(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】内視鏡用対物光学系および内視鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 13/04 20060101AFI20220729BHJP
G02B 23/26 20060101ALI20220729BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
G02B13/04 D
G02B23/26 C
A61B1/00 731
(21)【出願番号】P 2019084142
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 和紀
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-003267(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070897(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/061385(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179373(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190184(WO,A1)
【文献】特開平06-107070(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070930(WO,A1)
【文献】特開2019-109356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する前群と、開口絞りと、正の屈折力を有する後群とからなり、
前記前群の最も物体側のレンズは、像側に凹面を向けた負の屈折力を有する第1レンズであり、
前記前群の物体側から2番目のレンズは、物体側に凹面を向けた負の屈折力を有する第2レンズであり、
前記後群は、正レンズと負レンズとが物体側から順に接合された接合レンズを備え、
全系の焦点距離をf、
前記前群の焦点距離をfF、
最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの光軸上の距離をL
、
前記後群の焦点距離をfRとした場合、
-2<f/fF<-1.3 (1)
3<L/f<5 (2)
0.8<f/fR<1.4 (6-1)
で表される条件式(1)
、(2)
、および
(6-1)を満足する内視鏡用対物光学系。
【請求項2】
前記第1レンズの焦点距離をf1とした場合、
-0.85<f/f1<-0.3 (3)
で表される条件式(3)を満足する請求項1に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項3】
前記接合レンズは2枚のレンズからなり、
前記接合レンズを構成する前記正レンズのd線基準のアッベ数をνp、
前記接合レンズを構成する前記負レンズのd線基準のアッベ数をνnとした場合、
8<νp-νn<28 (4)
で表される条件式(4)を満足する請求項1または2に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項4】
前記第2レンズの焦点距離をf2とした場合、
-1.2<f/f2<-0.4 (5)
で表される条件式(5)を満足する請求項1から3のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項5】
前記接合レンズの焦点距離をfcとした場合、
0.05<f/fc<0.5 (7)
で表される条件式(7)を満足する請求項1から
4のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項6】
前記接合レンズは前記後群の最も像側に配置されている請求項1から
5のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項7】
前記第2レンズは、平凹レンズまたは両凹レンズである請求項1から
6のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項8】
前記後群の最も物体側のレンズは正レンズである請求項1から
7のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項9】
前記前群は最も物体側に平行平面板を備える請求項1から
8のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項10】
前記内視鏡用対物光学系が備えるレンズの枚数は5枚である請求項1から
9のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項11】
前記前群が備えるレンズの枚数は2枚であり、前記後群が備えるレンズの枚数は3枚である請求項1から
10のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項12】
-1.8<f/fF<
-1.3 (
1a)
で表される条件式(
1a)を満足する請求項1に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項13】
3.2<L/f<4.8 (2-1)
