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特許7111837架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/26 20060101AFI20220726BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20220726BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20220726BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220726BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20220726BHJP
   B01D 71/78 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B01D71/26
C08J9/00 A CES
C08J3/24 A
B01D71/02
B01D71/70
B01D71/78
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020563612
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 KR2019016800
(87)【国際公開番号】W WO2020130412
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0167962
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ビ-オ・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン-シク・ペ
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0044996(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第108189499(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0081766(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
C08J 9/00
C08J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン、無機物粒子及びSi-O-Si架橋結合を有する架橋ポリオレフィンを含み、
前記無機物粒子に、酸素(O)を介して前記Si-O-Si架橋結合のケイ素(Si)が化学的に結合されており
前記無機物粒子の含量が、前記架橋ポリオレフィン分離膜の全体重量を基準にして37~70重量%である、シラン架橋ポリオレフィン分離膜。
【請求項2】
前記無機物粒子に少なくとも1個以上の酸素が化学的に結合されている、請求項1に記載のシラン架橋ポリオレフィン分離膜。
【請求項3】
前記架橋ポリオレフィンが、下記化学式1で表される化合物を含む、請求項1または2に記載のシラン架橋ポリオレフィン分離膜。
【化1】
(化学式1において、Mは金属であり、l、m、nは0または1であり、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R、R及びRのうち少なくとも一つはアルコキシ基である。)
【請求項4】
前記無機物粒子が、ヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む金属水酸化物から誘導されたものである、請求項1からの何れか一項に記載のシラン架橋ポリオレフィン分離膜。
【請求項5】
前記金属が、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、ジルコニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アンチモン、錫、亜鉛、希土類元素のうちいずれか一つまたはこれらのうち2つ以上の元素を含む、請求項に記載のシラン架橋ポリオレフィン分離膜。
【請求項6】
前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ベーマイトのうちいずれか一つまたはこれらのうち2つ以上を含む、請求項に記載のシラン架橋ポリオレフィン分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2018年12月21日出願の韓国特許出願第10-2018-0167962号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が益々具体化されている。電気化学素子はこのような面から最も注目されている分野であり、なかでも充放電可能な二次電池の開発には関心が集まっている。近年はこのような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために新たな電極と電池の設計に関連する研究開発が行われている。
【0004】
現在適用されている二次電池のうち1990年代初に開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来の電池に比べて、作動電圧が高くてエネルギー密度が格段に高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
このようなリチウム二次電池は、正極、負極、電解液、分離膜から構成され、なかでも分離膜には、正極と負極とを分離して電気的に絶縁させるための絶縁性、及び高い気孔度に基づいてリチウムイオンの透過性を高めるために高いイオン伝導度が求められる。
【0006】
また、このような分離膜では、シャットダウン(shut down)温度とメルトダウン(melt down)温度との差が大きいと、分離膜を含むリチウム二次電池の安全性が確保される。両者の間隔を広げるためには、シャットダウン温度は低くなる方向に、メルトダウン温度は高くなる方向に調節しなければならない。
【0007】
従来、メルトダウン温度を高める技術の一つとしては、ポリエチレン、希釈剤、開始剤、シラン架橋剤及び架橋触媒を一度に混合して製造した架橋ポリオレフィン分離膜がある。
【0008】
しかし、上記のように押出機内に希釈剤、開始剤を一度に投入する場合、希釈剤と開始剤とが副反応を起こす問題がある。また、押出機内に、シラン架橋剤を希釈剤に混合して投入すること又はシラン架橋剤をポリオレフィンに直接グラフトさせて投入することにはハンドリングが困難であるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、希釈剤と開始剤との副反応を抑制し、物性が改善された架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、架橋ポリオレフィン分離膜を製造するとき、投入した物質の外部への脱離を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、下記具現例によるシラン架橋ポリオレフィン分離膜を提供する。
【0012】
第1具現例は、
ポリオレフィン、無機物粒子及びSi-O-Si架橋結合を有する架橋ポリオレフィンを含み、
前記無機物粒子に、酸素(O)を介して前記Si-O-Si架橋結合のケイ素(Si)が化学的に結合されている、シラン架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0013】
第2具現例は、第1具現例において、
