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特許7113445エレクトロクロミック膜付き基板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック膜付き基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20220729BHJP
   G02F 1/155 20060101ALI20220729BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
G02F1/15 505
G02F1/15 503
G02F1/15 508
G02F1/15 507
G02F1/155
G02C7/10
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2018004504
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019124791
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-01-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年電気化学秋季大会 講演要旨集 発行所 公益社団法人 電気化学会 発行日 平成29年8月28日 2017年電気化学秋季大会 第62回化学センサ研究発表会 長崎大学 文教キャンパス、平成29年9月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西原 寛
(72)【発明者】
【氏名】坂本 良太
(72)【発明者】
【氏名】前田 啓明
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 國暉
(72)【発明者】
【氏名】獅野 裕一
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02851745(EP,A1)
【文献】特開2016-105150(JP,A)
【文献】特開2016-004073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板上に、電解重合法により、次式(I)で表される化学構造を有するビステルピリジン金属錯体をモノマーとするポリマーを成長させる工程を含むエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【化1】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【請求項2】
電解重合法がステップ状の電位を前記基板に繰り返し印加することを伴う請求項1に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板を浸した液中で、ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物を電気化学的に還元することで、前記透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板上に、該芳香族化合物に由来する有機物を付着させる工程を実施し、その後、前記電解重合法を実施することで当該有機物が付着した基板上に前記ポリマーを成長させる請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族化合物が、次式(II)及び(III)の少なくとも一方である請求項3に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【化2】
(式中、R2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR2同士は結合して環を形成してもよい。)
【請求項5】
前記芳香族化合物が、次式(IV)及び(V)の少なくとも一方である請求項3に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【化3】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【請求項6】
エレクトロクロミック膜の厚みが1nm~10μmの範囲となるまで前記ポリマーを成長させる請求項1~5の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項7】
各R1が水素原子である請求項1~6の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項8】
MがFeである請求項1~7の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項9】
ZがBF4である請求項1~8の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項10】
前記透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板を予め超音波洗浄することを含む請求項1~9の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項11】
透明導電体膜がITO膜である請求項1~10の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項12】
前記基板が透明プラスチック又は透明ガラスである請求項1~11の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項13】
前記基板の主表面が曲面状である請求項1~12の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項14】
前記基板が眼鏡用レンズである請求項1~13の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法。
【請求項15】
透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板と、該透明導電体膜上に形成された、次式(I)で表される化学構造を有するビステルピリジン金属錯体をモノマーとするポリマーを含む剥離箇所の見られないエレクトロクロミック膜とを備えたエレクトロクロミック膜付き基板。
【化4】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【請求項16】
ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物の還元体に由来する有機物が、前記透明導電体膜とエレクトロクロミック膜の間に介在する請求項15に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項17】
前記芳香族化合物が、次式(II)及び(III)の少なくとも一方である請求項16に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【化5】
(式中、R2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR2同士は結合して環を形成してもよい。)
【請求項18】
前記芳香族化合物が、次式(IV)及び(V)の少なくとも一方である請求項16に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【化6】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【請求項19】
エレクトロクロミック膜の厚みが1nm~10μmである請求項15~18の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項20】
各R1が水素原子である請求項15~19の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項21】
MがFeである請求項15~20の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項22】
ZがBF4である請求項15~21の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項23】
透明導電体膜がITO膜である請求項15~22の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項24】
前記基板が透明プラスチック又は透明ガラスである請求項15~23の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項25】
前記基板の主表面が曲面状である請求項15~24の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項26】
前記基板が眼鏡用レンズである請求項15~25の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板。
【請求項27】
請求項15~26の何れか一項に記載のエレクトロクロミック膜付き基板を備えたエレクトロクロミック素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトロクロミック膜付き基板及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明はテルピリジン誘導体を配位子とした金属錯体ポリマーから形成されたエレクトロクロミック膜を備えた基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック物質は、電圧を印加することによって発色、消色及び変色等の光物性を可逆的に変化させることができる物質である。エレクトロクロミック物質は、消費電力が少なく、また、非発光型で目に優しいことから、ディスプレイ、電子書籍、鏡(例:自動車の防眩用)、窓(例:住宅やオフィス用)及び電光掲示板などへの応用が進展しており、今後、市場の拡大が期待されている。
