(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-27
(45)【発行日】2022-08-04
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 135/18 20060101AFI20220728BHJP
C10M 163/00 20060101ALI20220728BHJP
C10M 159/18 20060101ALN20220728BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20220728BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220728BHJP
【FI】
C10M135/18
C10M163/00
C10M159/18
C10N30:08
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2022527729
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012202
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2021062417
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂原 賢二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 将矢
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149830(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170948(WO,A1)
【文献】特開2015-140354(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076417(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/04
C10M 135/18
C10M 133/02
C10N 10/12
C10N 10/04
C10N 40/25
C10N 30/06
C10N 30/08
C10N 30/10
C10N 30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを含有する潤滑油組成物であって、
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含み、
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含み、
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含み、
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であり、
前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(C
S)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(D
N)との含有比率[(C
S)/(D
N)]が、質量比で、0.30~0.85であり、
リン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満である、潤滑油組成物。
【請求項2】
硫黄含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.35質量%以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
リン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.06質量%~0.08質量%である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
モリブデン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%~0.12質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記金属系清浄剤(C)が、カルシウム系清浄剤(C1)及びマグネシウム系清浄剤(C2)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記金属系清浄剤(C)が、前記カルシウム系清浄剤(C1)を含み、
カルシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.10質量%~0.20質量%である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記金属系清浄剤(C)が、前記マグネシウム系清浄剤(C2)を含み、
マグネシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.03質量%~0.07質量%である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記金属系清浄剤(C)が、前記カルシウム系清浄剤(C1)及び前記マグネシウム系清浄剤(C2)を含み、
カルシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.10質量%~0.20質量%であり、
マグネシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.03質量%~0.07質量%である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)は、下記一般式(b1-3)で表される化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【化1】
[前記一般式(b1-3)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、各々独立に、炭素数4~12の脂肪族炭化水素基である短鎖置換基群(α)又は炭素数13~22の脂肪族炭化水素基である長鎖置換基群(β)を示す。但し、前記化合物(B1)の全分子中における前記短鎖置換基群(α)と前記長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]は、0.10~2.0である。また、前記一般式(b1-3)中、X1、X2、X3、及びX4は、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を示す。]
【請求項10】
さらに、金属不活性化剤(E)を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
無灰系摩擦調整剤の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1質量%未満である、請求項1~10のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
内燃機関に用いられる、請求項1~11のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を含む、内燃機関。
【請求項14】
請求項1~11ののいずれか1項に記載の潤滑油組成物を用いる、内燃機関の潤滑方法。
【請求項15】
基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを混合する工程を含み、
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含み、
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含み、
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含み、
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であり、
前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(C
S)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(D
N)との含有比率[(C
S)/(D
N)]が、質量比で、0.30~0.85となるように調整され、
リン含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満となるように調整される、潤滑油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン等の内燃機関に用いられる潤滑油組成物には、更なる省燃費性能の向上が求められている。そのため、潤滑油組成物の低粘度化が進められるとともに、より高い摩擦低減作用を発揮させる観点から、モリブデン系摩擦調整剤に関する研究も進められつつある。
【0003】
モリブデン系摩擦調整剤としては、例えば二核のモリブデンジチオカーバメートや三核のモリブデンジチオカーバメートが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、摩擦低減作用のさらなる向上が求められている。そこで、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて用いることで、摩擦低減作用のさらなる向上を図ることが考えられる。
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて摩擦低減作用のさらなる向上を図ろうとすると、潤滑油組成物の高温清浄性及び酸化安定性が悪化することがわかった。加えて、潤滑油組成物の耐銅腐食性も悪化することがわかった。耐銅腐食性が劣る潤滑油組成物は、エンジン等の内燃機関に用いられている銅系部材の腐食に起因する油中への銅溶出によって、劣化が促進される恐れがある。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせることで、優れた摩擦低減作用を発揮しながらも、高温清浄性、酸化安定性、及び耐銅腐食性に優れる潤滑油組成物を提供することを課題とする。
なお、本明細書において、「耐銅腐食性」とは、銅系部材が腐食した場合であっても油中への銅溶出が起こり難いことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行い、下記[1]の構成を見出すに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]~[4]に関する。
[1] 基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを含有する潤滑油組成物であって、
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)が、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含み、
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含み、
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含み、
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であり、
前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]が、質量比で、0.30~0.85であり、
リン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満である、潤滑油組成物。
[2] 上記[1]に記載の潤滑油組成物を含む、内燃機関。
[3] 上記[1]に記載の潤滑油組成物を用いる、内燃機関の潤滑方法。
[4] 基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを混合する工程を含み、
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含み、
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含み、
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含み、
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であり、
前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]が、質量比で、0.30~0.85となるように調整され、
リン含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満となるように調整される、潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせることで、優れた摩擦低減作用を発揮しながらも、高温清浄性、酸化安定性、及び耐銅腐食性に優れる潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0010】
[潤滑油組成物の態様]
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを含有する。
モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含む。
金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含む。
