(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】磁気記録媒体および磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20220728BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20220728BHJP
G11B 5/84 20060101ALN20220728BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/78
G11B5/84 A
(21)【出願番号】P 2019065034
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】今岡 典子
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-339594(JP,A)
【文献】特開2018-092693(JP,A)
【文献】特開2006-099921(JP,A)
【文献】特開2003-115104(JP,A)
【文献】特開2004-319016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/706
G11B 5/738
G11B 5/735
G11B 5/78
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉
末であり、
前記磁性層の異方性磁界Hkは16kOe以上であり、
前記磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数が10個/10000μm
2未満であり
、
最小記録bit長の1/3の値dと前記磁性層の厚みt
magとの比率d/t
magが0.15以上0.50以下であ
り、かつ
前記最小記録bit長は10nm以上40nm以下である磁気記録媒体。
【請求項2】
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末は、ε-酸化鉄粉末であり、
前記磁性層の異方性磁界Hkは18kOe以上であり、
前記磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数が10個/10000μm
2
未満であり、
最小記録bit長の1/3の値dと前記磁性層の厚みt
mag
との比率d/t
mag
が0.15以上0.50以下であり、かつ
前記最小記録bit長は10nm以上40nm以下である磁気記録媒体。
【請求項3】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有する、請求項1
または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項1
~3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記比率d/t
magが、0.20以上0.50以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記凹みの数が、1個/10000μm
2以上9個/10000μm
2以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
磁気テープである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体および磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種データを記録するための記録媒体として、磁気記録媒体が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体には、優れた電磁変換特性を発揮することが望まれる。ところで、磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末を含む磁性層を形成して作製することができる。強磁性粉末として、特開2003-115104号公報(特許文献1)の実施例では、六方晶バリウムフェライト粉末が使用されている。一方、近年、高密度記録適性等の観点から、六方晶ストロンチウムフェライトおよびε-酸化鉄粉末が注目を集めている。
【0005】
そこで本発明の一態様は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選ばれる強磁性粉末を磁性層に含み、優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
上記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選ばれる強磁性粉末であり、
上記磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数(以下、単に「凹みの数」とも記載する。)が10個/10000μm2未満であり、かつ
最小記録bit長の1/3の値dと上記磁性層の厚みtmagとの比率d/tmag(以下、単に「比率d/tmag」とも記載する。)が0.15以上0.50以下である磁気記録媒体、
に関する。
【0007】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有することができる。
【0008】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することができる。
【0009】
一態様では、上記比率d/tmagは、0.20以上0.50以下であることができる。
【0010】
一態様では、上記凹みの数は、1個/10000μm2以上9個/10000μm2以下であることができる。
【0011】
一態様では、上記磁気記録媒体は、磁気テープであることができる。
【0012】
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0013】
一態様では、上記磁気記録再生装置の最小記録bit長は、10nm以上40nm以下であることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選ばれる強磁性粉末を磁性層に含み、優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、上記強磁性粉末は六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選ばれる強磁性粉末であり、上記磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数が10個/10000μm2未満であり、かつ最小記録bit長の1/3の値dと上記磁性層の厚みtmagとの比率d/tmagが0.15以上0.50以下である磁気記録媒体に関する。
【0016】
本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」とは、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。本発明および本明細書において、磁性層の表面に存在する凹みの深さおよび凹みの数は、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)を用いる測定により求められる。測定領域は、40μm角(40μm×40μm)の領域とする。測定は、磁性層表面の3箇所の異なる測定箇所において行う(n=3)。かかる測定により得られた3つの値の算術平均を10000μm2あたりの数値に換算して求められた値(即ち、6.25倍した値)として、最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数を求める。測定領域に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの中には、一部分が測定領域内にあってその他の部分が測定領域外にある凹みもあり得る。凹みの数を求める際には、そのような凹みも含めて凹みの数を計測するものとする。凹みの深さについては、AFMを用いて得られた磁性層表面の平面画像において、測定領域中の凸成分と凹成分の体積が等しくなる面を基準面として定め、この基準面から凹みの最深部までの距離を、凹みの深さとする。AFMの測定条件の一例としては、下記の測定条件を挙げることができる。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気記録媒体の磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
