(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂成形材料、成形物、成形硬化物及び成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/24 20060101AFI20220801BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220801BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20220801BHJP
C08L 61/12 20060101ALI20220801BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C08G59/24
C08K3/00
C08K5/541
C08L61/12
C08L63/00 B
(21)【出願番号】P 2016566569
(86)(22)【出願日】2015-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2015086414
(87)【国際公開番号】W WO2016104788
(87)【国際公開日】2016-06-30
【審査請求日】2018-10-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2014266106
(32)【優先日】2014-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 優香
(72)【発明者】
【氏名】小杉 慎一
(72)【発明者】
【氏名】片木 秀行
(72)【発明者】
【氏名】陶 晴昭
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 由高
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】土橋 敬介
【審判官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-227451(JP,A)
【文献】特開2009-215390(JP,A)
【文献】特開2013-234313(JP,A)
【文献】特開2002-226550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/
CAPlus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソゲン骨格を有し且つ結晶相から液晶相に相転移する相転移温度が140℃以下のエポキシ樹脂Aと、
硬化剤と、
無機充填材と、
を含有し、
前記エポキシ樹脂Aは、1つのベンゼン環に2個の水酸基を有する2価フェノール化合物と、メソゲン骨格を有し且つ結晶相から液晶相に相転移する性質を有するエポキシ樹脂Bとの反応物を含み、
前記エポキシ樹脂Bの相転移温度が、140℃以上であ
り、
前記エポキシ樹脂Bが、下記一般式(I)で表される化合物を含む、エポキシ樹脂成形材料。
【化1】
(一般式(I)中、R
1
~R
4
はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記エポキシ樹脂Aは、前記2価フェノール化合物のフェノール性水酸基の当量数と、前記エポキシ樹脂Bのエポキシ基の当量数と、の比(エポキシ基の当量数/フェノール性水酸基の当量数)を100/10~100/20とした反応物を含む請求項1に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項3】
前記2価フェノール化合物が、ヒドロキノンを含む請求項1
又は請求項
2に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項4】
前記硬化剤が、フェノール系硬化剤を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項5】
前記フェノール系硬化剤が、下記一般式(II-1)及び下記一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含む請求項
4に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【化2】
(一般式(II-1)及び一般式(II-2)中、R
1はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、該アルキル基、アリール基、及びアラルキル基は置換基を有していてもよい。R
2及びR
3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、該アルキル基、アリール基、及びアラルキル基は置換基を有していてもよい。mはそれぞれ独立に、0~2の整数を表す。nはそれぞれ独立に、1~7の整数を表す。)
【請求項6】
前記フェノール系硬化剤が、下記一般式(III-1)~下記一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含む請求項
4又は請求項
5に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(一般式(III-1)~一般式(III-4)中、m及びnはそれぞれ独立に、正の整数を表す。また、Arはそれぞれ独立に、下記一般式(III-a)又は下記一般式(III-b)で表される基を表す。)
【化7】
(一般式(III-a)及び一般式(III-b)中、R
11及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を表す。R
12及びR
13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。)
【請求項7】
さらにシランカップリング剤を含む、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項8】
前記シランカップリング剤が、フェニル基を有するシランカップリング剤を含む請求項
7に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項9】
前記フェニル基を有するシランカップリング剤が、ケイ素原子にフェニル基が直接結合した構造を有する請求項
8に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項10】
前記無機充填材の比表面積あたりの前記シランカップリング剤由来のケイ素原子の付着量が、5.0×10
-6モル/m
2~10.0×10
-6モル/m
2である請求項
7~請求項
9のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項11】
前記無機充填材が、酸化マグネシウム及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項12】
前記無機充填材の含有率が、固形分中において60体積%~90体積%である請求項1~請求項
11のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項13】
A-ステージ状態にある請求項1~請求項
12のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項14】
180℃で1時間加熱後の質量減少率が、0.1質量%以下である請求項
13に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【請求項15】
請求項1~請求項
14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料を成形した成形物。
【請求項16】
CuKα線を用いたX線回折法で得られるX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークを有する請求項
15に記載の成形物。
【請求項17】
請求項
15又は請求項
16に記載の成形物を加熱により硬化した成形硬化物。
【請求項18】
CuKα線を用いたX線回折法で得られるX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークを有する請求項
17に記載の成形硬化物。
【請求項19】
請求項1~請求項
14のいずれか1項に記載の、エポキシ樹脂Aを含有するエポキシ樹脂成形材料を、前記エポキシ樹脂Aの相転移温度以上150℃以下の温度範囲で成形する、成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂成形材料、成形物、成形硬化物及び成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用及び自動車用のモーター、インバーター等の装置に用いられる絶縁材料には、絶縁性能の高さ、成形の容易さ、耐熱性等の観点から、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が広く使用されている。近年、これらの装置の高出力化及び小型化が急速に進み、絶縁材料に求められる特性のレベルもかなり高くなっている。特に、小型化に伴い高密度化された導体から発生する発熱量が増大する傾向にあり、いかに熱を放散させるかが重要な課題となっている。そこで、熱硬化性樹脂の成形後の熱伝導性を向上させる方策が種々試みられている。
【0003】
高熱伝導性を有する熱硬化性樹脂として、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂を用い、これを含む樹脂組成物の硬化物が提案されている(例えば、特許4118691号公報参照)。メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂は、例えば、特許4619770号公報、特開2010-241797号公報、及び特許5471975号公報に示されている。また、高熱伝導性を有し、且つ軟化点(融点)の低い熱硬化性樹脂としては、特許5127164号公報に記載されるような、特定の構造を有するエポキシ樹脂が提案されている。
【0004】
また、熱硬化性樹脂の成形後の熱伝導性を向上させる手法のひとつとして、高熱伝導性の無機充填材を熱硬化性樹脂に混合することが挙げられる(例えば、特開2008-13759号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱硬化性樹脂に無機充填材を混合する場合、無機充填材の量が増加するに従って樹脂組成物の粘度が上昇し、作業性が悪化したり、無機充填材の分散性が低下したりする傾向にある。さらに、有機物である熱硬化性樹脂と無機充填材との親和性にも問題が生じる場合が多く、熱硬化性樹脂と無機充填材との界面でボイドの発生することがある。そのため、複合材料としての熱伝導率の低下及び長期信頼性の悪化を生ずることがある。
