(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】磁気記録媒体および磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20220728BHJP
G11B 5/708 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/842 20060101ALN20220728BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/708
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/842 Z
(21)【出願番号】P 2019040968
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】森 仁彦
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-236399(JP,A)
【文献】特開2007-265477(JP,A)
【文献】特開2018-170060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/708
G11B 5/738
G11B 5/735
G11B 5/842
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に非磁性粉末を含む非磁性層と強磁性粉末を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
垂直方向角型比が0.70以上1.00以下であり、
前記磁性層の表面において原子間力顕微鏡により測定される中心線平均粗さRaが2.5nm以下であり、
走査型電子顕微鏡により撮影して得られる断面画像において、前記磁性層と前記非磁性層との界面変動率が2.
0%以下である磁気記録媒体。
【請求項2】
走査型電子顕微鏡により撮影して得られる断面画像において、前記非磁性層の空隙率は、10.0%以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記非磁性層の非磁性粉末は、カーボンブラックを含む、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非磁性層に含まれるカーボンブラックの比表面積は、280~500m
2/gの範囲である、請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記非磁性層は、非磁性粉末総量に対して30.0質量%以上のカーボンブラックを含む、請求項3または4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記非磁性層の厚みは、1.00μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性層は、非磁性粉末を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記磁性層の非磁性粉末は、コロイド粒子を含む、請求項7に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記コロイド粒子は、シリカコロイド粒子である、請求項8に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記非磁性支持体の前記非磁性層および前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体および磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体として、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に有する構成のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体には、電磁変換特性の更なる向上が常に望まれている。そこで本発明の一態様は、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、
非磁性支持体上に非磁性粉末を含む非磁性層と強磁性粉末を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、
垂直方向角型比が0.70以上1.00以下であり、
上記磁性層の表面において原子間力顕微鏡により測定される中心線平均粗さRa(以下、「磁性層表面Ra」とも記載する。)が2.5nm以下であり、
走査型電子顕微鏡により撮影して得られる断面画像において、上記磁性層と上記非磁性層との界面変動率(以下、単に「界面変動率」とも記載する。)が2.5%以下である磁気記録媒体、
に関する。
【0006】
一態様では、走査型電子顕微鏡により撮影して得られる断面画像において、上記非磁性層の空隙率は、10.0%以下であることができる。
【0007】
一態様では、上記非磁性層の非磁性粉末は、カーボンブラックを含むことができる。
【0008】
一態様では、上記非磁性層に含まれるカーボンブラックの比表面積は、280~500m2/gの範囲であることができる。
【0009】
一態様では、上記非磁性層は、非磁性粉末総量に対して30.0質量%以上のカーボンブラックを含むことができる。
【0010】
一態様では、上記非磁性層の厚みは、1.00μm以下であることができる。
【0011】
一態様では、上記磁性層は、非磁性粉末を含むことができる。
【0012】
一態様では、上記磁性層の非磁性粉末は、コロイド粒子を含むことができる。
【0013】
一態様では、上記コロイド粒子は、シリカコロイド粒子であることができる。
【0014】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記非磁性層および上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することができる。
【0015】
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体上に非磁性粉末を含む非磁性層と強磁性粉末を含む磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体であって、垂直方向角型比が0.70以上1.00以下であり、上記磁性層の表面において原子間力顕微鏡により測定される中心線平均粗さRaが2.5nm以下であり、走査型電子顕微鏡により撮影して得られる断面画像において、上記磁性層と上記非磁性層との界面変動率が2.5%以下である磁気記録媒体に関する。
【0018】
以下に、上記の各種数値を求めるための方法について、説明する。
【0019】
本発明および本明細書において、「垂直方向角型比」とは、磁気記録媒体の垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向をいう。本発明において、「磁性層(の)表面」とは、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。本発明および本明細書における垂直方向角型比は、振動試料型磁力計において、23℃±1℃の測定温度において、磁気記録媒体に外部磁場を最大外部磁場15kOe(1[kOe]=106/4π[A/m])かつスキャン速度60Oe/秒の条件で掃引して求められる値であって、反磁界補正後の値とする。測定値は、振動試料型磁力計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。
【0020】
本発明および本明細書において、中心線平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)を用いる測定により求められる。詳しくは、磁性層表面の面積40μm×40μmの領域において測定される値とする。測定は、磁性層表面の3箇所の異なる測定箇所において行う(n=3)。かかる測定により得られた3つの値の算術平均として、中心線平均粗さRaを求める。測定条件の一例としては、下記の測定条件を挙げることができる。後述の実施例に示す中心線平均粗さRaは、下記測定条件下での測定によって求められた値である。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気記録媒体の磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
