(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】蒸着源、蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20220729BHJP
【FI】
C23C14/24 A
(21)【出願番号】P 2021512596
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047930
(87)【国際公開番号】W WO2021153104
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2020011830
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】宜保 学
(72)【発明者】
【氏名】江平 大
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純一
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-070309(JP,A)
【文献】特開2012-233211(JP,A)
【文献】国際公開第2009/047879(WO,A1)
【文献】特開2008-057000(JP,A)
【文献】特開平03-229862(JP,A)
【文献】国際公開第2013/001827(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で電子ビームによって加熱されて、蒸着材料を蒸発または昇華させ、移動する基板の表面に共蒸着によりリチウムを含む化合物膜を形成するための蒸着源であって、
冷却部を備えたハースライナーと、
前記ハースライナーに収納されてその内部に前記蒸着材料を入れる複数のライナーと、を有
し、
複数の前記ライナーの各々は、隣りのライナー又は前記ハースライナーである周囲部材に対向する壁部を有し、
前記ライナーは、加熱状態では前記壁部が前記周囲部材と接触し、非加熱状態ではギャップを有して前記周囲部材から離間するように、前記ハースライナーの内部に配置される、
蒸着源。
【請求項2】
複数の前記ライナーの各々は、平面視して矩形状とされ、
複数の前記ライナーは、前記基板の移動方向と直交する方向に隣接して前記ハースライナーの内部に配置される、
請求項
1に記載の蒸着源。
【請求項3】
複数の前記ライナーの各々を形成する材質は、加熱状態で前記蒸着材料と反応しない材質である、
請求項
2に記載の蒸着源。
【請求項4】
複数の前記ライナーのうち、前記蒸着材料としてリチウムを入れるライナーが、タンタルからなる、
請求項
3に記載の蒸着源。
【請求項5】
複数の前記ライナーのうち、リチウムを含まない前記蒸着材料を入れるライナーが、銅からなる、
請求項
3に記載の蒸着源。
【請求項6】
複数の前記ライナーのうち、リチウムを含む前記蒸着材料を入れるライナーが、タンタルからなる、
請求項
3に記載の蒸着源。
【請求項7】
複数の前記ライナーのうち、リチウムを含む前記蒸着材料を入れるライナーが、銅からなる、
請求項
3に記載の蒸着源。
【請求項8】
複数の前記ライナーのうち、銅からなるライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、
非加熱状態において、前記ライナーの外形寸法に対する前記ギャップの寸法の比が、0.0007~0.00839の範囲に設定される、
請求項
1から請求項7のいずれか一項に記載の蒸着源。
【請求項9】
複数の前記ライナーのうち、タンタルからなるライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、
非加熱状態において、前記ライナーの外形寸法に対する前記ギャップの寸法の比が、0.0007~0.0032の範囲に設定される、
請求項
1から請求項7のいずれか一項に記載の蒸着源。
【請求項10】
複数の前記ライナーのうち、銅からなる5つのライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、
非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.042の範囲に設定される、
請求項
1から請求項7のいずれか一項に記載の蒸着源。
【請求項11】
複数の前記ライナーのうち、銅からなる3つのライナーと、タンタルからなる2つのライナーとが、前記ハースライナーの内部に配置され、
非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.0316の範囲に設定される、
請求項
1から請求項7のいずれか一項に記載の蒸着源。
【請求項12】
複数の前記ライナーのうち、銅からなる2つのライナーと、タンタルからなる3つのライナーとが、前記ハースライナーの内部に配置され、
非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.0264の範囲に設定される、
請求項
1から請求項7のいずれか一項に記載の蒸着源。
【請求項13】
複数の前記ライナーのうち、タンタルからなる5つのライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、
非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.016の範囲に設定される、
請求項
1から請求項7のいずれか一項に記載の蒸着源。
【請求項14】
基板を真空内で移動可能とするチャンバと、
前記基板を移動させる基板移動部と、
請求項1から請求項
13のいずれか一項に記載の蒸着源と、
前記蒸着源に電子ビームを照射する電子ビーム源と、
を有する、
蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着源、蒸着装置に関し、特に、共蒸着を用いて蒸着をおこなう際に好適な技術に関する。
本願は、2020年1月28日に日本に出願された特願2020-011830号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の研究がおこなわれている。なかでも、負極、電解質、正極すべてが固体からなる全固体電池は、安全性と高エネルギー密度、長寿命を兼ね備えた電池としてその開発が期待されている。
【0003】
このような電池においては、負極、電解質膜、正極として、リチウムを含む化合物、例えば、LiCoO2(LCO)や、LiPONなどのLi化合物からなる薄膜を成膜する。
薄膜の成膜方法としては、蒸着装置において、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着法により、蒸着させることが知られている。この薄膜の成膜方法においては、イオン伝導度や結晶性等の膜特性を所定の状態とするために、膜組成の厳密なコントロールが要求される。
【0004】
ところが、蒸着源として、複数の元素の混じった化合物を用いて薄膜を形成すると、複数の元素のそれぞれの蒸気圧の違い等により、狙いの薄膜とは異なる膜組成を有する薄膜となる。
蒸気圧の低い元素が蒸気圧の高い元素よりも先に蒸発する。このため、例えば、蒸着初期では、リチウムリッチな膜組成となり、その時点から時間が経過した後では、リチウムが枯渇する。
特に、ロールトゥロールあるいは、シートトゥシートで移動する基板(基材)に連続して成膜する場合に、この組成のズレが無視できない。
【0005】
このため、特許文献1に記載されるように、複数のソース(蒸着源)を使用する共蒸着により電解質膜を成膜することが検討されている。共蒸着では、例えば、リチウムを含む蒸着源とコバルトを含む蒸着源とを用いてLiCoO2(LCO)からなる正極膜を成膜する、あるいは、リチウムを含む蒸着源とリンを含む蒸着源とを用いて、LiPONからなる電解質膜を成膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された技術では、所望の膜組成を有しかつその組成にともなった膜質特性が得られない場合があるため、以下のような要望があった。
複数の蒸着源から蒸着位置までの距離がそれぞれ異なるため、膜組成を所望の状態にすることが難しい。
加熱時に、高温となった蒸着材料が収納されたライナー容器の壁部と反応してしまうことを防止する必要がある。
蒸着時に溶融状態にある蒸着材料の面積が大きくなることが好ましい。しかし、この場合、上述したライナー容器壁との反応、あるいは、他の蒸着材料とのコンタミネーションを防止する必要がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.共蒸着における膜組成の制御性を向上すること。
2.蒸着材料を収納するライナー容器壁の温度上昇を抑制すること。
3.蒸着材料に大きなパワーを投入して加熱可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蒸着源は、真空中で電子ビームによって加熱されて、蒸着材料を蒸発または昇華させ、移動する基板の表面に共蒸着によりリチウムを含む化合物膜を形成するための蒸着源であって、冷却部を備えたハースライナーと、前記ハースライナーに収納されてその内部に前記蒸着材料を入れる複数のライナーと、を有し、
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーの各々は、隣りのライナー又は前記ハースライナーである周囲部材に対向する壁部を有し、前記ライナーは、加熱状態では前記壁部が前記周囲部材と接触し、非加熱状態ではギャップを有して前記周囲部材から離間するように、前記ハースライナーの内部に配置される。これにより上記課題を解決した。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーの各々は、平面視して矩形状とされ、複数の前記ライナーは、前記基板の移動方向と直交する方向に隣接して前記ハースライナーの内部に配置されてもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーの各々を形成する材質は、加熱状態で前記蒸着材料と反応しない材質であってもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、前記蒸着材料としてリチウムを入れるライナーが、タンタルからなってもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、リチウムを含まない前記蒸着材料を入れるライナーが、銅からなってもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、リチウムを含む前記蒸着材料を入れるライナーが、タンタルからなってもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、リチウムを含む前記蒸着材料を入れるライナーが、銅からなってもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなるライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの外形寸法に対する前記ギャップの寸法の比が、0.0007~0.00839の範囲に設定されてもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、タンタルからなるライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの外形寸法に対する前記ギャップの寸法の比が、0.0007~0.0032の範囲に設定されてもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなる5つのライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.042の範囲に設定されてもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなる3つのライナーと、タンタルからなる2つのライナーとが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.0316の範囲に設定されてもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなる2つのライナーと、タンタルからなる3つのライナーとが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.0264の範囲に設定されてもよい。
