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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】立毛調人工皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20220729BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021093658
(22)【出願日】2021-06-03
(62)【分割の表示】P 2020500395の分割
【原出願日】2019-02-04
(65)【公開番号】P2021121702
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018026944
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】中山 公男
(72)【発明者】
【氏名】菱田 弘行
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-048404(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121940(WO,A1)
【文献】特開平08-209554(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147671(WO,A1)
【文献】特開昭55-001365(JP,A)
【文献】特開昭60-224881(JP,A)
【文献】特表2011-523985(JP,A)
【文献】特開2017-106127(JP,A)
【文献】特開2004-315987(JP,A)
【文献】特開2006-152461(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230417(WO,A1)
【文献】特開2004-143654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維を含む不織布と前記不織布に付与された高分子弾性体とを含み、
前記不織布は、前記ポリエステル繊維の繊維束の絡合体であり、
前記高分子弾性体は、前記繊維束の外部に存在する第1の高分子弾性体と、前記繊維束の内部に存在する第2の高分子弾性体とを含み、
前記ポリエステル繊維は濃色顔料を0.5~10質量%含有し、
前記第2の高分子弾性体の含有割合が0.1~3質量%であり、
少なくとも一面の前記ポリエステル繊維が立毛された立毛面を有し、且つ、前記立毛面はL*a*b*表色系に基づく明度L*値≦20であり、
多繊交織布(交織1号)への湿潤時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における加熱加圧時の色移行性評価の汚染用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上であることを特徴とする立毛調人工皮革。
【請求項2】
前記高分子弾性体は、濃色顔料を、含まない、または0~20質量%の範囲で含む、請求項1に記載の立毛調人工皮革。
【請求項3】
前記第2の高分子弾性体が濃色顔料を含む請求項1または2に記載の立毛調人工皮革。
【請求項4】
染色されていない請求項1~3の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
【請求項5】
含金染料または硫化染料で染色されている請求項1~3の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
【請求項6】
前記濃色顔料がカーボンブラックを含む請求項1~5の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
【請求項7】
前記ポリエステル繊維はイソフタル酸変性ポリエステル繊維である請求項1~6の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
【請求項8】
多繊交織布(交織1号)への乾燥時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における加熱加圧時の色移行性評価の汚染用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上である請求項1~7の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
【請求項9】
JIS L0842に準拠した紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅ろう度試験において、変退色用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上である請求項1~8の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
【請求項10】
荷重750g/cm2,50℃,16時間の条件における塩化ビニルフィルムへの色移行性評価における色移行前後の前記塩化ビニルフィルムの色差が、ΔE*≦2.0である請求項1~9の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃色に着色された立毛調人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
スエード調人工皮革やヌバック調人工皮革のような緻密な毛羽感を有する立毛調人工皮革が知られている。立毛調人工皮革は、衣料,靴,家具,カーシート,雑貨製品等の表面素材や、携帯電話,モバイル機器,家電製品の筐体等の表面素材として用いられている。このような立毛調人工皮革は、通常、着色されて用いられる。
【0003】
立毛調人工皮革は、極細繊維の不織布の内部にポリウレタン等の高分子弾性体を含有させて得られる人工皮革基材の表層の繊維をバフィングして得られる。立毛調人工皮革に用いられる極細繊維の不織布としては、ポリエステルの極細繊維の不織布が、機械的特性,耐久性,風合いに優れる点から好ましく用いられている。
【0004】
ポリエステルの極細繊維の不織布を含む立毛調人工皮革を着色するために、分散染料が広く用いられている。しかし、ポリエステルの極細繊維の不織布を分散染料で染色する場合、濃色に着色させるためには大量の分散染料を染着させる必要があった。この場合、立毛調人工皮革の耐光性や耐色移行性が低下しやすくなるという問題があった。
【0005】