【0021】
本発明および本明細書において、磁性層と非磁性層との界面変動率および非磁性層の空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて得られる断面画像において求められる値である。界面変動率および空隙率を求めるための方法を、以下に説明する。
【0022】
(1)断面観察用試料の作製
断面観察用試料を、測定対象の磁気記録媒体の無作為に定めた位置から切り出し作製する。断面観察用試料の作製は、ガリウムイオン(Ga+)ビームを用いるFIB(Focused Ion Beam;集束イオンビーム)加工によって行う。かかる作製方法の具体例は、実施例について後述する。
【0023】
(2)非磁性層の特定
作製した断面観察用試料をSEMにより観察し、断面画像(SEM像)を撮影する。走査型電子顕微鏡としては、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE(Field Emission)-SEM)を用いる。例えば日立製作所製FE-SEM S4800を用いることができ、後述の実施例ではこのFE-SEMを用いた。
SEM像は、同一の断面観察用試料において、(i)撮影する範囲が重複しないように、(ii)磁性層側最表面(磁性層表面)がSEM像に収まるように、かつ(iii)断面観察用試料の厚み方向全域(即ち、磁性層側最表面から他方の側の最表面までの領域)がSEM像に収まるか、または断面観察用試料の厚み方向全域がSEM像に収まらない場合には、SEM像の画像全面積に対して断面観察用試料の撮影部分が占める割合が面積基準で80~100%となるように選択する点以外は無作為に選択した位置において撮影し、合計4画像得る。
上記SEM像は、加速電圧5kV、撮影倍率10万倍および縦960pixel(画素)×横1280pixelで撮影される二次電子像(SE(secondary electron)像)である。
撮影されたSEM像を、画像処理ソフトである三谷商事株式会社製WinROOFに取り込み、SEM像中の非磁性層の部分(測定領域)を選択する。測定領域の選択において、測定領域の幅方向の長さは、撮影されたSEM像の全幅とする。なお、SEM像に関して記載する「幅方向」とは、撮影された断面観察用試料における幅方向をいう。断面観察用試料における幅方向とは、この試料を切り出した磁気記録媒体における幅方向である。以上について、厚み方向についても同様である。
厚み方向に関して、磁性層と非磁性層との界面は、以下の方法により特定する。SEM像をデジタル化して厚み方向の画像輝度データ(厚み方向の座標、幅方向の座標、および輝度の3成分からなる。)を作成する。デジタル化では、SEM像を幅方向に1280分割して、輝度8ビットで処理して256階調のデータを得て、分割した各座標ポイントの画像輝度を所定の階調値に変換する。次に、得られた画像輝度データにおいて、厚み方向の各座標ポイントにおける幅方向の輝度の平均値(即ち、1280分割した各座標ポイントにおける輝度の平均値)を縦軸にとり、厚み方向の座標を横軸にとって輝度曲線を作成する。作成した輝度曲線を微分して微分曲線を作成し、作成した微分曲線のピーク位置から磁性層と非磁性層との境界の座標を特定する。SEM像上の、特定した座標に相当する位置を、磁性層と非磁性層との界面とする。SEM像に非磁性支持体の部分が含まれる場合には、非磁性層と非磁性支持体との界面を特定する。例えば塗布型磁気記録媒体では、磁性層と非磁性層との界面と比べて、非磁性層と非磁性支持体との界面は鮮明に認識可能である。そのため、非磁性層と非磁性支持体との界面は、SEM像を目視することで特定することができる。ただし上記と同様に輝度曲線を用いて特定してもよい。SEM像に非磁性支持体の部分が含まれない場合には、特定した磁性層と非磁性層との界面(即ち非磁性層表面)から非磁性層の部分の厚み方向の全領域を非磁性層と特定する。一方、SEM像に非磁性支持体の部分が含まれる場合には、特定した磁性層と非磁性層との界面(即ち非磁性層の磁性層側表面)と非磁性層と非磁性支持体との界面(即ち非磁性層の非磁性支持体側表面)までの全領域を非磁性層と特定する。
【0024】
(3)非磁性層の空隙の特定および空隙率の算出
上記(2)で非磁性層と特定した測定領域について上記画像処理ソフト三谷商事株式会社製WinROOFの機能である鮮鋭化処理を行い、次にノイズ除去(4pixel/1280pixel)処理を行って、測定領域に存在する空隙の輪郭を強調させる。そして測定領域に存在する空隙の輪郭を手動で選択し、次に輪郭と輪郭に囲まれた部分を、上記画像処理ソフトにより2値化する。このとき、2値化面積が25nm2を下回る部分は空隙とみなさずにノイズとみなして選択から除外し、2値化面積が25nm2以上の部分を空隙として特定する。次に、空隙として特定された部分の面積を合計して空隙の総面積とする。下記式から、空隙率を求める。4画像について、それぞれ空隙率を求め、それらの算術平均を、非磁性層の空隙率とする。下記式中、空隙の総面積および測定領域の面積の単位は、同じ単位であれば、nm2であってもμm2であってもその他の単位であってもよい。
空隙率(%)=(空隙の総面積/測定領域の面積)×100
【0025】
なお、測定領域に存在する空隙の中には、一部分が測定領域内にあってその他の部分が測定領域外にある空隙もあり得る。そのような空隙については、この空隙の測定領域内にある部分の面積を、上記の空隙率を求める際の空隙の総面積の算出の際に用い、測定領域外にある部分の面積は、総面積の算出の際には含めないものとする。
【0026】
(4)磁性層と非磁性層との界面変動率の算出
また、磁性層と非磁性層との界面変動率は、以下の方法により求められる。
上記(1)に記載の方法で作製した断面観察用試料をSEM観察し、断面画像(SEM像)を撮影する。走査型電子顕微鏡としては、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いる。例えば日立製作所製FE-SEM S4800を用いることができ、後述の実施例ではこのFE-SEMを用いた。
SEM像は、作製した断面観察用試料の無作為に選択した10箇所において、それぞれ非磁性層の厚み方向全域、ならびに磁性層の少なくとも一部および非磁性支持体の少なくとも一部がSEM像に収まるように撮影する。こうしてSEM像を、合計10画像得る。
上記の各SEM像は、加速電圧5kV、撮影倍率2万倍および縦960pixel×横1280pixelで撮影される二次電子像(SE像)である。磁性層と非磁性層との界面、および非磁性層と非磁性支持体との界面は、上記(2)に記載の方法により特定する。なお後述の実施例では、非磁性層と非磁性支持体との界面は、目視により特定した。
各SEM画像上の任意の位置1箇所において、上記方法により特定した両界面の厚み方向における間隔を求め、10画像について得られた値の算術平均を、非磁性層の厚みとする。磁性層等の他の層および非磁性支持体の厚みも、同様の方法により求めることができる。または、他の層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。下記式により算出される非磁性層の厚みの変動率を、本発明および本明細書における磁性層と非磁性層との界面変動率とする。
界面変動率(%)=(σ/T)×100
σ:上記10画像について得られた非磁性層の厚みの標準偏差、T:上記方法により求められた非磁性層の厚み(即ち算術平均)
【0027】
上記磁気記録媒体は、垂直方向角型比、磁性層表面Raおよび磁性層と非磁性層との界面変動率が上記範囲であることにより、優れた電磁変換特性を発揮することができる。また、上記磁気記録媒体によれば、一態様では、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下を抑制することも可能である。
以下に、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0028】