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、タンタルからなる5つのライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.016の範囲に設定されてもよい。
本発明の蒸着源において、前記ハースライナーの内部に配置された前記ライナーの上縁が、面一となることができる。
本発明の蒸着装置は、基板を真空内で移動可能とするチャンバと、前記基板を移動させる基板移動部と、上述の蒸着源と、前記蒸着源に電子ビームを照射する電子ビーム源と、を有する。
【0010】
本発明の蒸着源は、真空中で電子ビームによって加熱されて、蒸着材料を蒸発または昇華させ、移動する基板の表面に共蒸着によりリチウムを含む化合物膜を形成するための蒸着源であって、冷却部を備えたハースライナーと、前記ハースライナーに収納されてその内部に前記蒸着材料を入れる複数のライナーと、を有する。
これにより、異なる蒸着材料が入った複数のライナーを用いて、冷却部によってハースライナーを冷却した状態で蒸着をおこなうことで、共蒸着をおこなうことができる。この際、ライナーの中央付近の部位は、蒸着材料を電子ビームによって共蒸着に必要な温度まで加熱する。同時に、ライナーの壁部付近の部位は、ライナーが接しているハースライナーによって冷却される。したがって、蒸着材料とライナーの壁部とが、互いに化学的に反応する温度まで昇温することがない。
【0011】
本発明の蒸着源において、前記ライナーは、加熱状態でその壁部が周囲と接触するように非加熱状態ではギャップを有して前記ハースライナーの内部に配置される。
言い換えると、複数の前記ライナーの各々は、隣りのライナー又は前記ハースライナーである周囲部材に対向する壁部を有し、前記ライナーは、加熱状態では前記壁部が前記周囲部材と接触し、非加熱状態ではギャップを有して前記周囲部材から離間するように、前記ハースライナーの内部に配置される。
これにより、蒸着時の加熱状態では、ライナーの壁部が周囲部材と接触して、充分な冷却のために必要な熱の伝導状態を維持することができる。
ここで、加熱状態でライナーの壁部が周囲部材と接触するとは、全てのライナーがハースライナーの内部に配置された状態において、互いに隣接する位置に配置されたライナーにおける対向した壁部が接触することを意味し、あるいは、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部とが接触することを意味している。
また、加熱状態でライナーの壁部が周囲部材と接触するとは、少なくとも互いに接触する部分を有していればよいことを意味する。さらに、ライナーの周囲に位置し、加熱状態にあるライナーの壁部が接触可能な部材を周囲部材と称することがある。
さらに、非加熱状態でライナーの壁部が隣接する周囲とギャップを有するとは、全てのライナーがハースライナーの内部に配置された状態において、互いに隣り合う位置に配置されたライナーにおける対向した壁部どうしの間がギャップを有することを意味し、あるいは、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部との間がギャップを有することを意味している。
【0012】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーの各々は、平面視して矩形状とされ、複数の前記ライナーは、前記基板の移動方向と直交する方向に隣接して前記ハースライナーの内部に配置される。
これにより、複数のライナーから移動する基板における成膜領域(蒸着領域)に対して、必要な量の蒸着材料を蒸発させて、狙いの膜組成を得るように連続して共蒸着をおこなうことが可能となる。
【0013】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーの各々を形成する材質は、加熱状態で前記蒸着材料と反応しない材質である。
これにより、加熱状態においても、冷却部によって冷却され、かつ、充分に熱を伝導させる面積が確保されているため、ライナーの壁部の温度上昇が抑制されるとともに、この上昇が抑制された状態では、蒸着材料と化学的に反応しない。したがって、蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できる。
【0014】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、前記蒸着材料としてリチウムを入れるライナーが、タンタルからなる。
これにより、加熱状態において昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できるとともに、かつ、充分に熱を伝導させることができ、冷却部によって冷却されてライナーの壁部の温度上昇を抑制する。
【0015】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、リチウムを含まない前記蒸着材料を入れるライナーが、銅からなる。
これにより、加熱状態において昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できるとともに、かつ、充分に熱を伝導させることができ、冷却部によって冷却されてライナーの壁部の温度上昇を抑制する。
【0016】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、リチウムを含む前記蒸着材料を入れるライナーが、タンタルからなる。
これにより、加熱状態において昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できるとともに、かつ、充分に熱を伝導させることができ、冷却部によって冷却されてライナーの壁部の温度上昇を抑制する。
【0017】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、リチウムを含む前記蒸着材料を入れるライナーが、銅からなる。
これにより、加熱状態において昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できるとともに、かつ、充分に熱を伝導させることができ、冷却部によって冷却されてライナーの壁部の温度上昇を抑制する。
【0018】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなるライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの外形寸法に対する前記ギャップの寸法の比が、0.0007~0.00839の範囲に設定される。
これにより、蒸着材料にあわせた加熱温度とされた蒸着状態(加熱状態)において、それぞれの材質に対応して熱膨張したライナーの側壁が、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部とが接触する。したがって、充分に熱を伝導させる面積が確保されているため、ライナーの壁部の温度上昇が抑制されるとともに、加熱状態においても、冷却部によって冷却され、昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できる。
【0019】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、タンタルからなるライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの外形寸法に対する前記ギャップの寸法の比が、0.0007~0.0032の範囲に設定される。
これにより、蒸着材料にあわせた加熱温度とされた蒸着状態(加熱状態)において、それぞれの材質に対応して熱膨張したライナーの側壁が、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部とが接触する。したがって、充分に熱を伝導させる面積が確保されているため、ライナーの壁部の温度上昇が抑制されるとともに、加熱状態においても、冷却部によって冷却され、昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できる。
【0020】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなる5つのライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.042の範囲に設定される。
これにより、蒸着材料にあわせた加熱温度とされた蒸着状態(加熱状態)において、それぞれの材質に対応して熱膨張したライナーの側壁が、互いに隣接位置に配置されたライナーにおける対向した壁部が接触するとともに、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部とが接触する。したがって、充分に熱を伝導させる面積が確保されているため、ライナーの壁部の温度上昇が抑制されるとともに、加熱状態においても、冷却部によって冷却され、昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できる。
【0021】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなる3つのライナーと、タンタルからなる2つのライナーとが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.0316の範囲に設定される。
これにより、蒸着材料にあわせた加熱温度とされた蒸着状態(加熱状態)において、それぞれの材質に対応して熱膨張したライナーの側壁が、互いに隣接位置に配置されたライナーにおける対向した壁部が接触するとともに、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部とが接触する。したがって、充分に熱を伝導させる面積が確保されているため、ライナーの壁部の温度上昇が抑制されるとともに、加熱状態においても、冷却部によって冷却され、昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できる。
【0022】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、銅からなる2つのライナーと、タンタルからなる3つのライナーとが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.0264の範囲に設定される。
これにより、蒸着材料にあわせた加熱温度とされた蒸着状態(加熱状態)において、それぞれの材質に対応して熱膨張したライナーの側壁が、互いに隣接位置に配置されたライナーにおける対向した壁部が接触するとともに、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部とが接触する。したがって、充分に熱を伝導させる面積が確保されているため、ライナーの壁部の温度上昇が抑制されるとともに、加熱状態においても、冷却部によって冷却され、昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できる。
【0023】
本発明の蒸着源において、複数の前記ライナーのうち、タンタルからなる5つのライナーが、前記ハースライナーの内部に配置され、非加熱状態において、前記ライナーの並んだ方向での前記ライナーの外形寸法の和に対する前記ギャップの寸法の和の比が、0.0035~0.016の範囲に設定される。
これにより、蒸着材料にあわせた加熱温度とされた蒸着状態(加熱状態)において、それぞれの材質に対応して熱膨張したライナーの側壁が、互いに隣接位置に配置されたライナーにおける対向した壁部が接触するとともに、互いに対向するライナーの壁部とハースライナーの壁部とが接触する。したがって、充分に熱を伝導させる面積が確保されているため、ライナーの壁部の温度上昇が抑制されるとともに、加熱状態においても、冷却部によって冷却され、昇温された蒸着材料がライナー壁部と反応することを防止できる。
【0024】
本発明の蒸着源は、前記ハースライナーの内部に配置された前記ライナーの上縁が、面一となる。
これにより、ライナーの縁部によって、基板へ向かう蒸着粒子に対して、好ましくない影響を与えることを防止して、膜厚、膜特性の均一化を向上することができる。
【0025】
また、本発明の蒸着装置は、基板を真空内で移動可能とするチャンバと、前記基板を移動させる基板移動部と、上述の蒸着源と、前記蒸着源に電子ビームを照射する電子ビーム源と、を有する。
