(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】研磨装置及び研磨部材のドレッシング方法
(51)【国際特許分類】
B24B 53/017 20120101AFI20220729BHJP
B24B 37/10 20120101ALI20220729BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20220729BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
B24B53/017 Z
B24B37/10
B24B53/00 A
H01L21/304 622M
(21)【出願番号】P 2018243656
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】廣尾 康正
(72)【発明者】
【氏名】八木 圭太
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161944(JP,A)
【文献】特開2014-161938(JP,A)
【文献】特開2010-076049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00 - 53/017
B24B 37/10
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の研磨装置に使用される研磨部材上でドレッサを
移動させて該研磨部材をドレッシングする方法であって、前記ドレッサは
移動方向に沿って前記研磨部材上に設定された複数のスキャンエリアにおいて
移動速度を調整可能とされており、
前記ドレッサの
移動方向に沿って前記研磨部材上に予め設定された複数のモニタエリアにおいて前記研磨部材の表面高さを測定するステップと、
前記表面高さの測定間隔及び前記表面高さの測定値の変動量に基づき、前記研磨部材の表面高さの補正を行うステップと、
前記
複数のモニタエリア
及び前記複数のスキャンエリ
アから定義されるドレスモデル行列を作成するステップと、
目標カット量からの偏差、基準レシピでの滞在時間からの偏差、および隣接するスキャンエリア間での速度差に基づき評価指標を設定する評価指標作成ステップであって、前記目標カット量からの偏差は、前記ドレッサの目標カット量と前記ドレスモデル行列を用いて算出されるパッド摩耗量との差の二乗値である、評価指標作成ステップと
、
当該評価指標に基づいて、前記ドレッサの各スキャンエリアにおける
移動速度を設定するステップとを備えたことを特徴とする研磨部材のドレッシング方法。
【請求項2】
前記補正を行うステップは、前記表面高さの測定間隔が基準値を超えるとともに、前記表面高さの測定値の変動量が閾値を超えた場合に行われることを特徴とする、請求項1記載のドレッシング方法。
【請求項3】
前記補正を行うステップは、過去の一定期間における前記表面高さの測定値に対し、前記表面高さの測定値の変動量を加算または減算することを特徴とする、請求項1または2記載のドレッシング方法。
【請求項4】
前記表面高さの測定値が増加した場合の前記閾値と、前記表面高さの測定値が減少した場合の前記閾値は、異なる値であることを特徴とする、請求項2記載のドレッシング方法。
【請求項5】
前記スキャンエリアの移動速度と移動速度基準値との差分に基づいて、前記評価指標を設定することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか記載のドレッシング方法。
【請求項6】
隣接する前記スキャンエリアの移動速度の差分に基づいて前記評価指標を設定することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか記載のドレッシング方法。
【請求項7】
隣接する前記スキャンエリアの移動速度の基準値の差分に基づいて、前記評価指標を設定することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか記載のドレッシング方法。
【請求項8】
前記研磨部材の高さプロファイルの目標値からの差分と
、移動速度の基準値からの差分と隣接するスキャンエリアの移動速度
からの差分について、重み付け係数を設定することを特徴とする、請求項1記載の研磨装置ドレッシング方法。
【請求項9】
複数の前記モニタエリアにおける前記研磨部材のカットレートを算出するステップを備えたことを特徴とする、請求項1~8のいずれか記載のドレッシング方法。
【請求項10】
前記表面高さの測定値より前記研磨部材のカットレートを記憶するステップを備え、当該記憶されたカットレートに基づいて前記研磨部材の高さプロファイルを推定することを特徴とする、請求項9記載のドレッシング方法。
【請求項11】
前記ドレッサの
移動速度の算出条件として、前記ドレッサが各スキャンエリアに滞在する時間の合計時間に制約を持たせることを特徴とする、請求項1~10のいずれか記載のドレッシング方法。
【請求項12】
前記ドレッサの
移動速度の算出条件として、前記ドレッサの
移動速度の上限値及び下限値に制約を持たせることを特徴とする、請求項1~10のいずれか記載のドレッシング方法。
【請求項13】
前記ドレッサの
移動速度を算出するために、前記評価指標を最小とする最適化計算を実施することを特徴とする、請求項1~12のいずれか記載のドレッシング方法。
【請求項14】
前記最適化計算は二次計画法もしくは収束演算であることを特徴とする、請求項13記載のドレッシング方法。
【請求項15】
前記ドレスモデル行列は、カットレートモデル、ドレッサ径、スキャン速度制御の少なくとも1つの要素に基づいて設定されることを特徴とする、請求項1記載のドレッシング方法。
【請求項16】
研磨部材上で基板を摺接させて当該基板を研磨する研磨装置であって、
前記研磨部材上で
移動することで当該研磨部材をドレッシングするドレッサであって、
移動方向に沿って前記研磨部材上に設定された複数のスキャンエリアにおいて
移動速度を調整可能とされるドレッサと、
前記ドレッサの
移動方向に沿って前記研磨部材上に予め設定された複数のモニタエリアにおいて前記研磨部材の表面高さを測定する高さ検出部と、
前記表面高さの測定間隔及び前記表面高さの測定値の変動量に基づき、前記研磨部材の表面高さの補正を行う高さ補正部と、
前記
複数のモニタエリア
及び前記複数のスキャンエリ
アから定義されるドレスモデル行列を作成するドレスモデル行列作成部と、