で表される条件式(2-1)を満足する請求項1に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項14】
-0.8<f/f1<-0.35 (3-1)
で表される条件式(3-1)を満足する請求項2に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項15】
10<νp-νn<26 (4-1)
で表される条件式(4-1)を満足する請求項3に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項16】
-1.1<f/f2<-0.5 (5-1)
で表される条件式(5-1)を満足する請求項4に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項17】
0.07<f/fc<0.45 (7-1)
で表される条件式(7-1)を満足する請求項
5に記載の内視鏡用対物光学系。
【請求項18】
請求項1から
17のいずれか1項に記載の内視鏡用対物光学系を備えた内視鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内視鏡用対物光学系、および内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内視鏡用対物光学系として種々のレンズ系が提案されている。下記特許文献1には、物体側から順に、負の屈折力を有する前群と、明るさ絞りと、正の屈折力を有する後群とからなる内視鏡対物光学系が記載されている。下記特許文献2には、物体側から順に、負の屈折力を有する前群と、明るさ絞りと、正の屈折力を有する後群とを備えた内視鏡対物レンズが記載されている。下記特許文献3には、物体側から順に、屈折力が負正の並びとなる2つのレンズを有する第一群と、絞りと、正の屈折力を持つ第二群とで構成されて、分光内視鏡を想定した対物光学系が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/061385号
【文献】特許第5537750号公報
【文献】特許第4675348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内視鏡用対物光学系は、広範囲を観察可能なように広い画角を有し、かつ、病変部等を精確に特定可能なように諸収差が補正されて良好な光学性能を有することが求められる。その一方で、患者の負担を軽減するために、内視鏡用対物光学系は小型に構成されていることが要望される。
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に記載のレンズ系は、全長が十分短いとは言えない。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みなされたものであり、広い画角を有し、小型に構成され、良好な光学性能を保持する内視鏡用対物光学系、およびこの内視鏡用対物光学系を備えた内視鏡を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る内視鏡用対物光学系は、物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する前群と、開口絞りと、正の屈折力を有する後群とからなり、前群の最も物体側のレンズは、像側に凹面を向けた負の屈折力を有する第1レンズであり、前群の物体側から2番目のレンズは、物体側に凹面を向けた負の屈折力を有する第2レンズであり、後群は、正レンズと負レンズとが物体側から順に接合された接合レンズを備え、全系の焦点距離をf、前群の焦点距離をfF、最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの光軸上の距離をLとした場合、下記条件式(1)および(2)を満足する。
-2<f/fF<-1.3 (1)
3<L/f<5 (2)
【0008】
上記態様の内視鏡用対物光学系は、下記条件式(1-1)および(2-1)の少なくとも一方を満足することが好ましい。
-1.8<f/fF<-1.1 (1-1)
3.2<L/f<4.8 (2-1)
【0009】
上記態様の内視鏡用対物光学系は、全系の焦点距離をf、第1レンズの焦点距離をf1とした場合、下記条件式(3)を満足することが好ましく、下記条件式(3-1)を満足することがより好ましい。
-0.85<f/f1<-0.3 (3)
-0.8<f/f1<-0.35 (3-1)
【0010】
上記態様の内視鏡用対物光学系において、後群の上記接合レンズは2枚のレンズからなり、上記接合レンズを構成する正レンズのd線基準のアッベ数をνp、上記接合レンズを構成する負レンズのd線基準のアッベ数をνnとした場合、下記条件式(4)を満足することが好ましく、下記条件式(4-1)を満足することがより好ましい。
8<νp-νn<28 (4)
10<νp-νn<26 (4-1)
【0011】
上記態様の内視鏡用対物光学系は、全系の焦点距離をf、第2レンズの焦点距離をf2とした場合、下記条件式(5)を満足することが好ましく、下記条件式(5-1)を満足することがより好ましい。
-1.2<f/f2<-0.4 (5)
-1.1<f/f2<-0.5 (5-1)
【0012】
上記態様の内視鏡用対物光学系は、全系の焦点距離をf、後群の焦点距離をfRとした場合、下記条件式(6)を満足することが好ましく、下記条件式(6-1)を満足することがより好ましい。
