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特許7111257複合焼結体、静電チャック部材、静電チャック装置および複合焼結体の製造方法
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  • 特許-複合焼結体、静電チャック部材、静電チャック装置および複合焼結体の製造方法 図1
  • 特許-複合焼結体、静電チャック部材、静電チャック装置および複合焼結体の製造方法 図2
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  • 特許-複合焼結体、静電チャック部材、静電チャック装置および複合焼結体の製造方法 図13
  • 特許-複合焼結体、静電チャック部材、静電チャック装置および複合焼結体の製造方法 図14
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】複合焼結体、静電チャック部材、静電チャック装置および複合焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20220726BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C04B35/117
H01L21/68 R
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021520859
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020174
(87)【国際公開番号】W WO2020235651
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2019096046
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019096053
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】大友 恵
(72)【発明者】
【氏名】有川 純
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/004402(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122716(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181130(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素粒子を酸化性雰囲気下で250~600℃に加熱し、前記炭化ケイ素粒子の表面を酸化処理するプレ酸化工程と、
前記プレ酸化工程で処理した前記炭化ケイ素粒子と、酸化アルミニウム粒子とを、それぞれ高速で噴射してお互いに衝突させながら混合し、分散媒を含むスラリーを得る工程と、
前記スラリーに分散剤を添加した後、前記スラリー中の前記酸化アルミニウム粒子の表面電荷が正となり、前記スラリー中の前記炭化ケイ素粒子の表面電荷が負となるpH範囲に含まれるように、前記スラリーのpHを調整する工程と、
pHを調整した前記スラリーから分散媒を除去し、前記酸化アルミニウム粒子と前記炭化ケイ素粒子とを含む顆粒を得る工程と、
前記顆粒を、非酸化性雰囲気下で、300℃以上600℃以下でに加熱した後、酸化性雰囲気下で加熱して前記顆粒の表面を酸化処理する工程と、
酸化処理を施した前記顆粒を成形し成形体を得る工程と、
前記成形体を、非酸化性雰囲気下、25MPa以上の圧力で押し固めながら1600℃以上に加熱して加圧焼結する工程と、を有し、
前記スラリーを得る工程において、前記酸化アルミニウム粒子と前記炭化ケイ素粒子の合計に対する、前記炭化ケイ素粒子の割合は3~15質量%である複合焼結体の製造方法。
【請求項2】
主相である金属酸化物と、副相である炭化ケイ素とを含む複合焼結体であり、
前記金属酸化物は、酸化アルミニウムであり、
前記複合焼結体全体における炭化ケイ素の割合は、8質量%以下であり、
200Hzの比誘電率および1MHzの比誘電率は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で10以上であり、
200Hzの誘電正接および1MHzの誘電正接は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で0.04以下である複合焼結体。
【請求項3】
200Hzの比誘電率について、24℃以上400℃以下の範囲における最大値と最小値との差が6以下である請求項に記載の複合焼結体。
【請求項4】
体積抵抗値が、24℃以上400℃以下の全範囲で1×1013Ω・cm以上である請求項またはに記載の複合焼結体。
【請求項5】
前記炭化ケイ素の結晶粒は、前記金属酸化物の結晶粒内および前記金属酸化物の結晶粒界に分散しており、
前記金属酸化物の結晶粒内に分散している前記炭化ケイ素の結晶粒の割合は、前記炭化ケイ素の結晶粒全体に対し面積比で25%以上である請求項からのいずれか1項に記載の複合焼結体。
【請求項6】
前記金属酸化物の平均結晶粒径は、1.2μm以上10μm以下である請求項からのいずれか1項に記載の複合焼結体。
【請求項7】
前記金属酸化物に含まれる金属元素のケイ酸塩をさらに含、請求項からのいずれか1項に記載の複合焼結体。
【請求項8】
請求項からのいずれか1項に記載の複合焼結体を形成材料とし、一主面が板状試料を載置する載置面である板状の基体と、
前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電吸着用電極と、を有する静電チャック部材。
【請求項9】
請求項に記載の静電チャック部材を備える静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合焼結体、静電チャック部材、静電チャック装置および複合焼結体の製造方法に関するものである。
本願は、2019年5月22日に、日本に出願された特願2019-096053号、及び、2019年5月22日に、日本に出願された特願2019-096046号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ工程を実施する半導体製造装置では、試料台に板状試料(ウエハ)を容易に取付けて、固定することができるとともに、そのウエハを所望の温度に維持することができる静電チャック装置が用いられている。静電チャック装置は、一主面がウエハを載置する載置面である基体、及び載置面に載置したウエハとの間に静電気力(クーロン力)を発生させる静電吸着用電極を備えている(例えば、特許文献1参照)。基体は、通常、セラミックス焼結体を形成材料として形成されている。
【0003】
このような静電チャック装置は、ウエハと静電吸着用電極との間に発生させた静電気力を利用して、ウエハを固定している。具体的には、静電チャック装置において、ウエハを固定する際には、静電吸着用電極に電圧を印加し、ウエハと静電吸着用電極との間に静電気力を発生させる。一方、載置面に固定したウエハを取り外す際には、静電吸着用電極への電圧印加を停止し、ウエハと静電吸着用電極との間の静電気力を消失させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4744855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマ工程にさらされる静電チャック装置では、不可避的に、基体がプラズマで損傷(プラズマエロージョン)する。この場合、基体の一部分がプラズマによる浸食を特に受けやすい構成であると、プラズマに浸食を受けやすい部分が周囲よりも先に損傷し、基体の寿命を短くしてしまう可能性がある。よって改善が求められていた。
【0006】
また、静電チャック装置においては、ウエハの面内温度分布(温度差)を低減させるため、試料台に微細な溝を設け、当該溝に気体の冷媒(例えばヘリウム)を流動させることで、試料台に載置したウエハを冷却する技術が知られている。このような静電チャック装置において均熱性を高めるためには、冷媒のガス圧を高め冷却効率を向上させることが考えられる。一方、冷媒のガス圧を高める場合、冷媒から受ける圧力によってウエハが脱離しないように、静電チャック装置には高い吸着力が求められる。高い吸着力を得るには、静電チャック装置の基体の誘電率が高いことが好ましい。
【0007】
さらに、近年では、半導体を用いたデバイスは高集積化される傾向にあり、デバイス製造時には配線や絶縁層など種々の材料に対する微細加工技術が必要とされる。その際、絶縁層に用いられるような誘電体をドライエッチングする場合と、配線に用いられるような金属をドライエッチングする場合とでは、ウエハの管理温度が異なる。そのため、広い温度範囲で好適にウエハを保持し、ドライエッチング可能とする静電チャック装置が求められている。
【0008】
ドライエッチングによる微細加工を確実に実施可能とするためには、エッチングする際の入射イオンの散乱を抑制し、入射イオンを所望の位置に入射することが求められる。そのため、近年では、静電チャック装置を用いる半導体製造装置において、バイアス(RF)電圧の低周波化が進められている。
【0009】
しかし、バイアス電圧が低周波化すると、静電チャック装置におけるセラミックス焼結体製の基体の電気特性が、バイアス電圧が高周波である場合と比べ変化する。具体的には、低周波の交流電圧を印加すると、基体の電気特性は、体積固有抵抗値(単位:Ω・cm)の影響を強く受けるようになる。体積固有抵抗値が小さいほど、体積固有抵抗値に依存する誘電正接は大きくなるという関係にある。
【0010】
基体の誘電正接が大きくなると、交流電圧の印加時に基体が発熱しやすくなるため、改善が求められていた。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、局所的なプラズマ浸食を受けにくい、複合焼結体を提供することを目的とする。すなわちプラズマ浸食を受けたとしても、損傷が均一で軽度である複合焼結体を提供することを目的とする。また、広い温度範囲で高い誘電率と低い誘電正接とを両立する静電チャック用の複合焼結体を提供することを目的とする。
さらに、上記のような複合焼結体を用いた静電チャック部材、及び静電チャック装置を提供することを目的とする。さらに、このような複合焼結体を容易に製造可能とする複合焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の第一の態様は、主相である金属酸化物と、副相である炭化ケイ素と、前記金属酸化物に含まれる金属元素のケイ酸塩と、を含み、拡大倍率1000倍での600μmの視野における、前記ケイ酸塩の平均凝集径が5μm以下である、複合焼結体を提供する。
本発明の第一の態様の複合焼結体は、以下の特徴を好ましく有する。以下の特徴は互いに組み合わせることも好ましい。
【0013】