目標カット量からの偏差、基準レシピでの滞在時間からの偏差、および隣接するスキャンエリア間での速度差に基づき評価指標を設定する評価指標作成部であって、前記目標カット量からの偏差は、前記ドレッサの目標カット量と前記ドレスモデル行列を用いて算出されるパッド摩耗量との差の二乗値である、評価指標作成部と、
当該評価指標に基づいて、前記ドレッサの各スキャンエリアにおける移動速度を
算出する移動速度算出部とを備えたことを特徴とする研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハなどの基板を研磨する研磨部材のドレッシング方法及び研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化が進むにつれて、回路の配線が微細化し、集積されるデバイスの寸法もより微細化されつつある。そこで、表面に例えば金属等の膜が形成されたウェハを研磨して、ウェハの表面を平坦化する工程が必要となっている。この平坦化法の一つとして、化学機械研磨(CMP)装置による研磨がある。化学機械研磨装置は、研磨部材(研磨布、研磨パッド等)と、ウェハ等の研磨対象物を保持する保持部(トップリング、研磨ヘッド、チャック等)とを有している。そして、研磨対象物の表面(被研磨面)を研磨部材の表面に押し当て、研磨部材と研磨対象物との間に研磨液(砥液、薬液、スラリー、純水等)を供給しつつ、研磨部材と研磨対象物とを相対運動させることにより、研磨対象物の表面を平坦に研磨するようにしている。
【0003】
このような化学機械研磨装置に用いられる研磨部材の材料としては、一般に発泡樹脂や不織布が用いられている。研磨部材の表面には微細な凹凸が形成されており、この微細な凹凸は、目詰まり防止や研磨抵抗の低減に効果的なチップポケットとして作用する。しかし、研磨部材で研磨対象物の研磨を続けると、研磨部材表面の微細な凹凸が潰れてしまい、研磨レートの低下を引き起こす。このため、ダイヤモンド粒子などの多数の砥粒を電着させたドレッサで研磨部材表面のドレッシング(目立て)を行い、研磨部材表面に微細な凹凸を再形成する。
【0004】
研磨部材のドレッシング方法としては、例えば回転するドレッサを移動(円弧状や直線状に往復運動、揺動)させながら、ドレッシング面を回転している研磨部材に押し付けてドレッシングする。研磨部材のドレッシングの際に、微量ではあるが研磨部材の表面が削り取られる。したがって、適切にドレッシングが行われないと研磨部材の表面に不適切なうねりが生じ、被研磨面内で研磨レートのばらつきが生じるという不都合がある。研磨レートのばらつきは、研磨不良の原因となるため、研磨部材の表面に不適切なうねりを生じさせないように、ドレッシングを適切に行う必要がある。即ち、研磨部材の適切な回転速度、ドレッサの適切な回転速度、適切なドレッシング荷重、ドレッサの適切な移動速度といった、適切なドレッシング条件でドレッシングを行うことで研磨レートのばらつきを回避している。
【0005】
また、特許文献1に記載の研磨装置では、ドレッサの揺動方向に沿って複数の揺動区間を設定するとともに、各揺動区間における研磨部材の表面高さの測定値から得られた現在のプロファイルと、目標プロファイルとの差分を計算し、その差分がなくなるように各揺動区間でのドレッサの移動速度を補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
研磨部材の高さ(厚さ)は、ウェハWへの研磨処理に伴い一定割合で徐々に減少するのが通常である。しかしながら、ウェハWの処理が暫く行われない場合には、研磨部材が水分を含んで膨潤することで研磨部材の高さが増加する場合がある。これとは逆に、ウェハWの処理が暫く行われない場合に研磨部材が収縮することで、研磨部材の高さが大きく減少する場合がある。
【0008】
研磨部材の膨潤・収縮量は、研磨部材の種類や装置の使用状態により変動するが、膨潤・収縮により研磨部材の高さが不連続に変動してしまうと、カットレートひいてはドレッサの移動速度の算出が不能となり、あるいは算出値が異常な値となる可能性がある。そのような場合には、研磨装置の性能に影響を与えてしまう。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたもので、膨潤・収縮により研磨部材の高さが不連続に変動した場合であっても、目標とする研磨部材のプロファイルを実現して研磨部材をドレッシングする方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような研磨部材のドレッシング方法を実行することができる研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施態様は、基板の研磨装置に使用される研磨部材上でドレッサを揺動させて該研磨部材をドレッシングする方法であって、ドレッサは揺動方向に沿って研磨部材上に設定された複数のスキャンエリアにおいて揺動速度を調整可能とされており、ドレッサの揺動方向に沿って研磨部材上に予め設定された複数のモニタエリアにおいて研磨部材の表面高さを測定するステップと、表面高さの測定間隔及び表面高さの測定値の変動量に基づき、研磨部材の表面高さの補正を行うステップと、モニタエリア・スキャンエリア及びドレスモデルから定義されるドレスモデル行列を作成するステップと、ドレスモデルと各スキャンエリアにおける揺動速度もしくは滞在時間を用いて高さプロファイル予測値を計算するステップと、研磨部材の高さプロファイルの目標値からの差分に基づき評価指標を設定するステップと、当該評価指標に基づいて、ドレッサの各スキャンエリアにおける揺動速度を設定するステップを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施態様は、研磨部材上で基板を摺接させて当該基板を研磨する研磨装置であって、研磨部材上で揺動することで当該研磨部材をドレッシングするドレッサであって、揺動方向に沿って研磨部材上に設定された複数のスキャンエリアにおいて揺動速度を調整可能とされるドレッサと、ドレッサの揺動方向に沿って研磨部材上に予め設定された複数のモニタエリアにおいて研磨部材の表面高さを測定する高さ検出部と、表面高さの測定間隔及び表面高さの測定値の変動量に基づき、研磨部材の表面高さの補正を行う高さ補正部と、複数のモニタエリア・スキャンエリア及びドレスモデルから定義されるドレスモデル行列を作成するドレスモデル行列作成部と、ドレスモデルと各スキャンエリアにおける揺動速度もしくは滞在時間を用いて高さプロファイル予測値を計算し、研磨部材の高さプロファイルの目標値からの差分に基づき評価指標を設定する評価指標作成部と、当該評価指標に基づいて、ドレッサの各スキャンエリアにおける揺動速度を案出する移動速度算出部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膨潤・収縮により研磨部材の高さが不連続に変動した場合であっても、ドレッサの移動速度をより適切に制御することができ、それにより目標とする研磨部材のプロファイルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ウェハなどの基板を研磨する研磨装置を示す模式図である。
