(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】無機硫化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 10/02 20060101AFI20220729BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20220729BHJP
C01G 17/00 20060101ALI20220729BHJP
C03C 3/32 20060101ALI20220729BHJP
C03C 10/16 20060101ALI20220729BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220729BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20220729BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220729BHJP
【FI】
C03C10/02
C01B25/14
C01G17/00
C03C3/32
C03C10/16
H01M4/62 Z
H01M10/0525
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2018552506
(86)(22)【出願日】2017-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2017040652
(87)【国際公開番号】W WO2018096957
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2016229662
(32)【優先日】2016-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017001819
(32)【優先日】2017-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017118621
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 光春
(72)【発明者】
【氏名】小島 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】竹田 正明
(72)【発明者】
【氏名】武中 彩
(72)【発明者】
【氏名】山家 侑
(72)【発明者】
【氏名】青木 靖仁
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-103281(JP,A)
【文献】特開2016-117640(JP,A)
【文献】特開2014-93262(JP,A)
【文献】特開2013-16423(JP,A)
【文献】特開2013-201110(JP,A)
【文献】Akitoshi HAYASHI et al.,"Formation of superionic crystals from mechanically milled Li2S-P2S5 glasses",electrochemistry communications,2003年,vol.5,pp.111-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
C01B17/20-17/45
C01B25/08-25/14
H01B1/06-1/12
H01M4/13-4/1399
H01M4/62
H01M10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
xLi
2S-yGeS
2-(1-x-y)P
2S
5 (1)
[式中、x及びyは、0.667≦x≦0.860、0≦y≦0.333、0.667≦x+y≦1を示す。]
で表され、結晶相とガラス相とが共存して
おり、前記結晶相が、Li
3
PS
4
、Li
7
PS
6
、Li
4
GeS
4
及びLi
10
GeP
2
S
12
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶相であり、且つ、
y=0の条件下では、前記結晶相は、x≦0.775ではLi
3
PS
4
、0.755≦xではLi
7
PS
6
であり、
yが0以外の条件下では、前記結晶相は、Li
4
GeS
4
及び/又はLi
10
GeP
2
S
12
である、無機硫化物。
【請求項2】
一般式(2):
dLi
2S-eMS
2-fLiX-(1-d-e-f)P
2S
5 (2)
[式中、XはCl、Br及びIよりなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。MはGe、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。d、e及びfは、0.600≦d≦0.860、0≦e≦0.333、0<f≦0.300、0.600≦d+e+f≦1を示す。]
で表され、結晶相とガラス相とが共存して
おり、前記結晶相が、β-Li
3
PS
4
、立方晶アージャロダイト、Li
10
MP
2
S
12
(MはGe又はSnである)、及びLi
4
PS
4
Iよりなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶相である、無機硫化物。
【請求項3】
Li
2Sからなる結晶相を含まない、請求項1
又は2に記載の無機硫化物。
【請求項4】
ヤング率が3.0GPa以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【請求項5】
イオン伝導度が1.00×10
-4S・cm
-1以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の無機硫化物の製造方法であって、
Li
2Sを含む原料粉末に対して、
振動ミルで800rpm以上の回転数のミリング処理を施した後に、
遊星ボールミルで600rpm以下の回転数のミリング処理を施す工程
を備える、製造方法。
【請求項7】
前記原料粉末が、さらに、GeS
2、SnS
2、TiS
2、LiX及びP
2S
5よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の無機硫化物からなる、リチウムイオン二次電池用固体電解質。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の無機硫化物からなる、リチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の無機硫化物からなる、リチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料。
【請求項11】
請求項
8に記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質又は請求項
9に記載のリチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料を含有する電解質層と、請求項
10に記載のリチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料を含有する電極との少なくとも1つを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機硫化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度電池として注目され、携帯機器(小型民生用途)のみならず、車載用、社会インフラ等の定置用途にも用途が拡大している。これら大型リチウムイオン二次電池への要求の一つとして、安全性の向上が挙げられる。通常のリチウムイオン二次電池(以後液系と略記)には有機電解液が使用され、粘度低下剤として消防法危険物第4類の第二石油類に該当する可燃性の低沸点溶媒(炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル等)が大量に含まれるため、電池の発火、発煙の懸念がある。安全性の向上のための企業努力は行われているものの、構成部材の変更、つまり電解液をより可燃性の低い固体電解質に変更し、材料構成上、飛躍的な安全性向上が図れれば、安全性配慮のためのコスト低減がはかれ、産業上きわめて有用である。
【0003】
固体電解質には高分子系と無機系があるが、高分子系は現状室温以下でのイオン伝導度が低く、60℃以上でないと液系に近い十分な電池作動が見込めない。一方、無機系には酸化物系と硫化物系があるが、酸化物系はイオン伝導度が高いものの、成形性が低く脆いためプレスのみによる電池構築が困難という問題がある。
【0004】
ところで、硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(P2S5)、硫化ゲルマニウム(GeS2)等からなる硫化物固体電解質は、室温においても有機電解液に迫る高いイオン伝導度を有するのみならず、粒界抵抗が酸化物に比べて低く、成形性が高いために最も有望な固体電解質の一つである。
【0005】
一例としてLi2S-P2S5系固体電解質をあげる。この電解質は、一般的な硫化物固体電解質合成法である封管法、硫化水素気流下焼成法等とは異なり、ミリング装置を用いた室温でのメカニカルミリング(以後MMと呼ぶ)法によって簡便に合成できる唯一の硫化物固体電解質である。MM法により、結晶相を含まない、成形性に優れた硫化物ガラスからなる固体電解質が得られることが知られている。しかしながら、このようにして得られた固体電解質は、イオン伝導度が低いためにレート特性が劣るという欠点があり、その問題の解決のために300℃以下で熱処理して一部結晶化させ、ガラスセラミックスと言われる固体電解質を得ている。このガラスセラミックス系固体電解質はレート特性に優れるものの、MM法のみで得られたガラス固体電解質を混合しないとサイクル特性に劣るという問題がある(例えば、特許文献1参照)。即ち、ガラスセラミックス系固体電解質は単独で使用することができない。このことから、成形性に優れ(特に低ヤング率を有し)、且つ、イオン伝導性に優れる固体電解質が求められている。このような固体電解質が提供できれば、電解質層用の固体電解質及びバインダー材料としてのみならず、電極用バインダー材料としても有望である。
【0006】
ところで、Li2S-P2S5系固体電解質として、xLi2S-(1-x)P2S5系固体電解質においては、x値を0.75以上にしないと、有毒の硫化水素を発生させる原因となるP2S7基、P2S6基等が生成する。この組成において、MM法のみで合成するとイオン伝導度は十分ではない。一方、x値が0.80以上の場合、MM法のみで合成すると原料のLi2Sが残留し、硫化水素が発生しやすいことが報告されており(例えば、非特許文献1参照)、ドライルームで扱うことができず作業が煩雑になる。一方、Li2S及びGeS2を含むxLi2S-(1-x)GeS2系固体電解質の場合は、xを0.667以上にすることによりGeS4
4-イオンのみとする必要がある。
【0007】
さらに、Li2S及びP2S5の他にGeS2も含むLi2S-GeS2-P2S5系や、Li2S及びGeS2を含むLi2S-GeS2系固体電解質は、石英ガラス管にLi2S及びGeS2、並びに必要に応じてP2S5を封入し、高温(例えば700℃)で熱処理する封管法により最終生成物を得ている(例えば、非特許文献2及び3参照)。しかしながら、この製造方法によれば、ヤング率が大きく成形性に優れた固体電解質を得ることはできない。また、一般に、封管法を採用した場合は大量合成が困難であることから、リチウムイオン伝導度が高く且つ電池作製が容易で大量合成が可能な固体電解質の製造方法の確立が求められている。また、そのような固体電解質ができれば、成形性の低い酸化物系又はリン酸塩系固体電解質との複合化による成形性改善も可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】A. Hayashi et al., Electrochemistry Communications, 5, 111-114 (2003).