本発明の第一の態様においては、前記視野において、前記金属酸化物が占める領域と前記炭化ケイ素が占める領域の合計面積に対する、前記ケイ酸塩が占める領域の面積の比が30%以下であってもよい。
【0014】
本発明の第一の態様においては、複合焼結体は、平均硬度が2×10N/mm以上であり、平均ヤング率が3.5×10N/mm以上であってもよい。
【0015】
本発明の第一の態様においては、前記炭化ケイ素の結晶粒は、前記金属酸化物の結晶粒内および前記金属酸化物の結晶粒界に分散しており、前記金属酸化物の結晶粒内に分散する前記炭化ケイ素の結晶粒の面積の割合は、前記炭化ケイ素の結晶粒の全面積に対し、面積比で、25%以上であってもよい。
【0016】
本発明の第一の態様においては、前記金属酸化物は、酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムであってもよい。
【0017】
本発明の第一の態様においては、前記金属酸化物の平均結晶粒径は、1.2μm以上10μm以下であってもよい。
【0018】
本発明の第二の態様は、第一の態様の複合焼結体を形成材料として用いて形成された、一主面が板状試料を載置する載置面である板状の基体と、前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電吸着用電極と、を有する静電チャック部材を提供する。
【0019】
本発明の第二の態様は、上記の静電チャック部材を備える静電チャック装置を提供する。
【0020】
本発明の第三の態様は、炭化ケイ素粒子の表面を酸化処理するプレ酸化工程と、前記プレ酸化工程で処理した前記炭化ケイ素粒子と、金属酸化物粒子とを、それぞれ噴射し互いに衝突させながら混合し、分散媒を含むスラリーを得る工程と、前記スラリーに分散剤を添加した後、前記スラリー中の前記金属酸化物粒子の表面電荷が正となり、前記スラリー中の前記炭化ケイ素粒子の表面電荷が負となるpH範囲に含まれるように、前記スラリーのpHを調整する工程と、pHを調整した前記スラリーから分散媒を除去し、前記金属酸化物粒子と前記炭化ケイ素粒子とを含む顆粒を得る工程と、前記顆粒を、非酸化性雰囲気下で、300℃以上600℃以下で加熱した後、酸化性雰囲気下で加熱して前記顆粒の表面を酸化処理する工程と、酸化処理を施した前記顆粒を成形し成形体を得る工程と、前記成形体を、非酸化性雰囲気下、25MPa以上の圧力で押し固めながら、1600℃以上に加熱して加圧焼結する工程と、を有する複合焼結体の製造方法を提供する。
【0021】
上記の課題を解決するため、本発明の第四の態様は、主相である金属酸化物と、副相である炭化ケイ素と、を含む複合焼結体であり、200Hzの比誘電率および1MHzの比誘電率は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で10以上であり、200Hzの誘電正接および1MHzの誘電正接は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で0.04以下である複合焼結体を提供する。
【0022】
本発明の第四の態様の複合焼結体は、以下の特徴を好ましく有する。以下の特徴は互いに組み合わせることも好ましい。
本発明の第四の態様においては、200Hzの比誘電率について、24℃以上400℃以下の範囲における最大値と最小値との差が6以下である構成としてもよい。
【0023】
本発明の第四の態様においては、体積抵抗値(体積抵抗率)が、24℃以上400℃以下の全範囲で1×10-13Ω・cm以上である構成としてもよい。
【0024】
本発明の第四の態様においては、前記金属酸化物は、酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムである構成としてもよい。
【0025】
本発明の第四の態様においては、前記金属酸化物の平均結晶粒径は、1.2μm以上10μm以下である構成としてもよい。
【0026】
本発明の第五の態様は、上記の複合焼結体を形成材料とし、一主面が板状試料を載置する載置面である板状の基体と、前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電吸着用電極と、を有する静電チャック部材を提供する。
【0027】
本発明の第六の態様は、上記の静電チャック部材を備える静電チャック装置を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、部分的に大きな、すなわち局所的なプラズマ浸食を受けにくい、複合焼結体を提供することができる。本発明によれば、広い温度範囲で高い誘電率と低い誘電正接とを両立する静電チャック用の複合焼結体を提供することができる。また、このような複合焼結体を用いた静電チャック部材、静電チャック装置を提供することができる。さらに、このような複合焼結体を容易に製造可能とする複合焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、第一及び第二の実施形態の静電チャック装置の好ましい例を示す概略断面図である。
図2図2は、スラリー中の酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子とについて説明する、スラリーpHとそれぞれの粒子のζ電位との関係を示す、グラフである。
図3図3は、第一及び第二の実施形態の複合焼結体の製造方法を説明する説明概略図である。
図4図4は、第一及び第二の実施形態の複合焼結体の製造方法を説明する説明概略図である。
図5図5は、第一の実施形態の複合焼結体の製造方法を説明する説明概略図である。
図6図6は、第一の実施形態の複合焼結体の製造方法を説明する説明概略図である。
図7図7は、第一及び第二の実施形態の複合焼結体の製造方法を説明する説明概略図である。
図8図8は、第一の実施形態の複合焼結体の製造方法を説明する説明概略図である。
図9図9は、実施例1の複合焼結体のSEM像および同視野のEPMA像である。
図10図10は、比較例1の複合焼結体のSEM像および同視野のEPMA像である。
図11図11は、第二の実施形態の複合焼結体の製造方法について説明する説明図である。
図12図12は、実施例で体積固有抵抗値を測定した際の焼結体の様子を示す模式図である。
図13図13は、実施例1、比較例1の誘電率および誘電正接の測定結果を示す散布図である。
図14図14は、実施例1、比較例1の体積抵抗値(体積抵抗率)の定結果を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の複合焼結体、静電チャック装置、複合焼結体の製造方法の好ましい例について説明する。なお以下の説明は、発明の趣旨をより良く理解させるために説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。発明を逸脱しない範囲で、数、量、位置、大きさ、数値、比率、順番、種類などの変更や省略や追加をする事ができる。また以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。それぞれの態様は、互いの好ましい例や条件を、互いに共有してもよい。 第一の態様及び第四の態様の複合焼結体は、静電チャック装置の基体の材料として好適に用いられる。
以下の説明では、第一及び第四の態様の複合焼結体の主たる使用目的である静電チャック装置の好ましい構成の例について説明する。その後、複合焼結体の詳細について説明する。
以下の説明において、第一の態様の複合焼結体の好ましい例を第一の実施態様として、第四の態様の複合焼結体の好ましい例を第二の実施態様として、説明することがある。また第一の態様の複合焼結体、及び第四の態様の複合焼結体は、互いの条件や好ましい例を、好ましく共有することができる。
【0031】
[静電チャック装置]
以下、図1を参照しながら、本実施形態に係る静電チャック装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてあってもよい。
【0032】
図1は、本実施形態の静電チャック装置を示す概略断面図である。本実施形態の静電チャック装置1は、一主面(上面)側を載置面とする、平面視円板状の静電チャック部2と、この静電チャック部2の下方に設けられて静電チャック部2を所望の温度に調整する、所定の厚みのある、平面視円板状の温度調節用ベース部3と、を備えている。また、静電チャック部2と温度調節用ベース部3とは、静電チャック部2と温度調節用ベース部3の間に設けられた接着剤層8を介して、接着されている。
以下、それぞれの部分について順に説明する。
【0033】
(静電チャック部)
静電チャック部2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面11aである載置板11と、この載置板11と一体化され前記載置板11の底部側を支持する支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用電極13および静電吸着用電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、を有している。
【0034】
載置板11および支持板12は、本発明における「基体」に該当する。
静電チャック部2は、前記基体を含んでおり、本発明における「静電チャック部材」に該当する。
【0035】
載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする、円板状の部材である。載置板11および支持板12は、機械的な優れた強度を有し、かつ腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有する、複合焼結体からなる。載置板11および支持板12の形成材料である複合焼結体については、詳しく後述する。
【0036】
載置板11の載置面11aには、直径が板状試料の厚みより小さい突起部11bが複数所定の間隔で形成される。これらの突起部11bが板状試料Wを支える。
【0037】
載置板11、支持板12、静電吸着用電極13および絶縁材層14を含めた全体の厚み、即ち、静電チャック部2の厚みは、任意に選択できるが、例えば0.7mm以上かつ5.0mm以下であることが好ましい。
【0038】
例えば、静電チャック部2の厚みが0.7mm以上であると、静電チャック部2の機械的強度を確保することが容易になる。静電チャック部2の厚みが5.0mm以下であると、静電チャック部2の熱容量が大きくなりすぎることがなく、載置される板状試料Wの熱応答性が劣化せず、静電チャック部の横方向の熱伝達の増加が抑えられるので、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが容易になる。なお、ここで説明した各部の厚さは一例であって、前記範囲に限るものではない。
【0039】
静電吸着用電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料Wを固定するための静電チャック用電極として用いられるものである。その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