【
図2】ドレッサおよび研磨パッドを模式的に示す平面図である。
【
図3】研磨パッド上に設定されたスキャンエリアの一例を示す図である。
【
図4】研磨パッドのスキャンエリアとモニタエリアの関係を示す説明図である。
【
図5】ドレッサ監視装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】各スキャンエリアにおける研磨パッド高さのプロファイル推移の一例を示す説明図である。
【
図7】各スキャンエリアにおけるドレッサ移動速度と基準値の一例を示す説明図である。
【
図8】研磨パッドに膨潤が生じた場合に、パッド高さ測定値を補正する処理を説明するための図である。
【
図9】研磨パッド高さの測定値の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図10】ウエハ処理枚数に対するパッド減耗量の測定値の一例を示すグラフである。
【
図11】研磨パッドの膨潤の前後における、パッド減耗量の分布の一例を示すグラフであり、(a)はパッド膨潤等の補正を行った場合、(b)はパッド膨潤等の補正を行わない場合を示したものである。
【
図12】ウエハ処理枚数に対する、研磨パッドのプロファイルレンジの一例を示すグラフであり、(a)はパッド膨潤等の補正を行った場合、(b)はパッド膨潤等の補正を行わない場合を示したものである。
【
図13】ウエハ処理枚数に対するカットレートの変化の一例を示すグラフであり、(a)はパッド膨潤等の補正を行った場合、(b)はパッド膨潤等の補正を行わない場合を示したものである。
【
図14】ウエハ処理枚数に対するドレッサ揺動速度の変化の一例を示すグラフであり、(a)はパッド膨潤等の補正を行った場合、(b)はパッド膨潤等の補正を行わない場合を示したものである。
【
図15】ドレッサの移動速度の調整手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、ウェハなどの基板を研磨する研磨装置を示す模式図である。研磨装置は、ウェハを研磨し、洗浄し、乾燥させる一連の工程を行うことができる基板処理装置に設けられる。
【0015】
図1に示すように、研磨装置は、ウェハWを研磨するための研磨ユニット10と、研磨パッド(研磨部材)11を保持する研磨テーブル12と、研磨パッド11上に研磨液を供給する研磨液供給ノズル13と、ウェハWの研磨に使用される研磨パッド11をコンディショニング(ドレッシング)するドレッシングユニット14とを備えている。研磨ユニット10およびドレッシングユニット14は、ベース15上に設置されている。
【0016】
研磨ユニット10は、トップリングシャフト21の下端に連結されたトップリング(基板保持部)20を備えている。トップリング20は、その下面にウェハWを真空吸着により保持するように構成されている。トップリングシャフト21は、図示しないモータの駆動により回転し、このトップリングシャフト21の回転により、トップリング20およびウェハWが回転する。トップリングシャフト21は、図示しない上下動機構(例えば、サーボモータおよびボールねじなどから構成される上下動機構)により研磨パッド11に対して上下動するようになっている。
【0017】
研磨テーブル12は、その下方に配置される図示しないモータに連結されている。研磨テーブル12は、その軸心まわりにモータによって回転される。研磨テーブル12の上面には研磨パッド11が貼付されており、研磨パッド11の上面がウェハWを研磨する研磨面11aを構成している。
【0018】
ウェハWの研磨は次のようにして行われる。トップリング20および研磨テーブル12をそれぞれ回転させ、研磨パッド11上に研磨液を供給する。この状態で、ウェハWを保持したトップリング20を下降させ、さらにトップリング20内に設置されたエアバッグからなる加圧機構(図示せず)によりウェハWを研磨パッド11の研磨面11aに押し付ける。ウェハWと研磨パッド11とは研磨液の存在下で互いに摺接され、これによりウェハWの表面が研磨され、平坦化される。
【0019】
ドレッシングユニット14は、研磨パッド11の研磨面11aに接触するドレッサ23と、ドレッサ23に連結されたドレッサ軸24と、ドレッサ軸24の上端に設けられたエアシリンダ25と、ドレッサ軸24を回転自在に支持するドレッサアーム26とを備えている。ドレッサ23の下面にはダイヤモンド粒子などの砥粒が固定されている。ドレッサ23の下面は、研磨パッド11をドレッシングするドレッシング面を構成する。
【0020】
ドレッサ軸24およびドレッサ23は、ドレッサアーム26に対して上下動可能となっている。エアシリンダ25は、研磨パッド11へのドレッシング荷重をドレッサ23に付与する装置である。ドレッシング荷重は、エアシリンダ25に供給される空気圧により調整することができる。
【0021】
ドレッサアーム26はモータ30に駆動されて、支軸31を中心として揺動するように構成されている。ドレッサ軸24は、ドレッサアーム26内に設置された図示しないモータにより回転し、このドレッサ軸24の回転により、ドレッサ23がその軸心まわりに回転する。エアシリンダ25は、ドレッサ軸24を介してドレッサ23を所定の荷重で研磨パッド11の研磨面11aに押圧する。
【0022】
研磨パッド11の研磨面11aのコンディショニングは次のようにして行われる。研磨テーブル12および研磨パッド11をモータにより回転させ、図示しないドレッシング液供給ノズルからドレッシング液(例えば、純水)を研磨パッド11の研磨面11aに供給する。さらに、ドレッサ23をその軸心まわりに回転させる。ドレッサ23はエアシリンダ25により研磨面11aに押圧され、ドレッサ23の下面(ドレッシング面)を研磨面11aに摺接させる。この状態で、ドレッサアーム26を旋回させ、研磨パッド11上のドレッサ23を研磨パッド11の略半径方向に揺動させる。研磨パッド11は、回転するドレッサ23により削り取られ、これにより研磨面11aのコンディショニングが行われる。
