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特許7113449物質を吸着・除去するための吸着性発泡体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】物質を吸着・除去するための吸着性発泡体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/30 20060101AFI20220729BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20220729BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C08J9/30
B01J20/02 A
B01J20/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018112300
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019214668
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】菊地 敦紀
(72)【発明者】
【氏名】永澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】幾井 隆介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正史
(72)【発明者】
【氏名】古月 文志
(72)【発明者】
【氏名】坂田 一郎
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146847(WO,A1)
【文献】特開2016-155119(JP,A)
【文献】特開2015-174970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B01J 20/00-20/28、20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースとから形成される複合体を含む吸着性発泡体を製造する方法であって、
水系液体分散媒と、水分散性樹脂と、架橋剤と、起泡剤と、標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースから形成される複合体と、を含有する液状原料混合物を得る原料調製工程と、
前記液状原料混合物を機械発泡させて発泡混合物を得る発泡工程と、
基材上に前記発泡混合物をシート状に成形する成形工程と、
シート状に成形された前記発泡混合物を加熱して前記分散媒を蒸発させる乾燥工程と、
を含む吸着性発泡体の製造方法。
【請求項2】
原料調製工程、発泡工程、成形工程の少なくとも一部において、液状原料混合物または発泡混合物に気泡安定剤をさらに配合させることを特徴とする請求項1に記載の吸着性発泡体の製造方法。
【請求項3】
水分散性樹脂が、ウレタンエマルジョン、(メタ)アクリルエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸着性発泡体の製造方法。
【請求項4】
起泡剤がアニオン性界面活性剤であり、
気泡安定剤が前記アニオン性界面活性剤を析出させる金属カチオン源であることを特徴とする請求項2または3に記載の吸着性発泡体の製造方法。
【請求項5】
起泡剤が、炭素数12~18、不飽和度が2以下の炭化水素基を有するスルホコハク酸塩であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の吸着性発泡体の製造方法。
【請求項6】
標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤が、プルシアンブルーであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の吸着性発泡体の製造方法。
【請求項7】
標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースとから形成される複合体を含む吸着性発泡体であって、
吸着性発泡体の厚さは2mm以下であり、
吸着性発泡体の気泡の大きさは20~250μmであり、
吸着性発泡体は少なくとも一方の面において厚さ1μm以下のスキン層を備えており、
スキン層とは、発泡体中央部分と比較して高密度な領域であり、
前記標的とする物質を吸着・除去することができる吸着性発泡体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された吸着性発泡体または請求項7に記載の吸着性発泡体を用いて、前記標的とする物質を吸着・除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム、ヨウ素、トリウム、又はストロンチウム等の物質を低減ないし除去するために用いる吸着性発泡体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年に発生した東日本大震災で福島原発が倒壊し、放射性物質が環境中に流出するという問題が発生した。その中でも特に問題となっているものは、セシウム137である。セシウムは水溶性であり雨水、地下水、河川水などに溶解し、拡散するため早急な除染が求められている。
【0003】
物質を吸着・除去する技術としてゼオライトを用いた技術が一般に用いられている(例えば特許文献1)。ここで、対象物質が放射性物質の場合、交換する作業も容易ではないので、工数は少しでも少ない方が望ましい。しかし、ゼオライトは選択性が低く、放射性物質以外の環境中の物質も取り込んでしまい、すぐに目詰まりしてしまう。そのため除去効率が悪く、頻繁に取り換える必要がある。
【0004】
そこで、セシウムに対して選択性の高い素材としてプルシアンブルー並びにその類似化合物を使用した発明が提案されている(特許文献2)。プルシアンブルーはセシウムに対して、既存の素材の中で最も選択的に吸着できる素材であり、放射性物質の除染活動への応用が期待される。しかし、水に溶出しやすいという問題があった。そのため、これらを担持させた吸着材で除染作業してもプルシアンブルーが環境中に流出してしまい、流出したプルシアンブルーはセシウムを吸着し、セシウムが密集したエリア(ホットスポット)をつくってしまう。
【0005】
特許文献3は、上記のプルシアンブルーの環境中への流出について改善した発明を開示している。プルシアンブルーの水への溶出を抑制するためにナノセルロースと複合体(疑似錯体)を形成させてそれをポリビニルアルコールなどの親水性基材に担持させている。この文献によると親水性も考慮し、基材となる樹脂を選定している上、セシウムの吸着効率を高めるために多孔質体に成形している。環境中での除染作業を考慮してプルシアンブルーの溶出抑制、親水基材、多孔質体による吸着面積の向上と非常に優れた技術である。
【0006】
しかしながら、ポリビニルアルコール水溶液の調製、多孔質体の空隙部になる核材の添加、またその核材を取り除くための洗浄工程と工数が多い。これによって時間的、経済的なコストが増大し、大量に製造することが困難である。また、捕集物による処理速度の観点からすると、捕集物を薄くシート状に成形することが好ましいが、そのように製造することが困難であった。そのため現実的にはバッチ成形で対応するしかなく、処理速度及びコストの面で改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2007-526110号公報
【文献】特開2013-057575号公報
【文献】特開2016-155116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためのものである。すなわち、本発明の第1の課題は、前記捕集物を効率的に製造することが可能な方法を提供することである。また、本発明の第2の課題は、シート状の捕集物を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、ナノセルロース複合体を含む原料を所定の組成に調製することで工程の簡素化が可能となり、加えて吸着性発泡体をシート状に成形することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースとから形成される複合体(疑似錯体)を含む吸着性発泡体を製造する方法であって、