【文献】R. Kanno et al, Journal of Electrochemical Society, 148 A742-A746 (2001).
【文献】M. Murayama et al, Solid State Ionics, 154, 789-794 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、成形性に優れ(特に低ヤング率を有し)、且つ、イオン伝導性に優れる固体電解質を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の組成を有し、結晶相とガラス相とが共存している無機硫化物(特に固体電解質)が、成形性に優れ(特に低ヤング率を有し)、且つ、イオン伝導性に優れることを見出した。また、本発明者らは、この無機硫化物は、所定の原料粉末に対して、高回転数のミリング処理を施した後に、低回転数のミリング処理を施すことにより得られることも見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.一般式(1):
xLi2S-yGeS2-(1-x-y)P2S5 (1)
[式中、x及びyは、0.667≦x≦0.860、0≦y≦0.333、0.667≦x+y≦1を示す。]
で表され、結晶相とガラス相とが共存している、無機硫化物。
項2.前記結晶相が、Li3PS4、Li7PS6、Li4GeS4及びLi10GeP2S12よりなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶相である、項1に記載の無機硫化物。
項3.一般式(2):
dLi2S-eMS2-fLiX-(1-d-e-f)P2S5 (2)
[式中、XはCl、Br及びIよりなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。MはGe、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。d、e及びfは、0.600≦d≦0.860、0≦e≦0.333、0<f≦0.300、0.600≦d+e+f≦1を示す。]
で表され、結晶相とガラス相とが共存している、無機硫化物。
項4.前記結晶相が、β-Li3PS4、立方晶アージャロダイト、Li10MP2S12(MはGe又はSnである)、及びLi4PS4Iよりなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶相である、項3に記載の無機硫化物。
項5.Li2Sからなる結晶相を含まない、項1~4のいずれか1項に記載の無機硫化物。
項6.ヤング率が3.0GPa以下である、項1~5のいずれか1項に記載の無機硫化物。
項7.イオン伝導度が1.00×10-4S・cm-1以上である、項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物。
項8.項1~7のいずれか1項に記載の無機硫化物の製造方法であって、
Li2Sを含む原料粉末に対して、高回転数のミリング処理を施した後に、低回転数のミリング処理を施す工程
を備える、製造方法。
項9.前記高回転数のミリング処理における回転数が800rpm以上であり、前記低回転数のミリング処理における回転数が600rpm以下である、項8に記載の製造方法。
項10.前記原料粉末が、さらに、GeS2、SnS2、TiS2、LiX及びP2S5よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、項8又は9に記載の製造方法。
項11.項1~7のいずれか1項に記載の無機硫化物からなる、リチウムイオン二次電池用固体電解質。
項12.項1~7のいずれか1項に記載の無機硫化物からなる、リチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料。
項13.項1~7のいずれか1項に記載の無機硫化物からなる、リチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料。
項14.項11に記載のリチウムイオン二次電池用固体電解質又は項12に記載のリチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料を含有する電解質層と、項13に記載のリチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料を含有する電極との少なくとも1つを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形性に優れ(特に低ヤング率を有し)、且つ、イオン伝導性に優れる固体電解質を簡便な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られた試料のX線回折パターンを示す。参考として、公知の70Li
2S-30P
2S
5相(ガラス相)及びLi
3PS
4相(結晶相)のピークも示す。
【
図2】実施例1で得られた試料を500℃で焼成したものの実測(+)及び計算(実線)X線回折パターンを示す。
【
図3】実施例2及び3で得られた試料のX線回折パターンを示す。参考として、公知の70Li
2S-30P
2S
5相(ガラス相)、Li
3PS
4相(結晶相)及びLi
7PS
6相(結晶相)のピークも示す。
【
図4】実施例4及び5で得られた試料のX線回折パターンを示す。参考として、公知の70Li
2S-30P
2S
5相(ガラス相)及びLi
7PS
6相(結晶相)のピークも示す。
【
図5】実施例6で得られた試料のX線回折パターンを示す。参考として、公知の70Li
2S-30P
2S
5相(ガラス相)、Li
3PS
4相(結晶相)及びLi
10GeP
2S
12相(結晶相;LGPS相)のピークも示す。
【
図6】実施例6で得られた試料を500℃で焼成したものの実測(+)及び計算(実線)X線回折パターンを示す。
【
図7】実施例7及び8で得られた試料のX線回折パターンを示す。参考として、公知の70Li
2S-30P
2S
5相(ガラス相)、Li
3PS
4相(結晶相)、Li
10GeP
2S
12相(結晶相;LGPS相)、Li
4GeS
4(結晶相)及びLi
6PS
7相(結晶相)のピークも示す。
【
図8】実施例9で得られた試料のX線回折パターンを示す。
【
図9】実施例10で得られた試料のX線回折パターンを示す。図内の数値は対応する結晶相のピーク位置に対応する指数を示す。
【
図10】実施例11で得られた試料と、ガラス相及び構成結晶相のX線回折パターンを示す。
【
図11】実施例12で得られた試料と、ガラス相及び構成結晶相のX線回折パターンを示す。
【
図12】実施例13で得られた試料と、ガラス相及び構成結晶相のX線回折パターンを示す。
【
図13】実施例14で得られた試料と、ガラス相及び構成結晶相のX線回折パターンを示す。
【
図14】実施例15で得られた試料と、ガラス相及び構成結晶相のX線回折パターンを示す。
【
図15】実施例16で得られた試料と、ガラス相及び構成結晶相のX線回折パターンを示す。
【
図16】実施例1で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果である。充放電容量は正極活物質量で規格化している。
【
図17】実施例5で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果である。充放電容量は正極活物質量で規格化している。
【
図18】実施例13で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果である。充放電容量は正極活物質量で規格化している。
【
図19】実施例15で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果である。充放電容量は正極活物質量で規格化している。
【
図20】実施例16で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果である。充放電容量は正極活物質量で規格化している。
【
図21】実施例6で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果である。充放電容量は正極活物質量で規格化している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、数値範囲を「A~B」と表記する場合、A以上B以下を意味する。
【0015】
1.無機硫化物(1)
本発明の無機硫化物(1)は、一般式(1):
xLi2S-yGeS2-(1-x-y)P2S5 (1)
[式中、x及びyは、0.667≦x≦0.860、0≦y≦0.333、0.667≦x+y≦1を示す。]
で表され、結晶相とガラス相とが共存している。
【0016】
本発明の無機硫化物(1)においては、電荷担体として働くLiイオンに対して、P及びGeがPS4
