IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-コレステリック液晶膜の製造方法 図1
  • 特許-コレステリック液晶膜の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】コレステリック液晶膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220729BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220729BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20220729BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220729BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
G02B5/30
B05D7/24 303A
B05D3/02 Z
B05D3/00 D
B05D5/06 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021509533
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013429
(87)【国際公開番号】W WO2020196658
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019064852
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國安 諭司
(72)【発明者】
【氏名】齋川 保
(72)【発明者】
【氏名】市橋 光芳
(72)【発明者】
【氏名】中山 元
(72)【発明者】
【氏名】遠山 浩史
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-197219(JP,A)
【文献】特開2007-108732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B05D 7/24
B05D 3/02
B05D 3/00
B05D 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、塗膜を形成する工程Aと、
形成された塗膜を搬送し、搬送される塗膜の膜面温度を搬送方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる工程Bと、
を有工程Aでの塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とすることで、工程Bでの塗膜の膜面温度を搬送方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる、コレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項2】
工程Aでは、塗布液の温度を40℃~80℃且つ基材表面の温度を10℃~30℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、請求項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項3】
工程Aでは、塗布液の温度を10℃~40℃且つ基材表面の温度を40℃~120℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、請求項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項4】
工程Aにおける塗布液の塗布量が1mL/m~100mL/mである、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項5】
工程Bにおける塗膜の搬送速度が0.1m/min~50m/minである、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項6】
工程B後に、塗膜を硬化させる工程Cを更に含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項7】
連続搬送される長尺の基材を用い、ロールトゥロール方式で行われる、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項8】
塗布部を移動させて又は塗布部と基材とを相互移動させて、基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、塗膜を形成する工程aと、
塗膜の膜面温度を塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる工程bと、
を有工程aでの塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とすることで、工程bでの塗膜の膜面温度を塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる、コレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項9】
工程aでは、塗布液の温度を40℃~80℃且つ基材表面の温度を10℃~30℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、請求項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項10】
工程aでは、塗布液の温度を10℃~40℃且つ基材表面の温度を40℃~120℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、請求項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項11】
工程aにおける塗布液の塗布量が1mL/m~100mL/mである、請求項~請求項10のいずれか1項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項12】
工程aにおける塗布部を移動速度が0.1m/min~50m/minである、請求項~請求項11のいずれか1項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【請求項13】
工程b後に、塗膜を硬化させる工程cを更に含む、請求項~請求項12のいずれか1項に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コレステリック液晶膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異方性が大きい液晶膜を用いた光学フィルムが知られている。
このような光学フィルムにおいて、液晶膜は、例えば、液晶化合物を含む塗布液を被塗布部材上に塗布及び乾燥し、必要に応じて、液晶化合物の配向処理、液晶化合物の重合等を行い製造される。
【0003】
特開2006-284862号公報には、素子平面の法線方向に対して異方的な光学特性を持つ異方性光学素子の製造方法において、コレステリック規則性を示す重合性の液晶であって、コレステリック相から高温側の等方相へ遷移する転移点である第1相転移温度と、コレステリック相から低温側の相へ遷移する転移点である第2相転移温度とを持つ液晶を、基材上に平面状に塗布して塗布膜を形成する工程と、基材上に形成された塗布膜を第1相転移温度以上の温度にする工程と、第1相転移温度以上の温度にされた塗布膜に対して所定の方向からガスを吹き付けた状態で塗布膜を第1相転移温度以下の温度に降温させることにより、塗布膜中の液晶を等方相からコレステリック相へ遷移させると共に、塗布膜中の液晶ドメインの螺旋軸方向の平均が膜平面の法線方向に対して傾いた状態となるように配向させる配向工程と、塗布膜中の液晶がコレステリック相を保持している状態で塗布膜中の液晶を重合させる重合工程とを含む、異方性光学素子の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特表2016-194693号公報には、重合性液晶化合物と、光重合開始剤と、界面活性剤と、溶剤とを含む重合性液晶組成物を支持基材上に塗布する塗布工程と、塗布工程で得られた塗膜を温度Tで加熱し、溶剤を蒸発させる加熱工程と、加熱工程で得られた塗膜を特定の条件で室温Tに冷却する冷却工程と、冷却工程で得られた塗膜を光の照射によって重合させる重合工程を含む、光学補償フィルムの製造方法が開示されている。
【0005】
更に、特表2001-133784号公報には、配向能を有する面を備えた基材の面間に、液晶ポリマー層を狭持した状態で、加熱により液晶ポリマーを配向させる、液晶ポリマーの配向方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、コレステリック液晶膜としては、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で、且つ、上面視した際に特定方向に向かって並ぶことで、空中結像装置等へと応用される光学フィルムへの適用が期待されている。
特に、上記のようならせん軸の並びの膜面内でのバラツキが少ないコレステリック液晶膜への要望が高まってきている。
【0007】
