(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220729BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 B
(21)【出願番号】P 2020059090
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】古屋 芳織
(72)【発明者】
【氏名】柴田 彰
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221381(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108741304(CN,A)
【文献】特開2019-26957(JP,A)
【文献】特開2020-41254(JP,A)
【文献】特開2017-166099(JP,A)
【文献】特開2010-35563(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151058(WO,A1)
【文献】特開2016-5545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/11
A62B18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性不織布からなる肌側シートと、不織布からなるフィルターシートとが積層されたマスクであって、
前記肌側シートの非肌側面の表面粗さの平均偏差が3.30μm以下であり、且つ、前記肌側シートの構成繊維の繊維間距離が前記フィルターシートの構成繊維の繊維間距離よりも大きいことを特徴とする、前記マスク。
【請求項2】
前記肌側シートの構成繊維の繊維径が13μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記フィルターシートを形成する不織布がエレクトレット加工された不織布であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマスク。
【請求項4】
前記肌側シートの非肌側面が、前記肌側シートを形成する親水性不織布のネット面によって形成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項5】
前記フィルターシートの非肌側に、親水性不織布からなる非肌側シートが積層されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項6】
前記非肌側シートは、繊維密度が前記肌側シートの繊維密度よりも低いことを特徴とする、請求項5に記載のマスク。
【請求項7】
前記非肌側シートの非肌側面が、前記非肌側シートを形成する親水性不織布のネット面によって形成されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載のマスク。
【請求項8】
前記マスクが複数の襞部を有するプリーツ型マスクであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨てのマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の不織布が積層されてなる使い捨てのマスクは、ウィルスや花粉、微小粒子状物質対策などの目的で幅広く普及している。
このようなマスクは、近年、衛生や美容に対する意識の高まりを受けて、長時間にわたって装着されるようになってきており、それに伴うマスク内側の汗や呼気による水滴が装着者の肌に触れることで生じる不快感が問題となっている。
【0003】
このような問題に対処するマスクとして、特許文献1には、マスク本体部と、このマスク本体部の左右両側に設けられた耳掛け部と、を備えるマスクであって、前記マスク本体部が、着用者の顔面と接する口元層と、前記口元層に積層されるフィルター層の少なくとも2層の不織布の層からなるとともに、前記口元層が、水分蒸散率40%以上で、かつ、水分拡散領域における面積あたりの水分吸収量が80μg/mm2以上である不織布からなるマスクが提案されている。
この特許文献1のマスクは、高い粒子捕集効率を発揮しながら、マスク内側の蒸れや肌のべたつきによる不快感を低減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマスクは、口元層を形成する不織布が汗や呼気に含まれる水分を吸い取ることで、水滴が装着者の肌に触れることを低減するものであるが、口元層を形成する不織布が吸い取った水分をそのまま保持し続けてしまうため、装着者に濡れたような感覚を生じさせてしまい、結果的に不快感を生じさせる恐れがあった。
