(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】過活動膀胱の予防剤または治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20220729BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20220729BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K31/197
A61P13/10
(21)【出願番号】P 2019522127
(86)(22)【出願日】2018-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2018019482
(87)【国際公開番号】W WO2018221291
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017107367
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 究
(72)【発明者】
【氏名】井上 啓史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 源顕
(72)【発明者】
【氏名】津田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】福原 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】久野 貴平
(72)【発明者】
【氏名】清水 翔吾
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/050179(WO,A1)
【文献】特開2008-255059(JP,A)
【文献】特表平11-501914(JP,A)
【文献】特開2013-216593(JP,A)
【文献】International Immunopharmacology,2014年,Vol.19, No.2,p.300-307
【文献】BJU International,2000年,Vol.85, No.6,p.747-753
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過活動膀胱の予防または治療における使用のための医薬組成物であって、
下記式(I)で示される化合物
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
、及び、
鉄を含有する化合物
を含む、
医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
前記過活動膀胱は、頻尿の症状を呈する過活動膀胱であることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医薬組成物であって、
R
1が、水素原子、炭素数
2~8のアルカノイル基、及び、炭素数7~14のアロイル基からなる群から選択され、
R
2が、水素原子、直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び、炭素数7~15のアラルキル基からなる群から選択される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項4】
請求項3記載の医薬組成物であって、
R
1およびR
2が、水素原子であることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項5】
請求項
1に記載の医薬組成物であって、
前記鉄を含有する化合物が、クエン酸第一鉄ナトリウムであることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項6】
過活動膀胱の予防剤または治療剤の製造のための、
下記式(I)で示される化合物
【化2】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
、及び、
鉄を含有する化合物
の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過活動膀胱を予防または治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
過活動膀胱は、尿意切迫感を必須症状とし、夜間頻尿や頻尿を伴うことがある症状症候群である。ここで、尿意切迫感とは、「突然起こる、我慢できないような強い尿意であり通常の尿意との相違の説明が困難なもの」であるが、その病態生理や発症機序は解明されていない。また、過活動膀胱は、40歳以上の男女の8人に1人がその症状をもっていることが知られている。
【0003】
過活動膀胱の治療剤としては、塩酸プロピベリンおよび塩酸オキシブチニン等の抗コリン剤が主に用いられている。抗コリン剤は、副交感神経を亢進させるアセチルコリンの作用を阻害し、その結果排尿促進が阻害される。また近年、抗コリン剤とは異なる作用機序の過活動膀胱の治療剤として、β3アドレナリン受容体作動剤が用いられることもある(特許文献1)。β3アドレナリン受容体作動剤は、前記抗コリン剤とは逆に、膀胱に存在するβ3アドレナリン受容体、ひいては交感神経を亢進させるものとして知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記抗コリン剤には、排出障害、口渇等の副作用が報告されている。また、β3アドレナリン受容体作動剤に関しても、口渇、便秘、発疹、しん麻疹などが主な副作用として報告されている。このため、過活動膀胱患者のQOL向上を考慮し、副作用のない過活動膀胱の予防・改善剤の製剤が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、副作用のない過活動膀胱の予防・改善剤となり得る化合物について鋭意探索を行ったところ、驚くべきことに、5-アミノレブリン酸類(本願明細書において、「ALA類」ともいう)が過活動膀胱の改善作用を有することを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0007】