水系液体分散媒と、水分散性樹脂と、架橋剤と、起泡剤と、標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースから形成される複合体(疑似錯体)と、を含有する液状原料混合物を得る原料調製工程と、
前記液状原料混合物を機械発泡させて発泡混合物を得る発泡工程と、
基材上に 前記発泡混合物をシート状に成形する成形工程と、
シート状に成形された前記発泡混合物を加熱して前記分散媒を蒸発させる乾燥工程と、
を含む吸着性発泡体の製造方法である。
【0011】
本発明の製造方法は、原料調製工程、発泡工程、成形工程の少なくとも一部において、液状原料混合物または発泡混合物に気泡安定剤をさらに配合させてもよい。
【0012】
本発明の製造方法において、水分散性樹脂の少なくとも一部が、ウレタンエマルジョン、(メタ)アクリルエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョンから選択される1種以上であってもよい。
【0013】
本発明の製造方法において、起泡剤の少なくとも一部がアニオン性界面活性剤であってもよい。また気泡安定剤の少なくとも一部が前記アニオン性界面活性剤を析出させる金属カチオン源であってもよい。
【0014】
本発明の製造方法において、起泡剤の少なくとも一部が、炭素数12~18、不飽和度が2以下の炭化水素基を有するスルホコハク酸塩であってもよい。
【0015】
本発明の製造方法において、標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤の少なくとも一部がプルシアンブルーであってもよい。
【0016】
また、本発明は、
標的とする物質を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースとから形成される複合体(疑似錯体)を含む吸着性発泡体であって、
吸着性発泡体の厚さは2mm以下であり、
吸着性発泡体の気泡の大きさは20~250μmであり、
吸着性発泡体は少なくとも一方の面において厚さ1μm以下のスキン層を備えており、
スキン層とは、発泡体中央部分と比較して高密度な領域であり、
前記標的とする物質を吸着・除去することができる吸着性発泡体である。
【0017】
さらに本発明は、前記吸着性発泡体を用いて、前記標的とする物質を吸着・除去する方法である。特に、吸着剤がプルシアンブルーである吸着性発泡体を用いて、セシウムを吸着・除去する方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも簡素な工程によって短時間で前記捕集物を効率的に製造することが可能である。これにより、時間的/経済的なコストを低減でき、実用可能性を大きく改善することができる。また本発明によれば、捕集物をシート状に製造できるため捕集物による対象物質の除去速度効率を高めることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳述する。
【0020】
本発明は、物質を低減ないし除去するために用いる捕集物(吸着性発泡体)およびその製造方法並びにその捕集物を用いた物質の吸着除去方法を提供する。物質とは、任意の吸着剤によって吸着することが可能なものであれば特に制限されるものではなく、例えば、単原子分子、単体、化合物、イオンなどが挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法は、所定の液状原料混合物を調製するための原料調製工程を含む。
【0022】
所定の液状原料混合物は、水系液体分散媒と、水分散性樹脂と、起泡剤と、架橋剤(硬化剤)と、標的とする化学物質(標的物質)を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースから形成される複合体(疑似錯体)と、を含有する。一部の態様では、気泡安定剤をさらに含有する。
【0023】
水系液体分散媒は、典型的には親水性溶媒である。親水性溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N-メチルピロリドン等の極性溶剤等およびこれらの混合物が挙げられる。水系液体分散媒は、分散媒全量基準で、85質量%以上の水を含むことが好ましい。
【0024】
水系液体分散媒の含有量は、特に制限はなく、液状原料混合物の他の成分を除いた残部である。本発明を制限するものでないが、液状原料混合物全量基準で、70質量%未満、65質量%未満、60質量%未満であることが好ましい。他方、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上であることが好ましい。
【0025】
水分散性樹脂としては、水に分散可能な樹脂であれば特に制限はない。例えば、ウレタンエマルジョン、(メタ)アクリルエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョンおよびこれらの混合物が挙げられる。水中に分散し易くなるため、水分散性樹脂は親水基を有していることが好ましい。親水基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基等が挙げられる。
【0026】
ウレタンエマルジョンは、例えば直径0.01~5μmの球状のウレタン樹脂が水中に分散されたものである。ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートおよびポリオールにより生成される共重合体(ポリウレタン)を意味する。
【0027】
ポリイソシアネートとしては、ウレタン樹脂原料として通常に採用されるものであればよい。例えば、下記する2官能のポリイソシアネートや3官能以上のポリイソシアネートおよびこれらの混合物が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、芳香族系ポリイソシアネート、脂環式系ポリイソシアネート、アルキレン系ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0028】
2官能の芳香族系ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トルエンジイソシアネート(2,6-TDI)、m-フェニレンジイソシネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジアネート(2,4’-MDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-MDI)、水素添加MDI、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
【0029】
2官能の脂環式系ポリイソシアネートとしては、例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
2官能のアルキレン系ポリイソシアネートとしては、例えば、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
3官能以上のポリイソシアネートとしては、例えば、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4,4’-トリイソシアネート、メチルジフェニルメタン-4,6,4’-トリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’テトライソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、ポリメリックMDI、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、1,8-ジイソシアナトメチルオクタン等及びこれら変性体、誘導体等が挙げられる。
【0032】