これにより、狙いの膜組成を有するリチウムを含む化合物膜を共蒸着によって、成膜することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、共蒸着における膜組成の制御性を向上して、蒸着材料を収納するライナー容器壁の温度上昇を抑制し、蒸着材料に大きなパワーを投入して加熱可能とすることができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る蒸着装置の第1実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る蒸着源の第1実施形態における蒸着源を示す上面図である。
【
図3】本発明に係る蒸着源の第1実施形態における蒸着源を示す側断面図である。
【
図4】本発明に係る蒸着源の第1実施形態における蒸着源の配置例を示す説明図である。
【
図5】本発明に係る蒸着源の第1実施形態における蒸着源の配置例を示す説明図である。
【
図6】本発明に係る蒸着源の第2実施形態における蒸着源の配置例を示す説明図である。
【
図7】本発明に係る蒸着源の第2実施形態における蒸着源の配置例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る蒸着装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における蒸着装置を示す模式図であり、
図1において、符号100は、蒸着装置である。
図1において、X軸、Y軸及びZ軸方向は相互に直交する3軸方向を示し、X軸及びY軸は、水平方向、Z軸方向は鉛直方向を示す。
【0029】
本実施形態に係る蒸着装置100は、
図1に示すように、真空チャンバ(チャンバ)110と、成膜部120と、搬送部(基板移動部)130と、回収部(基板移動部)160と、搬送機構(基板移動部)170と、を有する。
【0030】
真空チャンバ110は、密閉可能な構造を有し、真空ポンプP1を有する第1排気ラインLに接続される。これにより、真空チャンバ110は、その内部が所定の減圧雰囲気に排気又は維持可能に構成される。また、真空チャンバ110は、
図1に示すように、成膜部120、搬送部130および回収部160をそれぞれ区画する複数の仕切り板111,115を有する。
【0031】
成膜部120は、仕切り板111と真空チャンバ110の外壁により区画された成膜室であり、その内部に蒸着源10を有する。また、成膜部120は、第1排気ラインLに接続されている。これにより、真空チャンバ110が排気される際には、先ず、成膜部120内が排気される。
【0032】
一方、成膜部120は搬送部130と連通しているため、成膜部120内が排気されると、搬送部130内も排気される。これにより、成膜部120と搬送部130との間に圧力差が生じる。この圧力差により、後述するリチウムを含む原料の蒸気流が搬送部130内に侵入することが抑制される。成膜部120には、成膜ガスを供給するガス供給部S0が接続される。ガス供給部S0は、プラズマ発生部を構成する。ガス供給部S0は、窒素や酸素を含む成膜ガスを供給可能とされる。
【0033】
蒸着源(成膜源供給部)10は、リチウムを含む原料を蒸発させる蒸発源であり、例えば、抵抗加熱式蒸発源、誘導加熱式蒸発源、電子ビーム加熱式蒸発源等で構成される。
【0034】
搬送部130は、仕切り板115と、真空チャンバ110の外壁に区画された搬送室であり、真空チャンバ110内のY軸方向の上方の位置に配置される。本実施形態では、第1排気ラインLを成膜部120にのみ接続したが、搬送部130にも別の排気ラインを接続することにより、搬送部130と成膜部120とを独立して排気してもよい。
【0035】
搬送機構(基板移動部)170は、巻出しローラ171と、メインローラ172と、巻取りローラ173と、を有する。
【0036】
巻出しローラ171、メインローラ172及び巻取りローラ173は、それぞれ図示しない回転駆動部を備え、Z軸周りに所定の回転速度で
図1における矢印方向にそれぞれ回転可能に構成されている。これにより、真空チャンバ110内において、巻出しローラ171から巻取りローラ173へ向かって基材(基板)Fが所定の搬送速度で搬送される。
【0037】
巻出しローラ171は、成膜部120より基材Fの搬送方向上流側に設けられ、基材Fをメインローラ172に送り出す機能を有する。なお、巻出しローラ171とメインローラ172との間の適宜の位置に独自の回転駆動部を備えていない適宜の数のガイドローラ(図示略)が配置されてもよい。
【0038】
メインローラ172は、基材Fの搬送方向において巻出しローラ171と巻取りローラ173との間に配置される。メインローラ172は、Y軸方向における下部の少なくとも一部が、仕切り板111に設けられた開口部111aを通って成膜部120に臨む位置に配置される。メインローラ172は、所定の間隔を空けて開口部111aに対向し、蒸着源10とY軸方向に対向する。メインローラ172は、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属材料で筒状に構成され、その内部に例えば図示しない温調媒体循環系等の温調機構が設けられてもよい。メインローラ172の大きさは特に限定されないが、典型的には、Z軸方向の幅寸法が基材FのZ軸方向の幅寸法よりも大きく設定される。
【0039】
巻取りローラ173は、仕切り板115と、真空チャンバ110の外壁により区画された空間である回収部160に配置され、巻出しローラ171から巻き出された基材Fを回収する機能を有する。リチウムを含む蒸発材料は、成膜部120を通過して巻取りローラ173により回収された基材F上に堆積する。巻取りローラ173とメインローラ172との間の適宜の位置に独自の回転駆動部を備えない適宜の数のガイドローラ(図示略)が配置されてもよい。なお、仕切り板115を設けないこともできる。
【0040】
基材Fは、例えば、所定幅に裁断された長尺のフィルムである。基材Fは、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等の金属で構成される。基材の材料は金属に限られない。基材Fの材料として、OPP(延伸ポリプロピレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルム、PI(ポリイミド)フィルム等の樹脂フィルムが用いられてもよい。基材Fの厚さは、特に限定されず、例えば数μm~数十μmである。また、基材Fの幅や長さについても特に制限はなく、用途に応じて適宜決定可能である。
【0041】
成膜部120には、蒸着源(成膜源)10に電子ビームEBを照射して加熱する電子ビーム源EB0が設けられる。
成膜部120には、電子ビームEBを遮断するシャッタ(不図示)が設けられてもよい。
【0042】
成膜部120には、蒸着源(成膜源)10とメインローラ172との間に、成膜領域規定部として、開口21を有するシールド(遮蔽部)20が設けられる。開口21の近傍における基材Fの移動方向はX方向とされる。
また、メインローラ172の内部位置、つまり、基材Fの裏面(他面)側となる位置には、マグネット30が配置される。
【0043】
シールド20は、メインローラ172に巻回された基材Fに対して、成膜領域を規定する矩形の開口21を有する。シールド20は、開口21以外の基材Fを覆っていればよい。
【0044】
シールド20は、板状の導体とされ、その電位はグランド(接地状態、シールド20は接地されている)とされる。シールド20は、メインローラ172に巻回された基材Fに対して、略平行となるように配置される。なおシールド20は成膜条件に応じてフローティング(浮遊電位)とされてもよい。なお公知の電源を用いて所定の電位がシールド20に付与されている場合も、シールド20はフローティングとみなす。
【0045】
シールド20は、メインローラ172における開口21の外方位置で、仕切り板(マスク)111に対して遮蔽板部111bによって接続されている。遮蔽板部111bは、仕切り板111に設けられた開口部111aの外方を囲んでいる。遮蔽板部111bは、シールド20と仕切り板111との間を密閉している。シールド20と遮蔽板部111bとは、プラズマ発生領域を囲むように外方に配置されている。
シールド20は、開口21のZ方向における寸法が、Z方向における基材Fの幅寸法より小さく設定されている。
【0046】
マグネット30は、メインローラ172の外方に向けて磁束を形成するように配置される。マグネット30は、開口21の内方位置に配置され、プラズマ発生領域の形状に対応している。
【0047】
また、メインローラ172には、プラズマ発生電源124が接続されてプラズマ発生電力が供給可能とされる。プラズマ発生電源124は、交流電源または直流電源とされる。プラズマ発生電源124は、プラズマ発生部を構成する。
【0048】
蒸着装置100は、以上のような構成を有する。
なお図示せずとも、蒸着装置100は、蒸着源10や搬送機構170、真空ポンプP1、ガス供給部S0、プラズマ発生電源124、マグネット30等を制御する制御部を備える。上記制御部は、CPUやメモリを含むコンピュータで構成され、蒸着装置100の全体の動作を制御する。
また蒸着装置100の構成は図に示す構成に限定されるものではなく、例えば、成膜部120、蒸着源10、搬送部130および回収部160の配置や大きさ等、および、蒸着源、供給するガス種、供給電位、などは適宜変更することが可能である。あるいは、蒸着装置100の上記構成要素のうちいずれかを設けないことも可能である。
【0049】
図2は、本実施形態における蒸着源を示す上面図であり、
図3は、本実施形態における蒸着源を示す側断面図である。
蒸着源10は、蒸着材料を蒸発または昇華させるルツボである。
蒸着源10は、
図2,
図3に示すように、冷却部18を備えたハースライナー11と、ハースライナー11に収納されてその内部に蒸着材料を入れる複数のライナー12~16と、を有する。
本実施形態においては、ハースライナー11に収納されるライナー12~16を5個としたが、ルツボの構造は、この分割数に限定されることはなく、共蒸着の条件によって、その数を適宜設定することができる。特に、基材FのZ方向における幅寸法、および、共蒸着に使用される蒸着材料の種類数によって、ルツボとしての分割数、つまり、ハースライナー11に設置されるライナー12~16の個数を設定することができる。
【0050】
ハースライナー11は、
図2,
図3に示すように、平面視して矩形状の箱体とされる。
ハースライナー11は、ハースライナー11の長手方向が、基材Fの移動方向と直交するZ方向に沿うように成膜部120に配置される。ハースライナー11は、基材Fの下方位置に配置される。
ハースライナー11は、例えば、銅(Cu)等の金属製の基体である。
ハースライナー11は、その上部が矩形輪郭を有して開口している。ハースライナー11の上部開口から、ハースライナー11の全周において、壁部11aが下方に延びている。
【0051】
ハースライナー11の壁部11aおよび底部11bには、冷却部18として、冷媒を還流させる冷却通路18aが設けられる。冷却通路18aは、ハースライナー11の外部に配置された冷却源18bに接続される。冷却源18bは、冷却通路18aに冷媒を供給する。冷却源18bは、成膜部120の外部に配置されてもよい。
ハースライナー11の内部には、複数のライナー12~16が収納される。
【0052】
ライナー12~16は、ハースライナー11よりも小さな平面視して矩形状の箱体とされる。ライナー12~16は、いずれもハースライナー11の底部11bに載置される。
ライナー12~16の各々は、同形の開口を上部に有する。つまり、ライナー12~16の各々は、互いに同じ開口面積を有している。また、ライナー12~16は、蒸着条件によって、互いに異なる開口面積を有していてもよい。
複数のライナー12~16の開口の上縁が面一となるように、ライナー12~16の壁部12a~16aが形成される。また、ライナー12~16における開口の上縁は、ハースライナー11の開口上縁と面一か、ハースライナー11の開口上縁よりも高く形成される。
【0053】
ライナー12~16は、ハースライナー11の長手方向に隣接して並べられる。したがって、ライナー12~16は、基材Fの移動方向と直交するZ方向に沿うように並べられる。