5-アミノレブリン酸(本願明細書において、「ALA」ともいう)は動物や植物や菌類に広く存在する、生体内に含まれる天然アミノ酸の一種である。ALAは生体に対して高い安全性を備えることが知られており、光動力学的治療における光増感剤、植物成長調節剤、除草剤、魚類病原性微生物、寄生虫の感染治療、豚成育促進剤等への用途が知られている。しかし、ALAの過活動膀胱に対する作用については、これまで全く知られていない。
【0008】
すなわち、本発明は、一実施形態において、過活動膀胱の予防または治療における使用のための医薬組成物であって、
下記式(I)で示される化合物
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
を含む、
医薬組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、一実施形態において、前記過活動膀胱が、頻尿の症状を呈する過活動膀胱であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、一実施形態において、R1が、水素原子、炭素数1~8のアルカノイル基、及び、炭素数7~14のアロイル基からなる群から選択され、R2が、水素原子、直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び、炭素数7~15のアラルキル基からなる群から選択されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、一実施形態において、R1およびR2が、水素原子であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、一実施形態において、一種または二種以上の金属含有化合物をさらに含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、一実施形態において、金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデンまたはコバルトを含有する化合物であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、一実施形態において、金属含有化合物が、鉄、マグネシウムまたは亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、一実施形態において、金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、一実施形態において、前記鉄を含有する化合物が、クエン酸第一鉄ナトリウムであることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の実施形態は、過活動膀胱の予防剤または治療剤の製造のための、
下記式(I)で示される化合物
【化2】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
の使用、に関する。
【0018】
本発明の他の実施態様は、過活動膀胱を予防または治療する方法であって、
治療上有効量の、下記式(I)で示される化合物
【化3】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
を対象へ投与するステップ、を含む、
方法に関する。
【0019】
なお、上記に述べた本発明の一又は複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、コントロール群および各実験群における1回排尿量を示すグラフである。
【
図2】
図2は、コントロール群および各実験群における24時間排尿量を示すグラフである。
【
図3】
図3は、コントロール群および各実験群における24時間飲水量を示すグラフである。
【
図4】
図4は、コントロール群および各実験群における排尿筋の活動状態を示すグラフである。
【
図5】
図5は、コントロール群および各実験群における排尿間隔(秒)を比較したグラフである。
【
図6】
図6は、コントロール群および各実験群における膀胱血流量を比較したグラフである。
【
図7】
図7は、コントロール群および各実験群の膀胱組織におけるVEGF発現量を比較したグラフである。
【
図8】
図8は、コントロール群および各実験群の膀胱組織におけるMDA発現量を比較したグラフである。
【
図9】
図9は、コントロール群および各実験群の膀胱組織におけるNGF発現量を比較したグラフである。
【
図10】
図10は、コントロール群および各実験群の膀胱組織におけるNrf2発現量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、過活動膀胱を予防または治療するための医薬組成物に関する。本発明において、「過活動膀胱」とは、尿意切迫感を必須症状とし、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁を伴うことがある症状症候群を意味する。すなわち、頻尿/尿意切迫感がありながらも、失禁を呈さない症状も、本発明における過活動膀胱に含まれる。
【0022】
なお、本発明において、「頻尿」とは、過活動膀胱の主な症状の一つであり、例えば、起床後就寝までの間に8回以上尿意があるか、または、就寝中に1回以上尿意がある症状を指す。
【0023】
本明細書において、ALA類とは、ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩をいう。
【0024】
本明細書において、ALAは、5-アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ-アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。
【0025】
ALAの誘導体としては、下記式(I)で表される化合物を例示することができる。式(I)において、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。なお、式(I)において、ALAは、R
1及びR
2が水素原子の場合に相当する。
【化4】
【0026】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0027】
式(I)のR1におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0028】