皮革様シートを着色するために、染色堅ろう性に優れたカチオン染料による染色も試みられている。例えば、下記特許文献1は、スルホイソフタル酸の酸成分を特定のジオールで実質的に置換して得られたスルホン酸基含有ジオールを単量体として用いて得られたカチオン染料可染性のポリウレタンと、繊維構造体とを含むカチオン染料染色性の皮革様シートを開示する。
【0006】
また、カチオン可染性のポリエステル繊維も知られている。例えば、下記特許文献2は、共重合成分として、酸成分中にスルホイソフタル酸の金属塩(A)及びスルホイソフタル酸の4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩(B)を3.0≦A+B≦5.0(モル%)、0.2≦B/(A+B)≦0.7になるように含有する共重合ポリエステル繊維を含む、カチオン染料で染色された布帛を開示する。
【0007】
また、立毛調人工皮革を着色するために、下記特許文献3は、0.2dtex以下のポリエステル繊維等の繊維に顔料を0.1~8質量%、高分子弾性体に顔料を1~20質量%含有させ、繊維と高分子弾性体の質量比が85/15~40/60である、繊維と高分子弾性体とを顔料で着色した立毛調人工皮革を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-192968号公報
【文献】特開2010-242240号公報
【文献】特許第4233965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されたカチオン染料可染性のポリウレタンと繊維構造体とを含む皮革様シートをカチオン染料で染色した場合、繊維構造体がカチオン染料可染性を有しない場合には染色されにくくなる。その結果、ポリウレタンの色と繊維構造体の色に差異が出て、2色感の強い低品位の皮革様シートになるという問題があった。また、カチオン染料可染性のポリウレタンをカチオン染料で濃色に染色した場合には、他の物品への色移りが起こりやすくなり、また、耐光性も低くなるという問題もあった。
【0010】
また、特許文献2に開示されたカチオン染料可染性のポリエステル繊維は、カチオン染料を染着させるための染着座となる共重合単位を含む。カチオン染料可染性のポリエステル繊維は、繊維の強度が低いという問題があった。その結果、カチオン染料可染性のポリエステル繊維を含む立毛調人工皮革は、剥離強力が低かったり、表面を摩擦したときに極細繊維が脱落しやすくなったりするという問題があった。
【0011】
また、特許文献3に開示された顔料を含有させた高分子弾性体を含む立毛調人工皮革の場合、濃色に着色した場合には、高分子弾性体中の顔料が他の物品へ色移りしやすく、耐光性も低下するという問題があった。とくに、高分子弾性体の含有割合が高い場合や高分子弾性体中の顔料の濃度が高い場合には、前記問題が顕著に生じやすかった。さらには、高分子弾性体の含有割合が高い場合には、相対的に繊維の質量比が低くなることにより剥離強力が低くなったり、ゴムライクな特有の反発感が出たり、繊維の立毛感が劣ったり、繊維の色と高分子弾性体の色とに差異が発現して2色感が強くなったりして、低品位の立毛調人工皮革が得られる傾向があった。
【0012】
本発明は上述したような問題を解決した、濃色に着色された立毛調人工皮革において、濃色の発色性と耐光性と耐色移行性とに優れ、且つ、高い剥離強力を維持させた、高品位の立毛調人工皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一局面は、平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維を含む不織布と不織布に付与された高分子弾性体とを含み、不織布は、ポリエステル繊維の繊維束の絡合体であり、高分子弾性体は、繊維束の外部に存在する第1の高分子弾性体と、繊維束の内部に存在する第2の高分子弾性体とを含み、ポリエステル繊維は濃色顔料を0.5~10質量%含有し、少なくとも一面のポリエステル繊維が立毛された立毛面を有し、且つ、立毛面はL*a*b*表色系に基づく明度L*値≦20であり、多繊交織布(交織1号、以下同様)への湿潤時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における加熱加圧時の色移行性評価の汚染用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上である立毛調人工皮革である。
【0014】
また、本発明の他の一局面は、カーボンブラックを0.5~10質量%含有する平均繊度0.07~0.9dtexのイソフタル酸変性ポリエステル繊維の繊維束の絡合体である不織布と不織布に付与された高分子弾性体とを含み、イソフタル酸変性ポリエステル繊維が立毛された立毛面を少なくとも一面に有し、且つ、立毛面はL*a*b*表色系に基づく明度L*値≦20であり、染色されていない、または、含金染料または硫化染料で染色されており、高分子弾性体は、繊維束の外部に存在する第1の高分子弾性体と繊維束の内部に存在する第2の高分子弾性体と、を含み、高分子弾性体の含有割合が0.1~15質量%であり、且つ第2の高分子弾性体の含有割合が0.1~3質量%であり、剥離強力が3kg/cm以上である立毛調人工皮革である。
【0015】
本発明によれば、明度L*値≦20の強い濃色を発色し、耐光性と耐色移行性とに優れ、且つ、高い剥離強力を維持させた、高品位の立毛調人工皮革が得られる。
【0016】
なお、ポリエステル繊維を顔料で着色する場合、繊度が低すぎる場合には顔料を多量に配合しなければ濃色を発色しにくい。また、繊度が低い場合において顔料を多量に配合した場合、ポリエステル繊維の機械的特性が低下して剥離強度が低くなる。また、不織布に高分子弾性体を多く含有させた場合にはポリエステル繊維の色との高分子弾性体の色の差異により2色感が生じ、また、相対的にポリエステル繊維の質量比が低くなることにより剥離強力が低くなりやすい。また、ポリエステル繊維の繊度が高い場合には表面がガサガサする。
【0017】
このような立毛調人工皮革によれば、濃色の発色性に優れ、耐光性,耐色移行性及び高剥離強力を備え、且つ、高品位の立毛調人工皮革が得られる。とくに、多繊交織布への湿潤時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における加熱加圧時の色移行性評価の色差級数判定が4級以上であることにより、熱や圧力をかけて他物品に接着する場合や、薄い色の物品と接触する場合において、色移りが充分に抑制される。とくに、例えば、他物品と接触させて150~200℃の熱処理を行って接着するような場合や、高分子弾性体と接着しやすい塩化ビニルフィルムと接触させた場合においても色移りを抑制できる。
