(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】磁気記録媒体および磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/71 20060101AFI20220728BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
G11B5/71
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/78
(21)【出願番号】P 2019061238
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】菊池 渉
(72)【発明者】
【氏名】松山 想
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-033719(JP,A)
【文献】特開2017-157252(JP,A)
【文献】特開平06-248281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/71
G11B 5/738
G11B 5/735
G11B 5/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、塩構造を有する化合物を含み、
前記塩構造は、下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造であり、
【化1】
式1中、Rは炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表し、Z
+はアンモニウムカチオンを表し
、
前記磁性層の表面の水接触角は80°以上100°未満であ
り、かつ
前記化合物は、炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の一種以上とポリアルキレンイミンとの塩である磁気記録媒体。
【請求項2】
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、塩構造を有する化合物を含み、
前記塩構造は、下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造であり、
【化2】
式1中、Rは炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表し、Z
+
はアンモニウムカチオンを表し、
前記磁性層の表面の水接触角は80°以上100°未満であり、かつ
前記化合物は、炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の一種以上とポリアリルアミンとの塩である磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層の表面の水接触角は、80°以上95°以下である、請求項1
または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記式1中、Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、7以上18以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
磁気テープである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体および磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、一般に、非磁性支持体上に強磁性粉末および任意に一種以上の添加剤を含む磁性層を形成することによって作製される。特許文献1には、磁性層に脂肪酸エステル等の潤滑剤を添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体へのデータの記録および記録されたデータの再生は、通常、磁気記録媒体を磁気記録再生装置内で走行させ、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させ摺動させることにより行われる。磁性層表面との摺動により磁気ヘッドに異物が付着すると、磁性層表面と磁気ヘッドとの間隔が異物の存在により広がり、その結果、スペーシングロスと呼ばれる出力変動が発生し得る。そのため、磁性層表面が摩耗性を示し、磁気ヘッドに付着した異物を磁性層表面との摺動時に摩耗させて除去することができれば、スペーシングロスを低減できるため望ましい。他方、磁性層表面の摩耗性が高すぎると、磁気ヘッドそのものが摩耗されてしまうため、磁性層表面には、適度な摩耗性を示すことが望まれる。
【0005】
また、磁気記録媒体の走行を繰り返しても磁性層表面と磁気ヘッドとの摺動時の摩擦係数が低いことは、走行安定性の観点から望ましい。更に、繰り返し走行前後で磁性層の表面形状の変化が少ないことは、上記の磁性層表面の摩耗性維持の観点から望ましい。
【0006】
本発明の一態様は、磁性層表面が適度な摩耗性を示すことができ、繰り返し走行後にも低摩擦係数を示すことができ、かつ繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化が少ない磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
上記磁性層は、塩構造を有する化合物を含み、
上記塩構造は、下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造であり、
【化1】
式1中、Rは炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表し、Z
+はアンモニウムカチオンを表し、かつ
上記磁性層の表面の水接触角は80°以上100°未満である磁気記録媒体、
に関する。
【0008】
一態様では、上記化合物は、炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の一種以上とポリアルキレンイミンとの塩であることができる。
【0009】
一態様では、上記化合物は、炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の一種以上とポリアリルアミンとの塩であることができる。
【0010】
一態様では、上記磁性層の表面の水接触角は、80°以上95°以下であることができる。
【0011】
一態様では、上記式1中、Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、7以上18以下であることができる。
【0012】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を有することができる。
【0013】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することができる。
【0014】
一態様では、上記磁気記録媒体は、磁気テープであることができる。
【0015】