無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含む。
二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価は、0.04mgKOH/g未満である。
金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]は、質量比で、0.30~0.85である。
そして、リン含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満である。
【0011】
本発明者らは、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて用いることで、摩擦低減作用のさらなる向上を図るべく、鋭意検討を行った。その結果、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて用いると、摩擦低減作用は向上するものの、酸化安定性、高温清浄性、及び耐銅腐食性が劣ることがあることがわかった。換言すれば、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて用いる場合、酸化安定性、高温清浄性、及び耐銅腐食性のすべてを向上させることが困難であることがわかった。
そこで、本発明者らは、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて用いた場合であっても、酸化安定性、高温清浄性、及び耐銅腐食性のすべてを向上させることのできる潤滑油組成物を創出すべく、モリブデン系摩擦調整剤に対するアプローチと、潤滑油組成物に配合する添加剤のバランスに対するアプローチとの両面から鋭意検討を進めた。
その結果、特定のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて用いること、モリブデン系摩擦調整剤の酸価を特定範囲に調整すること、金属系清浄剤由来の硫黄分と無灰系清浄剤由来の窒素分との含有比率を特定範囲に調整すること、並びに潤滑油組成物のリン含有量を特定範囲に調整することによって、上記課題を解決するに至った。
本発明の効果が奏されるメカニズムは明確にはなっていないが、特定のモリブデン系摩擦調整剤の組み合わせに対し、金属系清浄剤、無灰系分散剤、及び潤滑油組成物中のリン分等が相互作用し、複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせて用いた場合の問題点を解消しているものと推察される。
【0012】
なお、以降の説明では、「基油(A)」、「モリブデン系摩擦調整剤(B)」、「金属系清浄剤(C)」、及び「無灰系分散剤(D)」を、それぞれ「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」、及び「成分(D)」ともいう。
【0013】
本実施形態の潤滑油組成物において、成分(A)~(D)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
なお、本実施形態の潤滑油組成物において、成分(A)~(D)の合計含有量の上限値は、成分(A)~(D)以外の潤滑油用添加剤との関係で調整すればよく、通常100質量%未満、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは70質量%~100質量%未満、より好ましくは75質量%~99質量%、更に好ましくは80質量%~98質量%である。
【0014】
以下、本実施形態の潤滑油組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0015】
<基油(A)>
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)を含有する。基油(A)としては、従来、潤滑油基油として用いられている鉱油及び合成油から選択される1種以上を、特に制限なく使用することができる。
【0016】
鉱油としては、例えば、パラフィン基原油、中間基原油、ナフテン基原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;前記常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;前記留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、水素化分解、高度水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化異性化脱ろう等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油等が挙げられる。
【0017】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、α-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリオールエステル及び二塩基酸エステル等の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス、Gas To Liquids WAX)を異性化することで得られるGTL基油等が挙げられる。
【0018】
本実施形態で用いる基油(A)は、API(米国石油協会)の基油カテゴリーのグループII又はIIIに分類される鉱油が好ましい。
【0019】
基油(A)は、鉱油から選択される1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、合成油から選択される1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせ用いてもよい。さらには、1種以上の鉱油と1種以上の合成油とを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
基油(A)の動粘度及び粘度指数は、上限値は省燃費性を良好なものとする観点から、下限値は蒸発による潤滑油組成物の損失を低減し、油膜保持性を確保する観点から、以下の範囲とすることが好ましい。
基油(A)の100℃動粘度は、好ましくは2.0mm2/s~6.0mm2/s、より好ましくは2.5mm2/s~5.5mm2/s、更に好ましくは3.0mm2/s~5.0mm2/sである。
基油(A)の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。
本明細書において、100℃動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出される値である。
【0021】
なお、基油(A)が2種以上の基油を含有する混合基油である場合、混合基油の動粘度及び粘度指数が上記範囲内にあることが好ましい。
【0022】
本実施形態の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は、特に限定されないが、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。また、好ましくは97質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは60質量%~97質量%未満、より好ましくは70質量%~96質量%、更に好ましくは80質量%~95質量%である。
【0023】
<モリブデン系摩擦調整剤(B)>
本実施形態の潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦調整剤(B)を含有する。
モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含む。
このように、モリブデン系摩擦調整剤を複数種組み合わせて用いることで、摩擦低減作用が向上する。なお、当該摩擦低減作用は、高温環境下においては勿論のこと、30℃程度の低温環境下においても発揮されることが本発明者らの実験によって確認されている。
【0024】
なお、モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)以外の他のモリブデン系摩擦調整剤を含んでいてもよい。他のモリブデン系摩擦調整剤としては、例えば、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)等が挙げられる。
ここで、本発明の効果を発揮させやすくする観点から、モリブデン系摩擦調整剤(B)中における二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上の合計含有量は、モリブデン系摩擦調整剤(B)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%である。
【0025】
以下、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)について、詳細に説明する。
【0026】
(二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1))
二核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、下記一般式(b1-1)で表される化合物、下記一般式(b1-2)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【0028】
上記一般式(b1-1)及び(b1-2)中、R11~R14は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
X11~X18は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、上記一般式(b1-1)中のX11~X18の少なくとも二つは硫黄原子である。
R11~R14として選択し得る炭化水素基の炭素数は、6~22が好ましい。
【0029】
上記一般式(b1-1)及び(b1-2)中のR11~R14として選択し得る、当該炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
当該アルキル基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
当該アルケニル基としては、例えば、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基等が挙げられる。
当該シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
当該アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
当該アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、ジメチルナフチル基等が挙げられる。
当該アリールアルキル基としては、例えば、メチルベンジル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、下記一般式(b1-3)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(B1a)(以下、「化合物(B1a)」ともいう)が好ましい。
【化2】
【0031】
前記一般式(b1-3)中、R1、R2、R3、及びR4は、各々独立に、炭素数4~12の脂肪族炭化水素基である短鎖置換基群(α)又は炭素数13~22の脂肪族炭化水素基である長鎖置換基群(β)を示す。但し、前記化合物(B1a)の全分子中における前記短鎖置換基群(α)と前記長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]は、0.10~2.0である。また、前記一般式(b1-3)中、X1、X2、X3、及びX4は、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0032】
短鎖置換基群(α)として選択し得る、炭素数4~12の脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数4~12のアルキル基、炭素数4~12のアルケニル基が挙げられる。
具体的には、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基が挙げられる。これらは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
なお、短鎖置換基群(α)として選択し得る、脂肪族炭化水素基の炭素数は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、好ましくは5~11、より好ましくは6~10、更に好ましくは7~9である。
【0033】
長鎖置換基群(β)として選択し得る、炭素数13~22の脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数13~22のアルキル基、炭素数13~22のアルケニル基が挙げられる。
具体的には、例えば、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、オレイル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、が挙げられる。これらは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
なお、長鎖置換基群(β)として選択し得る、脂肪族炭化水素基の炭素数は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、好ましくは13~20、より好ましくは13~16、更に好ましくは13~14である。
【0034】