前記無機物粒子に少なくとも1個以上の酸素が化学的に結合されている、シラン架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0014】
第3具現例は、第1または第2具現例において、
前記無機物粒子が金属であり、前記金属の酸化数(oxidation number)と同じ個数の酸素が化学的に結合されている、シラン架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0015】
第4具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記架橋ポリオレフィンが、下記化学式1で表される化合物を含む、シラン架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0016】
【化1】
(化学式1において、Mは金属であり、l、m、nは0以上の整数であり、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R、R及びRのうち少なくとも一つはアルコキシ基である。)
【0017】
第5具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記無機物粒子の含量が、前記架橋ポリオレフィン分離膜の全体重量を基準にして5~70重量%である、架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0018】
第6具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記無機物粒子が、ヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む金属水酸化物から誘導されたものである、架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0019】
第7具現例は、第6具現例において、
前記金属が、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、ジルコニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アンチモン、錫、亜鉛、希土類元素のうちいずれか一つまたはこれらのうち2つ以上の元素を含む、架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0020】
第8具現例は、第6具現例において、
前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ベーマイトのうちいずれか一つまたはこれらのうち2つ以上を含む、架橋ポリオレフィン分離膜に関する。
【0021】
本発明の他の一態様は、下記具現例による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法を提供する。
【0022】
第9具現例は、
(S1)ポリオレフィン、希釈剤、開始剤、架橋触媒、及び炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子を押出機に投入及び混合してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を反応押出する段階と、
(S2)前記反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S3)前記延伸されたシートから前記希釈剤を抽出して多孔性膜を製造する段階と、
(S4)前記多孔性膜を熱固定する段階と、
(S5)前記熱固定された多孔性膜を水分存在下で架橋させる段階とを含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0023】
第10具現例は、第9具現例において、
前記ポリオレフィンの重量平均分子量が、200,000~1,000,000である、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0024】
第11具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子が、ヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む無機物粒子と、前記無機物粒子にカップリングされている炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとを含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0025】
第12具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの加水分解反応から由来した化合物内の酸素原子と、前記無機物粒子とが化学的に結合されている、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0026】
第13具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子が、
(S10)炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランを加水分解して炭素-炭素二重結合基含有シラノールを製造する段階、及び
(S11)前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールとヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む無機物粒子とを混合する段階によって製造される、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0027】
第14具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記混合する段階が25℃~80℃で実施される、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0028】
第15具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記シラングラフトされたポリオレフィン組成物が、ポリオレフィン、前記ポリオレフィンにグラフトされたシラン、及び前記グラフトされたシランのケイ素に対して前記酸素を介して結合された無機物粒子を含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0029】
第16具現例は、上述した具現例のいずれか一具現例において、
前記(S5)段階で、前記無機物粒子に対して表面処理された前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが前記ポリオレフィンと水架橋する、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0030】
第17具現例は、第16具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、下記化学式2で表される化合物を含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0031】
【化2】
【0032】
化学式2において、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R、R及びRのうち少なくとも一つはアルコキシ基であり、