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、磁性層表面が適度な摩耗性を示すことができ、繰り返し走行後にも低摩擦係数を示すことができ、かつ繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化が少ない磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、上記磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、上記磁性層は、塩構造を有する化合物を含み、上記塩構造は、下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造であり、かつ上記磁性層の表面の水接触角は80°以上100°未満である磁気記録媒体に関する。
【0018】
【化2】
(式1中、Rは炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表し、Z
+はアンモニウムカチオンを表す。)
【0019】
以下、上記磁気記録媒体に関する本発明者らの推察について記載する。
潤滑剤は、流体潤滑剤と境界潤滑剤とに大別できる。本発明者らは、上記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、流体潤滑剤として機能し得ると考えている。一方、先に示した特開2002-367142号公報(特許文献1)に記載されている脂肪酸エステルも、流体潤滑剤として機能し得る成分と言われている。流体潤滑剤は、それ自身が磁性層表面に液膜を形成することにより、磁性層へ潤滑性を付与する役割を果たすことができると考えられる。繰り返し走行後の摩擦係数を低くするためには、磁性層表面において流体潤滑剤が液膜を形成していることは望ましいと考えられる。
ところで、流体潤滑剤の液膜に関しては、磁性層表面の水接触角は、磁性層表面で液膜を形成している流体潤滑剤量の指標になり得る値と考えられ、水接触角がより大きいほど、磁性層表面でより多くの流体潤滑剤が液膜を形成していると言えると推察される。磁性層表面と磁気ヘッドとを安定に摺動させる観点からは、磁性層表面で液膜を形成している流体潤滑剤は適量にすることが望ましいと考えられる。磁性層表面で液膜を形成している液体潤滑剤量が過剰であると、磁性層表面と磁気ヘッドとが貼り付き摺動安定性が低下し、摺動安定性の低下により、繰り返し走行における磁気ヘッドとの摺動時に磁性層の表面形状が変化し易くなると考えられるためである。また、磁性層表面で液膜を形成している液体潤滑剤量が過剰であると、例えば磁性層表面に摩耗性をもたらすために磁性層表面に設けられた突起が液膜に覆われてしまい、磁性層表面が適度な摩耗性を発揮し難くなってしまう傾向があると考えられる。この観点からも、磁性層表面で液膜を形成している流体潤滑剤は適量にすることが望ましいと推察される。
以上の点に関して、上記磁気記録媒体の磁性層に含まれる上記化合物は、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を含む。かかる構造を含む化合物は、磁気記録媒体に従来使用されていた流体潤滑剤(例えば脂肪酸エステル)と比べて少量でも流体潤滑剤として優れた役割を果たすことができると考えられる。このことが、磁性層表面の水接触角が80°以上100°未満となるような量で磁性層表面に流体潤滑剤の液膜を形成した状態で、磁性層表面の適度な摩耗性、繰り返し走行後の低摩擦係数、および繰り返し走行前後での磁性層の表面形状変化の抑制を実現できることにつながると推察される。
ただし以上は推察であって、本発明を限定するものではない。また、本明細書に記載の他の推察にも、本発明は限定されない。
【0020】
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0021】
本発明および本明細書において、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、特記しない限り、置換基の炭素数を含まない炭素数を意味するものとする。本発明および本明細書において、置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基、スルホン酸基の塩等を挙げることができる。
【0022】
<式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造およびこの構造を有する化合物>
上記磁気記録媒体は、磁性層に下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を含む。この化合物は、磁性層に含まれる少なくとも一部が磁性層表面で液膜を形成することができ、一部が磁性層内部に含まれ磁気ヘッドとの摺動時等に磁性層表面に移動して液膜を形成することもできる。また、一部は後述する非磁性層に含まれ、磁性層に移動し更に磁性層表面に移動して液膜を形成することもできる。なお「アルキルエステルアニオン」は、「アルキルカルボキシラートアニオン」と呼ぶこともできる。
【0023】
【0024】
式1中、Rは、炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表す。フッ化アルキル基は、アルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有する。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基は、直鎖構造であってもよく、分岐を有する構造であってもよく、環状のアルキル基またはフッ化アルキル基でもよく、直鎖構造であることが好ましい。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよく、無置換であることが好ましい。Rで表されるアルキル基は、例えばCnH2n+1-で表すことができる。ここでnは7以上の整数を表す。また、Rで表されるフッ化アルキル基は、例えばCnH2n+1-で表されるアルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有することができる。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、磁性層表面の水接触角が80°以上100°未満となるような量で磁性層表面に流体潤滑剤の液膜を形成した状態で、磁性層表面の適度な摩耗性、繰り返し走行後の低摩擦係数、および繰り返し走行前後での磁性層の表面形状変化の抑制を実現可能とする観点から、7以上であり、8以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、11以上であることが一層好ましく、12以上であることがより一層好ましく、13以上であることが更に一層好ましい。また、Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、上記観点からは20以下であることが好ましく、19以下であることがより好ましく、18以下であることが更に好ましい。
【0025】
式1中、Z+はアンモニウムカチオンを表す。アンモニウムカチオンは、詳しくは、以下の構造を有する。本発明および本明細書において、化合物の一部を表す式中の「*」は、その一部の構造と隣接する原子との結合位置を表す。
【0026】
【0027】
アンモニウムカチオンの窒素カチオンN+と式1中の酸素アニオンO-とが塩架橋基を形成して式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造が形成され得る。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物が磁性層に含まれることは、磁気記録媒体についてX線光電子分光法(ESCA;Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)、赤外分光法(IR;infrared spectroscopy)等により分析を行うことによって確認できる。