【0040】
静電吸着用電極13は任意に選択される材料で形成される。例えば、酸化アルミニウム-炭化タンタル(Al-Ta)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム-タングステン(Al-W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al-SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム-タングステン(AlN-W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム-タンタル(AlN-Ta)導電性複合焼結体、酸化イットリウム-モリブデン(Y-Mo)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成されることが好ましい。
【0041】
静電吸着用電極13の厚みは任意に選択でき、特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上かつ100μm以下の厚みを選択することができ、5μm以上かつ20μm以下の厚みがより好ましい。
【0042】
静電吸着用電極13の厚みが0.1μm以上であると、充分な導電性を確保することができる。静電吸着用電極13の厚みが100μm以下であると、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との間の熱膨張率差に起因するクラックが、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との接合界面に形成されない。
【0043】
このような厚みの静電吸着用電極13は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により、容易に形成することができる。
【0044】
絶縁材層14は、静電吸着用電極13を囲繞して、腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用電極13を保護する。また絶縁材層14は、載置板11と支持板12との境界部、すなわち静電吸着用電極13以外の外周部領域を接合一体化する層であり、載置板11および支持板12を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されている。
【0045】
(温度調整用ベース部)
温度調節用ベース部3は、静電チャック部2を所望の温度に調整するための部材であり、厚い円板状の部材である。この温度調節用ベース部3としては、例えば、その内部に冷媒を循環させる流路3Aが形成された液冷ベース等が好適である。
【0046】
この温度調節用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた、金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はない。例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。この温度調節用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0047】
温度調節用ベース部3の上面側には、接着層6を介して絶縁板7が接着されている。接着層6は、任意に選択される材料、例えば、シート状またはフィルム状の、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂等の、耐熱性、および、絶縁性を有する接着性樹脂から形成される。接着層は、例えば厚みが5~100μm程度に形成される。絶縁板7は、任意に選択される材料、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの耐熱性を有する樹脂の薄板、シートあるいはフィルムからなる。
【0048】
なお、絶縁板7は、樹脂シート等に限定されず、例えば、絶縁性のセラミック板でもよく、またアルミナ等の絶縁性を有する溶射膜でもよい。
【0049】
(フォーカスリング)
フォーカスリング10は、温度調節用ベース部3の周縁部に載置される、平面視円環状の部材である。フォーカスリング10は、例えば、載置面に載置されるウエハと同等の電気伝導性を有する材料を形成材料とすることができる。このようなフォーカスリング10を配置することにより、ウエハの周縁部において、プラズマに対する電気的な環境をウエハと略一致させることができ、ウエハの中央部と周縁部とでプラズマ処理の差や偏りを生じにくくすることができる。
【0050】
(その他の部材)
静電吸着用電極13には、静電吸着用電極13に直流電圧を印加するための給電用端子15が接続されている。給電用端子15は、温度調節用ベース部3、接着剤層8、支持板12を厚み方向に貫通する貫通孔16の内部に挿入されている。給電用端子15の外周側には、絶縁性を有する碍子15aが設けられ、この碍子15aにより金属製の温度調節用ベース部3に対し給電用端子15が絶縁されている。
【0051】
図に示す例では、給電用端子15を一体の部材として示している。しかしながら、複数の部材を電気的に接続して、給電用端子15を構成していてもよい。給電用端子15は、熱膨張係数が互いに異なる温度調節用ベース部3および支持板12に挿入されている。このめ、例えば、温度調節用ベース部3に挿入されている部分および支持板12に挿入されている部分について、それぞれ互いに異なる材料で構成してもよい。
【0052】
給電用端子15のうち、静電吸着用電極13に接続され、支持板12に挿入されている部分(取出電極)の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではない。しかしながら、その熱膨張係数が静電吸着用電極13および支持板12の熱膨張係数に近似する材料が好ましい。例えば、Al-TaCなどの導電性セラミック材料からなることが好ましい。
【0053】
給電用端子15のうち、温度調節用ベース部3に挿入されている部分は、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料からなることが好ましい。
【0054】
これら2つの部材は、その間を任意に選択される材料、例えば柔軟性と耐電性を有するシリコン系の導電性接着剤で接続するとよい。
【0055】
静電チャック部2の下面側には、ヒータエレメント5が設けられている。ヒータエレメント5は、任意に選択できるが、例えば、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm程度の一定の厚みを有する非磁性金属薄板を加工したものが好ましい。例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、および、モリブデン(Mo)薄板等を、フォトリソグラフィー法やレーザー加工により、所望のヒータ形状に、例えば帯状の導電薄板を蛇行させた形状であって全体輪郭が円環状である形状に、加工することで得られる。
【0056】
このようなヒータエレメント5は、静電チャック部2に非磁性金属薄板を接着した後に、静電チャック部2の表面で前記薄板を加工成型することで設けてもよい。あるいは、静電チャック部2とは異なる位置で加工成形したものを用意し、これを静電チャック部2の表面に転写印刷することで、ヒータエレメント5を設けてもよい。
【0057】
ヒータエレメント5は、厚みの均一な耐熱性および絶縁性を有するシート状またはフィルム状のシリコン樹脂またはアクリル樹脂からなる接着層4により、支持板12の底面に接着・固定されている。
【0058】
ヒータエレメント5には、ヒータエレメント5に給電するための給電用端子17が接続されている。給電用端子17を構成する材料としては、前記給電用端子15を構成する材料と同等の材料を用いることができる。給電用端子17は、それぞれが温度調節用ベース部3に形成された貫通孔3bを貫通するように設けられている。筒状の碍子18は、給電端子17と貫通孔3bの間に設けられ、絶縁性材料からなる。
【0059】
また、ヒータエレメント5の下面側には温度センサー20が設けられている。本実施形態の静電チャック装置1では、温度調節用ベース部3を厚さ方向に貫通するように設置孔21が形成されている。設置孔21の最上部に温度センサー20が設置されている。なお、温度センサー20はできるだけヒータエレメント5に近い位置に設置することが望ましい。このため、図に示す構造から更に接着剤層8側に突き出るように設置孔21を延在して形成し、温度センサー20とヒータエレメント5とを近づける構成としてもよい。
【0060】
温度センサー20は、任意に選択できる。例えば、石英ガラス等からなる直方体形状の透光体の上面側に蛍光体層が形成された、蛍光発光型の温度センサーであってもよい。この温度センサー20が、透光性および耐熱性を有するシリコン樹脂系接着剤等により、ヒータエレメント5の下面に接着されている。
【0061】
蛍光体層は、ヒータエレメント5からの入熱に応じて蛍光を発生する材料からなる。蛍光体層の形成材料としては、発熱に応じて蛍光を発生する材料であればよく、多種多様の蛍光材料を選択できる。蛍光体層の形成材料は、任意に選択できるが、例えば、発光に適したエネルギー順位を有する希土類元素が添加された蛍光材料、AlGaAs等の半導体材料、酸化マグネシウム等の金属酸化物、ルビーやサファイア等の鉱物を挙げることができる。これらの材料の中から適宜選択して用いることができる。
【0062】
ヒータエレメント5に対応する温度センサー20は、必要に応じて1つ以上を備えられることができる。それぞれの温度センサーは、給電用端子などと干渉しない位置であって、かつヒータエレメント5の下面周方向の任意の位置に、それぞれ設けられている。
【0063】
これらの温度センサー20の蛍光からヒータエレメント5の温度を測定する温度計測部22は、任意に選択できる。例えば、温度調節用ベース部3の設置孔21の外側(下側)に位置して、前記蛍光体層に対し励起光を照射する励起部23と、蛍光体層から発せられた蛍光を検出する蛍光検出器24と、励起部23および蛍光検出器24を制御するとともに前記蛍光に基づき主ヒータの温度を算出する制御部25とから構成されていてもよい。
【0064】
さらに、静電チャック装置1は、温度調節用ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられた、ガス穴28を有している。ガス穴28の内周部には筒状の碍子29が設けられている。
【0065】
このガス穴28には、ガス供給装置(冷却手段)が接続される。ガス供給装置からは、ガス穴28を介して板状試料Wを冷却するための冷却ガス(伝熱ガス)が供給される。冷却ガスは、ガス穴を介して、載置板11の上面において複数の突起部11bの間に形成されている溝19に供給され、板状試料Wを冷却する。
【0066】