【0018】
立毛調人工皮革に含まれる高分子弾性体の含有割合は、0.1~15質量%であることが、相対的に繊維の質量比が低くなりすぎないために高い剥離強力を維持でき、また、繊維の色と高分子弾性体の色との差異による2色感が現れにくい。その結果、高品位の外観や触感と耐色移行性及び高剥離強力とのバランスに優れた立毛調人工皮革が得られる。
【0019】
不織布は、ポリエステル繊維の繊維束の絡合体であり、高分子弾性体は、繊維束の外部に存在する第1の高分子弾性体と、繊維束の内部に存在する第2の高分子弾性体とを含む。このような構成により、高分子弾性体の含有割合が低い場合であっても、高い剥離強力を維持することができる。第2の高分子弾性体の含有割合は0.1~3質量%である。
【0020】
また、高分子弾性体は、濃色顔料を含まない、または、0~20質量%の範囲で含むことが、耐色移行性にとくに優れる点から好ましい。
【0021】
また、立毛調人工皮革は染色されていないこと、または、含金染料または硫化染料で染色されていることが、耐色移行性を低下させない点から好ましい。
【0022】
また、濃色顔料は、カーボンブラックを含むことが耐光性及び耐色移行性にとくに優れる点から好ましい。
【0023】
また、ポリエステル繊維はイソフタル酸変性ポリエステル繊維であることが、高い剥離強力を維持しやすい点から好ましい。
【0024】
また、立毛調人工皮革は、多繊交織布への乾燥時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における加熱加圧時の色移行性評価の汚染用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上であることが、他物品と接触させて150~200℃の熱処理を行って接着するような用途において用いる場合にさらに色移りを抑制できる点から好ましい。
【0025】
また、JIS L0842に準拠した紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅ろう度試験において、変退色用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上であることが、耐光性にも優れる点から好ましい。
【0026】
また、荷重750g/cm2,50℃,16時間の条件における塩化ビニルフィルムへの色移行性評価における色移行前後の塩化ビニルフィルムの色差が、ΔE*≦2.0であることが、他物品と接触させて150~200℃の熱処理を行って接着するような用途に使用する場合の耐色移行性にとくに優れる点から好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、強い濃色に着色された立毛調人工皮革において、高い耐光性,耐色移行性及び剥離強力を備え、且つ、高品位である立毛調人工皮革が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る立毛調人工皮革の一実施形態をその製造方法の一例に沿って詳しく説明する。
【0029】
本実施形態の立毛調人工皮革の製造方法においては、はじめに、濃色顔料を0.5~10質量%含有する平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維を含む繊維絡合体である不織布と、不織布に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を準備する。このような人工皮革基材は、例えば、次のように製造される。
【0030】
はじめに、濃色顔料を0.5~10質量%含有する平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維の不織布を形成するための極細繊維発生型繊維の絡合体を製造する。
【0031】
極細繊維発生型繊維の絡合体の製造においては、はじめに、極細繊維発生型繊維の繊維ウェブを製造する。繊維ウェブの製造方法としては、例えば、極細繊維発生型繊維を溶融紡糸し、これを意図的に切断することなく長繊維のまま捕集するような方法や、ステープルに切断した後、公知の絡合処理を施すような方法が挙げられる。長繊維とは、所定の長さで切断処理されていない連続繊維またはフィラメントであり、その長さとしては、例えば、100mm以上、さらには、200mm以上であることが繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。長繊維の上限は、特に限定されないが、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。これらの中では、繊維の素抜けが発生しにくいために、素抜け防止のために含有させる高分子弾性体の含有量を低減させやすい点から、長繊維ウェブを製造することが特に好ましい。本実施形態においては、代表例として、長繊維ウェブを製造する場合について詳しく説明する。
【0032】
極細繊維発生型繊維とは、紡糸後の繊維に化学的な後処理または物理的な後処理を施すことにより、繊度の小さい極細繊維を形成する繊維である。その具体例としては、例えば、繊維断面において、マトリクスとなる海成分樹脂中に、海成分樹脂とは異なる種類のドメインとなる島成分樹脂が分散されており、海成分樹脂を除去することにより、島成分樹脂を主体とする繊維束状の極細繊維を形成する海島型複合繊維が挙げられる。また、例えば、繊維外周に複数の異なる樹脂成分が交互に配置されて花弁形状や重畳形状を形成しており、物理的処理により各樹脂成分が剥離することにより分割されて束状の極細繊維を形成する剥離分割型複合繊維が挙げられる。海島型複合繊維によれば、繊維束状の極細繊維が形成される。本実施形態では、代表例として極細繊維発生型繊維として海島型複合繊維を製造する場合について詳しく説明する。
【0033】
海島型複合繊維の長繊維ウェブは、海島型複合繊維を溶融紡糸し、切断せずに長繊維のままネット上に捕集することにより形成される。
【0034】
海島型複合繊維における、ポリエステル繊維を発現させるための島成分樹脂であるポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ポリエステルの中では、イソフタル酸変性PETが、溶融紡糸性と繊維強度のバランスに優れ、繊維の素抜け防止のために含有させる高分子弾性体を低減しやすい点から好ましい。なお、変性PETにおける変性モノマーの割合としては、0.1~30mol%、さらには0.5~15mol%、とくには1~10mol%であることが好ましい。また、島成分樹脂には、ポリエステルと組み合わせて、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6-12等のポリアミド;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィンを含んでもよい。
