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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/20 20060101AFI20220729BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20220729BHJP
   D21H 25/04 20060101ALI20220729BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
D21H19/20 A
D21H19/22
D21H25/04
D21H27/00 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020527693
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025890
(87)【国際公開番号】W WO2020004639
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2018125353
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【弁理士】
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】大島 明博
(72)【発明者】
【氏名】大向 吉景
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 優子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 数行
(72)【発明者】
【氏名】松田 礼生
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 育男
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-286170(JP,A)
【文献】特開2000-220093(JP,A)
【文献】特表2009-544867(JP,A)
【文献】特開2000-334705(JP,A)
【文献】特開2012-067402(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137386(WO,A1)
【文献】特開昭58-025365(JP,A)
【文献】特開2005-059307(JP,A)
【文献】特開2001-098038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
C09D1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材、および、化合物(A)の少なくとも一方に電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射し、これにより化合物(A)に由来する構成単位を有する分子鎖を含む層を前記紙基材の表面に導入することを含み、
前記化合物(A)は、炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物であり、以下の式:
=C(-R)-C(=O)-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-OC(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-SO-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R-C-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CHCHO)-R
[式中:
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、-CH基、または塩素原子であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数14~28のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数13~27のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または炭素原子数1~20のアルキレン基であり;
mは、1~28の整数であり;
nは、1~3の整数である。]
で表される化合物の少なくとも1である、紙の製造方法。
【請求項2】
前記化合物(A)が、少なくとも前記紙基材の表面に存在する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
が、炭素原子数16~27のアルキル基である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
が、炭素原子数15~26のアルキル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記化合物(A)を含む溶液と前記紙基材とを接触させることを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の紙の製造方法。
【請求項6】
前記接触を、前記化合物(A)を含む溶液を、前記紙基材上に、塗布する、もしくは噴霧する、または、前記化合物(A)を含む溶液に、前記紙基材を浸漬することによって行う、請求項5に記載の紙の製造方法。
【請求項7】
前記溶液が、さらに溶媒を含む、請求項5または6に記載の紙の製造方法。
【請求項8】
前記溶液が、該溶液100質量部に対して、前記化合物(A)を0.5~20質量部の範囲で含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の紙の製造方法。
【請求項9】
電離放射線またはプラズマの少なくとも一方の照射が、電離放射線の照射である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
電離放射線の吸収線量が、5~250kGyである、請求項9に記載の紙の製造方法。
【請求項11】
電離放射線またはプラズマの少なくとも一方の照射が、α線、電子線、γ線、中性子線、X線、およびプラズマの少なくとも1の照射である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製法方法。
【請求項12】
電離放射線またはプラズマの少なくとも一方の照射が、電子線、およびプラズマの少なくとも1の照射である、請求項11に記載の製法方法。
【請求項13】
表面に形成された層を有し、前記層は、炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物である化合物(A)であって、以下の式で表される少なくとも1の化合物に由来するグラフト鎖を有する層を有する紙。
=C(-R)-C(=O)-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-OC(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-SO-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R-C-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CHCHO)-R
[式中:
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、-CH基、または塩素原子であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数14~28のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数13~27のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または炭素原子数1~20のアルキレン基であり;
mは、1~28の整数であり;
nは、1~3の整数である。]
【請求項14】
が、炭素原子数16~27のアルキル基である、請求項13に記載の紙。
【請求項15】
が、炭素原子数15~26のアルキル基である、請求項13または14に記載の紙。
【請求項16】
前記紙が、耐油性紙である、請求項13~15のいずれか1項に記載の紙。
【請求項17】