【0003】
これまで種々のエレクトロクロミック物質が開発されており、例えば、特開2012-17265号公報(特許文献1)には、テルピリジン誘導体を配位子とし、[-配位子-金属カチオン-]の繰り返しによって得られた鎖状(一次元)の錯体ポリマーからなるエレクトロクロミック特性を有する膜が記載されている。当該膜は錯体化合物を溶媒に溶解し、塗布法によって作製されることが記載されている(特許文献1の段落0087)。
【0004】
特開2015-203812号公報(特許文献2)には、以下の式(i-1)若しくは式(i-2)で表される三方向テルピリジン誘導体、又は式(ii)で表される四方向テルピリジン誘導体を含有する有機相と、中心金属となる金属の錯体及び塩から選択される1種以上を含有する水相を、相分離させた状態を維持しながら両者の接触を継続することにより、有機相と水相の界面に金属錯体ポリマーをシート状に成長させる工程を含むエレクトロクロミック素子用のエレクトロクロミックシートの製造方法が記載されている。
【化1】
【化2】
【化3】
【0005】
また、特開2016-4073号公報(特許文献3)には、湿式成膜法により、基板上に形成した導電体層表面に第1の有機分子からなる導電体層接合層を形成する工程と、電解重合法により、前記導電体層接合層上に第2の有機分子と金属イオンとからなるエレクトロクロミック層を形成する工程と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック膜の成膜方法が記載されている。当該文献には、第1の有機分子が導電体層接合基とスペーサー部と配位結合基をこの順序で連結した分子であることで、導電体層付き基板に強固にエレクトロクロミック膜を接合することが可能になることが記載されている。第1の有機分子としては、4′-(4-(2-(トリエトキシシリル)ビニル)フェニル)-2,2′:6′,2′′-ターピリジンが記載されている。また、第2の有機分子として4′4′′′′-(1,4-フェニレン)-ビス(2,2′:6′,2′′-ターピリジン)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-17265号公報
【文献】特開2015-203812号公報
【文献】特開2016-4073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の錯体ポリマー自体は分子鎖であり、スピンコート法などによる成膜を必要とする。特許文献2に記載の製造方法によれば直接エレクトロクロミック膜を得ることができるという点で、特許文献1に記載の技術に比べて優れている。しかしながら、何れの文献に記載の技術においても、エレクトロクロミック膜を利用してエレクトロクロミック素子を作製するには、エレクトロクロミック膜を基板に貼り付けるという工程が必要である。エレクトロクロミック膜は薄くシワが発生したり破損したりしやすいため、エレクトロクロミック膜をシワ無く破損せずきれいに基板に貼り合わせるには熟練した技術が求められる。特に、曲面状の基板へエレクトロクロミック膜をシワ無く貼り付けることは困難であり、歩留まりが極めて低かった。
【0008】
この点、特許文献3に記載の技術は、基板上に電解重合でエレクトロクロミック膜を成長させるという手法を採用しており、貼り合わせ工程を要しない。この点で、特許文献3に記載の技術は評価できる。しかしながら、特許文献3によれば、電解重合法による薄膜形成は、非常に薄く、不均一なポリマー膜しか形成できないとされている。また、ポリマー膜はITO膜付き基板に物理吸着しているだけなので、容易に基板から離れてしまうなど接着性がかなり弱く、溶液中で、すぐにばらばらになることが記載されている。
【0009】
このため、特許文献3では導電体層付き基板に強固にエレクトロクロミック膜を接合して膜形成を促すために、湿式成膜法により、基板上に形成した導電体層表面に第1の有機分子からなる導電体層接合層を形成する工程を実施しなければならないとされている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みて創成されたものであり、その目的の一つは、基板との接合強度及び外観均一性に優れたエレクトロクロミック膜を形成することを可能とする、従来法とは異なるエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的の一つは、基板との接合強度及び外観均一性の優れたエレクトロクロミック膜付き基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、所定の化学構造を有するビステルピリジン金属錯体を電解重合法により重合すると、容易に外観均一性の高いエレクトロクロミック膜がITO基板上に剥離することなく成長可能であることを見出した。本発明は当該知見に基づき完成したものである。特許文献3にも、ターピリジン(「テルピリジン」に同じ。)を骨格にもつ化合物は記載されているが、この化合物の場合にはITO基板への直接成膜が形成できなかったとされており(特許文献3の比較例1参照)、導電体層接合層を介することなく、ITO基板上に良好なエレクトロクロミック膜が成長したことは驚くべきことであった。
【0012】
上記知見に基づき完成した本発明は一側面において、透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板上に、電解重合法により、次式(I)で表される化学構造を有するビステルピリジン金属錯体をモノマーとするポリマーを成長させる工程を含むエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法である。
【化4】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【0013】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の一実施形態においては、電解重合法がステップ状の電位を前記基板に繰り返し印加することを伴う。
【0014】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の別の一実施形態においては、前記透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板を浸した液中で、ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物を電気化学的に還元することで、前記透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板上に、該芳香族化合物に由来する有機物を付着させる工程を実施し、その後、前記電解重合法を実施することで当該有機物が付着した基板上に前記ポリマーを成長させる。
【0015】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、前記芳香族化合物が、次式(II)及び(III)の少なくとも一方である。
【化5】
(式中、R2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR2同士は結合して環を形成してもよい。)
【0016】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、前記芳香族化合物が、次式(IV)及び(V)の少なくとも一方である。
【化6】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【0017】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、エレクトロクロミック膜の厚みが1nm~10μmの範囲となるまで前記ポリマーを成長させる。
【0018】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、各R1が水素原子である。
【0019】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、MがFeである。
【0020】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、ZがBF4である。
【0021】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、前記透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板を予め超音波洗浄することを含む。
【0022】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、透明導電体膜がITO膜である。
【0023】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、前記基板が透明プラスチック又は透明ガラスである。
【0024】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、前記基板の主表面が曲面状である。
【0025】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の更に別の一実施形態においては、前記基板が眼鏡用レンズである。
【0026】