【0036】
ポリエステルは、濃色に着色されたポリエステル繊維を得るために濃色顔料で着色される。濃色顔料とは、顔料を添加していないナチュラル色のポリエステルの明度L*値を低下させることのできる顔料を意味する。このような濃色顔料の具体例としては、カーボンブラック等の黒色顔料、ウルトラマリン青,プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)等の青色顔料、鉛丹,酸化鉄赤等の赤色顔料、黄鉛,亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)等の黄色顔料等の無機顔料や、各色のフタロシアニン系,アントラキノン系,キナクリドン系,ジオキサジン系,イソインドリノン系,イソインドリン系,インジゴ系,キノフタロン系,ジケトピロロピロール系,ペリレン系,ペリノン系等の縮合多環系有機顔料、ベンズイミダゾロン系,縮合アゾ系,アゾメチンアゾ系等の不溶性アゾ系等の有機顔料が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中ではカーボンブラックが、明度L*値≦20のような強い濃色に着色しやすく、耐光性に優れる点から好ましい。
【0037】
ポリエステル繊維を形成する、濃色顔料を含むポリエステル組成物中の濃色顔料の含有割合は0.5~10質量%であり、ポリエステル繊維の平均繊度や目標色、顔料の種類に応じて適宜選択される。例えば、ポリエステル繊維の平均繊度が0.07~0.5dtexの場合で明度L*値≦20に着色するためには1~10質量%、L*値≦18に着色するためには4~10質量%であることが好ましい。また、ポリエステル繊維の平均繊度が0.3~0.9dtexでL*値≦20に着色するためには1~8質量%、L*値≦18に着色するためには4~8質量%であることが好ましい。ポリエステル組成物中の濃色顔料の含有割合が10質量%を超える場合には、得られるポリエステル繊維の機械的特性や溶融紡糸性が低下する。
【0038】
また、ポリエステル繊維を形成するポリエステル組成物中には、紡糸工程性や得られる人工皮革スエードの色相を調整する等を目的に、濃色顔料とともに、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、亜鉛華,鉛白,リトポン,二酸化チタン,沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉等の白色顔料や、コロイダルシリカ等のシリカを配合してもよい。また、耐候剤、防黴剤、加水分解防止剤、滑剤、微粒子、摩擦抵抗調整剤等を本発明の効果を損なわない範囲で、配合してもよい。
【0039】
本実施形態の海島型複合繊維における海成分樹脂としては、島成分樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。海成分樹脂の具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレンエチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、などが挙げられる。
【0040】
海島型複合繊維は、溶融紡糸機の口金から吐出された溶融状態の海島型複合繊維を冷却装置により冷却し、さらに、エアジェットノズルなどの吸引装置により目的の繊度となるように牽引細化する溶融紡糸により製造される。牽引細化は、好ましくは1000~6000m/分、さらに好ましくは2000~5000m/分の引取速度に相当する高い紡糸速度になるような高速気流により行われる。そして、牽引細化された長繊維を移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより海島型複合繊維の長繊維ウェブが得られる。
【0041】
海島型複合繊維の平均繊度はとくに限定されないが、0.5~10dtex、さらには0.7~5dtexであることが不織布の形成性に優れる点から好ましい。また、海島型複合繊維の断面における海成分樹脂と島成分樹脂との平均面積比は5/95~70/30、さらには10/90~50/50であることが海島構造を形成しやすいことから好ましい。また、海島型複合繊維の断面における島成分樹脂のドメインの数は特に限定されないが、工業的な生産性の点からは5~1000個、さらには、10~300個程度であることが好ましい。
【0042】
なお、必要に応じて、長繊維ウェブをプレスして部分的に圧着させることにより形態を安定化させてもよい。このようにして得られる長繊維ウェブの目付はとくに限定されないが、例えば、10~1000g/m2の範囲であることが好ましい。
【0043】
次に、得られた長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより海島型複合繊維の絡合ウェブを製造する。長繊維ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする処理や水流交絡処理等が挙げられる。また、長繊維ウェブには海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。
【0044】
海島型複合繊維の絡合ウェブは、必要に応じて、長繊維の絡合状態を緻密にするために熱収縮処理が施されてもよい。熱収縮処理の具体例としては、例えば、海島型複合繊維の絡合ウェブを水蒸気に接触させる方法や、海島型複合繊維の絡合ウェブに水を付与した後、水を加熱エアーや赤外線などの電磁波により加熱する方法が挙げられる。熱収縮処理における海島型複合繊維の絡合ウェブの目付の変化としては、収縮処理前の目付に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。また、海島型複合繊維の絡合ウェブを緻密化するとともに、海島型複合繊維の絡合ウェブの形態を固定化したり、表面を平滑化したりするために熱プレス処理を施してもよい。このようにして得られる海島型複合繊維の絡合ウェブの目付としては100~2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。
【0045】
