(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】透明導電膜付き基板の製造方法及び透明導電膜付き基板
(51)【国際特許分類】
C23C 14/46 20060101AFI20220727BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220727BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220727BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220727BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C23C14/46 C
C23C14/08 D
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/02
(21)【出願番号】P 2018047333
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】大野 幸亮
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-058265(JP,A)
【文献】特開平09-031630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/46
C23C 14/08
H05B 33/10
H01L 51/50
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜付き基板の製造方法であって、
イオンビームスパッタリング法を用いて、基板の上方に透明導電膜を形成する工程を有し、
前記透明導電膜を形成する工程においては、基板の位置及びターゲットの電位を調整することにより、アモルファス領域と、前記アモルファス領域中に分散する結晶とを有する透明導電膜を形成する、
透明導電膜付き基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板は、有機層を備えており、
前記透明導電膜を形成する工程においては、前記有機層の上方に前記アモルファス領域を形成する、
請求項1に記載の透明導電膜付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記透明導電膜を形成する工程においては、前記有機層上に保護層を形成し、
前記保護層上に前記アモルファス領域を形成する、
請求項2に記載の透明導電膜付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記ターゲットの電位を、マイナス電位、プラス電位、接地電位、及びフローティングのいずれかに設定する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の透明導電膜付き基板の製造方法。
【請求項5】
開口部を有するとともに前記ターゲットと前記基板との間に配置された遮蔽板と、前記遮蔽板の下方に位置するイオンガンと、前記遮蔽板の下方に位置する前記ターゲットを用いて、前記遮蔽板の前記開口部の上方に位置する成膜空間において、前記透明導電膜を形成し、
前記成膜空間は、第1成膜空間、第2成膜空間、及び第3成膜空間を有し、
前記第1成膜空間、前記第2成膜空間、及び前記第3成膜空間は、前記イオンガンから前記ターゲットに向かう方向に沿って、この順に並ぶように、前記遮蔽板と前記基板との間に位置し、
前記第1成膜空間、前記第2成膜空間、及び前記第3成膜空間のいずれかに対向するように前記基板を移動することで、前記基板の前記位置を調整する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の透明導電膜付き基板の製造方法。
【請求項6】
透明導電膜付き基板であって、
基板と、
アモルファス領域と、前記アモルファス領域中に分散する結晶とを有し、前記基板の上方に位置する透明導電膜と、
を備え、
前記基板は、有機層を備えており、
前記有機層の上方に、前記アモルファス領域が設けられており、
前記透明導電膜は、前記有機層上に位置するとともに前記有機層を保護する保護層を備え、
前記保護層上に前記アモルファス領域が位置
し、
断面視において、前記結晶は、前記透明導電膜の表面から前記透明導電膜の内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有する、
透明導電膜付き基板。
【請求項7】
前記透明導電膜の上面に前記結晶が露出するように、前記アモルファス領域中に前記結晶が分散している、
請求項6に記載の透明導電膜付き基板。
【請求項8】
前記透明導電膜の内部に前記結晶が位置し、前記結晶の周囲が前記アモルファス領域で覆われるように、前記アモルファス領域中に前記結晶が分散している、
請求項6又は請求項7に記載の透明導電膜付き基板。
【請求項9】
透明導電膜付き基板であって、
基板と、
前記基板の上方に位置する透明導電膜と、
を備え、
前記基板は、有機層を備えており、
前記透明導電膜は、前記有機層上に位置するとともに前記有機層を保護する保護層を備え、
前記透明導電膜は、
前記
保護層上に位置し、結晶を有しないアモルファス領域で構成される第1領域と、
前記第1領域上に位置し、
結晶の周囲が
アモルファス領域で覆われるように前記アモルファス領域中に前記結晶が分散する第2領域と、