前記紙が、食品包装用途に用いる紙である、請求項13~16のいずれか1項に記載の紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙用、例えば食品包装用途に用いる紙用の撥剤として、フッ素原子を含有する化合物が用いられてきた。しかしながら、環境規制の厳格化に伴い、フッ素原子を含まない化合物を用いることが求められることがある。
【0003】
特許文献1の実施例では、放射線硬化樹脂としてウレタンアクリレートエマルジョンを含むパルプスラリーを用いて紙を抄いたのち、印刷、打ち抜き、糊張り、および放射線の照射を行って紙製容器が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-207248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙用撥剤(処理剤)としてフッ素原子を含まない化合物を用いたときに、紙に十分な耐油性を付与できないことがあった。特に、紙の折り目部分では耐油性が良好でないことがあることが分かった。また、このような紙には、さらに、良好な透気性を有することが求められることがある。本開示は、良好な耐油性および良好な透気性を有する紙の製造方法であって、紙の処理剤としてフッ素原子を有しない化合物を用いる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の[1]~[17]を提供するものである。
[1] 紙基材、および、炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物、および電子線を照射することによってラジカルが発生し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物から選択される化合物(A)の少なくとも一方に電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射し、これにより化合物(A)より形成された層を前記紙基材の表面に導入することを含み、
前記化合物(A)が、以下の式:
(-R21-)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-OC(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-SO-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R-C-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CHCHO)-R
[式中:
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、-CH基、または塩素原子であり;
21は、炭素原子数14~28のアルキレン基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数14~28のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数13~27のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または炭素原子数1~20のアルキレン基であり;
mは、1~28の整数であり;
nは、1~3の整数である。]
で表される化合物の少なくとも1である、紙の製造方法。
[2] 前記化合物(A)が、少なくとも前記紙基材の表面に存在する、[1]に記載の製造方法。
[3] Rが、炭素原子数16~27のアルキル基である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] Rが、炭素原子数15~26のアルキル基である、[1]~[3]のいずれか1に記載の製造方法。
[5] 前記化合物(A)を含む溶液と前記紙基材とを接触させることを含む、[1]~[4]のいずれか1に記載の紙の製造方法。
[6] 前記接触を、前記化合物(A)を含む溶液を、前記紙基材上に、塗布する、もしくは噴霧する、または、前記化合物(A)を含む溶液に、前記紙基材を浸漬することによって行う、[5]に記載の紙の製造方法。
[7] 前記溶液が、さらに溶媒を含む、[5]または[6]に記載の紙の製造方法。
[8] 前記溶液が、該溶液100質量部に対して、前記化合物(A)を0.5~20質量部の範囲で含む、[5]~[7]のいずれか1に記載の紙の製造方法。
[9] 電離放射線またはプラズマの少なくとも一方の照射が、電離放射線の照射である、[1]~[8]のいずれか1に記載の製造方法。
[10] 電離放射線の吸収線量が、5~250kGyである、[9]に記載の紙の製造方法。
[11] 電離放射線またはプラズマの少なくとも一方の照射が、α線、電子線、γ線、中性子線、X線、およびプラズマの少なくとも1の照射である、[1]~[8]のいずれか1に記載の製法方法。
[12] 電離放射線またはプラズマの少なくとも一方の照射が、電子線、およびプラズマの少なくとも1の照射である、[11]に記載の製法方法。
[13] 表面に、炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物、および電子線を照射することによってラジカルが発生し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物から選択される化合物(A)であって、以下の式で表される少なくとも1の化合物より形成された層を有する紙。
(-R21-)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-OC(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-SO-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R-C-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CHCHO)-R
[式中:
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、-CH基、または塩素原子であり;
21は、炭素原子数14~28のアルキレン基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数14~28のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数13~27のアルキル基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または炭素原子数1~20のアルキレン基であり;
mは、1~28の整数であり;
nは、1~3の整数である。]
[14] Rが、炭素原子数16~27のアルキル基である、[13]に記載の紙。
[15] Rが、炭素原子数15~26のアルキル基である、[13]または[14]に記載の紙。
[16] 前記紙が、耐油性紙である、[13]~[15]のいずれか1に記載の紙。
[17] 前記紙が、食品包装用途に用いる紙である、[13]~[16]のいずれか1に記載の紙。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、良好な耐油性および良好な透気性を有する紙の製造方法であって、紙の処理剤としてフッ素原子を有しない化合物を用いる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の製造方法について説明する。
【0009】
本開示の紙の製造方法は、
紙基材、および、炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物、および電子線を照射することによってラジカルが発生し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物から選択される化合物(A)の少なくとも一方に電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射し、これにより上記化合物より形成された層を前記紙基材の表面に物理的および/または化学的な結合により導入することを含む。以下において、「炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物、および電子線を照射することによってラジカルが発生し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物から選択される化合物(A)」を「化合物(A)」と称することがある。