【0023】
ドレッサアーム26には、研磨面11aの高さを測定するパッド高さセンサ(表面高さ測定機)32が固定されている。また、ドレッサ軸24には、パッド高さセンサ32に対向してセンサターゲット33が固定されている。センサターゲット33は、ドレッサ軸24およびドレッサ23と一体に上下動し、一方、パッド高さセンサ32の上下方向の位置は固定されている。パッド高さセンサ32は変位センサであり、センサターゲット33の変位を測定することで、研磨面11aの高さ(研磨パッド11の厚さ)を間接的に測定することができる。センサターゲット33はドレッサ23に連結されているので、パッド高さセンサ32は、研磨パッド11のコンディショニング中に研磨面11aの高さを測定することができる。
【0024】
パッド高さセンサ32による研磨面11aの高さの測定は、研磨パッドの半径方向において区分された複数の所定の領域(モニタエリア)にて行われる。パッド高さセンサ32は、研磨面11aに接するドレッサ23の上下方向の位置から研磨面11aを間接的に測定する。したがって、ドレッサ23の下面(ドレッシング面)が接触している領域(あるモニタエリア)研磨面11aの高さの平均がパッド高さセンサ32によって測定され、複数のモニタエリアにおいて研磨パッドの高さを測定することで、研磨パッドのプロファイル(研磨面11aの断面形状)を得ることができる。パッド高さセンサ32としては、リニアスケール式センサ、レーザ式センサ、超音波センサ、または渦電流式センサなどのあらゆるタイプのセンサを用いることができる。
【0025】
パッド高さセンサ32は、ドレッシング監視装置35に接続されており、パッド高さセンサ32の出力信号(すなわち、研磨面11aの高さの測定値)がドレッシング監視装置35に送られるようになっている。ドレッシング監視装置35は、研磨面11aの高さの測定値から、研磨パッド11のプロファイルを取得し、さらに研磨パッド11のコンディショニングが正しく行われているか否かを判定する機能を備えている。
【0026】
研磨装置は、研磨テーブル12および研磨パッド11の回転角度を測定するテーブルロータリエンコーダ36と、ドレッサ23の旋回角度を測定するドレッサロータリエンコーダ37とを備えている。これらテーブルロータリエンコーダ36およびドレッサロータリエンコーダ37は、角度の絶対値を測定するアブソリュートエンコーダである。これらのロータリエンコーダ36,37はドレッシング監視装置35に接続されており、ドレッシング監視装置35はパッド高さセンサ32による研磨面11aの高さ測定時における、研磨テーブル12および研磨パッド11の回転角度、さらにはドレッサ23の旋回角度の情報を取得することができる。
【0027】
ドレッサ23は、自在継ぎ手17を介してドレッサ軸24に連結されている。ドレッサ軸24は図示しないモータに連結されている。ドレッサ軸24はドレッサアーム26に回転自在に支持されており、このドレッサアーム26により、ドレッサ23は研磨パッド11に接触しながら、
図2に示すように研磨パッド11の半径方向に揺動するようになっている。自在継ぎ手17は、ドレッサ23の傾動を許容しつつ、ドレッサ軸24の回転をドレッサ23に伝達するように構成されている。ドレッサ23、自在継ぎ手17、ドレッサ軸24、ドレッサアーム26、および図示しない回転機構などにより、ドレッシングユニット14が構成されている。このドレッシングユニット14には、ドレッサ23の摺動距離や摺動速度を算出するドレッシング監視装置35が電気的に接続されている。このドレッシング監視装置35としては、専用または汎用のコンピュータを用いることができる。
【0028】
ドレッサ23の下面にはダイヤモンド粒子などの砥粒が固定されている。この砥粒が固定されている部分が、研磨パッド11の研磨面をドレッシングするドレッシング面を構成している。ドレッシング面の態様としては、円形ドレッシング面(ドレッサ23の下面全体に砥粒が固定されたドレッシング面)、リング状ドレッシング面(ドレッサ23の下面の周縁部に砥粒が固定されたドレッシング面)、あるいは、複数の円形のドレッシング面(ドレッサ23の中心まわりに略等間隔に配列された複数の小径ペレットの表面に砥粒が固定されたドレッシング面)を適用することができる。なお、本実施例におけるドレッサ23には、円形ドレッシング面が設けられている。
【0029】
研磨パッド11をドレッシングするときは、
図1に示すように、研磨パッド11を矢印の方向に所定の回転速度で回転させ、ドレッサ23を図示しない回転機構によって矢印の方向に所定の回転速度で回転させる。そして、この状態で、ドレッサ23のドレッシング面(砥粒が配置された面)を研磨パッド11に所定のドレッシング荷重で押圧して研磨パッド11のドレッシングを行う。また、ドレッサアーム26によってドレッサ23が研磨パッド11上を揺動することによって、研磨パッド11の研磨で使用される領域(研磨領域、すなわちウェハ等の研磨対象物を研磨する領域)をドレッシングすることができる。
【0030】
ドレッサ23が自在継ぎ手17を介してドレッサ軸24に連結されているので、ドレッサ軸24が研磨パッド11の表面に対して少し傾いていても、ドレッサ23のドレッシング面は研磨パッド11に適切に当接される。研磨パッド11の上方には、研磨パッド11の表面粗さを測定するパッド粗さ測定器38が配置されている。このパッド粗さ測定器38としては、光学式などの公知の非接触型の表面粗さ測定器を使用することができる。パッド粗さ測定器38はドレッシング監視装置35に接続されており、研磨パッド11の表面粗さの測定値がドレッシング監視装置35に送られるようになっている。
【0031】
研磨テーブル12内には、ウェハWの膜厚を測定する膜厚センサ(膜厚測定機)39が配置されている。膜厚センサ39は、トップリング20に保持されたウェハWの表面を向いて配置されている。膜厚センサ39は、研磨テーブル12の回転に伴ってウェハWの表面を横切って移動しながら、ウェハWの膜厚を測定する膜厚測定機である。膜厚センサ39としては、渦電流センサ、光学式センサなどの非接触タイプのセンサを用いることができる。膜厚の測定値は、ドレッシング監視装置35に送られる。ドレッシング監視装置35は、膜厚の測定値からウェハWの膜厚プロファイル(ウェハWの半径方向に沿った膜厚分布)を生成するように構成されている。
【0032】
次に、ドレッサ23の揺動について
図2を参照して説明する。ドレッサアーム26は、点Jを中心として時計回りおよび反時計回りに所定の角度だけ旋回する。この点Jの位置は