3-及びGeS4
4-イオンとして存在しており、ガラス相形成又は結晶格子形成イオンとして働く。
【0017】
本発明の無機硫化物(1)は、一般式(1)において、Li2Sの含有量であるxが0.667~0.860であり、GeS2の含有量であるyが0~0.333であることが重要である。これは、以下の2点に集約される。(1)イオン伝導度は、電荷担体濃度と移動度の積に比例するため、Li2S濃度を増大させると電荷担体(Liイオン)濃度を増大させることができる一方、xが0.860をこえるとガラス構造内に全てのLi2Sを導入できないため、無機硫化物中に不純物としてLi2Sが残留し(Li2Sからなる結晶相が存在し)、硫化水素(H2S)発生源となる。このような理由から、xは好ましい一態様(P2S5を含む態様)では0.750~0.860、好ましくは0.760~0.850、より好ましくは0.770~0.830であり、別の好ましい態様(P2S5を含まない態様)では0.667~0.800、好ましくは0.680~0.770、より好ましくは0.700~0.750である。(2)一方、GeS2の含有量であるyは、必要に応じてイオン伝導度を高め高電位側の電位窓を広げることが可能であるものの、yが0.333をこえると高価なGeが大量に必要になるためにコスト上昇を招く。このような理由から、yは好ましい一態様(P2S5を含む態様)では0~0.200、好ましくは0.050~0.20、より好ましくは0.080~0.150であり、別の好ましい態様(P2S5を含まない態様)では0~0.333、好ましくは0.050~0.30、より好ましくは0.080~0.250である。なお、このようなx及びyは、0.667≦x+y≦1を満たす数値である。
【0018】
本発明の無機硫化物(1)が有する結晶相としては、特に制限されないが、原料粉末であるLi2S、GeS2、P2S5等からなる結晶相は含まれないことが好ましい。特に、Li2Sからなる結晶相を含まないことにより、硫化水素の発生を抑制することができるため、低湿度環境下においても取扱いのしやすい無機硫化物を得ることができる。
【0019】
なお、本発明の無機硫化物(1)において、各結晶相の存在比は、例えば、X線回折パターンのリートベルト法による解析によって定量分析が可能である。各結晶相の存在比は、例えば、原料粉末の組成、後述する製造方法におけるミリングの条件、ミリング処理後の熱処理条件等によって変えることが可能である。なお、本発明の無機硫化物(1)において、各結晶相はいずれも良好なリチウムイオン伝導性を示すものの、Li3PS4又はLi7PS6が合計で40質量%以上(40~100質量%)含まれていることが好ましい。
【0020】
このような本発明の無機硫化物(1)が有する結晶相としては、Li3PS4、Li7PS6、Li4GeS4及びLi10GeP2S12よりなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶相が好ましい。具体的には、一般式(1)において、y=0の条件下で0.750≦x≦0.775である場合にはLi3PS4からなる結晶相(空間群Pnmaのβ型の斜方晶系結晶相)が形成されやすく、一般式(1)において0.755≦x≦0.860である場合にはLi7PS6からなる結晶相(特にLi7PS6からなる空間群
【0021】
【0022】
の立方晶アージャロダイト結晶相)が形成されやすい。一方、一般式(1)においてyが0以外の場合(0<y≦0.333、特に0.050≦y≦0.200)にはLi10GeP2S12からなる結晶相(特にLi10GeP2S12からなる空間群P42/nmcの正方晶系結晶相)やyが大きい(例えば0.200<y≦0.333、例えばy=0.333)の場合にはLi4GeS4(空間群Pnmaの斜方晶系結晶相)も形成されやすい。
【0023】
本発明の無機硫化物(1)は、このような結晶相を有することにより、イオン伝導度(特にリチウムイオン伝導度)を高くすることができる。具体的には、本発明の無機硫化物(1)のイオン伝導度を1.00×10-4S・cm-1以上、特に1.50×10-4~5.00×10-4 S・cm-1とすることが可能である。イオン伝導度は、得られた粉末を錠剤成形後、交流インピーダンス法により測定する。
【0024】
一方、本発明の無機硫化物(1)が有するガラス相は、従来公知の70Li2S-30P2S5系固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを有する相を意味する。本発明の無機硫化物(1)は、このようなガラス相を有することにより、柔らかい材料とし成形性を高め、ヤング率を低くすることができる。具体的には、本発明の無機硫化物(1)のヤング率を3.0GPa以下、特に0.2~2.8GPaとすることができる。ヤング率は、微小圧縮試験機を用いて測定する。
【0025】
なお、本発明の無機硫化物(1)において、結晶相とガラス相との存在比は、例えば、特開2014-093262号公報に記載されている固体31P-NMRによって定量分析が可能である。結晶相とガラス相との存在比は、例えば、後述する製造方法におけるミリングの条件、ミリング処理後の熱処理条件等によって変えることが可能である。なお、本発明の無機硫化物(1)において、結晶相とガラス相との存在比は、成形性とイオン伝導度のバランスの観点から、10: 90~90: 10(質量比)が好ましく、20: 80~80: 20(質量比)がより好ましい。
【0026】
一方、本発明の無機硫化物(1)は、上記の結晶相及びガラス相を含んでいればよく、充放電特性に重大な影響を及ぼさない範囲の他の不純物相を含んでいてもよい。このような不純物相としては、単体硫黄、硫化リン、硫化ゲルマニウム、硫化リチウム等が挙げられる。ただし、本発明においては、結晶相によりイオン伝導度を向上させ、ガラス相により成形性を向上させヤング率を低くするため、不純物相の存在割合は低いことが好ましい。このような観点から、本発明の無機硫化物(1)が、不純物相を有する場合、通常、本発明の無機硫化物(1)の総量を100質量%として、不純物相は0.1~10質量%(特に0.2~5質量%)が好ましい。
【0027】
以上のような条件を満たす本発明の無機硫化物(1)の形状は特に制限されず、例えば、粉末状、粒状、ペレット状、繊維状等の任意の形状を採用することができる。なお、後述の製造方法によれば、粉末状の無機硫化物が生成されやすい。
【0028】
以上のような条件を満たす本発明の無機硫化物(1)は、成形性に優れ(特に低ヤング率を有し)、且つ、イオン伝導性に優れる。このため、リチウムイオン二次電池用電解質層を構成する固体電解質として有用であるし、リチウムイオン二次電池用電解質層を構成する固体電解質(特に成形性の乏しい固体電解質)用のバインダー材料としても有用である。また、リチウムイオン二次電池の電極用のバインダー材料としても有用である。
【0029】
2.無機硫化物(2)
本発明の無機硫化物(2)は、一般式(2):
dLi2S-eMS2-fLiX-(1-d-e-f)P2S5 (2)
[式中、XはCl、Br及びIよりなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。MはGe、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。d、e及びfは、0.600≦d≦0.860、0≦e≦0.333、0<f≦0.300、0.600≦d+e+f≦1を示す。]
で表され、結晶相とガラス相とが共存している。
【0030】
一般式(2)において、XはCl、Br及びIよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、充放電特性の観点からCl及びBrが好ましい。
【0031】
一般式(2)において、MはGe、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、充放電特性の観点からGeとTiとを混合して使用することが好ましい。
【0032】
本発明の無機硫化物(2)においては、電荷担体として働くLiイオンに対して、P、Ge、Sn及びTiがPS4
3-及びMS4
4-イオンとして、XはX-イオンとして存在しており、いずれもガラス相形成又は結晶格子形成イオンとして働く。
【0033】