そこで、本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で且つ上面視にて特定方向に沿って並び、その並びの膜面内でのバラツキが少ないコレステリック液晶膜の製造方法を提供することにある。
以下、らせん軸の並びの膜面内でのバラツキが少ないことを「配向精度に優れる」ともいう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、塗膜を形成する工程Aと、
形成された塗膜を搬送し、搬送される塗膜の膜面温度を搬送方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる工程Bと、
を有する、コレステリック液晶膜の製造方法。
<2> 工程Aでの塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とすることで、工程Bでの塗膜の膜面温度を0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる、<1>に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<3> 工程Aでは、塗布液の温度を40℃~80℃且つ基材表面の温度を10℃~30℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、<2>に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<4> 工程Aでは、塗布液の温度を10℃~40℃且つ基材表面の温度を40℃~120℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、<2>に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<5> 工程Aにおける塗布液の塗布量が1mL/m~100mL/mである、<1>~<4>のいずれか1に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<6> 工程Bにおける塗膜の搬送速度が0.1m/min~50m/minである、<1>~<5>のいずれか1に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<7> 工程B後に、塗膜を硬化させる工程Cを更に含む、<1>~<6>のいずれか1に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<8> 連続搬送される長尺の基材を用い、ロールトゥロール方式で行われる、<1>~<7>のいずれか1に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【0009】
<9> 塗布部を移動させて又は塗布部と基材とを相互移動させて、基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、塗膜を形成する工程aと、
塗膜の膜面温度を塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる工程bと、
を有する、コレステリック液晶膜の製造方法。
<10> 工程aでの塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とすることで、工程bでの塗膜の膜面温度を塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる、<9>に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<11> 工程aでは、塗布液の温度を40℃~80℃且つ基材表面の温度を10℃~30℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、<10>に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<12> 工程aでは、塗布液の温度を10℃~40℃且つ基材表面の温度を40℃~120℃とし、塗布液と基材表面との温度差を30℃以上とする、<10>に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<13> 工程aにおける塗布液の塗布量が1mL/m~100mL/mである、<9>~<12>のいずれか1に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<14> 工程aにおける塗布部を移動速度が0.1m/min~50m/minである、<9>~<13>のいずれか1に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
<15> 工程b後に、塗膜を硬化させる工程cを更に含む、<9>~<14>のいずれか1に記載のコレステリック液晶膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で且つ上面視にて特定方向に沿って並び、その並びの膜面内でのバラツキが少ない(即ち、配向精度に優れる)コレステリック液晶膜の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の第1態様のコレステリック液晶膜の製造方法の一例を説明するための概略図である。
図2図2は、図1における工程A及び工程Bを説明するための要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示のコレステリック液晶膜の製造方法について詳細に説明する。
本開示において、「工程」の語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
なお、複数の図面に記載されている符号が同一である場合、同一の対象を指す。
【0014】
本発明者らは、塗膜の膜面温度に着目した新規の液晶配向方法を見出し、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で且つ塗膜の搬送方向に垂直な方向に沿って並び、且つ、その並びの膜面内でのバラツキが少ない(即ち、配向精度に優れる)コレステリック液晶膜を得るに至った。
具体的には、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、その後、形成された塗膜の膜面温度を特定の勾配をつけて変化させる方法である。
より具体的には、搬送される塗膜の膜面温度を、搬送方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させることで、この急速な温度勾配がきっかけとなり、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で且つ塗膜の搬送方向に垂直な方向に沿って並び、更に、その並びの膜面内でのバラツキが少ない(即ち、配向精度に優れる)コレステリック液晶膜が得られることを見出した。
また、塗膜を搬送させる態様とは別の態様として、塗布液の基材への供給部位である塗布部を基材上で移動させる方法を用いる態様もある。具体的には、塗布部を移動させて上記の塗布液を基材上に塗布し、形成された塗膜の膜面温度を塗布装置の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で高く又は低くする方法である。この方法でも、この急速な温度勾配がきっかけとなり、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で且つ塗布部の移動方向に垂直な方向に沿って並び、更に、その並びの膜面内でのバラツキが少ない(即ち、配向精度に優れる)コレステリック液晶膜が得られることを見出した。
なお、これらの新規の液晶配向方法では、上記の塗膜の膜面温度の温度変化によって棒状液晶化合物の配向がなされることから、通常、コレステリック液晶膜に隣接して設けられる配向膜(配向層ともいう)が不要になる、といった効果も奏する。
【0015】
ここで、本開示において、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行に並ぶことを「水平配向」ともいい、コレステリック液晶のらせん軸が、コレステリック液晶膜の膜面方向に対して水平(言い換えれば、コレステリック液晶膜の膜厚方向に垂直)に並ぶことを指す。但し、コレステリック液晶のらせん軸がコレステリック液晶膜の膜面方向に対して厳密に平行であることを要するものではなく、コレステリック液晶のらせん軸とコレステリック液晶膜の膜面方向とでなす傾斜角が45°未満である場合は、本開示における「水平配向」に包含されるものとする。コレステリック液晶のらせん軸とコレステリック液晶膜の膜面方向とでなす傾斜角としては、0°~40°が好ましい。
【0016】