ポリオールは、ウレタン樹脂原料として通常に採用されるものであればよい。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。また、グリセリンやトリメチロールエタン等の多価アルコールを用い、上記の環状エーテルを重合させて得ることもできる。
【0034】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等)、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等、もしくは、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。あるいはε-カプロラクトン、メチルバレロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
【0035】
ポリエステルエーテルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等、芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等、脂環族ジカルボン酸、例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコール、もしくはプロピレンオキシド付加物等のグリコール等、又は、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるものが挙げられる。
【0036】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの少なくとも1種と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリルエマルジョンは、例えば直径0.01~5μmの球状の(メタ)アクリル樹脂が水中に分散されたものである。(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸およびその誘導体の1種以上により生成される重合体または共重合体を意味する。なお、「(メタ)アクリル」という表記はアクリル、メタクリルのいずれでもよいことを意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」という表記はアクリレート、メタクリレートのいずれでもよいことを意味する。
【0038】
(メタ)アクリル酸の誘導体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートやヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アルリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0040】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0041】
エチレン酢酸ビニルエマルジョンは、例えば直径0.01~5μmの球状のエチレン酢酸ビニル樹脂が水中に分散されたものである。エチレン酢酸ビニル樹脂は、エチレンおよび酢酸ビニルから生成される共重合体を意味する。
【0042】
本発明において使用可能なエチレン酢酸ビニルエマルジョン(エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョン)の製法としては、特に限定されないが、例えばポリビニルアルコール等を保護コロイドとし、ヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース系誘導体や界面活性剤等を乳化分散剤として併用し、エチレンと酢酸ビニルモノマーとを乳化重合法により共重合して得ることができる。
【0043】
上記エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンは、例えば、カルボキシル基、エポキシ基、スルホン酸基、水酸基、メチロール基、アルコキシ酸基等の官能基を有するビニルモノマーが更に共重合されたものであってもよい。
【0044】
水分散性樹脂の含有量は、特に制限はないが、液状原料混合物全量基準で、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上が好ましく、他方60質量%以下、55質量%以下であることが好ましい。
【0045】
架橋剤(硬化剤)は特に制限はされない。用途等に応じて、必要量添加すればよい。具体的な架橋方法は、水分散性樹脂の種類に応じて選択することができる。架橋剤としては、公知の架橋剤を使用可能であり、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤などを、使用する樹脂配合系が含有する官能基の種類及び、官能基量に応じて適量使用することができる。
【0046】
架橋剤(硬化剤)としては、より具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルテレフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。
【0047】
架橋剤(硬化剤)の含有量は、特に制限はないが、液状原料混合物全量基準で、2質量%以上、3質量%以上が好ましく、他方6質量%以下、5質量%以下であることが好ましい。
【0048】
起泡剤は特に制限はされない。一部の界面活性剤が起泡剤として機能する。起泡剤として機能する限り、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを使用してもよい。気泡をより安定化し、気泡のサイズを小さくすることができ、層間剥離強度を向上させることができるため、アニオン性界面活性剤と両性界面活性剤を併用することが好ましい。
【0049】
起泡剤は水系液体分散媒に分散しやすくするため、HLBが10以上であることが好適であり、20以上であることがより好適であり、30以上であることが特に好適である。
本発明において、HLB値とは、親水性-疎水性バランス(HLB)値を意味し、小田法により求められる。小田法によるHLBの求め方は、「新・界面活性剤入門」第195~196頁及び1957年3月20日槙書店発行小田良平外1名著「界面活性剤の合成と其応用」第492~502頁に記載されており、HLB=(無機性/有機性)×10で求めることができる。
【0050】
起泡剤として機能するノニオン性界面活性剤(ノニオン性起泡剤)としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート等が挙げられる。
【0051】
起泡剤として機能するアニオン性界面活性剤(アニオン性起泡剤)としては、例えば、ステアリン酸やオレイン酸等の炭素数12~18の飽和または不飽和の脂肪酸塩、炭素数12~18の直鎖状または分枝状の不飽和度が2以下の炭化水素基を有する硫酸エステル塩、ベンゼンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、スルホネート塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩やナフタレンスルホン酸塩、等が挙げられる。なお、1分子内に複数の炭化水素基を有する場合には、炭化水素基は同一のものでも異なるものでもよい。これらの中でも、上記炭化水素基を有するスルホコハク酸塩が好ましい。炭化水素基がアルキル基またはアルケニル基であるアルキル/アルケニルスルホコハク酸塩が特に好ましい。なおアルキル/アルケニルスルホコハク酸塩は、アルキル基を1つ以上含むスルホコハク酸塩、アルケニル基を1つ以上含むスルホコハク酸塩、アルキル基およびアルケニル基を1つずつ含むスルホコハク酸塩の全てを意味する。
【0052】
これらアニオン性界面活性剤に含まれるカチオンに制限はない。通常は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属カチオンやアンモニウムイオンである。よってアニオン性界面活性剤の典型例は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩である。
【0053】
炭素数12~18の直鎖状または分枝状の不飽和度が2以下の炭化水素基としては、直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基やシクロアルキル基等が挙げられる。上記炭化水素基としてはアルキル基またはアルケニル基が好ましい。
