(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】難燃性材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20220726BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220726BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220726BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220726BHJP
D01F 9/145 20060101ALI20220726BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C08J5/04 CFD
C08J5/04 CEW
C08K3/04
C08K7/06
C08L69/00
D01F9/145
F16J12/00 C
(21)【出願番号】P 2019548250
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2018038037
(87)【国際公開番号】W WO2019074082
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2017199136
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】米本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】村上 清人
(72)【発明者】
【氏名】野中 聡
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104151805(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108342084(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104194286(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104177823(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104151707(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104151768(CN,A)
【文献】特開昭63-243329(JP,A)
【文献】特開2014-205932(JP,A)
【文献】特開昭62-289617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0264752(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10,5/24
B29B 11/16,15/08-15/14
C08K
C08L
D01F 9/08-9/32
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
請求項1~6のいずれか記載の液体酸素タンク用難燃性材料からその一部又は全部が構成されることを特徴とする液体酸素タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、炭素繊維及び樹脂を用いて製造される難燃性材料(難燃性炭素繊維強化プラスチック)に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機や宇宙用ロケットを始め、近年では自動車等においても、軽量で高強度が必要とされる様々な構造部位に、複合材料が広く用いられている。その中でも、宇宙用ロケットの構造は、その殆どが燃料タンクで占められており、その材料としては、アルミ合金やチタン合金などの金属材料が用いられている。燃料タンクの性能を向上させるために、金属材料よりも比強度に優れた炭素繊維強化プラスチックを代表とする複合材料の使用が求められている(非特許文献1参照)。また、将来的に宇宙用ロケットを再使用型にして宇宙輸送コストを大幅に低減するためには、機体構造の軽量化が避けては通れず、炭素繊維強化プラスチックの利用が必須である。
【0003】
宇宙用ロケットなどでは、推進剤として液体酸素が用いられることが多い。しかしながら、炭素繊維やプラスチックは、液体酸素存在下で何らかの原因で衝撃力が加わると、そのエネルギーで着火し、タンク等が爆発する危険性がある。このため、炭素繊維プラスチックを液体酸素タンクへ応用することができなかった。
【0004】