また、コレステリック液晶のらせん軸が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に垂直な方向に沿って並ぶとは、コレステリック液晶膜を上面視したとき、コレステリック液晶のらせん軸が、コレステリック液晶膜の製造時の塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に垂直な方向に並ぶことを指す。例えば、長尺のコレステリック液晶膜を製造する際には、その長尺方向に塗膜は搬送されるため、コレステリック液晶のらせん軸が、上面視にてコレステリック液晶膜の長尺方向に対して垂直な方向(言い換えれば、コレステリック液晶膜の短尺方向に平行)に並ぶことを指す。また、例えば、枚葉状のコレステリック液晶膜を製造する際には、塗布装置における塗布部を基材上で移動させて塗布を行ってもよい。この場合、コレステリック液晶のらせん軸は、上面視にてコレステリック液晶膜を製造する際の塗布部の移動方向(言い換えれば、塗布液の塗布方向)に対して垂直な方向に並ぶことを指す。但し、コレステリック液晶のらせん軸が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に厳密に垂直であることを要するものではなく、コレステリック液晶膜を上面視したとき、コレステリック液晶のらせん軸と塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向とでなす傾斜角が90°±45°未満である場合は、本開示における「塗膜の搬送方向に垂直」に包含されるものとする。コレステリック液晶のらせん軸と塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向とでなす傾斜角としては、60°~120°が好ましい。
【0017】
コレステリック液晶膜におけるコレステリック液晶のらせん軸の並びに関する確認には、以下の方法を用いる。
まず、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で且つ塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に垂直に沿って並んでいることは、偏光顕微鏡によるクロスニコル偏光透過写真及び断面SEM写真を用いて確認することができる。
コレステリック液晶は、棒状液晶化合物の分子群で構成された層が積み重なった積層構造を有する。1つ1つの層内ではそれぞれの棒状液晶化合物の分子が一定方向に配列しており、各層の分子の配列方向は、積層方向に進むにつれらせん状に旋回するようにずれている。
そのため、クロスニコル偏光透過写真では、棒状液晶化合物の分子の配列方向が撮影方向に垂直又はそれに近い状態で並ぶ層に該当する領域は淡く、また、その層以外の領域は濃く現れる。
従って、コレステリック液晶膜の上面のクロスニコル偏光透過写真にて、上記濃淡による規則的な縞模様が確認され、規則的な縞模様が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に平行に並ぶことで、コレステリック液晶のらせん軸が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に垂直に沿って並んでいることが確認できる。
なお、規則的な縞模様のうち、写真中央部で淡い部分からなる線1本(途切れのないもの)を選び、この線とせん断方向とのなす角が45°未満であれば、コレステリック液晶のらせん軸とせん断方向とでなす角が90°±45°未満であることとなる。
また、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行に沿って並んでいることは、コレステリック液晶膜の厚み方向の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による倍率5000倍の写真(断面SEM写真ともいう)によって確認できる。ここで、コレステリック液晶膜の厚み方向の断面は、塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向と直交する方向に沿って切断した断面とする。
なお、断面SEM写真において、途切れのないコレステリック液晶を1つ選び、このコレステリック液晶のらせん軸とコレステリック液晶膜の膜面方向とでなす角が45°未満であれば、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行な方向に沿って並んでいるといえる。
【0018】
コレステリック液晶膜における配向精度に優れることの確認は、以下の方法を用いる。
確認対象から2cm四方の試験片を切り出す。試験片を黒い背景の上に載せ、白灯下で等倍の写真を撮影し、得られた写真を画像処理用ソフト(例えばJtrim等)にて二値化処理する。そして、二値化処理された画像から白のピクセル数を求め、これを「白い領域」の面積とする。
コレステリック液晶のらせん軸の並びに微細なバラツキがあるとその領域にて散乱が生じ、上記の「白い領域」として現れる。
写真中の試験片の全面積(即ち二値化処理された画像の白及び黒のピクセル総数)に占める白い領域の割合(即ち白い領域の面積率)が少ないほど、コレステリック液晶のらせん軸の並びの膜面内でのバラツキが少ないことを示しており、配向精度に優れると判断することができる。
例えば、写真中の試験片の全面積に占める白い領域の割合が10%以下であることが1つの指標となる。
【0019】
以上の知見に基づく、本開示のコレステリック液晶膜の製造方法は、以下の通りである。
即ち、本開示の第1態様のコレステリック液晶膜の製造方法は、基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、塗膜を形成する工程Aと、形成された塗膜を搬送し、搬送される塗膜の膜面温度を搬送方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる工程Bと、を有する。
これらの工程A及び工程Bを有することで、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で(即ち、水平配向し)且つ塗膜の搬送方向に垂直な方向に沿って並び、更に、その並びの膜面内でのバラツキが少ないコレステリック液晶膜が得られる。
また、本開示の第2態様のコレステリック液晶膜の製造方法は、塗布部を移動させて又は塗布部と基材とを相互移動させて、基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、塗膜を形成する工程aと、塗膜の膜面温度を塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる工程bと、を有する。
これらの工程a及び工程bを有することで、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で(即ち、水平配向し)且つ塗布部の移動方向に垂直な方向に沿って並び、更に、その並びの膜面内でのバラツキが少ないコレステリック液晶膜が得られる。
以下、第1態様のコレステリック液晶膜の製造方法を「コレステリック液晶膜の製造方法(1)」とし、第2態様のコレステリック液晶膜の製造方法を「コレステリック液晶膜の製造方法(2)」とし、それぞれ説明する。
【0020】
既述の特開2006-284862号公報、特表2016-194693号公報及び特表2001-133784号公報においては、塗膜の膜面温度を特定の勾配をつけて変化させる方法は記載されておらず、また、その温度勾配がきっかけとなり、棒状液晶化合物が配向することについても全く検討されていない。
【0021】
<コレステリック液晶膜の製造方法(1)>
以下、図面を参照して、本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(1)の各工程について詳細に説明する。
図1は、本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(1)の一例を説明するための概略図である。図1は、工程A及び工程Bが、連続搬送される長尺の基材を用いロールトゥロール(Roll to Roll)方式で行われる態様を示している。また、図2は、図1における工程A及び工程Bを説明するための要部拡大図である。
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(1)は、ロールトゥロール方式での連続プロセスに限定されるものではなく、枚葉の基材に対して各工程を順次行ってもよい。
【0022】
[工程A]
工程Aでは、基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液(以降、液晶層形成用塗布液ともいう)を塗布し、塗膜を形成する。
なお、工程Aにおける液晶層形成用塗布液の塗布は、基材を張架した状態にて塗布が行え、塗布精度が高まる観点から、バックアップロール上に巻き掛けられた基材に対し行われることが好ましい。
【0023】
工程Aの一例について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、ロール状の巻回された長尺の基材Fは、その先端が送り出され、搬送ロール50を介して搬送されると、まず、塗布手段10により、液晶層形成用塗布液の塗布が行われる。
図1及び図2に示すように、塗布手段10による液晶層形成用塗布液の塗布は、基材Fがバックアップロール12上に巻き掛けられた領域で行うことが好ましい。
【0024】
(基材)
基材としては、特に制限はなく、コレステリック液晶膜と共に光学フィルムの一部として機能する部材であってもよいし、塗布液を塗布する対象である被塗布物であって、コレステリック液晶膜から剥離される部材であってもよい。
特に、ロールトゥロール方式への適用性、及び、バックアップロールへの巻き掛け易さを考慮すると、基材にはポリマーフィルムが好ましく用いられる。
【0025】
光学フィルム用途であれば、基材の全光透過率は、80%以上であることが好ましい。
光学フィルム用途であれば、基材としてポリマーフィルムを用いる場合には、光学的等方性のポリマーフィルムを用いるのが好ましい。