0.7<f/fR<1.5 (6)
0.8<f/fR<1.4 (6-1)
【0013】
上記態様の内視鏡用対物光学系は、全系の焦点距離をf、後群の上記接合レンズの焦点距離をfcとした場合、下記条件式(7)を満足することが好ましく、下記条件式(7-1)を満足することがより好ましい。
0.05<f/fc<0.5 (7)
0.07<f/fc<0.45 (7-1)
【0014】
上記態様の内視鏡用対物光学系において、後群の上記接合レンズは後群の最も像側に配置されていることが好ましい。
【0015】
上記態様の内視鏡用対物光学系において、第2レンズは、平凹レンズまたは両凹レンズであることが好ましい。
【0016】
上記態様の内視鏡用対物光学系において、後群の最も物体側のレンズは正レンズであることが好ましい。
【0017】
上記態様の内視鏡用対物光学系において、前群は最も物体側に平行平面板を備えるように構成してもよい。
【0018】
上記態様の内視鏡用対物光学系が備えるレンズの枚数は5枚であるように構成してもよい。また、前群が備えるレンズの枚数は2枚であり、後群が備えるレンズの枚数は3枚であるように構成してもよい。
【0019】
本開示の別の態様に係る内視鏡は、本開示の上記態様の内視鏡用対物光学系を備えている。
【0020】
なお、本明細書の「~からなり」、「~からなる」は、挙げられた構成要素以外に、実質的に屈折力を有さないレンズ、並びに、絞り、フィルタ、およびカバーガラス等のレンズ以外の光学要素、並びに、レンズフランジ、レンズバレル、および撮像素子等が含まれていてもよいことを意図する。
【0021】
なお、本明細書の「正の屈折力を有する~群」は、群全体として正の屈折力を有することを意味する。同様に「負の屈折力を有する~群」は、群全体として負の屈折力を有することを意味する。「正の屈折力を有するレンズ」および「正レンズ」は同義である。「負の屈折力を有するレンズ」および「負レンズ」は同義である。
【0022】
なお、上述したレンズの枚数は、構成要素となるレンズの枚数である。例えば、材質の異なる複数の単レンズを接合して構成された接合レンズにおけるレンズの枚数は、この接合レンズを構成する単レンズの枚数で表すことにする。「単レンズ」は、接合されていない1枚のレンズを意味する。ただし、複合非球面レンズ(球面レンズと、その球面レンズ上に形成された非球面形状の膜とが一体的に構成されて、全体として1つの非球面レンズとして機能するレンズ)は、接合レンズとは見なさず、1枚のレンズとして扱う。非球面を含むレンズに関する、屈折力の符号、および面形状は、特に断りが無い限り、近軸領域で考えることにする。
【0023】
本明細書において、「全系」は「内視鏡用対物光学系」であり、条件式で用いている「焦点距離」は、近軸焦点距離である。条件式で用いている値は、d線を基準とした場合の値である。本明細書に記載の「d線」、「C線」、および「F線」は輝線であり、d線の波長は587.56nm(ナノメートル)、C線の波長は656.27nm(ナノメートル)、F線の波長は486.13nm(ナノメートル)である。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、広い画角を有し、小型に構成され、良好な光学性能を保持する内視鏡用対物光学系、およびこの内視鏡用対物光学系を備えた内視鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示の実施例1の内視鏡用対物光学系に対応し、本開示の一実施形態に係る内視鏡用対物光学系の構成と光束を示す断面図である。
【
図2】本開示の実施例2の内視鏡用対物光学系の構成と光束を示す断面図である。
【
図3】本開示の実施例3の内視鏡用対物光学系の構成と光束を示す断面図である。
【
図4】本開示の実施例1の内視鏡用対物光学系の各収差図である。
【
図5】本開示の実施例2の内視鏡用対物光学系の各収差図である。
【
図6】本開示の実施例3の内視鏡用対物光学系の各収差図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る内視鏡の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る内視鏡用対物光学系の光軸Zを含む断面における構成を示す図である。
図1に示す例は後述の実施例1に対応している。
図1では、左側が物体側、右側が像側であり、有限距離離れた物体からの軸上光束2および最大画角の光束3も示している。
【0027】
本開示の内視鏡用対物光学系は、光軸Zに沿って物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する前群GFと、開口絞りStと、正の屈折力を有する後群GRとからなる。物体側から像側へ順に、負の屈折力を有するレンズ群、正の屈折力を有するレンズ群を配置することによって、バックフォーカスを確保できるとともに、広い画角を得ることに有利となる。なお、
図1の開口絞りStは形状を示しているのではなく、光軸上の位置を示している。
【0028】
図1に示す例では、前群GFは、物体側から像側へ順に、第1レンズL1と、第2レンズL2とからなる2枚のレンズのみをレンズとして備え、後群GRは、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第3レンズL3と、正の屈折力を有する第4レンズL4と、負の屈折力を有する第5レンズL5とからなる3枚のレンズのみをレンズとして備える。ただし、各群を構成するレンズの枚数は