また、宇宙用ロケット以外に、地上用のタンクローリー車等の民生分野においても、液体酸素に代表される強い酸化性のある液体を貯蔵するための炭素繊維強化プラスチック製のタンクの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Khaki McKee et al. Advancing ORS Technologies and Capabilities with a Space Tourist Suborbital Vehicle, AIAA 2009-6690, AIAA SPACE 2009 Conference & Exposition, 14-17 September 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、強い酸化性を有する液体を貯蔵する液体酸素タンクなどのような難燃性が求められる構造体に使用できる難燃性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のように、従来、炭素繊維強化プラスチックは、液体酸素の存在下で何らかの衝撃エネルギーによって着火しやすいという大きな技術課題があったため、液体酸素用の容器などには不適といわれていた。
本発明者らは、このような問題点に鑑み、種々の検討を行った結果、高い弾性率の炭素繊維が、液体酸素の存在下においても着火しにくいことを知見した。さらに、この高い弾性率の炭素繊維と特定の難燃性樹脂と複合化することにより、液体酸素などの強い酸化性を有する液体の存在下でも着火しにくい難燃性炭素繊維強化プラスチックとすることができることを見いだした。本発明は、これらの知見をもとに完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]引張弾性率が700Gpa以上である炭素繊維を含むことを特徴とする難燃性材料。
[2]引張弾性率が700Gpa以上である炭素繊維と、難燃性樹脂とを含むことを特徴とする[1]記載の難燃性材料。
[3]炭素繊維が、ピッチ系炭素繊維であることを特徴とする[1]又は[2]記載の難燃性材料。
[4]難燃性樹脂が、ASTM(米国材料試験協会)の試験法規格「D2512‐95」に準拠したABMA型衝撃試験装置による衝撃試験において、20回試験を行った場合の着火回数が2回以下の樹脂であることを特徴とする[2]又は[3]記載の難燃性材料。
[5]難燃性樹脂が、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、及びパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする[2]~[4]のいずれか記載の難燃性材料。
[6]難燃性樹脂が、ポリカーボネートであることを特徴とする[5]記載の難燃性材料。
[7]液体酸素タンクに用いられることを特徴とする[1]~[6]のいずれか記載の難燃性材料。
[8][1]~[7]のいずれか記載の難燃性材料からその一部又は全部が構成されることを特徴とする液体酸素タンク。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性材料は、難燃性であると共に、軽量で高強度である。したがって、例えば、液体酸素などの強い酸化性を有する液体等を貯蔵するタンクなどの材料に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明における衝撃試験に用いるABMA型衝撃試験装置の説明図であり、(a)は全体概略図を示し、(b)は試験部の概略断面図を示す。
【
図2】炭素繊維の引張弾性率と着火試験確率との関係を示した図である。
【
図3】本発明の難燃性樹脂の衝撃試験後の試料の写真であり、(a)はポリカーボネート(PC)を示し、(b)はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を示し、(c)はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を示す。
【
図4】本発明の難燃性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP-PC)成形用のセミプレグの写真である。
【
図5】本発明の難燃性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP-PC)のオートクレーブ成形に用いた半割り成形型を示す写真である。
【
図6】
図5に示す半割り成形型に、セミプレグをバギングした様子を示す写真である。
【
図7】オートクレーブ成形後の本発明の難燃性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP-PC)の外観を示す写真である。
【
図8】本実施例の試験に用いた試験装置(テンシロン万能試験機)の説明図であり、(a)は装置外観を示し、(b)は荷重伝達を示す。
【
図9】ポリカーボネート(PC)の応力-歪線図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の難燃性材料は、引張弾性率が700Gpa以上である炭素繊維を含むことを特徴とし、好ましくは、さらに難燃性樹脂を含む。
【0012】
本発明の難燃性材料は、航空機、宇宙用ロケット、船舶、自動車、建物等の難燃性及び強度が必要とされる構造部位に用いることができ、特に、宇宙用ロケットや地上用タンクローリーの液体酸素タンクに好ましく用いることができる。
【0013】
<炭素繊維>