図1に示す支軸31の中心位置に相当する。そして、ドレッサアーム26の旋回により、ドレッサ23の回転中心は、円弧Lで示す範囲で研磨パッド11の半径方向に揺動する。
【0033】
図3は、研磨パッド11の研磨面11aの拡大図である。
図3に示すように、ドレッサ23の揺動範囲(揺動幅L)は、複数の(
図3の例では7つの)スキャンエリア(揺動区間)S1~S7に分割されている。これらのスキャンエリアS1~S7は、研磨面11a上に予め設定された仮想的な区間であり、ドレッサ23の揺動方向(すなわち研磨パッド11の概ね半径方向)に沿って並んでいる。ドレッサ23は、これらスキャンエリアS1~S7を横切って移動しながら、研磨パッド11をドレッシングする。これらスキャンエリアS1~S7の長さは、互いに同一であってもよく、または異なっていてもよい。
【0034】
図4は、研磨パッド11のスキャンエリアS1~S7とモニタエリアM1~M10の位置関係を示す説明図であり、図の横軸は研磨パッド11の中心からの距離を表している。本実施形態では、7つのスキャンエリアと10のモニタエリアが設定された場合を例にしているが、これらの数は適宜変更することができる。また、スキャンエリアの両端からドレッサ23の半径に相当する幅の領域においては、パッドプロファイルの制御が困難であることから、内側(パッド中心からR1~R3の領域)と外側(パッド中心からR4~R2の領域)にモニタ除外幅を設けているが、必ずしも除外幅を設ける必要はない。
【0035】
研磨パッド11上を揺動しているときのドレッサ23の移動速度は、スキャンエリアS1~S7ごとに予め設定されており、また適宜調整することができる。ドレッサ23の移動速度分布は、それぞれのスキャンエリアS1~S7でのドレッサ23の移動速度を表している。
【0036】
ドレッサ23の移動速度は、研磨パッド11のパッド高さプロファイルの決定要素のうちの1つである。研磨パッド11のカットレートは、単位時間あたりにドレッサ23によって削り取られる研磨パッド11の量(厚さ)を表す。等速でドレッサを移動させた場合、通常、各スキャンエリアにおいて削り取られる研磨パッド11の厚さはそれぞれ異なるため、カットレートの数値もスキャンエリアごとに異なる。しかし、パッドプロファイルは、通常、初期形状を維持することが好ましいため、スキャンエリア毎の削れ量の差が小さくなるように移動速度を調整する。
【0037】
ここで、ドレッサ23の移動速度を上げるということは、ドレッサ23の研磨パッド11上での滞在時間を短くすること、すなわち研磨パッド11の削り量を下げることを意味する。一方、ドレッサ23の移動速度を下げるということは、ドレッサ23の研磨パッド11上での滞在時間を長くすること、すなわち研磨パッド11の削り量を上げることを意味する。したがって、あるスキャンエリアでのドレッサ23の移動速度を上げることにより、そのスキャンエリアでの削れ量を下げることができ、あるスキャンエリアでのドレッサ23の移動速度を下げることにより、そのスキャンエリアでの削れ量を上げることができる。これにより、研磨パッド全体のパッド高さプロファイルを調節することができる。
【0038】
図5に示すように、ドレッシング監視装置35は、ドレスモデル設定部41、ベースプロファイル算出部42、カットレート算出部43、評価指標作成部44、移動速度算出部45、設定入力部46、メモリ47、パッド高さ検出部48及びパッド高さ補正部49を備えており、研磨パッド11のプロファイルを取得するとともに、所定のタイミングで、スキャンエリアにおけるドレッサ23の移動速度が最適になるように設定する。
【0039】
ドレスモデル設定部41は、スキャンエリアでの研磨パッド11の研磨量を算出するためのドレスモデルSを設定する。ドレスモデルSは、モニタエリアの分割数をm(本実施例では10)、スキャンエリアの分割数をn(本実施例では7)としたときのm行n列の実数行列であり、後述する各種パラメータによって決定される。
【0040】
研磨パッド11で設定された各スキャンエリアにおけるドレッサのスキャン速度をV=[v1、v2、…、vn]、各スキャンエリアの幅をW=[w1、w2、…、wn]としたとき、各スキャンエリアでのドレッサ(の中心)の滞在時間は、
T=W/V=[w1/v1、w2/v2、…、wn/vn]
で表される。このとき、各モニタエリアにおけるパッド摩耗量をU=[u1、u2、…、um]としたとき、前述のドレスモデルSと各スキャンエリアでの滞在時間Tとを用いて、
U=ST
の行列演算を行うことで、パッド摩耗量Uが算出される。
【0041】
ドレスモデル行例Sの導出においては、例えば、1)カットレートモデル、2)ドレッサ径、3)スキャン速度制御の各要素を考慮し、適宜組み合わせることができる。カットレートモデルに関しては、ドレスモデル行列Sの各要素が、モニターエリアでの滞在時間に比例する、あるいは、引っ掻き距離(移動距離)に比例することを前提として設定する。
【0042】
また、ドレッサ径に関しては、ドレッサの径を考慮(ドレッサの有効エリア全体にわたって同一のカットレートに従い研磨パッドが摩耗する)、あるいは考慮しない(ドレッサの中心位置のみでのカットレートに従う)ことを前提に、ドレスモデル行列Sの各要素を設定する。ドレッサの径を考慮すると、例えばダイヤモンド粒子がリング状に塗布されたドレッサに対しても適切なドレスモデルを定義することができる。さらに、スキャン速度制御に関しては、ドレッサの移動速度の変化がステップ状か、スロープ状のいずれかに応じて、ドレスモデル行列Sの各要素を設定する。これらのパラメータを適宜組み合わせることにより、ドレスモデルSからより実態に合致したカット量を算出して、正しいプロファイル予想値を求めることができる。
【0043】
パッド高さ検出部48は、パッド高さセンサ32によって連続的に測定された研磨パッドの高さデータと、当該研磨パッド上の測定座標データとを対応づけて、各モニターエリアにおけるパッド高さを検出する。具体的には、測定された研磨パッドの高さデータ(研磨パッドの半径方向における高さデータ)に対し、隣接する複数の高さデータを用いて平均化処理(空間平均)を行った後、分割されたモニタエリア毎に、移動平均後の高さデータの平均をとることで、各モニタエリアにおけるパッド高さの値を算出する。その後、モニタエリア毎に、直前の複数枚(例えば5枚)のウェハ研磨処理の際に得られた、(平均化処理後の)高さデータを用いて平均化することで、移動平均後の高さデータを生成する。このように、直前の複数回における研磨パッド高さの測定値の移動平均をとることで、測定値の急激な変動やばらつきによる影響を抑制する。