【0010】
本明細書において、紙基材は、本開示の化合物(A)に由来する層の導入、例えば化合物(A)を構成単位とする分子鎖の導入に供される紙よりなる基材を意味する。本開示において「紙」とは、植物繊維その他の繊維をこう着させて製造したもの、植物繊維その他の繊維と合成高分子物質からなる繊維をブレンドして製造したもの、合成高分子物質を用いて製造したものおよび、繊維状無機材料を配合したものをいう。
【0011】
本開示において、紙基材としては、例えば、耐屈曲性、剛性、強度等を有するものを用いることができる。上記紙基材としては、特に限定されないが、例えば、食料容器原紙、すなわち、食品の包装または容器に用いる紙として使用し得る紙からなるものを用いることができる。
【0012】
上記紙としては、具体的には、クラフト紙、上質紙、中質紙、再生紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、セミグラシン紙、グラシン紙、パーチメント紙、和紙、ダンボール等を挙げることができる。
【0013】
上記紙基材の密度は、特に限定されないが、例えば、0.3~1.1g/cmの範囲にあり、0.3~0.8g/cmの範囲にあってもよい。
【0014】
電離放射線としては、紙基材、および、化合物(A)の少なくとも一方に照射することにより、上記紙基材、および、上記化合物(A)の少なくとも一方にラジカル、ラジカルカチオン、またはラジカルアニオンなどの中間活性種を発生させることができるものを用いることができる。このように中間活性種が形成されることにより、化合物(A)より形成された層を前記紙基材の表面に導入できる。具体的には、上記のような中間活性種が形成されることにより、例えば、化合物(A)に由来する構成単位を有する分子鎖を紙基材の表面に導入し得る。
【0015】
電離放射線としては、例えば、α線、電子線(β-線)、陽電子線(β線)、極端紫外線を含む波長450nm以下の紫外線、γ線、中性子線、X線、電場により加速された陽イオンあるいは陰イオン等を挙げることができる。浸透深さ(飛程)の制御が容易になり、または、中間活性種の形成が容易になる点からは、電場により加速した電子、陽電子、イオンなどを用いることが好ましく、特に、電子加速器を用いた電子線を用いることが好ましい。
また、プラズマとしては、減圧下での水素、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴン、ネオン、炭素誘導体等のプラズマのほか、窒素、酸素、アルゴンなどの大気圧プラズマ等を挙げることができる。
【0016】
一の態様において、電離放射線およびプラズマとしては、α線、電子線(β線)、γ線、中性子線、X線、およびプラズマの少なくとも1を用いることが好ましく、電子線(β線)およびプラズマの少なくとも1を用いることがより好ましい。
【0017】
一の態様において、電離放射線およびプラズマとしては、α線、電子線(β線)、γ線、中性子線、X線、またはプラズマを用いることが好ましく、電子線(β線)またはプラズマを用いることがより好ましい。
【0018】
紙基材への電離放射線やプラズマの照射は、大気環境下で行ってもよいが、紙基材の酸化劣化や生成した中間活性種の対消滅を抑制する観点から、10%以下の低酸素濃度、好ましくは、実質的に酸素が存在しない雰囲気下、例えば、酸素濃度が1000ppm以下、より好ましくは、500ppm、さらにより好ましくは、100ppm以下の雰囲気下で行い得る。例えば、電離放射線の照射は、真空中または不活性ガス雰囲気下、例えば窒素、アルゴン、またはヘリウム雰囲気下で行われる。尚、真空とは、完全に真空である必要はなく、実質的に真空であればよく、例えば10Pa程度の減圧環境、10-1Pa程度の低真空、それ以下の高真空のいずれであってもよい。
【0019】
紙に照射される電離放射線の吸収線量は、5kGy以上であることが好ましく、20kGy以上であることがより好ましく、50kGy以上であることが更に好ましく;250kGy以下であることが好ましく、200kGy以下であることがより好ましく、150kGy未満であることが更に好ましい。照射される電離放射線の吸収線量は、好ましくは5~250kGy、より好ましくは20~200kGy、より好ましくは50kGy以上150kGy未満である。上記数値範囲の吸収線量の電離放射線を照射することにより、電離放射線の照射に起因する紙媒体の材料特性の変化(例えば劣化)を抑制し得、十分な量の中間活性種の生成ならびにその中間活性種による化学反応が可能となり得る。紙基材へのエネルギー照射量(照射線量)は、ファラデーカップ、シンチレーション検出器や半導体検出器にて計測可能である。紙基材のエネルギー吸収量(吸収線量)は、フリッケ線量計により測定可能であるが、簡便には、例えば三酢酸セルロースフィルム(CTA:Cellulose triacetate)線量計や、ラジオクロミックフィルム線量計等により測定することができる。
【0020】
電子線を用いる場合、電子加速器を用い、特に、処理速度の関係から高い電子流密度をとれる静電加速器を用いることが好ましい。紙基材に照射される電子線の電子のエネルギーは、それぞれの紙基材の表面で、好ましくは2MeV以下、より好ましくは1MeV以下、さらに好ましくは300keV以下、特に好ましくは250keV以下、さらにより好ましくは200keV未満であり;好ましくは40keV以上、より好ましくは70keV以上である。上記のような量のエネルギーを照射することにより、紙基材の特性の変化(例えば、セルロース繊維の放射線劣化など)を抑制することができ、紙基材への化合物(A)の導入、具体的には、紙基材におけるグラフト重合に十分な量の中間活性種を生成し得る。
【0021】
差動排気などのシステム構成によりチタン箔などの照射窓のない電子加速器の場合、電子源から紙基材まで間が1Pa以下の減圧または真空環境であれば、電子のエネルギーは加速電圧と概ね対応する。例えば、単層の紙に対する照射の場合、その加速電圧は、好ましくは最大10MV、より好ましくは、5MV以下、さらに好ましくは、800kV以下、さらにより好ましくは、300kV以下であればよい。さらには、重ね合わせた複数層の紙に対する照射の場合、各層において、電子のエネルギーの減衰が起き、電子のエネルギーと加速電圧が対応しなくなることが生じるので、加速電圧は、各層における電子エネルギーに合わせて選択する必要がある。
【0022】
一方、電子銃から試料(即ち、紙基材)までの間に、大気中への取り出しのための照射窓(たとえば、チタン箔など)があるような電子加速器の場合、真空中の照射であっても電子のエネルギーは、照射窓通過の際に減衰する。照射環境が、窒素や、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気であっても、不活性ガス中での電子のエネルギー損失が起きるので、電子取り出し窓から単層の紙基材までの距離により、紙基材の表面でのエネルギーは異なる。例えば、窒素気流中を通過する場合も同様に、紙基材までの気流中の密度と距離に応じて減衰するエネルギーを考慮して高くする必要がある。さらには、重ね合わせた複数層の紙に対する照射の場合、各層において、電子のエネルギーの減衰が起きるので、加速電圧は、各層における電子エネルギーに合わせて選択する必要がある。
【0023】
上記紙基材への照射は、1回で行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0024】
上記紙基材への照射は、紙シート1枚ずつ行ってもよく、複数シートを重ねて行ってもよい。なお、この場合、上記加速エネルギーの選択を考慮する必要がある。
【0025】
電離放射線の照射時の温度は、特に限定されるものではないが、例えば150℃以下、好ましくは10℃~100℃、より好ましくは20℃~80℃である。
【0026】
必要に応じて、電離放射線照射後の紙基材を加熱してもよい。加熱することによって、紙基材へ導入後(例えば、グラフト後)の化合物(A)のモルフォロジーを変化させることで得られる紙の耐油性を向上させることができる。
【0027】
プラズマの照射は、低圧プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ放電、アーク放電等により行い得る。
上記紙基材のプラズマ照射は、1回で行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0028】