【0054】
起泡剤として機能するアニオン性界面活性剤としては、より具体的には、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸アンモニウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ひまし油カリウム石鹸、やし油カリウム石鹸、ラウロイルサルコシンナトリウム、ミリストイルサルコシンナトリウム、オレイルサルコシンナトリウム、ココイルサルコシンナトリウム、やし油アルコール硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ジオレイルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルケニルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
起泡剤として機能するアニオン性界面活性剤としては、特に、炭素数12~18の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を有するアルキル/アルケニルスルホコハク酸ナトリウムまたはこれらの混合物が好ましい。
【0056】
起泡剤として機能するアニオン性界面活性剤は水系液体分散媒の起泡剤として機能し、またアニオン性界面活性剤の析出を行う際には、例えば、後述の金属カチオンとの反応によって分散媒に対して難溶化ないし不溶化される。
【0057】
アニオン性界面活性剤は、分散媒に当初溶解している成分であるが、アニオン性界面活性剤の析出を行う際には分散媒に対して難溶化ないし不溶化される。このようなアニオン性界面活性剤の難溶化ないし不溶化手段としては、特に限定されないが、アニオン性界面活性剤と共に、金属カチオン源、メラミン-ホルムアルデヒド縮合物の酸コロイド液、ビニルフェノール重合体などの凝結剤、等を配合することが例示出来る。アニオン性界面活性剤の難溶化ないし不溶化を行うことにより、主剤となる水分散性樹脂や分散剤等の種類を限定せずとも、微細且つ均一なセル構造を有する樹脂発泡体が形成可能となる。更には、アニオン性界面活性剤が難溶化ないし不溶化されるため、水等によって抽出され難くなる(即ち、ブリードの防止が可能となる)。また、強いゲル化強度となるため、発泡段階における気泡の合一化が強く抑制されることで気泡が安定化する。
【0058】
起泡剤として機能する両性界面活性剤(両性起泡剤)としては、例えば、アミノ酸型、アミンオキシド型、ベタイン型等の両性界面活性剤等が挙げられる。前述の効果がより高いことから、ベタイン型の両性界面活性剤が好ましい。
【0059】
起泡剤として機能するアミノ酸型の両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム、トリメチルグリシンナトリウム、ココイルタウリンナトリウム、ココイルメチルタウリンナトリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルメチル-β-アラニン等が挙げられる。
【0060】
起泡剤として機能するアミンオキシド型の両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミン-N-オキシド、オレイルジメチルアミン-N-オキシド等が挙げられる。
【0061】
起泡剤として機能するベタイン型の両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、イミダゾリニウムベタイン、カルボベタイン、アミドカルボベタイン、アミドベタイン、アルキルアミドベタイン、スルホベタイン、アミドスルホベタイン、ホスホベタイン等がある。アルキルベタイン、イミダゾリニウムベタイン、カルボベタインが特に好ましい。
【0062】
より具体的には、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジエチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジエチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジメチルアミノヒドロキシスルホベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジメチルアミノヒドロキシスルホベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジエチルアミノヒドロキシスルホベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジエチルアミノヒドロキシスルホベタイン、N-ラウリル-N,N-ジメチルアンモニウム-N-プロピルスルホベタイン、N-ラウリル-N,N-ジメチルアンモニウム-N-(2-ヒドロキシプロピル)スルホベタイン、N-ラウリル-N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシ-1-スルホプロピル)アンモニウムスルホベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(2-ラウリル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン2-ステアリル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等)、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルタイン等が挙げられる。
【0063】
この中でも、ステアリルベタイン、ラウリルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが好ましい。
【0064】
起泡剤の含有量は、特に制限はないが、液状原料混合物全量基準で、1質量%以上、1.5質量%以上が好ましく、他方4質量%以下、3.5質量%以下であることが好ましい。
【0065】
本発明に係る複合体(疑似錯体)は、標的とする化学物質を吸着・保持することができる吸着剤とナノセルロースから形成または構成される。
【0066】
本発明における標的とする化学物質とは、流体(例えば、水などの液体や空気などの気体)中や土中に含まれる化学物質等を意味する。例えば、セシウム、トリウム、ストロンチウム、ヨウ素等が挙げられ、特に、放射性セシウム、放射性トリウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素等の放射性物質が挙げられる。
【0067】
標的とする化学物質を吸着・保持することができる吸着剤とは、標的とする化学物質に対して高い結合力ないし選択性を有する一種類又は複数種類の吸着剤を意味する。このような吸着剤としては、例えば、プルシアンブルー、アルギン酸等のキレート形成物質等が挙げられる。プルシアンブルー(PB)はセシウム(特に放射性セシウム)の吸着剤として好適である。
【0068】
プルシアンブルーとしては、ヘキサシアノ鉄(II)塩化鉄(III)、フェロシアン化鉄(III)又はフェロシアン化鉄(II)と呼ばれるシアノ錯体やこれらの類似体を利用することができる。セシウムイオン等の標的とする化学物質に対して高い結合定数を有し標的とする化学物質と複合体(錯体ないし疑似錯体)を形成することができる性質を有すればよく、特定の配位状態や配位数を持つ錯体ないし疑似錯体には限定されない。また、本発明で利用するプルシアンブルーとしては、その平均の粒径が1nm~200nmであれば良いが、10nm~20nmであることが好ましい。
【0069】
ナノセルロースとは、繊維の平均長さが10μm~1000μmであり、繊維の平均直径が1nm~800nmになるまで微細化されたセルロースを意味する。ナノセルロースは、セルロースナノファイバー(CNF)とも呼ばれる。作製方法は任意であり、例えば、市販のセルロース(α-セルロース、酢酸セルロース等)を、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等の微細化処理装置を用いて微細化してもよい。ナノセルロース分散物は、市販のセルロース(α-セルロース、酢酸セルロース等)を、脱イオン水又はその他の分散媒体と共に、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等の微細化処理装置を用いて、溶媒内にセルロースを分散させる処理(以下「分散処理」という。)をすることで得ることができる。