<垂直方向角型比>
上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、0.70以上であり、電磁変換特性の更なる向上の観点から、0.73以上であることが好ましく、0.76以上であることがより好ましく、0.78以上であることが更に好ましい。また、角型比は、原理上、最大で1.00である。電磁変換特性の向上の観点からは垂直方向角型比の値が大きいことは好ましい。上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、1.00以下であり、例えば、0.98以下、0.96以下、0.94以下、0.92以下、0.90以下、0.88以下または0.86以下であることができる。
【0029】
垂直方向角型比は、磁性層における強磁性粉末の配向状態を垂直配向処理等により調整することによって制御することができる。この点に関して、磁性層と非磁性層との界面変動率を小さくすべく非磁性層の表面の平滑性を高めることは、垂直方向角型比の値を大きくするうえでも好ましいと考えられる。これは、強磁性粉末を含む磁性層形成用組成物を平滑性が高い非磁性層の表面に塗布することにより、下地(即ち非磁性層の表面)の粗さによって強磁性粉末の配向状態が乱れることを抑制できると考えられるためである。
【0030】
<磁性層表面Ra>
上記磁気記録媒体の磁性層表面Raは、2.5nm以下であり、電磁変換特性の更なる向上の観点から、2.3nm以下であることが好ましく、2.0nm以下であることがより好ましい。また、磁性層表面Raは、走行安定性を維持する観点からは、例えば0.5nm以上、1.0nm以上または1.3nm以上であることが好ましい。ただし、電磁変換特性の向上の観点からは磁性層表面Raの値が小さいことは好ましいため、上記範囲を下回ることも可能である。
【0031】
磁性層表面Raは、例えば、磁性層に含まれる強磁性粉末等の各種粉末のサイズ、磁性層形成用組成物の分散状態、磁性層の厚み、磁気記録媒体の製造条件(例えばカレンダ処理条件)によって制御することができる。
【0032】
<磁性層と非磁性層との界面変動率>
上記磁気記録媒体において、磁性層と非磁性層との界面変動率は2.5%以下である。特許文献1(特開2006-286074号公報)では、磁性層と非磁性層との界面変動率はある値より大きくすることが好ましいとされている(同公報の請求項3参照)。これに対し本発明者は検討を重ねる中で、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とを有する磁気記録媒体では、垂直方向角型比および磁性層表面Raに加えて、磁性層と非磁性層との界面変動率も電磁変換特性に影響することを見出したうえで更に検討を重ねた。その結果、磁性層と非磁性層との界面変動率を2.5%以下とすることが、電磁変換特性の向上に寄与することが判明した。電磁変換特性の更なる向上の観点から、上記界面変動率は、2.3%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.8%以下であることが更に好ましい。上記界面変動率は、例えば0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上または0.7%以上であることができる。ただし、電磁変換特性向上の観点からは上記界面変動率の値が小さいことは好ましいため、上記範囲を下回ることも可能であり、例えば0%であってもよい。また、先に記載したように、磁性層と非磁性層との界面変動率を小さくすべく非磁性層の表面の平滑性を高めることは、垂直方向角型比の値を大きくするうえでも好ましいと考えられる。また、磁性層と非磁性層との界面変動率が2.5%以下であることは、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下を抑制するうえでも好ましいと考えられる。以下に、この点について更に説明する。
例えば、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下の原因としては、磁性層の表面が削れたり削れ屑が磁気ヘッドに接触することによって、磁性層表面と磁気ヘッドとの間のスペーシングが広がることが考えられる。この点に関して、磁性層に非磁性粉末を含有させて磁性層の表面に適度な突起を形成することによって、磁性層表面と磁気ヘッドとの間の摩擦係数を下げ、磁気ヘッドとの接触により磁性層表面が削れることを抑制することができる。しかし、磁性層と非磁性層との界面の形状が位置により大きく異なると(即ち界面変動率が大きいと)、磁気ヘッドとの接触により磁性層表面の突起が磁性層内部に押し込まれる深さも位置によって大きく異なり、これにより磁気ヘッドとの接触時に磁気ヘッドから突起に加わる圧力が個々の突起で大きく相違することになる。その結果、より強い圧力を受けた突起は、削れたり沈み込んだまま戻らないことにより摩擦係数低減に寄与し得る高さで磁性層表面に存在することが困難になると考えられる。これに対し、磁性層と非磁性層との界面変動率が2.5%以下であることは、繰り返し走行中の磁気ヘッドとの接触時に個々の突起が磁性層内部に押し込まれる深さの違いを小さくすることに寄与すると考えられる。このことが、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下を抑制することにつながると本発明者は推察している。ただし推察に過ぎず、かかる推察に本発明は限定されない。磁性層と非磁性層との界面変動率について、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下を抑制する観点から好ましい範囲は上記と同様である。
【0033】
磁性層と非磁性層との界面変動率は、例えば、非磁性層の厚み、非磁性層の形成方法等によって制御することができる。この点について、詳細は後述する。
【0034】
<非磁性層の空隙率>
非磁性層に存在する空隙に関して、空隙が少ないほど非磁性層は変形しにくい傾向があると考えられる。非磁性層の変形は、先に記載した磁性層表面の突起が押し込まれる深さが変動することにつながると考えられるため、非磁性層に空隙が少ないことは、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下をより一層抑制することに寄与すると推察される。また、空隙が多い非磁性層を有する磁気記録媒体については、磁性層の非磁性層との界面近くに存在する非磁性粉末の粒子は、磁気ヘッドとの接触時に磁性層表面に加わる圧力により非磁性層側に押し込まれた際に空隙内に嵌り込んでしまい磁気ヘッドとの接触後にも元に戻りにくいことも考えられる。このような現象が生じることも摩擦係数低減に寄与し得る高さで磁性層表面に存在する突起を減少させてしまうと考えられる。そのため、非磁性層に空隙が少ないことは、この点からも繰り返し走行後の電磁変換特性の低下をより一層抑制することに寄与すると推察される。また、例えばカレンダ処理が行われる場合には、カレンダ処理において加わる圧力により非磁性層が大きく変形すると、非磁性層との界面近くに存在する強磁性粉末の配向状態を大きく乱してしまうと考えられる。これに対し、非磁性層に空隙が少ないことは、磁性層における強磁性粉末の配向状態を揃えやすくして垂直方向角型比の値を大きくすることに寄与すると推察される。
以上の観点から、上記磁気記録媒体の非磁性層の空隙率は、10.0%以下であることが好ましく、9.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることが更に好ましく、7.0%以下であることが一層好ましく、6.0%以下であることがより一層好ましく、5.0%以下であることが更に一層好ましい。また、非磁性層の空隙率は、例えばカレンダ処理における成形性の観点からは、0.8%以上であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、1.2%以上であることが更に好ましく、1.5%以上であることが一層好ましく、2.0%以上であることがより一層好ましい。
【0035】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0036】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0037】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0038】