【0006】
また、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂はその骨格の特性から高融点化する傾向があり、流動性が低下して成形が困難になるという課題を生じることがある。この課題の対策として、分散剤を添加することにより、流動性を高める手法が一般的に知られている。しかし、このような手法では、硬化後において高熱伝導化が発揮されないことがある。
【0007】
本発明は、硬化後に高熱伝導性を発揮するエポキシ樹脂成形材料、該エポキシ樹脂を用いた成形物及び成形硬化物、並びに成形物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
【0009】
<1> メソゲン骨格を有し且つ結晶相から液晶相に相転移する相転移温度が140℃以下のエポキシ樹脂Aと、
硬化剤と、
無機充填材と、
を含有するエポキシ樹脂成形材料。
【0010】
<2> 前記エポキシ樹脂Aは、1つのベンゼン環に2個の水酸基を有する2価フェノール化合物と、メソゲン骨格を有し且つ結晶相から液晶相に相転移する性質を有するエポキシ樹脂Bとの反応物を含む<1>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0011】
<3> 前記エポキシ樹脂Bの相転移温度が、140℃以上である<2>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0012】
<4> 前記エポキシ樹脂Aは、前記2価フェノール化合物のフェノール性水酸基の当量数と、前記エポキシ樹脂Bのエポキシ基の当量数と、の比(エポキシ基の当量数/フェノール性水酸基の当量数)を100/10~100/20とした反応物を含む<2>又は<3>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0013】
<5> 前記エポキシ樹脂Bが、下記一般式(I)で表される化合物を含む<2>~<4>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0014】
【化1】
(一般式(I)中、R
1~R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)
【0015】
<6> 前記2価フェノール化合物が、ヒドロキノンを含む<2>~<5>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0016】
<7> 前記硬化剤が、フェノール系硬化剤を含む<1>~<6>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0017】
<8> 前記フェノール系硬化剤が、下記一般式(II-1)及び下記一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含む<7>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0018】
【0019】
(一般式(II-1)及び一般式(II-2)中、R1はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、該アルキル基、アリール基、及びアラルキル基は置換基を有していてもよい。R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、該アルキル基、アリール基、及びアラルキル基は置換基を有していてもよい。mはそれぞれ独立に、0~2の整数を表す。nはそれぞれ独立に、1~7の整数を表す。)
【0020】
<9> 前記フェノール系硬化剤が、下記一般式(III-1)~下記一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含む<7>又は<8>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
(一般式(III-1)~一般式(III-4)中、m及びnはそれぞれ独立に、正の整数を表す。また、Arはそれぞれ独立に、下記一般式(III-a)又は下記一般式(III-b)で表される基を表す。)
【0026】
【0027】
(一般式(III-a)及び一般式(III-b)中、R11及びR14はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を表す。R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。)
【0028】
<10> さらにシランカップリング剤を含む、<1>~<8>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0029】
<11> 前記シランカップリング剤が、フェニル基を有するシランカップリング剤を含む<10>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0030】
<12> 前記フェニル基を有するシランカップリング剤が、ケイ素原子にフェニル基が直接結合した構造を有する<11>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0031】
<13> 前記無機充填材の比表面積あたりの前記シランカップリング剤由来のケイ素原子の付着量が、5.0×10-6モル/m2~10.0×10-6モル/m2である<10>~<12>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0032】
<14> 前記無機充填材が、酸化マグネシウム及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>~<13>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0033】
<15> 前記無機充填材の含有率が、固形分中において60体積%~90体積%である<1>~<14>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0034】
<16> A-ステージ状態にある<1>~<15>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0035】
<17> 180℃で1時間加熱後の質量減少率が、0.1質量%以下である<16>に記載のエポキシ樹脂成形材料。
【0036】
<18> <1>~<17>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂成形材料を成形した成形物。
【0037】
<19> CuKα線を用いたX線回折法で得られるX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークを有する<18>に記載の成形物。
【0038】
<20> <18>又は<19>に記載の成形物を加熱により硬化した成形硬化物。
【0039】
<21> CuKα線を用いたX線回折法で得られるX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークを有する<20>に記載の成形硬化物。
【0040】
<22> <1>~<17>のいずれか1項に記載の、エポキシ樹脂Aを含有するエポキシ樹脂成形材料を、前記エポキシ樹脂Aの相転移温度以上150℃以下の温度範囲で成形する、成形物の製造方法。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、硬化後に高熱伝導性を発揮するエポキシ樹脂成形材料、該エポキシ樹脂を用いた成形物及び成形硬化物、並びに成形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】示差走査熱量(DSC)測定で得られるグラフの一例を示す図である。
【
図2】実施例1及び比較例3の成形硬化物のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0044】
<エポキシ樹脂成形材料>
本実施形態のエポキシ樹脂成形材料は、メソゲン骨格を有し且つ結晶相から液晶相に相転移する温度(以下「相転移温度」ともいう)が140℃以下のエポキシ樹脂Aと、硬化剤と、無機充填材と、を含有する。本実施形態のエポキシ樹脂成形材料は、必要に応じてその他の成分をさらに含有していてもよい。
【0045】
本実施形態のエポキシ樹脂成形材料によれば、硬化後に高熱伝導性を発揮することが可能となる。その理由は明らかではないが、エポキシ樹脂の相転移温度が140℃以下であるとエポキシ樹脂成形材料を作製する際に、エポキシ樹脂が溶融しやすくなり、そのため混錬により均質化しやすくなり、結果、液晶相の生成に関して偏りが抑えられるためであると考えられる。
以下、本実施形態のエポキシ樹脂成形材料に含有される各成分について詳細に説明する。
【0046】
-エポキシ樹脂-
エポキシ樹脂成形材料は、メソゲン骨格を有し相転移温度が140℃以下のエポキシ樹脂Aを含有する。メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂は、硬化時に高次構造を形成し易く、エポキシ樹脂成形材料の硬化物を作製した場合に、より高い熱伝導率を達成できる傾向にある。
【0047】
本明細書において「メソゲン骨格」とは、液晶性を発現する可能性のある分子構造を示す。具体的には、ビフェニル骨格、フェニルベンゾエート骨格、アゾベンゼン骨格、スチルベン骨格、これらの誘導体等が挙げられる。メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂は、硬化時に高次構造を形成し易く、硬化物を作製した場合に、より高い熱伝導率を達成できる傾向にある。
【0048】
ここで、高次構造とは、その構成要素がミクロに配列している状態のことであり、例えば、結晶相及び液晶相が相当する。このような高次構造が存在しているか否かは、偏光顕微鏡での観察によって容易に判断することが可能である。すなわち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉模様が見られる場合は高次構造が存在していると判断できる。
高次構造は、通常では樹脂中に島状に存在しており、ドメイン構造を形成している。そして、ドメイン構造を形成している島のそれぞれを高次構造体という。高次構造体を構成する構造単位同士は、一般的には共有結合で結合されている。