前記第2領域上に位置し、
結晶を有しないアモルファス領域で構成される第3領域と、
を備え
、
断面視において、前記第2領域の前記結晶は、前記透明導電膜の表面から前記透明導電膜の内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有する
、
透明導電膜付き基板。
【請求項10】
前記透明導電膜は、
前記第3領域上に位置し、結晶の周囲がアモルファス領域で覆われるように前記アモルファス領域中に前記結晶が分散する第4領域を備え
、
断面視において、前記第4領域の前記結晶は、前記透明導電膜の表面から前記透明導電膜の内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有する、
請求項9に記載の透明導電膜付き基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜付き基板の製造方法及び透明導電膜付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光、表示、撮像等の機能を有するデバイスとして、有機デバイスが知られている。このような有機デバイスの構造において、光を散乱させる透明導電膜が有機膜上に形成されている。例えば、空洞(voids)を金属酸化物薄膜の内部に形成することで、光散乱が実現されている有機発光素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、空洞を備える金属酸化物薄膜とは異なり、光の取り出し効率を良好に得られる透明導電膜付き基板の製造方法と、この方法によって得られる透明導電膜付き基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1態様に係る透明導電膜付き基板の製造方法は、イオンビームスパッタリング法を用いて、基板の上方に透明導電膜を形成する工程を有し、前記透明導電膜を形成する工程においては、基板の位置及びターゲットの電位を調整することにより、アモルファス領域と、前記アモルファス領域中に分散する結晶とを有する透明導電膜を形成する。
【0006】
本発明の第1態様に係る透明導電膜付き基板の製造方法においては、前記基板は、有機層を備えており、前記透明導電膜を形成する工程においては、前記有機層の上方に前記アモルファス領域を形成してもよい。
【0007】
本発明の第1態様に係る透明導電膜付き基板の製造方法においては、前記透明導電膜を形成する工程においては、前記有機層上に保護層を形成し、前記保護層上に前記アモルファス領域を形成してもよい。
【0008】
本発明の第1態様に係る透明導電膜付き基板の製造方法においては、前記ターゲットの電位を、マイナス電位、プラス電位、接地電位、及びフローティングのいずれかに設定してもよい。
【0009】
本発明の第1態様に係る透明導電膜付き基板の製造方法においては、開口部を有するとともに前記ターゲットと前記基板との間に配置された遮蔽板と、前記遮蔽板の下方に位置するイオンガンと、前記遮蔽板の下方に位置する前記ターゲットを用いて、前記遮蔽板の前記開口部の上方に位置する成膜空間において、前記透明導電膜を形成し、前記成膜空間は、第1成膜空間、第2成膜空間、及び第3成膜空間を有し、前記第1成膜空間、前記第2成膜空間、及び前記第3成膜空間は、前記イオンガンから前記ターゲットに向かう方向に沿って、この順に並ぶように、前記遮蔽板と前記基板との間に位置し、前記第1成膜空間、前記第2成膜空間、及び前記第3成膜空間のいずれかに対向するように前記基板を移動することで、前記基板の前記位置を調整してもよい。
【0010】
本発明の第2態様に係る透明導電膜付き基板は、基板と、アモルファス領域と、前記アモルファス領域中に分散する結晶とを有し、前記基板の上方に位置する透明導電膜と、を備える。前記基板は、有機層を備えており、前記有機層の上方に、前記アモルファス領域が設けられており、前記透明導電膜は、前記有機層上に位置するとともに前記有機層を保護する保護層を備え、前記保護層上に前記アモルファス領域が位置する。断面視において、前記結晶は、前記透明導電膜の表面から前記透明導電膜の内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有する。
【0013】
本発明の第2態様に係る透明導電膜付き基板においては、前記透明導電膜の上面に前記結晶が露出するように、前記アモルファス領域中に前記結晶が分散してもよい。
【0014】
本発明の第2態様に係る透明導電膜付き基板においては、前記透明導電膜の内部に前記結晶が位置し、前記結晶の周囲が前記アモルファス領域で覆われるように、前記アモルファス領域中に前記結晶が分散してもよい。
【0015】
本発明の態様に係る透明導電膜付き基板は、基板と、前記基板の上方に位置する透明導電膜とを備える。前記基板は、有機層を備える。前記透明導電膜は、前記有機層上に位置するとともに前記有機層を保護する保護層を備える。前記透明導電膜は、前記保護層上に位置し、結晶を有しないアモルファス領域で構成される第1領域と、前記第1領域上に位置し、結晶の周囲がアモルファス領域で覆われるように前記アモルファス領域中に前記結晶が分散する第2領域と、前記第2領域上に位置し、結晶を有しないアモルファス領域で構成される第3領域と、を備える。断面視において、前記第2領域の前記結晶は、前記透明導電膜の表面から前記透明導電膜の内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有する。