【0044】
パッド高さ補正部49は、ウェハWの処理が暫く行われない場合において、パッド高さ検出部48により測定され検出された研磨パッドの高さが急激に変化した場合には、研磨パッドに膨潤または収縮が発生したと判定して、研磨パッド高さの補正処理を行う。補正処理の詳細については後述する。
【0045】
ベースプロファイル算出部42は、収束時におけるパッド高さの目標プロファイル(ベースプロファイル)を算出する(
図6参照)。ベースプロファイルは、後述する移動速度算出部45で使用する目標カット量の計算に用いられる。ベースプロファイルは、パッド初期状態における研磨パッドの高さ分布(Diff(j))と測定されたパッド高さとに基づき計算しても良いし、あるいは、設定値として与えても良い。また、ベースプロファイルを設定しない場合には、研磨パッドの形状がフラットになる目標カット量を計算しても良い。
【0046】
目標カット量のベースは、現時点でのモニタエリア毎のパッド高さを示すパッド高さプロファイルHp(j)[j=1, 2…m]と、別途設定された収束時目標減耗量Atgを用いて、次式にて算出される。
min{Hp(j)} -Atg
また、各モニタエリアの目標カット量は、前述したベースプロファイルを考慮して、次式にて算出することができる。
min{Hp(j)} -Atg+Diff(j)
【0047】
カットレート算出部43は、各モニタエリアにおけるドレッサのカットレートを算出する。例えば、各モニタエリアにおけるパッド高さの変化量の傾きからカットレートを算出しても良い。
【0048】
評価指標作成部44は、後述する評価指標を用いて、スキャンエリアでの最適な滞在時間(揺動時間)を算出して補正することで、各スキャンエリアでのドレッサの移動速度を最適化するものである。この評価指標は、1)目標カット量からの偏差、2)基準レシピでの滞在時間からの偏差、及び、3)隣接するスキャンエリア間での速度差に基づく指標であり、各スキャンエリアでの滞在時間T=[w1/v1、w2/v2、…、wn/vn]の関数となる。そして、当該評価指標が最小となるように各スキャンエリアでの滞在時間Tを定めることで、ドレッサの移動速度が最適化される。
【0049】
1)目標カット量からの偏差
ドレッサの目標カット量をU0=[U01、U02、…、U0m]としたとき、前述した各モニタエリアでのパッド摩耗量U(=ST)との差の二乗値(|U-U0|2)を求めることで、目標カット量からの偏差を算出する。なお、目標カット量を決めるためのターゲットプロファイルは、研磨パッドの使用開始後の任意のタイミングで決定することができ、あるいは手動で設定された値に基づいて決定するようにしても良い。
【0050】
2)基準レシピでの滞在時間からの偏差
図7に示すように、各スキャンエリアで設定された基準レシピに基づくドレッサの移動速度(基準速度(基準滞在時間T
0))と、各スキャンエリアにおけるドレッサの移動速度(ドレッサの滞在時間T)との差(ΔT)の二乗値(ΔT
2=|T-T
0|
2)を求めることで、基準レシピでの滞在時間からの偏差を算出することができる。ここで、基準速度とは、各スキャンエリアにおいてフラットのカットレートが得られると見込まれる移動速度であり、予め実験やシミュレーションによって得られた値である。基準速度をシミュレーションによって求める場合は、例えば、ドレッサの引っ掻き距離(滞在時間)と研磨パッドのカット量が比例するとして、求めることができる。なお、基準速度は、同一の研磨パッドの使用中に、実際のカットレートに応じて適宜更新するようにしても良い。
【0051】
3)隣接するスキャンエリア間での速度差
本実施形態に係る研磨装置では、さらに、隣接するスキャンエリアでの速度差を抑えることで、移動速度の急激な変化に伴う研磨装置への影響を抑制している。すなわち、隣接するスキャンエリアでの速度の差の二乗値(|ΔV
inv|
2)を求めることで、隣接するスキャンエリア間での速度差の指標を算出することができる。ここで、
図7に示すように、スキャンエリア間の速度差としては、基準速度の差(Δ
inv)又はドレッサの移動速度(Δ
v)のいずれかを適用することができる。なお、スキャンエリアの幅は固定値であるため、速度差の指標は、各スキャンエリアでのドレッサの滞在時間に依存する。
【0052】
評価指標作成部44は、これら3つの指標に基づき、次式で示される評価指標Jを定義する。
J=γ|U-U0|2+λ|T-T0|2+η|ΔVinv|2
ここで、評価指標Jの右辺の第1項、第2項及び第3項は、それぞれ、目標カット量からの偏差、基準レシピでの滞在時間からの偏差、隣接するスキャンエリア間での速度差に起因する指標であり、いずれも各スキャンエリアでのドレッサの滞在時間Tに依存する。
【0053】
そして、移動速度算出部45では、評価指標Jの値が最小値をとるような最適化演算を行って、各スキャンエリアでのドレッサの滞在時間Tを求め、ドレッサの移動速度を補正する。最適化演算の手法としては、二次計画法を用いることができるが、シミュレーションによる収束演算やPID制御を用いてもよい。
【0054】
上記の評価指標Jにおいて、γ、λ及びηは所定の重み付け値であり、同一の研磨パッドの使用中に適宜変更することができる。これら重み付け値を変更することで、研磨パッドやドレッサの特性や装置の稼働状況に応じて、重視すべき指標を適宜調整することができる。
【0055】
ここで、ウェハWの処理が暫く行われない場合に、研磨パッドが水分を含んで膨潤してしまうと、前回の測定時と比較して、研磨パッドの高さの測定値が増加する場合がある。逆に、ウェハWの処理が暫く行われない場合に、研磨パッドが収縮してしまうと、研磨パッドの高さの測定値が急激に減少してしまう場合がある。
【0056】
研磨パッドを長時間使用しないことに起因して、研磨パッド高さの測定値が不連続に変動してしまうと、評価指標Jの算定に用いるべきカットレートが急激に変化し(あるいは負の値となってしまい)、その結果、ドレッサの移動速度の算出が不能となり、あるいは算出値が異常な値となる可能性がある。そのような場合には、研磨装置の性能に影響を与え得る。
【0057】
このため、本実施形態における研磨装置では、基準値ΔTTHを超える時間、研磨パッド高さの測定を行っておらず、かつ、測定値の変化が閾値ΔHTHを超えた場合には、研磨パッドに異常(膨潤または収縮)が発生したと判定し、研磨パッド高さの測定値に対して、過去の測定値を含めて補正することで、カットレートの不連続な変化を抑制する。
【0058】