【0049】
エポキシ樹脂Aの相転移温度は、140℃以下であり、135℃以下であることが好ましい。
【0050】
相転移温度は、示差走査熱量(DSC)測定装置(例えば、パーキンエルマー製、Pyris1)を用いて測定することができる。具体的には、昇温速度20℃/分、測定温度範囲25℃~350℃、流量20±5ml/minの窒素雰囲気下の条件で、アルミパンに密閉した3mg~5mgの試料の示差走査熱量測定を行い、相転移に伴うエネルギー変化(吸熱反応)が起こる温度として測定される。この測定で得られるグラフの一例を
図1に示す。
図1に現れる吸熱反応ピークの温度を相転移温度とする。
【0051】
エポキシ樹脂Aは、メソゲン骨格を有し相転移温度が140℃以下であれば特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂Aは、エポキシ化合物であってもよく、エポキシ化合物のオリゴマー体であってもよい。また、オリゴマー体は、エポキシ化合物同士の反応物であっても、エポキシ化合物の一部を硬化剤等により部分的に反応させたプレポリマーの状態であってもよい。メソゲン骨格を有するエポキシ化合物を一部重合させると成形性が向上する場合がある。プレポリマー化させるのに用いるエポキシ化合物は、メソゲン骨格を有し且つ結晶相から液晶相に相転移する性質を有するエポキシ樹脂Bであることが好ましい。エポキシ樹脂Bは、相転移温度が140℃以下であっても、140℃を超えていてもよい。
【0052】
特に、エポキシ樹脂Bの相転移温度が140℃以上である場合、1つのベンゼン環に2個の水酸基を置換基として有する2価フェノール化合物と反応させてプレポリマー化した反応物として用いることが好ましい。このような2価フェノール化合物を用いることが、エポキシ樹脂の分子量、熱伝導率、及びガラス転移温度(Tg)の制御の観点から好ましい。
また、エポキシ樹脂Bと2価フェノール化合物とを部分的に反応させてプレポリマー化すると、相転移温度を下げることが可能となる。そのため、エポキシ樹脂Bの相転移温度が140℃以上であっても使いこなすことが可能となる。一般に、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂は相転移温度が高いため、プレポリマー化する手法は有益である。
【0053】
プレポリマー化に用いるフェノール化合物が、水酸基を1分子内に1個有する1価フェノールの場合、硬化後の架橋密度が低下するため熱伝導率が低くなる恐れがある。一方、プレポリマー化に用いるフェノール化合物が、水酸基を1分子内に3個以上有する場合、プレポリマー化する際に反応の制御が困難となり、ゲル化する恐れがある。また、2つ以上のベンゼン環を有する2価フェノール化合物を用いた場合、エポキシ樹脂の構造が剛直になるため高熱伝導率化には有利に働くが、軟化点が高くなりハンドリング性が低下する傾向がある(例えば、特許第5019272号公報参照)
【0054】
なお、エポキシ樹脂Bと反応させる硬化剤としては、2価フェノール化合物以外にアミン化合物であってもよい。しかし、アミン化合物を用いた場合、プレポリマー化されたエポキシ樹脂に2級アミン又は3級アミンが生成するため、エポキシ樹脂自体の貯蔵安定性、及びエポキシ樹脂を硬化剤と配合した後のエポキシ樹脂成形材料の貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0055】
エポキシ樹脂Bは、1種類単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。エポキシ樹脂Bの具体例は、例えば、特許4118691号明細書に記載されている。以下に、エポキシ樹脂Bの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
エポキシ樹脂Bとしては、1-(3-メチル-4-オキシラニルメトキシフェニル)-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-1-シクロヘキセン、1-(3-メチル-4-オキシラニルメトキシフェニル)-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-ベンゼン、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂の中でも、熱伝導率を向上させる観点から、1-(3-メチル-4-オキシラニルメトキシフェニル)-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-ベンゼン及び4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエートからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0057】
さらに成形材料の流動性向上の観点から、エポキシ樹脂Bは、結晶相から液晶相に相転移する際、単独では秩序性が低いネマチック構造を形成するが、硬化剤との反応物では、より秩序性の高いスメクチック構造を形成するエポキシ樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、下記一般式(I)で示されるtrans-4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエートが挙げられる。
【0058】
【0059】
一般式(I)で示される化合物の中でも、下記一般式(I-1)で表される化合物が好ましい。
【0060】
【0061】
一般式(I)及び一般式(I-1)中、R1~R4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0062】
1つのベンゼン環に2個の水酸基を有する2価フェノール化合物としては、例えば、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、及びこれらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、ベンゼン環に炭素数1~8のアルキル基等が置換した化合物が挙げられる。これらの2価フェノール化合物の中でも、熱伝導率を向上させる観点から、ヒドロキノンを用いることが好ましい。ヒドロキノンは2つの水酸基がパラ位の位置関係となるように置換されている構造であるため、エポキシ樹脂Bと反応させて得られるプレポリマー化されたエポキシ樹脂は直線構造となる。このため、分子のスタッキング性が高く、高次構造を形成し易いと考えられる。2価フェノール化合物は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
エポキシ樹脂Aがエポキシ樹脂Bと2価フェノールとの反応物である場合、エポキシ樹脂Aは、例えば、合成溶媒中にエポキシ樹脂B、2価フェノール化合物、及び反応触媒を溶解し、熱をかけながら撹拌することによって合成することができる。合成溶媒を使用せず、エポキシ樹脂Bを溶融して反応させることでもエポキシ樹脂Aを合成することは可能であるが、エポキシ樹脂が溶融する温度まで高温にしなければならない。このため、安全性の観点からは、合成溶媒を使用した合成法が好ましい。
【0064】
2価フェノール化合物のフェノール性水酸基の当量数と、エポキシ樹脂Bのエポキシ基の当量数と、の比(エポキシ基の当量数/フェノール性水酸基の当量数)は、100/10~100/20であることが好ましく、100/10~100/15であることがより好ましい。
【0065】
合成溶媒としては、エポキシ樹脂Bと2価フェノール化合物との反応が進行するために必要な温度に加温できる溶媒であれば特に制限されない。具体例としては、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0066】
合成溶媒の量は、反応温度において、エポキシ樹脂B、2価フェノール化合物、及び硬化触媒を全て溶解できる量が最低必要である。反応前の原料種類、溶媒種類等によって溶解性が異なるが、仕込み固形分濃度を20質量%~60質量%とすることが好ましい。このような合成溶媒の量とすると、合成後の樹脂溶液粘度として好ましい範囲となる傾向にある。
【0067】
反応触媒の種類は特に限定されず、反応速度、反応温度、貯蔵安定性等の観点から適切なものを選択することができる。反応触媒の具体例としては、イミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは1種類単独でも、2種類以上を併用してもよい。中でも、耐熱性の観点から、有機ホスフィン化合物;有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物(1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等)、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;及び有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物(テトラフェニルボレート、テトラ-p-トリルボレート、テトラ-n-ブチルボレート等)との錯体;からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0068】
有機ホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0069】
反応触媒の量は特に制限されない。反応速度及び貯蔵安定性の観点から、エポキシ樹脂Bと2価フェノール化合物の合計質量に対して0.1質量%~1.5質量%であることが好ましく、0.2質量%~1質量%であることがより好ましい。
【0070】
エポキシ樹脂Aは、少量スケールであればガラス製のフラスコを使用し、大量スケールであればステンレス製の合成釜を使用して合成することができる。具体的な合成方法は、例えば以下の通りである。まず、エポキシ樹脂Bをフラスコ又は合成釜に投入し、合成溶媒を入れ、オイルバス又は熱媒により反応温度まで加温し、エポキシ樹脂Bを溶解する。そこに2価フェノール化合物を投入し、合成溶媒中で十分溶解したことを確認した後に反応触媒を投入し、反応を開始する。所定時間の後に反応溶液を取り出せば、エポキシ樹脂A溶液が得られる。また、フラスコ内又は合成釜内において、加温条件のもと減圧下で合成溶媒を留去すれば、エポキシ樹脂Aが室温(例えば、25℃)下で固体として得られる。
【0071】
反応温度は、反応触媒の存在下でエポキシ基とフェノール性水酸基との反応が進行する温度であれば制限されず、例えば、100℃~180℃の範囲が好ましく、120℃~170℃の範囲がより好ましい。反応温度を100℃以上とすることで、反応が完結するまでの時間をより短くできる傾向にある。一方、反応温度を180℃以下とすることで、ゲル化が抑えられる傾向にある。