前記Rはビニル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基または炭素数1~20のアルキル基であり、このとき、前記アルキル基の少なくとも一つの水素がビニル基、アクリルオキシ基またはメタクリルオキシ基で置換される。
【0033】
第18具現例は、第17具現例において、
前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、またはこれらのうち少なくとも2つ以上の混合物を含む、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法は、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子を投入することで、押出機を通じてシラングラフトされたポリオレフィンを押出するとき、未反応の炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが揮発する問題がないため、揮発した炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが押出機のダイ入口の付近で析出される現象であるダイドルール(die drool)が発生しない架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法を提供することができる。
【0035】
本発明の一態様によれば、抵抗が低く、通気度が改善され、且つ耐熱性が向上した架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。
【0036】
本発明の一態様によれば、ポリオレフィンにグラフトされたシランが酸素を介して無機物粒子に化学的に結合されているため、耐熱性がさらに向上した架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態による炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランによる無機物粒子の表面処理方法を概略的に示した図である。
図2】本発明の一実施形態による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0039】
本明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されるとするとき、これは「直接的な連結」だけではなく、他の素子を介在した「間接的な連結」も含む。また、「連結」とは、物理的連結だけでなく、電気化学的連結も含む。
【0040】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0041】
また、本明細書で使用される「含む」とは、言及した形状、数値、段階、動作、部材、要素及び/またはこれらのグループの存在を特定するものであって、一つ以上の他の形状、数字、動作、部材、要素及び/またはグループの存在または付加を排除するものではない。
【0042】
本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0043】
本明細書の全体において、マーカッシュ形式の表面に含まれた「これらの組合せ」との用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上の混合または組合せを意味するものであって、記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0044】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0045】
本発明は、架橋ポリオレフィン分離膜及びその製造方法に関する。
【0046】
シャットダウン温度とメルトダウン温度との差が大きい分離膜を含むリチウム二次電池などの電気化学素子は安全性に優れる。
【0047】
そこで、低いシャットダウン温度と高いメルトダウン温度を有する分離膜が求められている。
【0048】
本発明者らは、高いメルトダウン温度を有する分離膜を製造するため、架橋反応を用いた架橋ポリオレフィン多孔性膜を製造した。
【0049】
本発明者らは、架橋ポリオレフィン多孔性膜を研究する過程で、シラン架橋剤を使用する架橋ポリオレフィン分離膜の製造が困難であることが分かった。例えば、シラン架橋剤が液状であることから、ポリオレフィンにグラフトさせて投入するか又は希釈剤と混合して投入し難いという問題があった。また、押出機内にシラングラフトされたポリエチレンを投入すると、押出機内の圧力が上昇するため、押出温度を制限しなければならない。シラングラフトされたポリエチレンを汎用ポリエチレンと混合して使用する場合は、両者が十分に混練されず不均一な架橋を引き起こす。これを解決しようとして希釈剤にシラン架橋剤を投入して架橋ポリオレフィン分離膜を製造すると、押出機内の圧力は上昇しないものの、希釈剤とシラン架橋剤との副反応を制御し難い。
【0050】
本発明者らは、このような問題点を見出し、これを解決するため、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランをポリオレフィン又は希釈剤に投入せず、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子を使用することで、工程性が改善された架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法を提供し、物性が向上した架橋ポリオレフィン分離膜を提供する。
【0051】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0052】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜は、ポリオレフィン、無機物粒子及びSi-O-Si架橋結合を有する架橋ポリオレフィンを含み、前記無機物粒子に、酸素(O)を介して前記Si-O-Si架橋結合のケイ素(Si)が化学的に結合されているものである。
【0053】
具体的には、前記シラン架橋ポリオレフィン分離膜は、前記無機物粒子に少なくとも1個以上の酸素が結合されているものである。該結合は化学結合であり得る。
【0054】
例えば、前記無機物粒子が金属であり得、前記金属の酸化数と同じ個数の酸素が化学的に結合されたものであり得る。
【0055】
例えば、前記架橋ポリオレフィンは下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0056】
【化3】
(化学式1において、Mは金属であり、l、m、nは0以上の整数であり、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R、R及びRのうち少なくとも一つはアルコキシ基である。)
【0057】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋ポリオレフィン分離膜は、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランから由来した炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラノールと少なくとも一つ以上のヒドロキシ基を含む無機物粒子とが化学結合し、ケイ素と無機物粒子とが酸素原子によって化学結合されているものである。
【0058】
本発明の具体的な一実施形態において、前記Si-O-Si架橋結合内のケイ素は、ポリオレフィンと酸素原子を介して化学結合することができる。これによって、耐熱性が向上した架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。