ここで、前記一般式(b1-3)で表される化合物(B1a)は、その全分子中における短鎖置換基群(α)と長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]が、0.10~2.0であることが好ましい。モル比[(α)/(β)]が0.10以上であると、化合物(B1a)による耐銅腐食性への影響が小さくなり、摩擦低減作用も向上しやすい。また、モル比[(α)/(β)]が2.0以下であると、低温貯蔵安定性を確保しやすくなる。
ここで、耐銅腐食性への影響をより小さくする観点、摩擦低減作用をより向上させやすくする観点から、モル比[(α)/(β)]は、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.20以上である。
また、低温貯蔵安定性をより確保しやすくする観点から、モル比[(α)/(β)]は、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.0以下、より更に好ましくは0.80以下、更になお好ましくは0.60以下、一層好ましくは0.50以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.15~1.2、より好ましくは0.20~1.0、更に好ましくは0.20~0.80、より更に好ましくは0.20~0.60、更になお好ましくは0.20~0.50である。
【0035】
ここで、短鎖置換基群(α)及び長鎖置換基群(β)は、同一分子内に併存していてもよく、同一分子内に併存していなくてもよい。すなわち、前記一般式(b1-3)で表される化合物(B1a)の全分子中における短鎖置換基群(α)と長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]の平均値が、0.10~1.2の範囲内にあればよい。
したがって、化合物(B1a)には、前記一般式(b1-3)中、R1、R2、R3、及びR4が全て短鎖置換基群(α)である分子群(B1a-1)が混在していてもよく、R1、R2、R3、及びR4が全て長鎖置換基群(β)である分子群(B1a-2)が混在していてもよく、R1、R2、R3、及びR4の一部が短鎖置換基群(α)であり、残部が長鎖置換基群(β)である分子群(B1a-3)が混在していてもよい。
【0036】
(三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2))
三核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、下記一般式(b2)で表される化合物が挙げられる。
Mo3SkEmLnApQz (b2)
【0037】
前記一般式(b2)中、kは1以上の整数、mは0以上の整数であり、k+mは4~10の整数であり、4~7の整数であることが好ましい。nは1~4の整数、pは0以上の整数である。zは0~5の整数であって、非化学量論の値を含む。
Eは、それぞれ独立に、酸素原子又はセレン原子であり、例えば、後述するコアにおいて硫黄を置換し得るものである。
Lは、それぞれ独立に、炭素原子を含有する有機基を有するアニオン性リガンドであり、各リガンドにおける該有機基の炭素原子の合計が14個以上であり、各リガンドは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
Aは、それぞれ独立に、L以外のアニオンである。
Qは、それぞれ独立に、電子を供与する中性化合物であり、三核モリブデン化合物上における空の配位を満たすために存在する。
【0038】
Lで表されるアニオン性リガンドにおける有機基の炭素原子の合計としては、好ましくは14~50個、より好ましくは16~30個、更に好ましくは18~24個である。
Lとしては、1価のアニオン性リガンドであるモノアニオン性リガンドであることが好ましく、具体的には、下記一般式(i)~(iv)で表されるリガンドであることがより好ましい。
なお、前記一般式(b2)中、Lとして選択されるアニオン性リガンドとしては、下記一般式(iv)で表されるリガンドであることが好ましい。
また、前記一般式(b2)において、Lとして選択されるアニオン性リガンドは、すべて同一であることが好ましく、すべて下記一般式(iv)で表されるリガンドであることがより好ましい。
【0039】
【0040】
前記一般式(i)~(iv)中、X31~X37、及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子であり、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
前記一般式(i)~(iv)中、R31~R35は、それぞれ独立に、有機基であり、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0041】
なお、R31、R32、及びR33として選択し得るそれぞれの有機基の炭素数は、好ましくは14~50個、より好ましくは16~30個、更に好ましくは18~24個である。
【0042】
式(iv)中のR34及びR35として選択し得る2つの有機基の合計炭素数としては、好ましくは14~50個、より好ましくは16~30個、更に好ましくは18~24個である。
R34及びR35として選択し得るそれぞれの有機基の炭素数は、好ましくは7~30個、より好ましくは7~20個、更に好ましくは8~13個である。
なお、R34の有機基と、R35の有機基とは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、互いに異なることが好ましい。また、R34の有機基の炭素数と、R35の有機基の炭素数とは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、互いに異なることが好ましい。
【0043】
R31~R35として選択される有機基としては、アルキル基、アリール基、置換アリール基及びエーテル基等のヒドロカルビル基が挙げられる。
なお、「ヒドロカルビル」なる用語は、リガンドの残部に直接結合する炭素原子を有する置換基を示し、本実施形態の範囲内において、その特性が主にヒドロカルビルである。かかる置換基は、以下のものが挙げられる。
1.炭化水素置換基
炭化水素置換基としては、アルキル、アルケニル等の脂肪族の置換基、シクロアルキル、シクロアルケニル等の脂環式の置換基、芳香族基、脂肪族基及び脂環式基に置換された芳香核、環がリガンド中のもう一つの箇所を介して完結している環式基(即ち、任意の2つの示された置換基がともに脂環式基を形成してもよい)が挙げられる。
2.置換された炭化水素置換基
置換された炭化水素置換基としては、上記炭化水素置換基をヒドロカルビルの特性を変化させない非炭化水素基で置換したものが挙げられる。非炭化水素基としては、例えば、特にクロロ、フルオロ等のハロゲン基、アミノ基、アルコキシ基、メルカプト基、アルキルメルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホキシ基等が挙げられる。
【0044】
前記一般式(b2)中、Lとして選択されるアニオン性リガンドとしては、アルキルキサントゲン酸塩、カルボン酸塩、ジアルキルジチオカルバミン酸塩、及びこれらの混合物に由来のものが好ましく、ジアルキルジチオカルバミン酸塩に由来のものがより好ましい。
【0045】
前記一般式(b2)中、Aとして選択し得るアニオンは、1価のアニオンであってもよく、2価のアニオンであってもよい。Aとして選択し得るアニオンとしては、例えば、ジスルフィド、ヒドロキシド、アルコキシド、アミド及びチオシアネート又はそれらの誘導体等が挙げられる。
【0046】
前記一般式(b2)中、Qとしては、水、アミン、アルコール、エーテル及びホスフィン等が挙げられる。Qは、同一であってもよく、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0047】
三核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、前記一般式(b2)中、kが4~7の整数、nが1又は2、Lがモノアニオン性リガンドであり、pがAにおけるアニオン電荷をベースとする化合物に電気的中性を付与する整数であり、且つ、m及びzのそれぞれが0である化合物が好ましく、kが4~7の整数であり、Lがモノアニオン性リガンドであり、nが4であり、且つ、p、m及びzのそれぞれが0である化合物がより好ましい。
【0048】
また、三核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、下記式(IV-A)又は(IV-B)で表されるコアを有する化合物であることが好ましい。各コアは、+4の実効電荷(net electrical charge)を有する。これらのコアは、アニオン性リガンド、及び必要に応じて存在するアニオン性リガンド以外のアニオンによって囲まれている。
【0049】
【0050】
三核モリブデン-硫黄化合物の形成には、例えば、コア中に存在する硫黄及びE原子数に依存して、適切なアニオン性リガンド(L)及び他のアニオン(A)を選択することが必要であること、即ち、硫黄原子、存在するならE原子、L及び存在するならAにより構成される全アニオン電荷が-4でなければならない。
三核モリブデン-硫黄化合物は、また、アニオン電荷が-4を超える場合、モリブデン以外のカチオン、例えば、(アルキル)アンモニウム、アミン又はナトリウムを含んでいてもよい。アニオン性リガンド(L)及び他のアニオン(A)の好ましい実施形態は、4個のモノアニオン性のリガンドを有する構成である。
モリブデン-硫黄コア、例えば、上記(IV-A)及び(IV-B)で表される構造体は、1又は2以上の多座リガンド、即ち、モリブデン原子に結合して、オリゴマーを形成することが可能な官能基を1つより多く有するリガンドにより相互接続(interconnect)させることができる。
【0051】
三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)中のモリブデン含有量は、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)の全量基準で、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上である。また、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは2.0質量%~9.0質量%、より好ましくは4.0質量%~7.0質量%、更に好ましくは5.0質量%~6.0質量%である。
【0052】
(モリブデンアミン錯体(B3))
モリブデンアミン錯体(B3)としては、例えば、6価のモリブデン化合物である三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等が挙げられる。
アミン化合物としては、好ましくは、アルキルアミン、ジアルキルアミン等が挙げられる。
6価のモリブデン化合物と反応させるアルキルアミン、ジアルキルアミンは特に制限されず、炭素数1~30のアルキル基を有するアルキルアミン、ジアルキルアミンが挙げられる。
【0053】
モリブデンアミン錯体(B3)中のモリブデン含有量は、モリブデンアミン錯体(B3)の全量基準で、好ましくは4.0質量%以上、より好ましくは6.0質量%以上、更に好ましくは7.0質量%以上である。また、好ましくは12.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましくは9.0質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは4.0質量%~12.0質量%、より好ましくは6.0質量%~10.0質量%、更に好ましくは7.0質量%~9.0質量%である。
【0054】
(モリブデン系摩擦調整剤(B)の含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、モリブデン系摩擦調整剤(B)の含有量は、摩擦低減作用を向上させる観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.30質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上、更に好ましくは0.70質量%以上である。また、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.30質量%~3.0質量%、より好ましくは0.50質量%~2.0質量%、更に好ましくは0.70質量%~1.0質量%である。
【0055】
本実施形態の潤滑油組成物において、モリブデン系摩擦調整剤(B)に由来するモリブデン含有量は、摩擦低減作用を向上させる観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.06質量%以上、更に好ましくは0.07質量%以上である。
また、モリブデン系摩擦調整剤(B)に由来するモリブデン原子の含有量は、硫酸灰分を少なくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.12質量%以下、より好ましくは0.11質量%以下、更に好ましくは0.10質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.05質量%~0.12質量%、より好ましくは0.06質量%~0.11質量%、更に好ましくは0.07質量%~0.10質量%である。
【0056】
(二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)と三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)との含有比率)
本実施形態において、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)と三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)との含有比率[(B1)/(B2)]は、摩擦低減作用を向上させる観点から、質量比で、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.5~7.0、更に好ましくは1.0~5.0である。
