(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-26
(45)【発行日】2022-08-03
(54)【発明の名称】レーザ追尾装置およびレーザ追尾装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/66 20060101AFI20220727BHJP
G01B 9/02 20220101ALI20220727BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
G01S17/66
G01B9/02
G05D3/12 306Z
(21)【出願番号】P 2018171341
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 慎一
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505452(JP,A)
【文献】特開2018-025483(JP,A)
【文献】特開2009-229066(JP,A)
【文献】特開2014-021758(JP,A)
【文献】特開昭63-120314(JP,A)
【文献】特開平06-289915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48-7/51
G01S 17/00-17/95
G01B 9/00-11/30
G01C 3/00-3/32
G05D 3/00-3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射された出射光とターゲットで反射された反射光との光軸ずれ量を検出する光軸ずれ検出部と、
入力されるトルク指令に基づいて前記レーザ光源を回転させる回転機構と、
前記レーザ光源が回転する角速度を検出する角速度検出部と、
前記光軸ずれ量に基づいて速度指令を出力する速度指令部と、
前記速度指令と前記角速度との速度偏差を積分する積分器を有し、前記速度偏差の積分値に基づいて積分制御値を算出し、前記積分制御値を含む前記トルク指令を出力するトルク指令部と、
前記光軸ずれ量および前記角速度の各絶対値がそれぞれ閾値以下に到達した場合に、前記積分器を初期状態にリセットするリセット部と、を備えることを特徴とするレーザ追尾装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ追尾装置であって、
前記リセット部は、前記光軸ずれ量および前記角速度がそれぞれ0に到達した場合に、前記積分器をリセットすることを特徴とするレーザ追尾装置。
【請求項3】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射された出射光とターゲットで反射された反射光との光軸ずれ量を検出する光軸ずれ検出部と、
入力されるトルク指令に基づいて前記レーザ光源を回転させる回転機構と、
前記レーザ光源が回転する角速度を検出する角速度検出部と、
前記光軸ずれ量に基づいて速度指令を出力する速度指令部と、
前記速度指令と前記角速度との速度偏差を積分する積分器を有し、前記速度偏差の積分値に基づいて積分制御値を算出し、前記積分制御値を含む前記トルク指令を出力するトルク指令部と、を備えるレーザ追尾装置において、
前記光軸ずれ量および前記角速度の各絶対値がそれぞれ閾値以下に到達した場合に、前記積分器を初期状態にリセットする処理を実施することを特徴とするレーザ追尾装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ追尾装置およびレーザ追尾装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体に固定されたターゲットに対してレーザ光を照射し、ターゲットを追尾するようにレーザ光の照射方向を変更するレーザトラッカー等のレーザ追尾装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載のレーザトラッカーは、レーザ干渉計と、レーザ干渉計から出力されるレーザ光(出射光)の光軸方向を任意の方向に向ける二軸回転機構と、ターゲットとしての再帰反射体で反射された戻り光(反射光)の光軸のずれを検出する検出センサーとを備える。このレーザトラッカーは、検出センサーによって出射光と入射光とのずれを検出し、出射光と入射光とが同軸となるように二軸回転機構をフィードバック制御し、再帰反射体の中心に出射光が照射されるように追尾させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1等に記載のレーザトラッカーは、工作機械や三次元測定装置において、テーブルに対する主軸の動的位置を測定することに用いられる場合がある。このような場合、主軸に設けられたターゲットは一方向へ移動するのみではなく、一旦停止してから逆方向へ移動することがある。
