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特許7111260感熱接着シート及び感熱接着シートを貼合した物品の製造方法
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  • 特許-感熱接着シート及び感熱接着シートを貼合した物品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】感熱接着シート及び感熱接着シートを貼合した物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/35 20180101AFI20220726BHJP
   C09J 153/00 20060101ALI20220726BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20220726BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20220726BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C09J7/35
C09J153/00
C09J133/06
C09J153/02
B32B27/00 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021545200
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032268
(87)【国際公開番号】W WO2021049301
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019164485
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】下岡 澄生
(72)【発明者】
【氏名】森野 彰規
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163812(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031550(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/060224(WO,A1)
【文献】特開平09-109266(JP,A)
【文献】特開昭61-068076(JP,A)
【文献】特開2010-065195(JP,A)
【文献】特開2017-214597(JP,A)
【文献】特開2020-041138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
B29C 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-50℃~200℃の範囲内で、且つ周波数3Hzで測定された引っ張りの損失正接(tanδ)のピーク温度を90℃以上に少なくとも一以上及び-20℃以下に少なくとも一以上有し、且つ100℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a100)が5×10Pa~1×10Paである感熱接着剤層(a)を有し、
前記感熱接着剤層(a)が、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)と90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)とを有するブロック共重合体を含有し、前記ブロック共重合体中における前記重合体ブロック(S2)の含有率が29質量%~49質量%であり、
前記ブロック共重合体は、前記重合体ブロック(S1)が、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、ブタジエン、ブタジエンの水素添加物、イソブテン、及びイソブテンの水素化物からなる群から選択される少なくとも1種からなる重合体ブロックであり、前記重合体ブロック(S2)が、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びスチレンからなる群から選択される少なくとも1種からなる重合体ブロックであり、
前記ブロック共重合体の前記重合体ブロック(S1)と前記重合体ブロック(S2)の組み合わせは、
前記重合体ブロック(S1)がメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルの少なくとも1種からなる重合体ブロックであり、前記重合体ブロック(S2)がメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルの少なくとも1種からなる重合体ブロックである、
もしくは、
前記重合体ブロック(S1)がブタジエン、ブタジエンの水素添加物、イソブテン、及びイソブテンの水素化物からなる群から選択される少なくとも1種からなる重合体ブロックであり、前記重合体ブロック(S2)がスチレンの重合体ブロックであり、
前記感熱接着剤層(a)を接着層として熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の表面に貼合するために用いられる感熱接着シート。
【請求項2】
前記感熱接着剤層(a)中の粘着付与剤の含有量が、前記ブロック共重合体の総量100質量部に対して0質量部、又は1質量部~30質量部である、請求項1記載の感熱接着シート。
【請求項3】
前記感熱接着剤層(a)が、前記ブロック共重合体として、前記重合体ブロック(S1)がポリアクリル酸n-ブチルからなり、前記重合体ブロック(S2)がポリメタクリル酸メチルからなるブロック共重合体を含有するか、又は、前記重合体ブロック(S1)が水素化ポリブタジエンからなり、前記重合体ブロック(S2)がポリスチレンからなるブロック共重合体を含有する、請求項1又は2に記載の感熱接着シート。
【請求項4】
前記感熱接着剤層(a)が、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)が形成するドメインの大きさが平均160nm以上のブロック共重合体を含有する、請求項1~3いずれか一項に記載の感熱接着シート。
【請求項5】
前記感熱接着剤層(a)が、10μm~300μmの範囲の厚さを有するものである、請求項1~4いずれか一項に記載の感熱接着シート。
【請求項6】
前記熱可塑性貼合材(B)の厚さが、0.05mm~5mmである、請求項1~5いずれか一項に記載の感熱接着シート。
【請求項7】
前記熱可塑性貼合材(B)及び前記成形物(C)の少なくとも一方が、温度85℃及び相対湿度85%RHの環境下に24時間放置された場合に気体を発生し得る被着体である請求項1~6いずれか一項に記載の感熱接着シート。
【請求項8】
前記感熱接着剤層(a)と前記熱可塑性貼合材(B)の間、または、前記感熱接着剤層(a)と前記成形物(C)の間に、前記感熱接着シートの厚みの35%以下の厚みの加飾層或いは金属加工層が積層された請求項1~7のいずれかに記載の感熱接着シート。
【請求項9】
請求項1~8に記載の感熱接着シートの感熱接着剤層(a)を接着層として熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の表面に貼合した物品の製造方法において、
前記感熱接着シートの前記感熱接着剤層(a)と前記熱可塑性貼合材(B)とを貼合して積層物を形成する工程[1]と、
前記工程[1]の後、前記熱可塑性貼合材(B)或いは前記感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱し、前記積層物の感熱接着剤層(a)と前記成形物(C)とを加圧して貼合する工程[2]と、を含む物品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8に記載の感熱接着シートの感熱接着剤層(a)を接着層として熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の表面に貼合した物品の製造方法において、
前記感熱接着シートの前記感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱し、前記感熱接着シート(A)の前記感熱接着剤層(a)と前記成形物(C)とを加圧して貼合する工程[3]と、
前記工程[3]の後、前記熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃に加熱し、前記熱可塑性貼合材(B)と前記感熱接着剤層(a)とを加圧して貼合する工程[4]と、を含む物品の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8に記載の感熱接着シートの感熱接着剤層(a)を接着層として熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の表面に貼合した物品の製造方法において、
前記感熱接着シートの前記感熱接着剤層(a)と前記熱可塑性貼合材(B)とを貼合して積層物を形成する工程[1]と、
前記工程[1]の後、前記積層物の前記熱可塑性貼合材(B)或いは前記感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱し、前記成形物(C)と同型の型枠に加圧し、前記積層物を前記成形物(C)の形状へ成形する工程[5]と、
成形した前記積層物を前記成形物(C)の表面に被せ、前記熱可塑性貼合材(B)或いは前記成形物(C)の少なくとも一方の側から前記感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱して、前記感熱接着剤層(a)と前記成形物(C)とを貼合する工程[6]と、を含む物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱接着シート及び感熱接着シートを貼合した物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
意匠性や機能性を成形物表面へ付与する目的で、家電製品、モバイル端末機、自動車等の内外装部品等の成形物表面には、着色塗料や金属蒸着等で着色した加飾層(以下、加飾層とする)、或いはタッチセンサー素子やアンテナ線等の金属配線等を伴う機能層(以下、機能層とする)が積層される。これら加飾層や機能層表面を擦傷や劣化や腐食等から保護する目的で、これら加飾層や機能層の表層には、ポリカーボネート樹脂製やアクリル樹脂製等の熱可塑性貼合材が貼合される。更に、前記熱可塑性貼合材の表面には、ハードコート層やマット層、紫外線吸収層や帯電防止層等を積層することができ、これらの層により、擦傷や紫外線劣化や帯電放電による断線等のダメージから前記加飾層や機能層をより効率的に保護できる。また、前記加飾層や機能層は、予め前記熱可塑性貼合材の裏面側に積層した後に成形物表面へ貼合すれば、成形物表面へこれらを直接積層する場合に比べ、簡便に積層を行うことができる。
【0003】
熱可塑性貼合材と成形物との貼合方法としては、例えば熱可塑性貼合材のみを90℃~200℃程度で1秒間~300秒間程度加熱して軟化させ、減圧空間内に設置した成形物の表面へ圧縮空気等によって強く押し当て、加熱された前記熱可塑性貼合材を三次元方向へ変形させながら成形物表面の形状に沿うように密着させて固着させる、圧空成形機や真空成形機やTOM成形機等による貼合方法が用いられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし粘着性が生じる温度以上に熱可塑性貼合材を加熱し、成形物表面へ貼合する方法では、熱可塑性貼合材の表面も軟化し、艶むらや波うち等の外観不良を起こしやすい。そのため、熱可塑性貼合材と成形物との間に接着剤層を挟み、熱可塑性貼合材の成形時の加熱温度を低下させる方法が用いられる。
【0005】
前記接着剤層としては、例えば熱や湿気や紫外線などの刺激エネルギーで硬化反応する液状接着剤が用いられる(例えば、特許文献2)。しかし、熱や湿気で硬化する液状接着剤を用いる場合は、熱可塑性貼合材を成形物表面へ貼合してから硬化まで、およそ24時間程度の硬化時間を要する。また、紫外線で硬化する液状接着剤を用いる場合は、熱可塑性貼合材裏面の加飾層等の遮蔽物や紫外線吸収層等による光線透過の阻害を受け、紫外線硬化が阻害されて硬化不足を生じやすい。そのため、上述の液状接着剤が硬化し、熱可塑性貼合材が固定されるまでの期間内に、三次元方向へ変形された熱可塑性貼合材の曲面反発力によって端部から浮きや剥がれが発生したり、液状接着剤が流動してはみ出したり、接着剤層の厚みが変化しやすいという問題があった。更に、熱可塑性貼合材と積層された状態で90℃~200℃程度まで加熱されると、加熱によって熱可塑性貼合材から発生した気体によって液状接着剤が気泡を形成しやすい問題があった。
【0006】
また、液状接着剤ではなく、重合性のモノマー或いはオリゴマー成分を含有する熱硬化型や紫外線硬化型の接着シートが用いられることがある。これらの接着シートは、上述した液状接着剤のような、端部からの浮きや剥がれ、流動による貼合物からのはみ出しや厚みの変化は生じにくいが、前記液状接着剤と同様、熱可塑性貼合材と積層された状態で90℃~200℃程度まで加熱された際に、重合性のモノマー或いはオリゴマー成分が著しく接着剤層を軟化し、熱可塑性貼合材から発生した気体によって接着シートが気泡を形成しやすい問題があった。
【0007】
重合性のモノマー或いはオリゴマー成分を含有しない非硬化型の感圧接着シートを用いる場合は、前記課題は解決されるが、温度85℃及び相対湿度85%RHといった高温多湿環境下に長期間放置された際に、熱可塑性貼合材或いは成形物の少なくとも一方が気体を発生しうるものであった場合、発生気体の圧力で接着層が経時で変形し、接着シートが気泡を形成したり剥がれたりする問題があった。
【0008】
熱可塑性貼合材や成形物から発生する気体を接着剤層の界面から周囲へ放出させるための溝を設けたり(例えば、特許文献3)、熱可塑性貼合材表面に微細な気孔を設けたりする場合は、加熱貼合後もこれらの溝や気孔が残留することとなり、外観上劣るものであった。また、貼付後の熱可塑性貼合材や成形物表面からの気体発生を抑制するために、これらの被着体を予め加熱して気体を放出させる工程が必要となり(例えば、特許文献4)、生産効率に劣るものであった。
【0009】
また、前記液状接着剤や接着シートを用いた場合は、室温下でべたつきが高いため、圧空成形機や真空成形機やTOM成形機等の貼合装置へ取り付ける際、位置修正が困難であったり、接着剤表面に汚れや異物が付着し、貼合後の外観が損なわれたりするという問題もあった。更に、先に熱可塑性貼合材を成形物の形状に沿うように成形した後、前記液状接着剤や接着シートで成形物の表面へ貼合する場合、室温下でべたつきが高いため、接合位置がずれたり、貼合界面に気泡を混入させてしまうといった問題もあった。
重合性のモノマー或いはオリゴマー成分を含有せず、90℃未満では固形でべたつきが無く、90℃~200℃で軟化するホットメルト型の感熱接着剤や感熱接着シートを用いる場合は、前記課題は解決されるが、低温環境下では柔軟性に欠けるため、自動車等のような0℃以下の寒冷環境下で使用されたり、家電製品やモバイル端末機等の冷熱が繰り返されたりする用途では、熱可塑性貼合材と成形物との膨張差から発生する歪みを接着剤層が緩和しきれず、熱可塑性貼合材と成形物との間に浮きや剥がれが生じやすい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-145103号公報
【文献】特開2015-072343号公報
【文献】特開2011-016258号公報