図1に示す例と異なる枚数にすることも可能である。
【0029】
なお、
図1に示す例では、前群GFは最も物体側に平行平面板P1を備えている。平行平面板P1は、内視鏡用対物光学系を内視鏡に封止する際の封止部材としての機能を有する。また、
図1に示す例では、第5レンズL5と像面Simとの間に光学部材4および光学部材5が配置されている。光学部材4および光学部材5は、各種フィルタ、および/またはカバーガラス等を想定した部材である。各種フィルタとは例えば、ローパスフィルタ、赤外線カットフィルタ、および特定の波長域をカットするフィルタ等である。平行平面板P1、光学部材4、および光学部材5は、入射面と出射面が平行な屈折力を有しない部材であり、レンズではない。平行平面板P1、光学部材4、および光学部材5の少なくとも1つを省略した構成も可能である。
【0030】
前群GFの最も物体側のレンズは、像側に凹面を向けた負の屈折力を有する第1レンズL1である。前群GFの物体側から2番目のレンズは、物体側に凹面を向けた負の屈折力を有する第2レンズL2である。前群GFが上記構成の2枚の負レンズを備えることによって、像面湾曲を抑えながら広画角化を図ることが容易となる。
【0031】
第1レンズL1は、像側の面が凹面の平凹レンズ、または両凹レンズとすることができる。
【0032】
第2レンズL2は、物体側の面が凹面の平凹レンズ、または両凹レンズとすることができる。このようにした場合は、像面湾曲を抑えることに寄与できる。
【0033】
前群GFは、最も物体側に平行平面板P1を備える構成としてもよい。このようにした場合は、平行平面板P1によって内視鏡用対物光学系を封止することができる。レンズによって封止する場合に比べて平行平面板P1によって封止する場合は、封止の際の接着に起因するシフトおよびチルトの影響を低減することができる。
【0034】
後群GRの最も物体側のレンズは正レンズであることが好ましい。このようにした場合は、球面収差を抑えることに有利となる。
【0035】
後群GRは、正レンズと負レンズとが物体側から順に接合された接合レンズCEを備える。接合レンズCEによって、倍率色収差を抑えることに有利となる。接合レンズCEは後群GRの最も像側に配置されていることが好ましい。このようにした場合は、接合レンズCEを後群GRのより物体側に配置した場合に比べて、接合面における高画角の主光線の光線高が高くなるため、色消し効果を良好に得ることが容易となる。接合レンズCEは、小型化のためには正レンズと負レンズとの2枚のレンズからなることが好ましい。
【0036】
一例として、
図1に示す後群GRは、物体側から像側へ順に、像側の面が凸面である平凸レンズの第3レンズL3、両凸レンズの第4レンズL4、物体側の面が凹面である平凹レンズの第5レンズL5からなり、第4レンズL4と第5レンズL5とは互いに接合されて接合レンズCEを構成している。
【0037】
本開示の内視鏡用対物光学系が備えるレンズの枚数は5枚であることが好ましい。このように内視鏡用対物光学系を構成するレンズの枚数を抑えることによって、全長の短縮に有利となる。
【0038】
より詳しくは、前群GFが備えるレンズの枚数は2枚であり、後群GRが備えるレンズの枚数は3枚であることが好ましい。広い画角を有する光学系において、前群GFが2枚のレンズを備えることによって、前群GFが1枚のみのレンズを備える場合に比べて、高画角の光線を徐々に曲げることができるため収差発生量を抑制することができる。後群GRにおいては、上述したように、最も物体側に正レンズを配置することによって球面収差の抑制に有利となり、最も像側に接合レンズCEを配置することによって倍率色収差の抑制に有利となる。すなわち、後群GRにおいては、開口絞りStの近傍に球面収差を抑制するための正レンズを配置し、この正レンズとは別に、開口絞りStから遠い位置に倍率色収差を抑制するための接合レンズCEを配置することが好ましい。以上より、後群GRは少なくとも3枚のレンズからなることが好ましい。一方、全長の短縮のためには、レンズ枚数は極力少ないことが好ましい。結果として、後群GRが備えるレンズの枚数は3枚にすることが好ましい。
【0039】
次に、条件式に関する構成について条件式ごとに説明する。本開示の内視鏡用対物光学系は、全系の焦点距離をf、前群GFの焦点距離をfFとした場合、下記条件式(1)を満足する。条件式(1)の対応値が下限以下とならないようにすることによって、像面湾曲を抑えることに有利となる。条件式(1)の対応値が上限以上とならないようにすることによって、バックフォーカスの確保に有利となる。さらに、下記条件式(1-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
-2<f/fF<-1.3 (1)
-1.8<f/fF<-1.1 (1-1)
【0040】
また、本開示の内視鏡用対物光学系は、最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの光軸上の距離をL、全系の焦点距離をfとした場合、下記条件式(2)を満足する。条件式(2)の対応値が下限以下とならないようにすることによって、広い画角を確保することに有利となる。条件式(2)の対応値が上限以上とならないようにすることによって、全長の短縮に有利となる。さらに、下記条件式(2-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