【0016】
本発明の態様に係る透明導電膜付き基板においては、前記透明導電膜は、前記第3領域上に位置し、結晶の周囲がアモルファス領域で覆われるように前記アモルファス領域中に前記結晶が分散する第4領域を備えてもよい。断面視において、前記第4領域の前記結晶は、前記透明導電膜の表面から前記透明導電膜の内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記態様によれば、光の取り出し効率を良好に得られる透明導電膜付き基板の製造方法と、この方法によって得られる透明導電膜付き基板とを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る透明導電膜付き基板の製造装置の概略構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る透明導電膜付き基板を示す拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る透明導電膜付き基板の製造工程を説明する拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施形態の変形例に係る透明導電膜付き基板を示す拡大断面図である。
【
図5】本発明の実施例を説明する図であって、実験基板における測定点の位置に対する透明導電膜の成膜レート及び膜質、及び、スパッタリング装置の構造を説明する図である。
【
図6】本発明の実施例を説明する図であって、透明導電膜の表面構造を説明するTEM像である。
【
図7】本発明の実施例を説明する図であって、透明導電膜の表面構造及び断面構造を説明するTEM像である。
【
図8】
図7に示すTEM像に基づいて作成された結晶の外形輪郭に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る透明導電膜付き基板の製造方法及び透明導電膜付き基板について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0021】
(スパッタリング装置)
本実施形態に係る透明導電膜付き基板の製造方法は、
図1に示すスパッタリング装置1(透明導電膜付き基板の製造装置)において行われる。スパッタリング装置1は、不図示のチャンバの内部において、基板S上に形成された有機膜上に膜を形成するイオンビームスパッタリング装置である。
スパッタリング装置1は、ターゲット10と、イオンガン20と、遮蔽板30と、基板移動部40と、ターゲット10の電位を調整する電位制御部50とを備える。
スパッタリング装置1には、アルゴン(Ar)及び酸素(O
2)をチャンバ内に供給する不図示のガス供給装置が接続されている。
【0022】
(ターゲット、イオンガン)
ターゲット10を構成する材料は、ITO(Indium Tin Oxide)である。ターゲット10には、イオンガン20から出射されるイオンビームが照射される。イオンビームの照射によってターゲット10がスパッタされ、ターゲット10を構成する材料は、基板Sに膜として形成される。
【0023】
(遮蔽板)
遮蔽板30は、ターゲット10と基板Sとの間に配置されており、開口部31を有する。遮蔽板30は、不図示の配線を介して接地されており、遮蔽板30の電位は0となっている。遮蔽板30は、ターゲット10よりもイオンガン20に近い位置にある開口部31の開口端32(第1開口端)と、イオンガン20よりもターゲット10に近い位置にある開口部31の開口端33(第2開口端)とを有する。
【0024】
開口部31の両側(開口端32、33)において、遮蔽板30の上面には、磁石が配置されてもよい。このような構成を有する遮蔽板30は、イオンビームスパッタリングによって生じる反跳アルゴンを基板Sに向かって飛翔することを抑制し、ターゲット10をスパッタリングすることでターゲット10から発生したスパッタ粒子SPを開口部31に透過させる。また、磁石が配置されていることで、電子が磁石に引き付けられ、基板Sに対する電子の導入が抑制される。
【0025】
(基板移動部)
基板移動部40は、基板Sを保持する保持部41と、開口部31に対して保持部41を相対的に移動させる駆動部42とを備える。基板移動部40は、保持部41によって基板Sが保持された状態で、駆動部42によって保持部41を符号Dに示す方向に往復移動させる。これにより、基板移動部40は、開口部31の上方に位置する成膜空間43に基板Sを曝す。即ち、基板移動部40は、成膜空間43における基板Sの位置を調整することができる。
【0026】
図5において後述するように、成膜空間43は、結晶の形成を抑制しながらアモルファス領域を有する透明導電膜を基板Sに形成することが可能な第1成膜空間43Aと、結晶が分散されたアモルファス領域を有する透明導電膜を基板Sに形成することが可能な第2成膜空間43Bと、第2成膜空間43Bにおける成膜よりも結晶の発生頻度が多いアモルファス領域を有する透明導電膜を基板Sに形成することが可能な第3成膜空間43Cとを有する。
このため、基板移動部40は、基板Sの位置を調整することによって、即ち、第1成膜空間43A、第2成膜空間43B、及び第3成膜空間43Cのいずれかに対向するよう基板Sを移動することができ、透明導電膜を構成するアモルファス領域に形成される結晶の発生頻度を制御することができる。
【0027】