本発明の無機硫化物(2)は、一般式(2)において、Li2Sの含有量であるdが0.600~0.860であり、MS2の含有量であるeが0~0.333であり、LiXの含有量であるfが0~0.300であることが重要である。これは、以下の2点に集約される。(1)イオン伝導度は、電荷担体濃度と移動度の積に比例するため、Li2S及びLiX濃度を増大させると電荷担体(Liイオン)濃度を増大させることができる一方、dが0.860を、fが0.300をこえるとガラス構造内に全てのLi2S及びLiXを導入できないため、無機硫化物中に不純物としてLi2S及びLiXが残留し(Li2S及びLiXからなる結晶相が存在し)、硫化水素(H2S)発生源となる。このような理由から、dは好ましい一態様(P2S5を含む態様)では0.750~0.860、好ましくは0.760~0.850、より好ましくは0.770~0.830であり、別の好ましい態様(P2S5を含まない態様)では0.667~0.800、好ましくは0.680~0.770、より好ましくは0.700~0.750である。また、fは好ましい一態様(P2S5を含む態様)では0.050~0.300、好ましくは0.100~0.250である。(2)一方、MS2の含有量であるeは、必要に応じてイオン伝導度を高め高電位側の電位窓を広げることが可能であるものの、eが0.333をこえるとM= Geの場合、高価なGeが大量に必要になるためにコスト上昇を招く。このような理由から、eは好ましい一態様(P2S5を含む態様)では0~0.200、好ましくは0.050~0.20、より好ましくは0.080~0.150であり、別の好ましい態様(P2S5を含まない態様)では0~0.333、好ましくは0.050~0.30、より好ましくは0.080~0.250である。なお、このようなd、e及びfは、0.600≦d+e+f≦1を満たす数値である。
【0034】
本発明の無機硫化物(2)が有する結晶相としては、特に制限されないが、原料粉末であるLi2S、LiX、MS2、P2S5等からなる結晶相は含まれないことが好ましい。特に、Li2Sからなる結晶相を含まないことにより、硫化水素の発生を抑制することができるため、低湿度環境下においても取扱いのしやすい無機硫化物を得ることができる。
【0035】
なお、本発明の無機硫化物(2)において、各結晶相の存在比は、例えば、X線回折パターンのリートベルト法による解析によって定量分析が可能である。各結晶相の存在比は、例えば、原料粉末の組成、後述する製造方法におけるミリングの条件、ミリング処理後の熱処理条件等によって変えることが可能である。なお、本発明の無機硫化物(1)において、各結晶相はいずれも良好なリチウムイオン伝導性を示すものの、β-Li3PS4又はアージャロダイト相(Li7PS6又はLi6PS5X)が合計で40質量%以上(40~100質量%)含まれていることが好ましい。
【0036】
このような本発明の無機硫化物(2)が有する結晶相としては、β-Li3PS4、立方晶アージャロダイト及び、Li10MP2S12及びLi4PS4Iよりなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶相が好ましい。具体的には、一般式(2)において、e=0の条件下で0.750≦d≦0.775である場合にはβ-Li3PS4からなる結晶相(空間群Pnmaの斜方晶系結晶相)が形成されやすく、一般式(2)において0.755≦d≦0.860である場合にはLi7PS6からなる結晶相(特にLi7PS6からなる空間群
【0037】
【0038】
の立方晶アージャロダイト結晶相)が形成されやすい。Xがヨウ化物イオンの場合、Li4PS4Iからなる結晶相(空間群P4/nmm)も形成されやすい。一方、一般式(2)においてeが0以外の場合(0<e≦0.333、特に0.050≦e≦0.200)にはLi10MP2S12からなる結晶相(特にLi10MP2S12からなる空間群P42/nmcの正方晶系結晶相)も形成されやすい。また、dが0.222に、eが0に近い場合にはLi6PS5Xからなる上記立方晶アージャロダイト相が形成されやすい。
【0039】
本発明の無機硫化物(2)は、このような結晶相を有することにより、イオン伝導度(特にリチウムイオン伝導度)を高くすることができる。具体的には、本発明の無機硫化物(2)のイオン伝導度を1.00×10-4S・cm-1以上、特に1.50×10-4~5.00×10-4 S・cm-1とすることが可能である。イオン伝導度は、得られた粉末を錠剤成形後、交流インピーダンス法により測定する。
【0040】
一方、本発明の無機硫化物(2)が有するガラス相は、従来公知の70Li2S-30P2S5系固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを有する相を意味する。本発明の無機硫化物(2)は、このようなガラス相を有することにより、柔らかい材料として成形性を高め、ヤング率を低くすることができる。具体的には、本発明の無機硫化物(2)のヤング率を3.0GPa以下、特に0.2~2.8GPaとすることができる。ヤング率は、微小圧縮試験機を用いて測定する。
【0041】
なお、本発明の無機硫化物(2)において、結晶相とガラス相との存在比は、例えば、特開2014-093262号公報に記載されている固体31P-NMRによって定量分析が可能である。結晶相とガラス相との存在比は、例えば、後述する製造方法におけるミリングの条件、ミリング処理後の熱処理条件等によって変えることが可能である。なお、本発明の無機硫化物(2)において、結晶相とガラス相との存在比は、成形性とイオン伝導度のバランスの観点から、10: 90~90: 10(質量比)が好ましく、20: 80~80: 20(質量比)がより好ましい。
【0042】
一方、本発明の無機硫化物(2)は、上記の結晶相及びガラス相を含んでいればよく、充放電特性に重大な影響を及ぼさない範囲の他の不純物相を含んでいてもよい。このような不純物相としては、単体硫黄、硫化リン、硫化ゲルマニウム、硫化チタン、硫化スズ、硫化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。ただし、本発明においては、結晶相によりイオン伝導度を向上させ、ガラス相により成形性を向上させヤング率を低くするため、不純物相の存在割合は低いことが好ましい。このような観点から、本発明の無機硫化物(2)が、不純物相を有する場合、通常、本発明の無機硫化物(2)の総量を100質量%として、不純物相は0.1~10質量%(特に0.2~5質量%)が好ましい。
【0043】
以上のような条件を満たす本発明の無機硫化物(2)の形状は特に制限されず、例えば、粉末状、粒状、ペレット状、繊維状等の任意の形状を採用することができる。なお、後述の製造方法によれば、粉末状の無機硫化物が生成されやすい。
【0044】
以上のような条件を満たす本発明の無機硫化物(2)は、成形性に優れ(特に低ヤング率を有し)、且つ、イオン伝導性に優れる。このため、リチウムイオン二次電池用電解質層を構成する固体電解質として有用であるし、リチウムイオン二次電池用電解質層を構成する固体電解質(特に成形性の乏しい固体電解質)用のバインダー材料としても有用である。また、リチウムイオン二次電池の電極用のバインダー材料としても有用である。
【0045】
3.無機硫化物の製造方法
本発明の無機硫化物は、例えば、Li2Sを含む原料粉末に対して、高回転数のミリング処理を施した後に、低回転数のミリング処理を施す工程を備える製造方法により得ることができる。
【0046】
原料粉末としては、最終的に得ようとする無機硫化物の組成に応じて適宜選択することができる。例えば、Li2S-P2S5系固体電解質を得ようとする場合は原料粉末としてLi2S及びP2S5を使用することができ、Li2S-MS2(GeS2等)系固体電解質を得ようとする場合は原料粉末としてLi2S及びMS2(GeS2等)を使用することができ、Li2S-MS2(GeS2等)-P2S5系固体電解質を得ようとする場合は原料粉末としてLi2S、MS2(GeS2等)及びP2S5を使用することができ、Li2S-LiX-P2S5系固体電解質を得ようとする場合は原料粉末としてLi2S、LiX及びP2S5を使用することができる。
【0047】
本発明においては、例えばLi2S-P2S5系の場合、得られる無機硫化物中に高いLi2S含有量x又はd(x≧0.667、特にx≧0.750;d≧0.600、特にd≧0.750)を保持するため、まず、高回転数のミリング処理を施し、この高回転数のミリング処理の後に、低回転数のミリング処理を施すことが必要である。このような処理を施すことにより、Li2Sを不純物として含まない(Li2Sからなる結晶相を含まない)高純度且つイオン導電性の高い無機硫化物を得ることができる。なお、高回転数のミリング処理のみでは無機硫化物中にLi2Sからなる結晶相が不純物として含まれてしまう。また、低回転数のミリング処理のみでは、無機硫化物のLi2S含有量を高くすることができず、また、Li2Sからなる結晶相が不純物として含まれてしまう。
【0048】
高回転数のミリング処理における回転数は、得られる無機硫化物中のLi2S含有量x又はdをより高くしつつLi2Sからなる結晶相の発生をより抑制する観点から、800rpm以上が好ましく、900~2000rpmがより好ましい。また、この際の処理時間は特に制限されず、30分~3時間が好ましく、40分~2時間がより好ましい。また、処理温度は特に制限されず、0~50℃(例えば室温)で行うことができる。このような高回転数のミリング処理は、例えば、振動ミル等により行うことができる。
【0049】