基材としては、例えば、ポリエステル系基材(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルム若しくはシート)、セルロース系基材(ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)等のフィルム若しくはシート)、ポリカーボネート系基材、ポリ(メタ)アクリル系基材(ポリメチルメタクリレート等のフィルム若しくはシート)、ポリスチレン系基材(ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン共重合体等のフィルム若しくはシート)、オレフィン系基材(ポリエチレン、ポリプロピレン、環状若しくはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレンプロピレン共重合体等のフィルム若しくはシート)、ポリアミド系基材(ポリ塩化ビニル、ナイロン、芳香族ポリアミド等のフィルム若しくはシート)、ポリイミド系基材、ポリスルホン系基材、ポリエーテルスルホン系基材、ポリエーテルエーテルケトン系基材、ポリフェニレンスルフィド系基材、ビニルアルコール系基材、ポリ塩化ビニリデン系基材、ポリビニルブチラール系基材、ポリ(メタ)アクリレート系基材、ポリオキシメチレン系基材、エポキシ樹脂系基材等の透明基材、又は上記のポリマー材料をブレンドしたブレンドポリマーからなる基材等が挙げられる。
【0026】
基材の厚みとしては、製造適性、製造コスト、光学フィルム用途等を考慮すると、例えば、30μm~150μmが好ましく、40μm~100μmがより好ましい。
【0027】
基材としては、上記のポリマーフィルム上に予め層が形成されたものであってもよい。
予め形成される層としては、ラビング配向層、光配向層等の液晶化合物に対する配向規制力を備える配向層、密着層などが挙げられる。
【0028】
(液晶層形成用塗布液)
工程Aに用いられる液晶層形成用塗布液は、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む。また、液晶層形成用塗布液は、必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。
【0029】
-溶媒-
溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。
有機溶媒として具体的には、アミド溶媒(例えば、N、N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素溶媒(例えば、ベンゼン、ヘキサン等)、ハロゲン化アルキル溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル等)、ケトン溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、1、2-ジメトキシエタン等)が挙げられる。中でも、有機溶媒としては、ハロゲン化アルキル溶媒及びケトン溶媒が好ましい。
有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0030】
-棒状液晶化合物-
棒状液晶化合物とは、棒状の分子構造を有する液晶化合物を指す。
特に、棒状液晶化合物は、重合性基を有する化合物であることが好ましい。棒状液晶化合物が有する重合性基としては、不飽和重合性基、環状エーテル基、又は開環反応を起こすことが可能な含窒素複素環基が好ましいものとして挙げられ、不飽和重合性基であることがより好ましい。
【0031】
不飽和重合性基は、エチレン性不飽和二重結合を有する基であることがより好ましく、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、ビニルフェニル基、アリル基等が挙げられる。
環状エーテル基としては、例えば、エポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。
開環反応を起こすことが可能な含窒素複素環基としては、例えば、アジリジニル基が挙げられる。
中でも、重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、及びメタクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基であることが更に好ましく、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基であることが特に好ましい。
【0032】
棒状液晶化合物として具体的には、Makromol. Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同第5622648号明細書、同第5770107明細書、国際公開第95/22586号、同第95/24455号、同第97/00600号、同第98/23580号、同第98/52905号、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、及び特開2001-328973号公報などに記載の化合物が挙げられる。
更に、棒状液晶化合物としては、例えば、特表平11-513019号公報、特開2007-279688号公報等に記載のものも好ましく用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
棒状液晶化合物としては、順波長分散特性を有する液晶化合物として、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0034】
【化1】

【0035】
一般式(1)中、Q及びQは、それぞれ独立に、重合性基であり、L、L、L、及びLは、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表し、A及びAは、それぞれ独立に、炭素原子数2~20の2価の炭化水素基を表し、Mはメソゲン基を表す。
【0036】
及びQで表される重合性基としては、上述する棒状液晶化合物が有する重合性基が挙げられ、好ましい例も同様である。
、L、L、及びLで表される連結基としては、-O-、-S-、-CO-、-NR-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR-、-NR-CO-、-O-CO-、-O-CO-NR-、-NR-CO-O-、及びNR-CO-NR-からなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。ここで、Rは炭素原子数が1~7のアルキル基又は水素原子である。
また、L及びLの少なくとも一方は、-O-CO-O-であることが好ましい。
一般式(1)中、Q-L-及びQ-L-は、CH=CH-CO-O-、CH=C(CH)-CO-O-、及びCH=C(Cl)-CO-O-が好ましく、CH=CH-CO-O-がより好ましい。
【0037】
及びAで表される炭素原子数2~20の2価の炭化水素基としては、炭素原子数2~12のアルキレン基、炭素原子数2~12のアルケニレン基、又は炭素原子数2~12のアルキニレン基が好ましく、特に、炭素原子数2~12のアルキレン基が好ましい。2価の炭化水素基は、鎖状であることが好ましく、隣接していない酸素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい。また、2価の炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素)、シアノ基、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0038】
Mで表されるメソゲン基は、液晶形成に寄与する液晶分子の主要骨格を示す基である。
Mで表されるメソゲン基については、特に制限はなく、例えば、「FlussigeKristalle in Tabellen II」(VEB DeutscheVerlag fur Grundstoff Industrie,Leipzig、1984年刊)、特に第7頁~第16頁の記載、及び、液晶便覧編集委員会編、液晶便覧(丸善、2000年刊)、特に第3章の記載を参照することができる。
より具体的には、Mで表されるメソゲン基は、特開2007-279688号公報の段落0086に記載の構造が挙げられる。
メソゲン基としては、例えば、芳香族炭化水素基、複素環基、及び脂環式基からなる群より選択される少なくとも1種の環状構造を含む基が好ましい。中でも、メソゲン基は、芳香族炭化水素基を含む基であることが好ましく、2個~5個の芳香族炭化水素基を含む基であることがより好ましく、3個~5個の芳香族炭化水素基を含む基であることが更に好ましい。
更に好ましくは、メソゲン基としては、3個~5個のフェニレン基を含み、フェニレン基を-CO-O-にて連結した基であることが好ましい。
メソゲン基に含まれる環状構造は、更に、メチル基等の炭素数1~10のアルキル基等を置換基として有してもよい。
【0039】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。なお、「Me」はメチルを表す。
【0040】
【化2】

【0041】
また、棒状液晶化合物としては、逆波長分散性の棒状液晶化合物を用いてもよい。
逆波長分散性の棒状液晶化合物としては、特開2016-81035号公報の一般式1で表される液晶化合物、及び、特開2007-279688号公報の一般式(I)又は(II)で表される化合物が挙げられる。より具体的には、逆波長分散性の棒状液晶化合物として、以下に示す化合物が挙げられるが、本開示ではこれらに限定されるものではない。