【0017】
「最小記録bit長」とは、磁気記録媒体に記録される磁気信号の最短波長(最短記録波長)の1/2の長さをいう。高密度記録化の観点からは、短波長記録を行うことが好ましく、この点から最小記録bit長は、50nm未満であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。また、最小記録bit長は、例えば5nm以上または10nm以上であることができる。なお比率d/tmagの算出にあたり、最小記録bit長および磁性層の厚みは、同じ単位の値を用いるものとする。上記単位は、例えば「nm」または「μm」であることができる。
【0018】
上記磁気記録媒体において、磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数は、10個/10000μm2未満である。磁性層表面の凹みの数については、先に挙げた特開2003-115104号公報(特許文献1)には、磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数を100個/10000μm2以下にすべきことが記載されている(同公報の請求項1等参照)。これに対し本発明者は鋭意検討を重ねた結果、磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数に関して特開2003-115104号公報(特許文献1)に記載されている上限100個/10000μm2より上限を更に引き下げるとともに、磁性層の厚みを、最小記録bit長の1/3の値dとの比率d/tmagが0.15以上0.50以下となる厚みとすることが、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選ばれる強磁性粉末を磁性層に含む磁気記録媒体の電磁変換特性の更なる向上につながることを新たに見出した。六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を含む磁性層は、磁気記録媒体に従来使用されていた強磁性粉末(例えば特開2003-115104号公報(特許文献1)の実施例で使用されている六方晶バリウムフェライト粉末)を含む磁性層と比べて一般に異方性磁界Hkが高い。このことが、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を含む磁性層を有する磁気記録媒体において、最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みが電磁変換特性に与える影響が大きい理由と推察される。そのため、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を含む磁性層を有する磁気記録媒体の電磁変換特性の更なる向上のためには、最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数の上限は、特開2003-115104号公報(特許文献1)に記載されている上限より引き下げることが望ましいと本発明者は考えている。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を含む磁性層を有する磁気記録媒体では上記比率d/tmagも電磁変換特性に影響を及ぼすことが、本発明者の鋭意検討の結果、明らかになった。その理由も、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を含む磁性層の異方性磁界Hkが高いことにあると推察される。
ただし以上は推察であって、本発明を限定するものではない。また、本明細書に記載の他の推察にも、本発明は限定されない。
【0019】
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0020】
<磁性層>
(磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数)
上記磁気記録媒体の磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数は、10個/10000μm2未満であり、電磁変換特性のより一層の向上の観点からは、9個/10000μm2以下であることが好ましく、8個/10000μm2以下であることがより好ましく、7個/10000μm2以下であることが更に好ましく、6個/10000μm2以下であることが一層好ましく、5個/10000μm2以下であることがより一層好ましい。上記凹みの数は、0個/10000μm2であることもでき、0個/10000μm2以上、0個/10000μm2超、または1個/10000μm2以上であることもできる。凹みの数の制御手段については後述する。
【0021】
(比率d/tmag)
上記磁気記録媒体において、最小記録bit長の1/3の値dと磁性層の厚みtmagとの比率d/tmagは、0.15以上であり、ノイズ低減により電磁変換特性の更なる向上を可能にする観点からは、0.16以上であることが好ましく、0.17以上であることがより好ましく、0.18以上であることが更に好ましく、0.19以上であることが一層好ましく、0.20以上であることがより一層好ましい。また、上記比率d/tmagは、0.50以下であり、出力低下の抑制により電磁変換特性の更なる向上を可能にする観点からは、0.45以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.35以下であることが更に好ましい。
【0022】
(強磁性粉末)
上記磁気記録媒体の磁性層は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を含む。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは、記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0023】
上記磁気記録媒体の磁性層には、強磁性粉末として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のみが含まれていてもよく、ε-酸化鉄粉末のみが含まれていてもよく、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末が含まれていてもよい。以下、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末について、更に説明する。
【0024】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいう。また、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0025】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0026】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0027】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0028】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0029】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気記録媒体の走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0030】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
【0031】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0032】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0033】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気記録媒体の磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0034】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。