【0059】
本発明の具体的な一実施形態において、前記無機物粒子は、少なくとも一つ以上のヒドロキシ基を含むことができる。
【0060】
前記無機物粒子の含量は、前記架橋ポリオレフィン分離膜の全体重量を基準にして5~70重量%であり得る。このような数値範囲で無機物粒子が存在することで、耐熱性の向上とともに、抵抗が低くて通気度が大きい架橋ポリオレフィン分離膜を提供することができる。
【0061】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋ポリオレフィン分離膜は、リチウム二次電池用であり得る。
【0062】
本発明の他の一態様は、架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法に関する。
【0063】
本発明の具体的な一実施形態において、上述した架橋ポリオレフィン分離膜は、以下のような方法で製造できるが、これに制限されることはない。
【0064】
本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法は、
(S1)ポリオレフィン、希釈剤、開始剤、架橋触媒、及び炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子を押出機に投入及び混合してシラングラフトされたポリオレフィン組成物を反応押出する段階と、
(S2)前記反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する段階と、
(S3)前記延伸されたシートから前記希釈剤を抽出して多孔性膜を製造する段階と、
(S4)前記多孔性膜を熱固定する段階と、
(S5)前記熱固定された多孔性膜を水分存在下で架橋させる段階とを含む。
【0065】
以下、本発明の一態様による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法を具体的に説明する。
【0066】
まず、押出機に、ポリオレフィン、希釈剤、開始剤、架橋触媒、及び炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子を投入及び混合する(S1)。
【0067】
本発明においては、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランをそれ自体で投入せず、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが無機物粒子とカップリングされた状態で投入するため、希釈剤と炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランと間で副反応が発生しない。換言すれば、揮発性の高い炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが無機物粒子と化学結合しているため、押出機を通じてシラングラフトされたポリオレフィンを押出するとき、未反応の炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが揮発する問題がないので、揮発した炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランが押出機のダイ入口の付近で析出される現象であるダイドルールを減少させることができる。
【0068】
また、上述したように、無機物粒子が炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理されて投入され、炭素-炭素二重結合基が分離膜を構成するポリオレフィンにグラフトされることで、多数の無機物粒子が最終的な架橋ポリオレフィン分離膜内に含まれることになる。その結果、最終的な架橋ポリオレフィン分離膜内に含まれた無機物粒子によって空いた空間を形成できるため、製造された架橋ポリオレフィン分離膜の抵抗が低くなり、通気度が改善される。
【0069】
また、無機物粒子は、ポリオレフィンに比べて融点が非常に高いため、無機物粒子がポリオレフィンにシランを介してグラフトされることで最終的な架橋ポリオレフィン分離膜の耐熱性をより向上させることができる。
【0070】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子は、(S10)炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランを加水分解して炭素-炭素二重結合基含有シラノールを製造する段階、及び(S11)前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールとヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む無機物粒子とを混合する段階によって製造できるが、これに制限されることはない。
【0071】
これらの段階は図1及び図2から確認することができる。
【0072】
具体的には、図2の(a)及び(b)に示されたように、炭素-炭素二重結合を含むアルコキシシランを加水分解して炭素-炭素二重結合基を含むシラノールを製造することができる。
【0073】
次いで、炭素-炭素二重結合基含有シラノールとヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む無機物粒子とを混合する(図2の(c))。図1から分かるように、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子は、シラン基に少なくとも1個のアルコキシ基を含み、酸素原子を介してケイ素と無機物粒子とが化学結合されているものである。
【0074】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子は、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランを加水分解して炭素-炭素二重結合基含有シラノールを製造する段階を含むことができる(S10)。ここで、シラノール(silanol)とは、Si-OH基を含む化合物を意味する。
【0075】
具体的には、まず、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランをヒドロキシ基を含む溶媒と反応させて前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの少なくとも一つ以上のアルコキシ基をヒドロキシ基(OH基)に変換させることができる。例えば、水、メタノール、エタノールまたはプロパノールなどの溶媒と前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとを加水分解反応させて炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラノールを用意することができる。
【0076】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールは、少なくとも1個以上のヒドロキシ基及び少なくとも1個以上のアルコキシ基を含むことができる。前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールに含まれたヒドロキシ基は、無機物粒子のヒドロキシ基と脱水反応を通じて、酸素を介して無機物粒子とSiとを連結させる役割をする。また、前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールに含まれたアルコキシ基は、後述する(S5)段階によってポリオレフィンと水架橋する部分になる。これらは図2(d)及び(e)で確認できる。