【0057】
(二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)とモリブデンアミン錯体(B3)との含有比率)
本実施形態において、二核のジチオカルバミン酸モリブデンとモリブデンアミン錯体との含有比率[(B1)/(B3)]は、摩擦低減作用を向上させる観点から、質量比で、好ましくは0.1~10、より好ましくは1.0~8.0、更に好ましくは2.0~6.0である。
【0058】
(二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)と三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)とに由来する酸価)
本実施形態の潤滑油組成物は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)と三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)とに由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であることを要する。
当該酸価が0.04mgKOH/g以上であると、潤滑油組成物の高温清浄性、酸化安定性、及び耐銅腐食性が悪化する恐れがある。
ここで、潤滑油組成物の酸化安定性、高温清浄性、及び耐銅腐食性のすべてをより向上させやすくする観点から、当該酸価は、好ましくは0.03mgKOH/g以下である。
なお、本明細書において、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)と三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)とに由来する酸価は、JIS K2501:2003(電位差滴定法)に準拠して測定した値を意味する。
【0059】
(モリブデン系摩擦調整剤(B)の好ましい態様)
モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含む。
したがって、モリブデン系摩擦調整剤(B)の組み合わせとしては、以下(1)~(4)の何れかの態様を含む。
(1)二核ジチオカルバミン酸モリブデン(B1)と三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)の組み合わせ
(2)二核ジチオカルバミン酸モリブデン(B1)とモリブデンアミン錯体(B3)の組み合わせ
(3)三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)とモリブデンアミン錯体(B3)の組み合わせ
(4)二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)の組み合わせ
これらの組み合わせの中でも、本発明の効果を発揮させやすくする観点から、二核ジチオカルバミン酸モリブデン(B1)を含む、(1)、(2)、又は(4)の組み合わせが好ましい。
【0060】
<金属系清浄剤(C)>
本実施形態の潤滑油組成物は、金属系清浄剤(C)を含有する。また、本実施形態において、金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含有する。
潤滑油組成物が金属系清浄剤(C)を含有しない場合、高温清浄性を十分に確保することができない。
【0061】
金属系清浄剤(C)としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子と硫黄原子とを含む有機酸金属塩化合物が挙げられる。
なお、本明細書において、「アルカリ金属」は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムを指す。
また、本明細書において、「アルカリ土類金属」としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムを指す。
金属系清浄剤(C)に含まれる金属原子としては、高温清浄性向上の観点から、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウム又はマグネシウムがより好ましい。
すなわち、金属系清浄剤(C)としては、ナトリウム系清浄剤、カルシウム系清浄剤、マグネシウム系清浄剤、及びバリウム系清浄剤からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、カルシウム系清浄剤及びマグネシウム系清浄剤からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0062】
ここで、硫黄原子を含む金属系清浄剤(C)としては、例えば、金属スルホネート及び金属フェネート等が挙げられ、好ましくは金属スルホネートが挙げられる。
金属スルホネートとしては、下記一般式(c-1)で表される化合物が好ましい。また、金属フェネートとしては、下記一般式(c-2)で表される化合物が好ましい。
【0063】
【0064】
上記一般式(c-1)~(c-2)中、Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子であり、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウム又はマグネシウムがより好ましい。
MEは、アルカリ土類金属であり、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウム又はマグネシウムがより好ましい。
qはMの価数であり、1又は2である。Rc1及びRc2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
Sは、硫黄原子を表す。
rは、1以上の整数であり、好ましくは1~3の整数である。
Rc1及びRc2として選択し得る炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、高温清浄性をより向上しやすく観点及び基油(A)への溶解性の観点から、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、マグネシウムスルホネート、及びマグネシウムフェネートからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、カルシウムスルホネート及びマグネシウムスルホネートからなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
なお、以降の説明では、硫黄原子を含むカルシウム系清浄剤を「カルシウム系清浄剤(C1)」ともいう。また、硫黄原子を含むマグネシウム系清浄剤を「マグネシウム系清浄剤(C2)」ともいう。
【0065】
金属系清浄剤(C)は、中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物のいずれであってもよいが、初期塩基価を所定の値以上に調整しやすくする観点、及び塩基価維持性をより向上させやすくする観点から、塩基性塩又は過塩基性塩が好ましく、過塩基性がより好ましい。
なお、本明細書では、塩基価が50mgKOH/g未満の金属系清浄剤を「中性」、塩基価が50mgKOH/g以上150mgKOH/g未満の金属系清浄剤を「塩基性」、塩基価が150mgKOH/g以上の金属系清浄剤を「過塩基性」と定義する。
金属系清浄剤(C)として過塩基性のものを用いる場合、金属系清浄剤(C)の塩基価は、好ましくは200mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、より好ましくは250mgKOH/g以上450mgKOH/g以下である。
本明細書において、金属系清浄剤(B)の塩基価は、JIS K2501:2003の9に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定した値を意味する。
【0066】
本実施形態において、金属系清浄剤(C)がカルシウム系清浄剤(C1)を含む場合、当該カルシウム系清浄剤(C1)の塩基価は、好ましくは200mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、より好ましくは250mgKOH/g以上450mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である。
金属系清浄剤(C)がカルシウム系清浄剤(C1)を含む場合、当該カルシウム系清浄剤(C1)は、カルシウムスルホネート及びカルシウムフェネートからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、カルシウムスルホネートであることがより好ましい。
【0067】
本実施形態において、金属系清浄剤(C)がマグネシウム系清浄剤(C2)を含む場合、当該マグネシウム系清浄剤の塩基価は、好ましくは200mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、より好ましくは250mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、更に好ましくは300mgKOH/g以上450mgKOH/g以下である。
金属系清浄剤(C)がマグネシウム系清浄剤(C2)を含む場合、当該マグネシウム系清浄剤(C2)は、マグネシウムスルホネート及びマグネシウムフェネートからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、マグネシウムスルホネートであることがより好ましい。
【0068】
本実施形態の潤滑油組成物において、金属系清浄剤(C)の含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%である。また、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より好ましくは0.5質量%~4.0質量%、更に好ましくは0.8質量%~3.0質量%である。
なお、金属系清浄剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上用いる場合の好適な合計含有量は、上記含有量と同じである。
【0069】
本実施形態の潤滑油組成物において、金属系清浄剤(C)がカルシウム系清浄剤(C1)を含む場合、カルシウム系清浄剤(C1)に由来するカルシウム含有量は、高温清浄性をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.11質量%以上である。
また、カルシウム系清浄剤(C1)に由来するカルシウム含有量は、硫酸灰分を少なくする観点及びLSPI(異常燃焼)防止の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、更に好ましくは、0.13質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.10質量%~0.20質量%、より好ましくは0.10質量%~0.15質量%、更に好ましくは0.11質量%~0.13質量%である。
【0070】
本実施形態の潤滑油組成物において、金属系清浄剤(C)がマグネシウム系清浄剤(C2)を含む場合、マグネシウム系清浄剤(C2)に由来するマグネシウム含有量は、高温清浄性をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上であり、更に好ましくは、0.05質量%以上である。
また、マグネシウム系清浄剤(C2)に由来するマグネシウム含有量は、硫酸灰分を少なくする観点及びLSPI(異常燃焼)防止の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは、0.07質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.03質量%~0.07質量%、より好ましくは0.04質量%~0.06質量%である。
【0071】
金属系清浄剤(C)中、カルシウム系清浄剤(C1)及びマグネシウム系清浄剤(C2)からなる群から選択される1種以上の金属系清浄剤の含有量は、金属系清浄剤(C)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%である。
【0072】
<無灰系分散剤(D)>
本実施形態の潤滑油組成物は、無灰系分散剤(D)を含有する。また、本実施形態において、無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含有する。
潤滑油組成物が無灰系分散剤(D)を含有しない場合、高温清浄性を十分に確保することができない。
【0073】
無灰系分散剤(D)としては、例えば、アルケニルコハク酸モノイミド及びアルキルコハク酸モノイミド等のコハク酸モノイミド;コハク酸モノイミドのホウ素変性体;アルケニルコハク酸ビスイミド及びアルキルコハク酸ビスイミド等のコハク酸ビスイミド;コハク酸ビスイミドのホウ素変性体からなる群から選択される1種以上の化合物が挙げられる。
これらの中でも、コハク酸モノイミド(非ホウ素変性体)及びコハク酸ビスイミド(非ホウ素変性体)からなる群から選択される1種以上が好ましく、コハク酸モノイミド(非ホウ素変性体)がより好ましい。
無灰系分散剤(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
アルケニルコハク酸モノイミド又はアルキルコハク酸モノイミドとしては、下記一般式(d1)で示される化合物が挙げられる。また、アルケニルコハク酸ビスイミド又はアルキルコハク酸ビスイミドとしては、下記一般式(d2)で示される化合物が挙げられる。