ライナー12~16の壁部12a~16aは、ハースライナー11(周囲部材)の壁部11aあるいは、隣接するライナー(周囲部材、12~16)の壁部(12a~16a)に対向している。特に、ライナー12の壁部12aは、ハースライナー11(周囲部材)の壁部11aと、ライナー12に隣接するライナー13(周囲部材)の壁部13aに対向している。ライナー13の壁部13aは、ハースライナー11(周囲部材)の壁部11aと、ライナー13に隣接するライナー12(周囲部材)の壁部12aと、ライナー13に隣接するライナー14(周囲部材)の壁部14aに対向している。ライナー14の壁部14aは、ハースライナー11(周囲部材)の壁部11aと、ライナー14に隣接するライナー13(周囲部材)の壁部13aと、ライナー14に隣接するライナー15(周囲部材)の壁部15aに対向している。ライナー15の壁部15aは、ハースライナー11(周囲部材)の壁部11aと、ライナー15に隣接するライナー14(周囲部材)の壁部14aと、ライナー15に隣接するライナー16(周囲部材)の壁部16aに対向している。ライナー16の壁部16aは、ハースライナー11(周囲部材)の壁部11aと、ライナー16に隣接するライナー15(周囲部材)の壁部15aに対向している。ライナー12~16の底部12b~16bは、いずれもハースライナー11の底部11bと密着している。
ライナー12~16は、冷却効率を高く設定するために、例えば熱伝導率の高い金属製とされる。
【0054】
本実施形態のライナー12~16には、リチウムを含む化合物膜を形成するための共蒸着に使用するため、それぞれ、互いに異なる蒸着材料を入れる。この場合、ライナー12~16のうち隣り合うライナーには、互いに異なる蒸着材料を入れることが好ましい。また、ライナーの数が奇数である場合、すなわち、ライナー12~16をハースライナー11に配置する場合には、ライナーの内部に入れる蒸着材料の蒸気圧、加熱温度によって、その個数を設定することができる。
ライナー12~16を形成する材料の各々は、共蒸着時における加熱状態の蒸着材料と反応しない材質とされる。つまり、ライナー12~16を形成する材料の各々は、それぞれの入れる蒸着材料に応じて選択され、それぞれが共蒸着時における加熱状態の蒸着材料と反応しない材質とされる。
【0055】
ここで、ライナー12~16のうち、蒸着材料としてリチウムを入れるライナーは、タンタルから形成されることができる。
また、ライナー12~16のうち、リチウムを含まない蒸着材料を入れるライナーは、銅から形成されることができる。
また、ライナー12~16のうち、リチウムを含む蒸着材料を入れるライナーは、タンタルから形成されることができる。
また、ライナー12~16のうち、リチウムを含む蒸着材料を入れるライナーは、銅から形成されることができる。
なお、ライナー12~16において、ライナーをタンタルから形成する場合には、ライナーを銅で形成する場合よりも加熱状態における設定温度が高い蒸着材料に適用することができる。なお、ライナー12~16は、タンタル、タングステン、モリブデン、ニオブ等の2400℃以上の融点を有する高融点金属の単体および合金から形成することもできる。
【0056】
具体的には、ライナー12~16において、ライナーに蒸着材料としてCoO、Li2O、を入れる場合には、ライナーをCuから形成されることができる。ライナー12~16において、ライナーに蒸着材料としてLiを入れる場合には、ライナーをTaから形成されることができる。
【0057】
図4は、本実施形態における蒸着源におけるライナー配置の一例を示す説明図であり、
図5は、本実施形態における蒸着源におけるライナー配置の他の例を示す説明図である。
図4に示すように、ライナー12~16に蒸着材料としてCoO及びLiを入れる場合には、ライナー12,14,16にCoOを入れ、ライナー13,15にLiを入れる配置とすることができる。このとき、ライナー12,14,16をCuで形成し、ライナー13,15をTaで形成することができる。
図5に示すように、ライナー12~16に蒸着材料としてCoOと、Li
2Oとを入れる場合には、ライナー12,14,16にCoOを入れ、ライナー13,15にLi
2Oを入れる配置とすることができる。このとき、ライナー12~16をCuで形成することができる。
【0058】
基材Fの移動方向であるX方向において、ライナー12~16の寸法は、それぞれハースライナー11の幅寸法よりも小さく設定される。また、基材Fの移動方向と直交するZ方向において、ライナー12~16の寸法の合計は、ハースライナー11の長手寸法よりも小さく設定される。
蒸着源10において、ライナー12~16がハースライナー11の内部に配置された構造において、加熱状態でライナー12~16の壁部12a~16aが周囲部材と接触し、その一方、非加熱状態で壁部と周囲部材との間にはギャップが生じる。
【0059】
ライナー12は、そのZ方向に延在する壁部12aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部12aとの間に、X方向のギャップG12Xを有する。ギャップG12Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG12Xは、ライナー12の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。ギャップG12Xは、ライナー12のX方向の寸法と、ライナー12の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー12の壁部12aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG12Xが設定される。
なお、
図2に示すように、ハースライナー11は、右側及び左側に位置する2つの壁部11aを有しており、この2つの壁部11aの間に、ライナー12が配置されている。ここで、非加熱状態において、ライナー12の外形寸法と2つの壁部11aが離間する距離との間に寸法差がある。この差が、ギャップである。例えば、非加熱状態において、右側の壁部11aと、この右側の壁部11aに面する壁部12aとの間にギャップが生じることがあり、左側の壁部11aと、この左側の壁部11aに面する壁部12aとの間にギャップが生じることがある。このギャップを説明するために、
図2は、非加熱状態において、右側の壁部11aとライナー12の壁部12aとの間のみに、ギャップG12Xが生じる場合を模式的に示している。換言すると、ギャップG12Xは、右側の壁部11aに生じるギャップと、左側の壁部11aに生じるギャップとの和である。また、非加熱状態の場合と加熱状態の場合とにおけるX方向のギャップの違いに関し、ギャップG12Xは、非加熱状態におけるギャップ(非加熱状態において2つの壁部11aが離間する距離とライナー12の外形寸法との差)と、加熱状態におけるギャップとの差(加熱状態において2つの壁部11aが離間する距離とライナー12の外形寸法との差)を示す。なお、壁部13a、14a、15a、16aに関するギャップG13X、G14X、G15X、G16Xの定義は、上記のギャップG12Xの定義と同じである。
【0060】
同様に、ライナー13は、そのZ方向に延在する壁部13aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部13aとの間に、X方向のギャップG13Xを有する。ギャップG13Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG13Xは、ライナー13の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。ギャップG13Xは、ライナー13のX方向の寸法と、ライナー13の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー13の壁部13aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG13Xが設定される。
【0061】
同様に、ライナー14は、そのZ方向に延在する壁部14aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部14aとの間に、X方向のギャップG14Xを有する。ギャップG14Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG14Xは、ライナー14の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。ギャップG14Xは、ライナー14のX方向の寸法と、ライナー14の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー14の壁部14aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG14Xが設定される。
【0062】
同様に、ライナー15は、そのZ方向に延在する壁部15aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部15aとの間に、X方向のギャップG15Xを有する。ギャップG15Xは、ライナー15の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。具体的には、ギャップG15Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。ギャップG15Xは、ライナー15のX方向の寸法と、ライナー15の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー15の壁部15aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG15Xが設定される。
【0063】
同様に、ライナー16は、そのZ方向に延在する壁部16aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部16aとの間に、X方向のギャップG16Xを有する。ギャップG16Xは、ライナー16の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。具体的には、ギャップG16Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。ギャップG16Xは、ライナー16のX方向の寸法と、ライナー16の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー16の壁部16aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG16Xが設定される。
【0064】
同様に、Z方向において対向するハースライナー11の2つの壁部11a(上述した左側の壁部11a及び右側の壁部11aに直交する壁部11a)の間において、ライナー12~16は、Z方向のギャップG12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zを有するように配列している。後述するように、ギャップG12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zの寸法の和はG11Zで表され、ギャップG12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zの各々は、ギャップG11Zの一部である。
具体的には、Z方向において、ハースライナー11の壁部11aとライナー12の壁部12aとの間にギャップG12Zがあり、ライナー12の壁部12aとライナー13の壁部13aとの間にギャップG13Zがあり、ライナー13の壁部13aとライナー14の壁部14aとの間にギャップG14Zがあり、ライナー14の壁部14aとライナー15の壁部15aとの間にギャップG15Zがあり、ライナー15の壁部15aとライナー16の壁部16aとの間にギャップG16Zがある。
【0065】
このギャップG11Zは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG11Zは、ライナー12~16のZ方向寸法の和と、ライナー12~16におけるそれぞれの材質の熱膨張率に対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー12~16のZ方向における両端部に位置する壁部12a及び壁部16aが、Z方向にて壁部12a及び壁部16aと対向するハースライナー11の壁部11aと密着するように、熱伸びしたライナー12~16のうち隣接する2つのライナーが互いにZ方向に密着するように、ギャップG11Zが設定される。
【0066】