【文献】特開2014-205335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、熱可塑性貼合材等を90℃~200℃程度に加熱して成形物表面等へ三次元方向に変形させながら貼合する工程において、熱可塑性貼合材等から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材等の曲面反発による剥がれを抑制して熱可塑性貼合材等と成形物等との接着を実現可能とし、更にはこれら貼合物が高温多湿環境下に放置されても、熱可塑性貼合材等或いは成形物等の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制し、更には寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする場合でも、熱可塑性貼合材等と成形物等との間の浮きや剥がれが抑制できる感熱接着シート、及び上記感熱接着シートを用いて熱可塑性貼合材等と成形物等との貼合物を実現可能とする物品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、種々の引っ張り弾性率を持つ感熱接着剤層を有する感熱接着シート、及び上記感熱接着シートを用いた貼合方法によって、上記課題を解決することを見出した。
すなわち、本発明は、-50℃~200℃の範囲内で、且つ周波数3Hzで測定された引っ張りの損失正接(tanδ)のピーク温度を、90℃以上に少なくとも一以上及び-20℃以下に少なくとも一以上有し、且つ100℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a100)が5×10Pa~1×10Paである感熱接着剤層(a)を有し、前記感熱接着剤層を接着層として熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の表面へ貼合するために用いられる感熱接着シート(A)を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感熱接着シートは、熱可塑性貼合材等と成形物等とを接着するための接着剤層として、特定の感熱接着シートを使用することによって、熱可塑性貼合材等を90℃~200℃程度に加熱して成形物表面等へ三次元方向に変形させながら貼合する工程において、熱可塑性貼合材等から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材等の曲面反発による剥がれを抑制する、熱可塑性貼合材等と成形物等との接着を実現することができる。また、本発明の感熱接着シートは、熱可塑性貼合材等と成形物等との貼合物が高温多湿環境下に放置されても、熱可塑性貼合材等或いは成形物等の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制し、寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されても、熱可塑性貼合材等と成形物等との間の浮きや剥がれを抑制する熱可塑性貼合材等と成形物等との貼合物を実現することができる。このため、本発明の感熱接着シート及びそれを用いた物品の製造方法は、家電製品の外装、モバイル端末機の外装、自動車の内外装等に使用される樹脂製成形品の製造に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】帯状構造(ラメラ状)のドメインの一例を示すイメージ図である。
図2】帯状構造(シリンダー状)のドメインの一例を示すイメージ図である。
図3】非帯状構造のドメインの一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の感熱接着シートは、-50℃~200℃の範囲内で、且つ周波数3Hzで測定された引っ張りの損失正接(tanδ)のピーク温度を90℃以上に少なくとも一以上及び-20℃以下に少なくとも一以上有し、且つ100℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a100)が5×10Pa~1×10Paである感熱接着剤層(a)を有し、前記感熱接着剤層を接着層として熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の表面へ貼合するために用いられる感熱接着シート(A)を提供するものである。
【0016】
前記感熱接着シートによれば、熱可塑性貼合材(B)を加熱して成形物(C)の表面へ三次元方向に変形させながら貼合する際、前記感熱接着剤層(a)を有する感熱接着シート(A)が、熱可塑性貼合材(B)からの気体発生による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制することが可能であり、外観を損なうことなく貼合物を得ることができる。
【0017】
また、前記感熱接着シートによれば、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)とが感熱接着剤層(a)を有する感熱接着シート(A)で接着されることによって、前記貼合物が高温多湿環境下に放置されても、熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制し、寒冷環境下で放置されたり、冷熱が繰り返されたりする場合でも、熱可塑性貼合材と成形物との間の浮きや剥がれを抑制可能である。
【0018】
さらに、本発明の感熱接着シートは、上述の効果に加え、所定の物性を具備することで常温接着性が低いため、ごみが付着しにくく貼り直しも容易に行うことができる。加えて、本発明の感熱接着シートは、常温接着性が低いことで、成形された熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との貼合にも好適に用いることができる。詳述すれば、熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の形状に合わせて予め成形加工し、成形後の熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)とを接着シートを介して嵌合して接合する場合、接着シートの常温接着性が高いと、成形された熱可塑性貼合材(B)が上記接着シートを介して嵌合しにくく、十分に接合されない場合がある。これに対し、本発明の感熱接着シートによれば、常温接着性が低いため、成形済みの部材同士を十分に嵌合して接合させることが可能となる。
【0019】
なお、前記感熱接着剤層(a)及び感熱接着シート(A)は、熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)へ接着力が、温度23℃及び相対湿度50%RH下の貼付直後では1N/cm以下であり、90℃~200℃で1秒間~300秒間程度の加熱によって、温度23℃及び相対湿度50%RH下で5N/cm以上の接着強度に変化するものと定義する。
【0020】
前記感熱接着シート(A)としては、感熱接着剤層(a)の単層または2層以上によって構成されるものを使用することができる。
【0021】
1.感熱接着シート(A)
本発明の感熱接着シート(A)は、接着剤層として、-50℃~200℃の範囲内で、且つ周波数3Hzで測定された引っ張りの損失正接(tanδ)のピーク温度を90℃以上に少なくとも一以上及び-20℃以下に少なくとも一以上有し、且つ100℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a100)が5×10Pa~1×10Paである感熱接着剤層(a)を使用する。感熱接着剤層(a)を感熱接着シート(A)の接着層として使用することで、熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃に加熱して成形物(C)の表面へ貼合する際、感熱接着シート(A)を構成する前記感熱接着剤層(a)によって感熱接着を可能とするとともに、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制でき、外観を損なうことなく貼合物を得ることができる。更には、前記感熱接着剤層(a)は、前記貼合物が高温多湿環境下や寒冷環境下や冷熱環境下に放置されても、熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成を抑制でき、熱膨張差で発生する歪みによる剥がれを抑制できる。このように、感熱接着剤層(a)は、適切な硬さと接着強度を兼ね備えた感熱接着シート(A)の接着剤層となる。
【0022】
前記の90℃以上に少なくとも一以上ある前記損失正接のピーク温度は、100℃~150℃の範囲にあることが好ましく、110℃~140℃の範囲にあることがより好ましく、110℃~130℃の範囲にあることが特に好ましい。前記温度範囲にピーク温度があることで、熱可塑性貼合材(B)を三次元方向へ変形させるのに適切な軟化状態へ加熱して貼合する際に、感熱接着剤層(a)が適切な柔軟性を得て感熱接着が可能となるとともに、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制することができる。
【0023】
また、前記の-20℃以下に少なくとも一以上ある前記損失正接のピーク温度は、-60℃~-20℃の範囲にあることが好ましく、-50℃~-25℃の範囲にあることがより好ましく、-40℃~-25℃の範囲にあることが特に好ましい。前記温度範囲にピーク温度があることで、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)の貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする場合でも、感熱接着剤層(a)が適切な柔軟性を維持することができ、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差から発生する歪みを、感熱接着シート(A)を構成する感熱接着剤層(a)が緩和し、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれを抑制することができる。
【0024】
また、前記100℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a100)は、1×10Pa~7×10Paであることが好ましく、3×10Pa~5×10Paがより好ましく、3×10Pa~3×10Paであることが特に好ましい。前記引っ張り貯蔵弾性率の範囲の感熱接着剤層(a)を使用することによって、熱可塑剤性貼合材(B)を90℃~200℃で1秒間~300秒間程度加熱して成形物(C)へ貼合する際、適切な硬さと接着性を兼ね備えた感熱接着剤層となると共に、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制可能である。また、前記貼合物が高温多湿環境下や寒冷環境下や冷熱環境下に放置されても、気泡の形成や剥がれを抑制できる適切な硬さと接着強度を兼ね備えた感熱接着シート(A)の接着剤層となる。
【0025】
90℃以上にあるピーク温度における、前記感熱接着剤層(a)の損失正接(tanδ)は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、熱可塑性貼合材(B)を適切な軟化状態へ加熱して貼合する際に、感熱接着剤層(a)が適切な柔軟性を得て感熱接着し、且つ、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制するうえで、0.3~1.0の範囲にあることが特に好ましい。
【0026】
-20℃以下にあるピーク温度における、前記感熱接着剤層(a)の損失正接(tanδ)は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、前記感熱接着剤層(a)に構成された感熱接着シート(A)で接着された貼合物は、寒冷環境下や冷熱環境下に放置されても、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)の熱膨張差で発生する歪みによる剥がれを抑制できる適切な硬さと接着強度を低温環境下で維持するうえで、0.3~1.0の範囲にあることが特に好ましい。
【0027】
前記感熱接着剤層(a)の-20℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a-20)は、5×10Pa~3×10Paであることが好ましく、1×10Pa~9×10Paであることがより好ましく、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)の貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差から発生する歪みを感熱接着剤層(a)が緩和し、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれを抑制するうえで、3×10Pa~7×10Paであることが特に好ましい。
【0028】
前記感熱接着剤層(a)の25℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a25)は、1×10Pa~1×10Paであることが好ましく、5×10Pa~7×10Paであることがより好ましく、圧空成形機や真空成形機やTOM成形機等へ熱可塑性貼合材を室温下で取り付ける際の位置修正が容易になるとともに、熱可塑剤性貼合材(B)と成形物(C)の貼合物が室温下から寒冷環境下へ急激に放置されたり、冷熱が繰り返されたりする場合の浮きや剥がれを抑制するうえで、1×10Pa~5×10Paであることがより好ましい。
【0029】
また、前記感熱接着剤層(a)の150℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a150)は、1×10Pa~1×10Paであることが好ましく、1×10Pa~7×10Paがより好ましく、熱可塑剤性貼合材(B)を90℃~200℃で1秒間~300秒間程度加熱して成形物(C)へ貼合する際、適切な硬さと接着性を兼ね備えた感熱接着剤層となるとともに、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制可能とするうえで、1×10Pa~5×10Paであることが特に好ましい。
【0030】
なお、上記引っ張り貯蔵弾性率及び損失正接(tanδ)は、粘弾性試験機(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、商品名:RSA III)を用い、引っ張りモードにて、振動数3.0Hz、昇温速度5℃/分の条件で、-50℃~200℃までの温度領域における、引っ張り貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を測定する。なお、上記測定で使用する試験片としては、前記感熱接着剤層(a)を400μm~600μmまで積層した後、幅5mm及び測定部の長さを20mmとし、両端の持ち手の長さを各20mmに裁断した長方形状のものを使用する。
【0031】
[感熱接着剤層(a)]
前記感熱接着剤層(a)は、接着剤組成物により形成され、例えば剥離ライナー等の表面に後述する接着剤組成物を有機溶剤等に溶解した接着剤組成物の溶液を塗工し、乾燥等させることによって製造することができる。
【0032】
前記接着剤組成物としては、上述した物性を具備することが可能であれば特に限定されないが、例えば、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)と、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)とを有するブロック共重合体を含有する接着剤組成物を好ましく使用することができる。より具体的には、式:S2-S1-S2で表される、(メタ)アクリル系トリブロック共重合体やビニル芳香族系トリブロック共重合体(芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体から成るトリブロック共重合体)等のトリブロック共重合体、或いは式:S1-S2で表される、(メタ)アクリル系ジブロック共重合体やビニル芳香族系ジブロック共重合体(芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体から成るジブロック共重合体)等のジブロック共重合体等を含有する接着剤組成物を使用することができる。中でも、気泡の形成や剥がれを抑制するうえで、式:S2-S1-S2で表されるトリブロック共重合体を含有する接着剤組成物を使用することが好ましい。
【0033】