さらに、静電チャック装置1は、温度調節用ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられた、ピン挿通孔(図示略)を有している。ピン挿通孔としては、例えばガス穴28と同様の構成を採用することができる。ピン挿通孔には、板状試料の離脱用のリフトピンが挿通される。
静電チャック装置1は、以上のような構成となっている。
【0067】
[複合焼結体]
本発明の複合焼結体は、主相である金属酸化物と、副相である炭化ケイ素とを含む。
第一の実施形態の複合焼結体は、金属酸化物に含まれる金属元素のケイ酸塩をさらに含み、拡大倍率1000倍での600μmの視野における前記ケイ酸塩の平均凝集径が5μm以下である。
第二の実施形態の複合焼結体は、金属酸化物に含まれる金属元素のケイ酸塩をさらに含んでも含まなくても良く、200Hzの比誘電率および1MHzの比誘電率は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で10以上であり、200Hzの誘電正接および1MHzの誘電正接は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で0.04以下である。
第一の実施形態と、第二の実施形態の複合焼結体は、互いの好ましい例や条件を共有してよい。
(第一の実施形態の複合焼結体)
次に、第一の実施形態の基体(載置板11および支持板12)を好ましく構成する、第一の態様の複合焼結体の好ましい例について、詳述する。
第一の実施形態の複合焼結体は、主相である金属酸化物と、副相である炭化ケイ素と、主相の金属酸化物に含まれる金属元素のケイ酸塩と、を含む。前記基体は、前記金属酸化物と、前記炭化ケイ素と、前記ケイ酸塩を含むセラミックスである複合焼結体を形成材料としている。
【0068】
詳しくは後述するが、上記ケイ酸塩は、金属酸化物粒子と、炭化ケイ素粒子の表面にある酸化膜(SiO膜)とが、反応することによって生じる。
【0069】
また、本実施形態の複合焼結体では、拡大倍率1000倍での600μmの視野における前記ケイ酸塩の平均凝集径が5μm以下である。
【0070】
本実施形態において、「拡大倍率1000倍での600μmの視野における前記ケイ酸塩の平均凝集径」は、以下のようにして求める平均凝集径の値を採用する。
【0071】
まず最初に、複合酸化物(焼結体)の表面を、砥粒の平均粒径3μm(粒度表示:#8000)のダイヤモンドペーストで鏡面研磨する。
次いで、サーマルエッチングを行った焼結体表面について、電子線プローブマイクロアナライザー、具体例を挙げれば電子線プローブマイクロアナライザー(日本電子株式会社製、型番JXA-8530F)、を用いて電子像を撮像する。撮像時の拡大倍率は1000倍である。また、撮像範囲は面積600μmの矩形である。
【0072】
得られた電子顕微鏡写真を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア、具体例を挙げれば画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View Version4、株式会社マウンテック製)に取り込み、ケイ酸塩の凝集径を算出させる。
【0073】
上記測定を複合焼結体の任意の5箇所について行う。それぞれで求められたケイ酸塩の凝集径の算術平均値を、ケイ酸塩の平均凝集径とする。
【0074】
例えば、金属酸化物が酸化アルミニウムである場合、「ケイ酸塩」の例としては、Al12Siや、Al14Siなどのムライトを挙げることができる。金属酸化物が酸化イットリウムである場合、「ケイ酸塩」の例としては、Y・SiO2、Y23・2SiO2、2Y23・3SiO2などを挙げることができる。
【0075】
複合焼結体を構成する金属酸化物、炭化ケイ素、ケイ酸塩は、巨視的には、すなわち拡大倍率が小さい顕微鏡観察では、それぞれが複合焼結体の全体に分散している。微視的には、すなわち拡大倍率が大きい顕微鏡観察では、金属酸化物、炭化ケイ素、ケイ酸塩のそれぞれが、複合焼結体の各所で凝集している。なお、複合焼結体を構成する金属酸化物、炭化ケイ素、及びケイ酸塩を比べた場合、ケイ酸塩が最もプラズマに対する耐久性が低い。そのため、金属酸化物、炭化ケイ素、及びケイ酸塩を含む複合焼結体が、プラズマにさらされた場合、ケイ酸塩が凝集する部分が損傷しやすい。
【0076】
本実施形態の複合焼結体においては、ケイ酸塩の平均凝集径が5μm以下である。このため、平均凝集径が5μmを超えるほどに大きいケイ酸塩を含む複合焼結体と比べると、局所的な大きなプラズマ浸食を受けにくい。そのため、このような複合焼結体を基体に用いた静電チャック装置では、装置寿命を長寿命化することができる。
【0077】
本実施形態の複合焼結体においては、前記ケイ酸塩の平均凝集径は4μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。平均凝集径は、2.0μm以下や、1.0μm以下や、0.5μm以下であってもよい。
【0078】
本実施形態の複合焼結体は、拡大倍率1000倍での600μmの視野において観察した時、金属酸化物と炭化ケイ素が占める領域の合計面積に対する、ケイ酸塩が占める領域の面積の比が、30%以下であることが好ましい。金属酸化物または炭化ケイ素と比べると、ケイ酸塩は耐プラズマ性が低い。このため、プラズマに曝露された際にプラズマによる侵食を受けやすい。そのため、上記ケイ酸塩が占める領域の面積の比は、低いほどよい。前記面積比は、25%以下であることがとより好ましく、15%以下であることがとさらに好ましく、10%以下であることがと特に好ましい。5%以下や3%以下であることも好ましい。ケイ酸塩が占める領域の面積が0%である場合、例えば、図11のような複合焼結体が形成される。ただし、ケイ酸塩が0%の焼結体は、耐電圧が低下するので、その観点からは、好ましくない。
【0079】
本実施形態の複合焼結体は、平均硬度が2×10N/mm以上であり、平均ヤング率が3.5×10N/mm以上であると好ましい。
前記平均硬度は22423N/mm以上であり、前記平均ヤング率が383594N/mm以上であると、より好ましい。また本実施形態の複合焼結体は、ケイ酸塩が凝集した部分、すなわちケイ酸塩を含む部分であるが、ケイ酸塩のみから形成されていることが好ましい。ケイ酸塩は、微細なケイ酸塩であることが好ましく、微結晶であることがさらに好ましい。ケイ酸塩が凝集した部分平均硬度は2×10N/mm以上であり、平均ヤング率が3.5×10N/mm以上であることが好ましい。前記平均硬度は22423N/mm以上であり、前記平均ヤング率が383594N/mm以上であると、より好ましい。ケイ酸塩が凝集した部分の硬度およびヤング率が大きいと、ウエハレスドライクリーニング時の静電チャックへのイオン衝撃の際に、ケイ酸塩部分からの脱粒が抑制され、パーティクル向上が期待できる。平均硬度及び平均ヤング率は、ISO14577-1に準ずる方法にて算出できる。
第一の実施態様の複合焼結体は、200Hzの比誘電率および1MHzの比誘電率は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で10以上であり、200Hzの誘電正接および1MHzの誘電正接は、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で0.04以下であることも好ましい。
第一の実施態様の複合焼結体は、200Hzの比誘電率について、24℃以上400℃以下の範囲における最大値と最小値との差が6以下であることも好ましい。
第一の実施態様の複合焼結体は、体積抵抗値が、24℃以上400℃以下の全範囲で1×10-13Ω・cm以上であることも好ましい。
【0080】
(第二の実施形態の複合焼結体)
次に、第二の実施形態の基体(載置板11および支持板12)を構成する複合焼結体について、詳述する。
第二の実施形態の複合焼結体は、主相である金属酸化物と、副相である炭化ケイ素と、を含むセラミックスの複合焼結体を形成材料としている。
【0081】
また、第二の実施形態の複合焼結体は、200Hzの比誘電率および1MHzの比誘電率が、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で10以上である。このような複合焼結体を基体に用いた静電チャック装置では、広い温度範囲で高い吸着力が得られる。
前記比誘電率は、前記全範囲で、11以上や、12以上であることも好ましい。前記比誘電率の上限値は任意に選択できるが、例えば、18以下であっても良く、16以下や、15以下や、14以下であってもよい。
【0082】
さらに、第二の実施形態の複合焼結体は、200Hzの誘電正接および1MHzの誘電正接が、いずれも24℃以上400℃以下の全範囲で0.04以下である。前記誘電正接は、0.03以下であることも好ましい。このような複合焼結体を基体に用いた静電チャック装置では、広い温度範囲でプラズマを発生させる高周波を透過させることができる。前記誘電正接の下限は任意に選択できるが、例えば、0.000以上であったり、0.001以上であってもよい。
【0083】
さらに、第二の実施形態の複合焼結体は、200Hzの比誘電率について、24℃以上400℃以下の範囲における最大値と最小値との差(絶対値)が6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。このような複合焼結体を基体に用いた静電チャック装置では、広い温度範囲で安定した吸着力が得られる。
【0084】
さらに、第二の実施形態の複合焼結体は、体積抵抗値(体積抵抗率)が、24℃以上400℃以下の全範囲で1×1013Ω・cm以上であることが好ましい。1×1015Ω・cm以上や、1×1016Ω・cm以上であることも好ましい。
1×1013Ω・cm以上である場合、優れた特性を得ることができる。
このような複合焼結体を基体に用いた静電チャック装置では、広い温度範囲において静電吸着終了後のウエハの脱離が容易となる。また、このような複合焼結体を基体に用いた静電チャック装置では、静電チャック部2(基体)の表面に溜まった電荷を徐々に逃がすことができる。これにより静電チャック部2の沿面破壊や、絶縁破壊を抑制することができる。
【0085】
(第一及び第二の実施形態の複合焼結体の特徴)
炭化ケイ素の結晶粒は、第一及び第二の実施形態の複合焼結体において、金属酸化物の結晶粒内、および金属酸化物の結晶粒界に、分散していることが好ましい。この場合、金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒の割合は、金属酸化物の結晶粒内と結晶粒界に存在する炭化ケイ素の結晶粒、すなわち、炭化ケイ素の結晶粒全体に対し、面積比で、25%以上であると好ましい。前記割合は、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、100%であってもよい。結晶粒内に含まれない、残りの炭化ケイ素の結晶粒は、金属酸化物の結晶粒界に存在している。
【0086】