ギャップG11Zは、このように、それぞれのライナー12~16における個々の材質の熱膨張率に対応して設定される。つまり、ライナー12のZ方向の寸法とライナー12の材質の熱膨張率とに対応したギャップG12Zと、ライナー13のZ方向の寸法とライナー13の材質の熱膨張率とに対応したギャップG13Zと、ライナー14のZ方向の寸法とライナー14の材質の熱膨張率とに対応したギャップG14Zと、ライナー15のZ方向の寸法とライナー15の材質の熱膨張率とに対応したギャップG15Zと、ライナー16のZ方向の寸法とライナー16の材質の熱膨張率とに対応したギャップG16Zと、の和として、ギャップG11Zは、設定される。
【0067】
つまり、Z方向においてライナー12~16とハースライナー11とは、以下の寸法関係を有する。
G11Z = G12Z + G13Z + G14Z + G15Z + G16Z
これらのギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zは、いずれも、ライナー12~16の材質によってそれぞれ設定されることになる。したがって、ライナー12~16の材質が異なったものとされた場合には、ギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zの値も対応して変更される。
【0068】
ここで、ライナー12~16において、それぞれのギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zは、室温から500℃に加熱した際の熱伸び寸法に対して、ライナー12~16の寸法に対する比として設定される。
以下の説明では、ギャップG12Xのライナー12寸法に対する比をRX12と称し、ギャップG13Xのライナー13寸法に対する比をRX13と称し、ギャップG14Xのライナー14寸法に対する比をRX14と称し、ギャップG15Xのライナー15寸法に対する比をRX15と称し、及びギャップG16Xのライナー16寸法に対する比をRX16と称する。
【0069】
具体的には、X方向において、ライナー12~16がCuからなる場合には、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。また、ライナー12~16がTaからなる場合には、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。
【0070】
比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が上記の範囲の下限値よりも小さく、例えば0mmより大きいギャップを有するようにライナー12~16をハースライナー11内部に収納可能な程度に設定することもできる。しかしながら、この場合には、形状の経時変化や加工精度によって、ライナー12~16をハースライナー11内部に収納することができなくなる虞があるため、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々を上記の範囲とすることが好ましい。また、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が上記の範囲の上限値よりも大きい場合には、ライナー12~16が、熱膨張した際にハースライナー11内部に接触しない場合があり、充分冷却することができなくなるため好ましくない。
【0071】
また、X方向におけるライナー12~16の外形幅寸法は、40mm~150mmの範囲とし、Z方向におけるライナー12~16の外形縦寸法は、40mm~150mmの範囲とすることができる。
ここで、例えば、ライナー12~16がCuからなる場合には、ギャップG12X~G16Xが、0.05mm~0.60mmの範囲となるように設定されることができる。また、ライナー12~16がTaからなる場合には、ギャップG12X~G16Xが、0.05mm~0.23mmの範囲となるように設定されることができる。
【0072】
ギャップG12X~G16Xが上記の範囲の下限値よりも小さく、例えば0mmより大きいギャップを有するようにライナー12~16をハースライナー11内部に収納可能な程度に設定することもできる。しかしながら、この場合には、形状の経時変化や加工精度によって、ライナー12~16をハースライナー11内部に収納することができなくなる虞があるため、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々を上記の範囲とすることが好ましい。また、ギャップG12X~G16Xが上記の範囲の上限値よりも大きい場合には、ライナー12~16が、熱膨張した際にハースライナー11内部に接触しない場合があり、充分冷却することができなくなるため好ましくない。
【0073】
次に、ライナー12~16のうち2つの材質が互いに異なる場合のギャップG11Zについて説明する。まず、1つのライナーがCuからなる場合には、そのCuライナーのZ方向の寸法に対するギャップの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。また、1つのライナーがTaからなる場合には、そのTaライナーのZ方向の寸法に対するギャップの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。
ここで、ハースライナー11におけるギャップG11Z(G12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zの和)は、ハースライナー11に収納されるCuライナー及びTaライナー個数と、上記のギャップ比とによって求まる。具体的に、Cuライナーの個数と、Cuの場合の上記ギャップ比(0.0007~0.00839)とを乗じて、ギャップの値を得る。同様に、Taライナーの個数と、Taの場合の上記ギャップ比(0.0007~0.0032)とを乗じて、ギャップの値を得る。得られたギャップを加算して得られた値がギャップG11Zとなる。
以下の説明では、ギャップG12Zのライナー12寸法に対する比をRZ12と称し、ギャップG13Zのライナー13寸法に対する比をRZ13と称し、ギャップG14Zのライナー14寸法に対する比をRZ14と称し、ギャップG15Zのライナー15寸法に対する比をRZ15と称し、及びギャップG16Zのライナー16寸法に対する比をRZ16と称する。
【0074】
複数のライナー12~16が並べられるZ方向において、比RZ12、RZ13、RZ14、RZ15、RZ16の各々が上記の範囲の下限値よりも小さく、例えば0mmより大きいギャップを有するようにライナー12~16をハースライナー11内部に収納可能な程度に設定することもできる。しかしながら、この場合には、形状の経時変化や加工精度によって、ライナー12~16をハースライナー11内部に収納することができなくなる虞があるため、比RZ12、RZ13、RZ14、RZ15、RZ16の各々を上記の範囲とすることが好ましい。同様に、比RZ12、RZ13、RZ14、RZ15、RZ16の各々が上記の範囲の上限値よりも大きい場合には、ライナー12~16が、熱膨張した際にハースライナー11内部に接触しない場合があり、充分冷却することができなくなるため好ましくない。
【0075】
本実施形態の蒸着源10において、
図4に示すように、銅からなる5つのライナー12~16がハースライナー11の内部にZ方向に隣接して配置される場合、非加熱状態におけるギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zが、次のように設定されることが好ましい。
【0076】
具体的に
図4に示す例では、構成材料であるCuに対応して次の構造が設定される。
Cuからなるライナー12のX方向外形幅寸法に対するギャップG12Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG12Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー13のX方向外形幅寸法に対するギャップG13Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG13Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0077】
Cuからなるライナー14のX方向外形幅寸法に対するギャップG14Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG14Xが、0.05mm~0.50mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー15のX方向外形幅寸法に対するギャップG15Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG15Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー16のX方向外形幅寸法に対するギャップG16Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG16Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0078】
Cuからなるライナー12~16のZ方向外形縦寸法の和に対するギャップG11Zの比は、0.0035~0.042の範囲となるように設定される。ギャップG11Zが、0.25mm~3.0mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー12のZ方向外形縦寸法に対するギャップG12Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG12Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー13のZ方向外形縦寸法に対するギャップG13Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG13Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0079】
Cuからなるライナー14のZ方向外形縦寸法に対するギャップG14Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG14Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー15のZ方向外形縦寸法に対するギャップG15Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG15Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー16のZ方向外形縦寸法に対するギャップG16Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG16Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0080】
本実施形態の蒸着源10において、
図5に示すように、銅からなる3つのライナー12,14,16と、タンタルからなる2つのライナー13,15とが、ハースライナー11の内部にZ方向に隣接して配置される場合、非加熱状態におけるギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zが、次のように設定されることが好ましい。
【0081】
具体的に
図5に示す例では、構成材料であるCuおよびTaに対応して次の構造が設定される。
Cuからなるライナー12のX方向外形幅寸法に対するギャップG12Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG12Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー13のX方向外形幅寸法に対するギャップG13Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG13Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0082】
Cuからなるライナー14のX方向外形幅寸法に対するギャップG14Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG14Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー15のX方向外形幅寸法に対するギャップG15Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG15Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー16のX方向外形幅寸法に対するギャップG16Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG16Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0083】