以下に、六方晶フェライト粉末の一態様である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0039】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末についても、活性化体積は上記範囲であることが好ましい。
【0040】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0041】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0042】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0043】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0044】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
【0045】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0046】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0047】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mlを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mlを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0048】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。
【0049】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0050】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0051】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0052】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0053】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0054】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0055】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一態様では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0056】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0057】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0058】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0059】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0060】
一態様では、磁性層に含まれる強磁性粉末は、板状粒子から構成される強磁性粉末であることができる。本発明および本明細書において、粒子の形状に関して「板状」とは、対向する2つの板面を有する形状をいう。「板状比」とは、板状粒子の板面側の粒子サイズ(即ち板径)と板厚との比(板径/板厚)である。本発明および本明細書において、板状粉末とは、この粉末を構成する粒子の最も多くを板状粒子が占める粉末をいうものとする。板状粉末は、粒子数基準で、例えば70%以上、80%以上、90%以上または100%を板状粒子が占める粉末であることができる。板状粉末に関して、「平均板状比」とは、無作為に抽出された500個の板状粒子の中の各粒子について上記と同様の方法により測定された板径の算術平均(平均粒子サイズ、即ち平均板径)と板厚の算術平均(平均板厚)を求め、「平均板径/平均板厚」として算出される値をいう。「板厚」とは、板状粒子の対向する2つの板面の間の最短距離とする。測定対象粒子を公知の方法により磁場を印加して配向させた後に撮影することにより、粒子の板厚方向を撮影することができる。磁性層に含まれる強磁性粉末が板状粉末であることは、垂直方向角型比を0.70以上1.00以下の範囲に制御することの容易性の観点から好ましいと本発明者は推察している。この点から、板状粉末の平均板状比は、1.5~4.0の範囲であることが好ましく、1.5~2.5の範囲であることがより好ましい。
【0061】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0062】
(非磁性粉末)
上記磁気記録媒体は、磁性層に一種以上の非磁性粉末を含むことができる。非磁性粉末は、磁性層表面に突起を形成することに寄与する非磁性粉末(以下、「突起形成剤」と記載する。)を少なくとも含むことが好ましい。また、磁性層は、非磁性粉末として、研磨剤として機能し得る非磁性粉末(以下、「研磨剤」と記載する。)を含むことも好ましい。以下、突起形成剤および研磨剤について、更に説明する。
【0063】
突起形成剤
突起形成剤は、無機粉末であっても有機粉末であってもよい。例えば無機粉末としては、金属酸化物等の無機酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末を挙げることができ、無機酸化物の粉末であることが好ましい。突起形成剤の平均粒子サイズは、例えば90~200nmの範囲であることが好ましく、100~150nmの範囲であることがより好ましい。一態様では、摩擦特性の均一化の観点からは、突起形成剤の粒度分布は、粒度分布中に複数のピークを有する多分散ではなく、単一ピークを示す単分散であることが好ましい。単分散粒子の入手容易性の点からは、突起形成剤は無機粉末であることが好ましく、コロイド粒子であることがより好ましい。本発明および本明細書における「コロイド粒子」とは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエンもしくは酢酸エチル、または上記溶媒の二種以上を任意の混合比で含む混合溶媒の少なくとも1つの有機溶媒に、有機溶媒100mLあたり1g添加した際に、沈降せず分散しコロイド分散体をもたらすことのできる粒子をいうものとする。磁性層に含まれる非磁性粉末がコロイド粒子であることは、磁性層の形成に用いた非磁性粉末を入手可能であれば、かかる非磁性粉末が、上記のコロイド粒子の定義に当てはまる性質を有するか否かを評価すればよい。または、磁性層から取りだした非磁性粉末が、上記のコロイド粒子の定義に当てはまる性質を有するか否かを評価することもできる。磁性層からの非磁性粉末の取り出しは、例えば、特開2017-68884号公報の段落0045に記載の方法で行うことができる。
【0064】
コロイド粒子の具体例としては、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2、Fe2O3等の無機酸化物コロイド粒子を挙げることができ、SiO2・Al2O3、SiO2・B2O3、TiO2・CeO2、SnO2・Sb2O3、SiO2・Al2O3・TiO2、TiO2・CeO2・SiO2等の複合無機酸化物のコロイド粒子を挙げることもできる。なお複合無機酸化物の表記に関して、「・」は、その前後に記載されている無機酸化物の複合無機酸化物であることを示すために用いている。例えば、SiO2・Al2O3は、SiO2とAl2O3との複合無機酸化物を意味する。コロイド粒子としては、二酸化珪素(シリカ)のコロイド粒子、即ちシリカコロイド粒子(「コロイダルシリカ」とも呼ばれる。)が特に好ましい。また、コロイド粒子に関しては、特開2017-68884号公報の段落0048~0049の記載も参照できる。