【0042】
【化3】

【0043】
棒状液晶化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
液晶層形成用塗布液における棒状液晶化合物の含有量は、全固形分の質量に対して、70質量%以上100質量%未満が好ましく、90質量%~99質量%がより好ましい。
なお、固形分とは、溶媒を除いた成分を指す。
【0044】
-キラル剤-
キラル剤は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第一42委員会編、1989に記載)から選択することができる。
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物又は面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。
軸性不斉化合物又は面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、及びこれらの誘導体が含まれる。
【0045】
キラル剤は、重合性基を有していてもよい。
キラル剤が重合性基を有すると共に、併用する棒状液晶化合物も重合性基を有する場合は、重合性基を有するキラル剤と重合性基を有する棒状液晶化合物との重合反応により、棒状液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーが得られる。
重合性基を有するキラル剤が有する重合性基は、棒状液晶化合物が有する重合性基と同種の基であることが好ましい。キラル剤が有する重合性基は、不飽和重合性基、エポキシ基、又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
【0046】
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2010-181852号公報、特開2003-287623号公報、特開2002-80851号公報、特開2002-80478号公報、特開2002-302487号公報等に記載のキラル剤が挙げられ、これらは、本開示における液晶層形成用塗布液にも好ましく用いることができる。
更に、上記の各公開公報に記載されているイソソルビド化合物類については、対応する構造のイソマンニド化合物類をキラル剤として用いることもできる。また、同公報に記載されているイソマンニド化合物類については、対応する構造のイソソルビド化合物類をキラル剤として用いることもできる。
【0047】
液晶層形成用塗布液におけるキラル剤の含有量は、全固形分の質量に対して、0.5質量%~10.0質量%が好ましく、1.0質量%~3.0質量%がより好ましい。
【0048】
-その他の成分-
液晶層形成用塗布液は、必要に応じて、配向制御剤、重合開始剤、レベリング剤、配向助剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0049】
・配向制御剤
配向制御剤としては、空気界面において棒状液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平にすることができるものが好ましい。
このような配向制御剤としては、例えば、特開2012-211306号公報の段落番号[0012]~[0030]に記載の化合物、特開2012-101999号公報の段落番号[0037]~[0044]に記載の化合物、特開2007-272185号公報の段落番号[0018]~[0043]に記載の含フッ素(メタ)アクリレートポリマー、特開2005-099258号公報に合成方法と共に詳細に記載された化合物等が挙げられる。
なお、特開2004-331812号公報に記載の、フルオロ脂肪族基含有モノマーの重合単位を全重合単位の50質量%超で含むポリマーも配向制御剤として用いてもよい。
【0050】
他の配向制御剤の例として、垂直配向剤が挙げられる。垂直配向剤を配合することにより、液晶化合物の垂直配向性を制御することができる。垂直配向剤の例としては、特開2015-38598号公報に記載のボロン酸化合物及び/又はオニウム塩、特開2008-26730号公報のオニウム塩等を好ましく用いることができる。
【0051】
液晶層形成用塗布液における配向制御剤の含有量は、全固形分の質量に対して、0質量%~5.0質量%が好ましく、0.15質量%~2.0質量%がより好ましい。
【0052】
・重合開始剤
重合開始剤としては、光重合開始剤及び熱重合開始剤のいずれもが用いられるが、熱による基材の変形、液晶層形成用組成物の変質等を抑制する観点から、光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤の例としては、α-カルボニル化合物(例えば、米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載の化合物)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載の化合物)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(例えば、米国特許第2722512号明細書記載の化合物)、多核キノン化合物(例えば、米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載の化合物)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(例えば、米国特許第3549367号明細書記載の化合物)、アクリジン及びフェナジン化合物(例えば、特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載の化合物)、オキサジアゾール化合物(例えば、米国特許第4212970号明細書記載の化合物)、アシルフォスフィンオキシド化合物(例えば、特公昭63-40799号公報、特公平5-29234号公報、特開平10-95788号公報、特開平10-29997号公報記載の化合物)等が挙げられる。
【0053】
液晶層形成用塗布液における重合開始剤の含有量は、全固形分の質量に対して、0.5質量%~5.0質量%が好ましく、1.0質量%~4.0質量%がより好ましい。
【0054】
液晶層形成用塗布液の固形分の含有量としては、液晶層形成用塗布液の全質量に対して、例えば、25質量%~40質量%の範囲が好ましく、25質量%~35質量%の範囲がより好ましい。
【0055】
(塗布)
液晶層形成用塗布液を塗布する塗布手段(図1では塗布手段10に該当)としては、公知の塗布手段が適用される。
塗布手段として具体的には、エクストルージョンダイコータ法、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ワイヤーバー法等を利用した手段が挙げられる。
【0056】
(バックアップロール)
工程Aにおいて好ましく用いられるバックアップロール(図1ではバックアップロール12に該当)は、基材を巻き掛けて連続搬送することができる部材であって、基材の搬送速度と同速度で回転駆動する。
工程Aに用いるバックアップロールは、特に制限無く、公知のものを用いることができる。
バックアップロールとしては、例えば、表面が、ハードクロムメッキされたものを好ましく用いることができる。
メッキの厚みは、導電性と強度とを確保する観点から40μm~60μmが好ましい。
また、バックアップロールの表面粗さは、基材とバックアップロールとの摩擦力のバラツキを低減させる点から、表面粗さRaにて0.1μm以下が好ましい。
【0057】
工程Aに用いるバックアップロールは、基材表面の温度を調整する観点から、調温されていることが好ましい。
バックアップロールの表面温度は、目的とする基材表面の温度に応じて決定されればよく、例えば、10℃~120℃が好ましく、10℃~30℃又は40℃~120℃がより好ましく、20℃~30℃が更に好ましい。
【0058】
工程Aに用いるバックアップロールは、表面温度を検知し、その温度に基づいて温度制御手段によってバックアップロールの表面温度が維持されることが好ましい。
バックアップロールの温度制御手段には、加熱手段及び冷却手段がある。加熱手段としては、誘導加熱、水加熱、油加熱等が用いられ、冷却手段としては、冷却水による冷却が用いられる。
【0059】
工程Aに用いるバックアップロールの直径としては、基材が巻き掛け易い観点、塗布手段による塗布が容易な観点、及び、バックアップロールの製造コストの観点から、100mm~1000mmが好ましく、100mm~800mmがより好ましく、200mm~700mmが更に好ましい。
【0060】
工程Aにおけるバックアップロールでの基材の搬送速度は、生産性の確保の観点、及び、塗布性の観点から、10m/min以上100m/min以下であることが好ましい。
【0061】
バックアップロールに対する基材のラップ角は、塗布時の基材搬送を安定化し、塗膜の厚みムラの発生を抑制する観点、及び基材表面の温度を調温し、塗膜の膜面温度も調温する観点から、60°以上が好ましく、90°以上がより好ましい。また、ラップ角の上限は、例えば、180°に設定することができる。
なお、ラップ角とは、基材がバックアップロールに接触する際の基材の搬送方向と、バックアップロールから基材が離間する際の基材の搬送方向と、からなる角度をいう。
【0062】
(塗布条件)
工程Aにおける塗布条件としては、次工程である工程Bにて、形成された塗膜の膜面温度を、塗膜の搬送方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させるために、以下の条件Iを採用することが好ましい。