第1成膜空間43A、第2成膜空間43B、及び第3成膜空間43Cは、イオンガン20からターゲット10に向かう方向に沿って、この順に並ぶように、遮蔽板30と基板S(基板移動部40)との間に位置する。
換言すると、開口部31の上方に位置する成膜空間43において、ターゲット10よりもイオンガン20に近い位置にある開口部31の開口端32(第1開口端)の上方に第1成膜空間43Aが位置している。一方、成膜空間43において、イオンガン20よりもターゲット10に近い位置にある開口部31の開口端33(第2開口端)の上方に第3成膜空間43Cが位置している。成膜空間43において、開口部31の中央に対応する位置に第2成膜空間43Bが位置している。即ち、第2成膜空間43Bは、第1成膜空間43Aと第3成膜空間43Cとの間に位置する。
【0028】
基板移動部40が第1成膜空間43Aに対向する位置に基板Sを配置させ、この状態でスパッタリングを行うことで、結晶の形成を抑制しながらアモルファス領域を基板Sの上方に形成することが可能となる。
基板移動部40が第2成膜空間43Bに対向する位置に基板Sを配置させ、この状態でスパッタリングを行うことで、結晶を含むようにアモルファス領域を基板Sの上方に形成することが可能となる。
基板移動部40が第3成膜空間43Cに対向する位置に基板Sを配置させ、この状態でスパッタリングを行うことで、第2成膜空間43Bよりも結晶の発生頻度が多いアモルファス領域を基板Sの上方に形成することが可能となる。
【0029】
(電位制御部)
電位制御部50は、ターゲット10の電位を、マイナス電位51(マイナスバイアス)、プラス電位52(プラスバイアス)、接地電位53(GND)、及びフローティング54のいずれかに設定することができる。また、マイナス電位51及びプラス電位52における電位量も適宜調整することができる。
【0030】
電位制御部50がターゲット10の電位を接地電位又はマイナス電位に設定した状態でスパッタリングを行うことで、結晶の発生が抑制されたアモルファス領域を基板Sの上方に形成することが可能となる。
また、電位制御部50がターゲット10の電位をフローティングに設定した状態でスパッタリングを行うことで、結晶の発生頻度が多いアモルファス領域を基板Sの上方に形成することが可能となる。
【0031】
具体的に、ターゲット10の電位が、例えば、-200Vといったマイナス電位に設定された条件でスパッタリングを行う場合(基板の電位はプラス電位に設定)、Ar+の速度は大きく減速し、電子(e-)の速度は大きく加速し、酸素(O-、酸素イオン)の速度は大きく加速し、この状態で、スパッタリングが行われる。この場合、ターゲット材料であるスパッタ粒子は、電子及び酸素イオンとともに、基板Sに向かって飛翔し、成膜が行われる。
【0032】
また、ターゲット10の電位が、接地電位に設定された条件でスパッタリングを行う場合(基板の電位はプラス電位に設定)、Ar+の速度は小さく減速し、電子(e-)の速度は小さく加速し、酸素(O-、酸素イオン)の速度は小さく加速し、この状態で、スパッタリングが行われる。この場合、ターゲット材料であるスパッタ粒子は、基板Sに向かって飛翔し、成膜が行われる。電子及び酸素イオンは、遮蔽板30の上面に配置された磁石に引き付けられる。
【0033】
また、ターゲット10の電位が、フローティングに設定された条件でスパッタリングを行う場合(基板の電位はプラス電位に設定)、Ar+は加速し、電子(e-)の速度は大きく減速し、酸素(O-、酸素イオン)の速度は大きく減速し、この状態で、スパッタリングが行われる。この場合、ターゲット材料であるスパッタ粒子は、基板Sに向かって飛翔し、成膜が行われる。電子及び酸素イオンは、ターゲットに引き付けられる。
【0034】
(透明導電膜付き基板)
本実施形態に係る透明導電膜付き基板100は、
図2に示すように、有機層60を備えた基板Sと、有機層60の上方に位置する透明導電膜70(TCO膜、Transparent Conductive Oxide)を備える。透明導電膜70は、有機層60を保護する保護層71と、保護層71上に位置するアモルファス領域72と、アモルファス領域72中に分散する結晶73とを含む。
【0035】
(基板)
基板Sは、樹脂材料や無機材料等、公知の材料によって構成されている。
なお、
図1は、端部を有する1枚の基板Sを示しているが、本発明は、
図1に示す基板Sを限定しない。例えば、フィルム基板であってもよい。
【0036】
(有機膜)
有機層60は、発光、表示、撮像等の機能を有する有機デバイスを構成する膜であり、低分子材料や高分子材料等、公知の材料によって構成されている。
本実施形態においては、有機層60が発光層として機能する場合について説明する。
【0037】
(保護層)
保護層71は、透明導電膜付き基板の製造方法において、有機層60上に最初に形成される初期層である。保護層71は、スパッタリングによって有機層60に熱負荷等のダメージが加わることを抑制し、有機層60を保護する。保護層71の厚さに関し、有機層60に対するダメージを抑制する効果が得られれば、薄くてもよい。保護層71の厚さは、アモルファス領域72に比べて厚さが小さく、例えば、100Å程度である。
【0038】
(アモルファス領域)
本実施形態において、アモルファス領域72の屈折率は、2.0程度(n=2.0)である。本発明は、アモルファス領域72の屈折率を限定しておらず、スパッタリングの条件を変えることで、屈折率を適宜調整することが可能である。
【0039】
(結晶)
