(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】アルダル酸を構造単位とする新規ポリマーと製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 69/26 20060101AFI20220729BHJP
【FI】
C08G69/26
(21)【出願番号】P 2021044438
(22)【出願日】2021-03-18
(62)【分割の表示】P 2018509364の分割
【原出願日】2017-03-29
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2016068112
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390021636
【氏名又は名称】塩水港精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】岩田 忠久
(72)【発明者】
【氏名】ロジャース 有希子
(72)【発明者】
【氏名】呉 ユーシン
(72)【発明者】
【氏名】正木 久晴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】原 浩司
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/001240(WO,A1)
【文献】特表2002-511113(JP,A)
【文献】特開2008-081411(JP,A)
【文献】特開2010-019837(JP,A)
【文献】特表2008-530307(JP,A)
【文献】特表2008-504410(JP,A)
【文献】特開昭62-283124(JP,A)
【文献】ROSU Cornelia et al.,Sugar-Based Polyamides:Self-Organization In Strong Polar Organic Solvents,Biomacromolecules,2015年,16,3062-3072
【文献】橋本和彦ら,D-ガラクトース誘導体を主鎖に含むポリアミドの合成とその性質,高分子学会予稿集,1999年,Vol.48,No.2,293
【文献】KIELY E.Donald et al.,Hydroxylated Nylons Based on Unprotected Esterified D-Glucaric Acid by Simple Condensation Reactions,J.Am.Chem.Soc.,1994年,116,571-578
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63、69、C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアルダル酸に由来する繰り返し単位と、少なくとも1つのジアミンに由来する繰り返し単位とを含み、重量平均分子量が1万以上である熱可塑性ポリマー(ただし、アルダル酸とジアミン以外のモノマーに由来する繰り返し単位を更に含む熱可塑性ポリマーである場合を除く。)であって、前記アルダル酸に由来する繰り返し単位が、アルダル酸の水酸基が保護基に変換されている繰り返し単位であり、前記アルダル酸がグルカル酸であり、前記ジアミンが、エチレンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、フェニレンジアミン、p-キシレンジアミン、及びm-キシレンジアミンよりなる群から選択される、熱可塑性ポリマー。
【請求項2】
少なくとも1つのアルダル酸に由来する繰り返し単位と、少なくとも1つのジアミンに由来する繰り返し単位とを含み、重量平均分子量が1万以上である熱可塑性ポリマーであって、前記アルダル酸に由来する繰り返し単位が、アルダル酸の水酸基が保護基に変換されている繰り返し単位であり、前記アルダル酸がグルカル酸であり、前記ジアミンが芳香族ジアミンである、熱可塑性ポリマー。
【請求項3】
結晶性を有する、請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルダル酸を構成単位とするポリマー、及びその製造方法に関する。特に、本発明は、グルカル酸等のアルダル酸を構成単位とする高分子量のポリマー、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の観点から、また、廃棄物増加に繋がるなどの理由からプラスチックに対する問題点が多々指摘されている。かかる環境上の要請から、既存の石油を原料とするプラスチックから、再生可能資源なバイオマス(植物材料)を原料とするバイオベースプラスチックへ代替することが重要になってきている。
【0003】
両末端がカルボキシル基であるグルカル酸(GA)はセルロースを分解して得られたグルコースなどの単糖を酸化して得られる糖酸であり、アメリカエネルギー省が定める12種類のバイオマスリファイナリー基幹物質の一つである。プラスチックなどの材料用途への応用は未だなされておらず、新規利用法の開発が非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2004/052958
【文献】US6894135B2
【文献】DE60308411D1
【文献】EP1569982A1
【文献】US2004/0158029
【文献】WO2004/052959A1
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kiely, D. E.; Chen, L.; Lin, T. H., Journal of the American Chemical Society 1994, 116, 571-578.