即ち、条件Iは、工程Aでの液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差を20℃以上とする条件である。なお、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差は、液晶層形成用塗布液と基材表面との差の絶対値を指す。
この条件Iを満たすことで、両者の温度差から、塗布されて形成された塗膜の膜面温度を、塗膜の搬送方向に向かって(例えば、図2では、矢印で示す基材Fの搬送方向に向かって)0.1℃/mm以上で昇温又は降温させることが容易になる。
液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差は、30℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましい。また、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差の上限値は、例えば、100℃である。
【0063】
ここで、液晶層形成用塗布液の温度とは、塗布される直前の液晶層形成用塗布液の温度を指し、装置手段における塗布部(例えば、吐出部)に存在する液晶層形成用塗布液の温度となる。例えば、塗布手段がダイコーターの場合は、ダイの吐出部における液晶層形成用塗布液の温度である。
液晶層形成用塗布液の温度の測定は、液温測定が可能な温度計等を用いて常法により行える。
また、基材表面の温度は、液晶層形成用塗布液が塗布される直前の基材表面の温度を指す。基材がバックアップロール上に巻き掛けられている場合、バックアップロール上に接している領域での基材表面の温度となる。基材表面の温度は、接触式温度計(例えば熱電対)を用いて測定される値である。
【0064】
特に、上記の条件Iを満たす上で、以下の態様I-1又は態様I-2とすることが好ましい。
即ち、工程Aでは、液晶層形成用塗布液の温度を35℃~80℃(好ましくは40℃~80℃、より好ましくは50℃~70℃)且つ基材表面の温度を5℃~30℃(好ましくは10℃~30℃、より好ましくは20℃~30℃)とし、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差を20℃以上(好ましくは30℃以上)とする態様I-1が好ましい。
この態様I-1とすることで、両者の温度差から、塗布されて形成された塗膜の膜面温度を、塗膜の搬送方向に向かって(例えば、図2では、矢印で示す基材Fの搬送方向に向かって)0.1℃/mm以上の温度勾配で降温させることが容易になる。
【0065】
また、工程Aでは、液晶層形成用塗布液の温度を10℃~40℃(好ましくは20℃~30℃)且つ基材表面の温度を40℃~120℃(好ましくは40℃~80℃)とし、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差を20℃以上(好ましくは30℃以上)とする態様I-2も好ましい。
この態様I-2とすることで、両者の温度差から、塗布されて形成された塗膜の膜面温度を、塗膜の搬送方向に向かって(例えば、図2では、矢印で示す基材Fの搬送方向に向かって)0.1℃/mm以上の温度勾配で昇温させることが容易になる。
【0066】
配向精度の高いコレステリック液晶膜を製造する観点からは、上記の態様I-1及び態様I-2のうち、前者の態様I-1が好ましい。
【0067】
工程Aにおける塗布条件としては、配向精度の高いコレステリック液晶膜を製造する観点からは、液晶層形成用塗布液の塗布量が以下の条件IIを満たすことが好ましい。
即ち、条件IIは、工程Aにおける液晶層形成用塗布液の塗布量が1mL/m~100mL/mである条件である。
工程Aにおける液晶層形成用塗布液の塗布量は、10mL/m~50mL/mがより好ましい。
【0068】
[工程B]
工程Bでは、工程Aで形成された塗膜を搬送し、搬送される塗膜の膜面温度を、搬送方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる。
つまり、工程Bでは、塗膜の膜面温度を、塗膜の搬送方向に向かって、上記の単位距離当たりの温度勾配にて昇温する又は降温する。
なお、塗膜の膜面温度を昇温又は降温させることは、塗膜中の溶媒が除去され、塗膜中での棒状液晶化合物の含有率が上昇する過程にて行われる。特に、塗膜の膜面温度を昇温又は降温させることは、塗膜中の棒状液晶化合物の含有率の上昇しやすい状況である観点、また、例えば、塗布液と基材表面との温度差を制御しやすい観点から、工程Aにて液晶層形成用塗布液が基材上に塗布された直後から行うことが好ましい。
【0069】
また、工程Bにおいて、膜面温度を0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる塗膜は、その固形分濃度が、30質量%~90質量%であることが好ましく、40質量%~80質量%であることがより好ましい。
塗膜中の固形分濃度が上記範囲であるとき、膜面温度を昇温又は降温させることで、配向精度の高いコレステリック液晶膜を製造しやすくなる。
【0070】
工程Bにて、塗膜の膜面温度を変化させるために用いる手段は特に制限はなく、既述の条件Iに示すように、工程Aにおける塗布条件の調整であってもよいし、塗膜を加熱又は冷却することであってもよいし、これらを組み合わせてもよい。
なお、塗膜の膜面温度を変化させるために、既述の条件Iに示すように、工程Aにおける塗布条件を調整する場合には、工程Bでは単に塗膜(即ち、塗膜を備えた基材)を搬送すればよい。
なお、工程Bにおける塗膜の搬送速度は、0.1m/min~50m/minであることが好ましく、1m/min~30m/minであることがより好ましい。
【0071】
工程Bの一例について、図1及び図2を参照して説明する。
工程Bでは、塗布手段10により液晶層形成用塗布液の塗布が行われた後、例えば、領域20において塗膜Lの膜面温度を変化させる。
領域20においては、塗布位置Pから搬送方向に向かって一定距離(例えば、10mm~3000mmの間、好ましくは200mm)離間した位置Pまでに、塗膜Lの膜面温度を、0.1℃/mm以上で昇温又は降温させることが好ましい。
ここで、図2に示される塗布位置Pは、基材F上で、基材Fと液晶層形成用塗布液Sとが接触した位置を指す。
ここで、塗布位置Pにおける「塗膜Lの膜面温度」は、既述の液晶層形成用塗布液Sの温度とする。また、位置Pにおける「塗膜Lの膜面温度」は、接触式温度計(例えば熱電対)を用いて測定される値である。
【0072】
(塗膜の加熱又は冷却)
塗膜の膜面温度を変化させるために、工程Bでは、塗膜の加熱又は冷却を行ってもよい。
塗膜を加熱する手段としては、間接的に又は直接的に熱をかけて塗膜を乾燥する乾燥手段と同様の手段が用いられる。具体的には、オーブン、温風機、赤外線(IR)ヒーター、加熱ロール等を用いる方法を用いた手段が挙げられる。
また、塗膜を冷却する手段としては、冷却ロール、吸気等の溶媒の揮発時の気化熱による冷却作用を用いた手段が挙げられる。
【0073】
(乾燥)
以上のようにして、塗膜の膜面温度を変化させた後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。
塗膜の乾燥に用いられる乾燥手段(図1では乾燥手段30に該当)としては、公知の乾燥手段が適用される。
乾燥手段として、具体的には、オーブン、温風機、赤外線(IR)ヒーター等を用いる方法を用いた手段が挙げられる。
温風機による乾燥においては、基材の塗膜形成面とは反対側の面から温風を当てる構成でもよく、塗膜表面が温風にて流動しないよう、拡散板を設置した構成としてもよい。
また、乾燥を吸気によって行ってもよい。吸気による乾燥は、排気機構を有する減圧室等を用い、塗膜上の気体を吸気することで、塗膜中の溶媒を除去する方法である。
【0074】
[工程C]
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(1)では、塗膜中に重合性化合物(具体的には、重合性基を有する棒状液晶化合物、重合性基を有するキラル剤等)を含む場合、工程B後に、塗膜を硬化させる工程Cを含むことが好ましい。
工程Cでは、工程Bを経た後の塗膜に対して、例えば、熱をかけて、又は、活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させることが好ましい。
製造適性等を考慮すると、工程Cとしては、図1に示すような、活性エネルギー線の照射手段40から照射された活性エネルギー線による硬化を用いることが好ましい。
より具体的には、工程Cは、搬送ロール52及び54を介して搬送された基材F上の塗膜に、活性エネルギー線の照射手段40により活性エネルギー線を照射する。
【0075】
活性エネルギー線の照射手段としては、照射する塗膜中に活性種を発生させうるエネルギーを付与する手段であれば、特に制限はない。
活性エネルギー線として、具体的には、例えば、α線、γ線、X線、紫外線、赤外線、可視光線、電子線等が挙げられる。これらのうち、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から、活性エネルギー線としては、紫外線が好ましく用いられる。
【0076】
