加工された繊維加工品としては、例えば、ウレタン重合体及びアクリル重合体が付着している繊維加工品が挙げられる。
ウレタン重合体及びアクリル重合体が付着している繊維加工品は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じてウレタン重合体及びアクリル重合体以外の他の成分がさらに付着したものであってもよい。
【0092】
ウレタン重合体としては、水性分散液Xにおいて説明したウレタン重合体と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
アクリル重合体としては、水性分散液Xにおいて説明したアクリル重合体と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
他の成分としては、水性分散液Xにおいて説明した他の成分と同様のものが挙げられる。
【0093】
ウレタン重合体及びアクリル重合体が付着している繊維加工品においては、滑り止め加工された繊維加工品の単位面積当たりのウレタン重合体の付着量とアクリル重合体の付着量との合計は、3~500g/m2が好ましく、30~400g/m2がより好ましく、50~200g/m2がさらに好ましい。
ウレタン重合体の付着量とアクリル重合体の付着量との合計が前記下限値以上であれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性がさらに優れる。また、滑り止め加工された繊維加工品の耐洗濯性に優れる。ウレタン重合体の付着量とアクリル重合体の付着量との合計が前記上限値以下であれば、滑り止め加工された繊維加工品の風合いに優れる。
【0094】
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第2の態様は、例えば、本発明の滑り止め加工剤の第1の態様によって繊維加工品を滑り止め加工することによって製造できる。滑り止め加工の方法については、後述する。
【0095】
以上説明した本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第2の態様にあっては、「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ「静摩擦係数の求め方II」で求めた静摩擦係数が0.6以上であるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れる。また、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0096】
<滑り止め加工された繊維加工品の第3の態様>
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第3の態様は、上述した「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ上述した「水接触角の求め方II」で求めた水接触角が80°以上である。
【0097】
「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満である滑り止め加工された繊維加工品は、床等に対する非粘着性に優れ、長期間の使用においても床等を汚しにくい。せん断接着強度は、12N未満が好ましい。
【0098】
「水接触角の求め方II」で求めた水接触角が80°以上である滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性に優れる。水接触角は、85°以上が好ましい。
【0099】
「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ「水接触角の求め方II」で求めた水接触角が80°以上である滑り止め加工された繊維加工品としては、例えば、ウレタン重合体及びアクリル重合体が付着している繊維加工品が挙げられる。
ウレタン重合体及びアクリル重合体が付着している繊維加工品としては、滑り止め加工された繊維加工品の第2の態様で説明したものと同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0100】
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第3の態様は、例えば、本発明の滑り止め加工剤の第2の態様によって繊維加工品を滑り止め加工することによって製造できる。滑り止め加工の方法については、後述する。
【0101】
以上説明した本発明の滑り止め加工された繊維加工品の第3の態様にあっては、「せん断接着強度の求め方II」で求めたせん断接着強度が15N未満であり、かつ「水接触角の求め方II」で求めた水接触角が80°以上であるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れる。また、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0102】
<<滑り止め加工された繊維加工品の製造方法>>
<滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第1の態様>
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第1の態様は、本発明の滑り止め加工剤の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様のうち、いずれかの滑り止め加工剤を、繊維加工品に塗布し、乾燥する方法である。
より具体的には、本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第1の態様は、滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品を得るために、本発明の滑り止め加工剤の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様のうち、いずれかの滑り止め加工剤を繊維加工品に塗布し、滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品を乾燥することを含む方法である。