本実施形態において、結晶73の屈折率は、1.7程度(n=1.7)である。本発明は、結晶73の屈折率を限定しておらず、スパッタリングの条件を変えることで、屈折率を適宜調整することが可能である。結晶73は、アモルファス領域72において部分的に形成されている。
【0040】
断面視において、結晶73は、透明導電膜70から有機層60に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有する。換言すると、透明導電膜70の上面70T(表面)から透明導電膜70の内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有する。
より具体的には、
図2における、XY方向(透明導電膜付き基板100の光出射面(上面70T)に平行な方向)に沿う結晶73の断面積が、Z方向(透明導電膜付き基板100の光出射面(上面70T)に鉛直な方向)に向けて、徐々に減少している。本実施形態において、透明導電膜70の上面70Tに結晶73が露出するように、アモルファス領域72中に結晶73が分散している。
【0041】
上述した構造を有する透明導電膜70は、結晶73を有しないアモルファス領域72で構成された第1領域70Aと、アモルファス領域72中に結晶73が分散している第2領域70Bとを有する。透明導電膜70は、導電性及び光透過性を有する膜として機能するだけでなく、屈折率が異なる2層を有する光散乱層としても機能する。
【0042】
本実施形態に係る製造方法で作成された透明導電膜70においては、アモルファス領域72中に結晶73が分散した膜の透過率は増加し、また、その屈折率は、母体となるアモルファスの屈折率よりも減少する。その比率は、結晶の体積比率との相関を示していることが確認された。
【0043】
(透明導電膜付き基板の製造方法)
(保護層の形成)
図3(a)に示すように、まず、有機層60が設けられた基板Sを用意し、有機層60の上方に保護層71を形成する。保護層71の形成方法としては、
図1に示すスパッタリング装置1によるイオンビームスパッタリング法が用いられる。保護層71の成膜条件としては、ターゲットの電位を、接地電位又はマイナス電位に設定することスパッタリングが行われる。マイナス電位として、例えば、-200Vといった電位が挙げられる。
【0044】
(結晶の発生が抑制されたアモルファス領域の形成)
次に、
図3(b)に示すように、保護層71上に、アモルファス領域72で構成される第1領域70Aを形成する。第1領域70Aの形成方法としては、
図1に示すスパッタリング装置1が用いられ、基板移動部40及び電位制御部50を制御することで、第1領域70Aが形成される。第1領域70Aの成膜条件としては、ターゲットの電位が、例えば、フローティングに設定された状態で、スパッタリングが行われる。なお、保護層71上に最初に形成されるアモルファス領域の成膜条件においては、ターゲットの電位は、フローティングに限定されず、-200Vといったマイナス電位に設定してもよいし、接地電位に設定してもよい。
【0045】
(結晶の発生が伴うアモルファス領域の形成)
次に、
図3(c)に示すように、アモルファス領域72中に結晶73が分散する第2領域70Bを第1領域70A上に形成する。第2領域70Bにおいては、結晶73の周囲がアモルファス領域72で覆われるように、アモルファス領域72中に結晶73が分散している。第2領域70Bの形成方法としては、
図1に示すスパッタリング装置1によるイオンビームスパッタリング法が用いられ、基板移動部40及び電位制御部50を制御することで、第2領域70Bが形成される。第2領域70Bの成膜条件としては、ターゲットの電位がフローティングに設定された状態で、スパッタリングが行われる。
また、基板移動部40及び電位制御部50を制御することで、アモルファス領域中における結晶73の発生頻度(単位面積あたりの結晶73の個数)を調整することができる。
【0046】
本実施形態に係る製造方法を利用することで、結晶化に影響を与えるスパッタ粒子の速度を制御することができる。これにより、アモルファス領域72における結晶73の発生頻度の制御性が得られ、透明導電膜70を備える光デバイスに要求される光散乱性に応じて、所望の光散乱層を容易に形成することができる。
【0047】
また、上述した製造方法においては、エッチングやイオン注入等の工程が不要であり、スパッタリング装置1から基板Sを取り出す必要もない。一つのスパッタリング装置1を用いて、第1領域70Aと第2領域70Bとを連続的に形成することができる。
なお、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。
【0048】
なお、本実施形態では、第1領域70A上に第2領域70Bが位置する例について説明しているが、第1領域70Aと第2領域70Bとの間には、境界が形成されていない。スパッタリング装置1によって、第1領域70A及び第2領域70Bは、連続的に形成される。
【0049】
次に、本実施形態に係る透明導電膜付き基板100における作用について説明する。
図2に示すように、不図示の電極から電圧が有機層60に供給されると、有機層60は発光し、有機層60から発生した光は、アモルファス領域72に入射する。アモルファス領域72を通過した光のうちの一部は、結晶73に入射する。この時、アモルファス領域72と結晶73との屈折率の違いにより、結晶73に入射した光は屈折する。結晶73によって屈折した光は、出射光Lとして、透明導電膜70の上面70Tから透明導電膜付き基板100の外部に取り出される。