紫外線の光源としては、例えば、タングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、水銀ランプ、水銀キセノンランプ、カーボンアークランプ等のランプ、各種のレーザー(例、半導体レーザー、ヘリウムネオンレーザー、アルゴンイオンレーザー、ヘリウムカドミウムレーザー、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザー)、発光ダイオード、陰極線管等を挙げることができる。
紫外線の光源から発せられる紫外線のピーク波長は、200nm~400nmが好ましい。
また、紫外線の露光エネルギー量としては、例えば、100mJ/cm~500mJ/cmが好ましい。
【0077】
以上のコレステリック液晶膜の製造方法(1)により、基材上にコレステリック液晶膜が製造される。
コレステリック液晶膜の製造方法(1)により得られた基材とコレステリック液晶膜との積層体は、そのままで光学フィルムとして用いてもよい。
【0078】
<コレステリック液晶膜の製造方法(2)>
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(2)の各工程について詳細に説明する。
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(2)は、塗布部を移動させる態様であることから、枚葉状の基材を用い、この基材上にコレステリック液晶膜を製造する方法に適用されることが好ましい。
【0079】
[工程a]
工程aでは、塗布部を移動させて又は塗布部と基材とを相互移動させて、基材上に、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液を塗布し、塗膜を形成する。
工程aに用いられる塗布部は、液晶層形成用塗布液の基材への供給部位であり、塗布部の移動は、塗布部を有する塗布装置自体が移動してもよいし、塗布装置内の塗布部のみが移動してもよい。
塗布部又は塗布部を有する塗布装置の例としては、例えば、下向きアプリケータノズルを、ガラス板等の支持部材上に配した直線ガイドレールに沿って移動するように構成した塗布装置、塗布ブレードを、ガラス板等の支持部材上に配した直線ガイドレールに沿って移動するように構成した塗布装置等が挙げられる。
工程aでは、基材上のある塗布方向に沿って塗布部と基材とを相互移動させてもよい。つまり、工程aでは、塗布部と基材との両方を移動させて、基材上に塗布液を塗布してもよい。
【0080】
工程aにて、塗布部により基材上へ塗布される、溶媒、棒状液晶化合物、及びキラル剤を含む塗布液は、コレステリック液晶膜の製造方法(1)における液晶層形成用塗布液と同様であり、好ましい態様も同様である。以下、工程aにて用いられる塗布液も、液晶層形成用塗布液という。
また、工程aにて用いられる基材も、コレステリック液晶膜の製造方法(1)における基材と同様のものが用いられ、好ましい態様も同様である。
【0081】
(塗布条件)
工程aにおける塗布条件としても、次工程である工程bにて、形成された塗膜の膜面温度を、塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させるために、以下の条件iを採用することが好ましい。
即ち、条件iは、工程Aでの液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差を20℃以上とする条件である。なお、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差は、液晶層形成用塗布液と基材表面との差の絶対値を指す。
この条件iを満たすことで、両者の温度差から、塗布部が移動して形成された塗膜の膜面温度を、塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させることが容易になる。
液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差は、30℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましい。また、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差の上限値は、例えば、100℃である。
【0082】
特に、上記の条件iを満たす上で、以下の態様i-1又は態様i-2とすることが好ましい。
即ち、工程aでは、液晶層形成用塗布液の温度を35℃~80℃(好ましくは40℃~80℃、より好ましくは50℃~70℃)且つ基材表面の温度を5℃~30℃(好ましくは10℃~30℃、より好ましくは20℃~30℃)とし、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差を20℃以上(好ましくは30℃以上)とする態様i-1が好ましい。
この態様i-1とすることで、両者の温度差から、塗布部に近いほど塗膜温度が高くなり、塗布部が移動して形成された塗膜の膜面温度を、塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上の温度勾配で昇温させることが容易になる。
【0083】
また、工程aでは、液晶層形成用塗布液の温度を10℃~40℃(好ましくは20℃~30℃)且つ基材表面の温度を40℃~120℃(好ましくは40℃~80℃)とし、液晶層形成用塗布液と基材表面との温度差を20℃以上(好ましくは30℃以上)とする態様i-2も好ましい。
この態様i-2とすることで、両者の温度差から、塗布部に近いほど塗膜温度が低くなり、塗布部が移動して形成された塗膜の膜面温度を、塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上の温度勾配で降温させることが容易になる。
【0084】
配向精度の高いコレステリック液晶膜を製造する観点からは、上記の態様i-1及び態様i-2のうち、前者の態様i-1が好ましい。
【0085】
工程aにおける塗布条件としては、配向精度の高いコレステリック液晶膜を製造する観点からは、液晶層形成用塗布液の塗布量が以下の条件iiを満たすことが好ましい。
即ち、条件iiは、工程aにおける液晶層形成用塗布液の塗布量が1mL/m~100mL/mである条件である。
工程aにおける液晶層形成用塗布液の塗布量は、10mL/m~50mL/mがより好ましい。
【0086】
[工程b]
工程bでは、塗膜の膜面温度を塗布部の移動方向に向かって0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる。
つまり、工程bでは、塗膜の膜面温度を、塗布部の移動方向に向かって、上記の単位距離当たりの温度勾配にて昇温する又は降温する。
なお、塗膜の膜面温度を昇温又は降温させることは、塗膜中の溶媒が除去され、塗膜中での棒状液晶化合物の含有率が上昇する過程にて行われる。特に、塗膜の膜面温度を昇温又は降温させることは、塗膜中の棒状液晶化合物の含有率の上昇しやすい状況である観点、また、例えば、塗布液と基材表面との温度差を制御しやすい観点から、工程aにて液晶層形成用塗布液が基材上に塗布された直後から行うことが好ましい。
【0087】
また、工程bにおいて、膜面温度を0.1℃/mm以上で昇温又は降温させる塗膜は、その固形分濃度が、30質量%~90質量%であることが好ましく、40質量%~80質量%であることがより好ましい。
塗膜中の固形分濃度が上記範囲であるとき、膜面温度を昇温又は降温させることで、配向精度の高いコレステリック液晶膜を製造しやすくなる。
【0088】
工程bにて、塗膜の膜面温度を変化させるために用いる手段は特に制限はなく、既述の条件iに示すように、工程bにおける塗布条件の調整であってもよいし、塗膜を加熱又は冷却することであってもよいし、これらを組み合わせてもよい。
なお、既述の条件iに示すように、工程aにおける塗布条件を調整する場合には、工程bの一部又は全部が、工程aにおいて塗布部の移動により液晶層形成用塗布液が塗布されることにて行われればよい。つまり、工程a中にて工程bの一部又は全部が行われてもよい。
この場合、工程aにおける塗布部の移動速度は、0.1m/min~50m/minであることが好ましく、1m/min~30m/minであることがより好ましい。
【0089】
工程bでは、基材上の塗膜開始位置Pと、塗膜開始位置Pから塗布部が液晶層形成用塗布液を塗布しつつ一定距離(例えば、10mm~3000mmの間、好ましくは200mm)離間した位置Pとの間で、塗膜の膜面温度を0.1℃/mm以上で昇温又は降温させることが好ましい。
塗布開始位置Pにおける「塗膜の膜面温度」は、接触式温度計(例えば熱電対)を用いて測定される値である。また、位置Pにおける「塗膜の膜面温度」は、塗布部から塗布される液晶層形成用塗布液の温度とする。
【0090】
(塗膜の加熱又は冷却)
塗膜の膜面温度を変化させるために、工程bでは、塗膜の加熱又は冷却を行ってもよい。
塗膜を加熱する手段としては、コレステリック液晶膜の製造方法(1)の工程Bにおける塗膜を加熱する手段と同様であり、また、塗膜を冷却する手段も、コレステリック液晶膜の製造方法(1)の工程Bにおける塗膜を冷却する手段と同様である。
【0091】
(乾燥)
以上のようにして、塗膜の膜面温度を変化させた後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。
塗膜の乾燥に用いられる乾燥手段についても、コレステリック液晶膜の製造方法(1)の工程Bにおける乾燥手段と同様である。
【0092】
[工程c]
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(2)では、塗膜中に重合性化合物(具体的には、重合性基を有する棒状液晶化合物、重合性基を有するキラル剤等)を含む場合、工程b後に、塗膜を硬化させる工程cを含むことが好ましい。