【0075】
【0076】
一般式(d1)及び(d2)において、Rd3、Rd5、及びRd6は、アルケニル基又はアルキル基であり、質量平均分子量(Mw)が、それぞれ、好ましくは500~3,000、より好ましくは1,000~3,000である。
Rd3、Rd5、及びRd6の質量平均分子量が500以上であると、基油(A)への溶解性を良好にできる。また、Rd3、Rd5、及びRd6の質量平均分子量が3,000以下であると、本発明の効果をより発揮させやすくすることができる。Rd5及びRd6は同一でも異なっていてもよい。
Rd4、Rd7、及びRd8は、それぞれ炭素数2~5のアルキレン基であり、Rd7及びRd8は同一でも異なっていてもよい。
n1は1~10の整数を示し、n2は0又は1~10の整数を示す。
ここで、n1は、好ましくは2~5、より好ましくは2~4である。n1が2以上であると、本発明の効果をより発揮させやすくすることができる。n1が5以下であると、基油(A)に対する溶解性がより一層良好となる。
また、n2は好ましくは1~6であり、より好ましくは2~6である。n2が1以上であると、本発明の効果をより発揮させやすくすることができる。n2が6以下であると、基油(A)に対する溶解性がより一層良好となる。
【0077】
Rd3、Rd5、及びRd6として選択され得るアルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体を挙げることができ、好ましくはポリブテニル基又はポリイソブテニル基を挙げることができる。ポリブテニル基は、1-ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものが好適に用いられる。
Rd3、Rd5、及びRd6として選択され得るアルキル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体等を水添したものを挙げることができ、好ましくはポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水添したものを挙げることができる。
【0078】
上記のアルケニルコハク酸イミド又はアルキルコハク酸イミドは、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。モノイミド又はビスイミドは、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの比率を変えることによって製造することが可能である。
上記のアルケニルコハク酸イミド又はアルキルコハク酸イミドコハク酸イミドは、ホウ素変性体であってもよい。当該ホウ素変性体は、例えば、ホウ素未含有のアルケニルコハク酸モノイミド又はアルキルコハク酸モノイミドや、アルケニルコハク酸ビスイミド又はアルキルコハク酸ビスイミドを、ホウ素化合物と反応させて製造することができる。ホウ素変性体としては、ルケニルコハク酸ビスイミド又はアルキルコハク酸ビスイミドのホウ素変性体が好ましい。
【0079】
ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、例えば、炭素数2~8のα-オレフィンから選択される1種以上を用いることができ、イソブテンと1-ブテンとの混合物を好適に用いることができる。
一方、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等の単一ジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン;アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体等を挙げることができる。
ポリアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、及びホウ酸エステル等が挙げられる。
ホウ酸としては、オルトホウ酸、メタホウ酸及びパラホウ酸等が挙げられる。
ホウ酸塩としては、メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム及び八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が挙げられる。
ホウ酸エステルとしては、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル及びホウ酸トリブチル等が挙げられる。
【0081】
本実施形態の潤滑油組成物において、無灰系分散剤に由来する窒素原子の含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上である。また、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、更に好ましくは0.07質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.01質量%~0.10質量%、より好ましくは0.02質量%~0.08質量%、更に好ましくは0.03質量%~0.07質量%である。
【0082】
<金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率>
本実施形態の潤滑油組成物は、金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]が、質量比で、0.30~0.85であることを要する。
[(CS)/(DN)]が0.30未満であると、酸化安定性及び高温清浄性に劣る潤滑油組成物となる。また、[(CS)/(DN)]が0.85超であると、耐銅腐食性及び高温清浄性に劣る潤滑油組成物となる。
ここで、酸化安定性、高温清浄性、及び耐銅腐食性のすべてをより向上させやすくする観点から、[(CS)/(DN)]は、好ましくは0.32以上、より好ましくは0.34以上、更に好ましくは0.35以上である。また、好ましくは0.83以下、より好ましくは0.81以下、更に好ましくは0.79以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.32~0.83、より好ましくは0.34~0.81、更に好ましくは0.35~0.79である。
【0083】
<金属不活化剤(E)>
本実施形態の潤滑油組成物は、耐銅腐食性をより向上させやすくする観点から、金属不活化剤(E)を含有することが好ましい。
金属不活性化剤(E)としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物は、これらの中でも、耐銅腐食性向上の観点から、ベンゾトリアゾール系化合物を含有することが好ましい。
【0084】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、従来、金属不活性化剤として用いられているベンゾトリアゾール系化合物から選択される1種以上を、特に制限なく使用することができる。
ここで、本実施形態において、耐銅腐食性向上の観点から、ベンゾトリアゾール系化合物は、下記一般式(e1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物(E1)を含むことが好ましい。
【化7】
【0085】
前記一般式(e1)中、Re1は、炭素数1~4のアルキル基である。当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。ここで、耐銅腐食性向上の観点から、当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1である。
前記一般式(e1)中、pは0~4の整数である。Re1が複数存在する場合(すなわち、pが2~4の整数である場合)、複数のRe1は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ここで、耐銅腐食性向上の観点から、pは、好ましくは0~3、より好ましくは0~2、更に好ましくは1である。
前記一般式(e1)中、Re2は、メチレン基又はエチレン基である。ここで、耐銅腐食性向上の観点から、Re2は、好ましくはメチレン基である。
前記一般式(e1)中、Re3及びRe4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基である。当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、分岐鎖状であることが好ましい。また、当該アルキル基の炭素数は、好ましくは2~14、より好ましくは4~12、更に好ましくは6~10である。
【0086】
金属不活性化剤(E)がベンゾトリアゾール系化合物(E1)を含む場合、ベンゾトリアゾール系化合物(E1)の含有量は、金属不活性化剤(E)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%である。
【0087】
本実施形態の潤滑油組成物において、金属不活化剤(E)の含有量は、摩擦低減作用をより向上させる観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下、更に好ましくは0.015質量%以下である。
また、ベンゾトリアゾール系化合物の含有量は、耐銅腐食性をより向上させやすくする観点から、好ましくは0.003質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.003質量%~0.03質量%、より好ましくは0.005質量%~0.02質量%、更に好ましくは0.005質量%~0.015質量%である。
【0088】
<その他成分>
本実施形態の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分以外のその他成分を含有してもよい。
その他成分としての添加剤としては、例えば、耐摩耗剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、極圧剤、防錆剤、消泡剤、抗乳化剤、モリブデン系摩擦調整剤(B)以外の他の摩擦調整剤、金属系清浄剤(C)以外の他の金属系清浄剤(C’)等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
(耐摩耗剤)
耐摩耗剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、リン酸亜鉛等の亜鉛含有化合物;ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等の硫黄及びリン含有耐摩耗剤などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
ここで、耐摩耗剤としては、リン原子を含む耐摩耗剤(以下、「リン系耐摩耗剤」ともいう)が好まし。また、リン系耐摩耗剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が好ましい。
【0091】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)としては、下記一般式(f-1)で表される化合物が好ましく挙げられる。
【化8】
【0092】
一般式(f-1)中、Rf1~Rf4は、各々独立に炭化水素基を示す。炭化水素基としては、1価の炭化水素基であれば特に制限はなく、例えば、酸化安定性を向上させる観点から、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等が好ましく挙げられ、アルキル基がより好ましい。
Rf1~Rf4のアルキル基、アルケニル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
また、酸化安定性をより向上させる観点から、Rf1~Rf4の炭化水素基の炭素数としては、1価の炭化水素基がアルキル基の場合、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、上限として好ましくは24以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは12以下である。1価の炭化水素がアルケニル基の場合、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、上限として好ましくは24以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは12以下である。
Rf1~Rf4のシクロアルキル基、アリール基は、例えばデカリル基、ナフチル基等の多環式の基であってもよい。Rf1~Rf4の炭化水素基の炭素数としては、1価の炭化水素がシクロアルキル基の場合、炭素数は好ましくは5以上、上限として好ましくは20以下であり、1価の炭化水素がアリール基の場合、炭素数は好ましくは6以上、上限として好ましくは20以下である。
また、1価の炭化水素基は、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基等の酸素原子及び/又は窒素原子を含む基により一部が置換されていてもよく、また窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子等により一部が置換されたものであってもよく、1価の炭化水素基がシクロアルキル基、アリール基の場合は更にアルキル基、アルケニル基等の置換基を有していてもよい。
【0093】
本実施形態の潤滑油組成物がリン系耐摩耗剤を含有する場合、リン系耐摩耗剤に由来するリン含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.04質量%超0.10質量%以下、より好ましくは0.05質量%~0.09質量%、更に好ましくは0.06質量%~0.08質量%である。