しかし、特許文献1等に記載のレーザトラッカーでは、ターゲットが停止前とは逆方向に移動再開する場合、停止前と同じ方向に移動再開する場合に比べて、ターゲットの移動再開に応じる応答速度が遅く、ターゲットに対するレーザ光の追尾遅れ量が大きくなる。すなわち、特許文献1等に記載のレーザトラッカーでは、ターゲットが移動停止と移動再開を繰り返す際、ターゲットの移動方向に応じて追尾特性のばらつきが生じる。
【0005】
本発明は、追尾特性のばらつきを抑制可能なレーザ追尾装置およびレーザ追尾装置の制御方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ追尾装置は、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光源から出射された出射光とターゲットで反射された反射光との光軸ずれ量を検出する光軸ずれ検出部と、入力されるトルク指令に基づいて前記レーザ光源を回転させる回転機構と、前記レーザ光源が回転する角速度を検出する角速度検出部と、前記光軸ずれ量に基づいて速度指令を出力する速度指令部と、前記速度指令と前記角速度との速度偏差を積分する積分器を有し、前記速度偏差の積分値に基づいて積分制御値を算出し、前記積分制御値を含む前記トルク指令を出力するトルク指令部と、前記光軸ずれ量および前記角速度の各絶対値がそれぞれ閾値以下に到達した場合に、前記積分器を初期状態にリセットするリセット部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明では、速度指令部が、光軸ずれ検出部に検出された光軸ずれ量に基づいて速度指令を出力し、トルク指令部が、角速度検出部に検出された角速度と速度指令との速度偏差を積分器によって積分する。そして、トルク指令部は、速度偏差の積分値に基づいて積分制御値を算出し、当該積分制御値を含むトルク指令を出力する。
ターゲットが移動開始した際、積分器が速度偏差の積分値を蓄積して積分制御値を増加させることにより、回転機構に始動トルクを発生させるトルク指令が出力される。これにより、レーザ光源がターゲットの動的位置を追尾するように、回転機構が駆動制御される。
【0008】
ここで、仮に、従来技術と同様に積分器がリセットされない場合、ターゲットが移動を一旦停止した後においても、積分器は回転機構に始動トルクを発生させるために蓄積した積分値を維持しており、積分制御値は、0(リセット値)ではなく所定値に維持される。
よって、ターゲットが移動停止前とは逆の方向に移動再開する場合、トルク指令部は、所定値に維持されている積分制御値を、当該所定値とは正負が逆の値(回転機構に逆方向の始動トルクを発生させる値)にまで変化させる必要がある。このため、ターゲットが移動再開してから回転機構が始動するまでにかかる時間が、初回のターゲット移動開始時と比べて長くなる。
一方、ターゲットが移動停止前と同じ方向に移動再開する場合、トルク指令部は、所定値に維持されていた積分制御値を利用できるため、回転機構を回転させるためのトルク指令を即座に出力できる。このため、ターゲットが移動再開してから回転機構が始動するまでにかかる時間が、初回のターゲット移動開始時と比べて短くなる。
【0009】
これに対して、本発明では、リセット部が光軸ずれ量および角速度の各絶対値が各閾値以下に到達した場合に、積分器を初期状態にリセットする。なお、光軸ずれ量および角速度の各閾値は、任意に設定できるが、例えば回転機構が回転を停止する直前に到達する範囲内に設定してもよいし、0に設定してもよい。
このような構成によれば、ターゲットが移動を一旦停止した後、停止前と逆の方向に移動再開する場合、または、停止前とは同じ方向に移動再開する場合のいずれであっても、トルク指令部は、積分制御値をリセット値から変化させればよい。このため、ターゲットが移動再開してから回転機構が始動するまでにかかる時間、すなわちターゲットの移動再開に応じる応答速度は、上記両者の場合で互いに等しくなる。これにより、レーザトラッカーでは、ターゲットの移動方向による追尾特性のばらつきが抑制される。
【0010】