【0077】
次いで、本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールとヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む無機物粒子とを混合することができる(S11)。前記無機物粒子内のヒドロキシ基と前記炭素-炭素二重結合基含有シラノール内のヒドロキシ基とが水素結合を経て開始剤及び高温条件下で脱水縮合反応し、シラン化合物内のケイ素と無機物粒子とが酸素を介して化学結合した結果物を収得することができる。本発明の具体的な一実施形態において、前記結果物は、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子であり得る。これは図1から確認できる。
【0078】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールと前記無機物粒子とを混合する段階は25℃~80℃、30℃~70℃、または40℃~60℃で行うことができる。上記の温度範囲で混合することで、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラノールが揮発せず、且つ、炭素-炭素二重結合基含有シラノールと無機物粒子とが有意に反応することができる。
【0079】
特に、前記炭素-炭素二重結合基含有シラノールと前記無機物粒子との混合段階で自己発熱する現象を減少させるという面から、上記の温度範囲は40℃~60℃に制御することが望ましい。
【0080】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子は、ヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む無機物粒子と、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとがカップリングされているものである。
【0081】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの加水分解反応から由来した化合物が前記無機物粒子と酸素原子によって化学結合されているものである。前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの加水分解反応から由来した化合物は、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラノールであり得る。
【0082】
本発明の具体的な一実施形態において、前記無機物粒子はヒドロキシ基を少なくとも1個以上含む金属水酸化物であり得る。
【0083】
本発明の具体的な一実施形態において、前記金属水酸化物は、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、ジルコニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アンチモン、錫、亜鉛及び稀土類元素からなる群より選択された1種またはそれ以上の元素を含む水酸化物であり得る。
【0084】
本発明の具体的な一実施形態において、前記金属水酸化物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、またはベーマイトであり得る。
【0085】
本発明の具体的な一実施形態において、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、シラン架橋反応を起こす架橋剤であって、加水分解反応から由来した炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラノール内のヒドロキシ基とヒドロキシ基を少なくとも一つ以上含む無機物粒子内のヒドロキシ基とが反応して化学結合を起こすことができる。一方、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、炭素-炭素二重結合基によってポリオレフィンにグラフトされ、アルコキシ基によって水架橋反応が行われてポリオレフィンを架橋させる役割をする。
【0086】
本発明の具体的な一実施形態において、下記化学式2で表される化合物を含むことができる。
【0087】
【化4】
【0088】
化学式2において、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数1~10のアルキル基であり、このとき、前記R、R及びRのうち少なくとも一つはアルコキシ基であり、前記Rはビニル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基または炭素数1~20のアルキル基であり、このとき、前記アルキル基の少なくとも一つの水素がビニル基、アクリルオキシ基またはメタクリルオキシ基で置換される。
【0089】
一方、前記Rは、追加的に、アミノ基、エポキシ基、またはイソシアネート基をさらに含むことができる。
【0090】
本発明の具体的な一実施形態において、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリルオキシプロピル)トリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、またはこれらのうち少なくとも2つ以上の混合物を含むことができる。
【0091】
本発明の具体的な一実施形態において、前記シラングラフトされたポリオレフィン組成物は、ポリオレフィン、前記ポリオレフィンにグラフトされたシラン、及び前記グラフトされたシランのケイ素と酸素を介して結合された無機物粒子を含むことができる。
【0092】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレン;ポリペンテン;ポリヘキセン;ポリオクテン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、4-メチルペンテン、ヘキセン及びオクテンのうち2種以上の共重合体;またはこれらの混合物を含むことができる。
【0093】
特に、前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などがあり、なかでも結晶度が高くて樹脂の溶融点が高い高密度ポリエチレンが最も望ましい。
【0094】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンの重量平均分子量は、200,000~1,000,000、220,000~700,000または250,000~500,000であり得る。本発明では200,000~1,000,000の重量平均分子量を有する高分子量のポリオレフィンを分離膜製造の出発物質として使用することで、分離膜の均一性及び製膜工程性を確保しながら、最終的に強度及び耐熱性に優れた分離膜を得ることができる。
【0095】
本発明の具体的な一実施形態において、前記希釈剤としては、湿式分離膜の製造に一般に使用される液体パラフィンオイル、固体パラフィンオイル、ワックス、大豆油などを使用することができる。
【0096】