【0006】
そこで、本発明は、装着者に濡れたような感覚を生じさせにくいマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様(態様1)は、親水性不織布からなる肌側シートと、不織布からなるフィルターシートとが積層されたマスクであって、
前記肌側シートの非肌側面の表面粗さの平均偏差が3.30μm以下であり、且つ、前記肌側シートの構成繊維の繊維間距離が前記フィルターシートの構成繊維の繊維間距離よりも大きいことを特徴とする、前記マスクである。
【0008】
本態様のマスクは、肌側シートを形成する親水性不織布によって汗や呼気に含まれる水分を吸い取ることができるので、水滴が装着者の肌に触れることを低減することができる。さらに、本態様のマスクは、肌側シートの非肌側面の表面粗さの平均偏差が3.30μm以下であるので、肌側シートとフィルターシートの間に隙間が形成されにくく、両シートを密接に接触させることができ、また、肌側シートの構成繊維の繊維間距離がフィルターシートの構成繊維の繊維間距離よりも大きいので、肌側シートが吸い取った水分を、毛細管現象により非肌側のフィルターシートへ素早く移行させることができる。
以上により、本態様のマスクは、肌側シートが水分を吸い取りやすくなっているものの、水分を保持しにくくなっているため、装着者に濡れたような感覚を生じさせにくくすることができる。
【0009】
また、本発明の別の態様(態様2)では、上記態様1のマスクにおいて、前記肌側シートの構成繊維の繊維径が13μm以下であることを特徴とする。
【0010】
本態様のマスクは、肌側シートの構成繊維の繊維径が細く、肌側シートがフィルターシートに対してより密着しやすくなっているため、肌側シートが吸い取った水分を、より確実に非肌側のフィルターシートへ移行させることができる。
【0011】
本発明の更に別の態様(態様3)では、上記態様1又は2のマスクにおいて、前記フィルターシートを形成する不織布がエレクトレット加工された不織布であることを特徴とする。
【0012】
本態様のマスクは、フィルターシートがエレクトレット加工された不織布からなり、フィルターシートと肌側シートとの密着性が向上するため、肌側シートが吸い取った水分を、より素早く非肌側のフィルターシートへ移行させることができる。
【0013】
本発明の更に別の態様(態様4)では、上記態様1~3のいずれかのマスクにおいて、前記肌側シートの非肌側面が、前記肌側シートを形成する親水性不織布のネット面によって形成されていることを特徴とする。
【0014】
本態様のマスクは、肌側シートが非肌側面に向かって、繊維密度が高くなっているので、肌側シートが吸い取った水分を、更に確実に非肌側のフィルターシートへ移行させることができる。
【0015】
本発明の更に別の態様(態様5)では、上記態様1~4のいずれかのマスクにおいて、前記フィルターシートの非肌側に、親水性不織布からなる非肌側シートが積層されていることを特徴とする。
【0016】
本態様のマスクは、非肌側シートがフィルターシートに移行した水分を吸収することができるので、装着者に濡れたような感覚をより確実に生じさせにくくすることができる。
【0017】
本発明の更に別の態様(態様6)では、上記態様5のマスクにおいて、前記非肌側シートは、繊維密度が前記肌側シートの繊維密度よりも低いことを特徴とする。
【0018】
本態様のマスクは、非肌側シートの繊維密度が低いことで、呼気などによる空気の通りを良好にし、蒸散性を高めることができる。
【0019】
本発明の更に別の態様(態様7)では、上記態様5又は6のマスクにおいて、前記非肌側シートの非肌側面が、前記非肌側シートを形成する親水性不織布のネット面によって形成されていることを特徴とする。
【0020】
本態様のマスクは、非肌側シートが親水性不織布によって形成されていることで、上述のとおりフィルターシートに移行した水分を吸収しやすくなっている上、非肌側シートの非肌側面が繊維密度の高いネット面によって形成されているため、吸収した水分が非肌側へ移行しやすく、水分の蒸散をより確実に行うことができる。
【0021】
本発明の更に別の態様(態様8)では、上記態様1~7のいずれかのマスクにおいて、前記マスクが複数の襞部を有するプリーツ型マスクであることを特徴とする。
【0022】