本発明は別の一側面において、透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板と、該透明導電体膜上に形成された、次式(I)で表される化学構造を有するビステルピリジン金属錯体をモノマーとするポリマーを含むエレクトロクロミック膜とを備えたエレクトロクロミック膜付き基板である。
【化7】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【0027】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の一実施形態においては、ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物の還元体に由来する有機物が、前記透明導電体膜とエレクトロクロミック膜の間に介在する。
【0028】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の別の一実施形態においては、前記芳香族化合物が、次式(II)及び(III)の少なくとも一方である。
【化8】
(式中、R2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR2同士は結合して環を形成してもよい。)
【0029】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、前記芳香族化合物が、次式(IV)及び(V)の少なくとも一方である。
【化9】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【0030】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、エレクトロクロミック膜の厚みが1nm~10μmである。
【0031】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、各R1が水素原子である。
【0032】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、MがFeである。
【0033】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、ZがBF4である。
【0034】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、透明導電体膜がITO膜である。
【0035】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、前記基板が透明プラスチック又は透明ガラスである。
【0036】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、前記基板の主表面が曲面状である。
【0037】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の更に別の一実施形態においては、前記基板が眼鏡用レンズである。
【0038】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板を備えたエレクトロクロミック素子である。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法によれば、基板との接合強度及び外観均一性に優れたエレクトロクロミック膜を形成することが可能である。本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法は特に、曲面を有する基板上にエレクトロクロミック膜を形成する際に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】透明導電体膜(ここではITO膜とした。)付きの基板上で、ビステルピリジン金属錯体が直鎖状に成長する様子を例示的に示す模式図である。
図2】式(I)のビステルピリジン金属錯体を合成するときの反応機構の例を示す。
図3】透明導電体膜(ここではITO膜とした。)付きの基板上に、ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物の還元体に由来する有機物を付着させる際の反応機構の例を示す模式図である。
図4】有機物を付着させた後の透明導電体膜(ここではITO膜とした。)付きの基板上で、ビステルピリジン金属錯体が直鎖状に成長する様子を示す模式図である。
図5】実施例で使用した電気化学測定用セルの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(1.基板)
基板には、種々の材質の基板が使用でき、特に制限はないが、例えば、ガラス、プラスチック、セラミック、樹脂フィルム、シリコン、金属、鏡等の基板が挙げられる。基板の一方又は両方の主表面には種々のコーティングが適宜なされていてもよい。例えば表面を保護するためのハードコート層が基板の一方又は両方の主表面にコーティングされていてもよい。また、基板とハードコート層の密着性を高めるためにプライマー層をハードコート層の下地としてコーティングしてもよい。基板の一方又は両方の主表面にこのようなコーティングがなされている場合は、コーティングされた基板がここでいう基板であり、後述する透明導電体膜はコーティング上に形成される。エレクトロクロミズムを視認しやすいという観点から、基板は透光性であることが好ましく、透明であることがより好ましい。基板の形状についても特に制限はないが、例えば、基板の主表面が平面状及び二次元又は三次元の曲面状である基板を使用することができる。ここでは、曲げ軸が一方向である曲面(例:紙やフィルムのようなシートを一方向の曲げ軸に沿って折り曲げることで得られる曲面)を二次元曲面と呼ぶ。また、レンズのように曲げ軸に特定の方向がなく、どの断面でも曲率半径がある曲面を三次元曲面と呼ぶ。本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の一実施形態によれば、曲面を有する基板を使用してもシワが入ることなく、外観均一性の優れたエレクトロクロミック膜を形成することが可能である。また、基板はリジッド基板であってもフレキシブル基板であってもよい。
【0042】
基板の一方又は両方の主表面には透明導電体膜を形成することができる。透明導電体膜の構成材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体である酸化インジウム錫合金(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛にGaをドープしたGZO、酸化亜鉛にAlをドープしたAZO等の無機化合物の他、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、更にはグラフェン等の有機物を用いてもよい。これらは一種を用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。透明導電体膜の厚みは、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、例えば、10nm~10μmとすることができ、好ましくは20nm~1μmとすることができ、より好ましくは50nm~500nmとすることができる。
【0043】
(2.ビステルピリジン金属錯体)
エレクトロクロミック膜付き基板の製造方法の一実施形態においては、透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板上に、電解重合法により、次式(I)で表される化学構造を有するビステルピリジン金属錯体をモノマーとするポリマーを成長させる工程を含む。
【化10】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【0044】
式(I)のビステルピリジン金属錯体は二つのアミノ基が分子の正反対に位置する。理論によって本発明が限定されることを意図しないが、式(I)のビステルピリジン金属錯体に対して電位印加を繰り返すと、アミノ基の酸化反応に起因して該金属錯体が透明導電体膜に接合すると共に、両端のアミノ基の酸化反応によって生じるアミノラジカルの重合によりN=Nの二重結合を生成することで金属錯体同士が強固に連結して、一次元方向(直鎖状)に金属錯体ポリマーが成長すると考えられる。このときの様子を図1に模式的に示す。つまり、透明導電体膜の表面に根付いたポリマーが一本ずつ基板に接合して直鎖状に成長しやすいので、ポリマーが剛直な三次元構造を構築しにくく、柔軟性のある膜が形成されると推察される。このため、基板が曲面を有していたり、フレキシブル基板のように可撓性であったりしても膜が破れにくく、剥離しにくいと推察される。当該ポリマーは電気化学的な酸化還元反応により色が変化するエレクトロクロミズムを示すことから、得られたエレクトロクロミック膜付き基板は各種のエレクトロクロミック素子として利用できる。なお、透明導電体膜とビステルピリジン金属錯体の接合状態を化学的に正確に分析することは困難であり、図1に示す模式図はあくまで推定に過ぎず、理解の容易化のために示しただけである。
【0045】