低回転数のミリング処理における回転数は、Li2Sからなる結晶相の発生をより抑制する観点から、600rpm以下が好ましく、300~550rpmがより好ましい。また、この際の処理時間は特に制限されず、10~100時間が好ましく、20~80時間がより好ましい。また、処理温度は特に制限されず、0~50℃(例えば室温)で行うことができる。このような低回転数のミリング処理は、例えば、遊星ボールミル等により行うことができる。
【0050】
具体的な製造方法としては、まず、例えば、超低湿度(露点-60℃以下)環境下に、密閉容器(グローブボックス、ドライルーム、オープンドライチャンバー等)内で、高回転数のミリング処理を行う装置の容器内に原料粉末を充填する。この際使用できる容器としては、特に制限はなく、メノー、アルミナ、ジルコニア等の材料が挙げられる。この際の原料充填量は特に制限されず、1~100g程度とすることができる。この原料粉末に、必要に応じて粉砕メディアを加えて密封後にグローブボックス外に取り出し、ミリング装置にセットすることが好ましい。ミリング処理後、生成物が容器に強く付着することがあるため、必要に応じて容器を例えば超低湿度(露点-60℃以下)環境下(グローブボックス等)に再度導入し、生成物を容器の壁から掻き落とした後、再度同じ処理を行うこともできる。
【0051】
この後、例えば超低湿度(露点-60℃以下)環境下(グローブボックス等)内で容器を開け、粉末を低回転数のミリング装置用容器に移し、低回転数でミリング処理を行う。処理後、生成物を例えば超低湿度(露点-60℃以下)環境下(グローブボックス等)内で取り出し、密閉容器で封入後、X線回折測定、イオン伝導度測定等の各種評価を行うことができる。
【0052】
このようにして本発明の無機硫化物が得られるが、この後、必要に応じて加熱処理を施すこともできる。これにより、結晶相をより多くしてイオン伝導度をより高めることができるため、要求特性に応じて結晶相とガラス相との存在比を調整することが可能である。この場合、加熱温度は特に制限はなく、100~500℃が好ましく、200~400℃がより好ましい。また、加熱時間も特に制限はなく、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましい。
【0053】
4.リチウムイオン二次電池
本発明の無機硫化物を用いるリチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。
【0054】
例えば、本発明の無機硫化物を正極のバインダー材料として使用する場合には、正極材料として公知のリチウムマンガン系複合酸化物等を用い、本発明の無機硫化物をバインダー材料として用いて、公知の手法により正極を製造することができる。つまり、バインダー材料として通常使用されているPTFE等の代替材料として本発明の無機硫化物を用い、正極を作製することができる。本発明の無機硫化物を正極のバインダー材料として使用しない場合は従来公知の正極を採用することができる。
【0055】
また、本発明の無機硫化物を負極のバインダー材料として使用する場合には、負極材料として公知の金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛等)、ケイ素、酸化ケイ素、Si-SiO系材料、リチウムチタン酸化物等を用い、本発明の無機硫化物をバインダー材料として用いて、公知の手法により負極を製造することができる。つまり、バインダー材料として通常使用されているPTFE等の代替材料として本発明の無機硫化物を用い、負極を作製することができる。本発明の無機硫化物を負極のバインダー材料として使用しない場合は従来公知の負極を採用することができる。
【0056】
また、本発明の無機硫化物を電解質層の固体電解質として使用する場合は、本発明の無機硫化物を常法により層状に成形し、電解質層として使用することができる。本発明の無機硫化物を電解質層のバインダー材料として使用する場合には、固体電解質として固体電解質を用い、本発明の無機硫化物をバインダー材料として用いて、公知の手法により電解質層を製造することができる。つまり、バインダー材料として通常使用されているPTFE等の代替材料として本発明の無機硫化物を用い、電解質層を作製することができる。
【0057】
さらに、その他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てることができる。なお、本発明において、「リチウムイオン二次電池」とは、負極材料として金属リチウムを用いた「リチウム二次電池」も包含する概念である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
グローブボックス(GB)内にてLi2SとP2S5とをモル比75: 25になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。これを振動ミル(回転数1000rpm)用メノー製容器に充填し、ディスク状粉砕メディアを入れ、密封してGB外に出し、振動ミルにセットした。振動ミルにて1時間粉砕後再度GB内で粉末を容器及びメディア壁より掻き落とし、再度1時間粉砕処理した。粉砕処理後GB内にて、低回転数遊星ボールミル用容器に移し替え、密閉後GB外に出し、低回転数遊星ボールミル(500rpm)にて30時間粉砕した。粉砕後、GB内にて容器から粉末を回収し、X線回折評価(XRD評価)等を行った。
【0060】
【0061】
得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例1で得られた試料は、高リチウムイオン導電性を有すると言われる(非特許文献、Hommaら、Solid State Ionics 182 53-58 (2011).)高温相β-Li3PS4からなる結晶相(斜方晶系、空間群Pnma、a= 12.624(6)Å, b= 8.056(3)Å, c= 6.041(3)Å)と、公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。イオン伝導度測定を行ったところ、4.6×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、2.5(1)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0062】
以前の報告(A. Hayashi et al., Electrochemistry Communications 5 111-114 (2003).)では、同一組成で低回転数(370rpm)のミリング処理のみで試料合成を行っており、この場合は結晶相のないガラス相のみ得られ、230℃の熱処理で初めて結晶相が得られた。その結晶相は別の文献(R. Kanno et al., J. Electrochem. Soc., 148 A742-A746 (2001))に示される単斜晶系の結晶相チオリシコンIIIと帰属されており、本発明の結晶相とは異なることがわかる。
【0063】
なお、実施例1で得られた試料を真空中500℃で加熱(焼成)したもののX線回折パターンを
図2に示す。
図2から明らかなように、得られたX線回折パターンは、斜方晶β-Li
3PS
4(空間群Pnma, a= 12.8924(8)Å, b= 8.1490(5)Å, c= 6.1441(4)Å)の単位胞のみでフィットでき、ガラス相が結晶相に変わっていた。また、この焼成物のイオン伝導度は5.33×10
-4S・cmであった。このことは、得られた実施例1の試料が高イオン伝導度を有する焼成物の原料としても活用可能であることが明らかである。
【0064】
[実施例2]
GB内にてLi
2SとP
2S
5とをモル比76: 24になるように秤量後は、実施例1と同様の条件で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図3に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例2で得られた試料は、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 12.857(3)Å, b= 8.127(2)Å, c= 6.1068(15)Å)のピークと高温相Li
7PS
6(立方晶系(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0065】
【0066】
、a= 9.915(5)Å)のピークとを有する結晶相と、公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。なお、結晶相において、Li3PS4とLi7PS6との質量比は88: 12であった。イオン伝導度測定を行ったところ、4.79×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。なお、得られた試料は、実施例1と同様に柔らかい試料であり、成形性に優れていた。