図8は、研磨パッド高さデータの補正を行う様子を示した説明図であり、左側の図は研磨パッドの膨潤が発生していない場合、右側の図は膨潤が発生した場合を示している。膨潤が発生していない場合は、パッド高さ補正部49において補正は行わず、パッド高さ検出部48によって測定された値が、研磨パッド高さのデータとして出力される。そして、過去の一定区間(例えば、カットレート計算に用いる研磨パッドの削れ量が設定値以上となる区間に対応する時刻t1~tn)における研磨パッド高さのデータを用いて、カットレートの算出が行われる。
【0059】
一方、膨潤が発生したことが検出された場合には、パッド高さ補正部49は、過去の一定区間(時刻t1~tn)における研磨パッド高さのデータに対し、後述する補正値を加算して、研磨パッド高さの測定値を補正する。一方、研磨パッドに収縮が発生したことが検出された場合には、パッド高さ補正部49は、過去の一定区間(時刻t1~tn)における研磨パッド高さのデータに対し、後述する補正値を減算して、研磨パッド高さの測定値を補正する。このように補正することで、研磨パッド高さの測定値に不連続な変化が生じたとしても、カットレートの計算に影響を及ぼすことなく、安定したパッド高さプロファイルの制御を図ることができる。
【0060】
図9は、パッド高さ検出部48により測定された研磨パッド高さの時間推移の一例を示したものである。時刻T1~T3の間は、パッド高さの測定値が徐々に減少しており、ウエハ研磨に応じて研磨パッドの高さが減少している様子が示されている。ここで、時刻T1とT2、時刻T2とT3の間隔は、それぞれ基準値ΔT
THよりも小さく、よってパッド高さの補正は行われない。なお、基準値ΔT
THの値は、ウエハ研磨を連続的に行う場合における研磨パッド高さ測定の時間間隔よりも大きくなるように、適宜定めることができる。
【0061】
図9において、時刻T3とT4との間隔Δ
t1が、前述の基準値ΔT
THより大きい場合(すなわち、装置を停止していた等の理由でウェハ研磨の空き時間が長い場合)に、パッド高さ補正部49は、研磨パッド高さ測定値の変化(減少値)Δ
h1が閾値ΔH
THを超えたか否かを判定し、超えている場合には、研磨パッドに異常(収縮)が発生したと判定して、研磨パッド高さのデータに対し、Δ
h1を補正値として減算する。
【0062】
図9において、時刻T3とT4との間隔Δ
t1が、前述の基準値ΔT
THより大きい場合に、パッド高さ補正部49は、研磨パッド高さ測定値の変化(増加値)Δ
h2が閾値ΔH
THを超えたか否かを判定し、超えている場合には、研磨パッドに異常(膨潤)が発生したと判定して、研磨パッド高さのデータに対し、Δ
h2を補正値として加算する。
【0063】
このように、研磨パッド高さの検出時間の間隔及び測定値の差の両方に基づいて、研磨パッドの膨潤、収縮を検出するとともに、過去の測定値も含めて補正することで、研磨パッドの測定値及びカットレートの不連続な変化を適切に補正することができる。
【0064】
なお、研磨パッドの異常(膨潤または収縮)の判定は、研磨パッドの径方向におけるパッド高さ測定値のいずれかを基準としても良く、この場合は、閾値ΔHTHを超えた測定値のいずれかを、補正値として加算(または減算)する。あるいは、研磨パッドの径方向におけるパッド高さ測定値の平均値を判定の基準としても良く、この場合には、平均値が閾値ΔHTHを超えた場合に、当該平均値を補正値として加算(または減算)するように構成することができる。さらに、閾値ΔHTHについては、膨潤した場合と収縮した場合の閾値を異なるように設定しても良い。
【0065】
パッド高さ補正部49は、研磨パッドに異常(膨潤または収縮)が生じた場合には、パッド高さの測定時間間隔が基準値ΔT
THを超えているかどうか(ウエハ研磨の空き時間が長いかどうか)にかかわらず、研磨パッド高さ測定値の変化が閾値ΔH
THを超えたかどうかの判定を行う。
図9の例では、時刻T3とT4との間隔Δ
t3が基準値ΔT
TH以下である場合であっても、研磨パッド高さ測定値の変化Δ
h3が閾値ΔH
THを超えていれば、研磨パッド高さの補正を行う。一方、研磨パッド高さ測定値の変化Δ
h3が閾値ΔH
THを超えていない場合は、研磨パッド高さの補正は行わない。これにより、研磨パッドの異常(膨潤または収縮)が発生した後の補正処理を細かく行うことができる。なお、研磨パッドの異常(膨潤または収縮)を最後に検出してから、所定時間が経過した場合(すなわち、研磨パッド高さ測定値の変化Δ
h3が閾値ΔH
THを超えない状況が所定期間継続している場合)には、パッド高さの測定時間間隔が基準値ΔT
THを超えているかどうかの判定を含めて、研磨パッドの異常(膨潤または収縮)の判定を行うようにすることもできる。
【0066】
図10は、ウエハ処理枚数に対するパッド減耗量の一例を示したグラフであり、処理枚数が150枚付近の時点で、ウエハ処理の空き時間によるパッド減耗量の異常(パッドの収縮)が発生していることが示されている。本実施形態におけるパッド高さ補正部49は、かかるパッド減耗量の異常(パッドの収縮)を検出し、一定区間(例えば、カットレート計算に用いる研磨パッドの削れ量が設定値以上となる区間)における研磨パッド高さのデータに対し、前述した補正値で減算することで、カットレートの補正を行う。
【0067】
図11は、研磨パッドに収縮が発生した場合における、モニタエリアに対する研磨パッドの減耗量のプロファイルを示したグラフであり、(a)は測定値の補正を行った場合、(b)は補正を行っていない場合を示したものである。なお、各図において、点線は研磨パッドに収縮が発生する前の減耗量を示している。研磨パッドの高さの検出は、過去の測定値を含めた平均値として検出していることから、測定値の補正を行っていない場合に対し、補正を行うことで、研磨パッドの収縮によるパッド減耗量の変化を確実に捉えることができる。
【0068】
図12は、ウエハ処理枚数に対するパッドレンジ(パッドプロファイル)の変化を示したグラフであり、(a)は測定値の補正を行った場合、(b)は補正を行っていない場合を示したものである。ここで、パッドレンジ(パッドプロファイル)とは、研磨パッドの半径方向における、高さの測定値の最大値と最小値の差を表す。前述の通り、研磨パッドの高さの検出は、過去の測定値を含めた平均値として検出していることから、測定値の補正を行っていない場合に対し、補正を行うことで、研磨パッドの収縮により発生したパッドレンジの急激な変化を捉えることができる。
【0069】
図13は、ウエハ処理枚数に対するカットレートの変化を示したグラフであり、(a)は測定値の補正を行った場合、(b)は補正を行っていない場合を示したものである。なお、