本発明の具体的な一実施形態において、前記希釈剤としては、ポリオレフィンと液-液相分離可能な希釈剤も使用可能であり、例えば、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類;ジフェニルエーテル、ベンジルエーテルなどの芳香族エーテル類;パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10~20の脂肪酸類;パルミチン酸アルコール、ステアリン酸アルコール、オレイン酸アルコールなどの炭素数10~20の脂肪酸アルコール類;パルミチン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、ステアリン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、オレイン酸モノ-、ジ-またはトリエステル、リノール酸モノ-、ジ-またはトリエステルなどの、脂肪酸基の炭素数が4~26である飽和及び不飽和脂肪酸、若しくは、不飽和脂肪酸の二重結合がエポキシで置換された1個または2個以上の脂肪酸が、ヒドロキシ基が1~8個であって炭素数が1~10であるアルコールとエステル結合された脂肪酸エステル類;を含むことができる。
【0097】
前記希釈剤は、上述した成分を単独でまたは少なくとも2種以上含む混合物で使用することができる。
【0098】
本発明の具体的な一実施形態において、前記希釈剤の総含量は、前記ポリオレフィン100重量部を基準にして100~350重量部、125~300重量部または150~250重量部であり得る。希釈剤の総含量が上記の数値範囲を満足すると、ポリオレフィンの含量が多いことによる、気孔度が減少し気孔のサイズが小さくなって気孔同士で相互連結されず透過度が大幅に低下し、ポリオレフィン組成物の粘度が上がって押出負荷が上昇し加工が困難であるという問題を防止することができる。また、ポリオレフィンの含量が少ないことによる、ポリオレフィンと希釈剤との混練性が低下してポリオレフィンが希釈剤に熱力学的に混練されず、ゲル形態で押出されることで生じる延伸時の破断及び厚さのバラツキなどの問題を減少させることができる。
【0099】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒は、シラン架橋反応を促進させるために添加されるものである。
【0100】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒としては、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトなどの金属のカルボン酸塩、有機塩基、無機酸または有機酸を使用することができる。前記架橋触媒の非制限的な例として、前記金属のカルボン酸塩としてはジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルトなどがあり、前記有機塩基としてはエチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジンなどがあり、前記無機酸としては硫酸、塩酸などがあり、前記有機酸としてはトルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などがあり得る。また、前記架橋触媒は、これらを単独でまたは2つ以上を混合して使用することができる。
【0101】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋触媒の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの総量100重量部を基準にして、0.1~20重量部、0.5~10重量部、1~5重量部であり得る。前記架橋触媒の含量が上記の数値範囲を満足する場合、所望の水準のシラン架橋反応が起き、リチウム二次電池内での望まない副反応が起きない。また、架橋触媒が無駄使いになるなどの費用的な問題がない。
【0102】
本発明の具体的な一実施形態において、前記シラングラフトされたポリオレフィン組成物は、必要に応じて、界面活性剤、酸化安定剤、UV安定剤、帯電防止剤、核形成剤(nucleating agent)などの特定機能を向上させるための一般的な添加剤をさらに含むことができる。
【0103】
本発明の具体的な一実施形態において、前記開始剤は、ラジカル生成が可能な開始剤であれば制限なく使用可能である。前記開始剤の非制限的な例としては、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)、ベンゾイルペルオキシド、アセチルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミルペルオキシド、過酸化水素、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0104】
本発明の具体的な一実施形態において、前記開始剤の含量は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの総量100重量部を基準にして、0.1~2.0重量部、0.2~1.5重量部、または0.3~1.25重量部であり得る。前記開始剤の含量が上記の数値範囲を満足する場合、開始剤の含量が少なくてシラングラフト率が低下するか、又は、開始剤の含量が多くて押出機内でポリオレフィン同士が直接架橋する問題を防止することができる。
【0105】
本発明の具体的な一実施形態において、前記反応押出する段階では、一軸押出機または二軸押出機を使用することができる。
【0106】
次いで、前記押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をシート状に成形及び延伸する(S2)。
【0107】
例えば、反応押出されたシラングラフトされたポリオレフィン組成物をT-ダイなどが取り付けられた押出機などを用いて押出した後、水冷、空冷式を用いた一般的なキャスティングあるいはカレンダリング方法を使用して冷却押出物を形成することができる。
【0108】
本発明の具体的な一実施形態において、上記のように延伸する段階を経ることで改善された機械的強度及び突刺し強度を有する分離膜を提供することができる。
【0109】
本発明の具体的な一実施形態において、前記延伸は、ロール方式またはテンター方式の逐次または同時延伸で行うことができる。前記延伸比は、縦方向及び横方向でそれぞれ3倍以上、または4倍~10倍であり、総延伸比は14倍~100倍であり得る。延伸比が上記の数値範囲を満足する場合、一方向の配向が十分ではなく、同時に、縦方向と横方向との間の物性バランスが崩れて引張強度及び突刺し強度が低下するという問題を防止することができる。また、総延伸比が上記の数値範囲を満足すると、未延伸または気孔が形成されない問題を防止することができる。
【0110】
本発明の具体的な一実施形態において、延伸温度は使用されたポリオレフィンの融点、希釈剤の濃度及び種類によって変わり得る。
【0111】
本発明の具体的な一実施形態において、例えば、使用されたポリオレフィンがポリエチレンであって希釈剤が液体パラフィンであり、前記液体パラフィンの動粘度が40℃で50~150cStである場合、前記延伸温度は縦延伸(MD)の場合70~160℃、90~140℃または100~130℃であり得、横延伸(TD)の場合90~180℃、110~160℃または120~150℃であり得、両方向延伸を同時に行う場合は90~180℃、110~160℃または110~150℃であり得る。
【0112】
前記延伸温度が上記の数値範囲を満足する場合、前記延伸温度が低いことによる、軟質性がなくて破断が起きるかまたは未延伸が起きる問題を防止でき、延伸温度が高いために発生する部分的な過延伸または物性差を防止することができる。
【0113】
その後、前記成形及び延伸されたシートから前記希釈剤を抽出して多孔性膜を製造する(S3)。
【0114】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性膜から有機溶媒を使用して希釈剤を抽出し、前記多孔性膜を乾燥することができる。
【0115】