【0035】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0036】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0037】
上記磁気記録媒体が磁性層に六方晶ストロンチウムフェライト粉末を含む場合、磁性層の異方性磁界Hkは、14kOe以上であることが好ましく、16kOe以上であることがより好ましく、18kOe以上であることが更に好ましい。また、上記磁性層の異方性磁界Hkは、90kOe以下であることが好ましく、80kOe以下であることがより好ましく、70kOe以下であることが更に好ましい。
本発明および本明細書における異方性磁界Hkとは、磁化困難軸方向に磁界を印加したときに、磁化が飽和する磁界をいう。異方性磁界Hkは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末を含む磁性層において、磁性層の磁化困難軸方向は、面内方向である。
【0038】
ε-酸化鉄粉末
本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0039】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0040】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0041】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一態様では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0042】
上記磁気記録媒体が磁性層にε-酸化鉄粉末を含む場合、磁性層の異方性磁界Hkは、18kOe以上であることが好ましく、30kOe以上であることがより好ましく、38kOe以上であることが更に好ましい。また、磁性層の異方性磁界Hkは、100kOe以下であることが好ましく、90kOe以下であることがより好ましく、75kOe以下であることが更に好ましい。ε-酸化鉄粉末を含む磁性層において、磁性層の磁化困難軸方向は、面内方向である。
【0043】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0044】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0045】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0046】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0047】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層の強磁性粉末以外の成分は、少なくとも結合剤であり、任意に一種以上の更なる添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0048】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気記録媒体は塗布型の磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。また、結合剤は、電子線硬化型樹脂等の放射線硬化型樹脂であってもよい。放射線硬化型樹脂については、特開2011-048878号公報の段落0044~0045を参照できる。結合剤は、磁性層形成用組成物中に、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0049】
また、結合剤とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁気記録媒体の製造工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層等の各層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0050】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。または、公知の方法で合成された化合物を添加剤として使用することもできる。添加剤は任意の量で使用することができる。添加剤の一例としては、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。例えば研磨剤については、特開2004-273070号公報の段落0030~0032を参照できる。突起形成剤としては、コロイド粒子が好ましく、入手容易性の点から無機コロイド粒子が好ましく、無機酸化物コロイド粒子がより好ましく、シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)がより一層好ましい。研磨剤および突起形成剤の平均粒子サイズは、それぞれ好ましくは30~200nmの範囲であり、より好ましくは50~100nmの範囲である。
【0051】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0052】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。また、一態様では、非磁性粉末としてベンガラを使用することができる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0053】
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0054】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0055】
磁性層表面に存在する凹みに関して、例えばテープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)では、磁気テープがリール等に巻き取られて磁性層表面が裏面側の表面(例えば非磁性支持体の表面または後述するバックコート層の表面)と接触した状態で、裏面側の表面の形状が磁性層表面に転写される(いわゆる裏写り)ことにより、磁性層表面に凹みが形成され得る。磁性層の下層に位置する非磁性層が薄いほど、裏写りは抑制される傾向があり、その結果、磁性層表面の上記凹みの数は低減される傾向がある。また、非磁性層の組成を調整することによって裏移りを抑制することができる。一例として、非磁性粉末としてベンガラを含む非磁性層を有する磁気記録媒体では、ベンガラ量を低減することにより、裏写りが抑制される傾向があり、その結果、磁性層表面の上記凹みの数は低減される傾向がある。
【0056】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
【0057】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することができる。バックコート層の非磁性粉末としては、非磁性層に含まれる非磁性粉末に関する上記記載を参照することができる。バックコート層に含まれる非磁性粉末は、好ましくは無機粉末およびカーボンブラックからなる群から選択される一種以上の非磁性粉末であることができる。一般に、無機粉末はカーボンブラックに比べてバックコート層形成用組成物における分散性が良好な傾向がある。例えば、バックコート層の非磁性粉末の主粉末(非磁性粉末の中で質量基準で最も多く含まれる非磁性粉末)として、無機粉末を用いることは好ましい。バックコート層に含まれる非磁性粉末が無機粉末およびカーボンブラックからなる群から選択される一種以上の非磁性粉末である場合、非磁性粉末全量100.0質量部に対して無機粉末の占める割合は、50.0質量部超~100.0質量部の範囲であることが好ましく、60.0質量部~100.0質量部の範囲であることがより好ましく、70.0質量部~100.0質量部の範囲であることが更に好ましく、80.0質量部~100.0質量部の範囲であることが一層好ましい。
【0058】
非磁性粉末の平均粒子サイズは、例えば10~200nmの範囲であることができる。無機粉末の平均粒子サイズは、好ましくは50~200nmの範囲であり、より好ましくは80~150nmの範囲である。一方、カーボンブラックの平均粒子サイズは、好ましくは10~50nmの範囲であり、より好ましくは15~30nmの範囲である。
【0059】