複合焼結体において、「炭化ケイ素の結晶粒全体」に対する「金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒」の割合が、顕微鏡で観察したとき、面積比で、25%以上であることにより、十分に絶縁性を向上させることができる。絶縁性を向上させるためには、上記割合は大きいほど好ましい。全ての炭化ケイ素の結晶粒が酸化アルミニウムの結晶粒内に分散している状態が特に好ましい。
【0087】
上記割合が25%以上であることにより、複合焼結体の誘電率が高くなる。また、上記割合が25%以上であることにより、低周波での誘電正接が小さくなる。
【0088】
なお、本発明において、複合焼結体における「金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒の割合」は、複合焼結体の任意の視野の走査型電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0089】
具体的には、複合焼結体について、無作為に選ばれた視野にて、拡大倍率10000倍の電子顕微鏡写真を撮影する。この電子顕微鏡写真に写された全ての炭化ケイ素の結晶粒の総面積を「炭化ケイ素の結晶粒全体」の面積とする。一方で、上記電子顕微鏡写真における「金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒」の面積を求める。このようにして求められた面積から、「炭化ケイ素の結晶粒全体」に対する「金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒」の割合を、面積比で求める。
【0090】
同様の処理を、別の2つの視野における電子顕微鏡写真において行い、それぞれの割合を得る。得られた3つの割合の平均値を、「金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒の割合」を示す面積比として求める。
【0091】
第一及び第二の実施形態の複合焼結体において、金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒の平均結晶粒径は任意に選択できるが、0.03μm以上0.7μm以下であると好ましい。前記粒径はより好ましくは0.05μm以上0.3μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上0.2μm以下である。
【0092】
複合焼結体全体における炭化ケイ素の割合は、8質量%以下であると好ましい。より好ましくは6質量%以下であり、さらに好ましは3質量%以下である。下限は任意に選択できるが、例えば1.5質量%以上であってもよい。
【0093】
第一及び第二の実施形態の複合焼結体が有する金属酸化物としては任意に選択できるが、酸化アルミニウム、酸化イットリウムを好ましく使用可能である。その他、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、ムライト、イットリウム・アルミニウム・ガーネット、酸化ハフ二ウム、ReAl23(Reは希土類元素)なども使用可能である。
【0094】
第一及び第二の実施形態の複合焼結体において、金属酸化物の平均結晶粒径は任意に選択できるが、1.2μm以上10μm以下であると好ましい。より好ましくは、1.5μm以上5μm以下であり、さらに好ましくは1.7μm以上3μm以下である。
【0095】
複合焼結体において、金属酸化物の平均結晶粒径が1.2μm以上であることにより、金属酸化物の粒子自体の抵抗率が低下し過ぎることなく、十分な絶縁効果を発現させることができる。また、金属酸化物の平均結晶粒径が10μm以下であることにより、得られる焼結体の機械的強度が十分高いものとなり、欠け(チッピング)が生じ難くなる。
【0096】
複合焼結体において、金属酸化物の平均結晶粒径は、焼結温度を制御することにより調節可能である。焼結温度が高くなると、金属酸化物の平均結晶粒径が大きくなる傾向にあり、焼結温度が低くなると、金属酸化物の平均結晶粒径が小さくなる傾向にある。
【0097】
載置板11および支持板12の形成材料である複合焼結体は、上述のような構成であることにより、高い誘電率と高い体積固有抵抗値、すなわち、高い誘電率と低い誘電正接とを両立することができる。
【0098】
第一及び第二の実施形態の複合焼結体を構成する物質のうち、主相である金属酸化物は絶縁体である。副相である炭化ケイ素は導電体である。そのため、複合焼結体に通電しようとすると、電子は、導電体が配置された結晶粒界を移動しやすい。
【0099】
従来知られた同組成の複合焼結体、すなわち金属酸化物と炭化ケイ素から得られる複合焼結体においては、金属酸化物の結晶粒界にある炭化ケイ素の結晶粒が、炭化ケイ素全体に対して、80%以上存在しているものが知られている。
【0100】
一方、第一及び第二の実施形態の複合焼結体においては、金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒の割合は、複合焼結体に含まれる炭化ケイ素の結晶粒全体に対し、面積比で、25%以上である。すなわち、金属酸化物の結晶粒界には、炭化ケイ素の結晶粒が、複合焼結体に含まれる炭化ケイ素の結晶粒全体に対して、75%以下の量で存在している。
【0101】
そのため、第一及び第二の実施形態の複合焼結体は、電子が移動しやすい結晶粒界に存在する導電体(炭化ケイ素)の量が、従来の複合焼結体と比べて少ない。このため、電子が移動し難く、体積固有抵抗値が高くなると考えられる。
【0102】
また、第一及び第二の実施形態の複合焼結体では、金属酸化物の結晶粒内に分散する炭化ケイ素の量が25%以上と、従来の複合焼結体より多い。このように金属酸化物の結晶粒内に分散する炭化ケイ素の割合が増加すると、結晶粒内において導電体である炭化ケイ素粒子間の距離が短くなり、電気容量が増加する。そのため、第一及び第二の実施形態のような複合焼結体では、誘電率が高くなる傾向がある。
【0103】
なお、SiCには、結晶構造が多数あることが知られている。具体的には、立方晶系で3C型(閃亜鉛鉱型)の結晶構造を有するもの、4H型、6H型等の六方晶系でウルツ鉱型の結晶構造を有するもの、菱面体晶系で15R型の結晶構造を有するもの、が挙げられる。このうち、3C型の結晶構造を有するものを「β-SiC」と称する。また、それ以外の結晶構造を有するもの全てを「α-SiC」と称する。
【0104】
第一及び第二の実施形態の載置板11および支持板12は、複合焼結体に含まれるSiCが、β-SiCであることが好ましい。また、複合焼結体においては、β-SiCの結晶粒が、マトリックス材料である金属酸化物の結晶粒に取り囲まれる状態で、すなわち金属酸化物の結晶粒内に、分散して存在していることが好ましい。複合焼結体において、β-SiCの体積比率は、複合焼結体全体に対して、4体積%以上15体積%以下が好ましく、6体積%以上10体積%以下がより好ましい。
【0105】
β-SiCの体積比率が4体積%以上であると、SiC粒子による電子導電性の発現効果が大きい。また、β-SiCの体積比率が15体積%以下であると、SiC粒子同士の接触が生じにくく、SiC粒子を介した抵抗値低下を生じにくい。
【0106】
また、第一及び第二の実施形態の複合焼結体においては、アルミニウム及びケイ素以外の金属不純物の含有量が、100ppm以下であることが好ましい。金属不純物含有量は、50ppm以下であることが好ましく、25ppm以下であることがより好ましい。
【0107】
[複合焼結体の製造方法]
第一及び第二の実施形態に係る複合焼結体の製造方法は、
(a)炭化ケイ素粒子の表面を酸化処理するプレ酸化工程と、
(b)プレ酸化工程で処理した炭化ケイ素粒子と、金属酸化物粒子とを、それぞれ噴射し互いに衝突させながら混合し、分散媒を含むスラリーを得る工程と、
(c)スラリーに分散剤を添加した後、スラリー中の金属酸化物粒子の表面電荷が正となり、スラリー中の前記炭化ケイ素粒子の表面電荷が負となる範囲に含まれるように、スラリーのpHを調整する工程と、
(d)pHを調整した前記スラリーから分散媒を除去し、金属酸化物粒子と炭化ケイ素粒子とを含む顆粒を得る工程と、
(e)得られた顆粒を非酸化性雰囲気下で、300℃以上600℃以下で加熱した後、酸化性雰囲気下で加熱して顆粒の表面を酸化処理する工程と、
(f)酸化処理を施した顆粒を成形し、成形体を得る工程と、
(g)得られた成形体を、非酸化性雰囲気下で、25MPa以上の圧力で押し固めながら1600℃以上に加熱して、加圧焼結する工程と、を有する。
【0108】
「非酸化性雰囲気」は任意に選択できるが、好ましい例として、不活性ガス雰囲気や真空雰囲気を含む。
【0109】
不活性ガスとしては、任意に選択をすることができ、例えば、窒素及び/またはアルゴンを好ましく用いることができる。
【0110】
第一及び第二の実施形態において「真空」とは、「大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態」のことである。「真空」とは、JIS規格において工業的に利用できる圧力として定義された状態のことを指す。本実施形態においては、真空雰囲気は、低真空(100Pa以上)であってもよいが、中真空(0.1Pa~100Pa)であると好ましく、高真空(10-5Pa~0.1Pa)であるとより好ましい。
【0111】
「酸化性雰囲気」とは、雰囲気ガスが酸素を含むことを意味してよい。酸化性雰囲気の例には、大気雰囲気のほか、不活性ガスと酸素との混合ガス雰囲気も含む。
【0112】
第一及び第二の実施形態においては、金属酸化物として、酸化アルミニウムを用いた例を以下に説明する。
【0113】
第一及び第二の実施形態に係る複合焼結体の製造方法では、用いる酸化アルミニウム粒子は、酸化アルミニウムの含有量が99.99%以上であることが好ましい。このような高純度の酸化アルミニウム粒子は、ミョウバン法を用いることにより調整可能である。ミョウバン法を用いて調整した酸化アルミニウム粒子は、例えばバイヤー法を用いて調整した酸化アルミニウム粒子と比べると、金属不純物であるナトリウム原子の含有量を大幅に低減することが可能である。また、所望の純度の酸化アルミニウム粒子が得られるのであれば、その他の種々の方法を採用可能である。
【0114】
((a)プレ酸化工程)
第一及び第二の実施形態に係る複合焼結体の製造方法では、まず、原料として用いる炭化ケイ素粒子について、酸化性雰囲気下で加熱処理を施す。すなわち前記加熱処理によって、予め炭化ケイ素粒子の表面を酸化処理する、プレ酸化工程を有する。以下、上記酸化処理のことを「プレ酸化」と称する場合がある。プレ酸化の温度と時間は任意に選択できる。温度は、例えば250~600℃が好ましく、300~500℃がより好ましい。プレ酸化工程の時間は、例えば1~24時間が好ましく、6~12時間がより好ましい。ただしこれらの例のみに限定されない。例えば、500℃で12時間加熱することにより、プレ加熱を好ましく行うことができる。炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、任意に選択できるが、例えば20~100nmであることが好ましく、35~80nmであることがより好ましい。ただしこれらの例のみに限定されない。前記平均粒子径は、粒子の長さ平均径であってよい。