本発明における炭素繊維は、上記のように、引張弾性率が700GPa以上であり、750GPa以上であることが好ましい。引張弾性率がこの範囲にあると、液体酸素存在下における衝撃による着火確率が十分に低い。一方、引張弾性率の上限は特に制限されないが、成形性の点から、1200GPa以下であることが好ましく、1000GPa以下であることがより好ましく、900GPa以下であることがさらに好ましい。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R 7606の測定法により測定した値をいう。
【0014】
このような本発明における炭素繊維は、ASTM(米国材料試験協会)の試験法規格「D2512‐95」に準拠したABMA型衝撃試験装置を用いた衝撃試験(液体酸素適合性試験)において、20回試験を行った場合の着火回数が2回以下のものが好ましく、1回以下のものがより好ましく、0回のものが特に好ましい。
【0015】
ここで、本発明のABMA型衝撃試験装置を用いた衝撃試験について説明する。
図1は、本発明における衝撃試験に用いるABMA型衝撃試験装置の説明図であり、(a)は全体概略図を示し、(b)は試験部の概略断面図を示す。
まず、
図1(b)に示すアルミカップ内に設置した試料の上にストライカーピンを立て、アルミカップ内に液体酸素(LOX)を充填した後、重さ9.07kg(20lb)のおもりを1.1mの高さからストライカーピン上端へ落下させる。その衝撃力(衝撃エネルギー:97.9J)で試料が着火するかどうかをビデオ撮影により観察する。試験は、同一材料で20回試験を行う。着火回数が少ないほど難燃性であることを示し、例えば、1回も着火しなかった場合、「LOX適合性あり」と判定する。
【0016】
本発明の炭素繊維の種類としては、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、ピッチ系、レーヨン系等いずれの種類のものであってもよいが、引張弾性率が高い傾向にあることから、ピッチ系炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維は、出発原料の違いによって炭素の結晶構造に差が生じ、ピッチ系は、PAN系よりも繊維軸方向に黒鉛結晶が高度に配向した黒鉛質繊維を得られるのが特徴である。例えば、メソフェーズピッチを出発原料とした場合、900GPaを超える超高弾性炭素繊維が得られる。
【0017】
<難燃性樹脂>
本発明における難燃性樹脂は、液体酸素の存在下で衝撃による着火確率が低い樹脂である。具体的には、ASTM(米国材料試験協会)の試験法規格「D2512‐95」に準拠したABMA型衝撃試験装置による衝撃試験において、20回試験を行った場合の着火回数が2回以下の樹脂であり、1回以下の樹脂が好ましく、0回の樹脂が特に好ましい。
【0018】
このような難燃性樹脂としては、熱硬化樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよいが、着火性が低いことから、熱可塑性樹脂が好ましい。難燃性の熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素系樹脂を挙げることができる。フッ素系樹脂としては、具体的に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などを挙げることができる。これらの樹脂の中でも、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が好ましく、炭素繊維との複合化適性の点から、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。
【0019】
本発明の難燃性樹脂としては、特にポリカーボネートが好ましい。すなわち、本発明の難燃性炭素繊維強化プラスチックとしては、引張弾性率が700Gpa以上である炭素繊維と、ポリカーボネートとを含むことが特に好ましい。
【0020】
ポリカーボネートは、炭素繊維と組み合わせてプリプレグ、セミプレグ等の中間基材を成形することが容易であり、難燃性炭素繊維強化プラスチックの成形も容易である。すなわち、燃料タンクライナー等の曲面の形成や、複雑な形状の形成を容易に行うことができる。
【0021】
また、ポリカーボネートは、-200℃程度の極低温における破断歪が大きく、これを複合化した難燃性炭素繊維強化プラスチックは、極低温に起因したマトリックスクラックが発生しにくい。したがって、ポリカーボネートを複合化した難燃性炭素繊維強化プラスチックは、液体酸素タンクの材料として好適である。
【0022】
さらに、ポリカーボネートは、液体酸素タンクの口金に使用されるアルミ合金との-200℃程度の極低温における接着性が良好であるため、この点からも、ポリカーボネートを複合化した難燃性炭素繊維強化プラスチックは、液体酸素タンクの材料として好適である。
【0023】
すなわち、通常、タンクに繋がる配管は金属製であるため、タンクと配管の結合部には金属製の口金が取り付けられる。金属材料は、複合材料(炭素繊維強化プラスチック)よりも線膨張係数が高く、また、タンクには内圧がかかるため、極低温中では口金と複合材料間で界面剥離が起きやすい。しかしながら、この口金とタンク(例えば、PCを用いた本発明の炭素繊維強化プラスチックからなるライナー材)の接着(融着)にポリカーボネートを好適に用いることができ、これにより界面剥離を有効に防止することができる。また、着火のリスクのある接着剤を用いずに、難燃性のポリカーボネートを用いることにより、酸素着火のリスクを回避することができる。