本発明のレーザ追尾装置において、前記リセット部は、前記光軸ずれ量および前記角速度がそれぞれ0に到達した場合に、前記積分器をリセットすることが好ましい。
本発明では、ターゲットが移動停止せず一方向への移動を継続する場合には、積分制御値が維持されるため、応答性の低下を抑制できる。
【0011】
本発明のレーザ追尾装置の制御方法は、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光源から出射された出射光とターゲットで反射された反射光との光軸ずれ量を検出する光軸ずれ検出部と、入力されるトルク指令に基づいて前記レーザ光源を回転させる回転機構と、前記レーザ光源が回転する角速度を検出する角速度検出部と、前記光軸ずれ量に基づいて速度指令を出力する速度指令部と、前記速度指令と前記角速度との速度偏差を積分する積分器を有し、前記速度偏差の積分値に基づいて積分制御値を算出し、前記積分制御値を含む前記トルク指令を出力するトルク指令部と、を備えるレーザ追尾装置において、前記光軸ずれ量および前記角速度の各絶対値がそれぞれ閾値以下に到達した場合に、前記積分器を初期状態にリセットする処理を実施することを特徴とする。
本発明によれば、上述した本発明のレーザ追尾装置による効果と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーザトラッカーの構成を示す模式図。
【
図2】本実施形態のレーザトラッカーの内部構成を示すブロック図。
【
図3】本実施形態のレーザトラッカーの第1駆動制御部を示すブロック図。
【
図4】本実施形態のレーザトラッカーの第2駆動制御部を示すブロック図。
【
図5】本実施形態のレーザトラッカーにおける駆動制御方法を示すフローチャート。
【
図6】比較例におけるターゲットの位置、第1モータの角速度、光軸ずれ量、および、トルク指令について、経時変化の例を示すグラフである。
【
図7】比較例におけるターゲットの位置、第1モータの角速度、光軸ずれ量、および、トルク指令について、経時変化の他の例を示すグラフである。
【
図8】本実施形態におけるターゲットの位置、第1モータの角速度、光軸ずれ量、および、トルク指令について、経時変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図1において、本実施形態のレーザトラッカー1は、三次元空間を移動するターゲット6の動的位置を追尾しつつ、レーザトラッカー1からターゲット6までの距離を測長する装置である。
ターゲット6は、例えばレトロリフレクタなどの再帰反射体であり、移動機構(図示省略)のヘッド5に装着される。移動機構がヘッド5を駆動することにより、ターゲット6は三次元空間を移動する。移動機構の具体例としては、ヘッド5としての主軸をテーブルに対して三次元移動させる工作機械や三次元測定装置等が挙げられる。
【0014】
[レーザトラッカー1の構成]
図1および
図2を参照して、レーザトラッカー1の構成について説明する。
レーザトラッカー1は、二軸回転機構2と、二軸回転機構2によって支持されたレーザ干渉計3と、二軸回転機構2を駆動制御する制御部4と備える。
【0015】
二軸回転機構2は、
図1に示すように、ベース21、第1支持部22および第2支持部23を備える。
ベース21は、例えば工作機械や三次元測定装置等のステージ上に載置(または固定)される。
第1支持部22は、ベース21によって軸A1を回転中心として回転可能に支持されている。軸A1は、例えば、ステージの上面に対して直交する軸となる。
第2支持部23は、第1支持部22によって軸A2を回転中心として回転可能に支持されている。軸A2は、軸A1に対して交差(本実施形態では直交)する軸である。
軸A1と軸A2との交点は、レーザトラッカー1における測定基準点となる。
【0016】
また、二軸回転機構2は、
図2に示すように、第1駆動部24および第2駆動部25を備える。
第1駆動部24は、第1支持部22を回転駆動する第1モータ241と、第1支持部22の回転角を検出する第1エンコーダ242とを有する。第1エンコーダ242は、所定の原点位置からの第1支持部22の回転角(方位角θ)を検出する。
第2駆動部25は、第2支持部23を回転駆動する第2モータ251と、第2支持部23の回転角を検出する第2エンコーダ252とを有する。第2エンコーダ252は、所定の原点位置からの第2支持部23の回転角(仰角φ)を検出する。
【0017】
レーザ干渉計3は、