【0072】
エポキシ樹脂Aのエポキシ当量は、130g/eq~500g/eqであることが好ましく、135g/eq~400g/eqであることがより好ましく、140g/eq~300g/eqであることが更に好ましい。エポキシ当量は、JIS K7236:2009に準拠して過塩素酸滴定法により測定する。
【0073】
-硬化剤-
エポキシ樹脂成形材料は、硬化剤を含有する。硬化剤としては、当分野で通常用いられるものを特に制限なく用いることができる。硬化剤としては、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等の重付加型硬化剤、その他イミダゾール等の潜在性硬化剤などが挙げられる。耐熱性及び密着性の観点からは、アミン系硬化剤又はフェノール系硬化剤が好ましい。さらに、保存安定性の観点からは、フェノール系硬化剤がより好ましい。
【0074】
フェノール系硬化剤としては、通常用いられるものを特に制限なく用いることができる。例えば、フェノール化合物、及びフェノール化合物をノボラック化したフェノール樹脂を用いることができる。
【0075】
フェノール化合物としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等の単官能の化合物;カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等の2官能の化合物;1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン等の3官能の化合物;などが挙げられる。また、フェノール樹脂としては、これらフェノール化合物をメチレン鎖等で連結してノボラック化したフェノールノボラック樹脂を硬化剤として用いることもできる。
【0076】
フェノール系硬化剤としては、熱伝導性の観点から、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等の2官能のフェノール化合物、又は2官能のフェノール化合物をメチレン鎖で連結したフェノールノボラック樹脂であることが好ましく、耐熱性の観点から、2官能のフェノール化合物をメチレン鎖で連結したフェノールノボラック樹脂であることがより好ましい。
【0077】
フェノールノボラック樹脂として、クレゾールノボラック樹脂、カテコールノボラック樹脂、レゾルシノールノボラック樹脂、ヒドロキノンノボラック樹脂等の1種類のフェノール化合物をノボラック化した樹脂;カテコールレゾルシノールノボラック樹脂、レゾルシノールヒドロキノンノボラック樹脂等の2種類以上のフェノール化合物をノボラック化した樹脂;などを挙げることができる。
【0078】
フェノール系硬化剤としてフェノールノボラック樹脂が用いられる場合、下記一般式(II-1)及び下記一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むことが好ましい。
【0079】
【0080】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)において、R1はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。R1で表されるアルキル基、アリール基及びアラルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。該置換基としては、アルキル基(但し、R1がアルキル基の場合を除く)、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。mはそれぞれ独立に、0~2の整数を表し、mが2の場合、2つのR1は同一であっても異なっていてもよい。mはそれぞれ独立に、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。また、nはそれぞれ独立に、1~7の整数を表す。
【0081】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)において、R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。R2及びR3で表されるアルキル基、アリール基、及びアラルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。該置換基としては、アルキル基(但し、R2又はR3がアルキル基の場合を除く)、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
【0082】
一般式(II-1)及び(II-2)中のR2及びR3としては、保存安定性と熱伝導性の観点から、水素原子、アルキル基、又はアリール基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0083】
一般式(II-1)で表される構造単位を有する化合物において、レゾルシノール以外のフェノール化合物に由来する部分構造としては、熱伝導性及び接着性の観点から、フェノール、クレゾール、カテコール、ヒドロキノン、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン及び1,3,5-トリヒドロキシベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種類に由来する部分構造であることが好ましく、カテコール及びヒドロキノンから選ばれる少なくとも1種類に由来する部分構造であることがより好ましい。
【0084】
一般式(II-2)で表される構造単位を有する化合物において、カテコール以外のフェノール化合物に由来する部分構造としては、熱伝導性及び接着性の観点から、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン及び1,3,5-トリヒドロキシベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種類に由来する部分構造であることが好ましく、レゾルシノール及びヒドロキノンから選ばれる少なくとも1種類に由来する部分構造であることがより好ましい。
【0085】
ここで、フェノール化合物に由来する部分構造とは、フェノール化合物のベンゼン環部分から1個又は2個の水素原子を取り除いて構成される1価又は2価の基を意味する。なお、水素原子が取り除かれる位置は特に限定されない。
【0086】
また、一般式(II-1)で表される構造単位を有する化合物において、レゾルシノールに由来する部分構造の含有比率については特に制限はない。弾性率の観点から、一般式(II-1)で表される構造単位を有する化合物の全質量に対するレゾルシノールに由来する部分構造の含有比率が55質量%以上であることが好ましく、硬化物のガラス転移温度(Tg)及び線膨張率の観点から、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、熱伝導性の観点から、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0087】
また、一般式(II-2)で表される構造単位を有する化合物において、カテコールに由来する部分構造の含有比率については特に制限はない。弾性率の観点から、一般式(II-2)で表される構造単位を有する化合物の全質量に対するカテコールに由来する部分構造の含有比率が55質量%以上であることが好ましく、硬化物のガラス転移温度(Tg)及び線膨張率の観点から、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、熱伝導性の観点から、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0088】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物の分子量は特に制限されない。流動性の観点から、数平均分子量(Mn)としては、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、350~1500であることが更に好ましい。また、重量平均分子量(Mw)としては、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、400~1500であることが更に好ましい。これらMn及びMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた通常の方法により測定される。
【0089】
一般式(II-1)及び一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物の水酸基当量は特に制限されない。耐熱性に関与する架橋密度の観点から、水酸基当量は平均値で50g/eq~150g/eqであることが好ましく、50g/eq~120g/eqであることがより好ましく、55g/eq~120g/eqであることが更に好ましい。なお、水酸基当量は、JIS K0070:1992に準拠して測定された値をいう。
【0090】
フェノール系硬化剤として一般式(II-1)及び一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物が用いられる場合、フェノール系硬化剤に占める一般式(II-1)及び一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物の割合は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0091】
フェノール系硬化剤としてフェノールノボラック樹脂が用いられる場合、フェノールノボラック樹脂が、下記一般式(III-1)~下記一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むことも好ましい。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
一般式(III-1)~一般式(III-4)中、m及びnはそれぞれ独立に、正の整数を表し、m又はnが付されたそれぞれの構造単位の数を表す。また、Arはそれぞれ独立に、下記一般式(III-a)又は下記一般式(III-b)で表される基を表す。
【0097】
【0098】
一般式(III-a)及び一般式(III-b)中、R11及びR14はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を表す。R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。