【0065】
磁性層の突起形成剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して0.1~10.0質量部であることが好ましく、0.1~5.0質量部であることがより好ましく、1.0~5.0質量部であることが更に好ましい。本発明および本明細書において、ある成分は一種用いてもよく二種以上用いてもよい。二種以上用いる場合、含有量とは、二種以上の合計含有量をいうものとする。
【0066】
(研磨剤)
研磨剤は、走行中に磁気ヘッドに付着する付着物を除去する能力(研磨性)を発揮することができる成分である。研磨剤としては、磁性層の研磨剤として通常使用される物質であるアルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素、ボロンカーバイド(B4C)、TiC、酸化クロム(Cr2O3)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化鉄、ダイヤモンド等の粉末を挙げることができ、中でもα-アルミナ等のアルミナ、炭化ケイ素、およびダイヤモンドの粉末が好ましい。磁性層の研磨剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して1.0~20.0質量部であることが好ましく、3.0~15.0質量部であることがより好ましく、4.0~10.0質量部であることが更に好ましい。また、研磨剤の粒子サイズに関しては、粒子サイズの指標である比表面積が、例えば14m2/g以上、好ましくは16m2/g以上、より好ましくは18m2/g以上であることができる。また、研磨剤の比表面積は、例えば40m2/g以下であることができる。本発明および本明細書において、各種粉末の比表面積とは、JIS K 6217-7:2013にしたがい、窒素吸着法によりBrunauer、Emmettおよび Teller によって導かれたBET(Brunauer-Emmett- Teller ) 式を用いて求めた比表面積である。こうして求められる比表面積は、粉末を構成する粒子の一次粒子の粒子サイズの指標となり得るものである。比表面積が大きいほど、粉末を構成する粒子の一次粒子の粒子サイズが小さいと考えることができる。後述の実施例および比較例で用いた各種粉末の比表面積は、各層形成用組成物の調製に用いた原料粉末について測定された比表面積である。ただし磁気記録媒体から公知の方法で粉末を取り出し、取り出した粉末の比表面積を求めることもできる。
【0067】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気記録媒体は塗布型磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。なお非磁性層の結合剤については、更に後述する。
結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。結合剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部であることができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0068】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、結合剤100.0質量部に対して、例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0069】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて更に一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上させるために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0070】
(磁性層の厚み)
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、高密度記録化の観点から100nm以下であることが好ましく、10~100nmであることがより好ましく、20~90nmであることが更に好ましい。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0071】
<非磁性層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を有する。
【0072】
(非磁性層の厚み)
非磁性層の厚みは、1.00μm以下であることが好ましく、0.80μm以下であることが好ましく、0.60μm以下であることがより好ましい。非磁性層を薄くすることは、磁性層と非磁性層との界面変動率の値を小さくすることに寄与し得る。また、非磁性層の厚みは、非磁性層形成用組成物を均一に塗布することの容易性の観点からは、0.05μm以上であることが好ましく、0.07μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましい。非磁性層形成用組成物の塗布の均一性が低下すると界面変動率の値は大きくなる傾向がある。
【0073】
(非磁性粉末)
非磁性層に含まれる非磁性粉末としては、一種の非磁性粉末のみ用いてもよく、二種以上の非磁性粉末を用いてもよい。非磁性粉末としては、少なくともカーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックは、市販品を用いてもよく、公知の方法で製造したものを用いることもできる。
【0074】
非磁性層に含有させる非磁性粉末として粒子サイズが小さなものを使用し、かつ非磁性粉末の分散性を高めることにより、非磁性層の空隙率は小さくなる傾向がある。また、非磁性層に含有させる非磁性粉末として粒子サイズが小さなものを使用し、かつ非磁性粉末の分散性を高めることは、非磁性層表面の粗さを低減することに寄与し得る。このことは、磁性層と非磁性層との界面変動率の値を小さくすることにつながる。また、非磁性層表面の粗さを低減することは、垂直方向角型比を0.70以上1.00以下の範囲に制御することの容易性の観点からも好ましい。例えばカーボンブラックに関して、粒子サイズの指標としては比表面積を用いることができる。非磁性層の空隙率を小さくする観点からは、カーボンブラックの比表面積は280m2/g以上であることが好ましく、300m2/g以上であることがより好ましい。カーボンブラックの比表面積は、分散性向上の容易性の観点からは、500m2/g以下であることが好ましく、400m2/g以下であることがより好ましい。非磁性層の非磁性粉末の中でカーボンブラックが占める割合は、非磁性粉末総量に対して30.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましく、50.0質量%以上であることが更に好ましく、60.0質量%以上、70.0質量%以上、80.0質量%以上、90.0質量%以上、または100.0質量%(即ち非磁性粉末がカーボンブラックのみ)でもよい。また、非磁性層の非磁性粉末の中でカーボンブラックが占める割合は、非磁性粉末総量に対して、例えば90.0質量%以下であることができ、80.0質量%以下であることができる。ただし上記の通り、非磁性層の非磁性粉末がカーボンブラックのみでもよい。なお、非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0075】
カーボンブラック以外の非磁性粉末としては、無機粉末を用いてもよく、有機粉末を用いてもよい。これらの非磁性粉末の平均粒子サイズは、10~200nmの範囲であることが好ましく、10~100nmの範囲であることがより好ましい。
例えば無機粉末としては、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。
【0076】
(結合剤)