図1に示すように、二軸回転機構2の第2支持部23に支持されている。レーザ干渉計3の姿勢は、第1支持部22および第2支持部23の各回転によって変更される。具体的には、レーザ干渉計3によるレーザ光の出射方向は、第1支持部22の回転によって方位角が変更され、第2支持部23の回転によって仰角が変更される。
【0018】
また、レーザ干渉計3は、
図2に示すように、レーザ光源31、受光部32および光軸ずれ検出部33を備える。
レーザ光源31は、任意の方角(方位角θ、仰角φ)に向けてレーザ光(出射光Lo)を出射する。ターゲット6で再帰反射されたレーザ光(反射光Lr)は、レーザ干渉計3に入射する。
受光部32は、出射光Loと反射光Lrとの干渉光を受光して、干渉光に応じた受光信号を制御部4に出力する。
【0019】
光軸ずれ検出部33は、出射光Loと反射光Lrとの間の光軸ずれ量を検出し、制御部4に出力する。光軸ずれ検出部33が検出する光軸ずれ量は、第1支持部22の回転方向(方位角方向)の光軸ずれ量d1と、第2支持部23の回転方向(仰角方向)の光軸ずれ量d2(
図1参照)とを含んでいる。
なお、光軸ずれ検出部33の具体的構成については、従来の構成を利用できる。例えば特開2007-309677号公報に記載された構成を採用する場合、光軸ずれ検出部33は、出射光Loと反射光Lrとのそれぞれを半透過鏡によって光スポット位置検出素子に反射させ、光スポット位置検出素子における出射光Loのスポット位置と反射光Lrのスポット位置との位置のずれ量を検出する。
【0020】
制御部4は、
図2に示すように、レーザ干渉計3および二軸回転機構2にそれぞれ接続されており、測長部41、第1駆動制御部42および第2駆動制御部43を有する。
測長部41は、レーザ干渉計3からの受光信号に基づいて測定基準点からターゲット6までの距離を演算する。
【0021】
第1駆動制御部42および第2駆動制御部43は、レーザ干渉計3から出射されるレーザ光がターゲット6を追尾するように二軸回転機構2を駆動制御する。
具体的には、第1駆動制御部42が、方位角方向に対し、光軸ずれ量d1に基づいて第1モータ241を駆動制御する。第2駆動制御部43は、仰角方向に対し、光軸ずれ量d2に基づいて第2モータ251を駆動制御する。
【0022】
[駆動制御部の構成]
次に、第1駆動制御部42および第2駆動制御部43の各構成について説明する。なお、第1駆動制御部42および第2駆動制御部43は、駆動制御対象が異なること以外、ほぼ同様の構成を有する。このため、以下では、
図3を参照して、主に第1駆動制御部42について説明する。
【0023】
図3に示すように、第1駆動制御部42は、角速度検出部421、速度指令部422、トルク指令部423およびリセット部424を有している。
角速度検出部421は、第1エンコーダ242により検出された方位角θの変化から、レーザ干渉計3の軸A1周りの回転角度(回転量)を算出し、単位時間当たりの回転角度からレーザ干渉計3の角速度(回転速度)ω1を算出する。
【0024】
速度指令部422は、光軸ずれ検出部33から受信した光軸ずれ量d1と目標値0との位置偏差に基づいた比例制御によって、第1モータ241の目標速度を示す角速度指令ωr1を算出する。
【0025】
トルク指令部423は、角速度検出部421に検出された角速度ω1と角速度指令ωr1との速度偏差に基づいた比例積分制御によって、第1モータ241に発生させるトルクに応じたトルク指令Te1を算出する。
具体的には、トルク指令部423は、角速度ω1と角速度指令ωr1との差である速度偏差を算出し、当該速度偏差を比例制御指令とする。また、速度偏差の積分値を算出し、当該積分値に対して積分ゲインを乗算することによって、積分制御値を算出する。そして、積分制御値と比例制御指令との和に対して所定のゲインを乗算することによってトルク指令Te1を算出し、第1モータ241に出力する。
ここで、トルク指令部423は、速度偏差の積分値を演算するための積分器44を含んで構成されている。
【0026】
以上の構成によれば、光軸ずれ量d1が0になるように算出されたトルク指令Te1が第1モータ241に入力される。第1モータ241は、入力されたトルク指令Te1に応じたトルクを発生し、第1支持部22を回転駆動する。これにより、第1支持部22の回転方向(方位角方向)において、出射光Loがターゲット6を追尾することができる。
【0027】
リセット部424は、積分器44の積分コンデンサの電荷を放電するリセット回路を含んで構成されており、光軸ずれ量d1および角速度ω1がそれぞれ0に到達したタイミングにおいて、トルク指令部423の積分器44を初期状態にリセットする。