本態様のマスクは、複数の襞部において少なくとも肌側シートとフィルターシートとが共に折り畳まれて密着した状態となるため、肌側シートが吸い取った水分を、より確実に非肌側のフィルターシートへ移行させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、装着者に濡れたような感覚を生じさせにくいマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る使い捨てのマスク1の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1におけるマスク1のII-II線に沿った断面の端面図である。
【
図3】
図3は、マスク1のマスク本体部2を形成する不織布の積層体の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のマスクの好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
なお、本明細書において用いられる各種方向等については、特に断りのない限り、以下のとおりである。
本明細書において、「上下方向」は、マスクの装着時の上下方向に対応する方向であり、「横方向」は、マスクの装着時の左右方向に対応する方向であり、これらの方向は互いに直交する関係にある。例えば、プリーツ型又はフラット型マスクの場合は、長手方向及び幅方向を有する略矩形状のマスク本体部の、長手方向が横方向に対応し、幅方向が上下方向に対応する。
また、本明細書では、特に断りのない限り、マスクの厚さ方向において、「マスクの装着時に、装着者の肌面に対して相対的に近位側」を「肌側」といい、「マスクの装着時に、装着者の肌面に対して相対的に遠位側」を「非肌側」という。これに関連して、マスク及び当該マスクを構成する各種部材(例えば、肌側シート、フィルターシート、非肌側シート等)の「肌側の表面」及び「非肌側の表面」を、それぞれ単に「肌側面」及び「非肌側面」という。
【0027】
[マスク]
図1は、本発明の一実施形態に係る使い捨てのマスク1の平面図であり、
図2は、
図1におけるマスク1のII-II線に沿った断面の端面図であり、
図3は、マスク1のマスク本体部2を形成する不織布の積層体の要部拡大断面図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る使い捨てのマスク1は、装着時に装着者の鼻や口元を覆う略矩形状の形状を有するマスク本体部2と、該マスク本体部2の横方向Hの両側に連接し、装着時に装着者の耳に掛かる環状の形状を有する一対の耳掛け部3とによって構成されている。
【0028】
さらに、マスク1のマスク本体部2は、
図3に示すように、厚さ方向Tにおいて肌側T
1に位置する親水性不織布からなる肌側シート21と、該肌側シート21の非肌側T
2に位置する不織布からなるフィルターシート22と、該フィルターシート22の非肌側T
2に位置する親水性不織布からなる非肌側シート23とが積層されてなる不織布の積層体によって形成されており、さらに、マスク本体部2は、
図1及び
図2に示すように、マスク本体部2の上側端部において横方向Hに沿って配置された、装着者の鼻上部の形状に適合するように変形可能なノーズフィット部と、上述の不織布の積層体が上下方向Vに折り畳まれてなる複数の襞部4と、を備えている。
【0029】
そして、本実施形態のマスク1においては、肌側シート21の非肌側面の表面粗さの平均偏差が3.30μm以下であり、且つ、肌側シート21の構成繊維の繊維間距離がフィルターシート22の構成繊維の繊維間距離よりも大きくなっている。
【0030】
ここで、表面粗さの平均偏差(SMD)は、シートの表面の感触を表す特性値として一般的に知られているカトーテック株式会社製のKESでの特性値(参考文献:風合い評価の標準化と解析(第2版)、著者 川端季雄 発行 昭和55年7月10日)に基づいて測定できる。
表面粗さの平均偏差(SMD)は、具体的には次のようにして測定することができる。
【0031】
<表面粗さの平均偏差(SMD)の測定方法>
測定対象のシート(不織布)の任意の箇所から縦100mm×横100mmの四角形状の試料片を切り出して、カトーテック(株)製の表面試験機KES-FB-4Aにセットし、所定の荷重(例えば、25gf等)が加えられた摩擦端子を、試料片上で所定の速さ(例えば、1.0mm/秒等)で滑らせることによって、表面粗さの平均偏差:SMD(μm)を測定することができる。この表面粗さの平均偏差(SMD)は、MD方向のSMD値とCD方向のSMD値の平均値(すなわち、(MD方向のSMD値+CD方向のSMD値)/2)として求められる。
なお、表面粗さの平均偏差(SMD)の測定は、室温20℃、湿度60%の環境下で行い、上記試料片の任意の5箇所で測定した値の平均値を採用する。
【0032】