【0094】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有する置換フェニル-α-ナフチルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有する置換フェニル-β-ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)等のジフェノール系酸化防止剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリ(メタ)アクリレート、分散型ポリ(メタ)アクリレート、櫛形ポリマー、星形ポリマー、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
粘度指数向上剤の質量平均分子量(Mw)としては、好ましくは10万~100万、より好ましくは20万~80万、更に好ましくは25万~75万である。
粘度指数向上剤の分子量分布(Mw/Mn)としては、好ましくは5.00以下、より好ましくは4.00以下、更に好ましくは3.00以下であり、また、通常1.01以上である。
粘度指数向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート系(PMA系;ポリアルキル(メタ)アクリレート等)、ポリビニルアセテート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、ポリメタクリレート系が好ましく用いられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
(極圧剤)
極圧剤としては、例えば、スルフィド類、スルフォキシド類、スルフォン類、チオホスフィネート類等の硫黄系極圧剤、塩素化炭化水素等のハロゲン系極圧剤、有機金属系極圧剤等が挙げられる。また、上述の耐摩耗剤の内、極圧剤としての機能を有する化合物を用いることもできる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
(抗乳化剤)
抗乳化剤としては、例えば、ひまし油の硫酸エステル塩、石油スルフォン酸塩等のアニオン性界面活性剤;第四級アンモニウム塩、イミダゾリン類等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤;ポリオキシアルキレンポリグリコール及びそのジカルボン酸のエステル;アルキルフェノール-ホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物;等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
(モリブデン系摩擦調整剤(B)以外の摩擦調整剤)
本実施形態の潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦調整剤(B)以外の摩擦調整剤を含んでもよい。
モリブデン系摩擦調整剤(B)以外の摩擦調整剤としては、例えば、脂肪族アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰系摩擦調整剤;油脂類、アミン、アミド、硫化エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
(金属系清浄剤(C)以外の金属系清浄剤(C’))
本実施形態の潤滑油組成物は、金属系清浄剤(C)以外の金属系清浄剤(C’)を含んでいてもよい。
金属系清浄剤(C’)としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子を含み、硫黄原子を含まない有機酸金属塩化合物が挙げられる。
このような化合物としては、金属サリシレート等が挙げられる。
金属系清浄剤(C’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
(その他成分の含有量)
上述した前記その他成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜調整することができるが、その各々について、潤滑油組成物の全量基準で、通常は0.001質量%~15質量%であり、0.005質量%~10質量%が好ましい。
なお、本明細書において、前記その他の成分としての添加剤は、ハンドリング性、基油(A)への溶解性等を考慮し、上述の基油(A)の一部に希釈し溶解させた溶液の形態で、他の成分と配合してもよい。このような場合、本明細書においては、前記その他の成分としての添加剤の上述の含有量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量を意味する。
【0104】
なお、本実施形態の潤滑油組成物は、無灰系摩擦調整剤を配合せずとも、30℃の温度領域においても摩擦低減作用が発揮される。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物は、無灰系摩擦調整剤の含有量が少なくてもよい。具体的には、無灰系摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは無灰系摩擦調整剤を含有しないことである。
【0105】
[潤滑油組成物の物性等]
<動粘度、粘度指数>
本実施形態にかかる潤滑油組成物は、燃費改善効果の観点から、100℃動粘度が、好ましくは12.5mm2/s以下、より好ましくは9.3mm2/s以下、更に好ましくは9.0mm2/s以下である。
また、潤滑油組成物の蒸発損失を抑制しやすくする観点から、好ましくは5.0mm2/s以上、より好ましくは6.1mm2/s以上、更に好ましくは6.9mm2/s以上である。
本実施形態にかかる潤滑油組成物は、粘度指数が、好ましくは150以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは220以上である。
【0106】
<150℃におけるHTHS粘度>
本実施形態にかかる潤滑油組成物は、油膜保持性の観点から、150℃におけるHTHS粘度(高温高せん断粘度)が、好ましくは1.7mPa・s以上、より好ましくは2.0mPa・s以上、更に好ましくは2.3mPa・s以上である。また、本実施形態にかかる潤滑油組成物は、省燃費性向上の観点から、150℃におけるHTHS粘度が、好ましくは2.9mPa・s未満、より好ましくは2.6mPa・s以下である。
本明細書において、潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、ASTM D4683に準拠し、TBS高温粘度計(Tapered Bearing Simulator Viscometer)を用いて、150℃の温度条件下、せん断速度106/sにて測定した値である。
【0107】
<-35℃におけるCCS粘度>
本実施形態の潤滑油組成物は、良好な低温粘度特性を得る観点から、-35℃におけるCCS粘度が、好ましくは6,200mPa・s以下、より好ましくは6,000mPa・s以下である。
本明細書において、潤滑油組成物の-35℃におけるCCS粘度は、JIS K2010:1993に準拠して測定した値である。
【0108】
<各種原子含有量>
本実施形態の潤滑油組成物の各種原子含有量は、以下に説明するとおりである。
なお、本明細書において、潤滑油組成物のモリブデン含有量、ホウ素含有量、カルシウム含有量、マグネシウム含有量、リン含有量、及び硫黄含有量は、JIS-5S-38-03に準拠して測定される値である。
また、潤滑油組成物の窒素含有量は、JIS K2609:1998に準拠して、化学発光法により測定される値である。
【0109】
(硫黄含有量)
本実施形態の潤滑油組成物は、硫黄含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.35質量%以下であることが好ましい。
硫黄含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.35質量%以下である場合、潤滑油組成物の耐銅腐食性、酸化安定性を良好なものとしやすい。
潤滑油組成物の硫黄含有量は、モリブデン系摩擦調整剤(B)及び金属系清浄剤(C)等の、硫黄原子を含む添加剤の含有量を調整することによって、調整することができる。
ここで、耐銅腐食性、酸化安定性をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物中の硫黄含有量は、好ましくは0.33質量%以下、より好ましくは0.31質量%以下、更に好ましくは0.30質量%以下である。また、好ましくは0.25質量%以上である。
【0110】
(リン含有量)
本実施形態の潤滑油組成物は、リン含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満であることを要する。
潤滑油組成物のリン含有量が0.04質量%以下である場合、潤滑油組成物の酸化安定性を良好なものとできない。また、潤滑油組成物のリン含有量が0.10質量%以上である場合、高温清浄性を良好なものとできない。
潤滑油組成物のリン含有量は、リン系耐摩耗剤(好ましくはジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP))等のリン原子を含む添加剤の含有量を調整することによって、調整することができる。
ここで、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物中のリン含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.06質量%以上である。また、好ましくは0.09質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.05質量%~0.09質量%、より好ましくは0.06質量%~0.08質量%である。
【0111】
(モリブデン含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、モリブデン含有量は、摩擦低減作用を向上させる観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.06質量%以上、更に好ましくは0.07質量%以上である。
また、モリブデン原子の含有量は、硫酸灰分を少なくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.12質量%以下、より好ましくは0.11質量%以下、更に好ましくは0.10質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.05質量%~0.12質量%、より好ましくは0.06質量%~0.11質量%、更に好ましくは0.07質量%~0.10質量%である。
【0112】
(カルシウム含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、カルシウム含有量は、高温清浄性をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.11質量%以上である。
また、カルシウム含有量は、硫酸灰分を少なくする観点及びLSPI(異常燃焼)防止の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、更に好ましくは、0.13質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.10質量%~0.20質量%、より好ましくは0.10質量%~0.15質量%、更に好ましくは0.11質量%~0.13質量%である。
【0113】
(マグネシウム含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、マグネシウム含有量は、高温清浄性をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上である。
また、マグネシウム含有量は、硫酸灰分を少なくする観点及びLSPI(異常燃焼)防止の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.07質量%以下、より好ましくは0.06質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.03質量%~0.07質量%、より好ましくは0.04質量%~0.06質量%である。
【0114】
(窒素含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、窒素含有量は、高温清浄分散性をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.08質量%以上である。また、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.18質量%以下、更に好ましくは0.15質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.03質量%~0.20質量%、より好ましくは0.05質量%~0.18質量%、更に好ましくは0.08質量%~0.15質量%である
【0115】
(ホウ素含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、ホウ素含有量は、高温清浄分散性をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.0010質量%~0.10質量%、より好ましくは0.0030質量%~0.080質量%、更に好ましくは0.0050質量%~0.050質量%である。
【0116】
<ISOT試験後の酸価上昇率>
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する実施例に記載の方法で実施したISOT試験(165.5℃、72時間)後の酸価上昇率が、好ましくは55%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下である。
【0117】
<ISOT試験後の塩基価上昇率>