リセット部424により積分器44がリセットされると、積分器44が算出する速度偏差の積分値は0になり、当該積分値に積分ゲインを乗算して算出される積分制御値も0になる。
【0028】
以上の説明は、方位角θを仰角φに、光軸ずれ量d1を光軸ずれ量d2に読み替えて、第2駆動制御部43に適用できる。
具体的には、
図4に示すように、第2駆動制御部43は、角速度検出部431、速度指令部432、トルク指令部433およびリセット部434を有している。角速度検出部431は、第2エンコーダ252により検出された仰角φの変化から仰角方向の角速度ω2を算出し、速度指令部432は、光軸ずれ量d2に基づいて角速度指令ωr2を算出する。トルク指令部433は、角速度ω2および角速度指令ωr2に基づいて、第2モータ251へのトルク指令Te2を算出する。リセット部434は、光軸ずれ量d2および角速度ω2がそれぞれ0に到達したタイミングにおいて、トルク指令部433の積分器45を初期状態にリセットする。
【0029】
[駆動制御方法]
図5に示すフローチャートを参照し、第1駆動制御部42を例として、第1モータ241の駆動制御方法について説明する。
図5に示すように、レーザトラッカー1を起動すると、第1駆動制御部42は、方位角方向において、出射光Loと反射光Lrとの光軸ずれ量d1が0になるように、第1モータ241を駆動制御し、出射光Loの出射方向を調整してターゲット6に位置合わせする(ステップS1)。
【0030】
その後、第1駆動制御部42は、検出したターゲット6に対してレーザ光を追尾させる制御を開始する(ステップS2)。具体的には、角速度検出部421、速度指令部422およびトルク指令部423によって、光軸ずれ量d1が0になるように算出したトルク指令Te1を出力し、第1モータ241の駆動を制御する。
【0031】
追尾制御中、リセット部424は、光軸ずれ量d1が0になったか否かを判断し(ステップS3)、YESの場合、角速度ω1が0になったか否かを判断する(ステップS4)。ステップS4においてYESの場合、リセット部424は、積分器44を初期状態にリセットし(ステップS5)、ステップS3に戻る。
すなわち、追尾制御中、リセット部424は、光軸ずれ量d1および角速度ω1の監視を継続し、両方の値が0になった場合に積分器44をリセットすることを繰り返す。
なお、ステップS3とステップS4とは逆の順序であってもよい。また、以上の説明は、第2駆動制御部43による第2モータ251の駆動制御方法に対しても適用できる。
【0032】
[比較例との比較]
本実施形態におけるレーザトラッカー1の追尾特性について、比較例を用いて具体的に説明する。
なお、比較例のレーザトラッカーは、本実施形態のリセット部424,434を備えないこと以外、本実施形態と同様の構成を備えるものとし、本実施形態と同じ符号を利用して説明を行う。また、以下では、第1モータ241を駆動制御する際の追尾特性を例として説明する。
【0033】
まず、比較例のレーザトラッカーについて説明する。
図6において、任意の時刻t0にてターゲット6が一方向に移動開始し、光軸ずれ量d1の絶対値が増加した場合、トルク指令Te1は、光軸ずれ量d1を0にするように算出されて増加する。トルク指令Te1により発生するトルクが始動トルクを超えたとき(時刻t1)、第1モータ241が始動し、角速度ω1の絶対値が増加を始める。なお、トルク指令Te1は、積分器44が速度偏差の積分値を蓄積して積分制御値を増加させることにより、始動トルクを超える値となる。
ここで、ターゲット6が移動開始した時刻から第1モータ241が始動する時刻までの時間を始動準備時間とする場合、時刻t0から時刻t1までが始動準備時間Tp11となる。
そして、角速度ω1が所定速度に達した後(時刻t2後)、比例制御されたトルク指令Te1により、角速度ω1が安定し、光軸ずれ量d1が一定の追尾遅れ量D11で推移する。
【0034】
任意の時刻t3にてターゲット6の移動が停止した場合、光軸ずれ量d1および角速度ω1がそれぞれ0に収束し始める。ここで、光軸ずれ量d1および角速度ω1の各値が0に到達する時刻を時刻t4とする。
【0035】
一方、トルク指令Te1の絶対値は、ターゲット6の移動が停止した時刻t3から減少を開始するが、0に収束する様子はなく、時刻t4においても所定値を維持している。
これは、積分器44が、始動トルクを発生させるために蓄積した積分値を維持していることに起因する。すなわち、時刻t4において、トルク指令Te1の成分である比例制御指令および積分制御値のうち、比例制御指令は0に収束しているが、積分制御値は所定値を維持している。