【文献】Kiely, D. E.; Chen, L.; Lin, T. H., Journal of Polymer Science Part a-Polymer Chemistry 2000, 38, 594-603.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルダル酸を構成単位とする高分子量のポリマー、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アルダル酸の1種であるGAを原料としたポリマー材料の開発を目指し、GAの水酸基を保護したモノマーの合成と、その重縮合によるポリマーの合成を試みてきたところ、これまで、直鎖状のグルカル酸アセテート(GAA)の合成に成功しており、GAAと1,6-ヘキサンジアミン(HA)などとの共重合によるポリアミドやポリエステルの合成を行ってきた。しかしながら、これまでの方法では、析出した生成物の分子量が3800以上を越えないという課題があった。
そこで、合成方法や後処理方法を検討したところ、得られたポリマーが水可溶部に存在しており、分子量も増加していることが分かり、ポリマーを効率的に回収する方法を見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、
[1]少なくとも1つのアルダル酸に由来する繰り返し単位を含み、重量平均分子量が3800以上である熱可塑性ポリマー。
[2]少なくとも1つのジアミン又はジオールに由来する繰り返し単位を更に含む、[1]に記載の熱可塑性ポリマー。
[3]少なくとも1つのジアミンに由来する繰り返し単位を含む、[2]に記載の熱可塑性ポリマー。
[4]前記アルダル酸が、キシラル酸、アラビナル酸、グルカル酸、マンナル酸、及びガラクタル酸よりなる群から選択される、[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー。
[5]結晶性を有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー。
[6](i)アルダル酸又はその誘導体、及びジアミン又はジオールを、水及び非極性有機溶媒中で混合する工程、及び
(ii)(i)の工程で得られた反応混合物を減圧下で濃縮する工程、
を含む、アルダル酸に由来する繰り返し単位を含むポリマーを製造する方法。
[7]濃縮した反応混合物を凍結乾燥することを含む、[6]に記載の製造方法。
[8]前記非極性有機溶媒が、クロロホルム、及びジクロロメタンよりなる群から選択される、[6]又は[7]に記載の製造方法。
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、アルダル酸を構成単位とする高分子量のポリマーを効率的に製造することができる。また、本発明により、アルダル酸を構成単位とする高分子量の熱可塑性ポリマーを提供することができ、新規バイオベースプラスチックとしての利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られたポリアミドの
1H-NMR
【
図2】実施例1、比較例1~2で得られたポリマーのGPC溶出曲線及び分子量分布
【
図3】実施例1で得られたポリアミドのTGA曲線(透析前のサンプルを混合物のまま測定)。
【
図4】実施例1で得られたポリアミドのDSC曲線(透析前のサンプルを混合物のまま測定)。
【
図5】実施例1で得られたポリアミドのPOM写真(透析前のサンプルを混合物のまま測定)。
【
図6】実施例2で得られたポリアミドの
1H-NMR
【
図7】実施例2で得られたポリアミドの
1H-NMR
【
図10】実施例3で得られたポリアミドの
1H-NMR
【
図11】実施例4で得られたポリアミドの
1H-NMR
【
図12】実施例4で得られたポリアミドのTGA曲線及びDSC曲線
【
図13】実施例5で得られたポリアミドの
1H-NMR
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1つの態様は、少なくとも1つのアルダル酸に由来する繰り返し単位を含み、重量平均分子量が3800以上であり、好ましくは4000以上であるポリマーである。
【0012】
本発明のポリマーは、好ましくは、少なくとも1つのジアミン又はジオールに由来する繰り返し単位を更に含む。
【0013】
ジアミンとしては、エチレンジアミン(EA)、1,4-ブタンジアミン(BA)、1,6-ヘキサンジアミン(HA)、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミンや、フェニレンジアミン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられ、好ましくは、エチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミンである。