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する実施例に記載の方法で実施したISOT試験(165.5℃、72時間)後の塩基価減少率が、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下である。
【0118】
<ISOT試験後の銅溶出量>
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する実施例に記載の方法で実施したISOT試験(165.5℃、72時間)後の銅溶出量が、好ましくは130質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは80質量ppm以下である。
【0119】
<ホットチューブ試験における評点>
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する実施例に記載の方法で実施したホットチューブ試験(280℃)における評点が、、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上である。
【0120】
[潤滑油組成物の製造方法]
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを混合する工程を含む。
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含む。
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含む。
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含む。
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満である。
そして、前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]が、質量比で、0.30~0.85となるように調整され、リン含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満となるように調整される。
当該製造方法は、必要に応じ、その他成分から選択される1種以上を配合する工程を更に含んでいてもよい。
各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、基油(A)に、各成分(成分(B)、成分(C)、及び成分(D)、さらにはその他成分から選択される1種以上)を配合する方法が挙げられる。また、各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【0121】
[潤滑油組成物の用途]
本実施形態の潤滑油組成物は、優れた摩擦低減作用を発揮しながらも、高温清浄性、酸化安定性、及び耐銅腐食性に優れる。
そのため、本実施形態の潤滑油組成物は、好ましくは内燃機関に用いられ、より好ましくは自動車用エンジンに用いられ、更に好ましくはガソリンエンジンに用いられる。
また、本実施形態の潤滑油組成物は、30℃の温度環境下においても優れた摩擦低減作用を発揮する。したがって、ハイブリッド機構を搭載した自動車のエンジン、アイドリングストップ機構を搭載した自動車のエンジンにも好適に用いられる。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物は、下記(1)~(5)を提供する。
(1)本実施形態の潤滑油組成物を、内燃機関に用いる、使用方法。
(2)本実施形態の潤滑油組成物を、自動車エンジンに用いる、使用方法。
(3)本実施形態の潤滑油組成物を、ガソリンエンジンに用いる、使用方法。
(4)本実施形態の潤滑油組成物を、ハイブリッド機構を搭載した自動車のエンジンに用いる、使用方法。
(5)本実施形態の潤滑油組成物を、アイドリングストップ機構を搭載した自動車のエンジンに用いる、使用方法。
【0122】
[潤滑油組成物を用いた潤滑方法]
潤滑油組成物の用途について説明したように、本実施形態の潤滑油組成物は、好ましくは内燃機関に用いられ、より好ましくは自動車用エンジンに用いられ、更に好ましくはガソリンエンジンに用いられる。また、本実施形態の潤滑油組成物は、30℃の温度環境下においても優れた摩擦低減作用を発揮する。したがって、ハイブリッド機構を搭載した自動車のエンジン、アイドリングストップ機構を搭載した自動車のエンジンにも好適に用いられる。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物は、下記下記(6)~(10)を提供する。
(6)本実施形態の潤滑油組成物を用いる、内燃機関の潤滑方法。
(7)本実施形態の潤滑油組成物を用いる、自動車エンジンの潤滑方法。
(8)本実施形態の潤滑油組成物を用いる、ガソリンエンジンの潤滑方法。
(9)本実施形態の潤滑油組成物を用いる、ハイブリッド機構を搭載した自動車のエンジンの潤滑方法。
(10)本実施形態の潤滑油組成物を用いる、アイドリングストップ機構を搭載した自動車のエンジンの潤滑方法。
【0123】
[潤滑油組成物を含む内燃機関]
他の実施形態としては、本実施形態の潤滑油組成物を含む内燃機関が挙げられ、好ましくは本実施形態の潤滑油組成物をエンジン油として含む内燃機関(エンジン)が挙げられる。当該内燃機関としては、例えば、自動車エンジン、好ましくはガソリンエンジン等が挙げられる。また、ハイブリッド機構を搭載した自動車のエンジン、アイドリングストップ機構を搭載した自動車のエンジンも好ましく挙げられる。
【0124】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[15]が提供される。
[1]基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを含有する潤滑油組成物であって、
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含み、
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含み、
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含み、
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であり、
前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(C
S)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(D
N)との含有比率[(C
S)/(D
N)]が、質量比で、0.30~0.85であり、
リン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満である、潤滑油組成物。
[2]硫黄含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.35質量%以下である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]リン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.06質量%~0.08質量%である、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]モリブデン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%~0.12質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[5]前記金属系清浄剤(C)が、カルシウム系清浄剤(C1)及びマグネシウム系清浄剤(C2)からなる群から選択される1種以上を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6]前記金属系清浄剤(C)が、前記カルシウム系清浄剤(C1)を含み、
カルシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.10質量%~0.20質量%である、上記[5]に記載の潤滑油組成物。
[7]前記金属系清浄剤(C)が、前記マグネシウム系清浄剤(C2)を含み、
マグネシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.03質量%~0.07質量%である、上記[5]に記載の潤滑油組成物。
[8]前記金属系清浄剤(C)が、前記カルシウム系清浄剤(C1)及び前記マグネシウム系清浄剤(C2)を含み、
カルシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.10質量%~0.20質量%であり、
マグネシウム含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.03質量%~0.07質量%である、上記[5]に記載の潤滑油組成物。
[9]前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)は、下記一般式(b1-3)で表される化合物である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【化9】
[前記一般式(b1-3)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、各々独立に、炭素数4~12の脂肪族炭化水素基である短鎖置換基群(α)又は炭素数13~22の脂肪族炭化水素基である長鎖置換基群(β)を示す。但し、前記化合物(B1)の全分子中における前記短鎖置換基群(α)と前記長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]は、0.10~1.2である。また、前記一般式(b1-3)中、X1、X2、X3、及びX4は、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を示す。]
[10]さらに、金属不活性化剤(E)を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[11]無灰系摩擦調整剤の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1質量%未満である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[12]内燃機関に用いられる、上記[1]~[11]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[13]上記[1]~[11]のいずれかに記載の潤滑油組成物を含む、内燃機関。
[14]上記[1]~[11]のいずれかに記載の潤滑油組成物を用いる、内燃機関の潤滑方法。
[15]基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを混合する工程を含み、
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)は、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含み、
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含み、
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含み、
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であり、
前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(C
S)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(D
N)との含有比率[(C
S)/(D
N)]が、質量比で、0.30~0.85となるように調整され、
リン含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満となるように調整される、潤滑油組成物の製造方法。
【実施例】
【0125】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0126】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の潤滑油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
【0127】
(1)動粘度、粘度指数
基油及び潤滑油組成物の40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出した。
【0128】
(2)-35℃におけるCCS粘度
潤滑油組成物の-35℃におけるCCS粘度は、JIS K2010:1993に準拠して測定した。
【0129】
(3)150℃におけるHTHS粘度
潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、ASTM D4683に準拠し、TBS高温粘度計(Tapered Bearing Simulator Viscometer)を用いて、150℃の温度条件下、せん断速度106/sにて測定した。
【0130】
(4)潤滑油組成物の酸価
潤滑油組成物の酸価は、JIS K2501:2003(電位差滴定法)に準拠して測定した。
【0131】
(5)潤滑油組成物の塩基価
潤滑油組成物の塩基価は、JIS K2501:2003の9に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定した。
【0132】
(6)モリブデン含有量、ホウ素含有量、カルシウム含有量、マグネシウム含有量、リン含有量、及び硫黄含有量