【0099】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物は、2価のフェノール化合物をノボラック化する製造方法によって副生成的に生成可能なものである。
【0100】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造は、フェノールノボラック樹脂の主鎖骨格として含まれていてもよく、又はフェノールノボラック樹脂の側鎖の一部として含まれていてもよい。さらに、一般式(III-1)~一般式(III-4)のいずれか1つで表される部分構造を構成するそれぞれの構造単位は、ランダムに含まれていてもよいし、規則的に含まれていてもよいし、ブロック状に含まれていてもよい。
また、一般式(III-1)~一般式(III-4)において、水酸基の置換位置は芳香族環上であれば特に制限されない
【0101】
一般式(III-1)~一般式(III-4)のそれぞれについて、複数存在するArは全て同一の原子団であってもよいし、2種類以上の原子団を含んでいてもよい。なお、Arはそれぞれ独立に、一般式(III-a)又は一般式(III-b)で表される基を表す。
【0102】
一般式(III-a)及び一般式(III-b)におけるR11及びR14はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を表し、熱伝導性の観点から水酸基であることが好ましい。また、R11及びR14の置換位置は特に制限されない。
【0103】
また、一般式(III-a)におけるR12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。R12及びR13における炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及びオクチル基が挙げられる。また、一般式(III-a)におけるR12及びR13の置換位置は特に制限されない。
【0104】
一般式(III-1)~一般式(III-4)におけるArは、より優れた熱伝導性を達成する観点から、ジヒドロキシベンゼンに由来する基(一般式(III-a)においてR11が水酸基であって、R12及びR13が水素原子である基)、及びジヒドロキシナフタレンに由来する基(一般式(III-b)においてR14が水酸基である基)からなる群より選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。
【0105】
ここで、「ジヒドロキシベンゼンに由来する基」とは、ジヒドロキシベンゼンの芳香環部分から水素原子を2つ取り除いて構成される2価の基を意味し、水素原子が取り除かれる位置は特に制限されない。また、「ジヒドロキシナフタレンに由来する基」についても同様の意味である。
【0106】
また、エポキシ樹脂成形材料の生産性及び流動性の観点からは、Arはジヒドロキシベンゼンに由来する基であることがより好ましく、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基及び1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基からなる群より選ばれる少なくとも1種類であることが更に好ましい。特に、熱伝導性を特に高める観点から、Arとして少なくともレゾルシノールに由来する基を含むことが好ましい。また、熱伝導性を特に高める観点から、構造単位nで表される構造単位は、レゾルシノールに由来する基を含んでいることが好ましい。
【0107】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物がレゾルシノールに由来する構造単位を含む場合、レゾルシノールに由来する構造単位の含有率は、弾性率の観点から、一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物の総重量中において55質量%以上であることが好ましく、硬化物のTgと線膨張率の観点から、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、熱伝導性の観点から、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0108】
一般式(III-1)~一般式(III-4)におけるm及びnについては、流動性の観点からm/n=20/1~1/5であることが好ましく、20/1~5/1であることがより好ましく、20/1~10/1であることが更に好ましい。また、(m+n)は、流動性の観点から20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。なお、(m+n)の下限値は特に制限されない。
【0109】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物は、特にArが置換又は非置換のジヒドロキシベンゼンに由来する基及び置換又は非置換のジヒドロキシナフタレンに由来する基の少なくともいずれか1種類である場合、これらを単純にノボラック化したフェノール樹脂等と比較して、その合成が容易であり、軟化点の低い硬化剤が得られる傾向にある。したがって、このようなフェノール樹脂を硬化剤として含むことで、エポキシ樹脂成形材料の製造及び取り扱いが容易になる等の利点がある。
【0110】
なお、フェノールノボラック樹脂が上記一般式(III-1)~上記一般式(III-4)のいずれかで表わされる部分構造を有するか否かは、電界脱離イオン化質量分析法(FD-MS)によってそのフラグメント成分として上記一般式(III-1)~上記一般式(III-4)のいずれかで表わされる部分構造に相当する成分が含まれるか否かによって判断することができる。
【0111】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物の分子量は特に制限されない。流動性の観点から、数平均分子量(Mn)として2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、350~1500であることが更に好ましい。また、重量平均分子量(Mw)としては2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、400~1500であることが更に好ましい。これらMn及びMwは、GPCを用いた通常の方法により測定される。
【0112】
一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物の水酸基当量は特に制限されない。耐熱性に関与する架橋密度の観点から、水酸基当量は平均値で50g/eq~150g/eqであることが好ましく、50g/eq~120g/eqであることがより好ましく、55g/eq~120g/eqであることが更に好ましい。
【0113】
フェノール系硬化剤として一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物が用いられる場合、フェノール系硬化剤に占める一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物の割合は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0114】
フェノール系硬化剤として一般式(II-1)及び一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物又は一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物が用いられる場合、フェノール系硬化剤は、一般式(II-1)及び一般式(II-2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物又は一般式(III-1)~一般式(III-4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を構成するフェノール化合物であるモノマーを含んでいてもよい。フェノール化合物であるモノマーの含有比率(以下、「モノマー含有比率」ともいう)としては特に制限されない。熱伝導性及び成形性の観点から、フェノール系硬化剤中、5質量%~80質量%であることが好ましく、15質量%~60質量%であることがより好ましく、20質量%~50質量%であることが更に好ましい。
【0115】
モノマー含有比率が80質量%以下であることで、硬化反応の際に架橋に寄与しないモノマーが少なくなり、架橋した高分子量体が多くなるため、より高密度な架橋構造が形成され、熱伝導性が向上する傾向にある。また、5質量%以上であることで、成形の際に流動し易いため、フィラーとの密着性がより向上し、より優れた熱伝導性と耐熱性が達成できる傾向にある。
【0116】
硬化剤の含有量は特に制限されない。例えば、硬化剤としてフェノール系硬化剤を用いる場合、フェノール系硬化剤に含有されるフェノール性水酸基の活性水素の当量数(フェノール性水酸基の当量数)と、エポキシ樹脂に含有されるエポキシ基の当量数との比(フェノール性水酸基の当量数/エポキシ基の当量数)が0.5~2となることが好ましく、0.8~1.2となることがより好ましい。
【0117】
-無機充填材-
エポキシ樹脂成形材料は、無機充填材の少なくとも1種類を含む。無機充填材を含むことにより、エポキシ樹脂成形材料の硬化物は、熱伝導性が向上する。無機充填材は、絶縁性であることが好ましい。本明細書において無機充填材の「絶縁性」とは、数百ボルト~数千ボルト程度の電圧をかけても無機充填材自体が電流を流さない性質のことをいい、電子に占有された最もエネルギー準位の高い価電子帯からその上にある次のバンド(伝導帯)までが大きなエネルギーギャップで隔てられているために有する性質である。
【0118】
無機充填材の材質としては、具体的には、窒化ホウ素、アルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。中でも、流動性、熱伝導性及び電気絶縁性の観点から、酸化マグネシウム及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。また、流動性を妨げない範囲で、窒化ホウ素、シリカ、窒化アルミニウム等をさらに含有してもよい。
【0119】
無機充填材に占める、酸化マグネシウム及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種の無機充填材の合計割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0120】