図13のグラフは、研磨パッドの複数のモニタエリアのうち、1つのモニタエリアについて示したものである。測定値の補正を行っていない場合には、研磨パッドの収縮に伴う影響が直ちに反映されず、研磨パッドの収縮によるカットレートの変化の収束に多くのウエハ処理が必要となる(遅れ時間が長くなる)が、補正処理を行うことで、カットレートの変化の収束が改善される(より早く収束される)。
【0070】
図14は、ウエハ処理枚数に対するドレッサ揺動速度の変化を示したグラフであり、(a)は測定値の補正を行った場合、(b)は補正を行っていない場合を示したものである。なお、
図13のグラフは、研磨パッドの複数のモニタエリアのうち、1つのモニタエリアについて示したものである。測定値の補正を行っていない場合には、研磨パッドの収縮に伴う影響が直ちに反映されず、研磨パッドの収縮によるドレッサ揺動速度の変化の収束に多くのウエハ処理が必要となる(遅れ時間が長くなる)が、補正処理を行うことで、ドレッサ揺動速度の変化の収束が改善される(より早く収束される)。
【0071】
なお、ドレッサの移動速度を求める際に、合計ドレス時間が所定値以内になるようにすることが好ましい。ここで、合計ドレス時間とは、ドレッサによる全揺動区間(本実施例ではスキャンエリアS1~S7)の移動時間である。合計ドレス時間(ドレッシングに要する時間)が長くなると、ウェハの研磨行程や搬送行程等の他の行程に影響を与える可能性があるため、この値が所定値を超えないように、各スキャンエリアでの移動速度を適宜補正することが好ましい。また、装置の機構上の制約があるため、ドレッサの最大(及び最小)移動速度、並びに、初期速度に対する最大速度(最小速度)の割合についても、設定値以内になるように、ドレッサの移動速度を設定することが好ましい。
【0072】
移動速度算出部45は、新しいドレッサと研磨パッドの組み合わせで適切なドレス条件が不明な場合や、ドレッサや研磨パッドの交換直後のようにドレッサの基準速度(基準滞在時間T0)が決まっていない場合には、目標カット量からの偏差の条件のみを用いて評価指標J(下記)を定め、各スキャンエリアでのドレッサの移動速度を最適化(初期設定)するようにしても良い。
J=|U-U0|2
【0073】
設定入力部46は、例えばキーボードやマウス等の入力デバイスであり、ドレスモデル行列Sの各成分の値、制約条件の設定、カットレート更新サイクル、移動速度更新サイクルといった各種パラメータを入力する。また、メモリ47は、ドレッシング監視装置35を構成する各構成要素を動作するためのプログラムのデータや、ドレスモデル行列Sの各成分の値、ターゲットプロファイル、評価指標Jの重み付け値、ドレッサの移動速度の設定値といった各種データを記憶する。
【0074】
図15は、ドレッサの移動速度を制御する処理手順を示すフローチャートである。研磨パッド11が交換されたことが検知されると(ステップS11)、ドレスモデル設定部41は、カットレートモデル、ドレッサ径、スキャン速度制御のパラメータを考慮して、ドレスモデル行例Sを導出する(ステップS12)。なお、同一種類のパッドの場合、ドレスモデル行列を継続して使用することもできる。
【0075】
次に、ドレッサの基準速度の計算を行うかどうか(基準速度計算を行う旨の入力が設定入力部46によりなされたかどうか)を判定する(ステップS13)。基準速度の計算を行う場合には、移動速度算出部45において、ドレッサの目標カット量U0と各モニタエリアでのパッド摩耗量Uより、次の評価指標Jが最小値となるように、各スキャンエリアでのドレッサの移動速度(滞在時間T)を設定する(ステップS14)。計算された基準速度を移動速度の初期値として設定してもよい。
J=|U-U0|2
【0076】
その後、ウェハWの研磨処理が行われるのに伴い、研磨パッド11へのドレッシング処理が行われると、ベースプロファイル算出部42において、収束時におけるパッド高さの目標プロファイル(ベースプロファイル)を算出する(ステップS15)。
【0077】
その後も、ウェハWの研磨処理が行われるのに伴い、研磨パッド11へのドレッシング処理が行われると、パッド高さセンサ32による研磨面11aの高さ(パッド高さ)の測定が行われ、パッド高さ検出部48によりパッド高さのプロファイルが検出される(ステップS16)。
【0078】
パッド補正部49は、研磨パッドの高さ測定値及び測定時間間隔より、研磨パッドに膨潤または収縮が発生したかどうかを判定する(ステップS17)。そして膨潤または収縮が発生したと判定された場合には、研磨パッドの高さ測定値の変動量を補正値として、過去の一定期間におけるパッド高さデータの補正を行う(ステップS18)。その後、カットレート更新部43において、各スキャンエリアにおけるドレッサのカットレートが算出される(ステップS20)。
【0079】
さらに、ドレッサの移動速度更新サイクル(例えば、所定枚数のウェハWの研磨)に達したか否かを判定し(ステップS20)、達した場合には、移動速度設定部45において、評価指標Jが最小となるドレッサの滞在時間を算出することで、各スキャンエリアにおけるドレッサ移動速度の最適化を行う(ステップS21)。そして、最適化された移動速度の値が設定され、ドレッサの移動速度が更新される(ステップS22)。以後は、ステップS16に戻されて、研磨パッド11が交換されるまで、上記の処理が繰り返される。
【0080】
なお、カットレートの計算間隔は、研磨パッドとドレッサの組み合わせにより決定することが好ましい。また、カットレートの計算方法につき、初期のパッド高さと現在の研磨パッドの高さ(測定値)から算出する方法と、前回カットレート計算を行ったときのパッド高さと現在の研磨パッドの高さから算出する方法のいずれかを選択するようにしても良い。
【0081】
さらに、モニターの対象は研磨パッド高さに限定されず、研磨パッドの表面粗さを測定して当該表面粗さを均一にするような移動速度を計算するようにしても良い。
【0082】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0083】
10 研磨ユニット
11 研磨パッド
14 ドレッシングユニット
23 ドレッサ
26 ドレッサアーム
32 パッド高さセンサ
35 ドレッシング監視装置
41 ドレスモデル設定部
42 ベースプロファイル算出部
43 カットレート算出部
44 評価指標作成部
45 移動速度算出部
48 パッド高さ検出部
49 パッド高さ補正部
S1~S7 スキャンエリア
M1~M10 モニタエリア