【0070】
ナノセルロース分散物の分散媒体としては特に制限はないが、典型的には親水性溶媒が挙げられる。親水性溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N-メチルピロリドン等の極性溶剤等およびこれらの混合物が挙げられる。分散媒体は、分散媒体全量基準で、85質量%以上の水を含むことが好ましい。
【0071】
ナノセルロースの分散処理は、例えば、ナノセルロースと脱イオン水を、セルロースが脱イオン水に対して0.01~10wt%の量比になるように調整し、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等を用いて混合することによって調製することができる。なお、ここでいう「分散」とは、溶解や懸濁を含む広義の分散を意味し、例えば、ナノセルロースが全て溶解している態様、全て懸濁している態様、一部が溶解し一部が懸濁している態様等を意味する。
【0072】
ナノセルロース/吸着剤の複合体(疑似錯体)を調製する方法またはナノセルロースに吸着剤を担持させる方法は任意である。ナノセルロースは多数のヒドロキシ基を有することから、ナノセルロースと吸着剤(例えば、プルシアンブルー、アルギン酸等のキレート形成物質)とが化学結合してもよい。
【0073】
より具体的には、ナノセルロースに対して鉄(III)イオン等の陽イオンを結合させ、ナノセルロースと陽イオンの複合体(疑似錯体)を形成させた後、かかる複合体(疑似錯体)に対してヘキサシアノ鉄(II)酸などの錯イオンを結合させることでナノセルロース/吸着剤の複合体(疑似錯体)を調製してもよい。この方法によって、例えば、ナノセルロース/プルシアンブルーの複合体(疑似錯体)を調製することができる。
【0074】
特にナノセルロース/プルシアンブルーの複合体(疑似錯体)は、ナノセルロース分散物の濃度が0.01~10wt%及びプルシアンブルー(MW=859.23g/mol)の濃度が1.0mM~0.5Mとなるようにし、分散処理前のナノセルロース1質量部に対してプルシアンブルーを0.1~100質量部の比率にすることで、適当な媒体中で調製することができる。さらに、好ましくは水中で混合することで調製することができる。混合工程には特別な条件を必要とはせず、例えば、混合物全量が10リットルの場合は、4℃~45℃で、30~120分間の範囲で適宜調整することができる。このようにして調製される複合体(疑似錯体)を含む液体は、ナノセルロース/プルシアンブルー複合体(疑似錯体)の溶液ないしコロイド溶液として表すこともできる。
【0075】
ナノセルロース/吸着剤の複合体(疑似錯体)における、ナノセルロースと吸着剤の質量比は特に制限はなく吸着剤の種類によって変動する。ナノセルロースの質量に対する吸着剤の質量の比は1/5以上、1/3以上としてもよい。他方、5以下、3以下としてもよい。
【0076】
ナノセルロース/吸着剤の複合体(疑似錯体)の含有量は、特に制限はないが、液状原料混合物全量基準で、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上が好ましく、他方10質量%以下、8質量%以下、6質量%以下であることが好ましい。
【0077】
吸着剤の含有量は、特に制限はないが、液状原料混合物全量基準で、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上が好ましく、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下が好ましい。
【0078】
所定の液状原料混合物は、さらに気泡安定剤(ゲル化剤)を含有してもよい。
【0079】
ある態様では、原料調製工程において気泡安定剤(ゲル化剤)を配合させる。別の態様では、後述する発泡工程や成形工程において気泡安定剤(ゲル化剤)を配合させる。原料調製工程において配合する方が、工程を簡素化できる点で好ましい。
【0080】
気泡安定剤(ゲル化剤)としては、起泡剤として説明した前記アニオン性界面活性剤との組み合わせによって、後述する発泡混合物をゲル化するための金属カチオン源が挙げられる。金属カチオン源(または金属カチオン源化合物)は、金属カチオンを供給する。供給された金属カチオンは、液状原料混合物に溶解しているアニオン性界面活性剤と反応して、前記アニオン性界面活性剤よりも溶解度が比較的小さい塩(難溶性塩、不溶性塩)を形成する。これによって当該溶解度が比較的小さい塩が析出する。
【0081】
金属カチオン源が供給する金属カチオンは、特に制限はなく、アニオン性界面活性剤との組み合わせに応じて決定される。典型的には、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオン、アルミニウムイオン等の多価金属カチオンが挙げられる。
【0082】
金属カチオン源としては、前記したような金属カチオンを供給する化合物であれば特に制限はなく無機化合物でも有機化合物でもよい。このような化合物としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酸化物、水酸化物、酢酸塩等が挙げられる。
【0083】
金属カチオン源としては、より具体的には、硫酸ベリリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、硫酸ラジウム、硫酸アルミニウム、硝酸ベリリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸ラジウム、硝酸アルミニウム、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化ラジウム、塩化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ラジウム、酸化アルミニウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ラジウム、水酸化アルミニウム、酢酸ベリリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、酢酸ラジウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。
【0084】
気泡安定剤(ゲル化剤)の含有量は、特に制限はないが、液状原料混合物全量基準で、1質量%以上、1.5質量%以上が好ましく、4質量%以下、3.5質量%以下であることが好ましい。
【0085】
これらを混合する順序やタイミングは、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、任意であり特に限定されない。
【0086】
液状原料混合物には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、他の成分を配合させてもよい。そのような他の成分としては、例えば、DNAやアルギン酸等の水溶性高分子等が挙げられる。
【0087】
これら任意の追加成分の含有量は、特に制限はないが、液状原料混合物全量基準で、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0088】
本発明の製造方法は、液状原料混合物を発泡させて発泡混合物を得る発泡工程を含む。
【0089】
発泡工程では、原料調製工程で得られた液状原料混合物に発泡用流体を添加し、これらを充分に混合させて液状原料混合物中に気泡が多数存在する状態(発泡混合物)にする。この発泡工程は、通常は、原料調製工程で得られた液状原料混合物と、発泡用流体とをミキシングヘッド等の混合装置により充分に混合することで実行される。
【0090】