本発明の具体的な一実施形態において、前記有機溶媒は、前記希釈剤を抽出できるものであれば特に制限されないが、抽出効率が高くて乾燥が速いメチルエチルケトン、メチレンクロライド、ヘキサンなどが適切である。
【0116】
本発明の具体的な一実施形態において、前記抽出方法は、浸漬(immersion)方法、溶剤スプレー(solvent spray)方法、超音波(ultrasonic)法などの一般的なすべての溶媒抽出方法を単独でまたは複合的に使用することができる。抽出処理後の残留希釈剤の含量は、1重量%以下であることが望ましい。残留希釈剤の含量が1重量%を超過すれば、物性が低下して多孔性膜の透過度が減少する。残留希釈剤の含量は抽出温度と抽出時間の影響を受けるが、希釈剤と有機溶媒との溶解度を増加させるため、抽出温度は高いことが望ましいが、有機溶媒の沸騰による安全性の問題を考慮すると40℃以下であることが望ましい。前記抽出温度が希釈剤の凝固点以下であれば、抽出効率が大幅に低下するため、希釈剤の凝固点よりは高くなければならない。
【0117】
また、抽出時間は、製造される多孔性膜の厚さによって異なるが、厚さが5~15μmである多孔性膜の場合は2~4分間が適切である。
【0118】
その後、前記多孔性膜を熱固定する(S4)。
【0119】
前記熱固定は、多孔性膜を固定して熱を加え、収縮しようとする多孔性膜を強制的に固定して残留応力を除去する段階である。
【0120】
本発明の具体的な一実施形態において、前記ポリオレフィンがポリエチレンである場合、前記熱固定の温度は100℃~140℃、105℃~135℃または110℃~130℃であり得る。ポリオレフィンがポリエチレンである場合、前記熱固定の温度が上記の数値範囲を満足すると、ポリオレフィン分子の再配列が起きて多孔性膜の残留応力を除去でき、部分的溶融によって多孔性膜の気孔が詰まる問題を低減させることができる。
【0121】
本発明の具体的な一実施形態において、前記熱固定の時間は、10秒~120秒、20秒~90秒、または30秒~60秒であり得る。上記のような時間で熱固定する場合、ポリオレフィン分子の再配列が起きて多孔性膜の残留応力を除去でき、部分的溶融によって多孔性膜の気孔が詰まる問題を低減させることができる。
【0122】
次いで、熱固定された多孔性膜を水分存在下で架橋させる(S5)。
【0123】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋は60℃~100℃、65℃~95℃、または70℃~90℃で行うことができる。
【0124】
本発明の具体的な一実施形態において、前記架橋は、湿度60~95%で6~50時間行うことができる。
【0125】
本発明の具体的な一実施形態において、(S5)段階は、前記炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランで表面処理された無機物粒子とポリオレフィンとが水架橋する段階であり得る。
【0126】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0127】
実施例1
(1)シラン表面処理された無機物粒子の製造
ヘンシェルミキサーに、水酸化マグネシウム(Nabaltech社製、APYMAG100)とビニルトリメトキシシランとを25:1の比率(重量比)で投入し、相対湿度50%の条件で150rpm、50℃で混合してシラン表面処理された無機物粒子を製造した。具体的には、このような相対湿度50%の条件、150rpm、50℃での混合過程を通じて、ビニルトリメトキシシランが加水分解してビニルトリメトキシシラノールが得られ、前記ビニルトリメトキシシラノールが水酸化マグネシウムのヒドロキシ基と反応してシラン表面処理された無機物粒子が製造された。このとき、前記ビニルトリメトキシシランは炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとして使用されたものであり、後述する実施例1-(2)で使用されるポリオレフィン及び希釈剤の総含量100重量部を基準にして1重量部で投入した。
【0128】
(2)架橋ポリオレフィン分離膜の製造
まず、押出機に、ポリオレフィンとして重量平均分子量400,000の高密度ポリエチレン(大韓油化製、VH035、溶融温度:135℃)10.5kg、希釈剤として液体パラフィンオイル(極東油化製、LP350F、40℃における動粘度50cSt)13.65kg/hr、(1)で製造したシラン表面処理された無機物粒子20kgを投入及び混合した。ポリオレフィン:希釈剤:シラン表面処理された無機物粒子は25:55:20(重量比)で投入した。
【0129】
一方、前記押出機に開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)を、上述した実施例1-(1)の炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして5重量部で投入した。また、架橋触媒としてジブチル錫ジラウレートを上述した実施例1-(1)の炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして5重量部で添加した。
【0130】
このように、炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの投入時点を開始剤及び架橋触媒の投入時点と異ならせることで、開始剤と炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとの直接的な接触による副反応を著しく減少させることができる。
【0131】
その後、220℃の温度条件で反応押出してシラングラフトされたポリエチレン組成物を製造した。
【0132】
製造されたシラングラフトされたポリエチレン組成物をT-ダイと冷却キャスティングロールを用いてシート状に成形した後、MD延伸後TD延伸のテンター式逐次延伸機で二軸延伸した。MD延伸比とTD延伸比はそれぞれ6.5倍、5倍にした。延伸温度はMDで95℃、TDで105℃であった。
【0133】
前記延伸されたシートはメチレンクロライドで希釈剤を抽出し、132℃で延伸比1.6倍~1.4倍で熱固定して多孔性膜を製造した。前記多孔性膜を85℃、相対湿度85%の恒温恒湿室で48時間架橋させ、架橋ポリエチレン分離膜を製造した。
【0134】
このとき、製造された架橋ポリエチレン分離膜は、Si-O-Si架橋結合を有する架橋ポリエチレンを含み、1-(1)で製造したシラン表面処理された無機物粒子を使用した結果、前記Si-O-Si架橋結合のケイ素(Si)に酸素(O)を介して無機物粒子が化学結合されていた。
【0135】
また、前記無機物粒子の含量は、前記架橋ポリオレフィン分離膜の全体重量を基準にして37重量%であった。
【0136】
実施例2
(1)シラン表面処理された無機物粒子の製造
ヘンシェルミキサーに、ベーマイト(Nabaltech社製、ACTILOX200SM)とビニルトリメトキシシランとを25:1の比率(重量比)で投入し、相対湿度50%の条件で150rpm、50℃で混合してシラン表面処理された無機物粒子を製造した。このとき、前記ビニルトリメトキシシランは炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとして使用されたものであり、上述した実施例1-(2)で使用されたポリオレフィン及び希釈剤の総含量100重量部を基準にして1重量部で投入した。
【0137】
このように製造したシラン表面処理された無機物粒子を実施例1で製造されたシラン表面処理された無機物粒子の代りに使用したことを除き、実施例1と同じ方法で架橋ポリオレフィン分離膜を製造した。
【0138】