【0028】
一態様では、Z+で表されるアンモニウムカチオンは、例えば、含窒素ポリマーの窒素原子がカチオンとなることによってもたらされ得る。含窒素ポリマーとは、窒素原子を含むポリマーを意味する。本発明および本明細書において、「ポリマー」および「重合体」との語は、ホモポリマーとコポリマーとを包含する意味で用いられる。窒素原子は、一態様ではポリマーの主鎖を構成する原子として含まれることができ、また一態様ではポリマーの側鎖を構成する原子として含まれることができる。
【0029】
含窒素ポリマーの一態様としては、ポリアルキレンイミンを挙げることができる。ポリアルキレンイミンは、アルキレンイミンの開環重合体であって、下記式2で表される繰り返し単位を複数有するポリマーである。
【0030】
【0031】
式2中の主鎖を構成する窒素原子Nが窒素カチオンN+となって式1中のZ+で表されるアンモニウムカチオンがもたらされ得る。そしてアルキルエステルアニオンと、例えば以下のようにアンモニウム塩構造を形成し得る。
【0032】
【0033】
以下、式2について更に詳細に説明する。
【0034】
式2中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、n1は2以上の整数を表す。
【0035】
R1またはR2で表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。R1またはR2で表されるアルキル基は、好ましくは無置換アルキル基である。式2中のR1およびR2の組み合わせとしては、一方が水素原子であって他方がアルキル基である態様、両方が水素原子である態様および両方がアルキル基(同一または異なるアルキル基)である態様があり、好ましくは両方が水素原子である態様である。ポリアルキレンイミンをもたらすアルキレンイミンとして、環を構成する炭素数が最少の構造はエチレンイミンであり、エチレンイミンの開環により得られたアルキレンイミン(エチレンイミン)の主鎖の炭素数は2である。したがって、式2中のn1は2以上である。式2中のn1は、例えば10以下、8以下、6以下または4以下であることができる。ポリアルキレンイミンは、式2で表される繰り返し構造として同一構造のみを含むホモポリマーであってもよく、式2で表される繰り返し構造として二種以上の異なる構造を含むコポリマーであってもよい。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用可能なポリアルキレンイミンの数平均分子量は、例えば200以上であることができ、300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましい。また、上記ポリアルキレンイミンの数平均分子量は、例えば10,000以下であることができ、5,000以下であることが好ましく、2,000以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明および本明細書において、平均分子量(重量平均分子量および数平均分子量)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;Gel Permeation Chromatography)により測定され、標準ポリスチレン換算により求められる値をいうものとする。後述の実施例に示す平均分子量は、特記しない限り、GPCを用いて下記測定条件により測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値(ポリスチレン換算値)である。
GPC装置:HLC-8220(東ソー社製)
ガードカラム:TSKguardcolumn Super HZM-H
カラム:TSKgel Super HZ 2000、TSKgel Super HZ 4000、TSKgel Super HZ-M(東ソー社製、4.6mm(内径)×15.0cm、3種カラムを直列連結)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、安定剤(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)含有
溶離液流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
インレット温度:40℃
屈折率(RI;Refractive Index)測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3質量%
サンプル注入量:10μL
【0037】
また、含窒素ポリマーの他の一態様としては、ポリアリルアミンを挙げることができる。ポリアリルアミンは、アリルアミンの重合体であって、下記式3で表される繰り返し単位を複数有するポリマーである。
【0038】
【0039】
式3中の側鎖のアミノ基を構成する窒素原子Nが窒素カチオンN+となって式1中のZ+で表されるアンモニウムカチオンがもたらされ得る。そしてアルキルエステルアニオンと、例えば以下のようにアンモニウム塩構造を形成し得る。
【0040】
【0041】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用可能なポリアリルアミンの重量平均分子量は、例えば 200 以上であることができ、1,000以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましい。また、上記ポリアリルアミンの重量平均分子量は、例えば15,000 以下であることができ、10,000以下であることが好ましく、8,000以下であることがより好ましい。
【0042】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物として、ポリアルキレンイミンまたはポリアリルアミン由来の構造を有する化合物が含まれることは、磁性層表面を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)等により分析することによって確認できる。
【0043】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、含窒素ポリマーと炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の一種以上との塩であることができる。塩を形成する含窒素ポリマーは、一種または二種以上の含窒素ポリマーであることができ、例えばポリアルキレンイミンおよびポリアリルアミンからなる群から選択される含窒素ポリマーであることができる。塩を形成する脂肪酸類は、炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の一種または二種以上であることができる。フッ化脂肪酸は、脂肪酸においてカルボキシ基COOHと結合しているアルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換された構造を有する。例えば、含窒素ポリマーと上記脂肪酸類とを室温で混合することによって、塩形成反応は容易に進行し得る。室温とは、例えば20~25℃程度である。