式(I)のR2におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0029】
式(I)のR2におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0030】
式(I)のR2におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0031】
式(I)のR2におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0032】
好ましいALA誘導体としては、R1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R1とR2の組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0033】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0034】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、及び、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0035】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0036】
上記ALA類を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要がある。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐことができる。
【0037】
本発明の医薬組成物は、一実施形態において、一種または二種以上の金属含有化合物をさらに含有してよい。かかる金属含有化合物の金属部分としては、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、コバルト、銅、クロム、モリブデンを挙げることができる。好ましい実施形態では、金属含有化合物の金属部分は、鉄、マグネシウムまたは亜鉛であり、特に鉄であることが好ましい。
【0038】
本発明において用い得る鉄化合物は、有機塩でも無機塩でもよい。無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができる。有機塩としては、ヒドロキシカルボン酸塩等のカルボン酸塩、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、グリシン第一鉄硫酸塩を挙げることができる。
【0039】
本発明において用い得るマグネシウム化合物としては、クエン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ジエチレントリアミン五酢酸マグネシウムジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸マグネシウムジナトリウム、マグネシウムプロトポルフィリンを挙げることができる。
【0040】
本発明において用い得る亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、ジエチレントリアミン五酢酸亜鉛ジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸亜鉛ジナトリウム、亜鉛プロトポルフィリン、亜鉛含有酵母を挙げることができる。
【0041】
対象への金属含有化合物の投与量は、対象へのALAの投与量に対してモル比で0~100倍であればよく、0.01倍~10倍が望ましく、0.1倍~8倍がより望ましい。
【0042】
本発明の医薬組成物に含有されるALA類と金属含有化合物は、ALA類と金属含有化合物とを含む組成物としても、あるいは、それぞれ単独でも投与することできるが、それぞれ単独で投与する場合でも同時に投与することが好ましく、ここで同時とは、同時刻に行われることのみならず、同時刻でなくともALA類と金属含有化合物との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように、両者間で相当の間隔をおかずに行われることを意味する。
【0043】
本発明におけるALA類と金属含有化合物の投与経路は限定されず、全身投与であっても、局所投与であってもよい。投与経路としては、例えば、舌下投与も含む経口投与、あるいは吸入投与、カテーテルによる、標的組織又は臓器に対する直接投与、点滴を含む静脈内投与、貼付剤等による経皮投与、座薬、又は、経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができる。また、上述のとおり、ALA類と、金属含有化合物とを、別々の経路から投与してもよい。
【0044】
本発明において用いられる、ALA類、金属含有化合物、または、これらを組み合わせた配合剤、の剤型は、前記投与経路に応じて適宜決定してよく、限定はされないが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、貼付剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0045】
本発明に係る医薬組成物は、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができる。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性及び動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0046】
本発明の医薬組成物の対象への投与頻度や投与期間は、対象の症状や状態等を考慮して、当業者(例えば、医師)が適宜決定することができる。
【0047】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0048】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0049】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0050】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0051】