発泡工程で液状原料混合物に混合される発泡用流体は、吸着性発泡体の気泡(セル)を形成するものであり、この発泡用流体の混入量によって、得られる吸着性発泡体の発泡倍率および密度が決まる。吸着性発泡体の密度を調整するためには、所望の吸着性発泡体の密度と、吸着性発泡体の原料の体積(例えば、吸着性発泡体の原料が注入される成形型の内容積)とから、必要な吸着性発泡体の原料の重量を算出し、この重量において所望の体積となるように発泡用流体の量を決定すればよい。
【0091】
発泡用流体の種類としては、主に空気が使用されるが、その他にも、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを使用することもできる。発泡体を薄く形成する点では、発泡セル径は小さくできる超臨界流体または亜臨界流体(例えば超臨界/亜臨界の窒素や二酸化炭素)が好ましい。工程の簡素化およびそれによる製造効率の向上の点では、空気が好ましい。
【0092】
発泡手段としては、メカニカルフロス(機械発泡)法を使用する。メカニカルフロス法は、液状原料混合物を撹拌羽根等で撹拌することにより、大気中の空気などの発泡用流体を液状原料混合物に混入させて発泡させる方法である。撹拌装置としては、メカニカルフロス法に一般に用いられる撹拌装置を特に制限なく使用可能であるが、例えば、ホモジナイザー、ディゾルバー、メカニカルフロス発泡機等を使用することができる。このメカニカルフロス法によれば、液状原料混合物と発泡用流体との混合割合を調節することによって、種々の用途に適した密度の吸着性発泡体を得ることができる。
【0093】
液状原料混合物と発泡用流体との混合時間は特に制限されないが、通常は1~10分、好ましくは2~6分である。混合温度も特に制限されないが、通常は常温である。また、上記の混合における撹拌速度は、気泡を細かくするために200rpm以上または500rpm以上が好ましくい。他方、発泡機からの発泡物の吐出をスムーズにするために2000rpm以下、1200rpm以下または800rpm以下が好ましい。
なお、常温とは5~35℃、15~30℃または20~25℃を意味する。
【0094】
発泡工程において、原料調製工程で得られた液状原料混合物に所定のゲル化手段を用いて、ゲル化された液状原料混合物を得てもよい。ゲル化剤を用いる場合には、原料調製工程で得られた液状原料混合物と、発泡用流体と、ゲル化剤とをミキシングヘッド等の混合装置により充分に混合することで実行される。本発明でいうゲル化した液状原料混合物とは、ゲル化している途上の液状原料混合物及び完全にゲル化した液状原料混合物の両方を指すものである。
【0095】
ゲル化の完了により、ゲル化した液状原料混合物中に存在する発泡用流体は気泡として保持されることになる。この気泡は、そのまま最終的に得られる樹脂発泡体のセルとなるため、この気泡の大きさはセル径を決定することになる。
【0096】
本発明においては発泡体の気泡の大きさ(発泡セル径)を20~250μmまたは30~200μmに調整することが好ましい。セル径が小さすぎると、標的とする化学物質に汚染された流体(例えば水)を浄化する際、単位時間当たりの流体の流量が制限されることとなり、処理速度の低下を招くため好ましくない。他方、セル径が大きすぎると、薄く成形した場合ピンホールができ易くなる。この場合、機械的強度に問題を生じ、また標的物質を含む流体を通過させて標的物質を除去する場合において接触確率の低下を招くため好ましくない。すなわちシート状に成形すると問題を生じてしまうため好ましくない。
【0097】
液状原料混合物のゲル化手段としては、何ら限定されず、用途等に応じて適宜選択すればよい。起泡剤として含有されるアニオン性界面活性剤と共に金属カチオン源を配合することにより、アニオン性界面活性剤を析出(難溶化ないし不溶化)させることでゲル化させてもよい。または、HLB値が異なる複数の界面活性剤を配合することでゲル化させてもよい。界面活性剤が互い違い配向することで界面活性剤の密度が向上し、親水基と水との水素結合が高まり、水系液体分散媒の流動性を低下しゲル化に繋がる。あるいは、形成するミセルの形状が異なる複数の界面活性剤を配合し、ミセルのネットワークを形成することでゲル化させてもよい。
【0098】
アニオン性起泡剤(起泡剤として機能するアニオン性界面活性剤)を析出させる金属カチオン源を液状原料混合物に添加する場合、添加のタイミングは特に制限されない。前述した通り、原料調製工程において配合させてもよいし、発泡工程において配合させてもよい。原料調製工程において配合する方が、工程を簡素化できるため好ましい。
【0099】
ゲル化時間が短い場合や、溶解度の大きい水溶性塩を用いる場合は、原料調製時に添加するとゲル化による増粘で混入できる発泡用流体の量が減少し高密度な発泡体になるため、発泡直前もしくは発泡時に添加することが好ましい。
【0100】
他方、ゲル化時間が長い場合や、徐放性難溶性塩を用いる場合は、発泡直前もしくは発泡時に添加すると気泡の合一により微細なセル構造が成形できないため、原料調製時に添加することが好ましい。金属カチオン源を原料調製時に添加することは、工程の簡略化に繋がる利点もある。
【0101】
本発明において、用語「水溶性」とは、25℃の100gの水に対して溶解ないし分散する量が1g以上であることを意味する。用語「難溶性」とは、25℃の100gの水に対して溶解ないし分散する量が1~5gであることを意味する。用語「不溶性」とは、25℃の100gの水に対して溶解ないし分散する量が1g未満であることを意味する。
【0102】
アニオン性界面活性剤の析出工程は、主に、発泡後、起泡剤であるアニオン性界面活性剤(アニオン性起泡剤)を析出させることによって、系にチキソ性を付与するものであるが、析出工程としては、これとは異なる手法も考えられる。
【0103】
例えば、発泡後、系内に存在している水可溶型成分(例えば、アニオン性起泡剤由来の金属カチオン、水溶性樹脂中に含まれている成分、予め添加しておいた水可溶型成分)を析出させる手法を挙げることができる。例えば、アニオン性起泡剤由来の金属カチオンを用いて析出させる手法としては、当該金属カチオンと結合して析出する別の成分を添加することで実現できる。より好適な例は、起泡剤であるアニオン性界面活性剤とは別のアニオン性界面活性剤を添加する手法である。アニオン性界面活性剤の水への溶解性は、一般に、多価金属塩{例えば、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩)}<アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩)<アンモニウム又はアミン塩、の順である。この性質を利用し、例えば、アニオン性起泡剤として水溶性の高い塩(例えば、第1のアニオン性界面活性剤のナトリウム塩)と前記水可溶型カチオンと難溶性または不溶性の塩を形成する第2のアニオン性界面活性剤(例えば、アンモニウム塩)を用いることで、カチオン交換反応により第2のアニオン性界面活性剤は、ナトリウム塩を形成し系外に排出される。第1のアニオン性起泡剤は難溶・不溶化されることなく起泡性を維持する。ここで、例えば、前記例の場合、第2のアニオン性界面活性剤は、アンモニウム塩としては水に可溶するが、アルカリ金属塩としては水に難溶ないし不溶なものである。このような第2のアニオン性界面活性剤を系に添加することにより、第2のアニオン性界面活性剤はカチオン交換(例えば、アンモニウム→ナトリウムイオン)し、水可溶型→水難溶型ないし水不溶型に変化する。これにより、系の流動性は低下し、上で詳述したアニオン性起泡剤を析出させる態様と同様、低気泡径等を有する発泡体を製造することが可能となる。なお、第1のアニオン性界面活性剤、第2のアニオン性界面活性剤はその組み合わせによって配合するタイミングをそれぞれ変更してもよい。起泡前に双方を配合した後、ゲル化させながら起泡させてもよい。あるいは第1のアニオン性界面活性剤を配合した後、起泡させ、起泡中または起泡終了後に第2のアニオン性界面活性剤を配合しゲル化させてもよい。
【0104】