【0115】
炭化ケイ素粒子をプレ酸化処理することにより、炭化ケイ素粒子の表面に酸化ケイ素(SiO)の膜が生じる。その結果、炭化ケイ素粒子の親水性が高まる。これにより、スラリー中での炭化ケイ素粒子の分散性が向上する。
【0116】
((b)スラリーを得る工程)
スラリーを得るために混合をする工程においては、粉砕混合装置を、例えば2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用いる。分散媒を用意し、これ酸化アルミニウム粒子とプレ酸化後の炭化ケイ素粒子を分散させる。前記装置を用いて、この分散液をそれぞれ加圧することで高速で噴射して、酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子をお互いに衝突させながら、混合する。この混合により、酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子とが粉砕され、これら粒子の粉砕粒子を含む、分散液(スラリー)が得られる。噴射速度は任意に選択できるが、例えば300ml/min~550ml/minであることが好ましい。
原料として使用される酸化アルミニウムなどの金属酸化物粒子の平均粒子径は、任意に選択できるが、例えば0.05~0.3μmであることが好ましく、0.1~0.25μmであることがより好ましい。
金属酸化物粒子と炭化ケイ素粒子の合計に対する、炭化ケイ素粒子の割合は、3~15質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。ただしこれらの例のみに限定されない。
スラリー中の金属酸化物粒子と炭化ケイ素粒子の合計量の割合は任意に選択でき、例えば、3~15質量%であってもよく、5~10質量%であってもよい。
【0117】
分散媒は任意に選択でき、例えば水、及び、メタノール、エタノールなどのアルコール類を用いることができる。これらの分散媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子とを衝突させる際、大きい粒子は、衝突時の運動エネルギーが大きく、粉砕されやすい。一方、小さい粒子は、衝突時の運動エネルギーが小さく、粉砕されにくい。そのため、上記粉砕混合装置を用いて得られる、粉砕された酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子は、粗大粒子や過粉砕の粒子の少ない、粒度分布幅の狭い粒子となる。したがって、2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用いて粉砕混合した混合粒子を用いると、焼結工程において、粗大粒子を核とする異常粒成長を抑制することができる。
【0119】
また、このような粉砕混合装置を用いて粉砕混合する場合、例えば、ボールミルやビーズミル等のメディアを用いて粉砕混合する方法と比べると、各メディアの破損に起因した不純物の混入を抑制することが可能である。
【0120】
((c)pHを調整する工程)
pHを調整する工程においては、スラリー中の酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子との表面電荷を考慮して、スラリーのpH調整を行う。上記混合する工程で得られるスラリー(pH調整前のスラリー)は、通常、pH11程度の塩基性を示す。
【0121】
図2は、系のpHと各粒子のζ電位との関係を示すグラフである。図中、横軸は系のpHを示し、縦軸は、各粒子のζ電位(単位:mV)を示す。なお図中の酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子は、別々に評価された。
【0122】
図2に示すように、系のpHが酸性側(pH<7)の場合、酸化アルミニウム粒子のような金属酸化物粒子は、ζ電位が正となる。これは、系のpHが酸性側の場合、金属酸化物粒子の表面の水酸基がプロトン(H)化され、表面が正電荷を帯びることによる。
【0123】
一方、系のpHが塩基性側(pH>7)の場合、酸化アルミニウム粒子のような金属酸化物粒子は、ζ電位が負となる。これは、系のpHが塩基性側の場合、金属酸化物粒子の表面の水酸基からプロトンが解離し、表面が負電荷を帯びることによる。
【0124】
これに対し、炭化ケイ素粒子のζ電位の挙動は異なる。図に示すように炭化ケイ素粒子は、pH2~3付近でζ電位が0となり、pH3付近の酸性領域から、塩基性領域までの広い範囲でζ電位が負となる。
【0125】
このような関係のある2つの粒子が同じスラリーに共存している場合、系のpHが「スラリー中の酸化アルミニウム粒子の表面電荷が正」となり、「スラリー中の炭化ケイ素粒子の表面電荷が負」となる範囲では、両粒子が凝集する、所謂ヘテロ凝集が生じる。なお図2においては、系のpHが上記範囲となる範囲は、pH約2.6~7.5である。
【0126】
酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子とが沈殿しないように、スラリー中には、適宜分散剤を添加しておくことが好ましい。分散剤としては、公知の分散剤、例えばポリカルボン酸系の分散剤を用いることができる。分散剤は市販品を好ましく用いることができ、例えば、アロンA6114(東亜合成株式会社製)を用いることができる。
【0127】
系のpHは、3以上7以下が好ましく、5以上7以下がより好ましく、6以上7以下がさらに好ましい。pH調整後の両粒子のζ電位同士を比べた場合、ζ電位の絶対値が近いほどヘテロ凝集しやすく、所望の凝集状態となる。
【0128】
pHの調整は、スラリーに酸を加えることにより行うことができる。使用可能な酸としては、硝酸、リン酸、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸等の有機酸を好ましく挙げることができる。このうち、塩酸、硫酸等は、後述の焼結する工程において装置内で塩素や硫黄を生じ、装置劣化の原因となり得る可能性がある。そのため、pHの調整には、硝酸、リン酸、及び有機酸等を用いることが好ましい。
【0129】
((d)顆粒を得る工程)
顆粒を得る工程においては、pH調整後のスラリーから分散媒を除去し、酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子とを含む顆粒を得る。分散媒を除去する方法としては任意に選択でき、例えば公知のスプレードライ法を好適に用いることができる。顆粒の大きさは任意に選択できるが、一般的には、例えば30~100μmや、50~85μmなどであっても良い。
【0130】
スプレードライ法では、スラリーの微小液滴を噴霧してスラリーの単位体積あたりの表面積を増大させ、微小液滴に連続して熱風を接触させることにより、瞬間的に乾燥・造粒を行うことができる。スプレードライ法にて造粒された顆粒は、微小液滴の形状を反映した球状になりやすい。
【0131】
((e)酸化処理する工程)
酸化処理する工程においては、2つの雰囲気下において、順次処理を行う。
まず、得られた顆粒を、非酸化性雰囲気下において、常圧で(プレスすることなく)、300℃以上600℃以下(例えば500℃)に加熱し、顆粒に含まれる水分、分散媒、及び分散剤等の夾雑物を除去する。上記温度は、必要に応じて、300~400℃や、400~500℃や、500~600℃であってもよい。加熱時間は任意に選択できるが、例えば、3~8時間や、8~10時間や、10~15時間であってもよい。
【0132】
非酸化性雰囲気としては、窒素やアルゴンを用いた不活性ガス雰囲気が好ましい。また、不活性ガス雰囲気下で上記加熱を行う場合、発生する夾雑物を系外に効率的に排出するため、雰囲気ガスを流動させる、いわゆるガスフローでの加熱処理が好ましい。
【0133】
次に、夾雑物を除去した顆粒を、酸化性雰囲気下で、任意に選択される温度で、例えば400℃で、加熱して酸化処理する。酸化処理する雰囲気は任意に選択できるが、大気雰囲気であることが好ましい。上記温度は、必要に応じて選択でき、250~370℃や、300~500℃や、400~600℃などであってもよい。加熱時間は任意に選択できるが、例えば1~5時間や、5~12時間や、12~24時間であってもよい。
このような操作によれば、酸化処理において顆粒に含まれる炭化ケイ素粒子の表面には酸化膜が形成される。酸化膜には、顆粒に含まれる金属不純物が溶け出しやすい。このため、顆粒に含まれる金属不純物が粒子表面に偏って存在することになる。その場合、後述する加圧焼結する工程において、金属不純物を除去しやすいため好ましい。
【0134】
また、顆粒に対して酸化処理を施すと、例えば、顆粒を成形した後の成形体に酸化処理を施す場合と比べ、顆粒を構成する炭化ケイ素粒子の表面を酸化しやすい。そのため、酸化処理の結果、炭化ケイ素粒子の表面にムラなく酸化膜が形成されやすく好ましい。
【0135】
((f)成形体を得る工程)
次いで、目的とする焼結体の形状に応じて、得られた顆粒を成形、好ましくは一軸成形(一軸プレス成形)し、成形体を得る。
【0136】
((g)加圧焼結する工程)
加圧焼成する工程においては、最初に予備加熱を行うことが好ましい。まず、上述の成形体を、真空雰囲気において、1600℃よりも低い温度且つ常圧で(プレスすることなく)、加熱(予備加熱)する。このような操作によれば、予備加熱時の温度を適宜設定することにより、顆粒に含まれるアルカリ金属等の金属不純物が蒸発し、金属不純物を容易に除去できる。そのため、このような操作によれば、顆粒の純度を向上しやすくなり、得られる複合焼結体の体積抵抗値(体積抵抗率)を制御しやすくなる。上記温度は、必要に応じて選択でき、800~1000℃や、1000~1500℃などであってもよい。加熱時間は任意に選択でき、例えば1~5時間や、3~8時間や、6~12時間であってもよい。
【0137】
また、成形する工程において、上述したように夾雑物が除去されている成形体に対し処理を施すと、真空雰囲気下で予備加熱することにより、粒子表面に形成された酸化膜が揮発する。同時に、酸化膜に含まれる金属不純物が蒸発する。そのため、成形体から金属不純物を容易に除去できる。したがって、このような操作によれば、顆粒の純度を向上しやすくなり、得られる複合焼結体の体積抵抗値を制御しやすくなる。
【0138】
第一及び第二の実施形態の複合焼結体の製造方法においては、例えば、真空雰囲気下、1200℃で4時間以上予備加熱した後、大気圧まで、不活性ガス、例えばアルゴンを用いて、気圧を戻すことが好ましい。
【0139】
次いで、予備加熱を施した成形体を、非酸化性雰囲気、例えばアルゴン雰囲気において、5MPa以上の圧力で押し固めながら、1600℃以上に加熱して、加圧焼結する。このような操作によれば、成形体に含まれる酸化アルミニウム粒子や炭化ケイ素粒子の焼結が進行し、気孔の少ない緻密な焼結体が得られる。上記温度は、必要に応じて選択でき、1700~1800℃や、1800~1900℃などであってもよい。加熱時間は任意に選択でき、例えば1~5時間や、3~8時間や、6~12時間であってもよい。