【0103】
滑り止め加工剤の繊維加工品への塗布方法としては、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等が挙げられる。滑り止め加工剤の繊維加工品への塗布方法としては、連続生産ラインで、大きさの制約なしで塗布できる点から、スプレーコート法が好ましい。スプレーコート法は、滑り止め加工剤を、エアスプレーを用いて噴霧することによって行われてもよい。
【0104】
繊維加工品の単位面積当たりの滑り止め加工剤の塗布量は、10~1000g/m2が好ましく、20~800g/m2がより好ましく、100~300g/m2がさらに好ましい。
滑り止め加工剤の塗布量が前記下限値以上であれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性がさらに優れる。また、滑り止め加工された繊維加工品の耐洗濯性に優れる。滑り止め加工剤の塗布量が前記上限値以下であれば、滑り止め加工された繊維加工品の非粘着性がさらに優れる。
【0105】
滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品を乾燥することによって、滑り止め加工剤に含まれる水、有機溶媒等の媒体を除去する。
滑り止め加工剤が塗布された繊維加工品の乾燥は、常温で行ってもよく、加熱によって行ってもよい。加熱する場合、加熱温度は、50~300℃が好ましい。また、加熱する場合、加熱時間は、0.1~60分間が好ましい。
【0106】
以上説明した本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第1の態様にあっては、本発明の滑り止め加工剤の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様のうち、いずれかの滑り止め加工剤を、繊維加工品に塗布し、乾燥する方法であるため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品を製造できる。また、本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第1の態様で製造された滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【0107】
<滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第2の態様>
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第2の態様は、繊維製品への滑り止め加工剤の噴霧を含む。
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第2の態様において、滑り止め加工剤が噴霧される繊維製品は、後述の条件A及び後述の条件Bのいずれか一方又は両方を満たす。
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第2の態様において、繊維製品への滑り止め加工剤の噴霧における霧化した滑り止め加工剤の乾燥粒径は150μm未満である。
【0108】
繊維製品への滑り止め加工剤の噴霧としては、スプレーコート法が挙げられ、スプレーコート法は、滑り止め加工剤を、エアスプレーを用いて噴霧することによって行われてもよい。
【0109】
繊維製品の単位面積当たりの滑り止め加工剤の噴霧量は、10~1000g/m2が好ましく、20~800g/m2がより好ましく、100~300g/m2がさらに好ましい。
滑り止め加工剤の噴霧量が前記下限値以上であれば、滑り止め加工された繊維加工品の濡れた床等に対する滑り止め性がさらに優れる。また、滑り止め加工された繊維加工品の耐洗濯性に優れる。滑り止め加工剤の噴霧量が前記上限値以下であれば、滑り止め加工された繊維加工品の非粘着性がさらに優れる。
【0110】
滑り止め加工剤が噴霧される繊維製品は、条件A及び条件Bのいずれか一方又は両方を満たす。
(条件A)
5cm×5cmの大きさに切断した前記繊維製品を脱イオン水に2分間浸漬し、吸水した脱イオン水の量を計量し、前記繊維製品1m2あたりの吸水量に換算した吸水量Aが、1000g/m2以上である。
(条件B)
3gの大きさに切断した前記繊維製品を脱イオン水に2分間浸漬し、吸水した脱イオン水の量を計量し、前記繊維製品1gあたりの吸水量に換算した吸水量Bが、5g/g以上である。
【0111】
繊維製品への滑り止め加工剤の噴霧における霧化した滑り止め加工剤の乾燥粒径は150μm未満である。本発明において、霧化した滑り止め加工剤の乾燥粒径は以下の方法で求める。すなわち、霧化した前記滑り止め加工剤を清浄なガラス基板上に霧化滴が重ならないように付着させ、120℃で5分間乾燥させて得られた乾燥した霧化滴200個の粒径を光学顕微鏡にて測定し平均値を求める。
【0112】
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第2の態様において用いられる繊維製品としては、織物や編物、不織布等が挙げられる。中でも、バスマット等として濡れた床の上で使用されるシェニール織物が好ましい。
【0113】
本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第2の態様において用いられる滑り止め加工剤としては、本発明の滑り止め加工剤の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様と同様のものが挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0114】