【0014】
ジオールとしては、エチレングリコール(EG)、1,4-ブタンジオール(BO)、1,6-ヘキサンジオール(HA)、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオールが挙げられる。好ましくは、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールである。
【0015】
アルダル酸は、キシラル酸、アラビナル酸、グルカル酸、マンナル酸、又はガラクタル酸から選択され、好ましくは、グルカル酸である。
【0016】
本発明において、アルダル酸に由来する繰り返し単位には、アルダル酸自体を繰り返し単位とするものに加えて、アルダル酸の誘導体、即ち、アルダル酸の水酸基が保護基に変換されたものを繰り返し単位とするものも含まれる(ここでいう水酸基には、末端カルボキシ基の一部を構成するOH基は含まれない)。水酸基の保護基としては、エステル系保護基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基)、エーテル系保護基(例えば、メチル基、エチル基、ベンジル基)等が挙げられる。水酸基の保護基として、好ましくは、アセチル基、メチル基である。なお、通常の方法により、脱保護を行うことが可能であり、これにより、「アルダル酸の水酸基が保護基に変換されている繰り返し単位」を「アルダル酸自体に由来する繰り返し単位」に変換することも可能である。
【0017】
本発明の1つの好ましい実施態様において、アルダル酸に由来する繰り返し単位はグルカル酸アセテートに由来する繰り返し単位である。
【0018】
本発明のポリマーは、3800以上の重量平均分子量を有する。これまで得られたグルカル酸を構成単位とする重合体の重量平均分子量は2000程度であり、ポリマーとは言い難いものであったところ、本発明は、アルダル酸を構成単位とする重合体において3800以上の重量平均分子量を達成したものである。
本発明のポリマーの重量平均分子量は、通常、3800以上、好ましくは4000以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上である。また、重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常100万以下、好ましくは35万以下、より好ましくは10万以下である。
なお、上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値であり、標準物質としてはポリエチレンオキシドが使用される。
【0019】
また、本発明のポリマーは熱可塑性を示すものである。更に、本発明のポリマーは、好ましくは融点を有し、結晶性を示す。
【0020】
本発明のもう1つの態様は、(i)アルダル酸又はその誘導体、及びジアミン又はジオールを、水及び非極性有機溶媒中で混合する工程、及び(ii)(i)の工程で得られた反応混合物を減圧下で濃縮する工程、を含む、アルダル酸に由来する繰り返し単位を含むポリマーを製造する方法である。
【0021】
アルダル酸又はその誘導体とジアミン又はジオールを水/有機溶媒の界面重合で反応させると、通常は、化合物が析出するものの得られる化合物の重量平均分子量は2000程度と低いものである。これに対して、アルダル酸又はその誘導体、及びジアミン又はジオールを、水及び非極性有機溶媒中で混合して得られる反応混合物(より具体的には反応溶液)を、好ましくは撹拌しながら、減圧下で濃縮することにより、有機溶媒や水中にも生成しているポリマーを得ることができ、このポリマーの重量平均分子量は4000以上程度と比較的高分子量である。
【0022】
本発明のポリマーの製造方法は、上記(i)の工程が、好ましくは、塩基性触媒の存在下で行われる。塩基性触媒としては、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられ、炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0023】
アルダル酸又はその誘導体、及びジアミン又はジオールを、水及び非極性有機溶媒中で混合した後、通常、室温(例えば10~30℃)で、1分~10分静置させて反応させる。その後、反応混合物をナスフラスコ等に移して、エバポレーターで、反応混合物を撹拌しながら減圧濃縮する。
【0024】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミンや、フェニレンジアミン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられ、好ましくは、エチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミンである。