【0140】
第一及び第二の実施形態の複合焼結体の製造方法においては、例えば、アルゴン雰囲気下、1600℃以上1850℃以下で、焼結圧力25MPa以上50MPa以下の範囲で、加圧焼結することが好ましい。
【0141】
このような方法で製造して得られた焼結体は、金属不純物含有量が低減し高純度な焼結体となる。金属不純物含有量が目標値に達しない場合には、予備加熱の時間を長くする、または予備加熱の温度を高くするとよい。
【0142】
以下、図を用いて、上述した複合焼結体の製造方法についてさらに説明する。図3~9は、第一及び第二の実施形態の複合焼結体の製造方法について説明する説明概略図である。
【0143】
図3は、例えば、酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子を含むpH6.5程度のスラリーにおける、各粒子の状態を示す模式図である。図3において、符号Aは酸化アルミニウム粒子、符号Bは炭化ケイ素粒子を示す。図4は、図3で示したスラリーから分散媒を除去した時の粒子の状態を示す模式図である。
図6図8図11は、図4図5図7などで示した粒子を用いて、作成した複合焼結体を示す模式図である。図6図8図11において、六角形部分は、主相である酸化アルミニウムの結晶粒を示している。黒丸は、副相である炭化ケイ素の結晶粒を示す。灰色の丸はケイ酸塩の凝集体を示している。
【0144】
上述の図2で示したように、pH6.5程度のスラリーにおいては、酸化アルミニウム粒子の表面が正に帯電し(ζ電位が正)、炭化ケイ素粒子の表面は負に帯電する(ζ電位が負)。そのため、上記pHのスラリー系中では、種類の異なる粒子同士である酸化アルミニウム粒子と炭化ケイ素粒子とが凝集する、所謂ヘテロ凝集が生じる。その結果、相対的に大きい粒子である酸化アルミニウム粒子の表面に、相対的に小さい粒子である炭化ケイ素粒子が付着する。
【0145】
なお、第一及び第二の実施形態の複合焼結体の製造方法において、スラリーのpHを6.5程度に調整した結果、炭化ケイ素粒子のζ電位が低下すると、炭化ケイ素粒子同士で凝集(ホモ凝集)する可能性も高まる。
【0146】
上述のように、用いる炭化ケイ素粒子をプレ酸化しておく場合、炭化ケイ素粒子の分散性が向上する。そのため、プレ酸化処理を施した炭化ケイ素粒子を用いる場合、炭化ケイ素粒子のホモ凝集を抑制し、上記ヘテロ凝集を優位に進めることができる。このことにより、所望の凝集状態(ヘテロ凝集)を得やすくなる。
【0147】
図4に示すように、(d)顆粒を得る工程において分散媒を除去する際には、すでに表面に炭化ケイ素が付着した酸化アルミニウムが凝集する。このことにより、異種粒子同士が均一に混ざり合いやすい状況が生まれる。その結果、(g)加圧焼結する工程において、炭化ケイ素粒子を取り込みながら、酸化アルミニウム粒子同士が焼結しやすくなる。
【0148】
さらに、本実施形態の複合焼結体の製造方法においては、(d)顆粒を得る工程において得られる顆粒を、(e)工程において、非酸化性雰囲気下で300℃以上600℃以下に加熱し、この後、顆粒の表面を酸化処理している。これにより、顆粒に含まれる金属酸化物粒子の表面および炭化ケイ素粒子の表面を覆う分散剤が除去され、炭化ケイ素粒子の表面が酸化される。またこの工程によって、炭化ケイ素粒子の表面がムラなく酸化され、均質な複合焼結体となりやすい。そのため、得られる複合焼結体の電気特性が、温度に依存しにくく、広い温度範囲で安定した物性が得られやすい。
【0149】
図5においては、炭化ケイ素粒子Bを、炭化ケイ素からなるコアB1と、酸化ケイ素からなるシェルB2との、コア-シェル構造体として示している。図5に示すように、酸化アルミニウム粒子Aの表面および炭化ケイ素粒子Bの表面が分散剤Cで覆われたまま、(g)加圧焼結する工程において焼結させる場合、各粒子表面の分散剤Cが酸化アルミニウム粒子AとシェルB2との接触を阻害する。そのため、焼結のための昇温過程において、まず分散剤Cが除去された後に、初めて、酸化アルミニウム粒子AとシェルB2との接触、すなわち、酸化アルミニウム粒子AとシェルB2との焼結が生じることとなる。
【0150】
このような反応では、まず分散剤が除去された後に、酸化アルミニウム粒子AとシェルB2とが直接接触し反応を開始することになり、その頃には、予め分散剤Cを除去している本実施形態の製造方法と比べて、相対的に高温の温度となっていると考えられる。そのため、生じるケイ酸塩が相対的に粒成長しやすい、と考えられる。
【0151】
その結果、図6に示すように、生じるケイ酸塩が粒成長しやすく、粗大化しやすい、と考えられる。このような複合焼結体がプラズマにさらされる場合、粗大化したケイ酸塩Cが浸食されやすい。その結果、局所的な破損が生じ、短寿命化する。
【0152】
図7に示すように、本実施形態の(e)酸化処理する工程で得られた顆粒は、粒子表面から分散剤Cが既に除去されている。このような顆粒を用い、(f)成形体を得る工程で得られる成形体においては、酸化アルミニウム粒子Aと、炭化ケイ素粒子Bの酸化ケイ素からなるシェルB2とが良好に接触する。
【0153】
そのため、次に行われる(g)加圧焼結する工程において、成形体を焼結温度として設定した温度にまで所定の昇温レートで昇温させた場合、酸化アルミニウム粒子Aと炭化ケイ素粒子Bの表面のシェルB2(SiO膜)の反応が、焼結可能な温度に達するとすぐに始まる。このような反応では、金属酸化物粒子とシェルB2(SiO膜)とが、比較的低温の温度条件で反応を開始する。
【0154】
その結果、図8に示すように、得られた複合焼結体においては、生じるケイ酸塩が粒成長しにくく、微細なケイ酸塩が生じやすいと考えられる。図6においては、ケイ酸塩の凝集体を符号Dで示している。このような複合焼結体がプラズマにさらされる場合には、ケイ酸塩Dから浸食されるが、ケイ酸塩Dが微細化され分散していることから、局所的な大きな破損が生じず、長寿命化することができる。
【0155】
複合焼結体は、酸化アルミニウムが、多くの炭化ケイ素の結晶粒を、結晶内部に取り込みながら成長する。このため、酸化アルミニウムAの結晶粒界における、炭化ケイ素Bの結晶粒は、存在量が少なくなる。また、本実施形態の複合焼結体は、酸化アルミニウムの結晶粒内においても、炭化ケイ素の結晶粒は、小さくなりやすく、粒子数も多くなりやすい。
【0156】
以上のようにして、本実施形態の複合焼結体を製造することができる。
【0157】
得られた複合焼結体は、続く工程において研削することにより、所望の基体とすることができる。基体の載置面に形成された突起については、公知の方法により適宜形成可能である。
【0158】
以上のような複合焼結体によれば、広い温度範囲で高い誘電率と低い誘電正接とを両立することができる。
【0159】
また、このような複合焼結体を用いた静電チャック部、静電チャック装置によれば、低周波領域において好適に用いることができるものとなる。
【0160】
また、以上のような複合焼結体の製造方法によれば、上述の複合焼結体を容易に製造可能となる。
【0161】
また、以上のような静電チャック部、静電チャック装置によれば、高いウエハ吸着力と高い耐電圧とを備えた高性能なものとなる。
【0162】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例
【0163】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0164】
以下に、評価で用いた方法を記載する。
(金属酸化物の結晶粒の平均結晶粒径の測定)
複合酸化物(焼結体)の表面を、砥粒の平均粒径3μm(粒度表示:#8000)のダイヤモンドペーストで鏡面研磨した。その後、アルゴン雰囲気下、1400℃で30分サーマルエッチングを施した。
【0165】
得られた焼結体の表面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー株式会社製、型番:S-4000)を用いて、拡大倍率10000倍で、組織観察を行った。
【0166】
得られた電子顕微鏡写真を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View Version4、株式会社マウンテック製)に取り込み、200個以上の金属酸化物の結晶粒の長軸径を算出させた。得られた各結晶粒の長軸径の算術平均値を、求める「平均結晶粒径」とした。
【0167】
(金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒の割合)
上記の金属酸化物の結晶粒の平均結晶粒径の測定で得られた電子顕微鏡写真を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View Version4、株式会社マウンテック製)に取り込み、200個以上の炭化ケイ素粒子の面積を算出させた。電子顕微鏡写真から各炭化ケイ素粒子について金属酸化物の結晶粒内に存在しているか否かを判断し、面積を求めた炭化ケイ素粒子全体に対する、金属酸化物の結晶粒内に分散している炭化ケイ素の結晶粒の割合を求めた。
【0168】
(ケイ酸塩の平均凝集径の測定)
複合酸化物(焼結体)の表面を、砥粒の平均粒径3μm(粒度表示:#8000)のダイヤモンドペーストで鏡面研磨した。次いで、鏡面研磨を行った焼結体表面について、電子線プローブマイクロアナライザー(日本電子株式会社製、型番JXA-8530F)を用いて電子像を撮像した。撮像時の拡大倍率は1000倍、撮像範囲は面積600μmの矩形であった。
【0169】
得られた電子顕微鏡写真を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View Version4、株式会社マウンテック製)に取り込み、ケイ酸塩の凝集径を算出させた。
【0170】
上記測定を複合焼結体の任意の5箇所について行い、それぞれの箇所で求められたケイ酸塩の凝集径から、これらの算術平均値を得て、ケイ酸塩の「平均凝集径」とした。
【0171】
(ケイ酸塩の面積比)
上述のようにして得られた電子顕微鏡写真を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View Version4、株式会社マウンテック製)に取り込んだ。そして、金属酸化物と炭化ケイ素が占める領域の合計面積に対する、ケイ酸塩が占める領域の面積の比を算出させた。
【0172】
(平均硬度、平均ヤング率)
ISO14577-1に準ずる方法にて算出した。
複合焼結体の表面をRa0.02μmになるように研磨した。その後、前記表面について、微小硬度計(株式会社エリオニクス製、ENT-2100)を用い、試験荷重100mNにて押し込み硬さとヤング率とを測定した。測定を5回行い、求めた測定値の算術平均値を、それぞれ求める「平均硬度」と「平均ヤング率」とした。
【0173】
(耐プラズマ性)
後述の方法で作製した複合酸化物から、20mm×20mm×2mmの板状体を切り出し、一方の面を鏡面研磨して、得られた鏡面を試験面とする試験片を作製した。得られた試験片について、アセトン洗浄した後に、質量を測定した。また、試験面の表面粗さを、下記測定条件で測定した。