以上説明した本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第2の態様にあっては、噴霧した滑り止め加工剤が繊維製品の内部に浸透しにくく、加工面の表層に樹脂が付着するため、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れた滑り止め加工された繊維加工品を製造できる。また、本発明の滑り止め加工された繊維加工品の製造方法の第1の態様で製造された滑り止め加工された繊維加工品は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れるため、幅広い用途に利用できる。
【実施例】
【0115】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本実施例における「部」は「質量部」であり、「%」は「質量%」である。
【0116】
(滑り止め加工された繊維加工品の製造)
シェニール基布(IKEA社製、TOFTBO バスマット、70mm×50mm)の裏面に、滑り止め加工剤を、シェニール基布の単位面積当たりのウレタン重合体の付着量及びアクリル重合体の付着量の合計が表1又は表2に示す付着量となるようにハンドスプレー(アネスト岩田社製、W-101)を用いて、噴霧エアー圧0.35MPaで塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥し、滑り止め加工されたシェニール基布を得た。
【0117】
(滑り止め性)
滑り止め加工されたシェニール基布を、その滑り止め加工面を下にして、表面に水を32mg/cm2となるように霧吹きで吹き付けた水平なステンレス鋼板(JIS規格のSUS304 No.2B)の上に配置し、滑り止め加工されたシェニール基布の上側から26.46N(2.7kg)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度23℃にて滑り止め加工されたシェニール基布を、ばね式手秤(シロ産業社製、M506STシリーズ)を用いてステンレス鋼板に対して平行に引いて静摩擦力を測定し、得られた静摩擦力を法線力で除して静摩擦係数を求めた。
【0118】
下記基準にて滑り止め性を評価した。
A:静摩擦係数が0.85以上である。
B:静摩擦係数が0.70以上0.85未満である。
C:静摩擦係数が0.60以上0.70未満である。
D:静摩擦係数が0.60未満である。
【0119】
(耐洗濯性)
滑り止め加工されたシェニール基布について、下記洗濯工程を10回繰り返した後に上述の滑り止め性を評価した。
洗濯工程は、洗い15分、すすぎ3分、すすぎ3分、すすぎ2分、すすぎ2分、脱水5分、屋内乾燥24時間を1回とした。洗いには40℃に調温した水を用い、すすぎには23℃の水を用いた。水量は洗い、すすぎとも25Lであり、洗いに用いた洗剤の量は18gとした。洗濯には2層式洗濯機を用いた。
【0120】
(非粘着性)
滑り止め加工されたシェニール基布を、その滑り止め加工面を下にしてABS樹脂基材(TP技研社製、黒色、90mm×50mm×厚さ3mm)の上に接着面が50mm×50mmとなるように重ね、滑り止め加工されたシェニール基布の上側から6.86N(700g)の荷重をかけた状態にて、雰囲気温度40℃で24時間静置し、さらに雰囲気温度23℃で3時間静置して滑り止め加工されたシェニール基布とABS樹脂基材とを接着した。引張測定装置(島津製作所社製、オートグラフAG-IS5kN)を用い、雰囲気温度23℃、試験速度100mm/分にて、滑り止め加工されたシェニール基布の下端とABS樹脂基材の上端とを接着面に平行に引張り、このときの最大荷重をせん断接着強度とした。
【0121】
下記基準にて非粘着性を評価した。
A:せん断接着強度が15.0N未満である。
B:せん断接着強度が15.0N以上である。
【0122】
(水接触角)
ガラス板(120mm×120×厚さ2mm)の表面に、滑り止め加工剤を、4milのアプリケーターにて塗布し、雰囲気温度120℃で5分間乾燥し、塗膜を形成した。得られた塗膜の表面に、雰囲気温度23℃にて、1μLの水滴を付着させ、5秒後の水接触角を測定した。
【0123】
下記基準にて水接触角を評価した。
A:水接触角が80°以上である。
B:水接触角が80°未満である。
【0124】
(略号)
ウレタン重合体水分散液A:多価イソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを用い、多価アルコールとしてポリブチレンアジペートを用いて得られたウレタン重合体Aを水に分散させたもの(ウレタン重合体粒子の平均粒子径0.17μm、吸熱ピークにおける温度(結晶融解温度)45℃、固形分40%)。
ウレタン重合体水分散液B:多価イソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを用い、多価アルコールとしてポリブチレンアジペートを用いて得られたウレタン重合体Bを水に分散させたもの(ウレタン重合体粒子の平均粒子径0.155μm、吸熱ピークにおける温度(結晶融解温度)48℃、固形分40%)。
BA:n-ブチルアクリレート(Tg:-49℃)。
Daam:ジアセトンアクリルアミド(三菱ケミカル社製、カタログ記載のTg:77℃)。
AMA:アリルメタクリレート(三菱ケミカル社製、カタログ記載のTg:52℃)。
MMA:メタクリル酸メチル(Tg:105℃)。
MAA:メタクリル酸(Tg:228℃)。
アデカリアソープSR-1025:界面活性剤、ADEKA社製、固形分25%。
ニューコール(登録商標。以下同様。)707SF:界面活性剤、日本乳化剤社製、固形分30%。
パーブチル(登録商標。以下同様。)H69:t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液、日油社製、固形分69%。
【0125】