前記ブロック共重合体を使用することによって、重合体ブロック(S1)どうし及び重合体ブロック(S2)どうしがドメインを形成する。前記ドメインの形成によって、前記感熱接着シート(A)を接着層として使用し、熱可塑性貼合材(B)を加熱して成形物(C)の表面に三次元方向へ変形させながら貼合する際、前記感熱接着剤層(a)に含有される90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)のドメインが、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制し、前記貼合物が高温多湿環境下に放置されても熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制する。一方、前記感熱接着剤層(a)に含有される-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)のドメインが、熱可塑剤性貼合材(B)を90℃~200℃で1秒間~300秒間程度加熱して成形物(C)へ貼合する際の感熱接着性を高めるとともに、前記貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際には、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差による歪みを緩和し、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれを抑制する。
【0034】
前記ブロック共重合体の重合体ブロック(S1)及び重合体ブロック(S2)のガラス転移温度は、前記共重合樹脂を示差走査熱量計(DSC)により分析して得られる曲線において、重合体ブロック(S1)及び重合体ブロック(S2)の転移領域の外挿開始温度である。
【0035】
前記接着剤組成物に含有される共重合体として、前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体を使用する場合には、これを構成する、90℃以上にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸エステル等から成る重合体ブロックが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用して重合体ブロック(S2)を形成してもよい。これらの中でも、前記所定の粘弾性の範囲に調整しやすく、気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制し、前記貼合物が高温多湿環境下に放置されても気泡の形成や剥がれを抑制しやすいこと、及び感熱接着剤層(a)の成形性や感熱接着性に優れることからメタクリル酸メチルを使用して重合体ブロック(S2)を形成することがより好ましい。
【0036】
前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体を構成する、-20℃以上にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)としては、例えばメタクリル酸n-ラウリル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2-エトキシエチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2-メトキシエチル等のアクリル酸エステル等の重合体ブロックが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用して重合体ブロック(S1)を形成してもよい。これらの中でも、前記所定の粘弾性の範囲に調整しやすく、前記貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際の熱膨張差による歪みを緩和しやすいこと、及び感熱接着剤層(a)の感熱接着性に優れることから、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルのいずれかを使用して重合体ブロック(S1)を形成することが好ましい。
【0037】
ガラス転移点の求め方は、任意の方法で求めたものでよく、示差熱分析法や示差走査熱量分析法を用いるプラスチックの転移温度測定方法(JIS K7121-1987)に準拠される測定方法を用いることが好ましい。
【0038】
前記重合体ブロック(S2)のガラス転移温度は、90℃~150℃の範囲が好ましく、100℃~130℃がより好ましく、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制し、前記貼合物が高温多湿環境下に放置されても熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制する上で、100℃~120℃が最も好ましい。
【0039】
前記重合体ブロック(S1)のガラス転移温度は、-90℃~-20℃の範囲が好ましく、-70℃~-30℃がより好ましく、熱可塑剤性貼合材(B)を90℃~200℃で1秒間~300秒間程度加熱して成形物(C)へ貼合する際の感熱接着性を高めるとともに、前記貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際には、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差による歪みを緩和し、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれを抑制する上で、-60℃~―40℃が最も好ましい。
【0040】
前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、前記重合体ブロック(S1)や(S2)の他に、他の重合体ブロックを有してもよい。他の重合体ブロックとしては、例えばメタクリル酸、アクリル酸、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブテン、イソプレン、オクテン、無水マレイン酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単量体単位から構成される重合体ブロック或いはこれらの水素添加物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサンからなる重合体ブロック等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用して重合体ブロックを形成してもよい。感熱接着剤層(a)が金属蒸着した加飾層や金属配線等を伴う機能層と接する場合には、前記金属層の腐食や変色を防止するため、メタクリル酸やアクリル酸等の酸基を含有する単量体から成る重合体ブロックを前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体中に含有しないことが好ましい。
【0041】
前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、凝集力を向上させるため、架橋性官能基を有し、架橋剤で架橋させてもよい。架橋性官能基として、水酸基やカルボキシル基やグリシジル基等が挙げられ、水酸基を有する場合は多官能イソシアネート化合物等の架橋剤、カルボキシル基を有する場合は多官能エポキシ化合物等の架橋剤、グリシジル基を有する場合はアミン系化合物や酸無水物や多官能チオール等の架橋剤を用いることができる。架橋性官能基の含有量として、1,000当量~100,000当量が好ましく、前記適切な粘弾性の範囲にするうえで、3,000当量~50,000当量が好ましく、5,000当量~20,000当量が特に好ましい。また、感熱接着剤層(a)が金属蒸着した加飾層や金属配線等を伴う機能層と接する場合には、前記金属層の腐食や変色を防止するため、架橋性官能基として水酸基を有し、多官能イソシアネート化合物等によって架橋させることが好ましい。
【0042】
前記接着剤組成物に含有される共重合体として、前記芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体から成るビニル芳香族系ブロック共重合体を使用する場合には、90℃以上にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としては、芳香族ビニル単量体単位からなる重合体ブロックが挙げられ、例えばスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等から成る重合体ブロックが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記所定の粘弾性の範囲に調整しやすく、気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制し、前記貼合物が高温多湿環境下に放置されても気泡の形成や剥がれを抑制しやすいこと、及び感熱接着剤層(a)の成形性や感熱接着性に優れることからスチレンを使用して重合体ブロック(S2)を形成することが好ましい。
【0043】
前記芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体から成るビニル芳香族系ブロック共重合体を構成する、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)としては、共役ジエン単量体単位からなる重合体ブロックが挙げられ、例えばブタジエン、イソブテン、イソプレン等の不飽和炭化水素やこれらの水素添物等が挙げられる。前記所定の粘弾性の範囲に調整しやすく、前記貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際の熱膨張差による歪みを緩和しやすいこと、及び感熱接着剤層(a)の感熱接着性や耐劣化性に優れることから、ブタジエン、イソブテン及びイソプレンからなる群から選択されるいずれかの不飽和炭化水素の水素添加物を使用して重合体ブロック(S1)を形成することが好ましい。
【0044】
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましくは10,000~500,000の範囲であり、より好ましくは50,000~200,000の範囲であり、感熱接着剤層(a)の透明性や成形性を得るうえで特に好ましくは70,000~120,000である。前記範囲とすることで、熱可塑性貼合材(B)を加熱して成形物(C)へ貼合する際に、前記感熱接着剤層(a)が適切な柔軟性を得て感熱接着性に優れると共に、重合体ブロック(S1)及び重合体ブロック(S2)のドメイン形成を容易にし、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制したり、前記貼合物が高温多湿環境下に放置されたりしても熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制することができる。更には、前記貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差による歪みを緩和し、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれを抑制することができる。なお、前記重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記条件で測定した値を示す。
【0045】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0046】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
なお係る重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、「GPC」と称する)分析により標準ポリスチレンを検量線作成に用いた換算値として算出した値である。
【0047】
前記ブロック共重合体中の90℃以上にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は、29質量%~49質量%が好ましく、33質量%~46質量%がより好ましく、36質量%~42質量%が特に好ましい。前記重合体ブロック(S2)が29質量%より少ない場合は、熱可塑性貼合材(B)を加熱して成形物(C)へ貼合する際に前記感熱接着剤層(a)が軟化しすぎるため、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれが発生しやすくなり、前記貼合物が高温多湿環境下に放置された際に熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれも発生しやすくなる。また、前記重合体ブロック(S2)が49質量%より多い場合には、感熱接着剤層(a)の感熱接着性が不足すると共に、前記貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差による歪みを緩和できなくなり、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれが発生しやすくなる。
【0048】
前記ブロック共重合体中の-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は、51質量%~71質量%が好ましく、54質量%~67質量%がより好ましく、58質量%~64質量%が特に好ましい。前記重合体ブロック(S1)が51質量%より少ない場合は、熱可塑性貼合材(B)を加熱して成形物(C)へ貼合する際に前記感熱接着剤層(a)の軟化が不十分となり、感熱接着剤層(a)の感熱接着性が不足すると共に、前記貼合物が寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返されたりする際、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差による歪みを緩和できなくなり、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれが発生しやすくなる。また、前記重合体ブロック(S1)が71質量%より多い場合には、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれが発生しやすくなり、前記貼合物が高温多湿環境下に放置された際に熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれも発生しやすくなる。
【0049】
前記接着剤組成物に含有される前記ブロック共重合体は、1種のブロック共重合体であってもよく、重合体ブロックの含有率が異なる2種以上のブロック共重合体の混合物であってもよい。2種以上のブロック共重合体を含有する場合の重合体ブロック(S1)或いは(S2)の含有率とは、それぞれのブロック共重合体中の重合体ブロック(S1)或いは(S2)の含有率の平均値であり、例えばブロック共重合体(F)とブロック共重合体(G)の2種のブロック共重合体混合物の重合体ブロック(S1)或いは(S2)の含有率は、前記ブロック共重合体(F)と(G)のそれぞれのブロック共重合体の重合体ブロック(S1)或いは(S2)の含有率から下記式(1)で算出される。
【0050】
ブロック共重合体混合物の重合体ブロック(S1)或いは(S2)の含有率[質量%]=[ブロック共重合体(F)中の重合体ブロック(S1)或いは(S2)の含有率[質量%]×ブロック共重合体の混合物中におけるブロック共重合体(F)の含有率[質量%]/100]+[ブロック共重合体(G)中の重合体ブロック(S1)或いは(S2)の含有率[質量%]×ブロック共重合体の混合物中におけるブロック共重合体(G)の含有率[質量%]/100] …式(1)
【0051】
前記接着剤組成物に含有される前記ブロック共重合体が2種以上の場合、ブロック共重合体間の重合体ブロック(S1)及び(S2)の含有率差の絶対値は、ドメインの形成を容易にし、感熱接着剤層(a)の透明性を得るうえで、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