また、バックコート層形成用組成物における非磁性粉末の分散性は、公知の分散剤の使用、分散条件の強化等によっても高めることができる。
【0060】
バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層に含まれ得る結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0061】
<各種厚み>
非磁性支持体の厚みは、例えば3.0~80.0μmの範囲であり、好ましくは3.0~50.0μmの範囲であり、より好ましくは3.0~10.0μmの範囲である。
磁性層の厚みtmagについては、比率d/tmagが上記範囲であればよい。近年求められている高密度記録化の観点からは、磁性層の厚みtmagは、100nm以下であることが好ましい。磁性層の厚みは、より好ましくは10nm~100nmの範囲であり、更に好ましくは20~90nmの範囲である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmの範囲であることが更に好ましい。
【0062】
磁性層の厚みtmagは、以下の方法により求められる。磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面について走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により断面のSEM画像を取得する。無作為に抽出した10箇所について断面のSEM画像を取得する。こうして取得された10画像について、各SEM画像の無作為に抽出した1箇所において磁性層の厚みを測定する。こうして10画像について求められた10個の測定値の算術平均として、磁性層の厚みtmagを求める。磁性層の厚みを求める際、磁性層と隣接する部分(例えば非磁性層)との界面は、特開2017-33617号公報の段落0029に記載の方法により特定することができる。
非磁性層の厚み等のその他の厚みも、同様に求めることができる。
【0063】
<製造工程>
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物は、先に記載した各種成分とともに、通常、溶媒を含む。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。各層形成用組成物の溶媒含有量は特に限定されるものではない。溶媒については、特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。各層形成用組成物の固形分濃度および溶媒組成は、組成物のハンドリング適性、塗布条件および形成しようとする各層の厚みに対応させて適宜調整すればよい。磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもよい。各層形成用組成物の調製に用いられるすべての原料は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。例えば、結合剤を、混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気記録媒体の製造工程では、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練工程の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報に記載されている。分散機としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミルまたはホモミキサー等のせん断力を利用する各種の公知の分散機を使用することができる。分散には、好ましくは分散ビーズを用いることができる。分散ビーズとしては、セラミックビーズ、ガラスビーズ等が挙げられ、ジルコニアビーズが好ましい。2種類以上のビーズを組み合わせて使用してもよい。分散ビーズのビーズ径(粒径)およびビーズ充填率は、特に限定されるものではなく、分散対象の粉末に応じて設定すればよい。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0064】
非磁性層および磁性層は、非磁性層形成用組成物および磁性層形成用組成物を、逐次または同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0065】
磁気記録媒体製造のためのその他の各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。例えば、配向処理を行う態様では、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層に対して配向処理が行われる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。一例として、垂直配向処理における磁場強度は、0.10~0.80Tとすることができ、または0.10~0.60Tとすることもできる。また、磁気記録媒体の表面平滑性を高めるための処理として、カレンダ処理を行うことが好ましい。カレンダ処理の条件については、例えば、カレンダ圧力(線圧)は200~500kN/mであることができ、250~350kN/mであることが好ましい。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)は、例えば70~120℃であることができ、80~100℃であることが好ましく、カレンダ速度は、例えば50~300m/minであることができ、50~200m/minであることが好ましい。
【0066】
上記のように製造された磁気記録媒体には、磁気記録再生装置における磁気ヘッドのトラッキング制御、磁気記録媒体の走行速度の制御等を可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することができる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。上記磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であってもよく、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であってもよい。以下では、磁気テープを例にサーボパターンの形成について説明する。
【0067】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0068】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0069】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0070】
また、一態様では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0071】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0072】
また、各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0073】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0074】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0075】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0076】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0077】
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。
【0078】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。磁気テープカートリッジのその他の詳細については、公知技術を適用することができる。
【0079】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0080】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。
【0081】