無機充填材は、横軸に粒子径を、縦軸に頻度をとった粒度分布曲線を描いた場合に単一のピークを有していてもよく、複数のピークを有していてもよい。粒度分布曲線が複数のピークを有する無機充填材を用いることで、無機充填材の充填性が向上し、エポキシ樹脂成形材料の成形硬化物としての熱伝導性が向上する。
【0121】
無機充填材が粒度分布曲線を描いたときに単一のピークを有する場合、無機充填材の重量累積粒度分布の小粒径側からの累積50%に対応する平均粒子径(D50)は、熱伝導性の観点から、0.1μm~100μmであることが好ましく、0.1μm~70μmであることがより好ましい。無機充填材の平均粒子径は、レーザー回折法を用いて測定され、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター製、LS230)を用いて測定することができる。
【0122】
また、粒度分布曲線が複数のピークを有する無機充填材は、例えば、異なる平均粒子径を有する2種類以上の無機充填材を組み合わせることで構成できる。
【0123】
エポキシ樹脂成形材料中の無機充填材の含有率は特に制限されない。熱伝導性及び成形性の観点から、エポキシ樹脂成形材料の固形分の全体積を100体積%とした場合に、無機充填材の含有率は、60体積%~90体積%であることが好ましく、70体積%~85体積%であることがより好ましい。無機充填材の含有率が60体積%以上であることで、より高い熱伝導性を達成することができる。一方、無機充填材の含有率が90体積%以下であることで、成形性に優れたエポキシ樹脂成形材料を得ることができる。
【0124】
なお、本明細書においてエポキシ樹脂成形材料の固形分とは、エポキシ樹脂成形材料から揮発性成分を除いた残りの成分を意味する。
【0125】
エポキシ樹脂成形材料中の無機充填材の含有率(体積%)は、次式により求めた値とする。
無機充填材含有率(体積%)={(Ew/Ed)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+(Ew/Ed)+(Fw/Fd))}×100
【0126】
ここで、各変数は以下の通りである。
Aw:エポキシ樹脂Aの質量組成比(質量%)
Bw:硬化剤の質量組成比(質量%)
Cw:無機充填材の質量組成比(質量%)
Dw:必要に応じて用いられる硬化促進剤の質量組成比(質量%)
Ew:必要に応じて用いられるシランカップリング剤の質量組成比(質量%)
Fw:必要に応じて用いられるその他の成分の質量組成比(質量%)
Ad:エポキシ樹脂Aの比重
Bd:硬化剤の比重
Cd:無機充填材の比重
Dd:必要に応じて用いられる硬化促進剤の比重
Ed:必要に応じて用いられるシランカップリング剤の比重
Fd:必要に応じて用いられるその他の成分の比重
【0127】
-硬化促進剤-
エポキシ樹脂成形材料は、必要に応じて硬化促進剤を含有してもよい。
硬化剤と共に硬化促進剤を併用することで、エポキシ樹脂成形材料をさらに十分に硬化させることができる。硬化促進剤の種類及び配合量は特に限定されず、反応速度、反応温度、保管性等の観点から、適切なものを選択することができる。
【0128】
硬化促進剤の具体例としては、イミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは1種類単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。中でも、耐熱性の観点から、有機ホスフィン化合物;有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物(1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等)、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;及び有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物(テトラフェニルボレート、テトラ-p-トリルボレート、テトラ-n-ブチルボレート等)との錯体;からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0129】
有機ホスフィン化合物としては、具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0130】
エポキシ樹脂成形材料が硬化促進剤を含む場合、エポキシ樹脂成形材料中の硬化促進剤の含有率は特に制限されない。流動性及び成形性の観点から、硬化促進剤の含有率は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計質量に対して0.1質量%~1.5質量%であることが好ましく、0.2質量%~1質量%であることがより好ましい。
【0131】
-シランカップリング剤-
エポキシ樹脂成形材料は、必要に応じてシランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤を含むことで、無機充填材の表面とその周りを取り囲むエポキシ樹脂との間で相互作用を生じさせ、流動性が向上し、高熱伝導化が達成され、さらには水分の浸入を妨げることにより絶縁信頼性が向上する傾向にある。
【0132】
シランカップリング剤の種類は特に制限されず、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。中でも、フェニル基を有するシランカップリング剤が好ましい。フェニル基を含有するシランカップリング剤は、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂と相互作用しやすい。このため、エポキシ樹脂成形材料がフェニル基を含有するシランカップリング剤を含有することで、硬化物としたときに、より優れた熱伝導性が達成される傾向にある。
【0133】
フェニル基を含有するシランカップリング剤の種類は特に限定されない。フェニル基を有するシランカップリング剤の具体例としては、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリエトキシシラン、N-メチルアニリノプロピルトリメトキシシラン、N-メチルアニリノプロピルトリエトキシシラン、3-フェニルイミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルイミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトシキシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等が挙げられる。フェニル基を含有するシランカップリング剤は1種類単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。フェニル基を含有するシランカップリング剤は市販品を用いてもよい。
【0134】
シランカップリング剤全体に占めるフェニル基を有するシランカップリング剤の割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0135】
無機充填材の表面とその周りを取り囲むエポキシ樹脂を接近させ、優れた熱伝導率を達成する観点からは、ケイ素原子(Si)にフェニル基が直接結合しているシランカップリング剤を含むことがより好ましい。
【0136】
フェニル基を有するシランカップリング剤に占める、ケイ素原子(Si)にフェニル基が直接結合しているシランカップリング剤の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
【0137】
エポキシ樹脂成形材料がシランカップリング剤を含む場合、シランカップリング剤は、無機充填材の表面に付着した状態で存在していても、無機充填材の表面に付着しない状態で存在していても、双方が混在していてもよい。
【0138】
シランカップリング剤の少なくとも一部が無機充填材の表面に付着している場合、無機充填材の比表面積あたりのシランカップリング剤由来のケイ素原子の付着量は、5.0×10-6モル/m2~10.0×10-6モル/m2が好ましく、5.5×10-6モル/m2~9.5×10-6モル/m2がより好ましく、6.0×10-6モル/m2~9.0×10-6モル/m2が更に好ましい。
【0139】
無機充填材の比表面積あたりのシランカップリング剤由来のケイ素原子の被覆量の測定方法は、以下の通りである。
まず、無機充填材の比表面積の測定法としては、主にBET法が適用される。BET法とは、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)等の不活性気体分子を固体粒子に吸着させ、吸着した気体分子の量から固体粒子の比表面積を測定する気体吸着法である。比表面積の測定は、比表面積細孔分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター製、SA3100)を用いて行うことができる。
【0140】
さらに、無機充填材の表面に存在するシランカップリング剤由来のケイ素原子を定量する。定量方法としては、29Si CP/MAS(Cross-Polarization/Magic angle spinning)固体NMR(核磁気共鳴)が挙げられる。核磁気共鳴装置(例えば、日本電子株式会社製、JNM-ECA700)は高い分解能を有するため、エポキシ樹脂成形材料が無機充填材としてシリカを含む場合でも、無機充填材としてのシリカ由来のケイ素原子と、シランカップリング剤由来のケイ素原子とを区別することが可能である。
エポキシ樹脂成形材料がシランカップリング剤由来のケイ素原子以外のケイ素原子を含まない場合は、蛍光X線分析装置(例えば、株式会社リガク製、Supermini200)によってもシランカップリング剤由来のケイ素原子を定量することができる。
【0141】
上述のようにして得られた無機充填材の比表面積と、無機充填材の表面に存在するシランカップリング剤由来のケイ素原子の量とに基づき、無機充填材の比表面積あたりのシランカップリング剤由来のケイ素原子の被覆量が算出される。
【0142】
上記測定を行うにあたり、エポキシ樹脂成形材料に含まれている無機充填材は、例えば、以下に挙げる方法によってエポキシ樹脂成形材料から取り出すことができる。
(1)エポキシ樹脂成形材料を磁気製のるつぼに入れ、マッフル炉等で加熱(例えば600℃)して樹脂成分を燃焼させる。
(2)エポキシ樹脂成形材料の樹脂成分を適当な溶媒に溶解させて無機充填材をろ過により回収し、乾燥させる。
【0143】