ライナー12~16のZ方向外形縦寸法の和に対するギャップG11Zの比は、Cu及びTaに関する上記の比に対応するように、0.0035~0.0316の範囲となるように設定される。ギャップG11Zが、0.25mm~2.26mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー12のZ方向外形縦寸法に対するギャップG12Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG12Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー13のZ方向外形縦寸法に対するギャップG13Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG13Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0084】
Cuからなるライナー14のZ方向外形縦寸法に対するギャップG14Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG14Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー15のZ方向外形縦寸法に対するギャップG15Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG15Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー16のZ方向外形縦寸法に対するギャップG16Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG16Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0085】
蒸着装置100における成膜方法について説明する。
なお、以下の成膜方法としては、ウェブ状の基材F上に、薄膜として酸素およびリチウムを含有する化合物膜を形成する方法について説明する。特に、LCO(コバルト酸リチウム)からなる化合物膜を形成する方法について説明する。
【0086】
LCO(コバルト酸リチウム)は、バッテリや二次電池用の正極界面として適している。このために使用される典型的な層系では、数μm程度の層厚さを有するLCO層を成膜可能とする。
【0087】
電子ビーム被覆法を用いたLCO層の析出も可能である。この場合、
図4に示すように、Li
2O(酸化リチウム)とCoO(酸化コバルト)、あるいは、
図5に示すようにリチウム(Li)とCoO(酸化コバルト)が、直接に蒸着材料に作用する電子ビームによって、酸素含有の反応性ガス雰囲気内で蒸発させられる。
【0088】
少なくとも元素リチウムを有する蒸着材料として、
図5に示すようにライナー12~16にCoO及びLiを交互に入れる。具体的に、ライナー12、14、16にCoOを入れ、ライナー13、15にLiを入れる。この蒸着材料を、真空チャンバ内部で熱的な蒸発装置によって蒸発させることにより、基板上にLCO層を析出する。
【0089】
このとき、加熱前のライナー12~16は、X方向において、いずれもハースライナー11の内部において、それぞれギャップG12X~G16Xの半分の値でハースライナー11の壁部11aから離間するように設置される。また、加熱前のライナー12~16は、Z方向において、ギャップG12Z~G16Zの和を等分(和を5等分)した距離で互いに離間するように配置される。つまり、加熱前のライナー12~16は、いずれも加熱時の熱伸びに対応する距離を有して互いに周囲部材から離間するように配置される。
【0090】
なお、
図2,
図3においては、ギャップG12X~G16Zの説明のために、ライナー12~16がハースライナー11の一方の内壁面に接触しているが、それぞれのライナー12~16は、X方向およびZ方向で、周囲部材と均等な間隔を有して離間するように配置された後、ライナーは加熱される。このとき、電子ビームEBの走査によって加熱をおこなう際には、均等な間隔が維持された状態でライナー12~16を加熱することが好ましい。
【0091】
そして、蒸着材料を直接に電子銃EB0から照射された電子ビームEBによって蒸発させる。同時に、酸素含有の成分、好ましくは酸素含有の反応性ガスが真空チャンバ内へ導入され、そして立ち上がる蒸気粒子雲がプラズマによって貫通される。
【0092】
酸素含有の反応性ガスとしては、たとえば酸素(O2)のようなガスが適している。酸素含有の反応性ガスの導入に対して、たとえば酸素含有のプレカーサ(前駆体)を真空チャンバ内へ導入することもできる。
【0093】
蒸着装置100における成膜においては、まず、真空チャンバ110内を排気し、成膜部120、搬送部130および回収部160を所定の真空度に維持する。
また、基材Fを支持する搬送機構170を駆動させ、基材Fを巻出しローラ171から巻取りローラ173に向けて搬送させる。基材Fは、成膜部120において、X方向に沿って搬送(移動)される。
なお、基材Fには、あらかじめ、集電体などが所定の領域に形成されている。
【0094】
成膜部120では、ガス供給部S0から成膜部120内に酸素を含有するガスが導入される。
また、成膜部120では、接続されたプラズマ発生電源124から、メインローラ172にプラズマ発生電力が供給される。同時に、成膜部120では、接続された電源から供給された電力によって、マグネット30が磁束を発生する。
これにより、開口21付近のプラズマ発生領域にプラズマが発生する。
【0095】
成膜部120では、蒸着源10がイオンビームEBによって加熱されて、ライナー12~16からリチウムを含む蒸着材料とコバルトを含む蒸着材料とを蒸発させ、メインローラ172上の基材Fに向けて出射するリチウムおよびコバルトを含む蒸着材料(成膜原料)の蒸気流を形成する。
【0096】
このとき、各ライナー12~16に収納された蒸着材料の加熱条件は、それぞれの蒸着材料の蒸気圧、昇華温度、蒸発量、共蒸着に必要な比率、共蒸着に必要な投入パワー等に応じて設定される。
また、リチウムおよびコバルトを含む蒸着材料(成膜原料)の蒸気流は、シールド20の開口21によって、基材Fへの到達領域を規制される。
【0097】
シールド20の開口21付近の領域において、プラズマ化された酸素ガスによって活性化されたリチウムおよびコバルトを含む蒸着粒子は、酸素を含有した化合物膜として基材Fの表面に成膜される。
【0098】
共蒸着に応じた加熱状態では、各ライナー12~16は温度上昇する。これにともなって、各ライナー12~16は、それぞれの材料に応じて熱膨張率に従って熱伸びする。この結果、各ライナー12~16は、壁部12a~16aが、対向状態で隣接するハースライナー11の壁部11a、あるいは、対向状態で隣接する壁部12a~16aと接触する。
【0099】
つまり、各ライナー12~16は、ハースライナー11の内部で、それぞれのギャップG12X~G16Zがゼロになるように熱膨張する。
各ライナー12~16の壁部12a~16aは、いずれも、壁部に対向して隣接する周囲部材に密着することになる。
【0100】
このとき、冷却部18によって冷却されたハースライナー11に接触していることよって、各ライナー12~16は、壁部12a~16aから壁部11aおよび底部11bへの熱伝導により冷却される。また、各ライナー12~16は、隣接するライナー12~16の壁部12a~16aへの熱伝導により冷却される。
【0101】
これにより、各ライナー12~16は、内部の蒸着材料と化学的に反応しない温度範囲に維持される。同時に、各ライナー12~16の開口中央部分に位置する蒸着材料が溶融され、蒸発または昇華する。壁部12a~16aに近接する開口周縁部分に位置する蒸着材料は、溶融していないか、温度上昇が緩やかな状態を維持する。
【0102】
したがって、本実施形態における蒸着装置100は、コンタミネーションの発生、あるいは、組成比の変化などを起こすことなく、共蒸着をおこなうことができる。
【0103】
これにより、本実施形態における蒸着装置100は、互いに異なる蒸着材料を交互に配置したライナー12~16によって、化合物膜における膜組成を好ましい範囲に設定可能として、膜特性の向上した化合物膜を製造することが可能となる。
【0104】
また、本実施形態の蒸着装置100がロールトゥロール装置である場合を説明したが、本発明は、この構成に限定されるものではなく、基板搬送中に枚葉の基板に成膜する構成としてもよい。また、本実施形態の蒸着装置は、リチウム化合物膜の成膜部以外に、他の成膜部や、他の処理部を有することも可能である。
【0105】
以下、本発明に係る蒸着装置の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態における蒸着源におけるライナー配置の一例を示す説明図であり、
図7は、本実施形態における蒸着源におけるライナー配置の他の例を示す説明図である。本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、LiPONからなる化合物膜を形成する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0106】
本実施形態においては、ライナー12~16のうち少なくとも1つにLiPON形成用の蒸着材料としてLi3Nを入れる場合には、そのライナーはCuから形成されることができる。また、ライナー12~16のうち少なくとも1つにLiPON形成用の蒸着材料としてLPOやLiを入れる場合には、そのライナーはTaから形成されることができる。
【0107】
図6に示すように、ライナー12~16に蒸着材料としてLPOと、Li
3Nとを入れる場合には、ライナー12,14,16にLPOを入れ、ライナー13,15にLi
3Nを入れる配置とすることができる。このとき、ライナー12,14,16をTaで形成し、ライナー13,15をCuで形成することができる。
図7に示すように、ライナー12~16に蒸着材料としてLPOと、Liとを入れる場合には、ライナー12,14,16にLPOを入れ、ライナー13,15にLiを入れる配置とすることができる。このとき、ライナー12~16をTaで形成することができる。
【0108】
基材Fの移動方向であるX方向において、ライナー12~16の寸法は、それぞれハースライナー11の幅寸法よりも小さく設定される。また、基材Fの移動方向と直交するZ方向において、ライナー12~16の寸法の合計は、ハースライナー11の長手寸法よりも小さく設定される。
蒸着源10において、ライナー12~16がハースライナー11の内部に配置された構造において、加熱状態でライナー12~16の壁部12a~16aが周囲部材と接触し、その一方、非加熱状態で壁部と周囲部材との間にはギャップが生じる。
【0109】
ライナー12は、そのZ方向に延在する壁部12aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部12aとの間に、X方向のギャップG12Xを有する。ギャップG12Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG12Xは、ライナー12の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。ギャップG12Xは、ライナー12のX方向の寸法と、ライナー12の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー12の壁部12aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG12Xが設定される。
非加熱状態の場合と加熱状態の場合とにおけるX方向のギャップの違いに関し、ギャップG12Xは、非加熱状態におけるギャップ(非加熱状態において2つの壁部11aが離間する距離とライナー12の外形寸法との差)と、加熱状態におけるギャップとの差(加熱状態において2つの壁部11aが離間する距離とライナー12の外形寸法との差)を示す。
【0110】