上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気記録媒体へのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0082】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0083】
例えば、サーボパターンが形成された磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボパターンを読み取って得られるサーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0084】
上記磁気記録再生装置でデータ記録のために磁気記録媒体に磁気信号を記録する際の最小記録bit長は、高密度記録化の観点から、10nm以上40nm以下であることが好ましい。
また、本発明の一態様によれば、
10nm以上40nm以下の最小記録bit長で上記磁気記録媒体に磁気信号を記録し、記録された磁気信号を再生する磁気記録再生システム、
10nm以上40nm以下の最小記録bit長で上記磁気記録媒体に磁気信号を記録し、記録された磁気信号を再生する磁気記録再生方法、
を提供することもできる。
上記磁気記録再生装置、磁気記録再生システムおよび磁気記録再生方法における最小記録bit長等の詳細については、先に記載した通りである。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」は、質量基準である。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。以下に記載の「eq」は、当量( equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
【0086】
後述の表1中、「SrFe1」および「SrFe2」は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示し、「ε-酸化鉄」はε-酸化鉄粉末を示し、「BaFe」は平均粒子サイズ21nmの六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
以下に記載の各種強磁性粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
また、以下に記載の磁性層の異方性磁界Hkは、振動試料型磁力計TM-VSM5050-SMS型(玉川製作所製)を用いて測定された値である。
【0087】
[強磁性粉末の作製方法]
<六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法1>
表1に示す「SrFe1」は、以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末である。
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(表1中、「SrFe1」)の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0088】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0089】
<六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法2>
表1に示す「SrFe2」は、以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末である。
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで熔融温度1380℃で溶解し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(表1中、「SrFe2」)の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0090】
<ε-酸化鉄粉末の作製方法>
表1に示す「ε-酸化鉄」は、以下の方法により作製されたε-酸化鉄粉末である。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62O3)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法1について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末(表1中、「ε-酸化鉄」)の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0091】
[実施例1]
(1)磁性層形成用組成物の処方
(磁性液)
強磁性粉末(表1参照):100.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:14.0部
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.4meq/g)
シクロヘキサノン:150部
メチルエチルケトン:150部
(研磨剤液A)
アルミナ研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):3.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:0.3部 (重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン:26.7部
(研磨剤液B)
ダイヤモンド研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):1.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:0.1部
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン:26.7部
(シリカゾル)
コロイダルシリカ(平均粒径100nm):0.2部
メチルエチルケトン:1.4部
(その他成分)
ステアリン酸:2.0部
ブチルステアレート:10.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート):2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン:200.0部
メチルエチルケトン:200.0部
【0092】
(2)非磁性層形成用組成物の処方
ベンガラ:表1参照
(平均粒子サイズ(平均長軸長):150nm、平均針状比:7、BET(Brunauer-Emmett- Teller)比表面積:52m2/g)
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):25.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:18部
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g)
ステアリン酸:1.0部
シクロヘキサノン:300.0部
メチルエチルケトン:300.0部
【0093】
(3)バックコート層形成用組成物の処方
無機粉末(α-酸化鉄):90.0部
(平均粒子サイズ(平均長軸長):150nm、平均針状比:7、 BET比表面積:52m2/g)
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm) :10.0部
塩化ビニル共重合体 :13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂 :6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン :155.0部
メチルエチルケトン:155.0部
ステアリン酸:3.0部
ブチルステアレート:1.0部
ポリイソシアネート :5.0部
シクロヘキサノン:200.0部
【0094】
(4)磁気テープの作製