【0067】
[実施例3]
GB内にてLi
2SとP
2S
5とをモル比77: 23になるように秤量後は、実施例1と同様の条件で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図3に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例3で得られた試料は、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 12.692(5)Å, b= 8.185(3)Å, c= 6.120(2)Å)のピークと高温相Li
7PS
6(立方晶系(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0068】
【0069】
、a= 9.899(2)Å)のピークとを有する結晶相と、公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。なお、結晶相において、Li3PS4とLi7PS6との質量比は83: 17であった。イオン伝導度測定を行ったところ、4.17×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。なお、得られた試料は、実施例1と同様に柔らかい試料であり、成形性に優れていた。
【0070】
[実施例4]
GB内にてLi
2SとP
2S
5とをモル比78: 22になるように秤量後は、実施例1と同様の条件で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図4に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例4で得られた試料は、高温相Li
7PS
6(立方晶系(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0071】
【0072】
、a= 9.985(5)Å)のピークを有する結晶相と、公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。イオン伝導度測定を行ったところ、3.9×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。なお、得られた試料は、実施例1と同様に柔らかい試料であり、成形性に優れていた。
【0073】
[実施例5]
GB内にてLi
2SとP
2S
5とをモル比80: 20になるように秤量後は、実施例1と同様の条件で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図4に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例5で得られた試料は、高温相Li
7PS
6(立方晶系(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0074】
【0075】
、a= 9.9024(17)Å)のピークを有する結晶相と、公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。イオン伝導度測定を行ったところ、4.5×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。この結果は、以前の報告(A. Hayashi et al., Electrochemistry Communications 5 111-114 (2003).)と異なる。報告では、同一組成で低回転数(370rpm)のミリング処理のみで試料合成を行っており、この場合はLi2S含有のガラス相のみ得られ、230℃の熱処理で初めて結晶相が得られたがLi2Sも残留していた。Li2Sが残留すると、H2Sガスが発生しやすいためドライルームで扱えないという弱点となる。本発明の無機硫化物はLi2Sを含まないことから、Li2Sフリー固体電解質が得られたことが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、3.6(2)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0076】
[実施例6]
GB内にてLi
2SとGeS
2とP
2S
5とをモル比5: 1: 1(71.4: 14.3: 14.3)になるように秤量後は、実施例1と同様の条件で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図5に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例6で得られた試料は、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 13.068(6)Å, b= 7.934(4)Å, c= 6.057(3)Å)のピークとLi
10GeP
2S
12(LGPS;正方晶系、空間群P42/nmc、a= 8.537(9)Å、c= 12.877(18)Å)のピークとを有する結晶相と、公知の70Li
2S-30P
2S
5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。なお、結晶相において、Li
3PS
4とLi
10GeP
2S
12との質量比は73: 27であった。イオン伝導度測定を行ったところ、5.1×10
-4S・cm
-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、1.9(1)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0077】
なお、実施例6で得られた試料を真空中500℃で加熱(焼成)したもののX線回折パターンを
図6に示す。
図6から明らかなように、得られたX線回折パターンは、正方晶Li
10GeP
2S
12(LGPS;正方晶系、空間群P42/nmc、a= 8.6731(3)Å、c= 12.5906(5)Å)の単位胞のみでフィットでき、ガラス相が結晶相に変わっていた。また、この焼成物のイオン伝導度は1.5×10
-3S・cmであった。このことは、得られた実施例6の試料が高イオン伝導度を有する焼成物の原料としても活用可能であることが明らかである。
【0078】
[実施例7]
GB内にてLi
2SとGeS
2とP
2S
5とをモル比6: 1: 1(75.0: 12.5: 12.5)になるように秤量後は、実施例1と同様の条件で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図7に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例7で得られた試料は、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 13.171(4)Å, b= 7.979(3)Å, c= 6.1095(19)Å)のピークとLi
10GeP
2S
12(LGPS;正方晶系、空間群P42/nmc、a= 9.138(7)Å、c= 13.250(15)Å)のピークとを有する結晶相と、高温相Li
7PS
6(立方晶系(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0079】
【0080】
、a= 9.9678(9)Å)のピークを有する結晶相と公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。なお、結晶相において、Li3PS4とLi10GeP2S12とLi7PS6との質量比は51: 25: 24であった。イオン伝導度測定を行ったところ、7.4×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。なお、得られた試料は、実施例1と同様に柔らかい試料であり、成形性に優れていた。
【0081】
[実施例8]
GB内にてLi
2SとGeS
2とP
2S
5とをモル比7: 1: 1(77.8: 11.1: 11.1)になるように秤量後は、実施例1と同様の条件(ただし低回転数遊星ボールミル(500rpm)にて30時間粉砕を1回追加した。)で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図7に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例8で得られた試料は、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 13.212(9)Å, b= 7.991(10)Å, c= 6.123(6)Å)のピークとLi
10GeP
2S
12(LGPS;正方晶系、空間群P42/nmc、a= 9.159(13)Å、c= 12.77(2)Å)のピークとを有する結晶相と、高温相Li