このとき、製造された架橋ポリエチレン分離膜は、Si-O-Si架橋結合を有する架橋ポリエチレンを含み、2-(1)で製造したシラン表面処理された無機物粒子を使用した結果、前記Si-O-Si架橋結合のケイ素(Si)に酸素(O)を介して無機物粒子が化学結合されていた。
【0139】
また、前記無機物粒子の含量は、前記架橋ポリオレフィン分離膜の全体重量を基準にして38重量%であった。
【0140】
比較例1-無機物粒子投入なし
まず、押出機に、ポリオレフィンとしての重量平均分子量400,000の高密度ポリエチレン(大韓油化製、VH035、溶融温度:135℃)と、希釈剤としての液体パラフィンオイル(極東油化製、LP350F、40℃における動粘度50cSt)とを重量比30:70で投入した。押出量は80kg/hrであり、ポリエチレンが21kg/hr、希釈剤が59kg/hrであった。また、前記押出機に炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとしてトリメトキシビニルシランをポリオレフィン及び希釈剤の総含量100重量部を基準にして2重量部で投入し、開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)を炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして5重量部で投入した。また、架橋触媒としてジブチル錫ジラウレートを炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして5重量部で添加した。
【0141】
これら成分を二軸押出機に投入して混練し、220℃の温度条件で反応押出してシラングラフトされたポリエチレン組成物を製造した。
【0142】
製造されたシラングラフトされたポリエチレン組成物をT-ダイと冷却キャスティングロールを用いてシート状に成形した後、MD延伸後TD延伸のテンター式逐次延伸機で二軸延伸した。MD延伸比とTD延伸比はそれぞれ6.5倍、5倍にした。延伸温度はMDで95℃、TDで105℃であった。
【0143】
前記延伸されたシートはメチレンクロライドで希釈剤を抽出し、132℃で延伸比1.6倍~1.4倍で熱固定して多孔性膜を製造した。前記多孔性膜を85℃、相対湿度85%の恒温恒湿室で48時間架橋させ、架橋ポリエチレン分離膜を製造した。
【0144】
比較例2-無機物粒子投入なし
高密度ポリオレフィンとして高密度ポリエチレンとシラングラフトされたポリエチレン(現代EP社製、XP650)とを15:15の重量比で投入したことを除き、比較例1と同じ方法で架橋ポリオレフィン分離膜を製造した。
【0145】
具体的には、押出機に、ポリオレフィンとしての重量平均分子量400,000の高密度ポリエチレン(大韓油化製、VH035、溶融温度:135℃)と、シラングラフトされたポリエチレン(現代EP社製、XP650)と、希釈剤としての液体パラフィンオイル(極東油化製、LP350F、40℃における動粘度50cSt)13.65kg/hrとを15:15:70の重量比で投入した。押出量は80kg/hrであり、ポリオレフィンが12kg/hr、シラングラフトされたポリエチレンが12kg/hr、希釈剤が56kg/hrであった。また、前記押出機に炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランとしてトリメトキシビニルシランをポリオレフィン、シラングラフトされたポリエチレン及び希釈剤の総含量100重量部を基準にして2重量部で投入し、開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(DHBP)を炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして5重量部で投入した。また、架橋触媒としてジブチル錫ジラウレートを炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシラン100重量部を基準にして5重量部で添加した。
【0146】
比較例3-架橋ポリオレフィン分離膜ではない
押出機に、高密度ポリエチレンと希釈剤と水酸化マグネシウム(Nabaltech社製、APYMAG100)とを25:55:20の重量比で投入したことを除き、比較例1と同じ方法でポリオレフィン分離膜を製造した。
【0147】
比較例4-無機物粒子がシランによって表面処理されていない
押出機に、高密度ポリエチレンと希釈剤とビニルトリメトキシシランとシリカ(韓国ナノ素材社製、KRU1133M)とをそれぞれ24.8:54.6:0.8:19.8(重量比)で投入したことを除き、比較例1と同じ方法で架橋ポリオレフィン分離膜を製造した。
【0148】
実験例
実施例1、2、比較例1~4によって製造された分離膜に対する評価結果を下記表1に示した。
【0149】
【表1】
【0150】
比較例1は、シラン表面処理された無機物粒子を投入しない場合である。ダイドルール現象が発生し、通気時間が長く、抵抗が大きいことを確認できる。
【0151】
比較例2は、シラングラフトされた高密度ポリエチレンを別途投入した場合である。比較例2の場合にもダイドルール現象が発生し、通気時間が非常に長いことを確認することができる。また、比較例2では、シラングラフトされた高密度ポリエチレンが押出機内で均一に分散せず、メルトダウン温度が実施例に比べて低かった。
【0152】
比較例3は、無機物粒子を投入したものの、表面処理していないものを投入した。比較例3の場合、ダイドルール現象などは発生しなかったが、メルトダウン温度が145℃と非常に低かった。したがって、本発明が目的とする耐熱効果を発揮することができなかった。
【0153】
比較例4は、実施例1と類似の通気時間、抵抗値を見せたが、シラン表面処理された無機物粒子が存在しないため、無機物とシランとがカップリングされず、ダイドルール現象が発生した。また、ダイドルール現象によって消失する炭素-炭素二重結合基含有アルコキシシランの含量が多いため、最終的に生成される分離膜の架橋度が減少し、押出機内の圧力が相対的に上昇した。
【0154】
測定方法
(1)分離膜の厚さ
分離膜の厚さは、厚み測定器(ミツトヨ社製、VL-50S-B)を用いて測定した。
【0155】
(2)通気時間
JIS P-8117に準拠して、ガーレー式空気透過度計を用いて測定した。このとき、直径28.6mm、面積645mmを空気100ccが通過する時間を測定した。
【0156】
(3)熱収縮率
熱収縮率は、(最初の長さ-120℃/1hrの熱収縮処理後の長さ)/(最初の長さ)×100で算定した。
【0157】
(4)ダイドルールの発生
実施例及び比較例による架橋ポリオレフィン分離膜の製造方法において、押出後のT-ダイから直径1.0mm以上の異物が3つ以上検出されるとダイドルールが発生したと判断した。
【0158】
(5)TMA分析によるメルトダウン温度測定
耐熱特性を調べるため、TMA(TA社製、TMAQ400)を用いて分離膜に0.01Nの荷重を加え、温度を5℃/分の速度で高めながら変形程度を測定した。温度上昇によって収縮してから再び延伸して切断される温度を測定した。このような温度を分離膜のメルトダウン温度と定義し、該温度が高いほど高温における溶融寸法安定性(melt integrity)が維持されて寸法安定性を有すると言える。
【0159】
(6)抵抗
実施例及び比較例で製造された分離膜を電解液に含浸させた後、AC抵抗を測定し、その結果を表1に示した。このとき、AC抵抗はHioki社製のテスタで1KHzにおける抵抗を測定した値である。
【0160】
(7)押出機内の圧力上昇幅の測定
分離膜製造時の初期ギヤポンプ前端圧力(P0)に比べて分離膜製造後のギヤポンプ前端圧力(P1)の変化が0.2Mpa/h以上である場合、押出機内の圧力が上昇したと判断した。
図1
図2