一態様では、磁性層形成用組成物の成分として含窒素ポリマーの一種以上と脂肪酸類の一種以上を使用し、磁性層形成用組成物の調製工程においてこれらを混合することによって、塩形成反応を進行させることができる。また、一態様では、磁性層形成用組成物の調製前に、含窒素ポリマーの一種以上と脂肪酸類の一種以上とを混合して塩を形成した後に、この塩を磁性層形成用組成物の成分として使用して磁性層形成用組成物を調製することができる。この点は、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を含む非磁性層を形成する場合にも当てはまる。例えば、磁性層に関しては、強磁性粉末100.0質量部あたり 0.1~10.0質量部の含窒素ポリマーを使用することができ、0.5~8.0質量部の含窒素ポリマーを使用することが好ましい。上記脂肪酸類は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.05~10.0質量部使用することができ、0.1~5.0質量部使用することが好ましい。また、非磁性層に関しては、非磁性粉末100.0質量部あたり0.1~10.0質量部の含窒素ポリマーを使用することができ、0.5~8.0質量部の含窒素ポリマーを使用することが好ましい。上記脂肪酸類は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.05~10.0質量部使用することができ、0.1~5.0質量部使用することが好ましい。なお、含窒素ポリマーと上記脂肪酸類とを混合して式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩を形成する際、併せて含窒素ポリマーを構成する窒素原子と上記脂肪酸類のカルボキシ基とが反応して下記構造が形成される場合もあり、そのような構造を含む態様も上記化合物に包含される。
【0044】
【0045】
上記脂肪酸類としては、先に式1中のRとして記載したアルキル基を有する脂肪酸および先に式1中のRとして記載したフッ化アルキル基を有するフッ化脂肪酸を挙げることができる。
【0046】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用する含窒素ポリマーと上記脂肪酸類との混合比は、含窒素ポリマー:上記脂肪酸類の質量比として、10:90~90:10であることが好ましく、20:80~85:15であることがより好ましく、30:70~80:20であることが更に好ましい。また、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、磁性層に強磁性粉末100.0質量部に対して0.01質量部以上含まれることが好ましく、0.1質量部以上含まれることがより好ましく、0.5質量部以上含まれることが更に好ましい。ここで磁性層における上記化合物の含有量とは、磁性層表面に液膜を形成している量と磁性層内部に含まれる量との合計量をいうものとする。一方、磁性層の強磁性粉末の含有量が多いことは高密度記録化の観点から好ましい。したがって、高密度記録化の観点からは強磁性粉末以外の成分の含有量が少ないことは好ましい。この観点から、磁性層の上記化合物の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して15.0質量部以下であることが好ましく、10.0質量部以下であることがより好ましく、8.0質量部以下であることが更に好ましい。また、磁性層を形成するために使用される磁性層形成用組成物の上記化合物の含有量の好ましい範囲も同様である。
【0047】
<磁性層表面の水接触角>
上記磁気記録媒体の磁性層について、磁性層表面の水接触角は、80°以上100°未満である。磁性層表面の水接触角が100°未満であることは、繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化を抑制するうえで好ましい。この点から、磁性層の水接触角は、99°以下であることが好ましく、98°以下であることがより好ましく、97°以下であることが更に好ましく、96°以下であることが一層好ましく、95°以下であることがより一層好ましく、94°以下であることが更に一層好ましく、93°以下であることがなお一層好ましい。また、磁性層表面の水接触角が80°以上であることは、磁性層表面に適度な摩耗性をもたらす観点から好ましい。この点から、磁性層表面の水接触角は、81°以上であることが好ましく、82°以上であることがより好ましく、83°以上であることが更に好ましい。磁気記録媒体を形成するための成分として上記化合物を使用し、その使用量を調整することによって、磁性層表面の水接触角を上記範囲に制御することができる。
【0048】
本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」とは、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。また、水接触角は、液滴法により求められる値であり、具体的には、雰囲気温度25℃および相対湿度25%の測定環境において、θ/2法により6回測定を行い得られた値の算術平均をいうものとする。測定条件の具体例については、実施例について後述する。
【0049】
以下に、上記磁気記録媒体の磁性層等について、更に詳細に説明する。
【0050】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層は、強磁性粉末を含む。磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を一種または二種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0051】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0052】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0053】
以下に、六方晶フェライト粉末の一態様である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0054】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0055】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0056】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0057】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0058】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気記録媒体の走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0059】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
【0060】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0061】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0062】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気記録媒体の磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0063】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定される値とする。