7PS
6(立方晶系(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0082】
【0083】
、a= 9.9765(7)Å)のピークを有する結晶相と公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。なお、結晶相において、Li3PS4とLi10GeP2S12とLi7PS6との質量比は39: 16: 45であった。イオン伝導度測定を行ったところ、9.46×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、2.5(2)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0084】
[実施例9]
GB内にてLi
2SとGeS
2をモル比2: 1(66.7: 33.3)になるように秤量後は、実施例1と同様の条件で合成を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図8に示す。得られたX線回折パターン及びそのリートベルト解析結果から、実施例9で得られた試料は、Li
4GeS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 13.928(6)Å, b= 7.816(4)Å, c= 6.192(3)Å)のピークを有する結晶相と公知の70Li
2S-30P
2S
5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。イオン伝導度測定を行ったところ、1.1×10
-4S・cm
-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。なお、得られた試料は、実施例1と同様に柔らかい試料であり、成形性に優れていた。
【0085】
[実施例10]
グローブボックス(GB)内にてLi
2S、LiI及びP
2S
5をモル比2: 3: 1(0.333: 0.500: 0.167、Li
7P
2S
8I組成)になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。これを振動ミル(回転数1000rpm)用メノー製容器に充填し、ディスク状粉砕メディアを入れ、密封してGB外に出し、振動ミルにセットした。振動ミルにて0.5時間の粉砕を、10分程度休止をはさみながら4回、合計2時間粉砕処理を行った。粉砕処理後GB内にて、低回転数遊星ボールミル用容器に移し替え、密閉後GB外に出し、低回転数遊星ボールミル(500rpm)にて30時間粉砕した。粉砕後、GB内にて容器から粉末を回収し、X線回折評価(XRD評価)等を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図9に示す。
図9から、正方晶Li
4PS
4I結晶相(空間群P4/nmm、格子定数a=8.4761(10)Å、c=5.9602(9)Åで指数付け可能であり、同一の空間群を持つ、Li
4PS
4I固体電解質(S. J. Sedlmaierら、Chem. Mater., 29 1830-1835 (2017).文献値a=8.48284(12)Å、c=5.93013(11)Å)に近かった。この結晶相に加えて図中矢印で示される位置に、公知の70Li
2S-30P
2S
5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相が共存していた。イオン伝導度測定を行ったところ、5.8×10
-4S・cm
-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、0.65(6)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0086】
[実施例11]
グローブボックス(GB)内にてLi
2S、GeS
2、TiS
2及びP
2S
5を、Li
2S: MS
2(GeS
2及びTiS
2): P
2S
5モル比5: 1: 1(0.714: 0.143: 0.143、MS
2内比率に関してはGeS
2とTiS
2のモル比は9: 1、組成式: Li
10Ge
0.9Ti
0.1P
2S
12)になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。以後実施例10と同様に試料作製を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図10に示す。
図10から、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 13.235(3)Å, b= 7.9758(19)Å, c= 6.1047(14)Å)のピークとLi
10GeP
2S
12(LGPS;正方晶系、空間群P42/nmc、a= 8.712(7)Å、c= 12.701(13)Å)のピークとを有する結晶相が確認できた。β-Li
3PS
4相とLGPS相それぞれの質量比は69:31であった。この結晶相に加えて図中矢印で示される位置に、公知の70Li
2S-30P
2S
5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相が共存していた。イオン伝導度測定を行ったところ、4.0×10
-4S・cm
-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、1.6(1)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0087】
[実施例12]
グローブボックス(GB)内にてLi
2S、SnS
2及びP
2S
5を、モル比5: 1: 1(0.714: 0.143: 0.143)になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。以後実施例10と同様に試料作製を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図11に示す。
図11から、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 13.381(5)Å, b= 8.009(3)Å, c= 6.1192(2)Å)のピークとLi
10SnP
2S
12(LSPS;正方晶系、空間群P42/nmc、a= 8.736(2)Å、c= 12.828(4)Å)のピークとを有する結晶相が確認できた。β-Li
3PS
4相とLSPS相それぞれの質量比は69: 31であった。この結晶相に加えて図中矢印で示される位置に、公知の70Li
2S-30P
2S
5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相が共存していた。イオン伝導度測定を行ったところ、4.0×10
-4S・cm
-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、1.4(1)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0088】
[実施例13]
グローブボックス(GB)内にてLi
2S、SnS
2及びP
2S
5を、モル比6: 1: 1(0.750: 0.125: 0.125)になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。以後実施例10と同様に試料作製を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図12に示す。
図12から、β-Li
3PS
4(斜方晶系、空間群Pnma、a= 13.577(6)Å, b= 7.991(3)Å, c= 6.221(2)Å)のピークとLi
10SnP
2S
12(LSPS;正方晶系、空間群P42/nmc、a= 8.487(12)Å、c= 13.51(3)Å)のピークと立方晶アージャロダイトLi
7PS
6(立方晶系、空間群
【0089】
【0090】
、a=9.9940(17))を有する結晶相が確認できた。β-Li3PS4相とLSPS相, 立方晶アージャロダイト相それぞれの質量比は57: 23: 20であった。この結晶相に加えて図中矢印で示される位置に、公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相が共存していた。イオン伝導度測定を行ったところ、4.7×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、1.1(1)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0091】
[実施例14]
グローブボックス(GB)内にてLi
2S、P
2S