また、肌側シート21及びフィルターシート22の各々の構成繊維の繊維間距離、すなわち、不織布の繊維間距離は、次のようにして求めることができる。
【0033】
<繊維間距離の測定方法>
測定対象のシート(不織布)の任意の箇所から5cm四方の四角形状の試料片を切り出し、マイクロスコープ(KEYENCE製 VHX-2000、レンズ VH-Z20W絞り開放)の3D画像連結機能を用いて、この試料片の表面から深度100μmまで焦点が一致している200倍拡大画像を得た後、さらに、その拡大画像を基に焦点が一致している繊維の外側を抽出し、そこに形成された面を繊維空間として、マイクロスコープの面積測定機能を用いて繊維空間の占める面積を求める。このとき、試料片の観察対象箇所を任意に選択し、その選択した範囲の繊維空間の面積を100箇所測定する。その選択した範囲における繊維空間1つ当たりの面積A〔繊維空間面積(平均値)〕より、下記式(1)によって繊維空間径(r)を求め、該繊維空間径(r)を繊維間距離(μm)とする。
(r)=2×(A/π)1/2 ・・・(1)
【0034】
上述のとおり本実施形態のマスク1は、肌側シート21を形成する親水性不織布によって汗や呼気に含まれる水分を吸い取ることができるので、水滴が装着者の肌に触れることを低減することができる。さらに、マスク1は、肌側シート21の非肌側面の表面粗さの平均偏差が3.30μm以下であるので、肌側シート21とフィルターシート22の間に隙間が形成されにくく、両シートを密接に接触させることができ、また、肌側シート21の構成繊維の繊維間距離がフィルターシート22の構成繊維の繊維間距離よりも大きいので、肌側シート21が吸い取った水分を、毛細管現象により非肌側T2のフィルターシート22へ素早く移行させることができる。
このように本実施形態のマスク1は、肌側シート21が水分を吸い取りやすくなっているものの、水分を保持しにくくなっているため、装着者に濡れたような感覚を生じさせにくくすることができる。
【0035】
以下、本発明のマスクを構成する各種部材について、上述の実施形態のマスク1を用いて更に詳細に説明する。
【0036】
[マスク本体部]
上述のマスク1において、装着時に装着者の鼻や口元を覆うマスク本体部2は、
図1に示すように、平面視にて略矩形状の形状を有している。なお、マスク本体部2の形状は、装着者の鼻や口元を覆い得るものであれば特に限定されず、例えば、矩形状、長円形状、三角形状、多角形状等の任意の形状を採用することができる。
【0037】
さらに、マスク本体部2は、
図3に示すように、厚さ方向Tにおいて肌側T
1に位置する親水性不織布からなる肌側シート21と、該肌側シート21の非肌側T
2に位置する不織布からなるフィルターシート22と、該フィルターシート22の非肌側T
2に位置する親水性不織布からなる非肌側シート23とが積層されてなる不織布の積層体によって形成されている。なお、肌側シート21、フィルターシート22及び非肌側シート23は、マスク本体部2の上下方向Vの両端部及び横方向Hの両端部の各々に配置された複数の接合部によって互いに融着されている。
【0038】
本発明において、マスク本体部を形成する不織布の積層体は、親水性不織布からなる肌側シートと不織布からなるフィルターシートの、少なくとも2枚の不織布が積層されたものであれば特に限定されず、上述の実施形態のような3層の不織布の積層体のほか、例えば、肌側シート及びフィルターシートが積層された2層の不織布の積層体であっても、肌側シート、フィルターシート及び非肌側シートの他に1枚又は複数枚の任意の不織布からなるシート(例えば、フィルターシートと非肌側シートの間に配置される中間シート等)が更に積層された4層以上の不織布の積層体であってもよい。
【0039】
また、上述のマスク1においては、マスク本体部2は、
図1及び
図2に示すように、マスク本体部2の上側端部に位置し、装着者の鼻上部の形状に適合するように変形可能なノーズフィット部と、上述の不織布の積層体が上下方向Vに折り畳まれてなる複数の襞部4と、を備えているが、本発明のマスクにおいては必須の構成要件ではないため、マスク本体部は、このようなノーズフィット部や複数の襞部を備えていなくてもよい。
【0040】
以下、マスク本体部2を形成する各種シートについて詳説する。
【0041】
(肌側シート)
上述のマスク1において肌側シート21は、マスク本体部2の肌側T1に配置され、装着者の汗や呼気に含まれる水分を吸い取り得る親水性不織布によって形成されている。肌側シート21が親水性不織布によって形成されていることにより、マスク1は、水滴が装着者の肌に触れることを低減することができる。
【0042】