海島型複合繊維の絡合ウェブから海成分樹脂を除去することにより、濃色顔料を0.5~10質量%含有する平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維の不織布が得られる。海島型複合繊維から海成分樹脂を除去する方法としては、海成分樹脂のみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、海成分樹脂として水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられ、海成分樹脂として易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が用いられる。
【0046】
このようにして形成される極細繊維の平均繊度は0.07~0.9dtexであり、好ましくは0.2~0.5dtexであることにより、少ない濃色顔料で濃色に発色させやすく、高い剥離強度を維持し、品位にも優れた立毛調人工皮革が得られる。
【0047】
立毛調人工皮革の製造においては、海島型複合繊維等の極細繊維発生型繊維を極細繊維化する前後の何れか一方または両方において、立毛調人工皮革の繊維の素抜け防止や剥離強力の向上、立毛調人工皮革に形態安定性や充実感を付与することを目的として、海島型複合繊維の絡合ウェブまたは極細繊維の不織布の、内部空隙にポリウレタン等の高分子弾性体を含浸付与する。
【0048】
高分子弾性体としては、従来から人工皮革の製造に用いられているポリウレタンやアクリル系弾性体等がとくに限定なく用いられる。これらの中ではポリウレタンがとくに好ましい。ポリウレタンの具体例としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン,ポリエステル系ポリウレタン,ポリエーテルエステル系ポリウレタン,ポリカーボネート系ポリウレタン,ポリエーテルカーボネート系ポリウレタン,ポリエステルカーボネート系ポリウレタン等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中ではポリカーボネート系ポリウレタンがとくに好ましい。
【0049】
また、高分子弾性体の100%モジュラスは1~8MPaであることがしなやかさや充実感に優れた立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。高分子弾性体の100%モジュラスが低すぎる場合には海成分樹脂を除去して極細繊維を発生させる際に、極細繊維に固着して極細繊維の立毛を阻害しやすくなる傾向があり、高すぎる場合には立毛がザラザラした手触りとなりやすい傾向がある。
【0050】
また、高分子弾性体は、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の顔料や染料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。なお、高分子弾性体が顔料を含有する場合、0~20質量%、さらには0~10質量%、とくには0~1質量%であることが好ましい。高分子弾性体中の顔料の含有割合が高すぎる場合には剥離強力が低下する傾向があり、また、耐色移行性が低下する傾向がある。
【0051】
絡合ウェブまたは極細繊維の不織布の、内部空隙に高分子弾性体を付与させる方法としては、絡合ウェブまたは極細繊維の不織布に、高分子弾性体のエマルジョン、水性液、溶液を、例えば、ディップ・ニップしたり、ナイフコーター、バーコーター、又はロールコーターで含浸したりし、高分子弾性体を凝固させることにより付与する方法が挙げられる。これらの中では、絡合ウェブまたは極細繊維の不織布に、高分子弾性体のエマルジョンをディップ・ニップにより付与した後、乾燥又は湿式凝固法により凝固させる方法が好ましい。
【0052】
高分子弾性体のエマルジョンをディップ・ニップにより付与した後、乾燥することにより凝固させる場合、エマルジョンが表層に移行(マイグレーション)することにより、均一な充填状態が得られないことがある。このような場合には、エマルジョンの粒径を調整すること;高分子弾性体のイオン性基の種類や量を調整すること、あるいは、40~100℃程度の温度によってpHが変わるアンモニウム塩を利用し水分散安定性を低下させること;1価または2価のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、ノニオン系乳化剤、会合型水溶性増粘剤、水溶性シリコーン系化合物などの会合型感熱ゲル化剤、または、水溶性ポリウレタン系化合物を併用すること等により、40~100℃程度における水分散安定性を低下させること等によりマイグレーションを抑制することができる。
【0053】
なお、海島型複合繊維を極細繊維化処理した場合、海成分樹脂が除去されることにより繊維束状の極細繊維が形成される。そして、極細繊維の繊維束の内部に空隙が形成される。極細繊維化処理を施した後の極細繊維の不織布に高分子弾性体のエマルジョンを含浸させた場合、高分子弾性体のエマルジョンが毛細管現象により極細繊維間に含浸されやすくなり、繊維束状の極細繊維が強く拘束されて極細繊維の素抜けが起こりにくくなり、また、剥離強力も向上する。そのために、本実施形態の立毛調人工皮革の製造においては、海島型複合繊維の絡合ウェブに第1の高分子弾性体を付与した後、海島型複合繊維を極細繊維化処理して繊維束状の極細繊維の不織布を含む第1の中間体シートを形成し、第1の中間体シートにさらに第2の高分子弾性体を付与することにより、極細繊維の繊維束の内部にも高分子弾性体を付与するような工程を経ることがとくに好ましい。
【0054】
立毛調人工皮革中の高分子弾性体の含有割合としては、0.1~15質量%、さらには0.5~14質量%、とくには2.5~12質量%であることが相対的にポリエステル繊維の質量比が低くなりすぎないために剥離強力を高く維持することができ、また、立毛調人工皮革の立毛性が良好になり、高分子弾性体とポリエステル繊維の2色感が出にくく、反発感の少ないしなやかな風合いが得られやすい点から好ましい。また、他物品と高温、例えば、150~200℃で接触した場合や塩化ビニルフィルムなど高分子弾性体と接着しやすい物品と接触させた場合の耐色移行性に優れる点から好ましい。本実施形態の立毛調人工皮革においては、剥離強力が3kg/cm以上有するようにポリエステル繊維を緻密に絡合させ、ポリエステル繊維の素抜けを防止するために付与される高分子弾性体の割合を高めすぎないことが、ポリエステル繊維と高分子弾性体の色斑による2色感を低減でき、また、色移行を低減できる点からとくに好ましい。
【0055】
また、繊維束の内部に存在する第2の高分子弾性体の含有割合は0.1~3質量%であること剥離強力を高めやすい点から好ましい。
【0056】