5及びLiIを、モル比6: 1: 2(0.667: 0.111: 0.222)になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。以後実施例10と同様に試料作製を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図13に示す。
図13から、Li
6PS
5I(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0092】
【0093】
、a= 10.0705(8)Å)のピークを有する結晶相と公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。イオン伝導度測定を行ったところ、1.5×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。なお、得られた試料は、実施例1と同様に柔らかい試料であり、成形性に優れていた。
【0094】
[実施例15]
グローブボックス(GB)内にてLi
2S、P
2S
5及びLiClを、モル比6: 1: 2(0.667: 0.111: 0.222)になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。以後実施例10と同様に試料作製を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図14に示す。
図14から、Li
6PS
5Cl(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0095】
【0096】
、a= 9.8466(9)Å)のピークを有する結晶相と公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。イオン伝導度測定を行ったところ、10.8×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、1.4(1)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0097】
[実施例16]
グローブボックス(GB)内にてLi
2S、P
2S
5及びLiBrを、モル比6: 1: 2(0.667: 0.111: 0.222)になるように秤量後、乳鉢混合した。全量は2gとなるようにした。以後実施例10と同様に試料作製を行った。得られた試料のX線回折パターンを
図15に示す。
図15から、Li
6PS
5Br(立方晶アージャロダイト)、空間群
【0098】
【0099】
、a= 9.9389(8)Å)のピークを有する結晶相と公知の70Li2S-30P2S5固体電解質で生成しているガラス相に類似したブロードなピークを持つガラス相の二相からなるガラスセラミック粉末であることが明らかとなった。イオン伝導度測定を行ったところ、4.8×10-4S・cm-1であり、固体電解質として十分な特性を有することが明らかである。また、微小圧縮試験機を用いて、Ar雰囲気下且つ低露点(-55℃)にて、最大負荷1000mNをかけて、室温にてヤング率測定し、ポアソン比=0.5として算出したところ、0.89(8)GPaであり、バインダー材料であるポリテトラフルオロエチレン(0.5GPa)に近い値を示し、成形性に優れる固体電解質であることが明らかである。
【0100】
試験例1:電池作製(1)
得られた無機硫化物粉末(固体電解質粉末)が、実際にリチウムイオン二次電池として動作可能かどうか確認するためにGB内で電池作製を行った。実施例1~6で得られた固体電解質粉末と正極活物質(NMC: LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)を質量比3: 7で混合し、正極合材とした。一方、負極合材は得られた実施例1~6で得られた固体電解質粉末を負極活物質(LTO: Li4Ti5O12)と質量比4: 6で混合して作製した。まず金属管片面に金属治具を入れ、実施例1~6の固体電解質粉末を入れた後、反対側にも金属治具をいれてプレスし、電解質層を作製した。プレスした一方に正極合材を入れてプレスして正極を作製した後、反対側に負極合材を入れてプレスして負極を作製した。その3層一体錠剤を型から抜いて、一方に電池下部上に金属治具を入れたPET(ポリエチレンテレフタレート)管に入れ、反対側にも金属治具を入れてプレスしその後電池上部を載せ、蝶ねじで固定して上部をレンチで締め上げ全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
実施例1で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果を
図16に示す。電池として問題なく動作しており、本発明の無機硫化物(固体電解質)がリチウムイオン二次電池用正極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用負極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用固体電解質として活用できることが明らかである。
【0102】
次に、実施例5で得られた試料を使用した全固体リチウムイオン二次電池の30℃における充放電特性評価結果を
図17に示す。電池として問題なく動作しており、本発明の無機硫化物(固体電解質)がリチウムイオン二次電池用正極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用負極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用固体電解質として活用できることが明らかである。
【0103】
試験例2:電池作製(2)
上記試験例1において、正極活物質をNCA(LiNi0.85Co0.10Al0.05O2)に、負極をInに変更して上記と同様に電池作製を行った。
【0104】
実施例13で得られた試料を正極合材用及び電解質用固体電解質に用いた場合の充放電特性を
図18に示す。
図18より実施例13で得られた試料はリチウムイオン二次電池として問題なく動作しており、本発明の無機硫化物(固体電解質)がリチウムイオン二次電池用正極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用負極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用固体電解質として活用できることが明らかである。
【0105】
実施例15で得られた試料を正極合材用及び電解質用固体電解質に用いた場合の充放電特性を
図19に示す。
図19より実施例15で得られた試料はリチウムイオン二次電池として問題なく動作しており、本発明の無機硫化物(固体電解質)がリチウムイオン二次電池用正極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用負極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用固体電解質として活用できることが明らかである。
【0106】
実施例16で得られた試料を正極合材用及び電解質用固体電解質に用いた場合の充放電特性を
図20に示す。
図20より実施例16で得られた試料はリチウムイオン二次電池として問題なく動作しており、本発明の無機硫化物(固体電解質)がリチウムイオン二次電池用正極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用負極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用固体電解質として活用できることが明らかである。
【0107】
実施例6で得られた試料を正極合材用及び電解質用固体電解質に用いた場合の充放電特性を
図21に示す。
図21より実施例6で得られた試料はリチウムイオン二次電池として問題なく動作しており、本発明の無機硫化物(固体電解質)がリチウムイオン二次電池用正極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用負極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用固体電解質として活用できることが明らかである。
【0108】
以上のことから、本発明の無機硫化物(固体電解質)が、リチウムイオン二次電池用正極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用負極バインダー材料、リチウムイオン二次電池用固体電解質、リチウムイオン二次電池用電解質層バインダー材料として活用できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の無機硫化物は、例えば、安全性が要求される車載用、定置用等の大型リチウムイオン二次電池の固体電解質、固体電解質用のバインダー材料、固体電池電極用のバインダー材料等として利用可能である。