3<L/f<5 (2)
3.2<L/f<4.8 (2-1)
【0041】
さらに、本開示の内視鏡用対物光学系は、全系の焦点距離をf、第1レンズL1の焦点距離をf1とした場合、下記条件式(3)を満足することが好ましい。条件式(3)の対応値が下限以下とならないようにすることによって、像面湾曲を抑えることに有利となる。条件式(3)の対応値が上限以上とならないようにすることによって、レンズの大径化を抑制しつつ、広い画角を維持することに有利となる。さらに、下記条件式(3-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
-0.85<f/f1<-0.3 (3)
-0.8<f/f1<-0.35 (3-1)
【0042】
後群GRが有する接合レンズCEが2枚のレンズからなる構成において、接合レンズCEを構成する正レンズのd線基準のアッベ数をνp、接合レンズCEを構成する負レンズのd線基準のアッベ数をνnとした場合、本開示の内視鏡用対物光学系は、下記条件式(4)を満足することが好ましい。条件式(4)を満足することによって、倍率色収差を抑えることが容易となる。さらに、下記条件式(4-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
8<νp-νn<28 (4)
10<νp-νn<26 (4-1)
【0043】
また、全系の焦点距離をf、第2レンズL2の焦点距離をf2とした場合、本開示の内視鏡用対物光学系は、下記条件式(5)を満足することが好ましい。条件式(5)を満足することによって、像面湾曲を抑えることに有利となる。さらに、下記条件式(5-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
-1.2<f/f2<-0.4 (5)
-1.1<f/f2<-0.5 (5-1)
【0044】
また、全系の焦点距離をf、後群GRの焦点距離をfRとした場合、本開示の内視鏡用対物光学系は、下記条件式(6)を満足することが好ましい。条件式(6)の対応値が下限以下とならないようにすることによって、軸外光束の主光線の像面Simへの入射角を抑えることに有利となる。条件式(6)の対応値が上限以上とならないようにすることによって、歪曲収差を抑えることに有利となる。さらに、下記条件式(6-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
0.7<f/fR<1.5 (6)
0.8<f/fR<1.4 (6-1)
【0045】
また、全系の焦点距離をf、後群GRの接合レンズCEの焦点距離をfcとした場合、本開示の内視鏡用対物光学系は、下記条件式(7)を満足することが好ましい。条件式(7)の対応値が下限以下とならないようにすることによって、軸外光束の主光線の像面Simへの入射角を抑えることに有利となる。条件式(7)の対応値が上限以上とならないようにすることによって、歪曲収差を抑えることに有利となる。さらに、下記条件式(7-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
0.05<f/fc<0.5 (7)
0.07<f/fc<0.45 (7-1)
【0046】
上述した好ましい構成および可能な構成は、任意の組合せが可能であり、要求される仕様に応じて適宜選択的に採用されることが好ましい。本開示によれば、広い画角を有し、小型に構成され、良好な光学性能を保持する内視鏡用対物光学系を実現することができる。なお、ここでいう「広い画角」とは最大全画角が100度以上であることを意味する。
【0047】
次に、本開示の内視鏡用対物光学系の実施例について説明する。なお、内視鏡の使用状況を考慮し、以下で説明する全ての実施例に関する、断面図、基本レンズデータ、および収差図は、有限距離離れた物体を観察する場合のものである。より詳しくは、以下の実施例のデータに関する有限距離離れた物体とは、物体から前群GFの平行平面板P1の物体側の面までの距離が4mm(ミリメートル)であり、像側に凹面となる形状を有し曲率半径が4mm(ミリメートル)の物体である。
【0048】
[実施例1]
実施例1の内視鏡用対物光学系の構成と光束を示す断面図は
図1に示されており、その図示方法は上述したとおりであるので、ここでは重複説明を一部省略する。実施例1の内視鏡用対物光学系は、物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する前群GFと、開口絞りStと、正の屈折力を有する後群GRとからなる。前群GFは、物体側から像側へ順に、平行平面板P1と、第1レンズL1と、第2レンズL2とからなる。後群GRは、物体側から像側へ順に、第3レンズL3と、第4レンズL4と、第5レンズL5とからなる。第1レンズL1と第2レンズL2と第5レンズL5とが負レンズである。第3レンズL3と第4レンズL4とが正レンズである。第1レンズL1と第2レンズL2と第3レンズL3とは単レンズである。第4レンズL4と第5レンズL5とは互いに接合されて接合レンズCEを構成している。以上が実施例1の内視鏡用対物光学系の概要である。
【0049】
実施例1の内視鏡用対物光学系について、基本レンズデータを表1に、諸元を表2に示す。表1において、Snの欄には最も物体側の面を第1面とし像側に向かうに従い1つずつ番号を増加させた場合の面番号を示し、Rの欄には各面の曲率半径を示し、Dの欄には各面とその像側に隣接する面との光軸上の面間隔を示す。また、Ndの欄には各構成要素のd線に対する屈折率を示し、νdの欄には各構成要素のd線基準のアッベ数を示す。