プラズマの照射における放電ガスとしては、例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴン、ネオン、炭素誘導体等を挙げることができる。
【0029】
大気圧プラズマ処理におけるプラズマ源の出力は、10~1000Wであってもよく、50~300Wであってもよい。処理温度は、特に限定されるものではないが、例えば150℃以下、好ましくは10℃~100℃、より好ましくは20℃~80℃である。処理時間は、例えば、10~300秒であってもよい。
【0030】
低圧プラズマ処理における電極間に放電される電力は、10~1000Wであってもよく、50~300Wであってもよい。特に限定されるものではないが、例えば150℃以下、好ましくは10℃~100℃、より好ましくは20℃~80℃である。処理時間は、例えば、10~300秒であってもよい。
【0031】
上記のように電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を、照射することにより紙基材に耐油性を付与することができる。
【0032】
一の態様において、電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を、紙基材に照射することにより、該紙基材にラジカル、ラジカルカチオン、またはラジカルアニオンなどの中間活性種が発生され得、当該中間活性種と化合物(A)を熱反応させることにより、紙基材と化合物(A)間で化学結合させ、化合物(A)を構成単位とするグラフト鎖により形成された層を紙基材の表面に導入することができる。
【0033】
一の態様において、化合物(A)が塗布など方法によりコートされ、物理的に一体化した紙基材に、電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射することにより、ラジカル、ラジカルカチオン、またはラジカルアニオンなどの中間活性種が誘起される。該紙基材と化合物(A)間で、上記の中間活性種がそれぞれ化学反応することにより紙基材と化合物(A)間で化学結合が生じる。このことにより、化合物(A)を構成単位とするグラフト鎖により形成された層を紙基材の表面に導入することができる。
【0034】
一の態様において、電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を、化合物(A)に照射することにより、化合物(A)を放射線重合させる。当該重合体を塗布などの方法により紙基材にコートすることにより、化合物(A)を構成単位とする化合物(B)により形成された層を紙基材の表面に物理的に接着させる。このように、紙基材に化合物(B)により形成された層を導入することができる。コート処理後の紙基材を加熱してもよい。加熱することによって、化合物(B)のモルフォロジーを変化させることで紙基材を構成するセルロース繊維との接着性を向上させることができる。特に、コート処理後の紙基材を電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射してもよい。該照射により、紙基材と化合物(B)とを化学結合させることができる。その結果、化合物(A)を構成単位とする化合物(B)により形成された分子鎖からなる層を化学結合により紙基材の表面に導入することができる。
【0035】
一の態様において、化合物(A)を触媒などを用いて重合させ、当該重合体を紙基材に塗布などの方法によりコートし、化合物(A)を構成単位とする化合物(C)により形成された層を紙基材の表面に物理的に接着させる。このようにして化合物(C)により形成された層を紙基材に導入する。コート処理後の紙基材を加熱してもよい。加熱することによって、化合物(C)のモルフォロジーを変化させることで紙基材を構成するセルロース繊維との接着性を向上させることができる。コート処理後の紙基材を電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射する。該照射により、紙基材と化合物(C)とを化学結合させることができる。その結果、化合物(A)を構成単位とする化合物(C)により形成された分子鎖からなる層を化学結合により紙基材の表面に導入することができる。上記のように照射することにより紙基材の表面に塗布された化合物(C)が収縮し、紙基材に対して耐油性だけでなく、透気性も付与し得ると考えられる。
【0036】
通常、紙基材の空隙が該紙基材を透過する気体の通路となり、紙基材中を気体が透過する。基材の表面処理として、予め重合したポリマーを用意し、例えば塗布等の方法により、紙基材の表面に該ポリマーの層を形成することがある。しかしながら、上記のように、予め重合したポリマーを用いて紙基材の表面に層を形成すると、形成された紙の表面における耐油性が良好であっても、形成された紙の透気度が良好な値にならないことがあった。これは、塗布等の方法を用いて、予め重合したポリマーの層を形成した場合には、上記ポリマーが紙基材の表面を覆うように存在し、該ポリマーが、気体の通路である空隙を塞ぐことになるためと考えられる。
【0037】
これに対して、本開示の製造方法を用いると、得られる紙の耐油性だけでなく、透気度も良好な値となり得る。本開示の製造方法では、化合物(A)に由来する構成単位を有するグラフト鎖を紙基材の表面に導入することから、上記のように気体の通路である空隙を塞ぐことが生じにくいためと思われる。
特に、化合物(A)を構成単位とする分子鎖が、紙基材の表面に存在する(好ましくは、紙基材の表面に化合物(A)が接触する、より具体的には紙基材の表面に化合物(A)が塗布される)態様では、紙基材に気体の通路となる空隙が存在しても、該撥油性を有する化合物(A)が紙基材の少なくとも表面に存在する(具体的には、化合物(A)が紙基材に塗布される)ことによって、紙基材の内部への油の浸入を防ぎ得る。従って、本態様によると、得られる紙の耐油性および透気度の双方が特に良好になると考えられる。
【0038】
本開示では、化合物(A)が、少なくとも紙基材の表面に存在することが好ましい。化合物(A)が紙基材の表面に存在する状態で電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射することにより、化合物(A)より形成された層の紙基材の表面への導入が容易になる。
【0039】
一例としては、電離放射線およびプラズマの少なくとも一方の照射により、グラフト重合が生じ得るとき、化合物(A)が紙基材の表面に存在する状態で電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射することにより、化合物(A)に由来する構成単位を有するグラフト鎖の導入が容易になる。
【0040】
一の態様によると、化合物(A)を構成単位とする分子鎖が、少なくとも紙基材の表面に存在することが好ましい。化合物(A)が紙基材の表面に存在する状態で電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射することにより、化合物(A)を構成単位とする分子鎖により形成された層の紙基材の表面への導入が容易になる。
【0041】
上記化合物(A)は、紙基材の少なくとも表面に存在し、一部が紙基材内に浸透した状態にあってもよい。
【0042】
本開示の製造方法は、紙基材と、化合物(A)を含む溶液とを接触させることを含むことが好ましい。
【0043】
上記接触は、上記化合物(A)を含む溶液を、上記紙基材に塗布する、もしくは噴霧する、または、紙基材を溶液に浸漬することによって行うことができる。上記接触は、気体状態である化合物(A)の雰囲気下に紙基材を置くことによって行ってもよい。均一かつ確実に接触させることができることから、紙基材上に、化合物(A)を含む溶液を塗布する方法が好ましい。
【0044】
上記接触は、1回行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0045】
生産性、コスト面などの観点からは、上記接触は1回でよい。
【0046】
耐油性向上の観点からは、上記接触は複数回行ってもよく、2~3回行ってもよい。
【0047】
上記接触後、上記化合物(A)を含む溶液と接触した紙基材を、乾燥させることが好ましい。化合物(A)を含む溶液中に、後述する溶媒等が含まれる場合、乾燥することにより該溶媒等を除去することができる。ここで、乾燥とは、完全に溶媒を除去することだけでなく、半乾燥のように溶媒の一部を除去することも含む。上記乾燥は、風乾であってもよく、必要により加熱して行ってもよい。
【0048】
上記接触を複数回行う場合、接触後、乾燥させ、その後に再度接触、乾燥を繰り返すことが好ましい。
【0049】