【0064】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0065】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0066】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0067】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0068】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0069】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0070】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一態様では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0072】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0073】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0074】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0075】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層は、強磁性粉末を含み、結合剤を含むことができ、任意に一種以上の更なる添加剤を含むこともできる。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0076】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気記録媒体は塗布型磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤は、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031も参照できる。磁性層の結合剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部であることができる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。
【0077】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部であることができ、磁性層の強度向上の観点からは50.0~80.0質量部であることができる。
【0078】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。潤滑剤としては、例えば境界潤滑剤として機能し得る脂肪酸アミドを使用することができる。境界潤滑剤は、粉末(例えば強磁性粉末)の表面に吸着し強固な潤滑膜を形成することで接触摩擦を下げることのできる潤滑剤と考えられている。脂肪酸アミドとしては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等の各種脂肪酸のアミド、具体的にはラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。磁性層の脂肪酸アミド含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~3.0質量部であり、好ましくは0~2.0質量部であり、より好ましくは0~1.0質量部である。また、非磁性層にも脂肪酸アミドが含まれていてもよい。非磁性層の脂肪酸アミド含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~3.0質量部であり、好ましくは0~1.0質量部である。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末等が挙げられる。研磨剤としては、磁性層の研磨剤として通常使用される物質であるアルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素、ボロンカーバイド(B4C)、TiC、酸化クロム(Cr2O3)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化鉄、ダイヤモンド等の粉末を挙げることができ、中でもα-アルミナ等のアルミナ、炭化ケイ素、およびダイヤモンドの粉末が好ましい。磁性層の研磨剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して1.0~20.0質量部であることが好ましく、3.0~15.0質量部であることがより好ましく、4.0~10.0質量部であることが更に好ましい。研磨剤の平均粒子サイズは、例えば30~300nmの範囲であり、好ましくは50~200nmの範囲である。突起形成剤としては、カーボンブラック、コロイド粒子等を挙げることができる。磁性層の突起形成剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して0.1~10.0質量部であることが好ましく、0.1~5.0質量部であることがより好ましく、0.5~5.0質量部であることが更に好ましい。コロイド粒子の平均粒子サイズは、例えば90~200nmの範囲であることが好ましく、100~150nmの範囲であることがより好ましい。カーボンブラックの平均粒子サイズは、5~200nmの範囲であることが好ましく、10~150nmの範囲であることがより好ましい。
【0079】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0080】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0081】
非磁性層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、一種以上の添加剤を更に含むことができる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0082】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0083】
一態様では、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、非磁性層に含まれ得る。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、非磁性層に非磁性粉末100.0質量部に対して0.01質量部以上含まれることが好ましく、 0.1質量部以上含まれることがより好ましく、0.5質量部以上含まれることが更に好ましい。また、非磁性層の上記化合物の含有量は、非磁性粉末100.0質量部に対して15.0質量部以下であることが好ましく、10.0質量部以下であることがより好ましく、8.0質量部以下であることが更に好ましい。また、非磁性層を形成するために使用される非磁性層形成用組成物の上記化合物の含有量の好ましい範囲も同様である。非磁性層に含まれる上記化合物は、磁性層に移動することができ、更に磁性層表面に移動して液膜を形成することもできる。非磁性層または非磁性層形成用組成物に含まれ得る上記化合物の詳細は、先に記載した通りである。