【0050】
表1では、物体側に凸面を向けた形状の面の曲率半径の符号を正、像側に凸面を向けた形状の面の曲率半径の符号を負としている。表1には、平行平面板P1、開口絞りSt、光学部材4、および光学部材5も合わせて示している。表1では、開口絞りStに相当する面の面番号の欄には面番号と(St)という語句を記載している。表1のDの最下欄の値は表中の最も像側の面と像面Simとの間隔である。
【0051】
表2に、焦点距離f、空気換算距離でのバックフォーカスBf、FナンバーFNo.、および最大全画角2ωの値をd線基準で示す。Bfは、最も像側のレンズ面から像側焦点位置までの空気換算距離である。2ωの欄の(°)は単位が度であることを意味する。表1および表2では予め定められた桁でまるめた数値を記載している。
【0052】
【0053】
【0054】
図4に、実施例1の内視鏡用対物光学系の各収差図を示す。
図4では左から順に、球面収差図、非点収差図、歪曲収差図、および倍率色収差図を示す。球面収差図では、d線、C線、およびF線における収差をそれぞれ実線、長破線、および短破線で示す。非点収差図では、サジタル方向のd線における収差を実線で示し、タンジェンシャル方向のd線における収差を短破線で示す。歪曲収差図ではd線における収差を実線で示す。倍率色収差図では、C線、およびF線における収差をそれぞれ長破線、および短破線で示す。球面収差図のFNo.はFナンバーを意味し、その他の収差図のωは半画角を意味する。
【0055】
上記の実施例1に関する各データの記号、意味、記載方法、および図示方法は、特に断りが無い限り以下の実施例においても同様であるので、以下では重複説明を省略する。
【0056】
[実施例2]
実施例2の内視鏡用対物光学系の構成と光束を示す断面図を
図2に示す。実施例2の内視鏡用対物光学系は、実施例1の内視鏡用対物光学系の概要と同様の構成を有する。実施例2の内視鏡用対物光学系について、基本レンズデータを表3に、諸元を表4に、各収差図を
図5に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
[実施例3]
実施例3の内視鏡用対物光学系の構成と光束を示す断面図を
図3に示す。実施例3の内視鏡用対物光学系は、実施例1の内視鏡用対物光学系の概要と同様の構成を有する。実施例3の内視鏡用対物光学系について、基本レンズデータを表5に、諸元を表6に、各収差図を
図6に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
表7に、実施例1~3の内視鏡用対物光学系の条件式(1)~(7)の対応値を示す。実施例1~3はd線を基準波長としている。表7にはd線基準での値を示す。
【0063】
【0064】
以上のデータからわかるように、実施例1~3の内視鏡用対物光学系は、レンズの枚数が5枚であり、全長および外径が小型化されており、また、最大全画角が105度以上あり、広い画角を有している。さらに、実施例1~3の内視鏡用対物光学系は、Fナンバーが4.5より小さく、かつ、諸収差が良好に補正されて高い光学性能を実現している。
【0065】
次に、本開示の実施形態に係る内視鏡について説明する。
図7に本開示の一実施形態に係る内視鏡の概略的な全体構成図を示す。
図7に示す内視鏡100は、主として、操作部102と、挿入部104と、コネクタ部(不図示)と接続されるユニバーサルコード106とを備える。挿入部104の大半は挿入経路に沿って任意の方向に曲がる軟性部107であり、軟性部107の先端には湾曲部108が連結され、湾曲部108の先端には先端部110が連結されている。湾曲部108は、先端部110を所望の方向に向けるために設けられるものであり、操作部102に設けられた湾曲操作ノブ109を回動させることにより湾曲操作が可能となっている。先端部110の内部先端に本開示の実施形態に係る内視鏡用対物光学系1が配設される。
図7では内視鏡用対物光学系1を概略的に図示している。内視鏡用対物光学系1の像面には、撮像信号を出力するCCD(Charge Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子(不図示)が配置される。本開示の内視鏡は、本開示の実施形態に係る内視鏡用対物光学系を備えているため、挿入部104の細径化を図ることでき、広い視野で観察が可能であり、良好な画像を取得することができる。
【0066】
以上、実施形態および実施例を挙げて本開示の技術を説明したが、本開示の技術は上記実施形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各レンズの曲率半径、面間隔、屈折率、およびアッベ数等は、上記各実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得る。
【符号の説明】
【0067】
1 内視鏡用対物光学系
2 軸上光束
3 最大画角の光束
4、5 光学部材
100 内視鏡
102 操作部
104 挿入部
106 ユニバーサルコード
107 軟性部
108 湾曲部
109 湾曲操作ノブ
110 先端部
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
L4 第4レンズ
L5 第5レンズ
CE 接合レンズ
GF 前群
GR 後群
P1 平行平面板
Sim 像面
St 開口絞り
Z 光軸