感熱接着剤層(a)の表面或いは内部に形成される、接着剤組成物に含有される前記ブロック共重合体の重合体ブロック(S2)のドメインの大きさは、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制したり、前記貼合物を高温多湿環境下に放置しても熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制したり、寒冷環境下で使用されたり、冷熱が繰り返された際、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差による歪みによる浮きや剥がれを抑制するうえで、比較的大きなドメインの形成が好ましく、重合体ブロック(S2)のドメインの長辺の長さが平均160nm以上であることが好ましく、長辺の長さが平均160nm以上となっているシリンダー状或いはラメラ状等の帯状構造形態となっていることがより好ましい。(例えば図1及び2)。前記ドメインの大きさは、感熱接着剤層(a)の表面或いは断面を、走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相モードで、1μmの視野範囲で走査して得られた分離相の画像について、任意の5点以上のドメインの重合体ブロック(S2)の長辺の長さを測長した平均値である。走査型プローブ顕微鏡として、Pacific Nanotechnology社製「Nano-DST」を使用し、クロースコンタクトモードで測定することができる。前記接着剤組成物が、2種以上のブロック共重合体の混合物で形成される場合、接着剤組成物に含有される前記ブロック共重合体の重合体ブロック(S2)のドメインの大きさとは、上記混合物を形成する各ブロック共重体の重合体ブロック(S2)が集合して形成したドメインの大きさをいう。例えば、接着剤組成物が重合体ブロック(S1x)及び重合体ブロック(S2x)を有するブロック共重合体Xと、重合体ブロック(S1y)及び重合体ブロック(S2y)を有するブロック共重合体Yと、を含有する場合、感熱接着剤層(a)の表面或いは内部には、ブロック共重合体Xの重合体ブロック(S2x)とブロック共重合体Xの重合体ブロック(S2y)とが集合してなる1種の重合体ブロック(S2)のドメインが形成されるため、上記1種のドメインの長辺の長さを測定する。
【0053】
前記ブロック共重合体の製造方法は特に限定されず、例えば特開平04-246488号公報や特開2014-084334号公報に開示されているリビングアニオン重合等が挙げられる。
【0054】
前記ブロック共重合体の製造は、有機溶剤の存在下で行っても良い。
【0055】
前記有機溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のエーテルエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0056】
前記接着剤組成物は、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。
【0057】
前記その他の添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、酸化防止剤、光安定剤、防錆剤、チキソ性付与剤、レベリング剤、粘着付与剤、帯電防止剤、難燃剤、着色染料、着色顔料等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明の方法で製造された貼合品が屋外暴露されたり高温多湿環境下に放置されたりする用途で使用される場合は、高い耐光性や耐黄変性が必要とされ、光安定剤や酸化防止剤等を含有することが好ましい。また、感熱接着性をより一層高めるうえで、粘着付与剤等を含有することが好ましい。
【0058】
前記光安定剤は、光劣化で発生するラジカルを捕捉するものであり、例えば、チオール化合物、チオエーテル化合物、ヒンダードアミン化合物等のラジカル捕捉剤;ベンゾフェノン化合物、ベンゾエート化合物等の紫外線吸収剤などを用いることができる。これらの光安定剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐黄変性をより一層向上できる点から、ヒンダードアミン化合物を用いることが好ましい。
【0059】
前記光安定剤を用いる場合の使用量としては、耐光性や耐黄変性をより一層向上できる点から、前記1種又は2種以上のブロック共重合体の総量100質量部に対して、0.01質量部~10質量部の範囲であることが好ましく、感熱接着性を損なわないうえで、0.05質量部~3質量部の範囲であることがより好ましい。
【0060】
前記酸化防止剤としては、熱劣化で発生するラジカルを捕捉するヒンダードフェノール化合物(一次酸化防止剤)、及び、熱劣化で発生する過酸化物を分解するリン化合物、イオウ化合物(二次酸化防止剤)等を用いることができる。
【0061】
これらの中でも、酸化防止性をより一層向上させるうえで、リン化合物を用いることが好ましく、トリフェニルホスフィン、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)=エチル=ホスフィット及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトからなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤を用いることがより好ましく、トリフェニルホスフィン、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)=エチル=ホスフィットを用いることがより好ましい。
【0062】
前記酸化防止剤を用いる場合の使用量としては、酸化防止性をより一層向上できる点から、前記1種又は2種以上のブロック共重合体の総量100質量部に対して、0.01質量部~10質量部の範囲であることが好ましく、感熱接着性を損なわないうえで、0.05質量部~3質量部の範囲がより好ましい。
【0063】
前記粘着付与剤としては、スチレン系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族炭化水素系樹脂等の任意の粘着付与樹脂を使用することができ、前記所定の粘弾性の範囲に調整しやすいロジン系樹脂、テルペン系樹脂の使用が好ましく、耐光性や耐黄変性に優れることから、水素添加したロジン系樹脂やテルペン系樹脂の使用がより好ましく、水素添加したロジンエステル樹脂やテルペンフェノール樹脂の使用が特に好ましい。
【0064】
前記粘着付与剤を用いる場合の使用量としては、感熱接着性をより一層向上できる点から、前記1種又は2種以上のブロック共重合体の総量100質量部に対して、1質量部~30質量部の範囲であることが好ましく、加熱された際の気泡形成の抑制を損なわないうえで、5質量部~20質量部の範囲がより好ましい。
【0065】
また、感熱接着剤層(a)を剥離ライナー上に塗布した際のはじき抑制や、感熱接着シート(A)の切断工程や剥離ライナーの剥離工程等の取り扱い作業性の向上等を目的として、透明性を阻害しない範囲で、上述した成分と共に任意の熱可塑性樹脂を併用してもよい。前記の熱可塑性樹脂としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられ、水酸基やカルボキシル基やグリシジル基等の架橋性官能基を樹脂中に含有し、架橋剤によって架橋させることができる熱可塑性樹脂を併用することがより好ましい。
【0066】
前記熱可塑性樹脂としては、25℃雰囲気下で半固形或いは固形のものが好ましく、重量平均分子量は、5,000~200,000の範囲であることが好ましく、15,000~100,000の範囲がより好ましい。なお、前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、前記ブロック共重合体の重量平均分子量と同様に測定して得られた値を示す。
【0067】
前記熱可塑性樹脂の使用量は、前記1種又は2種以上のブロック共重合体の総量100質量部に対し、1質量部~50質量部使用することが好ましく、3質量部~20質量部使用することが、感熱接着剤層(a)に含有されるブロック共重合体の凝集力を低下させず、加熱された際の気泡の形成や浮きや剥がれを抑制するうえで、特に好ましい。
【0068】
本発明の方法で貼合された貼合物の近傍で高周波電気パルスを通過させて電気信号を読み取る用途等においては、前記感熱接着剤層(a)の誘電正接や比誘電率を調整する目的で、透明性を阻害しない範囲で、ポリオレフィン樹脂や無機フィラー等を添加してもよい。
【0069】
前記ポリオレフィン樹脂としては、比誘電率が2~3程度のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のオレフィン樹脂、イソプレン系樹脂やブタジエン系樹脂等のゴム系樹脂が好ましく、前記ブロック共重合体等の組成物との相溶性を向上させる目的で、側鎖の一部を塩素化やカルボン酸変性して部分的に極性を向上してもよい。
【0070】
前記無機フィラーとしては、窒化ホウ素、フォルテスライト、コージェライト、シリカ、酸化マグネシウム、アルミナ等の誘電正接が10-4~10-5程度の無機フィラー等を使用することが好ましく、前記ブロック共重合体等の接着剤組成物との相溶性に優れ、感熱接着剤層(a)の透明性を高められるシリカを使用することがより好ましい。
【0071】
前記無機フィラーとしては、球状または破砕状等の任意の形状のものを使用することができ、前記ブロック共重合体等の接着剤組成物との相溶性を高めるため、表面にチタネートカップリングやアルミネートカップリングやシランカップリング等の表面処理したものを使用してもよい。
【0072】
前記無機フィラーの粒径としては、その積算ふるい下分布50%粒子径が10nm~50μm未満であるものを使用することが好ましく、10nm~20μmであるものを使用することがより好ましく、1μm~10μmであるものを使用することが、前記接着剤層(a)の透明性を高め、無機フィラーの良好な分散性と、塗工のしやすさとを両立するうえで特に好ましい。なお、前記無機フィラーの積算ふるい下分布50%粒子径は、株式会社島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定器SALD-3100を用い、分散媒にイソプロパノールを使用して測定された数値等を用いることができる。
【0073】
前記ポリオレフィン樹脂及び無機フィラーの使用量としては、前記1種又は2種以上のブロック共重合体の総量100質量部に対し、前記ポリオレフィン樹脂の量及び無機フィラーの量を合わせて1質量部~50質量部使用することが好ましく、5質量部~20質量部使用することが、前記接着シートの誘電正接や比誘電率を低下しつつ、感熱接着剤層(a)の接着性低下を抑えるうえでより好ましい。
【0074】
[感熱接着シート(A)]
本発明の方法に使用する感熱接着シート(A)は、例えば剥離ライナーの表面に、前記接着剤組成物を有機溶剤等に溶解した接着剤組成物の溶液を塗工し、必要に応じて乾燥し感熱接着剤層(a)を形成することによって製造することができる。
【0075】
前記有機溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のエーテルエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0076】
剥離ライナーの表面に前記接着剤組成物の溶液を塗工する方法としては、例えばコンマコーターやリップコーター等を用いて塗工する方法が挙げられる。前記乾燥は、例えば80℃~120℃程度の温度に設定した乾燥機等を用いて行うことができる。
【0077】
前記剥離ライナーとしては、例えばクラフト紙、グラシン紙、上質紙等の紙や、ポリエチレン、二軸延伸ポリプロピレン、押し出しポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムや、前記紙と樹脂フィルムとを積層したラミネート紙、前記紙にクレーやポリビニルアルコールなどで目止め処理を施したものの片面もしくは両面に、シリコーン系化合物等の剥離処理を施したもの等を使用することができる。前記感熱接着シート(A)の透明性を高めるうえで、樹脂フィルム上に剥離処理を施した剥離ライナーを用いることが好ましい。
【0078】
前記剥離ライナーの離型処理剤としては、例えば、シリコーン系剥離剤、アミノアルキド系剥離剤、シリコーン変性のアミノアルキド系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤、フッ素系剥離剤等が挙げられる。
【0079】
前記剥離ライナーの厚さとしては、38μm~150μmの厚さのものを使用することが好ましく、50μm~100μmの厚さのものを使用することがより好ましい。上記厚さとすることで、乾燥後の感熱接着剤層(a)表面の平滑性を高め、かつ乾燥工程で剥離ライナーの伸びが発生しにくく、ロール状に巻いた後の巻き癖を防止することができる。
【0080】
また、前記剥離ライナーとしては、後述する、片面に剥離ライナーを積層した状態のまま感熱接着シート(A)を90℃~200℃に加熱し、先に前記感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)の面側と前記成形物(C)とを加圧して貼合しておき、剥離ライナーを剥離除去後、熱可塑性貼合材(B)のみを90℃~200℃に加熱し、前記熱可塑性貼合材(B)と感熱接着剤層(a)とを加圧して貼合する工程を経て貼合物が製造される場合には、ポリエチレンや二軸延伸ポリプロピレンや押し出しポリプロピレン等の、軟化温度が低く加熱延伸しやすい熱可塑性樹脂を基材とする剥離ライナーを使用することがより好ましい。
【0081】
前記感熱接着シート(A)は、貼合工程に使用されるまで、別の任意の剥離ライナーによって挟持されていてもよい。挟持された後、再び剥離ライナーを剥離する際の接着シートの泣き別れを抑制するため、両面各々の剥離力が異なる剥離ライナーを使用することが好ましい。感熱接着剤層(a)は室温下で感圧接着性が乏しいため、感熱接着シート(A)をロール状に巻いたときの浮きが発生しやすく、少なくとも一面が剥離コントロール剤等で重剥離化したシリコーン系剥離剤、或いは、アミノアルキド系剥離剤やシリコーン変性のアミノアルキド系樹脂や長鎖アルキル系樹脂等の非シリコーン系剥離剤が塗布された剥離ライナーの使用が好ましい。
【0082】
前記感熱接着剤層(a)の厚さとしては、10μm~300μmの厚さのものを使用することが好ましく、25μm~250μmの厚さのものを使用することがより好ましく、50μm~200μmの厚さのものを使用することが特に好ましい。前記厚さの形成には、感熱接着剤層(a)単層を用いることの他に、感熱接着剤層(a)を2以上積層してもよい。感熱接着剤層(a)を2以上積層する場合、前記所定範囲の粘弾性を満足するものであれば、組成の異なる2以上の感熱接着剤層(a)を積層してもよい。
【0083】
なお、前記感熱接着剤層(a)を2以上積層する場合、室温下では接着性が乏しいため、剥離ライナーに積層された感熱接着剤層(a)の接着面どうしを、90℃以上に加熱した回転するゴムローラーや金属ローラーの間隙を通しながら加熱圧着する方法や、剥離ライナーに積層された感熱接着剤層(a)の接着面どうしを、室温下で気泡が入らないように仮貼合し、50℃以上の雰囲気下で24時間以上加熱養生する等により、感熱接着剤層(a)を2層以上積層する方法が用いられることが好ましい。
【0084】
また、前記感熱接着シート(A)は、基材の両面に前記感熱接着剤層(a)を積層した構成でもよい。基材を感熱接着剤層(a)に内挿することにより感熱接着シート(A)の取り扱い性が向上し、断裁加工した際に感熱接着剤層(a)のはみ出しや欠損等が低減され、優れた寸法安定性を得るうえで好ましい。
【0085】
前記基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の任意のフィルムやメッシュ素材等を使用することができ、透明性や加熱延伸性に優れるポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンの使用が特に好ましい。前記基材は、感熱接着シート(A)の総厚さに対し、1/2以下程度の厚さのものを使用することが好ましく、厚さとしては1μm~50μmの厚さのものを使用することが好ましく、2μm~25μmの厚さのものを使用することがより好ましい。
【0086】
なお、感熱接着剤層(a)を基材へ積層する場合、基材表面へ感熱接着剤層(a)の組成物を塗布する等により積層するか、或いは、室温下では接着性が乏しいため、剥離ライナーに積層された感熱接着剤層(a)を、90℃以上に加熱した回転するゴムローラーや金属ローラーの間隙を通しながら加熱圧着する方法等により、基材表面へ感熱接着剤層(a)を積層することが好ましい。
【0087】