式(I)のビステルピリジン金属錯体として、R1=H、M=Fe、m=2、n=2、Z=BF4、k=1のビステルピリジン金属錯体を合成する場合の手順を例示的に示す。まず、文献(“Storrier, G. D.; Colbran, S. B.; Craig, D. C. J. Chem. Soc. Dalton Trans., 1997, 3011.”)に記載の反応機構、すなわち、2-ピリジンカルボキシアルデヒドと4-アミノベンズアルデヒドを反応させて4′-(4-アミノフェニル)-2,2′:6′,2′′-テルピリジンを合成する。当該テルピリジンは市販されているのでそれを用いてもよい。次いで、当該テルピリジンをテトラフルオロほう酸鉄(II)の6水和物(Fe(BF42・6H2O)と反応させることで、式(I)のビステルピリジン金属錯体が得られる。上述した式(I)のビステルピリジン金属錯体の合成反応の一例を図2に示す。図2のテルピリジンの合成反応において、アセトアミドは溶媒であり、酢酸アンモニウム(AcONH4)は、テルピリジンの中央のピリジン環の窒素源になり、その他の試薬(NaOH、HBr、NaHCO3)は、反応後の後処理に関わると考えられる。図2のビステルピリジンの合成反応において、CH3OHは溶媒であり、NaBF4はビステルピリジンの合成には直接寄与しないが、CH3OH中に溶解している鉄錯体を沈殿させるために加えられる。
【0046】
式(I)のビステルピリジン金属錯体において、金属原子Mは特に制限はなく、典型元素及び遷移元素の金属原子の何れでもよいが、遷移金属が好ましく、2価以上の原子価を持つ遷移金属がより好ましい。金属原子Mの具体例としては、典型元素の金属として、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Sb、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Raが挙げられ、遷移金属として、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、So、Ir、Pt、Au、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lr、Rf、Db、Sg、Bh、Hs、Mt、Ds、Rgが挙げられる。金属原子Mはこれらの1種以上を任意に選択することができる。金属原子Mは、典型的にはFe、Ni、Co、Cu、Zn、Sn、Ti、Mn、Mo、V、Zr、Cd、Ga、Sb、Cr、Nb、Al等からなる群から選択される1種以上を挙げることができる。金属原子Mの種類は単一でも複数でもよいが、複数種類の金属原子Mを使用することで、色が段階的に変化するといった光物性の変化にバリエーションを追加することができる。
【0047】
式(I)のビステルピリジン金属錯体において、対イオンZは金属原子Mの各種の塩に対応するものである。金属の塩は、無機酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の塩、又は有機酸の塩のうちの任意のものとすることができる。mは金属原子Mの価数に応じた0以上の整数である。n及びkは電気的中性を保つためにm=n×kを満たす。Zk-の具体例としては、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、ClO-、ClO2 -、ClO3 -、ClO4 -、SCN-、CN-、NO3 -、SO4 2-、HSO4 -、PO4 3-、HPO4 2-、H2PO4 -、BF4 -、PF6 -、CH3SO3 -、CF3SO3 -、テトラキス(イミダゾリル)ボレートアニオン、8-キノリノラトアニオン、2-メチル-8-キノリノラトアニオン、2-フェニル-8-キノリノラトアニオン等が挙げられる。これらの中でも、合成が容易であるという理由により、BF4 -及びPF6 -が好ましい。
【0048】
式(I)のビステルピリジン金属錯体において、R1が表す置換基としては、ハロゲン原子、置換又は非置換の1価の炭化水素基、メルカプト基、置換又は非置換の炭化水素チオ基、置換又は非置換の炭化水素チオカルボニル基、置換又は非置換の炭化水素ジチオ基、水酸基、置換又は非置換の炭化水素オキシ基、置換又は非置換の炭化水素カルボニル基、シアノ基、ニトロ基ホスフィノ基、置換又は非置換の炭化水素一置換ホスフィノ基、置換又は非置換の炭化水素二置換ホスフィノ基、式:-P(=O)(OH)2で表される基、式:-B(OH)2で表される基、ホウ酸エステル残基、スルホ基、置換又は非置換の炭化水素スルホ基、置換又は非置換の炭化水素スルホニル基、置換又は非置換の1価の複素環基、2個以上のエーテル結合を有する炭化水素基、式:-PO3Xで表される基、式:-PO2Xで表される基、式:-PO32で表される基、式:-OXで表される基、式:-SXで表される基、式:-B(OX)2で表される基、式:-SO3Xで表される基、式:-SO2Xで表される基(式中、Xは、金属カチオン又は置換又は非置換のアンモニウムカチオンを表す。)、式:-NR3X’で表される基、式:-BR3X’で表される基、式:-PR3X’で表される基、式:-SR2X’で表される基(式中、Rは、1価の炭化水素基を表し、X’は、アニオンを表す。)、及び、第4級化された窒素原子を複素環内に有する置換又は非置換の1価の複素環基等が挙げられる。なお、アミノ基は重合反応の反応点になる可能性があり、直鎖状のポリマーが成長しにくくなるおそれがある。このため、R1はアミノ基ではないことが好ましい。
【0049】
式(I)のビステルピリジン金属錯体において、R1が表す置換基としては、ハロゲン原子、置換又は非置換の炭化水素基、水酸基、置換又は非置換の炭化水素オキシ基、置換又は非置換の炭化水素カルボニル基、シアノ基、スルホ基、置換又は非置換の1価の複素環基、及び、水素原子が好ましく、ハロゲン原子、置換又は非置換の炭化水素基、水酸基、シアノ基、置換又は非置換の1価の複素環基、及び、水素原子がより好ましく、置換又は非置換の1価の炭化水素基、置換又は非置換の1価の複素環基、及び、水素原子が更により好ましく、1価の炭化水素基、及び水素原子が更により好ましく、水素原子がとりわけ好ましい。
【0050】
1がハロゲン原子であるときは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子がより好ましく、塩素原子及び臭素原子が更に好ましい。
【0051】
1が1価の炭化水素基であるときは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、エイコシル基等の炭素数1~20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の炭素数3~20のシクロアルキル基;エテニル基、プロペニル基、3-ブテニル基、2-ブテニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基、2-ノネニル基、2-ドデセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-エチルフェニル基、4-プロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、4-ヘキシルフェニル基、4-シクロヘキシルフェニル基、4-アダマンチルフェニル基、4-フェニルフェニル基等の炭素数6~20のアリール基;フェニルメチル基、1-フェニレンエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニル-1-プロピル基、1-フェニル-2-プロピル基、2-フェニル-2-プロピル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-ブチル基、5-フェニル-1-ペンチル基、6-フェニル-1-ヘキシル基等の炭素数7~20のアラルキル基が挙げられ、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基が好ましく、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~18のアリール基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基が特に好ましい。これらの1価の炭化水素基は水素原子の少なくとも一部(特には1~3個、とりわけ1個又は2個)が置換されていてもよく、置換基としてはフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素原子1~4のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;シアノ基等が挙げられる。
【0052】
1が置換又は非置換の炭化水素チオ基、置換又は非置換の炭化水素チオカルボニル基、置換又は非置換の炭化水素ジチオ基、置換又は非置換の炭化水素オキシ基、置換又は非置換の炭化水素カルボニル基、置換又は非置換の炭化水素一置換ホスフィノ基、置換又は非置換の炭化水素二置換ホスフィノ基、置換又は非置換の炭化水素スルホ基、置換又は非置換の炭化水素スルホニル基、式:-NR3X’で表される基、式:-BR3X’で表される基、式:-PR3X’で表される基、又は式:-SR2X’で表される基であるときは、これらに含まれる炭化水素基部分は「1価の炭化水素基」として上述した通りである。これらの基に含まれる炭化水素基部分の水素原子の少なくとも一部は上記した1価の炭化水素基の場合と同様に置換されていてもよく、置換基としては同様のものを例示することができる。
【0053】
ホウ酸エステル残基としては、典型的には以下の式で表される基が挙げられる。
【化11】
【0054】
1価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子を1個取り除いた残りの原子団を指す。複素環式化合物としては、ピリジン、1,2-ジアジン、1,3-ジアジン、1,4-ジアジン、1,3,5-トリアジン、フラン、ピロール、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、アザジアゾール等の単環式複素環式化合物;単環式複素環式化合物を構成する複素環の2個以上が縮合した縮合多環式複素環式化合物;単環式複素環式化合物を構成する複素環2個を、又は、芳香環1個と単環式複素環式化合物を構成する複素環1個とを、メチレン基、エチレン基、カルボニル基等の2価の基で橋かけした構造を有する有橋多環式複素環式化合物等が挙げられ、ピリジン、1,2-ジアジン、1,3-ジアジン、1,4-ジアジン、1,3,5-トリアジンが好ましく、ピリジン、1,3,5-トリアジンがより好ましい。該1価の複素環基は置換されていてもよく、置換基としては、上述した1価の炭化水素基について挙げた置換基を例示することができる。