上記化合物(A)を含む溶液は、溶液100質量部に対して、化合物(A)を、0.5質量部以上含むことが好ましく、1質量部以上含むことがより好ましく、20質量部以下含むことが好ましく、10質量部以下含むことがより好ましい。化合物(A)を含む溶液は、該溶液100質量部に対して、化合物(A)を0.5~20質量部含むことが好ましく、1~10質量部含むことがより好ましい。溶液中の化合物(A)の濃度が高くなりすぎると、溶液の粘度が高くなり、該溶液が紙基材の表面において偏在し得る。このような場合、紙基材の空隙が閉塞され得、形成される紙の透気度を悪化し得る。溶液中の化合物(A)の濃度が低くなりすぎると、紙基材の表面の繊維間隙を十分に埋めることができず、形成される紙の表面における耐油性の低下につながり得る。
【0050】
上記化合物(A)は、炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物、または電子線を照射することによってラジカルが発生し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物である。炭素-炭素不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合を挙げることができ、炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。
【0051】
上記化合物(A)としては、好ましくは疎水性の化合物を用いる。このような化合物(A)を用いることにより、本開示の製造方法によって形成される紙の表面における撥水性、撥油性、および撥液性が良好になり得る。疎水性は、上記化合物(A)の単独重合体をシリコンウェハ上に塗布し、形成された膜の表面における水の接触角を測定し、70°以上であれば疎水性であると判断する。
【0052】
上記化合物(A)は、以下の式で表される化合物の少なくとも1つである。
(-R21-)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-OC(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-C(=O)-NH-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-SO-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-R-C-O-R
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CHCHO)-R
これらの化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、-CH基、または塩素原子であり、-CH基または水素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0054】
上記式中、R21は、各出現において、炭素原子数14~28のアルキレン基であり、炭素原子数27以下のアルキレン基であることがさらに好ましく、炭素原子数26以下のアルキレン基であることが特に好ましく;炭素原子数14以上のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数16以上のアルキレン基であることがより好ましく、炭素原子数18以上のアルキレン基であることがさらに好ましい。上記R21は、炭素原子数14~28のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数16~27のアルキレン基であることがより好ましく、炭素原子数18~26のアルキレン基であることがさらに好ましい。
上記のR21を含む式で表される化合物は、電子線を照射することによってラジカルが発生し、紙基材と共有結合し得る。上記のようなR21を有することにより、紙基材に疎水性を付与し得る。
【0055】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数14~28のアルキル基であり、炭素原子数27以下のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数26以下のアルキル基であることがより好ましく;炭素原子数14以上のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数16以上のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数18以上のアルキル基であることがさらに好ましい。上記Rは、炭素原子数14~28のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数16~27のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数18~26のアルキル基であることがさらに好ましい。
上記炭素原子数が短くなると、グラフト鎖が結晶性を有し得ず、十分な耐油性を紙に付与できないと考えられる。炭素原子数が長くなりすぎると、化合物(A)の融点が高くなり、塗布工程でのハンドリング性が低下し得る。また、炭素原子数が長くなりすぎると、電離放射線またはプラズマ(具体的には電子線)照射時のモノマーの運動性が下がることにより、重合性が低下してグラフト鎖が十分に成長しないと考えられる。
【0056】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、炭素原子数13~27のアルキル基であり、炭素原子数26以下のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数25以下のアルキル基であることがさらに好ましく;炭素原子数13以上のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数15以上のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数17以上のアルキル基であることがさらに好ましい。上記Rは、炭素原子数13~27のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数15~26のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数17~25のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0057】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または炭素原子数1~20のアルキレン基であり、炭素原子数1~4のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数2~3のアルキレン基であることがより好ましい。
【0058】
上記式中、mは、1~28の整数であり、2~4であることが好ましい。
【0059】
上記式中、nは、1~3の整数である。
【0060】
上記化合物(A)は、具体的には、以下の化合物であることが好ましい。
CH=C(-R)-C(=O)-O-C2245、
CH=C(-R)-C(=O)-O-C1837、
CH=C(-R)-C(=O)-O-C1633、
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-OC(=O)-NH-C1837
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-(C=O)-C1735
CH=C(-R)-C(=O)-O-(CH-NH-(C=O)-NH-C1837
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または-CH基を表し、好ましくは水素原子である。
【0061】
上記化合物(A)を含む溶液は、溶液100質量部に対して、化合物(A)を、0.5質量部以上含んでいてもよく、1質量部以上含んでいてもよく、20質量部以下含んでいてもよく、10質量部以下含んでいてもよい。化合物(A)を含む溶液は、例えば該溶液100質量部に対して、化合物(A)を0.5~20質量部含んでいてもよく、1~10質量部含んでいてもよい。溶液中の化合物(A)の濃度が高くなりすぎると、溶液の粘度が高くなり、紙基材の表面において偏在し得、紙の間隙が完全に閉塞して上記紙の透気度が悪化し得る。溶液中の化合物(A)の濃度が低くなりすぎると、紙表面の繊維間隙を埋められず、耐油性の低下につながり得る。