前記感熱接着シート(A)としては、10μm~300μmの厚さのものを使用することが好ましく、25μm~250μmの厚さのものを使用することがより好ましく、50μm~200μmの厚さのものを使用することが特に好ましい。前記範囲の厚さを有する感熱接着シート(A)は、優れた感熱接着性を有し、加熱貼合時の熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発力による剥がれを抑制可能であり、硬化工程を経ずとも高温多湿環境下でも熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれを抑制可能である。なお、上記厚さは、剥離ライナーを含まない厚さを指す。
【0088】
前記感熱接着剤層(a)を有する感熱接着シート(A)は、優れた感熱接着性を有し、感熱接着シート(A)を接着層として使用して、熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃に加熱して成形物(C)の表面へ貼合する際、感熱接着シート(A)を構成する前記感熱接着剤層(a)によって、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制し、外観を損なうことなく、貼合物を得ることが可能である。更には、前記感熱接着剤層(a)に構成された感熱接着シート(A)で接着された貼合物は、高温多湿環境下や寒冷環境下や冷熱環境下に放置されても、熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や熱膨張差で発生する歪みによる剥がれを抑制可能である。
【0089】
前記感熱接着シート(A)としては、透明であることが好ましく、剥離ライナーが両面から除去された状態で、波長380nm~780nmの光線透過率が80%以上、ヘイズが5.0以下であるものを使用することが好ましく、波長380nm~780nmの光線透過率が85%以上、ヘイズが2.0以下であるものを使用することがより好ましく、波長380nm~780nmの光線透過率が90%以上、ヘイズが1.0以下であるものを使用することが特に好ましい。前記範囲とすることで、前記貼合物の外観を損ねず、意匠性を高めることができる。前記感熱接着シート(A)としては、高温多湿環境下に放置された後でも前記光線透過率とヘイズを維持することが好ましい。
【0090】
前記感熱接着シート(A)は感熱接着性であり、温度23℃及び相対湿度50%RH環境下での貼付直後の180°引き剥がし接着力は、1N/cm以下であることが好ましく、0.7N/cm以下であることがより好ましく、0.1N/cm~0.5N/cmが特に好ましい。前記範囲とすることで、感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)或いは剥離ライナーに積層された感熱接着シート(A)を圧空成形機や真空成形機やTOM成形機等の貼合装置へ取り付ける際、位置修正が容易となるうえ、接着剤層表面に汚れやごみが付着せず、貼合後の外観が損なわれない。また、先に熱可塑性貼合材を成形物の形状に沿うように成形した後、前記液状接着剤や接着シートで成形物の表面へ貼合する場合、接合位置がずれた状態になった場合でも剥離が容易なため、ずれた位置からの位置修正が容易となるうえ、感熱接着剤層(a)と成形物(C)との界面に気泡を巻き込みにくくすることができる。
【0091】
前記感熱接着シート(A)の加熱貼付後の180°引き剥がし接着力は、温度23℃及び相対湿度50%RH環境下、並びに温度90℃環境下の各々において、5N/cm以上であることが好ましく、8N/cm~50N/cmであることがより好ましく、10N/cm~30N/cmが特に好ましい。前記範囲とすることで、感熱接着シート(A)を接着層として使用し、熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃に加熱して成形物(C)の表面へ貼合する際、感熱接着シート(A)を構成する前記感熱接着剤層(a)によって、熱可塑性貼合材(B)から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発による剥がれを抑制可能である。更には、前記感熱接着剤層(a)に構成された感熱接着シート(A)で接着された貼合物は、高温多湿環境下に放置されても、熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成による剥がれを抑制可能である。
【0092】
前記感熱接着シート(A)の加熱貼付後の180°引き剥がし接着力は、温度-20℃環境下において、1N/cm以上であることが好ましく、2N/cm~30N/cmであることがより好ましく、3N/cm~20N/cmが特に好ましい。前記範囲とすることで、前記貼合物を寒冷環境下や冷熱環境下に放置した場合でも、熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との熱膨張差から発生する歪みによる熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)との間の浮きや剥がれを抑制可能である。
【0093】
なお、温度23℃及び相対湿度50%RH環境下での貼付直後の180°引き剥がし接着力は、両面に剥離ライナーが積層された感熱接着シート(A)の片面の剥離ライナーを除去し、120℃に加熱した熱ラミネーターで厚さ125μmのポリカーボネートシート(帝人株式会社製、「パンライトPC-2151」)を貼合した後、1cm幅に切断し、23℃且つ50%RH雰囲気下で厚さ1mm~3mm程度の表面平滑なポリカーボネート板へ載せ、2kgローラーで300mm/分の速度で1往復の加圧をかけたものを試料として、恒温槽を備えたテンシロン型引っ張り試験機(株式会社エー・アンド・ディ製、「RTG-1210」)にて、23℃且つ50%RH雰囲気下にて、加圧後から1分間以内に前記ポリカーボネートシートを180°方向へ50mm/分の速度で引っ張り始めた際の引き剥がし抵抗力を測定することで得られる。
加熱貼付後の180°引き剥がし接着力は、前記2kgローラーで1往復の加圧の代わりに、熱プレス装置(テスター産業株式会社製、「TP-750エアープレス」)にて140℃で15秒間加熱するとともに0.2MPaの圧力で加圧して試料を作製し、前記と同様にして、-20℃雰囲気下、23℃及び相対湿度50%RH雰囲気下、並びに90℃雰囲気下の各々にて、前記ポリカーボネートシートを180°方向へ50mm/分の速度で引っ張った際の引き剥がし抵抗力を測定することで得られる。
なお、温度-20℃及び90℃で測定する場合は、湿度無制御とする。
【0094】
2.物品の製造方法
本発明の物品の製造方法は、上述した感熱接着シートの感熱接着剤層(a)を接着層として熱可塑性貼合材(B)を成形物(C)の表面に貼合した物品の製造方法である。
【0095】
[熱可塑性貼合材(B)]
本発明の方法で貼合する前記熱可塑性貼合材(B)としては、例えばプラスチック製の透明部材等が挙げられる。
【0096】
前記熱可塑性貼合材(B)としては、任意の樹脂基材が挙げられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ナイロン、(メタ)アクリル系樹脂、これらのアロイ等の樹脂基材を使用することができる。なかでも、前記樹脂基材としては、ポリカーボネート及び(メタ)アクリル系樹脂及びこれらのアロイが、高い透明性と表面硬度とを両立するうえで好ましい。しかし、ポリカーボネート及び(メタ)アクリル系樹脂及びこれらのアロイ等の樹脂基材は、およそ85℃以上の加熱で瞬時に気体を発生させやすく、それが気泡を形成する要因となる。前記感熱接着シート(A)を使用した本発明の貼合方法であれば、前記樹脂基材を使用した場合であっても前記気体の発生による気泡を形成しにくく、外観を損なうことなく、優れた透明性や表面硬度を保持した貼合物を得ることができる。
【0097】
前記熱可塑性貼合材(B)は、0.05mm~5mmの厚さのものを使用することが好ましく、0.1mm~1mmの厚さのものを使用することがより好ましく、0.125mm~0.4mmの厚さのものを使用することが特に好ましい。前記厚さとすることで、成形物(C)の表面を保護するうえでの耐久性を付与できる。
【0098】
また、前記熱可塑性貼合材(B)は、表面の傷付き防止や滑り性向上等を目的として、前記熱可塑性貼合材(B)の表面に、塗布や転写や共押し出し等によって、任意のハードコート層やマット層等を積層してもよい。
【0099】
また、前記熱可塑性貼合材(B)は、自動車の外装等の屋外使用される物品に使用される場合には、前記熱可塑性貼合材(B)及び背面層にある感熱接着シート(A)や成形物(C)の屋外耐光性を向上させる目的として、波長325nm~380nmの紫外線を吸収する層を、前記熱可塑性貼合材(B)の表面或いは内部に設けてもよい。前記紫外線吸収層の形成方法として、任意の紫外線吸収剤等を含有するコート剤等を前記熱可塑性貼合材(B)の表面に塗布する方法や、前記熱可塑性貼合材(B)の内部への任意の紫外線吸収剤の練り込む等の方法が挙げられる。工程を簡略する目的で、前記ハードコート層やマット層等に添加して塗布してもよい。前記紫外線吸収層を含有する熱可塑性貼合材(B)の場合は、325nm~380nmの波長の紫外線透過率が0%~20%が好ましく、屋外耐光性を付与するうえで0%~10%がより好ましい。
【0100】
前記熱可塑性貼合材(B)は、可視光領域に当たる波長380nm~780nmの光線透過率が80%~100%、ヘイズが0%~5.0%であるものを使用することが好ましく、波長380nm~780nmの光線透過率が85%~100%、ヘイズが0%~2.0%以下であるものを使用することがより好ましい。上記範囲とすることで、前記貼合物の意匠性を高めることができる。
【0101】
前記熱可塑性貼合材(B)は、感熱接着シート(A)を積層する表面側に、予め加飾層や機能層を積層し、感熱接着剤層(a)と熱可塑性貼合材(B)の間に前記加飾層や機能層が積層された加熱接着シートとしてもよい。前記加飾層や機能層の厚さとしては、感熱接着シートの厚さの35%以下の厚さが好ましく、25%以下の厚さがより好ましく、10%以下の厚さが特に好ましい。前記範囲とすることで、前記熱可塑性貼合材(B)を加熱し貼合する工程において、前記加飾層や機能層が加熱貼合時に感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)内に埋没して段差を無くし、前記貼合物の意匠性を高めることができる。
【0102】
前記加飾層や機能層の積層方法は、任意の加工方法であってよく、シルクスクリーン印刷機やグラビア印刷機等にて、着色塗料や金属含有塗料等を前記熱可塑性貼合材(B)表面へ直接塗布する方法や、加飾層や機能層を予め積層した転写箔を使用して前記熱可塑性貼合材(B)表面へ転写する方法や、スプレーにて、着色塗料や金属含有塗料等を含有した塗料を前記熱可塑性貼合材(B)表面へ塗布する方法や、前記熱可塑性貼合材(B)の表面へスパッタリング加工したり、めっき加工を施したり、金属箔を貼合した後にエッチングする方法等が挙げられる。
【0103】
前記熱可塑性貼合材(B)は、複数貼合してもよい。複数の前記熱可塑性貼合材(B)を貼合する場合は、同種類のものを貼合してもよく、前記例に挙げたうちの他の種類のものを貼合してもよい。
【0104】
[成形物(C)]
本発明の方法で貼合される前記成形物(C)としては、具体的には意匠性や遮光性等を付与することを目的とした加飾層を備えた成形物等が挙げられる。
【0105】
前記成形物(C)としては、任意の成形方法で形成された成形物であってよく、例えばインサート成形法やプレス成形法等によって成形され、印刷や塗装やめっき等によって加飾されたものであってよい。また、前記成形物(C)は任意の形状及び厚さであってよい。
【0106】
前記成形物(C)の材質としては、ガラスやセラミック等の無機物;ステンレスやアルミニウム等の金属;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートとアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体のアロイ、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の樹脂;これらの貼合物等を使用することができ、成形性の容易さから、ポリカーボネートやアクリル系樹脂やポリカーボネートとアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体のアロイ等の樹脂成形物を使用することが好ましい。
【0107】
前記成形物(C)は、感熱接着シート(A)を積層する表面側に、予め加飾層や機能層を積層し、感熱接着剤層(a)と成形物(C)の間に前記加飾層や機能層が積層された加熱接着シートとしてもよい。前記加飾層や機能層の等の。感熱接着シート(A)を積層する表面側に積層される各層の厚さとしては、感熱接着シートの厚さの35%以下の厚さが好ましく、25%以下の厚さがより好ましく、10%以下の厚さが特に好ましい。前記範囲とすることで、前記感熱性接着シート(A)を成形物(C)へ貼合する工程において、前記加飾層や機能層が感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)内に埋没して段差を無くし、前記貼合物の意匠性を高めることができる。
【0108】
前記加飾層や機能層の積層方法は、任意の加工方法であってよく、シルクスクリーン印刷機やグラビア印刷機等にて、着色塗料や金属含有塗料を前記成形物(C)表面へ直接塗布する方法や、加飾層や機能層を予め積層した転写箔を使用して、前記成形物(C)表面へ転写する方法や、スプレー塗装いて、着色塗料や金属含有塗料等を含有した塗料を前記成形物(C)表面へ塗布する方法や、前記成形物(C)表面へスパッタリング加工Aしたり、めっき加工を施したり、金属箔を貼合した後にエッチングする方法等が挙げられる。
【0109】
前記成形物(C)は、それぞれ複数貼合してもよい。複数の成形物(C)を貼合する場合は、同種類のものを貼合してもよく、前記例に挙げたうちの他の種類のものを貼合してもよい。
【0110】
[貼合方法]
本発明の物品の製造方法、すなわち前記熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)とを前記感熱接着シート(A)で接着し貼合した物品を製造する方法は、-50℃~200℃の範囲内で、且つ周波数3Hzで測定された引っ張りの損失正接(tanδ)がピーク温度を90℃以上に少なくとも一以上及び-20℃以下に少なくとも一以上有し、且つ100℃における引っ張り貯蔵弾性率(E’a100)が5×10Pa~1×10Paである感熱接着剤層(a)を有する感熱接着シート(A)を接着層として使用し、熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃に加熱して成形物(C)の表面へ貼合する貼合方法を含む。
【0111】
前記物品の製造方法における貼合方法は、特に限定されないが、中でも以下の工程[1]及び工程[2]をこの順で行う第1の態様、以下の工程[3]及び工程[4]をこの順で行う第2の態様、または、以下の工程[1]並びに工程[5]及び工程[6]をこの順で行う第3の態様が好ましい。
【0112】
すなわち、前記物品の製造方法の第1の態様は、感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)と前記熱可塑性貼合材(B)とを貼合して積層物を形成する工程[1]と、上記工程[1]の後、前記熱可塑性貼合材(B)或いは前記感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱し、前記積層物の感熱接着剤層(a)と前記成形物(C)とを加圧して貼合する工程[2]と、をこの順で含む物品の製造方法である。前記熱可塑性貼合材(B)及び成形物(C)は、2以上の種類を各工程で同時に貼合してもよい。後述する成形機による熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)の貼合加工は、一般的にバッチ生産方式であり、物品の生産工程のうちの律速工程の一つとなり得るが、第1の態様の物品の製造方法によれば、成形機を使用する工数を少なくできるため、生産効率に優れる。
【0113】