【0055】
2個以上のエーテル結合を有する炭化水素基としては、以下の式で表される基が挙げられる。式中、各R’は、それぞれ独立に置換又は非置換の2価の炭化水素基を表す。pは、2以上の整数である。
【化12】
【0056】
R’で表される2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、1,2-ブチレン基、1,3-ブチレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,9-ノニレン基、1,12-ドデシレン基等の炭素原子数1~20の2価の飽和炭化水素基;エテニレン基、プロペニレン基、3-ブテニレン基、2-ブテニレン基、2-ペンテニレン基、2-ヘキセニレン基、2-ノネニレン基、2-ドデセニレン基等のアルケニレン基、および、エチニレン基等の炭素原子数2~20の2価の不飽和炭化水素基;シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロノニレン基、シクロドデシレン基、ノルボニレン基、アダマンチレン基等の炭素原子数3~20の2価の環状飽和炭化水素基;1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、ビフェニル-4,4’-ジイル基等の炭素原子数6~20のアリーレン基等が挙げられる。これらの2価の炭化水素基が有する水素原子の少なくとも一部は置換基で置換されていてもよい。置換基としては、上述した1価の炭化水素基について挙げた置換基を例示することができる。
【0057】
2個以上のエステル結合を有する炭化水素基としては、例えば、以下の式で表される基が挙げられる。式中、R’およびpは前述した通りである。
【化13】
【0058】
2個以上のアミド結合を有する炭化水素基としては、以下の式で表される基が挙げられる。式中、R’およびpは前述した通りである。
【化14】
【0059】
前記Xで表される金属カチオンとしては、1~3価のイオンが好ましく、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Ba、Ag、Al、Bi、Cu、Fe、Ga、Mn、Ni、Pb、Sn、Ti、V、W、Y、Yb、Zn、Zr等の金属のイオンが挙げられる。
【0060】
前記Xで表されるアンモニウムカチオンは非置換でも置換されていてもよい。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基が挙げられる。
【0061】
前記X’で表されるアニオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、ClO-、ClO2 -、ClO3 -、ClO4 -、SCN-、CN-、NO3 -、SO4 2-、HSO4 -、PO4 3-、HPO4 2-、H2PO4 -、BF4 -、PF6 -、CH3SO3 -、CF3SO3 -、テトラキス(イミダゾリル)ボレートアニオン、8-キノリノラトアニオン、2-メチル-8-キノリノラトアニオン、2-フェニル-8-キノリノラトアニオン等が挙げられる。
【0062】
第4級化された窒素原子を複素環内に有する1価の複素環基としては、例えば、以下の式で表される基が挙げられる。式中、RおよびX’は前述した通りある。
【化15】
【0063】
式(I)のビステルピリジン金属錯体において、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよい。形成された環の構成原子の数は5~10個が好ましく、5~7個がさらに好ましく、6個が特に好ましい。形成された環には、発色性の観点から共役が分子内に広く広がるべく、π電子が存在していることが好ましく、π電子が2個以上あることがより好ましく、芳香環を形成していることが更により好ましい。
【0064】
(3.電解重合)
透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板上に、電解重合法により、上述したビステルピリジン金属錯体をモノマーとするポリマーを成長させる工程は、例えば以下のように実施することができる。
【0065】
(3-1 基板の準備)
透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板を用意する。透明導電体膜を基板の一方又は両方の主表面に形成する方法は公知の任意の方法により実施可能である。エレクトロクロミック膜と基板の接合強度を高めるという観点からは、透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板は、電解重合を実施する前に清浄化しておくことが好ましい。清浄化の方法としては、湿式洗浄、乾式洗浄、物理的洗浄が例示でき、これらは単独で実施してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。湿式洗浄は基板に洗浄液を接触させる方法であり、超音波洗浄、スプレー洗浄、シャワー洗浄又はジェット洗浄等の1種又は2種以上が使用可能である。洗浄液としては、溶剤(例:アセトン、メタノール、エタノール)、酸(例:硫酸、塩酸、ピラニア溶液(濃硫酸と過酸化水素水の混合物)、アルカリ(例:水酸化ナトリウム水溶液)、洗剤(例:ノニオン洗剤)が例示される。乾式洗浄としては、オゾンプラズマ照射が挙げられる。物理的洗浄としては、ブラシ等による直接洗浄が挙げられる。中でも、アセトン、メタノール、エタノール及びノニオン洗剤の何れか一種以上を含有する洗浄剤中で超音波洗浄を実施することが好ましい。
【0066】
(3-2 基板への有機物の付着)
基板の洗浄後、続けて電解重合を行ってもよいが、電解重合を実施する前に、透明導電体膜付きの基板に所定の芳香族化合物に由来する有機物を付着させておくことも可能である。当該基板とビステルピリジン金属錯体の接合強度を高め、膜厚の大きなエレクトロクロミック膜を成長させることができるので、歩留まり向上に寄与する。
【0067】
具体的には、透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板を浸した液中で、ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物を電気化学的に還元することで、前記透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板上に、該芳香族化合物に由来する有機物を付着させる工程を実施することが好ましい。ジアゾニオ基はアミノ基をジアゾ化することで得ることができる。ジアゾ化は例えば酸性溶媒(例:希塩酸)中でアミノ基を亜硝酸ナトリウムと反応させることで実施可能である。ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物は一種を用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。芳香族化合物は共役π電子系を有するため、ビステルピリジン金属錯体のポリマーが示すエレクトロクロミズムを阻害することもないと考えられる。
【0068】
理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、このときの推定される反応機構の例を図3に模式的に示す。アニリンをジアゾ化して得られたベンゼンジアゾニウムイオンを還元すると、ジアゾニオ基が窒素分子として脱離し、生成したフェニルラジカルが透明導電体膜の表面に付着する。フェニルラジカル同士は重合してポリマーを生成している可能性もある。なお、透明導電体膜に如何なる化学的形態で有機物が付着しているかを化学的に正確に分析することは困難であり、図3に示す反応機構はあくまで推定に過ぎず、理解の容易化のために示しただけである。
【0069】
ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物としては、特に制限はないが、例えば、次式(II)及び(III)の少なくとも一方を使用することができる。
【化16】
(式中、R2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR2同士は結合して環を形成してもよい。)
【0070】
上記化合物のR2としては、ハロゲン原子、置換又は非置換の1価の炭化水素基、メルカプト基、カルボニルメルカプト基、チオカルボニルメルカプト基、置換又は非置換の炭化水素チオ基、置換又は非置換の炭化水素チオカルボニル基、置換又は非置換の炭化水素ジチオ基、水酸基、置換又は非置換の炭化水素オキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、置換又は非置換の炭化水素カルボニル基、置換又は非置換の炭化水素オキシカルボニル基、置換又は非置換の炭化水素カルボニルオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、置換又は非置換の炭化水素一置換アミノ基、置換又は非置換の炭化水素二置換アミノ基、ホスフィノ基、置換又は非置換の炭化水素一置換ホスフィノ基、置換又は非置換の炭化水素二置換ホスフィノ基、式:-P(=O)(OH)2で表される基、カルバモイル基、置換又は非置換の炭化水素一置換カルバモイル基、置換又は非置換の炭化水素二置換カルバモイル基、式:-B(OH)2で表される基、ホウ酸エステル残基、スルホ基、置換又は非置換の炭化水素スルホ基、置換又は非置換の炭化水素スルホニル基、置換又は非置換の1価の複素環基、2個以上のエーテル結合を有する炭化水素基、2個以上のエステル結合を有する炭化水素基、2個以上のアミド結合を有する炭化水素基、式:-CO2Xで表される基、式:-PO3Xで表される基、式:-PO2Xで表される基、式:-PO32で表される基、式:-OXで表される基、式:-SXで表される基、式:-B(OX)2で表される基、式:-SO3Xで表される基、式:-SO2Xで表される基(式中、Xは、金属カチオン又は置換又は非置換のアンモニウムカチオンを表す。)、式:-NR3X’で表される基、式:-BR3X’で表される基、式:-PR3X’で表される基、式:-SR2X’で表される基(式中、Rは、1価の炭化水素基を表し、X’は、アニオンを表す。)、及び、第4級化された窒素原子を複素環内に有する置換又は非置換の1価の複素環基等が挙げられる。有機物を付着させておくという目的であるため、R2はアミノ基でも問題はない。