このようにして濃色顔料を0.5~10質量%含有する平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維の不織布に高分子弾性体が含浸付与された人工皮革基材が得られる。そして、人工皮革基材を、必要に応じて厚さ方向に垂直な方向に複数枚にスライスしたり、研削したりすることにより厚さ調節し、さらに、少なくとも一面をバフィングすることにより少なくとも一面が立毛面である立毛調人工皮革の生機が得られる。バフィングは、例えば、120~600番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いて行うことが好ましい。
【0057】
また、立毛調人工皮革の生機に含まれるポリエステル繊維は濃色顔料により着色されているが、必要に応じて、色調整のために染色を組み合わせたり、顔料と顔料バインダーを混合した液を含浸処理して乾燥することにより顔料をバインダーで被着させる処理を組み合わせたりしてもよい。
【0058】
染色としては、含金染料、硫化染料、捺染染料、反応染料、酸性基含有ポリエステル繊維の着色に用いられるカチオン染料が好ましく用いられうる。とくには、含金染料または硫化染料で染色することが、繊維強度を低下させることなく、色移行が抑制される染色が可能になる点から好ましい。含金染料や硫化染料としては、ナイロン繊維やポリウレタンの染色に従来から用いられる含金染料や硫化染料が特に限定なく用いられる。染色方法は特に限定されないが、例えば、液流染色機、ビーム染色機、ジッガーなどの染色機を用いて染色する方法が挙げられる。染色温度としては60~140℃程度が例示される。また、染色の際に、酢酸や芒硝のような染色助剤を用いてもよい。また、染料を入れずに液流等の処理を行って風合いを調整してもよい。なお、分散染料は、マイグレーションさせやすくなる傾向があるために好ましくない。なお、耐色移行性をとくに低下させないためには、立毛調人工皮革を染色しないことが好ましい。
【0059】
また、立毛調人工皮革の生機は、さらに必要に応じて、各種仕上げ処理が施されてもよい。仕上げ処理としては、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理、濃色化剤処理等が挙げられる。
【0060】
立毛調人工皮革は、濃色顔料を0.5~10質量%含有する平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維を含む不織布と、不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む。このような立毛調人工皮革によれば、高分子弾性体の含有割合が低い場合であっても高い剥離強度、具体的には、剥離強力が3kg/cm以上の立毛調人工皮革が得られる。また、濃色顔料を0.5~10質量%含有する平均繊度0.07~0.9dtexのポリエステル繊維を含む不織布によれば、明度L*値≦20であっても、多繊交織布への湿潤時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における加熱時の色移行性評価の色差級数判定が4級以上である立毛調人工皮革を得ることができる。
【0061】
立毛調人工皮革の立毛面のL*a*b*表色系に基づく明度L*値は、強い濃色のL*値≦20であり、L*値≦18であり、さらにはL*値≦17であることが好ましい。強い濃色の立毛調人工皮革においては、高分子弾性体の色とポリエステル繊維の色とに差異が出て2色感が出やすいが、高分子弾性体の含有割合を低くすることにより2色感を抑制することができる。L*値の下限は特に限定されないが、8、さらには10であることが好ましい。
【0062】
また、立毛調人工皮革の剥離強力は3kg/cm以上、さらには3.1kg/cm以上、とくには3.5kg/cm以上であることが好ましい。
【0063】
立毛調人工皮革の多繊交織布の湿潤時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における、加熱加圧時の色移行性評価の色差級数判定は4級以上であり、好ましくは4-5級以上である。本実施形態の立毛調人工皮革は、このような加熱加圧時の色移行性特性を有することにより、綿,ナイロン,アセテート,毛,レーヨン,アクリル,絹,及びポリエステルのような多種の布に対して、湿潤条件で加熱加圧しても色移りしにくい特性を有する。
【0064】
また、多繊交織布への乾燥時,荷重4kPa,200℃,60秒間、の条件における加熱加圧時の色移行性評価の色差級数判定は4級以上であり、4-5級以上であることが好ましい。
【0065】
また、本実施形態の立毛調人工皮革によれば、不織布を形成するポリエステル繊維が濃色顔料で濃い濃色に着色されていることにより、JIS L0842に準拠した紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅ろう度試験において、変退色用グレースケールを用いた色差級数判定が4級以上、さらには4-5級以上であるような高い耐光堅ろう性を実現できる。
【0066】
また、荷重750g/cm2,50℃,16時間の条件における塩化ビニルフィルムへの色移行性評価における色移行前後の塩化ビニルフィルムの色差が、ΔE*≦2.0であるような高い塩化ビニルフィルムへの耐色移行性を実現できる。
【実施例
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
海成分樹脂として水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(PVA)、島成分樹脂としてカーボンブラック5質量%を添加した変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ-トを準備した。そして、海成分樹脂及び島成分樹脂を、口金温度260℃に設定された、海成分樹脂中に均一な断面積の島成分樹脂が12個分布した断面を形成するノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に供給し、溶融繊維をノズル孔から吐出させた。このとき、海成分樹脂と島成分樹脂との質量比が海成分樹脂/島成分樹脂=25/75となるように圧力調整しながら供給した。
【0069】
そして、吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように吸引装置で吸引することにより延伸し、繊度が3.3dtexの海島型複合繊維の長繊維を紡糸した。海島型複合繊維の長繊維は、可動型のネット上に連続的に堆積され、表面の毛羽立ちを抑えるために42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型複合繊維の長繊維をネットから剥離し、表面温度55℃、線圧200N/mmで格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させた。このようにして、目付32g/m2の長繊維ウェブを製造した。