上記第1の態様において感熱接着シート(A)は、片面又は両面に熱可塑性の樹脂素材を基材とする剥離ライナーを有していても良い。この場合、工程[1]では、感熱接着剤層(a)の熱可塑性貼合材(B)と貼合する面に剥離ライナーAが配置されている場合は、上記剥離ライナーAを剥離して工程[1]を実施する。また、工程[2]では、感熱接着剤層(a)の成形物と貼合する面に剥離ライナーBが配置されている場合は、上記剥離ライナーBを剥離して工程[2]を実施する。
【0114】
前記工程[1]では、感熱接着シート(A)は、室温下では接着性が乏しいため、感熱接着剤層(a)と熱可塑性貼合材(B)とを仮接着させることが好ましい。仮接着の方法として具体的には、感熱接着シート(A)の熱可塑性貼合材(B)とは反対面に剥離ライナーを積層した状態で、前記感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)と熱可塑性貼合材(B)とを90℃以上加熱した回転するゴムローラーや金属ローラーの間隙を通しながら加熱密着させる方法、前記感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)と熱可塑性貼合材(B)とを、室温下で気泡が入らないように仮貼合し、50℃以上の雰囲気下で24時間以上加熱養生させる方法が挙げられる。。この場合、感熱接着剤層(a)と熱可塑性貼合材(B)とは、前記工程[2]を経る際に本接着される。また、前記工程[2]では、成形機にて前記感熱接着剤層(a)表面へ前記成形物(C)を0.1MPa程度以上の圧力で押し当てるか、或いは熱可塑性貼合材(B)の表面側を0.1MPa程度以上の圧縮空気で加圧し、熱可塑性貼合材(B)及び感熱接着シート(A)を三次元方向に変形させながら成形物(C)表面へ貼付することが好ましい。
【0115】
また、前記物品の製造方法の第2の態様は、感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱し、前記感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)と前記成形物(C)とを加圧して貼合する工程[3]と、上記工程[3]の後、前記熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃に加熱し、前記熱可塑性貼合材(B)と感熱接着剤層(a)とを加圧して貼合する工程[4]と、をこの順で含む物品の製造方法である。前記熱可塑性貼合材(B)及び成形物(C)は、2以上の種類を各工程で同時に貼合してもよい。第2の態様の物品の製造方法によれば、加熱によって気体が発生し得る熱可塑性貼合材(B)のみを加熱し、熱可塑性貼合材(B)から気体が放出された後に感熱接着シート(A)と貼合されるため、熱可塑性貼合材(B)から発生する気体による感熱接着剤層(a)との間の膨れを低減することができる。
【0116】
中でも、前記物品の製造方法の第2の態様は、熱可塑性の樹脂素材を基材とする剥離ライナーが積層された感熱接着シート(A)を用い、前記剥離ライナーとともに前記感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱し、前記感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)の前記剥離ライナーが積層された面とは反対側の面と前記成形物(C)とを加圧して貼合する工程[3]と、工程[3]の後、前記熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃に加熱し、前記熱可塑性貼合材(B)と、剥離ライナーを剥離除去した後の感熱接着剤層(a)とを加圧して貼合する工程[4]と、をこの順で含む物品の製造方法であることが好ましい。熱可塑性の樹脂素材を基材とする剥離ライナーが積層された感熱接着シート(A)を用い、工程[3]において上記剥離ライナーと共に感熱接着剤層(a)を加熱し、剥離ライナーを積層した状態で成形物(C)と貼合することで、感熱接着シート(A)の引っ張り強度を高め、感熱接着シート(A)が成形物(C)へ加圧されやすくなり、感熱接着剤層(a)と成形物(C)との界面の接着むらや界面への気泡の混入を防止することが可能だからである。
【0117】
前記工程[3]においては、熱可塑性の樹脂素材を基材とする剥離ライナーを片面に積層した状態の前記感熱接着シート(A)を加熱した後、成形機にて前記感熱接着剤層(a)表面へ前記成形物(C)を押し当てるか、若しくは前記感熱接着シート(A)の熱可塑性の剥離ライナー表面側を加圧して、上記剥離ライナーとともに感熱接着シート(A)を三次元方向に変形させながら成形物(C)表面へ貼付することが好ましい。変形した成形物(C)表面への密着性が向上して強固に貼付することができるからである。
加熱後の感熱接着シート(A)における前記感熱接着剤層(a)表面へ前記成形物(C)を押し当てる際の圧力は、0.1MPa程度以上が好ましい。または、前記感熱接着シート(A)の熱可塑性の剥離ライナー表面側を加圧する際は、0.1MPa程度以上の圧縮空気で加圧することが好ましい。
【0118】
また、前記工程[4]は、前記熱可塑性貼合材(B)へ感熱接着剤層(a)を0.1MPa程度以上の圧力で押し当てたり、熱可塑性貼合材(B)の表面側を0.1MPa程度以上の圧縮空気で加圧したりして、熱可塑性貼合材(B)を三次元的に変形させながら感熱接着剤層(a)表面へ貼付することが好ましい。
【0119】
また、前記物品の製造方法の第3の態様は、第1の態様と同様にして、感熱接着シート(A)の感熱接着剤層(a)と前記熱可塑性貼合材(B)とを貼合して積層物を形成する工程[1]と、上記工程[1]の後、上記積層物の前記熱可塑性貼合材(B)或いは前記感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱し、前記成形物(C)と同型の型枠に加圧して、前記積層物を前記成形物(C)の形状へ成形する工程[5]と、上記工程[5]の後、成形した前記積層物を前記成形物(C)の表面に被せ、前記熱可塑性貼合材(B)或いは上記成形物(C)の少なくとも一方の側から前記感熱接着剤層(a)を90℃~200℃に加熱して、前記感熱性接着剤層(a)と前記成形物(C)とを貼合する工程[6]と、をこの順で含む物品の製造方法である。前記熱可塑性貼合材(B)及び成形物(C)は、2以上の種類を各工程で同時に貼合してもよい。
第3の態様の物品の製造方法では、感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)を予め成形しておくことによって形状を安定させ、加熱して成形物(C)の表面へ貼合する際の熱可塑性貼合材(B)の変形によって生じる歪みを軽減し、貼合後の浮きや剥がれを低減するこができる。また、本発明の感熱接着シートは、常温接着性が低いことから、予め成形物(C)の形状に成形された熱可塑性貼合材(B)を、感熱接着シートを介して成形物(C)に容易に嵌合させることができ、成形後の熱可塑性貼合材(B)と成形物(C)とを密着接合させることができる。
【0120】
物品の製造方法において使用する前記成形機としては、圧空成形機、真空成形機、TOM成形機、NGF成形機、熱プレス成形機等の任意の成形機が挙げられる。成形機による第1の態様の貼付工程例として、例えば工程[1]を経て感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)及び成形物(C)を成形機へ取り付ける工程、成形物(C)が設置された槽内を減圧する工程、工程[1]を経て感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃で加熱する工程、加熱後に成形物(C)を上昇させて感熱接着剤層(a)へ押し当てるとともに、感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)を圧空やプレス板等で加圧する工程、貼合物を成形機から取り外して成形物からはみ出している感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)をトリミングする工程等を経て物品が製造される。
【0121】
また、成形機による第2態様の貼付工程例として、例えば剥離ライナーが片面に積層された感熱接着シート(A)、及び成形物(C)を成形機へ取り付ける工程、成形物(C)が設置された槽内を減圧する工程、剥離ライナーが片面に積層された感熱接着シート(A)を90℃~200℃で加熱する工程、加熱後に成形物(C)を上昇させて感熱接着剤層(a)へ押し当てるとともに、剥離ライナーが片面に積層された前記感熱接着シート(A)を圧空やプレス板等で加圧する工程、貼合物を成形機から取り外して成形物からはみ出している剥離ライナーが片面に積層された前記感熱接着シート(A)をトリミングする工程、感熱接着シート(A)が積層された成形物(C)から剥離ライナーを除去し、熱可塑性貼合材(B)とともに成形機へ取り付ける工程、前記同様にして、感熱接着シート(A)が積層された成形物(C)が設置された槽内を減圧する工程、熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃で加熱し、成形物(C)を上昇させて感熱接着剤層(a)を熱可塑剤性貼合材(B)へ押し当てるとともに、熱可塑剤性貼合材(B)を圧空やプレス板等で加圧する工程、貼合物を成形機から取り外して成形物からはみ出ている熱可塑剤性貼合材(B)をトリミングする工程等を経て物品が製造される。
【0122】
成形機による第3の態様の貼付工程例としては、例えば工程[1]を経て感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)及び成形物(C)を成形機へ取り付ける工程、表面に離型性を有する成形物(C)と同型の型枠が設置された槽内を減圧する工程、工程[1]を経て感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)を90℃~200℃で加熱する工程、加熱後に前記型枠を上昇させて感熱接着剤層(a)へ押し当てるとともに、感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)を圧空やプレス板等で加圧する工程、感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)の成形物を成形機から取り外して感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)をトリミングする工程、熱プレス装置等を用いて、成形物(C)の表面へ感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)を、感熱接着シート(A)が積層された熱可塑性貼合材(B)或いは成形物(C)を90℃~200℃で加熱しながらプレス圧着する工程等を経て物品が製造される。
【0123】
前記接着方法で接着された貼合物は、前記熱可塑性貼合材(B)及び前記成形物(C)が、前記感熱性接着シート(A)を介して積層された構成を有する。また、必要に応じて、前記熱可塑性貼合材(B)と前記感熱性接着シート(A)との間、或いは前記感熱性接着シート(A)と成形物(C)との間に、前記加飾層や機能層が積層された構成を有してもよい。
【0124】
本発明の貼合方法による貼合物は、意匠性や機能性を成形物表面へ付与する目的で、前記加飾層や機能層が積層された家電製品やモバイル端末機の外装、及び自動車の内外装等に使用される樹脂製成形物に好適に使用される。成形物(C)はインサート成形やプレス成形等により立体的に成形された部品であり、上記貼合物においては、前記成形物(C)表面に、傷付き防止や滑り性向上等の目的として、ハードコート層やマット層を表面に有する熱可塑性貼合材(B)が、本発明の方法で貼合されている。これにより、本発明の貼合方法を含む製造方法により得られる貼合物は、成形物(C)表面や熱可塑性貼合材(B)表面からの発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材(B)の曲面反発等が要因となって発生する熱可塑性貼合材(B)の浮きや剥がれを抑制し、優れた透明性とを両立した、外観品質に優れた貼合物となっている。
【実施例
【0125】
<ブロック共重合体(k-1)の合成>
内部を脱気し窒素置換した反応器に、溶媒として乾燥トルエン1,240質量部を入れ、撹拌しながら、1,2-ジメトキシエタン52.0質量部、イソブチルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)アルミニウム40.2mmolを含有するトルエン溶液60.0質量部、アニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウム2.98mmolを含有するシクロヘキサンとn-ヘキサンの混合溶液5.17質量部、メタクリル酸メチル54 .0 質量部をこの順に加え、25℃で1時間反応させた。このとき、メタクリル酸メチルの重合転化率は99 .9%以上であった。次に反応液を-30℃に冷却し、アクリル酸n-ブチル220.0質量部を2時間かけて滴下し、滴下終了後-30℃にて5分間撹拌した。このときのアクリル酸n-ブチルの重合転化率は99 .9%以上であった。続いてこの反応液にメタクリル酸メチル70.0質量部を加え、一晩25℃にて撹拌後、メタノール3.50gを添加して重合反応を停止させた。このときのメタクリル酸メチルの重合転化率は99.9%以上であった。得られた反応液を大量のメタノールに注ぎ、濾物を真空乾燥し、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としてポリメタクリル酸メチルを36質量%含有し、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)としてポリアクリル酸n-ブチルを64質量%含有する、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸n-ブチル-ポリメタクリル酸メチルからなるトリブロック共重合体(k-1)を得た。得られたトリブロック共重合(k-1)の重量平均分子量(Mw)を上述の方法のGPC測定により求めたところ、82,000であった。また、トリブロック共重合体(k-1)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ポリメタクリル酸メチルの重合体ブロックのTgは103℃、ポリアクリル酸n-ブチルの重合体ブロックのTgは-51℃であった。
【0126】
なお、ブロック共重合体(k-1)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ社製「DSC-7020」)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で-100℃~150℃まで測定して得られた曲線において、補外ガラス転移開始温度をガラス転移温度(Tg)とした。以下、ブロック共重合体(k-2)~(k-8)、並びに実施例及び比較例における各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)も、上述の方法で測定した。
【0127】
<ブロック共重合体(k-2)の合成>
前記ブロック共重合体(k-1)と同様にして、メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルの使用量を調整し、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としてポリメタクリル酸メチルを30質量%含有し、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)としてポリアクリル酸n-ブチルを70質量%含有する、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸n-ブチル-ポリメタクリル酸メチルからなるトリブロック共重合体(k-2)を得た。得られたトリブロック共重合体(k-2)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、84,000であった。また、トリブロック共重合体(k-2)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ポリメタクリル酸メチルの重合体ブロックのTgは103℃、ポリアクリル酸n-ブチルの重合体ブロックのTgは-52℃であった。