【0084】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
【0085】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、一種以上の添加剤を更に含むことができる。バックコート層の結合剤および任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0086】
<各種厚み>
非磁性支持体の厚みは、例えば3.0~80.0μmであり、好ましくは3.0~20.0μm、より好ましくは3.0~10.0μm、更に好ましくは3.0~6.0μmである。
【0087】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、高密度記録化の観点から、好ましくは10nm~150nmであり、より好ましくは20nm~120nmであり、更に好ましくは30nm~100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0088】
非磁性層の厚みは、例えば0.1~3.0μmであり、0.1~2.0μmであることが好ましく、0.1~1.5μmであることが更に好ましい。
【0089】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmの範囲であることが更に好ましい。
【0090】
磁気記録媒体の各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
【0091】
<磁気記録媒体の製造方法>
磁性層、ならびに任意に設けられる非磁性層およびバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。先に記載したように、磁性層形成用組成物の成分として、含窒素ポリマーの一種以上と上記脂肪酸類の一種以上とを使用し、磁性層形成用組成物の調製工程においてこれらを混合することによって、塩形成反応を進行させることができる。また、一態様では、磁性層形成用組成物の調製前に、含窒素ポリマーの一種以上と脂肪酸類の一種以上とを混合して塩を形成した後に、この塩を磁性層形成用組成物の成分として使用して磁性層形成用組成物を調製することができる。この点は、非磁性層形成用組成物の調製工程についても当てはまる。各層形成用組成物を調製するためには、公知技術を用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつニーダを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報に記載されている。また、各層形成用組成物を分散させるためには、分散メディアとして、ガラスビーズおよびその他の分散ビーズからなる群から選ばれる一種以上の分散ビーズを用いることができる。このような分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、およびスチールビーズが好適である。これら分散ビーズの粒径(ビーズ径)および充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0092】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布する工程を経て形成することができる。バックコート層は、非磁性支持体の磁性層が設けられた(または追って設けられる)表面とは反対側の表面上にバックコート層形成用組成物を塗布する工程を経て形成することができる。
【0093】
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。塗布工程および各種処理については、公知技術を適用することができ、例えば特開2010-24113号公報の段落0051~0057を参照できる。例えば、配向処理としては、垂直配向処理を行うことができる。垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける磁気記録媒体の搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
【0094】
上記のように製造された磁気記録媒体には、磁気記録再生装置における磁気ヘッドのトラッキング制御、磁気記録媒体の走行速度の制御等を可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することができる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。上記磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であってもよく、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であってもよい。以下では、磁気テープを例にサーボパターンの形成について説明する。
【0095】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0096】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0097】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0098】
また、一態様では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0099】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0100】
また、各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0101】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0102】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0103】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0104】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0105】
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。
【0106】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。磁気テープカートリッジのその他の詳細については、公知技術を適用することができる。
【0107】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0108】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。
【0109】