【0070】
次に、長繊維ウェブをクロスラッパー装置を用いて総目付380g/m2になるように12層に重ねた積重ウェブを作製し、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用いて、積重ウェブを針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチすることにより、目付500g/m2の海島型複合繊維の絡合ウェブを製造した。ニードルパンチ処理による積重ウェブの面積収縮率は70%であった。そして、巻き取りライン速度10m/分、70℃、湿度50%RH、30秒間の条件で絡合ウェブを湿熱収縮処理した。湿熱収縮処理による絡合ウェブを面積収縮率は48%であった。
【0071】
そして、第1の高分子弾性体のエマルジョンとして、100%モジュラスが3.0MPaの自己乳化型の非晶性ポリカーボネートウレタン15質量%、及び感熱ゲル化剤として硫酸アンモニウム2.5質量%を含む第1のポリウレタンのエマルジョンを準備した。そして、湿熱収縮された絡合ウェブに第1のポリウレタンのエマルジョンを含浸付与した後、150℃で乾燥させて第1のポリウレタンを凝固させた。
【0072】
そして、第1のポリウレタンを付与された海島型複合繊維を含む絡合ウェブに対して95℃の熱水中で繰り返しディップ・ニップ処理を行うことにより、海成分樹脂であるPVAを溶解除去し、その後、乾燥した。このようにして、繊度0.2dtexの長繊維のポリエステル繊維を12本含む繊維束が3次元的に交絡した不織布を含む第1の中間体シートを作成した。立毛調人工皮革中の第1のポリウレタンの含有率は9.5質量%であった。
【0073】
そして、第1の中間体シートをスライスして半裁し、その一面をバフィングすることにより厚さ0.55mmに調整して第2の中間体シートを得た。第2の中間体シートは、厚さ0.55mm、目付310g/m2、見掛け密度0.56g/cm3であった。
【0074】
そして、第2の高分子弾性体のエマルジョンとして、100%モジュラスが3.0MPaの自己乳化型の非晶性ポリカーボネートウレタン1質量%を含む第2のポリウレタンのエマルジョンを準備した。そして、第2の中間体シートに第2のポリウレタンのエマルジョンを含浸付与した後、130℃で乾燥させて第2のポリウレタンを凝固させた。このようにして立毛調人工皮革の生機を作成した。そして、立毛調人工皮革を液流染色機を用いて温度120℃×10分間処理して柔軟化処理を行い、そしてアミノ変性シリコーンの固形分0.4%の水分散液を含浸付与し130℃で乾燥することにより立毛調人工皮革を得た。立毛調人工皮革に含まれる第2のポリウレタンの含有率は0.5質量%であり、第1のポリウレタンと第2のポリウレタンとの合計割合は10質量%であった。
【0075】
このようにして、片面に立毛面を有し、カーボンブラック5質量%を含有する平均繊度0.2dtexのポリエステル繊維の不織布を含み、厚さ0.6mmで、目付310g/m2、見掛け密度0.52g/cmである濃い黒色の立毛調人工皮革を得た。
【0076】
そして、得られた立毛調人工皮革の明度、剥離強力、多繊交織布への湿潤時及び乾燥時における加熱加圧時の耐色移行性、塩化ビニルフィルムへの耐色移行性、及び紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅ろう度を次のようにして評価した。
【0077】
(明度L*
分光光度計(ミノルタ社製:CM-3700)を用いて、JISZ 8729に準拠して、立毛調人工皮革の表面のL*a*b*表色系の座標値から明度L*値を求めた。値は、試験片から平均的な位置を万遍なく選択して測定された3点の平均値である。
【0078】
(剥離強力)
立毛調人工皮革から、たて15cm×よこ2.5cmの試験片を2枚切りだした。そして、2枚の試験片を、100μmのポリウレタンフィルム(NASA-600、たて10cm×よこ2.5cm)を介在させて重ね合わせた積重体を得た。なお、各試験片の両端の2.5cmの部分にはポリウレタンフィルムを重ねていない。そして、平板熱プレス機を使用して、温度130℃、面圧5kg/cmの条件で60秒間プレスして積重体を接着させて評価用サンプルを作成した。得られた評価用サンプルを、常温で引張試験機を用い、接着されていない2.5cmの部分をそれぞれ上下のチャックに把持させ、10cm/minの引張速度でs-s曲線を測定した。s-s曲線がほぼ一定状態になった部分の中央値を平均値として、サンプル幅2.5cmで除した値を剥離強力とした。値は、試験片3個の平均値である。
【0079】
(多繊交織布への湿潤時及び乾燥時における加熱加圧時の耐色移行性)
JIS L 0803 附属書 JAで規定された、綿,ナイロン,アセテート,毛,レーヨン,アクリル,絹,及びポリエステルの織布が並列するように織られた多繊交織布(交織1号)を準備した。また、立毛調人工皮革から10cm×4cmの試験片を切りだした。そして、JISL0850ホットプレッシングに対する染色堅ろう度試験方法のA-3法に準じて、試験台の上に湿潤または乾燥させた多繊交織布を載せ、その上に湿潤または乾燥させた試験片を載せ、さらにその上に湿潤または乾燥させた多繊交織布を載せ、試験片に対して4kPaの圧力を加えた状態にて、200±1℃に設定した乾熱乾燥機で60秒間放置し、取り出した。各々の織布で汚染用グレースケールを用いて級数判定し、汚染の最も大きい素材の織布の級数を耐色移行性の級数とした。
【0080】
(塩化ビニルフィルムへの耐色移行性)
立毛調人工皮革から3cm×2cmの試験片を切りだした。そして、切り出された立毛調人工皮革の立毛面に厚さ0.8mmの塩化ビニルフィルム(白色)を重ね、荷重が750g/cmとなるように均一に圧力をかけた。そして、50℃、相対湿度15%の雰囲気下で16時間放置した。そして、色移り前の塩化ビニルフィルムと色移り後の塩化ビニルフィルムとの色差ΔEを、分光光度計を用いて測定し、以下の基準で判定した。
5級 :0.0≦ΔE*≦0.2
4-5級:0.2<ΔE*≦1.4
4級 :1.4<ΔE*≦2.0
3-4級:2.0<ΔE*≦3.0
3級 :3.0<ΔE*≦3.8
2-3級:3.8<ΔE*≦5.8
2級 :5.8<ΔE*≦7.8
1-2級:7.8<ΔE*≦11.4
1級 :11.4<ΔE*
【0081】
(紫外線カーボンアーク灯光に対する耐光堅ろう度)
JIS L0842に基づき、立毛調人工皮革の立毛面に、紫外線フェードメーター(スガ試験機製U48)を照射し、20時間毎に試験片を取り出して、変退色用グレースケールと比較し、最長100時間として、4号色差が生じるまでの時間からJIS級判定した。