例えば、アニオン性起泡剤としてアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩)を少なくとも用いた場合を想定する(当然のことながら他の界面活性剤を併用してもよい)。この場合、第2のアニオン性界面活性剤として長鎖脂肪酸(例えば、炭素数16~22)アンモニウム(例えば、ステアリン酸アンモニウム等)を用いると、アニオン性起泡剤由来のアルカリ金属イオン(例えばナトリウムイオン)と第2のアニオン性界面活性剤由来の長鎖脂肪酸とが反応し、難溶性塩または不溶性塩として脂肪酸アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩)を析出させることが可能となる。尚、アニオン性起泡剤として、中鎖脂肪酸(例えば、炭素数8~15)のアルカリ金属塩(例えば、ドデカン酸ナトリウム等)を用いることも想定する(この場合は、上で詳述したアニオン性起泡剤を難溶化ないし不溶化させる態様に該当する)。この場合、起泡した系に、多価金属イオン(例えば、カルシウムイオン)を添加する。これにより、当該多価金属イオンとアニオン性起泡剤由来の短鎖脂肪酸とが反応し、難溶性塩または不溶性塩として脂肪酸多価金属塩(例えばカルシウム塩)を析出させることが可能となる。
【0105】
なお、アニオン性界面活性剤の析出工程としては、上述した方法を適宜組みあわせてもよい。
【0106】
本発明の製造方法は、前述する発泡工程と後述する乾燥工程との間に、基材上に発泡混合物をシート状に成形する成形工程を含む。
【0107】
基材は、特に制限はなく、樹脂発泡体の基材として通常使用されるものが使用可能である。吸着性発泡体の原料成分を浸透させない伸縮性の低いシート状の基材が好ましい。
【0108】
このような観点から基材は、PETフィルム、不織布、織物、紙などが好ましい。なかでも、目付量が30~150g/m、厚みが50~500μmの不織布が特に好ましい。
【0109】
シート状とは、奥行、幅、厚さの中で、厚さが奥行および幅に対して十分小さいことを意味する。例えば、奥行および幅の厚さに対する比率がそれぞれ5以上、10以上または15以上であればシート状と表現してよい。
特に吸着性発泡体に関しては、奥行および幅が5cm以上の条件下において、厚さが2mm以下、1.5mm以下または1mm以下であるとき、その吸着性発泡体はシート状であると表現する。
【0110】
基材上に成形するための手段は、特に制限されず、公知の手段が使用可能である。通常は基材上に塗工することで成形される。基材上に塗工された半固形状の発泡混合物は、ドクターナイフ、ドクターロール等の手段によって所望の厚みに高い精度で成形される。
【0111】
本発明の製造方法は、発泡させた液状原料混合物(発泡混合物)を加熱して前記分散媒を蒸発させる乾燥工程を含む。
【0112】
乾燥工程の乾燥方法としては特に制限されるものではない。例えば、熱風乾燥等を用いてもよい。乾燥工程の温度および時間は、適宜調整し得るものであるが、例えば、80℃程度で1~3時間程度としてもよい。
【0113】
乾燥工程において、発泡混合物から分散媒が蒸発するが、この蒸気が抜ける際の通り道が、吸着性発泡体の内部から外部まで連通される。従って、本発明の吸着性発泡体では、蒸気が抜ける際の通り道が連続気泡として残るため、吸着性発泡体中に存在する気泡の少なくとも一部が連続気泡となる。
【0114】
発泡工程で混入された発泡用流体がそのまま残存している場合には、得られた吸着性発泡体中では独立気泡となり、混入された発泡用流体が、本工程において蒸気が抜ける際に連通された場合には、得られた吸着性発泡体中では連続気泡となる。本発明においては、吸着性発泡体中の気泡の一部が連続気泡であってもよいし、全ての気泡が連続気泡であってもよい。
【0115】
架橋剤(硬化剤)を添加した場合には、乾燥工程では、原料の架橋(硬化)反応を進行及び完了させる。具体的には、上述した架橋剤(硬化剤)により原料同士が架橋され、硬化した発泡体ができる。この際の加熱手段としては、原料に充分な加熱を施し、原料を架橋(硬化)させ得るものであれば特に制限はされないが、例えば、トンネル式加熱炉等を使用することができる。また、加熱温度及び加熱時間も、原料を架橋(硬化)させることができる温度及び時間であればよく、例えば、80~150℃(特に、120℃程度が好適)で1時間程度とすればよい。
【0116】
以上の通り説明した本発明の製造方法によれば、シート状の吸着性発泡体を製造することが可能である。
【0117】
従来製法では、吸着性発泡体をシート状に成形することができず、ある程度大きい吸着性発泡体を製造するしかなかった。標的物質を含有する流体(例えば水などの液体)から標的物質を捕集して当該流体を浄化するためには、その流体を吸着性発泡体に通過させる必要がある。しかし、シート状ではない吸着性発泡体に通過させるには印加する圧力は相当大きい必要がある。そうすると昇圧装置を要するなどコスト面においても不利であり、また吸着性発泡体の抵抗による流体流速の低下から当該流体の浄化速度が大きく制限され時間効率の面においても不利である。さらに例えば、放射性セシウムなどの放射性物質の捕集に使用する場合、従来品では、意図せず大量の放射性物質を捕集してしまい作業者が想定よりも被曝してしまう懸念があった。本発明の製造方法では、吸着性発泡体をシート状に成形することが可能となる。シート状に成形することで、これら問題を回避または低減することに繋がる。
【0118】
さらに本発明の製造方法によれば、少なくとも一方の面において、吸着性発泡体はスキン層(比較的高密度な層)を有する。このスキン層が存在することで、適度な機械的強度を吸着性発泡体に付与することができる。これによって、浄化させる流体を通過させてもシート状の吸着性発泡体が破断し難くなる。
【0119】
このように上記の製造方法によって製造されたシート状の吸着性発泡体は以下の構成を有する。
【0120】
シート状の吸着性発泡体は、ナノセルロース/吸着剤の複合体を含む。このため吸着性発泡体は吸着剤に由来する捕集能力を有し、吸着剤が標的とする物質を捕集することができる。適切な吸着剤を選択すれば、吸着性発泡体は例えば、セシウム、トリウム、ストロンチウム、ヨウ素(特に放射性セシウム、放射性トリウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素)を吸着・保持することができる。このような吸着剤としてプルシアンブルーが挙げられる。プルシアンブルーはセシウムに対する優れた吸着剤である。したがって、典型例の吸着性発泡体は、ナノセルロース/プルシアンブルー複合体を含有し、含有するプルシアンブルーによってセシウム(特に放射性セシウム)を吸着・保持することができる。
【0121】
また製造方法の関係から、吸着性発泡体は上記の水分散性樹脂、架橋剤も含む。これらはネットワーク構造を形成している。
【0122】
吸着性発泡体の厚さは、2mm以下、1.5mm以下、1mm以下、0.8mm以下、0.6mm以下または0.5mm以下である。ある程度の機械強度を確保する観点から、吸着性発泡体の厚さは0.01mm以上、0.05mm以上または0.1mm以上が好ましい。
【0123】
吸着性発泡体の見掛け密度(JIS K6401)は、特に制限はない。例えば、50~500kg/m、100~300kg/mとしてもよい。密度が低すぎると吸着性発泡体の機械的強度が低下する恐れがあり、また体積あたりの吸着剤の量(濃度)も低下するため吸着処理効率が低下する恐れがある。逆に密度が高いことは独立気泡構造に近く、連続気泡が少ないことを意味する。そのため流体が吸着性発泡体内部へ浸透する量や速度が低下する恐れがあり、吸着性発泡体内部の吸着剤と標的物質とが十分に接触できず吸着効率が低下してしまう。
【0124】
吸着性発泡体の気泡の大きさ(発泡セル径、セルサイズ)は、20~250μmまたは30~200μmである。本発明において吸着性発泡体の気泡の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社キーエンス製、VHXD-500)を用いて吸着性発泡体の厚さ方向断面の写真を撮影して測定する。当該写真中のセルについて、画像処理ソフトImage-Pro PLUS(Media Cybernetics社製、6.3ver)を用いて、各セル径を計測してその平均値を気泡の大きさと定義している。
【0125】