上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気記録媒体へのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0110】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0111】
例えば、サーボパターンが形成された磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボパターンを読み取って得られるサーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【実施例】
【0112】
以下に、本発明の一態様を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量( equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0113】
後述の表中、「BaFe」は六方晶バリウムフェライト粉末を示し、「SrFe1」および「SrFe2」は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示し、「ε-酸化鉄」はε-酸化鉄粉末を示す。
【0114】
表1中、「BaFe」は、下記の六方晶バリウムフェライト粉末である。
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
保磁力Hc:2000Oe
平均粒子サイズ(平均板径):20nm
平均板状比:2.7
BET(Brunauer-Emmett- Teller)比表面積:60m2/g
σs:46A・m2/kg
【0115】
表1中、「SrFe1」は、以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末である。
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0116】
表1中、「SrFe2」は、以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末である。
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0117】
表1中、「ε-酸化鉄」は、以下の方法により作製されたε-酸化鉄粉末である。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62O3)であった。また、先にSrFe1について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0118】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
【0119】
[実施例1]
<磁性層形成用組成物の調製>
下記の成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。
強磁性粉末(種類:表1参照):100.0部
ポリウレタン樹脂:(東洋紡績社製バイロン(登録商標)UR4800、官能基:SO3Na、官能基濃度:70eq/ton):4.0部
塩化ビニル樹脂(カネカ社製MR104):10.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
α-Al2O3(平均粒子サイズ0.1μm):6.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):0.7部
【0120】
上記で得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、超音波処理し、1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、磁性層形成用組成物を調製した。
成分1(種類および含有量について表1参照)
成分2(種類および含有量について表1参照)
ステアリン酸アミド:0.3部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041):5.0部
【0121】
<非磁性層形成用組成物の調製>
下記の成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
カーボンブラック:100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:100ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂 (東洋紡績社製バイロンUR4800、官能基:SO3Na、官能基濃度:70eq/ton):20.0部
塩化ビニル樹脂(官能基:OSO3K、官能基濃度:70eq/ton):30.0部
トリオクチルアミン:4.0部
シクロヘキサノン:140.0部
メチルエチルケトン:170.0部
成分1(表1記載の磁性層形成用組成物の成分1と同じ、含有量はカーボンブラック100.0部に対して表1記載の量の2倍)
成分2(表1記載の磁性層形成用組成物の成分2と同じ、含有量はカーボンブラック100.0部に対して表1記載の量の2倍)
ステアリン酸アミド:0.3部
トルエン:3.0部
ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041):5.0部
【0122】
<バックコート層形成用組成物の調製>
下記の成分をロールミルで予備混練したのち、サンドミルで分散した。得られた分散液に、ポリエステル樹脂(東洋紡績社製バイロン500)4.0部、ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041)14.0部およびα-Al2O3(住友化学社製)5.0部を添加し、撹拌した後にろ過してバックコート層形成用組成物を調製した。
カーボンブラック(平均粒子サイズ40nm):85.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ100nm):3.0部
ニトロセルロース:28.0部
ポリウレタン樹脂:58.0部
銅フタロシアニン系分散剤:2.5部
ニッポラン2301(東ソー社製):0.5部
メチルイソブチルケトン:0.3部
メチルエチルケトン:860.0部
トルエン:240.0部
【0123】
<磁気記録媒体の作製>
厚み5.0μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート支持体の両表面にコロナ放電処理を施した。
上記ポリエチレンナフタレート支持体の一方の表面上に、上記の非磁性層形成用組成物を非磁性層の乾燥後の厚みが1.0μmになるように塗布し、更にその直後にその上に磁性層の乾燥後の厚みが100nmになるように磁性層形成用組成物を同時重層塗布した。両層が湿潤状態にあるうちに0.5T(テスラ)の磁力をもつコバルト磁石と0.4Tの磁力をもつソレノイドにより垂直配向処理を施した後に乾燥処理を施した。その後、上記ポリエチレンナフタレート支持体のもう一方の表面上に上記のバックコート層形成用組成物を、バックコート層の乾燥後の厚みが0.5μmとなるように塗布した後、金属ロールから構成される7段のカレンダでカレンダロールの表面温度100℃にて速度80m/minでカレンダ処理を行った。その後、1/2インチ(1インチは0.0254メートル)幅にスリットして磁気テープを作製した。
【0124】
[実施例2~33、比較例1~7]
表1に示すように各種項目を変更した点以外、実施例1と同様の方法により磁気テープを作製した。