[実施例1~3]
撹拌機、還流冷却管、温度制御装置及び滴下ロートを備えたフラスコに下記の初期原料混合物を仕込み、窒素置換を行った。
【0126】
(初期原料混合物)
脱イオン水:73部
ウレタン重合体水分散液A:500部(固形分200部)
アデカリアソープSR-1025:8.00部(固形分2部)
【0127】
続いて、下記のアクリル重合体Aの原料となる単量体混合物をフラスコに仕込み、窒素置換を継続しながら、フラスコの内温を40℃に昇温した。
【0128】
(アクリル重合体Aの原料となる単量体混合物)
BA:197.2部
AMA:1.00部
Daam:1.80部
ニューコール707SF:6.67部
脱イオン水:80.0部
【0129】
続いて、下記の開始剤水溶液及び還元剤水溶液をフラスコ内に添加した。重合発熱によるピークトップ温度を確認した後、フラスコの内温を60℃に保持した。
【0130】
(開始剤水溶液)
パーブチルH69:0.10部
脱イオン水:2.00部
【0131】
(還元剤水溶液)
硫酸鉄(II)七水和物:0.0004部
エチレンジアミン四酢酸:0.00054部
イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物:0.044部
脱イオン水:2.00部
【0132】
その後、フラスコ内を40℃まで冷却し、アジピン酸ヒドラジド0.834部、脱イオン水6.0部をフラスコ内に添加して重合体粒子の水分散液を得た。粘度は197mPa・sであり、固形分は35.0%であった。この水分散液を滑り止め加工剤として用いて滑り止め加工されたシェニール基布を得た。ウレタン重合体の付着量及びアクリル重合体の付着量の合計は、表1に示す付着量とした。
評価結果を表1に示す。
滑り止め加工されたシェニール基布は、滑り止め性、耐洗濯性、非粘着性に優れていた。
【0133】
[実施例4]
ウレタン重合体水分散液Aをウレタン重合体水分散液Bに変更した以外は、実施例1と同様にして作成した水分散液を滑り止め加工剤として用いて、滑り止め加工されたシェニール基布を得た。ウレタン重合体の付着量及びアクリル重合体の付着量の合計は、表1に示す付着量とした。
評価結果を表1に示す。
【0134】
[実施例5]
アクリル重合体Aの原料となる単量体混合物を以下のアクリル重合体Bの原料となる単量体混合物に変更した以外は、実施例1と同様にして作成した水分散液を滑り止め加工剤として用いて、滑り止め加工されたシェニール基布を得た。ウレタン重合体の付着量及びアクリル重合体の付着量の合計は、表1に示す付着量とした。
評価結果を表1に示す。
【0135】
(アクリル重合体Bの原料となる単量体混合物)
MMA:64.6部
BA:132.6部
AMA:1.00部
Daam:1.80部
ニューコール707SF:6.67部
脱イオン水:80.0部
【0136】
[実施例6]
ハンドスプレーの種類をLPH-101(アネスト岩田社製)に変更し、噴霧エアー圧0.1MPaで塗布した以外は、実施例1と同様にして作成した水分散液を滑り止め加工剤として用いて、滑り止め加工されたシェニール基布を得た。ウレタン重合体の付着量及びアクリル重合体の付着量の合計は、表1に示す付着量とした。
評価結果を表1に示す。
【0137】
[比較例1]
撹拌機、還流冷却管、温度制御装置及び滴下ロートを備えたフラスコに下記の初期原料混合物を仕込み、窒素置換を行い、80℃に昇温した。
【0138】
(初期原料混合物)
脱イオン水:510部
アデカリアソープSR-1025:0.60部(固形分0.15部)
【0139】
続いて、下記のアクリル重合体Cの原料となる単量体混合物の5%をフラスコに仕込み、下記の開始剤水溶液をフラスコ内に添加した。重合発熱によるピークトップ温度を確認した後、フラスコの内温を80℃で30分間保持した。
【0140】
(アクリル重合体Cの原料となる単量体混合物)
BA:488部
AMA:2.50部
Daam:4.50部
MAA:5.00部
ニューコール707SF:6.67部
脱イオン水:80.0部
【0141】
(開始剤水溶液)
過硫酸アンモニウム:0.50部
脱イオン水:25.0部
【0142】
続いて、フラスコの内温を80℃に維持しながら、上記アクリル重合体Cの原料となる単量体混合物の残りを3時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下した後、フラスコの内温を80℃に維持しながら1時間保持した。
その後、フラスコ内を40℃まで冷却し、アジピン酸ヒドラジド2.08部、脱イオン水15.0部をフラスコ内に添加してアクリル重合体の水分散液を得た。固形分は45.1%あった。この水分散液を固形分35.0%に希釈し、滑り止め加工剤として用いて滑り止め加工されたシェニール基布を得た。アクリル重合体の付着量は、表2に示す付着量とした。
評価結果を表2に示す。
滑り止め加工されたシェニール基布は、初期の滑り止め性に優れるものの、耐洗濯性及び非粘着性に劣っていた。
【0143】
[比較例2]
ウレタン重合体水分散液Aを固形分35.0%に希釈し、滑り止め加工剤として用いて滑り止め加工されたシェニール基布を得た。ウレタン重合体の付着量は、表2に示す付着量とした。
評価結果を表2に示す。
滑り止め加工されたシェニール基布は、非粘着性に優れていたが、滑り止め性に劣っていた。
【0144】
[比較例3]
ウレタン重合体水分散液Bを固形分35.0%に希釈し、滑り止め加工剤として用いて滑り止め加工されたシェニール基布を得た。ウレタン重合体の付着量は、表2に示す付着量とした。
評価結果を表2に示す。
滑り止め加工されたシェニール基布は、非粘着性に優れていたが、滑り止め性に劣っていた。
【0145】
【0146】
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の滑り止め加工剤は、濡れた床等に対する滑り止め性及び床等に対する非粘着性に優れ、幅広い用途に利用できる滑り止め加工された繊維加工品の製造に有用である。