吸着性発泡体は、少なくとも一方の面においてスキン層を備える。スキン層は、発泡体を厚さ方向に切断した際の中央部分と比較して樹脂等が高密度に存在する領域である。これは発泡体を厚さ方向に切断した際の発泡体中央部分よりも、気泡の密度が小さい、および/または、平均発泡セル径が小さいためである。このスキン層が存在することは、厚さ方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観測することで確かめられる。このスキン層は非常に薄く、最大でも1μm以下である。発泡体中央部分よりも高密度で、かつ、非常に薄いスキン層が存在することによって、吸着性発泡体における流体の流通や吸着性発泡体の捕集能力への悪影響を最小限にしつつ、吸着性発泡体に適度な機械的強度が与えられる。
【0126】
上述した通り、本発明の吸着性発泡体は当該吸着性発泡体が含有する吸着剤によって、当該吸着剤が標的とする物質を吸着することができる。したがって本発明によれば、当該吸着性発泡体シートを用いて当該標的物質を吸着・除去する方法(捕集する方法)が提供される。吸着性発泡体が吸着・除去方法に使用される際、基材は吸着性発泡体から取り外されてもよい。
【実施例
【0127】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
実施例および比較例の吸着性発泡体を以下の手順によって製造した。
【0129】
まず、特許文献3(特開2016-155116号公報)に記載の方法に従ってナノセルロース/プルシアンブルー複合体(疑似錯体)を形成させた。
【0130】
次に、表1~2に記載の組成を有する液状原料混合物(分散媒は純水)をそれぞれ調製した(数値は質量部を意味する)。気泡安定剤は発泡させる前に配合した。これに発泡用流体として大気中の空気等の気体を採用し、機械発泡法を用いて、それぞれの液状原料混合物を撹拌して発泡させた。発泡させた混合物(発泡混合物)を、離形処理を施したPETフィルム(基材)の上にキャストした後、コーターによってシート状に成形した。これを150℃において10分間に亘って加熱/乾燥させて分散媒を蒸発させた。こうしてシート状の吸着性発泡体を製造した。これら吸着性発泡体について下記の評価試験を実行し、その結果も表1~2に記載した。
【0131】
使用した化合物は以下の通りである。
水分散性樹脂1:ウレタンエマルジョン(固形分60質量%)
水分散性樹脂2:アクリルエマルジョン(固形分54質量%)
水分散性樹脂3:エチレン酢酸ビニルエマルジョン(固形分54質量%)
アニオン性起泡剤1:炭化水素基を有するスルホコハク酸ナトリウム(pH9.3、固形分35質量%、炭化水素基は炭素数12~18のアルキル基、アルケニル基)
アニオン性起泡剤2:ステアリン酸アンモニウム(pH11、固形分30質量%)
両性起泡剤1:ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(pH7.5、固形分30質量%)
両性起泡剤2:ミリスチルベタイン(pH6.5、固形分36質量%)
ノニオン性起泡剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(pH6.5、固形分50質量%)
気泡安定剤(金属カチオン源):濃度30質量%の硝酸カルシウム水溶液(pH6.1)
吸着剤複合体:ナノセルロース(CNF)とプルシアンブルー(PB)の複合体(疑似錯体)溶液(pH3.0、固形分50質量%、CNFとPBの質量比は1:1)
架橋剤(硬化剤):疎水系HDIイソシアヌレート(官能基数3.5)
【0132】
<評価方法>
製造したそれぞれの吸着性発泡体について以下の評価試験によって性能を評価した。
【0133】
吸着性発泡体の厚みをシックネスゲージによって測定した。
【0134】
(密度評価)
吸着性発泡体の見掛け密度をJIS K6401に準拠して測定した。
【0135】
(セルサイズ評価)
走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社キーエンス製、VHXD-500)を用いて吸着性発泡体の厚さ方向断面の写真を撮影した。写真中のセルについて、画像処理ソフトImage-Pro PLUS(Media Cybernetics社製、6.3ver)を用いて、各セル径を計測してその平均を算出した。なお、このときいずれの吸着性発泡体においても両面に厚さ1μm以下のスキン層が確認された。
【0136】
(吸水性評価)
イオン交換水1滴(0.033mL)を吸着性発泡体の試験片に滴下し、完全に染み込むまでの時間を測定した。試験片は幅5cm×奥行5cmのシート状であり、中央および四隅の5ヶ所について行い吸水に要する平均時間を算出する。評価基準は以下の通りである。
〇:平均吸水時間が10秒以内
△:平均吸水時間が10秒超から60秒以内
×:平均吸水時間が60秒超
【0137】
(外観評価)
目視においてセルの状態および吸着性発泡体の表面を評価した。評価基準は以下の通りである。
〇:セルが均一、かつ、表面が荒れていない
△:セルが不均一な部分がある、または、表面が荒れている
×:セルがない(発泡していない)、セルが不均一、または、表面が極めて荒れている
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
(プルシアンブルー溶出試験)
1gの実施例2の吸着性発泡体シート(PB含有率:2.5wt%)を所定pHの40mLのイオン交換水の中に投入し、20℃で300rpmの条件にて24時間撹拌させた。イオン交換水のpHは水酸化ナトリウム水溶液または硫酸水溶液を添加することで1~13(1刻み)に調整した。
撹拌後、吸着性発泡体を取り出して残存液体について全シアン濃度(プルシアンブルーの溶出量)および遊離シアン濃度を評価した。全シアン濃度の測定には株式会社共立理化学研究所製の全シアン濃度(低濃度)セット(型式:WA-CNT(L))を使用した。遊離シアン濃度の測定には株式会社共立理化学研究所製のデジタルパックテストマルチ(ラムダ-9000)を使用した。
【0141】
全シアン濃度に関してはpH1~11の範囲では検出限界値以下であった。pH12では98ppm、pH13では135ppmが検出された。
遊離シアン濃度に関してはpH1~9の範囲では検出限界値以下であった。pH10では0.015ppm、pH11では0.017ppm、pH12では0.10ppm、pH13では0.32ppmであった。
pHが小さい領域(酸性領域、中性領域、弱アルカリ性領域)ではプルシアンブルーが全く溶出しないことが確認できた。またpHが大きい領域においても、その溶出量は非常に少ないことが確認できた。この結果は、プルシアンブルーはナノセルロースに強固に保持され、またこれらの複合体(疑似錯体)は吸着性発泡体に強固に保持されていることを意味する。
【0142】
(セシウム吸着試験)
硝酸セシウムを脱イオン水、海水にそれぞれ溶かし、セシウム水溶液を作製した。セシウムイオンの濃度は100ppb、200ppb、300ppb、500ppb、1000ppb(1.0ppm)、3.0ppm、5.0ppm、10ppm、20ppm、50ppm、100ppmとした。
【0143】
約200mgの実施例2の吸着性発泡体シートを30.0mLの上述セシウム水溶液にそれぞれ加えた後、室温で24時間振動させた。その後、溶液中のセシウムイオンの濃度変化をICP-MSを使い測定し、吸着性発泡体シートのセシウムイオンに対する吸着容量を算出した(サンプル数3個の平均値を使用した)。本発明の吸着性発泡体(PB含有率:2.5wt%)は、脱イオン水を用い作製したセシウム水溶液の場合は、その飽和吸着量は1.17mg/gであった。一方、海水を用い作製したセシウム水溶液の場合は、その飽和吸着量は1.08mg/gであった。
比較例1の吸着性発泡体シート(プルシアンブルーを含まないシート状の吸着性発泡体)の吸着容量について同様に測定した。吸着容量はμg/g程度であり、本発明の吸着性発泡体と比べて捕集性能が大きく劣っていた。本発明の方法によって製造されたシート状の吸着性発泡体が、吸着剤に由来する吸着性能を有することが確認できた。
【0144】
このように本発明の方法によってシート状に吸着性発泡体を製造することができた。そして製造されたシート状の吸着性発泡体は、吸着剤(プルシアンブルー)が強固に保持されていた。さらに、吸着性発泡体はその吸着剤(プルシアンブルー)の標的物質(セシウム)を吸着することが可能であった。標的物質に対する適切な吸着剤を選択すれば、本発明の製造方法は標的物質を捕集することが可能なシート状の吸着性発泡体を製造することができる。