【0062】
上記化合物(A)は、以下の式で表される化合物であってもよい。
CH=C(-H)-C(=O)-O-R
式中、Rは上記のとおりである。
【0063】
一の態様において、Rは炭素原子数14~28のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数14~26のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数18~26のアルキル基であることが更に好ましい。このような化合物を用いることにより、上記紙に撥液性を付与し、耐油性を示すことができる。
【0064】
上記溶液は、さらに、溶媒、架橋剤、顔料、バインダー、デンプン、ポリビニルアルコール、紙力増強剤等を含み得る。
【0065】
上記溶媒としては、特に限定されないが、水、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。このような溶媒を用いることにより、化合物(A)を含む溶液が、紙基材の表面に均一に存在し得る。具体的には、化合物(A)を含む溶液は、紙基材上に均一に塗布することができる。上記溶媒は、単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
上記溶媒としては、塗布ならびに溶媒除去の容易さの観点からは、アセトン、メタノール、エタノール等を用いることが好ましい。
環境負荷を低減する観点からは、水、あるいは、水-エタノール混合溶液を用いることが好ましい。
【0067】
上記溶液においては、該溶液に含まれる成分、例えば化合物(A)が溶液中に均一に存在することが好ましい。上記溶液は、該溶液に含まれる成分の溶解した液、該溶液に含まれる成分の分散した液であってもよい。
【0068】
好ましい態様において、上記溶液は、化合物(A)および溶媒からなる。上記溶液において、化合物(A):溶媒を、質量比で、0.5:99.5~20:80の範囲で含むことが好ましく、1:99~10:90の範囲で含むことがより好ましい。
【0069】
一の態様において、上記溶液中、化合物(A)は、5~20質量%、好ましくは6~15質量%含まれる。本態様は、例えば、グラビア印刷機を用いた塗工処理のような、高濃度で処理し得る方法に有利である。
【0070】
一の態様において、化合物(A)は、架橋剤とともに用いる。本態様では、より良好な耐油性を有する紙を得ることができる。これは、架橋剤が反応助剤として働き得、また、架橋剤に由来する構造を化合物(A)より形成された層に柔軟な構造を導入することができ、その結果、該層が割れにくくなるためと考えられる。例えば、紙に折り目を付けたときに、この効果はより有利に作用する。
【0071】
架橋剤は、化合物(A)に対して、3~50質量%の範囲で含むことができ、例えば、10~45質量%の範囲で含むことができる。本態様において、化合物(A)は、分子鎖内に炭素-炭素不飽和結合を有することが好ましい。
【0072】
別の態様において、化合物(A)と架橋剤とは、質量比において、90:10~70:30で含まれることが好ましい。架橋剤の含有率が高くなりすぎると、良好な耐油性を有する紙が得られないことがある。
【0073】
架橋剤としては、多官能ウレタンアクリレート、多官能アクリルアミド、、ジ(メタ)アクリレート(例えば、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート)、トリ(メタ)アクリレート(例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート)、テトラ(メタ)アクリレート(例えば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、多官能エポキシ(例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル)等を挙げることができる。
【0074】
一の態様において、上記溶液は、化合物(A)、架橋剤および溶媒からなる。
本態様においては、上記溶液中、化合物(A)および架橋剤の合計量が、0.5~20質量%の範囲にあることが好ましく、1~15質量%の範囲にあることがより好ましい。
例えば、上記溶液中、化合物(A)が、0.5~11質量%、および架橋剤が0.1~4質量%含まれていてもよく、化合物(A)が、1~10質量%、および架橋剤が0.1~3質量%含まれていてもよい。
【0075】
上記のようにして、化合物(A)より形成された層が紙基材の表面に導入された紙が形成される。
【0076】
電離放射線およびプラズマの少なくとも一方の照射により、グラフト鎖が紙基材の表面に導入される場合には、グラフト鎖を有する紙が製造される。すなわち、一の態様においては、本開示の紙の製造方法は、紙基材、および、化合物(A)の少なくとも一方に電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射し、これにより化合物(A)より形成された層を前記紙基材の表面に導入することを含む、グラフト鎖を有する紙の製造方法、である。
【0077】
本開示の紙は、その表面において、良好な撥油性および撥水性を有する。撥油性および撥水性は、例えば、その表面における静的接触角を測定することによって評価できる。
【0078】
上記紙の表面において、水の静的接触角は、90度以上であることが好ましく、100度以上であることがより好ましい。
【0079】
上記紙は、良好な耐油性を示す。具体的には、上記紙には、有機化合物が浸透しにくい。例えば、キット法により評価した場合、本開示の紙の評価は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。上記キット法は、紙の耐油性を評価する方法であり、ひまし油、トルエン、ヘプタンを所定の比率で混合したキットナンバー試験液を試験片に滴下し、その浸透の有無を目視にて調べる方法である。具体的には、TAPPI(The leading technical association for the worldwide pulp, paper, and converting industry)の評価規格である、TAPPI T-559cm-02法に従って測定する。
【0080】
上記紙は、該紙が折れ曲がった箇所であっても、撥水性、もしくは撥油性が良好であり、有機化合物の浸透が生じにくい。本開示の製造方法では、電離放射線またはプラズマの照射によって、化合物(A)が非常に高い分子量のポリマーに重合されると考えられる。上記のようなポリマーの強度は良好であり、紙が折れ曲がった箇所においてもポリマーは破断しにくく、上記のような折れ曲がった箇所においても撥油性が良好になり得ると考えられる。
【0081】
上記紙の透気度の値は、紙基材の透気度の値よりも極端に低下しない。例えば、上記紙の透気度の値は、1000秒以下を維持し得る。透気度は、1000秒以下が好ましく、800秒以下がより好ましく、650秒以下がさらに好ましい。本開示においては、紙基材に化合物(A)を含むグラフト鎖が導入され、例えば、化合物(A)を含む溶液と紙基材とを接触、具体的には該溶液を紙基材に塗布後乾燥させることにより、紙表面の閉塞度合いが小さく、気体が透過する間隙の閉塞が低減され、良好な透気度を有する紙を得ることができると考えられる。このような紙は、食品容器原紙、耐油紙等のように、撥油性とともに、適切な範囲の透気度を有することを求められる用途において、特に有利に用いることができる。
【0082】
上記紙の塗工量は、例えば、0.5~30g/mの範囲にあり、0.5~20g/mの範囲にあってもよく、1.0~15g/mの範囲にあってもよく、1~10g/mの範囲にあってもよい。上記塗工量は熱重量分析による化合物(A)と紙基材の分解温度の違い、あるいは、塗布-乾燥おける重量測定による塗布率の算出によって測定できる。
【0083】
上記紙は、グラフト鎖を形成する化合物(A)がフッ素原子を含まないことから、環境規制の厳格化に基づく要求に対して有利である。
【0084】
本開示において、化合物(A)を含む溶液は、重合開始剤を含まない。従って、グラフト鎖の導入された本開示の紙においては、重合開始剤に由来する不純物が含まれない。
【0085】
本開示の製造方法により得られる紙は、例えば、耐油性紙、食品包装用途に用いる紙、剥離・離型紙等に用いることができる。
【0086】
次に、本開示の紙について説明する。
【0087】
本開示の紙は、表面に化合物(A)より形成された層を有し、該化合物(A)は、炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない。紙基材、化合物(A)は、上記のとおりである。