上記磁性液を、バッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散させた。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。研磨剤液AおよびBは、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で24時間分散させた。これらの分散液を他の成分(シリカゾル、その他成分および仕上げ添加溶媒)と混合後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で30分間分散処理を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物については、上記成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて、24時間分散させた。分散ビーズとしては、ビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用した。得られた分散液を0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物については、潤滑剤(ステアリン酸およびブチルステアレート)、ポリイソシアネートおよびシクロヘキサノンを除いた上記成分をオープンニーダにより混練および希釈した後、横型ビーズミル分散機により、ビーズ径1mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバーで撹拌した。こうして得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、バックコート層形成用組成物を作製した。
その後、厚み5.0μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート製支持体の一方の表面に非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させた後、その上に磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。非磁性層の厚みは非磁性層形成用組成物の塗布量によって調整し、磁性層の厚みは磁性層形成用組成物の塗布量によって調整した。
上記の磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに磁場強度0.6Tの磁場を、塗布層の表面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後、乾燥させた。その後、上記支持体の反対の表面上に乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させた。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを有するカレンダ処理機により、速度100m/分、線圧300kg/cm、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)100℃でカレンダ処理を行った後に雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を行った。熱処理後、1/2インチ(1インチは0.0254メートル)幅にスリットして得られた磁気テープをロール状にリールに巻き取った。その後、この磁気テープの一部を電磁変換特性の評価に使用し、他の一部を各種物性評価に使用した。
【0095】
(5)電磁変換特性の評価
ヘッドを固定した1/2インチリールテスターを用いて、以下の方法により電磁変換特性(SNR(Signal-to-Noise-Ratio))を求めた。
ヘッド/テープ相対速度を5.5m/secとし、記録ヘッドとしてMIG(Metal-In-Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を用い、記録電流は各テープの最適記録電流に設定した。再生ヘッドとしては素子厚み15nm、シールド間隔0.1μm、リード幅0.5μmのGMR(Giant Magnetoresistive)ヘッドを用いた。表1に示す最短記録波長で磁気信号を記録し、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定し、キャリア信号の出力と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。信号は、磁気テープ走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。後述の比較例1の値を0dBとし、その相対値としてSNRを求めた。
【0096】
[実施例2~17、比較例1~19、参考例]
表1に示すように各種項目を変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープの作製および電磁変換特性の評価を行った。
【0097】
[物性評価]
(1)磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数
AFMの測定条件として下記条件を採用し、実施例、比較例および参考例の各磁気テープについて、先に記載した方法により磁性層の表面に存在する最小記録bit長の1/3以上の深さを有する凹みの数を求めた。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気記録媒体の磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
【0098】
(2)磁性層の厚みおよび非磁性層の厚み
実施例、比較例および参考例の各磁気テープから以下に記載の方法により断面観察用試料を作製した。SEM観察のためのSEMとしては、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE(Field Emission)-SEM)である日立製作所製FE-SEM S4800を使用した。
(i)磁気テープの幅方向10mm×長手方向10mmのサイズの試料を剃刀を用いて切り出した。
切り出した試料の磁性層表面に保護膜を形成して保護膜付試料を得た。保護膜の形成は、以下の方法により行った。
上記試料の磁性層表面に、スパッタリングにより白金(Pt)膜(厚み30nm)を形成した。白金膜のスパッタリングは、下記条件で行った。
(白金膜のスパッタリング条件)
ターゲット:Pt
スパッタリング装置のチャンバー内真空度:7Pa以下
電流値:15mA
上記で作製した白金膜付試料に、更に厚み100~150nmのカーボン膜を形成した。カーボン膜の形成は、下記(ii)で用いるFIB(集束イオンビーム)装置に備えられた、ガリウムイオン(Ga+)ビームを用いるCVD(Chemical vapor deposition)機構により行った。
(ii)上記(i)で作製した保護膜付試料に対し、FIB装置によりガリウムイオン(Ga+)ビームを用いるFIB加工を行い磁気テープの断面を露出させた。FIB加工における加速電圧は30kV、プローブ電流は1300pAとした。
こうして露出させた断面観察用試料をSEM観察し、断面のSEM画像を取得した。SEM画像は、作製した断面観察用試料の無作為に選択した10箇所において、合計10画像取得した。各SEM画像は、加速電圧5kV、撮像倍率2万倍および縦960画素(pixel)×横1280画素で撮像される二次電子像として取得した。磁性層と非磁性層との界面は、特開2017-33617号公報の段落0029に記載の方法により特定した。非磁性層と非磁性支持体との界面は、SEM画像を目視することにより特定した。各SEM画像上の任意の位置1箇所において、磁性層と非磁性層との界面と磁気テープの磁性層側最表面との厚み方向の間隔を測定し、10画像について得られた値の算術平均を磁性層の厚みtmagとした。各SEM画像上の任意の位置1箇所において、非磁性層の磁性層との界面と非磁性支持体との界面との厚み方向の間隔を測定し、10画像について得られた値の算術平均を非磁性層の厚みとした。
【0099】
以上の結果を、表1(表1-1~表1~3)に示す。表1に記載のSNRに関して、最小記録bit長が40nmの場合はSNRが1.0dB以上、最小記録bit長が30nmの場合はSNRが-9.0dB以上、最小記録bit長が20nmの場合はSNRが-24.0dB以上であれば、電磁変換特性に優れると判断できる。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
表1に示す結果から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選ばれる強磁性粉末を含む磁性層を有する実施例の磁気テープが、電磁変換特性に優れることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の一態様は、高密度記録用磁気記録媒体の技術分野において有用である。