また、肌側シート21は、非肌側面の表面粗さの平均偏差が3.30μm以下であり、且つ、肌側シート21の構成繊維の繊維間距離がフィルターシート22の構成繊維の繊維間距離よりも大きく形成されている。このように肌側シート21の非肌側面の表面粗さの平均偏差が3.30μm以下であることで、肌側シート21とフィルターシート22の間に隙間が形成されにくく、両シートを密接に接触させることができる。さらに、肌側シート21の構成繊維の繊維間距離がフィルターシート22の構成繊維の繊維間距離よりも大きいことで、肌側シート21が吸い取った水分を、毛細管現象により非肌側T2のフィルターシート22へ素早く移行させることができる。
【0043】
肌側シート21を形成する親水性不織布は、上述の表面粗さの平均偏差及び構成繊維の繊維間距離の点以外は特に制限されず、任意の親水性不織布を用いることができる。そのような親水性不織布としては、親水性の繊維からなる又は親水化処理が施された、スパンレース不織布、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、エアレイド不織布、メルトブローン不織布、フラッシュ紡糸不織布、サーマルボンド不織布、カーディング不織布、又はこれらの不織布を任意に組み合わせた不織布(例えば、SMS不織布等)などが挙げられるが、強度や加工性等の点からスパンボンド不織布が好ましい。
【0044】
また、不織布を構成する繊維も、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、例えば、セルロース系繊維や合成繊維などが挙げられる。
セルロース系繊維としては、例えば、パルプ、コットン、麻等の天然セルロース系繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース系繊維などが挙げられ、これらの繊維は、1種類の繊維を単独で用いても、2種類以上の繊維を併用してもよい。
また、合成繊維としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系繊維;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等のポリエステル系繊維;ビニロン等のポリビニルアルコール系繊維;ポリアクリロニトリル等のポリアクリル系繊維;ポリウレタン(PU)系繊維;ナイロン等のポリアミド系繊維などが挙げられ、これらの繊維は、1種類の繊維を単独で用いても、2種類以上の繊維を併用してもよい。さらに、合成繊維の形態も特に限定されず、例えば、PP(芯部)/PE(鞘部)や高融点PP(芯部)/低融点PP(鞘部)、PET(芯部)/PE(鞘部)等の芯鞘型複合繊維;サイド・バイ・サイド型複合繊維;扁平、Y字形、C字形等の異形断面型繊維などの任意の形態の合成繊維を用いることができる。
なお、不織布が疎水性の合成繊維からなる場合は、不織布を形成する前の合成繊維に対して親水化処理剤等により親水化処理を施すか、形成後の不織布に対して親水化処理剤等により親水化処理を施せばよい。
【0045】
また、本発明においては、肌側シートの構成繊維は、繊維径が13μm以下であることが好ましい。このように肌側シートの構成繊維の繊維径が細く、肌側シートがフィルターシートに対してより密着しやすくなっていると、肌側シートが吸い取った水分を、より確実に非肌側のフィルターシートへ移行させることができる。
【0046】
なお、不織布の構成繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡を用いて繊維を拡大観察することにより測定することができる。具体的には、次のようにして測定することができる。
【0047】
<繊維径の測定方法>
(1)測定対象のシート(不織布)の任意の箇所から、縦5mm×横5mmの四角形状の試料片を10個切り出す。
(2)切り出した試料片の表面を走査型電子顕微鏡(KEYENCE社製 VE-7800)により観察し、試料片の表面の倍率500倍の拡大画像を得る。なお、拡大画像は、試料片ごとにそれぞれ1枚ずつ、合計10枚を得る。
(3)各拡大画像の中の最表面において所定本数(例えば、10本)の繊維の繊維径を測定する。
(4)測定した各繊維の繊維径の値を合計し、測定した繊維本数で割った値を繊維径(平均繊維径;μm)とする。
【0048】
また、本発明においては、肌側シートの非肌側面が、該肌側シートを形成する親水性不織布のネット面によって形成されていることが好ましい。このように肌側シートの非肌側面がネット面によって形成されていると、肌側シートが非肌側面に向かって繊維密度が高くなるので、肌側シートが吸い取った水分を更に確実に非肌側のフィルターシートへ移行させることができる。