【0088】
本開示の紙は、好ましくは、少なくとも表面に、化合物(A)に由来する構成単位を有するグラフト鎖を有する。上記紙は、紙基材と、少なくとも該紙基材の表面に化合物(A)に由来するグラフト鎖とを有する。
【0089】
本開示の紙は、本開示の紙の製造方法により製造されることが好ましい。
【0090】
一の態様において、本開示の紙は、紙基材、および、化合物(A)の少なくとも一方に電離放射線およびプラズマの少なくとも一方を照射することにより、化合物(A)に由来するポリマー(例えば、化合物(A)に由来する構成単位を有するグラフト鎖)が前記紙基材に導入された紙である。
【実施例1】
【0091】
本開示について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。「部」および「%」は、特記しなければ、「質量部」および「質量%」を意味する。
【0092】
以下の実施例および比較例において、「室温」とは、25℃を意味する。なお、以下の実施例および比較例において、特に記載していない場合、炭素-炭素不飽和結合または開環重合性の環状エーテルを有し、かつ、分子構造内にフッ素原子を含有しない化合物を含む溶液の塗布は、室温で行った。
【0093】
[評価]
実施例、比較例および参照例で得られた紙を、それぞれ以下の条件で評価した。なお、以下において、試験用サンプルが、グラフト鎖が形成され、あるいはポリマー層が設けられた面(以下、外添面と称することがある)を有する場合には、該面における物性を測定した。
【0094】
〈耐油性試験(Kit Test)〉
耐油性は、TAPPI T-559cm-02に基づいて評価した。具体的な評価方法は以下のとおりである。
【0095】
表1に示す耐油度の試験油を用意した。各耐油度の試験油の混合比(体積比)は表1のとおりである。耐油度は、表面張力の高いものから低いものまで12段階であり、耐油度が高い程耐油性が高いことを示す。
各試験油を、試験用のサンプルに滴下した。滴下後15秒後、TAPPIテストの規定に基づいて耐油性を判断した。具体的には、試験用サンプルの表面の試験油をぬぐい去り、油の浸透により紙表側の外観が濡れて見えるかを、目視にて観察した。試験用のサンプルに浸透しない試験油の中で最も耐油度の大きな試験油の耐油度を、耐油性試験の結果とした。
【0096】
【表1】

【0097】
なお、評価結果を示す表において、耐油度「0」は、耐油度1の試験油を用いた場合においても、試験油が試験サンプルに浸みたことを意味する。
【0098】
〈折り目部分における耐油性試験(Kit Test)〉
試験用のサンプルに、以下の工程(1)~(3)に従って「折り目部分」を形成した。該折り目部分において、上記耐油性試験(Kit Test)に記載の方法に従って耐油性を評価した。
(1)試験用のサンプルを曲げた。なお、試験用サンプルは、実施例、および比較例1-1~1-3で得られたサンプルである場合には、外添面(溶液を塗布した面)が内側になるように、曲げた。
(2)重量250g、厚さ0.6cmのゴム層で覆われた、直径8cmおよび幅7cmのロールを、工程(1)で曲げた試験用サンプルの上に転がし、完全に折り目を形成した。折り目の形成時のロールの速度は50~60cm/秒とした。
(3)工程(2)で折り目の形成された試験用サンプルの折り目を広げ、これを折り目部分とした。
【0099】
〈透気度〉
JIS P8117の方法に基づいてガーレー透気度を測定した。
【0100】
〈対ヘキサデカン(HD)接触角の測定、およびHDに対する耐油性の評価〉
対HD接触角を、以下の方法により測定した。
試験用サンプルの外添面の反対側に位置する面に両面テープを張り、試験用サンプルをガラス板上に固定した。HD2μlをその表面に滴下して30秒経過後、接触角測定装置Dropmaster701(協和界面科学社製)を用いて接触角を測定した。
また、滴下して7分経過後、試験用サンプルの滴下部へのHDの浸透の有無を目視で確認した。HDに対する耐油性を以下の基準に基づいて判断した。
a:HDの拭い去り後、HDの染み込みによる試験用サンプルの表面の変色なし
b:HDの拭い去り後、HDの染み込みによる試験用サンプルの表面の変色あり
【0101】
〈吸水度(Cobb値)評価〉
吸水度(Cobb値)は、JIS P 8140:1998に準じて測定した。
一面が平滑に仕上げられた固い台板の表面に、紙基材を置き、その表面に内径112.8mmの金属シリンダをクランプで固定した。その後、シリンダ内の水深が10mmとなるように水を注いだ。水と紙基材との接触が開始されてから1分間に吸収された水の重量を求めた。得られた数値を1平方メートル当たりの重量(g/m)に換算し、吸水度(Cobb値)を求めた。)
【0102】
〈対水接触角の測定〉
対水接触角は、以下の方法により測定した。
試験用サンプルの外添面の反対側に位置する面に両面テープを張り、試験用サンプルをガラス板上に固定し、水2μlを滴下して1秒後の接触角を測定した。測定は、25℃30~60%湿度の環境下で行い、接触角の測定は、接触角測定装置Dropmaster701(協和界面科学社製)を用いて行った。
【0103】
〈実用油による耐油性評価〉
市販のオリーブオイル(エクストラバージンオリーブオイル)を、試験用サンプルの表面(平面部分)へ数滴滴下し、7分経過後にオリーブオイルを拭い去り、試験用サンプルへのオリーブオイルの浸透を目視で確認した。評価は以下のように行った。
a:試験用サンプルの表面における、滴下したオリーブオイルと接触した部分の面積に対する、オリーブオイルの染み込んだ部分の面積の割合が5%以下
b:試験用サンプルの表面における、滴下したオリーブオイルと接触した部分の面積に対する、オリーブオイルの染み込んだ部分の面積の割合が5%を超え70%未満
c:試験用サンプルの表面における、滴下したオリーブオイルと接触した部分の面積に対する、オリーブオイルの染み込んだ部分の面積の割合が70%以上
【0104】
(合成例1)ポリステアリルアクリレート(PSTA(1))の溶液重合
以下のようにして、PSTA(1)を合成した。
ナスフラスコに、ステアリルアクリレート(CH2=CHC(=O)OC18H37、以下、「STA」と記載することがある)11.5g(0.035 mol)、トルエン50 ml、アゾイソブチロニトリル53 mg(0.32 mmol)を入れ、窒素バブリングを20分行った後、65℃で加熱撹拌した。8時間後に加熱を停止し、反応溶液を濃縮後、メタノールに再沈殿することで、10.5gのポリステアリルアクリレート(PSTA(1))を得た。
【0105】
(合成例2)ポリステアリルアクリレート(PSTA(2))の電子線重合
以下のようにして、PSTA(2)を合成した。
STAを、窒素ガスを用いて30分間バブリングし、脱酸素した。脱酸素後のSTAを、シート状容器に10cc注入した。25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて該シート状容器に低エネルギー電子線を照射し、固形分を含む反応溶液を得た。照射条件は、加速電圧250kV、吸収線量80kGyとした。反応溶液をアセトンに再沈殿することで、ポリステアリルアクリレート(PSTA(2))を得た。
【0106】
(実施例1-1)
紙基材1として、市販半紙(株式会社呉竹製、LA5-3;坪量35g/m、透気度2秒、厚み90μm)を用意した。該紙基材の表面に、STAを5質量%含むアセトン溶液を、ギャップ0mmのバーコーターを用いて塗布後、風乾させる操作を複数回に分けて繰り返した。その後、得られた紙をシート状容器に入れて、真空脱気した。25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて該シート状容器に低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、吸収線量80kGyとした。
【0107】
(実施例1-2)
STAを5質量%含むアセトン溶液の塗工量を変更した以外は、実施例1-1と同様に行った。
【0108】
(実施例1-3)
STAを5質量%含むアセトン溶液の塗工量を変更した以外は、実施例1-1と同様に行った。
【0109】
(実施例1-4)
STAを5質量%含むアセトン溶液の塗工量を変更した以外は、実施例1-1と同様に行った。
【0110】
(比較例1-1)
STAを、窒素ガスを用いて30分間バブリングし、脱酸素した。脱酸素後のSTAを、シート状容器に10cc注入した。25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて該シート状容器に低エネルギー電子線を照射し、EB-PSTAポリマーを得た。照射条件は、加速電圧250kV、吸収線量75kGyとした。