実施例1(ALAによる1回排尿量等の増加効果)
実験群
実験ラットとしては、12週齢の雄性SHR(spontaneously hypertension rat)を用い、下記ALAの投与条件により、実験群をI~III群に分けた。実験群IIにおいては、ALAとクエン酸第一鉄ナトリウムを実験開始日に経口投与した。ALAの投与量は、10mg/kg体重とし、クエン酸第一鉄ナトリウムは、15.7mg/kg体重とした。一方、実験群IIIにおいては、100mg/kg体重とし、クエン酸第一鉄ナトリウムは、157mg/kg体重とした。なお、コントロール群IへはALA及びクエン酸第一鉄ナトリウムの代わりに生理食塩水のみをALAと同量投与した。
【0052】
ALA投与条件
コントロール群Iは、実験開始日(12週齢)から6週目(18週齢)まで毎日、生理食塩水を経口投与した。
実験群II及びIIIは、実験開始日(12週齢)から6週目(18週齢)まで毎日、ALA及びクエン酸第一鉄ナトリウムを経口投与した。
【0053】
排尿動態測定法
各実験群に対し、メタボリックケージによる排尿動態測定を実施した。具体的には、12週齢のとき(ALA投与前)と、18週齢のとき(ALA投与後)に測定を実施し、1回の排尿量、24時間の排尿量、飲水量を測定した。ここで、メタボリックケージによる測定方法は、Yono et al.,Life Sci.2007 June 27;81(3):218‐222に基づく方法(マウス排尿機能の無麻酔・無拘束・昼夜連続測定法)を採用した。尚、排尿動態測定の前に、排尿量及び飲水量とは別に、体重・血圧・心拍数に関しても念のため測定した。また、排尿動態測定の際、全排尿回数に関しても測定した。
【0054】
結果
結果を
図1~
図3に示す。
図1は各実験群における1回排尿量の結果を示し、縦軸は排尿量を、横軸はALAの投与有無を示す。
図1から明らかなように、ALAの投与により、コントロール群に比べ、1回排尿量の増加(おおよそ3割程度)が確認された。
また、
図2は各実験群における24時間の排尿量の結果を示し、縦軸は排尿量を、横軸はALAの投与有無を示す。
図2に明らかなように、ALAの投与により、コントロール群に比べ、24時間の排尿量の増加が確認された。
【0055】
さらに、
図3は各実験群における24時間の飲水量の結果を示し、縦軸は飲水量を、横軸はALAの投与有無を示す。
図3から明らかなように、ALAの投与により、飲水量の増加が確認された。
【0056】
ここで、一般的に、過活動膀胱の場合、過活動膀胱を罹患していない場合と比較して、膀胱容量の差異はない。このため、過活動膀胱モデルラットにおいて、1回排尿量、24時間排尿量、飲水量の増加が確認されたことから、ALAが膀胱血流調整に作用し、膀胱の貯尿容量の増加に寄与すると考えられる。したがって、ALAによる膀胱血流の変化を確認するため、膀胱内圧の測定を実施した。
【0057】
実施例2(ALAによる排尿期間延長効果)
【0058】
膀胱内圧測定法
前記排尿動態測定法の後、以下の手順に即し、膀胱内圧測定法を実施した。なお、膀胱内圧測定は、排尿筋の過活動状態を確認するものであり、過活動膀胱の検査手法として確立されている。
(1)18週齢雄性SHR/HosラットとWistar/ST ラットをウレタン(1.0g/kg,i.p.)により全身麻酔する。
(2)各ラットを寝かせて四肢をガムテープで固定した後、開腹して膀胱を押して排尿させる。乾燥を防ぐため生食脱脂綿をかけて30分放置する。
(3)各ラットの膀胱に膀胱内圧測定用のカテーテルを挿入する。
ここで、カテーテルは三方活栓をつなぎ、一端はシリンジポンプに接続して生理食塩水を一定速度(12ml/hr)で膀胱内に持続的に注入する。もう他端は圧トランスデューサーに接続して圧力アンプでモニター増幅し、PowerLabシステムを介してパーソナルコンピューターに取り込んで記録する。
(*PowerLab(16ch高速パワーラボシステム):PowerLab/16SP model ML 795, ADI(ADInstruments),USA)
(4)その後、生理食塩水を注入して30分程度安定するまで放置する。
(5)波形を見ながら1回の尿を1.5ml tubeに採取して尿の重さを測定する。
(6)各ラットの残尿を採取し量を測定する。
(7)同じような間隔、高さのピークを連続して6回(約1時間)とる。
【0059】
結果
結果を
図4および5に示す。
図4中、(a)はコントロール群Iの結果を、(b)は実験群IIの結果を、(c)は実験群IIIの結果を示す。各グラフにおいて、縦軸は膀胱内圧を、横軸は時間(秒)を示している。また
図5は、
図4に示すグラフを排尿間隔(秒)に基づいて変形させたものである。
図4および5から明らかなように、ALAを投与することにより、ALAを投与しない群に比べて排尿間隔の延長が確認された。この結果から、ALAを投与することにより過活動膀胱により萎縮された膀胱が拡張され、これにより膀胱における貯尿容量が増加されたものと考えられる。
【0060】
実施例3(ALAによる膀胱血流改善効果)
【0061】
方法
前記膀胱内圧測定の後、以下の手順に即し、膀胱血流測定(水素クリアランス法)を実施した。
(1)各ラットの前胸部下に不関電極である塩化銀プレートを埋没させる。
(2)膀胱壁内にワイヤー型白金電極を刺入する(膀胱壁に3か所、3回ずつデータを採取する)。
(3)UH-METERを使用し血流を測定する。
具体的には、水素ボンベを0.3L/minまで開け、100%水素をロートを用いて直接吸引させる。ピークになるまで水素を与え、水素クリアランスカーブをPowerLabシステムにより測定する。水素クリアランスカーブは下降し始めた時点を0秒とし約180秒間記録した。
(4)回帰曲線より血流量を算出した。
*回帰曲線 Y=B-AXより半減期(T1/2)を求める。
血流量=69.3/T1/2 (ml/min/100g)
(*PowerLab(16ch高速パワーラボシステム):PowerLab/16SP model ML 795, ADI(ADInstruments), USA)
【0062】
結果
結果を
図6に示す。
図6において、縦軸は膀胱血流量を示し、横軸は各実験群を示す。
図6から明らかなように、ALAの投与により、ALAの投与量に依存して膀胱血流が増加する傾向が確認された。