非磁性層は、結合剤を含むことができる。カーボンブラックの分散性向上に関しては、本発明者の検討によれば、結合剤として塩化ビニル樹脂を使用することが、カーボンブラックの分散性向上に有利な傾向が見られた。したがって、カーボンブラックの分散性向上の観点からは、非磁性層の結合剤として少なくとも塩化ビニル樹脂を使用することが好ましく、結合剤として複数種の樹脂を使用する場合には塩化ビニル樹脂の割合を高めることが好ましい。例えば、一態様では、非磁性層の結合剤の総量に対して塩化ビニル樹脂が占める割合は、30.0質量%以上であることが好ましく、50.0質量%以上であることがより好ましく、80.0質量%以上であることが更に好ましく、90.0質量%~100.0質量%であることが一層好ましい。また、非磁性層の結合剤含有量は、例えば非磁性粉末100.0質量部に対して、10.0~40.0質量部であることができる。
【0077】
(添加剤)
非磁性層形成用組成物は、例えば、非磁性粉末、結合剤および任意に添加され得る一種以上の添加剤および一種以上の溶媒を、同時または順次混合し分散処理を施すことによって作製することができる。分散処理の詳細については後述する。分散時間を長くするほど非磁性層中の非磁性粉末の分散性が向上し空隙率が小さくなる傾向がある。また、非磁性層形成用組成物に非磁性粉末の分散性向上に寄与する添加剤(分散剤)を含有させることにより、非磁性層における非磁性粉末の分散性を向上させることができる。
【0078】
上記分散剤としては、非磁性層の非磁性粉末の種類に応じて、公知の分散剤の一種以上を用いることができる。例えば一例として、カーボンブラックの分散剤としては、有機三級アミンを挙げることができる。有機三級アミンについては、特開2013-049832号公報の段落0011~0018および0021を参照できる。また、有機三級アミンによりカーボンブラックの分散性を高めるための組成物の処方等については、同公報の段落0022~0024および0027を参照できる。
【0079】
上記アミンは、より好ましくはトリアルキルアミンである。トリアルキルアミンが有するアルキル基は、好ましくは炭素数1~18のアルキル基である。トリアルキルアミンが有する3つのアルキル基は、同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の詳細については、特開2013-049832号公報の段落0015~0016を参照できる。トリアルキルアミンとしては、トリオクチルアミンが特に好ましい。
【0080】
非磁性層には、その他の公知の添加剤の一種以上を、所望の性質に応じて市販品から適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。
【0081】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0082】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。非磁性支持体の厚みは、例えば3.00~80.00μmの範囲であり、好ましくは3.00~50.00μmの範囲であり、より好ましくは3.00~10.00μmの範囲である。
【0083】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層の詳細については、バックコート層に関する公知技術を適用することができる。また、バックコート層は、結合剤を含むことができる。バックコート層に含まれる結合剤および任意に含まれ得る各種添加剤については、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することができる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。バックコート層の厚みは、0.90μm以下であることが好ましく、0.10~0.70μmの範囲であることがより好ましい。
【0084】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物は、先に記載した各種成分とともに、通常、溶媒を含む。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。各層形成用組成物の溶媒含有量は特に限定されるものではない。溶媒については、特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。各層形成用組成物の固形分濃度および溶媒組成は、組成物のハンドリング適性、塗布条件および形成しようとする各層の厚みに対応させて適宜調整すればよい。磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもよい。各層形成用組成物の調製に用いられるすべての原料は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。例えば、結合剤を、混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気記録媒体の製造工程では、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練工程の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報に記載されている。分散機としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミルまたはホモミキサー等のせん断力を利用する各種の公知の分散機を使用することができる。分散には、好ましくは分散ビーズを用いることができる。分散ビーズとしては、セラミックビーズ、ガラスビーズ等が挙げられ、ジルコニアビーズが好ましい。2種類以上のビーズを組み合わせて使用してもよい。分散ビーズのビーズ径(粒径)およびビーズ充填率は、特に限定されるものではなく、分散対象の粉末に応じて設定すればよい。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0085】
(塗布工程)
非磁性層および磁性層は、非磁性層形成用組成物および磁性層形成用組成物を、逐次または同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0086】
(その他の工程)
磁気記録媒体製造のためのその他の各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。例えば、配向処理を行う態様では、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層に対して配向処理が行われる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。一例として、垂直配向処理における磁場強度は、0.10~0.80Tとすることができ、または0.10~0.60Tとすることもできる。また、磁気記録媒体の表面平滑性を高めるための処理として、カレンダ処理を行うことが好ましい。例えば、カレンダロールとして表面が硬いロールを使用するほど、またカレンダロールの段数を増やすほど、磁性層表面Raの値は小さくなる傾向がある。カレンダ処理の条件については、例えば、カレンダ圧力(線圧)は200~500kN/mであることができ、250~350kN/mであることが好ましい。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)は、例えば70~120℃であることができ、80~100℃であることが好ましく、カレンダ速度は、例えば50~300m/minであることができ、50~200m/minであることが好ましい。
【0087】
(サーボパターンの形成)
上記のように製造された磁気記録媒体には、磁気記録再生装置における磁気ヘッドのトラッキング制御、磁気記録媒体の走行速度の制御等を可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することができる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。上記磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であってもよく、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であってもよい。以下では、磁気テープを例にサーボパターンの形成について説明する。