【0071】
2としては、ハロゲン原子、置換又は非置換の炭化水素基、水酸基、置換又は非置換の炭化水素オキシ基、カルボキシル基、置換又は非置換の炭化水素カルボニル基、シアノ基、アミノ基、置換又は非置換の炭化水素一置換アミノ基、置換又は非置換の炭化水素二置換アミノ基、スルホ基、置換又は非置換の1価の複素環基、及び、水素原子が好ましく、ハロゲン原子、置換又は非置換の炭化水素基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、置換又は非置換の1価の複素環基、及び、水素原子がより好ましく、置換又は非置換の1価の炭化水素基、置換又は非置換の1価の複素環基、及び、水素原子が更により好ましく、1価の炭化水素基、及び水素原子が更により好ましく、水素原子がとりわけ好ましい。R2のうち、R1と重複する部分については、R1で述べたのと同様であるので詳細な説明を割愛する。
【0072】
式(II)及び(III)に該当する芳香族化合物の具体例としては、以下に示すように、アニリン、ナフチルアミン、アミノアントラセン、及びこれらの分子中の水素を置換基で置換した芳香族アミン、並びに、これらの芳香族アミンのアミノ基をジアゾ化した化合物が挙げられる。これらの化合物においてアミノ基及びジアゾニオ基の位置は任意に変更可能である。
【化17】
【0073】
前記芳香族化合物としては、次式(IV)及び(V)の少なくとも一方を使用することもできる。
【化18】
(式中、R1はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、隣接したR1同士は結合して環を形成してもよく、Mは金属原子を表し、Zは対イオンを表し、m、n及びkは0以上の整数で、m=n×kを満たす。)
【0074】
式(IV)及び式(V)の化合物における、R1、M、Z、m、n、及びkについては式(I)で既に述べている通りであるので説明を省略する。
【0075】
(3-3 電位印加)
上述した式(I)のビステルピリジン金属錯体の溶液を用意する。溶媒としては有機溶媒及び水の何れでもよいが、金属錯体の溶解度を高めるために、有機溶媒及び水の混合溶媒とすることが好ましい。その際、成膜速度を高めるという観点から、溶媒には水が含まれていることが好ましく、溶媒中で水が20体積%以上を占めることがより好ましく、40体積%以上を占めることが更により好ましい。また、溶液中には、溶媒の電気抵抗率を下げるために、KPF6、NH4PF6、NaPF6、NaBF4、KBF4、NaB(Ph)4、LiCl、NaCl、NaBr、NaI、NH4SbF6、LiClO4等の電解質を添加することが好ましい。当該溶液中に、透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された基板を浸漬する。当該基板の透明導電体膜上には、先述した理由により、ジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物の還元体に由来する有機物が付着していることが好ましい。
【0076】
次いで、当該基板を作用電極として、繰り返し電位印加すると、ビステルピリジン金属錯体が電解重合によって基板上にポリマーを形成する。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、ビステルピリジン金属錯体が有するアミノ基の酸化反応に起因して当該基板表面の透明導電体膜に接合すると共に、金属錯体同士が両端のアミノ基の酸化反応によって生じるアミノラジカルの重合によりN=Nの二重結合を生成することで強固に連結して、一次元方向(直鎖状)にポリマーが成長すると考えられる。透明導電体膜とビステルピリジン金属錯体の接合強度が強固であり、且つ、重合鎖の連結が強固である場合には、ビステルピリジン金属錯体が基板から剥離したり、重合鎖が切れたりせずにポリマーが成長するため、膜厚の大きなエレクトロクロミック膜を得ることができる。逆に、透明導電体膜とビステルピリジン金属錯体の接合強度や、重合鎖の連結強度が弱い場合には、ビステルピリジン金属錯体が基板から容易に剥離したり、重合鎖が切れたりしてしまうので膜厚を大きくすることはできない。式(I)のビステルピリジン金属錯体は透明導電体膜に対して高い接合強度で接合する傾向にあり、また、強固な重合鎖を形成するために、電解重合によって膜厚を容易に大きくすることが可能であると推察される。
【0077】
基板の透明導電体膜上にジアゾニオ基又はアミノ基の少なくとも一方を有する芳香族化合物の還元体に由来する有機物が付着していると、式(I)のビステルピリジン金属錯体と基板の接合強度が向上し、より安定して膜厚の大きなエレクトロクロミック膜を得ることが可能となる。理論によって本発明が限定されることを意図しないが、アミノ基の酸化還元反応に起因して該金属錯体が有機物に接合すると共に、式(I)のビステルピリジン金属錯体同士が両端のアミノ基を介してN=Nの二重結合を生成することにより連結して、一次元方向(直鎖状)にポリマーが成長する様子を図4に模式的に示す。
【0078】
電位印加の方法としては、限定的ではないが、電位を時間当たり一定の割合で上昇させ、その後、一定の割合で下降させるサイクルを繰り返す印加方法(サイクリックボルタンメトリー法)、及びステップ状の電位を繰り返し印加する方法(クロノアンペトメトリー法)等が挙げられる。膜厚の大きなエレクトロクロミック膜を短時間で成長させるという観点からは、クロノアンペトメトリー法が好適である。高電位印加と低電位印加を繰り返すことで、金属錯体ポリマーの成長に伴い、エレクトロクロミック膜の膜厚を大きくすることができる。
【0079】
ビステルピリジン金属錯体のアミノ基を酸化するという観点から、最高電位を0.9V以上(vsAg/Ag+電極)とすることが好ましく、平滑なエレクトロクロミック膜を得るという観点からは、1.0~1.3V(vsAg/Ag+電極)の範囲とすることがより好ましい。また、重合反応後は物質が還元されている状態に戻すために、最低電位を0.6V以下(vsAg/AgCl電極)とすることが好ましく、-0.2~0.2V(vsAg/AgCl電極)程度の0V近傍とすることがより好ましい。
【0080】
エレクトロクロミック膜の厚みは任意の厚みに設定可能である。エレクトロクロミズムの色変化に優れたエレクトロクロミック膜を得るのに必要な膜厚は、エレクトロクロミック膜のモル吸光係数や波形に応じて適宜設定すればよい。経験的には、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましい。また、クラック防止等、膜の耐久性を維持するという観点から、エレクトロクロミック膜の厚みは10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましく、3000nm以下とすることが最も好ましい。本発明において、エレクトロクロミック膜の厚みの平均値は原子間力顕微鏡によって膜の端部の厚みを複数箇所測定したときの測定値に基づく値を指す。
【0081】
(4.エレクトロクロミック素子)
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板は種々の大きさや形状に加工することが可能である。パターニングすることも可能である。本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板を用いて種々のエレクトロクロミック素子を作製することができる。従って、本発明は一側面において、本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板を備えたエレクトロクロミック素子である。本発明に係るエレクトロクロミック素子は一実施形態において、エレクトロクロミック膜付き基板と、透明導電体膜と、該基板及び導電体膜の間に配置された電解質を備える。本発明に係るエレクトロクロミック素子は別の一実施形態において、エレクトロクロミック膜付き基板と、透明導電体膜が一方又は両方の主表面に形成された第二の基板と、両基板の間に配置された電解質を備える。
【0082】
透明導電体膜及び電解質を介してエレクトロクロミック膜に印加する電圧により、エレクトロクロミック膜を構成する金属錯体ポリマーの酸化還元を制御でき、それにより光物性を可逆的に変化させることができる。
【0083】
透明導電体膜としては、限定的ではないが、導電性の金属酸化物膜、透光性の金属薄膜等を用いることができる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体である酸化インジウム錫合金(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、金、白金、銀、銅等が例示できる。また、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、更にはグラフェン等の有機の透明導電体膜を用いてもよい。透明導電体膜の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、例えば、10nm~10μmとすることができ、好ましくは20nm~1μmとすることができ、より好ましくは50nm~500nmとすることができる。