なお、ジアミンが芳香族ジアミンである場合は、上述した製造方法の他、通常の溶液重合によっても、アルダル酸に由来する繰り返し単位を含むポリマーを製造することができる。
【0025】
ジオールとしては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオールが挙げられる。好ましくは、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールである。
【0026】
アルダル酸は、キシラル酸、アラビナル酸、グルカル酸、マンナル酸、又はガラクタル酸から選択され、好ましくは、グルカル酸である。
アルダル酸の誘導体は、アルダル酸の水酸基が保護基に変換されたものを意味し(ここでいう水酸基には、末端カルボキシ基の一部を構成するOH基は含まれない)、水酸基の保護基としては、エステル系保護基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基)、エーテル系保護基(例えば、メチル基、エチル基)等が挙げられる。水酸基の保護基として、好ましくは、アセチル基、メチル基である。なお、通常の方法により、脱保護を行うことが可能であり、例えば合成後のポリマーに対して脱保護を行うことにより、「アルダル酸の水酸基が保護基に変換されている繰り返し単位」を「アルダル酸自体に由来する繰り返し単位」に変換することも可能である。
また、末端のカルボキシ基の一部を構成する水酸基は、ジアミン又はジオールとの反応性を高めるため、塩素等で置換することが好ましい。
【0027】
本発明の1つの好ましい実施態様において、アルダル酸の誘導体は塩化グルカル酸アセテートである。
【0028】
アルダル酸又はその誘導体とジアミン又はジオールのモル比は、通常1:1である。
【0029】
非極性有機溶媒としては、水より比重が高い溶媒が好ましく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。
【0030】
本発明のポリマーの製造方法の1つの側面は、濃縮した反応混合物を凍結乾燥することを含む。有機溶媒を減圧濃縮により除去してもポリマーが析出しない場合があり、この場合には、残りの水を凍結乾燥することにより生成物を全て回収することができる。
【0031】
濃縮した反応混合物を凍結乾燥してポリマーを得る場合は、得られる生成物中にモノマーが含まれている場合がある。生成物中のポリマーを分離精製するには、透析を行うことが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
(1)原料
グルカル酸カリウム塩は塩水港精糖株式会社から提供を受けた。それ以外の試薬は市販されているものを精製せずに用いた。
【0034】
(2)グルカル酸アセテートの合成
以下のスキーム1によりグルカル酸アセテートを合成した。
【0035】
【0036】
D-グルカル酸カリウム塩(10g)を無水酢酸(10ml)に室温で分散させ、その後、濃硫酸(50ml)を60℃で加えた。溶液は数分後に透明になり、3時間撹拌を行った。混合物をクロロホルム/アセトン(v/v=7:3)と水で抽出した。有機相をNa2SO4で乾燥し、乾燥するまで濃縮し、純水を加え、凍結乾燥により無色固体のグルカル酸アセテート(GAA)を得た(3.0g、収率30%)。
1H-NMR (CDCl3):δ 2.07 (s, 3H, CH3CO at C4), 2.08 (s, 3H, CH3CO at C3), 2.15 (s, 3H, CH3CO at C5), 2.19 (s, 3H, CH3CO at C2), 5.22 (d, 1H, J4,5= 4.65, C5-H), 5.37 (d, 1H, J2,3= 3.90, C2-H), 5.60 (dd, 1H, J4,5= 4.65, J4,3= 6.22, C4-H), 5.81 (dd, 1H, J3,2= 3.90, J3,4= 6.22, C3-H), 6.9 (broad s, C1OOH and C6OOH). 13C-NMR (CDCl3):δ 20.31 (CH3CO at C2), 20.36 (CH3CO at C5), 20.42 (CH3CO at C3) 20.46 (CH3CO at C4), 69.20 (C3), 69.66 (C5), 69.81 (C4), 70.15 (C2), 169.73 (CH3CO at C5), 170.07 (CH3CO at C3), 170.14 (CH3CO at C4), 170.19 (C6), 170.21 (C1), 170.47 (CH3CO at C2). 10% and 50% decomposition temperature Td10% = 187.5 °C, Td50% = 195.5 °C.