【0088】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0089】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0090】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0091】
また、一態様では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0092】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0093】
また、各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0094】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0095】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0096】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0097】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0098】
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。
【0099】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。磁気テープカートリッジのその他の詳細については、公知技術を適用することができる。
【0100】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0101】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。
【0102】
上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気記録媒体へのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0103】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0104】
例えば、サーボパターンが形成された磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボパターンを読み取って得られるサーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【実施例】
【0105】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」は、質量基準である。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。
【0106】
[実施例1]
<磁性層形成用組成物の処方>
(磁性液)
六方晶バリウムフェライト粉末(表1中、「BaFe」):100.0部
(平均粒子サイズ:17nm、平均板状比:2.5、活性化体積:1300nm3)
オレイン酸:1.5部
塩化ビニル樹脂:10.0部
(カネカ社製MR-104)
ポリウレタン樹脂:4.0部
(東洋紡社製UR-4800(スルホン酸基含有ポリエステルポリウレタン樹脂))
メチルエチルケトン:300.0部
シクロヘキサノン:300.0部
(研磨剤液)
アルミナ粉末(比表面積19m2/gのα-アルミナ):9.0部
塩化ビニル樹脂:0.7部
(カネカ社製MR-110)
シクロヘキサノン:20.0部
(突起形成剤液)
シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)(平均粒子サイズ:150nm):2.0部
メチルエチルケトン:8.0部
(その他の成分)
ステアリン酸:1.0部
ステアリン酸アミド:0.3部
ステアリン酸ブチル:1.5部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネートL):2.5部
【0107】
<非磁性層形成用組成物の処方>
カーボンブラック:100.0部
(比表面積:表1参照、DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:65cm3/100g)
トリオクチルアミン:4.0部
塩化ビニル樹脂:表1参照
(カネカ社製MR-104)
メチルエチルケトン:510.0部
シクロヘキサノン:200.0部
ステアリン酸:1.5部
ステアリン酸アミド:0.3部
ステアリン酸ブチル:1.5部
【0108】
<バックコート層形成用組成物の処方>
カーボンブラック:100.0部
(平均粒子サイズ:40nm、DBP吸油量:74cm3/100g)
銅フタロシアニン:3.0部
ニトロセルロース:25.0部
ポリウレタン樹脂:60.0部
(東洋紡社製UR-8401(スルホン酸基含有ポリエステルポリウレタン樹脂))
ポリエステル樹脂:4.0部
(東洋紡社製バイロン500)
アルミナ粉末(比表面積17m2/gのα-アルミナ):1.0部
ポリイソシアネート:15.0部
(東ソー社製コロネートL)
メチルエチルケトン:600.0部
トルエン:600.0部
【0109】
<各層形成用組成物の調製>
磁性層形成用組成物を、以下のように調製した。
上記磁性液の成分をオープンニーダにより混練および希釈処理した後、横型ビーズミル分散機により、粒径0.1mmのジルコニア(ZrO2)ビーズ(以下、「Zrビーズ」と記載する)を用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、30パスの分散処理を行った。
研磨剤液については、先に記載した研磨剤液の成分(アルミナ粉末、塩化ビニル樹脂およびシクロヘキサノン)の混合物を調製した後、この混合物を粒径0.3mmのZrビーズとともに横型ビーズミル分散機に入れ、ビーズ体積/(研磨剤液体積+ビーズ体積)が80体積%になるように調整し、120分間ビーズミル分散処理を行い、処理後の液を取り出し、フロー式の超音波分散ろ過装置を用いて、超音波分散ろ過処理を施した。
磁性液、研磨剤液、突起形成剤液およびその他の成分をディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で3パス処理した後に、1μmのフィルタでろ過して磁性層形成用組成物を調製した。
【0110】
非磁性層形成用組成物を、以下のように調製した。
潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびステアリン酸ブチル)を除く上記成分をオープンニーダにより混練および希釈処理した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびステアリン酸ブチル)および塗布厚み調整用にメチルエチルケトンを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
実施例1、ならびに後述の実施例2~4および比較例1~6では、非磁性層形成用組成物の調製時、塗布厚み調整用のメチルエチルケトンを、非磁性層形成用組成物の調製のために用いた非磁性粉末100.0質量部に対して70.0~510.0質量部の範囲の量で使用した。
【0111】
バックコート層形成用組成物を、以下のように調製した。
ポリイソシアネートを除く上記成分をディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施してバックコート層形成用組成物を作製した。
【0112】
<磁気テープの作製>