【0082】
(品位〈2色感及び触感〉)
立毛調人工皮革から20cm×20cmの試験片を切りだした。そして、試験片の立毛面を目視したときの外観と立毛面の触感を以下の基準で判定した。
A:目視したときに繊維と高分子弾性体の2色感がなく、さらっとした触感であった。
B:目視したときに繊維と高分子弾性体の色が異なって2色感が認められ、優美さに劣った。
C:立毛面がザラザラとした触感であって表面タッチに劣る。
D:色が薄く、外観の優美さに劣る。
【0083】
結果を下記表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
[実施例2]
島成分樹脂の島数を50島として平均繊度を0.08dtexとし、島成分樹脂に含有させたカーボンブラックの含有割合を8質量%とした以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例3]
島成分樹脂の島数を5島として平均繊度を0.5dtexとし、島成分樹脂に含有させたカーボンブラックの含有割合を1質量%とした以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0087】
[実施例4]
第1のポリウレタンのエマルジョンのポリウレタン濃度15質量%を21質量%に変更し、また、液流染色機を用いて温度120℃×10分間処理して柔軟化処理を行った後、90℃、含金染料(黒/青の質量比50/50質量%)5%owfの染色浴で含金染色処理して120℃で乾燥した以外は、実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。なお、実施例4は含金染料で染色して青味を帯びるように調整した。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例5]
第1のポリウレタンのエマルジョンのポリウレタン濃度15質量%を21%に変更し、また、液流染色機を用いて温度120℃×10分間処理して柔軟化処理を行った後、硫化染料(黒/青の質量比50/50質量%)の5%owfの染色浴でディップ・ニップ処理した後、120℃で乾燥した以外は、実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。なお、実施例5は硫化染料で染色して青味を帯びるように調整した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例6]
第2のポリウレタンのエマルジョンのポリウレタン濃度1質量%を5質量%に変更し、第2のポリウレタンのエマルジョンに水分散カーボンブラック顔料と水分散青顔料(質量比50/50質量%)を固形分で1質量%混合したエマルジョンを第2のポリウレタンエマルジョンとして含浸付与し、130℃で乾燥させた以外は実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。なお、実施例6は水分散青顔料で着色して青味を帯びるように調整した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例7]
第1のポリウレタンのエマルジョンの含浸処理を行わなかった以外は、実施例6と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例1]
島成分樹脂の島数を50島として平均繊度0.08dtexとし、島成分樹脂に含有させたカーボンブラックの含有割合を5質量%とし、湿熱収縮処理前後の面積収縮率を25%とし、第1のポリウレタンのエマルジョンのポリウレタン濃度15質量%を30質量%に変更し、第1のポリウレタンに対してカーボンブラックを5質量%配合したエマルジョンを第1のポリウレタンのエマルジョンとして用いた以外は、実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0092】
[比較例2]
島成分樹脂の島数を90島として平均繊度を0.05dtexとした以外は、実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0093】
[比較例3]
島成分樹脂の島数を90島として平均繊度を0.05dtexとし、島成分樹脂に含有させたカーボンブラックの含有割合を11質量%にした以外は、実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0094】
[比較例4]
島成分樹脂の島数を2島として平均繊度を1.1dtexとし、島成分樹脂に含有させたカーボンブラックの含有割合を2質量%とした以外は、実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0095】
[比較例5]
島成分樹脂に含有させたカーボンブラックの含有割合を0.4質量%とし、液流染色機を用いて分散染料15%owfを加えて温度120℃×60分間処理して分散染色処理、70℃×20分間でアルカリ洗浄処理、水洗、乾燥処理を行った以外は、実施例1と同様にして立毛調人工皮革を得た。そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0096】
表1を参照すれば、実施例1~7の立毛調人工皮革は何れも、剥離強力が3kg/cm以上で、明度L*値≦20の濃い濃色の発色性がよく、多繊交織布への湿潤時及び乾燥時における加熱加圧時の耐色移行性も乾燥、湿潤条件の何れにおいても4級以上、塩化ビニルフィルム色移行性もΔE*≦2.0であり、外観の優美性にも優れていた。一方、比較例1の立毛調人工皮革は第2の高分子弾性体を付与していないために剥離強力が低く、多繊交織布への耐色移行性にも劣り、高分子弾性体の含有割合が高いために外観も2色感が目立ち、また、ザラザラとした表面タッチであった。また、比較例2の立毛調人工皮革は平均繊度が低すぎたために濃い濃色に発色しなかった。また、比較例3の立毛調人工皮革は、繊維に含有されたカーボンブラックの割合が高すぎるために繊維強度が低下して剥離強力が低かった。また、比較例4の立毛調人工皮革は平均繊度が高いために濃色の発色性には優れていたが、表面がガサガサして低品位であった。また、分散染料で染色された比較例5の立毛調人工皮革は、耐光性及び耐色移行性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明で得られる立毛調人工皮革は、衣料、鞄、靴、家具、カーシート、雑貨製品等の表皮素材として好ましく用いられる。特に、熱をかけて加工処理する場合や、各種素材や各種色に接触させた場合でも色移行が起こりにくく、耐光性にも優れる。