【0024】
本発明の難燃性炭素繊維強化プラスチックの成形方法としては、特に制限はないが、例えば、炭素繊維と難燃性樹脂でプリプレグ、セミプレグ等の中間基材を作製した後、かかる中間基材を加熱成形する方法を挙げることができる。柔軟性や賦形性の点で、セミプレグを用いることが好ましい。加熱成形法としては、オートクレーブ成形法や、真空バッグ成形法を挙げることができるが、これらの成形法に限定されない。
【0025】
本発明における難燃性材料は、特に液体酸素タンクの構造の全部又は一部に用いることが好ましい。具体的には、例えば、宇宙用ロケットや地上用タンクローリーの液体酸素タンクのライナーとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0027】
[液体酸素適合性試験(衝撃試験)]
(試験方法)
本実施例における液体酸素(LOX)適合性は、
図1に示すASTM(米国材料試験協会)の試験法規格「D2512‐95」に準拠したABMA型衝撃試験装置を用いた衝撃試験により評価した。具体的には、アルミカップ内に設置した試料の上にストライカーピンを立て、アルミカップ内に液体酸素を充填した後、重さ9.07kg(20lb)のおもりを1.1mの高さからストライカーピン上端へ落下させ、その衝撃力(衝撃エネルギー:97.9J)で試料が着火するかどうかをビデオ撮影により観察した。炭素繊維、難燃性樹脂、難燃性炭素繊維強化プラスチックのそれぞれについて、同一材料で20回試験を行った。着火回数が少ないほど難燃性であることを示し、1回も着火しなかった場合、「LOX適合性あり」と判定した。
【0028】
難燃性樹脂の試験片形状は、直径18.3±0.8mm、厚さ1.27±0.13mmのコイン型とした。炭素繊維試料の場合は、繊維表面のサイジング剤をアセトンで超音波洗浄して除去した後、約15mm幅に切断して計100mgをアルミカップ内に向きを揃えて敷き詰めたものを用いた。難燃性炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維クロスとポリカーボネートフィルム(厚み50μm)を交互積層し、オートクレーブで高温加圧成形した板から採取した。
【0029】
<炭素繊維についての試験>
本試験における炭素繊維は、引張弾性率が異なるPAN系及びピッチ系の炭素繊維を用いた。用いた炭素繊維の詳細を以下に示す。
PAN系-1(東邦テナックス社製テナックス、引張弾性率240GPa)
PAN系-2(東レ社製トレカ、引張弾性率540GPa)
PAN系-3(東レ社製トレカ、引張弾性率588GPa)
ピッチ系-1(日本グラファイトファイバー社製グラノック、引張弾性率52GPa)
ピッチ系-2(日本グラファイトファイバー社製グラノック、引張弾性率520GPa)
ピッチ系-3(日本グラファイトファイバー社製グラノック、引張弾性率628GPa)
ピッチ系-4(三菱ケミカル社製ダイアリード、引張弾性率760GPa)
ピッチ系-5(日本グラファイトファイバー社製グラノック、引張弾性率920GPa)
【0030】
(試験結果)
表1に、炭素繊維の衝撃試験の結果を示す。また、
図2に、炭素繊維の引張弾性率と着火確率との関係を示したグラフを示す。
【0031】
【0032】
表1及び
図2に示すように、引張弾性率が大きくなるほど、着火確率が下がる傾向であることがわかった。これは、高弾性率の炭素繊維は熱伝導率も高いため、衝撃部の温度が周囲に逃げて、着火温度に達しにくかったと考えられる。
【0033】
<難燃性樹脂についての試験>
本試験においては、表2に示す熱可塑性樹脂(難燃性樹脂)を用いた。
(試験結果)
表2に、熱可塑性樹脂(難燃性樹脂)の衝撃試験の結果を示す。
【0034】
【0035】
表2に示すように、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が、着火回数が2回以下と少なく、難燃性に優れることがわかった。特に、PC、PEEK、PTFE、ETFE及びPFAは、着火回数が0回であり、液体酸素に適合性があることが明らかとなった。
【0036】
ここで、
図3に、難燃性樹脂の衝撃試験後の試料の写真を示す。(a)はポリカーボネート(PC)、(b)はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、(c)はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を示す。
図3に示すように、PCの試料破砕は比較的小さく、液体酸素存在下の温度(-183℃)でも、耐衝撃性がある程度維持されていた。
【0037】
<難燃性炭素繊維強化プラスチックについての試験>
本試験においては、難燃性炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)として、以下のものを用いた。
(比較例1)
PAN系炭素繊維(炭素繊維の液体酸素適合性試験で用いた炭素繊維PAN系-1(240GPa)のUD(UniDerection)の0°/90°交互積層)と、PEEKとを組み合わせた炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP-PEEK)を用いた。