【0050】
このような光の屈折は、第1領域70Aと第2領域70Bとの間で行われ、上面70Tの全面において出射光Lが得られる。
本実施形態によれば、第1領域70A及び第2領域70Bにおいて、光が、屈折率の異なるアモルファス領域と結晶とを通過することにより、光を散乱させることができ、光の取り出し効率が良好に得ることができる。
また、スパッタリング装置1におけるイオンビームスパッタリング法の条件を調整するだけで、2層の多層構造(第1領域70A、第2領域70B)を形成することができ、上記効果を得ることができる。
【0051】
(透明導電膜付き基板の変形例)
次に、
図4を参照し、本発明の実施形態の変形例に係る透明導電膜付き基板について説明する。
図4において、上述した実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。透明導電膜70の構造の点で、以下に説明する変形例は、上述した実施形態とは相違する。
【0052】
(変形例1)
図4(a)に示すように、変形例1に係る透明導電膜付き基板101においては、透明導電膜70の内部に結晶73が位置し、結晶73の周囲がアモルファス領域72、74で覆われるように、アモルファス領域72、74中に結晶73が分散している。
以下の説明では、異なる符号72、74により、アモルファス領域が示されているが、層構成は、同じである。
【0053】
変形例1に係る透明導電膜付き基板101の製造方法においては、
図3(c)に示す第2領域70B上に、アモルファス領域74で構成される第3領域70Cが形成されている。第3領域70Cの形成方法としては、
図3(b)において説明した方法が用いられる。
なお、本変形例1では、第2領域70B上に第3領域70Cが位置する例について説明しているが、第2領域70Bと第3領域70Cとの間には、境界が形成されていない。スパッタリング装置1によって、第1領域70A、第2領域70B、及び第3領域70Cは、連続的に形成される。
【0054】
次に、本変形例1に係る透明導電膜付き基板101における作用について説明する。
不図示の電極から電圧が有機層60に供給されると、有機層60は発光し、有機層60から発生した光は、アモルファス領域72に入射する。アモルファス領域72を通過した光のうちの一部は、結晶73に入射する。この時、アモルファス領域72と結晶73との屈折率の違いにより、結晶73に入射した光は屈折する。
【0055】
結晶73によって屈折した光は、アモルファス領域74(第3領域70C)に入射する際に、結晶73とアモルファス領域74との屈折率の違いにより、更に屈折する。アモルファス領域74を通過した光は、出射光Lとして、透明導電膜70の上面70Tから透明導電膜付き基板101の外部に取り出される。このような光の屈折は、第1領域70A、第2領域70B、及び第3領域70Cのうち互いに隣り合う領域の間で行われ、上面70Tの全面において出射光Lが得られる。
【0056】
本変形例1によれば、第1領域70A、第2領域70B、及び第3領域70Cにおいて、光が、屈折率の異なるアモルファス領域と結晶とを通過することにより、光を散乱させることができ、光の取り出し効率が良好に得ることができる。
また、スパッタリング装置1におけるイオンビームスパッタリング法の条件を調整するだけで、3層の多層構造(第1領域70A、第2領域70B、第3領域70C)を形成することができ、上記効果を得ることができる。
【0057】
(変形例2)
図4(b)に示すように、変形例2に係る透明導電膜付き基板102においては、
図4(a)に示す第3領域70C上に位置する第4領域70Dが形成されている。第4領域70Dの形成方法としては、
図3(c)において説明した方法が用いられる。第4領域70Dにおいては、結晶75の周囲がアモルファス領域で覆われるように、アモルファス領域中に結晶75が分散している。
本変形例2では、透明導電膜70の内部に結晶73が位置するように、かつ、透明導電膜70の上面70Tに結晶75が露出するように、アモルファス領域中に結晶73、75が分散している。
以下の説明では、異なる符号73、75により、結晶が示されているが、結晶構造は、同じである。
【0058】
なお、本変形例2では、第3領域70C上に第4領域70Dが位置する例について説明しているが、第3領域70Cと第4領域70Dとの間には、境界が形成されていない。スパッタリング装置1によって、第1領域70A、第2領域70B、第3領域70C、及び第4領域70Dは、連続的に形成される。
【0059】
次に、本変形例2に係る透明導電膜付き基板102における作用について説明する。
不図示の電極から電圧が有機層60に供給されると、有機層60は発光し、有機層60から発生した光は、アモルファス領域72に入射する。アモルファス領域72を通過した光のうちの一部は、結晶73に入射する。この時、アモルファス領域72と結晶73との屈折率の違いにより、結晶73に入射した光は屈折する。
【0060】
結晶73によって屈折した光は、アモルファス領域74(第3領域70C)に入射する際に、結晶73とアモルファス領域74との屈折率の違いにより、更に屈折する。アモルファス領域74を通過した光のうちの一部は、結晶75に入射する。この時、アモルファス領域74と結晶75との屈折率の違いにより、結晶75に入射した光は、更に屈折する。
【0061】