【0174】
(測定条件)
表面粗さ評価装置:ブルカー社製Dimension Icon
測定範囲:80μm×80μm
Scan Rate:0.2Hz
解像度:256×256
【0175】
次いで、試験片を、プラズマエッチング装置のチャンバー内に設置した。チャンバー内にSFガス(10sccm/分)、Ar(80sccm/分)、O(10sccm/分)及びマイクロ波(100W)を導入して、SFプラズマを発生させ、各試験片の試験面をSFプラズマに曝露した。プラズマ曝露時間は3時間、曝露中の雰囲気圧は20mTorrであった。なお、1Torr=133.322Paである。
【0176】
プラズマ曝露試験の後、上述の測定条件にて試験面の表面粗さを測定した。プラズマ曝露前後の表面粗さの変化から、耐プラズマ性を評価した。プラズマ曝露前後の表面粗さの変化が小さいほど、耐プラズマ性が高いと評価することができる。
【0177】
(体積固有抵抗値)
本実施例においては、直流三端子法により円盤状の焼結体の体積固有抵抗値を測定した。
【0178】
(使用機器)
スクリーン印刷機:MODEL MEC-2400型、ミタニマイクロニクス株式会社製
抵抗率測定装置:西山製作所製
絶縁計:デジタル絶縁計(型式DSM-8103、日置電機株式会社)
【0179】
(測定条件)
測定温度:室温(24℃)、50℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃
測定雰囲気:大気(流量200ml/分)
印加電圧:1kV
【0180】
(測定方法)
スクリーン印刷機を用いて、銀ペースト(NP-4635、株式会社ノリタケカンパニーリミテッド製)を焼結体の上面及び下面に印刷し、大気中100℃で12時間乾燥させた後、大気中450℃で1時間焼き付け、主電極、ガード電極、対極を形成した。図12は、本実施例で体積固有抵抗値を測定する際の焼結体の様子を示す模式図である。図において、符号100は焼結体、符号110は主電極、符号120はガード電極、符号130は対極を示す。
【0181】
このとき、主電極直径は1.47cmであり、ガード電極の内径は1.60cmであった。
【0182】
上述のように電極を形成した焼結体に対し、各測定温度において直流電圧を印加し、1分間充電後の電流を測定して、焼結体の体積抵抗を求めた。その後、焼結体の厚み、および電極面積を用いて下記式(1)より体積固有抵抗値(ρv)を算出した。
ρv=S/t×Rv=S/t×V/I …(1)
(S:電極の有効面積(cm)、t:焼結体の厚み(cm)、Rv:体積抵抗、V:直流電圧(V)、I:電流(A))
【0183】
(比誘電率・誘電正接)
本実施例においては、平行平板法にて比誘電率・誘電正接を測定した。
【0184】
(使用機器)
使用機器:インピーダンスアナライザー、型番E4990A、キーサイトテクノロジー社製(100kHz~1MHzの測定範囲)
LCRメーター、型番4274A、キーサイトテクノロジー社製(100Hz~100kHzの測定範囲)
【0185】
(測定条件)
測定雰囲気:大気
測定温度:25℃、100℃、150℃、200℃、300℃、400℃
【0186】
(実施例1)
出発原料として、平均粒子径が0.03μmであり熱プラズマCVDで合成されたβ-SiC型の炭化ケイ素(β-SiC)粒子と、平均粒子径が0.1μmであり金属不純物含有量が95ppmの酸化アルミニウム(Al)粒子とを用いた。
【0187】
β-SiC粒子については、大気雰囲気下、500℃で12時間加熱処理し、粒子表面を酸化させた。本操作は、本発明における「プレ酸化工程」に該当する。
以下の工程においては、プレ酸化処理を施したβ-SiCを用いた。
【0188】
β-SiC粒子とAl粒子を、β-SiC粒子とAl粒子との全体量に対し、β-SiC粒子が7質量%となるように秤量し、ポリカルボン酸系分散剤が入った蒸留水に投入した。β-SiC粒子とAl粒子とを投入した分散液について、超音波分散装置にて分散処理をした。この後、2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用いて、粉砕混合した。本操作は、本発明における「スラリーを得る工程」に該当する。
【0189】
得られた混合溶液について、スラリーに硝酸を添加し、スラリーのpHを6.5に調整した。
本操作は、本発明における「pHを調整する工程」に該当する。
【0190】
pHを調整したスラリーをスプレードライ装置にて噴霧乾燥させ、β-SiCとAlとを含む顆粒とした。
本操作は、本発明における「顆粒を得る工程」に該当する。
【0191】
次いで、顆粒を窒素雰囲気下、370℃まで昇温させ、水分および分散剤(夾雑物)を除去した。その後、顆粒を大気雰囲気下、300℃で12時間加熱した。
本操作は、本発明における「酸化処理する工程」に該当する。
【0192】
次いで、顆粒をプレス圧8MPaで一軸プレス成形し、直径320mm×15mm厚の成形体とした。
本操作は、本発明における「成形する工程」に該当する。
【0193】
得られた成形体を黒鉛製のモールドにセットし、加圧焼結を行った。まず、成形体を、真空雰囲気下、プレス圧を加えることなく1200℃まで昇温させた。その後、アルゴン雰囲気下、プレス圧40MPa、1800℃で焼結を行い、実施例1の複合焼結体を得た。
本操作は、本発明における「加圧焼結する工程」に該当する。
【0194】
また、実施例1の複合焼結体について、上述の条件にて電子顕微鏡写真を撮影した。得られた電子顕微鏡写真からAlの平均結晶粒径を求めたところ、1.61μmであった。また、SiCの平均結晶粒径を求めたところ、0.18μmであった。
【0195】
Alの結晶粒内に分散しているSiCの結晶粒の割合は、50%であった。
【0196】
(比較例1)
顆粒を、大気雰囲気下、300℃で12時間加熱する代わりに、一軸プレス成形して得られた成形体を、大気雰囲気下、300℃で12時間加熱し、その後、黒鉛製のモールドにセットして、加圧焼結を行った。これ以外は、実施例1と同様にして、比較例1の複合焼結体を得た。
【0197】
比較例1の複合焼結体について、上述の条件にて電子顕微鏡写真を撮影した。得られた電子顕微鏡写真からAlの平均結晶粒径を求めたところ、0.94μmであった。また、SiCの平均結晶粒径を求めたところ、0.26μmであった。
【0198】
Alの結晶粒内に分散しているSiCの結晶粒の割合は、18%であった。
【0199】
図9は、実施例1の複合焼結体のSEM像および同視野のEPMA像、図10は、比較例1の複合焼結体のSEM像および同視野のEPMA像である。
【0200】
図に示すように、いずれの複合焼結体においても、AlとSiとが同時に存在している領域が確認できる。このようにAlとSiとが同時に存在している領域は、本発明におけるケイ酸塩の凝集体である。
【0201】
また、図9,10からも明らかなように、図9に示す実施例1の複合焼結体では、図10に示す比較例1の複合焼結体よりもケイ酸塩の凝集体の凝集径が小さい。上述の方法で求めた平均凝集径については、後述の表1に示す。
【0202】
また、分析したところ、実施例1の複合焼結体におけるケイ酸塩の組成は、Al14Si、比較例1の複合焼結体におけるケイ酸塩の組成は、Al12Siであった。
【0203】
以下、評価結果を表1に示す。
【0204】
【表1】
【0205】
上述の方法で求めた実施例1の試験片の表面粗さは、プラズマ曝露前は10.2nm、プラズマ曝露後は349nmであった。
また、上述の方法で求めた表面粗さは、プラズマ曝露前は10.3nm、プラズマ曝露後は383nmであった。
【0206】
評価の結果、実施例1の複合焼結体は、比較例1の複合焼結体と比べ、耐プラズマ性に優れていることが分かった。
【0207】
図13は、実施例1、比較例1の誘電率および誘電正接の測定結果を示す散布図である。図の横軸は測定温度(単位:℃)、縦軸は、比誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を示す。
【0208】
図14は、実施例1、比較例1の体積抵抗値(体積低効率)の測定結果を示す散布図である。図14の横軸は測定温度の逆数(単位:K-1)を示す。縦軸は、体積抵抗値(体積抵抗率)(単位:Ω・cm)、すなわち、体積抵抗率ρ(Ω・cm)の対数logρ、を示す。
【0209】
評価の結果、実施例1の複合焼結体は、1MHzの比誘電率、200Hzの比誘電率ともに、24℃以上400℃以下の全範囲において10以上であった。
【0210】
また、実施例1の複合焼結体は、1MHzの比誘電率、200Hzの比誘電率ともに、24℃以上400℃以下の全範囲において安定していた。200Hzの比誘電率は、24℃以上400℃以下の範囲における最大値と最小値との差が2以下であった。
【0211】
また、実施例1の複合焼結体は、1MHzの誘電正接、200Hzの誘電正接ともに、24℃以上400℃以下の全範囲において0.04以下であった。
【0212】
さらに、実施例1の複合焼結体は、24℃以上400℃以下の全範囲において体積抵抗値(体積抵抗率)が1×10-13Ω・cm以上であった。
【0213】
対して、比較例1の複合焼結体は、200Hzの誘電体および200Hzの誘電正接において、温度変化とともに大きく値が変化した。比較例1の複合焼結体は、一軸プレス成形して得られた成形体を酸化処理しているため、複合焼結体の原料である炭化ケイ素粒子の酸化状態にムラが生じ、温度依存性が発現したものと考えられる。
【0214】
本実施形態の結果から、本発明が有用であることが分かった。本実施形態の結果から、本発明の複合焼結体は、広い温度範囲において高い誘電率と低い誘電正接とを両立することが分かり、本発明が有用であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明は、局所的なプラズマ浸食を受けにくい複合焼結体を提供する。また、このような複合焼結体を用いた静電チャック部材、静電チャック装置を提供する。さらに、このような複合焼結体を容易に製造可能とする複合焼結体の製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0216】
1 静電チャック装置
2 静電チャック部
3 温度調節用ベース部
3A 流路
3b 貫通孔
4 接着層
5 ヒータエレメント
6 接着層
7 絶縁板
8 接着剤層
10 フォーカスリング
11 載置板(基体)
11a 載置面
11b 突起部
12 支持板(基体)
13 静電吸着用電極
14 絶縁材層
15 給電用端子
15a 碍子
16 貫通孔
17 給電用端子
18 筒状の碍子
19 溝
20 温度センサー
21 設置孔
22 温度計測部
23 励起部
24 蛍光検出器
25 制御部
28 ガス穴
29 筒状の碍子
A 酸化アルミニウム粒子
B 炭化ケイ素粒子
B1 コア
B2 シェル
C 分散剤
D ケイ酸塩
W 板状試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14