【0128】
<ブロック共重合体(k-3)の合成>
前記ブロック共重合体(k-1)と同様にして、メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルの使用量を調整し、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としてポリメタクリル酸メチルを40質量%含有し、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)としてポリアクリル酸n-ブチルを60質量%含有する、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸n-ブチル-ポリメタクリル酸メチルからなるトリブロック共重合体(k-3)を得た。得られたトリブロック共重合体(k-3)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、79,000であった。また、トリブロック共重合体(k-3)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ポリメタクリル酸メチルの重合体ブロックのTgは104℃、ポリアクリル酸n-ブチルの重合体ブロックのTgは-51℃であった。
【0129】
<ブロック共重合体(k-4)の合成>
前記ブロック共重合体(k-1)と同様にして、メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルの使用量を調整し、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としてポリメタクリル酸メチルを50質量%含有し、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)としてポリアクリル酸n-ブチルを50質量%含有する、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸n-ブチル-ポリメタクリル酸メチルからなるトリブロック共重合体(k-4)を得た。得られたトリブロック共重合体(k-4)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、76,000であった。また、トリブロック共重合体(k-4)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ポリメタクリル酸メチルの重合体ブロックのTgは104℃、ポリアクリル酸n-ブチルの重合体ブロックのTgは-52℃であった。
【0130】
<ブロック共重合体(k-5)の合成>
前記ブロック共重合体(k-1)と同様にして、メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルの使用量を調整し、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としてポリメタクリル酸メチルを27質量%含有し、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)としてポリアクリル酸n-ブチルを73質量%含有する、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸n-ブチル-ポリメタクリル酸メチルからなるトリブロック共重合体(k-5)を得た。得られたトリブロック共重合体(k-5)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、83,000であった。また、トリブロック共重合体(k-5)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ポリメタクリル酸メチルの重合体ブロックのTgは103℃、ポリアクリル酸n-ブチルの重合体ブロックのTgは-53℃であった。
【0131】
<ブロック共重合体(k-6)の合成>
内部を脱気し窒素置換した反応器に、溶媒として乾燥シクロヘキサン5,000質量部 、アニオン重合開始剤としてsec-ブチルリチウムの10.5質量%を含有するシクロヘキサン溶液2質量部を仕込み、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン28質量部を仕込んだ。50℃に昇温した後、スチレン70質量部を加えて1時間反応させた後、引き続いてブタジエン345質量部を加えて2時間重合を行った後、さらにスチレン70質量部を加えて1時間反応することにより、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体に対して10質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条
件で10時間反応を行った。
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾
燥することにより、90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)としてポリスチレンを30質量%含有し、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)として水素化ポリブタジエンを70質量%含有する、ポリスチレン-水素化ポリブタジエン-ポリスチレンのトリブロック共重合体(k-6)のペレットを得た。得られたトリブロック共重合体(k-6)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、200,000であった。また、トリブロック共重合体(k-6)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ポリスチレンの重合体ブロックのTgは97℃、水素化ポリブタジエンの重合体ブロックのTgは-23℃であった。
【0132】
<ブロック共重合体(k-7)の合成>
前記ブロック共重合体(k-6)と同様にして、スチレンとブタジエンの使用量を調整し、ハードブロック(90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2))としてポリスチレンを67質量%含有し、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)として水素化ポリブタジエンを33質量%含有する、ポリスチレン-水素化ポリブタジエン-ポリスチレンのトリブロック共重合体(k-7)を得た。得られたトリブロック共重合体(k-7)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、100,000であった。また、トリブロック共重合体(k-7)の各重合体ブロックのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ポリスチレンの重合体ブロックのTgは98℃、水素化ポリブタジエンの重合体ブロックのTgは-23℃であった。
【0133】
<アクリルランダム共重合体(k-8)の合成>
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、アクリル酸n-ブチル50質量部、メタクリル酸メチル30質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル20質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.5質量部を酢酸エチル150質量部に溶解し、窒素置換後、80℃で8時間重合させることによって(メタ)アクリルランダム共重合体(k-8)の溶液物を得た。得られた(メタ)アクリルランダム共重合体(k-8)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、470,000であった。また、(メタ)アクリルランダム共重合体(k-8)のガラス転移温度(Tg)を測定したところ、変曲点は観察されなかった。
【0134】
<アクリルランダム共重合体(k-9)の合成>
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル80質量部、アクリル酸エチル15質量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.7質量部を酢酸エチル150質量部に溶解し、窒素置換後、85℃で10時間重合させることによって(メタ)アクリルランダム共重合体(k-9)の溶液物を得た。得られた(メタ)アクリルランダム共重合体(k-9)の重量平均分子量(Mw)を前記方法のGPC測定により求めたところ、220,000であった。また、(メタ)アクリルランダム共重合体(k-9)のガラス転移温度(Tg)を測定したところ、Tgは72℃であった。
【0135】
(実施例1)
<感熱接着シート(A-1)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-1)135質量部をトルエン165質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-1)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は36質量部、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は64質量%となった。
重剥離側の剥離ライナーAとして、片面に非シリコーン系化合物で剥離処理した厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製「TN100-75μm」)の剥離処理面上に、乾燥後の厚さが100μmとなるように前記接着剤組成物(a-1)を塗布し、70℃で3分間及び120℃で4分間乾燥し、軽剥離側の剥離ライナーBとして、片面にシリコーン系化合物で剥離処理した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業株式会社製「50E-0010BD」)の剥離処理面とを貼り合せ、感熱接着シート(A-1)を作製した。
【0136】
(実施例2)
<感熱接着シート(A-2)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-2)54質量部とトリブロック共重合体(k-3)81質量部をトルエン156質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-2)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は平均36質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は平均64質量%となった。なお、接着剤組成物(a-2)中のトリブロック共重合体(k-2)及びトリブロック共重合体(k-3)のブロック共重合体混合物中の重合体ブロック(S1)、(S2)の含有率は、それぞれ上記「1.感熱接着シート(A)」の「感熱接着剤層(a)」の項目で説明したブロック共重合体混合物中の重合体ブロック(S1)、(S2)の含有率の式(1)に基づき算出した。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-2)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-2)を作製した。
【0137】
(実施例3)
<感熱接着シート(A-3)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-3)122質量部と、粘着付与剤としてパインクリスタルKE-311(荒川化学工業株式会社製、超淡色ロジン誘導体)13質量部をトルエン156質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-3)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は40質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は60質量%となった。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-3)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-3)を作製した。
【0138】
(実施例4)
<感熱接着シート(A-4)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-2)54質量部とトリブロック共重合体(k-4)81質量部をトルエン156質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-4)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は平均42質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は58質量%となった。なお、接着剤組成物(a-4)中のトリブロック共重合体(k-2)及びトリブロック共重合体(k-4)のブロック共重合体混合物中の重合体ブロック(S1)、(S2)の含有率は、それぞれ上記「1.感熱接着シート(A)」の「感熱接着剤層(a)」の項目で説明したブロック共重合体混合物中の重合体ブロック(S1)、(S2)の含有率の式(1)に基づき算出した。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-4)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-4)を作製した。
【0139】
(実施例5)
<感熱接着シート(A-5)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-2)135質量部をトルエン156質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-5)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は平均30質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は平均70質量%となった。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-5)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-5)を作製した。
【0140】
(実施例6)
<感熱接着シート(A-6)の作製>
前記実施例1の感熱接着シート(A-1)の作製とは別に、実施例1で用いた剥離ライナーB(ポリエチレンテレフタレートフィルム「50E-0010BD」)の剥離処理面上に、乾燥後の厚さが100μmとなるように前記接着剤組成物(a-1)の溶液を塗布し、70℃で3分間及び120℃で4分間乾燥し、先に作製しておいた感熱接着シート(A-1)の接着剤面どうしと仮貼合し、その後120℃に加熱した熱ラミネーター(テスター産業株式会社製、「SA-1010小型卓上テストラミネーター」を速度1m/分、圧力0.2MPaで通し、接着剤層間を接着させ、接着剤層の厚さ200μmの感熱接着シート(A-6)を作製した。
【0141】
(実施例7)
<感熱接着シート(A-7)の作製>
乾燥後の厚さが50μmとなるように前記接着剤組成物(a-1)を塗布したこと以外は、前記実施例1の感熱接着シート(A-1)と同様にして、感熱接着シート(A-7)を作製した。
【0142】
(実施例8)
<感熱接着シート(A-8)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-6)108質量部とトリブロック共重合体(k-7)27質量部をトルエン315質量部へ撹拌溶解し、固形分30質量%の接着剤組成物(a-8)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は平均37.4質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は平均62.6質量%となった。なお、接着剤組成物(a-8)中のトリブロック共重合体(k-6)及びトリブロック共重合体(k-7)のブロック共重合体混合物中の重合体ブロック(S1)、(S2)の含有率は、それぞれ上記「1.感熱接着シート(A)」の「感熱接着剤層(a)」の項目で説明したブロック共重合体混合物中の重合体ブロック(S1)、(S2)の含有率の式(1)に基づき算出した。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-8)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-8)を作製した。