エポキシ樹脂成形材料がシランカップリング剤を含む場合、シランカップリング剤のエポキシ樹脂成形材料への添加方法は、特に制限はない。具体的には、エポキシ樹脂、無機充填材等の他の材料を混合する際にシランカップリング剤も添加するインテグラル法、少量の樹脂に一定量のシランカップリング剤を混合した後、これを無機充填材等の他の材料と混合するマスターバッチ法、エポキシ樹脂等の他の材料と混合する前に、無機充填材とシランカップリング剤とを混合してあらかじめ無機充填材の表面にシランカップリング剤を処理する前処理法などがある。前処理法としては、シランカップリング剤の原液又は溶液を無機充填材とともに高速撹拌により分散させて処理する乾式法、シランカップリング剤の希薄溶液で無機充填材をスラリー化したり、無機充填材にシランカップリング剤を浸漬したりすることで無機充填材表面にシランカップリング剤処理を施す湿式法が挙げられる。
【0144】
-その他の成分-
エポキシ樹脂成形材料には、上述した成分に加え、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、酸化型及び非酸化型のポリオレフィン、カルナバワックス、モンタン酸エステル、モンタン酸、ステアリン酸等の離型剤、シリコーンオイル、シリコーンゴム粉末等の応力緩和剤、グラスファイバー等の補強材などが挙げられる。その他の成分は、それぞれ、1種類単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0145】
<エポキシ樹脂成形材料の調製方法>
エポキシ樹脂成形材料の調製方法は、特に制限されない。一般的な手法としては、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分混合した後、溶融混練し、冷却し、粉砕する方法が挙げられる。溶融混練は、予め70℃~140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で行うことができる。エポキシ樹脂成形材料は、成形条件に合うような寸法及び質量でタブレット化すると使いやすい。
【0146】
<エポキシ樹脂成形材料の状態>
エポキシ樹脂成形材料は、A-ステージ状態にあることが好ましい。エポキシ樹脂成形材料がA-ステージ状態にあると、エポキシ樹脂成形材料を熱処理して硬化する際に、エポキシ樹脂成形材料がB-ステージ状態にある場合に比較してエポキシ樹脂と硬化剤との間の硬化反応の際に生ずる反応熱量が多くなり、硬化反応が進行しやすくなる。本明細書において、A-ステージ及びB-ステージなる用語の定義は、JIS K 6800:1985による。
【0147】
エポキシ樹脂成形材料がA-ステージ状態にあるか否かは、下記基準により判断される。
一定量のエポキシ樹脂成形材料を、当該エポキシ樹脂成形材料に含まれるエポキシ樹脂が可溶な有機溶媒(テトラヒドロフラン、アセトン等)に投入し、一定時間経過後に残存する無機充填材等をろ過によりろ別する。ろ別により得られた残渣の乾燥後の質量と、高温処理後の灰分の質量と、の差が±0.5質量%以内であれば、エポキシ樹脂成形材料がA-ステージ状態であったと判断される。灰分の質量は、JIS K 7250-1:2006の規定に準じて測定し算出される。
または、予めA-ステージ状態と判明したエポキシ樹脂成形材料の一定質量あたりの反応熱を示差走査熱量測定装置(DSC、例えば、パーキンエルマー製、Pyris1)により測定し、基準値とする。その後調製したエポキシ樹脂成形材料の一定質量あたりの反応熱の測定値と、前記基準値との差が±5%以内であればA-ステージ状態であったと判断される。
【0148】
エポキシ樹脂成形材料がA-ステージ状態にある場合、A-ステージ状態のエポキシ樹脂成形材料を180℃で1時間加熱した後の質量減少率が0.1質量%以下であることが好ましい。A-ステージ状態のエポキシ樹脂成形材料を180℃で1時間加熱した後の質量減少率が0.1質量%以下であるということは、A-ステージ状態のエポキシ樹脂成形材料が所謂「無溶剤型」のエポキシ樹脂成形材料であることを意味する。エポキシ樹脂成形材料が無溶剤型であると、乾燥工程を経ることなくエポキシ樹脂成形材料の成形物を得ることが可能となり、成形物又は成形硬化物を得るための工程を簡略化できる。
【0149】
<成形物及び成形硬化物>
本実施形態の成形物は、本実施形態のエポキシ樹脂成形材料を成形することによって作製される。本実施の形態の成形硬化物は、本実施の形態の成形物を熱処理(後硬化)することによって作製される。
【0150】
エポキシ樹脂成形材料を成形する方法は特に制限されず、公知のプレス成形法等から用途に応じて選択できる。トランスファ成形法が最も一般的であるが、圧縮成形法等を用いてもよい。成形時の金型の温度は、エポキシ樹脂Aの相転移温度以上150℃以下とすることが好ましく、140℃以下とすることがさらに好ましい。エポキシ樹脂Aの相転移温度以上であると成形時にエポキシ樹脂Aが十分に溶融して成形しやすくなり、150℃以下であると成形物の熱伝導率に優れる傾向がある。
【0151】
プレス成形時の金型温度は、流動性の観点からは150℃~180℃が一般的であり、150℃以下の温度では一般的なエポキシ樹脂は溶融しにくいことから、成形が困難になる傾向がある。しかしながら、本実施形態のエポキシ樹脂成形材料は、150℃以下でも成形が可能である。
【0152】
成形物は、CuKα線を用いたX線回折法で得られるX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークを有することが好ましい。このような回折ピークを有する成形物は、高次構造の中でもとくに秩序性の高いスメクチック構造が形成されており、熱伝導性に優れる。
【0153】
なお、本明細書におけるCuKα線を用いたX線回折測定の詳細は以下の通りである。
〔測定条件〕
使用装置:薄膜構造評価用X線回折装置ATX-G(株式会社リガク製)
X線種類:CuKα
走査モード:2θ/ω
出力:50kV、300mA
S1スリット:幅0.2mm、高さ:10mm
S2スリット:幅0.2mm、高さ:10mm
RSスリット:幅0.2mm、高さ:10mm
測定範囲:2θ=2.0°~4.5°
サンプリング幅:0.01°
【0154】
エポキシ樹脂成形材料は成形後、金型から外した状態の成形物をそのまま使用してもよく、必要に応じてオーブン等で加熱することにより後硬化してから使用してもよい。
【0155】
成形硬化物は、成形物を加熱により後硬化したものである。成形物の加熱条件は、エポキシ樹脂成形材料に含有されるエポキシ樹脂A、硬化剤等の種類及び量に応じて適宜選択することができる。例えば、成形物の加熱温度は130℃~200℃が好ましく、150℃~180℃がより好ましい。成形物の加熱時間は、1時間~10時間が好ましく、2時間~6時間がより好ましい。
【0156】
成形硬化物は、後硬化前の成形物と同様に、CuKα線を用いたX線回折法で得られるX線回折スペクトルにおいて、回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークを有する。このことは、成形物中で形成された秩序性の高いスメクチック構造が、加熱による後硬化後も維持され、熱伝導性に優れた成形硬化物を得られることを表している。
【0157】
本実施形態のエポキシ樹脂成形材料の成形物及び成形硬化物は、産業用及び自動車用のモーター並びにインバーターの他、プリント配線板、半導体素子用封止材等の分野などでも使用できる。
【実施例】
【0158】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0159】
<エポキシ樹脂成形材料の調製>
以下の成分をそれぞれ下記表3~表6に示す質量部で配合し、混練温度80℃、混練時間10分の条件でロール混練を行い、実施例1~実施例10及び比較例1~比較例10のエポキシ樹脂成形材料を作製した。なお表中の空欄は配合なしを表す。
【0160】
なお、実施例1~実施例10及び比較例1~比較例10のエポキシ樹脂成形材料は、いずれもA-ステージ状態にあった。
また、実施例1~実施例10及び比較例1~比較例10のエポキシ樹脂成形材料を180℃で1時間加熱したところ、質量減少率はいずれも0.1質量%以下であった。
【0161】
以下に、用いた原材料とその略号を示す。
[エポキシ樹脂]
・エポキシ樹脂1
trans-4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート(下記構造で表されるエポキシ樹脂、特許第5471975号公報参照、エポキシ当量:212g/eq)
【0162】
【0163】
・エポキシ樹脂2~6
上記構造で表されるエポキシ樹脂1を、下記に示す量のヒドロキノンと反応させ、一部をプレポリマー化した化合物
【表1】
表中、Epは、エポキシ樹脂1のエポキシ基の当量数であり、Phはヒドロキノンのフェノール性水酸基の当量数である。エポキシ樹脂2~6の合成方法については後述する。
【0164】
・エポキシ樹脂7
メソゲン骨格を有しないYSLV-80XY(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社製、エポキシ当量:195g/eq、液晶相は示さず等方的に硬化)
【0165】
[硬化剤]
・CRN(カテコールレゾルシノールノボラック樹脂、カテコール(C)とレゾルシノール(R)の仕込み質量比(C/R):5/95)
CRNの合成方法については後述する。
【0166】
[無機充填材]
・パイロキスマ3350(酸化マグネシウム、協和化学工業株式会社製、平均粒子径50μm、比表面積0.1m2/g)
・パイロキスマ3320(酸化マグネシウム、協和化学工業株式会社製、平均粒子径20μm、比表面積0.2m2/g)
・スターマグSL(酸化マグネシウム、神島化学工業株式会社製、平均粒子径8μm、比表面積1m2/g)
・AL35-63(アルミナ、新日鉄住金マテリアルズ株式会社製、平均粒子径50μm、比表面積0.1m2/g)
・AL35-45(アルミナ、新日鉄住金マテリアルズ株式会社製、平均粒子径20μm、比表面積0.2m2/g)
・AX3-32(アルミナ、新日鉄住金マテリアルズ株式会社製、平均粒子径4μm、比表面積1m2/g)
【0167】
[シランカップリング剤]
・KBM-202SS(ジフェニルジメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、分子量244)
・KBM-573(3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、分子量255)
【0168】
[硬化促進剤]
・TPP(トリフェニルホスフィン、北興化学株式会社製)
【0169】
[離型剤]
・モンタン酸エステル(リコワックスE、クラリアントジャパン製)
【0170】
(エポキシ樹脂2~6の合成(プレポリマー化))