結晶75によって屈折した光は、出射光Lとして、透明導電膜70の上面70Tから透明導電膜付き基板102の外部に取り出される。このような光の屈折は、第1領域70A、第2領域70B、第3領域70C、及び第4領域70Dのうち互いに隣り合う領域の間で行われ、上面70Tの全面において出射光Lが得られる。
【0062】
本変形例2によれば、第1領域70A、第2領域70B、第3領域70C、及び第4領域70Dにおいて、光が、屈折率の異なるアモルファス領域と結晶とを通過することにより、光を散乱させることができ、光の取り出し効率が良好に得ることができる。
また、スパッタリング装置1におけるイオンビームスパッタリング法の条件を調整するだけで、4層の多層構造(第1領域70A、第2領域70B、第3領域70C、第4領域70D)を形成することができ、上記効果を得ることができる。
【0063】
なお、
図4(b)に示す例では、透明導電膜70が、アモルファス領域中に結晶が分散する2つの層(第2領域70B、第4領域70D)を備える構造について説明したが、アモルファス領域中に結晶が分散する層の数は、2つに限定されない。3つ以上の層において、アモルファス領域中に結晶が分散してもよい。
【0064】
(変形例3)
上述した実施形態及び変形例においては、透明導電膜70がスパッタリングによる有機層60へのダメージを抑制する保護層71を備えているが、本発明は保護層71を備える構造を限定しない。有機層60を備えない構成、例えば、太陽電池のテクスチャ構造に上述した透明導電膜70を適用してもよい。
【0065】
(変形例4)
有機デバイスに限定されず、無機デバイスにおいても、光散乱性が求められる部分に、上述した透明導電膜70を適用してもよい。
例えば、良好な光透過性や良好な発光効率が求められている光学デバイスにおいて、配線等の光遮光部が光路上に配置されている部分に、上述した透明導電膜70を形成してもよい。この場合、従来、光遮光部によって遮られてしまう光を散乱させることができ、良好な光透過性や良好な発光効率を有する光学デバイスを実現できる。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【実施例】
【0067】
次に、
図5から
図8に基づき、実施例を参照して本発明の効果をより具体的に説明する。
【0068】
(実験基板における測定点の位置に対する透明導電膜の成膜レート及び膜質、及び、スパッタリング装置の構造)
図5は、上述したスパッタリング装置1を用いて実験基板ES上に透明導電膜を成膜した結果を示しており、透明導電膜の成膜レート及び膜質を説明する図である。
【0069】
図5(a)は、実験によって得られた結果を示しており、実験基板ESにおける測定点の位置(0mm~400mm、Position)、抵抗率(μΩcm、Resistivity)、及び成膜レート(nm/min、Deposition Rate)の関係を示している。
図5(b)は、上述したスパッタリング装置1の構造と、成膜空間43と、実験基板ESにおける測定点の位置との関係を示す図である。なお、
図5(b)においては、基板移動部40による基板の移動を行わず、即ち、実験基板ESが固定された状態で、スパッタリングが行われている。
【0070】
図5(a)と
図5(b)との対応関係について、
図5(a)に示す位置120mmは、
図5(b)に示す実験基板ES上のポイントP1に対応し、
図5(a)に示す位置200mmは、
図5(b)に示す実験基板ES上のポイントP2に対応し、
図5(a)に示す位置300mmは、
図5(b)に示す実験基板ES上のポイントP3に対応する。
【0071】
また、ポイントP1は、成膜空間43における第1成膜空間43Aに面している。ポイントP2は、成膜空間43における第2成膜空間43Bに面している。ポイントP3は、成膜空間43における第3成膜空間43Cに面している。
【0072】
成膜条件は、以下のとおりである。
チャンバ内に供給されるガスの種類:アルゴン(Ar)、酸素(O2)
アルゴンが供給される前のチャンバ内の圧力:5.0×10-4Pa
アルゴンが供給されている状態におけるチャンバ内の圧力:5.0×10-2Pa
イオンガンへの供給電力:2000V
ターゲットの種類:ITO
ターゲットの電位:フローティング
なお、一般的に知られているように、酸素を供給しながら透明導電膜を成膜する場合、成膜によって得られる透明導電膜の抵抗値が最も低くなる酸素の供給量(分圧)が存在する。そこで、本実施例では、透明導電膜の抵抗値が最も低くなる酸素の供給量を予め実験により得ておき、この酸素の供給量が適用されている(O2 Optimized)。
【0073】
図5より、以下の点が明らかとなった。
(A1)抵抗率に関し、実験基板ESにおける測定点の位置が10mmから120mm(ポイントP1)に変化するに従って、抵抗率は徐々に低下し、位置が120mmである場合では抵抗率が9×10
2μΩcm程度になることが明らかとなった。また、実験基板ESにおける測定点の位置が120mmから300mm(ポイントP3)に変化するに従って、抵抗率は徐々に上昇し、測定点の位置が300mmである場合では抵抗率が3.5×10
3μΩcm程度になることが明らかとなった。
【0074】