得られたEB-PSTAポリマーを、HFE7200中に5質量%となるように分散させた。
【0111】
紙基材1として、実施例1-1と同様に、市販半紙(株式会社呉竹製、LA5-3;坪量35g/m、透気度2秒/空気100ml、厚み90μm)を用意した。上記紙基材の表面に、EB-PStAポリマーのHFE7200溶液を、ギャップ0mmのバーコーターで1回塗布し、風乾した。
【0112】
(比較例1-2)
合成例1で得られたPSTA(1)をクロロホルム中に溶解させ、PSTA(1)を5質量%含むCHCl溶液を得た。
【0113】
紙基材として、実施例1-1と同様に、市販半紙(株式会社呉竹製、LA5-3;坪量35g/m、透気度2秒/空気100ml、厚み90μm)を用意した。該紙基材の表面に、上記で得られたPSTA(1)を含むCHCl溶液を、ギャップ0mmのバーコーターを用いて1回塗布した後、風乾させた。
【0114】
(比較例1-3)
合成例2で得られたPSTA(2)にクロロホルムを加えて濃度調整し、PSTA(2)を1質量%含むCHCl溶液を得た。
【0115】
紙基材として、実施例1-1と同様に、市販半紙(株式会社呉竹製、LA5-3;坪量35g/m、透気度2秒/空気100ml、厚み90μm)を用意した。該紙基材の一方の主面に、上記で得られたPSTA(2)を溶解させたCHCl溶液を、ギャップ0mmのバーコーターを用いて1回塗布した後、風乾させた。
【0116】
実施例1-1~1-4および比較例1-1~1-3の重合条件を以下の表2に示す。なお、以下の表において「-」は、紙基材に対して電子線の照射を行っていないことを示す。
【0117】
【表2】
【0118】
以下の表3に、実施例1-1~1-4および比較例1-1~1-3で得られた紙の物性を示す。なお、以下の表において、「-」は測定していないことを示す。
【0119】
なお、「塗工量」は、以下のように求めた値である。
塗工量は、1.5cm×2.5cmの上記紙を切り出し、100℃の真空条件で30分乾燥させた後の重量を測定し、同様に測定した紙基材の乾燥重量と比較することで算出することができる。
【0120】
【表3】

【0121】
(実施例2-1)
低エネルギー電子加速器による低エネルギー電子線の吸収線量を120kGyとした以外は、実施例1-4と同様に行った。
【0122】
以下の表4に実施例2-1の条件を、表5に実施例2-1の評価結果を示す。各評価は、上記と同様に行った。参考として、実施例1-4の結果を再掲する。
【0123】
【表4】

【0124】
【表5】

【0125】
(比較例3)
STAを5質量%含むアセトン溶液の代わりに、ドデシルアクリレート(CH2=CHC(=O)OC12H25)を5質量%含むアセトン溶液を用い、低エネルギー電子線の吸収線量を60kGyとした以外は、実施例1-4と同様に行った。
【0126】
(実施例3)
ドデシルアクリレートの代わりに、ドコシルアクリレート(CH2=CHC(=O)OC22H45)を用い、電子線の吸収線量を75kGyとした以外は、実施例1-3と同様に行った。実施例3で得られた紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった。
【0127】
以下の表6に実施例3および比較例3の条件を、表7に実施例3および比較例3の評価結果を示す。各評価は、上記と同様に行った。
【0128】
【表6】

【0129】
【表7】

【0130】
(比較例2-1)
比較例2-1として日本製紙パピリア株式会社製耐油紙50NFB(坪量50g/m、厚さ52μm)を試験に供した。比較例2-1の紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった。
【0131】
(比較例2-2)
リンテック株式会社製OWB用紙(坪量45g/m、厚さ49μm)を試験に供した。比較例2-2の紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はbであった。
【0132】
それぞれの物性の評価結果を下表に示す。
【0133】
【表8】
【0134】
紙基材2として、以下の紙を用いた。
木材パルプとして、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)とNBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)の重量比率が、60重量%と40重量%で、かつ、パルプのろ水度が400ml(Canadian Standard Freeness)のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーに湿潤紙力剤、およびサイズ剤を添加して、その後、長網抄紙機により、紙密度が0.58g/cmの坪量45g/mの紙を作製した。
紙基材2の耐油性(KIT値)は0、耐水性(Cobb値)は52g/mであった。
【0135】
(実施例4-1)
紙基材として紙基材2を用いた以外は、実施例1-4と同様に行った。実施例4-1で得られた紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった。
【0136】
(実施例4-2)
STAを5質量%含むアセトン溶液の代わりに、STAを4質量%およびウレタンアクリレートUA-160TM(新中村化学工業製)を1質量%含むアセトン溶液を用いた以外は、実施例4-1と同様にして実施した。実施例4-2で得られた紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった。
【0137】
(実施例4-3)
STAを5質量%含むアセトン溶液の代わりに、ステアリル酸アミドエチルアクリレート(C18AmEA)を1.7質量%含むトルエン溶液を用いて複数回塗布し、電子線の吸収線量を100kGy、電子線照射時の雰囲気温度を100℃とした以外は、実施例4-1と同様にして実施した。実施例4-3で得られた紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった。
【0138】
(実施例4-4)
C18AmEAを1.7質量%含むトルエン溶液の代わりに、C18AmEAを1.36質量%、PEG200ジメタクリレート(PEGdMA)を0.34質量%含むトルエン溶液を用いたとした以外は、実施例4-3と同様にして実施した。実施例4-4で得られた紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった。
【0139】
実施例4-1~4-4の処理条件を以下の表9に示す。また、実施例4-1~4-4で得られた紙の物性を表10に示す。
【0140】
【表9】

【0141】
【表10】

【0142】
(実施例5-1)
紙基材としてダンボールを用い、STAを5質量%含むアセトン溶液に複数回浸漬塗布して、吸収線量100kGy、25℃で低エネルギー電子線を照射した。実施例5-1で得られた紙の塗工量は25g/mであり、塗工紙表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった。
【0143】
(実施例6-1)
STAを12質量%およびPEGdMAを3質量%含むアセトン溶液を用いて、版深30μmグラビア版を備えたグラビア印刷機による塗工を行った。33m/sの印刷速度で紙基材1に塗工後、温風乾燥を行った。その後、得られた紙を低エネルギー電子加速器を用いて低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、吸収線量80kGy、25℃、酸素濃度100ppmとした。実施例6-1で得られた紙の表面における、HDに対する耐油性の評価はaであった
【0144】
【表11】

【0145】
(検討例1)
実施例1-1で得られた紙をクロロホルム中で一晩撹拌し、その後風乾させたものについてオリーブオイルを用いた実用油による耐油性評価を行った。結果はaであった。
【0146】
(検討例2)
比較例1-2で得られた紙をクロロホルム中で一晩撹拌し、その後風乾させたものについてオリーブオイルを用いた実用油による耐油性評価を行った。結果はcであった。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本開示の製造方法により得られる紙は、例えば食品包装用途に用いる紙、剥離・離型紙、耐油紙等に用いることができる。