【0037】
(3)塩化グルカル酸アセテート(GACA)の合成
上記のスキーム1により、塩化グルカル酸アセテートを合成した。
GAA(1.0g、2.6mmol)のクロロホルム溶液に、塩化チオニル(1.2mlm、16.5mmol)を室温で加えた。反応混合物を50℃で3時間撹拌し、その後濃縮して、塩化グルカル酸アセテート(GACA)を得た。この生成物を精製せずに重合に用いた。
【0038】
[比較例1]
GAA系ポリエステルの溶液重合
以下のスキーム2の上段により、GAA系ポリエステルの溶液重合を行った。
【0039】
スキーム2:ジアミン又はジオールとのGACAの溶液重合
【0040】
エチレングリコール(EO、m=1)(147μL、2.6mmol)とトリエチルアミン(TEA)(734μL、2.6mmol)のジメチルアセトアミド(DMAc)(5.0ml)溶液に、GACA(ca.1.0g、2.6mmol)のDMAc(0.5ml)溶液を滴下した。反応混合物を一晩撹拌した。溶液を濃縮して、ポリエステルの粗生成物を得た。
1,4-ブタンジオール(BO、m=2)(234μL、2.6mmol)及び1,6-ヘキサンジオール(HO、m=3)(312mg、2.6mmol)を用いて、他のポリエステルを合成した。
【0041】
[比較例2]
GAA系ポリアミドの溶液重合
以下のスキーム2の下段により、GAA系ポリアミドの溶液重合を行った。
エチレンジアミン(EA、m=1)(176.4μL、2.6mmol)及びTEA(734μL、5.3mmol)のDMAc(5.0ml)溶液に、GACA(ca.1.0g、2.6mmol)のDMAc(5.0ml)溶液を滴下した。反応混合物を一晩撹拌した。溶媒をエバポレーターにより除去し、乾燥凍結し、ポリアミドの粗生成物を得た。
1,4-ブタンジアミン(BA、m=2)(265μL、2.6mmol)及び1,6-ヘキサンジアミン(HA、m=3)(365μL、2.6mmol)を用いて他のポリアミドを合成した。ポリアミドの分子量は、精製せずにGPCで測定した。
【0042】
[実施例1]
界面重合によるGAA系ポリアミドの合成
以下のスキーム3により、GAA系ポリアミドの界面重合を行った。
【0043】
【0044】
GACA(ca.1.0g、2.6mmol)のクロロホルム(15ml)溶液を用意し、EA(200μL、3.0mmol)及び炭酸水素ナトリウム(0.6g)の水溶液(10ml)を該クロロホルム溶液の表面に滴下した。2相からなる溶液をフラスコに入れて、全ての反応混合物をロータリーエバポレーターを用いて溶媒蒸発により回収し、続けて凍結乾燥し、粗ポリアミドを得た。重合生成物(ca.600mg)をセルロース透析膜(MWCO=1000)を用いて水による透析により精製し、GAA及びEA(4.1mg)からなるポリアミドを得た。
BA(300μL、3mmol)及びHA(400μL、3.0mmol)を用いて他のポリアミドを合成し、GAA及びBA又はHAからなる純粋なポリアミドの収量は、各々、1.7mg及び4.2mgであった。
【0045】
実施例1で得られたポリアミドの
1H-NMRを
図1に示す。
図1のプロトンのピークを同定した。5-6ppmの範囲のブロードなピークはグルカル酸主鎖のプロトン由来であり、ポリマー状生成物が得られたことが示唆された。また、2.1ppmにアセチル基由来のピークが見られた。
図1の(a)における3.4ppmのピークはEAのCH
2由来であり、
図1の(b)における3.2と1.5ppmのピークはBAのCH
2由来であり、
図1の(c)における3.2、1.3、1.5ppmのピークはHAのCH
2由来であった。
1H-NMRの測定からジアミンとグルカル酸アセテートとの重合反応が進んだことが分かる。
【0046】
(4)分子量の測定
実施例1、比較例1~2で得られたポリマーの分子量を、20mM LiCl/DMAcを溶媒としてGPC(SCL-10A,RID-10A,SIL-10Ai,CTO-10AC, and LC-10Ai,Shimadzu)により測定した。GPC曲線を
図2に示す。