【0143】
(実施例9)
<感熱接着シート(A-13)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-1)122質量部と、粘着付与剤としてYSポリスターTH130(ヤスハラケミカル株式会社製、テルペンフェノール樹脂)13質量部をトルエン156質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-13)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は36質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は64質量%となった。
前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-13)を作製した。
【0144】
(比較例1)
<感熱接着シート(A-9)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-5)135質量部をトルエン156質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-9)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は27質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は73質量%となった。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-9)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-9)を作製した。
【0145】
(比較例2)
<感熱接着シート(A-10)の作製>
前記トリブロック共重合体(k-4)135質量部をトルエン156質量部へ撹拌溶解し、固形分45質量%の接着剤組成物(a-10)の溶液を得た。トリブロック共重合体中の90℃以上のガラス転移温度を有する重合体ブロック(S2)の含有率は50質量%、-20℃以下にガラス転移温度を有する重合体ブロック(S1)の含有率は50質量%となった。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-10)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにして、感熱接着シート(A-10)を作製した。
【0146】
(比較例3)
<感熱接着シート(A-11)の作製>
前記アクリル共重合樹脂(k-8)の固形分100質量部に対し、イソシアヌレート系架橋剤としてコロネートHXR(東ソー業株式会社製、固形分100質量%)を5質量部添加し、撹拌機を用いて20分間攪拌することによって、固形分43質量%の接着剤組成物(a-11)の溶液を得た。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-11)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにし、40℃雰囲気下に5日間放置して、感熱接着シート(A-11)を作製した。
【0147】
(比較例4)
<感圧接着シート(A-12)の作製>
市販の厚さ50μmのアクリル系感圧接着シート(DIC株式会社製、「ダイタックZB7012W」)を使用した。上記感圧接着シートは、軽剥離ライナー/アクリル系感圧接着層/重剥離ライナーの積層構成を有する。
【0148】
(比較例5)
<感熱接着シート(A-14)の作製>
前記(メタ)アクリルランダム共重合樹脂(k-9)の固形分100質量部に対し、イソシアヌレート系架橋剤としてコロネートHXR(東ソー業株式会社製、固形分100質量%)を2.5質量部添加し、撹拌機を用いて20分間攪拌することによって、固形分42質量%の接着剤組成物(a-14)の溶液を得た。
接着剤組成物(a-1)の溶液に代えて接着剤組成物(a-14)の溶液を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが100μmとなるようにし、40℃雰囲気下に5日間放置して、感熱接着シート(A-14)を作製した。
【0149】
<熱可塑性貼合材(B-1)の作製>
市販の厚さ0.3mmのポリカーボネートシート(帝人株式会社製、「パンライトPC-2151」)を各評価に適した大きさに裁断して使用した。
【0150】
<熱可塑性貼合材(B-2)の作製>
市販の厚さ0.125mmのポリカーボネートシート(帝人株式会社製、「パンライトPC-2151」)を各評価に適した大きさに裁断して使用した。
【0151】
<成形物(C-1)の作製>
市販の厚さ3mmのポリカーボネート成形物(帝人株式会社製、「住友ベークライト株式会社製、「ポリカエースECK100UU」)を各評価に適した大きさに裁断して使用した。
【0152】
(引っ張り貯蔵弾性率及び損失正接の測定方法)
前記実施例及び比較例で得られた接着シートから順次剥離ライナーを除去して600μmの厚さまで積層した後、120℃の乾燥機中に30秒間放置して各層間を感熱接着させた。幅5mm及び測定部の長さを20mmとし、両端の持ち手の長さを各20mmに裁断した長方形状のものを試験片とした。両面の剥離ライナーを剥離除去し、引っ張りの動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製、RSA III)を用いて、昇温速度5℃/分、測定周波数3.0Hz、測定温度範囲-50~200℃の範囲で測定し、-20℃、25℃、100℃、150℃それぞれにおける引っ張り貯蔵弾性率(E’a-20、E’a25、E’a100、E’a150)及び損失正接(tanδ)を測定した。得られた損失正接(tanδ)のグラフから、ピーク温度の有無及びその温度及びピーク温度における損失正接(tanδ)を読み取った。
【0153】
(貼合時の耐発泡性及び耐剥がれ性の評価方法)
前記実施例及び比較例で得られた接着シートを30cm角の大きさに裁断し、実施例1~9及び比較例1~3、5の接着シートの剥離ライナーB(PETフィルム「50E-0010BD)或いは比較例4で使用した接着シートの軽剥離側の剥離ライナーを除去し、同じ大きさの熱可塑性貼合材(B-1)へハンドローラーで仮貼合し、その後120℃に加熱した熱ラミネーター(テスター産業株式会社製、「SA-1010小型卓上テストラミネーター」)へ速度1m/分、圧力0.2MPaで通し、熱可塑性貼合材(B-1)へ接着シートを感熱接着させた。
次に、前記試料を10cm角に裁断し、残り片面の剥離ライナーを除去し、12cm角の大きさの成形物(C-1)の表面に載せ、熱プレス装置(テスター産業株式会社製熱プレス機「TP-750エアープレス」)にセットし、熱可塑性貼合材(B-1)の表面側のみを圧力0.2MPaで140℃で15秒間加熱し、前記試料を成形物(C-1)の表面に感熱接着させ、貼合物を得た。
なお、比較例4は感圧接着シートであるが、前記と同条件にて貼合物を作製した。以下の評価においても、断りが無い限り、他の実施例や比較例と同条件にて貼合物を作製して使用した。
得られた前記貼合物の外観を、下記基準にて目視評価した。
【0154】
<貼合時の耐発泡性及び耐剥がれ性の評価>
◎:微細な気泡或いは剥がれは全く無かった。
〇:ごくわずかに微細な気泡或いは剥がれが有ったが、外観上問題ないレベルであった。
×:気泡或いは剥がれが有り、外観上劣るものであった。
【0155】
(高温多湿環境放置後の耐発泡性及び耐剥がれの評価方法)
前記貼付物を、続けて温度85℃及び相対湿度85%RHの環境下に250時間放置した後、貼付物の外観の変化を前記同様の基準で目視評価した。
<高温多湿環境放置後の耐発泡性及び耐剥がれ性の評価>
◎:放置前と比較し、微細な気泡或いは剥がれの増加は全く無かった。
〇:放置前と比較し、ごくわずかに微細な気泡或いは剥がれの増加が有ったが、外観上問題ないレベルであった。
×:放置前と比較し、気泡或いは剥がれが増加し、外観上劣るものとなっていた。
【0156】
(冷熱環境放置後の耐発泡性及び耐剥がれの評価方法)
前記貼付物を、温度-20℃の環境下で30分間放置し、引き続き温度85℃の環境下で30分間放置する条件を250回繰り返した後、貼付物の外観を前記高温多湿環境放置後の耐発泡性及び耐剥がれの評価方法と同様の基準で目視評価した。
【0157】
(重合体ブロック(S2)のドメインの大きさの評価方法)
走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相モードで、前記実施例及び比較例で得られた接着シートの接着剤表面の任意箇所を、1μmの視野範囲で走査して得られた画像について、相分離の形態を目視確認した。また、任意の5点以上の重合体ブロック(S2)で形成されたドメインの長辺の長さを測長して平均し、重合体ブロック(S2)のドメインの大きさとした。走査型プローブ顕微鏡として、Pacific Nanotechnology社製「Nano-DST」を使用し、クロースコンタクトモードで測定した。
【0158】
(貼付直後の引き剥がし接着力の評価方法)
実施例及び比較例で得られた接着シートを30cm角の大きさに裁断し、実施例1~9及び比較例1~3、5の接着シートの剥離ライナーB(PETフィルム「50E-0010BD)或いは比較例4で使用した接着シートの軽剥離側の剥離ライナーを除去し、同じ大きさの熱可塑性貼合材(B-2)へハンドローラーで仮貼合し、その後120℃に加熱した前記熱ラミネーターへ速度1m/分、圧力0.2MPaで通し、熱可塑性貼合材(B-2)へ接着シートを感熱接着させた。
次に、前記試料を幅1cm、長さ10cmに裁断し、温度23℃及び相対湿度50%RH環境下で、残り片面の剥離ライナーを除去し、幅2cm、長さ12cmの大きさに切断した成形物(C-1)の表面に載せ、2kgローラーで1往復加圧し、1分間以内に恒温槽を備えたテンシロン型引っ張り試験機(株式会社エー・アンド・ディ製、RTG-1210)にて、前記環境下のまま接着シートが積層された熱可塑性貼合材(B-2)を180°方向へ50mm/分の引っ張り速度で引っ張った際の引き剥がし抵抗力を測定した。
なお、スティックスリップ現象で剥離する場合は、断続する引き剥がし抵抗力の各ピークの平均値を引き剥がし接着力とした。
【0159】
(加熱接着後の引き剥がし接着力の評価方法)
前記貼付直後の引き剥がし接着力の評価と同様にして、幅1cm、長さ10cmに裁断し、温度23℃及び相対湿度50%RH環境下で、残り片面の剥離ライナーを除去し、幅2cm、長さ12cmの大きさに切断した成形物(C-1)の表面へ載せた後、前記熱プレス装置にセットし、熱可塑性貼合材(B-2)の表面側のみを圧力0.2MPaで140℃で15秒間加熱し、前記試料を成形物(C-1)の表面に感熱接着させ、貼合物を得た。得られた貼合物を、前記貼付直後の引き剥がし接着力の評価と同様にして、加熱接着後の23℃雰囲気下での引き剥がし抵抗力を測定した。前記と同様にして貼合物を作製し、温度90℃環境下及び-20℃環境下での引き剥がし抵抗力を測定した。
なお、スティックスリップ現象で剥離する場合は、断続する引き剥がし抵抗力の各ピークの平均値を引き剥がし接着力とした。
【0160】
(金属線の埋設性の評価方法)
前記実施例及び比較例で得られた接着シートを30cm角の大きさに裁断し、実施例1~9及び比較例1~3、5の接着シートの剥離ライナーB(PETフィルム「50E-0010BD)或いは比較例4で使用した接着シートの軽剥離側の剥離ライナーを除去し、同じ大きさの熱可塑性貼合材(B-1)へハンドローラーで仮貼合し、その後120℃に加熱した前記熱ラミネーターへ速度1m/分、圧力0.2MPaで通し、熱可塑性貼合材(B-1)へ感熱接着シートを接着させた。
次に、前記試料を10cm角に裁断し、残り片面の剥離ライナーを除去し、接着層表面に12cm長さに裁断した直径0.2mmのポリウレタン銅線(サンコー電商有限会社製、UEW)を等間隔に5本載せ、熱可塑性貼合材(B-1)側から前記熱プレス装置にて、圧力0.2MPaで140℃で15秒間加熱し、熱可塑性貼合材(B-1)と接着シートと金属線が積層された箇所の減少厚さを測定し、埋設率を下記基準で算出した。さらに、埋設率が25%を超えるものを○、超えないものを×とした。
埋設率[%]=熱プレス前後での減少厚さ[μm]/接着シートの厚さ[μm]×100
【0161】
(貼り位置の修正しやすさの評価方法)
実施例及び比較例で得られた接着シートを30cm角の大きさに裁断し、片面の剥離ライナーを除去し、同じ大きさの熱可塑性貼合材(B-2)へハンドローラーで仮貼合し、その後120℃に加熱した前記熱ラミネーターへ速度1m/分、圧力0.2MPaで通し、熱可塑性貼合材(B-2)へ接着シートを感熱接着させた。
次に、5cm角の大きさに裁断し、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下にて、ブライトアニールされた厚さ1mmのSUS304のステンレス板上に置き、2kgローラーで300mm/分の速度で1往復加圧した。1分後に90°方向へ手で1m/分程度の引っ張り速度で剥離し、貼り位置の修正しやすさの評価として、接着シートを積層した熱可塑性貼合材(B-2)の剥離のしやすさを評価した。
【0162】
<貼り位置の修正しやすさの評価>
◎:剥離しやすく、熱可塑性貼合材(B-2)の変形も見られなかった。
〇:ごくわずかに剥離が重いが、熱可塑性貼合材(B-2)の変形は見られなかった。 ×:剥離が重く、熱可塑性貼合材(B-2)の変形が見られた。
【0163】
(全光線透過率Tt及びヘイズの測定方法)
全光線透過率Ttとヘイズは、実施例及び比較例で得られた接着シートから両面の剥離ライナーを除去し、全光線透過率Tt及びヘイズを株式会社村上色彩技術研究所製「HR-100型」を使用し、測定した。
【0164】
【表1】
【0165】
【表2】
【0166】
【表3】
【0167】
【表4】
【0168】
【表5】
【0169】
【表6】
【0170】
【表7】

【0171】
【表8】

【0172】
実施例1~9で得られた感熱接着シートでは、感熱接着シートが積層された熱可塑性貼合材を140℃に加熱して成形物表面へ貼合する工程において、熱可塑性貼合材から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材の剥がれが抑制されており、外観上優れた貼合物となっている。また、これら貼合物が高温多湿環境下に放置されても、熱可塑性貼合材或いは成形物の少なくとも一方から発生しうる気体による気泡の形成や剥がれが抑制され、更には冷熱が繰り返さる環境に放置されても、熱可塑性貼合材と成形物との間の浮きや剥がれが抑制されており、優れた外観を維持することができる。
一方、比較例1、3、4で得られた感熱接着シート及び感圧接着シートでは、100℃における引っ張り貯蔵弾性率が規定の範囲を下回っており、接着シートが積層された熱可塑性貼合材を140℃に加熱して成形物表面へ貼合する工程において、熱可塑性貼合材から発生しうる気体による気泡の形成や熱可塑性貼合材の剥がれが発生しており、外観上劣る貼合物となっている。また、比較例2で得られた感熱接着シートは、100℃における引っ張り貯蔵弾性率が規定の範囲を上回っており、前記貼合工程での気泡の形成は無いものの、冷熱が繰り返さる環境に放置された際に気泡の形成及び剥がれを生じており、外観上劣る貼合物となっている。比較例5で得られた感熱接着シートは、100℃における引っ張り貯蔵弾性率が規定の範囲内にあるが、-20℃以下の温度域に引っ張りの損失正接(tanδ)のピーク温度を有しておらず、冷熱が繰り返さる環境に放置された際に気泡の形成及び剥がれを生じており、外観上劣る貼合物となった。
【符号の説明】
【0173】
1 重合体ブロック(S1)のドメイン
2 重合体ブロック(S2)のドメイン
図1
図2
図3