図4および5に示す結果と合わせ、膀胱血流の増加により、過活動膀胱により萎縮された膀胱が拡張されたと言える。その結果、ALAの投与により、過活動膀胱の改善が確認された。
【0063】
実施例4(ALA投与による過活動膀胱の改善メカニズムの検証)
【0064】
上記の実施例によって検証されたALAの投与による過活動膀胱の改善のメカニズムをさらに詳細に検証するため、ALAの投与と膀胱血管内皮障害および酸化ストレスとの関係について検討を行った。対象の膀胱血管内皮障害のマーカーとしてはVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)を用い、酸化ストレスマーカーとしてはMDA(Malondialdehyde)、NGF(Nerve Growth Factor)、および、Nrf2(Nuclear Respiratory Factor 2)を用いた。
【0065】
1.VEGFの測定
対象へのALAの投与とVEGF発現量の変化について検討を行った。VEGFは血管内皮増殖因子であり、膀胱血管内皮障害のマーカーとして使用されている。
【0066】
実験群の準備
実験群およびコントロール群の準備は、実施例1に記載の方法と同様の方法および条件で行った。
【0067】
ラット膀胱組織のサンプル調整
実験群およびコントロール群の膀胱組織を以下の手順で処理し、サンプルとして用いた。
1.100mgの組織を1xPBSで洗浄。
2.1xPBS 500μlでホモジナイズ。
3.-20℃で一晩保存。
4.凍結融解を行って細胞膜を破壊し、5000G,5min,4℃で遠心分離
5.分注して-20℃か-80℃で保存。
6.融解後もう一度遠心分離し、アッセイに用いる。
【0068】
VEGFの測定
Rat VEGF ELISA kit(CUSABIO CSB-E04757r)を用い、製造業者の提供するプロトコルにしたがってELISAアッセイを行った。
【0069】
結果
測定結果を
図7に示す。
図7に示すとおり、実験群(ALA投与群)においては、コントロール群と比較して顕著に膀胱組織におけるVEGF発現量が低下していた。
【0070】
2.MDAの測定
対象へのALAの投与とMDA発現量の変化について検討を行った。MDAは脂質過酸化分解生成物の一つであり、脂質過酸化の主要なマーカーとして知られている。
【0071】
実験群の準備
実験群およびコントロール群の準備は、実施例1に記載の方法と同様の方法および条件で行った。
【0072】
ラットの膀胱組織のサンプル調整
実験群およびコントロール群の膀胱組織を以下の手順で処理し、サンプルとして用いた。
1.cold assay buffer 400μlでバイオマッシャー。
2.15000rpm 5 min 4℃で遠心分離。遠心分離後上清に」buffer 300μl を加えて on ice で保存。
3.タンパク質濃度で補正する。
【0073】
MDAの測定
Malondialdehyde Assay kit(NWK-MDA01)を用い、製造業者の提供するプロトコルにしたがってELISAアッセイを行った。
【0074】
結果
測定結果を
図8に示す。
図8に示すとおり、実験群(ALA投与群)においては、コントロール群と比較して顕著に膀胱組織におけるMDA発現量が低下していた。
【0075】
3.NGFの測定
対象へのALAの投与とNGF発現量の変化について検討を行った。膀胱内でNGFが増加すると排尿反射が亢進され、その結果過活動膀胱がもたらされることから、NGFは下部尿路機能障害マーカーとして用いられている。
【0076】
実験群の準備
実験群およびコントロール群の準備は、実施例1に記載の方法と同様の方法および条件で行った。
【0077】
ラットの膀胱組織のサンプル調整
実験群およびコントロール群の膀胱組織を以下の手順で処理し、サンプルとして用いた。
1.100mgの組織1xPBSで洗浄。
2.1xPBS 1mlでホモジナイズ。
3.-20℃で一晩保存。
4.凍結融解を行って細胞膜を破壊し、5000G,5min,4℃で遠心分離。
5.分注して-20℃か-80℃で保存。
6.融解後もう一度遠心分離し、アッセイに用いる。
【0078】
NGFの測定
Rat NGF ELISA kit(CUSABIO CSB-E24685r)を用い、製造業者の提供するプロトコルにしたがってELISAアッセイを行った。
【0079】
結果
測定結果を
図9に示す。
図9に示すとおり、実験群(ALA投与群)においては、コントロール群と比較して顕著に膀胱組織におけるNGF発現量が低下していた。
【0080】
4.Nrf2の測定
対象へのALAの投与とNrf2発現量の変化について検討を行った。Nrf2は抗酸化酵素や解毒代謝酵素の発現を調節して酸化ストレスを制御する転写因子の一つであり、酸化ストレスマーカーとして用いられている。
【0081】
実験群の準備
実験群およびコントロール群の準備は、実施例1に記載の方法と同様の方法および条件で行った。
【0082】
ラットの膀胱組織のサンプル調整
実験群およびコントロール群の膀胱組織を以下の手順で処理し、サンプルとして用いた。
1.PBSで余分な血液を洗う。
2.重量測定。
3.On iceでバイオマッシャーにPBSを600μl入れtissueを細かくminceする。
4.超音波処理または凍結融解(-20℃/室温)を3回行う。
5.5000G 5min遠心分離。
6.上清をnew tubeへ(タンパク濃度を測定しておく)。
【0083】
Nrf2の測定
Rat NFE2L2/NRF2 ELISA kit(LSBio LS-F12145)を用い、製造業者の提供するプロトコルにしたがってELISAアッセイを行った。
【0084】
結果
測定結果を
図10に示す。
図10に示すとおり、実験群(ALA投与群)においては、コントロール群と比較して顕著に膀胱組織におけるNrf2発現量が低下していた。
【0085】
考察
上記の結果のとおり、ALAを投与したラットの膀胱組織においては、コントロール群と比較して顕著にVEGF、MDA、NGF、Nrf2の発現量が低下していた。VEGFは膀胱血管内皮障害に関係し、MDA、NGF、および、Nrf2は組織の酸化ストレスに関係することから、ALAの投与によって膀胱の血流が改善される結果、膀胱組織の組織障害や酸化ストレスが軽減され、排尿筋の過活動が抑制されるというメカニズムが示唆された。