(比較例2)
PAN系炭素繊維(炭素繊維の液体酸素適合性試験で用いた炭素繊維PAN系-3(588GPa)のクロス)とPCとを組み合わせた炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP-PC)を用いた。
(実施例1)
ピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー社製グラノック(引張弾性率785GPa)のクロス)とPCとを組み合わせた炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP-PC)を用いた。
【0038】
なお、CFRTP試料は、サカイオーベックス株式会社にて、炭素繊維とPCフィルム(厚み50μm)を用いたセミプレグを作製後、オートクレーブ(芦田製作所製,A-3312)を用い、圧力3MPa,温度300℃(10分)、真空圧-0.1MPaの条件で成形した。
【0039】
表3に、難燃性炭素繊維強化プラスチックの衝撃試験の結果を示す。
【表3】
【0040】
表3に示すように、実施例1の本発明の難燃性炭素繊維強化プラスチック(最下段)は、着火回数が0回であり、液体酸素に適合性があることが明らかとなった。これに対して、比較例1の炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP-PEEK)の着火回数は、試験回数8回中4回であり、易燃性であった。これは、引張弾性率の低い炭素繊維を用いたことに起因すると考えられる。また、比較例2の炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP-PC)の着火回数は、試験回数20回中6回であった。これも、炭素繊維の難燃性が十分でないことに起因すると考えられる。
【0041】
なお、ピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー社製グラノック(引張弾性率920GPa)のクロス)とPCとを組み合わせた炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP-PC)を用いた試験も5回行ったが、着火回数は0回であり、良好な結果が得られた。
【0042】
<難燃性炭素繊維強化プラスチックの曲面成形試験>
(中間基材の作製)
サカイオーベックス株式会社にて、弾性率785GPaのPAN系炭素繊維のクロスとPCフィルム(厚み50μm)を用いたセミプレグ、プリプレグを作製し、いずれも問題なく作製できることを確認した。
図4に、作製したセミププレグの写真を示す。
【0043】
(オートクレーブ成形)
作製したセミプレグを320×160mmに裁断し、裁断したものを12ply積層してバギング圧-0.1MPaでバギング(袋詰め)し、部分構造試験用の半割り成形型にセットした(
図5,
図6)。裁断物のバギングは、バギングフィルム(真空脱気用包材)としてテフロン(登録商標)フィルムを用いた。成形温度は300℃、成形圧力3MPa、保持時間は30分とし、オートクレーブにより成形した。
従来の成形温度が330℃を超える成形方法では、バギングフィルムとして、柔軟性が悪く破れやすいポリイミド製フィルムを使用する必要があり、うまく真空引きできないという難点があったが、PCを用いることにより成形温度を低くすることができることから、バギングフィルムとして柔軟で賦形性のよいテフロン(登録商標)フィルムを用いることが可能となり、従来の問題点が解消された。
【0044】
図7に、オートクレーブ成形後の本発明の難燃性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP-PC)の外観を示す。
図7に示すように、外観上、ほぼ問題なく曲面成形を行うことができた。
【0045】
<PCの引張試験>
図8に示す試験装置(テンシロン万能試験機)を用いて、常温及び液体窒素中(-196℃)におけるPCの引張り試験を実施した。なお、データのばらつきを考慮して、常温3回、極低温3回の試験を行った。本装置は、クライオスタットとよばれる極低温槽を装着することにより、極低温流体中に試験片を浸したまま引張試験や圧縮試験ができる。
【0046】
図9に、PCの応力-歪線図を示す。液体窒素中における破断歪は12~15%であった。難燃性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP-PC)に用いられている素材の線膨張係数は、炭素繊維(弾性率785GPa)が-1.5×10
-6/℃、PCは66×10
-6/℃であることから、常温から-200℃まで温度が低下した場合の熱歪は、炭素繊維が-0.03%、PCは1.4%となる。したがって、PCの破断歪は熱歪を凌駕しており、CFRTP-PCでは極低温に起因したマトリックスクラックは発生しにくいものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の難燃性材料は、液体酸素などの強い酸化性を有する物質の存在下においても難燃焼性を有し、液体酸素タンクなどに適用可能であることから、産業上有用である。