【0084】
透明導電体膜は第二の基板の一方又は両方の主表面に形成されていてもよい。第二の基板としては、限定的ではないが、例えば、ガラス、プラスチック、セラミック、樹脂フィルム、シリコン、金属、鏡等の基板が挙げられる。エレクトロクロミック現象を視認しやすいという観点から、第二の基板は透光性であることが好ましく、透明であることがより好ましい。基板の形状についても特に制限はないが、例えば、基板の主表面が平面状及び曲面状である基板を使用することができる。
【0085】
電解質としては、限定的ではないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の化合物が好ましく、例えば、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、トリフルオロ硫酸リチウム、六フッ化砒酸リチウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラプロピルアンモニウム等の過塩素酸アンモニウム類、六フッ化リン酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラプロピルアンモニウム等の六フッ化リン酸アンモニウム類が挙げられる。
【0086】
また、電解質としては、液体電解質、ゲル状電解質及び固体電解質の何れを使用することも可能である。すなわち、全固体型のエレクトロクロミック素子を製造することも可能である。本発明に係るエレクトロクロミック素子は種々の用途に適用でき、特に制限はないが、例えば、眼鏡(例:レンズ)、ディスプレイ、カメラ(例:ファインダー表示)、電子書籍の表示画面、鏡(例:自動車の防眩用)、窓(例:住宅やオフィス用、自動車、船及び飛行機等の乗り物)及び電光掲示板などに適用可能である。これらの物品に本発明に係るエレクトロクロミック素子を実装する際は、当該素子を保護及び封止するための樹脂、ガラス、鏡等の封止部材を設けることもできる。
【0087】
例えば、本発明に係るエレクトロクロミック素子を眼鏡に適用する場合、眼鏡レンズに本発明に係るエレクトロクロミック素子を備えた眼鏡とすることができる。眼鏡レンズの材質としては特に制限はないが、プラスチック製及びガラス製が挙げられる。
【0088】
メガネレンズの積層構成例としては、レンズ本体/透明導電体膜/エレクトロクロミック膜/電解質膜/透明導電体膜という積層構造、及びレンズ本体/透明導電体膜/エレクトロクロミック膜/電解質膜/透明導電体膜/レンズ本体という積層構造が挙げられる。ここで、レンズ本体/透明導電体膜/エレクトロクロミック膜の積層構造は本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板によって提供される。一方の表層を構成する透明導電体膜の外表面には更に、樹脂製の保護層、プライマー層、ハードコート層、有機又は無機の反射防止層、撥水層、及び撥油層などの機能層を要求性能に応じて適宜設けてもよい。他方の表層を構成するレンズ本体の外表面にも今述べた機能層を適宜設けることができる。また、各層は密着性向上のために接着剤で貼り合わせてもよい。
【0089】
メガネレンズの積層構成の別の一実施形態としては、レンズ本体/透明導電体膜/エレクトロクロミック膜/電解質膜/透明導電体膜/レンズ本体という積層構造が挙げられる。各レンズ本体の外表面には先述した機能層を要求性能に応じて適宜設けることができる。
【実施例
【0090】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0091】
<実施例1>
(電解重合)
ビス(4′-(4-アミノフェニル)-2,2′:6′,2′′-テルピリジン)鉄(II)(BF42(以下、「ビステルピリジン金属錯体」という。)を以下の手順で合成した。市販のテルピリジン分子(4′-(4-アミノフェニル)-2,2′:6′,2′′-テルピリジン)406mgをメタノール160mLに加えて加熱し、そこにFe(BF42・6H2Oを203mg溶かしたメタノール溶液10mLを加えた。直ちに溶液の色が黄→紫に変化した。20分程度加熱還流した後、加熱を止め、NaBF4水溶液を加えて放冷した。生じた沈殿を吸引ろ過で回収し、水、エーテルで洗浄し、真空乾燥を行った。284mgの紫色粉末として目的のビステルピリジン金属錯体を得た。
【0092】
次に、図5に示すような、ポテンショスタット101、対電極102、作用電極103及び参照電極104を備えた電気化学測定用セル100を準備した。作用電極103としては、両主表面にITO膜が形成された平板状のガラス基板(W15mm×H32mm×D0.68mm)を使用した。ITO膜の表面は、当該ガラス基板をエタノールに浸して10分間超音波洗浄することによって予め清浄化した。対電極102としては白金製コイル状電極を使用した。参照電極104としては、Ag/AgCl電極を使用した。
【0093】
当該電気化学測定用セル内に、アセトニトリル:超純水=1:1の体積割合で混合した混合溶媒を入れた。当該溶媒中に、ビステルピリジン金属錯体の濃度が1mM、KPF6の濃度が100mMとなるようにビステルピリジン金属錯体及びKPF6を加えた。得られた溶液に対して、ステップ状の電位を繰り返し印加すること(クロノアンペロメトリー法)により、ビステルピリジン金属錯体の電解重合を行った。電位印加は、0V(vs Ag/AgCl)で2秒間→1.1V(vs Ag/AgCl)で5秒間→0V(vs Ag/AgCl)で5秒間→ポテンショスタットを停止して溶液攪拌(5秒間)を1サイクルとして、40サイクル繰り返した。
【0094】
その結果、ガラス基板のITO膜上に、剥離箇所の見られない濃紫色の膜が形成された。得られた膜付き基板をセルから取り出して、原子間力顕微鏡(Agilent Technology 5500 Scanning Probe Microscope)にて膜厚測定した。シリコン製カンチレバーPPP-NCH(Nano World)を用い、Tappingモードで膜の端部を複数箇所測定したところ、平均で420nmであった。
【0095】
(エレクトロクロミズム測定)
当該膜付き基板を、濃度1Mとしたテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(TBAPF6)のアセトニトリル溶液中に浸漬し、サイクリックボルタンメトリーをALS 650DTを用いてエレクトロクロミズム測定(掃引速度100mV/s)した。その結果、Fe3+/Fe2+に由来するサイクリックボルタモグラムが得られた。具体的には、酸化波のピークは0.96V(vs Ag/AgClO4)付近に見られ、膜付き基板は酸化により黄色になった。還元波のピークは0.65V(vs Ag/AgClO4)付近に見られ、膜付き基板は還元により紫色になった。このことから、上記で得られた膜がエレクトロクロミック膜であることが確認された。
【0096】
また、紫外可視分光測定により、作製した膜の吸光度を測定したところ、波長574nmにピークがあり、その吸光度は1.91であった。これにより、黄色の光に対して高い吸光度を示すことが確認された。
【0097】
<実施例2>
(基板への有機物の付着)
図5に示すような、ポテンショスタット101、対電極102、作用電極103及び参照電極104を備えた電気化学測定用セル100を準備した。作用電極103としては、両主表面にITO膜が形成されたガラス基板(W31mm×H50mm×D0.67mm)を使用した。ITO膜の表面はアセトン洗浄(超音波洗浄なし)によって予め清浄化した。但し、対電極102としては白金製コイル状電極に替えて白金製メッシュ電極を使用して、作用電極と主表面同士が向き合うように配置した。参照電極104としては、Ag/AgCl電極を使用した。
【0098】
当該電気化学測定用セル内に、濃度0.1Mの塩酸を入れた。この塩酸中に、アニリンの濃度が5mM、NaNO2の濃度が5mMとなるようにアニリン及びNaNO2を加え、室温及び大気圧下で、超音波洗浄装置で撹拌することにより、塩化ベンゼンジアゾニウムを生成した。得られた溶液に対し、開回路電位と-0.65V(vs Ag/AgCl)の間で1サイクル電位掃印(サイクリックボルタンメトリー法)を行って塩化ベンゼンジアゾニウムを還元し、ガラス基板のITO膜上に有機物を付着させた。
【0099】
(電解重合)
次に、図5に示すような、ポテンショスタット101、対電極102、作用電極103及び参照電極104を備えた電気化学測定用セル100を準備した。作用電極103としては、上記の手順によって得られた、有機物が付着したガラス基板を使用した。対電極102としては白金製メッシュ電極を使用し、作用電極と主表面同士が向き合うように配置した。参照電極104としては、Ag/AgCl電極を使用した。
【0100】
当該電気化学測定用セル内に、アセトニトリル:超純水=1:1の体積割合で混合した混合溶媒を入れた。当該溶媒中に、ビステルピリジン金属錯体の濃度が1mM、KPF6の濃度が100mMとなるようにビステルピリジン金属錯体及びKPF6を加えた。得られた溶液に対して、ステップ状の電位を繰り返し印加すること(クロノアンペロメトリー法)により、ビステルピリジン金属錯体の電解重合を行った。電位印加は、0V(vs Ag/AgCl)で2秒間→1.1V(vs Ag/AgCl)で5秒間→0V(vs Ag/AgCl)で5秒間→ポテンショスタットを停止して溶液攪拌(5秒間)を1サイクルとして、12サイクル繰り返した。
【0101】