工程cは、コレステリック液晶膜の製造方法(1)の工程Cと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0093】
以上のコレステリック液晶膜の製造方法(2)により、基材上にコレステリック液晶膜が製造される。
コレステリック液晶膜の製造方法(2)により得られた基材とコレステリック液晶膜との積層体は、そのままで光学フィルムとして用いてもよい。
【0094】
[その他の工程]
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(1)では、以上の工程A~工程C以外にも、その他の工程を有していてもよい。
同様に、本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(2)でも、以上の工程a~工程c以外にも、その他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、工程A又は工程aにて用いられる基材上に配向層を形成する工程が挙げられる。
つまり、工程A又は工程aにて用いられる基材は、配向層を備えた基材であってもよい。
【0095】
(配向層)
配向層は、液晶化合物に対して配向規制力を付与しうる層であれば特に制限はない。
配向層は、例えば、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、又はマイクログルーブを有する層の形成等の手段で設けることができる。
また、配向層は、電場の付与、磁場の付与、或いは光照射により配向機能が生じる配向層であってもよい。
なお、基材が樹脂製である場合、その樹脂種(例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)等)によっては、配向層を設けず、支持体を直接配向処理(例えば、ラビング処理)することにより、基材の表面を配向層として機能させることもできる。
【0096】
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法(1)及び(2)では、配向層は必須ではなく、配向層を用いずとも、工程B又は工程bにて塗膜の膜面温度を特定の勾配で変化させることでコレステリック液晶のらせん軸を並べることができる。
【0097】
〔光学フィルム〕
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法において、基材として光学的等方性のポリマーフィルムを用い、このポリマーフィルム上にコレステリック液晶膜を形成した場合、得られた積層体は光学フィルムとして用いることができる。
また、コレステリック液晶膜自体を光学フィルムとして用いてもよい。
本開示のコレステリック液晶膜の製造方法にて得られたコレステリック液晶膜は、光反射層としての機能を発現させることができる。そのため、空中結像装置に用いられる光学フィルムとしても好適である。
【実施例
【0098】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
〔実施例1〕
(基材の準備)
基材として、厚み80μm、幅300mmの長尺のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム(株)、屈折率1.48)を用意した。
【0100】
(液晶層形成用塗布液1の調製)
下に記載の各成分を混合した後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、液晶層形成用塗布液1を調製した。
【0101】
-液晶層形成用塗布液1-
・棒状液晶化合物(下記化合物(A)):100質量部
・キラル剤(下記化合物(B)):2.5質量部
・光重合開始剤:3質量部
(IRGACURE(登録商標) 907、BASF社)
・配向制御剤(下記化合物(C)):0.2質量部
・垂直配向剤(下記化合物(D)):0.5質量部
・溶媒(メチルエチルケトン):215質量部
【0102】
【化4】

【0103】
(工程A及び工程B)
液晶層形成用塗布液1を、連続搬送された基材上にダイコート法を用いて塗布し、次いで70℃のオーブン内を60秒間通過させ、塗膜を乾燥した。
工程Aについて、具体的には、表面温度15℃、外径300mmのバックアップロール上に、基材を搬送し、図1に示すように、バックアップロール上に巻き掛けた基材に対し、ダイコート法を用いて35mL/mの塗布量にて、液晶層形成用塗布液1の塗布を行った。塗布時の液晶層形成用塗布液1の温度は35℃であり、塗布時の基材表面の温度は15℃であった。また、塗膜の固形分濃度は32.4質量%であった。
塗布位置Pの塗膜の膜面温度は35℃であり、塗布位置Pから200mm離間した位置Pでの塗膜の膜面温度は15℃であった。ここから、塗膜の膜面温度の温度が搬送方向に向かって0.1℃/mmで変化していたことが分かる。
【0104】
(工程C)
工程B後の塗膜に対し、高圧水銀ランプを用い、露光エネルギー量500mJ/cmで紫外線を照射し、塗膜を硬化した。
以上のようにして、実施例1のコレステリック液晶膜を作製した。
【0105】
〔実施例2~11、比較例1~2〕
工程A及び工程Bにおいて、表1に記載のように、液晶層形成用塗布液1の温度(表1中「塗布液の温度A」と表記)及びバックアップロールの表面温度(表1中「BURの温度」と表記)を、適宜、変更し、塗布時の基材表面の温度(表1中「基材温度表面B」と表記)を制御した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~10、及び比較例1~2のコレステリック液晶膜を作製した。
なお、塗布位置Pの塗膜の膜面温度(表1中「Pでの塗膜温度」と表記)及び塗布位置Pから200mm離間した位置Pでの塗膜の膜面温度(表1中「Pでの塗膜温度」と表記)は、表1に示す通りである。
なお、実施例10では、塗布後の塗膜が対し、温調機能のついたバックアップローラーに基材側を接触させて、塗膜付きの基材を搬送させることにて加熱を行った。
また、実施例11では、塗布後の塗膜に対し、温調機能のついたバックアップローラーに基材側を接触させて、塗膜付きの基材を搬送させることにて冷却を行った。
【0106】
〔評価〕
(偏光顕微鏡による観察)
ニコン(株)製の偏光顕微鏡NV100LPOLを用いて、コレステリック液晶膜の上面のクロスニコル偏光透過写真を撮影し、写真画像から縞模様(即ちらせんピッチにて生じる模様)及び配向欠陥の状態を観察した。
【0107】
具体的には、クロスニコル偏光透過写真に現れる縞模様に基づいて、既述の方法でコレステリック液晶のらせん軸を確認し、以下の基準にて評価した。縞模様が塗膜の搬送方向に平行に並んでいることが確認できることで、コレステリック液晶のらせん軸が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に垂直に並んでいることを確認できる。
-評価基準-
A:縞模様が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に平行に並んでハッキリ見え、縞模様の一部が途切れる配向欠陥がない。
B:縞模様が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に平行に並んでハッキリ見えるが、縞模様の一部が途切れる配向欠陥が僅かに見える。
C:縞模様が塗膜の搬送方向又は塗布部の移動方向に平行に並んで見えるが、縞模様の一部が途切れる配向欠陥が多い。
D:縞模様が見えない。
【0108】
(SEMによる観察)
SEM(日立ハイテクノロジーズ製SU3500)を用いて、コレステリック液晶膜の断面を観察し、既述の方法で、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向に平行であるかどうかを確認した。
-評価基準-
A:コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向に平行である。
B:コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向に平行でない。
【0109】
(配向精度の評価)
既述の方法にて、膜面内のコレステリック液晶のらせん軸の並びに微細なバラツキによる散乱領域(即ち、写真中の白い領域)を確認することで、コレステリック液晶膜における配向精度について評価した。
【0110】
具体的には、測定された光学フィルムの散乱について、以下の基準にて評価した。散乱領域(即ち、写真中の白い領域)が少ないほど、配向精度に優れている(コレステリック液晶のらせん軸の膜面内バラツキが少ない)と判断した。
-評価基準-
A:試験片の全面積に占める白い領域の割合(即ち面積率)が0%である(言い換えれば、写真中に白い領域が見られない)。
B:試験片の全面積に占める白い領域の割合(即ち面積率)が10%以下である。
C:試験片の全面積に占める白い領域の割合(即ち面積率)が10%を超える。
【0111】
【表1】

【0112】
表1に示すように、実施例にて得られたコレステリック液晶膜は、いずれも、コレステリック液晶のらせん軸が膜面方向と平行で且つ上面視にて特定方向(即ち、塗膜の搬送方向に垂直な方向)に沿って並び、更に、配向精度に優れることが分かる。
【0113】
2019年3月28日に出願された日本出願特願2019-064852の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2