【0049】
なお、不織布のネット面は、不織布の製造時に搬送設備の支持体(ネット)に接していた面であり、当該ネット面は、その反対側の面(すなわち、反ネット面)と比較して、相対的に構成繊維の繊維密度が高く、凹凸の少ない概ね均一な面として特定される。
【0050】
肌側シートの厚さや坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、任意の厚さや坪量等を採用することができるが、上述の表面粗さの平均偏差や繊維間距離の調整のし易さ、強度や柔軟性などの点から、坪量は、10g/m2~100g/m2の範囲内の坪量が好ましく、15g/m2~80g/m2の範囲内の坪量がより好ましい。
なお、坪量は、次のようにして測定することができる。
【0051】
<坪量の測定方法>
測定対象のシート(不織布)の任意の箇所から縦2cm×横2cmの四角形状の試料片を10個切り出し、各試料片の質量(g)を電子天秤により測定する。次いで、測定した質量(g)を試料片の面積(m2)で除することにより試料片の坪量(g/m2)を算出する。なお、坪量は、10個の試料片の平均値を採用する。
【0052】
(フィルターシート)
上述のマスク1においてフィルターシート22は、マスク本体部2の肌側シート21の非肌側T2に位置し、該肌側シート21と非肌側シート23とによって挟持されている。かかるフィルターシート22は、非肌側シート23を空気と共に通過してきたウィルスや細菌、埃、花粉、微小粒子状物質(例えば、PM2.5等)などの物質(以下、単に「微小物質」と称する。)を捕捉し得る不織布によって形成されている。
【0053】
フィルターシート22は、構成繊維の繊維間距離が肌側シート21の構成繊維の繊維間距離よりも小さく形成されている。これにより、フィルターシート22は、上述の微小物質に対して優れた捕捉性を発揮しつつ、肌側シート21が吸い取った水分を毛細管現象により素早く吸い上げることができる。
【0054】
フィルターシート22を形成する不織布は、上述の構成繊維の繊維間距離の点以外は特に制限されず、所望の捕捉性等に応じた任意の不織布を用いることができる。そのような不織布としては、上述の肌側シートを形成する親水性不織布と同様の不織布が挙げられるが、フィルターシートは、疎水性の合成繊維によって形成された疎水性不織布であることが好ましい。フィルターシートがこのような疎水性不織布によって形成されていると、より優れた蒸散性を発揮することができる。なお、疎水性の合成繊維としては、PE、PP等のポリオレフィン系繊維を用いることが好ましい。
【0055】
また、本発明においては、フィルターシートを形成する不織布は、エレクトレット加工された不織布であることが好ましい。フィルターシートがエレクトレット加工された不織布によって形成されていると、静電気の力により微小物質に対して優れた捕捉性を発揮することができるとともに、フィルターシートと肌側シートとの密着性が更に向上するため、肌側シートが吸い取った水分をより素早く非肌側のフィルターシートへ移行させることができる。
【0056】
なお、エレクトレット加工は、誘電体である不織布に対して、直流コロナ放電又は高電界などの方法により電荷を注入する処理である。不織布に注入される電荷は、不織布の構成繊維の主に表面付近に存在すると考えられる。不織布に注入される電荷の量は、直流コロナ放電や高電界の印加の条件により調整し得るが、不織布の構成繊維の繊維径や繊維密度などによっても調整することができる。
【0057】
なお、フィルターシートの厚さや坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、任意の厚さや坪量等を採用することができるが、上述の繊維間距離の調整のし易さ、微小物質に対する捕捉性などの点から、坪量は、15g/m2~200g/m2の範囲内の坪量が好ましく、12g/m2~150g/m2の範囲内の坪量がより好ましい。
【0058】
(非肌側シート)
上述のマスク1において非肌側シート23は、マスク本体部2の非肌側T2、より具体的には上記フィルターシート22の非肌側T2に位置し、フィルターシート22の肌側T1に位置する肌側シート21とともにフィルターシート22を挟んで保持し得る親水性不織布によって形成されている。
【0059】
非肌側シート23を形成する親水性不織布は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、所望の強度や柔軟性等に応じた任意の不織布を採用することができる。そのような不織布としては、上述の肌側シートを形成する親水性不織布と同様の不織布が挙げられる。
【0060】