同様に、ライナー13は、そのZ方向に延在する壁部13aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部13aとの間に、X方向のギャップG13Xを有する。ギャップG13Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG13Xは、ライナー13の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。ギャップG13Xは、ライナー13のX方向の寸法と、ライナー13の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー13の壁部13aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG13Xが設定される。
【0111】
同様に、ライナー14は、そのZ方向に延在する壁部14aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部14aとの間に、X方向のギャップG14Xを有する。ギャップG14Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG14Xは、ライナー14の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。ギャップG14Xは、ライナー14のX方向の寸法と、ライナー14の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー14の壁部14aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG14Xが設定される。
【0112】
同様に、ライナー15は、そのZ方向に延在する壁部15aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部15aとの間に、X方向のギャップG15Xを有する。ギャップG15Xは、ライナー15の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。具体的には、ギャップG15Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。ギャップG15Xは、ライナー15のX方向の寸法と、ライナー15の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー15の壁部15aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG15Xが設定される。
【0113】
同様に、ライナー16は、そのZ方向に延在する壁部16aを有し、ハースライナー11は、壁部11aと、壁部11aに対向する壁部16aとの間に、X方向のギャップG16Xを有する。ギャップG16Xは、ライナー16の材質に応じた熱膨張率に対応して設定される。具体的には、ギャップG16Xは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。ギャップG16Xは、ライナー16のX方向の寸法と、ライナー16の材質に応じて熱膨張したX方向の寸法とに対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー16の壁部16aが、ハースライナー11の壁部11aと密着するようにギャップG16Xが設定される。
【0114】
同様に、Z方向において対向するハースライナー11の2つの壁部11a(上述した左側の壁部11a及び右側の壁部11aに直交する壁部11a)の間において、ライナー12~16は、Z方向のギャップG12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zを有するように配列している。後述するように、ギャップG12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zの寸法の和はG11Zで表され、ギャップG12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zの各々は、ギャップG11Zの一部である。
具体的には、Z方向において、ハースライナー11の壁部11aとライナー12の壁部12aとの間にギャップG12Zがあり、ライナー12の壁部12aとライナー13の壁部13aとの間にギャップG13Zがあり、ライナー13の壁部13aとライナー14の壁部14aとの間にギャップG14Zがあり、ライナー14の壁部14aとライナー15の壁部15aとの間にギャップG15Zがあり、ライナー15の壁部15aとライナー16の壁部16aとの間にギャップG16Zがある。
【0115】
このギャップG11Zは、共蒸着時における加熱温度での熱伸びに対応して設定される。具体的には、ギャップG11Zは、ライナー12~16のZ方向寸法の和と、ライナー12~16におけるそれぞれの材質の熱膨張率に対応して設定される。つまり、共蒸着時での加熱温度において、熱伸びしたライナー12~16のZ方向における両端部に位置する壁部12a及び壁部16aが、Z方向にて壁部12a及び壁部16aと対向するハースライナー11の壁部11aと密着するように、熱伸びしたライナー12~16のうち隣接する2つのライナーが互いにZ方向に密着するように、ギャップG11Zが設定される。
【0116】
ギャップG11Zは、このように、それぞれのライナー12~16における個々の材質の熱膨張率に対応して設定される。つまり、ライナー12のZ方向の寸法とライナー12の材質の熱膨張率とに対応したギャップG12Zと、ライナー13のZ方向の寸法とライナー13の材質の熱膨張率とに対応したギャップG13Zと、ライナー14のZ方向の寸法とライナー14の材質の熱膨張率とに対応したギャップG14Zと、ライナー15のZ方向の寸法とライナー15の材質の熱膨張率とに対応したギャップG15Zと、ライナー16のZ方向の寸法とライナー16の材質の熱膨張率とに対応したギャップG16Zと、の和として、ギャップG11Zは、設定される。
【0117】
つまり、Z方向においてライナー12~16とハースライナー11とは、以下の寸法関係を有する。
G11Z = G12Z + G13Z + G14Z + G15Z + G16Z
これらのギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zは、いずれも、ライナー12~16の材質によってそれぞれ設定されることになる。したがって、ライナー12~16の材質が異なったものとされた場合には、ギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zの値も対応して変更される。
【0118】
ここで、ライナー12~16において、それぞれのギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zは、室温から500℃に加熱した際の熱伸び寸法に対して、ライナー12~16の寸法に対する比として設定される。
【0119】
具体的には、X方向において、ライナー12~16がCuからなる場合には、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。また、ライナー12~16がTaからなる場合には、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。
【0120】
比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が上記の範囲の下限値よりも小さく、例えば0mmより大きいギャップを有するようにライナー12~16をハースライナー11内部に収納可能な程度に設定することもできる。しかしながら、この場合には、形状の経時変化や加工精度によって、ライナー12~16をハースライナー11内部に収納することができなくなる虞があるため、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々を上記の範囲とすることが好ましい。また、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々が上記の範囲の上限値よりも大きい場合には、ライナー12~16が、熱膨張した際にハースライナー11内部に接触しない場合があり、充分冷却することができなくなるため好ましくない。
【0121】
また、X方向におけるライナー12~16の外形幅寸法は、40mm~150mmの範囲とし、Z方向におけるライナー12~16の外形縦寸法は、40mm~150mmの範囲とすることができる。
ここで、例えば、ライナー12~16がCuからなる場合には、ギャップG12X~G16Xが、0.05mm~0.60mmの範囲となるように設定されることができる。また、ライナー12~16がTaからなる場合には、ギャップG12X~G16Xが、0.05mm~0.23mmの範囲となるように設定されることができる。
【0122】
ギャップG12X~G16Xが上記の範囲の下限値よりも小さく、例えば0mmより大きいギャップを有するようにライナー12~16をハースライナー11内部に収納可能な程度に設定することもできる。しかしながら、この場合には、形状の経時変化や加工精度によって、ライナー12~16をハースライナー11内部に収納することができなくなる虞があるため、比RX12、RX13、RX14、RX15、RX16の各々を上記の範囲とすることが好ましい。また、ギャップG12X~G16Xが上記の範囲の上限値よりも大きい場合には、ライナー12~16が、熱膨張した際にハースライナー11内部に接触しない場合があり、充分冷却することができなくなるため好ましくない。
【0123】
次に、Z方向に関し、1つのライナーがCuからなる場合には、そのCuライナーのZ方向の寸法に対するギャップの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。また、1つのライナーがTaからなる場合には、そのTaライナーのZ方向の寸法に対するギャップの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。
ここで、ハースライナー11におけるギャップG11Z(G12Z、G13Z、G14Z、G15Z、G16Zの和)は、ハースライナー11に収納されるCuライナー及びTaライナー個数と、上記のギャップ比とによって求まる。具体的に、Cuライナーの個数と、Cuの場合の上記ギャップ比(0.0007~0.00839)とを乗じて、ギャップの値を得る。同様に、Taライナーの個数と、Taの場合の上記ギャップ比(0.0007~0.0032)とを乗じて、ギャップの値を得る。得られたギャップを加算して得られた値がギャップG11Zとなる。
【0124】
複数のライナー12~16が並べられるZ方向において、比RZ12、RZ13、RZ14、RZ15、RZ16の各々が上記の範囲の下限値よりも小さく、例えば0mmより大きいギャップを有するようにライナー12~16をハースライナー11内部に収納可能な程度に設定することもできる。しかしながら、この場合には、形状の経時変化や加工精度によって、ライナー12~16をハースライナー11内部に収納することができなくなる虞があるため、比RZ12、RZ13、RZ14、RZ15、RZ16の各々を上記の範囲とすることが好ましい。同様に、比RZ12、RZ13、RZ14、RZ15、RZ16の各々が上記の範囲の上限値よりも大きい場合には、ライナー12~16が、熱膨張した際にハースライナー11内部に接触しない場合があり、充分冷却することができなくなるため好ましくない。
【0125】
本実施形態の蒸着源10において、
図6に示すように、Taからなる3つのライナー12,14,16と、Cuからなる2つのライナー13,15とが、ハースライナー11の内部にZ方向に隣接して交互に配置される場合、非加熱状態におけるギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zが、次のように設定されることが好ましい。
【0126】
具体的に
図6に示す例では、構成材料であるCuおよびTaに対応して次の構造が設定される。
Taからなるライナー12のX方向外形幅寸法に対するギャップG12Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG12Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー13のX方向外形幅寸法に対するギャップG13Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG13Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0127】