【0125】
表1中の「ポリエチレンイミン」は、日本触媒社製の市販品であり、カッコ内に示したMnは数平均分子量である。
【0126】
表1中の「ポリアリルアミン」は、ニットーボーメディカル社製の市販品であり、カッコ内に示したMnは重量平均分子量である。
【0127】
表1に示す各実施例の磁気テープの磁性層に成分1と成分2により形成された、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を含む化合物が含まれることは、以下の方法により確認した。
表1に示す実施例の各磁気テープからサンプルを切り出し、磁性層表面(測定領域:300μm×700μm)においてESCA装置を用いてX線光電子分光分析を行った。詳しくは、下記測定条件でESCA装置によりワイドスキャン測定を行った。測定結果では、エステルアニオンの結合エネルギーの位置およびアンモニウムカチオンの結合エネルギーの位置にピークが確認された。
装置:島津製作所製AXIS-ULTRA
励起X線源:単色化Al-Kα線
スキャン範囲:0~1200eV
パスエネルギー:160eV
エネルギー分解能 1eV/step
取り込み時間:100ms/step
積算回数:5
また、表1に示す実施例の各磁気テープから長さ3cmのサンプル片を切り出し、磁性層表面のATR-FT-IR(Attenuated total reflection-fourier transform-infrared spectrometer)測定(反射法)を行った。測定結果では、COO-の吸収に対応する波数(1540cm-1または1430cm-1)、およびアンモニウムカチオンの吸収に対応する波数(2400cm-1)に吸収が確認された。
【0128】
[評価方法]
<磁性層表面の水接触角>
接触角測定機(協和界面科学社製接触角測定装置DropMaster700)により、以下の方法により磁性層表面の水接触角測定を行った。
実施例および比較例の各磁気テープからテープサンプルを切り出した。このテープサンプルを、バックコート層表面がスライドガラス表面と接触するようにスライドガラス上に設置した。テープサンプル表面(磁性層表面)に測定用液体(水)2.0μlを滴下し、滴下した液体が安定した液滴を形成したことを目視で確認した後、上記接触角測定機に付随の接触角解析ソフトウェアFAMASにより液滴像を解析し、テープサンプルと液滴の接触角を測定した。接触角の算出はθ/2法によって行い、1サンプルにつき6回測定した算術平均を水接触角とした。測定は温度25℃相対湿度25%の環境で行い、以下の解析条件で水接触角を求めた。
手法:液滴法(θ/2法)
着滴認識:自動
着滴認識ライン(針先からの距離):50dot
アルゴリズム:自動
イメージモード:フレーム
スレッシュホールドレベル:自動
【0129】
<磁性層表面の摩耗性>
雰囲気温度23℃相対湿度50%に制御した環境下、未走行の磁気テープの磁性層表面を、AlFeSil角柱(ECMA(European Computer Manufacturers Association)-288/Annex H/H2 に規定されている角柱)の長手方向と直交するように、AlFeSil角柱の一稜辺(エッジ)にラップ角12度で接触させ、その状態で長さ580m磁気テープを1.0Nの張力下において3m/秒の速さで50往復させた。なおAlFeSil角柱とは、センダスト系の合金であるAlFeSil製角柱である。
上記角柱のエッジを光学顕微鏡を用いて上方から観察し、特開2007-026564号公報の段落0015に同公報
図1に基づき説明されている磨耗幅(AlFeSil摩耗幅)を求めた。求められた摩耗幅から下記評価基準により磁性層表面の摩耗性を評価した。摩耗幅の単位は、μmである。評価結果がAまたはBであれば、磁性層表面が示す摩耗性が適度であると判断でき、評価結果がAであればより好ましいと判断できる。
A:摩耗幅が15以上25未満
B:摩耗幅が25以上40以下
C:摩耗幅が15未満または40超
【0130】
<繰り返し走行後の摩擦係数>
雰囲気温度13℃相対湿度80%の環境において、IBM社製LTO(登録商標)G7(Linear Tape-Open Generation 7)ドライブから取り外した磁気ヘッドをテープ走行系に取り付け、0.6N(ニュートン)のテンションをかけながらテープ長20mの磁気テープを、送り出しロールからの送り出しおよび巻き取りロールへの巻き取りを行いつつ4.0m/sで10000サイクル走行させた。
1パス目の走行および10000サイクル目の走行において、それぞれ走行中に磁気ヘッドにかかる摩擦力をひずみゲージを用いて測定し、測定された摩擦力から摩擦係数μ値を求めた。測定されたμ値から下記評価基準により繰り返し走行後の摩擦係数を評価した。
(評価基準)
A:μ値が0.08未満
B:μ値が0.08以上0.12以下
C:μ値が0.12超
【0131】
<繰り返し走行前後の磁性層の表面形状変化>
実施例および比較例の各磁気テープについて、未走行の磁気テープと上記環境での繰り返し走行後の磁気テープについて、それぞれ以下の方法により磁性層表面の高さ5nm以上の突起数を求めた。
高さ5nm以上の突起数は、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)を用いる測定により求められる。詳しくは、AFMによって得られた磁性層表面の平面画像において、測定領域中の凸成分と凹成分の体積が等しくなる面を基準面として定め、この基準面から5nm以上の高さの突起数を求める。なお測定領域に存在する高さ5nm以上の突起の中には、一部分が測定領域内にあってその他の部分が測定領域外にある突起もあり得る。突起数を求める際には、そのような突起も含めて突起数を計測する。
AFMを用いる測定の測定領域は、磁性層表面の5μm角(5μm×5μm)の領域とする。測定は、磁性層表面の3箇所の異なる測定領域において行う(n=3)。かかる測定により得られた3つの値の算術平均として、高さ5nm以上の突起数を求める。AFMの測定条件としては、下記の測定条件を採用する。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気テープの磁性層の表面の5μm角(5μm×5μm)の領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
以下の式により算出される突起減少率から下記評価基準により繰り返し走行前後の磁性層の表面形状変化を評価した。突起減少率の値が小さいほど、繰り返し走行前後の磁性層の表面形状変化が抑制されていると判断できる。
突起減少率(%)=[(未走行の磁気テープについて求められた突起数)-(上記繰り返し走行後の磁気テープについて求められた突起数)/(未走行の磁気テープについて求められた突起数)]×100
(評価基準)
A:20%以下
B:20%超40%未満
C:40%以上
【0132】
以上の結果を、表1(表1-1~表1-3)に示す。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
表1に示す結果から、実施例の磁気テープは、磁性層表面が適度な摩耗性を有し、繰り返し走行後にも摩擦係数が低く、かつ繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化が少ないことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の一態様は、高密度記録用磁気記録媒体の技術分野において有用である。