その結果、ガラス基板のITO膜上に、剥離箇所の見られない濃紫色の膜が形成された。得られた膜付き基板をセルから取り出して、原子力間顕微鏡(Agilent Technology 5500 Scanning Probe Microscope)にて膜厚測定した。シリコン製カンチレバーPPP-NCH(Nano World)を用い、Tappingモードで膜の端部を複数箇所測定したところ、平均で468nmであった。
【0102】
また、紫外可視分光測定により、作製した膜の吸光度を測定したところ、波長573nmにピークがあり、その吸光度は1.18であった。
【0103】
当該膜付き基板が得られた膜がエレクトロクロミック膜であることは、実施例1と同様のエレクトロクロミズム測定により確認した。
【0104】
なお、実施例1及び実施例2は同様の実験を複数回行ったが、実施例1よりも実施例2のほうが安定して厚みの大きなエレクトロクロミック膜を得ることができた。
【0105】
<実施例3~6>
基板へ付着させる有機物の原料としてアニリンに替えて、p-アミノ安息香酸(実施例3)、α-ナフチルアミン(実施例4)、β-ナフチルアミン(実施例5)、又は1-アミノアントラセン(実施例6)を用いた他は、実施例2と同様の手順により、有機物の付着及びエレクトロクロミック膜付き基板の製造を行った。何れの芳香族アミンを使用した場合にも、途中で剥離することなく、実施例2と同程度の厚みのエレクトロクロミック膜が形成された。
【0106】
また、紫外可視分光測定により、作製した膜の吸光度を測定したところ、最大1.82(実施例3)、最大1.83(実施例4)、最大1.46(実施例5)、最大1.30(実施例6)であった。これにより、高い吸光度を示すことが確認された。実施例3~6の何れにおいても、吸収ピーク波長は572~573nmの範囲内であった。
【0107】
実施例3~6で得られた膜がエレクトロクロミック膜であることは、実施例1と同様のエレクトロクロミズム測定により確認した。
【0108】
<実施例7>
(基板への有機物の付着)
図5に示すような、ポテンショスタット101、対電極102、作用電極103及び参照電極104を備えた電気化学測定用セル100を準備した。作用電極103としては、両主表面にITO膜が形成されたガラス基板(W17mm×H33mm×D0.73mm)を使用した。ITO膜の表面は、当該ガラス基板をエタノールに浸して10分間超音波洗浄を行い予め清浄化した。対電極102としては白金製コイル状電極を使用し、参照電極104としては、Ag/AgClAg/AgCl電極を使用した。
【0109】
当該電気化学測定用セル内に、濃度0.1Mの塩酸を入れた。この塩酸中に、ビステルピリジン金属錯体の濃度が5mM、NaNO2の濃度が10mMとなるようにビステルピリジン金属錯体及びNaNO2を加え、室温及び大気圧下で、超音波洗浄装置で10分攪拌することによりジアゾニウム塩を生成した。得られた溶液に対し、開回路電位と-0.17V(vs Ag/AgCl)の間で1サイクル電位掃印(サイクリックボルタンメトリー法)を行ってジアゾニウム塩を還元すると、ガラス基板のITO膜上に有機物が付着した。有機物が付着したことは、紫外可視吸光スペクトルでの鉄錯体由来のピークの存在、及びサイクリックボルタンメトリーでの鉄錯体部位の酸化還元ピークの存在により確認した。
【0110】
(電解重合)
次に、図5に示すような、ポテンショスタット101、対電極102、作用電極103及び参照電極104を備えた電気化学測定用セル100を準備した。作用電極103としては、上記の手順によって得られた、有機物が付着したガラス基板を使用した。対電極102としては白金製コイル状電極を使用した。参照電極104としては、Ag/AgCl電極を使用した。
【0111】
当該電気化学測定用セル内に、アセトニトリル:超純水=1:1の体積割合で混合した混合溶媒を入れた。当該溶媒中に、ビステルピリジン金属錯体の濃度が1mM、KPF6の濃度が100mMとなるようにビステルピリジン金属錯体及びKPF6を加えた。得られた溶液に対して、ステップ状の電位を繰り返し印加すること(クロノアンペロメトリー法)により、ビステルピリジン金属錯体の電解重合を行った。電位印加は、0V(vs Ag/AgCl)で2秒間→1.1V(vs Ag/AgCl)で5秒間→0V(vs Ag/AgCl)で5秒間→ポテンショスタットを停止して溶液攪拌(5秒間)を1サイクルとして、40サイクル繰り返した。
【0112】
その結果、ガラス基板のITO膜上に、剥離箇所の見られない濃紫色の膜が形成された。得られた膜付き基板をセルから取り出して、原子間力顕微鏡(Agilent Technology 5500 Scanning Probe Microscope)にて膜厚測定した。シリコン製カンチレバーPPP-NCH(Nano World)を用い、Tappingモードで膜の端部を複数箇所測定したところ、平均で400nmであった。
【0113】
また、紫外可視分光測定により、作製した膜の吸光度を測定したところ、波長574nmにピークがあり、その吸光度は1.99であった。
【0114】
実施例7で得られた膜がエレクトロクロミック膜であることは、実施例1と同様のエレクトロクロミズム測定により確認した。
【0115】
<実施例8>
凸面の曲率半径が約520mm、凹面の曲率半径が約70mm、中心の厚さが約1mm、直径70mmのガラスレンズの凸面にITO膜を真空蒸着し、ITO膜付きガラスレンズを得た。このガラスレンズを眼鏡フレームの形に削り、50mm×30mm程度の大きさのITO膜付きガラスレンズを準備した。
【0116】
このITO膜付きガラスレンズの凸面上に、実施例2と同様の手順で、有機物の付着及びエレクトロクロミック膜の形成を行ってエレクトロクロミック膜付きガラスレンズを得た。次に、当該膜付きガラスレンズを、濃度1Mとしたテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(TBAPF6)のアセトニトリル溶液中に浸漬し、クロノアンペロメトリー法によりALS 650DTを用いてエレクトロクロミズム測定した。膜付きガラスレンズは+1.3V(vs Ag/AgClO4)の電圧をかけると酸化により消色(紫→黄)し、+0.3V(vs Ag/AgClO4)の電圧をかけると還元により発色(黄→紫)した。このことから、上記で得られた膜がエレクトロクロミック膜であることが確認された。
【0117】
<実施例9>
ITO膜付きガラスレンズの凸面上に付着させる有機物の原料としてアニリンに替えて、p-アミノ安息香酸を用いた他は、実施例8と同様の手順により、有機物の付着及びエレクトロクロミック膜付きガラスレンズの製造を行った。このエレクトロクロミック膜付き付ガラスレンズの凸面に、実施例8と同様に、電解質ポリマーフィルム及び導電性フィルムを貼り付けて、エレクトロクロミズム測定を行ったところ、実施例8と同様のエレクトロクロミック特性を示した。
【0118】
<実施例10>
実施例1と同様のITO膜付き平板状ガラス基板を用意した。ITO膜の表面は、当該ガラス基板をエタノールに浸して10分間超音波洗浄することによって清浄化した。次に、図5に示すような、ポテンショスタット101、対電極102、作用電極103及び参照電極104を備えた電気化学測定用セル100を準備した。作用電極103としてITO膜付き平板状ガラス基板を使用した。対電極102としては白金製コイル状電極を使用した。参照電極104としては、Ag/AgCl電極を使用した。対電極102としては白金製コイル状電極を使用した。参照電極104としては、Ag/AgCl電極を使用した。
【0119】
当該電気化学測定用セル内に、アセトニトリル:超純水=1:1の体積割合で混合した混合溶媒を入れた。当該溶媒中に、ビステルピリジン金属錯体の濃度が1mM、KPF6の濃度が100mMとなるようにビステルピリジン金属錯体及びKPF6を加えた。得られた溶液に対して、電位を時間当たり一定の割合で上昇させ、その後、一定の割合で下降させるサイクルを繰り返す印加方法(サイクリックボルタンメトリー法)により、ビステルピリジン金属錯体の電解重合を行った。電位を0V(vs Ag/AgCl)に2秒間保持した後に、1.1V(vs Ag/AgCl)へ上昇させ、その後-0.8V(vs Ag/AgCl)へと下降させた。以降-0.8Vと1.1V間の電位掃引を掃引速度0.1V/sで繰り返した。1組の電位上昇・下降過程を1サイクルとして10サイクル繰返し、エレクトロクロミック膜を作製した。
【0120】
次に、エレクトロクロミック膜付きガラス基板のエレクトロクロミック膜面上に厚み50μmのLiTFSI(リチウムトリフルイミド)を含有する電解質ポリマーフィルムを貼りつけ、その上に導電性フィルムを貼りつけ、最後に平板状のガラス基板を積層した。この積層体に対して、エレクトロクロミック膜付きITOと導電性フィルムの間に+4.0Vの電圧をかけると酸化により消色(紫→黄)し、-1.0Vの電圧をかけると還元により発色(黄→紫)した。このことから、上記で得られた膜がエレクトロクロミック膜であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明に係るエレクトロクロミック膜付き基板は、例えば、ディスプレイや電子書籍等の電子デバイスに使用するエレクトロクロミック素子として利用し得る。また、眼鏡のレンズ上にエレクトロクロミック膜を形成することで、視力矯正用又はファッション用の眼鏡を一時的にサングラスとして使用するという利用方法や、高齢者、視覚障害者に対してまぶしさ抑制と明るい視野確保を両立させるという医療用途での利用方法、眼鏡型ウェアラブルディスプレイの視認補助機能としての利用方法も可能となる。
【符号の説明】
【0122】
100 電気化学測定用セル
101 ポテンショスタット
102 対電極
103 作用電極
104 参照電極
図1
図2
図3
図4
図5