(A2)成膜レートに関し、実験基板ESにおける測定点の位置が10mmから30mmまでの間では成膜レートは、殆ど変化せず、成膜レートが0.5~0.8nm/min程度であった。実験基板ESにおける測定点の位置が30mmから220mmに変化するに従って、成膜レートは上昇し、測定点の位置が220mmである場合では成膜レートは4.5nm/min程度になることが明らかとなった。また、実験基板ESにおける測定点の位置が220mmから390mmに変化するに従って、成膜レートは低下し、測定点の位置が390mmである場合では成膜レートが0.8nm/min程度になることが明らかとなった。
【0075】
図6は、
図5に示した実験基板ES上に形成された透明導電膜の表面構造を説明するTEM像である。
図6(a)は、実験基板ES上のポイントP1(
図5(a)における位置:120mm、符号(a))における透明導電膜の表面構造を示している。
図6(b)は、実験基板ES上のポイントP2(
図5(a)における位置:200mm、符号(b))における透明導電膜の表面構造を示している。
図6(c)は、実験基板ES上のポイントP3(
図5(a)における位置:300mm、符号(c))における透明導電膜の表面構造を示している。
図6において、黒色の点で示された部分は、透明導電膜の結晶である。結晶の周囲に形成されている領域は、透明導電膜のアモルファス領域である。
【0076】
図6より、以下の点が明らかとなった。
(B1)実験基板ES上のポイントP1においては、結晶が殆ど確認されず、アモルファス領域が形成されていることが明らかとなった。換言すると、
図5(b)における第1成膜空間43Aにおいては、結晶の形成を抑制しながらアモルファス領域を有する透明導電膜を基板上に形成可能であることが分かる。
(B2)実験基板ES上のポイントP2においては、結晶の部分的な発生が確認され、結晶が分散しているアモルファス領域が形成されていることが明らかとなった。換言すると、
図5(b)における第2成膜空間43Bにおいては、結晶が分散されたアモルファス領域を有する透明導電膜を基板上に形成可能であることが分かる。
(B3)実験基板ES上のポイントP3においては、結晶の部分的な発生が確認され、ポイントP2よりも結晶の発生頻度が多いアモルファス領域が形成されていることが明らかとなった。換言すると、
図5(b)における第3成膜空間43Cにおいては、第2成膜空間43Bにおける成膜よりも結晶の発生頻度が多いアモルファス領域を有する透明導電膜を基板上に形成可能であることが分かる。
(B4)上記のように、実験基板ESが固定された状態で成膜を行った結果、結晶の発生頻度がポイントP1~P3において異なることが明らかとなった。即ち、上述した実施形態では基板の位置を調整することが可能であるため、第1成膜空間43Aに基板を対向させて成膜を行うことにより、
図6(a)に示す表面構造を有する透明導電膜を基板上に形成することができることが明らかである。同様に、第2成膜空間43Bに基板を対向させて成膜を行うことにより、
図6(b)に示す表面構造を有する透明導電膜を基板上に形成することができることが明らかである。また、第3成膜空間43Cに基板を対向させて成膜を行うことにより、
図6(c)に示す表面構造を有する透明導電膜を基板上に形成することができることが明らかである。
【0077】
図7は、
図6に示した透明導電膜に形成された結晶を拡大して示す図である。
図7(a)は、結晶の表面構造を示すTEM像である。
図7(b)は、
図7(a)が示す符号Aにおける箇所に発生した結晶の断面構造を示すTEM像である。
【0078】
図7より、以下の点が明らかとなった。
(C1)
図7(a)に示す黒色の点は、透明導電膜の結晶であり、結晶の周囲には、透明導電膜のアモルファス領域が形成されていることが分かる。
(C2)
図7(b)に示すように、透明導電膜の結晶は、透明導電膜の表面から内部に向かうに従って徐々に細くなる三角形状を有することが分かる。
【0079】
図8は、
図7(a)に示すTEM像に基づいて作成された結晶の外形輪郭に対応する図である。
図8(a)は、
図7(a)に対応しており、結晶の表面構造を示すTEM像である。
図8(b)は、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて作成されており、
図8(b)に示す複数の点状物(多角形)は、
図8(a)に示す黒色の点(結晶)に対応している。
【0080】
図8より、以下の点が明らかとなった。
(D1)結晶の形状は、様々な形状を有する多角形であることが分かる。
(D2)結晶は、アモルファス領域内に分散していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、光の取り出し効率を良好に得られる透明導電膜付き基板の製造方法、及び、この方法によって得られる透明導電膜付き基板に適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 スパッタリング装置、10 ターゲット、20 イオンガン、30 遮蔽板、31 開口部、32 開口端(第1開口端)、33 開口端(第2開口端)、40 基板移動部、41 保持部、42 駆動部、43 成膜空間、43A 第1成膜空間(成膜空間)、43B 第2成膜空間(成膜空間)、43C 第3成膜空間(成膜空間)、50 電位制御部、51 マイナス電位、52 プラス電位、53 接地電位、60 有機層、70 透明導電膜、70A 第1領域、70B 第2領域、70C 第3領域、70D 第4領域、70T 上面、71 保護層、72、74 アモルファス領域、73、75 結晶、100、101、102 透明導電膜付き基板、GND 接地電位、L 出射光、P1、P2、P3 ポイント、ES 実験基板、S 基板、SP スパッタ粒子。