潤滑油組成物のモリブデン含有量、ホウ素含有量、カルシウム含有量、マグネシウム含有量、リン含有量、及び硫黄含有量は、JIS-5S-38-03に準拠して測定した。
【0133】
(7)窒素含有量
潤滑油組成物の窒素含有量は、JIS K2609:1998に準拠して、化学発光法により測定した。
【0134】
(8)金属系清浄剤の塩基価
金属系清浄剤の塩基価は、JIS K2501:2003の9に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定した。
【0135】
(9)二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価
二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価は、JIS K2501:2003(電位差滴定法)に準拠して測定した。
詳細には、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)に由来する酸価と、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価とを、JIS K2501:2003(電位差滴定法)に準拠して各々測定し、各々の含有量を考慮して、酸価を計算した。
【0136】
(10)質量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)
Waters社製の「1515アイソクラティックHPLCポンプ」、「2414示差屈折率(RI)検出器」に、東ソー社製のカラム「TSKguardcolumn SuperHZ-L」を1本、及び「TSKSuperMultipore HZ-M」を2本、上流側からこの順で取り付け、測定温度:40℃、移動相:テトラヒドロフラン、流速:0.35mL/分、試料濃度1.0mg/mLの条件で測定し、標準ポリスチレン換算にて求めた。
【0137】
[実施例1~6、比較例1~7]
以下に示す各成分を、表1に示す含有量で加えて十分に混合し、潤滑油組成物を得た。
実施例1~6及び比較例1~7で用いた各成分の詳細は、以下に示すとおりである。
【0138】
<基油(A)>
「鉱油」
APIカテゴリーでの分類:グループIII、100℃動粘度:4.3mm2/s、粘度指数:123
【0139】
<モリブデン系摩擦調整剤(B)>
・「二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)-1」
二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)-1(以下、「二核MoDTC(B1)-1」ともいう)は、一般式(b1-3)中、短鎖置換基群(α)が実質的に存在せず、実質的には長鎖置換基群(β)からなり、当該長鎖置換基群(β)の脂肪族炭化水素基の炭素数が13である化合物である。一般式(b1-3)中、X1、X2、X3、及びX4は、硫黄原子である。
・「二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)-2」
二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)-2(以下、「二核MoDTC(B1)-2」ともいう)は、一般式(b1-3)中、短鎖置換基群(α)の脂肪族炭化水素基の炭素数が8であり、長鎖置換基群(β)の脂肪族炭化水素基の炭素数が13である化合物である。一般式(b1-3)中、X1、X2、X3、及びX4は、硫黄原子である。MoDTC-1の全分子中における短鎖置換基群(α)と長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]は、1.0である。
・「三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)」
三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)(以下、「三核MoDTC(B2)」ともいう)として、モリブデン原子含有量:5.3質量%の三核ジチオカルバミン酸モリブデンを用いた。
・「モリブデンアミン錯体(B3)」
モリブデンアミン錯体(B3)として、モリブデン酸ジアルキルアミン(モリブデン含有量:7.9質量%)を用いた。
【0140】
なお、実施例3~5、比較例4~7において、二核MoDTC(B1)-1及び二核MoDTC(B1)-2の全分子中における短鎖置換基群(α)と長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]は、0.48である。
また、比較例3において、二核MoDTC(B1)-1及び二核MoDTC(B1)-2の全分子中における短鎖置換基群(α)と長鎖置換基群(β)とのモル比[(α)/(β)]は0.31である。
【0141】
<金属系清浄剤(C)>
「カルシウムスルホネート」
塩基価:300mgKOH/g、カルシウム含有量:11.7質量%
「マグネシウムスルホネート1」
塩基価:400mgKOH/g、マグネシウム含有量:9.5質量%
「マグネシウムスルホネート2」
塩基価:400mgKOH/g、マグネシウム含有量:9.7質量%
<金属系清浄剤(C’)>
「カルシウムサリシレート」
塩基価:230mgKOH/g、カルシウム含有量:8.0質量%
【0142】
<無灰系分散剤(D)>
「非ホウ素変性ポリブテニルコハク酸モノイミド1」
窒素含有量:1.4質量%
「非ホウ素変性ポリブテニルコハク酸モノイミド2」
窒素含有量:1.0質量%
「ホウ素変性ポリブテニルコハク酸ビスイミド1」
ホウ素含有量:2.2質量%、窒素含有量:1.2質量%
「ホウ素変性ポリブテニルコハク酸ビスイミド2」
ホウ素含有量:1.4質量%、窒素含有量:1.3質量%
【0143】
<金属不活性化剤(E)>
金属不活性化剤として、ベンゾトリアゾール系化合物である、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチル-1H-ベンゾトリアゾールを用いた。
【化10】
1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチル-1H-ベンゾトリアゾールは、一般式(e1)中、R
e1が、メチル基であり、pが1であり、R
e2が、メチレン基であり、R
e3及びR
e4が、2-エチルヘキシル基である化合物である。
【0144】
<その他添加剤>
(粘度指数向上剤)
「非分散型ポリメタクリレート」
質量平均分子量(Mw):40万、分子量分布(Mw/Mn):1.7
「スチレン-イソプレン共重合体」
質量平均分子量(Mw):60万、分子量分布(Mw/Mn):1.1
【0145】
(ジアルキルチオリン酸亜鉛(ZnDTP))
リン含有量:6.7質量%、亜鉛含有量:7.4質量%
【0146】
(その他)
・アミン系酸化防止剤(ジフェニルアミン)
・フェノール系酸化防止剤
・流動点降下剤
・無灰系摩擦調整剤(グリセリンモノオレエート)
【0147】
[評価方法]
以下に説明する試験を実施し、酸化安定性、高温清浄性、耐銅腐食性、及び摩擦係数の低減について評価した。
【0148】
<ISOT試験>
試験油(調製した潤滑油組成物)に触媒として銅片と鉄片を入れ、JIS K2514-1:2013に準拠するISOT試験を実施して、試験油を強制劣化させた。試験温度は165.5℃とした。ISOT試験開始から72時間後の試験油について、酸価及び塩基価を測定した。
そして、下記式(I)により、ISOT試験前の潤滑油組成物の酸価に対するISOT試験後の潤滑油組成物の酸価の上昇率(ANi)(以下、単に「酸価の上昇率(ANi)」ともいう)を計算した。
(ANi)=[(ANn)-(AN0)]/(AN0)×100 ・・・(I)
上記式(I)中、ANnはISOT試験後の潤滑油組成物の酸価であり、AN0はISOT試験前の潤滑油組成物の酸価である。
酸価の上昇率(ANi)が小さい潤滑油組成物ほど、酸化安定性に優れる潤滑油組成物であるといえる。
本実施例では、酸価の上昇率(ANi)が55%以下である潤滑油組成物を合格とした。
【0149】
また、下記式(II)により、ISOT試験前の潤滑油組成物の塩基価に対するISOT試験後の潤滑油組成物の塩基価の減少率(TBNd)(以下、単に「塩基価の減少率(TBNd)」ともいう)を計算した。
(TBNd)=[(TBN0)-(TBNn)]/(TBN0)×100 ・・・(II)
上記式(II)中、TBNnはISOT試験後の潤滑油組成物の塩基価であり、TBN0はISOT試験前の潤滑油組成物の塩基価である。
塩基価の減少率(TBNd)が小さい潤滑油組成物ほど、高温清浄性に優れる潤滑油組成物であるといえる。
本実施例では、塩基価の減少率(TBNd)が35%以下である潤滑油組成物を合格とした。
【0150】
<ISOT試験後の銅溶出評価>
上記ISOT試験により強制劣化させた試験油の銅濃度を、JPI-5S-44-11に準拠して測定し、これをISOT試験後の銅溶出量とした。
ISOT試験後の銅溶出量が小さいほど、耐銅腐食性に優れる潤滑油組成物であるといえる。
本実施例では、ISOT試験後の銅溶出量が、130質量ppm以下である潤滑油組成物を合格とした。
【0151】
<ホットチューブ試験>
試験油(調製した潤滑油組成物)に対し、JPI-5S-55-99に準拠し、試験温度280℃でホットチューブ試験を実施した。
試験後の評点はJPI-5S-55-99に準拠してテストチューブに付着したラッカーを0点(黒色)~10点(無色)の11段階にて評価した。
評点は、数字が大きいほど堆積物が少なく清浄性が良好であることを示す。
本実施例では、評点5.5点超である潤滑油組成物を合格とした。
【0152】
<SRV試験>
SRV試験機(Optimol社製)を用い、下記の条件にて、調製した潤滑油組成物を使用した際の摩擦係数を測定した。
・シリンダ:AISI52100
・ディスク:AISI52100
・振動数:50Hz
・振幅:1.5mm
・荷重:400N
・温度:30℃
・試験時間:20分間(摩擦係数は最後の1分間の平均を採用)
【0153】
そして、「各潤滑油組成物の摩擦係数と比較例1の潤滑油組成物の摩擦係数との差」を、「比較例1の潤滑油組成物の摩擦係数」で割ることにより、各潤滑油組成物の摩擦係数について、比較例1の摩擦係数からの低減率(%)を算出した。
比較例1の摩擦係数からの低減率が大きいほど、摩擦係数の低減効果に優れることを意味する。
本実施例では、比較例1の摩擦係数からの低減率が10%以上である潤滑油組成物を合格とした。
【0154】
結果を表1に示す。
【0155】
【0156】
まず、表1に示す結果のうち、モリブデン系摩擦調整剤(B)を1種単独で含有する比較例1と、モリブデン系摩擦調整剤(B)を複数含有する比較例2~7とを比較すると、モリブデン系摩擦調整剤(B)を複数含有する比較例2~7では、摩擦係数が低下している一方で、酸化安定性、高温清浄性、及び耐銅腐食性の少なくともいずれか1つが劣ることがわかる。
【0157】
そして、表1に示す結果から、以下のことがわかる。
複数種のモリブデン系摩擦調整剤(B)を含有する実施例1~6の潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦調整剤(B)を1種単独で含有する比較例1と比べて摩擦係数が低下しており、しかも、酸化安定性、高温清浄性、及び耐銅腐食性にも優れることがわかる。
これに対し、比較例2及び3の潤滑油組成物のように、二核のジチオカルバミン酸モリブデン及び三核のジチオカルバミン酸モリブデンに由来する酸価が、0.04mgKOH/g以上であると、摩擦係数低減効果、酸化安定性向上効果、高温清浄性向上効果、及び耐銅腐食性向上効果のうちの少なくともいずれかが奏されないことがわかる。
比較例4の潤滑油組成物のように、金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]が0.30未満であると、酸化安定性及び高温清浄性に劣ることがわかる。
比較例5の潤滑油組成物のように、金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]が0.85超であると、高温清浄性及び耐銅腐食性に劣ることがわかる。
比較例6の潤滑油組成物のように、リン含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%以下であると、酸化安定性が劣ることがわかる。
比較例7の潤滑油組成物のように、リン含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.10質量%以上であると、高温清浄性が劣ることがわかる。
【要約】
複数種のモリブデン系摩擦調整剤を組み合わせることで、優れた摩擦低減作用を発揮しながらも、高温清浄性、酸化安定性、及び耐銅腐食性に優れる潤滑油組成物を提供することを課題とした。そして、当該課題を、基油(A)と、モリブデン系摩擦調整剤(B)と、金属系清浄剤(C)と、無灰系分散剤(D)とを含有する潤滑油組成物であって、
前記モリブデン系摩擦調整剤(B)が、二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)、三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)、及びモリブデンアミン錯体(B3)からなる群から選択される2種以上を含み、
前記金属系清浄剤(C)は、硫黄原子を含み、
前記無灰系分散剤(D)は、窒素原子を含み、
前記二核のジチオカルバミン酸モリブデン(B1)及び三核のジチオカルバミン酸モリブデン(B2)に由来する酸価が、0.04mgKOH/g未満であり、
前記金属系清浄剤(C)由来の硫黄分(CS)と、前記無灰系分散剤(D)由来の窒素分(DN)との含有比率[(CS)/(DN)]が、質量比で、0.30~0.85であり、
リン含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.04質量%超0.10質量%未満である、潤滑油組成物とすることで解決した。