500mLの三口フラスコに、エポキシ樹脂1を50g(0.118mol)量り取り、そこに溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを80g添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。数分後にエポキシ樹脂1が溶解し、透明な溶液になったことを確認した後に、Ep/Phが上記値となるようにヒドロキノンを添加し、さらにトリフェニルホスフィンを0.5g添加し、120℃のオイルバス温度で加熱を継続した。5時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、エポキシ樹脂1の一部がプレポリマー化されたエポキシ樹脂2~6を得た。
【0171】
エポキシ樹脂1~6の固形分量を加熱減量法により測定した。なお、固形分量は、試料をアルミ製のカップに1.0g~1.1g量り取り、180℃の温度に設定した乾燥機内に30分間放置した後の計測量と、加熱前の計測量とに基づき、次式により算出した。
【0172】
固形分量(%)=(30分間放置した後の計測量/加熱前の計測量)×100
【0173】
エポキシ樹脂1~6の数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した。測定は、株式会社日立製作所製高速液体クロマトグラフィL6000、及び株式会社島津製作所製データ解析装置C-R4Aを用いて行った。分析用GPCカラムは東ソー株式会社製G2000HXL及び3000HXLを使用した。試料濃度を0.2質量%とし、移動相にはテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして測定を行った。ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、それを用いてポリスチレン換算値で数平均分子量を計算した。
【0174】
エポキシ樹脂1~6のエポキシ当量は、過塩素酸滴定法により測定した。
【0175】
エポキシ樹脂1~6の相転移温度の測定は、示差走査熱量(DSC)測定装置(パーキンエルマー製Pyris1)を用いて測定した。昇温速度20℃/分、測定温度範囲25℃~350℃、流量20±5ml/minの窒素雰囲気下の条件で、アルミパンに密閉した3mg~5mgの試料のDSC測定を行い、相転移に伴うエネルギー変化が起こる温度(吸熱反応ピークの温度)を相転移温度とした。
図1に、エポキシ樹脂1及び3のDSC測定により得られたグラフを示す。
【0176】
【0177】
(CRNの合成)
撹拌機、冷却機及び温度計を備えた3Lのセパラブルフラスコに、レゾルシノール627g、カテコール33g、37質量%ホルムアルデヒド316.2g、シュウ酸15g、及び水300gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度を4時間保持した。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を170℃に昇温し、170℃を8時間保持した。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去し、フェノール樹脂(CRN)を得た。
【0178】
また、得られたCRNについて、FD-MSにより構造を確認したところ、一般式(III-1)~一般式(III-4)で表される部分構造すべての存在が確認できた。
【0179】
なお、上記反応条件では、一般式(III-1)で表される部分構造を有する化合物が最初に生成し、これがさらに脱水反応することで一般式(III-2)~一般式(III-4)のうち少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物が生成すると考えられる。
【0180】
得られたCRNについて、数平均分子量及び重量平均分子量の測定をGPCによって測定した。測定は、株式会社日立製作所製高速液体クロマトグラフィL6000、及び株式会社島津製作所製データ解析装置C-R4Aを用いて行った。分析用GPCカラムは東ソー株式会社製G2000HXL及び3000HXLを使用した。試料濃度を0.2質量%とし、移動相にはテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして測定を行った。ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、それを用いてポリスチレン換算値で数平均分子量及び重量平均分子量を計算した。
【0181】
得られたCRNについて、水酸基当量の測定を次のようにして行った。
水酸基当量は、塩化アセチル-水酸化カリウム滴定法により測定した。なお、滴定終点の判断は溶液の色が暗色のため、指示薬による呈色法ではなく、電位差滴定によって行った。具体的には、測定樹脂の水酸基をピリジン溶液中塩化アセチル化した後、その過剰の試薬を水で分解し、生成した酢酸を水酸化カリウム/メタノール溶液で滴定した。
【0182】
得られたCRNは一般式(III-1)~一般式(III-4)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物の混合物であり、Arが、一般式(III-a)においてR11が水酸基であり、R12及びR13がそれぞれ水素原子である1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基及び1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基であり、低分子希釈剤として単量体成分(レゾルシノール)を35質量%含むフェノール樹脂(水酸基当量65g/eq、数平均分子量422、重量平均分子量564)であった。
【0183】
(シランカップリング剤由来のケイ素原子の付着量の測定)
実施例1~10及び比較例1~10のエポキシ樹脂成形材料について、以下の方法で無機充填材の比表面積あたりのシランカップリング剤由来のケイ素原子の付着量を測定した。
まず、無機充填材の比表面積をBET法により、比表面積細孔分布測定装置(ベックマン・コールター製、SA3100)を用いて行った。次いで、無機充填材の表面に存在するシランカップリング剤由来のケイ素原子の定量を、核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製、JNM-ECA700)を用いて29Si CP/MAS固体NMRにより行った。得られた値から、無機充填材の比表面積あたりのシランカップリング剤由来のケイ素原子の付着量を算出した。無機充填材は、エポキシ樹脂成形材料を磁気製のるつぼに入れ、マッフル炉で600℃に加熱して樹脂成分を燃焼させることにより取り出した。
【0184】
(成形物及び成形硬化物の作製)
実施例1~10及び比較例1~10のエポキシ樹脂成形材料を、トランスファ成形機により、成形圧力20MPa、成形温度140℃~180℃の条件で成形し成形物を得た。成形物を後硬化して成形硬化物を得る場合、硬化条件は180℃、5時間とした。表中の「後硬化有無」の欄が「有」であるものは評価対象が成形硬化物であることを、「無」であるものは評価対象が成形物である(後硬化を行っていない)ことを、「-」は「成形可否」が「否」であり以降の評価を行わなかったことをそれぞれ示す。
【0185】
(流動距離の測定)
成形時のエポキシ樹脂成形材料の流動性を示す指標として、スパイラルフローを測定した。測定方法は、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、エポキシ樹脂成形材料を上記条件で成形し、流動距離(cm)を求めた。また、表3~表6の「成形可否」とは、エポキシ樹脂成形材料が流動して金型に充填された場合を「可」、未充填部分が残る場合を「否」とした。
【0186】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
成形物又は成形硬化物を切断して5mm×50mm×3mmの直方体を作製し、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント製RSA-G2)にて三点曲げ振動試験冶具を用い、周波数:1Hz、昇温速度:5℃/分の条件で、40℃~300℃の温度範囲で動的粘弾性を測定した。ガラス転移温度(Tg)は、上記方法で得られた貯蔵弾性率と損失弾性率の比より求められるtanδにおいて、ピークトップ部分の温度とした。
【0187】
(密度の測定)
成形物又は成形硬化物を切断して10mm角の立方体を作製し、アルキメデス法により密度(g/cm3)を測定した。
【0188】
(熱伝導率の測定)
成形物又は成形硬化物を切断して10mm角の立方体を作製し、グラファイトスプレーにて黒化処理した。その後、キセノンフラッシュ法(NETZSCH製LFA447 nanoflash)にて熱拡散率を評価した。この値と、アルキメデス法で測定した密度と、DSC(パーキンエルマー製Pyris1)にて測定した比熱との積から、成形物又は成形硬化物の熱伝導率を求めた。
【0189】
(X線回折法について)
成形物又はその後硬化物のX線回折を、広角X線回折装置(リガク製ATX-G)を使用して測定した。X線源としてCuKα線を用い、管電圧50kV、管電流300mAとし、走査速度を1.0度/分とした。
図2に、実施例1及び比較例3の成形硬化物のX線回折スペクトルを示す。
回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークが現れた場合、成形物又はその後硬化物中にスメクチック構造が形成されていることを表している。
【0190】
(評価結果)
前記の評価結果を表3~表6に記載した。表中、「成形可否」で「否」と判定したものについては、前記評価ができなかったため、「-」で示した。原材料の単位は、質量部である。
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
実施例1~5と比較例1~5では無機充填材に酸化マグネシウムを、実施例6~10と比較例6~10ではアルミナを用いた。
相転移温度が140℃以上のエポキシ樹脂1又は2を用いた比較例1、2、6、7は成形そのものができなかった。次に成形可能であったもので、同じ無機充填材を使用した系で比較すると、相転移温度が140℃以下の実施例1~10は、メソゲン骨格を有しないエポキシ樹脂7を用いた比較例3~5及び8~10に比較して熱伝導率は2W/(m・K)~3W/(m・K)上昇した。また、プレス成形温度が150℃を超える実施例4及び5を除く実施例は、CuKα線を用いたX線回折法で、回折角2θが3.0°~3.5°の範囲に回折ピークを有しており、スメクチック構造を形成していることが確認された。比較例ではプレス成形温度を変えても、スメクチック構造の形成を示す回折ピークは確認できなかった。
【0196】
なお、日本出願2014-266106の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。