【0036】
その後、任意の時刻t5にてターゲット6が停止前と同じ方向に移動再開した場合、積分器44には積分値が蓄積されているため、トルク指令Te1は、小幅の変化によって、始動トルクを超えるトルクを発生させる値となり、第1モータ241が始動する(時刻t6)。この場合の始動準備時間Tp12(時刻t5から時刻t6)は、初回の始動準備時間Tp11(時刻t0から時刻t1)よりも短くなる。また、移動再開後のターゲット6の速度が初回移動時の速度と同じ場合、移動再開後の追尾遅れ量D12は、初回の追尾遅れ量D11よりも小さくなる。
【0037】
一方、
図7に示すように、任意の時刻t5にてターゲット6が停止前とは逆方向に移動再開した場合、トルク指令Te1は、プラス側(またはマイナス側)の所定値からマイナス側(またはプラス側)の所定値(第1モータ241に逆方向の始動トルクを発生させる値)にまで変化する。この変化のための時間により、始動準備時間Tp13(時刻t5からt6)は、初回の始動準備時間Tp11(時刻t0から時刻t1)よりも長くなる。また、移動再開後のターゲット6の速度が初回移動時の速度と同じ場合、移動再開後の追尾遅れ量D13は、初回の追尾遅れ量D11よりも大きくなる。
【0038】
以上のように、比較例のレーザトラッカーでは、ターゲット6が停止前とは逆方向に移動再開する場合、停止前と同じ方向に移動再開する場合に比べて、ターゲット6の移動再開に応じる第1モータ241の応答速度が遅くなる。また、移動再開後のターゲット6の速度が初回移動時の速度と同じ場合であっても、ターゲット6に対する追尾遅れ量が大きくなる。
【0039】
次に、本実施形態のレーザトラッカー1について説明する。
本実施形態では、
図8に示すように、ターゲット6が移動停止して光軸ずれ量d1および角速度ω1の各値が0に到達する時刻t4の直前まで、比較例と同様の駆動制御が行われる。具体的には、トルク指令Te1の絶対値は、ターゲット6の移動が停止した時刻t3から減少を開始するが、0に収束する様子はなく、時刻t4の直前まで所定以上の積分制御値を維持している。
【0040】
しかし、本実施形態では、時刻t4にて光軸ずれ量d1および角速度ω1の各値が0に到達すると、リセット部424が上述したステップS3~S5の処理を実施する。これにより、時刻t4において、トルク指令Te1は0になる。
【0041】
その後、任意の時刻t5にて、ターゲット6が移動再開したとき、積分器44はリセットされた状態にある。このため、ターゲット6が停止前と同じ方向に移動再開する場合(
図8中の点線)、および、ターゲット6が停止前とは逆方向に移動再開する場合(
図8中の実線)のいずれの場合であっても、トルク指令Te1は初期値の0から変化する。そして、トルク指令Te1により発生するトルクが始動トルクを超えたとき(時刻t6)、第1モータ241が始動する。
【0042】
このような本実施形態では、
図8における点線または実線のいずれの場合であっても、第1モータ241が始動するための始動準備時間Tp2(時刻t5からt6)は、初回の始動準備時間Tp1(時刻t0から時刻t1)と等しくなる。すなわち、ターゲット6の移動再開に応じる第1モータ241の応答速度は、両者の場合で互いに等しくなる。
また、移動再開後のターゲット6の速度が初回移動時の速度と同じ場合、
図8における点線または実線のいずれの場合であっても、ターゲット6が移動再開した後の追尾遅れ量D2a,D2bは、初回の追尾遅れ量D1と等しくなる。
したがって、本実施形態のレーザトラッカー1では、比較例のレーザトラッカーと比べて、ターゲット6の移動方向による追尾特性のばらつきが抑制される。
【0043】
[本実施形態の効果]
本実施形態のレーザトラッカー1において、リセット部424は、光軸ずれ量d1および角速度ω1の各絶対値が0に到達した場合に積分器44を初期状態にリセットする。同様に、リセット部434は、光軸ずれ量d2および角速度ω2の各絶対値が0に到達した場合に積分器45を初期状態にリセットする。
このため、ターゲット6が停止前と逆の方向に移動再開する場合、または、停止前と同じ方向に移動再開する場合のいずれの場合であっても、トルク指令部423,433は、積分制御値をリセット値から変化させればよい。このため、本実施形態のレーザトラッカー1において、ターゲット6の移動再開に応じる応答速度は、上記両者の場合で互いに等しくなる。これにより、レーザトラッカー1では、ターゲット6の移動方向による追尾特性のばらつきが抑制される。