厚さ6.00μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート支持体の一方の表面に、乾燥後の厚みが表1に示す厚みになるように非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させて非磁性層を形成した。形成した非磁性層上に、乾燥後の厚みが70nmになるように上記で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに、磁場強度0.15Tの磁場を上記塗布層の表面に対し垂直方向に印加する垂直配向処理を施した。その後、上記塗布層を乾燥させて磁性層を形成した。その後、上記支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対の表面上にバックコート層形成用組成物を、乾燥後の厚みが0.50μmになるように塗布し乾燥させた。その後、金属ロールのみから構成されるカレンダ処理機で速度100m/min、線圧294kN/m、カレンダ温度100℃でカレンダ処理を行った。その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を施した。熱処理後、1/2インチ幅(1インチ=0.0254メートル)にスリットして磁気テープを得た。
【0113】
[実施例2~4、比較例1~6]
表1に示すように各種条件を変更した点以外、実施例1と同様の方法により磁気テープを作製した。非磁性層の厚みは、非磁性層形成用組成物の調製時に使用する塗布厚み調整用のメチルエチルケトンの使用量によって調整した。
比較例で非磁性層形成用組成物の調製に用いたポリウレタン樹脂は、東洋紡社製UR-4800(スルホン酸基含有ポリエステルポリウレタン樹脂)である。
また、比較例4および5では、非磁性層形成用組成物の調製のために、カーボンブラック(比表面積:260m2/g)の量を20.0質量部とし、α-酸化鉄(平均粒子サイズ(平均長軸長):150nm)を80.0質量部使用した。
比較例6について、磁性層の厚みは磁性層形成用組成物の塗布量によって調整した。
【0114】
[実施例5]
強磁性粉末として、六方晶バリウムフェライト粉末に代えて以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末(表1中、「SrFe1」)を使用した点以外、実施例1と同様の方法により磁気テープを作製した。
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0115】
[実施例6]
強磁性粉末として、六方晶バリウムフェライト粉末に代えて以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末(表1中、「SrFe2」)を使用した点以外、実施例1と同様の方法により磁気テープを作製した。
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0116】
[評価方法]
(1)垂直方向角型比
実施例および比較例の各磁気テープについて、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、23℃±1℃の測定温度において、先に記載の方法により垂直方向角型比を求めた。
【0117】
(2)磁性層表面Ra
磁性層の表面について、測定領域を40μm角(40μm×40μm)として中心線平均粗さRa(n=3の測定により得られた値の算術平均)を求めた。AFMとしてVeeco社製Nanoscope4をタッピングモードで用いて、AFMの探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とした。
【0118】
(3)磁性層と非磁性層との界面変動率、非磁性層の空隙率および各種厚み
断面観察用試料を以下に記載の方法により作製した。作製した断面観察用試料を用いて、先に記載した方法により、磁性層と非磁性層との界面変動率、非磁性層の空隙率、ならびに非磁性層および磁性層の厚みを求めた。SEM観察のための電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)としては、日立製作所製FE-SEM S4800を使用した。
(i)磁気テープの幅方向10mm×長手方向10mmのサイズの試料を剃刀を用いて切り出した。
切り出した試料の磁性層表面に保護膜を形成して保護膜付試料を得た。保護膜の形成は、以下の方法により行った。
上記試料の磁性層表面に、スパッタリングにより白金(Pt)膜(厚み30nm)を形成した。白金膜のスパッタリングは、下記条件で行った。
(白金膜のスパッタリング条件)
ターゲット:Pt
スパッタリング装置のチャンバー内真空度:7Pa以下
電流値:15mA
上記で作製した白金膜付試料に、更に厚み100~150nmのカーボン膜を形成した。カーボン膜の形成は、下記(ii)で用いるFIB(集束イオンビーム)装置に備えられた、ガリウムイオン(Ga+)ビームを用いるCVD(Chemical vapor deposition)機構により行った。
(ii)上記(i)で作製した保護膜付試料に対し、FIB装置によりガリウムイオン(Ga+)ビームを用いるFIB加工を行い磁気テープの断面を露出させた。FIB加工における加速電圧は30kV、プローブ電流は1300pAとした。
こうして露出させた断面観察用試料を、磁性層と非磁性層との界面変動率、非磁性層の空隙率および各種厚みを求めるためのSEM観察に用いた。
比較例3については、SEM観察で得られたSEM像上で、磁性層と非磁性層との界面部分に非磁性層が塗布されていない箇所が存在していた。
【0119】
(4)電磁変換特性(SNR;Signal-to-Noise ratio)
実施例および比較例の各磁気テープについて、温度23℃相対湿度45%の環境下において、ヘッドを固定した1/2インチリールテスターによりSNRを測定した。磁気ヘッド/磁気テープ相対速度は6m/secとした。記録はMIG(Metal-In-Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使い、記録電流は各磁気テープの最適記録電流に設定した。再生ヘッドとしては、素子厚み15nm、シールド間隔0.1μmおよびリード幅0.5μmのGMRヘッドを使用した。線記録密度(270kfci)の信号を記録し、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定し、キャリア信号の出力と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。信号は、磁気テープの走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。以上の条件で各磁気テープを1パス当たり800mで500パス走行(250往復)させてSNRを測定した。更に、1パス目のSNRと500パス目のSNRの差分(500パス目のSNR-1パス目のSNR)を求め、「500パス走行後のSNR低下分」として表1に示す。差分が-2.0dB未満であれば、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下が少ない磁気テープと判断できる。
また、実施例および比較例の各磁気テープを500パス走行させた後、再生ヘッドの表面を光学顕微鏡(対物レンズ20倍)により観察した。再生ヘッドに磁性層の削れ屑の付着が確認されなかった場合を「-」、磁性層の削れ屑の付着が確認された場合を「磁性層削れ」と評価し、評価結果を表1に示す。ただし、500パス走行後の磁性層表面に目視で明らかな剥がれが確認された場合には光学顕微鏡での再生ヘッドの観察は実施せず、表1に示す評価結果は「磁性層剥がれ」とした。
【0120】
(5)繰り返し走行での突起維持能力
実施例および比較例の各磁気テープについて、未走行の状態と上記(4)の500パス走行後の状態での磁性層表面の高さ5nm以上の突起数を、上記(2)に記載の条件でAFMにより測定した。突起数の比率(500パス走行後の突起数/未走行の状態の突起数)を、「繰り返し走行での突起維持能力」の評価結果として表1に示す。ただし、500パス走行後の磁性層表面に目視で明らかな剥がれが確認された場合には光学顕微鏡での再生ヘッドの観察は実施せず、表1に示す評価結果は「磁性層剥がれ」とした。
【0121】
以上の結果を、表1に示す。
【0122】
【0123】
表1に示す結果から、実施例1~6の磁気テープは、電磁変換特性に優れることが確認できる。更に、表1に示す結果から、実施例1~6の磁気テープでは、繰り返し走行後の電磁変換特性の低下も抑制されていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、データストレージ用磁気テープ等の各種磁気記録媒体の技術分野において有用である。