図2の(a)、(b)は、GAA及びEO、BO、HOからなるポリエステルのGPC溶出曲線及び分子量分布であり(比較例1)、(c)、(d)は、GAA及びEA、BA、HAからなる溶液重合によるポリアミドのGPC溶出曲線及び分子量分布であり(比較例2)、(e)、(f)は、GAA及びEA、BA、HAからなる界面重合によるポリアミドのGPC溶出曲線及び分子量分布である(実施例1)。
図2(e)の溶出曲線のうち、14分付近に溶出した最も高分子量のピークが生成したポリマー由来である。16分付近の低分子量側のピークの分子量は300程度だったことから、モノマーと考えられる。
ポリマーの分子量を表1に示す。全てのジアミンとの界面重合において、14.5×10
3~20.8×10
3という高分子量化合物が溶液中に生成していることが示される。
【0047】
【0048】
[比較例3]
GACAとEAを実施例1と同じ仕込み比率で界面重合を行った。EAの炭酸水素ナトリウム水溶液をGACAのクロロホルム溶液に入れた後、エバポレーターを使わず、三日間攪拌した。水とクロロホルムで分液し、有機層を濃縮乾燥した。水層を凍結乾燥した。生成物の分子量をクロロホルムまたは20mM LiCl/DMAcでGPC測定した。有機層の生成物の重量平均分子量は1,300であり、水層の生成物の分子量は1,000ぐらいであった。
【0049】
(5)熱的特性
実施例1で得られたポリアミドについて透析前のサンプルを混合物のまま測定した。
TGA曲線を
図3に示す。ポリアミドは150~200℃に分解があった。これはGAAとジアミンモノマー由来であった。加熱後残った40%の残存物は塩であった。
DSC曲線を
図4に示す。EA、BA、HAとの重合生成物は119.5、139.4、141.7℃に吸熱ピークが見られた。GAAとHAの融点は50と44℃であり、EA、BAは室温下で液体であるから、これらのピークは生成物の融点であった。従って、生成物は結晶性ポリアミドと考えられた。
図5に実施例1で得られたポリアミドのPOM写真を示す。開始温度40℃と比較し、EA、BA、HAとの重合生成物は、各々、120℃、140℃、140℃に溶融により透明になった部分が見える。得られた生成物は熱可塑性であった。
【0050】
[実施例2]
溶液重合によるGAA系ポリアミドの合成
以下のスキーム4により、GACAと芳香族ジアミンとの溶液重合を行い、GAA系ポリアミドを合成した。
【0051】
スキーム4:GACAとm-キシレンジアミン(mXDA)との重合
【0052】
m-キシレンジアミン(mXDA)とトリエチルアミン(Et3N)のジメチルアセトアミド(DMAc)(5.0ml)溶液に、GACAのDMAc(5.0ml)溶液を滴下した。反応混合物を室温にて一晩撹拌した後、純水の添加により沈殿物が析出した。沈殿物をろ過して、純水で洗浄し、真空乾燥を行い、ポリアミドを得た。
GACA、mXDA、Et3N及びDMAcの使用量等の重合条件、並びにポリアミド生成物の分子量及び収率を表2に示す。
【0053】
【0054】
表2から分かるように、mXDAの割合が少し過量である場合や、反応溶液中のモノマーの濃度が高い場合ほど、生成物の分子量はより高くなった。
【0055】
表2の番号1及び2の重合条件で得られたポリアミドの
1H-NMRを
図6に示し、表2の番号3及び4の重合条件で得られたポリアミドの
1H-NMRを
図7に示す。
図6~7には、ピークの帰属を示すが、ポリアミド生成物の化学構造が確認できる。
【0056】
表2の番号1及び2の重合条件で得られたポリアミドのTGA曲線及びDSC曲線を
図8及び
図9に示す。
TGA曲線を
図8に示す。これらポリアミドは230℃付近から分解が開始することが分かった。
DSC曲線を
図9に示す。表2の番号1及び2の重合条件で得られた重合生成物は、それぞれ149.8℃及び132.5℃に吸熱ピークが見られた。これらのピークは生成物の融点である。従って、生成物は結晶性ポリアミドと考えられた。
【0057】
[実施例3]
溶液重合によるGAA系ポリアミドの合成
以下のスキーム5により、GACAと芳香族ジアミンとの溶液重合を行い、GAA系ポリアミドを合成した。
【0058】
スキーム5:GACAとp-キシレンジアミン(pXDA)との重合