Taからなるライナー14のX方向外形幅寸法に対するギャップG14Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG14Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー15のX方向外形幅寸法に対するギャップG15Xの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG15Xが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー16のX方向外形幅寸法に対するギャップG16Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG16Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0128】
ライナー12~16のZ方向外形縦寸法の和に対するギャップG11Zの比は、Cu及びTaに関する上記の比に対応するように、0.0035~0.0264の範囲となるように設定される。ギャップG11Zが、0.25mm~1.89mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー12のZ方向外形縦寸法に対するギャップG12Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG12Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー13のZ方向外形縦寸法に対するギャップG13Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG13Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
【0129】
Taからなるライナー14のZ方向外形縦寸法に対するギャップG14Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG14Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Cuからなるライナー15のZ方向外形縦寸法に対するギャップG15Zの比は、0.0007~0.00839の範囲となるように設定される。ギャップG15Zが、0.05mm~0.60mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー16のZ方向外形縦寸法に対するギャップG16Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG16Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0130】
本実施形態の蒸着源10において、
図7に示すように、タンタルからなる5つのライナー12~16が、ハースライナー11の内部にZ方向に隣接して配置される場合、非加熱状態におけるギャップG12X~G16X,G11Z~G16Zが、次のように設定されることが好ましい。
【0131】
具体的に
図7に示す例では、構成材料であるTaに対応して次の構造が設定される。
Taからなるライナー12のX方向外形幅寸法に対するギャップG12Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG12Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー13のX方向外形幅寸法に対するギャップG13Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG13Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0132】
Taからなるライナー14のX方向外形幅寸法に対するギャップG14Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG14Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー15のX方向外形幅寸法に対するギャップG15Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG15Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー16のX方向外形幅寸法に対するギャップG16Xの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG16Xが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0133】
Taからなるライナー12~16のZ方向外形縦寸法の和に対するギャップG11Zの比は、0.0035~0.016の範囲となるように設定される。ギャップG11Zが、0.25mm~1.15mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー12のZ方向外形縦寸法に対するギャップG12Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG12Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー13のZ方向外形縦寸法に対するギャップG13Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG13Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0134】
Taからなるライナー14のZ方向外形縦寸法に対するギャップG14Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG14Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー15のZ方向外形縦寸法に対するギャップG15Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG15Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
Taからなるライナー16のZ方向外形縦寸法に対するギャップG16Zの比は、0.0007~0.0032の範囲となるように設定される。ギャップG16Zが、0.05mm~0.23mmの範囲に設定される。
【0135】
蒸着装置100における成膜方法について説明する。
なお、以下の成膜方法としては、ウェブ状の基材F上に、薄膜として窒素およびリチウムを含有する化合物膜(電解質膜)を形成する方法について説明する。特に、LiPONからなる電解質膜を形成する方法について説明する。
【0136】
LiPONは、イオン伝導性を有すると同時に電子に対する非伝導性を有することに基づき、バッテリや二次電池用の固体電解質として適している。このために使用される典型的な層系では、数μm程度の層厚さを有するLiPON層を成膜可能とする。
【0137】
電子ビーム被覆法を用いたLiPON層の析出も可能である。この場合、リン酸リチウム(LiPO)が、直接に蒸着材料に作用する電子ビームによって、窒素含有の反応性ガス雰囲気内で蒸発させられる。
【0138】
少なくとも元素リチウム、リンおよび酸素を包含する蒸発材料を、真空チャンバ内部で熱的な蒸発装置によって蒸発させることにより、基板上にLiPON層を析出する。
このとき、蒸着材料を直接に電子ビームによって蒸発させる。同時に、窒素含有の成分、好ましくは窒素含有の反応性ガスが真空チャンバ内へ導入され、そして立ち上がる蒸気粒子雲がプラズマによって貫通される。
【0139】
窒素含有の反応性ガスとしては、たとえばアンモニア(NH3)、笑気(NO2)または窒素(N2)のようなガスが適している。窒素含有の反応性ガスの導入に対して、たとえば窒素含有のプレカーサ(前駆体)を真空チャンバ内へ導入することもできる。
【0140】
蒸着装置100における成膜においては、まず、真空チャンバ110内を排気し、成膜部120、搬送部130および回収部160を所定の真空度に維持する。
また、基材Fを支持する搬送機構170を駆動させ、基材Fを巻出しローラ171から巻取りローラ173に向けて搬送させる。基材Fは、成膜部120において、X方向に沿って搬送(移動)される。
なお、後述するように、基材Fには、あらかじめ、正極あるいは集電体などが所定の領域に形成されている。
【0141】
成膜部120では、ガス供給部S0から成膜部120内に窒素を含有するガスが導入される。
また、成膜部120では、接続されたプラズマ発生電源55から、メインローラ172にプラズマ発生電力が供給される。同時に、成膜部120では、接続された電源から供給された電力によって、マグネット30が磁束を発生する。
これにより、プラズマ発生領域にプラズマが発生する。
【0142】
成膜部120の蒸着源10では、各ライナー12~16が、例えば電子ビーム等によって加熱されて、それぞれの蒸着材料(成膜原料)を蒸発させ、メインローラ172上の基材Fに向けて出射するリチウムを含む蒸着材料(成膜原料)の蒸気流を形成する。
このとき、各ライナー12~16に収納された蒸着材料の加熱条件は、それぞれの蒸着材料の蒸気圧、昇華温度、蒸発量、共蒸着に必要な比率、共蒸着に必要な投入パワー等に応じて設定される。
また、リチウムを含む蒸着材料(成膜原料)の蒸気流は、シールド20の開口21によって、基材Fへの到達領域を規制される。
【0143】
シールド20の開口21付近の領域において、プラズマ化された窒素ガスによって活性化されたリチウムを含む蒸着粒子は、窒素を含有した電解質膜として基材Fの表面に成膜される。
【0144】
共蒸着に応じた加熱状態では、各ライナー12~16は温度上昇する。これにともなって、各ライナー12~16は、それぞれの材料に応じて熱膨張率に従って熱伸びする。この結果、各ライナー12~16は、壁部12a~16aが、対向状態で隣接するハースライナー11の壁部11a、あるいは、対向状態で隣接する壁部12a~16aと接触する。
【0145】
つまり、各ライナー12~16は、ハースライナー11の内部で、それぞれのギャップG12X~G16Zがゼロになるように熱膨張する。
各ライナー12~16の壁部12a~16aは、いずれも、壁部に対向して隣接する周囲部材に密着することになる。
【0146】
このとき、冷却部18によって冷却されたハースライナー11に接触していることよって、各ライナー12~16は、壁部12a~16aから壁部11aおよび底部11bへの熱伝導により冷却される。また、各ライナー12~16は、隣接するライナー12~16の壁部12a~16aへの熱伝導により冷却される。
【0147】
これにより、各ライナー12~16は、内部の蒸着材料と化学的に反応しない温度範囲に維持される。同時に、各ライナー12~16の開口中央部分に位置する蒸着材料が溶融され、蒸発または昇華する。壁部12a~16aに近接する開口周縁部分に位置する蒸着材料が溶融していないか、温度上昇が緩やかな状態を維持する。
【0148】
したがって、本実施形態における蒸着装置100は、コンタミネーションの発生、あるいは、組成比の変化などを起こすことなく、共蒸着をおこなうことができる。
【0149】
これにより、本実施形態における蒸着装置100は、互いに異なる蒸着材料を交互に配置したライナー12~16によって、化合物膜における組成制御を可能として、膜特性の向上した化合物膜を製造することが可能となる。
【0150】
さらに、本発明においては、上記の各実施形態における個々の構成を、それぞれ組み合わせて採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の活用例として、電解質膜として、リチウムを含む蒸着材料と窒素を含むプラズマとを用いてLiPON等のリチウムと窒素を含む電解質膜の成膜、あるいは、リチウムを含む蒸着材料と酸素を含むプラズマとを用いて、LCO等のリチウムと酸素を含む正極材料の成膜をおこなう装置を挙げることができる。
【符号の説明】
【0152】
100…蒸着装置
10…蒸着源
11…ハースライナー
11a~16a…壁部
12~16…ライナー
18…冷却部
20…シールド(遮蔽部)
21…開口
120…成膜部
170…搬送機構(基板移動部)
172…メインローラ
F…基材(基板)
G12X~G16X,G11Z~G16Z…ギャップ