なお、本発明においては、非肌側シートは、親水性不織布に限らず、フィルターシートと同様の疎水性不織布によって形成することもできるが、上述の実施形態のマスク1のように親水性不織布によって形成されていることが好ましい。フィルターシートの非肌側に位置する非肌側シートが親水性不織布によって形成されていると、非肌側シートがフィルターシートに移行した水分を吸収することができるので、装着者に濡れたような感覚をより確実に生じさせにくくすることができる。
【0061】
また、本発明においては、非肌側シートの繊維密度が肌側シートの繊維密度よりも低いことが好ましい。非肌側シートの繊維密度が低いと、呼気などによる空気の通りを良好にし、蒸散性を高めることができる。
なお、繊維密度は、次のようにして測定することができる。
【0062】
<繊維密度の測定方法>
(1)上述の<坪量の測定方法>に従い、測定対象のシート(不織布)から切り出した各試料片(すなわち、10個の試料片)の坪量を測定する。
(2)坪量の測定に使用した各試料片の厚さを、15cm2の測定子を備えた厚さ計(株式会社大栄化学精器製作所製、型式FS-60DS)を用いて、3g/cm2の測定荷重条件下で測定する。なお、試料片の厚さは、試料片の任意の3か所の厚さを測定し、その平均値を採用する。
(3)上記(1)で測定した各試料片の坪量を、それぞれ上記(2)で測定した各試料片の厚さで除することにより、各試料片の繊維密度(g/m3)を算出する。なお、繊維密度は、10個の試料片の平均値を採用する。
【0063】
また、本発明においては、非肌側シートの非肌側面が、該非肌側シートを形成する親水性不織布のネット面によって形成されていることが好ましい。上述のとおり非肌側シートが親水性不織布によって形成されていることで、非肌側シートがフィルターシートに移行した水分を吸収しやすくなっている上、非肌側シートの非肌側面が繊維密度の高いネット面によって形成されていると、吸収した水分が非肌側へ移行しやすく、水分の蒸散をより確実に行うことができる。
【0064】
非肌側シートの厚さや坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、任意の厚さや坪量等を採用することができるが、強度や柔軟性などの点から、坪量は、10g/m2~100g/m2の範囲内の坪量が好ましく、15g/m2~80g/m2の範囲内の坪量がより好ましい。
【0065】
なお、本発明においては、マスクが非肌側シートを備えることは必須の構成要件ではないため、例えば、肌側シートとフィルターシートが強固に接合され、肌側シートのみでフィルターシートを十分に支持し得るような場合は、マスクは非肌側シートを備えていなくてもよい。
【0066】
[耳掛け部]
上述のマスク1において、装着時に装着者の耳に掛かることでマスク本体部2を装着者の鼻や口元に密着させる一対の耳掛け部3は、
図1に示すように、平紐状、丸紐状又は帯状の伸縮性部材の両端部がマスク本体部2の横方向Hの両端部に接合された環状の形状を有している。
【0067】
耳掛け部3として用い得る伸縮性部材は、装着者の耳に掛かることでマスク本体部2を装着者の鼻や口元に密着させ得るものであれば特に制限されず、例えば、織ゴム、編ゴム、伸縮性不織布などが挙げられる。なお、伸縮性部材は、伸ばしても幅が小さくなりにくい(すなわち、幅入りが生じにくい)ものが好ましい。このような幅入りの生じにくい伸縮性部材で耳掛け部を形成すると、耳掛け部が装着者の耳に掛けられた時に耳掛け部の幅が細くなりにくく、耳掛け部が装着者の耳に当接する部分の面積を広く確保することができるため、装着者の耳が痛くなりにくくなる。
【0068】
以上、本発明のマスクについて、一実施形態である使い捨てのマスク1を用いて説明したが、本発明のマスクは、上述のマスク1のような複数の襞部4を有する、いわゆるプリーツ型マスクに限定されず、平坦なマスク本体部を有するフラット型マスクや、マスク本体部がカップ形状等の立体構造を有する立体型マスクなどの任意のマスクに適用することができる。
但し、本発明のマスクが複数の襞部を有するプリーツ型マスクであると、複数の襞部において少なくとも肌側シートとフィルターシートとが共に折り畳まれて密着した状態となるため、肌側シートが吸い取った水分を、より確実に非肌側のフィルターシートへ移行させることができるという利点がある。
【0069】
なお、本発明のマスクは、上述の実施形態等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 使い捨てのマスク
2 マスク本体部
21 肌側シート
22 フィルターシート
23 非肌側シート
3 耳掛け部
4 襞部