【0059】
p-キシレンジアミン(pXDA,2.6mmol)とトリエチルアミン(Et
3N,5.2mmol)のジメチルアセトアミド(DMAc)(5.0ml)溶液に、GACA(2.6mmol)のDMAc(5.0ml)溶液を滴下した。反応混合物を室温にて一晩撹拌した後、純水の添加により沈殿物が析出した。沈殿物をろ過して、純水で洗浄し、真空乾燥を行い、ポリアミドを得た。
ポリアミド生成物の分子量は、Mw=7.8×10
3、Mn=4.1×10
3、Mw/Mn=1.9であり、収率は45.2%であった。
実施例3で得られたポリアミドの
1H-NMRを
図10に示す。
図10には、ピークの帰属を示すが、ポリアミド生成物の化学構造が確認できる。
【0060】
[実施例4]
界面重合によるGAA系ポリアミドの合成
以下のスキーム6により、GACAと芳香族ジアミンとの界面重合を行い、GAA系ポリアミドを合成した。
【0061】
スキーム6:GACAとm-キシレンジアミン(mXDA)との重合
【0062】
GACA(2.6mmol)のクロロホルム(10ml)溶液を用意し、mXDA(3.0mmol)及び炭酸水素ナトリウム(0.6g)の水(10ml)溶液をクロロホルム溶液の表面に滴下した。2相からなる溶液をフラスコに入れて、全ての反応混合物をロータリーエバポレーターを用いて溶媒蒸発により回収し、続けて凍結乾燥し、粗ポリアミドを得た。重合生成物(ca.600mg)をセルロース透析膜(MWCO=1000)を用いて水による透析により精製し、GAA及びmXDAからなるポリアミド(収量572mg)を得た。
ポリアミド生成物の分子量は、Mw=6.6×10
3、Mn=1.6×10
3、Mw/Mn=4.0であった。
実施例4で得られたポリアミドの
1H-NMRを
図11に示す。
図11には、ピークの帰属を示すが、ポリアミド生成物の化学構造が確認できる。
また、実施例4で得られたポリアミドのTGA曲線及びDSC曲線を
図12に示す。
TGA曲線を
図12左に示す。ポリアミドは150~200℃に分解があった。
DSC曲線を
図12右に示す。GAA由来の融点と思われる吸熱が50~70℃見られたが、それ以外の吸熱ピークは見られなかった。分子量が6000と低いので、結晶性か非晶性かについては言及することは難しい。
【0063】
[実施例5]
GAA系ポリアミドの脱保護
以下のスキーム7により、GAA系ポリアミドからアセチル基の脱保護を行い、GA系ポリアミドへと変換した。
【0064】
【0065】
GAA系ポリアミドとして、実施例2に記載される表2の番号4の重合条件で得られたポリアミドを用いた。
GAA系ポリアミド(250mg)をDMAc(5.0mL)に溶かし、ここに28%アンモニア水(1.5mL、2.0mL又は2.5mL)を添加して、室温にて24時間攪拌した。
1.5mL及び2.5mLのアンモニア水を添加した場合は、24時間後、反応混合物中にアセトンを加えてポリアミドを沈殿させ、これを回収した。1.5mLのアンモニア水を添加した場合の収量は169.0mgであり、2.5mLのアンモニア水を添加した場合の収量は138.0mgであった。
また、2.0mLのアンモニア水を添加した場合は、24時間後、反応混合物中に2-プロパノールを加えてポリアミドを沈殿させ、これを回収した。2.0mLのアンモニア水を添加した場合の収量は87.8mgであった。
【0066】
実施例5で得られたポリアミドの
1H-NMRを
図13に示す。
図13の(a)は、原料であるGAA系ポリアミドの
1H-NMRを示し、
図13の(b)、(c)及び(d)は、それぞれ1.5mL、2.0mL及び2.5mLのアンモニア水を添加した場合に得られた回収ポリアミドの
1H-NMRを示す。
グルカル酸のプロトン由来のピークが5-6ppm範囲(a)から3.7-4.3ppm範囲(b,c,d)にシフトし、脱保護が行われたことが分かる。2.5mLのアンモニア水を添加した場合は、他と比べてOHのピークがブロードであり、脱保護がよく進行していることが分かる。なお、沈殿にアセトンを用いた場合、回収した生成物の純度が低く、一方、2-プロパノールを用いた沈殿では、回収した生成物の純度が高いことが分かる。