また、本実施形態では、ターゲット6が移動停止せず一方向への移動を継続する場合には、積分制御値が維持されるため、応答性の低下を抑制できる。
【0044】
[変形例]
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲の変形等は本発明に含まれるものである。
【0045】
上記実施形態において、リセット部424は、光軸ずれ量d1および角速度ω1が0に到達した場合に、積分器44をリセットするが、本発明はこれに限られない。
例えば、リセット部424は、光軸ずれ量d1および角速度ω1の各絶対値がそれぞれ閾値以下に到達した場合に、積分器44をリセットしてもよい。なお、光軸ずれ量d1および角速度ω1の各閾値は、任意に設定できるが、例えば第1モータ241が回転を停止する直前に到達する値に設定してもよい。
このような変形例では、第1モータ241が完全に回転を停止する前に積分器44をリセットすることで、ターゲット6が移動再開してから回転機構が始動するまでにかかる時間をより短縮できる。
【0046】
また、上記実施形態において、リセット部424は、光軸ずれ量d1および角速度ω1の各絶対値が0に到達し、その後、光軸ずれ量d1が直前とは正負逆の値に変化した場合に、積分器44をリセットしてもよい。なお、積分器44をリセットするタイミングは、光軸ずれ量d1が直前とは正負逆の値に変化したことを検出した直後のタイミングであることが好ましい。
このような変形例では、ターゲット6が停止前と同じ方向に移動再開する場合、積分制御値がリセットされず、積分制御値は蓄積された所定値から変化する。このため、ターゲット6の移動再開に応じる応答速度を、初回のターゲット移動開始時よりも向上できる。一方、ターゲット6が停止前とは逆の方向に移動再開する場合、リセット部424は、光軸ずれ量d1が直前とは正負逆の値に変化したことを検出したタイミングで積分器44をリセットする。これにより、積分制御値をリセット値から変化させることができるため、積分器44をリセットせずに積分制御値が所定値から比例積分制御により変化する場合よりも、ターゲット6の移動再開に応じる応答速度を向上できる。
上記変形例では、ターゲット6が停止前と同じ方向に移動再開する場合と、ターゲット6が停止前とは逆の方向に移動再開する場合との間で、ターゲット6を追尾する応答速度の差異があるが、当該差異は従来技術よりも低減されたものである。
このため、ターゲット6が停止前と同じ方向に移動再開する場合における応答速度を重視する場合には、このような変形例をとってもよい。
【0047】
なお、リセット部424について上述した各変形例は、リセット部434についても同様に適用できる。
【0048】
上記実施形態において、レーザトラッカー1は、レーザ干渉計3を回転させる二軸回転機構2を有するものであるが、本発明はこれに限られない。すなわち、レーザトラッカー1は、レーザ干渉計3を回転させる一軸回転機構を有していてもよく、レーザ光の出射方向は、方位角または仰角いずれかが変更されてもよい。
【0049】
上記実施形態では、本発明のレーザ追尾装置として、ターゲット6に対してレーザ光を追尾させて、ターゲット6と測定基準点との距離を計測するレーザトラッカー1を例示したが、これに限定されない。例えば、本発明のレーザ追尾装置は、測長機能を有さず、ターゲット6を追尾するのみの装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ターゲットに対してレーザ光を追尾させるレーザ追尾装置およびレーザトラッカー等に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…レーザトラッカー、2…二軸回転機構、21…ベース、22…第1支持部、23…第2支持部、24…第1駆動部、241…第1モータ、242…第1エンコーダ、25…第2駆動部、251…第2モータ、252…第2エンコーダ、3…レーザ干渉計、31…レーザ光源、32…受光部、33…光軸ずれ検出部、4…制御部、41…測長部、42…第1駆動制御部、43…第2駆動制御部、421,431…角速度検出部、422,432…速度指令部、423,433…トルク指令部、424,434…リセット部、44…積分器、5…ヘッド、6…ターゲット、A1,A2…軸、d1,d2…光軸ずれ量、D1,D2a,D2b,D11,D12,D13…追尾遅れ量、Lo…出射光、Lr…反射光、t1~t5…時刻、Te1,Te2…トルク指令、θ…方位角、φ…仰角、ω1,ω2…角速度、ωr1,ωr2…角速度指令。